説明

高周波信号処理用電子部品および無線通信システム

【課題】 妨害波の漏洩によるAMサプレッション特性の劣化を防止することができるようにした高周波電力増幅用電子部品(RFモジュール)を提供する。
【解決手段】 受信信号から不要波を除去するSAWフィルタのようなバンドパスフィルタ(221)とインピーダンス整合回路(222)並びに受信信号と合成される発振信号を発生する発振回路(252)および該発振回路からの信号とバンドパスフィルタを通過した受信信号とを合成して周波数変換するミキサ(MIX,232)を内蔵した高周波信号処理用IC(210)を絶縁基板上に実装した高周波信号処理用電子部品(RFモジュール)において、少なくともミキサに電源電圧を供給する電源ライン(グランドラインを含む)の途中および発振回路の電源ラインの途中にインダクタンス成分を有する素子(L1,L2;214a,214b)を挿入するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機等の無線通信システムに使用され高周波の受信信号を周波数変換する高周波信号処理用半導体集積回路やバンドパスフィルタを組み込んだ電子部品に適用して有効な技術に関し、特にVCO(電圧制御発振回路)および該VCOからの局部発振信号とバンドパスフィルタを通した高周波受信信号とを合成して直接音声周波数帯の信号に変換するミキサを有するダイレクトダウンコンバージョン方式の高周波信号処理用半導体集積回路を組み込んだ高周波信号処理用電子部品(RFモジュール)に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機のような無線通信システム(移動体通信システム)においては、受信信号や送信信号に高周波の局部発振信号を合成して周波数のダウンコンバートやアップコンバートを行なったり、送信信号の変調や受信信号の復調を行なったりする半導体集積回路(以下、高周波信号処理用ICと称する)が用いられている。
【0003】
従来、かかる高周波信号処理用ICには、高周波受信信号を一旦中間周波数の信号に周波数変換した後、音声周波数帯の信号に変換するとともに音声周波数帯の送信信号を一旦中間周波数の信号に周波数変換した後、送信周波数の信号に周波数変換するスーパーヘテロダイン方式の高周波信号処理用IC(特許文献1)や、送信信号で中間周波数の発振信号を変調した後、送信用のVCOからのフィードバック信号とRF−VCOの発振信号とを合成して中間周波数の信号を生成してこの信号と変調後の信号の位相を比較して送信用VCOの発振制御信号を生成して制御するいわゆるオフセットPLL方式の高周波IC(特許文献2)がある。
【0004】
スーパーヘテロダイン方式の高周波信号処理用ICやオフセットPLL方式の高周波信号処理用ICは、回路規模が大きくなるため、ICの小型化を図る上では不適当であり、ダイレクトコンバージョン方式が有効である。
【0005】
ところで、携帯電話機の分野においては、本体の小型化を図るためシステムを構成する電子部品に対する小型化や部品点数の削減の要求が高い。そのため、高周波信号処理用ICに送受信信号と合成される発振信号を発生するVCOを内蔵したり、高周波信号処理用ICや受信信号から不要波を除去するSAWフィルタのようなバンドパスフィルタおよびインピーダンス整合回路をセラミックのような絶縁基板上に実装した部品(一般にRFモジュールと呼ばれている)として提供する技術の開発が行なわれている。
【特許文献1】特開2001−244416号
【特許文献2】特願2003−048631号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モジュールの小型化を達成するには、モジュールを構成するIC(半導体集積回路)や素子などの部品の小型化が重要であることはもちろん、各部品間のスペースを少なくすることも大切である。ところが、部品間のスペースを少なくすればするほどモジュールの端子(パッド)とICチップのパッドとを結ぶ配線の間隔が狭くなり、信号の漏洩が生じ易くなるという問題がある。
【0007】
本発明者らは、VCOを内蔵した高周波信号処理用ICとSAWフィルタおよびインピーダンス整合回路をセラミック基板上に実装したRFモジュールを提供すべく設計および試作を行ない、GSM(Global System for Mobile Communication)の規格で規定されているAMサプレッション特性について評価を行なった。AMサプレッション特性は、希望波を受信しているときに妨害波が強制入力された場合に、妨害波によって希望波が聞こえにくくなる度合いを示す指標である。
【0008】
