説明

面状発熱体およびそれを用いた座席

【課題】面状発熱体に変形が生じても優れた耐久性をもたせたことを目的とする。
【解決手段】柔軟性を有する電気絶縁性基材2と、前記電気絶縁性基材2に取り付けられた主成分が樹脂組成物と導電体とからなる高分子抵抗体4と、前記高分子抵抗体4と電気的に接続された少なくとも1対の線条電極3と、主成分が熱可塑性エラストマーからなる接着層を介して前記高分子抵抗体4上に接合されるとともに、汎用樹脂よりも小弾性率の樹脂からなる柔軟性の電気絶縁性フィルム7とを具備した構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意の面形状を有する器具に装着可能な柔軟性と高い信頼性とを有する面状発熱体およびそれを用いた座席に関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種の面状発熱体は、発熱部がベースポリマーと、導電性物質とを溶媒に分散した抵抗体インクを基材に印刷・乾燥・焼成して作製される抵抗体が用いられている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
そして、導電性物質としてカーボンブラック、金属粉末、グラファイトなどが用いられ、ベースポリマーとして結晶性樹脂が用いられる。このような材料によりこの発熱部はPTC特性を発揮する。
【0004】
具体的には、図8,9に示すように、電気絶縁性の基材101上に一対の櫛形状電極102,103およびPTC特性をもつ高分子抵抗体104を配置するとともに、それらを被覆材105で被覆して面状発熱体106としていた。
【0005】
前記基材101はポリエステルフィルムなどの樹脂で作製され、櫛形状電極102,103がこの基材101上に銀ペーストなどの導電性ペーストを印刷・乾燥して形成されている。
【0006】
高分子抵抗体104は、櫛形状電極102,103により給電される位置に高分子抵抗体インクを印刷・乾燥して形成されている。
【0007】
基材101と同材質の被覆材105は櫛形状電極102,103と高分子抵抗体104を保護するものである。
【0008】
基材101、被覆材105としてポリエステルフィルムを用いる場合、前記被覆材105に、例えば変性ポリエチレンなどの熱融着性樹脂107を予め接着しておく。そして、熱を与えながら加圧する。
【0009】
このようにすることにより、基材101と被覆材105とが熱融着性樹脂107を介して接合される。
【0010】
被覆材105と熱融着性樹脂107とは、櫛形状電極102,103と高分子抵抗体104とを外界から隔離する。そのため、面状発熱体106は長期信頼性が付与される。
【0011】
図10は、被覆材105を貼り合わせる加熱加圧の装置を示し、2つの加熱ロール108,109からなるラミネータ110を用いるのが一般的である。
【0012】
すなわち、櫛状電極102,103と高分子抵抗体104とを予め形成した基材101と、熱融着性樹脂107を予め接着した被覆材105とを供給し、これらを加熱ロール108,109で加熱加圧する。このようにして面状発熱体106が作製される。
【0013】
PTC特性とは、温度上昇によって抵抗値が上昇し、ある温度に達すると抵抗値が急激に増加する抵抗温度特性を意味し、したがって、面状発熱体106が自己温度調節機能を発揮することとなる(例えば、特許文献1参照)。
【0014】
また、非晶質ポリマー、結晶性ポリマー粒子、導電性カーボンブラック、グラファイトおよび無機充填剤からなるPTC組成物を有機溶剤に分散させてインクを作製した後、電極を設けた樹脂フィルム上に印刷して高分子抵抗体を作製し、架橋のための熱処理を行い、高分子抵抗体の保護層として樹脂フィルムを積層した面状発熱体も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0015】
さらに、図11に示すように、柔軟性基材112の上に電極113,114、高分子抵抗体115を印刷方式により順次積層し、さらに、柔軟性被覆層116を覆設するところの面状発熱体117も見受けられる。
【0016】
柔軟性基材112は、ガスバリア性と防水性、高分子抵抗体のインク等の液体を含浸する機能を有しており、長繊維からなるポリエステル不織布とこのポリエステル不織布の表面にポリウレタン系などのホットメルトフィルムを貼り合わせ、面状発熱体117としたものとなっている。
【0017】
一方、柔軟性被覆層116は、ガスバリア性、防水性を有し、電極113,114、高分子抵抗体115の全体を被覆しており、ポリエステル不織布とこのポリエステル不織布の表面にポリエステル系などのホットメルトフィルムを貼り合わせた構成であり、柔軟性基材112と接着されている。
【0018】
したがって、この面状発熱体117は全部で6層構造の構成となっている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭56−13689号公報
【特許文献2】特開平8−120182号公報
【特許文献3】米国特許第7049559号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従来における前者の面状発熱体106には、基材101としてポリエステルフィルムなどの剛直な材料が用いられている。また、基材101の上には印刷された櫛形状電極102,103、高分子抵抗体104および接着層107を有する被覆材105が存在し、所謂、5層構造となっている。
【0021】
