説明

高圧ガスタンクとその製造方法および製造装置

【課題】高圧ガスが高圧ガスタンクを透過する際の異音の発生を抑制する。
【解決手段】樹脂性容器のライナー外周部にFW法により強度補強用のカーボン繊維を巻き付けて、熱硬化性樹脂含浸の繊維強化樹脂層を形成する。この繊維強化樹脂層の形成の際に、最外表層とそれ以前の複数層の層をなすようカーボン繊維をFW方により巻回する場合、熱硬化性樹脂含浸のカーボン繊維を加熱しつつ巻回する。これを経て繊維強化樹脂層を形成し、その後、熱硬化装置にて加熱して熱硬化性樹脂を熱硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガスタンクとその製造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧ガスタンクは、金属製容器をライナーとするものと、樹脂製容器をライナーとするものとに大別される。例えば、燃料ガスの燃焼エネルギーや、燃料ガスの電気化学反応によって発電された電気エネルギーによって駆動する車両では、天然ガスや水素等の燃料ガスが貯蔵された高圧ガスタンクを搭載する都合上、タンクの軽量化が望まれるので、樹脂製容器をライナーとするタンクが多用される。そして、こうしたタンクでは、高圧でのガス充填・貯蔵に対処すべく、タンクフィラメント・ワインディング法(以下、「FW法」とも呼ぶ)によって、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸した強度補強用繊維をライナー外周に幾重にも巻回して多層的な補強層(繊維強化樹脂層)を形成し、タンク強度を向上させている(特許文献1)。ライナー外周への繊維強化樹脂層の形成に用いられる熱硬化性樹脂は、その熱硬化の間に与えられる熱により熱硬化し、この熱硬化を起こす際に接着剤として機能することから、繰り返し巻回された強度補強用繊維が相互に接着して繊維強化樹脂層が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−169893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ライナー外周への上述した繊維強化樹脂層の形成のための強度補強用繊維の巻回の際には、繊維にテンションを掛けてライナーに繊維を重ねて巻き付けることから、熱硬化性樹脂が表面に浮き出す。このため、繊維強化樹脂層の最外表層では、浮き出した熱硬化性樹脂がリッチとなる。このため、製造された高圧タンクでは、ライナーを被覆する繊維強化樹脂層の最外表層に、熱硬化性樹脂が熱硬化した樹脂熱硬化層が形成され勝ちとなる。
【0005】
こうした高圧ガスタンクにおいて、軽量化のために樹脂製容器をライナーとして用いた場合、高圧ガスタンク内に貯蔵されたガスが、高圧充填を受けているがために、わずかながらライナーを透過することがある。特に、高圧ガスタンク内に貯蔵されたガスが、水素等の分子量が小さいガスである場合には、樹脂製容器のライナーを透過しやすくなる。そして、ライナーを透過したガスは、繊維強化樹脂層も透過し、繊維強化樹脂層とその最外表層である樹脂熱硬化層との界面に滞留して、この界面を剥離させ、さらに、滞留したガスの圧力によって、樹脂熱硬化層に亀裂を生じさせる。このような樹脂熱硬化層に生じた亀裂は、高圧ガスタンクの性能を直接的に低下させるものではないが、樹脂熱硬化層に亀裂が生じる際に異音が生じることがあるため、高圧ガスタンクのユーザに、違和感や、不快感を与える場合があった。
【0006】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、樹脂製容器のライナー外周に熱硬化性樹脂を含浸した繊維強化樹脂層を有する高圧ガスタンクにおいて、高圧ガスが高圧ガスタンクを透過する際の異音の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決することを目的としてなされたものであり、以下の構成を採用した。
【0008】
[適用1:高圧ガスタンクの製造方法]
高圧ガスタンクの製造方法であって、
樹脂製容器をライナーとして該ライナーの外周に、所定処理を受けて硬化する性状の硬化性樹脂を含浸した強度補強用繊維を巻回して、繊維強化樹脂層を形成する繊維強化樹脂層形成工程と、
