説明

面歪の測定装置及び方法

【課題】鏡面乃至半鏡面状の測定対象表面上の、観察可能なあらゆる場所における、面歪の分布を、測定対象の3次元形状の影響を受けることなく、光学的手段を用いて定量的に、また高速・高精度に測定および評価できる、面歪の測定装置及び方法を提供することを課題とする。
【解決手段】複数種の明暗パタンを切替えて表示することが可能なパタン表示手段と、鏡面乃至半鏡面状の測定対象表面上に写る前記パタン表示手段に表示された複数の明暗パタンの鏡像を、撮影する撮影手段と、撮影された複数の明暗パタンの鏡像画像を画像処理して前記測定対象表面の面歪分布を演算する面歪分布演算手段とを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、前記測定対象のマクロ3次元形状を測定するマクロ形状測定手段と、測定されたマクロ3次元形状に基づいて、演算された面歪分布を補正するマクロ形状補正手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面歪の測定装置及び方法に関し、詳しくは、鏡面乃至半鏡面の測定対象表面上の、観察可能なあらゆる場所における、面歪の分布を、測定対象の3次元形状の影響を受けることなく、光学的手段を用いて定量的に測定および評価する、面歪の測定装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレス成形・塗装後の自動車外板や塗装された建築用壁面パネル、あるいは平面ガラス鏡など、その表面が鏡面乃至半鏡面をなす工業製品は、表面に所謂「面歪」と呼ばれる波打ち状の歪みがあると、その歪量がたとえ微小であっても、写る背景像が「光てこ」の原理で大きく歪んで見えることにより、外観を著しく損い、品質上大きなダメージとなる。
【0003】
上述の歪は、金属板をプレス成形‐組み立て‐塗装する等、一連の処理を行う途中のあらゆる段階で発生する。プレス成形においては、離型後の弾性変形によりプレス成形の対象となった成品の表面が変形し、歪が発生する危険性がある。また、プレス金型に鉄粉等の異物が付着した場合にも、プレス成形の対象となった成品に歪が発生する。また、プレス成形の途中でプレス成形の対象となった成品の一部に亀裂やシワが発生すると、同成品の張りが変化するため、歪が誘発される。組み立てにおいては、カシメや溶接により歪が発生する場合がある。塗装においては、焼付けによる熱変形や塗装ムラ、異物付着により、歪が発生する場合がある。
【0004】
したがって、これら工業製品の材料の評価・品質作りこみ・品質検査など製品開発・製造の現場では、かねてより面歪分布の定量測定技術が望まれていた。
【0005】
しかしながら、数100mmから数mのサイズの対象表面上の10μmから100μm程度の凹凸を、対象表面全面に亘って定量的に形状測定することは極めて難しい。敢えて言えば、従来、レーザ変位計に代表される非接触距離計を用いて、対象表面上をxy走査して微小な形状歪み分布を求める方法が知られてはいるが、あまりに測定時間がかかりすぎ、実用的な方法とはなりえていない。
【0006】
これに対して、面歪を定性的にパタン観察する方法としては、従来より、対象表面上に写る、背景のストライプパタンやチェッカボードパタンの鏡像が、面歪によって歪んで見える現象を利用して、その歪みの程度から面歪を評価する方法が知られていた。
【0007】
特許文献1に開示されている方法は、主に表面が鏡面塗装された建築用の大型パネルを対象とした定性的な面歪観察方法の一つであり、パネルに写った、線幅及び線間隔の異なる数種類のストライプパタンの内、所定の線幅・線間隔の閾値に対しての大小から、面歪の大小を判定しようとするものである。
【0008】
また、特許文献2、特許文献3、特許文献4、または特許文献5などに開示された方法は、主にガラスの表面や内部の歪の観察方法として提案されたものであり、ストライプパタン乃至は格子パタンの、測定対象ガラス表面の反射像乃至はガラス内部の透過像を観察し、その歪み量・曲率・線幅・線間隔から歪を評価しようとするものである。
【0009】
一方、特許文献6、特許文献7、または特許文献8では、上記の観察方法を一歩推し進めて、これを定量化しようとする試みが開示されている。これらの方式は、ストライプパタンやチェッカボードパタンのコントラストや位相ずれ乃至は生成されたモアレ縞が歪量によって変化することに着目して、これを定量化しようとするものである。
【0010】
そして、特許文献9には、面歪測定とは多少目的を異にはするが、自動車ボディの半鏡面性の塗装面上の凹凸状の微小欠陥を感度良く検出する方法が開示されている。この方式は、スリット状の拡散照明光を走査し、測定対象表面に写ったスリットの鏡像が、対象表面上の各点を通過するタイミングを画像合成によって求め、その凹凸微小欠陥に起因するタイミングパタンの部分的な歪から、欠陥を検出しようとするものである。この方式は、面歪の観察にもトランスファ可能であり、対象の形状に対してロバストな観察方式を提供する。
【0011】
特許文献10には、点光源から、2値コードパタン投影法用の複数種のストライプ配列パタンを順次投影して、それを撮影し、画像処理して、粗い凹凸分布を求めるとともに、先のストライプ配列パタンのうちの、1つのストライプ配列パタンの中の、1組のストライプの明暗のカバーする範囲について、その1組のストライプと平行なスリットを、ストライプの延びる方向と直交する方向に走査させる処理を、全組のストライプについて同時に行って、しかも、スリットの走査中、各画素が最大輝度を示すタイミングにおけるそのスリット走査方向位置の座標の値を、画像全体にわたって捉え、最終的に、先述のストライプ配列パタンを順次表示して求めた粗い凹凸分布を、スリットを走査して求めた精細な凹凸分布で補完し、全体として精細な凹凸分布を求める技術が開示されている。
【0012】
図12は、特許文献10に開示された全体概念を、さらに図13は、同じく特許文献10に開示された信号処理部を、それぞれ示す図である。
【0013】
ここで、2値コードパタン投影法とは、図15に示すように、複数種のストライプ配列パタン、例えば、全体を2のn乗等分して明暗交互に配列したストライプ配列パタンを順次投影し、位置に応じた、明暗の反転するパタンから、その位置を、対応する2進数として一時的に認識し、それを最終的に十進数に換算して認識する、位置認識法のことである。
【0014】