そのため、基材101や被覆材105の材質や、その厚さによっては柔軟性に欠ける課題を有していた。すなわち、面状発熱体106を自動車用座席の暖房用ヒータに用いる場合に、着座感が損なわれ、ハンドルヒータに用いる場合には手触り感が損なわれる。
【0022】
また、形状が面状であるため、面の一部に着座などによる荷重が加わった場合、その力が全体に及んで面状発熱体106が変形する。
【0023】
その変形の形状によっては、面状発熱体106の端に近いほど変形量が増え、面の一部に折り皺などが生じる。
【0024】
そして、この折り皺部分で櫛形状電極102,103や高分子抵抗体104に亀裂などが生じ、耐久性が低下する虞がある。
【0025】
また、通気性のないポリエステルシートなどの基材101や被覆材105が用いられているため、自動車用座席やハンドルヒータに用いられた場合に湿気がこもりやすく、長時間使用すると着座感や手触り感が損なわれるものであった。
【0026】
一方、後者の面状発熱体117は、電極113,114、高分子抵抗体115、基材112および被覆層116が柔軟性を有しているため、自動車用座席やハンドルヒータに用いられても着座感や手触り感は良好であるが、面状発熱体117が多層構造で構成されるため、生産性が悪く、結果としてコストが高くなるという課題を有する。
【0027】
また、電極113,114、高分子抵抗体115の全体を被覆している柔軟性被覆層116は、ガスバリア性、防水性を有するが、エンジンオイル、有機溶剤、飲料などの化学物質に対する耐性(以下、耐液性と記す)がなく、化学物質よって高分子抵抗体115が変質し、抵抗値が変化し安定した発熱性能が得られないという課題を有する。
【0028】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、外力が加わっても柔軟性を発揮しやすく、使用感をたかめるとともに、耐久性や信頼性に優れた低コストの面状発熱体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
前記従来の課題を解決するために、本発明の面状発熱体は、柔軟性を有する電気絶縁性基材と、前記電気絶縁性基材に取り付けられた主成分が樹脂組成物と導電体とからなる高分子抵抗体と、前記高分子抵抗体と電気的に接続された少なくとも1対の線条電極と、主成分が熱可塑性エラストマーからなる接着層を介して前記高分子抵抗体上に接合されるとともに、汎用樹脂よりも小弾性率の樹脂からなる柔軟性の電気絶縁性フィルムとを具備した構成としたものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明の面状発熱体は、柔軟性、外力からの対変形応力に優れ、オイルなどの液体の化学物質に対しても高い耐性を発揮させることができるもので、優れた耐久性、信頼性、使用感、手触り感を実現することができるとともに、低コストの面状発熱体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態1における面状発熱体を示す平面図
【図2】図1のX―Y断面図
【図3】実施の形態1における面状発熱体を取りつけた自動車用座席の透視側面図
【図4】同座席の透視正面図
【図5】粒状導電体を用いた場合のPTC発現メカニズムを説明する説明図
【図6】同面状発熱体の作用、効果を示す特性図
【図7】同面状発熱体の特性評価装置の概略図
【図8】従来の面状発熱体の透視平面図
【図9】図8のX−Y断面図
【図10】従来の面状発熱体の作製装置の一例の概略構成を示す断面図
【図11】従来の他の面状発熱体の断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
第1の発明は、柔軟性を有する電気絶縁性基材と、前記電気絶縁性基材に取り付けられた主成分が樹脂組成物と導電体とからなる高分子抵抗体と、前記高分子抵抗体と電気的に接続された少なくとも1対の線条電極と、前記抵抗体上に主成分が熱可塑性エラストマーからなる接着層を介して接合された電気絶縁性フィルムとを有する構成とすることにより
、従来の面状発熱体の5〜6層構成から4層構造とすることができるので柔軟性を発揮しやすくすることができる。したがって、カーシートヒータとして用いた際に外力を受けても容易に変形し、折り皺が原因で起こる高分子抵抗体の亀裂や剥離を防止することができる。
【0033】
また、電気絶縁性フィルムは汎用樹脂よりも弾性率の小さな樹脂で形成しているので、柔軟性が高く、カーシートヒータとして用いた際の着座感を良好に保つとともに、樹脂フィルム同士が摺りあったときの音鳴りを防止することができる。
【0034】
また、面状発熱体は4層の簡素な構成で作製することができるので生産性に優れ、その結果、低コストで生産できる。
【0035】
さらに、電極は線条で構成されているので従来の複雑な櫛形電極とは異なり、簡素な構成とすることができる。したがって、電極材料の低コスト化が図れるとともに、カーシートヒータとして用いた際に外力が加わっても電極の皺の発生が抑制され、電極の破損を防止することができる。
【0036】
加えて、電気絶縁性フィルムを設けることにより、エンジンオイル、有機溶剤、飲料などの液体の化学物質が高分子抵抗体を構成する樹脂と接触した場合に起こる樹脂の膨潤や劣化も抑制することができる。その結果、高分子抵抗体の抵抗値の安定性が確保され、面状発熱体として高い耐久性、信頼性が得られる。
【0037】
第2の発明は、特に、第1の発明の線条電極を、金属導線と金属編組導線の少なくとも1種からなる芯線と、前記芯線の外側に主成分が樹脂組成物と導電体とからなる導電性被覆を有した構成とすることにより、外力が加わっても導電性被覆により芯線の屈曲や圧力を緩和するので、電極の破損を防止し、耐久性の優れた電極を得ることができる。