本発明者らが試作したRFモジュールは、モジュールを構成する高周波信号処理用IC単独ではAMサプレッション特性が規格を満たしていても、これを実装したモジュールはAMサプレッション特性が規格を満たさなくなるという課題があることが分かった。そこで、その原因を究明すべく種々の実験を行なった。その結果、入力信号に含まれる妨害波がミキサやVCOなどの電源ラインを回り込んで発振信号側に漏洩するため、AMサプレッション特性が劣化していることを見出した。
【0009】
この発明の目的は、妨害波の漏洩によるAMサプレッション特性の劣化を防止することができるようにした高周波電力増幅用電子部品(RFモジュール)を提供することにある。
この発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴については、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を説明すれば、下記のとおりである。
すなわち、受信信号から不要波を除去するSAWフィルタのようなバンドパスフィルタとインピーダンス整合回路並びに受信信号と合成される局部発振信号を発生する発振回路(VCO)および該発振回路からの信号とバンドパスフィルタを通過した受信信号とを合成して周波数変換(ダウンコンバート)するミキサを内蔵した高周波信号処理用ICを絶縁基板上に実装した高周波信号処理用電子部品(RFモジュール)において、少なくともミキサ回路に電源電圧を供給する電源ラインもしくはグランドラインの途中および発振回路の電源ラインもしくはグランドラインの途中にインダクタンス成分を有する素子を挿入するようにしたものである。また、高周波信号処理用ICが、発振回路とミキサとの間に発振信号を分周した信号を増幅するバッファを有する場合、ミキサの電源ラインもしくはグランドラインの途中およびバッファの電源ラインもしくはグランドラインの途中にインダクタンス成分を有する素子を介在させるようにしても良い。
【0011】
上記した手段によれば、信号入力端子側に妨害波が強制入力された場合に妨害波がミキサやVCOなどの電源ラインを回り込んで局部発振信号の入力パス側に漏洩するのをインダクタンス成分を有する素子によって抑制することができ、これによってGSM規格で規定されているAMサプレッション特性の劣化を防止することができる。
【0012】
ここで、本発明を適用すると好適なRFモジュールは、VCOからの局部発振信号とバンドパスフィルタを通した高周波受信信号とを合成して直接音声周波数帯の信号に変換するミキサを有するダイレクトコンバージョン方式の高周波信号処理用ICを組み込んだRFモジュールである。スーパーヘテロダイン方式やオフセットPLL方式の高周波信号処理用ICは、複数のVCOやループフィルタを必要としていてチップサイズが大きいとともに外付け素子数も多いためモジュールが比較的大きくなるのに対して、ダイレクトコンバージョン方式の高周波信号処理用ICを組み込んだRFモジュールは小型化が容易であり、それによってモジュール基板上の素子や配線の密度が高くなって信号の漏洩が生じ易くなるからである。
【0013】
さらに、本発明を適用すると好適なRFモジュールは、高周波信号処理用ICが内部回路に応じて複数の電源パッドを有し、バンドパスフィルタや高周波信号処理用ICが実装される絶縁基板が、各々表面もしくは表裏に配線となる導電パターンが形成された複数の基板を積層した多層基板により構成されているモジュールである。多層基板を用いることによりモジュールの小型化が容易となる一方、多層基板を用いると複数の電源パッドを有する高周波信号処理用IC内の各回路に電源電圧を供給する電源ラインの間隔が狭くなり、本発明が解決しようとする妨害波の漏洩が生じ易くなるからである。
【発明の効果】
【0014】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば下記のとおりである。
すなわち、本発明に従うと、妨害波の漏洩によるAMサプレッション特性の劣化を防止することができるようにした高周波電力増幅用電子部品(RFモジュール)を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用した高周波電力増幅用電子部品(RFモジュール)並びにそれを用いた無線通信システムの構成例を示すブロック図である。なお、本明細書においては、表面や内部にプリント配線が施されたセラミック基板のような絶縁基板に複数の半導体チップとディスクリート部品が実装されて上記プリント配線やボンディングワイヤで各部品が所定の役割を果たすように結合されることであたかも一つの電子部品として扱えるように構成されたものをモジュールと称する。
【0016】
