説明

高分子電解質膜積層体

【課題】巻き取り時、輸送時や保存時における高分子電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防いで、高分子電解質膜の形態安定性を高度に維持することができ、さらに、高分子電解質膜積層体のロール作製時の環境温湿度とその使用温湿度が大きく異なっても、筒状のカールが発生しがたい高分子電解質膜積層体を提供する。
【解決手段】高分子電解質膜と、高分子電解質膜の少なくとも一方の面に粘着層を有しないプラスチックフィルムが積層された高分子電解質膜積層体において、高分子電解質膜とプラスチックフィルムとの剥離強度が0.005N/20mm以下であり、かつプラスチックフィルムの引張弾性率が0.1GPa以上で、厚みが5μm以上400μm以下である高分子電解質膜積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送時や保存時における高分子電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防いで、高分子電解質膜の形態安定性を高度に維持し、さらに、高分子電解質膜の加工時における変形や損壊を防いで、取り扱い性を高めることのできる高分子電解質膜積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池は出力密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低く、起動や停止が容易であることから、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。
【0003】
高分子電解質膜には通常プロトン伝導性のイオン交換膜が使用される。高分子電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素やメタノールなどの透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。これらの特性には、電解質膜のシワ、凹凸が影響することがわかっている。
【0004】
従来は、高分子電解質膜を粘着層を介して粘着高分子フィルムに貼付して、高分子電解質膜の形態安定化を図っていた(例えば、特許文献1)。
【0005】
しかし、これらの対策だけでは、粘着高分子フィルムと高分子電解質膜の積層体のロール作製時の環境温湿度とその使用温湿度が大きく異なる場合などに、高分子電解質膜、粘着層、基材高分子フィルムの吸湿度合いや温度に対する寸法変化率の違いによって、使用時にカールが発生することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−140920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明では、巻き取り時、輸送時や保存時における高分子電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防いで、高分子電解質膜の形態安定性を高度に維持することができ、さらに、高分子電解質膜積層体のロール作製時の環境温湿度とその使用温湿度が大きく異なっても、筒状のカールが発生しがたい高分子電解質膜積層体を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高分子電解質膜と、高分子電解質膜の少なくとも一方の面に粘着層を有しないプラスチックフィルムが積層された高分子電解質膜積層体において、高分子電解質膜とプラスチックフィルムとの剥離強度が0.005N/20mm以下であり、かつプラスチックフィルムの引張弾性率が0.1GPa以上で、厚みが5μm以上400μm以下であることを特徴とする。
【0009】
上記プラスチックフィルムは、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、液晶ポリエステルフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリアミドフィルム、アラミドフィルムおよびポリテトラフルオロエチレンフィルムよりなる群から選択されるフィルムであることが好ましい。
【0010】
上記プラスチックフィルムは、高分子電解質膜の一方の面のみに積層されている態様、高分子電解質膜の両面に積層されている態様のいずれであってもよい。また、高分子電解質膜が芳香族系高分子電解質からなることは本発明の好ましい実施態様である。高分子電解質膜が、1GPa以上の引張弾性率を有する非フッ素系高分子電解質膜であることも好ましい。さらに、ロール状に巻き取られている高分子電解質膜積層体も本発明に包含される。
【発明の効果】
【0011】
巻き取り時、輸送時や保存時における高分子電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防いで、高分子電解質膜の形態安定性を高度に維持することができ、さらに、高分子電解質膜積層体のロール作製時の環境温湿度とその使用温湿度が大きく異なっても、筒状のカールの発生を抑制することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、高分子電解質膜と、高分子電解質膜の少なくとも一方の面に粘着層を有しないプラスチックフィルムが積層された高分子電解質膜積層体において、高分子電解質膜とプラスチックフィルムとの剥離強度が0.005N/20mm以下であり、かつプラスチックフィルムの引張弾性率が0.1GPa以上で、厚みが5μm以上400μm以下であることを特徴とする。本発明の高分子電解質膜積層体は、具体的には、ロール状に巻き取られている。そして、高分子電解質膜とプラスチックフィルムを共に巻き取って(共巻き)なるものである。
【0013】
[プラスチックフィルム]
高分子電解質膜とプラスチックフィルムとの剥離強度は、0.005N/20mm以下でなければならない。剥離強度が0.005N/20mmを超えると、環境温湿度が変化しても、プラスチックフィルムと高分子電解質膜が容易に剥離できずに、筒状のカールが発生してしまう。両者の剥離強度は小さいほど好ましく、0N/20mmが最も好ましい。なおこの剥離強度は、23℃、50±5%RHの雰囲気下で測定する。
【0014】
本発明では、プラスチックフィルムの引張弾性率が0.1GPa以上であることも必要である。引張弾性率が0.1GPa未満では、高分子電解質膜と共巻き実施時の張力及びその変動により寸法変化を起こし、高分子電解質膜との長さがそろわないことによるシワを発生させるため好ましくない。引張弾性率の好ましい範囲は0.3GPa以上であり、より好ましくは0.5GPa以上である。なお、この引張弾性率は、ロール状の積層体の場合は、長さ方向の引張弾性率とする。
【0015】
上記プラスチックフィルムの厚さの適正範囲は、取り扱いが可能な範囲で自由に選定することができるが、具体的には、5μm以上400μm以下であることが必要である。この範囲であれば、シワの発生を抑制し、剛直さによる共巻きの難しさを回避することができる。プラスチックフィルムの厚さは、7μm以上350μm以下が好ましく、9μm以上300μm以下がより好ましい。
【0016】
プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、液晶ポリエステルフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリアミドフィルム、アラミドフィルムおよびポリテトラフルオロエチレンフィルムよりなる群から選択されるフィルムが好ましい。このうち、汎用性を考慮すると、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアミドフィルムが好ましい。
【0017】
プラスチックフィルムは、高分子電解質膜の片面にのみ積層されていてもよく、両面に積層されていてもよい。両面にプラスチックフィルムを積層する場合は、2層のプラスチックフィルムは同じ素材であってもよく、異なる素材であってもよい。また、引張弾性率や厚さが上記範囲内であれば、これらが異なるフィルムを用いても構わない。
【0018】
本発明のプラスチックフィルムは、公知の添加剤を必要に応じて含有させたり、フィルム表面にコーティング層を設けてもよい。例えば、滑剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐光剤、耐衝撃改良剤などをフィルムに含有させたり、表面にこれらを有するコーティング層をコートしてもよい。ただし、これらの添加剤やコート剤などは、高分子電解質膜の性能を阻害しないように、材質、添加方法やコート方法を検討するなどして、高分子電解質膜への移行や転写がないように留意する。この観点からは、例えば可塑剤を大量に含有するポリ塩化ビニルフィルムなどは本用途には適さない。