【0038】
第3の発明は、特に、第1の発明の柔軟性の電気絶縁性フィルムの弾性率を500MPa以下とすることによりカーシートヒータとして用いた際の着座感を良好に保つとともに、樹脂フィルム同士が摺りあったときの音鳴りを防止することができる。
第4の発明は、特に、第1または第3のいずれか1つの発明の面状発熱体の柔軟性の電気絶縁性フィルムを植物由来成分を含むポリマーアロイで構成することにより、面状発熱体が不要になり、廃棄する場合に環境負荷を低減することができる。
【0039】
第5の発明は、特に、第1の発明の接着層が、(1)ガスの炎で電気絶縁性フィルムの端面をあぶり、60秒後に前記ガスの炎を消すと、電気絶縁性フィルムは焦げても電気絶縁性フィルム自体は燃えない、(2)ガスの炎で電気絶縁性フィルムの端面をあぶり、電気絶縁性フィルムに一旦火がついても60秒以内、しかも2インチ以内で消火する、(3)ガスの炎で電気絶縁性フィルムの端面をあぶり、電気絶縁性フィルムに着火しても表面から厚さ1/2インチの領域で、炎が4インチ/分以上の速度で進行しない、という条件の少なくとも1つを満たす難燃性を付与する難燃剤をさらに含むことにより、面状発熱体の難燃性を向上させることができ、ヒータや応用商品の安全性を高めることができる。
【0040】
第6の発明は、特に、第5の発明の難燃剤を常温で液状、または混練温度で融解する融点を有するものであって、リン系、窒素系、シリコーン系化合物の少なくとも1種を用いることにより、電気絶縁性基材や高分子抵抗体の有する柔軟性を損なうことなく、難燃性を付与することができ、面状発熱体およびその応用商品の安全性を高めることができるとともに、面状発熱体としての機械的な耐久性、信頼性が確保される。
【0041】
第7の発明は、第1〜第7のいずれかの1つの発明の面状発熱体を座席の暖房用熱源と
して搭載したものであり、具体的には、第8の発明のように、座部および背もたれの少なくとも一方に電気絶縁性基材が表面側になるように配置した構成とすることにより、発熱面を直接座面に接触させることにより座面の温度を速やかに上昇させるとともに、接着層に難燃性を付与した場合、燃焼時における延焼が阻止でき、安全性の高い座席が得られることとなる。
【0042】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0043】
(実施の形態1)
図1,2において、面状発熱体1は、電気絶縁性基材2と、第1,第2線条電極3a,3b、および高分子抵抗体4とからなる。なお、線条電極をまとめて線条電極3として説明する場合がある。
【0044】
線条電極3a,3bは電気絶縁性基材2上にそれぞれが左右対称になるように配置され、糸で部分的に縫い付けられており、金属導線または金属編組導線からなる芯線5の外周に主成分が樹脂組成物と導電体とからなる導電性被覆6を有している。
【0045】
高分子抵抗体4は線条電極3が配置された電気絶縁性基材2上に、例えばTダイ押し出し法によりフィルム状に押し出して形成されている。
【0046】
電気絶縁性フィルム7は高分子抵抗体4を覆うように主成分が熱可塑性エラストマーからなる接着層8を介して設けられており、例えばTダイ押し出し法により主成分が熱可塑性エラストマーからなる接着層8をフィルム状に押し出して貼り合わせてシート状に成形したものを熱融着によって線条電極3、電気絶縁性基材2に張り合わせている。
【0047】
面状発熱体1の中央部は、線条電極3、および電気絶縁性基材2に高分子抵抗体4が熱融着された後に打ち抜かれている。
【0048】
なお、線条電極3a,3bに電源からの電力を供給するためのリード線は図示していない。
【0049】
また、中央部の打ち抜きはこの場所に限定されず、例えば、座席の表皮の材料や形状によりこれ以外の場所に設けてもよい。この場合、線条電極3の配線パターンを変更する。
【0050】
図3,4は前記した面状発熱体1を取りつけた自動車の座席を示している。
【0051】
面状発熱体1は、暖房用ヒータとして自動車の座席である座部9や、背もたれ10に取り付けて使用される。座部9や背もたれ10には座席基材11と表皮12が用いられている。
【0052】
ウレタンパットなどの座席基材11は、座席に腰掛けた人体による荷重がかかった時に変形し、荷重がかからなくなると形状が復元する。
【0053】
表皮12は座席基材11を覆っている。すなわち、面状発熱体1は座席基材11に電気絶縁性基材2側を、表皮13に電気絶縁性フィルム7側を位置させて取り付けられる。
【0054】
なお、座部9や背もたれ10の吊り込み部(図示せず)に対応するために、中央部や周縁部に吊り込むための電気絶縁性基材2の延長部(図示せず)が設けられている場合がある。
【0055】
このように薄い面状発熱体1は変形可能な座席基材11と表皮12に沿って配置されている。そのため、面状発熱体1も座部9や背もたれ10の変形に対応して相似の変形をしなければならない。故に、種々の発熱パターンを設計し、そのための線条電極3の配置形状を変更する必要がある。ここではその詳細は省略する。
【0056】
相対向するように配置された幅の広い1対の線条電極3は、面状発熱体1の長手方向の外側部沿って配設されている。
【0057】
線条電極3に重なるように配設された高分子抵抗体4に線条電極3より給電することで、電流が流れて発熱する。
【0058】
高分子抵抗体4はPTC特性を有し、温度が上昇すると抵抗値が上昇して、所定の温度になるように自己温度調節機能を有する。すなわち、高分子抵抗体4は面状発熱体1に安全性が高く温度コントロールを不要とする機能を付与する。
【0059】