図1の無線通信システムは、信号電波を送受信するアンテナANTと、送信と受信を切り替えるスイッチ110および送信信号を電力増幅してアンテナへ出力する高周波電力増幅器(パワーアンプ)120を含むフロントエンドモジュール100と、受信信号をダウンコンバートしたり送信信号をアップコンバートしたりする高周波信号処理用IC210を有するRFモジュール200と、送信信号および受信信号のベースバンド処理を行なうベースバンド回路300とから構成されている。ベースバンド回路300はマイクロプロセッサやDPSなどを含み1個あるいは数個のICで構成され、フロントエンドモジュール100やRFモジュール200を制御する機能も有するようにされる。
【0017】
RFモジュール200は、絶縁基板上に、上記高周波信号処理用IC210の他、受信信号から不要波を除去するバンドパスフィルタ221を構成する素子、バンドパスフィルタ221と高周波信号処理用IC210との間のインピーダンス整合を行なうインピーダンス整合回路222を構成する素子、送信信号から高調波成分を除去するバンドパスフィルタ261を構成する素子、バンドパスフィルタ261とパワーアンプ120との間のインピーダンス整合を行なうインピーダンス整合回路262を構成する素子が実装されている。
【0018】
特に制限されるものでないが、この実施例のRFモジュールでは、受信側のバンドパスフィルタ221はSAWフィルタにより構成され、送信側のバンドパスフィルタ261は容量素子と抵抗素子とで構成されている。また、インピーダンス整合回路222,262は、ディスクリート部品からなる容量素子やインダクタンス素子により構成され、それらの素子が半田付け等により絶縁基板上に実装されている。インピーダンス整合回路222,262は、基板表面に形成されたマイクロストリップラインなどからなる伝送線路と該伝送線路の所定の箇所と接地点との間に接続された容量素子とから構成することも可能である。また、容量素子は、基板が複数の誘電体板を積層してなる多層構造をなす場合、いずれかの誘電体板の表裏に形成された導体層を電極とする内挿容量を用いて構成することができる。
【0019】
高周波信号処理用IC210は、受信系回路230と、送信系回路240と、送受信系に共通の制御系回路250とで構成される。特に制限されるものでないが、この実施例の高周波信号処理用IC210の受信系回路230は、GSM規格の周波数帯の受信信号を直接音声周波数帯の信号にダウンコンバートするダイレクトコンバージョン方式の回路とされている。送信系回路240も音声周波数帯の送信信号を直接最終搬送波の送信周波数の信号にアップコンバートするダイレクトコンバージョン方式とされている。
【0020】
受信系回路230は、受信信号を増幅するロウノイズアンプ(LNA)231や、該ロウノイズアンプ231で増幅された受信信号に分周回路254で生成された直交信号をミキシングすることで復調およびダウンコンバートを行なうミキサMIX1,MIX2からなる復調&周波数変換回路232、復調されたI,Q信号をそれぞれ増幅してベースバンド回路300へ出力する高利得増幅回路233a,233b、増幅された信号から不要波を除去するロウパスフィルタLPF1,LPF2などから構成される。ミキサMIX1,MIX2は、受信信号の周波数をf0、分周回路254側からの信号φLの周波数をf0Lとおくと、周波数差f0−f0Lに相当する周波数成分が最も大きな信号を出力する。本実施例では、数GHzの受信信号に対して周波数差f0−f0Lが数10〜数100kHzになるように局部発振回路(RFVCO)252の発振周波数が設定されるため、f0≒f0Lである。
この実施例の高周波信号処理用ICにおいては、局部発振回路(RFVCO)252により生成された発振信号を送受信で共有するように構成されている。
【0021】
制御系回路250には、チップ内部の制御信号を生成する制御回路251、ミキサMIX1,MIX2において受信信号と合成される信号及びミキサMIX3,MIX4において送信される信号と合成される信号を生成する局部発振回路252、局部発振回路252とともにPLL回路を構成するRFシンセサイザ253、局部発振回路252からの信号を分周しつつ90°位相をシフトした信号を生成する分周回路254,255、分周された信号を増幅してミキサMIX1,MIX2へ供給するバッファ256などが含まれる。局部発振回路252は、送信に必要な3296〜3820MHzの発振信号と受信に必要な3476〜3980MHzの発振信号φRFを生成可能なVCO(電圧制御発振回路)により構成されている。
【0022】
