説明

非水電解質電池用発電要素及びその製造方法、それを用いた非水電解質電池

【課題】発電要素を構成する構成層が剥離したり、構成層にクラックが生じたりすることを抑制できる非水電解質電池用発電要素及びその製造方法、それを用いた非水電解質電池を提供する。
【解決手段】非水電解質電池用発電要素10は、基材Sの上に、正極層1と負極層2、及びこれら両層の間に介在される固体電解質層3を有する。そして、基材Sの両面にそれぞれ、基材S側から正極層1、固体電解質層3及び負極層2が順に積層され一体化された構造である。これら各層は気相法により形成され、基材Sは正極層1の集電体としての機能を有する材料(例えばステンレス)で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の上に、正極層と負極層、及びこれら両層の間に介在される固体電解質層を有する非水電解質電池用発電要素及びその製造方法、それを用いた非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池は、長寿命・高効率・高容量であり、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの電源に利用されている。非水電解質電池の代表例として、リチウムイオン二次電池(以下、単にリチウム二次電池と呼ぶ)が挙げられる。
【0003】
リチウム二次電池は、正極層と負極層との間で電解質層を介してリチウムイオンをやり取りすることによって、充放電を行う電池である。このリチウム二次電池の一つの構造として、正極層、電解質層及び負極層を積層してなる発電要素(セル)を有し、この発電要素を複数積層した積層型のものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。例えば特許文献1には、一枚の基板上に、各層を順次積層して多層構造とした電池が開示されている。
【0004】
また最近では、可燃性の有機電解液に代えて不燃性の無機固体電解質を電解質層に用いた全固体リチウム二次電池の研究が行われている。正極層、固体電解質層及び負極層を気相法(例えば真空蒸着法やスパッタリング法)により形成した薄膜タイプの電池も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004‐158222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の発電要素の構造では、基材上に成膜した正極層、固体電解質層、及び負極層などの発電要素を構成する層(以下、構成層と呼ぶ)が基材や隣接する層から剥離したり、構成層にクラックや割れが生じたりする虞がある。
【0007】
例えば、基材の上に、真空蒸着法やスパッタリング法といった気相法を用いて発電要素の構成層を形成した場合、構成層には、その成膜プロセスに起因する圧縮方向又は引張方向の膜応力が発生する。そのため、基材の片面にのみ構成層を成膜した場合、構成層中の圧縮方向又は引張方向の膜応力によって、構成層を成膜した基材に反りが発生する。なお、圧縮方向の膜応力とは、構成層が基材を圧縮する方向の応力のことであり、引張方向の膜応力とは、構成層が基材を引っ張る方向の応力のことである。図6は、基材S上に成膜した構成層Lに引張方向の膜応力が存在する場合を示す一例である。構成層Lに引張方向の膜応力が存在すると、図6に示すように、構成層Lが収縮して基材Sに反りが発生し、構成層Lが基材Sから剥離したり、構成層Lにクラックや割れが生じたりすることがある。ここでは、図6を用いて、構成層Lに引張方向の膜応力が存在する場合を例に説明したが、圧縮方向の膜応力が存在する場合は、構成層Lが伸長して、基材Sが図6に示す構成層Lに引張方向の膜応力が存在する場合とは反対に反ることになる。
【0008】
また或いは、基材上に成膜した発電要素の構成層(例えば正極層)をアモルファス状態から結晶化させるために、アニール処理を施すことがある。このとき、結晶化に伴い構成層が収縮し、基材と構成層との界面には引張応力が作用するため、構成層の剥離やクラックが生じる虞がある。
【0009】
