説明

食品材料の連続ジュール加熱方法および装置

【課題】食品材料を連続的に通電加熱するにあたって、極端な加熱の不均一が生じることがなく、管壁付近で極端に過加熱されるようなことがないようにし、これによって層流に起因する熱変性が生じる流動性食品材料についても、スパークが生じたり、食品材料の劣化が生じたりすることなく、安定して連続通電加熱を行ない得るようにした連続ジュール加熱方法および装置の提供。
【解決手段】複数の環状電極体および複数のスペーサ管体を有し、内部に被加熱流路が形成される加熱ユニットを設け、被加熱流路内で食品材料を流動移送させながら通電加熱する食品材料の連続ジュール加熱方法において、被加熱流路内で食品材料が熱変性を起こす場合に、被加熱流路を構成する加熱ユニットの数を増やすことで一の加熱ユニットにおける昇温量を減らすこと、および、加熱ユニット毎に温度制御を行うことを特徴とする食品材料の連続ジュール加熱方法およびその装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプ内(管路内)において連続的に流動輸送可能な程度の流動性を有する食品材料のうち、例えば各種ソース類、ジャム等の層流が生じやすい食品材料や、例えば液卵、豆乳等の熱変性が生じやすい食品材料について、殺菌や調理などのために管路内を連続的に流動輸送させながら通電加熱方式により連続加熱する、食品材料の連続ジュール加熱方法および装置に関するものである。
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、液全卵、液卵白、および液卵黄のことを液卵と総称するものとする。
【背景技術】
【0002】
流動性を有する食品材料を管路内で連続的に流動輸送させながら連続的に加熱する方法によれば、バッチ方式で一定量ごとに加熱する方法と比較して生産性を向上させることができ、また管路内で連続的に加熱された食品材料をそのまま連続的に容器に充填することができることから、加熱から容器充填までの工程を完全に連続化することが可能である。
【0003】
ところが最近では、食品材料に直接通電して、食品材料の有する電気抵抗により発熱させる通電加熱(ジュール加熱)方式を利用し、殺菌や調理のために食品材料を加熱する方法が実用化されている。そして管路内に流動性食品材料を連続的に流しながらその管路内の流動性食品材料を通電加熱方式により連続的に加熱する装置としても、本発明者等は既に特許文献1や特許文献2等において提案している。
【0004】
上記各提案の装置は、いずれも管路の長さ方向(食品材料の流れる方向)に所定間隔を置いて2以上の部分に、管路の内周面に沿う環状の電極を設けておき、管路の上流側の電極と下流側の電極との間で食品材料中に電流を流し、食品材料を通電加熱するように構成されている。
【0005】
ところで、加熱要件が最も厳しい食品材料の一つして液卵がある。
調理用食品として用いられる液卵は、卵黄のみの液卵黄、卵白のみの液卵白、および卵白と卵黄が混合された液全卵があり、それぞれ加熱殺菌して製品化している。液全卵は、60℃で3.5分またはこれと同等以上加熱処理することにより製品化され、液卵白は、55.5℃で3.5分またはこれと同等以上加熱処理することにより製品化され、液卵白は、61℃で3.5分またはこれと同等以上加熱処理することにより製品化される。このような殺菌条件は、食品衛生法に基づく食品、添加物の規格基準によって定められている。
【0006】
液卵を連続的に加熱殺菌するために、従来では、プレート式の熱交換器が使用されており、容器内に収容された液卵を送液ポンプにより熱交換器に供給することによって温水を加熱媒体として熱交換器により液卵を加熱するようにしている。しかしながら、熱交換器を用いて液卵を加熱殺菌すると、プレートの伝熱面に液卵の熱変性による沈殿物がスケールとなって付着するので、連続的に加熱殺菌処理を行うことができるのは、4時間程度が限度であり、所定の連続運転を行った後には、熱交換器を洗浄させるための洗浄処理に多大な時間を要している。このように熱交換器により液卵を加熱すると伝熱面にスケールが付着する理由は、液卵を加熱媒体からプレートを介しての熱伝達により加熱するために、熱交換器に供給される加熱媒体の温度を液卵の加熱殺菌温度よりも高めに設定する必要があるので、伝熱面に接触した液卵が熱変性を起こす温度まで加熱されてしまうからである。
【0007】
液卵をこれに通電することによって加熱殺菌するようにした加熱殺菌装置が特許文献3および4に記載されており、ジュースやスープなどの流動性を有する飲食物をこれに通電してジュール熱により加熱するようにした技術が特許文献5に記載されている。
【特許文献1】特公平5−33024号公報
【特許文献2】特開2001−169733号公報
【特許文献3】特開平6−319499号公報
【特許文献4】特開2004−337020号公報
【特許文献5】特開2006−320402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記各提案のような通電加熱方式による流動性食品材料の連続加熱装置について、さらに実験・検討を重ねたところ、特に層流が生じる流動性食品材料を対象としている場合には、均一加熱の点で問題があることが判明した。
【0009】
すなわち、通電加熱は、食品材料をそれ自体の内部からジュール発熱させるところから、外部からの加熱と比較して食品材料を均一に加熱できるというメリットがあるが、前記提案の装置を用いて管路内を流れる流動性食品材料を通電加熱する場合、管路内の食品材料に流れる通電加熱用の電流の密度が、管路の断面方向(半径方向)に不均一となってしまい、また特に中粘度の流動性食品材料を流す場合、管路の壁面近傍でいわゆる層流が生じてしまって、管路断面方向の流速が不均一となり、これらが相俟って食品材料が均一に加熱されなかったり、また管路の管壁が過加熱されてしまったりする問題が生じやすい。この点について図6、図7を参照してさらに詳細に説明する。
【0010】
図6において、流動性食品材料が流動輸送される管路1には、その上流側(図6の下側)から下流側(図6の上側)に向かう方向に所定間隔を置いて環状(短円筒状)をなすチタン等の導電材料からなる電極3A,3B,3Cが配設されており、各電極3A,3B,3Cの間の管路は、絶縁材料からなる円筒状のスペーサ管体(中空管体)5によって形成され、また電極3Aよりも上流側の管路および電極3Cよりも下流側の管路も絶縁材料からなる円筒状のスペーサ管体5によって形成されている。そして電極3A,3B間、および電極3B,3C間に高周波電源あるいは商用交流電源などの電源装置7によって電圧を加えるようになっている。
【0011】