高分子抵抗体4のPTC発現メカニズムは以下のように推察される。
【0060】
図5は、PTC発現メカニズムを説明するためのもので、(a)、(b)はカーボンブラックのような粒状導電体13を用いた場合を示し、(c)、(d)は繊維状導電体14を用いた場合を示している。そして、(a)、(c)の状態から温度が上昇した状態がそれぞれ(b)、(d)である。
【0061】
導電体としてカーボンブラックのような粒状導電体13を用いた高分子抵抗体4では、(a)のように粒状導電体13は1次粒子の集合体構造を有し、樹脂組成物15の中で粒と粒との点接触した状態の導電パスを形成している。
【0062】
線状電極3a,3b間に電流を印加すると、(b)に示すように粒状導電体13の導電パスにより高分子抵抗体4が発熱し、樹脂組成物15の比容積が変化することにより敏感に導電パスの切断が起こる。
【0063】
このようにして急激な抵抗値上昇を有する正の抵抗温度特性が発現される。
【0064】
一方、導電体として繊維状導電体14を用いた高分子抵抗体4では、(c)に示すようにカーボンブラックのような1次粒子の集合体構造はないが、繊維状導電体14の長手方向に重なり合って状態で導電パスを形成している。
【0065】
この構造においても、線状電極3a,3b間に電流を印加すると繊維状導電体14の導電パスにより高分子抵抗体4が発熱し、樹脂組成物15の比容積が変化することにより、(d)に示すように敏感に導電パスの切断が起こる。このようにして急激な抵抗値上昇を有する正の抵抗温度特性が発現される。
【0066】
本実施の形態の高分子抵抗体4は上述のどちらのタイプでも適用することができる。
【0067】
用いられる導電体としては、粒状導電体13であれば、上述のカーボンブラックが挙げられ、繊維状導電体14であれば、酸化チタンに錫メッキしてアンチモンドープした導電性セラミック繊維、チタン酸カリウム系の導電性セラミックウィスカ、銅やアルミニウムなどの金属繊維、表面に導電層が形成された金属メッキガラス繊維、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、さらにはポリアニリンなどからなる繊維状の導電性ポリマーが挙げられる。
【0068】
また、繊維状導電体14の代わりにフレーク状導電体を用いてもよい。フレーク状導電体としては、表面に導電層が形成されたマイカフレークなどのセラミックフレーク、銅やアルミニウムなどの金属フレーク、さらには鱗片状黒鉛が挙げられる。
【0069】
上述の導電体は、単独でも2種以上の混合でも用いることが可能で目標とするPTC特性に応じて適宜選択される。
【0070】
高分子抵抗体4の樹脂組成物15は、PTC特性の経時変化を抑制し、安定したPTC特性を再現するために、PTCを発現する被反応樹脂としてカルボキシル基を有する変性ポリエチレンと被反応樹脂と反応する反応性樹脂としてエポキシ基を有する変性ポリエチレンとを混成したものがよい。
【0071】
これは、被反応性樹脂の持つカルボニル基が反応性樹脂の持つエポキシ基の酸素と反応して化学結合し、架橋された構造を有することに起因している。
【0072】
この架橋反応により、被反応性樹脂単独の場合に比べ、熱的安定性を高めることができ、その結果、樹脂組成物15中での導電体の導電パスの形成、切断する温度が安定する。
【0073】
この架橋反応は、酸素以外に窒素を介しても起こり得るものである。酸素と窒素の少なくともいずれかを含む官能基を有する反応性樹脂と、これら官能基と反応が可能な官能基を有する被反応性樹脂の組合せであれば架橋反応が起こることになり、樹脂組成物15を構成する反応性樹脂の反応性官能基と被反応樹脂の官能基との組み合わせとしては、上述のエポキシ基とカルボニル基以外に以下のものがある。
【0074】
エポキシ基は、上述のカルボン酸のカルボニル基以外に無水マレイン酸基などのカルボニル基、エステル基、水酸基、アミノ基、ビニル基と反応して付加重合する。
【0075】
これらの官能基を有する被反応樹脂を用いればよい。また、反応性樹脂の官能基としてはエポキシ基以外にオキサゾリン基や無水マレイン酸基を有する反応性樹脂を用いることもできる。
【0076】
このように樹脂組成物15は酸素と窒素との少なくともいずれかを介して架橋された構造を有する。
【0077】
樹脂組成物15が反応性樹脂とPTC特性を発現する被反応性樹脂とを含むことにより、反応性樹脂の接着力と結合力により導電体が捕捉され、さらに反応性樹脂と被反応性樹脂との結合力により、繊維状導電体14による導電パスが安定化する。
【0078】
自動車用座席に用いられるヒータのように発熱温度が40〜50℃と比較的低い場合には、PTC特性を発現する被反応樹脂として、低融点の樹脂である変性オレフィン系樹脂、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸エチル共重合体、エチレンメタクリル酸メチル共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、エチレンアクリル酸ブチル等のエステル系のエチレンコポリマーを用いることが好ましい。
【0079】
上述の樹脂組成物15の被反応性樹脂と反応性樹脂は、それぞれ単独でも複合でも用いることが可能で目標値するPTC特性に応じて適宜選択される。
【0080】
また、それ以外に、PTC特性の経時変化の許容範囲に応じて、反応性樹脂、被反応性樹脂単独でも用いることも可能である。
【0081】
また、樹脂組成物15の架橋反応は反応性樹脂を用いたが、反応性樹脂とは異なる架橋剤を用いることもできる。さらに、電子線などの架橋手段を用いることもできる。その場合は、上述の官能基を持たない被反応性樹脂が適用可能であり、また、反応性樹脂を用いる必要はない。