送信系回路240は、ベースバンド回路300から供給されるI信号とQ信号をそれぞれ減衰するアッネータもしくは増幅するアンプからなる入力回路241a,241b、減衰もしくは増幅されたI信号およびQ信号から高調波成分を除去するロウパスフィルタLPF3,LPF4からなるフィルタ部242と、フィルタリングされたI信号およびQ信号と分周回路255からの互いに位相が90°異なる直交信号とを合成して直交変調とアップコンバートを同時に行なうミキサMIX3,MIX4からなる変調&周波数変換部243と、変調された信号を増幅して出力する増幅部244、ベースバンド回路300から供給される出力レベル制御信号Vcontとパワーアンプ120から供給される出力検出信号Vdetとから増幅部244の利得を制御する利得制御回路245などから構成される。
【0023】
変調&周波数変換部243の後段の増幅部244は、GMSK変調を行なうGSMモード用のリミッタ機能を有するリミッタアンプLIMと、8−PSK変調を行なうEDGEモード用の利得可変アンプVGAとが設けられている。リミッタアンプLIMと利得可変アンプVGAのいずれを選択するかの指定は、ベースバンド回路300からの指令に応じて制御回路251から出力される選択モードを示す制御信号S1によって行なわれる。具体的には、GMSK変調モードの際には、制御信号S1によりリミッタアンプLIMが選択され、8−PSK変調モードの送信の際には、利得可変アンプVGAが選択される。特に制限されるものでないが、これらの制御信号S1はフロントエンドモジュール100へも供給されて、パワーアンプ120のバイアス点等を設定するのにも使用される。
【0024】
また、ベースバンド回路300からは高周波信号処理用IC210の利得制御回路245に対して、利得可変アンプVGAのゲインを制御する制御電圧Vcontが供給される。GSMの規格では、送信信号の出力電力が、所定のタイムマスク内に収まらなければならないことが規定されている。この実施例の無線通信システムでは、制御電圧Vcontで利得可変アンプVGAのゲインを制御することでタイムマスク内での出力レベルの立ち上げ、立ち下げを実現するように構成されている。
【0025】
なお、本実施例の高周波信号処理用IC210は、制御回路251にレジスタが設けられ、このレジスタはベースバンド回路300からの信号に基づいて設定が行なわれるように構成されている。具体的には、ベースバンド回路300から高周波信号処理用IC210に対して同期用のクロック信号CLKと、データ信号DATAと、制御信号としてのロードイネーブル信号LEとが供給されており、制御回路251は、ロードイネーブル信号LEが有効レベルにアサートされると、ベースバンド回路300から伝送されて来るデータ信号DATAをクロック信号CLKに同期して順次取り込んで、上記レジスタにセットする。特に制限されるものでないが、データ信号DATAはシリアルで伝送される。
【0026】
図2は、本発明を適用したRFモジュール200の受信系回路230の第1の実施例の要部を示す。
この実施例では、高周波信号処理用IC210のチップ上において、周波数変換回路232(ミキサMIX1,2)の電源電圧端子T1と局部発振回路252の電源電圧端子T2とが別個の端子として設けられている。また、この高周波信号処理用IC210が実装されたセラミック基板211上においても、周波数変換回路232用の電源パッドP1と局部発振回路252の電源パッドP2とが別個のパッドとして設けられ、それぞれ別個の電源ライン212a,212bにてT1とP1およびT2とP2が接続されてモジュール外部から印加される電源電圧VccがP1からT1、P2からT2へ供給されるように構成されている。そして、これらの電源ライン212a,212bの途中にはそれぞれインダクタL1,L2が挿入されている。インダクタL1,L2の最適なインダクタンス値は、数nH〜10数nHである。
【0027】
インダクタL1,L2が挿入されていないモジュールにおいては、ロウノイズアンプ(LNA)231側から周波数変換回路232へ、図3(A)のように周波数foの希望波W0とともに該希望波から±6MHz離れた周波数fb1及びfb2を有し希望波よりも強度の大きな妨害波Wbが入力された場合、妨害波の周波数成分は周波数変換回路232の電源ライン212aを通って、該電源ライン212aと局部発振回路252の電源ライン212bとの間のカップリング容量Cs−電源ライン212b−分周回路254−バッファ256のパスを通って周波数foLの局部発振信号φLに重畳されて、図3(B)のように、比較的大きな強度の周波数fbL1,fbL2の妨害波のリーク成分(スプリアス信号)が周波数変換回路232に入力され、周波数変換回路232の出力に妨害波の成分が現われてしまう。
【0028】
