説明

高分子電解質用リン酸塩系アクリレート架橋剤及びこれを含有する組成物

本発明は、高分子電解質用リン酸塩系アクリレート架橋剤、及びリン酸塩系アクリレート架橋剤を含有する組成物に関し、特に、リン酸塩系化合物がポリアルキレンオキシド基とアクリレート基により導入されたリン酸塩系アクリレート架橋剤と、前記リン酸塩系アクリレート架橋剤を含有する高分子電解質組成物に関する。電解質組成物の物性は、架橋剤のポリアルキレンオキシドの鎖長を連鎖法により調節することができ、イオン伝導性と、電気化学的及び熱的安定性が優れているため、高分子電解質組成物は、電解質薄膜と、小型及び大容量リチウムポリマー二次電池の高分子電解質に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質用リン酸塩系アクリレート架橋剤、及びリン酸塩系アクリレート架橋剤を含有する組成物に関し、特に、リン酸塩系化合物がポリアルキレンオキシド基とアクリレート基により導入されたリン酸塩系アクリレート架橋剤と、前記リン酸塩系アクリレート架橋剤を含有する高分子電解質組成物に関する。電解質組成物の物性は、架橋剤のポリアルキレンオキシドの鎖長を連鎖法により調節することができ、イオン伝導性と、電気化学的及び熱的安定性が優れているため、高分子電解質組成物は、電解質薄膜と、小型及び大容量リチウムポリマー二次電池の高分子電解質に適用できる。
【背景技術】
【0002】
従来の液体電解質を含む電気化学素子は、電解質漏出及び爆発などの安定性問題を持つため、高分子電解質を使用した電気化学素子が開発された。例えば、高分子電解質を含むリチウムポリマー電池は、従来に比べて安定性が優れているだけでなく、充放電効率が高いため経済的であり、多様な形態にデザインが可能で、薄膜形態に製造することができるため、電池を小型化することができるという長所がある。
【0003】
特に、高分子電解質として広く利用されているポリアルキレンオキシド(PAO)系固体高分子、及び高分子内に有機液体電解質を含むゲル型高分子電解質は、リチウム二次電池の高分子電解質として注目されていた。低分子量のポリアルキレンオキシドまたは有機溶媒を、高分子電解質の伝導性を高めるために、可塑剤として添加した。しかし、可塑剤の含量が増加すると、高分子電解質の物性が低減したり、安定したゲル電解質を製造できないという短所を持っている。
【0004】
特許文献1及び非特許文献1には、化学的に架橋可能な基を有するポリアルキレングリコール化合物を含むイオン伝導性液体及び電解質塩の混合物を使用して、UVまたは電子ビーム放射線により架橋高分子電解質を製造する工程が開示されている。
【0005】
特許文献2、3及び4には、リチウム二次電池の熱的安定性を向上させるために、非水系電解質溶媒用難燃添加剤を使用することが開示されており、難燃添加剤としてリン酸塩系化合物を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,830,939号
【特許文献2】米国特許第5,830,600号
【特許文献3】米国特許第6,511,772号
【特許文献4】米国特許第6,746,794号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Electrochemm. Soc., 145, 1521(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の発明者は、ポリアルキレングリコールを含む高分子電解質組成物のイオン伝導性及び熱的安定性を向上させるために多くの研究を行った。その結果、彼らは、ポリアルキレンオキシド基及び光または熱的に架橋可能なアクリレート基が難燃性であるリン酸塩系化合物に導入された新規の架橋剤と、イオン伝導性、電気化学的及び熱的安定性が優れた前記架橋剤を含む高分子電解質組成物を開発することに成功した。
【0009】
従って、本発明は、ポリアルキレンオキシド基及びアクリレート基を含む高分子電解質用リン酸塩系アクリレート架橋剤を提供することにその目的がある。
【0010】
また、本発明は、高分子電解質用リン酸塩系アクリレート架橋剤を含む高分子電解質組成物を提供することに別の目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記式1で表される高分子電解質用リン酸塩系アクリレート架橋剤に関する。
式1