【0082】
また、自動車用座席に組み込まれるヒータとして、面状発熱体1は着座感を満足することができる。
【0083】
着座感は、紙のような音鳴り感がなく、座席表皮材と同等の伸び特性、すなわち5%の伸びに対して7kgf以下の荷重であることで満足できる。
【0084】
また、PTC特性のない発熱体に比べて、PTC特性を有する面状発熱体1は速熱性と省エネ性とを発揮することができる。
【0085】
PTC特性のない発熱体は、温度制御器を必要し、温度制御器はオン−オフ(ON−OFF)制御で通電を制御して発熱温度を制御している。
【0086】
特に、線条発熱線を用いたPTC特性のない発熱体の場合、線条発熱線間の低温部を回避するため、ON時の発熱体温度を約80℃まで上昇させており、表皮12とはある程度の距離をおいて配置する必要がある。
【0087】
これに対し本実施の形態の面状発熱体1では、発熱体温度が40℃〜45℃の範囲に自己制御される。そのため、表皮12の近傍に近接して配置することができる。
【0088】
面状発熱体1は発熱体温度が低く、表皮12の近傍に配置されることより、速熱性と外部への放熱ロスを低減できる。そのため省エネルギー性を実現できる。
【0089】
上述したように、本実施の形態の面状発熱体1は、従来の面状発熱体が基材と電極と高分子抵抗体と熱融着性樹脂と被覆材との5〜6層構造で構成されているのに対して、電気絶縁性基材2と高分子抵抗体4と1対の線条電極3と電気絶縁性フィルム7との4層構造で構成している。
【0090】
この簡素な構成により、外力が加わってもその外力の規制が少なくなるので柔軟性を発揮しやすくなる。
【0091】
したがって、自動車用座席のヒータとして用いた際に外力を受けても柔軟性が高いので容易に変形し、従来のように折り皺が原因で起こる高分子抵抗体の亀裂や剥離が防止される。
【0092】
また、面状発熱体1は4層の簡素な構成で作製することができるので生産性に優れ、かつ面状発熱体1を構成する材料費が少なくなる。その結果、低コストで生産できる。
【0093】
また、電極3は線条で構成されているので従来の複雑な櫛形電極とは異なり、簡素な構成とすることができる。
【0094】
したがって、電極材料の低コスト化が図れるとともに、カーシートヒータとして用いた際に外力が加わっても電極の皺の発生が抑制され、電極の破損を防止することができ、耐久性に優れた面状発熱体1が得られる。
【0095】
電気絶縁性基材2は、例えばポリエステル繊維で作製されたニードルパンチタイプの不織布が用いられる。これ以外にポリエステル織布を用いてもよい。これらの電気絶縁性基材2は、面状発熱体1に柔軟性を付与し、外力が加わっても容易に変形して自動車用座席のヒータとして用いた際の着座感を向上させる。
【0096】
特に、線条電極3を縫製により取り付ける場合は、縫製による電気絶縁性基材2の針孔から発生する亀裂の防止や柔軟性の点で上記の不織布、織布が最適である。
【0097】
また、電気絶縁性フィルム7は表皮12側に設けられているので座席にエンジンオイル、有機溶剤、飲料などが誤ってこぼされた場合でも、液体の化学物質が高分子抵抗体を構成する樹脂と接触した場合に起こる樹脂の膨潤や劣化を抑制することができる。
【0098】
その結果、高分子抵抗体の抵抗値の安定性が確保され、面状発熱体として高い耐久性、信頼性が得られる。
【0099】
耐液性とは、無極性オイルであるエンジンオイルや極性オイルであるブレーキオイル等のオイル類や、低分子溶剤であるシンナーなどの有機溶剤等の液体の化学物質が接触した時の抵抗値安定性が高いことを意味している。
【0100】
上述の液体の化学物質が高分子抵抗体4と接触すると、その樹脂組成物は容易に膨潤して比容積が変化し、導電体の導電パスが切断されて抵抗値が上昇する傾向を示す。
【0101】
この現象は熱による比容積の変化(PTC特性)と同様である。しかしながら、高分子抵抗体4の樹脂組成物が液体の化学物質で膨潤した場合、初期の抵抗値に回復しないか、あるいは回復に時間を要し、発熱性能が低下する。
【0102】
電気絶縁性フィルム7はこれを防止するために設けられている。液体の化学物質が浸透してくる方向が電気絶縁基材2側となるように面状発熱体1を配置することにより、電気絶縁性基材2に貼り付けている電気絶縁性フィルム7が液体の化学物質と接触を防止し、その結果、高分子抵抗体4の抵抗値の安定性が確保され、面状発熱体1として高い耐久性、信頼性が得られる。
【0103】
電気絶縁性フィルム7の膜厚は、面状発熱体1の柔軟性の点から薄い方が好ましいが、耐液性の性能確保の点から5〜100μmの範囲で使用される。
【0104】
さらに、生産性、コストを考慮すると10〜50μmが好ましい。
【0105】
電気絶縁性フィルム7を設けた面状発熱体1と電気絶縁性フィルムのない面状発熱体に、上述の液体の化学物質を滴下して24時間後に通電を24時間行い、その後室温に24時間放置した場合の試験前後の抵抗値は、電気絶縁性フィルム7のない面状発熱体は200〜300倍増加したのに対し、電気絶縁性フィルム7を設けた面状発熱体1はいずれの液体の化学物質においても1.3〜2倍の増加であり、良好な結果を得た。
【0106】
この結果より、電気絶縁性フィルム7を設けることにより、エンジンオイル、有機溶剤、飲料などの液体の化学物質による高分子抵抗体4を構成する樹脂組成物の膨潤を抑制していることがわかる。
【0107】
これにより、高分子抵抗体4の抵抗値の安定性が確保され、面状発熱体1として高い耐久性、信頼性が得られる。
【0108】
