説明

食品包装体の加熱方法及び加熱装置

【課題】食品包装体の誘電加熱時に発生する蒸気に起因するスパーク発生、膨張による容器の破裂や変形、膨張圧力に対抗するための過度な押し付けによる食品の変形等を防止できる食品包装体の加熱方法を提供する。
【解決手段】密封包装された食品包装体1の食品3が位置している部分に電極体21,21を当接させて高周波電界を印加して誘電加熱するとともに、食品3が位置していない非加熱包装体部分4の包材に冷却部材12を当接させて冷却することによって、食品加熱時に発生する水蒸気やガスによる食品包装体の膨張を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品をフィルム等の包材で密封包装した食品包装体を誘電加熱により加熱する食品包装体の加熱方法及び加熱装置、特に、誘電加熱中の包装体の膨張、スパーク発生による容器の破裂・変形・内容品の噴出等を防止することができる食品包装体の加熱方法及び加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品をフィルム等の包材で密封包装した食品包装体を短時間に加熱殺菌する方法として、誘電加熱方法が知られており、種々の誘電加熱方法が提供されている。誘電加熱は一対の電極板間で食品包装体を上下又は左右(以下、説明の便宜上、上下に挟む場合について説明するが、食品包装体の搬送形態によって相違するものであり、その方向性について特に限定されるものではない。)に挟み、電極板間に周波数3MHz〜数百MHzの高周波電圧を印加することにより、食品を誘電加熱する方法である。その際、食品の厚みが一様でない不定形な食品包装体の場合は、食品の表面に電極が当接しない部位と当接する部位が生じるため、その非当接部位は十分に加熱されない不均一な加熱となる一方、当接部位は過度に加熱されて過加熱となり、加熱ムラが生じる虞がある。その問題点を解決する方法として、例えば良導電性かつ柔軟な金属箔からなるスダレ状のフレキシブル電極を上下動可能に採用したもの等が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、密封された食品包装体を誘電加熱で加熱殺菌する場合、誘電加熱中に食品から発生する蒸気や膨脹気体による包装体の膨張、あるいは蒸気発生に起因する空隙でのスパーク発生による容器の破裂・変形・内容品の噴出などの問題が生じることもある。従来この問題点を解決する方法として、膨張圧力に抗するために食品包装体を押圧部材や流動体(空気や水等)で加圧保持することが提案されている(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−47413号公報
【特許文献2】特開2002−2820号公報
【特許文献3】特開2004−275141号公報
【特許文献4】特許第3604109号掲載公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、誘電加熱中の食品包装体の膨張圧力は逐次変化するため、食品の形状を崩さずに圧力制御することは困難である。そして空隙でのスパークの発生を確実に防止するに至っていなく、また流動体を用いる場合、加熱効率の低下や流動体の給排出など生産性の悪化が生じる点で未だ解決すべき課題がある。
そこで、本発明は、誘電加熱中の食品包装体の膨張を効果的に抑制できて、誘電加熱時に発生する蒸気に起因するスパークの発生、膨張による容器の破裂や変形、膨張圧力に対抗するための過度な押し付けによる食品の変形等を効果的に抑制・防止できる食品包装体の加熱方法及び加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するための研究において、誘電加熱中の包装体の膨張を抑制するために、食品が位置してない包装体部分(以下、非加熱包装体部分という。)を冷却することを着想して種々実験を繰り返した結果、非加熱包装体部分を冷却するだけで包装体の膨張及びスパークの発生を非常に効果的に抑制できることを見出し、その結果過度の圧力調整による食品の変形も防止でき、且つ食品包装体の膨張による製造工程における食品包装体の搬送障害等もなくなり、製造ラインの高速化・効率化を図ることができ、さらに高周波電源の周波数や出力調整では温度調整が難しい食品に対する加熱温度の微調整も可能となることが分かり、本発明に至ったものである。
【0007】