上記式1中、R1及びR2は各々水素原子またはメチル基であり、nは1〜20の整数である。
【0012】
また、本発明は、上記式1で表されるリン酸塩系アクリレート架橋剤0.1〜95質量%、下記式2で表されるポリアルキレングリコールエーテル及び極性非プロトン性溶媒からなる群から選択された少なくとも1種の可塑剤0.1〜98質量%、リチウム塩3〜40質量%、及び開始剤0.1〜5質量%を含有する固体高分子電解質組成物に関する。
【0013】
式2

上記式2中、R3及びR4は各々炭素数1乃至10の直鎖または分岐鎖アルキル基であり、R5、R6及びR7は各々水素原子またはメチル基であり、o、p及びqは各々0〜20の整数(但し、o、p及びqが同時に0である場合は除く)である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の多様な可塑剤を使用して製造された固体高分子電解質のイオン伝導率の温度依存度を示す図面である。
【図2】本発明の多様な可塑剤を使用して製造された固体高分子電解質の電気化学的安定性を、線形掃引ボルタンメトリー法により測定した結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を更に詳細に説明すると下記の通りである。
【0016】
本発明は、ポリアルキレンオキシド基とアクリレート基がリン酸塩系化合物に導入された光及び熱的に架橋可能なリン酸塩系アクリレート架橋剤と、前記リン酸塩系アクリレート架橋剤、特定の可塑剤、リチウム塩及び光開始剤または熱開始剤を含有し、相溶性を向上させるために、室温でイオン伝導性、電気化学的及び熱的安定性が優れた高分子電解質組成物に関する。
【0017】
非特許文献2(Polymer Degradation Stability 84(2004)525-532)にはリン酸塩系アクリレート架橋剤が開示されているが、これは、コーティング用UV架橋剤であり、高分子電解質用架橋剤として使用する本発明の用途とは異なる。
【0018】
下記式1で表されるリン酸塩系アクリレートを製造する工程は下記反応式1の通りである。
【0019】
反応式1

上記反応式1中、R1、R2及びnは各々前記で定義したところと同じである。
【0020】
上記反応式1に表されるように、式1で表されるトリス(アクリロイルポリエチレングリコール)リン酸塩(POA)は、式4で表されるオキシ三塩化リン(POCl3)と式3で表されるポリエチレングリコールモノアクリレート(HOA)を反応させることで合成される。式3で表されるポリエチレングリコールモノアクリレート(HOA)は従来使用された条件下、特に、0〜12℃で12時間窒素雰囲気下で製造され得る。
【0021】
上記式1で表されるリン酸塩系アクリレート化合物は、有機溶媒により発生する燃焼または爆発を抑制することで、電気化学的または熱的安定性を向上するためなど、様々な分野で可塑剤として使用され得る。特に、リン酸塩系化合物は難燃剤として知られており、揮発性有機溶媒を含有するゲル型電解質に適用される場合、リチウム電池の安定性を改善することができる。
【0022】
前述したリン酸塩系アクリレート化合物の特性を考慮すると、本発明は、架橋剤としてリン酸塩系アクリレート化合物を含有する固体高分子電解質組成物を提供することに目的がある。前記高分子電解質組成物は、例えば、電解質薄膜または小型または大容量のリチウムポリマー二次電池の高分子電解質に適用され、その適用範囲は限定されない。
【0023】
前記固体高分子電解質組成物には、式1で表されるリン酸塩系アクリレート架橋剤0.1〜95質量%と、式2で表されるポリアルキレングリコールジアルキルエーテル及び極性非プロトン性溶媒からなる群から選択された少なくとも1種の可塑剤0.1〜98質量%と、リチウム塩3〜40質量%と、開始剤0.1〜5質量%を含有する。
【0024】
式2