例えば、図15では、点光源15から基準面20へ、3次パタンまで順次投影したときのようすを示しているが、一番下の区分の左からn番目に対応した10進数位置のうち、一番左の「7」に対応するものは、その上に表示されている明暗パタンのうち、1次パタンでは明「1」、2次パタンでは明「1」、3次パタンでも明「1」と対応する2進数として認識し、2×1+22−1×1+22−2×1=7、同様に、一番下の区分に対応した10進数位置のうち、一番左から2番目の「6」に対応するものは、その上に表示されている明暗パタンのうち、1次パタンでは明「1」、2次パタンでも明「1」、3次パタンでは暗「0」と対応する2進数として認識し、2×1+22−1×1+22−2×0=6、同様に、一番下の区分に対応した10進数位置のうち、一番左から3番目の「5」に対応するものは、その上に表示されている明暗パタンのうち、1次パタンでは明「1」、2次パタンでは暗「0」、3次パタンでは明「1」と対応する2進数として認識し、2×1+22−1×0+22−2×1=5、‥‥という具合である。
【特許文献1】特開平11-153420号公報
【特許文献2】特開昭60-119404号公報
【特許文献3】特開平1-165907号公報
【特許文献4】特開平3-135704号公報
【特許文献5】特開平3-199946号公報
【特許文献6】特開平7-20059号公報
【特許文献7】特開平8-220021号公報
【特許文献8】特開2004-251878号公報
【特許文献9】特開2002-22665号公報
【特許文献10】特開2005-3409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献2〜5に開示の技術では、歪の可視化がやっとできる程度であり、測定の定量性を保証するまでには至っていなかった。
【0016】
また、特許文献6〜8に開示の技術では、その測定結果は、投影したストライプパタンやチェッカボードパタンの明暗の影響を受けやすく、また観察可能領域がパタンの明暗のエッジ近傍に限定されていたり、平均化によって空間分解能の限界があったりと、その性能には自ずと限界があった。
【0017】
そして、特許文献9に開示の技術では、1本のスリットの鏡像の走査であるために、測定時間が長く、また、タイミングのずれと面歪量との定量評価式が確立していないという点において、課題を残していた。
【0018】
さらに、特許文献10に開示の技術では、最大輝度を示すタイミングにおけるスリット走査方向の座標の値を、図12中に示す角度θ内のどこかをとらえて割り出すようにしているので、角度θの分解能の限界上、例えば人の顔面の起伏のような数mm程度以上の凹凸の定量的測定は容易に行い得るものの、例えば自動車の外板表面のような鏡面乃至半鏡面の数十μm程度のわずかな凹凸に相当する面歪分布の定量的測定は不可能であった。
【0019】
しかも、プレス成形、部品取付、組み立て、塗装、熱処理、完成品検査のいずれか少なくとも一つを行う金属板の各処理において、面歪に由来した表面品質不具合の検査を行う場合、製造ラインを流れる成品を高速で検査する必要があるが、従来の技術では製造ラインを流れる成品の速度に対応できず、インラインでの検査が不可能であった。
【0020】
すなわち、上記の面ひずみ測定方法すべてにおける問題点は、対象物の形状を平面に限定あるいは曲面形状においても平面と仮定している点にある。測定対象物が3次元的な形状を有する場合、面ひずみの評価は3次元形状を考慮して測定・解析することが必要であり、自動車部品等の3次元曲面をもつ対象物に対しては測定精度の低下が不可避であった。さらに、上記の方法によって測定された面ひずみ測定値は、3次元の位置情報が不明確であるため、実際に面ひずみが発生している個所を特定することが困難であった。
【0021】
本発明では、これら従来技術の問題点に鑑み、鏡面乃至半鏡面状の測定対象表面上の、観察可能なあらゆる場所における、面歪の分布を、測定対象の3次元形状の影響を受けることなく、光学的手段を用いて定量的に、また高速・高精度に測定および評価できる、面歪の測定装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の請求項1に係る発明は、複数種の明暗パタンを切替えて表示することが可能なパタン表示手段と、鏡面乃至半鏡面状の測定対象表面上に写る前記パタン表示手段に表示された複数の明暗パタンの鏡像を、撮影する撮影手段と、撮影された複数の明暗パタンの鏡像画像を画像処理して前記測定対象表面の面歪分布を演算する面歪分布演算手段とを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、前記測定対象のマクロ3次元形状を測定するマクロ形状測定手段と、測定されたマクロ3次元形状に基づいて、演算された面歪分布を補正するマクロ形状補正手段とを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置である。
【0023】
また本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、前記マクロ形状補正手段は、前記マクロ3次元形状の面歪量への影響を補正する面歪量補正手段と、前記マクロ3次元形状の幾何学的なゆがみへの影響を補正するゆがみ補正手段との、少なくとも一つを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置である。
また本発明の請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、補正された前記面歪分布を微分処理することで表面傾きの変化率分布を算出する曲率演算手段を備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置である。
【0024】
また本発明の請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、前記パタン表示手段は、2値コードパタン投影法用の複数種のストライプ配列パタンと、最小ストライプ幅以上の範囲を走査する、1本のスリット複数本とで明暗パタンを表示できるものであることを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置である。
【0025】
また本発明の請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、前記マクロ形状測定手段は、テレビカメラを撮像手段とすることを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置である。
【0026】
また本発明の請求項6に係る発明は、請求項5に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、前記テレビカメラは、面歪観察用の撮影手段とマクロ形状測定用の撮像手段とを1台のテレビカメラで共用する構成とし、測定対象表面の各点ごとにそれぞれ対応づいて得られる面歪情報とマクロ形状情報とからマクロ形状補正面歪演算を行うことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置である。