前記ライナーの外周に形成済みの前記繊維強化樹脂層に前記所定処理を処して、前記硬化性樹脂を硬化させる硬化工程とを備え、
前記繊維強化樹脂層形成工程では、前記繊維強化樹脂層の少なくとも最外表層をなす前記強度補強用繊維の巻回に当たって、前記含浸した硬化性樹脂を前記所定処理に処して前記硬化性樹脂の硬化が進んだ状態で、前記強度補強用繊維の巻回を図る
ことを要旨とする。
【0009】
[適用2:高圧ガスタンクの製造装置]
樹脂製容器をライナーとして該ライナーの外周に、所定処理を受けて硬化する性状の硬化性樹脂を含浸して硬化した強度補強用繊維からなる繊維強化樹脂層を有する高圧ガスタンクの製造に用いる装置であって、
前記所定処理を受ける以前の前記硬化性樹脂を含浸した前記強度補強用繊維を、前記ライナーの外周に巻回して、前記繊維強化樹脂層を形成する繊維強化樹脂層形成手段と、
前記ライナーの外周に形成済みの繊維強化樹脂層に前記所定処理を処して、前記硬化性樹脂を硬化させる硬化手段と、
前記ライナーの外周に達する以前の前記強度補強用繊維における前記硬化性樹脂に前記所定処理を処して前記硬化性樹脂の硬化が進んだ状態とする繊維巻回前硬化手段と、
該繊維巻回前硬化手段を制御して、前記繊維巻回前硬化手段による前記所定処理を、前記繊維強化樹脂層の少なくとも最外表層をなす前記強度補強用繊維を巻回する際に実行する巻回前硬化制御手段とを備える
ことを要旨とする。
【0010】
上記構成を備える高圧ガスタンクの製造方法と製造装置では、樹脂性容器のライナー外周部への繊維強化樹脂層の形成と、その後の所定処理、例えば、加熱処理を受けて硬化する熱硬化性樹脂を含浸して硬化した強度補強用繊維からなる繊維強化樹脂層であれば、その後の加熱処理を経ることで、熱硬化性樹脂の低粘度化とその硬化により繊維強化樹脂層は硬化する。上記構成を備える高圧ガスタンクの製造方法と製造装置では、繊維強化樹脂層の少なくとも最外表層をなす強度補強用繊維の巻回に当たって、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂)を所定処理(加熱処理)に処して硬化が進んだ状態としておく。よって、繊維強化樹脂層の形成後の所定処理(加熱処理)における硬化性樹脂の低粘度化は抑制されるので、繊維強化樹脂層の少なくとも最外表層をなすよう巻回されて隣り合う強度補強用繊維の間は、硬化性樹脂によって埋まってしまわないようになる。つまり、少なくとも最外表層以外の繊維強化樹脂層では既存タンクと同様の硬化性樹脂の硬化が加熱による低粘度化を経て起き、繊維強化樹脂層の少なくとも最外表層をなすよう巻回されて隣り合う強度補強用繊維の間では、その間を埋め尽くさないまま硬化性樹脂が硬化する。この場合、繊維強化樹脂層の少なくとも最外表層をなすよう巻回されて隣り合う強度補強用繊維の間は、強度補強用繊維の巻回の軌跡に沿ったものとなるので、繊維強化樹脂層の最外表層に強度補強用繊維の巻回の軌跡に沿ったクラックとなる。この結果、上記構成を備える高圧ガスタンクの製造方法と製造装置によれば、繊維強化樹脂層の最外表層に強度補強用繊維の巻回の軌跡に沿ったクラックを有する高圧ガスタンクを容易に製造できる。
【0011】
[適用3:高圧ガスタンク]
高圧ガスタンクであって、
樹脂製容器のライナーと、
該ライナーの外周に、所定処理を受けて硬化する性状の硬化性樹脂を含浸して硬化した強度補強用繊維からなる繊維強化樹脂層とを備え、
該繊維強化樹脂層は、その最外表層に前記強度補強用繊維の巻回の軌跡に沿ったクラックを有する
ことを要旨とする。
【0012】
上記構成を備える高圧ガスタンクにあっても、貯蔵した高圧ガスのライナー透過とライナー外周の繊維強化樹脂層透過が起きて、繊維強化樹脂層とその最外表層の界面にガスが滞留し得る。ところが、上記構成を備える高圧ガスタンクでは、繊維強化樹脂層の最外表層に強度補強用繊維の巻回の軌跡に沿ったクラックを有するので、繊維強化樹脂層とその最外表層の界面におけるガス滞留箇所にクラックが達していれば、このクラックはガス排出をなすリークパスとなり、滞留ガスをクラック(リークパス)から排出でき、この際に、亀裂発生に伴う異音を生じないようにできる。また、クラックがガス滞留箇所に達していなくても、クラックとガス滞留箇所とは近づくので、滞留ガスがその滞留箇所からクラックに透過したり、滞留ガスによる亀裂も僅かな範囲で収まることになるので、亀裂発生に伴う異音も小さくなる。よって、上記構成を備える高圧ガスタンクによれば、高圧ガスタンクのユーザの違和感や不快感を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例としての高圧ガスタンクの製造工程を模式的に示す説明図である。