即ち、上記課題を解決する本発明の請求項1に係る食品包装体の加熱方法は、食品が密封包装された食品包装体を電極で保持し、高周波電界を印加することによって誘電加熱する食品包装体の加熱方法であって、該食品包装体の食品を加熱保持していない包装体部分を冷却することによって、食品加熱時に発生する食品包装体の膨張を抑制することを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の食品包装体の加熱方法において、前記冷却は、食品包装体表面に冷却部材を接触させることにより行うことを特徴とするものである。また、請求項3に係る発明は、請求項2に記載の食品包装体の加熱方法において、前記冷却部材は、空調あるいは温調用冷媒で冷却された部材であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項2又は3に記載の食品包装体の加熱方法において、前記冷却部材は電極と一体化したものであることを特徴とするものである。
請求項5に係る発明は、請求項1〜4何れか1項に記載の食品包装体の加熱方法において、前記電極は、少なくとも一方の電極は複数のピンからなるピン電極の集合体であると共に各ピン電極は軸方向に伸縮可能であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項6に係る食品包装体の加熱装置は、食品が密封包装された食品包装体を電極で保持し、高周波電界を印加することによって誘電加熱する食品包装体の加熱装置であって、少なくとも食品包装体の食品が位置する部分に対向して配置された加熱電極体と、食品が位置していない包装体部分に対向して該食品包装体の包材表面に接触可能に配置された冷却部材とからなることを特徴とするものである。
【0011】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の食品包装体の加熱装置において、前記電極は、少なくとも一方の電極は複数の導電性ピンからなるピン電極の集合体であると共に各ピン電極は軸方向に伸縮可能にピン電極支持板に支持されていることを特徴とするものである。また、請求項8に係る発明は、請求項7に記載の食品包装体の加熱装置において、前記冷却部材は、食品包装体の食品が位置する部分に対向して配置された加熱電極体と同様なピン電極で構成され、前記ピン電極支持板に軸方向に伸縮可能に支持されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、食品を加熱保持中、非加熱包装体部分を冷却するという非常に簡単な方法で、非加熱包装体部分すなわち内容物が位置していない空隙部を形成する包材が冷却されてその内部で蒸気や気体が冷却されて包装体の膨張及びスパークの発生を効果的に抑制できる。その結果、包装体の膨張やスパークの発生による容器の破裂や変形及び過度の圧力調整による食品の変形も防止でき、且つ食品包装体の膨張による製造工程における食品包装体の搬送障害等もなくなり、製造ラインの高速化・効率化を図ることができるという格別な効果を奏する。
【0013】
請求項2の発明によれば、非加熱包装体部分の冷却は冷却部材を接触させるという方法で行うので、請求項1に加え非加熱包装体部分の熱は低温側の冷却部材に効率よく熱伝導して放熱され、食品包装体の膨張を確実に防ぐことができる。請求項3の発明では、さらに冷却部材は空調あるいは温調用冷媒により冷却されているため、常に一定範囲の温度に保つことができ、ラインを長時間稼動しても冷却部材の温度が上昇することなく、常に一定の冷却効果を維持することができる。また、部材は金属のような熱伝導性に優れる材質で構成されることが望ましい。請求項4の発明によれば、冷却部材は、電極と一体化したものであるので、構成を単純化することができる。
【0014】
請求項5の発明によれば、少なくとも一方の電極は複数のピンからなるピン電極の集合体であると共に各ピン電極は軸方向に伸縮可能であるので、各ピン電極が食品の形状に追従して食品に当接し万遍なく加熱することができる。そして、冷却部材もピン電極と一体化してピン電極体として構成し、且つ該ピン電極体を上記の方法等により温調冷却することによって、非加熱包装体部分は該ピン電極と当接し効率的に冷却可能である。
【0015】
