説明

面発光半導体レーザ及びその製造方法

【課題】生産性を低下させることなく、正確に制御された電流狭窄層を備えた面発光レーザ装置を実現できるようにする。
【解決手段】面発光半導体レーザ装置は、基板11の上に下側から順次形成された第1反射鏡12と、活性層13と、アルミニウムを含む材料からなる電流狭窄層16と、第2反射鏡17とを備えている。電流狭窄層16は、導電性部16Aと、導電性部16Aの周囲に形成された酸化層である高抵抗部16Bと、導電性部16Aと高抵抗部16Bとの界面領域に形成され、他の領域と比べて不純物が高濃度に導入された高濃度不純物領域19とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直共振器型の面発光半導体レーザ装置に関し、特に選択酸化法により形成した電流狭窄層を有する面発光半導体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、端面発光半導体レーザ装置と比較して動作電流の低減、集積度の向上及びコストの低減が期待される垂直共振器型の面発光半導体レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)装置の開発が進んでいる。特に、波長が850nmの砒化ガリウム(GaAs)系化合物半導体材料を用いた面発光半導体レーザ装置は、ギガビットのデータ通信等の短距離で高速且つ大容量の光通信用又は光インターコネクション用に研究開発が進められ、商品化されつつある。
【0003】
面発光半導体レーザ装置は、多層膜からなる高反射率の反射鏡により、発光領域となる量子井戸活性層が上下から挟み込まれた構造を採用している。面発光半導体レーザ装置において、発振閾値電流密度の低減による電流効率の向上及び高速での変調を実現するためには、電流の経路を制限する電流狭窄構造を設ける必要がある。
【0004】
面発光半導体レーザの電流狭窄構造を形成する方法として、量子井戸活性層の近傍に設けたアルミニウム(Al)組成比が高いAlGaAs層を選択的に酸化して高抵抗領域を形成する選択酸化法がある。選択酸化法は、発振閾値電流密度等のレーザ特性において、他の電流狭窄方法と比べて優位性を有しており、有力な電流狭窄技術として主流化しつつある。
【0005】
しかし、Al組成比が高いAlGaAs層を成長させる際に生じるわずかな厚さのばらつき及びAl組成比のばらつき並びにわずかな酸化条件の変動により、AlGaAs層の酸化制御性が大きく変化し、高抵抗領域のサイズがばらついてしまう。高抵抗領域のわずかなサイズのばらつきが、レーザの特性を大きく変化させるため、電流狭窄構造を再現性良く、高精度に形成するための酸化制御が必要とされる(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0006】
電流狭窄構造を高精度に形成するための方法として、酸化モニタ領域を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。図7に示すように、基板の上に面発光半導体レーザ装置となるポスト部100と共に、ポスト部100よりも径が小さいモニタ用のポスト部110A及びポスト部110Bを形成する。電流狭窄層となるAl組成比が高いAlGaAs層106を酸化雰囲気において酸化する際に、ポスト部100、ポスト部110A及びポスト部110Bの反射率を連続的に測定する。AlGaAs層106が酸化されるに従い反射率が変化し、完全に酸化されると反射率は変化しなくなる。このため、反射率の変化をモニタすることにより、モニタ用にメサ部110A及びポスト部110Bが完全に酸化されるまでの時間を検出することができる。得られた時間を元に、AlGaAs層106の正確な酸化レートか算出できるため、ポスト部100に電流狭窄層を再現性良く高精度に形成することができる。
【非特許文献1】Carl Wilmsen, 他,"Vertical-Cavity Surface-Emitting Lasers", Cambridge University Press, 1999年, p.193〜232
【特許文献1】特開2004−95934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の電流狭窄層の形成方法は、面発光光半導体レーザ装置となる部分とは別に酸化状態をモニタするための領域を形成する必要があるため、ウェハあたりの面発光光半導体レーザ装置の生産数が低下する。このため、面発光光半導体レーザ装置の製造コストが上昇するという問題がある。
【0008】
また、酸化工程において、屈折率を連続的に測定する必要があるため、製造装置が複雑になると共に、工程のスループットが低下してしまうという問題もある。
【0009】