【図2】タンク製造工程におけるFW法による繊維巻回の様子を模式的に示す説明図である。
【図3】タンク製造装置150の繊維巻回機構部100をタンク断面視方向から見て模式的に示す説明図である。
【図4】繊維巻回機構部100をタンク長手方向から見て模式的に示す説明図である。
【図5】高圧ガスタンク10の外観を一部破断拡大図と共に模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の一実施例としての高圧ガスタンクの製造工程を模式的に示す説明図、図2はタンク製造工程におけるFW法による繊維巻回の様子を模式的に示す説明図、図3はタンク製造装置150の繊維巻回機構部100をタンク断面視方向から見て模式的に示す説明図、図4は繊維巻回機構部100をタンク長手方向から見て模式的に示す説明図である。本実施例では、高圧ガスタンクを、高圧水素を貯蔵する高圧水素タンクとした。
【0015】
本実施例のタンク製造工程では、まず、図1(a)に示したように、樹脂製容器をライナー10aとして用意する。図2に示すように、高圧ガスタンク10がその本体部とするライナー10aは、半径が均一である略円筒形状のシリンダー部11と、シリンダー部11の両端に設けられた凸曲面形状のドーム部12とを有する中空容器である。本実施例では、ライナー10aを、例えば、ナイロン系樹脂からなる樹脂製容器を用いるものとしたが、他の樹脂からなる樹脂製容器を用いるものとしてもよい。なお、ドーム部12は、等張力曲面によって構成されており、その頂点に、外部配管等と接続するための口金15を有する。
【0016】
次に、図1(b)に示したように、ライナー10aの外周に、繊維強化樹脂層20を形成する(繊維強化樹脂層形成工程)。本実施例では、繊維強化樹脂層形成工程として、ライナー10aの外周に、フィラメント・ワインディング法(FW法)によって、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸した強度補強用のカーボン繊維を繰り返し巻回することにより、繊維強化樹脂層20の内周側樹脂層に当たる1次カーボン繊維層を形成する(図1(b−1))。FW法による繊維巻回は、図2に示すように、ライナー10aの略円筒状のシリンダー部11においてはフープ巻きとされ、シリンダー部両端のドーム部12においては、その折り返し位置に応じた角度のヘリカル巻きとされている。繊維強化樹脂層20は、カーボン繊維Fの巻き付け方を変えた複数の繊維巻回層を積層することにより、多層的に形成される。
【0017】
図2(a)に示すように、シリンダー部11においては、フープ巻きをシリンダー部両端で折り返しつつ繰り返すことで、補強用の繊維巻回層を形成する。つまり、ライナー10aをタンク中心軸AXの回りで回転させつつ、カーボン繊維Fのリール25をタンク中心軸AXに沿って所定速度で往復動させることで、補強用の繊維巻回層が形成される。このフープ巻きは、カーボン繊維Fを、シリンダー部11のタンク中心軸AXに対してほぼ垂直に近い巻き角度となるよう、ライナー回転速度とリール25の往復動速度を調整した上で、タンク中心軸AX方向に沿ってリール25を往復移動させて、カーボン繊維Fをシリンダー部11に巻き付けていく巻き付け方法である。なお、このフープ巻きによって形成される繊維巻回層を以後、フープ層と呼ぶ。フープ層は、シリンダー部11の全体に渡って形成され、シリンダー部11におけるライナー補強を担う。
【0018】