【0027】
また本発明の請求項7に係る発明は、請求項5に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、前記テレビカメラは、面歪観察用の撮影手段とマクロ形状測定用の撮像手段とを異なるテレビカメラで構成し、マクロ形状補正において必要とされる測定対象表面各点ごとの面歪情報とマクロ形状情報との対応づけには、測定対象表面の各点の面歪観察用テレビカメラ画面上の位置とマクロ形状測定用テレビカメラ画面上の位置との対応づけを行う画面間位置対応づけ手段を備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定である。
【0028】
また本発明の請求項8に係る発明は、複数種の明暗パタンを切替えて表示することが可能なパタン表示工程と、鏡面乃至半鏡面状の測定対象表面上に写る前記パタン表示工程に表示された複数の明暗パタンの鏡像を、撮影する撮影工程と、撮影された複数の明暗パタンの鏡像画像を画像処理して前記測定対象表面の面歪分布を演算する面歪分布演算工程とを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法において、前記測定対象のマクロ3次元形状を測定するマクロ形状測定工程と、測定されたマクロ3次元形状に基づいて、演算された面歪分布を補正するマクロ形状補正工程とを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法である。
【0029】
また本発明の請求項9に係る発明は、請求項8に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法において、前記マクロ形状補正工程は、前記マクロ3次元形状の面歪量への影響を補正する面歪量補正工程と、前記マクロ3次元形状の幾何学的なゆがみへの影響を補正するゆがみ補正工程との、少なくとも一つを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法である。
【0030】
また本発明の請求項10に係る発明は、請求項8又は請求項9に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法において、補正された前記面歪分布を微分処理することで表面傾きの変化率分布を算出する曲率演算工程を備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法である。
【0031】
また本発明の請求項11に係る発明は、請求項8乃至請求項10のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法において、前記マクロ形状測定工程は、任意のパタンが投影可能なプロジェクタを用いて被測定対象物表面に複数本のスリット光からなるスリットパタンをスリット方向と直交する方向にシフトさせて複数回投影する工程と、前記プロジェクタを用いてストライプの明暗の組み合わせによりパタン内の位置をコード化するための複数のストライプパタンを投影する工程と、被測定物表面に投影された光パタンを投影方向とは異なる方向から撮影する工程と、スリットパタンの複数の投影画像の中から各画素ごとに最大輝度を示す投影画像を選択し、その投影画像に対応するスリットの相対的投光角度を前記各画素の値とする相対投光角度画像を合成し、相対投光角度画像の各画素の値、パタン投影手段および撮像手段の幾何学的関係とから、三角測量の原理に基づいてストライプパタンの最小幅に対応する領域の精密な部分形状を求める工程と、ストライプパタンの複数枚の投影画像の各画素ごとに前記複数枚の投影画像における明暗変化をコード化してその画素の値とする絶対投光角度画像を合成し、絶対投光角度画像の各画素の値、パタン投影手段および撮像手段の幾何学的関係から、三角測量の原理に基づいて概略の全体形状を求める工程と、前記精密な部分形状の演算結果と前記概略の全体形状の演算結果とを組み合わせて、被測定対象全体の精密な形状を演算する工程とからなることを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法である。
【0032】
また本発明の請求項12に係る発明は、金属板のプレス成形方法において、プレス成形後の金属板の面歪分布を、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置及び/又は請求項8乃至請求項11のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法を用いて測定することを特徴とする金属板のプレス成形方法である。
【0033】
さらに本発明の請求項13に係る発明は、プレス成形、部品取付、組み立て、塗装、熱処理、完成品検査のいずれか少なくとも1つの金属板の処理による面歪に由来した表面品質不具合を、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置及び/又は請求項8乃至請求項11のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法を用いて検査することを特徴とする金属成品の表面品質検査方法である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、鏡面乃至半鏡面状の測定対象表面上の、観察可能なあらゆる点での面歪分布を、3次元形状を考慮して、定量的に、また高速・高精度に測定することが可能となり、プレス加工に供する素材金属板の開発などにおいて、素材金属板の加工性の評価、プレス成形用金型の劣化状況の評価、製品金属板の検査などを精度よく行うことができる。これにより、例えば、高性能の素材金属板や、その加工法の開発を行う上で、効率が上がるとともに、製品金属板の歩留り、品質の向上にも寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明は、鏡面乃至半鏡面状の測定対象表面に写った明暗パタンが面歪によって歪む現象を利用し、パタン表示手段(例えばスクリーン)に表示した複数の明暗パタンが測定対象表面で正反射したパタン、すなわち測定対象表面上に写った前記複数の明暗パタンの鏡像を、撮影手段(例えばテレビカメラ)を用いて撮影し、撮影した画像を画像処理して、測定対象表面の各点に対応するパタン表示手段(の表示面)上の点の座標を求め、さらに、別途測定する測定対象表面の各点でのマクロ3次元形状の情報とから、以下に述べる測定原理に基いて面歪量を演算する。さらに、この演算を測定対象表面の、観察可能なあらゆる点について行うことにより、面歪分布を求めるものである。
【0036】
図2は、本発明の測定原理を説明するための図である。先ずこの図を用いて本発明の測定原理を説明する。