これに対し、電源ライン212a,212bの途中にインダクタL1,L2を挿入した実施例のモジュールにおいては、ロウノイズアンプ231側から周波数変換回路232へ、周波数foの希望波W0とともに図3(A)のような周波数fb1及びfb2の妨害波Wbが入力された場合、妨害波のリーク成分は電源ライン212a,212bの途中のインダクタL1,L2によって減衰されて、図3(C)のように比較的小さな強度の周波数fbL1’,fbL2’ の妨害波のリーク成分(スプリアス信号)として、周波数foLの局部発振信号φLに重畳されて周波数変換回路232に入力されるに過ぎないため、周波数変換回路232の出力に妨害波の成分がほとんど現われないようになる。そのため、GSMの規格で規定されているAMサプレッション特性の劣化が減少されるようになる。
【0029】
図4には、本発明を適用したRFモジュール210の受信系回路230の第2の実施例の要部を示す。
図2の実施例では、周波数変換回路232(ミキサMIX1,2)と局部発振回路252にそれぞれ電源電圧Vccを供給する電源ライン212a,212bの途中にそれぞれインダクタL1,L2が挿入されているのに対し、図4の実施例においては、周波数変換回路232と局部発振回路252の他にバッファ256もその電源電圧端子が別個の端子T3として設けられ、この端子T3には局部発振回路252と共通の電源電圧パッドP2に別個の電源ライン212cによって接続されてモジュール外部から印加される電源電圧Vccが供給されるように構成されている。そして、この実施例では、周波数変換回路232とバッファ256にそれぞれ電源電圧Vccを供給する電源ライン212aと212cの途中にそれぞれインダクタL1,L2が挿入されている。
【0030】
高周波信号処理用IC210のチップに設けられる電源電圧端子の配置やモジュール基板上の電源パッドの配置および電源ライン212a,212b,212cのレイアウトの仕方によっては、電源ライン212aと212cの途中にそれぞれインダクタL1,L2を挿入した方が妨害波によるスプリアスを減少させることができる場合がある。よって、そのような場合には、図4の実施例を適用するのが望ましい。
【0031】
図5には、本発明を適用したRFモジュール210の受信系回路230の第3の実施例の要部を示す。
この実施例は、モジュール外部から基板上のグランドパッドP3,P4に印加される接地電位GNDを、周波数変換回路232(ミキサMIX1,2)と局部発振回路252に供給するグランドライン213a,213bの途中にそれぞれインダクタL1,L2を挿入するようにしたものである。高周波信号処理用IC210のチップに設けられる電源電圧端子の配置やモジュール基板上の電源パッドの配置および電源ライン212a,212b,212cのレイアウトの仕方によっては、グランドライン213a,213bの途中にそれぞれインダクタL1,L2を挿入した方が妨害波によるスプリアスを減少させることができる場合がある。よって、そのような場合には、図5の実施例を適用するのが望ましい。
【0032】
なお、図2の実施例と図5の実施例の両方を適用するようにしてもよく、それによって一層スプリアスを減らすことができる。ただし、そのようにすると、モジュール基板上に実装すべき部品点数が増加し、モジュールの小型化が困難になるので、両方を適用することによる効果が一方のみ適用する場合の効果に比べて顕著でない場合には、いずれか一方の実施例のみ適用するのが望ましい。
【0033】
図6には、第1の実施例のRFモジュール210のデバイス構造の具体例を示す。なお、図6は実施例のRFモジュールの構造を正確に表わしたものではなく、その概略が分かるように一部の部品や配線などを省略した構造図として表わしたものである。
【0034】
図6に示されているように、本実施例のモジュールの基板は、アルミナなどのセラミック板からなる複数の誘電体層211を積層して一体化した構造にされている。各誘電体層211の表面または裏面には、所定のパターンに形成し表面に金メッキを施した銅などの導電材料からなる導体層212が設けられている。基板の表面にメッシュが付されているパターン212a〜212d等も導体層からなる電源ラインを構成する導電パターンや信号伝送路としてのマイクロストリップラインである。また、各誘電体層211には、各誘電体層211の表裏の導電パターン同士を接続するためにスルーホールと呼ばれる孔が設けられ、この孔内には導電材料が充填されてビア213が形成されている。
【0035】
図6の実施例のモジュールでは、例えば6枚の誘電体層211が積層されており、1番下の誘電体層の裏面には信号入出力パッドとなる導体層や電源パッドとなる導体層212pおよびグランド層となる導体層212gが形成され、モジュール外部から電源電圧Vccや接地電位GNDが印加可能にされている。信号入出力パッドとなる導体層や電源パッドとなる導体層212pは、1番下の誘電体層の裏面の周縁に沿って所定のピッチで複数個形成され、これらのパッド以外の領域にグランド層となる導体層212gがほぼ全面的に形成されている。
【0036】
