説明

音響共鳴装置、スピーカエンクロージャ、楽器及び乗り物

【課題】空間の比較的低い周波数の音を減衰させるとともに、特に、その空間における特定の場所で奏する効果を高める。
【解決手段】固有振動が減衰しにくく、且つ低周波数の音波が伝播する空間では、比較的低い周波数の騒音は固有振動姿態の態様に強く依存する。これに対し、固有振動姿態の音圧の腹の場所を制御対象として共鳴体により音圧を低減させれば、空間全体でその周波数の音を効果的に減衰させることができると発明者らは考えた。そこで、評価場所(ここでは、「5」)に位置する固有振動姿態の音圧の腹の場所を制御対象とし、その近傍に共鳴体の開口部を位置させる。これにより、空間における低周波数の音を減衰させるとともに、特に、評価場所で奏する効果を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間の音を減衰させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
居室や小会議室、音楽室等の空間(つまり、音場)の静粛性を高めるために、その空間の特性に応じた共振周波数を持つ共鳴体を、空間の壁面や天井面に設けることがある。特許文献1には、板状又は膜状の振動体と、この振動体の背後の空間の空気層とにより音を吸収する板・膜振動型吸音構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−11412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている技術では、空間における比較的低い周波数の音を十分に減衰させることができない。また、特許文献1には、空間における特定の場所で高い吸音効果を奏するようにすることは開示されていない。
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、空間の比較的低い周波数の音を減衰させるとともに、特に、その空間における特定の場所で奏する効果を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明に係る音響共鳴装置は、開口部と、前記開口部に通じる中空領域とを有している共鳴体であって、面に囲まれて構成される空間において決められた評価場所に応じて、前記開口部の位置が定められ、当該開口部を介して前記中空領域が前記空間に繋がるように設けられた共鳴体を備え、前記空間の特定の固有周波数の固有振動姿態であって前記評価場所に音圧の腹が位置する固有振動姿態について、少なくともいずれかの音圧の腹の場所における前記固有周波数の音圧を、前記共鳴体が共鳴することにより低減させることを特徴とする。
この構成において、前記共鳴体は、前記評価場所に位置する前記音圧の腹の場所の音圧を低減させるように、前記開口部の位置が定められていることが好ましい。
【0006】
また、本発明に係る音響共鳴装置は、開口部と、前記開口部に通じる中空領域とを有している共鳴体であって、面に囲まれて構成される空間において決められた評価場所に応じて、前記開口部の位置が定められ、当該開口部を介して前記中空領域が前記空間に繋がるように設けられた共鳴体を備え、前記空間の特定の固有周波数の固有振動姿態であって前記評価場所に音圧の腹が位置する固有振動姿態について、少なくともいずれかの音圧の腹の場所における前記固有周波数の媒質粒子の運動速度を、前記共鳴体が共鳴することにより増大させることを特徴とする。
この音響共鳴装置において、前記共鳴体は、前記評価場所に位置する前記音圧の腹の場所の媒質粒子の運動速度を増大させるように、前記開口部の位置が定められていることが好ましい。
【0007】
本発明の音響共鳴装置において、前記固有周波数と、前記面に与えられる振動の周波数とは互いに異なる周波数であり、前記共鳴体は、前記いずれかの音圧の腹の場所における音圧であって前記固有周波数の音圧と前記振動とにより励振された周波数の音圧を、前記共鳴により低減させるようにしてもよい。
また、本発明のスピーカエンクロージャは、上記いずれかに記載の音響共鳴装置を備えるスピーカエンクロージャであって、前記面は、前記スピーカエンクロージャの内側の面であってスピーカユニットの周囲に構成される面であることを特徴とする。
また、本発明の楽器は、上記いずれかに記載の音響共鳴装置と、音源と、前記音源により発せられた音が前記空間である内部空間を伝搬する筐体部とを備え、前記面は、前記内部空間を構成する前記筐体部の内側の壁面であることを特徴とする。
また、本発明の乗り物は、上記いずれかに記載の音響共鳴装置を備える乗り物であって、前記面は、前記空間として当該乗り物の室空間を構成する壁面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、空間の比較的低い周波数の音を減衰させるとともに、特に、その空間における特定の場所で奏する効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】空間Sを模式的に表した図である。
【図2】空間Sの固有振動の音圧分布の一例を示した図である。
【図3】空間Sにおいて共鳴体を設ける位置を説明する図である。
【図4】図3の位置に共鳴体を設けた場合の各評価点の音圧分布を表したグラフである。
【図5】板・膜共鳴体の外観を模式的に表した図である。
【図6】図5中の切断線VI−VIで切断した場合の板・膜共鳴体の断面図である。
【図7】音響管の構成を表した図である。
【図8】ヘルムホルツ共鳴体の構成を説明する図である。
【図9】スピーカシステムの外観を示す斜視図である。
【図10】図9中の切断線X-Xで切断した場合のスピーカシステムの断面図である。
【図11】共鳴体を備えるスピーカシステムの構成の一例を示す図である。
【図12】電子鍵盤楽器の外観を示す斜視図である。
【図13】電子鍵盤楽器を切断線XIII-XIIIで切断した場合の断面図である。
【図14】ギターの外観を示す外観図である。
【図15】共鳴体を備えるギターの構成の一例を示す図である。
【図16】自動車の外観を示す外観図である。
【図17】自動車の車室を模式的に示す図である。
【図18】空間Sの固有振動の音圧分布の一例を示した図である。
【図19】ピアノの外観を示す斜視図である。
【図20】ピアノを上側から見たときの外観を示す平面図である。
【図21】管部の構成の一例を示す図である。
【図22】垂直入射吸音率のシミュレート結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態について説明する。
[固有振動姿態(ノーマルモード)]
まず、空間に生成される固有振動姿態について説明する。
図1は、空間の一例として、直方体の音場である空間Sを模式的に表したものである。ここでは、図1に示す「1」〜「15」については無視する。
空間Sは、例えば家屋やオフィスビルの部屋の室空間であり、天井面や床面を含む壁面(つまり、面)によって囲まれて構成される空間の一例である。ここで説明の便宜のため、図1に示すように、空間Sの1つの頂点を原点Oと定めて、そこを起点として延びる各稜線がそれぞれx軸、y軸及びz軸に一致するように、xyz直交座標系を定める。そして、空間Sの寸法について、x軸方向の長さをLxとし、y軸方向の長さをLyとし、z軸方向の長さをLzとする。空間Sの壁面を吸音が一切ない剛壁(つまり、完全反射面)と仮定した場合の固有周波数をfNとすると、固有周波数fNは下記式(1)の関係を満たす。式(1)において、c0は音速を表し、nx,ny,nzはそれぞれ固有振動姿態の次数を表す値であり、「0」以上の任意の整数である。
【数1】

【0011】
空間Sにおいて、次数nx,ny,nzの値の任意の組み合わせに対して固有周波数が存在する。式(1)により、nx,ny,nzのうち2つが“0”として求められる固有周波数は、一次元モードの固有周波数である。この固有周波数は、空間Sにおける1の軸に平行な定在波の周波数に相当し、この定在波のことを「軸波」と呼ぶ。nx,ny,nzのうち1つが“0”である固有周波数は、二次元モードの固有周波数である。この固有周波数は、空間Sにおける1対の平行壁面に平行で、他の2対の壁面に斜めに入射する定在波の周波数に相当し、この定在波のことを「接線波」と呼ぶ。nx,ny,nzのうちのいずれも“0”でない固有周波数は、三次元モードの固有周波数である。この固有周波数は、空間Sにおけるすべての壁面に斜めに入射する定在波の周波数に相当し、この定在波のことを「斜め波」と呼ぶ。
【0012】