このように、発電要素の構成層中に膜応力が発生するなどすると、構成層を成膜した基材に反りなどが発生することから、構成層の剥離やクラックが生じる虞がある。特に、正極層や固体電解質層といった構成層は一般的に、材料にセラミックスを用いていることから剛性が高く、剥離やクラックが生じ易い。したがって、反りの発生を抑制するために、成膜条件を最適化して構成層中に存在する膜応力を低減したり、構成層の材料を変更したりすることが望まれる。しかし、成膜条件を最適化しても膜応力を十分に低減できるとは限らないし、また、生産性並びに電池性能が低下することも考えられる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、発電要素の構成層が剥離したり、構成層にクラックが生じたりすることを抑制できる非水電解質電池用発電要素及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、この非水電解質電池用発電要素を用いた非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の非水電解質電池用発電要素は、基材の上に、正極層と負極層、及びこれら両層の間に介在される固体電解質層を有する。そして、正極層、固体電解質層及び負極層が気相法により形成され、これら各層が基材の両面に積層され一体化されていることを特徴とする。
また、本発明の非水電解質電池は、上記した本発明の非水電解質電池用発電要素を複数積層して構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の非水電解質電池用発電要素は、基材の両面にそれぞれ正極層、固体電解質層及び負極層が成膜されていることで、基材の一方の面に形成された各構成層と他方の面に形成された各構成層との膜応力が、基材を中心にして全体的にバランスが取れた状態となる。その結果、構成層を成膜した基材に反りが発生することを抑制することができ、構成層が剥離したり、構成層にクラックが生じたりすることを抑制することができる。
【0013】
また、本発明の発電要素は、反りの発生が抑制されるので、発電要素全体の最大厚さが小さくなり、電池としたときの更なる薄型化を実現することができ、電池の体積容量密度の向上を図ることができる。ここでいう発電要素全体の最大厚さとは、一対の平行な仮想平面で発電要素を表裏両側から挟んだ場合における両平面間の距離(図6に示すTm)のことをいう。
【0014】
各層を積層する順序は、基材側から正極層→固体電解質層→負極層とする他、基材側から負極層→固体電解質層→正極層とすることも可能である。また、基材の一方の面と他方の面とで各層の積層順序を変更してもよい。具体的には、基材の一方の面を正極層→固体電解質層→負極層と積層し、基材の他方の面を負極層→固体電解質層→正極層と積層する。
【0015】
一方、本発明の非水電解質電池は、上記した本発明の非水電解質電池用発電要素を複数積層して構成されているので、薄型化と高容量化を実現することができる。また、本発明の電池は、ある発電要素と別の発電要素の同じ電極層同士が電気的に接続され、各発電要素が並列接続されている場合と、ある発電要素と別の発電要素の異なる電極層同士が電気的に接続され、各発電要素が直列接続されている場合の両方がある。
【0016】
(2)本発明の発電要素又は電池において、各層が、基材の両面に対称に形成されていることが好ましい。
【0017】
上記した本発明の発電要素において、基材の一方の面と他方の面に形成された同じ構成層は、同じ材料かつ同じ成膜プロセスで形成されていることが好ましく、これにより、基材両面に形成された各構成層の膜応力のバランスが保たれ易い。さらに、構成層の各層が基材の両面に対称に形成されている、つまり各層の積層順序が同じであることで、基材両面に形成された各構成層の膜応力のバランスがより保たれ易い。
【0018】
(3)本発明の発電要素又は電池において、基材が、正極層又は負極層の集電体としての機能を有することが好ましい。
【0019】
基材は、適当な金属や樹脂などを用いて構成することもできるが、集電体としての機能を有する材料で構成すると、集電体の機能を兼ねさせることができ、発電要素構造の簡略化及び電池の体積容量密度の向上を図ることができる。基材直上に正極層を形成するときは、基材を正極層の集電体として機能する材料とし、一方、基材直上に負極層を形成するときは、基材を負極層の集電体として機能する材料で構成する。正極層の集電体として機能する材料としては、例えばアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)又はこれらの合金若しくはステンレスが挙げられる。また、負極層の集電体として機能する材料としては、例えば銅(Cu)、ニッケル(Ni)又はこれらの合金が挙げられる。
【0020】
次に、上記した非水電解質電池用発電要素を製造するための本発明の製造方法について説明する。
【0021】
(4)本発明の非水電解質電池用発電要素の製造方法は、次の工程を備えることを特徴とする。
基材の一方の面に、正極層、固体電解質層及び負極層のいずれかを気相法により形成する第一工程