そして、上記電源パッドとグランド層に印加された電源電圧Vccや接地電位GNDはそれよりも上層の誘電体層に形成されたビア213および導体層からなる導電パターン212を介して最上層の誘電体層の表面に形成された導電パターン212a,212b,212gまで引き出されるようにされている。
【0037】
第1層目の誘電体層211上には、ボンディング部を有する導電パターン212e,212fが前記導電パターン212a,212bと所定の間隔をおいて形成され、導電パターン212aと212eとの間および212bと212fとの間にそれぞれディスクリート部品からなるインダクタンス素子214a,214bが電気的に接続された状態で実装されている。ここで、上記ボンディング部および導電パターン212a,212bは電源ノードと見ることができる。これとともに、基板の一部には1層目から3層目の誘電体層211にかけて凹部が形成され、この凹部内には前記高周波信号処理用IC210が形成された半導体チップ210’が実装され、該半導体チップ210’の上面の外部端子(パッド)と誘電体層211表面の導電パターン212e,212fのパッド部とがボンディングワイヤ215a,215bにより電気的に接続されている。
【0038】
さらに、第1層目の誘電体層211上には、半導体チップ210’を囲むようにグランドラインとなる導電パターン212gが形成されるとともに、半導体チップ210’には接地電位を与えるための外部端子が複数個形成され、それらの外部端子と誘電体層211上の導電パターン212gとが複数のボンディングワイヤ215c,215d,215e等により電気的に接続されている。また、第1層目の誘電体層211の表面には、図1に示されているインピーダンス整合回路222を構成するマイクロストリップラインとなる導電パターン212h,212i……形成されているとともに、インピーダンス整合回路222やバンドパスフィルタ261を構成する容量素子やインダクタンス素子などのディスクリート部品216a,216b,216c,……およびSAWフィルタ素子221等が実装されている。
【0039】
なお、インピーダンス整合回路222を構成する容量はディスクリート部品でも良いが、いずれかの層の誘電体層211の表裏に互いに対向するように形成された導電パターンにより内挿容量として構成するようにしてもよい。また、実施例では、妨害波のリークを減らすためディスクリート部品からなるインダクタンス素子214a,214bが接続されていると説明したが、ディスクリート部品の代わりにいずれかの層の誘電体層211の表面または裏面に形成された渦巻状の配線パターンからなる内挿のインダクタンス素子を用いるようにしても良いし、フェライトビーズと呼ばれる素子などインダクタンス成分を有する他の素子を用いるようにしても良い。
【0040】
フェライトビーズは、フェライト素子の中に通電用の内部電極を埋め込んだ構造をしており、フェライトが磁性体として働くことで高周波電流成分を吸収する素子である。本発明者らが試作したモジュールでは、インダクタンス素子を用いた場合よりもフェライトビーズを用いた場合の方が、AMサプレッション特性は良好であった。
【0041】
図7には、本発明の実施例を適用したモジュールと適用しないモジュールのAMサプレッション特性を示す。なお、図7において、符号Aはインダクタンス素子として一般的なチョークコイルを使用した場合のAMサプレッション特性、符号Bはインダクタンス素子としてフェライトビーズを使用した場合のAMサプレッション特性、符号Cはインダクタンス素子を使用しなかった場合すなわち電源ラインやグランドラインの途中にインダクタンス素子を挿入しなかった場合のAMサプレッション特性をそれぞれ示す。図7より、実施例を適用することによって、AMサプレッション特性をGSMの規格で規定されている20%以下に抑えることができることが分かる。
【0042】
第2および第3の実施例のRFモジュール210のデバイス構造は、誘電体層211の表面に形成される導電パターン212のレイアウトやインダクタンス素子213a,213bを実装する位置が若干異なるのみで、基本的には図6と同じであるので、具体的な構造と説明は省略する。
【0043】
以上本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前記実施例では、ミキサとVCOに電源電圧を供給する電源ラインもしくはミキサと発振信号用のバッファに電源電圧を供給する電源ラインの途中またはミキサとVCOに接地電位を供給するグランドラインの途中にインダクタンス素子を挿入して妨害波のリークを遮断するようにした場合を説明したが、モジュールの小型化を優先する場合には、ミキサとVCOと発振信号用のバッファに電源電圧または接地電位を供給する電源ラインまたはグランドラインのいずれかひとつの途中にインダクタンス素子を挿入するようにしても良い。
【0044】
