説明

高強度パルス光を利用した血管内診断または治療用装置

観察しようとする血管内腔の血液を侵襲性の低い方法で排除しうる血管内診断または治療用装置の提供。
高強度パルス光発生手段および高強度パルス光を伝送する高強度パルス光伝送手段を有し、高強度パルス光を血管内に照射し水蒸気泡を発生させ、血管内の血液を一時的に排除しうる、血管内診断または治療用装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はパルスレーザ等の高強度パルス光照射手段を備え、該高強度パルス光を血液に照射し、水蒸気泡を発生させ、血管内腔の診断および治療を可能にする血管内診断または治療用装置に関する。このような装置として、例えば、血管内腔の観察を可能にする血管内視鏡がある。
【背景技術】
従来より、血管内にカテーテルを挿入し、診断または治療用の光を用いて血管内の診断または治療が行われていた。例えば、血管内視鏡を用いて照明用の光を照射して血管内腔の像の観察が行われていた。また、血管内で血管内腔に対してレーザ光等の高強度パルス光を照射しての血管形成術等が行われていた。しかし、血管内に血液が存在する状態で光を血管内で照射しても、可視光から紫外光までの波長を有する光は血液中のヘモグロビンに吸収されてしまい、赤外光は水に吸収されてしまう。このため、光を血管の診断または治療しようとする部位に到達させることは困難であった。従って、従来は血管内の診断または治療のためには血液流を閉止するための、血流閉止バルーン等のバルーンを用いたり、あるいは診断または治療のための光を照射する部位を血管の疾患または障害を有する部位に接触させて接触照射する必要があった。例えば、血管内腔を光学的に観察しようとする場合、観察する部分において視野の妨げとなる血管内の血液を排除する必要があり、閉塞用バルーンを用いて一時的に血流を止めたり、またヘパリン添加生理食塩水等の透明なフラッシュ液を血管内の観察部位に注入し、観察する部分の血液を透明な生理食塩水に置換する等(特許文献1および特許文献2参照)が行われていた。
しかし、閉塞用バルーンを用いて血流を止める場合、虚血を避けるために止血時間は限定され十分な診断または治療のための時間は確保できなかった。また、バルーンでは血流は完全に閉止させることはできなかった。
また、光を接触照射する場合も、照射部分を血管内腔壁に接触させるための特殊な手段を必要とし、また血管壁を傷つけないようにするために過度の接触を避ける必要があった。
さらに、従来の血管内視鏡における生理食塩水での血液排除視野確保は、僅かでも血液が混じると散乱により照明光が拡散反射し、視野を著しく妨げる。そこで多量の生理食塩水注入が必要になるといった悪循環があった。
また、従来のこれらの方法は、血流を止めたり血液中に大量の異物を注入するため、酸素キャリアーである血液の循環が阻害され末梢に十分な酸素供給が確保されず、被験者に対する侵襲性が高かった。特に冠状動脈においては、血液の排除の影響は極めて大きく、常に虚血を心電図で監視しつつ、時間を制限して行うなど冠状動脈内視鏡の施行には困難が伴った。
一方、光ではなく超音波を用いて血管内腔の状態を観察する方法(血管内超音波イメージング:IVUS)も広く行われている。この方法は侵襲性は低いものの、直接血管内腔を観察する方法ではなく、色調についての情報が得られず、病変部の正確な性状診断を行うのは困難であった。特に、冠状動脈疾患においては、内膜破綻により急性心筋梗塞を引き起こす黄色粥腫と、繊維化が進み内膜破綻の起きない白色粥腫とを識別することはできなかった。
このように、従来の方法では、特に冠状動脈内腔を正確かつ安全に診断または治療することは不可能であった。
【特許文献1】 特開平6−296695号公報
【特許文献2】 特開平11−262528号公報
【発明の開示】
本発明は、血管内の診断または治療用装置であって、観察しようとする血管内腔の血液を侵襲性の低い方法で排除しうる血管内診断または治療用装置の提供を目的とする。具体的にはパルスレーザ等の高強度パルス光の照射により、観察する血管内腔の血液中で、極めて短時間水蒸気泡を発生させ、その部分の血液を排除し、診断または治療用光を照射し、血管内腔の観察や治療を可能にする、侵襲性の低い血管内診断・治療用装置の提供を目的とする。
本発明者等は、従来の血管内の診断または治療用装置の問題点を解決し、低侵襲性で効率的な診断または治療効果の得られる血管内の診断または治療用装置、例えば低侵襲性で鮮明な像を得ることができる血管内視鏡の開発について鋭意検討を行った。本発明者等は、水の入った細管内で高強度パルス光を照射すると水が高強度パルス光照射によるエネルギーを吸収し気化し水蒸気泡が発生する現象に着目し、血管内で高強度パルス光を照射することにより血管内の血液中で水蒸気泡が発生し、一時的に血液が排除され、その時に診断または治療用光を照射することにより、光が血液に吸収されることなく、血管内腔壁に到達し、血管内腔の診断または治療が可能になることを見出し本発明を完成させるに至った。例えば、本発明の一つの装置である血管内視鏡により光学的に容易に血管内腔を観察できる。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 高強度パルス光発生手段および高強度パルス光を伝送する高強度パルス光伝送手段を有し、高強度パルス光を血管内に照射し水蒸気泡を発生させ、血管内の血液を一時的に排除しうる、血管内診断または治療用装置、
[2] さらに、血管内に診断または治療用光を照射し血管内腔における診断または治療を可能にするパルス光照射手段を有するカテーテル状の[1]の血管内診断または治療用装置、
[3] 診断または治療用パルス光が紫外光、可視光、近赤外光または赤外光である、[2]の血管内診断または治療用装置、
[4] 診断または治療用パルス光が紫外光であり、血管を弛緩させる、[3]の血管内診断または治療用装置、
[5] 診断または治療用パルス光が紫外光、可視光、近赤外光または赤外光であり、血管を収縮させる、[3]の血管内診断または治療用装置、
[6] 診断または治療用パルス光が高強度である、[2]の血管内診断または治療用装置、
[7] 診断または治療用パルス光が、血管内の動脈硬化の粥腫または血管内の血栓を破壊し得るパルス光である、[2]の血管内診断または治療用装置、
[8] 診断または治療用パルス光が、固体レーザ、半導体レーザ、色素レーザ、可変波長近赤外レーザ、オプティカルパラメトリックオシレーター(OPO)、ラマンレーザにより発生する光およびこれらに非線型光学変換装置を結合して発生し得る光、ならびにフラッシュランプからなる群から選択される、[2]の血管内診断または治療用装置、
[9] 診断または治療用パルス光が、光化学治療に用いられる、[8]の血管内診断または治療用装置、
[10] さらに、血管内をパルス照明させ光学的観察を可能にする照明光照射手段、照明光により照明された血管内腔を撮像する撮像手段を有するカテーテル状の血管内視鏡装置である[1]から[3]および[8]のいずれかの血管内診断または治療用装置、
[11] さらに、送液手段を有し高強度パルス光が照射される局所部分の血液を高強度パルス光吸収性が水に近い液で置換し得る血管内視鏡装置である、[10]の血管内視鏡装置、
[12] 高強度パルス光の波長で、水の吸収係数が10〜1000cm−1である範囲にある[1]から[11]のいずれかの血管内診断または治療用装置、
[13] 高強度パルス光の波長が0.3〜3μmの範囲にある血管内視鏡装置である、[1]から[12]のいずれかの血管内診断または治療用装置、
[14] 高強度パルス光の波長が1.5〜2.5μmの範囲にある血管内視鏡装置である、[13]の血管内診断または治療用装置、
[15] 高強度パルス光が、パルスレーザである血管内視鏡装置である[1]から[14]のいずれかの血管内診断または治療用装置、
[16] 高強度パルス光が、オプティカルパラメトリックオッシレーター(OPO)により発生するパルス光である、[1]から[15]のいずれかの血管内診断または治療用装置、
[17] レーザが希土類イオンを用いた固体レーザである、[15]の血管内診断または治療用装置、
[18] レーザ媒質がHoまたはTmであり、レーザ母材がYAG、YLF、YSGGおよびYVOからなる群から選択される、[17]の血管内診断または治療用装置、
[19] レーザがHo:YAGレーザまたはTm:YAGレーザである、[18]の血管内診断または治療用装置、
[20] 高強度パルス光照射のパルス幅が10ns〜10msである、[1]から[19]のいずれかの血管内診断または治療用装置、
[21] 高強度パルス光照射のパルス幅が100μs〜400μsである、[20]の血管内診断または治療用装置、
[22] 診断または治療用パルス光と高強度パルス光照射の間に遅延が設けられ得る[1]から[21]のいずれかの血管内診断または治療用装置、
[23] 高強度パルス光および診断または治療用パルス光の照射タイミングを、心電図計により拍動血流に遅延同期させ、拍動血流速が低下してきた時点で高強度パルス光が照射され得る、[1]から[22]のいずれかの血管内診断または治療用装置、