基材の他方の面に、正極層、固体電解質層及び負極層のいずれかを気相法により形成する第二工程
基材の両方の面において、上記した第一工程と第二工程とを繰り返し行い、残りの層を形成する工程
【0022】
本発明の製造方法によれば、基材の両面に正極層、固体電解質層及び負極層をそれぞれ成膜し、これら各層を積層一体化することができる。その結果、基材の一方の面に形成された各構成層と他方の面に形成された各構成層との膜応力が、基材を中心に全体としてバランスが取れた状態となり、応力に起因する構成層の剥離やクラックの発生を抑制することができる。ここで、基材両面に形成された各構成層の膜応力のバランスをできるだけ保つ観点から、第一工程及び第二工程において、基材の一方の面と他方の面に形成する同じ構成層は、同じ材料かつ同じ成膜プロセスで形成することが好ましい。また、基材の一方の面と他方の面とで各層の積層順序を変更することも可能である。
【0023】
(5)本発明の製造方法では、第一工程と第二工程とを同時に行ってもよく、また、第一工程と第二工程とを順次行ってもよい。
【0024】
前者の場合は、基材の両面に同時に構成層を形成するので、成膜中においても基材を中心に応力が全体として釣り合うようになり、成膜中において、応力に起因する構成層の剥離やクラックの発生を抑制し易い。また、この場合、成膜中において、基材を中心にした全体の応力バランスをできるだけ保つ観点から、基材両面において各層の積層順序を同じとすることが好ましい。
【0025】
一方、後者の場合であっても、最終的に、基材を中心に全体として応力のバランスが取れた状態となる。この場合、基材の一方の面に正極層(負極層)を形成した後、次に基材の他方の面に正極層(負極層)を形成し、以後、残りの層を基材の両面に一層ずつ順次形成してもよい。また、基材の一方の面に正極層(負極層)、固体電解質層、負極層(正極層)を順次形成した後、基材の他方の面に正極層(負極層)、固体電解質層、負極層(正極層)を順次形成してもよい。
【0026】
(6)本発明の製造方法において、第一工程及び第二工程において、基材に、その変形を防止する支持枠を取り付けて行うことが好ましい。
【0027】
第一工程と第二工程とを同時に行う場合はあまり問題にならないが、第一工程と第二工程とを順次行う場合は、第一工程から第二工程に移行する段階において、基材を中心にした全体の応力バランスが崩れ、第一工程で基材の一方の面に構成層を成膜した基材に反りが発生することが考えられる。そのため、第一工程で基材の一方の面に形成した構成層に応力に起因する剥離やクラックが発生する虞がある。そこで、構成層を成膜した基材に反りが発生することを防止するため、基材にその変形を防止する支持枠を取り付けて作業を行うことで、上記不具合を解消することができる。
【0028】
この支持枠は、例えば、基材の両面を露出させて外周縁部を支持する枠体を有するものが挙げられる。
【0029】
(7)本発明の製造方法において、第一工程及び第二工程において、形成する層を同じ層とし、基材の両面に、各層を対称に形成することが好ましい。
【0030】
この構成によれば、各層の積層順序が同じであり、基材両面に形成された各構成層の膜応力のバランスがより保たれ易い。
【発明の効果】
【0031】
本発明の非水電解質電池用発電要素は、基材両面に正極層、固体電解質層及び負極層が成膜されていることで、応力に起因する構成層の剥離やクラックの発生を抑制することができる。また、本発明の非水電解質電池用発電要素の製造方法は、上記した非水電解質電池用発電要素を製造することができる。
【0032】
本発明の非水電解質電池は、上記した非水電解質電池用発電要素を用いることで、薄型化と高容量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る発電要素の一例を示す概略断面図である。
【図2】基材の両面に同時に構成層を成膜する方法を説明するための図である。
【図3】本発明に係る製造方法に用いる支持枠の一例を示す概略斜視図である。
【図4】基材が長尺の場合に用いる成膜装置の一例を示す概略構成図である。
【図5】図1に示す発電要素を用いた本発明に係る電池の一例を示す概略断面図である。
【図6】基材の片面にのみ構成層を成膜した場合に、構成層を成膜した基材に反りが発生することを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
まず、次のような実験を行い、基材の上に発電要素の構成層を成膜した場合に、構成層の内部に応力が発生することを確認した。
【0035】