本発明は、前記従来の問題を解決し、生産性を低下させることなく、正確に制御された電流狭窄層を備えた面発光レーザ装置を実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明は面発光半導体レーザ装置を、電流狭窄層における導電性部の高抵抗部との界面領域に高濃度不純物領域が形成された構成とする。
【0011】
本発明に係る面発光半導体レーザ装置は、基板の上に形成された第1反射鏡と、第1反射鏡の上に形成された活性層と、活性層の上に形成され、電流が流れる導電性部と該導電性部の周囲に形成された酸化層である高抵抗部とを含む電流狭窄層と、電流狭窄層の上に形成された第2反射鏡とを備え、導電性部の高抵抗部との界面領域には、他の領域と比べて不純物が高濃度に導入された高濃度不純物領域が形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の面発光半導体レーザ装置によれば、導電性部の高抵抗部との界面領域には、他の領域と比べて不純物が高濃度に導入された高濃度不純物領域が形成されているため、酸化により電流狭窄層を形成する際に、高濃度不純物領域において酸化を止めることができる。これは、高濃度不純物領域において無秩序化が生じAl組成比が低下していることによる。従って、導電部のサイズを高濃度不純物領域のサイズにより決定することができるので、電流狭窄層を形成する際の制御が容易となり、電流狭窄層を高精度に且つ再現性良く形成することが可能となる。また、モニタ用のポスト部を設ける必要がないので、ウェハあたりの面発光レーザ装置の生産数が低下することもない。
【0013】
本発明の面発光半導体レーザ装置において、電流狭窄層は、一般式がAlxGa1-xAs(但し、0<x≦1)により表される化合物からなり、高濃度不純物領域は、他の領域よりもアルミニウム組成比が低いことが好ましい。
【0014】
本発明の面発光半導体レーザ装置において、高濃度不純物領域は、第2反射鏡の上面から、第2反射鏡を貫通し電流狭窄層に達するように形成されていることが好ましい。
【0015】
本発明の面発光半導体レーザ装置において、第2の反射鏡はアルミニウムの組成比が互いに異なる低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層されており、第2反射鏡における高濃度不純物領域が形成された部分においては、低屈折率層のアルミニウム組成比と高屈折率層のアルミニウム組成比とが平均化されていることが好ましい。このような構成とすることにより、第2反射鏡における高濃度不純物領域において、ヘテロ界面を低抵抗化できるため、反射鏡の直列抵抗を低減できる。また、光出力モードの安定性も向上させることができる。
【0016】
本発明の面発光半導体レーザ装置において、第2反射鏡の上に形成された電極をさらに備え、電極は、高濃度不純物領域と接していることが好ましい。このような構成とすることにより、電極のコンタクト抵抗を低減できる。
【0017】
本発明の面発光半導体レーザ装置において、第2反射鏡における高濃度不純物領域が形成された部分は、反射率が他の部分と比べて小さいことが好ましい。このような構成とすることにより、光出力モードの安定性を向上させることができる。
【0018】
本発明の面発光半導体レーザ装置において、発振モードは、単一横モード発振であることが好ましい。
【0019】
本発明の面発光半導体レーザにおいて、不純物は亜鉛、マグネシウム又はベリリウムであることが好ましい。
【0020】
本発明の面発光半導体レーザにおいて、不純物はシリコン、ゲルマニウム、セレン又は硫黄であることが好ましい。
【0021】
本発明に係る面発光半導体レーザ装置の製造方法は、基板の上に、第1反射鏡、活性層、電流狭窄層形成層及び第2反射鏡を下側から順次形成する工程(a)と、第2反射鏡の上面から電流狭窄層形成層に向かって選択的に不純物を導入することにより、第2反射鏡を貫通し電流狭窄層形成層に達する平面リング状の高濃度不純物領域を形成する工程(b)と、第1反射鏡の一部と、活性層と、電流狭窄層形成層と、第2反射鏡とを選択的に除去することにより、電流狭窄層形成層の側面が露出し且つ高濃度不純物領域と同心円状に形成されたポスト部を形成する工程(c)と、電流狭窄層形成層を酸化雰囲気において酸化することにより、電流狭窄層形成層の側面から高濃度不純物領域に至る領域を選択的に高抵抗化して、電流狭窄層を形成する工程(d)とを備えていることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る面発光半導体レーザ装置の製造方法によれば、第2反射鏡の上面から電流狭窄層形成層に向かって選択的に不純物を導入することにより、第2反射鏡を貫通し電流狭窄層形成層に達する平面リング状の高濃度不純物領域を形成する工程を備えているため、酸化により電流狭窄層を形成する際に、露出部から高濃度不純物領域に至る領域を選択的に酸化することができる。従って、電流狭窄層を酸化により形成する際の制御が容易となり、高精度に且つ再現性良く電流狭窄層を形成することが可能となる。