こうしてシリンダー部11のフープ層の形成に続き、図2(b)に示す高角度のヘリカル巻きと、図2(c)に示す低角度のヘリカル巻きとを繰り返し行うことで、ドーム部12に補強用の繊維巻回層を形成する。図2(b)に示す高角度のヘリカル巻きでは、フープ層の上とシリンダー部11から繋がったドーム部12の周縁側領域とを繊維巻対象とし、ライナー10aをタンク中心軸AXの回りで回転させつつ、リール25から延びたカーボン繊維Fをタンク中心軸AXに対して高角度の繊維角で交差させた状態を保持し、ライナー回転速度とリール25の往復動速度を調整する。その上で、タンク中心軸AX方向に沿ってリール25を往復移動させて、カーボン繊維Fを螺旋状に巻き付けていく巻き付け方法である。この場合、両側のドーム部12では、リール25の往路・復路の切換に伴って繊維の巻き付け方向が折り返されると共に、タンク中心軸AXからの折り返し位置も調整される。ドーム部12における巻き付け方向の折り返しを何度も繰り返すことにより、ライナー10aの外表面には、高角度の繊維角でカーボン繊維Fが網目状に張り渡された繊維巻回層が形成される。この高角度のヘリカル巻きによって形成される繊維巻回層を以後、高角度ヘリカル層と呼ぶ。
【0019】
図2(c)に示す低角度のヘリカル巻きでは、フープ層および高角度ヘリカル層の上と口金15の回りのドーム部12の頂上領域とを繊維巻対象とし、ライナー10aをタンク中心軸AXの回りで回転させつつ、リール25から延びたカーボン繊維Fをタンク中心軸AXに対して低角度の繊維角で交差させた状態を保持し、ライナー回転速度とリール25の往復動速度を調整する。その上で、タンク中心軸AX方向に沿ってリール25を往復移動させて、カーボン繊維Fを螺旋状に巻き付けていく巻き付け方法である。この場合、両側のドーム部12では、リール25の往路・復路の切換に伴って繊維の巻き付け方向が折り返されると共に、タンク中心軸AXからの折り返し位置も調整される。ドーム部12における巻き付け方向の折り返しを何度も繰り返すことにより、ライナー10aの外表面には、低角度の繊維角でカーボン繊維Fが網目状に張り渡された繊維巻回層が形成される。この低角度のヘリカル巻きによって形成される繊維巻回層を以後、低角度ヘリカル層と呼ぶ。この際の繊維角は、シリンダー部11においてカーボン繊維Fが1周する前にドーム部12において巻き付け方向を折り返すこととなる程度の比較的小さい繊維角に設定される。上記した高角度ヘリカル層および低角度ヘリカル層は、ドーム部12におけるライナー補強を担う。
【0020】
上記した繊維強化樹脂層20の内周側樹脂層に当たる1次カーボン繊維層の形成(図1(b−1))は、全ての繊維強化樹脂層20をカーボン繊維Fの巻回で行った場合の繊維強化樹脂層20の最外表層とそれ以前の2〜10層程度の複数の繊維巻回層を除く繊維巻回層について行われる。そして、このカーボン繊維Fの巻回を、図2に示すように、フープ層形成、高角度ヘリカル層形成、低角度ヘリカル層形成の順に行う。
【0021】
繊維強化樹脂層20の内周側樹脂層に当たる1次カーボン繊維層の形成に続いては、この1次カーボン繊維層外周部に、さらに、FW法によって、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸したカーボン繊維Fを加熱しつつ繰り返し巻回することにより、繊維強化樹脂層20の最外表層とそれ以前の上記の巻回数の繊維巻回層(2次カーボン繊維層)を、繊維強化樹脂層20の内周側樹脂層に重ねて形成する(図1(b−2))。こうして重なった1次カーボン繊維層と2次カーボン繊維層が、繊維強化樹脂層20となる。
【0022】
本実施例では、2次カーボン繊維層の形成の際にカーボン繊維Fを加熱しつつ巻回するに当たり、次のようにした。図3と図4に示すように、繊維巻回機構部100は、繊維加熱機器110とリール機構部120と制御装置130とを有する。繊維加熱機器110は、ライナー10aに巻回されるカーボン繊維Fを挟むように加熱ヒーター112を備え、制御装置130からの制御信号を受けて、加熱ヒーター112をオンして、カーボン繊維Fを加熱する。また、この繊維加熱機器110は、リール機構部120と共に、タンク中心軸AXに沿って往復動する。リール機構部120は、繊維加熱機器110による加熱以前でのカーボン繊維Fの巻回、即ち既述した1次カーボン繊維層の形成の間と、繊維加熱機器110による加熱下でのカーボン繊維Fの巻回において、既述したようにリール25をタンク中心軸AXに沿って往復動させつつカーボン繊維Fを送り出す。リール機構部120からのカーボン繊維Fの送り出し量は、カーボン繊維Fによるライナー10aの外周への繊維巻回の程度と比例することから、制御装置130は、カーボン繊維Fの送り出し量に基づいて、繊維加熱機器110のオンオフ制御を行う。つまり、繊維強化樹脂層20の内周側樹脂層に当たる1次カーボン繊維層の形成の間においては、繊維加熱機器110をオフとし、1次カーボン繊維層に重ねて2次カーボン繊維層を形成する間において、繊維加熱機器110をオンとする。