ここで、管路1の流動性食品材料を連続的に流した状態で電極3A,3B間、電極3B,3C間に通電加熱のための電圧を加えれば、電流は電気抵抗が最も小さい経路を通って流れる傾向を示す。ここで、流動性食品材料の電気抵抗が全体的に均一であるとすれば、電極間の最短距離に相当する経路の電気抵抗が最も低くなるから、電流は、電極3A,3B間、電極3B,3C間の流動性食品材料中において、各電極間の絶縁材料からなる中空管体5の内周面の直近の部分を通って流れる傾向を示す。そのため、管路1内の内周面直近の部分では流動性食品材料中の電流密度が大きくなる一方、管路1の中心軸線Oの付近では電流密度が小さくなってしまう。このような管路1内における電流密度分布を、電極3A,3B間について図7に示す。このような電流密度分布が不均一となる結果、管路1の内周面直近(管壁付近)では、食品材料が過加熱されやすくなるのに対し、中心軸線Oの付近では食品材料が加熱されにくくなる事態が生じる。
【0012】
さらに流動性食品材料の通電加熱においては、通電加熱対象となる食品材料の温度が高くなるほど電気抵抗が低下して電流が流れやすくなるから、前述の如く管路1の内周面直近の位置で過加熱されて温度上昇した流動性食品材料には電流が一層集中して流れ、その結果管路1の内周面直近の位置を流れる流動性食品材料は、より一層急激に温度上昇して、管路1の中央部付近を流れる流動性食品材料との温度差が一層大きくなってしまう。
【0013】
一方、加熱対象となる流動性食品材料が、マヨネーズやソース等の粘度の高いものである場合、管路1の内周面近くでは、管路内を流れる流動性食品材料に、管壁との粘性抵抗によっていわゆる層流が生じて、その部位での流速が、管路1の中央部付近と比較して著しく遅くなってしまう傾向を示す。このように層流によって管壁近くで流速が著しく遅くなれば、前述のように電流密度が管壁付近で大きくなることと相俟って、管壁近くでは過加熱が著しく生じやすくなり、極端な加熱の不均一が生じてしまう。
【0014】
そして前述のように管壁近くで過加熱が生じれば、管壁において流動性食品材料が過度に加熱されて、食品の風味が損なわれたり、変色や栄養成分の破壊が生じたりするばかりでなく、食品材料の管壁表面、特に電極表面に対する焼付きが生じて、スパークが生じやすくなってしまったり、また樹脂からなる絶縁中空管体の軟化、変形が生じてしまうおそれがある。
【0015】
ここで、過加熱により電極表面に対する食品材料の焼付きによってその部分でスパークが発生すれば、食品材料の風味や色を極端に悪化させると同時に、スパークによって過大電流が急激に流れて、運転状態が不安定化したり電源装置が損傷したりしてしまい、また電極の表面性状を悪化させることから、通電加熱装置ではスパークの発生を防止することは極めて重要な課題となっている。
【0016】
そして特に層流の生じる場合において前述のような管壁付近での過加熱が生じやすいところから、従来は、層流の生じる場合については上述のような問題は避け得ないこととされ、そのため前記提案のような連続通電加熱装置も、実際上はその適用対象が低粘度の流動性食品材料などに限られていたのが実情である。
因みに、通電加熱流路内に撹拌翼を設けた場合には、撹拌翼自体にスケーリングが発生するなど新たな課題が生じる。
【0017】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、粘度が比較的高い流動性食品材料、換言すれば層流に起因する熱変性が生じる食品材料を連続的に通電加熱するにあたって、極端な加熱の不均一が生じることがなく、管壁付近で極端に過加熱されるようなことがないようにし、これによって層流に起因する熱変性が生じる流動性食品材料についても、スパークが生じたり、食品材料の劣化が生じたりすることなく、安定して連続通電加熱を行ない得るようにした連続ジュール加熱方法および装置を提供することを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述のような課題を解決するため、本発明者等が層流が生じる流動性食品材料の連続通電加熱について種々実験・検討を重ねたところ、電極の内径に対する電極間距離の比を、従来の装置よりも格段に大きくすることによって、中粘度の流動性材料でも加熱の不均一が小さくなり、管壁付近での過加熱を防止し得ることが判明し、この発明をなすに至ったのである。
【0019】
すなわち、従来の流動性食品材料の連続通電加熱装置においては、図6に示すように、管路の内径(直径)Rに対して、電極間の距離Lが1.5〜2倍程度に設定されているのが通常であったが、本発明者等の実験によれば、電極の内径(直径)Rに対する電極間距離Lに対する比(L/R)を2倍よりも格段に大きくし、特に4倍以上とすること、より好ましくは5倍以上とすることによって、粘度が高い流動性食品材料でも、管路内の半径方向の加熱のばらつきを抑制して、管壁付近での過加熱を有効に抑制し得ること見出し、この発明をなすに至ったのである。またこの場合、電極間距離を電極の内径の12倍以下とすること、より好ましくは10倍以下とすることが望ましいことをも見出した。なおここで、電極の内径と絶縁管体の内径とが相等しい場合、すなわち管路の内面に実質的に段差がない場合、電極の内径は、管路の内径に相当することになる。
【0020】
第一の技術思想は、次の特徴を有する。
[1]少なくとも内周面の導電材料で形成した複数の環状の電極と、少なくとも内周面を電気絶縁材料で形成した複数の絶縁管体とを、共通の軸線に沿って交互に配置して管路を形成し、流動性を有する食品材料を管路の長さ方向に連続的に流動輸送させつつ、電極間に電圧を加えることにより、管路内を流れる流動性食品材料に対し管路の長さ方向に連続的に通電して加熱するようにした流動性食品材料の連続加熱装置において、相互間に電圧を印加すべき電極間の距離を電極の内径の4倍以上としたことを特徴とするものである。
[2][1]に記載の流動性食品材料の連続通電加熱装置において、電極の内径と絶縁管体の内径とが実質的に同径としたものである。
[3][1]もしくは[2]に記載の流動性食品材料の連続通電加熱装置において、相互間に電圧を印加すべき電極間の距離を、電極の内径の4倍以上、10倍以下の範囲内としたことを特徴とするものである。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の流動性食品材料の連続通電加熱装置において、加熱対象の流動性食品材料が、0.05Pa・s以上のものとすることを特徴とする。
【0021】
第二の技術思想は、次の特徴を有する。