式(1)から導き出されるように、一次元モードで次数が“2”である二次の固有振動姿態においては、軸波の波長は、その軸波の進行方向に対する空間Sの長さにほぼ等しくなる。図1は、x軸方向に音圧が分布する二次の固有振動姿態を表しており、音圧が極大となる「腹」の位置と、音圧が極小となる「節」の位置とを一点鎖線で表す。一方、一次元モードで次数が“1”である一次の固有振動姿態においては、軸波の波長は、その軸波の進行方向に対する空間Sの長さのほぼ2倍になる。
【0013】
ここで、空間Sの寸法をLx=2000mm、Ly=1400mm、Lz=1200mmと定める。この場合、空間Sのx軸方向に音圧が分布する固有振動姿態の固有周波数は、例えば85Hz(nx=1の場合)、170Hz(nx=2の場合)である。
図2は、xyz軸の各方向に音圧が分布する空間Sの固有振動姿態の一例を模式的に表した図である。図2(a),(b)は、二次の固有振動姿態を表したものである。図2(a)に示す固有振動姿態は、y軸方向に音圧が分布するものを表しており、その固有周波数はおよそ243Hzである。図2(b)に示す固有振動姿態は、z軸方向に音圧が分布するものを表しており、その固有周波数はおよそ283Hzである。これらの図から分かるように、二次の固有振動姿態にあっては、いずれについても音圧が分布する方向に対して空間Sの中心の位置と、両壁部の位置とにそれぞれ音圧の腹が現れる。図2(c)〜(e)は、一次の固有振動姿態を表したものである。図2(c)に示す固有振動姿態は、x軸方向に音圧が分布するものを表しており、その固有周波数はおよそ85Hzである。図2(d)に示す固有振動姿態は、y軸方向に音圧が分布するものを表しておりその固有周波数はおよそ122Hzである。図2(e)に示す固有振動姿態は、z軸方向に音圧が分布するものを表しており、その固有周波数はおよそ141Hzである。これらの図からも分かるように、一次の固有振動姿態あっては、音圧が分布する方向に対して空間Sの中心に音圧の「節」が現れ、壁部の位置に音圧の「腹」が現れる。
【0014】
以上のように、空間Sの寸法によっては、比較的低い固有周波数の固有振動姿態がいくつも生成されることがある。なお、図1,2に示す固有振動姿態については、有限要素法(FEM;Finite Element Method)を用いた音場シミュレーションの計算などによっても得られる。
【0015】
空間Sに居る人物が騒音と感じ得る、例えば170Hzのように比較的低い周波数の音は固有振動姿態に強く依存すると発明者らは考えた。一般に拡散音場では、対象とする周波数帯域内で数多くの固有振動姿態が密集して生成されるため、空間内において音圧が一様に分布となり、音場の各位置において、周波数軸上で一様な音圧の分布を示す。これに対し、比較的小さい空間の音場では、比較的減衰しにくい固有振動姿態が生成されるので、複数の固有振動姿態がそれぞれ周波数軸上で孤立して存在する音場ということができる。また、低周波数の固有振動姿態にあっては、音場内における音圧の腹の分布が疎であるから、音場の特定の場所に音圧の腹が出現して、その場所の音圧が他の場所に比べて特に高くなる。更に、上述の孤立した固有振動姿態は、主に一次元モード(軸波)の固有振動姿態となり、その音響エネルギーは大きく、且つ減衰しにくい。このようになるのは、他のモードに比べて単位時間当たりに壁面に音波が入射する回数が少なく、壁面に吸音される音響エネルギーが小さいからである。
【0016】
このような音場において、特定の固有周波数の音を減衰させる場合に、その固有周波数の固有振動姿態の音圧の腹となる場所を制御対象とし、その制御対象の場所の音圧を低減させれば、音場全体において低周波数の音を効果的に低減させることができる、という知見を発明者らは得た。すなわち、固有振動姿態の音圧の腹の場所を音圧を低減させる制御対象とすることで、固有振動姿態による作用を弱体化させることができる。なお、音圧を低減させるための構成としては、共鳴体を用いることができ、共鳴体の開口部を制御対象とする音圧の腹の場所、又はその近傍に位置させればよい。この近傍とは、音圧の腹の場所の音圧を低減させることのできる距離のことをいう。例えば音圧を低減させたい特定の固有周波数の音の波長に対して十分に小さい距離の範囲内であり、例えばその波長の1/6の距離の範囲内である。
【0017】
以上のようにして固有振動姿態の作用が抑制されることを確認するために、発明者らは以下に説明する測定試験を行った。図3は、空間Sにおいて共鳴体を設置した場所を説明する図である。
測定試験で音圧を測定する場所であり、その音圧を評価する場所を「評価場所」として定める。ここでは、図1、3に丸印で示す「1」〜「15」の各評価場所を定める。この測定では、各評価場所に収音用のマイクを設置した。評価場所「1」〜「9」は、音場のx軸方向に延びる稜線に沿う位置とし、これら各評価場所はほぼ等間隔に定められる。評価場所「9」〜「15」は、空間Sのz方向に沿って延びる稜線に沿う位置とした。これら各評価場所もほぼ等間隔に定めた。評価場所「9」は空間Sの隅角部に位置しており、そこから最も遠い位置の隅角部に音源OSを配置した。
【0018】
図4は、測定試験の結果を表すグラフであり、音源OSから発せられた音を各評価場所に設けられたマイクによって収音し、その収音結果から求めた音圧を表したものである。
図4に示すグラフにおいて、横軸は評価場所「1」〜「15」をそれぞれ表しており、縦軸は160Hz帯域(160Hzを中心とした1/3オクターブバンド測定値)の音圧[dB]を表している。同グラフにおいて、実線は、固有振動姿態の音圧の「腹」となる場所を制御対象として、その場所の音圧を、共鳴体の共鳴により低減させた場合の結果を表す。ここでは、図3(a)に示すように、評価位置「5」を含む水平な面において、音場の4つの角部(稜線)にそれぞれ4つの音響管を配置した。また、ここでは、一端が開口し、他端が閉口した音響管を用いており、音響管の空洞に繋がる開口部が上記4つの角部に位置するように配置した。音響管の共鳴周波数については、160Hz帯域の共鳴周波数で共鳴するように設定した。図4のグラフにおいて、破線は、固有振動姿態の音圧の「節」となる場所を制御対象として、その場所の音圧を、共鳴体の共鳴により低減させた場合の結果を表す。ここでは、評価位置「7」を含む水平な面において、上記構成の音響管を上記同じ態様で配置した。また、同グラフにおいて、一点鎖線は、音響管を配置しない場合の測定結果を表している。
【0019】
図4に示すように、評価位置「5」である固有振動姿態の音圧の「腹」を制御対象とした場合、音響管の開口部に最も近い評価位置である、評価位置「5」での音圧が特に低くなっている(およそ62dB)。また、評価位置「5」に近接する、評価位置「3」、「4」、「6」、「7」においても音圧が90dB程度であり、音響管を設置しない場合に比べて、音圧が低くなっている。また、音響管から離れた位置にある評価位置「8」〜「15」においても、音響管を設置しない場合の測定結果と比較すると、20dB程度もの音圧の差異がある。これらの結果から、固有振動姿態の音圧の「腹」を制御対象とすることにより、その付近の音圧を大きく低減させるとともに、制御対象の音圧の腹の場所から離れた場所においても音圧が低減されていることが分かる。よって、上記態様の音響管の配置により、音場全体で静粛性が高められているが確認できた。この作用のことを、以下では、“モードを抑制する”や“モードの抑制”などと表現することがある。
【0020】
一方、図3(b)に示すように、評価位置「7」である固有振動姿態の音圧の「節」の場所を制御対象とした場合、音響管の開口部に最も近い評価位置である「7」での音圧は低くなっている(およそ76dB)。しかしながら、その他の評価位置については、音響管を設置しない場合の測定結果と比較しても、さほど効果が得られていない。この結果から、固有振動姿態の音圧の「節」を制御対象としても、音場全体の音圧を低減させる点においては不十分であり、モードを抑制する効果をほとんど得られない。
【0021】
以上のことから、空間Sにおいて静粛性を特に高めたい場所を評価場所として決め、特定の固有周波数の固有振動姿態の音圧の腹がその評価場所に位置している場合には、その音圧の腹を制御対象として共鳴体を配置すれば、効果的にモードを抑制することができる。その結果、上記測定試験の結果からも明らかなように、空間Sにおける広い場所で低周波数の音を減衰させることができるとともに、特に評価場所で奏する効果を高くすることができる。
以上の態様で空間Sに共鳴体を配置することにより、モードを抑制するための音響共鳴装置が空間Sに構成されることになる。
【0022】
ところで、空間Sにおいて決められる評価場所は、例えば以下のものが挙げられる。