ステンレス製の基材の一方の面にのみ、パルスレーザデポジション(PLD)法を用いて正極材料であるLiCoO2を成膜し、正極層(厚さ10μm)を形成した後、正極層を成膜した基材にアニール処理(500℃)を施した。ここでは、成膜条件を変えながら正極層を成膜した基材を複数作製し、各基材に500℃のアニール処理を施した。その結果、いずれにおいても正極層を成膜した基材に反りが発生し、基材と正極層の剥離が発生した。正極層内部の膜応力を測定したところ、成膜条件の違いにより約30〜100MPaの圧縮応力(基材が圧縮される方向に働く応力)が存在していることが分かった。
【0036】
また別に、ステンレス製の基材の一方の面にのみ、真空蒸着法を用いてLi2S‐P2S5系固体電解質を成膜して、固体電解質層(厚さ8μm)を形成した。ここでは、成膜条件を変えながら固体電解質層を成膜した基材を複数作製した。その結果、いずれも反りが発生し、基材と固体電解質層の剥離が発生した。このときの固体電解質層内部の膜応力は、成膜条件の違いにより約10〜100MPaの引張応力(基材が引っ張られる方向に働く応力)であった。
【0037】
以下、本発明の実施の形態を図を用いて説明する。また、図中において同一部材には同一符号を付している。
【0038】
(非水電解質電池用発電要素)
本発明に係る非水電解質電池(リチウム二次電池)用発電要素の基本構造は、図1に示すように、基材Sの両面にそれぞれ、正極層1と負極層2、及びこれら両層の間に介在される固体電解質層3が積層され一体化された構造である。この例では、基材Sの一方の面に形成された各層と他方の面に形成された各層の積層順序が同じであり、基材Sを中心にして対称に形成されている。以下、発電要素10を構成する各構成層について説明する。
【0039】
(正極層)
正極層1は、正極活物質を含む。正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)及びオリビン型鉄リン酸リチウム(LiFePO4)から選択される一種のリチウム金属酸化物や、酸化マンガン(MnO2)などが挙げられる。その他、イオウ(S)や、硫化鉄(FeS)、二硫化鉄(FeS2)、硫化リチウム(Li2S)及び硫化チタニウム(TiS2)から選ばれる1種の硫化物を用いてもよい。中でも、リチウム金属酸化物、特にLiCoO2は、電子伝導性に優れており、好適である。また、正極層の集電体としては、例えばアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)又はこれらの合金若しくはステンレスが挙げられる。
【0040】
(負極層)
負極層2は、負極活物質を含む。負極活物質としては、金属リチウム(Li金属単体)又はリチウム合金(Liと添加元素からなる合金)の他、例えばグラファイトなどの炭素(C)や、シリコン(Si)、インジウム(In)が挙げられる。中でも、リチウムを含む材料、特に金属リチウムは、電池の高容量化、高電圧化の点で優位であり、好適である。リチウム合金の添加元素としては、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)及びインジウム(In)などを用いることができる。また、負極活物質が金属リチウムからなる場合、負極層の集電体はLiと反応しない材料で構成する必要がある。このような材料としては、例えば銅(Cu)、ニッケル(Ni)又はこれらの合金が挙げられる。
【0041】
(固体電解質層)
固体電解質層3は、固体電解質で構成されており、リチウムイオン伝導性の高い硫化物系固体電解質で構成されていることが好ましい。硫化物系固体電解質としては、Li2S‐P2S5系、Li2S‐SiS2系、Li2S‐B2S3系などが挙げられ、更にP2O5やLi3PO4が添加されてもよい。その他、LiPONなどの酸化物系固体電解質で構成してもよい。
【0042】
これら正極層1、負極層2及び固体電解質層3は、公知の成膜技術、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法及びパルスレーザデポジション(PLD)法といった物理的蒸着(PVD)法や、化学的蒸着(CVD)法といった気相法により形成されている。このような成膜技術を用いて形成することで、各層の薄膜化、ひいては電池の薄型化が可能である。
【0043】
この例では、基材Sの一方の面と他方の面に形成された同じ構成層は、同じ材料かつ同じ成膜プロセスで形成されている。
【0044】
また、ここでは図示を省略しているが、正極層1と固体電解質層3との間に、これら両層の界面抵抗を低減する緩衝層を設けてもよい。
【0045】