【0019】
[高分子電解質膜]
本発明における高分子電解質膜を形成するポリマーとしては、任意の高分子電解質を用いることができる。一般に、主として芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族系高分子電解質を用いる場合、輸送、保管、加工時における膜の変形や損壊の問題が起こりやすいが、本発明の高分子電解質膜積層体とすることでそれらの問題を解消することができる。よって、本発明では芳香族系高分子電解質を用いることが好ましい。
【0020】
本発明の芳香族系高分子電解質とは、ポリマー主鎖に芳香族環を有し、この芳香族環が単結合、エーテル結合、スルホン結合、イミド結合、複素環結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、スルフィド結合、カーボネート結合およびケトン結合から選択される少なくとも1種の結合基で結合された構造を有する、非フッ素系あるいは部分フッ素系のイオン伝導性ポリマーである。
【0021】
かかる構造を有する芳香族系ポリマーとしては、例えば、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフェニルキノキサリン、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、芳香族ポリエステル、芳香族ポリアミド、芳香族ポリウレタン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、芳香族ポリカーボネート、ポリアリールケトン、ポリエーテルケトン類(ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホン)等が挙げられる。高分子電解質は、これらの芳香族系ポリマー単独で構成されても、2種以上を組み合わせて構成されてもよい。特に、芳香族系ポリマーとしては、ポリ(p−フェニレン)、ポリ(m−フェニレン)などのポリアリーレン系ポリマー;ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン類などのポリアリーレン(チオ)エーテル系ポリマー;前記ポリアリーレン/前記ポリアリーレン(チオ)エーテル共重合系ポリマーであることが好ましく、芳香族基や脂肪族基からなる側鎖を有していてもよい。
【0022】
本発明の高分子電解質を構成する芳香族系ポリマーは、酸性基を有することが好ましい。酸性基としては、例えば、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、スルホンアミド基、スルホンイミド基およびこれらの誘導体が挙げられる。芳香族炭化水素系ポリマーは、これらの酸性基のいずれか一種のみを有して構成されても、2種以上有して構成されてもよい。本発明では、特にスルホン酸基、ホスホン酸基を有していることが好ましい。酸性基は、芳香族炭化水素系ポリマーのいずれの位置で保持されていてもよく、例えば、ポリマー主鎖を構成する芳香環上やポリマー側鎖を構成する芳香族基上や脂肪族基上に酸性基を有する態様が挙げられる。なお、酸性基は、ポリマー形成中や高分子電解質膜製造中は、塩となっていても構わないが、最終的には塩をプロトン(H)に変換して高分子電解質膜とすることが好ましい。塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属イオンや、モノアンモニウム塩などの1価のカチオンが挙げられる。これら1価のカチオン塩の群から選択される単一種の塩で構成されても、2種以上を組み合わせた複数種の塩で構成されてもよい。
【0023】
本発明で用いる高分子電解質は、上記芳香族系ポリマーのホモポリマーやランダム共重合体の他、セグメント化ブロック共重合体、長鎖あるいは短鎖の分岐を有する重合体(例えば、櫛型重合体など)、星型重合体などの高次構造を有していてもよい。中でも、セグメント化ブロック共重合体など、親水性部と疎水性部の相分離によって共連続構造を形成し得る共重合体を用いると、高分子電解質膜の耐久性やプロトン伝導性が向上する点で好ましい。このようなセグメント化ブロック共重合体としては、酸性基またはその塩を有する親水性セグメントと、酸性基及びその塩を有さない疎水性セグメントとの共重合体が挙げられる。このようなセグメント化ブロック共重合体は、例えば、前記セグメントを構成するオリゴマーを、直接あるいは他の化合物を介して重合させることによって得ることができる。
【0024】
芳香族炭化水素系ポリマーに酸性基を導入する方法のうち、特に芳香族炭化水素系ポリマーの芳香環上にスルホン酸基を導入する方法としては、例えば、上記のような骨格を持つ芳香族炭化水素系ポリマーに対して、ポリマーに応じた反応条件を適宜選択しながら、適当なスルホン化剤を反応させて導入する方法が挙げられる。このようなスルホン化剤としては、例えば、芳香族系炭化水素系ポリマーにスルホン酸基を導入する例として報告されている、濃硫酸や発煙硫酸(例えば、Solid State Ionics,106,P219(1998))、クロル硫酸(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P295(1984))、無水硫酸錯体(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P721(1984)、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,23,P1231(1985))、特許第2884189号に記載のスルホン化剤等が挙げられる。これらのスルホン化剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、酸性基を有するモノマー成分を重合して、酸性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーを得る方法としては、例えば、酸性基(スルホン酸基やホスホン酸基など)を有する芳香族ジアミンを含むジアミンと、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを重合して、酸性基含有ポリイミドを得る方法;酸性基を有する芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と、芳香族ジアミンジオールや芳香族ジアミンジチオールや芳香族テトラミンとを重合して、酸性基含有ポリベンズオキサゾールや酸性基含有ポリベンズチアゾールや酸性基含有ポリベンズイミダゾールを得る方法;芳香族ジハライドと芳香族ジオールとを重合してポリスルホンやポリエーテルスルホンやポリエーテルケトンを得るにあたり、酸性基を有する芳香族ジハライドや酸性基を有する芳香族ジオールを用いる方法等が挙げられる。なお、酸性基を有する芳香族ジオールを用いるよりも、酸性基を有する芳香族ジハライドを用いる方が、重合度が高くなり易く、また、酸性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーの熱安定性が高くなるので好ましい。
【0026】
本発明で用いる高分子電解質は、一般式1で表される繰り返し単位を有する芳香族炭化水素系ポリマーであることが特に好ましい。
【0027】
【化1】

[一般式1において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはHまたは1価のカチオンを、Z1はO又はS原子のいずれかを、Z2は、O原子、S原子、−CH2−基、−C(CH32−基、−C(CF32−基、シクロヘキシレン基、直接結合のいずれかを、n1は1以上の整数を表す。]
【0028】
一般式1中、Xが−S(=O)2−基であると、溶剤への溶解性が向上する。Xが−C(=O)−基であると、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性をさらに高めたり、高分子電解質膜に光架橋性を付与したりすることができる。Yは、NaやKなどのアルカリ金属であることが好ましい。YがH原子であると、高分子電解質膜の製造過程の熱などによって分解し易いためである。なお、プロトン伝導率に優れた高分子電解質膜を得るために、最終的にはYをH原子に変換して高分子電解質膜とすることが好ましい。Z1はO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手し易いなどの利点がある。Z1がS原子であると耐酸化性が向上する。Z2がO原子やS原子であると電極との接合性がより改良される。Z2が直接結合である場合は、得られる高分子電解質膜の寸法安定性が改良される。n1は1〜30の範囲にあることが好ましい。n1が3以上で、かつZ2がO原子の場合は、高分子電解質膜と電極との接合性が特に向上する。なお、n1が2以上の場合には、Z2はそれぞれ異なる結合基で構成されてもよい。