その場合、インダクタンス素子を挿入することによって妨害波のリークを最も有効に遮断できる箇所を測定によって調べて決定すると良い。因みに本発明者が試作したRFモジュールでは、妨害波のリークが大きかったのは、VCO,ミキサ,バッファの順であったが、この順番はモジュールの基板に形成する電源パッドの位置や電源電圧を供給する導電パターンのレイアウトの仕方によって変わると考えられるので、インダクタンス素子を挿入する最も有効な位置はデバイスの構造によって異なる。
【0045】
また、妨害波のリーク遮断を優先する場合には、ミキサとVCOと発振信号のバッファに電源電圧を供給する電源ラインまたはグランドラインの途中あるいは電源ラインの途中およびグランドラインの途中の両方にインダクタンス素子を挿入するようにしても良い。さらに、実施例では、電源ラインの途中に挿入するインダクタンス素子(214a,214b)を第1層目の誘電体層211の表面に所定の間隔をおいて形成された導電パターン間に実装しているが、実装位置はそれに限定されるものでなく、モジュールの電源パッドと回路の電源端子との途中であればどこであってもよい。
【0046】
さらに、実施例においては、モジュールの基板として多層基板を用いたものを説明したが、単層の基板を用いる場合であっても配線のピッチが狭かったり部品の実装密度が高い場合には本発明を適用すると有効であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上の説明では主として本発明者によってなされた発明をその背景となった利用分野であるGSMの信号の送受信が可能な無線通信システムを構成するRFモジュールに適用した場合を説明したが、本発明はそれに限定されるものでなく、例えば900MHz帯のGSMと1800MHz帯のDCS(Digital Cellular System)のような2つの周波数帯の信号を扱えるデュアルバンド方式、さらには、900MHz帯のGSMやDCSの他に例えば850MHz帯のGSMや1900MHz帯のPCS(Personal Communication System)の信号を扱えるクォッドバンド方式に対応できる携帯電話機や無線LANなどの無線通信システムを構成するRFモジュールに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明を適用した高周波電力増幅用電子部品(RFモジュール)並びにそれを用いた無線通信システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明を適用したRFモジュールの受信系回路の第1の実施例の要部を示すブロック図である。
【図3】(A)は実施例のRFモジュールの受信系回路のLNA側から周波数変換回路に入力される希望波と妨害波の強度を示すグラフ、(B)は実施例を適用しない受信系回路のRFVCO側から周波数変換回路に入力される局部発振信号と妨害波のリーク成分の強度を示すグラフ、(C)は実施例を適用した受信系回路のRFVCO側から周波数変換回路に入力される局部発振信号と妨害波のリーク成分の強度を示すグラフである。
【図4】本発明を適用したRFモジュールの受信系回路の第2の実施例の要部を示すブロック図である。
【図5】本発明を適用したRFモジュールの受信系回路の第3の実施例の要部を示すブロック図である。
【図6】第1の実施例のRFモジュールのデバイス構造の具体例を示す一部断面斜視図である。
【図7】本発明の実施例を適用したモジュールと適用しないモジュールのAMサプレッション特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
100 フロントエンド・モジュール
120 高周波電力増幅回路
200 RFモジュール
210 高周波信号処理用IC
222 インピーダンス整合回路
230 受信系回路
231 ロウノイズアンプ
232 アップコンバート用周波数変換回路
233 高利得増幅回路
240 送信系回路
241 入力回路(アッテネータもしくはアンプ)
243 ダウンコンバート用周波数変換回路
244 増幅部
245 利得制御回路
250 制御系回路
252 局部発振回路
256 バッファ
262 インピーダンス整合回路
300 ベースバンド回路(ベースバンドLSI)
MIX ミキサ
LPF ロウパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号と合成される発振信号を発生する発振回路および該発振回路からの信号と前記受信信号とを合成してベースバンドの周波数帯の信号に変換する周波数変換回路を内蔵した高周波信号処理用半導体集積回路が多層誘電体基板上に実装されてなる高周波信号処理用電子部品であって、