[24] 照射野操作性を有する[1]から[23]のいずれかの血管内診断または治療用装置、
[25] 心臓鏡である血管内視鏡装置である、[1]から[24]のいずれかの装置、
[26] さらに、診断または治療用手段を有する、[10]から[25]のいずれかの血管内視鏡である血管内診断または治療用装置、
[27] 血管内への高強度パルス光の照射、パルス照明を短い間隔で繰り返すことにより、血管内の像を動画として得、該像を観察しながら血管内の病変部を発見し診断または治療用手段で血管内の診断または治療を行うことができる、[26]の血管内視鏡である血管内診断または治療用装置、ならびに
[28] 診断または治療用手段が、ディレクショナル・アテレクトミー装置、血栓吸引装置、ロータブレーター装置および生検のための装置からなる群から選択される、[26]または[27]の血管内視鏡である血管内診断または治療用装置。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−126633、2003−328984号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の血管内診断または治療用装置を示す図である。
図2は、本発明の内視鏡装置を示す図である。
図3は、本発明の血管内診断または治療用装置のカテーテル部分の断面を示す図である。
図4は、本発明の内視鏡装置のカテーテル部分の断面を示す図である。
図5は、実施例において用いた装置を示す図である。
図6は、レーザにより誘発された水蒸気泡を示す図である。
図7は、高強度パルス光照射、水蒸気泡の発生、照明光フラッシュの時間的関係を示す図である。
図8は、ブタ冠状動脈内に生理食塩水を注入したときの血管内腔の写真である。
図9は、ブタ冠状動脈内にブタ血液を注入したときの血管内腔の写真である。
図10は、ブタ冠状動脈内にブタ血液を注入し、パルスレーザを照射したときの血管内腔の写真である。
図11は、シリコーンチューブ内に牛乳を充填させ、遅延時間70μsでチューブ内を観察したときの写真である。
図12は、シリコーンチューブ内に牛乳を充填させ、遅延時間140μsでチューブ内を観察したときの写真である。
図13は、シリコーンチューブ内に牛乳を充填させ、レーザ照射してチューブ内を撮像した場合の、レーザ照査とパルス照明の間の遅延時間と撮像画像の大きさおよび明度の相対的大きさの関係を示す図である。
図14は、本発明の装置を用いて、レーザ照射せずに家兎の大動脈内腔を観察したときの写真である。
図15は、本発明の装置を用いて、レーザ照射を行い家兎の大動脈内腔を観察したときの写真である。
【符号の説明】
1、カテーテル
2、高強度パルス光伝送用ファイバー
3、診断または治療用の光伝送用ファイバー
4、高強度パルス光照射部
5、診断または治療用光照射部
6、高強度パルス光源
7、診断または治療用光光源
8、遅延パルスジェネレータ
9、照明部
10、ライトガイド(照明用)
11、パルス照明光源
12、観察部
13、イメージガイド
14、撮像素子
15、処理部
16、モニター
17、ルーメン(生理食塩水注入)
18、カテーテルシース
19、レーザ伝送用ファイバー
20、イメージガイド
21、ライトガイド
22、細径内視鏡
23、シース
24、Ho:YAGレーザ発生装置
25、フラッシュランプ
26、集光レンズ
27、遅延ジェネレーター
28、CCDカメラ
29、モニター
30、ブタ冠状動脈
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、血管内でパルスレーザ等の高強度パルス光を照射すると血液中の水分が高強度パルス光のエネルギーを吸収し、気化し水蒸気泡が発生し(高強度パルス光誘発気泡)、その部分の血液が一時的に排除される現象を利用した血管内の診断または治療用装置である。水蒸気泡により血液が一時的に排除されるため、血液の影響を受けることなく、血管内腔を診断または治療することができる。本発明の装置においては、水蒸気泡を発生させるための高強度パルス光の照射手段の他に、診断または治療のための光照射手段を有し、血液が一時的に排除されたときに該光を照射することにより血管内の診断または治療を行うことが可能になる。例えば、診断または治療用光として可視光を用いた場合、血管内視鏡装置として血管内腔の鮮明な像を得ることができる。血液排除は一時的であり、大部分の時間は血流が流れているので、末梢への血流量はほぼ確保される。
なお、本明細書で血管内視鏡という場合、心臓鏡も含まれ、本発明は血管内でパルスレーザ等の高強度パルス光を照射すると血液中の水分が高強度パルス光のエネルギーを吸収し、気化し水蒸気泡が発生し(高強度パルス光誘発気泡)、その部分の血液が一時的に排除される現象を利用した心臓鏡も含む。
図1に本発明の血管内診断または治療用装置の模式図を示す。本発明の血管内診断または治療用装置は、少なくとも血管用カテーテル1(ガイド用カテーテル)、血管内に高強度パルス光を照射する高強度パルス光照射手段、血管内に診断または治療用光を照射する光照射手段を含むカテーテル状の装置である。前記高強度パルス光照射手段は、高強度パルス光発生手段(高強度パルス光源6)、高強度パルス光を血管中に伝送する手段、高強度パルス光を血管内に照射する手段等を含み、高強度パルス光を伝送する部分はカテーテル1内に高強度パルス光伝送用ファイバー2として配設され、高強度パルス光を血管内に照射する手段は、光伝送用ファイバー2の遠位端に高強度パルス光照射部4として設けられる。高強度パルス光照射部4には、プリズム等のパルス光照射角度を変化させるための部材を配設してもよいが、通常は特別な部材は必要なく光ファイバーの遠位端が高強度パルス光照射部4として作用し得る。また、前記診断または治療用光照射手段は光発生手段(光光源7)、光を血管中に伝送する手段および光を血管内に照射する手段等を含み、光を伝送する手段はカテーテル内に診断または治療用の光伝送用ファイバー3として配設され、その遠位端に光を血管内に照射する手段として光照射部5が設けられる。光照射部5には、診断または治療用光を拡散させるための部材等を配設してもよいが、通常は特別な部材は必要なく光ファイバーの遠位端が光照射部5として作用し得る。また、診断または治療用光照射手段は複数存在していてもよく、この場合異なる波長の光を照射する複数の照射手段であることが望ましい。例えば、光照射手段として、血管形成術用のレーザ光照射手段と血管を内視するための可視光照射手段を備えている場合、レーザ光を照射して治療した血管内腔の治療効果を可視光を照射して観察することが可能になる。図2に本発明の血管内診断または治療用装置の一例である血管内視鏡装置の模式図を示す。本発明の血管内視鏡装置は、少なくとも血管内視用カテーテル1(ガイド用カテーテル)、血管内に高強度パルス光を照射する高強度パルス光照射手段、血管内をパルス照明させ光学的観察を可能にする照明光照射手段、照明光より照明された血管内腔を撮像する撮像手段を含むカテーテル状の装置である。高強度パルス光照射手段は前記の通りである。また、前記照明光照射手段は照明光発生手段(パルス照明光源11)、照明光を血管中に伝送する手段および照明光を血管内に照射する手段等を含み、照明光を伝送する手段はカテーテル内に光伝送用ファイバーを含むライトガイド10として配設され、その遠位端に照明光を血管内に照射する手段として照明部9が設けられる。照明部9には、照明光を拡散させるための部材等を配設してもよいが、通常は特別な部材は必要なく光ファイバーの遠位端が照明部9として作用し得る。前記撮像手段は血管内腔の像を受け取る手段、血管内腔の像を伝送する手段、像を電気信号に変換する手段(像処理手段)、像をモニターする手段等を含み、さらに血管内腔像を結像し光学的に拡大するためのレンズ等を含む。血管内腔の像を伝送する手段はカテーテル内に光伝送用ファイバーを含むイメージガイド13として配設され、イメージガイド13遠位端には血管内腔の像を受け取る手段として観察部12が設けられ、該観察部12には必要に応じてレンズが配設される。像を電気信号に変換する手段は、撮像素子14、像処理部15を含み、像をモニターする手段としてはモニター16、ビデオ等がある。
また、本発明の血管内診断または治療用装置は生理食塩水等を血管内に注入するための送液システムを含んでいてもよい。該送液システムにより少量の生理食塩水等が送液され、高強度パルス光が照射される局所の血液が生理食塩水等に置換される。
また、本発明の血管内診断または治療用装置は、カテーテル1先端部をワイヤーやトルクチューブにより動かせる、即ち照射野操作性を有する装置であってもよい。本発明の診断または治療用装置が血管内視鏡である場合は、視野操作性を有する内視鏡といい、また視野調整可能な内視鏡ともいう。
