説明

顕微鏡観察方法、顕微鏡装置、及び画像処理装置

【課題】本発明は、実際の干渉を生起させることなく干渉像を得ることのできる顕微鏡観察方法、顕微鏡装置、及び画像処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】照明された被検物から射出する被検光束を結像する結像光学系を有し、その結像光学系の結像面に生起する被検光波の複素振幅分布を測定可能な顕微鏡装置を用いた顕微鏡観察方法であって、前記被検光波の複素振幅分布のデータを取得する被検データ取得手順(S2)と、前記被検物を光路から外したときに前記結像面に生起する参照光波の複素振幅分布のデータを取得する参照データ取得手順(S1)と、前記被検光波の複素振幅分布のデータと前記参照光波の複素振幅分布のデータとを同一座標間で重ね合わせて絶対値二乗し、前記被検物の干渉像の画像データを作成する画像作成手順(S3,S4)とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体等の工業部品、生物の細胞等の生体などの被検物を光学顕微鏡で観察する顕微鏡観察方法、それに適用される顕微鏡装置、及び画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡の中に、干渉顕微鏡がある。例えば、干渉顕微鏡の1種であるミロー型干渉顕微鏡(非特許文献1など参照。)は、対物レンズと被検物との中間に半透過鏡を配置し、対物レンズと半透過鏡との間に反射鏡を配置している。
このミロー型干渉顕微鏡では、対物レンズ、半透過鏡、被検物、半透過鏡、対物レンズを順に経由する光束(被検光束)と、対物レンズ、半透過鏡、反射鏡、半透過鏡、対物レンズを順に経由する光束(参照光束)とが干渉して干渉像を形成する。
【0003】
この干渉顕微鏡の光源は白色光源であり、被検光束の光路長と参照光束の光路長とは被検物無しの状態で予め厳密に一致させてあるので、干渉像上では、両者の光路長が一致した点のみに干渉縞が生じ、その点の近傍に特定の色の変化が現れる。したがって、被検物内の要素の分布が色の分布で表現される。
【非特許文献1】小松 啓,「光学顕微鏡の基礎と応用(4)」,応用物理,1991年,第60巻,第11号,1991年,p1139−p1140
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、仮に、上述した干渉を実際に生起させることなく、通常の顕微鏡による観察像を演算で干渉像に変換できれば、便利である。
その場合、干渉を生起させるための構成(光学素子や特殊な光学系)が不要となり、また、同じ被検物の同じタイミングの状態を、通常観察と干渉観察との双方で観察することもできる。
【0005】
そこで本発明は、実際の干渉を生起させることなく干渉像を得ることのできる顕微鏡観察方法、顕微鏡装置、及び画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の顕微鏡観察方法は、照明された被検物から射出する被検光束を結像する結像光学系を有し、その結像光学系の結像面に生起する被検光波の複素振幅分布を測定可能な顕微鏡装置を用いた顕微鏡観察方法であって、前記被検光波の複素振幅分布のデータを取得する被検データ取得手順と、前記被検物を光路から外したときに前記結像面に生起する参照光波の複素振幅分布のデータを取得する参照データ取得手順と、前記被検光波の複素振幅分布のデータと前記参照光波の複素振幅分布のデータとを同一座標間で重ね合わせて絶対値二乗し、前記被検物の干渉像の画像データを作成する画像作成手順とを含むことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の顕微鏡観察方法は、請求項1に記載の顕微鏡観察方法において、前記顕微鏡装置は、前記被検物をパルス光で照明する照明手段と、前記被検物から射出する被検光束を結像する結像光学系と、前記結像光学系の結像面に生起する被検光波の電場強度分布を検出する検出手段と、前記パルス光の発光タイミングと前記検出のタイミングとを制御して1発光期間内における前記強度分布の時間変化を検出すると共に、前記時間変化のデータに基づき前記被検光波の複素振幅分布を算出する制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の顕微鏡観察方法は、請求項2に記載の顕微鏡観察方法において、前記パルス光は、テラヘルツパルス光であることを特徴とする。