[1]液卵等の熱変性を生じる食品材料に好適な、本発明のジュール加熱処理装置は、被加熱物を流路内に連続的に搬送しつつジュール熱により殺菌加熱するジュール加熱処理装置であって、被加熱物を供給する送液ポンプと、絶縁性材料からなり前記送液ポンプに連通した前記流路が形成されるとともに電極が対をなして設けられた管状部材を有する加熱ユニットと、前記加熱ユニットにより加熱された被加熱物を殺菌温度に所定時間保持する保持ユニットと、前記保持ユニットから搬送された被加熱物を冷却する冷却ユニットと、前記電極に供給される電力を制御し、前記流路内を流れる被加熱物のレイノルズ数Reに応じて前記流路内の電力密度Pを制御する(例えば、被加熱物が液卵の場合にはP≦9.4Re−352.4に設定する。詳細は後述の図8〜図13にて説明)電力制御手段とを有することを特徴とする。好ましくは、前記送液ポンプと前記加熱ユニットとの間に予熱ユニットを配置し、当該予熱ユニットにより殺菌加熱温度よりも低い予熱温度まで加熱した後に、前記加熱ユニットにより殺菌温度まで加熱すること、被加熱物は、液全卵、液卵白、または液卵黄であることを特徴とする。
[2]液卵等の熱変性を生じる食品材料に好適な、本発明のジュール加熱処理方法は、被加熱物を流路内に連続的に搬送しつつジュール熱により殺菌加熱するジュール加熱処理方法であって、絶縁性材料からなり前記流路を形成する筒状部材および当該筒状部材に対をなして設けられる電極を備える加熱ユニットに、前記流路内を流れる被加熱物のレイノルズ数Reに応じて前記流路内の電力密度Pを制御する(例えば、被加熱物が液卵の場合にはP≦9.4Re−352.4に設定する。詳細は後述の図8〜図13にて説明)加熱工程と、前記加熱ユニットにより殺菌温度に加熱された被加熱物を保持ユニットにより保持する保温工程と、前記保持ユニットから搬送された被加熱物を冷却ユニットにより冷却する工程とを有することを特徴とする。好ましくは、前記加熱ユニットに流入する前に液卵を殺菌温度よりも低い予熱温度まで加熱する予熱工程を有すること、被加熱物は、液全卵、液卵白、または液卵黄であることを特徴とする。
【0022】
第一および第二技術思想からなる本発明は、次のとおりである。
第1の発明は、複数の環状電極体および複数のスペーサ管体を有し、内部に被加熱流路が形成される加熱ユニットを設け、被加熱流路内で食品材料を流動移送させながら通電加熱する食品材料の連続ジュール加熱方法において、被加熱流路内で食品材料が熱変性を起こす場合に、被加熱流路を構成する加熱ユニットの数を増やすことで一の加熱ユニットにおける昇温量を減らすこと、および、加熱ユニット毎に温度制御を行うことを特徴とする食品材料の連続ジュール加熱方法である。
第2の発明は、第1の発明において、一の加熱ユニットあたりの電極体の数を減らし、スペーサ管体長を長くすることを特徴とする。
第3の発明は、第2の発明において、前記スペーサ管体長を、環状電極体の内径の4倍以上、12倍以下の範囲内で調節することを特徴とする。
第4の発明は、第1ないし3のいずれかの発明において、加熱ユニット間に撹拌部を設けることを特徴とする。
第5の発明は、第4の発明において、撹拌部を曲管および/または加熱ユニットを連通する直管内に配置されたスタティックミキサーにより構成することを特徴とする。
第6の発明は、第1ないし5のいずれかの発明において、上流に位置する加熱ユニットの昇温幅を、下流に位置する加熱ユニットの昇温幅と比べ大きくすることを特徴とする。
第7の発明は、第6の発明において、複数の加熱ユニット中、最下流に位置する加熱ユニットの昇温幅を最小とすることを特徴とする。
第8の発明は、熱交換器により食品材料に熱変性が生じる温度帯より低い温度まで加熱した後、第1ないし7のいずれかの発明に係る連続ジュール加熱方法により食品材料を加熱することを特徴とする食品材料の連続ジュール加熱方法である。
第9の発明は、第1ないし8のいずれかの発明に係る連続ジュール加熱方法により食品材料を加熱するための食品材料の連続ジュール加熱装置であって、複数の電極体および複数のスペーサ管体を有し、内部に被加熱流路が形成される加熱ユニットと、加熱ユニットに電力を供給する電源ユニットと、加熱ユニットに設けられた温度センサと、制御部とを備える食品材料の連続ジュール加熱装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、管路の半径方向に加熱の不均一が生じることを抑制して、管路内面、特に電極の内表面付近における過加熱の発生、電極に対する食品材料の焼付きによるスパークの発生による運転状況の不安定化や電源装置の損傷、電極表面形状の悪化等を有効に防止することができ、さらには過加熱によって食品材料の風味や香り、栄養成分が損なわれたりするなどの熱変性の問題を有効に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
最良の形態の本発明は、複数の環状電極体および複数のスペーサ管体を有し、内部に被加熱流路が形成される加熱ユニットを設け、被加熱流路内で食品材料を流動移送させながら通電加熱する食品材料の連続ジュール加熱方法において、被加熱流路内で食品材料が熱変性を起こす場合に、被加熱流路を構成する加熱ユニットの数を増やすことで一の加熱ユニットにおける昇温量を減らすこと、および、加熱ユニット毎に温度制御を行うことを特徴とする。ここで、「熱変性」とは、核酸や蛋白質などの生体高分子の変性のみを指すものではなく、食品材料の品質が製品として供給できない程度に損なわれる状態(メイラード反応などの褐変反応や風味の低下等)を含む広義の意味である。
【0025】
層流が生じる食品材料において一の加熱ユニットあたりの昇温量が大きいと、それに伴い被加熱流路の出口部分における被加熱流路の中心軸線部分および内周面部分の温度差(ΔT)が大きくなるという問題が生じるが、加熱ユニットの数を増やすことにより一の加熱ユニットあたりの昇温量を減らすことで、ΔTを抑えることが可能である。
被加熱流路の中心軸線部分および内周面部分の温度差(ΔT)は、加熱ユニットの電極体に温度センサを設けて被加熱流路の内周面部分の温度を検出し、加熱ユニットの出口部分に設けた被加熱流路の中心軸線部分の食品材料の温度を測定する温度センサにより検出した温度との間に一定以上の温度差(ΔT)があるかにより測定することができる。ここで、被加熱流路内の食品材料は、下流側に進むにつれて温度が上昇するため、最下流の電極体に温度センサを設けることが好ましい。
【0026】
被加熱流路の長さ当たりの昇温幅を小さくし、加熱ユニットの長さを長くすることも考えられるが、層流が生じる状態のまま長時間加熱を行ってもΔTを小さくすることは困難であるが、加熱ユニットの数を増やして被加熱流路の長さを短くすれば、加熱ユニット間に撹拌部を設けることが可能である。
被加熱流路内で食品材料に層流が生じる場合には、加熱ユニット間に曲管または加熱ユニットを連通する管内に配置されたスタティックミキサーにより構成された撹拌部を設けることが好ましく、これにより加熱ユニットから流出した食品材料が、次の工程に移送される際に撹拌される。熱変性の問題が顕著な場合には、加熱ユニットの長さを短くし、加熱ユニットの数を増やすことにより、短い間隔で複数の撹拌部を設ける構成とすることが好ましい。
【0027】