【0023】
本発明の面発光半導体レーザ装置の製造方法において、工程(b)は、第2反射鏡の上に不純物を含む不純物材料層を平面リング状に形成した後、熱処理を行うことにより不純物を第2反射鏡及び電流狭窄層形成層に拡散させる工程であることが好ましい。
【0024】
本発明の面発光半導体レーザ装置の製造方法において、工程(b)は、不純物を選択的にイオン注入する工程であることが好ましい。
【0025】
本発明の面発光半導体レーザ装置の製造方法において、不純物は、亜鉛、マグネシウム又はベリリウムであることが好ましい。
【0026】
本発明の面発光半導体レーザ装置の製造方法において、不純物は、シリコン、ゲルマニウム、セレン又は硫黄であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る半導体発光素子及びその製造方法によれば、生産性を低下させることなく、正確に制御された電流狭窄層を備えた面発光レーザ装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は一実施形態に係る面発光半導体レーザ装置の断面構成を示している。
【0029】
図1に示すように本実施形態の面発光レーザ装置は、n型のGaAsからなる基板11の上に、n型の第1反射鏡12、第1スペーサ層13、活性層14、第2スペーサ層15、電流狭窄層16、p型の第2反射鏡17及びp型コンタクト層18が下側から順次形成されている。
【0030】
第1反射鏡12は、n型にドープされたAl0.9Ga0.1Asからなる低屈折率層12A及びAl0.12Ga0.88Asからなる高屈折率層12Bが交互に22.5周期積層されている。低屈折率層12A及び高屈折率層12Bは厚さがλ/4n(但し、λは発振波長、nは屈折率)となるように形成されている。第1反射鏡12は反射率が99%以上となるように形成すればよい。
【0031】
第1スペーサ層13は、第1反射鏡12側から活性層14側に向かってAlの組成比が次第に低くなる傾斜組成のAlGaAs層であり、第1反射鏡12側のAl組成比は0.6であり、活性層14側のAl組成比は0.3である。
【0032】
活性層14は、アンドープのGaAsからなる井戸層とアンドープのAl0.3Ga0.7Asからなる障壁層とが交互に積層された、量子井戸活性層である。
【0033】
第2スペーサ層15は、活性層14側から第2反射鏡17側に向かってAlの組成比が次第に高くなる傾斜組成のAlGaAs層であり、活性層14側のAl組成比は0.3であり、第2反射鏡17側のAl組成比は0.6である。
【0034】
電流狭窄層16は、Al0.98Ga0.02Asからなる高Al組成の層である。電流狭窄層16の中央部は、電流が流れる導電性部16Aであり、酸化により形成された高抵抗部16Bが導電性部16Aを囲んでいる。これにより、電流の経路は、電流狭窄層16の中央部に設けられた導電性部16Aに狭窄され、レーザ光をレーザ出射領域25から出射できるようになる。また、本実施形態の面発光レーザ装置は、導電性部16Aの高抵抗部16Bとの界面領域に、後で説明する高濃度不純物領域19が形成されている。
【0035】
第2反射鏡17は、p型にドープされたAl0.9Ga0.1Asからなる低屈折率層17A及びAl0.12Ga0.88Asからなる高屈折率層17Bが交互に34.5周期積層されている。第2の反射鏡17も反射率が99%以上となるように形成すればよい。第2の反射鏡17の上に形成されたp型コンタクト層18は、p型にドープされたGaAsからなる。
【0036】
第1反射鏡12の一部、第1スペーサ層13、活性層14、第2スペーサ層15、電流狭窄層16、第2反射鏡17及びp型コンタクト層18は、選択的にエッチングされ、導電性部16Aを中心とする円柱状のポスト部が形成されている。ポスト部の周囲には、酸化シリコン(SiO2)からなるパッシベーション膜23を介在させて低誘電率膜であるベンゾシクロブテン(BCB)からなる埋め込み絶縁膜24が埋め込まれている。
【0037】
p型コンタクト層18の外縁部から埋め込み絶縁膜24に跨る領域の上には、パッシベーション膜23を介在させてチタン、白金及び金からなるp側電極21が形成されている。基板11の第1反射鏡12と反対側の面(裏面)には金、ゲルマニウム及びニッケルからなるn側電極22が形成されている。
【0038】