請求項4に記載の顕微鏡観察方法は、請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の顕微鏡観察方法において、前記被検データ取得手順では、前記被検光波の各波長成分の複素振幅分布のデータを取得し、前記参照データ取得手順では、前記参照光波の各波長成分の複素振幅分布のデータを取得し、前記画像作成手順では、前記重ね合わせ及び絶対値二乗を各波長成分毎に行い、前記干渉像の分光画像データを作成することを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の顕微鏡観察方法は、請求項4に記載の顕微鏡観察方法において、前記画像作成手順では、前記干渉像を1枚のカラー画像で表現するためのデータに前記分光画像データを変換することを特徴とする。
請求項6に記載の顕微鏡装置は、被検物をパルス光で照明する照明手段と、前記被検物から射出する被検光束を結像する結像光学系と、前記結像光学系の結像面に生起する被検光波の電場強度分布を検出する検出手段と、前記パルス光の発光タイミングと前記検出のタイミングとを制御して1発光期間内における前記強度分布の時間変化を検出すると共に、前記時間変化のデータに基づき前記被検光波の複素振幅分布を算出する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記被検光波の複素振幅分布のデータと、前記被検物を光路から外したときに前記結像面に生起する参照光波の複素振幅分布のデータとを取得し、前記被検光波の複素振幅分布のデータと前記参照光波の複素振幅分布のデータとを同一座標間で重ね合わせて絶対値二乗し、前記被検物の干渉像の画像データを作成することを特徴とする。
【0010】
請求項7に記載の顕微鏡装置は、請求項6に記載の顕微鏡装置において、前記パルス光は、テラヘルツパルス光であることを特徴とする。
請求項8に記載の顕微鏡装置は、請求項6又は請求項7に記載の顕微鏡装置において、前記制御手段は、前記参照光波の各波長成分の複素振幅分布のデータと、前記被検光波の各波長成分の複素振幅分布のデータとを取得し、前記重ね合わせ及び絶対値二乗を各波長成分毎に行い、前記干渉像の分光画像データを作成することを特徴とする。
【0011】
請求項9に記載の顕微鏡装置は、請求項8に記載の顕微鏡装置において、前記制御手段は、前記干渉像を1枚のカラー画像で表現するためのデータに前記分光画像データを変換することを特徴とする。
請求項10に記載の画像処理装置は、照明された被検物から射出する被検光束を結像する結像光学系を有し、その結像光学系の結像面に生起する被検光波の複素振幅分布を測定可能な顕微鏡装置に適用される画像処理装置であって、前記被検光波の複素振幅分布のデータを取得する被検データ取得手段と、前記被検物を光路から外したときに前記結像面に生起する参照光波の複素振幅分布のデータを取得する参照データ取得手段と、前記被検光波の複素振幅分布のデータと前記参照光波の複素振幅分布のデータとを同一座標間で重ね合わせて絶対値二乗し、前記被検物の干渉像の画像データを作成する画像作成手段とを含むことを特徴とする。
【0012】
請求項11に記載の画像処理装置は、請求項10に記載の画像処理装置において、前記顕微鏡装置は、前記被検物をパルス光で照明する照明手段と、前記被検物から射出する被検光束を結像する結像光学系と、前記結像光学系の結像面に生起する被検光波の電場強度分布を検出する検出手段と、前記パルス光の発光タイミングと前記検出のタイミングとを制御して1発光期間内における前記強度分布の時間変化を検出すると共に、前記時間変化のデータに基づき前記被検光波の複素振幅分布を算出する制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項12に記載の画像処理装置は、請求項11に記載の画像処理装置において、前記パルス光は、テラヘルツパルス光であることを特徴とする。
請求項13に記載の画像処理装置は、請求項10〜請求項12の何れか一項に記載の画像処理装置において、前記被検データ取得手段は、前記被検光波の各波長成分の複素振幅分布のデータを取得し、前記参照データ取得手段は、前記参照光波の各波長成分の複素振幅分布のデータを取得し、前記画像作成手段は、前記重ね合わせ及び絶対値二乗を各波長成分毎に行い、前記干渉像の分光画像データを作成することを特徴とする。