電気絶縁性フィルム7の材料としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマーを単独もしくは組み合わせて用いることができるが、これらの汎用樹脂は、弾性率が1000MPa以上と高く、着座感を良好に保つためには、5〜20μmの薄いフィルムが好ましい。
【0109】
しかし、この程度に薄くても、樹脂フィルム同士が擦れ合うときに生じる音鳴りは完全には抑制できない。
【0110】
また、樹脂フィルムは薄くなりすぎると、取り扱いが難しくなる。
【0111】
着座感や、音鳴りを防止は、電気絶縁性フィルム7として上記汎用樹脂よりも弾性率の小さな樹脂を適用することで実現することができる。
【0112】
弾性率が約500MPa以下であれば着座感や、音鳴り防止を満足することができ、これを実現する材料としては軟質PVCやポリアロイ樹脂フィルムが利用できる。
【0113】
特に、ポリアロイ樹脂フィルムとして東レ(株)のナノアロイフィルムは好適である。ナノアロイフィルムは弾性率が100〜200MPaと小さく、フィルム厚さが100μmでも着座感は良好であり、音鳴りも見られなかった。
【0114】
面状発熱体1は電気絶縁性基材2、線条電極3、高分子抵抗体4、接着層8、電気絶縁性フィルム7の積層一体構成であり、面状発熱体1が不要になった場合は、分解不可能で廃棄することになる。
【0115】
この点から、軟質PVCは使用しにくい。ナノアロイフィルムは植物由来成分を含むポリエステル系ポリマーアロイであり、廃棄時の環境負荷を低減することができる。
【0116】
自動車用座席に用いられるヒータは米国自動車用内装材難燃規格FMVSS302規格の難燃性を満足する必要があり、具体的には以下の条件のいずれかを満たせば難燃性が実現可能となる。
【0117】
(1)ガスの炎で試験品の端面をあぶり、60秒後に前記ガスの炎を消すと、高分子抵抗体4は焦げても試験品自体は燃えない。
【0118】
(2)ガスの炎で試験品の端面をあぶり、試験品に一旦火がついても60秒以内、しかも2インチ以内で消火する。
【0119】
(3)ガスの炎で試験品の端面をあぶり、試験品に着火しても表面から厚さ1/2インチの領域で、炎が4インチ/分以上の速度で進行しない。
【0120】
以上の難燃性は、電気絶縁性基材2、高分子抵抗体4や導電性被覆7、接着層8に付与することが望ましく、これは難燃剤を含有させることで実現できる。
【0121】
難燃剤としては、リン酸アンモニウムやトリクレジルホスフェートなどのリン系難燃剤や、メラミン、グアニジン、グアニル尿素などの窒素系難燃剤や、シリコーン系化合物の単独あるいはこれらの組み合わせで用いることができる。
【0122】
また、水酸化マグネシウムや三酸化アンチモンなどの無機系難燃剤や臭素系や塩素系などのハロゲン系難燃剤を用いることができる。
【0123】
これらの難燃剤を高分子抵抗体4や導電性被覆7、電気絶縁性基材2に含有させることにより、上述の難燃性の条件が満たされ、面状発熱体1として優れた難燃性が実現するため、自動車用座席のヒータなどの面状発熱体1やその応用商品の安全性を高めることができる。
【0124】
また、難燃剤は、特に、常温で液状、または混練温度で融解する融点を有するものがよく、リン系、窒素系、シリコーン系化合物の少なくとも1種を用いることにより、樹脂組成物33の柔軟性を高くすることができ、その結果、高分子抵抗体4も柔軟性を向上させることができる。
【0125】
これにより、電気絶縁性基材2の有する柔軟性を損なうことがなく、難燃性を付与することができ、面状発熱体1としての機械的な耐久性、信頼性が確保される。
【0126】
難燃剤の添加量は導電性被覆7の組成全体で決定される。難燃剤が少なくなると難燃性が劣り、上述の難燃性の条件を満足しない。その点から、難燃剤の添加量は高分子抵抗体5の組成物に対して、5重量%以上であればよい。
【0127】
しかしながら、難燃剤の添加量が多くなると、樹脂組成物14と導電体の組成バランスが悪くなり、導高分子抵抗体4の比抵抗が高くなることやPTC特性が悪くなるため、好ましくは10〜30重量%、最良は15〜25重量%の範囲である。
【0128】
また、電極3は線条で構成されているので従来の複雑な櫛形電極とは異なり、簡素な構成とすることができる。したがって、電極材料の低コスト化が図れるとともに、自動車用座席のヒータとして使用した際に外力が加わっても電極3の皺の発生が抑制され、その破損を防止することができ、耐久性に優れた面状発熱体1が得られる。
【0129】
線条電極3は、金属導線と金属編組導線の少なくとも1種で構成される。これらの材料は、電気基材絶縁性2への縫製加工が容易であり、生産性が高い。また、金属導線、金属編組導線の材質、形状の選択範囲が広がる。また、金属導線、金属編組導線は可撓性に優れ、かつ機械的強度が高いので面状発熱体の伸び、屈曲、変形などを繰り返しても長期にわたり耐え得る。
【0130】
線条電極3の抵抗はできるだけ低く、線条電極3での電圧ドロップが小さいことが好ましい。
【0131】
線条電極3は、面状発熱体1に印加する電圧の電圧ドロップが1V以下となる抵抗値が適しており、抵抗値で表現すれば1Ω/m以下がよい。
【0132】
また、線条電極3の線径は、大きいと面状発熱体1に凹凸が形成され、着座感が損なわれるため、直径1mm以下が好ましく、さらに、より快適な着座感を実現するには直径0.5mm以下がよい。
【0133】
この抵抗値を実現する材料は、銅、錫メッキを施した銅、銅−銀合金の単線、撚り線、編組線が挙げられる。特に、機械的強度の点では引っ張り強度の高い銅−銀のそれらを用いることが好ましい。
【0134】