空間Sが室空間であり、その室空間に座席が設けられているとする。この場合に、座席に座る人物の頭(耳)付近となる場所を含む評価場所を決め、この評価場所に固有振動姿態の音圧の腹が位置していたとする。このとき、この評価場所に位置する音圧の腹を制御対象とし、その付近に開口部が位置するように共鳴体を配置する。このようにすれば、空間全体の静粛性を高めることができるとともに、特に、利用者が音を聞き取る場所である評価場所で奏する効果を高めることができる。また、評価場所に開口部が位置するようにする配置のほか、固有振動姿態の別の音圧の腹の場所を制御対象とした場合であっても、その他の場所に開口部が位置するように共鳴体を配置する場合に比べれば、評価場所で奏する音圧の低減の効果を高くすることができる。
【0023】
なお、評価場所に位置する音圧の腹とは、例えば、あらかじめ決められた音圧を低減させたい場所(人物の耳が位置し得る場所など)から最も近い音圧の腹である。また、最も近い音圧の腹に限らず、音圧を低減させたい場所から固有周波数の音の波長に対して十分小さい距離の範囲内にある腹であってもよい。この距離は、例えば、固有周波数の波長の1/6の距離である。すなわち、評価場所に位置する音圧の腹は、音圧を低減させたい場所の騒音性を高める原因となる、上述の孤立した固有振動姿態の音圧の腹のことである。
【0024】
[共鳴体の構成]
次に、この実施形態で用いる共鳴体の構成について説明する。空間Sには、低周波数音を減衰させるための音響共鳴装置が構成されている。この音響共鳴装置は、共鳴することにより空間Sの音を減衰させる共鳴体を有している。この実施形態の音響共鳴装置が有している共鳴体は、板・膜共鳴体1、音響管2、及びヘルムホルツ共鳴体3の少なくともいずれかである。
【0025】
(板・膜共鳴体1)
まず、板・膜共鳴体1の構成を説明する。
図5は、板・膜共鳴体1の外観を模式的に表した図である。図6は、図5中の矢視VI−VIから板・膜共鳴体1を見た断面図である。
板・膜共鳴体1の構成は、筐体10と振動部15とに大別される。筐体10は、上面側の全体が開口する直方体の箱状の部材である。筐体10は、開口部12と、開口部12に通じる中空領域として、直方体の気体層13とを有している。筐体10は、例えば木材で形成されるが、振動部15よりも相対的に硬い素材であれば、例えば合成樹脂や金属など他の素材を用いてもよい。振動部15は、弾性を有し、板状又は膜状に形成された矩形の部材である。振動部15には、例えば合成樹脂、金属、繊維板などの、弾性を有し弾性振動を生じる素材を板状に形成したもの、又は弾性を有する素材や高分子化合物を膜状に形成したものが用いられる。振動部15は、その一方の面の端部付近の領域が筐体10によって支持されており、筐体10の開口部12を塞ぐようにして設けられている。開口部12が振動部15で塞がれることにより、板・膜共鳴体1の内部に閉じた気体層13が形成される。なお、気体層13は、気体粒子からなる層であり、ここでは空気分子からなる空気層である。
【0026】
板・膜共鳴体1は、気体層13が音を減衰させる対象とする空間に繋がるように配置される。空間に繋がるとは、空間の音圧が透過するような場所に、共鳴体の中空領域(ここでは、気体層13)が位置することをいう。空間に音が発生すると、その音の音圧に応じて板・膜共鳴体1は共鳴する。この共鳴により、空間の音圧と、板・膜共鳴体1の気体層13内の圧力とに差が生じる。この圧力差により振動部15が振動して、音響エネルギーが消費された後に、音響エネルギーが再放射される。この作用により、板・膜共鳴体1の表面であり、振動部15面近傍の空間で音圧が低減される。
【0027】
ところで、板・膜共鳴体1が共鳴することによって音圧が低減する周波数は、振動部15の質量成分(マス成分)と、気体層13のバネ成分とによるバネマス系の共鳴周波数によって定まる。このバネマス系の振動を「ピストン振動」と呼ぶ。また、振動部15は弾性を有しており、その面積が相対的に小さいが故に、筐体10での支持部拘束が振動部15に働く系では、弾性振動による屈曲系の性質が加わる。すなわち、板・膜共鳴体1は、「屈曲振動」をする振動部15と、振動部15の背後の気体層13とを有していることにもなる。
【0028】
次に、板・膜共鳴体1の設定条件について説明する。
まず、ピストン振動の共鳴周波数について説明する。媒質(気体)である空気の密度をρ0[kg/m3]、音速をc0[m/s]、振動体の密度をρ[kg/m3]、振動体の厚さをt[m]、空気層の厚さをL[m]とすると、ピストン振動の共鳴周波数fは下記式(2)の関係を満たす。
【数2】

【0029】
次に、屈曲振動の共鳴周波数について説明する。振動部15の形状が長方形で一辺の長さをa[m]、もう一辺の長さをb[m]、振動部のヤング率をE[Pa]、振動部のポアソン比をσ[−]、モード次数であるp,qを正の整数とした場合、ピストン振動に加えて発生する屈曲振動を含めた両者の共鳴周波数fは、下記式(3)の関係を満たすとされている。建築音響の分野では、このようにして求めた共鳴周波数fを音響設計に利用することも行われている。
【数3】

【0030】
以上のように、板・膜共鳴体1は、ピストン振動によって生じる共鳴と、屈曲振動によって生じる共鳴とを生じさせる。しかしながら、それぞれは独立して発生するものではなく、各共鳴の周波数が近接している場合には、バネマス系の共鳴と屈曲系の共鳴が連成して挙動し、板・膜共鳴体1の共鳴周波数が決定される。一方、バネマス系の共鳴周波数と屈曲系の共鳴周波数とが相対的に離れていると、各共鳴系は互いに影響を及ぼすが独立的に挙動する。これにより、屈曲系の基本振動が背後の気体層のバネ成分と連成して、バネマス系の共鳴周波数と屈曲系の基本周波数との間の帯域に振幅の大きな振動が励振され、音圧の減衰量が大きくなる。
【0031】
以上の作用により、板・膜共鳴体1によれば、比較的低い周波数の共鳴周波数を設定して、その周波数を中心とした帯域の音圧を低減させる点において好適である。より詳細には、発明者らは屈曲系の基本振動周波数の値をfa(=(1/2π)・((p/a)2+(q/b)2)・(π4Et3/(12ρt(1−σ2)))1/2)とし、バネマス系の共振周波数の値を、上記式(1)により表されるfbとした場合に、下記式(4)の関係を満足するように板・膜共鳴体1の各パラメータを設定したときに、比較的低い周波数帯域においても十分に音圧を低減させられることを発見した。
0.05≦fa/fb≦0.65 ・・・(4)
【0032】
これにより、屈曲系の基本振動が背後の気体層のバネ成分と連成して、ピストン振動の基本共鳴周波数と屈曲振動の基本共鳴周波数との間の帯域に振幅の大きな振動が励振されて(屈曲振動の基本共鳴周波数fa<音圧減衰量のピーク周波数f<ピストン振動の基本共鳴周波数fb)、共鳴現象が生じる。これにより、板・膜共鳴体1から逆位相の反射波が放射され、振動部15表面で音圧が低減する。
【0033】
さらに、板・膜共鳴体1の上記各パラメータを、以下の下記式(5)の関係を満足するように設定する場合、音圧の低減量がピークとなる周波数がピストン振動の共鳴周波数よりも十分に小さくなる。
0.05≦fa/fb≦0.40 ・・・(5)
例えば、160〜315Hz(1/3オクターブ中心周波数)において十分に音圧を低減させるためには、板・膜共鳴体1の各パラメータを以下の各値に設定する。ρ0=1.225[kg/m3]、c0=340[m/s]、ρ=940[kg/m3]、t=0.0017[m]、L=0.03[m]、a=b=0.1[m]、E=1.0[GPa]、σ=0.4、p=q=1。
【0034】
(音響管2)
次に、音響管2の構成を説明する。
図7は、共鳴体の一例として音響管2の構成を表した図である。
図7(a)は音響管2の外観を模式的に表した図である。図7(a)に示すように、音響管2は、複数本(例えば、5本)の管状部材21(21−1〜21−5)をその伸張方向に直交する方向に一列に並べた構成を有している。管状部材21は、固定具や接着などにより一体となるように構成される。各管状部材21は、例えば金属や合成樹脂などの素材を管状となるように形成されている。管状部材21は、開口部23と、開口部23に通じる中空領域25とを有している、いわゆる一端開口の管状部材(閉管)である。管状部材21の一端部は閉じられて閉口部22となり、他端部は開口部23となる。開口部23の位置が各管状部材21で一列に揃えられることにより、開口部23どうしが隣接して配置される。各管状部材21の開口部23のネック部分(つまり、開口部23またはその近傍)は、グラスウール、クロス、ガーゼ等の通気性を有し、流れ抵抗を有している流れ抵抗材24で塞いでもよい。空間の音圧を低減させる場合、適切な流れ抵抗材24を選択して使用することが望ましい。
【0035】
次に、音響管2によって奏する音圧の低減に係る作用について説明する。
