説明

音波を用いた弾性特性の測定方法

【課題】野菜の鮮度や建材の材料特性への温度や湿度の影響、人の皮膚老化に対する疲労やストレスの影響などを評価するに際し、これら経時変化する諸要因と野菜など弾性体への影響を簡便に定量化することが困難であった。
【解決手段】測定対象物1から離した場所にあるスピーカー2から音波を測定対象物1に向けて発し、それからの反射音を測定対象物1から離れた位置に置かれたマイクロフォン3で受音、解析し、測定対象物1の弾性特性に与える温度、湿度などの外的要因の影響を定量化する装置を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜の湿度、温度など保存条件による鮮度測定、遮音建材の湿度、温度、日射など環境条件に対する特性変化測定、可塑材料の熱特性の測定、人の皮膚の老化診断など、広く弾性特性を持つ素材の特性変化測定、診断に適用する音波を用いた弾性特性の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、野菜の鮮度診断、人の皮膚の老化診断、可塑材料の熱特性や遮音建材の湿度、温度、日射などの環境条件に対する特性変化は視覚や応力測定で定性的に評価され、非接触で変化の諸要因に対する因果を明確にする詳細な計測方法は社会ニーズに十分応えることができていない。その中で、200Hz付近の振動を発生させる振動子を野菜に接触させ、それを透過した振動の波形変化から野菜の鮮度を評価しようとする試みや、空気の衝撃波を人の皮膚に当てて皮膚にできたくぼみのレーザー光反射強度の変化から人の皮膚の老化を診断するなどの新規診断法への黎明が見られているが、これを弾性体の非線形弾性特性にもとづくカオティックな応答として信号処理し定性、定量評価するまでには至っていないし、ましてそれを簡便な非接触計測方法として確立されていなかった。
【特許文献1】特開2004―188213号公報
【特許文献2】特開2001−137240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
たとえば、弾性の非線形特性をもとに野菜を透過した振動の波形変化から野菜の鮮度を評価しようとする試みでは、視覚や応力変化だけでは、野菜の経時変化は計測できても、その鮮度としての温度、湿度、日射など保存条件の諸要因との関係の評価には至っていないし、皮膚の老化評価についても空気の衝撃波により形成されたくぼみの復帰変化をレーザー光の反射測定で計測できているが、経時変化や変化率の提示にとどまっている問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題の解決の方法として、本発明では非線形特性をもつ弾性体に外部から振動を与えると、弾性体からの応答はカオティックになり、それは弾性体の非線形性の微小な変化で、応答信号波形が大きく変化することで、X−Y直交座標表示装置でこの信号をX軸上で、これに位相遅れを与えた信号をY軸上で変化させ重ね合わすと、同じ軌道を通らないループ状の2次元図形、いわゆるアトラクタと呼ばれる、ある座標を中心とする非再帰軌道図形が大きく変化することから、弾性体の非線形弾性特性に微小変化を与える外的環境条件、たとえば建材や野菜に対する湿度、温度、日照の影響、人の皮膚の弾性特性に微小変化を与える疲労、ストレス、食物などの影響を視覚で明確に判定できることで、これを反射音響の測定から非接触で計測しようとするものである。
【0005】
本発明は弾力特性を計測される測定対象物と、該測定対象物に離間して配置され可聴周波数の音波を出力するスピーカーと、前記測定対象物からの反射音を収集するマイクロフォンとを備え、前記マイクロフォンからの反射音をAD変換して、カオティックな非周期的変化の図形を表示装置に表示して非接触測定により測定対象物の弾性特性を測定する特徴がある。
【0006】
また、本発明では前記可聴周波数の音波は交互にパルス状に出力されて前記測定対象物に加え、その反射音を切り出して結合した受音波形を用いて前記表示装置にカオティックな非周期的変化の図形を表示することを特徴とする。
【0007】
更に、本発明では前記マイクロフォンは前記スピーカーの前面に同軸状に配置して前記測定対象物からの反射音を切り出して収集することを特徴とする。
【0008】
更に、本発明では前記表示装置としてX―Y直交座標表示装置を用い、前記受音波形とその位相遅れ処理後の信号をそれぞれの座標に加えて描くアトラクタの変化で前記測定対象物の弾性特性を測定することを特徴とする。
【0009】
更に、本発明では前記位相遅れ処理は3サンプル期間とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、これまで定性的で経時的にしか表示できなかった、たとえば野菜の湿度、温度など保存条件による鮮度測定、遮音建材の湿度、温度、日射など環境条件に対する特性変化測定、可塑材料の熱特性の測定、人の皮膚の老化診断などを非接触で従来以上に精密に計測評価できる。
【0011】
また、本発明では音波を利用することで非接触、食品や生体に無害で、しかも装置がスピーカーとマイクロフォン、に加え、アナログデジタル変換器とパソコン、近年ではアナログデジタル変換器はパソコンに組み込んでコンパクトに構成できることから、装置が簡素で携帯が容易であることから、野菜の収穫評価する現場や建設現場にも可搬できる高い適用性がある。