【0014】
請求項14に記載の画像処理装置は、請求項13に記載の画像処理装置において、前記画像作成手段は、前記干渉像を1枚のカラー画像で表現するためのデータに前記分光画像データを変換することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、実際の干渉を生起させることなく干渉像を得ることのできる顕微鏡観察方法、顕微鏡装置、及び画像処理装置が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態は、顕微鏡システム及びそのシステムによる顕微鏡観察方法の実施形態である。
先ず、本システムの構成を説明する。
図1に示すように、本システムには、テラヘルツ分光イメージング装置(符号11〜20)、コンピュータ30、ディスプレイ40などが備えられる。テラヘルツ分光イメージング装置が請求項の顕微鏡装置などに対応し、コンピュータが請求項の画像処理装置などに対応する。
【0017】
テラヘルツ分光イメージング装置には、フェムト秒パルスレーザ11、ビームエキスパンダ12、テラヘルツ光源となる半導体基板13、特殊プラスチックでできた結像光学系14、電気光学結晶15、偏光板16、CCDカメラ17、遅延装置18、高圧電源19、制御回路20などが備えられる。符号HM,Mで示すのは、ハーフミラー、ミラー、符号1で示すのは、被検物である。なお、テラヘルツ分光イメージング装置の詳細は、例えば、特開2003−295104号公報、特開2002−5828号公報などに開示されている。また、図1では、遅延装置18が光学系によって構成されているかのごとく表したが、同じ機能を有した別の構成の遅延装置18を利用してもよい。
【0018】
コンピュータ30には、予め、本観察方法(後述)を実現するために必要なプログラムがインストールされている。なお、以下に説明する制御回路20の処理の一部又は全部は、コンピュータ30によって実行されてもよく、また、以下に説明するコンピュータ30の処理の一部又は全部は、制御回路20によって実行されてもよい。
次に、本システムの基本動作を説明する。
【0019】
フェムト秒パルスレーザ11は、制御回路20から指示されたタイミングでフェムト秒パルスレーザ光を発光する。このレーザ光は、ビームエキスパンダ12にて径の太い光束となり、ハーフミラーHMで二分岐される。
二分岐された一方のレーザ光は、ミラーMを経て、電極の形成された半導体基板13に入射する。その電極には電源19により常時電圧が印加されており、レーザ光が入射した瞬間に電極間で放電が生じ、これが双極子となってテラヘルツ領域のパルス光(テラヘルツパルス光)を放射する。このテラヘルツパルス光は、被検物1を照明する。
【0020】
テラヘルツパルス光によって照明された被検物1から射出する光(テラヘルツパルス光である。)は、結像光学系14によって結像される。その結像面Iには、電気光学結晶15が配置される。電気光学結晶15内では、結像面Iに生起する光波の電場強度分布に応じて、複屈折率の変調が生じる。
一方、前記二分岐された他方のレーザ光は、遅延装置18、ミラーM、ハーフミラーHMを経て電気光学結晶15に入射する。遅延装置18は、レーザ光が電気光学結晶15に入射するタイミングを、制御回路20から指示された時間(遅延時間)だけ遅延させる。
【0021】
電気光学結晶15に入射したレーザ光の偏光状態は、その電気光学結晶15内の複屈折分布により変調される。そのレーザ光の偏光状態の分布は、偏光板16を介することによって、CCDカメラ17が画像として認識可能である。
CCDカメラ17は、制御回路20から指示されたタイミングで撮像を行い、画像データを取得する。その画像データは、レーザ光が電気光学結晶15に入射した瞬間に結像面Iに入射したテラヘルツ光の光波の電場強度分布を示す。
【0022】
制御回路20は、フェムト秒パルスレーザ11の発光のタイミングと、遅延装置18の遅延時間と、CCDカメラ17の撮像のタイミングとを制御する。制御回路20は、遅延時間を微小量ずつずらしながら発光及び撮像を行い、パルス発光期間における各瞬間に結像面Iに生起した光波の電場強度分布の画像データ(画像データ群)を取得する。
その画像データ群は、制御回路20を介してコンピュータ30に取り込まれる。コンピュータ30は、画像データ群が示している電場強度分布の時間変化をフーリエ変換(時間フーリエ変換)し、結像面Iに生起した光波の各波長成分の複素振幅分布をそれぞれ求める。