【0029】
本発明で用いる高分子電解質は、一般式1で表される繰り返し単位と共に、さらに一般式2で表される繰り返し単位を含有している芳香族系ポリマーであることが好ましい。かかる芳香族系ポリマーは適切な軟化温度を有し、高分子電解質膜としたときに電極と良好に接合する。
【0030】
【化2】

[一般式2において、Ar1は二価の芳香族基を、Z3はO原子又はS原子のいずれかを、Z4は、O原子、S原子、−CH2−基、−C(CH32−基、−C(CF32−基、シクロヘキシレン基、直接結合のいずれかを、n2は1以上の整数を表す。]
【0031】
一般式2中、Z3がO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手し易いなどの利点がある。Z3がS原子であると耐酸化性が向上する。Z4がO原子、S原子であると接合性がより改良される。Z4が直接結合であると、得られる高分子電解質膜の寸法安定性が改良される。n2は1〜30の範囲にあることが好ましく、n2が2以上の場合には、Z4はそれぞれ異なる結合基で構成されてもよい。n2が3以上で、かつZ4がO原子の場合は、高分子電解質膜と電極との接合性が特に向上する。
【0032】
一般式2におけるAr1は、電子吸引性基を有する二価の芳香族基であることが好ましい。電子吸引性基としては、公知の電子吸引性基であればよく、特に限定されない。例えば、スルホン基、スルホニル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸イミド基などのスルホ基及びその誘導体;カルボキシル基、カルボン酸エステル基などのカルボキシル基及びその誘導体;カルボニル基;シアノ基;ハロゲン基;トリフルオロメチル基などのパーフルオロアルキル基;ニトロ基;ホスフィン基などが挙げられる。これらの電子吸引性基は、単独で用いられても、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0033】
Ar1は、下記一般式3〜6で表されるのが好ましい。一般式3の場合には、ポリマーの溶解性を高めることができる。一般式4の場合には、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、光架橋性を付与したりできる。一般式5や6の場合には、ポリマーの膨潤を少なくできる。かかる効果は一般式6の方が大きい。一般式3〜6の中でも一般式6が最も好ましい。
【0034】
【化3】

【0035】
本発明で用いる高分子電解質は、一般式1で表される繰り返し単位に、さらに一般式2で表される繰り返し単位を含有するとともに、一般式1におけるZ1及びZ2がいずれもO原子であり、かつn1が3以上である芳香族系ポリマーであることが、さらに好ましい。このような芳香族系ポリマーを用いて得られる高分子電解質膜は、電極との接合性が特に向上する。
【0036】
かかる芳香族系ポリマーは、一般式2における、Z3及びZ4がいずれもO原子であり、かつ、n2が3以上であることがさらに好ましい。このような芳香族系ポリマーを用いて得られる高分子電解質膜は、電極との接合性がより一層向上する。
【0037】
本発明で用いる高分子電解質が、主として一般式1で表される繰り返し単位と一般式2で表される繰り返し単位とからなる芳香族系ポリマーである場合には、各繰り返し単位のモル比は、7:93〜70:30の範囲であることが好ましい。モル比が7:93とは、一般式1で表される繰り返し単位のモル数を7としたとき、一般式2で表される繰り返し単位のモル数が93であることを表す。70:30のモル比よりも一般式1で表される繰り返し単位が多くなると、高分子電解質膜としたときの燃料透過性が大きくなる場合があり好ましくない。7:93のモル比よりも一般式1で表される繰り返し単位が少なくなると、高分子電解質膜としたときのプロトン伝導性が低下して抵抗が増大するため好ましくない。上記モル比は、10:90〜50:50の範囲がより好ましく、10:90〜40:60の範囲がさらに好ましい。
【0038】
本発明で用いる高分子電解質は、一般式1及び一般式2に加えて、さらに一般式7で表される繰り返し単位を含有している芳香族炭化水素系ポリマーであることがさらに好ましい。かかる芳香族炭化水素系ポリマーを用いることにより、高分子電解質膜としたときの膜の形態安定性を高めることができる。
【0039】
【化4】

[一般式7において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z5はO又はS原子のいずれかを表す。]
【0040】
一般式7中、X、Y、及びZ5が上記態様であることが好ましい理由は、一般式1中、X、Y、及びZ1でそれぞれ説明した理由と同様である。
【0041】
かかる芳香族炭化水素系ポリマーは、一般式1における、Z1及びZ2がO原子又はS原子であり、かつ、n1が1であると、高分子電解質膜と電極との接合性、及び膜の形態安定性がより良好になるので好ましい。また、一般式2における、Z3及びZ4がO原子又はS原子であり、かつ、n2が1であると、高分子電解質膜と電極との接合性、及び膜の形態安定性がさらに良好になるので好ましい。
【0042】
本発明で用いる高分子電解質は、一般式1、2、及び7で表される繰り返し単位に加えて、さらに一般式8で表される繰り返し単位を含有している芳香族系ポリマーであることがさらに好ましい。かかる芳香族炭化水素系ポリマーを用いることにより、高分子電解質膜と電極との接合性、及び膜の形態安定性を大きく向上することができる。
【0043】
【化5】

[一般式8において、Ar2は2価の芳香族基を、Z6はO原子又はS原子のいずれかを表す。]
【0044】
一般式8中、Z6が上記態様であることが好ましい理由、及びAr2の好ましい具体的態様については、一般式2中、Z3及びAr1でそれぞれ説明した理由と同様である。
【0045】
本発明で用いる高分子電解質が、一般式1、2、7、及び8で表される繰り返し単位を全て有する芳香族炭化水素系ポリマーである場合には、それぞれの繰り返し単位のモル%、及びその他の繰り返し単位のモル%が下記数式1〜3を満たすことが好ましい。
【0046】
0.9≦(n3+n4+n5+n6)/(n3+n4+n5+n6+n7)
≦1.0 (数式1)
0.05≦(n3+n4)/(n3+n4+n5+n6)
≦0.7 (数式2)
0.01≦(n4+n6)/(n3+n4+n5+n6)
≦0.95 (数式3)
(上記数式中、n3は一般式7で表される繰り返し単位のモル%を、n4は一般式1で表される繰り返し単位のモル%を、n5は一般式8で表される繰り返し単位のモル%を、n6は一般式2で表される繰り返し単位のモル%を、n7はその他の繰り返し単位のモル%を、それぞれ表す。)
【0047】
(n3+n4+n5+n6)/(n3+n4+n5+n6+n7)が0.9よりも小さいと、高分子電解質膜としたときに良好な特性が得られない場合がある。より好ましいのは0.95〜1.0の範囲である。
【0048】
(n3+n4)/(n3+n4+n5+n6)が0.05よりも小さくなると、高分子電解質膜としたときに十分なプロトン伝導性が得られない場合がある。また、0.7よりも大きいと高分子電解質膜としたときの膨潤性が著しく大きくなる場合がある。
【0049】
(n3+n4)/(n3+n4+n5+n6)は0.07〜0.5の範囲であることが好ましく、0.1〜0.4の範囲であることがより好ましい。
【0050】
(n4+n6)/(n3+n4+n5+n6)が0.01よりも少ないと、高分子電解質膜と電極との接合性が低下する場合がある。0.95よりも大きいと、高分子電解質膜の膨潤性が大きくなりすぎる場合がある。0.05〜0.8の範囲がより好ましく、0.4〜0.8の範囲がさらに好ましい。
【0051】
なお、上記芳香族系ポリマーにおいて、上記各一般式で表される各繰り返し単位の結合様式は特に限定されるものではなく、ランダム結合、交互結合、連続したブロック構造での結合などが挙げられる。芳香族系ポリマーは、単一の結合様式で構成されても、2種以上の結合様式の組み合わせで構成されてもよい。
【0052】
[高分子電解質の製造方法の好適例]