また、加熱ユニットの数を増やし、加熱ユニット毎に温度制御を行うことにより、被加熱物の温度勾配をより好ましいものにすることが可能である。図14は、本発明における温度勾配を説明するためのグラフである。目標昇温量(昇温幅)により被加熱流路総長が決まるが、被加熱流路を一つの加熱ユニットで構成した場合、温度勾配g2のような曲線を描くこととなり、理想の温度勾配g1との乖離は激しい。対して、被加熱流路を二つの加熱ユニットU1,U2で構成すると、温度勾配g3のような曲線を描くこととなるため、理想の温度勾配g1との乖離を小さくすることができる。ここで、被加熱物の導電率は、一般に温度の上昇に伴い上がるため、一つの加熱ユニットではg2の曲線となるが、被加熱流路を二つの加熱ユニットに分割して上流の加熱ユニットにおける電圧が下流の加熱ユニットにおける電圧より大きくなるように(U1>U2となるように)電力を供給するとg3の曲線を得ることができ、好ましい。
【0028】
加熱ユニットの段数は、目標昇温量により設定される。例えば、目標昇温量が60℃である場合に、3つの加熱ユニットで目標昇温量を達成するためには、1つの加熱ユニット当たりの昇温幅は20℃となるが、4つの加熱ユニットで目標昇温量を達成するためには1つの加熱ユニット当たりの昇温幅は15℃でよく、さらに5つの加熱ユニットで目標昇温量を達成するためには1つの加熱ユニット当たりの昇温幅は12℃となる。1つの加熱ユニット当たりの昇温幅を小さくすることによりΔTを抑えることができることは、理論上明らかである。昇温幅が大きくなるのに伴い、被加熱流路の中心軸線部分および内周面部分の温度差(ΔT)が大きくなることは、後述の表1〜表3からも分かる。なお、1つの加熱ユニット当たりの好ましい昇温幅は10〜15℃である。
【0029】
最良の形態の加熱ユニットは、被加熱流路の出口部分に設けられた出口温度センサと、少なくとも1つの電極温度センサとを有している。本発明では加熱ユニット毎に温度センサを設け、加熱ユニット単位で温度を測定することを可能としている。本発明は、加熱ユニットが複数の場合に有利な効果を奏するが、加熱ユニットの数が3つ以上である場合には、特に有利な効果を奏する。
電極温度センサの取り付け位置としては、一般に、上流側よりは下流側の方が、被加熱時間が長く高温となることから、最下流の電極体に設けることが例示される。両端のアース電極に電極温度センサを設けてもよいが、接触抵抗等により電極自体が加熱される場合を考慮すると、アース電極以外の最下流の電極体に温度センサを設けることが好ましい。なお、食品材料によっては、クラックが加熱ユニットの中流ないしは下流に発生することがあるが、かかる場合にはクラック発生が想定される箇所に最も近い位置にある電極体に電極温度センサを設けてもよい。
【0030】
図15に加熱ユニット毎に温度制御を行う場合の構成例を示す。電極温度センサ5a〜5cが加熱ユニット毎に設けられており、温度測定器105a〜105cに接続されている。温度測定器105は、検出時刻記憶手段を備えており、検出した電極体53の温度および検出時刻を記憶することができる。温度測定器105は、コントロールユニット64に接続されており、温度測定器105からの信号を受けたコントロールユニット64により電極体53に供給する電力が制御される。
コントロールユニット64は、電極体63に供給される電力をPID制御する。PID制御における比例動作(P動作)や積分動作(I動作)の値は、オーバーシュートやサイクリングを起こさないように、通電加熱部の全長や食品材料の流速等に応じて適宜最適に設定する。
コントロールユニット64には、表示手段を有する操作パネル65が設けられており、設定値等入力することが可能である。コントロールユニット64に、発報手段を設け、ΔTが一定以上になった場合にクリーニング警報を発報するようにしてもよい。
なお、接続管8の直線部分にスタティックミキサーを設置することが好ましい。
【0031】
ところで、食品材料の加熱においては、熱変性が生じる温度域に達するまでは急激な昇温を行っても問題がない。この温度域は食品材料によって異なるが、一般に常温下にある食品材料(液卵を除く)を50〜60℃まで一気に昇温しても問題は生じない。他方、特定の目標温度に加熱(例えば100℃で殺菌)することが要求される食品材料においては、被加熱流路内に位置する食品材料の全体が目標温度になる必要があるため、被加熱流路の中心軸線部分および内周面部分の温度差(ΔT)が生じる場合には、最も高温となる食品材料の温度は「目標温度+ΔT」となってしまう。ΔTが熱変性を生じない程度である場合には問題が無いが、ΔTにより熱変性が生じる場合には問題は深刻である。かかる場合には、ΔTを小さくするための手段を講ずることが不可欠となる。
そこで、本発明においては、好ましくは加熱ユニットが複数ある構成においては、上流に位置する加熱ユニットの昇温幅を下流に位置する加熱ユニットの昇温幅と比べ大きくすること、好ましくは最下流の加熱ユニットの昇温幅を最小とすることを特徴とする。これを具体例により説明すると次のとおりである。最下流の加熱ユニット当たりの好ましい昇温幅は10℃以下であり、より好ましくは5℃以下である。
【0032】
公知の予熱装置により60℃まで予熱されたジャムを第1〜第4加熱ユニットにより100℃までジュール加熱する場合に、例えば、次の2つの手法が考えられる。
(ア)第1〜第4加熱ユニットの各々において、10℃昇温する手法
(イ)第1ユニットにおいて20℃昇温し、第2ユニットにおいて10℃昇温し、第3〜第4ユニットにおいて各々5℃昇温する手法
前者の手法に比べると後者の手法の方が、第4ユニットにおける被加熱流路の中心軸線部分および内周面部分の温度差(ΔT)が小さくなることが明らかであり、ジャムの最高温度をより100℃に近いものとすることが可能である。ここでは、第3〜第4ユニットにおいて各々5℃昇温する手法を紹介したが、第4ユニットの昇温幅が最小になるような温度勾配としてもよい。
【0033】
さらに、一の加熱ユニットあたりの電極体の数を減らし、スペーサ管体長を長くすることも、温度差(ΔT)を小さくするために効果的である。スペーサ管体を長くすることにより電流密度分布がより均一となるからである。一方で、スペーサ管体を長くすることは同一の加熱を得るためにより大きな電力供給が必要であるということでもある。スペーサ管体を一定以上長くすると延長の割合に対しΔTを小さくする効果が小さくなるが、電力供給は延長の割合に応じて大きなものとなる。安全性やエネルギー効率を考慮すると、スペーサ管体は、環状電極体の内径の4倍以上、12倍以下の範囲内の長さとすることが好ましく、環状電極体の内径の5倍以上、10倍以下の範囲内の長さとすることがより好ましい。スペーサ管体の長さは、被加熱流路総長に応じて最適なものを選択する。
スペーサ管体長を長くすると加熱ユニット長も長くなるが、これにより撹拌部を設ける間隔が長くなるという問題が生じる。一の加熱ユニットあたりの電極体のペア数(セクション数)を減らし、加熱ユニット長が一定以上長くならないようにするのが好ましい。
【0034】