図7(b)は、図7(a)に示す音響管2のうち隣接する2本の管状部材21−j,21−k(k=j+1)の断面を示した図である。管状部材21−jの中空領域25の長さをL1とし、管状部材21−kの中空領域25の長さをL2とするが、ここではすべての中空領域25の伸張方向の長さは等しい(つまり、L1=L2)とする。開口部23の位置に空間からの音波が入射すると、音波は、開口部23−j,23−kから中空領域25内に入射して他端の閉口部22−j,22−kで反射されて、開口部23−j,23−kから再びに放出される。このとき、中空領域25の長さL1、L2の4倍に相当する波長λc(L1=L2=λ/4)の音波が定在波SW1、SW2を作り、振動を繰り返すうちに管状部材21の内壁面での摩擦や開口部23−j,23−kでの気体分子間の粘性作用により、エネルギーを消費し、この波長λcを中心に開口部23近傍で音圧が低減する。ここではL1=L2=0.53mであり、λc=2.12mとなる。
【0036】
音響管2は、中空領域25が音を減衰させる対象とする空間に繋がるように配置される。これにより、各管状部材21の開口部23に音が入り込んで音響管2は共鳴し、その付近で音圧を低減させる。ここでは、共鳴周波数fは、例えば160Hz帯域で音圧を低減させるものである。この場合、例えば160Hzの周波数の音波の波長の1/4の長さとなるよう。中空領域25の伸張方向の長さを設定するとよい。例えば、中空領域25の伸張方向の長さを、およそ40cm〜80cm程度の複数種類にするとよい。
【0037】
また、閉口部22−j,22−kで反射されて、開口部23−j,23−kから放出される音波は、開口部23−j,23−kで回折してエネルギーを放射する。そのエネルギーの一部は相互に隣接する他方の管状部材21−j,21−kの開口部23−j,23−kから空洞内に入射される。このようにして、互いに隣接する管状部材21−j,21−k相互間で連成振動を生じ、エネルギーの授受が行われる。この連成振動の際に、空洞の内壁面での摩擦や開口部23−j,23−kでの気体粒子間の粘性作用により、エネルギーを消費し、音圧が低減する。この連成振動は、管状部材21を一連の管状部材とみなした両端閉管モードとして捉えることができ、L1+L2として定まる波長の周波数を中心に音圧が低減する。
なお、ここでは、音響管2を構成する管状部材21が5本としていたが、その数はいくつであってもよい。この実施形態では、5本の管状部材21からなる音響管2、又は1本の管状部材21からなる音響管2(すなわち、管状部材21)を用いる。
【0038】
(ヘルムホルツ共鳴体3)
次に、ヘルムホルツ共鳴体3の構成を説明する。
図8は、ヘルムホルツ共鳴体3の構成を説明する図である。図8(a)は、その外観を模式的に表した図であり、図8(b)は、図8(a)中の矢視VIII−VIIIからヘルムホルツ共鳴体3を見た断面図である。ヘルムホルツ共鳴体3は、胴部31と管部32とによって構成されている。このヘルムホルツ共鳴体3において、胴部31及び管部32内に形成される空間が中空領域となって、この中空領域が開口部33に通じる構成となっている。
胴部31は、内部に気体層が形成され、例えばFRP(繊維強化プラスチック)によって円筒状に形成されている。管部32は、例えば塩化ビニール製のいわゆる両端開口の管状部材を成しており、胴部31の孔部に挿入されて両者は連結されている。ヘルムホルツ共鳴体3は、胴部31及び管部32内に形成される空間が、音を減衰させる対象とする空間に繋がるように配置される。これにより、開口部23に音が入り込んでヘルムホルツ共鳴体3は共鳴し、開口部33付近の音圧を低減させる。より詳細には、ヘルムホルツ共鳴体3は、管部32の内部にある気体を質量成分とし、胴部31の気体層をバネ成分としたバネマス系を形成し、管部32の内壁と空気との摩擦によって音のエネルギーが熱エネルギーに変換されて開口部33付近で音圧を低減させ、また粒子速度を増大させる。ヘルムホルツ共鳴体3のバネマス系の共鳴周波数fは、式(6)の関係を満たす。ただし、式(5)において、Leは管部32の有効長を表す。図8(b)に示すように、有効長Leは、管部32の空洞の一端から他端までの長さを、開口端補正値で補正した長さである。また、Vは胴部31内に形成された気体層の体積(すなわち容積)であり、Soは開口部33の面積である。
f=c0/2π・(So/Le・V)1/2 ・・・(6)
なお、管部32の数をここでは1本としているが、2本など管部32を複数設けるようにしても良い。また、管部32の開口部33又はその近傍には、グラスウール、クロス、ガーゼ等の通気性を有し、流れ抵抗を有している流れ抵抗材で塞がれていてもよい。
【0039】
以上説明した構成を有する共鳴体は、例えば図3(a)を用いて説明した上述の配置態様で配置され、評価場所に応じて、その開口部の位置が定められる。そして、この共鳴体は、評価場所に音圧の腹が位置する特定の固有周波数の固有振動姿態について、その音圧の腹の場所を制御対象とし、その場所の音圧を共鳴により低減させる。空間Sに構成された音響共鳴装置によって奏する、このような作用によりモード抑制に係る効果を奏する。
【0040】
[その他の態様1]
上記では、部屋などの室空間である空間Sに音響共鳴装置を構成する場合について説明したが、音響共鳴装置を備えたスピーカエンクロージャを構成することもできる。スピーカエンクロージャには不要共振を吸収するために多孔質材などの吸音材を設けることがあるが、この態様では、この吸音材に代えて、又はこの吸音材と併用して音響共鳴装置を構成する。
図9は、スピーカシステム40の外観を示す斜視図である。図10は、スピーカシステム40を図9に示す切断線X−Xで切断した場合の断面図である。スピーカシステム40は、外形が直方体の箱状部材であるスピーカエンクロージャ41を備える。ここでは、この各辺の方向に各軸が延びるよう、図9に示すxyz直交座標系を定める。また、図10には、z軸方向(つまり、スピーカシステムの高さ方向)に音圧が分布する二次の固有振動姿態を示す。
【0041】
スピーカシステム40は、スピーカエンクロージャ41と、スピーカユニット42,43とを有している。スピーカエンクロージャ41は、略直方体状の密閉型の箱状部材であり、その内部の空間と、外部の空間とを仕切る部材である。スピーカエンクロージャ41は、その内側の壁面によりスピーカユニット42,43の背後に直方体状の空間S1を構成する。スピーカエンクロージャ41の1つの側面にはスピーカ取付部が設けられ、このスピーカ取付部に、音源であるスピーカユニット42,43が取り付けられる。スピーカユニット42はツイータとして機能するものであり、スピーカユニット42はウーファとして機能するものである。スピーカユニット42の寸法は、スピーカユニット43のそれに比べてかなり大きい。スピーカエンクロージャ41に取り付けられたスピーカユニット42,43は、その背面側の部位が空間S1に面している。
【0042】
図10に示すように、z軸方向に音圧が分布する二次の固有振動姿態にあっては、空間S1のz軸方向に対する中央付近と、xy平面に平行な内壁面との位置とに音圧の「腹」が現れる。この音圧分布に着目すると、空間S1の中心付近にある音圧の「腹」は、スピーカユニット43の位置に近接する。よって、スピーカユニット43には空間S1側からの高い音圧による音響加振に晒され得る。この音響加振は、スピーカユニット43から放音される音の質が低下する原因となり得る。そこで、この態様では、スピーカユニット43のうち空間S1に面している部位における音圧が低減されるよう、この部位の場所を含む評価場所を決める。そして、音響共鳴装置によって、この評価場所に位置する音圧の腹を制御対象としてモードを抑制する。
【0043】
図11は、音響共鳴装置を備えたスピーカシステム40の構成の一例を示す図である。図11(a)は音響管2を設けた場合を例示したものであり、図11(b)は、板・膜共鳴体1を設けた場合の構成を例示したものである。また、図11において、一点鎖線で示した領域は、図10に示す固有振動姿態の音圧の腹となる場所を表しており、この場所に板・膜共鳴体1の振動部15(つまり、開口部12)、或いは音響管2の開口部23が位置するように共鳴体が設けられる。図11(a)に示す例では、スピーカエンクロージャ41の内側の面において、z軸方向に対して中心付近の領域に、開口部23が位置するよう音響管2が設けられている。図11(b)に示す例では、スピーカシステム40のスピーカエンクロージャ41の内壁面において、z軸方向に対する中心付近の領域に振動部15が位置するように板・膜共鳴体1が設けられている。この音響共鳴装置の構成により、スピーカユニット43に与えられる音響加振が抑制され、スピーカユニット43において生じ得る音質の低下を抑制し得る。