【0037】
本発明では、測定対象1の鏡面乃至半鏡面状の測定対象表面に対し、片側に明暗パタンを表示可能なパタン表示手段として例えばスクリーン2を配置し、もう片側に、スクリーン2上の明暗パタンの、測定対象表面上の鏡像を観察可能な位置に、撮影手段として、例えばテレビカメラ3を配置して、その鏡像を観察する。
【0038】
図2において、測定対象1の座標系を(x,y,z)とする。スクリーン2は、測定対象1の基準点Oから−y方向に距離l(Lの小文字)だけ離れた位置に垂直に立っているものとする。テレビカメラ3は、基準点Oに対して+y方向に、投影距離にしてL離して配置されている。x−y面を水平面とみなして基準点Oからテレビカメラ3を見上げた仰角をαとし、基準点Oをテレビカメラ3で見たときのスクリーン2上の対応点をPとする。スクリーン2上の座標系は、P点を原点として(X,Z)で表すものとする。
【0039】
このとき、測定対象表面上のA点の座標を(x,y,z)とし、A点における面歪の方向を示す単位ベクトル(正確には、面歪を生じている測定対象表面の法線方向の単位ベクトル、以下、面歪単位ベクトルという)ベクトルuを、図1内の[A点拡大図]に示すようにとったy軸に対する角度φ及びz軸に対する角度ξを用いて、ベクトルu(sinξsinφ,sinξcosφ,cosξ)とすると、A点をテレビカメラ3で観察したときのスクリーン2上の対応点B点の座標(X,Z)は、幾何学的関係から、近似的に(1),(2)式の形に求まる。
【0040】
【数1】

【0041】
測定対象表面上の各点について、その点のスクリーン上の対応点の座標が求められれば、(1),(2)式を変形して、面歪単位ベクトルのx方向の傾き(正確には、面歪単位ベクトルのx−z面への正射影がz軸となす角のタンジェント)sinφtanξ及びy方向の傾き(正確には、面歪単位ベクトルのy−z面への正射影がz軸となす角のタンジェント)cosφtanξは、それぞれ(3),(4)式の形で求められる。
【0042】
【数2】

【0043】
図2において、M=l/L=1、すなわち、基準点O‐スクリーン間距離(l)=基準点O‐テレビカメラ間投影距離(L)、となる配置形態を採用すると、(4)式右辺に含まれるzの係数(1−M)が0となって、測定対象表面の凹凸形状の影響が見かけ上キャンセルされ、より簡略化された面歪演算式(5),(6)式が得られる。
【0044】
【数3】

【0045】
次に、本発明の面歪測定における測定対象のマクロな凹凸形状すなわちマクロ3次元形状の影響について考察する。
【0046】
(1) 面歪量への影響
上記(5),(6)式を見ると、測定対象の凹凸形状であるzが露わには現れていないため、一見、対象の凹凸形状の影響を受けない面歪測定が可能なように見える。しかしながら、測定対象をテレビカメラで斜めから観察しているため、zの影響を受けずに測定対象の(x,y)座標を特定することができない。
【0047】
たとえば、図4のA, A’,A”はテレビカメラで見ると同じ点にしか見えないが、高さzが異なるためにそれぞれ(x,y)座標が異なる。すなわち、上記(5),(6)式のx,yは、実はzの関数となっており、測定対象の凹凸が大きい場合には、(5),(6)式によって測定対象の面歪分布を厳密に求めようとすると、測定対象のマクロ3次元形状の補正が不可欠である。
【0048】
(2) 幾何学的ゆがみへの影響
面歪測定結果の利用形態を考えると、面歪情報の座標系は、テレビカメラで観察している斜め方向からの座標系よりも、測定対象を正面から見たときの座標系で表した方が都合の良い場合が多い。この視点変更の幾何学的変換において、ゆがみのない変換を行うためには、やはり測定対象のマクロ3次元形状の情報が必要である。
【0049】
図5は、本発明に係る面歪測定における測定対象のマクロ形状の補正方法を説明する図である。図5に示すように、テレビカメラ光学系の配置(仰角α,光軸長a,L=a×cosα)、測定点Aの視野内位置(x’,y’)(x’およびy’は、A点の画面内アドレスと視野サイズとから求める)および測定点Aの基準面からの高さzが判れば、以下に示す(7)〜(9)式を用いて、測定点Aの見掛けのxy座標から、真のxy座標を導くことができる。
【0050】
【数4】

【0051】
面歪演算におけるマクロ3次元形状の面歪量への影響は、 (5),(6)式の演算で、この真のxy座標(x,y)を用いることにより補正することができる。また、マクロ3次元形状の幾何学的ゆがみへの影響は、測定対象上の各点の真のxyz座標(x,y,z)を用いて、求めた面歪分布を任意の方向の視点に合せてマッピングし直せば、歪みのない面歪分布パタンが得られる。
【0052】
一方、上述の測定原理を実際に適用して測定対象表面上の面歪分布を求めるためには、テレビカメラで撮影可能な測定対象表面上の各点について、その点のスクリーン上の対応点の座標を求める手段が必要である。
【0053】
この手段は、複数種の明暗パタンを切替えて表示することが可能なパタン表示手段と、鏡面乃至半鏡面状の測定対象表面上に写る、前記パタン表示手段に表示された複数の明暗パタンの鏡像を、撮影する撮影手段と、撮影された、複数の明暗パタンの、鏡像画像を、画像処理して、測定対象表面の面歪分布を演算する面歪分布演算手段と、を備えた測定装置により実現される。
【0054】
図1は、本発明を実施するための最良の形態を示す図である。パタン表示手段は、プロジェクタ6からスクリーン2へ明暗パタン5を投影するよう構成されている。スクリーン2上に投影された明暗パタン5は、そこから発して測定対象1の鏡面又は半鏡面状の表面で正反射することによって、その鏡像が測定対象1の表面に写される。この鏡像は、これを観察可能な位置に配置された撮像手段としてのテレビカメラ3で撮影される。プロジェクタ6及びテレビカメラ3は、パソコン(パーソナルコンピュータ)10と接続されている。
【0055】
さらに、対象表面のマクロ3次元形状を測定するマクロ形状測定手段7がパソコン10と接続されている。パソコン10は、プロジェクタ6に複数種の明暗パタンを順次送るパタン投影部104と、テレビカメラ3による撮影画像を一時記憶する画像バッファ部103と、画像バッファ部103に一時記憶された撮影画像を画像処理し、マクロ形状測定手段7から得られるマクロ形状で補正して面歪分布を演算する面歪演算部102と、パタン投影部104、画像バッファ部103及び面歪演算部102の動作順序乃至動作時間を制御するシーケンスコントロール部101とを有する。
【0056】
よって、シーケンスコントロール部101の制御動作により、プロジェクタ6はスクリーン2へ複数種の明暗パタンを切替えて投影し、表示することが可能であり、マクロ形状測定手段7は対象の形状を測定するとともに形状情報をパソコンに転送し、また、面歪演算部102が面歪分布演算手段として動作することが可能である。