請求項6〜8に記載に係る発明によれば、食品包装体の食品が位置する部分に対向して配置された加熱電極体と、食品が位置していない包装体部分に対向して該食品包装体の包材表面に接触可能に配置された冷却部材とからなるというごく簡単な装置で、包装体の膨張及びスパークの発生を効率よく抑制することができる。加えて、請求項7の発明では、不定形な食品包装体の形状に対応してピン電極が変位して不定形の食品包装体であっても確実に食品包装体面に接触できる電極を得ることができる。さらに、請求項8の発明によれば、冷却部材がピン電極からなるので、非加熱包装体部分に接触した際の放熱性が良く瞬時に冷却でき、且つピン電極が支持板に伸縮可能に支持されているので、非加熱包装体部分の蒸気発生による一時的な膨張に対して軸方向に変位してそれを許容し、食品が位置している部分での蒸気の滞留を防ぎ、加熱電極体でのスパークの発生を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る食品包装体の加熱方法及び加熱装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る食品包装体の加熱方法の実施形態の基本形態を示す概念図であり、図中1は食品包装体であり、合成樹脂製袋等の絶縁材料の包材からなる可撓性の容器(本実施形態ではパウチ)2に食品3を密封包装してなる。食品は、固体・粘稠体・液体、固液混合体等その形態は限定されない。食品包装体1は、図示のように容器(包材)2に対して食品3が容器2内で相当程度の空隙4をして密封充填されている。
【0017】
上記食品包装体1の食品3が位置している部分を、上下(垂下状態で加熱する場合は左右又は前後)より電極板10,10で挟み所定の圧力で押圧できるように少なくとも一方の電極板をシリンダ装置等で押圧可能にすると共に、電極板10,10間に図示のように高周波電源11から高周波電圧を印加して、食品を誘電加熱により加熱殺菌する。その場合、電極板は食品の表面に包材を介して空隙なく接触できるように、食品の形態に追従して変形できるように構成されているのが望ましい。電極を食品の形態に追従して変形できるように構成する手段としては、従来提案されている例えば前記特許文献1に記載の方法等任意の方法が採用できるが、確実に食品の形態に追従可能な電極形態としては、後述する図4〜図6に示すようなピン電極集合体からなるものが望ましい。
【0018】
また、食品包装体の空隙部4に対向して、両側より包材に接触するように冷却部材12,12を配置している。本実施形態では該冷却部材の内部には、温調用冷媒流路13が設けられており、冷媒の温度を制御することにより冷却部材12,12の表面温度を所定温度に維持するようにしている。温調用冷媒としては水等の液体あるいは空気・その他のガスが採用でき、これらの冷媒を容器を冷却するのに必要な所定温度に調節して該流路内を循環させるようにする。
【0019】
以上のように形成された加熱装置において、図1に示すように食品3の位置している部分のみを電極板10,10で両側から挟んで電極板が包材2を介して食品に当接させた状態で、高周波電源から例えば周波数3MHz〜数百MHzの高周波電界が印加されることにより、食品が誘電加熱により発熱して加熱される。その際、食品包装体内の食品から発生する蒸気は、加圧状態で当接している電極と食品との間には存在しないで、空隙部4の方に向けて発生するが、該空隙部の包材は冷却部材12,12と接触或いは少しの空隙を介して対向しているため、蒸気により内圧が上昇して多少とも空隙部が膨張すれば包材は冷却部材にその分強く当接し、冷却部材との間の熱交換が増大して冷却効果が高くなり、蒸気は冷却されて凝結し容器の膨張を抑制させることができる。したがって、誘電加熱時に発生する蒸気に起因するスパーク発生を防止することができ、且つ膨張による容器の破裂、変形を防止することができる。また、膨張圧力に対向するために、加熱保持部を過度に押し付ける必要がないので、食品の変形等を防止することができる。
【0020】
上記実施形態では、冷却部材に温調用冷媒流路を設けて冷却部材の温度を制御するようにしたが、冷却部材は必ずしも温調用冷媒を循環させる場合に限らず、空調等による外部雰囲気からの伝熱によって冷却部材の温度を制御することも可能である。この際、冷却部材が熱伝導性に優れる金属部材のようなものであれば、効率的に非加熱包装体部分を冷却することができる。
【0021】
図2は、本発明の他の実施形態に係る食品包装体の加熱方法の基本形態を示す概念図であり、図1の場合と同様な部分については同様な符号を付し、相違点についてのみ説明する。
図1に示す実施形態では、冷却部材を電極板と別部材で形成していたが、本実施形態では電極板と冷却部材が一体に形成されている点で大きく異なっている。即ち、本実施形態では電極板15,15に温調用冷媒流路16,16を設け、該電極板で食品が位置している部分のみならず、非加熱包装体部分に対応する部分にも電極板が包材に接触可能に配置されている。
【0022】