上記一般式1等で表される繰り返し単位を有する芳香族系ポリマーは、下記一般式9〜11で表されるモノマー(例えば、(活性化)ジハロゲン芳香族化合物、芳香族ジオール類、芳香族ジチオール類、ジニトロ芳香族化合物など)を用いて、公知の方法(例えば、塩基性化合物の存在下、公知の芳香族求核置換反応による重合反応)で製造することができる。また、一般式12で表されるモノマーをさらに用いると、膜の形態安定性など物理的な特性が向上するため好ましい。
【0053】
【化6】

[一般式9〜12において、Z7及びZ10は、それぞれ独立してCl原子、F原子、I原子、Br原子、ニトロ基のいずれかを、Z8及びZ11は、それぞれ独立してOH基、SH基、−O−NH−C(=O)−R基、−S−NH−C(=O)−R基のいずれかを表す。Rは芳香族又は脂肪族の炭化水素基を表す。なお、X、Y、Z2、n1及びAr1は、上記X、Y、Z2、n1及びAr1とそれぞれ同じである。]
【0054】
一般式9で表されるモノマーの具体例としては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン等のジハロゲン芳香族化合物、及びこれらのスルホン酸基が1価のカチオンと塩を形成しているものが挙げられる。カチオンの具体例については上述の通りである。
【0055】
一般式9で表されるモノマーのうち、スルホン酸基が塩になっている化合物の例としては、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンなどが挙げられる。
【0056】
一般式10で表されるモノマーの具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド(4,4’−チオビスフェノール)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー(下記一般式13で表される構造のもの)などの芳香族ジオール類;4,4’−チオビスベンゼンチオール、4,4’−オキシビスベンゼンチオールなどの芳香族ジチオール類などが挙げられ、特に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー、4,4’−チオビスベンゼンチオールが好ましい。
【0057】
【化7】

[一般式13において、nは1以上の整数からなり、nが異なる複数種の成分を混合したものでもよい。]
【0058】
一般式10で表されるモノマーは、高分子電解質膜の柔軟性を高め、変形に対する破壊の防止や、ガラス転移温度の低下による電極との接合性向上などの効果をもたらす。
【0059】
一般式11で表されるモノマーとしては、同一芳香環にハロゲン、ニトロ基などの求核置換反応における脱離基と、それを活性化する電子吸引性基とを有するモノマーが挙げられる。具体的に、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等の活性化ジハロゲン芳香族化合物が挙げられるがこれらに制限されることはない。また、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用できる。
【0060】
一般式12で表されるモノマーの例としては、4,4’−ビフェノール、4、4’−ジメルカプトビフェノールなどの芳香族ジオール類が挙げられ、特に4,4’−ビフェノールが好ましい。
【0061】
本発明では、一般式9〜12で表されるモノマーとともに他の各種活性化ジハロゲン芳香族化合物、ジニトロ芳香族化合物、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物をモノマーとして併用することもできる。かかるビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、フェノールフタレイン、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイド等が挙げられる。この他、芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオール又は各種芳香族ジチオールを用いてもよい。
【0062】
また本発明に用いる高分子電解質を構成する別の態様のポリマーの原料としては、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、3、3’−ジアミノベンジジンなどの芳香族テトラアミノ化合物と、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウムや3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸などのイオン性基を有する芳香族ジカルボン酸などを挙げることができる。これらのモノマーを用いて重縮合を行い、ポリベンズイミダゾールなどのポリアゾール系高分子電解質を得ることができる。
【0063】
上記の中でも、活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物、芳香族ジオール類や芳香族ジチオール類などを原料として、炭酸カリウムなどの塩基性化合物の存在下、公知の芳香族求核置換反応により重合して得られる芳香族系ポリマーを高分子電解質として用いることが好ましい。
【0064】
高分子電解質の分子量は特に限定されるものではないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いてポリエチレングリコールを標準として測定される数平均分子量が10000〜500000の範囲であることが好ましい。10000未満では、膜の物理的特性が低下する場合がある。分子量が大きくなるほど、機械的特性の面からは好ましいが、大き過ぎると、高分子電解質溶液を用いて高分子電解質膜を製造する際に、高分子電解質溶液の固形分濃度を下げざるを得なくなり、溶剤の除去に問題が出る場合がある。
【0065】
高分子電解質の対数粘度は、0.1〜5.0dL/gの範囲であることが好ましく、0.3〜5.0dL/gの範囲であることがより好ましい。対数粘度が0.1dL/g未満であると、膜を形成することが困難になる場合がある。また、対数粘度が5.0dL/g超であると、高分子電解質溶液の粘度が高くなりすぎたり、濃度が低くなりすぎたりして、製膜が困難になる場合がある。
【0066】
高分子電解質の軟化温度は、120℃以上であることが好ましく、140〜300℃であることがより好ましい。
【0067】
[高分子電解質膜の成形方法]
高分子電解質膜を成形する手法として好ましいのは、高分子電解質溶液を用いたキャスト法である。キャストした溶液を加熱または減圧下で乾燥し、高分子電解質を溶解する溶媒(良溶媒)と混和することができるが、高分子電解質およびビフェニル誘導体は溶解しない溶媒(貧溶媒)への浸漬等によって、高分子電解質膜から良溶媒をさらに抽出除去して高分子電解質膜を得ることができる。貧溶媒の除去は、乾燥によることが高分子電解質膜の均一性からは好ましい。また、高分子電解質や溶媒の分解や変質を避けるため、減圧下でできるだけ低い温度で乾燥することもできる。高分子電解質溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると、溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。
【0068】
キャスト膜の厚みは特に制限されないが、10〜1000μmであることが好ましい。より好ましくは50〜500μmである。キャスト膜の厚みが10μmよりも薄いと、高分子電解質膜としての形態を保てなくなる傾向にあり、1000μmよりも厚いと不均一な高分子電解質膜ができやすくなる傾向にある。キャスト膜の厚みを制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にしたりするなどして、キャストされる溶液の量や濃度で、キャスト膜の厚みを制御することができる。キャスト膜は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温にして蒸発速度を下げるとよい。また、水などの貧溶媒にキャスト膜を浸漬する場合には、浸漬前に、キャスト膜を空気雰囲気下や不活性ガス雰囲気下に適当な時間放置しておくなどして、キャスト膜の凝固速度を調整することができる。高分子電解質膜として使用する場合、膜中の酸性基は1価のカチオンの塩になっているものを含んでいても良いが、適当な酸処理によりフリーの酸性基に変換することもできる。この場合、硫酸、塩酸等の水溶液中に、加熱下又は加熱せずに、得られた膜を浸漬処理することで行うことも効果的である。
【0069】