上記式2中、R3及びR4は各々炭素数1乃至10の直鎖または分岐鎖アルキル基であり、R5、R6及びR7は各々水素原子またはメチル基であり、o、p及びqは各々0〜20の整数(但し、o、p及びqが同時に0である場合は除く)である。
【0025】
式1で表されるリン酸塩系アクリレート化合物は架橋剤として使用される。リン酸塩系アクリレート化合物に導入されたポリアルキレンオキシド基は、電解質のイオン伝導性を上昇させるために添加される可塑剤との相溶性を向上させる一方、リン酸塩系アクリレート化合物に添加されるアクリレート基は、高分子電解質の3Dネットワーク構造の確立を可能とする。
【0026】
前記架橋剤は、高分子電解質組成物中、0.1〜95質量%、好ましくは0.5〜80質量%、更に好ましくは0.5〜60質量%含有される。前記含量が0.1質量%未満の場合、架橋剤としての役割を十分に得ることができず、機械的物性もまた低下する。前記含量が95質量%を超過する場合、イオン伝導性が低下し得る。
【0027】
式2で表される可塑剤は、リチウム塩の解離とリチウムイオンの伝導性を向上させて、イオン伝導性を上昇させるために使用され、式2で表されるポリアルキレングリコールジアルキルエーテル、極性非プロトン性溶媒と、それらの混合物の中から選択され得る。
【0028】
式2で表されるポリアルキレングリコールエーテルとして、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジプロピルエーテル、ポリエチレングリコールジブチルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジブチルエーテル末端のポリプロピレングリコール/ポリエチレングリコールの共重合体、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジブチルエーテル末端のポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール/ポリエチレングリコールのブロック共重合体が含まれる。
【0029】
極性非プロトン性溶媒は、炭酸アルキレン系、アルキルテトラヒドロフラン系、ジオキシラン系、ラクトン系及びアセトニトリル系溶媒の中から選択され得る。その例としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキシラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキシラン、γ−ブチロラクトン及びアセトニトリルを含む。
【0030】
前記可塑剤は、高分子電解質組成物中、0.1〜98質量、好ましくは0.1〜90質量含有される。一般に、高分子電解質内の可塑剤含有量の増加は、高分子電解質のイオン伝導性の増加と正比例する。しかし、前記可塑剤の含量が98質量%を超過する場合、高分子電解質の機械的特性は大きく減少し、電池製造用薄膜として使用することができない。従って、前記可塑剤の含量が前述した範囲内に維持されるときのみ、厚さが100μm以下の薄膜を製造することができる。
【0031】
更に、高分子電解質の製造に使用された従来のリチウム塩を本発明で使用することができる。前記リチウム塩の例として、LiClO4、LiCF3SO3、LiBF4、LiPF6、LiAsF6及びLi(CF3SO22Nが挙げられる。
【0032】
前記リチウム塩は、高分子電解質組成物に、3〜40質量%、好ましくは5〜25質量%含有される。しかし、必要に応じてその含量を調節することができる。前記含量が3質量%未満の場合、リチウムイオンの濃度が電解質として使用するには不十分である。一方、40質量%を超過すると、リチウム塩を溶解しづらくなり、イオン伝導性が低下する。
【0033】
従来の熱開始剤または光開始剤を本発明で使用することもできる。光開始剤の例として、エチルベンゾインエーテル、イソプロピルベンゾインエーテル、α−メチルベンゾインエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、α−アシルオキシムエステル、α,α−ジエトキシアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン[Darocur 1173、チバガイギー製]、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[Irgacure 184、Darocur 1116、Irgacure 907、チバガイギー製]、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、チオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、ベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノン、安息香酸ベンジル、安息香酸ベンゾイル及びミヒラーケトンが挙げられる。熱開始剤の例として、アゾイソブチロニトリル系及び過酸化物系開始剤が挙げられる。
【0034】
前記開始剤は、高分子電解質組成物に、0.1〜5質量%含有される。前記含量が0.1質量%未満の場合、架橋反応で使用される開始剤が不十分となる。前記含量が5質量%を超過すると、架橋後に残る未反応の開始剤が電池の性能を低下させる。前記開始剤の含量は、その他成分の含量を考慮して適切に定めることができる。
【0035】
本発明による固体高分子電解質組成物は、電解質薄膜及びリチウムポリマー二次電池の高分子電解質に使用され得る。
【0036】
以下、固体高分子電解質組成物を使用して製造された電解質薄膜の製造について詳細に説明する。本発明は下記実施形態に限定されるわけではない。
【0037】
まず、可塑剤とリチウム塩を適当比率で容器に添加し、攪拌器で攪拌して溶液を製造した後、架橋剤を添加する。開始剤を前記混合液に添加して混合することで、固体高分子電解質用組成物を製造する。この組成物をガラス、ポリエチレン系フィルム、商業用マイラーフィルムまたは電池電極上にコーティングし、電子ビーム、紫外線またはガンマ線などの照射、または熱処理により架橋反応を行う。
【0038】
所定の厚さのフィルムを得るためのまた別の方法として、前記組成物を支持体にコーティングする。厚さ調節用スペーサを前記支持体の両端に固定して、固体高分子電解質用薄膜を前述した照射又は熱処理を行って製造する。
【0039】
以下、本発明による前記固体高分子電解質組成物に適用される別の実施形態であるリチウムポリマー二次電池製造用高分子電解質を製造する工程について詳細に説明する。
【0040】
リチウムポリマー二次電池は陽極、電解質及び陰極からなる。LiCoO2及びLiNiO2のようなリチウム金属酸化物を陽極として使用する。黒鉛(例、MCMB及びMPCF)またはコークスのような炭素系物質またはリチウム金属が陰極として使用される。架橋剤、可塑剤、リチウム塩及び開始剤を混合して電解質溶液を製造する。前記溶液を使用して、所定の厚さのフィルムを製造する。高分子電解質は、光架橋または熱架橋を一定時間行うことにより製造される。
【0041】
リチウムポリマー二次電池は従来の方法により製造される。
【0042】
前述した通り、本発明の新規のリン酸塩系アクリレート化合物を固体高分子電解質組成物の架橋剤として使用することで、機械的強度、イオン伝導性及び熱的安定性のような電解質の特性が、前述した化学的または構造的特性により大きく向上する。
【0043】
本発明を下記実施例により更に詳しく説明する。実施例は本発明を例示するだけであり、それらは請求の範囲を限定するものではない。
【0044】
製造例:ポリエチレングリコールモノアクリレート(HOA)の製造