上記のような誘電加熱装置において、食品包装体の誘電加熱中、電極板に温調用冷媒流路に冷媒を循環させることによって、食品に接触している部分の電極板の温度上昇を抑制すると共に、非加熱包装体部分を継続的に冷却する。したがって、前記実施形態と同様に、誘電加熱中に食品包装体が蒸気で膨張するのを効果的に防止することができる。また、食品に接触している部分では食品の加熱によって電極の温度が上昇し、特に長時間の稼動を続けると過度に上昇するが、温調用冷媒の温度をコントロールすることによって、一定温度に保つことができ、食品包装体を常に一定条件で加熱殺菌することができる。また、温調用冷媒の温度を適宜コントロールすることによって、食品に当接する電極の温度もコントロールできるので、従来高周波電源の周波数や出力調整では温度調整が難しい加熱温度の微調整ができる。
【0023】
なお、電極板全体にわたって、共通の冷却媒体を循環させるのに代えて、例えば非加熱包装体部分だけに冷却媒体を循環させるようにし、また食品に接触する部分には温調用冷媒を全く循環させない、あるいは非加熱包装体部分を循環する温調用冷媒よりも高温の温調用冷媒を循環させることによって、食品の加熱効率を高めると共に、容器の膨張を効果的に抑制することができる。
【0024】
図3は、本発明の他の実施形態に係る食品包装体の加熱方法の基本形態を示す概念図であり、図1の場合と同様な部分については同様な符号を付し、相違点についてのみ説明する。
図3に示す実施形態では、図1に示す実施形態における非加熱包装体部分に対応して冷却部材を設けるのに代えて、該部に冷風等の冷媒を直接吹き付けることによって、非加熱包装体部分を冷却するようにしたものである。なお、その場合冷媒としては冷風が最も簡単であるが、冷風に限らず冷却水を流下又はスプレーするようにしても良い。このように、空隙部に対応する部分を冷却することによって、前記実施形態と同様に蒸気の発生を抑制し、容器が膨らむのを防止することができる。
【0025】
図4〜図6は、上記実施形態における電極板を、内容物の形状に合わせて変位して確実に内容物に接触できるように複数のピンからなるピン電極の集合体で形成し、各ピン電極を軸方向に伸縮可能に形成した場合の実施形態を示している。
【0026】
図4に示す実施形態の誘電加熱装置20は、上下一対の加熱ピン電極体21,21からなる。この加熱ピン電極体21は、食品に当接し電気的または熱的作用を及ぼす複数のピン電極22と、各ピン電極22を摺動可能に支持すると共にピン電極22に対する電源または熱源となる導電性基盤としてのピン支持台23と、ピン電極22をピン支持台23に対し相対変位させる圧力可変ガスチャンバ25とを具備して構成されている。本実施形態では、ピン電極22は、食品包装体の食品3が位置している部分に該食品を挟むように対向して複数個配置している。
【0027】
各ピン電極22は図5に示すように、食品に当接するピンヘッド26、ピンヘッド26に結合しピン支持台23との電気的または熱的接点となるロッド27、ピンヘッド26の端位置を規定するピンキャップ28で構成される。ピンヘッド26は、その先端形状は特に規定されることはなく、例えば、半球部、円筒部、テーパ部との組み合わせからなり、同図(a)のようにロッド27及びキャップ28と一体に形成、あるいは、図5(b)のようにロッド27にネジ結合される。ロッド27は、後述の貫通孔29に挿通されピン支持台23との電気的または熱的接点となる。ピンヘッド26、ロッド27およびピンキャップ28の材質としては、アルミ、銅、カーボン、チタン、白金等の導電材である。
【0028】
ピン支持台23には、ピン電極22が摺動しながら相対変位する貫通孔29がピン電極22ごとに別個独立に設けられている。この貫通孔29の内径は、ピン電極22のロッド27の外径より僅かに大きい程度である。これにより、各ピン電極22はピン支持台23と通電または伝熱しながらピン支持台23に対し軸方向に別個独立に相対変位し、食品の形状に好適に追従することが可能となる。
【0029】
ピン電極22の駆動は、後述するように、圧力可変ガスチャンバ25の内圧を変えることにより行われる。なお、ピン電極22の駆動は、圧力可変ガスチャンバ以外に、バネやゴムなどの弾性工具を用いることでも容易に実現できる。
【0030】
また、ピン支持台23はピン電極22に対する電源となるため、その材質としては、ピン電極22と同等か若しくはそれ以上の導電率および熱伝導率を有する材質が好ましい。また、ピン支持台23の形状は平板の他、曲面を有する複合形でもあっても良い。
【0031】