上記キャスト膜が乾燥することで、高分子電解質膜が得られる。本発明の高分子電解質膜(乾燥後)は、目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、プロトン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には3〜200μmであることが好ましく、5〜150μmであることがさらに好ましく、特に好ましくは5〜100μmである。高分子電解質膜の厚みが3μmより薄いと、高分子電解質膜の取扱が困難となり燃料電池を作製した場合に短絡等が起こる傾向にあり、200μmよりも厚いと高分子電解質膜が頑丈となりすぎ、ハンドリングが難しくなる傾向にある。また、高分子電解質膜は1GPa以上の引張弾性率(JIS K7127)を有する非フッ素系高分子電解質膜であることが好ましい。
【0070】
[高分子電解質膜積層体]
本発明の高分子電解質膜積層体は、上記高分子電解質膜と、上記プラスチックフィルムが積層されて構成される。プラスチックフィルムは高分子電解質膜の片面のみに積層されていても、両面に積層されていても構わない。
【0071】
本発明の高分子電解質膜積層体の形状は特に限定されず、シート状、ロール状のいずれでも構わない。積層体が巻き取られてロール状になっている方が、本発明の効果がより発揮される。高分子電解質膜の片面にのみプラスチックフィルムを積層する場合は、高分子電解質膜が内側となるように捲回する方が、輸送時や保管時の湿度変化による形状への影響を受けにくく、好ましい。巻き取りの際には、プラスチックフィルムを高分子電解質膜の片面または両面に重ねて、公知の巻き取り装置などで巻き取ればよい。巻取りコアとしては、通常、3インチ、6インチ、8インチ等の紙管やプラスチックコア、金属製コアを使用することができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各種測定は次のように行った。
【0073】
<引張弾性率>
JIS−K7127に準拠し、室温が23℃で湿度が50±5RH%にコントロールされた測定室内で、試料幅10mm、試料長40mm(MD方向)のサンプルを、引張試験機(東洋測器社製)にて、引張速度20mm/minで引っ張ったときの引張応力−ひずみ曲線の傾きから求めた。
【0074】
<高分子電解質膜積層体の剥離強度>
JIS−C5016に準拠し、室温が23℃で湿度が50±5RH%にコントロールされた測定室内で、90度剥離法で測定した。すなわち、高分子電解質膜積層体を、幅20mm、長さ100mm(MD方向)にカットし、プラスチックフィルム側に両面テープを貼り、自由に回転できる回転ドラムに貼りつけた後、高分子電解質膜の端部を少し引き剥がし、引張試験機のつかみ具に挟んでMD方向に引き剥がしたときの荷重(強度)を測定し、荷重が安定している部分の平均荷重を剥離強度(N/20mm)とし、サンプル数5個の平均値を求めた。
【0075】
<積層体における高分子電解質膜の品位(外観)>
高分子電解質膜積層体における高分子電解質膜のシワ、凹凸などを肉眼で観察し、下記3段階で評価した。
○:シワ、凹凸などが全く認められない。
△:シワ、凹凸などがわずかに認められる。
×:シワ、凹凸などが著しく認められる。
【0076】
<高分子電解質膜積層体のカール>
高分子電解質膜積層体を10cm角の正方形にカットし、23℃、50±5RH%での5分後のカール状態と、23℃、30±5RH%での5分後のカール状態を肉眼で観察し、下記3段階で評価した。
○:平板状であり、カールが全く認められないため、次工程で良好な作業性が確保できる。
△:半円状のカールが認められ、次工程でカールを伸ばしながら使用しなければならないため、作業性が低下する。
×:筒状のカールが認められ、次工程でカールを常に伸ばしながら使用しなければならないため、著しく作業性が低下する。
【0077】
製造例1(高分子電解質膜の製造)
反応器に、乾燥した3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(S−DCDPS)778部(質量部の意味;以下同様)、2,6−ジクロロベンゾニトリル(DCBN)553部、4,4’−ビフェノール(BP)893部、炭酸カリウム763部、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)5631部を入れて、窒素雰囲気下、200℃で10時間反応させた。放冷の後、水中にストランド状に沈殿させ、得られたポリマーを10Lの水で5回洗浄した後、乾燥し、ポリマーを得た。このポリマーの対数粘度は1.23dL/gであった。
【0078】
NMPを溶剤として用い、25質量%のポリマー溶液を調製した。次いで、支持体として幅30cmの非粘着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、ブレードコーターにて、幅25cm、厚みが200μmになるように温度25℃で連続的にポリマー溶液を流延し、130℃で30分間乾燥した。ポリマー膜は自己支持性を示すようになった。引き続き、支持体からポリマー膜を剥離することなく、連続的に、30℃、20質量%硫酸水溶液に12分間浸漬して、酸処理を行い、高分子電解質膜を得た。次いで、支持体から高分子電解質膜を剥がすことなく30℃の純水に18分間浸漬し、さらに別の30℃の純水に18分間浸漬した。その後、支持体から高分子電解質膜を剥がすことなく、23℃、50±5%RHで30分間風乾させ、支持体に軽く接着した厚さ30μmの高分子電解質膜を得た。この高分子電解質膜をPETフィルムから剥離して引張弾性率を測定したところ、1.4GPaであった。
【0079】
実施例1
23℃、50±5%RHでの環境下で、製造例1で得られた支持体付きの高分子電解質膜から支持体を剥離し、その高分子電解質膜の片面に、幅28cm、厚さ25μmのPETフィルムを接触させて、両者を一緒にロール状に巻き取り、高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体はシワや凸凹のない良好なものであった。この高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。この実施例で用いたPETフィルムの引張弾性率は4.0GPaである。また、この高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とPETフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0080】
実施例2〜7
高分子電解質膜と共に巻き取るプラスチックフィルムを、引張弾性率4.1GPa、厚さ12μmのPETフィルム(実施例2)、引張弾性率4.2GPa、厚さ5μmのPETフィルム(実施例3)、引張弾性率4.0GPa、厚さ50μmのPETフィルム(実施例4)、引張弾性率4.0GPa、厚さ100μmのPETフィルム(実施例5)、引張弾性率4.0GPa、厚さ188μmのPETフィルム(実施例6)、引張弾性率4.0GPa、厚さ250μmのPETフィルム(実施例7)にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、いずれもシワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいても、全ての実施例でカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。各実施例における高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とPETフィルムとの剥離強度はいずれも0N/20mmであった。
【0081】
実施例8
高分子電解質膜と共に巻き取るプラスチックフィルムを、厚さ50μmのリニアローデンシティポリエチレン(LLDPE)フィルムとした以外は実施例1と同様にして、高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体はシワや凸凹のない良好なものであった。この高分子電解質膜積層体のカール状態を評価した所、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。この実施例で用いたLLDPEフィルムの引張弾性率は0.18GPaである。また、この高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とLLDPEフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0082】
実施例9〜10