【0045】
製造例1:ヒドロキシエトキシアクリレート
市販されているヒドロキシエチルアクリレート(アルドリッチ社)をヒドロキシエトキシアクリレート(HOA、n=1)として使用した。
【0046】
製造例2:ヒドロキシトリ(エトキシ)アクリレート
3口フラスコにトリエチレングリコール(20g、0.133mol、n=3)及びトリエチルアミン(13.5g、0.133mol)をジクロロメタン200mLに溶解した後、0℃で攪拌しながら、ジクロロメタン100mLに溶解された塩化アクリロイル溶液(12g、0.133mol)を滴下した。約12時間反応させた後、沈殿物を除去し、減圧下で蒸発することにより生成物を得た。白色の粘着液体生成物をジクロロメタンに溶解し、水で数回抽出した。ジクロロメタン層を分離して、MgSO4で乾燥し、減圧下で蒸発した。シリカカラムクロマトグラフィを用いて生成物を精製することにより、約12gのヒドロキシトリ(エトキシ)アクリレート(HOA、n=3)を得た(収率45%)。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):3.05−3.15(s,1H)、3.52−3.67(m,10H)、4.3−4.4(m,2H)、5.7−5.85(d,1H)、6.0−6.2(m,1H)、6.3−6.45(d,1H)
【0047】
製造例3:ヒドロキシペンタ(エトキシ)アクリレート
前記製造例2と同様の方法で実施し、ペンタエチレングリコール(n=5)32gとトリエチルアミン8.5g及び塩酸アクリロイル7.6gを反応させることで、ヒドロキシペンタ(エトキシ)アクリレート(HOA、n=5)を得た(収率43%)。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):3.05−3.15(s,1H)、3.52−3.67(m,18H)、4.3−4.4(m,2H)、5.7−5.85(d,1H)、6.0−6.2(m,1H)、6.3−6.45(d,1H)
【0048】
製造例4:ポリエチレングリコールモノアクリレート
前記実施例2と同様の方法で実施し、ポリエチレングリコール(n=13.2、分子量1,000)、トリエチルアミン8.5g及び塩化アクリロイル7.6gを反応させることで、ポリエチレングリコールモノアクリレート(HOA、n=13.2)を得た(収率39%)。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):3.05−3.15(s,1H)、3.52−3.67(m,51H)、4.3−4.4(m,2H)、5.7−5.85(d,1H)、6.0−6.2(m,1H)、6.3−6.45(d,1H)
【0049】
実施例:リン酸塩系アクリレート(式1)の製造