【0023】
本実施例では、上記した繊維加熱機器110によりカーボン繊維Fを加熱した上での、繊維強化樹脂層20の最外表層とそれ以前の数層程度の繊維巻回層についてのカーボン繊維Fの巻回を、図4に示すようにフープ巻きにて実施した。これは、ライナー10aの表面積の大部分をシリンダー部11が占めることから、シリンダー部11でのガス透過に対する対処を行えば充分なためである。ドーム部12を覆うヘリカル巻きを2次カーボン繊維層の形成において実施することもできる。本実施例では、図3の拡大部位に示すように、複数本の長繊維のカーボンスライバーFSをコアとしてこれをエポキシ樹脂FRで取り囲んだカーボン繊維Fを、FW法により1次、2次のカーボン繊維層において巻回する。なお、繊維加熱機器110によりカーボン繊維Fを加熱しつつ巻回する際の、カーボン繊維Fの様子については後述する。
【0024】
本実施例では、繊維強化樹脂層形成工程での1次カーボン繊維層形成において、カーボン繊維Fに含浸された過剰なエポキシ樹脂を、繊維に機械的なダメージが加わらない程度の力でしごいて除去しつつ、カーボン繊維Fを巻回するものとした。こうすることによって、1次カーボン繊維層から2次カーボン繊維層に浮き出すエポキシ樹脂層の量を予めある程度少なくすることができるので、1次カーボン繊維層から2次カーボン繊維層の下面までエポキシ樹脂は浮き出るものの、2次カーボン繊維層の表面を覆ってしまう程は、1次カーボン繊維層から2次カーボン繊維層にエポキシ樹脂浮き出ないようにできる。この場合、エポキシ樹脂に代えて、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることもできる。また、後述の熱硬化工程での加熱を受けて硬化する樹脂であればよい。
【0025】
繊維強化樹脂層の形成に続いては、図1(c)に示すように、樹脂層形成済みの中間生成品タンクである高圧ガスタンク10を、タンク製造装置150が有する熱硬化炉140に搬入して、エポキシ樹脂の硬化温度まで中間生成品タンクを回転させながら加熱する(熱硬化工程)。この加熱により、繊維強化樹脂層(1次カーボン繊維層と2次カーボン繊維層)に含まれるエポキシ樹脂は、低粘度化してから熱硬化して、繊維を相互に接着して繊維強化樹脂層20を熱硬化形成する。熱硬化炉140は、加熱源をタンク軸方向の複数箇所に備え、タンク外表をタンク軸方向において均等に加熱する。この熱硬化工程に続いて冷却養生を経ることで、ライナー10aを繊維強化樹脂層20で補強した高圧ガスタンク10が得られることになる。図5は高圧ガスタンク10の外観を一部破断拡大図と共に模式的に示す説明図である。
【0026】
以上説明したように、本実施例の製造方法では、ライナー10aの外周に繊維強化樹脂層20を形成するに当たり、図5の拡大部位に示すように、繊維強化樹脂層20のほぼ大部分を占める1次カーボン繊維層21については、既存のFW法と変わらず、熱硬化樹脂であるエポキシ樹脂含浸済みのカーボン繊維Fを巻回して1次カーボン繊維層21を形成した。そして、この1次カーボン繊維層21に重なる2次カーボン繊維層22であって繊維強化樹脂層20の最外表層とそれ以前の数層程度の繊維巻回層については、繊維加熱機器110によりカーボン繊維Fを加熱しつつ巻回して、1次カーボン繊維層21に2次カーボン繊維層22が重なった繊維強化樹脂層20を形成した。このため、繊維強化樹脂層20の最外表層とそれ以前の数層程度の繊維巻回層である2次カーボン繊維層22は、図3の拡大部位に示すようにカーボンスライバーFSを取り囲むエポキシ樹脂FRが加熱により硬化が進んだ状態で、巻回形成される。このように加熱しないままカーボン繊維Fを巻回すれば、隣り合うカーボン繊維Fの間は、未加熱のエポキシ樹脂FRで埋め尽くされるが、加熱によりエポキシ樹脂FRの硬化が進んだカーボン繊維Fで巻回形成した2次カーボン繊維層22では、隣り合うカーボン繊維Fの間に隙が残ることになる。