圧力可変ガスチャンバ25は、ガスを貯めるインナースペース31と、ガスの流路となるチャンネル32と、外部の高圧ガス源(圧縮機)または真空ポンプと連結する図示しないガスポートとから成る。インナースペース31の圧力調整は、チャンネル32を介してガスを供給し又は排気することにより行われる。ここで、インナースペース31の圧力Pが外気Pよりも高い場合は、貫通孔29の入口と出口において圧力勾配が生じピン電極22がインナースペース31のガス圧により押し下げられ下方に相対変位することとなる。一方、インナースペース31の圧力Pが外気Pよりも低い場合は、それとは逆向きの圧力勾配が生じピン電極22が外気によって押し上げられ上方に相対変位することとなる。このように、インナースペース31の圧力を調整することにより、ピン電極22をピン支持台23に対し相対変位させることが可能となる。また、ピン電極22が食品に当接した状態でインナースペース31の圧力を調整することにより、ピン電極22が食品に当接する押圧を変えることが可能となる。従って、ピン電極22が食品に当接した状態でインナースペース31の圧力を調整することにより、複数のピン電極22により食品を加熱・保持することが可能となる。従って、この加熱ピン電極体21に搬送手段を具備させることにより、電極による食品の加熱・保持搬送を安定して行うことが可能となる。なお、使用されるガスについては、例えば清浄な空気および窒素ガス等の不活性ガスであり、必要に応じて温調を行うことも可能である。
【0032】
本実施形態では、食品包装体が図示のようにパウチの略中央部に食品が配置され、その両側が非加熱空隙部4となっており、該非加熱空隙部に一対の冷却部材12を配置している。該冷却部材は、図1に示す実施形態と同様に内部に温調用冷媒流路13が設けられている。
【0033】
以上のように構成された誘電加熱装置において、食品包装体の加熱殺菌は、包材(容器)2に包まれた食品3が、上下(垂直方向)に対向して配置された加熱ピン電極22によって加熱・保持され、電極板間における位置が決められた状態で誘電加熱される。
【0034】
圧力可変ガスチャンバ25の圧力調整は、例えば圧縮機と真空ポンプを三方弁を介して圧力可変ガスチャンバ25に結合させて加圧の場合は圧縮機側に三方弁をスイッチし減圧の場合は真空ポンプ側に三方弁をスイッチすることにより行われる。また、高周波電源11の周波数は、例えば、3KHzから数百MHzまで被加熱物に応じて選択する。
【0035】
また、包材2の材質は、例えばPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂、紙、その組み合わせからなる複合材等からなり、包装形態はフィルム、トレー、カップ状の容器など特に規定されるものではない。また、これら容器に塗料や蒸着処理など各種表面処理が施されてあっても良い。
【0036】
誘電加熱中、冷却部材12には所定温度に調節された水等の温調用冷媒を循環させることによって、前述したように、冷却部材を冷却し、該冷却部材に食品包装体の非加熱保持部分が接触することによって、包装体のその部分が冷却される。従って、冷却部材と包装体との間で熱交換が行われ、食品が加熱されることにより発生する蒸気は直ぐに冷却されて凝縮してしまうので、蒸気が包装体内に発生することがなく、且つそれにより包装体が膨らむことがない。
【0037】
図6は本発明の他の実施形態を示している。図示の実施形態では、食品包装体全体にピン電極が当接するようにピン電極を配置し、且つピン電極を保持しているピン支持台に温調用冷却流路を設けて、ピン電極の温度を制御できるようにした点に特徴を有するものである。即ち、図7に示すように、ピン支持台23に貫通孔29間に温調水である温調用冷媒が流れる温調用冷却流路35を縦貫して設け、図示しない温調水供給源から供給ポート36を介して温調水を供給して、ピン電極を保持する全貫通孔間をジグザグに通過して排出ポート37から排出して再び温調水供給源に循環する温調水冷却流路を形成している。温調水供給源では温調水を所望の温度に制御する適宜の温調器が設けられている。
【0038】
したがって、本実施形態では、対向して配置されている電極間で高周波電圧を加えることにより、食品2が位置している部分では、食品が誘電体損により発熱して加熱されるのと同時に、食品が存在しない非加熱包装体部分では対向配置されているピン電極と包材が当接するため、ピン電極が熱を放熱する冷却部材として機能し、包材とピン電極間で熱交換が行われ、非加熱包装体部分の熱がピン電極22を介して放熱され、結果として包装体内部の水蒸気やガスが冷却され、包材の膨張が抑制される。そして、温調水の温度を適宜制御することによって、前述したように電極の温度を一定にする加熱保持部のピン電極も所定温度に抑制され、長時間安定加熱ができる。
【0039】