血管用カテーテル1は本発明の診断または治療用装置の一部を血管内に挿入するための筒であり、診断または治療用装置の一部を目的の部位に移動させるときのガイドとして用いられる。カテーテル1は、通常用いられているものを使用することができ、その径等は限定されず、観察しようとする血管の太さに応じて適宜設計することができる。カテーテル1は、前記の高強度パルス光伝送用ファイバー2、診断または治療用の光伝送用ファイバー3、ライトガイド10、本発明の装置が血管内視鏡である場合はさらにイメージガイド13で構成され、カテーテル1の中にこれらのファイバーやガイドが組み込まれる。それぞれのガイドは伝送用の光ファイバー等で構成される。ファイバーやガイドの組み込み方は限定されず、例えば、カテーテル1内にこれらのファイバーやガイドをランダムに組込んでもよいし、カテーテル1内に複数のルーメンを存在させその中にそれぞれのガイドを組込んでもよい。また、診断または治療用の光伝送用ファイバー3もしくはライトガイド10、高強度パルス光伝送用ファイバー2およびイメージガイド13の数は複数でもよく、特に診断または治療用の光伝送用ファイバー3またはライトガイド10は上述のように異なる波長の光を照射するために複数本存在していることが望ましい。また、本発明の装置が、血管内視鏡の場合は、複数のライトガイドが存在すると血管内を広くパルス照明することができる。これらの複数のライトガイド10がカテーテル1内に分散しているのが望ましい。また、高強度パルス光伝送用ファイバー2も複数存在していてもよく、この場合血管壁等に悪影響を及ぼさない程度の弱い強度の高強度パルス光を同時に照射することで、血管壁を傷つけずなおかつ血管内腔を観察するのに十分な大きさの水蒸気泡を発生させることができる。高強度パルス光伝送用ファイバー2を複数存在させる場合も、ファイバーを分散させて存在させればよい。図3に本発明の血管内診断または治療用装置の断面図を例示する。また、図4に本発明の診断または治療用装置の一例である、血管内視鏡の断面図を示す。図4にはイメージガイド13、送液用のルーメン17内に配設されたレーザ伝送用ファイバー2および複数のライトガイド10を含む内視鏡を示しているが、これは一例であり、各ファイバーおよびガイドの配置は図3および4に示すものには限定されない。
高強度パルス光には、レーザおよびオプティカルパラメトリックオッシレーター(OPO;Optical Parametric Oscillator)により発生するパルス光が含まれる。
レーザ発生手段は、通常のレーザ発生装置を用いることができ、レーザ種は水の吸収係数が10〜1000cm−1、好ましくは10〜100cm−1である波長帯のレーザならば限定されず、希土類イオンを用いた固体レーザまたはXeClエキシマーレーザ等を用いることができる。また、レーザの発振波長は、0.3〜3μm、好ましくは1.5〜3μm、さらに好ましくは1.5〜2.5μm、さらに好ましくは水の吸収波長(1.9μm)近傍の波長である。レーザは、レーザを発生させる元素のイオンと該イオンを保持する母材の種類で表されるが、元素として希土類に属するHo(ホロニウム)、Tm(ツリウム)、Er(エルビウム)、Nd(ネオジム)等が挙げられ、このうちHoおよびTmが好ましい。母材としてはYAG、YLF、YSGG、YVO等が挙げられる。例えば、Ho:YAGレーザ、Tm:YAGレーザ、Ho:YLFレーザ、Tm:YLFレーザ、Ho:YSGGレーザ、Tm:YSGGレーザ、Ho:YVOレーザ、Tm:YVOレーザおよびXeClエキシマーレーザ(発振波長308nm)等を用いることができる。この中でもレーザの発振波長が水の吸収波長(1.9μm)近傍に存在するHo:YAGレーザ(発振波長2.1μm)、Tm:YAGレーザ(発振波長2.01μm)等が好ましい。さらに、生体組織に対して比較的吸収係数が小さく、光侵達長が長く発生する水蒸気気泡が大きいHo:YAGレーザが好ましい。
レーザ発生装置として、例えば、LASER1−2−3 SCHWARTZ(ELECTRO−OPTICS社製)等が挙げられる。
オプティカルパラメトリックオッシレーター(OPO;Optical Parametric Oscillator)は、連続的にパルス光の波長を変化させることができ、水の吸収係数が10〜1000cm−1である波長帯のパルス光を選択すればよい。例えば0.3〜3μm、好ましくは1.5〜3μm、さらに好ましくは1.5〜2.5μm、さらに好ましくは水の吸収波長(1.9μm)近傍の波長を選択すればよい。
高強度パルス光が照射される高強度パルス光伝送用ファイバー2遠位端(高強度パルス光照射部4)のカテーテル1遠位端に対する相対的位置も限定されず、カテーテル1遠位端から高強度パルス光伝送用ファイバー2遠位端(高強度パルス光照射部4)が飛び出していてもよいし、高強度パルス光伝送用ファイバー2遠位端(高強度パルス光照射部4)がカテーテル1内に引っ込んでいてもよいし、また高強度パルス光伝送用ファイバー2遠位端(高強度パルス光照射部4)がカテーテル1の水平方向に対して遠位端と同じ位置にあってもよい。例えば、高強度パルス光伝送用ファイバー2遠位端(高強度パルス光照射部4)をカテーテル1内に引っ込ませ、外に出ないようにすると水蒸気泡の発生がカテーテル1内で始まるため水蒸気泡が側方まで広がらず、血管内腔に強い物理的圧力を加えないという利点がある。このように、高強度パルス光伝送用ファイバー2遠位端(高強度パルス光照射部4)のカテーテル1遠位端に対する相対的位置を調整することにより、水蒸気泡の側方への広がり方をコントロールすることが可能である。
なお、血液は高強度パルス光の吸収が大きく、水に比べ発生する水蒸気泡の大きさが小さくなる。従って、高強度パルス光を照射して水蒸気泡を発生させる局所の血液を高強度パルス光照射時に生理食塩水等の浸透圧が体液に近く、高強度パルス光の吸収が小さい液体に置換しておくのが望ましい。このような液体として、生理食塩水の他、透析液などの輸液等が用いられる。このような液に置換することにより、高強度パルス光のエネルギーが十分に該液に吸収され、血管内腔を観察するのに十分な大きさの水蒸気泡が容易に発生する。この場合、本発明の血管内視鏡装置のカテーテル内に送液手段を組込み、該送液手段を用いて生理食塩水等を血管内の高強度パルス光が照射される部分、すなわち高強度パルス光照射部分の照射部近傍に注入すればよい。送液手段は、カテーテル内に設けられた送液流路、送液流路の遠位端に設けられた注入口、流路とつながった液リザーバー、送液用ポンプ等から構成される。送液流路は、例えばカテーテル内にルーメン17を設け該ルーメン17を送液流路としてもよいし、またカテーテル1内に別途流路用チューブを設けてもよい。この場合、血管内に高強度パルス光が照射され水蒸気泡が発生し始める局所的な血液部分を生理食塩水等で置換するため、高強度パルス光照射手段の高強度パルス光を血管内に照射する部分と送液手段の注入口は互いに近接した位置に存在する必要がある。例えば、カテーテル1内にルーメン17を設けその中に高強度パルス光伝送用ファイバー2を通すと共に、ルーメン17内を通って生理食塩水等が送液されるようにすればよい。送液する生理食塩水等の量は限定されないが、従来のフラッシュ液を注入して観察する内視鏡での送液量の1/10〜1/1000程度の量で足りる。例えば、従来のフラッシュ液を注入する方法では、1〜2mL/秒のフラッシュ液を注入する必要があるが、本発明で注入する量は1mL/分程度で足りる。この程度の送液ならば、血液の流れを阻害することもなく末梢への酸素供給は確保できる。
高強度パルス光を血管内へ伝送する手段には、カテーテル1の遠位端部付近に位置する、高強度パルス光を照射する手段(高強度パルス光照射部4)および高強度パルス光を高強度パルス光発生装置から該高強度パルス光照射手段に伝送する石英ファイバー(光ファイバー)(高強度パルス光伝送用ファイバー2)が含まれる。本明細書において「遠位端部付近」とは、高強度パルス光発生装置と連結された端部(近位端部)の反対側の端部に近い部分を意味し、遠位端部および遠位端部から数十cm程度の部分を指す。
石英ファイバーはカテーテル1の中に含まれ、その一端で高強度パルス光発生装置と連結し、もう一端で高強度パルス光照射手段(高強度パルス光照射部4)と連結している。本発明で用いられる石英ファイバーは、直径0.05〜0.3mm程度のきわめて細いものから、可視的な太さのものまで、カテーテル1の中に収まり高強度パルス光エネルギーを伝送できる限り、広く種々の径のものを用いることができる。
高強度パルス光照射手段は、血管内に高強度パルス光を照射するための手段であり、体外の高強度パルス光発生装置(高強度パルス光源6)で発生し、石英ファイバー(高強度パルス光伝送用ファイバー2)内を血管に沿って伝送されてきた高強度パルス光が血管内に照射され血液中に水蒸気泡が形成されるように照射する。この際、高強度パルス光照射の方向は限定されない。また、上述のように高強度パルス光伝送用ファイバー2は複数本分散して存在してもよい。