【0023】
次に、本観察方法を説明する。
図2に示すように、本観察方法は、ステップS1〜ステップS5からなる。
ステップS1は、被検物1の観察の度に実行される必要はなく、例えば、本システムの出荷前に製造者によって実行される。ステップS2以降は、被検物1の観察の度に実行される。以下、これらのステップを順に説明する。
(ステップS1)
ステップS1では、図3(a)に示すように、被検物1が光路から外される。この状態で結像光学系14の結像面Iに生起する光波を、参照光波LRとする。
【0024】
この状態で制御回路20は、画像データ群X1,X2,・・・を取得する(図3(b))。コンピュータ30は、画像データX1,X2,・・・が示している電場強度分布の時間変化をフーリエ変換(時間フーリエ変換)して複素振幅分布のデータA1(i,j),A2(i,j),・・・,An(i,j)を求め、それらを記憶する(図3(c))。
これらのデータA1(i,j),A2(i,j),・・・,An(i,j)は、参照光波LRの各波長成分の複素振幅分布を示す。
(ステップS2)
ステップS2では、図4(a)に示すように、被検物1が光路に配置される。この状態で結像光学系14の結像面Iに生起する光波を、被検光波L0とする。
【0025】
この状態で制御回路20は、画像データ群Y1,Y2,・・・を取得する(図4(b))。コンピュータ30は、画像データY1,Y2,・・・が示している電場強度分布の時間変化をフーリエ変換(時間フーリエ変換)して複素振幅分布のデータB1(i,j),B2(i,j),・・・Bn(i,j)を求める(図4(c))。
これらのデータB1(i,j),B2(i,j),・・・Bn(i,j)は、被検光束L0の各波長成分の複素振幅分布を示す。
(ステップS3)
コンピュータ30は、データA1(i,j)とデータB1(i,j)との同一ピクセル同士の値の和又は差をとり(図5(a))、その和又は差からなるデータをC1(i,j)とおく。
【0026】
同様に、コンピュータ30は、データA2(i,j),・・・,An(i,j)のそれぞれとデータB2(i,j),・・・,Bn(i,j)のそれぞれとの同一ピクセル同士の値の和又は差をとり、和又は差からなるデータを、それぞれC2(i,j),・・・,Cn(i,j)とおく。
これらのコンピュータ30の処理を式にすると、次式(1)となる。
【0027】
【数1】

このように、データAk(i,j)とデータBk(i,j)との同一ピクセル同士の値の差又は和をとることは、参照光束LRと被検光束L0とを演算上で干渉させることを意味する。
【0028】
よって、データCk(i,j)は、参照光束LRと被検光束L0とによる仮想的な干渉光波の複素振幅分布を示す。なお、各データC1(i,j),C2(i,j),・・・,Cn(i,j)は、その仮想的な干渉光波の各波長成分を示す。
(ステップS4)
コンピュータ30は、データC1(i,j)の各ピクセルの値の絶対値二乗をとり(図5(b))、その絶対値二乗からなるデータを、I1(i,j)とおく。
【0029】
同様に、コンピュータ30は、データC2(i,j),・・・,Cn(i,j)の各ピクセルの値の絶対値二乗をとり、その絶対値二乗からなるデータを、それぞれI2(i,j),・・・,In(i,j)とおく。
このように、データC1(i,j)の各ピクセルの値の絶対値二乗をとることは、仮想的な干渉光波による被検物1の像(干渉像)を求めることを意味する。
【0030】
よって、データIk(i,j)は、干渉像の強度分布を示す。なお、各データI1(i,j),I2(i,j),・・・,In(i,j)は、干渉像の各波長成分(各分光画像)を示す。
これら各分光画像のデータI1(i,j),I2(i,j),・・・,In(i,j)の概念を図にしたのが、図6(a)である。
(ステップS5)
コンピュータ30は、各分光画像のデータI1(i,j),I2(i,j),・・・,In(i,j)の或るピクセルの値I1,I2,・・・,In(図6(b))に対し適当な重み係数r1,r2,・・・,rn(図6(c))を個別に乗算して和をとり、その和をデータR(i,j)の同じピクセルの値に選定する。この選定を各ピクセルについて同様に行い、データR(i,j)を完成させる。
【0031】