本実施形態の面発光半導体レーザ装置は、電流狭窄層16の導電性部16Aにおける高抵抗部16Bとの界面領域に亜鉛(Zn)等のp型不純物が高濃度に導入された高濃度不純物領域19が形成されている。高濃度不純物領域19は、電流狭窄層16だけでなく、p型コンタクト層18の上面から第2反射鏡17及び電流狭窄層16を貫通し第2スペーサ層15に達するように形成されている。
【0039】
高濃度不純物領域19は、例えば4×1019cm-3程度のZnを含み、他の領域と比べて不純物の濃度が非常に高くなっている。このように、高濃度のZnを導入することにより、高濃度不純物領域19においては、固体内拡散が大きくなる。このため、高濃度不純物領域19においては、p型コンタクト層18、低屈折率層17A、高屈折率層17B、電流狭窄層16及び第2スペーサ層15の間においてAl組成比が平均化される。このため、電流狭窄層16における高濃度不純物領域19の部分においては、電流狭窄層16の他の部分よりもAl組成比が低くなる。
【0040】
AlGaAs層を酸化する際の酸化速度は、Al組成比によって変化し、Al組成比が低下すると酸化速度が低下する。従って、本実施形態の面発光レーザ装置は、Al組成比が高いAlGaAs層を外側から酸化して高抵抗部16Bを形成する際に、Al組成比が低い高濃度不純物領域19の部分において酸化速度が大きく低下し、それ以上酸化が進まなくなる。その結果、高濃度不純物領域19よりも内側の領域は酸化されず導電性部16Aとなり、高濃度不純物領域19よりも外側の領域は酸化されて高抵抗部16Bとなる。このように、高濃度不純物領域19のサイズによって導電性部16Aのサイズを決定することができるため、電流狭窄層16を高精度に且つ再現性良く形成することが可能となる。
【0041】
また、p側電極21をp型コンタクト層18における高濃度不純物領域19が形成された部分と接するように形成すれば、p側電極21のコンタクト抵抗を低減できるという効果が得られる。また、第2反射鏡17における高濃度不純物領域19が形成された部分も低抵抗化されるため、面発光半導体レーザ装置の直列抵抗を低減する効果も得られる。さらに、第2反射鏡17における高濃度不純物領域19が形成された部分は、無秩序化により反射率が低下する。このため、レーザ出射領域25のうちの限られた領域のみが共振器構造を有することになり、光発振モードにおいて基本単一横モード動作を実現できる。
【0042】
以下に、本実施形態の面発光レーザ装置の製造方法について図面を参照して説明する。図2〜図7は、本実施形態に係る面発光レーザ装置の製造方法を工程順に示している。
【0043】
まず、図2に示すように、n型のGaAsからなる基板11の上にn型の第1反射鏡12、第1スペーサ層13、活性層14、第2スペーサ層15、p型の電流狭窄層形成層46、p型の第2反射鏡17及びp型コンタクト層18を有機金属気相堆積(MOCVD)法を用いて順次形成する。
【0044】
本実施形態においては、MOCVD法によるエピタキシャル成長の原料として、III族原料であるGa及びAlには、例えばトリメチルガリウム(TMG:Trimethyl-Gallium)及びトリメチルアルミニウム(TMA:Trimethyl-Aluminum)等の有機金属材料を用いる。また、V族原料であるAsには、例えばアルシン(AsH3)を用いる。また、n型の層には例えばシラン(SiH4)を用いてシリコンドーピングを行い、p型の層には例えば四臭化炭素(CBr4)を用いて炭素ドーピングを行う。
【0045】
なお、各層の一例をあげると、第1反射鏡12は、n型にドープされたAl0.9Ga0.1Asからなる低屈折率層12A及びAl0.12Ga0.88Asからなる高屈折率層12Bを交互に22.5周期積層すればよい。第1スペーサ層13は、第1反射鏡12側のAl組成比が0.6で、活性層14側のAl組成比が0.3となるようにAlの組成比が次第に低くなる傾斜組成を有するアンドープのAlGaAs層とすればよい。
【0046】
活性層14は、アンドープのGaAsからなる井戸層とアンドープのAl0.3GaAsからなる障壁層とを交互に積層すればよい。第2スペーサ層15は、活性層14側のAl組成比が0.3で、第2反射鏡17側のAl組成比が0.6となるようにAlの組成比が次第に高くなる傾斜組成を有するアンドープAlGaAs層とすればよい。電流狭窄層16は、p型にドープされたAl0.98Ga0.02Asからなる高Al組成の層とすればよい。
【0047】
第2反射鏡17は、p型にドープされたAl0.9Ga0.1Asからなる低屈折率層17A及びAl0.12Ga0.88Asからなる高屈折率層17Bを交互に34.5周期積層すればよい。p型コンタクト層18は、p型にドープされたGaAsとすればよい。
【0048】
なお、第1反射鏡12及び第2反射鏡17の内部に反射鏡内のヘテロ界面における低抵抗化を目的とした組成変調層又は不純物変調ドープ層を設けてもよい。
【0049】