【0057】
なお、図1に示すパタン表示手段としては、プロジェクタ6およびスクリーン2に替えて、フラットディスプレイを用いて、明暗パタンを直接表示するよう構成してもよい。また、図1および図2では、パタン表示手段の表示面をy軸に対して直交させた配置形態とした場合を例に挙げて説明したが、例えば図14に示したように、前記表示面は必ずしもy軸に対して直交させる必要はなく、適宜の配置形態とした場合においても、それぞれの配置形態に対応した幾何学的関係から、前記(1)〜(6)式と類似した形の面歪演算式(画像表示手段、撮影手段、測定対象を置く基準面、の幾何学的関係式)を導くことができ、それらを用いて面歪を演算することが可能である。
【0058】
本発明の面歪演算におけるマクロ3次元形状補正の内容につき、さらに詳細に説明する。 図3は、図2に示した面歪演算部102の内部の構成例を示す図である。
【0059】
マクロ形状補正機能を備えた面歪演算部102は、マクロ形状データバッファ301、面歪量補正手段302およびゆがみ補正手段303とからなるマクロ形状補正手段300と、面歪分布演算手段201と、視点変更マッピング手段202と、曲率演算手段203とを備える。
【0060】
マクロ形状測定手段7によって測定されたマクロ形状データは、マクロ形状データバッファ301に転送され一旦記憶される。面歪演算にあたって、面歪分布演算手段201は、画像バッファ部103に一時記憶されている複数の明暗パタンの鏡像画像をもとに、測定対象表面の各点ごとにスクリーン上の対応点のアドレス(X,Z)を求め、(5),(6)式に基づいて測定対象表面の各点の面歪量すなわち面歪分布を演算する。
【0061】
このとき、面歪量補正手段302は、マクロ形状zを用いて画面内の見かけのxy座標を真のxy座標に変換して面歪分布演算手段201に与えることにより、マクロ3次元形状の影響を補正した面歪量の演算を可能とする。求められた面歪分布は視点変更マッピング手段202に送られ、測定対象を斜めから見たテレビカメラ座標系での面歪分布を、測定対象を正面から見た座標系での面歪分布にマッピングする。
【0062】
このとき、ゆがみ補正手段303は、マクロ形状zを用いて画面内の見かけのxy座標を真のxy座標に変換して視点変更マッピング手段202に与えることにより、マクロ3次元形状の影響を補正したマッピングを可能とする。求めた面歪分布は、測定対象表面の歪み形状のgradient分布を表しており、gradient面歪分布として出力される。さらに、曲率演算手段203は、求めたgradient面歪分布を、さらに測定方向に微分処理を行うことにより、歪形状の曲率分布を演算し、曲率面歪として出力する。
【0063】
次に、本発明のマクロ3次元形状補正におけるマクロ形状と面歪分布との対応づけにつき、以下に補足する。
【0064】
本発明におけるマクロ形状測定手段は、測定対象表面上の明暗パタンの鏡像を撮影する撮影手段(以降、「面歪観察用撮影手段」または「面歪観察用テレビカメラ」と記す)によって得られる画像の各画素に対応する測定対象上のすべての点の凹凸形状が求められる手段であれば、測定方式は問わない。
【0065】
ただ、面歪観察用テレビカメラの各画素との対応づけの便に配慮すると、面歪観察と同様のテレビカメラを用いた方式、すなわち、いわゆる光切断法・空間コード化法・位相シフト法などとして知られる測定方式が「なじみ」がよい。これらの方式は、測定対象表面に斜めからスリット光やストライプパタンを照射し、測定対象の凹凸形状に起因するパタンのゆがみをテレビカメラで撮影し、三角測量原理に基づいて画像解析して形状を求める。
【0066】
図10は、面歪観察光学系とマクロ形状測定光学系の第1の構成例を示す図である。この構成例では、面歪観察用の撮影手段とマクロ形状測定用の撮像手段として、1台のテレビカメラを共用する。この構成を用いれば、測定対象表面の各点に対応するそれぞれの画素ごとに、面歪情報とマクロ形状情報とが完全に対応づけて得られるので、そのまま面歪情報のマクロ形状補正が可能である。
【0067】
図11は、面歪観察光学系とマクロ形状測定光学系の第2の構成例を示す図である。この構成例では、面歪観察用の撮影手段とマクロ形状測定用の撮像手段とはそれぞれ異なるテレビカメラを備え、プロジェクタ#2から投影した同一の明暗パタンを、面歪観察用テレビカメラ#1とマクロ形状測定用テレビカメラ#2とでそれぞれ撮影することにより、測定対象表面各点ごとの面歪情報とマクロ形状情報との対応づけを行う。
【0068】
上述した第1の構成と第2の構成とを比較する。先ず、第1の構成は、面歪情報とマクロ形状情報との特段の位置対応づけ手段が本質的に必要なくシステムの構成が簡便であるが、一方で、マクロ形状測定用テレビカメラが測定対象を斜めから見ているため、形状測定における較正がやや難しい。そして、第2の構成は、マクロ形状測定手段として、テレビカメラ#2とプロジェクタ#2とからなる予め較正された測定装置をそのまま組み込む場合に有利であるが、面歪情報とマクロ形状情報との位置の対応づけは、やや面倒である。
【0069】
なお、テレビカメラを用いたマクロ形状測定方式の中でも、特に、特許文献10に開示されているマクロ形状測定方式(図12,図13)は、投影パタン・投影方法が本発明と同一であり、パタン生成・画像合成のソフトウェアの共用が可能であることから、本発明の面歪測定方式と極めて「なじみ」のよい方式である。
【0070】
次に、本発明におけるパタン表示手段で表示する明暗パタンにつき、いま少し詳説する。 パタン表示手段で表示する明暗パタンとしては、例えば前述の簡略化された(5),(6)式による面歪分布演算を可能とするために、スクリーン上(あるいはフラットディスプレイ画面上)の原像位置座標(X,Z)と、測定対象表面上の座標(x,y,z)と、テレビカメラで撮影した鏡像位置座標(x',y')との対応付けが幾何学的関係から可能なようにコード化されたものであれば何でもよい。
【0071】
たとえば、2値コードパタン投影法用の複数種のストライプ配列パタンを、前記マルチスリット走査と組み合わせた明暗パタンも知られている(特許文献10参照)。これによれば、複数種のストライプ配列パタンのうちの最小ストライプ幅の各区分を、マルチスリット内のスリットの1本ずつで同時に走査することにより、各区分内でのさらに精細な位置を短時間で認識することができ、原像位置座標(X,Z)と鏡像位置座標(x',y')とのさらに精細な対応付けが可能である。
【0072】
そこで、本発明では、複数種の明暗パタンとして、2値コードパタン投影法用の複数種のストライプ配列パタンと、最小ストライプ幅以上の範囲を走査する複数本のスリットとを用いることが好ましい。
【0073】