【0027】
このようにして1次カーボン繊維層21と2次カーボン繊維層22を含む繊維強化樹脂層20を形成した後、この繊維強化樹脂層20は加熱処理を受けるので、この加熱処理において、1次カーボン繊維層21と2次カーボン繊維層22とで共にエポキシ樹脂FRの硬化が起きる。繊維強化樹脂層20の大部分を占める1次カーボン繊維層21については、既存のタンク製造手法と同様にしてエポキシ樹脂FRの充分な低粘度化の後に樹脂硬化が起きる。その一方、繊維強化樹脂層20の最外表層とそれ以前の数層程度の繊維巻回層である2次カーボン繊維層22では、エポキシ樹脂FRは既に硬化が進んでいることから、それほど低粘度化することなく更に硬化するので、2次カーボン繊維層22において巻回されて隣り合うカーボン繊維Fの間は、エポキシ樹脂FRで埋め尽くされないまま筋状に残ることになる。この2次カーボン繊維層22において巻回されて隣り合うカーボン繊維Fの間は、カーボン繊維Fの巻回の軌跡に沿ったものであることから、図5に示すように、繊維強化樹脂層20の最外表層における筋状のクラックHCとなる。つまり、本実施例の製造方法によれば、繊維強化樹脂層20の最外表層にカーボン繊維Fの巻回の軌跡に沿ったクラックを有する高圧ガスタンク10を容易に製造できる。
【0028】
そして、繊維強化樹脂層20の最外表層にカーボン繊維Fの巻回の軌跡に沿ったクラックHCを有する本実施例の高圧ガスタンク10では、次の利点がある。本実施例の高圧ガスタンク10にあっても、高圧で貯蔵した水素ガスがライナー10aと繊維強化樹脂層20を透過し、繊維強化樹脂層20の大部分を占める1次カーボン繊維層21と最外表層を占める2次カーボン繊維層22の界面に水素ガスが滞留し得る。本実施例の高圧ガスタンク10では、繊維強化樹脂層20の最外表層を占める2次カーボン繊維層22に既述したようにカーボン繊維Fの巻回の軌跡に沿ったクラックHCを有するので、1次カーボン繊維層21と2次カーボン繊維層22の界面におけるガス滞留箇所にクラックHCが達していれば、このクラックHCはガス排出をなすリークパスとなり、滞留した水素ガスをクラックHC(リークパス)から排出でき、この際に、亀裂発生に伴う異音を生じないようにできる。また、クラックHCがガス滞留箇所に達していなくても、クラックHCとガス滞留箇所とは近づくので、滞留した水素ガスがその滞留箇所からクラックHCに透過したり、滞留ガスによる亀裂も僅かな範囲で収まることになるので、亀裂発生に伴う異音も小さくなる。この結果、本実施例の高圧ガスタンク10によれば、高圧ガスタンクのユーザの違和感や不快感を抑制できる。本実施例におけるクラックHCは、上記した製造方法にてカーボン繊維Fの巻回の軌跡に沿って形成されたクラックの他、上記の界面に達するよう意図的に形成したリークパスやクラックが含まれる。なお、高圧ガスタンク10の最外表層におけるクラックHCの有無は、JISにて規定するカラーチェック法(JIS Z 2343)にて判定できる。
【0029】
また、本実施例の高圧ガスタンク10では、クラックHCをカーボン繊維Fの巻回軌跡に沿って有するので、クラックHCによるカーボン繊維Fの破断を起こさない。よって、1次カーボン繊維層21や2次カーボン繊維層22のカーボン繊維Fの巻数を低減した上で、既述したような違和感抑制を図ることができる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、上記の実施例では、繊維強化樹脂層20を形成するに当たり、カーボン繊維Fを用いたが、カーボン繊維Fに代えて1次、2次の繊維層をガラス繊維で形成したり、2次カーボン繊維層22を、カーボン繊維Fに代わるガラス繊維で形成した繊維層とすることもできる。ガラス繊維はカーボン繊維Fよりも機械的強度が高いため、高圧ガスタンク10の機械的強度を高くすることができる。アラミド繊維を用いることもできる。
【0031】