また、熱交換器により食品材料に熱変性が生じる温度帯より低い温度まで加熱した後、本発明の連続ジュール加熱方法により食品材料を加熱してもよい。既存の熱交換器が導入済みの場合には、そこに本発明を組み合わせることにより、ジュール加熱装置の被加熱流路長を短くすることができ、導入コストを抑えることができる。
【0035】
本発明は、主に層流に起因する熱変性が生じる場合に適用されるものであるが、層流に起因する熱変性が生じる食品材料は、その粘度と相関があり、粘度により以下の3つのグループに分類することができる。本発明は、特に第二グループ(中粘度)に好適である。但し、第一グループ(低粘度)の中でも、豆乳のように極端に熱変性を生じやすいものには、本発明は好適である。
<第一グループ(低粘度、10mPa・s未満)>
飲料類(日本茶、果汁、豆乳、トマトジュース等)、タレ・ツユ類(漬け物汁、めんつゆ等)、低粘性ドレッシング類(醤油ベース、ノンオイル系等)、スープ類(コンソメスープ、エキス等)
<第二グループ(中粘度、10〜10mPa・s)>
ソース類(中濃ソース、フルーツソース、パスタソース、マヨネーズ等)、粘性スープ類(コーンスープ、カレーペースト等)、粘性タレ・ツユ類(蒲焼きのタレ、ゴマだれ等)、粘性ドレッシング類(ゴマ、サウザンアイランド等)、チーズ類、液卵
<第三グループ(高粘度、10mPa・sを超える)>
海草類(めかぶ、もずく等)、あんこ、味噌類、サラダ類(ポテトサラダ等)、サンドイッチ具材類(卵フィリング等)、フラワーペースト類
【0036】
本発明の最良の形態の他の態様を、食品材料が液卵の場合の例で説明する。
当初、発明者は、液卵を能率的に加熱殺菌するために、ジュースやスープと同様に液卵を管の流路内に流しながら連続的にジュール加熱装置によって加熱殺菌することを試みたが、熱交換器を用いた場合と同様に、電極が設けられた管内面に液卵の熱変性に起因した沈殿物がスケールとなって付着しまい、管内面を頻繁に戦場しなければならなかった。被加熱流路内に液卵等の流動性の被加熱物を流しながらこれに通電してジュール熱により被加熱物を加熱する場合には、加熱状況は、電力密度、被加熱物の粘度、および流路内の流速等の複数のファクターによって大きく変化することになる。
そこで、これらの複数のファクターを変えながら、液卵を連続的に加熱殺菌するために、種々の実験を行ったところ、流路内を流れる液卵のレイノルズ数と電力密度との関係を一定の範囲に設定して液卵を加熱すると、管内面にスケールが付着することなく、液卵を所望の殺菌温度まで加熱できることが見出された。
【0037】
図8は本発明の一実施の形態である液卵の加熱処置装置を示す概略図であり、図9は図1に示された加熱ユニットを示す断面図である。
【0038】
加熱殺菌される液卵は容器40内に収容されるようになっており、容器40内に収容された液卵は送液ポンプ41により熱交換器42に供給される。熱交換器42は予熱ユニット42aと、冷却ユニット42bと、これらの間に配置される節減ユニット42cとを有しており、これらのユニットが組み合わされ熱交換器42が形成されている。送液ポンプ41から吐出された液卵は連通配管43により節減ユニット42cを介して予熱ユニット42aに供給されるようになっており、予熱ユニット42aは液卵が流れる液卵流路と温水供給ユニット44からの予熱媒体が流れる媒体流路とを有し、これらの流路はプレートにより仕切られており、媒体流路を循環する予熱媒体により液卵は予熱される。
【0039】
予熱ユニット42aにより予熱温度まで加熱された液卵は、供給配管45により加熱ユニット46に供給されるようになっており、図8に示す加熱処理装置は直列に接続される5つの加熱ユニット46を有している。
【0040】
図9は加熱ユニット46を示す拡大断面図であり、加熱ユニット46は液卵を案内する流路51が形成された断面円形の加熱パイプつまり被加熱流路52を有している。被加熱流路52は7つのリング状の電極53とこれらの間に配置される6つの円筒体54とにより構成されている。このように、加熱ユニット46は複数の電極53と複数の円筒体54とにより構成される被加熱流路52を有し、被加熱流路52には隣り合う電極53が対をなして設けられている。それぞれの電極53はチタンなどの導体により形成され、それぞれの円筒対54は樹脂等の絶縁体により形成されている。被加熱流路52の両端部には絶縁体からなる流入側と流出側のジョイント部55,56が取り付けられている。それぞれの電極53には電源ユニット57がケーブルを介して接続されており、液卵の流れる方向に隣り合って対をなす電極53が相互に逆極性となるように電源ユニット57から高周波電流が供給される。なお、加熱ユニット46に設けられる電極53の数は加熱温度等に応じて任意に設定される。
【0041】
図8に示すように、全ての加熱ユニット46を通過して所定の殺菌温度まで加熱された液卵は、連通配管47により液卵保持ユニット61に供給される。この液卵保持ユニット61は、断熱材が被覆されたパイプにより形成されており、殺菌温度に加熱された液卵が殺菌温度の状態で所定の時間、例えば3.5分以上保持するような長さを有している。液卵保持ユニット61を通過した液卵は連通配管48により節減ユニット42cに供給される。
【0042】
節減ユニット42cは連通配管43により供給された加熱前の液卵が流れる液卵流路と、連通配管48により液卵保持ユニット61を通過した加熱後の液卵が流れる液卵流路とを有し、これらの流路はプレートにより仕切られており、節減ユニット42cから予熱ユニット42aに供給される加熱前の液卵は液卵保持ユニット61を通過した加熱後の液卵により加熱される。これにより、加熱後の液卵の熱エネルギーが加熱前の液卵に伝達されて、熱エネルギーの節減が図られている。
【0043】
冷却ユニット42bは節減ユニット42cを通過した液卵が流れる液卵流路と冷却水供給ユニット62から供給される冷却液が流れる冷却媒体流路とを有し、これらの流路はプレートにより仕切られており、冷却媒体流路を循環する冷却液により液卵は10℃以下の温度に冷却される。冷却ユニット42bを通過した液卵は、排出配管49により回収容器50に排出される。
【0044】
図10は図8に示す液卵の加熱処理装置の制御部を示すブロック図であり、送液ポンプ41を駆動する電動モータ63と、それぞれの加熱ユニット46の電源ユニット57にはコントローラ64から制御信号が送られるようになっており、さらには温水供給ユニット44および冷却水供給ユニット62に設けられたポンプの電動モータ(図示省略)等にも制御信号が送られるようになっている。コントローラ64には操作パネル65が接続されており、この操作パネル65のキー操作によって送液ポンプ41の回転数等の作動条件を入力することができる。コントローラ64には、図8に示すように、最上流側の加熱ユニット46内に入り込む液卵の温度を検出するための温度センサS1、液卵保持ユニット61に流入する液卵の温度を検出するための温度センサS2、液卵保持ユニット61から流出した液卵の温度を検出するための温度センサS3、および冷却ユニット42bを通過した液卵の温度を検出するための温度センサS4と、送液ポンプ41からの液卵の吐出流量を検出するための流量センサFのそれぞれ検出信号が送られるようになっている。