この場合、画像処理の簡便さの観点から、複数種のストライプ配列パタンは、ストライプ配列パタン全体を2n等分して明暗交互に配列したものが好ましい。また、複数本のスリット(マルチスリット)は、スリットの延びる方向と直交する方向に走査されることが好ましい。
【0074】
このような明暗パタンの一例として、左右方向(X方向)に延びる、5種類のストライプ配列パタン及び1種類のマルチスリットを、図6に示す。ストライプ配列パタンは、ストライプ配列パタン全体を2n等分して明暗交互に配列したものであり、この例ではn=1〜5としている。すなわち、n=1,2,3,4,5がそれぞれ図6中の左側の1/2,1/4,1/8,1/16,1/32と記した5種類のパタンに対応する。これら5種類のストライプ配列パタンは順次切替えて表示されるので、鏡像画像上のy座標(鏡像位置座標y)とパタン表示手段上のZ座標(原像位置座標Z)との粗い対応付け(2値コード区分間での対応付け)が可能である。
【0075】
一方、マルチスリットは、図6中の右端に示されるように、複数本のスリットが、そのスリット間隔を前記最小ストライプ幅(1/32のストライプ配列パタンのストライプ幅)のピッチで配列されてなる。なお、1/32のストライプ配列パタンまでを投影するのは、一義的なものではなく、面歪が大きい場合、それ以前に鏡像上のどのストライプが原像上のどのストライプに対応するのかわからなくなってしまう場合もあるので、何処まで最小ストライプ幅を小さくしたものを表示して投影するかは、人為判断などで適宜調整してよい。
【0076】
このマルチスリットは、スリットの延びる方向と直交する方向に最小ストライプ幅のピッチを維持しつつ、最小ストライプ幅以上、好ましくは最小ストライプ幅よりもやや大きく、最小ストライプ幅の1.3倍以下、で走査する。最小ストライプ幅よりもやや大きく走査するのが好ましい理由は、境界が確実に走査され、同部の面歪の測定が確実に行えるからである。この例では、スリットの1本ずつが前記最小ストライプ幅の各区分を走査するので、前記最小ストライプ幅の各区分に対応する同一2値コード区分内での、鏡像位置座標yと原像位置座標Zとの精細な対応付けが可能である。
【0077】
なお、面歪分布の測定方向を、互いに直交する二方向にとる場合、後で行う一方向の測定では、先に行った他方向の測定に用いた複数種のストライプ配列パタン、及びマルチスリットに替えて、延びる方向が前記複数種のストライプパタン及び前記複数本のスリットと直交する方向の複数種のストライプパタン及び複数本のスリットを用いると好ましい。
【0078】
図7〜図9に、本発明を適用して、複数の明暗パタンの鏡像から面歪分布を演算した例を示す。
【0079】
図7は、図6の明暗パタンを用いたストライプ配列パタン切替に対応するコードパタン投影の各段階、及びマルチスリット走査の各段階での、測定対象表面上に写った明暗パタンの鏡像の撮影画像を示す図である。
【0080】
図8の(a)は図7のコードパタン投影の各段階での撮影画像を画像処理して得られた画素のもつデータ(Z方向の粗い位置座標に対応)を明暗で表した表示画像を示す図、(b)は図7のマルチスリット走査の各段階での撮影画像を画像処理して得られた画素のもつデータ(Z方向の粗い位置座標の区分内での精細な位置座標に対応)を明暗で表した表示画像を示す図、(c)は(a)及び(b)の画素のもつデータを合成してなる画素のもつデータ(Z方向の精細な位置に対応)を明暗で表した表示画像を示す図である。さらに、 図9は、図8(c)からy方向の面歪分布を演算した結果を明暗で表した表示画像を示す図である。
【0081】
上記本発明によれば、特許文献10のように、角度θの分解能の限界からくる制約が解消され、パタン表示手段と撮影手段の画素の精細さ次第で、例えば自動車の外板表面のような鏡面乃至反鏡面の数十μm程度のわずかな凹凸に相当する面歪分布の定量的測定および評価が可能になる。
【実施例】
【0082】
次に、本発明の実施例の一つを示す。本実施例では、図1に示した測定装置を用い、自動車用鋼板をプレス成形後、塗装したサンプルを測定対象として、2次微分処理することで表面傾きの変化率(=曲率)を算出し、面歪発生位置および発生量を定量的に評価した。
【0083】
図17および図18は、本実施例における全体処理フローを示す図である。図17は、全体処理フロー(その1)として先ず3次元形状処理を行うものであり、その後図18全体処理フロー(その2)として面ひずみ測定処理を順に行う。
【0084】
図17から順に説明していくと、先ずStep100で直接投影手段の準備を行う。測定サンプルに投影されたパタンをカメラで撮影し、その反射パタンをパソコンに画像として取り込む。図20は、直接投影パタン記録画像(投影された明暗パタン)の例を示す図である。
【0085】
そして、図6に示したようにストライプパタン配列を切替え、
Step101〜Step106の処理は前述の粗い対応付けを、Step107〜Step112の処理は、前述の精細な対応付けをそれぞれ行い、Step113およびStep114により、プロジェクタとテレビカメラの位置関係から3次元形状を算出し、画像各点の3次元座標x,y,zを3次元データとして保存する。図21は、このようにして計算した3次元形状データのX座標分布を濃淡画像として表示した図である。この測定の場合では、X座標を図の左から右の方向に定義しており,濃淡が薄くなるほどX座標値が大きいことを示している。
【0086】
図22も同様に、計算された3次元形状のY座標を濃淡画像として表示したものである。この測定の場合では、Y座標を手前から奥行きに向かって定義している。図23は同じように3次元座標のZ座標を濃淡画像として表示したものである。Z座標はサンプルの高さ方向を示しており、濃淡が薄くなるほど高さが高いことを示している。図21、22、および23の濃淡分布が示すように、パネル形状に則してX,Y,Z座標とも連続的に変化しており、測定誤差が少ない測定が実現できていることが分かる。
【0087】
次に、図18の面ひずみ測定処理に移る。先ず、Step200でスクリーン反射投影手段の準備を行う。スクリーンに投影されたパタンがサンプル表面に映り込む画像をカメラで撮影し、その反射パタンをパソコンに画像として取り込む。図24は、スクリーンから反射された明暗パタンの例を示す図である。図20に示した直接投影パタン画像と比較すると、図24はよりパネル表面の歪みが強調されて表示されていることが分かる。
【0088】
そして、図6に示したようにストライプパタン配列を切替え、図17に示した処理と同様に、
Step201〜Step206の処理は前述の粗い対応付けを、Step207〜Step212の処理は、前述の精細な対応付けをそれぞれ行う。その後、Step213およびStep214により、記憶させておいた
3次元形状データとスクリーン投影位置の関係から、面の傾きすなわち断面形状の一次微分値(以下、TRiDY値とも称する)を算出し、断面ごとに面の傾き分布を曲線近似する。