なお、図示のように、管状部材21は伸張方向がy軸方向に沿うように設けられてもよく、開口部23の位置が音圧の「腹」を制御対象としていればよい。また、これら共鳴体が、スピーカエンクロージャ41の内壁面に取り付けられる構成でもよく、その固定方法は特に問わない。また、ヘルムホルツ共鳴体3の取り付け例については図示しないが、板・膜共鳴体1と同様の取り付けが可能であり、管部32の開口部33が、音圧の腹の場所を制御対象とするように配置されればよい。
【0044】
[その他の態様2]
次に、音響共鳴装置を備えた楽器の一例である電子鍵盤楽器について説明する。
図12は、電子鍵盤楽器50の外観を示す斜視図である。図13は、図12中の切断線XIII-XIIIで電子鍵盤楽器50を切断した場合の断面を表す図である。なお、図12に示すように、鍵盤52の長手方向をx軸方向と定めた図示のようなxyz直交座標系を定める。
電子鍵盤楽器50は筐体部51を有しており、筐体部51の内部に電子音源等の種々の構成要素が設けられている。筐体部51は、鍵盤52を支持する上方筐体部51Aと、上方筐体部51Aの下方側に位置する下方筐体部51Bとを有している。上方筐体部51Aには、鍵盤52が支持されるとともに、鍵盤52のやや上方中央部には操作画面やスイッチ群等が配置された操作パネル53が設けられている。下方筐体部51Bの演奏者側の面の左右側端部付近に、音源であるメインスピーカ55が設けられる。下方筐体部51Bは、メインスピーカ55から放音された音波が伝搬する内部空間を有している。
以上の構成を有している電子鍵盤楽器50は、演奏者に押下された鍵に応じて、音CPU(Central Processing Unit)等を備えた楽音信号発生装置が楽音信号を発生し、その楽音信号に応じた楽音をメインスピーカ55から放音させる。
【0045】
図13は、下方筐体部51Bを切断線XIII-XIIIで切断した場合の断面を表す図である。なお、同図において、メインスピーカ55の図示を省略する。
図13に示すように、下方筐体部51B内部にあっては、x方向に比較的大きな寸法の空間S2が形成されている。一般的な構成の電子ピアノにあっては、鍵盤52の鍵の配列方向の長さはおよそ1.4mであり、空間S2もx軸方向にこれとほぼ同じ長さであるとする。この場合、x軸方向に音圧が分布する固有振動姿態の固有周波数には、例えば121Hz(nx=1),243Hz(nx=2)がある。このような比較的低い固有周波数の不要共振が生じると、共振によって生じる音が演奏音に混ざって、この固有周波数付近の音の質が低減するという不具合が生じ得る。また、不要共振などを原因として、ビリツキと呼ばれる振動が筐体部51において発生することがある。この振動により、特定の周波数の音においては、楽音とビリツキに起因する音とが混変調して音の濁りを生じてしまうことがある。
【0046】
そこで、電子鍵盤楽器50には、以下の構成の音響共鳴装置を構成すればよい。
例えば、図13(a)に示すように、一次の固有振動姿態にあっては筐体部51のx軸方向の端部付近の領域に音圧の腹が位置する。この付近にはメインスピーカ55が位置するから、メインスピーカ55を含めた評価場所を決めてモードを抑制すれば、メインスピーカ55への音響加振を抑制することができる。ここでは、音圧の腹が位置する方向を振動部15が向くように、下方筐体部51Bの内側の面に板・膜共鳴体1を設けている。また、図13(b)に示すように、この音圧の腹の場所に開口部23が位置するよう、音響管2を配置してもよい。また、二次の固有振動姿態にあっては、下方筐体部51B内のx軸方向に対する端部付近のほか、中央付近にも音圧の腹が位置する。よって、図13(c)に示すように、この場所で音圧が低減するように板・膜共鳴体1を設けるようにしてもよい。また、図13(d)に示すように、下方筐体部51B内のx軸方向に対する中央付近に開口部23が位置するように、音響管2を配置してもよい。なお、図示しないが、ヘルムホルツ共鳴体3についても同様の配置が可能である。
以上の音響共鳴装置の構成により、空間S2のモード抑制することにより、不要共振やビリツキを原因とした、電子鍵盤楽器50の演奏音の質の低下の発生を抑制することができる。
[その他の態様3]
【0047】
次に、音響共鳴装置を備えた楽器の一例であるギターについて説明する。
図14は、ギター60の外観を示す外観図である。同図に示すように、ギター60の構成は、胴部61と、胴部61に取り付けられたネック62と、ネック62の先端に設けられたヘッド63とに大別され、ヘッド63には糸巻が取り付けられている。また、胴部61の表板61Aには、サウンドホール64が空けられている。弦Sは下駒に固定された状態で、糸巻に巻き取られることにより張設される。ギター60において、木材で形成された胴部61は、表板61A、裏板61B、側板61Cとを有しており、表板61A及び裏板61Bの中央付近にくびれた部分を有する形状で内部が中空となっている。表板61Aと裏板61Bは同じ形状であり、表板61Aと裏板61Bとは、各々対向するように側板61Cを挟んで側板61Cに対して接着されている。ギター60にあっては、弦Sが音源となる。胴部61は、その内部空間を弦Sにより発せられた音波が伝搬する筐体部となる。
【0048】
図15は、ギター60を表板61Aを裏側から見た外観の様子を示す平面図である。
図15に示すように、この態様では、表板61Aの裏側であり、胴部61の内部に形成される空間S3に通じている面側に音響管2が取り付けられることで、音響共鳴装置が構成される。ここでの音響管2の管状部材21は、共鳴体であるとともに、表板61Aを均一に振動させるために設けられる棒状の補強材、兼振動伝達材としても機能するように設けられている。ギターにおいては、ある特定の音を鳴らすと、この音に応じて胴部61の内部の空間S3で不要共振が生じ、ウルフトーンと呼ばれる異常音を生じることがある。ウルフトーンは、弦振動による本来の音と、胴部61内の共振によって生じる音とが混在して生じる細かいうなりであり、このウルフトーンが楽器本来の音を妨げる原因となってしまうことがある。このように、特定の音程において、演奏者の意に反した音が発生し、演奏音の質を低減させる不具合が生じることがある。そこで、この態様では、演奏音に混在する異常音を抑えるための音響共鳴装置を構成する。
【0049】
この音響共鳴装置における評価場所は、音源である弦Sの場所を含んでおり、この評価場所に固有振動姿態の音圧の腹が現れることがある。そこで、この態様では、図15に示すように、サウンドホール64の位置を中心として、そこからの放射方向と、管状部材21の伸張方向とが概ね一致するようにして、音響管2の管状部材21をそれぞれ設ける。管状部材21の開口部23の位置は、空間S3における音圧の腹の場所付近に一致させている。
なお、空間S3における固有振動姿態の音圧の腹は、側板61Cの空間S3に面する側の面に位置することが考えられる。よって、この腹の音圧を低減させるように、側板61Cに共鳴体を設けてもよい。また、表板61A及び裏板61Bに垂直な方向に管状部材21の伸張方向が延びるよう音響管2を適宜曲げて設けてもよい。また、共鳴体として板・膜共鳴体1やヘルムホルツ共鳴体3を用いてもよいのはもちろんである。
以上の構成により、ギター60に設けられた音響共鳴装置は、空間S3の不要共振を抑制し、その結果、演奏音の質の低下という不具合の発生が抑制される。
【0050】
[その他の態様4]
次に、音響共鳴装置を備えた乗り物の一例である自動車について説明する。
図16は、自動車70の外観を示す外観図である。図17は、自動車70の車室(車室74)の内部を模式的に示す図である。
自動車70においては、車体の基台となるシャーシに、ボンネット71、自動車70の出入り口となる4枚のドア72、及びトランクドア73がそれぞれ開閉自在に取り付けられる。また、シャーシは、ルーフ78を支える支柱である複数のピラー75を有している。自動車70の内部の空間であってドア72の内側には車室74が構成されている。車室74は、自動車70の車体を壁部とし、この壁部の壁面に囲まれて構成される空間である。
【0051】
車室74においては、エンジン音や、タイヤや路面からひろうロードノイズなど、例えば125Hz〜300Hzの比較的低い周波数の音が響き、乗車者にとってはこれを騒音と感じやすい。そこで、この態様では、乗車者の乗車領域に設けられた前部座席76、後部座席77がある場所を評価場所として、音響共鳴装置を構成する。自動車70においては、車幅方向が例えば1.0〜1.5m程度である。よって、この場合も、車幅方向に音圧が分布する軸波によって、160Hz帯域の固有振動姿態の音圧の腹が生成され得る。そして、この音圧の腹は、運転席及び助手席となる前部座席76や後部座席77に面しているドア72付近に現れることがある。この音圧の腹は、より詳細にはドア72における状側の領域であるサイドウィンドウ付近に現れる。そこで、この態様では、サイドウィンドウ付近を含む評価場所を決めて、車室74に音響共鳴装置を構成する。この音響共鳴装置によって、車室74のモードを抑制することにより、車室74における低周波数の音を減衰させつつ、乗車者が居る場所での静粛性を特に高めることができる。