【0045】
本発明の液卵の加熱処理装置においては送液ポンプ41により送られた液卵は、節減ユニット42cと予熱ユニット42aにより、殺菌温度よりも10℃程度低い温度にまで加熱される。例えば、液全卵を加熱殺菌する場合には、液全卵をその殺菌温度60℃よりも10℃程度低い温度にまで予熱し、液卵白を加熱殺菌する場合には、液卵白をその殺菌温度55.5℃よりも10℃程度低い温度にまで予熱する。同様に、液卵黄を加熱殺菌する場合には、液卵黄をその殺菌温度61℃よりも10℃程度低い温度にまで予熱する。
【0046】
図8に示すように、5台の加熱ユニット46を有する加熱装置においては、各々の加熱ユニット46により2℃程度ずつ昇温して、全ての加熱ユニット46を液卵が通過したときに、それぞれの所定の殺菌温度となるようにジュール加熱する。
【0047】
図11は、流路51内を流れる液卵のレイノルズ数Reと電力密度P(KW/m)とを変化させて液卵としての液全卵をジュール加熱した場合における被加熱流路52の内面に対するスケールの付着状況の実験結果を示すグラフである。図11において○印はスケールの発生がない場合を示し、×印はスケールが発生した場合を示す。ここで、レイノルズ数Reは、管部材の内径をDとし、液卵の平均流速をUとし、液卵の動粘性係数をυとすると、Re=DU/υで示される。
【0048】
図12は、被加熱流路52の内面にスケールが付着しない範囲と付着する範囲の境界を示す特性線図である。図12に示すように、境界特性はP=9.4Re−352.4であり、電力密度PがP≦9.4Re−352.4の範囲となるようにして電極53に電力を供給して液卵を殺菌加熱すると、被加熱流路52の内面にスケールが付着しないことが判明した。このように、被加熱流路52の流路51内を流れる液卵のレイノルズ数Reに応じて流路51内の液卵を流れる電力密度Pを特定の範囲に設定すると、被加熱流路52の内面にスケールが付着しないので、連続的に長時間に渡って液卵を加熱することができる。
【0049】
図13は液全卵の粘度(mPasec)と温度(℃)との関係を示す粘度表であり、全卵液は温度とともに粘度が変化し、液卵白および液卵黄も同様に温度によって粘度が変化する。したがって、図8に示すように、5つの加熱ユニット46を有する加熱装置においては、各加熱ユニットにおける通電条件を相違させることが好ましい。
【0050】
最後に説明した態様の本発明によれば、加熱ユニットの流路内を流れる液卵のレイノルズ数Reに応じて流路内の電力密度Pを特定の範囲に設定することにより、流路を形成する管内面にスケールが付着することなく、長時間に渡って連続的に液卵を加熱することができ、液卵を流路内に流しながら連続的に液卵を殺菌処理することができる。液卵のジュール加熱により殺菌加熱をバッチ処理ではなく、連続的に加熱殺菌することができるので、能率的に液卵を処理することができる。
【0051】
以下では、本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は何ら実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
図1に本発明の連続通電加熱装置を適用した加熱装置の全体構成の一例を示し、図2、図3にその要部を拡大した状態を示す。
【0053】
図1において、液体状食品材料あるいは固体−液体混合食品材料などの流動性食品材料は、予め供給側容器11に収容されている。この供給側容器11の下端には供給開閉弁13が設けられており、さらにこの供給開閉弁13の下端からは管路15が延長されている。管路15における供給開閉弁13近くの位置には、流動性食品材料を管路15内において流動輸送させるための圧送手段としてポンプ17が設けられている。管路15におけるポンプ17よりも下流側には、上方へ垂直に立ち上がる管路垂直立上がり部分15Aが存在し、この管路垂直立上がり部分15Aには、この発明で特徴とする連続通電加熱装置19が形成されている。さらに管路15における垂直立上がり部分15Aの上端は水平方向へ折曲げられて伸長され、その部分、すなわち連続通電加熱装置19の下流側に相当する部分には、流動性食品材料を冷却するための冷却装置21が配設され、さらにその冷却装置21の下流側には排出側容器23が設けられている。
【0054】
なお図1の例では圧送手段として管路15の中途にポンプ17を設けているが、場合によっては供給側容器11にその容器内の流動性食品材料を加圧する加圧手段を設けても良い。また冷却装置21は場合によっては省くこともできる。さらに、連続通電加熱装置19の前段に予熱装置を設けても良い。
【0055】
図2には、前記連続通電加熱装置19の部分を示し、さらに図3にはその要部を拡大した状況を示す。
【0056】
図2、図3において、管路15の垂直立上がり部分15Aには、下方から第1アース電極23A、通電加熱用電極25A〜25F、第2アース電極23Bが管路15の長さ方向に所定間隔においてその順に設けられている。そしてこれらの電極23A,23B;25A〜25Fは、チタンやチタン合金あるいはステンレス鋼などの導電材料からなるものであって、それぞれ中空な環状(短円筒状)に作られていて、後述するように管路15の一部を構成している。また各電極23A,23B;25A〜25Fのそれぞれの間には、樹脂等の絶縁材料からなる中空円筒状の絶縁管体30が設けられている。したがって各電極23A,23B;25A〜25Fと、各絶縁管体30とが、長さ方向に交互に位置していることになる。そしてこれらの各電極23A,23B;25A〜25Fと、各絶縁管体30とによって、連続通電加熱装置19を形成した部分の管路15が構成されている。
【0057】
なお図示の例では、環状をなす各電極23A,23B,25A〜25Fの内径(直径)は、絶縁管体30の内径と等しい径とされており、したがって各電極23A,23B;25A〜25Fと絶縁管体30とが接する部分では、管路15の内面に実質的に段差がない状態となっている。
【0058】
ここで、図3に示すように、各電極、特に通電加熱のために相互間に電圧を印加すべき通電加熱用電極25A〜25Fの相互間の間隔(距離)Lは、電極25A〜25Fの内径(直径)Rの4倍以上、12倍以下とされている。より好ましくは、通電加熱用電極25A〜25Fの相互間の間隔(距離)Lは、電極25A〜25Fの内径(直径)Rの5倍以上、10倍以下とする。
【0059】
さらに各通電加熱用電極25A〜25Fは、図2に示すように、交互に通電加熱用電源37の一方の端子37A、他方の端子37Bに電気的に接続され、両側のアース電極23A,23Bはそれぞれ電気的に接地されている。なお通電加熱用電源37としては、通常は高周波電源もしくは商用交流電源が用いられる。