高強度パルス光照射により発生する水蒸気泡の最大寸法は横方向の直径が約4mm、縦方向の長さが約5mmであり、存在時間は100μs〜300μs程度である。発生する水蒸気泡の大きさは、高強度パルス光の強度、高強度パルス光を照射するファイバーの直径を変えることによりコントロールでき、さらに高強度パルス光伝送用ファイバーを複数存在させる場合はその配置を調整することによっても、コントロール可能である。高強度パルス光強度、ファイバーの直径および複数のファイバーの配置は、観察しようとする血管の太さに応じて適宜設定することができる。ファイバーの直径は、好ましくは100μm〜1000μmの間である。
高強度パルス光の強度(パルスエネルギー)は、限定されず適宜設定することが可能である。
高強度パルス光のパルス幅も限定されないが、10ns〜10ms、好ましくは100μs〜1ms、さらに好ましくは150μs〜250μsである。なお、パルス幅は半値全幅で示される。
なお、高強度パルス光照射は、血流の拍動、すなわち拍動血流に遅延同期するのが望ましい。血流は拍動流であり、血流が流れている、すなわち血流の運動エネルギー(動圧)が大きいときは、気泡による血液排除は血圧(静圧)に加えて動圧にも影響を受け、大きい体積の血液排除は難しい。逆に、血流が完全に止まってしまうと、血液は非ニュートン性流体であるので、粘性が大きくなりやはり気泡により血液を排除しにくくなる。従って、拍動血流速が低下してきた時点で(血流が止まる前に)、最適な血液排除のタイミングがある。これは、心電図からの心拍情報に観察血管に固有の遅延時間を設定することでタイミングを検出できる。この場合、心電図計とレーザ発生装置を電子的に接続し、拍動血流が低下した時点に高強度パルス光が照射されるように、心電図信号を遅延ジェネレータを通して、高強度パルス光発生装置に伝達すればよい。どれくらいの時間遅延をかけるかは、心電図計、遅延ジェネレータおよび高強度パルス光発生装置の組合わせにより適宜決定できる。心電図計から拍動血流が低下した時点に高強度パルス光が照射されるような信号を伝達するタイミングも当業者ならば公知の心周期、大動脈血流速および心電図の関係から容易に決定できる。例えば、冠状動脈の場合大動脈血流速が大きい収縮期には血液はほとんど流れず、大動脈血流速が小さい拡張期に血液が流れる。従って、冠状動脈の血流速が最大になるのは、心電図におけるT波出現後P波出現の間にあり、高強度パルス光の照射タイミングはP波出現からQRS波消失までの間が望ましい。さらに、本発明の内視鏡装置のカテーテルに圧覚センサ等を配設し、該センサにより血流の拍動をモニタし、拍動血流が低下した時点に高強度パルス光が照射されるようにしてもよい。この場合も、圧覚センサと高強度パルス光発生装置が電子的に接続され圧覚センサからの信号が遅延を設けて高強度パルス光発生装置に伝えられる。パルス照明光等の診断または治療用の光は、高強度パルス光発生装置からの信号を伝達し、遅延して照射されるようにしてもよいし、心電図計または圧覚センサからの信号を伝達し、高強度パルス光発生装置よりさらに遅延して照射されるようにしてもよい。この場合の遅延時間も適宜設定することができる。好ましい遅延時間はレーザ照射条件等により異なるが、例えば数十μsから数百μsであり、実際に本発明の装置を用いて観察しようとする血管中で遅延時間を変えてレーザ照射と照明光照射を行い、最も適切な像が得られる時間を選択すればよい。
図6に本発明の内視鏡装置で発生する水蒸気泡の模式図を示す。図に示すように、カテーテル1中のレーザ伝送用ファイバー2からレーザが照射され、カテーテル1前方部分に水蒸気泡が発生する。
前述のように水蒸気泡の発生時間は200μs〜300μs程度と短く、肉眼で観察不可能である。従って、気泡を発生させ血液が排除される極めて短い時間内に血管内腔に診断または治療用光を照射し効果を発揮させるためには、例えば可視光を照射して血管内腔を観察するためには、水蒸気泡の発生に合わせて、照射用フラッシュランプで、血管内をパルス照射する。例えば、可視光を照射する内視鏡の場合、血管内をパルス照明し時間分解撮像を行う。このためには、高強度パルス光の照射と診断または治療用パルス照射光の照射の間に遅延を設ければよい。遅延を設けるには、例えば遅延パルスジェネレータ8を用いればよい。遅延の時間は、用いる高強度パルス光発生装置および診断または治療用光照射装置の組み合わせに応じて、また高強度パルス光のパルス幅等に応じて、水蒸気泡の大きさが最大付近のときにパルス照射するように適宜設定すればよい。
本発明の血管内診断または治療用装置において診断または治療用光として用いられる光は限られず、その目的に応じて種々のものを用いることが可能である。光の波長および光源の種類により種々の診断および治療が可能になる。従来より光照射手段を有するバルーンカテーテルを用いてバルーン拡張により血流を閉止した上で光を照射し、種々の治療が行われており、また光照射手段の光照射部を血管内腔壁に接触させて光を照射し、種々の治療が行われていた。本発明の装置を用いれば、血流を閉止することなく、また光照射部を血管内腔壁に接触させることなく、光を照射し、種々の治療を行うことが可能である。従って、光を照射して行う公知の血管内腔の診断または治療のすべては本発明の装置を用いて行うことが可能である。
診断または治療用光として、紫外光、可視光、近赤外光、赤外光のいずれも用いることができる。また、固体レーザ、半導体レーザ、色素レーザ、可変波長近赤外レーザ、オプティカルパラメトリックオシレーター(OPO)、ラマンレーザにより発生する光およびこれらに非線型光学変換装置を結合して発生し得る光、ならびにフラッシュランプをも用いることができる。ここで、非線型光学変換装置を結合して発生し得る光とは、光源から発生した光を非線型光学変換装置を通すことにより得られる光をいう。また、本発明の診断または治療用光は高強度光であってもよい。
本発明の装置を用いて行うことができる血管内腔の診断および治療は限定されないが、例えば以下の診断、治療が挙げられる。
可視光を照射することにより、血管内腔の像を得、種々の診断を行うことができる。この場合、本発明の装置を血管内視鏡装置として用いることができる。この場合の可視光としては、フラッシュランプを用いればよい。該血管内視鏡装置については後述する。
波長400nm以下の紫外光は、血管弛緩のために用いることができる。くも膜下出血等により組織内で出血したとき、血液が組織の血管周囲を覆い、それが原因で血管が収縮し、血管攣縮が生じる。この際、弱い紫外光を照射することにより、血管が弛緩し、攣縮を抑制することが可能である。血管弛緩のためには、例えば連続紫外He−Cdレーザを用いて、325nmの紫外光を照射する。この際の血管壁に照射する平均光エネルギーは、10mJ/mm程度が望ましい(中井完治 他、脳血管攣縮、VOL.14、46低出力紫外線予防的照射による血管攣縮抑制効果、中外医学社、1999年6月10日発行)。また、KrF(krypton−fluoride)エキシマレーザ(波長248nm)を照射してもよい。照射は例えば、1〜数百Hzの繰り返し数で、0.1〜10mJ/pulse/mmで行えばよい(Yuji Morimoto et al.,Photochemistry and photobiology,1998,68(3):388−393)。さらに、アルゴンイオンレーザを用いて、351nmの紫外光を照射することもできる(H.Matsuo et al.,Lasers Med Sci 2000,15:181−187)。血管を弛緩させる光の照射条件等は他に、Yuji Morimoto et al.,Proceedings of Laser−Tissue Interaction VII,126/SPIE,Vol.2681;Yuji Morimoto et al.,Proceedings of Laser−Tissue Interaction VIII,SPIE Vol.2975;Kanji Nakai et al.,Proceedings of Laser−Tissue Interaction IX,SPIE,Vol.3254;Yuji Morimoto et al.,Proceedings of Laser−Tissue Interaction X:Photochemical,Photothermal,and Photomechanical,SPIE Vol.3601等を参照に決定することができる。
一方、紫外光とは反対に波長800nm以上の近赤外から赤外光を照射すると照射部分で熱が発生し、血管を収縮させることができる。例えば、癌に罹患している組織中の血管内で近赤外から赤外光を照射することにより血管収縮により血液流を止めることができ、癌細胞への養分補給を断ち、癌細胞を死滅させることが可能である。例えば、チタンサファイアレーザにより800nmの光を照射すればよい。
また、可視光の照射により、血管を弛緩または収縮させることができる。例えば、アルゴンイオンレーザにより波長458nmまたは514.5nmのレーザ光を照射すればよい(H.Matsuo et al.,Lasers Med Sci 2000,15:181−187)。さらに、弱い紫外光の照射によっても血管を収縮させることができる。
このように紫外光、可視光、近赤外光または赤外光を適宜強さを変えて照射することにより血管の弛緩および収縮を制御することができる。