【0052】
以上説明した実施形態の音響共鳴装置によれば、空間における低周波数の音を減衰させるとともに、特に、評価場所で奏する効果を高くすることができる。したがって、楽器やスピーカシステムに音響共鳴装置を構成すれば、音源から発せられる音の質の低下を抑制することができる。また、部屋や車室などの室空間に音響共鳴装置を構成すれば、例えば人物がいる場所などの特定の場所での騒音の発生を、効果的に抑制することができる。
【0053】
[変形例]
本発明は、上述した実施形態と異なる形態で実施することが可能である。また、以下に示す変形例は、各々を適宜に組み合わせてもよい。
(変形例1)
以上説明した実施形態においては、共鳴体として、板・膜共鳴体1、音響管2、及びヘルムホルツ共鳴体3を用いていたが、これら各種類の共鳴体を適宜組み合わせて空間に設けるようにしてもよい。また、共鳴体の種類はこれらに限定されるものではなく、共鳴することによって音圧を低減させることのできる共鳴体であればよく、この共鳴体は、中空領域が開口部を介して空間に繋がるように設けられるとよい。また、共鳴体は、評価場所に最も近くある音圧の腹を制御対象として、その腹の場所において音圧を低減させるよう、その近傍に開口部が位置するように設けられることが好ましい。より好ましくは、評価場所に開口部が位置しているとよい。
【0054】
上述した実施形態では、評価場所に位置する音圧の腹の場所を制御対象として、モードを抑制していた。これに対し、評価場所に音圧の腹が位置する固有振動姿態について、少なくともいずれかの音圧を低減させれば、モードが抑制される。よって、評価場所以外の音圧の腹の場所を制御対象として、モードを抑制しても、その他の場所に共鳴体を配置する場合に比べて、モードの抑制に係る効果は大きい。
【0055】
(変形例2)
上述した実施形態において、固有振動姿態の音圧の腹となる場所の音圧を低減させるための共鳴体を設けていたが、その場所での媒質粒子の運動速度(つまり、粒子速度)を増大させるための共鳴体を設けるようにしてもよい。媒質粒子の運動速度は、より詳細には、媒質粒子が振動する速度である。
固有振動姿態の音圧の腹となる場所では、音圧が極大となっているのに対し、粒子速度については極小となっている。このような粒子速度が小さい場所でそれを増大させる作用を生じさせることによっても、固有振動姿態の態様に変化を生じさせることになり、空間全体の静粛性を高めることに寄与させることができる。この構成においても、本来、固有振動姿態の音圧の腹の出現により音圧が高くなっていた場所の媒質に共鳴による作用を生じさせることで、実施形態と同様の効果を奏するというわけである。
【0056】
この変形例の共鳴体としては、例えば音響管を用いることができる。音響管の中空領域にあっては、閉口端での粒子速度が零となる境界条件に合致するように定在波が存在して、例えば1次の共鳴周波数(最低共鳴周波数)では、開口部での粒子速度が極大となる。よって、開口部の位置を、固有振動姿態において音圧の腹となる場所や、その近傍に配置すれば、その場所での粒子速度を増大させることができる。なお、音響管2を用いて粒子速度を増大させる場合は、流れ抵抗材24を使用しない方が望ましい。流れ抵抗材24を設けない場合の方が、共鳴によってより大きな粒子速度を発生させることができるからである。また、板・膜共鳴体1やヘルムホルツ共鳴体3を用いた場合であっても、板・膜共鳴体1の振動部15や、ヘルムホルツ共鳴体3の開口部33の位置で粒子速度を増大させることができる。
なお、粒子速度の増大に係る上記構成は一例に過ぎず、共鳴することにより粒子速度を増大させることのできる共鳴体を用いることができる。要するに、固有振動姿態において音圧の腹となる場所に粒子速度を増大させる作用を生じさせるように、共鳴体の配置態様を決めればよい。
【0057】
(変形例3)
上述した実施形態では、空間において、一次元モードの音圧分布に着目して音響共鳴装置を構成していたが、二次元モード、及び三次元モードのどの方向の波の固有振動姿態に着目して、その音圧分布の腹となる場所の音圧を低減させるようにしてもよい。要するに、あらかじめ決められた評価場所に音圧の腹が位置する固有振動姿態について、少なくともいずれかの音圧の腹の場所におけるその固有周波数の音圧を、共鳴体が共鳴することにより低減させる構成であればよい。
【0058】
ここで、図18は、実施形態の空間Sをz軸方向に見たときの固有振動姿態を表す図である。図18に示すように、例えば、nx=1,ny=1とした固有振動の「腹」及び「節」の位置は、図18(a)のようになるし、nx=2,ny=1とした固有振動の「腹」及び「節」の位置は、図18(b)のようになる。このように、二次元モードの固有振動にあっては空間Sの隅部が腹となる。また、三次元モードであっても、式(1)の関係から理想的な空間の固有振動姿態は求まり、また、有限要素法を用いて腹の場所を特定することができる。また、不整形室など、その他の形状の空間であっても、FEMを用いた計算やマイクや音源などを用いた実測により固有振動姿態を求めて音圧の腹の場所を特定すれば、実施形態で説明したとおりの実施が可能である。
【0059】
(変形例4)
上述した実施形態の[その他の態様2]では、電子ピアノである電子鍵盤楽器50に音響共鳴装置を備えるようにしていたが、これ以外のタイプのピアノに音響共鳴装置を備えるようにしてもよい。
【0060】
図19は、この変形例のピアノ80の外観を示す斜視図であり、図20は、ピアノ80を上側から見たとき(大屋根85を除く。)の外観を示す平面図である。なお、ピアノフレームおよび弦などの図示を省略する。
ピアノ80は、ここではアコースティックピアノであり、その筐体内の空間にはアクション機構(図示略)が配置されている。ピアノ80において、棚板81の上方には鍵盤82が設けられている。鍵盤82は、ピアノ80の演奏者から見て左右方向に1方向に並べて配置された複数の鍵を有しており、各鍵を押し下げて演奏するようになっている。ピアノ80の筐体内においては演奏者によって鍵が押下されると、ハンマアクション機構が作動し、ハンマが打弦する。ハンマによって打撃された弦は、その衝撃によって振動し、その振動が駒を介して響板83へ伝えられる。そして、響板83が振動することにより楽音が奏でられるようになっている。また、響板83の上側には、大屋根85が配置されており、演奏時には必要により開けた状態や閉めた状態にされる。
【0061】
ピアノ80においては、その筐体に大屋根85に面している饗板83と、側板86と、大屋根85が閉められた場合にはこの大屋根85とからなる、ピアノ80の筐体部に囲まれた空間S4が構成されている。空間S4において不要共振が生じると、空間S4を介して外部に伝播する演奏音の質が低減してしまうことがある。そこで、この空間S4のモードを抑制するための音響共鳴装置を構成してもよい。例えば、ピアノ80においては、音源となる響板や大屋根85を含む評価場所に含めておく。そして、共鳴体の設置にあっては、例えば図20に示すように、ピアノ80の筐体内の空間に共鳴体(ここでは、音響管2)を設けておき、上記空間S4に生成される固有振動姿態についてモードを抑制させるための配置を行う。
この構成において、ピアノ80の筐体内の別の空間の固有振動姿態のモードを抑制するよう音響共鳴装置を構成してもよい。また、グランドピアノなどの他の種類のピアノに音響共鳴装置を構成してもよい。
【0062】
(変形例5)
上述した実施形態の[その他の態様2]では、鍵楽器として電子ピアノの構成について説明したが、例えば、電子オルガンやポータブルキーボードなどの電子鍵盤楽器に、音響共鳴装置を備えてもよい。電子オルガンにあっては、幅方向(図12のx軸方向に対応)の長さがおよそ1mであり、この方向に音圧が分布する固有振動姿態により、およそ170Hz,340Hz付近の不要共振が生じ得る。よって、この固有周波数の固有振動姿態を対象としてモードを抑制してもよい。
上述した実施形態の[その他の態様3]では、弦楽器としてギターの構成について説明したが、ギターに限らず、ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器であってもよい。これ以外にも、マリンバや木琴などの木管楽器でもよいし、金管楽器に適用してもよい。要は、音源と、音源から発せられた音波が伝搬する筐体部とを有する楽器であって、不要共振の生じ得る空間を持つ楽器であれば、上記音響共鳴装置を適用可能である。