正極材料に酸化物(例、LiCoO2)、固体電解質層に硫化物を利用した場合、酸化物イオンが硫化物イオンに比べてLiイオンを強く引き付けるため、正極層と固体電解質層との接合界面において、固体電解質層から正極層にLiイオンが移動することがある。その結果、正極層と接する固体電解質層の界面近傍において、電荷の偏りが起こり、電荷空乏層が形成されるため、界面抵抗が増大する。そこで、正極層と固体電解質層との間に緩衝層を設けることで、界面抵抗を低減することができる。
【0046】
緩衝層としては、LiNbO3、LiTaO3、Li4Ti5O12、LiXLa(2-X)/3TiO3(X=0.1〜0.5)、Li7+XLa3Zr2O12+(X/2)(-5≦X≦3)、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li1.8Cr0.8Ti1.2(PO4)3、Li1.4In0.4Ti1.6(PO4)3などが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
基材Sは、特に限定されないが、図1に示す発電要素10では、基材Sの両面に、基材S側から正極層1→固体電解質層3→負極層2を順に積層した構造であるので、正極層1の集電体としての機能を有する材料で構成することが好ましい。例えば、ステンレスで構成することが挙げられる。これにより、基材Sは、両面に形成された各正極層1の共通の集電体として機能する。また、基材Sは、例えば絶縁材料からなる板状の芯材の両面に集電体として機能する材料を成膜したり、貼り付けたりしたものでもよい。
【0048】
(発電要素の製造方法)
次に、図1に示す発電要素10の製造方法例を説明する。
【0049】
製造方法の一例としては、基材の一方の面と他方の面に正極層を同時に形成し、以降、残りの層について、基材の両面に構成層を同時に形成することが挙げられる。この場合、例えば図2に示すように、基材Sを垂直に固定し、基材Sの両側から同時に構成層を成膜する。また、この場合、スパッタリング法を用いることが好ましい。スパッタリング法は、ターゲット200をスパッタリングして、成膜材料を水平方向に飛散させ、垂直な基材Sの両面に成膜することが可能である(図2を参照)。
【0050】
製造方法の別の例としては、基材の一方の面に正極層を形成した後、次に基材の他方の面に正極層を形成し、以後、残りの層について、基材の一方の面と他方の面に構成層を交互に順次形成することが挙げられる。或いは、基材の一方の面に正極層、固体電解質層、負極層を順次形成した後、基材の他方の面に正極層、固体電解質層、負極層を順次形成してもよい。この場合、成膜中、例えば基材の一方の面に構成層を成膜してから他方の面に構成層を成膜するまでの間、基材を中心にした全体の応力バランスが崩れ、構成層を成膜した基材に反りが発生することが考えられる。
【0051】
そこで、成膜中の反りの発生を防止するため、例えば図3に示すように、基材Sの変形を防止する支持枠300を基材Sに取り付けて作業を行うことが好ましい。この支持枠300は、基材Sの外周縁部を挟持する2つの枠体310から構成され、これら枠体310で基材Sを挟むことで支持する。また、支持枠300の両面には、基材Sの両面を露出させる開口部320がそれぞれ形成されている。このような支持枠300を用いることで、基材Sの変形を防止しながら、基材Sの両面に成膜することが可能である。
【0052】
ところで、例えば正極層を気相法により成膜した後、アニール処理を施すことにより、正極層をアモルファス状態から結晶化させることがある。アニール処理は、基材の両面に正極層を形成した後、残りの層を形成する前に行うと、固体電解質層などにアニール処理の熱影響が及ぶことがなく、固体電化質層などの変質を防ぐことができる。
【0053】
発電要素を製造する場合、予め所定の寸法に切断した基材に各構成層を成膜する他、長尺の基材に各構成層を成膜した後所定の寸法に切断することでも、目的の発電要素を得ることができる。
【0054】
例えば長尺の基材に構成層を成膜する場合、図4に示すような、ロールクオータ方式の成膜装置400を用いることが考えられる。この装置400は、基材Sが供給ロール421から送り出され、成膜工程401,402を通過し、最終的に巻取ロール422に巻き取られるようになっている。成膜工程401では、例えば真空蒸着法などを用いて基材Sの一方の面に成膜材料410を蒸着する。一方、成膜工程402では、成膜工程401と同じように、例えば真空蒸着法などを用いて基材Sの他方の面に成膜材料410を蒸着する。これにより、基材の一方の面に構成層を形成した後、連続して基材の他方の面に構成層を形成することが可能である。