また、コンピュータ30は、各分光画像のデータI1(i,j),I2(i,j),・・・,In(i,j)の或るピクセルの値I1,I2,・・・,In(図6(b))に対し適当な重み係数g1,g2,・・・,gn(図6(d))を個別に乗算して和をとり、その和をデータG(i,j)の同じピクセルの値に選定する。この選定を各ピクセルについて同様に行い、データG(i,j)を完成させる。
【0032】
また、コンピュータ30は、各分光画像のデータI1(i,j),I2(i,j),・・・,In(i,j)の或るピクセルの値I1,I2,・・・,In(図6(b))に対し適当な重み係数b1,b2,・・・,bn(図6(e))を個別に乗算して和をとり、その和をデータB(i,j)の同じピクセルの値に選定する。この選定を各ピクセルについて同様に行い、データB(i,j)を完成させる。
【0033】
これらのコンピュータ30の処理を式にすると、次式(2)となる。
【0034】
【数2】

完成したデータR(i,j),G(i,j),B(i,j)の概念を図にしたのが、図6(a’)である。これらのデータR(i,j),G(i,j),B(i,j)は、図6(a)に示した各分光画像のデータI1(i,j),I2(i,j),・・・,In(i,j)を、1枚のカラー画像で表現するためのデータである。
【0035】
コンピュータ30は、それらのデータR(i,j),G(i,j),B(i,j)をディスプレイ40に送出する。ディスプレイ40は、それらのデータR(i,j),G(i,j),B(i,j)に基づき、画像を表示する。ディスプレイ40上には、被検物1の干渉像が表示される(図1参照)。
因みに、図6(c),(d),(e)に示した重み係数rk,gk,bkのカーブは、図7に示すような一般のRGB表色系の等色関数のカーブと同じ形状をしている。
【0036】
次に、本観察方法の効果を説明する。
本観察方法では、被検光波L0の複素振幅分布のデータB1(i,j),B2(i,j),・・・,Bn(i,j)を取得し、それを参照光波LRの複素振幅分布のデータA1(i,j),A2(i,j),・・・,An(i,j)に重ね合わせて絶対値二乗をとる。
この演算によって、被検光波L0と参照光波LRとによる干渉像の各分光画像のデータI1(i,j),I2(i,j),・・・,In(i,j)が得られる。
【0037】
したがって、本システムでは、干渉を実際に生起させていないにも拘わらず、被検物1の干渉像を観察することが可能となった。
また、本観察方法では、分光画像のデータI1(i,j),I2(i,j),・・・,In(i,j)を、1枚のカラー画像で表現するためのデータR(i,j),G(i,j),B(i,j)に変換するので、ディスプレイ40上の干渉像は、被検物1内の要素の分布が眼で見える色の分布で表現される。
【0038】
ところで、本観察方法では、テラヘルツ分光イメージング装置が用いられたので、分光画像のデータI1(i,j),I2(i,j),・・・,In(i,j)が示しているのは、テラヘルツ領域の干渉像である。
しかし、本観察方法では、それら分光画像のデータI1(i,j),I2(i,j),・・・,In(i,j)をデータR(i,j),G(i,j),B(i,j)に変換する際に、等色関数のカーブ(図7参照)と同じカーブを描く重み係数rk,gk,bkを用いるので、ディスプレイ40上の干渉像は、従来の干渉顕微鏡による干渉像(つまり、可視光領域の干渉像)と似た傾向で表色される。
【0039】
なお、本観察方法では、ステップS1が本システムの出荷前に実行されるとしたが、出荷後に実行されてもよい。例えば、被検物1の観察の度に、或いは本システムの測定条件や環境などが変化する毎に実行されてもよい。
このように参照光波LRのデータA1(i,j),A2(i,j),・・・,An(i,j)が頻繁に更新されれば、参照光波LRのデータA1(i,j),A2(i,j),・・・,An(i,j)を実測するときのシステムの状態と、被検光波L0のデータB1(i,j),B2(i,j),・・・,Bn(i,j)を実測するときのシステムの状態とが近づくので、干渉像の算出誤差(分光画像のデータI1(i,j),I2(i,j),・・・,In(i,j)の算出誤差)を小さく抑えることができる。よって、観察精度が高まる。
【0040】
また、本観察方法では、参照光波LRのデータは実測された(ステップS1参照)が、シミュレーション(本システムの光学設計データに基づく)により算出されてもよい。但し、実測をした方が、観察精度が高まる。