以上のように、楽器にあっては、音源(つまり、発音体)を含む場所を評価場所にすることが好適であり、この音源には、上述した実施形態のように、電子楽器のスピーカや、ピアノの響板のほか、ギターの弦やコマなどがある。また、電子楽器にあっては、スピーカのほか、楽音信号を発生する発信器を音源として、この音源を含む評価場所を定めてもよい。
【0063】
(変形例6)
上述した第3実施形態において、ヘルムホルツ共鳴体3の管部32は、その長さが自在に変えられる構成に変形されてもよい。図21はこの態様の管部32aの構成の一例を示す図であり、図21(a)は管部32aの伸張方向の断面図であり、図21(b)は管部32aを(a)の開口部323側から見た図である。
図21に示すように、管部32aは、内管322及び外管321からなる。内管322は、管状の部材で、その外周面に雄螺子を構成する溝が設けられている。この内管322は、胴部31に回り止めされた状態で固定されている。外管321は、内径が内管322のそれよりも大きい管状の部材であり、その内周面に雌螺子を構成する溝が設けられている。管部32aは、外管321に対して内管322がねじ込まれることによって構成されており、管部32aの全長、すなわち管部32aの長さLは、内管322に対する外管321のねじ込み具合によって決まる。図21(b)に示すように、外管321の外周は六角柱状であり、ユーザはスパナ等の工具を用いてねじ込み具合を調整することにより、管部32aの長さLを自在に変えることができる。上述したように、ヘルムホルツ共鳴体3の共鳴周波数は管部32aの長さによって決まるから、必要に応じて共鳴周波数を調整することができる。
なお、管部32aの長さを変えるために、内管322及び外管321が螺子部材を構成するようにしていたが、3つ以上の螺子部材から構成されていてもよいし、蛇腹状の管を用いてもよく、管部32aを伸縮可能にする種々の構成を用いることができる。また、外管321の外周は六角柱状でなくてもよいが、ユーザが管部32aの長さを調整しやすいように加工されていることが好ましい。
【0064】
(変形例7)
また、変形例6の構成において、管部32aの長さの調整を自動化してもよい。この場合、管部32aの長さを調整する、例えばマイクと、周波数解析装置と、コントローラと、駆動装置かならなる自動調整機構を設ける。自動調整機構にあっては、マイクによって音を収音し、周波数解析装置がこの収音された音を表す信号を解析して、特に騒音が大きい周波数を特定する。コントローラは、特定された周波数に応じたヘルムホルツ共鳴体3の管部32aの長さを算出し、ソレノイド等からなる駆動装置に、その長さに応じた駆動信号を出力する。駆動装置は、駆動信号に応じてヘルムホルツ共鳴体3の管部32aの長さを調整し、特に騒音が大きい周波数の音圧を低減することができる。なお、管部32aを駆動をする際に、コントローラはフィードバック制御を行ってもよい。
また、上述の実施形態の伸縮に係る構成を利用するなどして、上述のヘルムホルツ共鳴体3の胴部31の寸法を可変にしても良い。この場合、胴部31内に形成された気体層の体積が変化し、共鳴周波数を可変にすることができる。また、音響管2についても、同様の構成によって伸張方向の長さを調整自在にしてもよい。
【0065】
(変形例8)
上述の実施形態では、特定の固有周波数の固有振動姿態の音圧の腹となる場所の音圧を低減させる位置に共鳴体を配置し、その共鳴周波数もこの固有周波数での音圧の低減量が高くなるように設定していたが、それとは異なる周波数の音を減衰させるための共鳴周波数としてもよい。
例えば、[その他の態様4]の自動車70の走行時には、タイヤが加振源(つまり、車室74に振動を与える源)となって自動車70に振動が生じ、その振動に起因する騒音が生じることがある。これにより、例えば、車室74の固有周波数が167Hzであっても、車室74において音圧が最も高くなる周波数が例えば155Hzとなり、それぞれが同じ制御対象の周波数帯域内にあっても若干異なることがある。この同じ制御対象の周波数帯域は、例えば160Hz帯域である。そこで、共鳴体の位置は上記各実施形態のように固有振動姿態に着目して選定し、共鳴周波数については、この加振により生じる音に応じて決めてもよい。つまり、特定の固有周波数と、外部から車室74への加振により生じる音の周波数(以下、「加振周波数」という。)とが異なる場合に、固有周波数の音圧と振動とにより励振された音が発生することがある。そこで、この周波数の音圧を、共鳴体が共鳴することにより低減させてもよい。すなわち、車室74の振動により励振されて音圧が高くなる周波数で音圧低減の効果を奏するよう、共鳴体の共鳴周波数を設定する。例えば、160Hz帯域の固有振動姿態の音圧の腹を制御対象として共鳴体を配置し、その共鳴体が155Hzで共鳴するように設定するというわけである。なお、加振による振動の周波数と、固有周波数とは同一の所定周波数帯域に含まれることになるが、共鳴体が、両方の周波数の音圧を低減させ得るような所定周波数帯域であればよく、160Hz帯域に限定されない。
【0066】
また、この構成において、自動車70の走行時おいて、変形例8の構成を用いて加振により生じる音のピーク周波数に共鳴周波数を合わせるよう制御を行ってもよい。特に、自動車のように加振周波数が変動する場合(走行時)では、固有周波数は音場固有の一義的な特性だが、加振側の特性(加振周波数特性)が時々刻々変動するので、必ずしも、固有周波数の特性がそのまま出現しない。従って、共鳴周波数を加振周波数に合わせるように、コンピュータなどの制御装置が自動制御して、室内騒音を効果的に低減する。加振周波数は、速度、エンジン回転数、アクセル開度、ギア位置等のパラメータから算出すればよい。
また、自動車に限らず、空間を構成する面に与えられる振動により励振されて、その空間での音圧が高くなる周波数が存在することがあるから、この励振により音圧が高くなる周波数で音圧低減の効果を奏するよう、共鳴体の共鳴周波数を設定してもよい。
【0067】
(変形例9)
また、共鳴体の共鳴周波数を固有周波数に設定しないで、共鳴体が設置される空間と、共鳴体が持つ筐体の空間との連成振動に係る相互作用により、その固有周波数の音圧を低減させるようにしてもよい。実施形態で説明した共鳴体そのもののほか、共鳴体が設けられる空間も一種の共鳴体とみなすことができるからである。これら相互関係から上記連成振動が生じ、共鳴体と空間(音場)間でエネルギーの授受が行われて、別の周波数帯域で音圧低減の効果が発現することがあるからである。
【0068】
(変形例10)
上述の実施形態では、板・膜共鳴体1の構成を、矩形状の筐体10、筐体10の開口部を塞ぐ振動部15と、筐体10内に形成される気体層13とを備えるものであったが、筐体の形状は矩形状に限らず、円形状や多角形状であってよい。また、いずれの形状の筐体であっても、振動部15に対して振動条件を変更するための集中質量を、振動部15の中央部に設けることが望ましい。
ところで、板・膜共鳴体1は、先にも説明した通り、バネマス系と屈曲系で吸音メカニズムが形成されている。ここで、発明者らは、振動部15の面密度を変えた際の共鳴周波数における吸音率の実験を行った。
【0069】
図22は、気体層13の縦と横の大きさが100mm×100mmで厚さが10mmの筐体10に振動部15(大きさが100mm×100mm、厚さ0.85mm)を固着し、中央部(大きさが20mm×20mm、厚さ0.85mm)の面密度を変化させた際の板・膜共鳴体1の垂直入射吸音率のシミュレート結果を示した図である。なお、シミュレート手法は、JIS A 1405−2(音響管による吸音率及びインピーダンスの測定−第2部:伝達関数法)に従って、上記板・膜共鳴体1を配置した音響室の音場を有限要素法により求め、その伝達関数より吸音特性を算出した。具体的には、中央部の面密度を、(1)399.5[g/m2]、(2)799[g/m2]、(3)1199[g/m2]、(4)1598[g/m2]、(5)2297[g/m2]とし、周縁部材の面密度を799[g/m2]とし、振動部15の平均密度を、(1)783[g/m2]、(2)799[g/m2]、(3)815[g/m2]、(4)831[g/m2]、(5)863[g/m2]とした場合のシミュレーション結果である。シミュレートの結果を見ると、300〜500[Hz]の間と、700[Hz]付近において吸音率が高くなっている。
【0070】