【0060】
以上のような実施例の連続通電加熱装置において、供給側開閉弁13を開いてポンプ17を作動させれば、供給側容器11から流動性食品材料が管路15内を図1の左方から右方へ向けて流動輸送される。そして流動性食品材料は、管路15の垂直立上がり部分15Aにおいて連続通電加熱装置19を通過し、その間通電加熱がなされて温度上昇し、殺菌や調理等のための加熱処理がなされ、さらに冷却装置21を通過することにより冷却されながら、排出側容器23に至る。
【0061】
ここで、連続通電加熱装置19における作用についてさらに具体的に説明する。
管路15の垂直立上がり部分15Aにおいて流動性食品材料は、第1アース電極23A、各通電加熱用電極25A〜25F、第2アース電極23Bのそれぞれの内側の位置を順次通過する。そして通電加熱用電極25A〜25Fは、通電加熱用電源37の端子37A,37Bに交互に接続されているから、上下の通電加熱用電極間において流動性食品材料を通って電流が流れ、その流動性食品材料の有する電気抵抗によって流動性食品材料が発熱し、通電加熱がなされる。
【0062】
ここで、本発明者らの詳細な実験によれば、通電加熱用電極25A〜25Fの相互間の距離Lを、電極内径Rの4倍以上とすることによって、比較的粘度の高い流動性食品材料についても、管路の半径方向に均一に加熱して、特に管壁付近での過加熱を防止し得ることが判明した。
【0063】
以下に、本発明者等が、電極間距離Lを内径Rに対して種々変化させて、実際に流動性食品材料に対して連続通電加熱を行なった実験例を示す。
【0064】
実験例1−1:
流動性食品材料として、濃度が約8%で25℃における粘度が約0.1Pa・sのCMC(カルボキシメチルセルロース)溶液を用い、内径Rが約23mmの電極を用いた図2に示すような連続通電加熱装置(絶縁管体の内径も23mm、したがって管路全体の内径が23mm)において、絶縁管体を種々の長さのものに交換して、電極の内径Rに対する電極間距離Lの比L/Rを2.17〜11.7の範囲内で5段階に変化させ、流量40l/hrで連続通電加熱実験を行なった。ここで流動性食品材料としてのCMC溶液は、通電加熱装置の入口に入る前に予熱しておいて、入口直前の温度を48.2℃としておき、通電加熱装置による目標昇温量が20℃、もしくは30℃、または40℃となるように電圧、電流を制御した。そして出口部分において管壁温度TAを測定するとともに、同じく出口部分において、管路内中心軸線位置でCMC溶液温度(出口中心温度TB)を測定した。そして、出口管壁温度TAと出口中心温度TBとの差ΔT=TA−TBを算出した。このΔTは、管路の半径方向の加熱温度のばらつきに相当する。その結果を表1、図4に示す。
【0065】
実験例1−2:
流動性食品材料としてのCMC溶液の流量を80l/hrとした点以外は、実験例1−1と同様にして連続通電加熱実験を行なった。その結果を表2、図5に示す。
【0066】
参考例1−3:
目標昇温量を10℃とし、流量を40l/hr、80l/hrとした点以外は、実験例1−1、実験例1−2と同様にして連続通電加熱実験を行なった。その結果を表3に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
表1、表2、図4、図5に示されるように、流量が40l/hrの実験例1−1(表1、図4)の場合も、また流量が80l/hrの実験例1−2(表2、図5)の場合も、ともに電極内径Rに対する電極間距離Lの比L/Rが大きくなるほど出口部分における断面方向の温度のばらつき量ΔTが小さくなり、特にL/Rが4付近で急激にΔTが小さくなり、L/Rが10付近でΔTの減少傾向が飽和することが判る。
【0071】
本実施例により、電極間距離Lを、電極内径Rの4倍以上、12倍以下と規定した場合に有利な効果を奏することが確認できた。このようにL/Rの比を4以上とすることによって、管路半径方向の加熱のばらつきを小さく抑えて、管壁付近で過加熱が生じることを有効に防止できることが確認できた。
【0072】
また、電極間距離Lが電極内径Rの10倍を越えても、それ以上は加熱のばらつきを抑える効果はほとんど大きくならず、一方、電極間距離Lを電極内径Rの10倍を越える長い距離とした場合、通電加熱を確実に行なうためには電圧を高くしなければならなくなり、その結果逆にスパークが発生したり電源装置の高コスト化を招いたりするおそれがある。安全性、エネルギー効率の観点から、そこで電極間距離Lは電極内径Rの10倍以内とすることがより好ましい。
【0073】
なお前述のように電極間距離Lを電極内径Rの4倍以上とすることにより管路半径方向の加熱のばらつきを抑えることができる理由は必ずしも明確ではないが、L/Rの比を大きくすることにより、電極間での電流密度の分布が平均化される作用と、管壁付近で層流が生じても中心部を流れる流動性食品材料と管壁付近を流れる流動性食品材料が電極間で混練される効果が大きくなる作用とが相俟っているものと推測される。
【0074】
以上のところにおいて、対象となる流動性食品材料の粘度は、基本的には限定されるものではないが、本実施例から、本発明の効果は特に粘度が0.05Pa・s以上の場合に有効に発揮されることが確認できた。
【実施例2】
【0075】
図8に示すように、5つの加熱ユニット46を有する加熱処置装置を使用して液全卵の加熱殺菌処理を行った。それぞれの加熱ユニット46は図9に示すように6つの通電区間を有しており、被加熱流路52は内径Dが17.5mmとなるよう構成した。容器40内に収容された5℃の液全卵を送液ポンプ41により277L/hrの流量で供給し、プレート式の熱交換器42の節減ユニット42cと予熱ユニット42aにより、5℃から54℃まで予熱した。予熱された液全卵を5台の加熱ユニット46に供給し、最下流の加熱ユニット46から流出する液全卵が62.5℃になるまでそれぞれの加熱ユニット46によりジュール加熱した。この殺菌温度に加熱して液全卵を液卵保持ユニット61において5分間保持した後に、冷却ユニット42bにより液全卵を5℃にまで冷却した。
【0076】
それぞれの加熱ユニット46内を流れる液全卵のレイノルズ数Reは、被加熱流路52の内径D、流速Uおよび動粘性係数υから580であり、それぞれの加熱ユニット46における電力密度Pを5050KW/mに設定した。この加熱条件によって5時間の連続運転を行った後に、水すすぎを行い、熱交換器42および加熱ユニット46の分解点検を行ったところ、熱交換器42およびそれぞれの加熱ユニット46の接液部にはスケールの付着が認められなかった。しかも、このようにした加熱処理された液全卵を5℃で72時間保存した後に、目視確認したところ、卵白の熱変性による沈殿物は認められなかった。
【0077】