次に、図3に示すようにp型コンタクト層18の上に、酸化亜鉛(ZnO)からなるリング状の不純物材料層31を形成する。不純物材料層31は、例えばスパッタ法により、p型コンタクト層18上の全面にZnO膜を形成した後、フォトリソグラフィ及びエッチングを行うことによりリング状に形成すればよい。本実施形態の面発光半導体レーザ装置の製造方法においては、不純物材料層31の内径によってレーザ出射領域25のサイズが決定される。従って、一般的な面発光半導体レーザ装置の場合、不純物材料層31の内径は5μm程度とすればよい。その後、不純物材料層31及びp型コンタクト層18を覆うように窒化シリコン(SiN)からなる保護層32を形成する。保護層32は、プラズマCVD法等により形成すればよい。
【0050】
次に、図4に示すように、不純物材料層31及び保護層32を形成した後のウェハを熱処理してp型不純物であるZnが第2スペーサ層15に達するまで固体拡散させる。これにより、p型コンタクト層18から第2反射鏡17及び電流狭窄層形成層46を貫通し第2スペーサ層15に達する高濃度不純物領域19が形成される。なお、活性層14に不純物が到達しないように、熱処理時間及び温度等を制御する。
【0051】
高濃度不純物領域19においては、Znの拡散によりいわゆる無秩序化が生じ、Al組成比が平均化したAlGaAsが形成される。つまり、高濃度不純物領域19においては、Zn拡散前に第2反射鏡17及び電流狭窄層形成層46がそれぞれ有していた特性が失われる。無秩序化を生じさせるためには、高濃度不純物領域19におけるZn濃度が、4×1019cm-3程度となるようにすればよい。
【0052】
次に、図5に示すように不純物材料層31及び保護層32を除去した後、p型コンタクト層18、第2反射鏡17、電流狭窄層形成層46、第2スペーサ層15、活性層14、第1スペーサ層13及び第1反射鏡12の一部を選択的に除去して、円柱状のポスト部33を形成する。ポスト部33は、平面リング状の高濃度不純物領域19と同心円状の平面形状となるようにする。ポスト部33は、面発光半導体レーザ装置のレーザ素子部分となるため、一般的な面発光半導体レーザ装置の場合には径を10μm程度とすればよい。ポスト部33は、フォトリソグラフィとエッチングとにより形成すればよい。
【0053】
次に、図6に示すようにポスト部33が形成されたウェハを、水蒸気を含んだ窒素等の酸化性のガス雰囲気においてアニールすることにより、電流狭窄層形成層46をポスト部の側部から酸化し、導電性部16Aと導電性部16Aを囲む高抵抗部16Bとが形成された電流狭窄層16を形成する。
【0054】
本実施形態の面発光半導体レーザ装置の製造方法においては、Al組成比が非常に高い電流狭窄層形成層46の中央部に平面リング状の高濃度不純物領域19が形成されている。電流狭窄層形成層46における高濃度不純物領域19となっている領域は、Znによる無秩序化のためにAl組成比が他の領域よりも低くなっている。例えば、本実施形態のようにAl組成比が0.98の電流狭窄層形成層46の上下にAl組成比が0.6程度の層が形成されている場合、電流狭窄層形成層46における高濃度不純物領域19となった部分のAl組成比は0.7程度まで低下する。
【0055】
Al組成比は、電流狭窄層形成層46の酸化速度に大きく影響し、Al組成比が低下すると酸化速度は急激に低下する。このため、電流狭窄層形成層46の外縁部からほぼ一定速度で酸化が進行し、高濃度不純物領域19まで酸化が進むと、酸化速度が大きく低下し、それ以上酸化が進行しなくなる。従って、導電性部16Aのサイズは、容易に且つ安定して高濃度不純物領域19のサイズに合わせることができる。つまり、高精度に且つ再現性良く電流狭窄層16を形成することが可能となる。
【0056】
次に、図7に示すように第1反射鏡12の上面及びポスト部33の側面を覆うようにSiO2からなるパッシベーション膜23の下部を形成した後、ポスト部33を形成するため形成された凹部にBCB膜からなる埋め込み絶縁膜24を埋め込む。続いて、p型コンタクト層18の外縁部及び埋め込み絶縁膜24の上面を覆うようにSiO2からなるパッシベーション膜23の上部を形成する。
【0057】
次に、パッシベーション膜23の上面及びp型コンタクト層18の上面におけるレーザ出射領域25を除く部分を覆うようにp側電極21を形成し、基板11の裏面にn側電極22を形成する。この際に、p側電極21が高濃度不純物領域19と接するように形成することが好ましい。高濃度不純物領域19は、不純物拡散により低抵抗化されているため、p側電極と高濃度不純物領域19とが接するようにすることにより、p側電極のコンタクト抵抗を低減できる。
【0058】