また、本発明の血管内診断または治療用光照射手段によりレーザ光を照射して動脈硬化の粥腫または血管内の血栓を破壊し、血管形成術を行うことができる。血管形成術とは、動脈硬化で血管の内腔が狭くなり(狭窄)、細くなった血管に対して、粥腫を破壊したり、あるいは血管内に形成された血栓を破壊したりする血管の中からの治療をいう。レーザを用いての血管形成術は、狭窄(狭くなる)あるいは閉塞(詰まる)している動脈にレーザのカテーテルを挿入し、レーザ光のエネルギーを使用して病変部位を蒸散あるいは焼灼することにより狭窄や閉塞を治療する方法である。本発明の装置を用いて血管形成術を行う場合は、診断または治療用光としてHo:YAGレーザ(波長2.08μm)、キセノン・クロライド・エキシマレーザ(波長0.308μm)、COレーザ(波長10.6μm)、Nd:YAGレーザ(波長1.06μm)等を病変部に照射すればよい(G.J.Gillen et al.,Journal of Medical Engineering & Technology,Volume 8,Number 5(September/October 1984),pages 215−217;MICHAEL ELDAR et al.,JACC Vol.3,No.1 January 1984:135−7;Karl K.Haase et al.,Lasers in Surgery and Medicine 11:232−237(1991))。
さらに、動脈硬化の粥腫部分に蓄積したコレステロールのエステル結合を切断することにより粥腫を緩和し動脈硬化を治療することも可能である。この場合には、フリー・エレクトロンレーザ(波長5.75μm)を照射すればよい。
照射する特定の波長の光は、フラッシュランプを特定波長のフィルターを通して、所望の波長の光のみを光ファイバーで伝送すればよい。また、水蒸気泡を発生させるためにも用いられる高強度パルス光であるオプティカルパラメトリックオッシレーター(OPO;Optical Parametric Oscillator)により発生するパルス光を用いて特定の波長の光を照射してもよい。
さらに、本発明の装置を光化学治療(Photodynamic Therapy:PDT、光力学的治療ともいう)に利用することができる。ここで、PDT(光化学治療)とは、特定の病変部に親和性を有する光増感剤(PDT薬剤)を病変部に特異的に集積させ、特定波長を有する光を照射することにより、選択的に病変部組織を傷害壊滅させる治療法をいう。光照射により病変部に取り込まれた光増感剤が励起され、増感剤のエネルギーが病変部内に存在する酸素に移乗して活性な一重項酸素を生成し、該活性酸素が病変部の細胞を壊死させるというメカニズムが提唱されている。PDTにより動脈硬化における粥腫を傷害壊滅させ動脈硬化を治療することが可能である。
PDTにおいては、病変部に集積され得る増感剤(PDT薬剤)を投与する必要があるが、本発明の装置と組合わせるPDT薬剤は限定されず公知のPDT薬剤をその吸収波長の光と組合わせて用いることができる。このようなPDT薬剤として、種々のポルフィリン誘導体が報告されている(特開平9−124652号公報、WO98/14453号公報、特開平4−330013号公報、特許第2961074号公報)。また、クロリン系薬剤であるATX−S10(670nm)(Iminochlorin aspartic acid誘導体、(東洋薄荷工業株式会社、平成12年株式会社光ケミカル研究所に権利譲渡、特開平6−80671号公報)、NPe6(664nm)(mono−L−aspartyl chlorin e6、特許第2961074号公報)、mTHPC(652nm)、SnET2(660nm)(tin etiopurpurin、ミラバント・メディカル・テクノロジーズ)、AIPcS(675nm)(chloro aluminium sulphonated phthalocyanine)、BPD−MA(690nm)(benzoporphyrin derivative monoacid ring A、QLT社)、Lu−tex(732nm)(Lutetium Texaphyrin)等も好適に用いることができる(慣用名、吸収波長を示し、さらに一般名、入手先、文献を示してある)。
これらの薬剤の投与は、薬剤をリン酸緩衝塩溶液等の適当な緩衝液に溶解させ、必要に応じて医薬的に許容できる添加物を添加する。添加物としては、有機溶媒等の溶解補助剤、酸、塩基等のpH調整剤、アスコルビン酸等の安定剤、グルコース等の賦形剤、塩化ナトリウム等の等張化剤などが挙げられる。投与方法は、限定されず、静脈注射、筋肉注射、皮下注射、経口投与等により投与すればよい。また、投与後の日焼け症を低減するために病変部に直接投与してもよい。例えば、治療しようとする疾患が動脈硬化や前立腺肥大症の場合、血管カテーテルや尿道カテーテルにニードル、薬剤注入部等の薬剤投与手段を配設しドラッグデリバリーカテーテルとして、薬剤を局所的に投与してもよい。PDT薬剤の投与量は限定されず、静脈注射等により全身投与する場合は、0.01〜100mg/kg体重、好ましくは1〜5mg/kg体重である。局所投与の場合は、例えば数μg/ml〜数mg/mlに調製した薬剤を数μl〜数ml直接病変部に注入等により投与すればよい。
本発明の装置を用いてPDTを実施する際は、上述のようにあらかじめ血管壁の動脈硬化部の粥腫部分等の病変部にPDT薬剤を集積させておき、その後本発明の装置を用いて高強度パルス光を照射して、血管内に水蒸気泡を発生させ、血液を一時的に排除し、PDT薬剤に吸収され得る光を診断または治療用光として照射すればよい。本発明の装置において治療のために照射する光の種類は限定されないが、連続もしくはパルスレーザ光または波長可変のオプティカルパラメトリックオッシレーター(OPO;Optical Parametric Oscillator)により発生する光が望ましい。照射する波長は600nmから800nmであり、用いるPDT薬剤の吸収波長に近い波長の光を用いればよい。特にOPOにより発生する光は波長を変えることができ、種々のPDT薬剤に対応することができる。レーザとしては、半導体レーザ、色素レーザ、可変波長近赤外レーザの二逓倍波等を好適に用いることができる。本発明の装置においては、水蒸気泡が発生したときに、診断または治療用光を照射するので、照射光も水蒸気泡の発生に適合させて、パルス光とする。ここで、パルス光とは、パルス幅が1ms以下のものをいう。また、連続光は、ライトチョッパーを用いて断続させ、パルス光として照射することもできる。
以下、本発明の血管内診断または治療用装置の一例である可視光を用いた血管内視鏡装置について図2に基づいて詳述する。本発明の他の血管診断用または治療用装置も診断または治療のために照射する光の種類が違う点、撮像手段を必要としない点で異なるが、血管内視鏡装置と同様に設計、組立てをすることが可能であり、また同様の方法で用いることができる。
パルス照明手段は、パルス照明光源11としてフラッシュキセノンランプ、フラッシュハロゲンランプ等を有する照明光発生装置、赤外カットフィルタ、光量制御用シャッタ、集光レンズ、照明光を光源から照明光を血管内に照射する部分に伝送する光ファイバー等を含む。照明光発生装置、光ファイバーが連結され、照明光発生装置で発生し集光レンズで集光された照明光が光ファイバーに導入されライトガイド10中を通って、観察しようとする血管内部まで伝送され、光ファイバー遠位端より血管内が照明される。光ファイバーは高強度パルス光照射手段と同様に石英ガラス製のものを用いればよい。また前記照明光発生装置の代わりに、カテーテル遠位端部にLED(Light Emitting Diode)を有していてもよく、この場合もLEDの発光と高強度パルス光照射の間に遅延を設けて制御すればよい。
パルス照明光のパルス幅は、高強度パルス光のパルス幅より小さく設定する。このような設定により水蒸気泡が存在している間に、パルス照明を行うことができ確実に撮像することが可能である。
ライトガイド10遠位端(照明部9)のカテーテル1遠位端に対する位置は限定されず、カテーテル1遠位端からライトガイド10遠位端(照明部9)が飛び出していてもよいし、ライトガイド10遠位端(照明部9)がカテーテル1内に引っ込んでいてもよいし、またライトガイド10遠位端(照明部9)がカテーテル1の水平方向に対して遠位端と同じ位置にあってもよい。例えば、カテーテル1遠位端からライトガイド10遠位端(照明部9)が飛び出しているとカテーテル1で影ができることなく血管内を照明できるので有利である。
高強度パルス光を照射し、水蒸気泡ができ水蒸気泡が消失するまでに、好ましくは水蒸気泡の大きさが最大付近の時に、パルス照明を行うことにより血管内腔の像を静止画像として得ることができる。また、高強度パルス光を一定の繰り返し周波数でパルス照射し、連続的に水蒸気泡を発生させ、水蒸気泡の発生に合せてパルス照明することにより、血管内腔像を動画として得ることができる。この際の繰り返し周波数は例えば、20Hz程度である。