700[Hz]付近で吸音率が高くなっているのは、振動部15のマスと気体層13のバネ成分によって形成されるバネマス系の共鳴によるものである。板・膜共鳴体1においては上記バネマス系の共鳴周波数での吸音率をピークとして音が吸収されており、中央部の面密度大きくしても、振動部15全体のマスは大きく変わらないので、バネマス系の共鳴周波数も大きく変わらないことが分かる。また、300〜500[Hz]の間で吸音率が高くなっているのは、振動部15の屈曲振動によって形成される屈曲系の共鳴によるものである。板・膜共鳴体1においては、屈曲系の共鳴周波数での吸音率が低音域側のピークとして表れており、中央部の面密度を大きくしていくと屈曲系の共鳴周波数だけが低くなっていることが分かる。一般に、屈曲系の共鳴周波数は、振動部15の弾性振動を支配する運動方程式で決定され、振動部15の密度(面密度)に反比例する。また、共鳴周波数は、固有振動の腹(振幅が極大値となる場合)の密度により大きく影響される。このため、上記シミュレーションでは、1×1の固有モードの腹となる領域を中央部で異なる面密度に形成したので、屈曲系の共鳴周波数が変化したものである。
【0071】
このように、シミュレーション結果は、中央部の面密度を周縁部の面密度より大きくすると、吸音のピークとなる周波数のうち、低音域側の吸音率のピークがさらに低音域側へ移動することを表している。従って、中央部の面密度を変更することにより吸音のピークとなる周波数の一部をさらに低音域側または高音域側に移動させることができることを表している。上述した板・膜共鳴体1においては、中央部の面密度を変えるだけで、吸音される音のピークの周波数を変えることができるため、振動部15を板・膜共鳴体1全体と同じ素材で板状に形成し、板・膜共鳴体1全体の質量を重くして吸音する音を変更する場合と比較して、板・膜共鳴体1全体の質量を大きく変えることなく吸音が発現する周波数を低くすることができる。
さらに、板・膜共鳴体1の気体層13内には、多孔質吸音材(例えば、発泡樹脂、フェルト、ポリエステルウール等の綿状繊維)を充填することにより、共鳴特性を変化させてもよい。このようにすれば、固有振動姿態の変更や発生騒音の変更により車室内の騒音特性が変化することにも対応できる。
【0072】
(変形例11)
上述した実施形態において、複数の共鳴体を設ける場合に、それぞれ共鳴周波数が異なっていてもよい。これにより、音圧が低減される周波数の範囲を広げることができるし、場所に応じた最適な周波数の音を減衰させることができる。つまり、共鳴体を1又は複数単位でグルーピングし、各グループによって共鳴の共鳴周波数がそれぞれ異なるようにしてもよい。また、音響管2やヘルムホルツ共鳴体3についても同様にしてもよい。
また、上述した実施形態では、音響管2の管状部材21の一方の端部が開口部23となり、他方の端部が閉口部22となる、いわゆる閉管であったが、例えば、各管状部材21の両端部が開かれた管(いわゆる開管)で構成してもよいし、これら閉管と開管とを混合して配置してもよい。
【0073】
(変形例12)
上述の実施形態の[その他の態様4]では、乗り物として自動車70に音響共鳴装置を設けていたが、他の種類の乗り物に設けてもよい。例えば電車や船舶、航空機、宇宙ステーションなどの乗り物の室空間であってもよい。このように、乗り物は、例えば、乗車者を乗せて移動する輸送機器がある。これ以外にも、遊園地の遊具である観覧車などの乗車者の輸送を目的としたものではない乗り物であってもよい。人物の居室として使用される室空間に限らず、それとは別に設けられる機械室や荷物室などの室空間に音響共鳴装置を構成してもよい。
【0074】
また、乗り物においては、乗車者の座席が設けられる乗車領域を評価場所としてもよいし、それ以外の場所を評価場所としてもよい。例えば、乗車者である人物が着席したときに耳が位置するべき領域のほか、乗り物のエンジンルームにおいて、機器が配置される場所で壊れやすい場所や、遮音が難しい場所を評価場所に含めてもよい。
また、乗り物以外では、スピーカシステムにおいて、スピーカユニットの位置に限らず、スピーカを駆動させる回路を含む評価場所としてもよいし、空間において録音マイクが配置される場所を評価場所に含めてもよい。また、音響加振による経時劣化や破損を防ぐ目的で、種々の機器や回路部分を評価場所にしてもよい。つまり、空間において音圧を低減させたい任意の場所を評価場所に含めることができる。
【0075】
(変形例13)
共鳴体が共鳴することによって音圧が低減する場所や、粒子速度が増大する場所はその開口部の位置によって定まる。よって、共鳴体のそれ以外の部位はどこに設けられていてもよい。
また、本発明の空間は、面によって囲まれて構成され、外部の空間と遮断される空間に限らず、その空間の固有振動姿態が存在する空間であれば、外部の空間と通じている空間であってよい。例えば、一部が開口している面であっても、その開口部を一定の吸音率を持つ面とみなして、本発明の音響共鳴装置を適用することができる。
また、共鳴体は、壁部に設けられる構成に限らず、キャスタ等の移動手段を有する平板状のパネルに取り付けられてもよいし、室空間の照明器具など、空間に置かれる物品に設けてもよい。このように、実施形態と同等の効果を奏するのであれば、設置場所や設置方法についても問わない。
【符号の説明】
【0076】
1…板・膜共鳴体、10…筐体、15…振動部、2…音響管、21…管状部材、22…閉口部、23…開口部、3…ヘルムホルツ共鳴体、31…胴部、32…管部、40…スピーカシステム、41…スピーカエンクロージャ、42,43…スピーカユニット、50…電子鍵盤楽器、51…筐体部、52…鍵盤、55…メインスピーカ、60…ギター、61…胴部、61A…表板、61B…裏板、61C…側板、64…サウンドホール、70…自動車、80…ピアノ、83…響板、85…大屋根。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部と、前記開口部に通じる中空領域とを有している共鳴体であって、面に囲まれて構成される空間において決められた評価場所に応じて、前記開口部の位置が定められ、当該開口部を介して前記中空領域が前記空間に繋がるように設けられた共鳴体
を備え、
前記空間の特定の固有周波数の固有振動姿態であって前記評価場所に音圧の腹が位置する固有振動姿態について、少なくともいずれかの音圧の腹の場所における前記固有周波数の音圧を、前記共鳴体が共鳴することにより低減させる
ことを特徴とする音響共鳴装置。
【請求項2】
前記共鳴体は、
前記評価場所に位置する前記音圧の腹の場所の音圧を低減させるように、前記開口部の位置が定められている
ことを特徴とする請求項1に記載の音響共鳴装置。
【請求項3】
開口部と、前記開口部に通じる中空領域とを有している共鳴体であって、面に囲まれて構成される空間において決められた評価場所に応じて、前記開口部の位置が定められ、当該開口部を介して前記中空領域が前記空間に繋がるように設けられた共鳴体
を備え、
前記空間の特定の固有周波数の固有振動姿態であって前記評価場所に音圧の腹が位置する固有振動姿態について、少なくともいずれかの音圧の腹の場所における前記固有周波数の媒質粒子の運動速度を、前記共鳴体が共鳴することにより増大させる
ことを特徴とする音響共鳴装置。
【請求項4】
前記共鳴体は、
前記評価場所に位置する前記音圧の腹の場所の媒質粒子の運動速度を増大させるように、前記開口部の位置が定められている
ことを特徴とする請求項3に記載の音響共鳴装置。
【請求項5】
前記固有周波数と、前記面に与えられる振動の周波数とは互いに異なる周波数であり、
前記共鳴体は、前記いずれかの音圧の腹の場所における音圧であって前記固有周波数の音圧と前記振動とにより励振された周波数の音圧を、前記共鳴により低減させる
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の音響共鳴装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の音響共鳴装置を備えるスピーカエンクロージャであって、
前記面は、前記スピーカエンクロージャの内側の面であってスピーカユニットの周囲に構成される面である
ことを特徴とするスピーカエンクロージャ。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載の音響共鳴装置と、
音源と、
前記音源により発せられた音が前記空間である内部空間を伝搬する筐体部と
を備え、
前記面は、前記内部空間を構成する前記筐体部の内側の壁面であることを特徴とする楽器。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれかに記載の音響共鳴装置を備える乗り物であって、
前記面は、前記空間として当該乗り物の室空間を構成する壁面である
ことを特徴とする乗り物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−59208(P2011−59208A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206497(P2009−206497)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】