また、高濃度不純物領域は、第2反射鏡17を貫通しているため、第2反射鏡17においてもZnの高濃度化及び組成の異なるAlGaAs多層膜の無秩序化によるヘテロ界面での低抵抗化により直列抵抗が低減できる。従って、動作電流を低くすることができ、消費電力の小さい面発光半導体レーザ装置を実現できる。また、高速変調にも有利となる。さらに、無秩序化された高濃度不純物領域においては、反射率が低下するため、レーザ出射領域25の外周部において反導波作用が生じる。その結果、光発振モードにおいて基本単一横モード動作を実現できる。
【0059】
本実施形態においては、高濃度不純物領域19を形成する方法として、ZnOからなる不純物材料層を形成し、Znを熱拡散させる例を示したが、Znのイオン注入又はZnAs2のようなZn系ガス雰囲気における熱拡散等の他の方法を用いてもよい。
【0060】
また、高濃度不純物領域19を形成するための不純物にZnを用いたが、マグネシウム(Mg)又はベリリウム(Be)等の他のp型の不純物を用いてもよい。
【0061】
本実施形態は、p型の層が上部に配置された構成の面発光半導体レーザ装置について示したが、n型の層が上部に配置された構成の面発光半導体レーザ装置についても同様の効果を得ることができる。この場合には、高濃度不純物領域を形成するための不純物をn型の不純物であるシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)又は硫黄(S)等とすればよい。また、基板にはp型のGaAs基板を用いればよい。
【0062】
また、発光波長が850nm帯のGaAs系面発光半導体レーザについて説明したが、他の材料系又は異なる波長帯の面発光レーザについても同様の効果が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る光半導体装置及びその製造方法は、生産性を低下させることなく、正確に制御された電流狭窄層を備えた面発光レーザ装置を実現でき、垂直共振器型の面発光半導体レーザ装置、特に選択酸化法により形成した電流狭窄層を有する面発光半導体レーザ装置等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態に係る面発光半導体レーザ装置を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る面発光半導体レーザ装置の製造方法の一工程を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る面発光半導体レーザ装置の製造方法の一工程を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る面発光半導体レーザ装置の製造方法の一工程を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る面発光半導体レーザ装置の製造方法の一工程を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る面発光半導体レーザ装置の製造方法の一工程を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る面発光半導体レーザ装置の製造方法の一工程を示す断面図である。
【図8】従来例に係る面発光半導体レーザ装置の製造方法の一工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0065】
11 基板
12 第1反射鏡
12A 低屈折率層
12B 高屈折率層
13 第1スペーサ層
14 活性層
15 第2スペーサ層
16 電流狭窄層
16A 導電性部
16B 高抵抗部
17 第2反射鏡
17A 低屈折率層
17B 高屈折率層
18 p型コンタクト層
19 高濃度不純物領域
21 p側電極
22 n側電極
23 パッシベーション膜
24 絶縁膜
25 レーザ出射領域
31 不純物材料層
32 保護層
33 ポスト部
46 電流狭窄層形成層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成された第1反射鏡と、
前記第1反射鏡の上に形成された活性層と、
前記活性層の上に形成され、電流が流れる導電性部と該導電性部の周囲に形成された酸化層である高抵抗部とを含む電流狭窄層と、
前記電流狭窄層の上に形成された第2反射鏡とを備え、
前記導電性部の前記高抵抗部との界面領域には、他の領域と比べて不純物が高濃度に導入された高濃度不純物領域が形成されていることを特徴とする面発光半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記電流狭窄層は、一般式がAlxGa1-xAs(但し、0<x≦1)により表される化合物からなり、