また、上記実施形態では、単一の温調用冷却流路を介して加熱保持部及び非加熱保持部にも一様に温調用冷却水を流していたが、図8に示すように、加熱保持部に対応するピンが配置されたピン支持台部分と、非加熱保持部に対応するピン電極が配置されたピン支持台部分とを、それぞれ温調水流路40と冷却水流路41と別経路に形成して、温度の異なる温調水及び冷却水を流すようにすることもできる。そのように、温調用冷却流路を加熱保持部と非加熱保持部で別経路に形成することによって、非加熱保持部には温度の低い冷却水を流して非加熱包装体保持部を効果的に冷却し、且つ加熱保持部にはそれより温度の高い温調水を流すことによって、ピン電極を介しての過度の放熱を抑制し、熱効率よく食品を加熱殺菌することができる。
【0040】
また、加熱保持部に流す温調水の温度を適宜コントロールすることによって、食品の加熱温度を細かく微調整することができる。例えば温度上昇が鈍い加熱不良の場合は温調水として熱水を流すことにより、逆に温度上昇が急峻で目標温度を超えそうな過加熱の場合は温調水として冷却水を流すことにより、食品に対する精度の良い温度制御が可能となる。このように、ピン支持台23の内部に温調水流路40を形成し温調水を流すことにより、食品に対する効率的な温度制御が可能となる。
【実施例】
【0041】
厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルムを縦100×横50mmとなるようにパウチに成形し、被加熱物である内容物(食品)として縦20×横25×厚み20mmの直方体の1.5%ジェランゲルを入れて脱気密封包装した。このようにして得られた食品包装体試料(図10の写真参照)を図6〜7に示すように温調用冷却流路が設けてある一対のピン電極で構成された誘電加熱装置で加熱した。
上記食品包装体試料における内容物が位置する部分と内容物が位置しないパウチ部分を、直径8mmのピンで構成されるピン電極群で挟み込み、誘電加熱(電源周波数40MHz、電源電圧100V)を行ない、温調温度を変化させたときのフィルムパウチの膨張を観察した。膨張の有無は、5分間誘電加熱を行なったときのピン電極の押し戻しの有無によって判定した。試験は3回実施した。その結果を表1に示す。なお、誘電加熱は、同温度で冷却部材接触面積が14×50mmと35×50mmと2種類の場合について、それぞれ温調水の温度を30℃、50℃、70℃の3水準について実施した。その結果を表1に示す。また、加熱時間に対する内容物であるゲルの中心温度を赤外線温度計で測定した。その結果を図9に示す。また、加熱中の包装体の容器膨張の変化を撮影した写真を図11に示す。表中、破裂の恐れがあるまで膨張したものを×とし、膨張が殆どなく膨張による破裂の恐れがないものを○印を付して評価した。
【0042】
【表1】

比較例2として、内容物が位置する加熱保持部のみをピン電極で保持し、内容物が位置しない非加熱保持部にはピン電極(冷却部材)を接触させない、すなわち冷却なしの条件で誘電加熱を行なった。このときの雰囲気温度は25℃だった。その結果を実施例と共に表1に示す。また、その場合の包装体の膨張の変化を撮影した写真を図12に示す。
【0043】
その結果、冷却部材を接触させない比較例2の場合は、図12の写真より、内容物の温度上昇に応じて蒸気が発生し、120秒加熱した段階でパウチは破裂の恐れがある程大きく膨張しているのが観察される。
それに対して、30℃の冷却水を冷却部材に流した場合は、上記2種類の冷却部材接触面積ともパウチの膨張は殆どなく、脱気包装状態のまま加熱することができた。図11は冷却部材接触面積を35×50mmの場合におけるパウチの膨張経過を示しているが、その写真によれば、内容物(1.5%ジェランゲル)の加熱によって蒸気が発生してパウチが僅かに膨張して90秒後にはピン電極に接触状態となるため冷却され、それ以後は180秒経過後も膨張の変化は観測されず、その後も同様な状態を保ち膨張が極めて効果的に抑制されていることが認められた。
【0044】
しかしながら、50℃の冷却水を循環させた場合、接触面積が小さい14×50mmの場合は、第1回目と第3回目にパウチの膨張が観察され冷却が不十分であったが、冷却部材接触面積を35×50mmにした場合は、3回ともパウチの膨張は観察されなかった。さらに、70℃にした場合は、冷却効果は全くなく、冷却部材を設けてない場合と同様に、各回ともパウチが破裂の恐れがある程度に膨らみが観察された。したがって、この食品包装体試料の場合は、冷却部材の接触面積35×50mmの場合は温調水の温度は50℃でもパウチの膨張を抑制でき、冷却効果が認められたが、冷却部材接触面積が小さい場合は十分な冷却効果が得られず、温調水の温度を50℃より低くしなければならない。しかしながら、本実施例で示された温調水温度や冷却部材の接触面積と包材の膨張抑制効果との関係は必ずしも一律規定されものではなく、食品包装体の形態や大きさ、加熱速度、包材の材質等に応じて、最適な条件を適宜選択すればよい。