高分子電解質膜と共に巻き取るプラスチックフィルムを、引張弾性率0.20GPa、厚さ30μmのLLDPEフィルム(実施例9)、引張弾性率0.17GPa、厚さ100μmのLLDPEフィルム(実施例10)にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、いずれもシワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいても、全ての実施例でカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。各実施例における高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とLLDPEフィルムとの剥離強度はいずれも0N/20mmであった。
【0083】
実施例11〜13
高分子電解質膜と共に巻き取るプラスチックフィルムを、引張弾性率2.1GPa、厚さ30μmの2軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(実施例11)、引張弾性率2.3GPa、厚さ15μmのOPPフィルム(実施例12)、引張弾性率2.0GPa、厚さ60μmのOPPフィルム(実施例13)にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、いずれもシワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいても、全ての実施例でカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。各実施例における高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とOPPフィルムとの剥離強度はいずれも0N/20mmであった。
【0084】
実施例14〜16
高分子電解質膜と共に巻き取るプラスチックフィルムを、引張弾性率0.59GPa、厚さ50μmの無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(実施例14)、引張弾性率0.70GPa、厚さ20μmのCPPフィルム(実施例15)、引張弾性率0.53GPa、厚さ100μmのCPPフィルム(実施例16)にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、いずれもシワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいても、全ての実施例でカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。各実施例における高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とCPPフィルムとの剥離強度はいずれも0N/20mmであった。
【0085】
実施例17〜18
高分子電解質膜と共に巻き取るプラスチックフィルムを、引張弾性率1.5GPa、厚さ15μmのナイロン6(ONY)フィルム(実施例17)、引張弾性率1.4GPa、厚さ25μmのONYフィルム(実施例18)にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、いずれもシワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいても、全ての実施例でカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。各実施例における高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とONYフィルムとの剥離強度はいずれも0N/20mmであった。
【0086】
実施例19
ポリマーの原料として、乾燥したS−DCDPSを800部、DCBNを356.5部、BPを600.5部、4,4’−チオビスフェノール(BPS)を96.9部、炭酸カリウム562.7部、NMPを4624.3部を用いた以外は、製造例1と同様にして、対数粘度1.35dL/gのポリマーを得た。このポリマーを用いて、製造例1と同様にして高分子電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.6GPaであった。
【0087】
次いで、実施例1と同様にして、高分子電解質膜と、引張弾性率4.0GPa、厚さ25μmのPETフィルムとのロール状積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体はシワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とPETフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0088】
実施例20
ポリマーの原料として、乾燥したS−DCDPSを310.1部、DCBNを253.3部、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー(DIC社製SPECIANOL DPE−PL;一般式13においてnが1〜8の成分を含む混合物でnの平均値は5である構造であるもの)(DPE)を1156.5部、炭酸カリウム319.0部、NMPを5165.3部を用い、反応時間を8時間にした以外は製造例1と同様にして、対数粘度0.83dL/gのポリマーを得た。このポリマーを用いて製造例1と同様にして、高分子電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.6GPaであった。
【0089】
次いで、実施例1と同様にして、高分子電解質膜と、引張弾性率4.0GPa、厚さ25μmのPETフィルムとのロール状積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とPETフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0090】
実施例21
S−DCDPS778部に代えて、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン2ナトリウム塩721部を用いて製造例1と同様にしてポリマーを合成した。得られたポリマーの対数粘度は1.29dL/gであった。このポリマーを用いて、製造例1と同様にして、高分子電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は2.1GPaであった。
【0091】
次いで、実施例1と同様にして、高分子電解質膜と、引張弾性率4.0GPa、厚さ25μmのPETフィルムとのロール状積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とPETフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0092】
実施例22
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン1.20g、ビスフェノールS2.00g、ジフルオロジフェニルスルホン2.90g、炭酸カリウム1.82gを100ml四つ口フラスコに計り取り、窒素気流下で40mlのNMPを加え、反応温度を175℃付近に設定して7時間反応させた。放冷の後、約300mlのメタノール中に再沈殿させ、ミキサーを用いて5回水洗処理をして、ポリマーを得た。得られたポリマーの対数粘度は、0.57dL/gであった。ポリマー試料を濃硫酸(98%)とともにマグネティックスターラーにより室温で撹拌することで、スルホン化反応を行った。反応終了後、硫酸溶液を過剰の氷水中に投入して反応を止め、生じた沈殿を濾取し、水洗して、ポリマーを得た。このポリマーを用いて、製造例1と同様にして、高分子電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.2GPaであった。
【0093】
次いで、実施例1と同様にして、高分子電解質膜と、引張弾性率4.0GPa、厚さ25μmのPETフィルムとのロール状積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とPETフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0094】
実施例23