【0012】
更に、本発明ではマイクロフォンからの出力波形から作った反射波期間取り出し結合波形を用いて、埋め込み次元は2、遅れ時間τ=3サンプルを採用したアトラクタを表示できるので、弾性体の特性をX―Y直交座標表示装置にアトラクタの図形を分かりやすく表示できる。
【0013】
更に、本発明ではアトラクタの作図を遅れ時間τ=3サンプル期間にすることで、アトラクタに最も変化が表れたものが表示できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態における、音波の非線形応答による弾性体の特性計測法ならびにそれを具現化した簡便計測装置を、図面にもとづき説明する。
【0015】
本実施の形態においては、図1に示す石膏ボードや合板などの測定対象物1を対象とし、音波の送受から最適とした2msの方形波信号を20ms毎に発振器6により発生させ、それを遮音ボックス4内の、スピーカー2で音波にして測定対象物1に投射し、弾性体である測定対象物1の表面に振動を起させ、そのときの測定対象物1の表面からの反射音を遮音隔壁5でスピーカー2からの発生音を遮断するように配置されたマイクロフォン3で受音し、信号をアナログデジタル変換器9でデジタル変換後、パソコン10で、アトラクタを描かせ、測定対象物1の諸要因による変化を図形より評価するように構成する。
【0016】
本発明に関わるアトラクタの表示は、測定対象物からの図2に示す反射音8を、マイクロフォン3で受音し、その信号をアナログデジタル変換器9でデジタル信号12に変換後、それをそのまま信号表示用直交座標画面の横軸14、すなわちX軸に加えるとともに、受音信号を図2の位相遅延器11で受音信号よりτ秒送らせ(13)、それを図2の信号表示用直交座標画面の縦軸15、すなわちY軸に加え、信号の軌道図形を図2のアトラクタ16のように描かせ、計測対象の弾性特性に影響を与える諸要因の影響を、アトラクタを表示する信号変化の軌道図形として評価できるように構成する。
【0017】
次に、具体的な実験方法および条件を図3を参照して説明する。実験は無響室ではなく一般の教室で行った。縦が600cm、横が700cm、高さが280cmの教室を用いて、スピーカー3、マイクロフォン2および測定対象物1を床からの高さ104cmに並べ、スピーカー3の前面に同軸方向にマイクロフォン2を配置し、両者の先端部を44cm離間させ、マイクロフォン2の先端部と測定対象物1とを60cm離間して配置している。教室の壁面とスピーカー3、マイクロフォン2および測定対象物1は十分に離間させて、スピーカー3からの音波が測定対象物1からの反射音がマイクロフォン2に到達するまでに教室の壁面から反射してマイクロフォン2に収集されないように配慮している。図3は教室を天井側から見た上面図である。なお、図3の配置は図1に示す配置とは異なっているが、種々の配置が考えられる。
【0018】
測定対象物1としてはボード紙、木、発泡スチロール、アルミニウムシート、野菜(キャベツ、大根)を用いた。
【0019】
X−Y直交座標表示装置としては市販のノートパソコンを用い、発振器6はオーディオキャプチャを用い、マイクロフォン2は鋭指向性コンデンサマイクロフォンを用い、スピーカー3はウーハーを用いた。アナログデジタル変換器9ではサンプリング周波数44.1kHz、量子化ビット数を16ビットとしている。
【0020】
続いて、図4を参照してスピーカーからの出力音波(プローブ波)を説明する。出力音波は図4に示すように、20msecごとにパルス幅2msecの繰り返しのパルス状波形を用いる。すなわち、音波出力期間2msecと無音期間18msecが交互にパルス状態で出力される。音波は測定対象物の固有振動領域である可聴周波数のものが選択され、2msの方形波パルスを20ms毎に発生させたものを用いた。音波は測定対象物の固有振動領域にあるので、発生させた方形波パルスの急激な変化で測定対象物の測定対象物の非線形弾性特性を誘起させ、弾性の細かな変化を評価でき、分かりやすいアトラクタが得られるためである。
【0021】
更に、図5および図6を参照してアトラクタを表示するために用いる反射波期間取り出し結合波形について説明する。
【0022】
反射波はτ秒後にマイクロフォンへ到来する。
【0023】
τ=距離 60cm×2/音速340000cm・sec−1=3.5msec
この計算式から反射波は3.5msecでマイクロフォンに収集されることになる。
【0024】
図5はマイクロフォンからの実際の出力波形を示している。aで示された部分が音波出力期間であり、反射波が到来する時間である3.5msec後の2msecの期間、すなわちbで示された部分の出力波形を取り出して順次結合することにより図6に示す反射波期間取り出し結合波形を作成している。
【0025】
図6(a)は測定対象物が何も置かれていない場合であり、反射波が含まれていない状態であります。この波形と他の波形を比べると測定対象物からの反射により波形が複雑に変化をしていることが分かる。また、同じ測定対象物でも連続した波形が微妙に変化しており、同じ波形の繰り返しではないことも分かる。
【0026】
図6(b)は乾燥状態のボード紙、図6(c)は濡れた状態のボード紙、図6(d)はアルミニウムシート、図6(e)は木板、図6(f)は発泡スチロール、図6(g)葉キャベツ、図6(h)は大根の反射波期間取り出し結合波形を示している。