血管内腔の像は撮像手段により得ることができる。撮像手段において、光ファイバー、撮像素子14、像処理部15、モニター16等が連結されており、光ファイバーの遠位端にはセルホックレンズ等の対物レンズが配設され、観察部12を構成する。血管内腔像は反射光として、カテーテル1のイメージガイド13の遠位端に設置されたレンズに入り光ファイバー中を伝送し、血管内腔像として可視化される。
この際、イメージガイド13の遠位端の観察部12に存在する対物レンズで集光され、光ファイバーを通りテレビカメラの撮像素子14上に像が結像される。この際、レンズとテレビカメラとの間にアイピースを備えていてもよい。アイピースは、イメージガイド13を通ってきた像をテレビカメラの撮像素子14上に結像させる装置であり、拡大レンズ、焦点調節機能、倍率調整機能、像回転機能、光軸調整機能当を必要に応じて備える。テレビカメラはCCD等の撮像素子14を有しているものを用いればよい。この際、パルスジェネレータにより、CCDのゲートを水蒸気泡の発生に合わせることにより血管内腔像を得ることができる。撮像の際、発生した水蒸気泡により血液が排除された部分の血管内腔壁を観察することができる。
この際、撮像する血管内腔の位置は、通常の血管では直視方向でよいが、血管内視鏡が心臓を対象とする心臓鏡である場合や、太い血管を対象とする場合は、レンズの向き等を変化させることにより自由に設定できる。レンズの向きの変更やレンズの焦点合わせは、モータ等により行うことができる。また、プリズム等を用いても血管内腔の観察方向を変更することができる。撮像素子14に結像した像は、モニター16に写し出され、必要に応じてビデオに像が記録保存される。
図7に高強度パルス光照射、水蒸気泡発生および診断または治療のためのパルス光照射(血管内視鏡の場合は照明のためのパルス照明)の時間的関係の一例を示す。図に示すように、高強度パルス光が200μsのパルス幅で照射され、パルス光照射と同時に水蒸気泡が発生し、体積が増加し極大となった後に体積が減少し、発生から100〜300μsで消失する。診断または治療のためのパルス照射光は水蒸気泡の体積が最大付近のときに照射するように、高強度パルス光の照射に対して若干遅延させて発光させる。パルス照射光のパルス幅は、水蒸気泡が最大付近にあるときに作用(血管内視鏡の場合は撮像)ができるように、高強度パルス光のパルス幅に比べ小さい。高強度パルス光の照射、水蒸気泡の発生、診断または治療のためのパルス照射を短い間隔で繰り返すことにより、血管内腔の診断または治療を効果的に行うことができ、特に血管内視鏡においては像を動画として得ることができる。
イメージガイド13遠位端(観察部12)のカテーテル1遠位端に対する位置は限定されず、カテーテル1遠位端からイメージガイド13遠位端(観察部12)が飛び出していてもよいし、イメージガイド13遠位端(観察部12)がカテーテル1内に引っ込んでいてもよいし、またイメージガイド13遠位端(観察部12)がカテーテル1の水平方向に対して遠位端と同じ位置にあってもよい。例えば、カテーテル1遠位端からイメージガイド13遠位端(観察部12)が飛び出しているとカテーテル1で視野が遮られることなく前方を撮像できるので有利である。
本発明の血管内視鏡装置は、さらに診断または治療用手段を有していてもよい。診断または治療用手段とは、血管内を機械的に処理する手段をいい、例えばディレクショナル・アテレクトミー(方向性冠動脈切除術:DCA)装置、血栓吸引装置、ロータブレーター等が挙げられる。ディレクショナル・アテレクトミーとは血管内に特殊な超小型カンナやヤスリを入れて、血流を回復させる治療であり、血管にたまったアテロームなど粥状物質をカンナで削り、体外に出す。血栓吸引は血管内にできた血栓を吸引し除去する治療である。ロータブレーター装置は先端部分が高速度で回転し、動脈硬化組織をやすりのように削り取っていく。この先端部は正常血管壁には損傷を与えず硬い病変部のみを削るようにできている。バルーン拡張を含めた多くの方法が石灰化を伴う硬い病変に対しては効果がないのに対して、ロータブレーター装置は高度に石灰化した病変に対しても有効であることを特徴とする。
上述のように本発明の装置により血管内への高強度パルス光の照射、水蒸気泡の発生、パルス照明を短い間隔で繰り返すことにより、血管内の像を動画として得ることができる。この時に、像を観察しながら血管内の病変部を発見し前記診断または治療用手段装置で血管内の診断または治療を行うことができる。
ディレクショナル・アテレクトミーは、小型カンナまたはヤスリ、それらを操作部と連絡するガイドワイヤーおよび操作部を含むが、本発明のカテーテル状の内視鏡装置の遠位端部に小型カンナまたはヤスリを配設し、カテーテル内にガイドワイヤーを通し、該ガイドワイヤーにより小型カンナまたはヤスリと外部の操作部を連絡し、操作部で操作して小型カンナまたはヤスリで動脈硬化粥腫部や血栓を削り取る。小型カンナまたはヤスリは遠位端部にあるハウジング中に収納され、ハウジングにはウィンドーが開いており、ウィンドーを動脈硬化組織等に押しつけ、小型カンナまたはヤスリを前進させることにより動脈硬化組織の切除を行う。上記のように本発明の内視鏡装置を用いて血管内腔の像を得て動脈硬化部位を発見し、その部位をディレクショナル・アテレクトミー装置を用いて切除すればよい。
血栓吸引装置は、吸引器と吸引ポンプからなり、本発明のカテーテル状の内視鏡のカテーテル内に吸引器が配設され、一端はポンプと連絡している。上記のように本発明の内視鏡装置を用いて血管内腔の像を得て血栓が生じている部位を発見し、その血栓を血栓吸引装置で吸引除去すればよい。
さらに、ロータブレーター装置は、ロータブレーター部位、それを操作部と連絡するガイドワイヤーおよび操作部を含むが、本発明のカテーテル状の内視鏡装置の遠位端部にロータブレーターを配設し、カテーテル内にガイドワイヤーを通し、該ガイドワイヤーによりロータブレーターと外部の操作部を連絡し、操作部で操作してロータブレーターで動脈硬化粥腫部や血栓を削り取る。ロータブレーターは特に人工ダイヤモンドのついたヤスリを毎分十数万回転させるので、硬くなった基質化血栓の治療にも用いることもできる。上記のように本発明の内視鏡装置を用いて血管内腔の像を得て動脈硬化部位や血栓を発見し、その部位をロータブレーター装置で削除を行えばよい。
また診断のための手段には、生検のための装置等が挙げられる。生検のための装置は、針部、カイドワイヤーおよび操作部からなり、針部と操作部はガイドワイヤーを介して連絡しており、操作部で操作し針部で血管内腔の組織を採取する。針部は、本発明の装置の遠位端に配設され、上記のようにそれをガイドワイヤーを通して操作部で操作する。生検のために組織の一部を採取するという点で診断用装置であるが、針部で病変部を除去することもできるので、治療用装置でもある。上記のように本発明の内視鏡装置を用いて血管内腔の像を得て病変部を発見し、その部位を生検のための装置で切除を行えばよい。
本発明は高強度パルス光発生手段および高強度パルス光を伝送する高強度パルス光伝送手段を有し、高強度パルス光を血管内に照射し水蒸気泡を発生させ、血管内の血液を一時的に排除しうる、血管内診断または治療用装置を用いて、血管内に高強度パルス光を照射し血液中に水蒸気泡を発生させ血液を一時的に排除した上で、血管内診断または治療用光を照射して、血管内腔を診断または治療する方法をも包含する。一例として、高強度パルス光発生手段および高強度パルス光を伝送する高強度パルス光伝送手段を有し、高強度パルス光を血管内に照射し水蒸気泡を発生させ、血管内の血液を一時的に排除しうる、血管内視鏡装置を用いて、血管内に高強度パルス光を照射し血液中に水蒸気泡を発生させ血液を一時的に排除した上で、可視光を照射して血管内腔を内視する方法が挙げられる。
さらに、本発明は高強度パルス光発生手段および高強度パルス光を伝送する高強度パルス光伝送手段を有し、高強度パルス光を流体が入った管内に照射し水蒸気泡を発生させ、管内の流体を一時的に排除しうる、管内の観察または修理用装置をも包含する。該管内の観察または修理用装置は、観察または修理用光を照射し管内壁または管内接続部等における観察または修理を可能にするパルス光照射手段を有する。例えば該管内の観察または修理用装置は、管内をパルス照明させ光学的観察を可能にする照明光照射手段、照明光により照明された管内壁を撮像する撮像手段を有する。該装置の利用に適した流体の含まれる管は、観察または修理を行おうとする管内を該観察または修理のために用いる光が透過しない流体または液体が含まれる管である。このような流体または液体として、光の吸収・散乱体が含まれ光の透過が困難な流体または液体が挙げられ、具体的にはトルエン等の溶剤、石油等の鉱物油、牛乳や清涼飲料水等の飲料水、不透明汚水等が挙げられる。該装置による観察または修理に適した管の管内径は数mmから十数mmである。この程度の径ならば大きな音圧波を発生させずに水蒸気泡を発生させることができる。