線条電極3は、主成分が樹脂組成物と導電体とからなる導電性被覆6を有している。樹脂組成物としては、高分子抵抗体4と同様、変性オレフィン系樹脂、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸エチル共重合体、エチレンメタクリル酸メチル共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、エチレンアクリル酸ブチル等のエステル系のエチ
レンコポリマーや上述した反応性樹脂と、それぞれ単独もしくは複合でも用いることが可能である。
【0135】
また、導電性を付与する導電体としては、カーボンブラック、グラファイト、酸化チタンに錫メッキしてアンチモンドープした導電性セラミック繊維、チタン酸カリウム系の導電性セラミックウィスカ、銅やアルミニウムなどの金属繊維、表面に導電層が形成された金属メッキガラス繊維、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、さらにはポリアニリンなどからなる繊維状の導電性ポリマー、表面に導電層が形成されたマイカフレークなどのセラミックフレーク、銅やアルミニウムなどの金属フレーク、さらには鱗片状黒鉛などを用いることができる。
【0136】
線条電極3は、電気絶縁性基材2にミシン等で縫製されて取り付けられる。この方法で作製された構成によると、線条電極3は、電気絶縁性基材2に強固な固定と電気絶縁性基材2の変形に追従した変形が可能となり、機械的信頼性が向上する。
【0137】
また、電気絶縁性基材2への縫製は、糸によって行われるので電極材料や形状の選択範囲が広がる。
【0138】
さらに、線条電極3は、従来の複雑な櫛形電極とは異なり、少なくとも直線状の1対の形状の簡素な構成とすることができるので材料費が廉価で低コスト化が図れる。
【0139】
また、自動車用座席のヒータとして用いた際に外力が加わっても線条電極3の皺の発生が抑制され、電極の破損が防止される。
【0140】
また、線条電極3に導電性被覆を有した構成とすることにより、外力加えられた場合、特に屈曲などの過酷なストレスが加えられても線条電極3を保護し、その断線を防止することができる。
【0141】
さらに、電気絶縁性フィルム7は線条電極3、高分子抵抗体4覆うように設けられているので、線条電極3、高分子抵抗体4の保護効果を高めることができる。
【0142】
特に、図3,4に示すように面状発熱体1が自動車用座席に用いられた場合などは、人の荷重による強いストレスがかかるため線条電極3の耐久性が必要となってくる。
【0143】
図6は線条電極3の屈曲に対する耐久性を評価した結果である。図7に示すようにヘッド16と台17との間に線条電極3を縫製した電気絶縁性基材2を設置し、電気絶縁性基材2の両端を固定してヘッド16を上下させて180°屈曲させ、線条電極3の抵抗値の変化から耐久性を評価した。
【0144】
図6において、抵抗値の変化率の増加は、線条電極の断線が進行していることを示す。線条電極は直径0.06mmの素線19本の撚り線のみの場合(A)と、同撚り線に導電性被覆6を設けた場合(B)について評価した。撚り線のみの場合(A)は屈曲回数約2000回程度で抵抗値が増大しているのに対し、撚り線に導電性被覆6を設けた場合(B)は約10000回まで変化が無く、導電性被覆6によって屈曲に対する耐久性が大幅に改善されている。
【0145】
さらに、電気絶縁性基材2、導電性被覆6を設けた線条電極3、高分子抵抗体4上に接着層8を介して電気絶縁性フィルム7を設けた(C)の場合では、30000回以上まで変化が無く、屈曲に対する耐久性がさらに改善されている。
【0146】
ここで、電気絶縁性フィルム7として厚さ50μmの東レ(株)製ナノアロイフィルムを用いた。図5に示すように、面状発熱体1がカーシートとして用いられた場合などは、電気絶縁性フィルム7によって人の荷重による屈曲などの過酷なストレスが加えられても線条電極3を保護し、線条電極3の断線を防止することができる。
【0147】
さらに、電気絶縁性フィルム7によって面状発熱体1表面に電気絶縁性を付与することができ、安全性がさらに向上する。
【0148】
電気絶縁性基材2は、例えばポリエステル繊維で作製されたニードルパンチタイプの不織布が用いられる。これ以外にポリエステル織布を用いてもよい。
【0149】
これらの電気絶縁性基材2は、面状発熱体1に柔軟性を付与し、外力が加わっても容易に変形して自動車用座席のヒータとして用いた際の着座感を向上させる。特に、線条電極3を縫製により取り付ける場合は、縫製による電気絶縁性基材2の針孔から発生する亀裂の防止や柔軟性の点で上記の不織布、織布が最適である。
【0150】
次に、面状発熱体1の作製方法について一例を述べる。
【0151】
先ず、ポリエステル繊維の不織布からなる電気絶縁性基材2に直径0.06μmの銅―銀合金線19本を撚り線化したものを用い、ポリエステルの糸でミシンで縫製し、線条電極3を形成する。この時の1対の線条電極3の電極間距離は100mmとしている。
【0152】
次に、PTC特性を発現する被反応樹脂と耐液性樹脂と導電体とから混練物Aを作製し、反応性樹脂と難燃剤とからなる混練物Bを作製する。
【0153】
そして、両者をさらに混練混合して押出装置に連結されたTダイまたは熱ロールより押し出してフィルム状に成型する。このようにして高分子抵抗体4が作製される。
【0154】
混練物A、混練物B、両者の混練は、熱ロール、ニーダー、2軸混練機などの装置で行われる。
【0155】
高分子抵抗体4の厚みは、特に限定されるものではないが、柔軟性、材料コスト、適正な抵抗値、加重が加わった時の強さの点で20〜200μmが適切であり、望ましくは30〜100μmがよい。