【0050】
実施例1:トリス(アクリロイルエトキシ)リン酸塩
3口フラスコにヒドロキシエトキシアクリレート(12g、0.1mol)及びトリエチルアミン(10.5g、0.1mol)をジクロロメタン100mLに溶解した後、0℃で攪拌しながら、ジクロロメタン80mLに溶解されたオキシ三塩化リン溶液(5g、0.0326mol)を滴下した。約12時間反応させた後、沈殿物を除去し、減圧下で蒸発することにより生成物を得た。白色の粘着液体生成物をジクロロメタンに溶解し、水で数回抽出した。ジクロロメタン層を分離して、MgSO4で乾燥し、減圧下で蒸発した。シリカカラムクロマトグラフィを用いて生成物を精製することにより、約12gのヒドロキシトリス(アクリロイルエトキシ)リン酸塩(POA、n=1)を得た(収率45%)。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):4.2−4.45(m,12H)、5.7−5.85(d,3H)、6.0−6.2(m,3H)、6.3−6.45(d,3H)
【0051】
実施例2:トリス(アクリロイルトリエトキシ)リン酸塩
前記実施例1と同様の方法で実施し、製造例2で製造したヒドロキシトリ(エトキシ)アクリレート5.2g、トリエチルアミン2.58g及びオキシ三塩化リン1.18gを反応させることで、2.5gのトリス(アクリロイルトリエトキシ)リン酸(POA、n=3)を得た(収率50%)。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):4.2−4.45(m,36H)、5.7−5.85(d,3H)、6.0−6.2(m,3H)、6.3−6.45(d,3H)
【0052】
実施例3:トリス(アクリロイルペンタエトキシ)リン酸塩
前記実施例1と同様の方法で実施し、製造例3で製造したヒドロキシペンタ(エトキシ)アクリレート5g、トリエチルアミン1.73g及びオキシ三塩化リン0.8gを反応させることで、2gのトリス(アクリロイルペンタエトキシ)リン酸(POA、n=5)を得た(収率45%)。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):4.2−4.45(m,60H)、5.7−5.85(d,3H)、6.0−6.2(m,3H)、6.3−6.45(d,3H)
【0053】
実施例4:トリス(アクリロイルポリエチレングリコール)リン酸塩
前記実施例1と同様の方法で実施し、製造例4で製造したポリエチレングリコールモノアクリレート(HOA、n=13.2)16.55g、トリエチルアミン1.73g及びオキシ三塩化リン0.8gを反応させることで、6.4gのトリス(アクリロイルポリエチレングリコール)リン酸(POA、n=10.3)を得た(収率40%)。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):4.2−4.45(m,158H)、5.7−5.85(d,3H)、6.0−6.2(m,3H)、6.3−6.45(d,3H)
【0054】
実験例1:イオン伝導性試験
1.可塑剤含量に伴うイオン伝導性試験
高分子電解質組成物の可塑剤含量によって電解質のイオン伝導性を測定した。リン酸塩系アクリレート(POA、n=3)を架橋剤として、LiCF3SO3、LiPF6をリチウム塩として使用し、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(n=4)と過酸化ベンゾイル(BPO)を各々可塑剤と開始剤として使用した。
前記組成物をバンド形伝導ガラス板またはリチウム−銅ホイルに注入した後、熱架橋した。バンド形またはサンドイッチ形電極間のACインピーダンスをアルゴン雰囲気下で測定して、周波数応答分析器で分析することで、複素インピーダンスを得た。バンド形電極は、マスキングテープ(1mm×2cm)を伝導性ガラス(ITO)の中央に付着し、エッチング、洗浄及び乾燥して製造された。可塑剤含量に従ってイオン伝導性を測定し、その結果を表1に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
前記表1に示されるように、高分子電解質のイオン伝導性は、可塑剤含量の増加に伴い増加する。更に、架橋剤のエチレンオキシドの鎖長が増加するほど増加する。
【0057】
2.可塑剤及び架橋剤の種類に伴うイオン伝導性
更に、リン酸塩系アクリレート(POA、n=1〜13.2)、LiCF3SO3及びBPOを各々架橋剤、リチウム塩及び開始剤として使用した。PEGDMe(n=4,6,7)及びプロピレン・カーボネート(PC)とエチレン・カーボネート(EC)が1:1の混合比で混合された溶媒を可塑剤として使用し、製造された電解質薄膜のイオン伝導性を測定した。その結果を表2に示し、可塑剤の種類によるイオン伝導性依存度を図1に示した。
【0058】
【表2】