本装置が利用できる管としては、上記溶剤、鉱物油、牛乳、清涼飲料水、不透明汚水等が含まれた、化学工業、食品工業の製造プラントや汚水処理プラントにおいて用いられる管等が挙げられる。この際の管の材料も限定されず、金属、ゴム、シリコーン樹脂等の合成樹脂など、上記工業分野において管の材料として用いられるものならば、いずれも本発明の装置を用いた観察・修理の対象となる。
高強度パルス光の照射の方法は、高強度パルス光発生手段および高強度パルス光を伝送する高強度パルス光伝送手段を有し、高強度パルス光を血管内に照射し水蒸気泡を発生させ、血管内の血液を一時的に排除しうる、血管内診断または治療用装置と同様であり、観察または修理用光の照射方法、照射タイミングも高強度パルス光発生手段および高強度パルス光を伝送する高強度パルス光伝送手段を有し、高強度パルス光を血管内に照射し水蒸気泡を発生させ、血管内の血液を一時的に排除しうる、血管内診断または治療用装置と同様である。観察用光としては可視光が用いられ、修理用光としては例えばレーザ光、紫外光、可視光、赤外光、近赤外光が用いられる。
具体的な用途としては、管内の破損の発見または修理、管内の異物の発見、除去等が挙げられる。該装置における修理とは、管内を正常な状態にすることをいい、異物の除去等も含む。例えば、上記の食品工業の製造プラントにおいて、飲料用流体の送液管内の微生物汚染が問題になることがある。この場合、本発明の装置を用いることにより、管内に形成された微生物のコロニーを発見することができ、さらに修理用の光を用いて該微生物を死滅させることができる。例えば、紫外光の照射により微生物を死滅させることができ、また赤外光の照射により熱的に微生物を死滅させることもできる。
以下、本発明の実施例に基づき具体的に説明する。もっとも本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
本実施例で用いた内視鏡装置を図5に示す。図5に示すように、ステンレススチール製の長さ約3cm、内径0.8cmのシース23内に、細径内視鏡22を設置した。
細径内視鏡22の中にはイメージガイド20およびライトガイド21を配設した。レーザ伝送用ファイバー19をそれに沿わせて設置し、これらをカテーテルシース18の中に入れた。この際、細径内視鏡22、すなわちイメージガイド20およびライトガイド21の遠位端をレーザ伝送用ファイバー19より若干飛び出させた。レーザ伝送用光ファイバー19、イメージガイド20中の撮像用の光ファイバーは同一の石英製のものを用いた。ライトガイド21はプラスチック製のものを用いた。レーザ伝送用ファイバー19の径は、約0.6mm、ライトガイド21とイメージガイド20を一体化させた細径内視鏡22の径は約0.7mmであった。レーザ伝送用光ファイバー19はHo:YAGレーザ発生装置24(LASER1−2−3SCHWARTZ(ELECTRO−OPTICS社(米国)))と接続した。パルス光照明用のライトガイド21のパルス照明光伝送用の光ファイバーとしては数本のファイバーを用いた。パルス照明光伝送用の光ファイバーは集光用レンズ26を介してフラッシュランプ25(ファイバービデオフラッシュMODEL FA−1J10TS(日進電子工業株式会社))と接続した。図5中、集光レンズ26の両側の太い白線は光を示す。上記Ho:YAGレーザ発生装置24とフラッシュランプ25は、遅延ジェネレータ27(デジタルディレイジェネレータBNC555Series(セキテクノトロン株式会社))を介して連結させた。イメージガイド20の光ファイバーの遠位端にセルホックレンズを配設し、反対側をCCDカメラ28(内視鏡3CCDビデオカメラシステムMV−5010A(株式会社町田製作所製))と接続した。さらに、CCDカメラ28をRGBケーブルでモニター29(PVM−9040(SONY製))と接続し、血管内腔像をモニター29で観察できるようにした。
本実施例で用いた摘出ブタ冠状動脈およびブタ血液は、東京都中央卸売市場食肉市場より入手した。ブタ冠状動脈30は長さ約5cmに切断して使用した。ブタ冠状動脈30の一端を結紮し、内部に生理食塩水またはヘパリン添加ブタ血液を入れ、上記のレーザ伝送用光ファイバー19、ライトガイド21およびイメージガイド20を配設したカテーテルシース18の遠位端部を生理食塩水またはブタ血液中に入れ、レーザを照射しないで、パルス照明光をパルス幅10μsで照明し、CCDカメラ28で得られた血管内腔像を、モニター29に表示させると共にビデオで記録した。さらに、ブタ血液を入れたものについては、レーザを照射し水蒸気泡を発生させて撮像した。このときのレーザ強度は約200mJ/pulse、パルス幅は約200μsであった。遅延ジェネレータにより遅延させCCDカメラで得られた血管内腔像を、モニターに表示させると共にビデオで記録した。
図8に、ブタ冠状動脈内に生理食塩水を注入したときの血管内腔の写真を、図9にブタ冠状動脈内にブタ血液を注入したときの血管内腔の写真を、図10にブタ冠状動脈内にブタ血液を注入し、パルスレーザを照射したときの血管内腔の写真を示す。図9に示すように、ブタ冠状動脈にブタ血液を入れ、レーザ照射しないで撮像した場合は、血液が存在するため、像全体が赤色になり血管内腔は見ることができなかった。一方、図9に示すように、ブタ冠状動脈に透明な生理食塩水を入れた場合は血管内腔を観察することができた。また、図10に示すように血液を入れレーザを照射し水蒸気泡を発生させた場合も、水蒸気泡によりカテーテル前方部分の血液が一時的に排除されるため血管内腔を観察することができた。生理食塩水を入れた実験は、従来法のフラッシュ液を注入しての内視鏡検査を模倣しており、本発明の高強度パルス光誘発気泡を利用した血管内視鏡装置により、フラッシュ液を注入して観察する従来の内視鏡検査と同様に、血管内腔像が得られることがわかった。
【実施例2】
シリコーンチューブ中に牛乳を充填し、本発明の内視鏡装置を用いてチューブ内壁を観察した。用いた内視鏡装置は実施例1と同じであった。内径3mmのシリコーンチューブを切り開き、内部に赤色の耐水性インクで着色した紙を貼りつけシリコーンチューブを再度閉じた。次いで、該シリコーンチューブ内に内視鏡装置のレーザ伝送用光ファイバー19、ライトガイド21およびイメージガイド20を配設したカテーテルシース18の遠位端部をチューブ内に挿入し、チューブをチューブ内に牛乳が充填されるように牛乳内に入れた。次いで、パルスレーザを照射し、水蒸気泡を発生させて撮像した。このときのレーザ強度はレーザ照射用ファイバー端で200mJ/pulseまたは450mJ/pulseであった。パルス幅は約200μsであった。遅延ジェネレータにより遅延させCCDカメラで得られた血管内腔像を、モニターに表示させると共にビデオで記録した。遅延時間は、レーザ強度が200mJ/pulseの場合は、70μsまたは140μsであり、レーザ強度が450mJ/pulseの場合は、70μs、105μs、140μs、175μsおよび210μsであった。この際コントロールとして、レーザを照射しないで撮像した。また、チューブ内に牛乳を充填させず空気のみで満たされたものを用い同様に撮像を行い、これを空気中コントロールとした。なお、レーザ強度が450mJ/pulseの場合は各遅延時間で撮像した画像について、シリコーンチューブ内の画像(明るく見える部分)の大きさ及び明るさを測定し、遅延時間70μsのときの値を1とした場合の相対値として表した。画像の大きさは、ピント位置より手前に散乱液体(牛乳)がある場合はぼけて大きくなり、ピント位置以遠まで散乱液体(牛乳)が排除された場合は、ピントが合うので小さくなる。また、画面の明るさ、は散乱液体(牛乳)がどの程度、観察視野(照明光があり、そこを見られる部分)に存在するかを示し、暗くなるという事は、観察視野内の散乱液体が排除されていることを示す。得られた画像を、色彩処理ソフト(Photoshop(Adobe社、米国)を用いて画像をL*a*b*表色系で表し、大きさはLab画像において明度が20以上となった部分の半径をノギスで測定し、明度はLab画像中で最も明るい部分を測定した。
結果を図11および図12に示す。図11は遅延時間が70μs(0.05deg)であり、図11Aがレーザ強度200mJ/pulse(充電電圧900V)、図11Bがレーザ強度450mJ/pulse(充電電圧1000V)、図11Cがレーザ照射なし(コントロール)、図11Dが空気中コントロールの撮像結果を示す。図12は遅延時間が140μs(0.1deg)であり、図12Aがレーザ強度200mJ/pulse(充電電圧900V)、図12Bがレーザ強度450mJ/pulse(充電電圧1000V)、図12Cがレーザ照射なし(コントロール)、図12Dが空気中コントロールの撮像結果を示す。水蒸気泡が発生しない場合は照明部および観察部の近傍に牛乳が存在するので照明部から発した照明光は牛乳により拡散反射され撮像された画像は白く光り明度も大きい。一方、小さい水蒸気泡が発生した場合はシリコーンチューブ内側の赤紙が撮像されるので赤く見え、明度も小さい。また、十分な大きさの適切な水蒸気泡が発生した場合は、照明部および観察部近傍の牛乳が排除され、牛乳による拡散反射はなくなり、画像には何も写らない(空気中コントロールと同様)。すなわち、何も写らない条件が最適条件である。