また、本観察方法では、同一の被検物1について1種類の干渉像しか取得しなかったが、同一の被検物1について干渉条件(参照光波と被検光波との強度比など)を演算上で変化させて2種類以上の干渉像を取得してもよい。演算によれば、互いに異なる干渉条件の2種類以上の干渉像を簡単に得ることができる。また、多数の干渉像を得ることも簡単である。
【0041】
また、演算によれば、干渉条件のみを変化させることができるので、互いに同じタイミングの同じ被検物1の状態を、2種類以上の干渉条件下で観察することが可能になる。これは、実際に干渉を生起させる干渉顕微鏡では原理的に不可能である。
また、本観察方法では、顕微鏡装置として、テラヘルツ領域の光を照明光としたテラヘルツ分光イメージング装置を用いたが、テラヘルツ領域からずれた領域の光を照明光とする同様の分光イメージング装置を用いてもよい。
【0042】
また、本システムには、結像面Iの電場強度分布の画像データを一括して取得する非走査型の顕微鏡装置が適用されたが、その電場強度分布の画像データを1点ずつ取得する走査型の顕微鏡装置を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本システムの構成図である。
【図2】本観察方法のフローチャートである。
【図3】ステップS1を説明する図である。
【図4】ステップS2を説明する図である。
【図5】ステップS3,S4を説明する図である。
【図6】ステップS5を説明する図である。
【図7】RGB表色系の等色関数のグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1 被検物、
11 フェムト秒パルスレーザ、
12 ビームエキスパンダ、
13 半導体基板、
14 結像光学系、
15 電気光学結晶、
16 偏光板、
17 CCDカメラ、
18 遅延装置、
19 高圧電源、
20 制御回路、
HM ハーフミラー、
M ミラー、
I 結像面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明された被検物から射出する被検光束を結像する結像光学系を有し、その結像光学系の結像面に生起する被検光波の複素振幅分布を測定可能な顕微鏡装置を用いた顕微鏡観察方法であって、
前記被検光波の複素振幅分布のデータを取得する被検データ取得手順と、
前記被検物を光路から外したときに前記結像面に生起する参照光波の複素振幅分布のデータを取得する参照データ取得手順と、
前記被検光波の複素振幅分布のデータと前記参照光波の複素振幅分布のデータとを同一座標間で重ね合わせて絶対値二乗し、前記被検物の干渉像の画像データを作成する画像作成手順と
を含むことを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項2】
請求項1に記載の顕微鏡観察方法において、
前記顕微鏡装置は、
前記被検物をパルス光で照明する照明手段と、
前記被検物から射出する被検光束を結像する結像光学系と、
前記結像光学系の結像面に生起する被検光波の電場強度分布を検出する検出手段と、
前記パルス光の発光タイミングと前記検出のタイミングとを制御して1発光期間内における前記強度分布の時間変化を検出すると共に、前記時間変化のデータに基づき前記被検光波の複素振幅分布を算出する制御手段と
を備えていることを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項3】
請求項2に記載の顕微鏡観察方法において、
前記パルス光は、
テラヘルツパルス光である
ことを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の顕微鏡観察方法において、
前記被検データ取得手順では、
前記被検光波の各波長成分の複素振幅分布のデータを取得し、
前記参照データ取得手順では、
前記参照光波の各波長成分の複素振幅分布のデータを取得し、
前記画像作成手順では、
前記重ね合わせ及び絶対値二乗を各波長成分毎に行い、前記干渉像の分光画像データを作成する
ことを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項5】
請求項4に記載の顕微鏡観察方法において、
前記画像作成手順では、
前記干渉像を1枚のカラー画像で表現するためのデータに前記分光画像データを変換する
ことを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項6】
被検物をパルス光で照明する照明手段と、
前記被検物から射出する被検光束を結像する結像光学系と、