【0027】
図6に示した反射波期間取り出し結合波形をもとにアトラクタの作図について説明する。
【0028】
反射音波形の時系列データx(t)から、横軸をx(t)、縦軸をx(t+τ)とし、
v(t)=(x(t)、x(t+τ))
で示される時間遅れによるアトラクタv(t)を作図する。tはサンプル数を示し、τは遅れ時間を示している。波形の結合時に生じる不連続点はアトラクタに影響しないように処理している。
【0029】
図7に図6に示した反射波期間取り出し結合波形を用いて、埋め込み次元は2、遅れ時間τ=3サンプルを採用したアトラクタを示す。遅れ時間τ=3サンプルとは3つ後のpパルスのサンプリング時の数値を使用する意味であり、遅れ時間τ=3サンプル期間にアトラクタに最も変化が表れたものである。
【0030】
図7(a)は測定対象物が何も置かれていない場合、図7(b)は乾燥状態のボード紙、図7(c)は濡れた状態のボード紙、図7(d)はアルミニウムシート、図7(e)は木板、図7(f)は発泡スチロール、図7(g)葉キャベツ、図7(h)は大根のアトラクタを示している。このアトラクタは左下部分および右上部分に材質による弾性特性の変化が著しく現れている。アトラクタの変化を定量化するにはアトラクタの穴の数、巻き数、さらには3次元表示したときの図形の体積などが考えられる。
【0031】
材質の柔らかさを基準に考えると、濡れた状態のボード紙>キャベツ>アルミニウムシート>発泡スチロール>大根>乾燥状態のボード紙>木板の順番であるが、アトラクタは
柔らかいほど右上部分に表れる巻き数が多くなることが分かる。また、左下部分の巻きの大きさにも材質の柔らかさに応じて変化が出ている。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は音波を測定対象物に投射して得られる振動による非線形弾性特性を測定することで、野菜の湿度、温度など保存条件による鮮度測定、遮音建材の湿度、温度、日射など環境条件に対する特性変化測定、可塑材料の熱特性の測定、人の皮膚の老化診断など、広く弾性特性を持つ素材の特性変化測定、診断に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の音波の非線形応答による弾性体の特性計測装置構成を説明する斜視図である。
【図2】本発明のアトラクタを表示した弾性体の諸要因による影響評価方法を説明する図である。
【図3】本発明の測定方法を説明する上面図である。
【図4】本発明のスピーカーからの出力音波を示す特性図である。
【図5】本発明の実際のマイクロフォンからの出力波形からの反射波の取り出しを説明する特性図である。
【図6】(a)〜(h)は本発明のアトラクタを表示するために用いる反射波期間取り出し結合波形について説明する波形図である。
【図7】(a)〜(h)は本発明のアトラクタを説明する波形図である。
【符号の説明】
【0034】
1・・・測定対象物(たとえば、建材ボード)
2・・・スピーカー
3・・・マイクロフォン
4・・・遮音ボックス
5・・・遮音隔壁
6・・・発振器
7・・・測定対象物への投射音
8・・・測定対象物からの反射音
9・・・アナログ・デジタル変換器
10・・パソコン
11・・位相遅延器(遅延時間τ秒)
12・・受音信号
13・・受音信号よりτ秒遅らさせた信号
14・・信号表示用直交座標画面の横軸(X軸)
15・・信号表示用直交座標画面の縦軸(Y軸)
16・・アトラクタを表示する信号変化の軌道図形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾力特性を計測される測定対象物と、
該測定対象物に離間して配置され可聴周波数の音波を出力するスピーカーと、
前記測定対象物からの反射音を収集するマイクロフォンとを備え、
前記マイクロフォンからの反射音をAD変換して、カオティックな非周期的変化の図形を表示装置に表示して非接触測定により測定対象物の弾性特性を測定することを特徴とする音波を用いた弾性特性の測定方法。
【請求項2】
前記可聴周波数の音波は交互にパルス状に出力されて前記測定対象物に加え、その反射音を切り出して結合した受音波形を用いて前記表示装置にカオティックな非周期的変化の図形を表示することを特徴とする請求項1に記載の音波を用いた弾性特性の測定方法。
【請求項3】
前記マイクロフォンは前記スピーカーの前面に同軸状に配置して前記測定対象物からの反射音を切り出して収集することを特徴とする請求項1に記載の音波を用いた弾性特性の測定方法。
【請求項4】
前記表示装置としてX―Y直交座標表示装置を用い、前記受音波形とその位相遅れ処理後の信号をそれぞれの座標に加えて描くアトラクタの変化で前記測定対象物の弾性特性を測定することを特徴とする請求項2に記載の音波を用いた弾性特性の測定方法。
【請求項5】
前記位相遅れ処理は3サンプル期間とすることを特徴とする請求項4に記載の音波を用いた弾性特性の測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−192801(P2007−192801A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286898(P2006−286898)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)
【Fターム(参考)】