【0156】
次に、フィルム状に成型され、押し出された高分子抵抗体4は、予め作製された線条電極3を取り付けた電気絶縁性基材2の線条電極3の存在する面と貼り合わされる。
【0157】
次に、接着層8の材料のペレットを押出装置に連結されたTダイより押し出して電気絶縁性フィルム7上に熱融着により成形したフィルムと張り合わせて面状発熱体1が完成する。
【0158】
このように熱融着により線条電極3と高分子抵抗体4、電気絶縁性フィルム7と高分子抵抗体4とがそれぞれ接合されている。
【0159】
結果として、線条電極3は電気絶縁性フィルム7と高分子抵抗体4との間に電気的に接続された状態で配置されている。
【0160】
高分子抵抗体4は、柔軟性のあるシートまたはフィルムとすることにより、面状発熱体1に外力が加わっても電気絶縁性基材2と同様に高分子抵抗体4自体が外力に応じて伸び
や変形を起こすので高分子抵抗体4の亀裂や破断などの破損が防止され、優れた耐久性を実現する。
【0161】
また、高分子抵抗体4をシートまたはフィルム状に形成することにより、印刷膜の高分子抵抗体よりもその膜厚を厚くすることができ、線条電極3との電気的接続および機械的接合の信頼性が高くなる。
【0162】
また、高分子抵抗体4は、電気絶縁性基材2よりも伸びが同等かそれ以上とすることが好ましい。
【0163】
高分子抵抗体4の伸びを電気絶縁性基材2と同等かそれ以上とすることにより、機械的強度の強い電気絶縁性基材2が外力による伸びや変形を規制することができるのでより優れた耐久性、信頼性が得られる。
【0164】
さらに、高分子抵抗体4を線条電極3に熱融着することにより、線条電極3の周囲に高分子抵抗体4の材料が移行し、線条電極3と高分子抵抗体4は点接着ではなく、面接着とすることができる。
【0165】
その結果、線条電極3と高分子抵抗体4の機械的接合と電気的接続が強固になり、面状発熱体1として電気的、機械的に安定したものが得られる。
【0166】
以上のように構成された面状発熱体1は、座部9や背もたれ10に、電気絶縁性基材2が表面側になるように配置して用いることが好適である。
【0167】
すなわち、電気絶縁性基材2によるクッション性で線条電極3の厚みや固さによる凹凸間が座面で感じられず、着座感や背もたれ感を損なうことがない。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明による面状発熱体は、構成が簡単で、外力による変形に容易に馴染む柔軟性を有する。この面状発熱体は、例えば連続した曲面や平面の組み合わせ等のある器具の表面形状に装着可能であるため、暖房用ヒータとして自動車の座席、ハンドル、その他の暖房を必要とする電気床暖房などの器具に適用できる。また、生産性に優れ低コストが図れるので応用商品の適用範囲が拡大される。
【符号の説明】
【0169】
1 面状発熱体
2 電気絶縁性基材
3 線条電極
4 高分子抵抗体
5 芯線
6 導電性被覆
7 電気絶縁性フィルム
8 接着層
9 座部
10 背もたれ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有する電気絶縁性基材と、前記電気絶縁性基材に取り付けられた主成分が樹脂組成物と導電体とからなる高分子抵抗体と、前記高分子抵抗体と電気的に接続された少なくとも1対の線条電極と、主成分が熱可塑性エラストマーからなる接着層を介して前記高分子抵抗体上に接合されるとともに、汎用樹脂よりも小弾性率の樹脂からなる柔軟性の電気絶縁性フィルムとを具備した面状発熱体。
【請求項2】
線条電極は、金属導線と金属編組導線の少なくとも1種からなる芯線の外側に主成分が樹脂組成物と導電体とからなる導電性被覆を覆設して構成した請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項3】
電気絶縁性フィルムの弾性率を500MPa以下に設定した請求項1記載の面状発熱体。
【請求項4】
電気絶縁性フィルムは、植物由来成分を含むポリマーアロイからなる請求項1または3記載の面状発熱体。
【請求項5】
接着層は、以下の条件の少なくとも1つを満たす難燃特性の難燃剤を有する請求項1記載の面状発熱体。
(1)ガスの炎で前記接着層の端面をあぶり、60秒後に前記ガスの炎を消すと、前記接着層は焦げても前記電気絶縁性基材自体は燃えない。
(2)ガスの炎で前記接着層の端面をあぶり、前記接着層に一旦火がついても60秒以内、しかも2インチ以内で消火する。
(3)ガスの炎で前記接着層の端面をあぶり、前記接着層に着火しても表面から厚さ1/2インチの領域で、炎が4インチ/分以上の速度で進行しない。
【請求項6】
難燃剤は、常温で液状、または混練温度で融解する融点を有するものであって、リン系、窒素系、シリコーン系化合物の少なくとも1種からなる請求項5記載の面状発熱体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の面状発熱体を暖房用熱源として装着した座席。
【請求項8】
座部および背もたれの少なくとも一方に電気絶縁性基材が表面側になるように面状発熱体を配置した請求項7記載の座席。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−3330(P2011−3330A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143862(P2009−143862)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】