また、本実施例では、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いたが、その他の熱硬化性樹脂を用いることもできる。この他、カーボン繊維Fを巻回前に加熱する繊維加熱機器110については、加熱ヒーター112に代えて、熱風、赤外線、マイクロウェーブ等の加熱手法を用いることもできる。
【0032】
また、熱硬化性樹脂に代わる樹脂、例えば紫外線照射を受けると硬化する光硬化性樹脂や、湿度調整処理や圧力調整処理を受けると硬化する性状の硬化性樹脂を用いることもできる。カーボン繊維Fにあっては、図3に示したようにカーボンスライバーFSをコアにしてエポキシ樹脂FRで取り囲む繊維とするほか、カーボンスライバーFSを帯状に並べてこれをエポキシ樹脂FRで取り囲む帯状のカーボン繊維Fとすることもできる。
【符号の説明】
【0033】
10…高圧ガスタンク
10a…ライナー
11…シリンダー部
12…ドーム部
15…口金
20…繊維強化樹脂層
21…1次カーボン繊維層
22…2次カーボン繊維層
25…リール
100…繊維巻回機構部
110…繊維加熱機器
112…加熱ヒーター
120…リール機構部
130…制御装置
140…熱硬化炉
150…タンク製造装置
F…カーボン繊維
AX…タンク中心軸
HC…クラック
FR…エポキシ樹脂
FS…カーボンスライバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガスタンクの製造方法であって、
樹脂製容器をライナーとして該ライナーの外周に、所定処理を受けて硬化する性状の硬化性樹脂を含浸した強度補強用繊維を巻回して、繊維強化樹脂層を形成する繊維強化樹脂層形成工程と、
前記ライナーの外周に形成済みの前記繊維強化樹脂層に前記所定処理を処して、前記硬化性樹脂を硬化させる硬化工程とを備え、
前記繊維強化樹脂層形成工程では、前記繊維強化樹脂層の少なくとも最外表層をなす前記強度補強用繊維の巻回に当たって、前記含浸した硬化性樹脂を前記所定処理に処して前記硬化性樹脂の硬化が進んだ状態で、前記強度補強用繊維の巻回を図る
高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項2】
前記硬化性樹脂は加熱処理を受けて硬化する熱硬化性樹脂であり、前記硬化工程は前記繊維強化樹脂層を加熱処理に処して、前記硬化性樹脂を熱硬化させる請求項1に記載の高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項3】
樹脂製容器をライナーとして該ライナーの外周に、所定処理を受けて硬化する性状の硬化性樹脂を含浸して硬化した強度補強用繊維からなる繊維強化樹脂層を有する高圧ガスタンクの製造に用いる装置であって、
前記所定処理を受ける以前の前記硬化性樹脂を含浸した前記強度補強用繊維を、前記ライナーの外周に巻回して、前記繊維強化樹脂層を形成する繊維強化樹脂層形成手段と、
前記ライナーの外周に形成済みの繊維強化樹脂層に前記所定処理を処して、前記硬化性樹脂を硬化させる硬化手段と、
前記ライナーの外周に達する以前の前記強度補強用繊維における前記硬化性樹脂に前記所定処理を処して前記硬化性樹脂の硬化が進んだ状態とする繊維巻回前硬化手段と、
該繊維巻回前硬化手段を制御して、前記繊維巻回前硬化手段による前記所定処理を、前記繊維強化樹脂層の少なくとも最外表層をなす前記強度補強用繊維を巻回する際に実行する巻回前硬化制御手段とを備える
高圧ガスタンクの製造装置。
【請求項4】
高圧ガスタンクであって、
樹脂製容器のライナーと、
該ライナーの外周に、所定処理を受けて硬化する性状の硬化性樹脂を含浸して硬化した強度補強用繊維からなる繊維強化樹脂層とを備え、
該繊維強化樹脂層は、その最外表層に前記強度補強用繊維の巻回の軌跡に沿ったクラックを有する
高圧ガスタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−42032(P2012−42032A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186011(P2010−186011)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】