3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン45部、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム42部、ポリリン酸(五酸化リン含量75%)615部、五酸化リン500部を重合容器に計り取り、窒素を流し、オイルバス中でゆっくり撹拌しながら120℃まで昇温し、1時間保持した後、200℃に昇温して6時間反応させた。その後、放冷し、水を加えてポリマーを取り出し、ミキサーを用いて5回水洗を繰り返した後、この水浸漬ポリマーに炭酸ナトリウムを加えて中和し、さらに水洗を繰り返して洗液のpHが中性となり変化しないことを確認した。得られたポリマーを80℃で終夜減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、1.73dL/gであった。ポリマー濃度がNMP中25質量%になるように秤量し、オイルバス上で170℃に加熱してポリマーを溶解させた。得られた溶液を用いた以外は製造例1と同様にして、高分子電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は2.0GPaであった。
【0095】
次いで、実施例1と同様にして、高分子電解質膜と、引張弾性率4.0GPa、厚さ25μmのPETフィルムとのロール状積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とPETフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0096】
実施例24
3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン18.3部、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム5.3部、ポリリン酸(五酸化リン含量5%)250部、五酸化リン200部を重合容器に計り取り、実施例23と同様にしてポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は、1.53dL/gであった。ポリマー濃度がNMP中25質量%になるように秤量し、オイルバス上で170℃に加熱してポリマーを溶解させた。得られた溶液を用いた以外は製造例1と同様にして、高分子電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.7GPaであった。
【0097】
次いで、実施例1と同様にして、高分子電解質膜と、引張弾性率4.0GPa、厚さ25μmのPETフィルムとのロール状積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とPETフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0098】
実施例25
引張弾性率4.0GPa、厚さ25μmのPETフィルム(2枚)を高分子電解質膜の両面に接触させて、これらを一緒にロール状に巻き取った以外は実施例1と同様にして、ロール状の高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とPETフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0099】
実施例26
引張弾性率0.18GPa、厚さ50μmのLLDPEフィルム(2枚)を高分子電解質膜の両面に接触させて、これらを一緒にロール状に巻き取った以外は実施例1と同様にして、ロール状の高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とLLDPEフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0100】
実施例27
引張弾性率2.1GPa、厚さ30μmのOPPフィルム(2枚)を高分子電解質膜の両面に接触させて、これらを一緒にロール状に巻き取った以外は実施例1と同様にして、ロール状の高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とOPPフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0101】
実施例28
引張弾性率0.59GPa、厚さ50μmのCPPフィルム(2枚)を高分子電解質膜の両面に接触させて、これらを一緒にロール状に巻き取った以外は実施例1と同様にして、ロール状の高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とCPPフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0102】
実施例29
引張弾性率1.5GPa、厚さ15μmのONYフィルム(2枚)を高分子電解質膜の両面に接触させて、これらを一緒にロール状に巻き取った以外は実施例1と同様にして、ロール状の高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とONYフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0103】
製造例2(疎水性オリゴマーの合成)
DCBNを49.97g(290.5mmol)、BPを54.99g(295.3mmol)、炭酸カリウムを46.94g(339.6mmol)、NMPを750mL、トルエンを150mL、窒素導入管、撹拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000mL枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で撹拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、15時間加熱した。
【0104】
窒素導入管、撹拌翼、還流冷却管、温度計を取り付けた別の1000mL枝付きフラスコに、NMP200mLとパーフルオロビフェニル4.85gを入れ、窒素気流下、撹拌しながら、オイルバス中で110℃に加熱した。そこに、DCBNとBPの反応溶液を、滴下漏斗を用いて2時間かけて滴下し、撹拌した。滴下完了後、さらに2時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、3000mLの純水に注ぎオリゴマーを固化させ、さらに純水で3回洗浄して、NMP及び無機塩を除去した。水洗したオリゴマーは、濾別した後、100℃で2時間乾燥させ、さらに室温まで冷却し、その後3000mLのアセトンで2回洗浄し、過剰のパーフルオロビフェニルを除去した。再びオリゴマーを濾別し、120℃で16時間減圧乾燥して疎水性オリゴマーを得た。1H−NMR測定による数平均分子量は13880だった。疎水性オリゴマーの化学構造を以下に示す。
【0105】
【化8】

【0106】
製造例3(親水性オリゴマーの合成)
S−DCDPSを250.0g(508.9mmol)、BPを97.04g(520.7mmol)、炭酸ナトリウムを66.23g(624.9mmol)、NMPを650mL、トルエンを150mL、窒素導入管、撹拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた2000mL枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で撹拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、16時間加熱した。続いて、NMP500mLを投入し、撹拌しながら室温まで冷却した。得られた溶液を、25G−2ガラスフィルターで吸引濾過したところ、黄色の透明な溶液が得られた。得られた溶液を3Lのアセトンに滴下してオリゴマーを固化させた。オリゴマーをさらにアセトンで3回洗浄した後、濾別して減圧乾燥し親水性オリゴマーを得た。1H−NMR測定による数平均分子量は25560であった。親水性オリゴマーの化学構造を以下に示す。
【0107】
【化9】

【0108】
製造例4(セグメント化ブロックポリマー高分子電解質)
親水性オリゴマー45.00g、疎水性オリゴマー24.61g、炭酸ナトリウム0.28g、NMP400mLを、窒素導入管、撹拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000mL枝付きフラスコに入れ、窒素気流下50℃のオイルバス中で撹拌し溶解させた。その後、110℃まで加熱し、10時間反応させた。その後、室温まで冷却し、3Lの純水中に滴下してポリマーを固化させた。純水で3回洗浄した後、純水に浸漬したまま80℃で16時間処理し、その後純水を除いて熱水洗浄を行った。その後、熱水洗浄をもう一度繰り返した。さらに水を除去したポリマーを、1000mLのイソプロパノールと500mLの水との混合溶剤に室温で16時間浸漬し、ポリマーを取り出し洗浄を行った。同じ操作をもう一度行った。その後、濾過でポリマーを濾別し、120℃で12時間減圧乾燥して、スルホン酸塩基含有セグメント化ブロックポリマーを得た。このポリマーの対数粘度は2.1dL/gであった。得られたポリマーを用い、製造例1と同様にして、高分子電解質膜を得た。この高分子電解質膜の引張弾性率は1.8GPaであった。また、得られた高分子電解質膜を透過型電子顕微鏡で観察したところ、親水性ドメインと疎水性ドメインがそれぞれラメラ状に共連続している相分離構造が観察された。得られた高分子電解質前駆体の化学構造を以下に示す。