【0055】
(非水電解質電池)
次に、図1に示す発電要素10を用いた非水電解質電池(リチウム二次電池)を説明する。
【0056】
図5に示す電池100は、発電要素10を複数積層することで構成されている。この例では、発電要素10の負極層2の面が対向するように重ね合わせ、発電要素10の間に負極集電体5を挟んだ状態で圧接して積層されている。また例えば、発電要素10の基材(正極集電体)S同士を接続し、他方負極集電体5同士を電気的に接続することで、各発電要素を並列に接続して出力を取り出すことも可能である。
【0057】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、基材の一方の面と他方の面とで各層の積層順序を変更してもよい。また、基材の両方の面にそれぞれ、各構成層を複数積層するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の非水電解質電池用発電要素及びその製造方法は、例えば全固体リチウム二次電池の分野に好適に利用することができる。また、本発明の非水電解質電池は、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラの他、電気自動車などの電源に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
S 基材 L 構成層
1 正極層 2 負極層 3 固体電解質層
5 負極集電体
10 発電要素 100 非水電解質電池(リチウム二次電池)
200 ターゲット
300 支持枠 310 枠体 320 開口部
400 成膜装置 401,402 成膜工程
410 成膜材料 421 供給ロール 422 巻取ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上に、正極層と負極層、及びこれら両層の間に介在される固体電解質層を有する非水電解質電池用発電要素であって、
前記正極層、固体電解質層及び負極層は、気相法により形成され、
前記各層は、前記基材の両面に積層され一体化されていることを特徴とする非水電解質電池用発電要素。
【請求項2】
前記各層が、前記基材の両面に対称に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池用発電要素。
【請求項3】
前記基材が、前記正極層又は前記負極層の集電体としての機能を有することを特徴とする請求項2に記載の非水電解質電池用発電要素。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質電池用発電要素を複数積層して構成されていることを特徴とする非水電解質電池。
【請求項5】
基材の上に、正極層と負極層、及びこれら両層の間に介在される固体電解質層を有する非水電解質電池用発電要素の製造方法であって、
前記基材の一方の面に、前記正極層、固体電解質層及び負極層のいずれかを気相法により形成する第一工程と、
前記基材の他方の面に、前記正極層、固体電解質層及び負極層のいずれかを気相法により形成する第二工程と、
前記基材の両方の面において、上記した第一工程と第二工程とを繰り返し行い、残りの層を形成する工程と、
を備えることを特徴とする非水電解質電池用発電要素の製造方法。
【請求項6】
前記第一工程と前記第二工程とを同時に行うことを特徴とする請求項5に記載の非水電解質電池用発電要素の製造方法。
【請求項7】
前記第一工程と前記第二工程とを順次行うことを特徴とする請求項5に記載の非水電解質電池用発電要素の製造方法。
【請求項8】
前記第一工程及び前記第二工程において、前記基材に、その変形を防止する支持枠を取り付けて行うことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の非水電解質電池用発電要素の製造方法。
【請求項9】
前記第一工程及び前記第二工程において、形成する層を同じ層とし、
前記基材の両面に、各層を対称に形成することを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の非水電解質電池用発電要素の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−82038(P2011−82038A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233926(P2009−233926)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】