本発明は実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、予熱ユニット42aと冷却ユニット42bと節減ユニット42cとが組み合わされたプレート式熱交換器42が用いられているが、節減ユニット42cを用いないようにしても良く、予熱ユニット42aを加熱ユニット46と同様にジュール加熱式としても良い。
なお、加熱ユニット46としては、特許文献5の図5〜図7に記載されるように、断面四角形の管状部材の内部にプレート状の電極を対向配置するようにした加熱ユニット、管状部材の両端部に相互に対向してプレート状の電極を対向配置するようにした加熱ユニット、および管状部材の中心部に棒状電極を配置し、管状部材の内面に筒形状の電極を配置するようにした加熱ユニットを用いるようにしてもよい。
【実施例3】
【0078】
ソース類をジュール加熱した際のユニット毎の温度を測定した。測定条件は、以下のとおりである。
[測定条件]
ジュール配管径:φ23mm
ユニット長:ユニット全長1335mm、被加熱流路長980mm
ユニット数:6本
セクション数:実験例3は6、実験例4〜6は8
トータル長:10.5m
加熱流量:600L/hr
撹拌部:各ユニットの間にスタティックミキサーを挿入
【0079】
【表4】

【0080】
原料温度は、第1加熱ユニットの入口部分と、各加熱ユニットの出口部分に設けた温度計により測定した。また、表4中、電極温度は、第3ユニットの最下流の電極体と、第6ユニットの最下流の電極体の測定値である。第1〜3ユニットが電源ユニット1に接続され、第4〜6ユニットが電源ユニット2に接続されている。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の流動性食品材料の連続通電加熱装置を適用した加熱装置の全体構成の一例を示す概略図である。
【図2】図1の装置に適用されている連続通電加熱装置の一例を示す略解的な縦断面図である。
【図3】図2に示される連続通電加熱装置の一部を拡大して示す縦断面図である。
【図4】実験例1による実験結果を示すグラフである。
【図5】実験例2による実験結果を示すグラフである。
【図6】従来の連続通電加熱装置の一例を示す縦断面図である。
【図7】図6に示される従来の連続通電加熱装置における通電電流の電流密度分布を説明するための略解図である。
【図8】本発明の一実施の形態である液卵の加熱処理装置を示す概略図である。
【図9】図8に示された加熱ユニットを示す断面図である。
【図10】図8に示す液卵の加熱処理装置の制御部を示すブロック図である。
【図11】液卵のレイノルズ数と電力密度とを変化させた場合における加熱ユニットの流路内面に対するスケールの付着状況の実験結果を示すグラフである。
【図12】加熱ユニットの流路内面にスケールが付着していない範囲と付着する範囲の境界を示す特性線図である。
【図13】液全卵の粘度(mPasec)と温度(℃)との関係を示す粘度表である。
【図14】本発明の流動性食品材料の連続通電加熱方法における温度勾配を説明するためのグラフである。
【図15】加熱ユニット毎の温度制御を可能とする装置構成の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0082】
1 ジュール加熱装置
4 温度センサ
5 電極体温度センサ
6 プレート
7 フランジ
8 接続管
15 管路
19 連続通電加熱装置
25A〜25F 通電加熱用電極
30 絶縁管体
37 通電加熱用電源
41 送液ポンプ
42a 予熱ユニット
42b 冷却ユニット
46 加熱ユニット
51 流路
52 管状部材
53 電極体
54 スペーサ管体(円筒体)
57 電源ユニット
61 液卵保持ユニット
64 コントローラ(電力制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の環状電極体および複数のスペーサ管体を有し、内部に被加熱流路が形成される加熱ユニットを設け、被加熱流路内で食品材料を流動移送させながら通電加熱する食品材料の連続ジュール加熱方法において、
被加熱流路内で食品材料が熱変性を起こす場合に、被加熱流路を構成する加熱ユニットの数を増やすことで一の加熱ユニットにおける昇温量を減らすこと、および、加熱ユニット毎に温度制御を行うことを特徴とする食品材料の連続ジュール加熱方法。
【請求項2】
一の加熱ユニットあたりの電極体の数を減らし、スペーサ管体長を長くすることを特徴とする請求項1記載の食品材料の連続ジュール加熱方法。
【請求項3】
前記スペーサ管体長を、環状電極体の内径の4倍以上、12倍以下の範囲内で調節することを特徴とする請求項2記載の食品材料の連続ジュール加熱方法。
【請求項4】
加熱ユニット間に撹拌部を設けることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の食品材料の連続ジュール加熱方法。
【請求項5】
撹拌部を曲管および/または加熱ユニットを連通する直管内に配置されたスタティックミキサーにより構成することを特徴とする請求項4記載の食品材料の連続ジュール加熱方法。
【請求項6】
上流に位置する加熱ユニットの昇温幅を、下流に位置する加熱ユニットの昇温幅と比べ大きくすることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の食品材料の連続ジュール加熱方法。
【請求項7】
複数の加熱ユニット中、最下流に位置する加熱ユニットの昇温幅を最小とすることを特徴とする請求項6記載の食品材料の連続ジュール加熱方法。
【請求項8】
熱交換器により食品材料に熱変性が生じる温度帯より低い温度まで加熱した後、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の連続ジュール加熱方法により食品材料を加熱することを特徴とする食品材料の連続ジュール加熱方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の連続ジュール加熱方法により食品材料を加熱するための食品材料の連続ジュール加熱装置であって、
複数の電極体および複数のスペーサ管体を有し、内部に被加熱流路が形成される加熱ユニットと、加熱ユニットに電力を供給する電源ユニットと、加熱ユニットに設けられた温度センサと、制御部とを備える食品材料の連続ジュール加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−136486(P2008−136486A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288913(P2007−288913)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000136642)株式会社フロンティアエンジニアリング (30)
【Fターム(参考)】