【0109】
【化10】

【0110】
実施例30
製造例4で得られた高分子電解質膜を用いた以外は実施例1と同様にして、高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とPETフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0111】
実施例31
製造例4で得られた高分子電解質膜を用いた以外は実施例25と同様にして、高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RH、23℃、30±5%RHのいずれにおいてもカールが全く認められず、次工程も含めた作業性は非常に良好であった。高分子電解質膜積層体の高分子電解質膜とPETフィルムとの剥離強度は0N/20mmであった。
【0112】
比較例1
非粘着のPETフィルムに変えて、幅28cmで、10μm厚のアクリル樹脂系粘着層を有する厚さ50μmのPETフィルムを用い、このPETフィルムの粘着層面を高分子電解質膜に接触させて貼り合わせながら、0.1MPaの荷重をかけたニップロールを通し、ロール状に巻き取った。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RHではカールが全く認められず、作業性は良好であったが、23℃、30±5%RHでは、高分子電解質膜を内側とした筒状のカールが発生し、作業性は大きく低下した。PETフィルムの引張弾性率は4.0GPaであり、積層体の高分子電解質膜からの粘着層付与PETフィルムの剥離強度は0.10N/20mmであった。
【0113】
比較例2
10μm厚のアクリル樹脂系粘着層を有する厚さ50μmのPETフィルムに変えて、幅28cmで、10μm厚のアクリル樹脂系粘着層を有する厚さ188μmのPETフィルムを用いた以外は、比較例1と同様にして、ロール状の高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RHではカールが全く認められず、作業性は良好であったが、23℃、30±5%RHでは、高分子電解質膜を内側とした半円状のカールが発生し、作業性が低下した。PETフィルムの引張弾性率は3.9GPaであり、積層体の高分子電解質膜からの粘着層付与PETフィルムの剥離強度は0.10N/20mmであった。
【0114】
比較例3
10μm厚のアクリル樹脂系粘着層を有する厚さ50μmのPETフィルムに変えて、幅28cmで、5μm厚の変性ポリオレフィン樹脂系粘着層を有する厚さ30μmのPETフィルムを用いた以外は、比較例1と同様にして、ロール状の高分子電解質膜積層体を得た。得られた高分子電解質膜積層体は、シワや凸凹のない良好なものであった。また、高分子電解質膜積層体のカール状態を評価したところ、23℃、50±5%RHではカールが全く認められず、作業性は良好であったが、23℃、30±5%RHでは、高分子電解質膜を内側とした筒状のカールが発生し、作業性は大きく低下した。PETフィルムの引張弾性率は3.9GPaであり、積層体の高分子電解質膜からの粘着層付与PETフィルムの剥離強度は0.08N/20mmであった。
【0115】
比較例4
PETフィルムの厚みを3μmとした以外は実施例1と全く同じ条件で高分子電解質膜積層体を作製した。使用したPETフィルムの厚みが薄すぎたため、得られた高分子電解質膜積層体にはシワが多数入り、その後の作業及びカールの評価に供することができなかった。用いたPETフィルムの引張弾性率は4.2GPaであり、得られた高分子電解質膜積層体のPETフィルムの剥離強度は0N/20mmであった。
【0116】
比較例5
PETフィルムの厚みを500μmとした以外は実施例1と全く同じ条件で高分子電解質膜積層体を作製した。使用したPETフィルムの厚みが厚すぎたため、高分子電解質膜積層体をうまく巻き取ることができずシワが多数入り、その後の作業及びカールの評価に供することができなかった。用いたPETフィルムの引張弾性率は3.8GPaであり、得られた高分子電解質膜積層体のPETフィルムの剥離強度は0N/20mmであった。
【0117】
比較例6
高分子電解質膜と共に巻き取るプラスチックフィルムを、厚さ15μmのエチレン−酢酸ビニルコポリマー(EVA)フィルムとした以外は実施例1と全く同じ条件で高分子電解質膜積層体を作製した。使用したEVAフィルムの弾性率が0.05GPaと小さすぎて巻取時に伸び縮みしてしまい、シワ及び凸凹が多数発生し、その後の作業及びカールの評価に供することができなかった。得られた高分子電解質膜積層体のEVAフィルムの剥離強度は0.04N/20mmであった。
【0118】
比較例7
高分子電解質膜と共に巻き取るフィルムを、厚さ15μmのエチレン−エチルアクリレートコポリマー(EEA)フィルムとした以外は実施例1と全く同じ条件で高分子電解質膜積層体を作製した。使用したEEAの弾性率が0.04GPaと小さすぎて巻取時に伸び縮みしてしまい、シワ及び凸凹が多数発生し、その後の作業及びカールの評価に供することができなかった。得られた高分子電解質膜積層体のEEAフィルムの剥離強度は0.05N/20mmであった。
【0119】
以上の評価結果を表1にまとめた。
【0120】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の高分子電解質膜積層体は、巻き取り時、輸送時や保存時における高分子電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防いで、高分子電解質膜の形態安定性を高度に維持することができ、さらに、高分子電解質膜積層体のロール作製時の環境温湿度とその使用温湿度が大きく異なっても、筒状のカールの発生を抑制することができた。従って、本発明の高分子電解質膜積層体は、高性能、高品位の燃料電池膜を作業性良好にかつ経済的に生産することができ、ダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)や固体高分子形燃料電池(PEFC)などに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と、高分子電解質膜の少なくとも一方の面に粘着層を有しないプラスチックフィルムが積層された高分子電解質膜積層体において、高分子電解質膜とプラスチックフィルムとの剥離強度が0.005N/20mm以下であり、かつプラスチックフィルムの引張弾性率が0.1GPa以上で、厚みが5μm以上400μm以下であることを特徴とする高分子電解質膜積層体。
【請求項2】
上記プラスチックフィルムが、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、液晶ポリエステルフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリアミドフィルム、アラミドフィルムおよびポリテトラフルオロエチレンフィルムよりなる群から選択されるフィルムである請求項1に記載の高分子電解質膜積層体。
【請求項3】
上記プラスチックフィルムが高分子電解質膜の一方の面のみに積層されている請求項1または2に記載の高分子電解質膜積層体。
【請求項4】
上記プラスチックフィルムが高分子電解質膜の両面に積層されている請求項1または2に記載の高分子電解質膜積層体。
【請求項5】
上記高分子電解質膜が芳香族系高分子電解質からなるものである請求項1〜4のいずれかに記載の高分子電解質膜積層体。
【請求項6】
上記高分子電解質膜が、1GPa以上の引張弾性率を有する非フッ素系高分子電解質膜である請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質膜積層体。
【請求項7】
ロール状に巻き取られている請求項1〜6のいずれかに記載の高分子電解質膜積層体。

【公開番号】特開2011−54352(P2011−54352A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200985(P2009−200985)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】