【0089】
図25は、本手法により計算されたTRiDY値の分布を示すものである。さらに図19は、断面形状の一次微分値についての近似曲線の例を示す図である。(a)は、ドア取手部周辺の面傾き分布を、(b)は、断面A−AAでのTRiDY値と近似曲線を示す図である。
【0090】
この例では、TRiDY値の近似曲線f’(x)として、以下の(10)式を最小2乗法を用いて求めている。近似範囲を、面ひずみ官能評価結果と最も合う50mmにとれば、図19(b)に示すように良い近似ができていることが分る。なお、近似曲線の例として、最小2乗法を用いた多項式の例を示したが、本発明はこれに限られるものでない。
【0091】
【数5】

【0092】
Step215では、(10)式で求めたTRiDY値の近似曲線f’(x)をさらに、以下の(11)式のよう微分して、2次微分値(曲率) f''(x)を求める。この処理をすべての断面に対して繰り返し、面の2次微分値分布を求める。
【0093】
【数6】

【0094】
図16は、断面形状と二次微分値を対応させた例を示す図である。二次微分値が負の値で極小値になっている部分(図中、実線の丸で囲った位置)では、断面形状が凸曲面であり、反対に、二次微分値が正の値で極大値になっている部分(図中、破線の丸で囲った位置)では、断面形状が凹曲面であることが判る。このように二次微分値を求めることによって、面の凹凸変化すなわち面歪発生位置および発生量を定量的に評価できる。なお、近似曲線を用いるのは、デジタル値をそのまま用いてデジタル微分を行うことも可能であるが、その際生ずるデジタルノイズの低減を図るためである。
【0095】
そして、最終的に2次微分値のカラー(または濃淡)マップを表示(Step216)して処理を終了する。 図26は、本発明に測定・解析された3次元形状情報を有する面ひずみ2次微分解析結果を示す図である。取手周囲に二次微分値が大きい領域が表示されているが、この領域は、熟練者の官能評価において面ひずみ発生位置と特定された位置と一致している。
【0096】
本発明では、2次微分値のカラー(または濃淡)マップにより、面歪発生位置および発生量を定量的に評価できており、その位置も3次元形状データを利用することで容易に解析可能である。
【0097】
以上の実施例からもわかるように、本発明によれば、鏡面乃至半鏡面状の測定対象表面上の、観察可能なあらゆる点での面歪分布を、3次元形状を考慮して、定量的に、また、高速・高精度に測定することができるとともに、測定対象表面の傾きを2次微分処理することで表面傾きの変化率を算出し、面ひずみ発生位置および発生量を定量的に評価することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明を実施するための最良の形態を示す図である。
【図2】本発明の測定原理を説明するための図である。
【図3】本発明に係る面歪演算部の内部の構成例を示す図である。
【図4】マクロ3次元形状の面歪量への影響を説明するための図である。
【図5】マクロ3次元形状の幾何学的ゆがみへの影響を説明するための図である。
【図6】本発明に用いられる明暗パタンのうち、左右方向に延びるストライプ配列パタン切替及びマルチスリット走査を示す図である。
【図7】図6の明暗パタンを用いたストライプ配列パタン切替に対応するコードパタン投影の各段階、及びマルチスリット走査の各段階での、測定対象表面上に写った明暗パタンの鏡像の撮影画像を示す図である。
【図8】(a)は図7のコードパタン投影の各段階での撮影画像を画像処理して得られた画素のもつデータ(Z方向の粗い位置座標に対応)を明暗で表した表示画像を示す図、(b)は図7のマルチスリット走査の各段階での撮影画像を画像処理して得られた画素のもつデータ(Z方向の粗い位置座標の区分内での精細な位置座標に対応)を明暗で表した表示画像を示す図、(c)は(a)及び(b)の画素のもつデータを合成してなる画素のもつデータ(Z方向の精細な位置に対応)を明暗で表した表示画像を示す図である。
【図9】図8(c)からy方向の面歪分布を演算した結果を明暗で表した表示画像を示す図である。
【図10】面歪観察光学系とマクロ形状測定光学系の第1の構成例を示す図である。
【図11】面歪観察光学系とマクロ形状測定光学系の第2の構成例を示す図である。
【図12】特許文献10に開示された全体概念を示す図である。
【図13】特許文献10に開示された信号処理部を示す図である。
【図14】パタン表示手段の適宜の配置形態例を示す図である。
【図15】2値コードパタン投影法の原理を説明するための図である。
【図16】断面形状と二次微分値を対応させた例を示す図である。
【図17】実施例における全体処理フロー(その1)を示す図である。
【図18】実施例における全体処理フロー(その2)を示す図である。
【図19】断面形状の一次微分値についての近似曲線の例を示す図である。
【図20】直接投影パタン記録画像(投影された明暗パタン)の例を示す図である。
【図21】3次元形状データのX座標分布を濃淡画像として表示した図である。
【図22】3次元形状データのY座標分布を濃淡画像として表示した図である。
【図23】3次元形状データのZ座標分布を濃淡画像として表示した図である。
【図24】スクリーン反射投影パタン記録画像の例を示す図である。
【図25】測定された面ひずみデータTRiDY値の分布を示す図である。
【図26】3次元形状情報を有する面ひずみ2次微分解析結果を示す図である。
【符号の説明】
【0099】
1 測定対象
2 スクリーン(パタン表示手段)
3 テレビカメラ(撮影手段)
5 明暗パタン
6 プロジェクタ(パタン表示手段)
7 マクロ形状測定手段
10 パソコン(面歪分布演算手段)
15 点光源
20 基準面
101 シーケンスコントロール部
102 面歪演算部
103 画像バッファ部
104 パタン投影部
201 面歪分布演算手段
202 視点変更マッピング手段
203 曲率演算手段
300 マクロ形状補正手段
301 マクロ形状データバッファ
302 面歪量補正手段
303 ゆがみ補正手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の明暗パタンを切替えて表示することが可能なパタン表示手段と、鏡面乃至半鏡面状の測定対象表面上に写る前記パタン表示手段に表示された複数の明暗パタンの鏡像を、撮影する撮影手段と、撮影された複数の明暗パタンの鏡像画像を画像処理して前記測定対象表面の面歪分布を演算する面歪分布演算手段とを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、
前記測定対象のマクロ3次元形状を測定するマクロ形状測定手段と、