以上の結果から、本発明の食品包装体の加熱方法が初期の目的を達成することに有効な方法であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の食品包装体の加熱方法及び加熱装置は、包材の膨張により破損・変形・内容品の噴出等の恐れがある容器に定形或いは不定形の食品が密封充填された食品包装体の誘電加熱に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る食品包装体の加熱方法の実施形態を模式的に示す模式図である。
【図2】本発明に係る食品包装体の加熱方法の他の実施形態を模式的に示す模式図である。
【図3】本発明に係る食品包装体の加熱方法の他の実施形態を模式的に示す模式図である。
【図4】本発明に係る食品包装体の加熱方法のピン電極体を用いた場合の実施形態を模式的に示す模式図である。
【図5】ピン電極の実施形態を示す正面図であり、(a)ピンヘッドがロッドと一体に形成されたもの、(b)はロッドにネジ結合されたものを示す。
【図6】本発明に係る食品包装体の加熱方法のピン電極体を用いた場合の他の実施形態を模式的に示す模式図である。
【図7】ピン電極体の冷却構造を示すピン支持台の要部断面図である。
【図8】ピン電極体の他の冷却構造を示すピン支持台の要部断面図である。
【図9】実施例の食品包装体試料における加熱時間とゲル中心温度の変化を示すグラフである。
【図10】実施例及び比較例で使用した食品包装体試料の写真である。
【図11】食品包装体試料における実施例による加熱時間の経過による食品包装体の膨張状態を示す写真である。
【図12】食品包装体試料における比較例による加熱時間の経過による食品包装体の膨張状態を示す写真である。
【符号の説明】
【0047】
1 食品包装体 2 容器
3 食品 4 空隙部
10 電極板 11 高周波電源
12 冷却部材 13 温調用冷却流路
20 誘電加熱装置 21 加熱ピン電極体
22 ピン電極 23 ピン支持台
25 圧力可変ガスチャンバ 26 ピンヘッド
27 ロッド 28 ピンキャップ
29 貫通孔 32 チャンネル
40 温調水流路 41 冷却水流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品が密封包装された食品包装体を電極で保持し、高周波電界を印加することによって誘電加熱する食品包装体の加熱方法であって、該食品包装体の食品を加熱保持していない包装体部分を冷却することによって、食品加熱時に発生する食品包装体の膨張を抑制することを特徴とする食品包装体の加熱方法。
【請求項2】
前記冷却は、食品包装体表面に冷却部材を接触させることにより行うことを特徴とする請求項1に記載の食品包装体の加熱方法。
【請求項3】
前記冷却部材は、空調あるいは温調用冷媒で冷却された部材である請求項2に記載の食品包装体の加熱方法。
【請求項4】
前記冷却部材は、電極と一体化したものである請求項2又は3に記載の食品包装体の加熱方法。
【請求項5】
前記電極は、少なくとも一方の電極は複数のピンからなるピン電極の集合体であると共に各ピン電極は軸方向に伸縮可能である請求項1〜4何れか1項に記載の食品包装体の加熱方法。
【請求項6】
食品が密封包装された食品包装体を電極で保持し、高周波電界を印加することによって誘電加熱する食品包装体の加熱装置であって、少なくとも食品包装体の食品が位置する部分に対向して配置された加熱電極体と、食品が位置していない包装体部分に対向して該食品包装体の包材表面に接触可能に配置された冷却部材とからなることを特徴とする食品包装体の加熱装置。
【請求項7】
前記電極は、少なくとも一方の電極は複数の導電性ピンからなるピン電極の集合体であると共に各ピン電極は軸方向に伸縮可能にピン電極支持板に支持されている請求項6に記載の食品包装体の加熱装置。
【請求項8】
前記冷却部材は、食品包装体の食品が位置する部分に対向して配置された加熱電極体と同様なピン電極で構成され、前記ピン電極支持板に軸方向に伸縮可能に支持されている請求項7に記載の食品包装体の加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−148214(P2009−148214A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330036(P2007−330036)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】