前記多層誘電体基板に設けられた第1の電源パッドから前記周波数変換回路に電源電圧を供給する電源供給経路の途中および前記多層誘電体基板に設けられた第2の電源パッドから前記発振回路に電源電圧を供給する電源供給経路の途中の少なくとも一方にインダクタンス素子が介在されていることを特徴とする高周波信号処理用電子部品。
【請求項2】
前記電源供給経路の少なくとも一部は前記多層誘電体基板の前記高周波信号処理用電子部品の実装面に露出するように形成され、該露出部分に一部切断箇所が設けられ、該切断箇所を接続するように個別部品で構成された前記インダクタンス素子が実装されていることを特徴とする請求項1に記載の高周波信号処理用電子部品。
【請求項3】
前記第1および第2の電源パッドは前記多層誘電体基板の前記高周波信号処理用電子部品の実装面と異なる面に形成され、前記多層誘電体基板の内部に形成されたスルーホールを介して前記電源供給経路の前記露出部分の一部に電気的に接続されていることを特徴とする請求項2に記載の高周波信号処理用電子部品。
【請求項4】
互いに電源端子が分離された複数の回路を備え、それぞれ異なる電源ノードから電源電圧が供給されるようにされた受信回路を有する高周波信号処理用半導体集積回路が多層誘電体基板上に実装されてなる高周波信号処理用電子部品であって、前記多層誘電体基板に設けられた電源パッドと前記複数の電源ノードのうち少なくとも1つの電源ノードとの間にインダクタンス素子が接続されていることを特徴とする高周波信号処理用電子部品。
【請求項5】
前記電源ノードは前記多層誘電体基板の前記高周波信号処理用電子部品の実装面に、また前記電源パッドは前記多層誘電体基板の前記高周波信号処理用電子部品の実装面と異なる面にそれぞれ形成され、前記実装面には前記多層誘電体基板の内部に形成されたスルーホールを介して前記電源パッドに電気的に接続された第2の前記電源ノードが設けられ、該第2の電源ノードと前記電源ノードとの間に前記インダクタンス素子が接続されていることを特徴とする請求項4に記載の高周波信号処理用電子部品。
【請求項6】
高周波の受信信号をベースバンドの周波数帯の信号に変換する受信回路を備えた高周波信号処理用半導体集積回路が多層誘電体基板上に実装され、前記受信回路にはインダクタンス素子を介して電源電圧が供給されるように構成されていることを特徴とする高周波信号処理用電子部品。
【請求項7】
前記多層誘電体基板には、受信信号から不要波を除去するフィルタと、受信信号の伝達経路上のインピーダンス整合回路とが設けられていることを特徴とする請求項6に記載の高周波信号処理用電子部品。
【請求項8】
前記受信回路は、発振回路からの信号と前記高周波の受信信号とを合成してベースバンドの周波数帯の信号に変換する周波数変換回路を有することを特徴とする請求項6または7に記載の高周波信号処理用電子部品。
【請求項9】
前記発振回路の出力信号を増幅し、前記周波数変換回路に入力する緩衝増幅器を有することを特徴とする請求項6、7または8に記載の高周波信号処理用電子部品
【請求項10】
前記インダクタンス素子は、フェライトビーズであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の高周波信号処理用電子部品。
【請求項11】
前記高周波信号処理用半導体集積回路は、発振回路からの信号とベースバンドの周波数帯の送信信号とを合成して高周波送信信号に直接変換する送信回路を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の高周波信号処理用電子部品。
【請求項12】
請求項10に記載の高周波信号処理用電子部品と、前記送信回路より出力された信号を電力増幅する増幅回路および送受信切替え手段が絶縁基板上に実装されてなる第2電子部品と、ベースバンド処理を行なうベースバンド回路と、前記送受信切替え手段を介して受信回路および送信回路に接続されるアンテナとを有する無線通信システム。
【請求項13】
前記発振回路にはインダクタンス素子を介して電源電圧が供給されることを特徴とする請求項8に記載の高周波信号処理用電子部品。
【請求項14】
前記緩衝増幅器にはインダクタンス素子を介して電源電圧が供給されることを特徴とする請求項9に記載の高周波信号処理用電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−135835(P2006−135835A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324712(P2004−324712)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【出願人】(000100997)株式会社アキタ電子システムズ (41)
【Fターム(参考)】