前記結像光学系の結像面に生起する被検光波の電場強度分布を検出する検出手段と、
前記パルス光の発光タイミングと前記検出のタイミングとを制御して1発光期間内における前記強度分布の時間変化を検出すると共に、前記時間変化のデータに基づき前記被検光波の複素振幅分布を算出する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記被検光波の複素振幅分布のデータと、前記被検物を光路から外したときに前記結像面に生起する参照光波の複素振幅分布のデータとを取得し、
前記被検光波の複素振幅分布のデータと前記参照光波の複素振幅分布のデータとを同一座標間で重ね合わせて絶対値二乗し、前記被検物の干渉像の画像データを作成する
ことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項7】
請求項6に記載の顕微鏡装置において、
前記パルス光は、
テラヘルツパルス光である
ことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の顕微鏡装置において、
前記制御手段は、
前記参照光波の各波長成分の複素振幅分布のデータと、前記被検光波の各波長成分の複素振幅分布のデータとを取得し、
前記重ね合わせ及び絶対値二乗を各波長成分毎に行い、前記干渉像の分光画像データを作成する
ことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項9】
請求項8に記載の顕微鏡装置において、
前記制御手段は、
前記干渉像を1枚のカラー画像で表現するためのデータに前記分光画像データを変換する
ことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項10】
照明された被検物から射出する被検光束を結像する結像光学系を有し、その結像光学系の結像面に生起する被検光波の複素振幅分布を測定可能な顕微鏡装置に適用される画像処理装置であって、
前記被検光波の複素振幅分布のデータを取得する被検データ取得手段と、
前記被検物を光路から外したときに前記結像面に生起する参照光波の複素振幅分布のデータを取得する参照データ取得手段と、
前記被検光波の複素振幅分布のデータと前記参照光波の複素振幅分布のデータとを同一座標間で重ね合わせて絶対値二乗し、前記被検物の干渉像の画像データを作成する画像作成手段と
を含むことを特徴とする画像処理装置。
【請求項11】
請求項10に記載の画像処理装置において、
前記顕微鏡装置は、
前記被検物をパルス光で照明する照明手段と、
前記被検物から射出する被検光束を結像する結像光学系と、
前記結像光学系の結像面に生起する被検光波の電場強度分布を検出する検出手段と、
前記パルス光の発光タイミングと前記検出のタイミングとを制御して1発光期間内における前記強度分布の時間変化を検出すると共に、前記時間変化のデータに基づき前記被検光波の複素振幅分布を算出する制御手段と
を備えていることを特徴とする画像処理装置。
【請求項12】
請求項11に記載の画像処理装置において、
前記パルス光は、
テラヘルツパルス光である
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項13】
請求項10〜請求項12の何れか一項に記載の画像処理装置において、
前記被検データ取得手段は、
前記被検光波の各波長成分の複素振幅分布のデータを取得し、
前記参照データ取得手段は、
前記参照光波の各波長成分の複素振幅分布のデータを取得し、
前記画像作成手段は、
前記重ね合わせ及び絶対値二乗を各波長成分毎に行い、前記干渉像の分光画像データを作成する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項14】
請求項13に記載の画像処理装置において、
前記画像作成手段は、
前記干渉像を1枚のカラー画像で表現するためのデータに前記分光画像データを変換する
ことを特徴とする画像処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−17494(P2006−17494A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193380(P2004−193380)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】