前記高濃度不純物領域は、他の領域よりもアルミニウム組成比が低いことを特徴とする請求項1に記載の面発光半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記高濃度不純物領域は、前記第2反射鏡を貫通し前記電流狭窄層に達するように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の面発光半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記第2反射鏡は、アルミニウムの組成比が互いに異なる低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層されており、
前記第2反射鏡における前記高濃度不純物領域が形成された部分においては、前記低屈折率層のアルミニウム組成比と前記高屈折率層のアルミニウム組成比とが平均化されていることを特徴とする請求項3に記載の面発光半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記第2反射鏡の上に形成された電極をさらに備え、
前記電極は、前記高濃度不純物領域と接していることを特徴とする請求項3又は4に記載の面発光半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記第2反射鏡における前記高濃度不純物領域が形成された部分は、反射率が他の部分と比べて小さいことを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の面発光半導体レーザ装置。
【請求項7】
光発振モードは、単一横モード発振であることを特徴とする請求項6に記載の面発光半導体レーザ装置。
【請求項8】
前記不純物は亜鉛、マグネシウム又はベリリウムであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の面発光半導体レーザ。
【請求項9】
前記不純物はシリコン、ゲルマニウム、セレン又は硫黄であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の面発光半導体レーザ。
【請求項10】
基板の上に、第1反射鏡、活性層、電流狭窄層形成層及び第2反射鏡を下側から順次形成する工程(a)と、
前記第2反射鏡の上面から前記電流狭窄層形成層に向かって選択的に不純物を導入することにより、前記第2反射鏡を貫通し前記電流狭窄層形成層に達する平面リング状の高濃度不純物領域を形成する工程(b)と、
前記第1反射鏡の一部と、前記活性層と、前記電流狭窄層形成層と、前記第2反射鏡とを選択的に除去することにより、前記電流狭窄層形成層の側面が露出し且つ前記高濃度不純物領域と同心円状に形成されたポスト部を形成する工程(c)と、
前記電流狭窄層形成層を酸化雰囲気において酸化することにより、前記電流狭窄層形成層の側面から前記高濃度不純物領域に至る領域を選択的に高抵抗化して、電流経路を制限する電流狭窄層を形成する工程(d)とを備えていることを特徴とする面発光半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項11】
前記工程(b)は、前記第2反射鏡の上に前記不純物を含む不純物材料層を平面リング状に形成した後、熱処理を行うことにより前記不純物を前記第2反射鏡及び電流狭窄層形成層に拡散させる工程であることを特徴とする請求項10に記載の面発光半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項12】
前記工程(b)は、前記不純物を選択的にイオン注入する工程であることを特徴とする請求項10に記載の面発光半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項13】
前記不純物は、亜鉛、マグネシウム又はベリリウムであることを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の面発光半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項14】
前記不純物は、シリコン、ゲルマニウム、セレン又は硫黄であることを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の面発光半導体レーザ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−177341(P2008−177341A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9083(P2007−9083)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】