測定されたマクロ3次元形状に基づいて、演算された面歪分布を補正するマクロ形状補正手段とを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、
前記マクロ形状補正手段は、
前記マクロ3次元形状の面歪量への影響を補正する面歪量補正手段と、前記マクロ3次元形状の幾何学的なゆがみへの影響を補正するゆがみ補正手段との、少なくとも一つを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、
補正された前記面歪分布を微分処理することで表面傾きの変化率分布を算出する曲率演算手段を備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、
前記パタン表示手段は、2値コードパタン投影法用の複数種のストライプ配列パタンと、最小ストライプ幅以上の範囲を走査する、1本のスリット複数本とで明暗パタンを表示できるものであることを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、
前記マクロ形状測定手段は、テレビカメラを撮像手段とすることを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、
前記テレビカメラは、
面歪観察用の撮影手段とマクロ形状測定用の撮像手段とを1台のテレビカメラで共用する構成とし、測定対象表面の各点ごとにそれぞれ対応づいて得られる面歪情報とマクロ形状情報とからマクロ形状補正面歪演算を行うことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置。
【請求項7】
請求項5に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置において、
前記テレビカメラは、
面歪観察用の撮影手段とマクロ形状測定用の撮像手段とを異なるテレビカメラで構成し、マクロ形状補正において必要とされる測定対象表面各点ごとの面歪情報とマクロ形状情報との対応づけには、測定対象表面の各点の面歪観察用テレビカメラ画面上の位置とマクロ形状測定用テレビカメラ画面上の位置との対応づけを行う画面間位置対応づけ手段を備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置。
【請求項8】
複数種の明暗パタンを切替えて表示することが可能なパタン表示工程と、鏡面乃至半鏡面状の測定対象表面上に写る前記パタン表示工程に表示された複数の明暗パタンの鏡像を、撮影する撮影工程と、撮影された複数の明暗パタンの鏡像画像を画像処理して前記測定対象表面の面歪分布を演算する面歪分布演算工程とを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法において、
前記測定対象のマクロ3次元形状を測定するマクロ形状測定工程と、
測定されたマクロ3次元形状に基づいて、演算された面歪分布を補正するマクロ形状補正工程とを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法において、
前記マクロ形状補正工程は、
前記マクロ3次元形状の面歪量への影響を補正する面歪量補正工程と、前記マクロ3次元形状の幾何学的なゆがみへの影響を補正するゆがみ補正工程との、少なくとも一つを備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法において、
補正された前記面歪分布を微分処理することで表面傾きの変化率分布を算出する曲率演算工程を備えたことを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法。
【請求項11】
請求項8乃至請求項10のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法において、
前記マクロ形状測定工程は、
任意のパタンが投影可能なプロジェクタを用いて被測定対象物表面に複数本のスリット光からなるスリットパタンをスリット方向と直交する方向にシフトさせて複数回投影する工程と、
前記プロジェクタを用いてストライプの明暗の組み合わせによりパタン内の位置をコード化するための複数のストライプパタンを投影する工程と、
被測定物表面に投影された光パタンを投影方向とは異なる方向から撮影する工程と、
スリットパタンの複数の投影画像の中から各画素ごとに最大輝度を示す投影画像を選択し、その投影画像に対応するスリットの相対的投光角度を前記各画素の値とする相対投光角度画像を合成し、相対投光角度画像の各画素の値、パタン投影手段および撮像手段の幾何学的関係とから、三角測量の原理に基づいてストライプパタンの最小幅に対応する領域の精密な部分形状を求める工程と、
ストライプパタンの複数枚の投影画像の各画素ごとに前記複数枚の投影画像における明暗変化をコード化してその画素の値とする絶対投光角度画像を合成し、絶対投光角度画像の各画素の値、パタン投影手段および撮像手段の幾何学的関係から、三角測量の原理に基づいて概略の全体形状を求める工程と、
前記精密な部分形状の演算結果と前記概略の全体形状の演算結果とを組み合わせて、被測定対象全体の精密な形状を演算する工程とからなることを特徴とする鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法。
【請求項12】
金属板のプレス成形方法において、プレス成形後の金属板の面歪分布を、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置及び/又は請求項8乃至請求項11のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法を用いて測定することを特徴とする金属板のプレス成形方法。
【請求項13】
プレス成形、部品取付、組み立て、塗装、熱処理、完成品検査のいずれか少なくとも1つの金属板の処理による面歪に由来した表面品質不具合を、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定装置及び/又は請求項8乃至請求項11のいずれか1項に記載の鏡面乃至半鏡面上の面歪の測定方法を用いて検査することを特徴とする金属成品の表面品質検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図16】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2008−224341(P2008−224341A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61242(P2007−61242)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】