【0059】
表2及び図1に示すように、可塑剤全てにおいて類似した挙動を見せた。特に、EC/PC可塑剤(極性非プロトン性溶媒)のイオン伝導性が優れていた。更に、イオン伝導性は、架橋剤のエチレン・オキシドの鎖長が増加するほど増加した。
【0060】
実験例2:電気化学的安定性
架橋剤としてリン酸塩系アクリレート(POA、n=3)を使用して、可塑剤としてPEGDMeまたはEC/PC(1M LiPF6)を80質量%含むようにすることで、前述した方法によりニッケル電極(1cm×1cm)上に固体高分子電解質用薄膜を製造した。リチウム板の間に電解質を配置した後、真空包装することで、電気化学的安定性測定用セルを製造した。電気化学的安定性は、線形掃引ボルタンメトリー法を利用して−0.3〜5.5Vの電位範囲、10mV/secの掃引速度で測定され、その結果を図2に示した。
図2に示されるように、リチウムの可逆性酸化/還元が0.5〜0.2Vの電位範囲で観察された。PEGDMEを可塑剤として使用するとき、電解質が分解される電流が5V未満で観察されなかった。これらの結果により、高分子電解質は、リチウム基準電極で5Vまでの電圧で、電気化学的に安定するため、リチウムポリマー電池の高分子電解質に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
前述した通り、本発明は、ポリアルキレンオキシド基と架橋が可能なアクリレート基がリン酸塩系化合物に導入されたリン酸塩系アクリレート化合物を提示している。リン酸塩系アクリレート化合物は、機械的強度、難燃性と熱的及び電気化学的安定性が優れているため、様々な分野で適用可能である。特に、架橋剤としてリン酸塩系アクリレート化合物を含有する固体高分子電解質組成物は、ポリアルキレンオキシド基を含むため、電解質のイオン伝導性を上昇させるために使用される可塑剤との相溶性が増大する。アクリレート基は、高分子電解質の3Dネットワーク構造の形成が可能となる。これは、電解質薄膜を製造するのに使用され、負荷平準化用電力貯蔵素子または電気自動車に適用することができる大容量リチウムポリマー二次電池はもちろん、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯用情報端末機に適用することができる小型リチウムポリマー二次電池として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表される高分子電解質用リン酸塩系アクリレート架橋剤。
式1

上記式1中、R1及びR2は各々水素原子またはメチル基であり、nは1〜20の整数である。
【請求項2】
式1で表されるリン酸塩系アクリレート架橋剤0.1〜95質量%と、
式2で表されるポリアルキレングリコールジアルキルエーテル及び極性非プロトン性溶媒の中から選択される1種または2種以上の可塑剤0.1〜98質量%と、
リチウム塩3〜40質量%と、
開始剤0.1〜5質量%と、
を含有する固体高分子電解質組成物。
式1

上記式1中、R1及びR2は各々水素原子またはメチル基であり、nは1〜20の整数である。
式2

上記式2中、R3及びR4は各々炭素数1乃至10の直鎖または分岐鎖アルキル基であり、R5、R6及びR7は各々水素原子またはメチル基であり、o、p及びqは各々0〜20の整数(但し、o、p及びqが同時に0である場合は除く)である。
【請求項3】
前記極性非プロトン性溶媒は、炭酸アルキレン系、アルキルテトラヒドロフラン系、ジオキシラン系、ラクトン系及びアセトニトリル系溶媒からなる群から選択される、請求項2に記載の固体高分子電解質組成物。
【請求項4】
前記リチウム塩は、LiClO4、LiCF3SO3、LiBFS4、LiPF6、LiAsF6及びLi(CF3SO22Nからなる群から選択される、請求項2に記載の固体高分子電解質組成物。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか一項記載の固体高分子電解質組成物がコーティングされた固体高分子電解質用薄膜。
【請求項6】
請求項2乃至4のいずれか一項記載の固体高分子電解質組成物を含有するリチウムポリマー二次電池用高分子電解質。
【請求項7】
請求項2乃至4のいずれか一項記載の固体高分子電解質組成物を含有するリチウムポリマー二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−544794(P2009−544794A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521701(P2009−521701)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際出願番号】PCT/KR2007/003600
【国際公開番号】WO2008/013417
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(398043850)コリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー (21)
【Fターム(参考)】