図13には、レーザ強度が450mJ/pulseの場合の、各遅延時間における大きさの相対値および明度の相対値を示した。なお、画像の大きさ、明度ともに小さいほうが、十分な大きさの水蒸気泡が発生したことを示す。
図11、図12ともにコントロール(レーザ照射なし)は水蒸気泡が発生しないので、白く見えている。遅延時間が70μsのとき、レーザ強度が200mJ/pulseの場合は、水蒸気泡の発生が不十分なので、白く牛乳が写っており、レーザ強度が450mJ/pulseの場合、水蒸気泡が十分な大きさに達する前に撮像するので、赤く見えている(図11)。遅延時間が140μsのとき、レーザ強度が200mJ/pulse、450mJ/pulseの場合ともに水蒸気泡がほぼ十分な大きさに達した際に撮像しているので空気中コントロールと同様に何も写っていない(図12)。また、レーザ強度450mJ/pulseの場合に、遅延時間を70μs〜210μsとした場合、撮像されたチューブ内の画像の大きさ、明度ともに遅延時間が140μsの場合が最も小さかった(図13)。実施例2で行った実験では遅延時間140μsで最良の視野が得られた。
【実施例3】
本発明の内視鏡装置を用いて、家兎の大動脈内腔を観察した。用いた内視鏡装置の構成は実施例1で用いた図5に示される内視鏡装置に準ずるが、レーザ発生装置は、フラッシュランプ励起Ho:YAGレーザ(サイバーレーザ製、形式 FLHY−1)を用いた。また、レーザ照射用ファイバーとしては、コア径0.6mm外径1.45mmのファイバーを用い、これを外径1.3mmの内視鏡(auメディカル工房製)と束ねて用いた。
家兎大動脈に10Fr.のシースを留置し、上記のファイバーと内視鏡を束ねたものを挿入した。
レーザ照射条件は、10Hz、400mJ/pulseであった。コントロールとして、レーザを照射せずに血管内腔を撮像した。
図14にレーザを照射せずに撮像した血管内腔の写真を、図15にレーザを照射し、水蒸気泡を発生させ撮像した血管内腔の写真を示す。レーザを照射しないで撮像した場合は、血液が存在するため、像全体が赤色になり血管内腔は見ることができなかった。レーザを照射し水蒸気泡を発生させた場合は、水蒸気泡によりシース前方部分の血管の血液が一時的に排除されるため血管内腔を観察することができた。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
産業上の利用の可能性
実施例に示すように、高強度パルス光を液体を含む管系内で照射することにより水蒸気泡が発生し、一時的に液体が排除される。血管内で高強度パルス光を照射することにより、血管内腔の血液中で水蒸気泡が発生しその部分の血液が一時的に排除されるため、血液の影響を受けることなく血管内腔を超音波等を利用することなく光学的に観察することができる。実施例では、診断または治療用の光として、光学的観察を可能にするための可視光を照射し、その反射像を得て血管内腔の光学的観察を可能にしているが、光の波長を変えることにより種々の診断または治療が可能になる。また、実施例3では実際に生きた動物の血管内腔を観察している。本発明は、血液の閉塞や大量の異種溶液の注入を伴わず、酸素キャリアーである血液を止める必要がなく、末梢への酸素供給を確保できるため、低侵襲性であり、侵襲性の高い従来の装置では困難であった、冠状動脈等の診断または治療も容易に安全に行なうことができる。
また、実施例2が示すように、本発明の装置により血管内の診断、治療だけではなく、人工的管状物中の観察や修理も可能である。
本発明の装置は、血管内腔の診断または治療に用いることができる。本発明の装置は、従来の血管内の診断または治療用装置のように血管内の血流を閉止すること無く血管内腔の診断または治療を行うことができるので、低侵襲性の血管内腔診断または治療用装置として用いることができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度パルス光発生手段および高強度パルス光を伝送する高強度パルス光伝送手段を有し、高強度パルス光を血管内に照射し水蒸気泡を発生させ、血管内の血液を一時的に排除しうる、血管内診断または治療用装置。
【請求項2】
さらに、血管内に診断または治療用光を照射し血管内腔における診断または治療を可能にするパルス光照射手段を有するカテーテル状の請求項1記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項3】
診断または治療用パルス光が紫外光、可視光、近赤外光または赤外光である、請求項2記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項4】
診断または治療用パルス光が紫外光であり、血管を弛緩させる、請求項3記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項5】
診断または治療用パルス光が紫外光、可視光、近赤外光または赤外光であり、血管を収縮させる、請求項3記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項6】
診断または治療用パルス光が高強度である、請求項2記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項7】
診断または治療用パルス光が、血管内の動脈硬化の粥腫または血管内の血栓を破壊し得るパルス光である、請求項2記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項8】
診断または治療用パルス光が、固体レーザ、半導体レーザ、色素レーザ、可変波長近赤外レーザ、オプティカルパラメトリックオッシレーター(OPO)、ラマンレーザにより発生する光およびこれらに非線型光学変換装置を結合して発生し得る光、ならびにフラッシュランプからなる群から選択される、請求項2記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項9】
診断または治療用パルス光が、光化学治療に用いられる、請求項8記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項10】
さらに、血管内をパルス照明させ光学的観察を可能にする照明光照射手段、照明光により照明された血管内腔を撮像する撮像手段を有するカテーテル状の血管内視鏡装置である請求項1から3および8のいずれか1項に記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項11】
さらに、送液手段を有し高強度パルス光が照射される局所部分の血液を高強度パルス光吸収性が水に近い液で置換し得る血管内視鏡装置である、請求項10記載の血管内視鏡装置。
【請求項12】
高強度パルス光の波長で、水の吸収係数が10〜1000cm−1である範囲にある請求項1から11のいずれか1項に記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項13】
高強度パルス光の波長が0.3〜3μmの範囲にある血管内視鏡装置である、請求項1から12のいずれか1項に記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項14】
高強度パルス光の波長が1.5〜2.5μmの範囲にある血管内視鏡装置である、請求項13記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項15】
高強度パルス光が、パルスレーザである血管内視鏡装置である請求項1から14のいずれか1項に記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項16】
高強度パルス光が、オプティカルパラメトリックオッシレーター(OPO)により発生するパルス光である、請求項1から15のいずれか1項に記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項17】
レーザが希土類イオンを用いた固体レーザである、請求項15記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項18】
レーザ媒質がHoまたはTmであり、レーザ母材がYAG、YLF、YSGGおよびYVOからなる群から選択される、請求項17記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項19】
レーザがHo:YAGレーザまたはTm:YAGレーザである、請求項18記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項20】
高強度パルス光照射のパルス幅が10ns〜10msである、請求項1から19のいずれか1項に記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項21】
高強度パルス光照射のパルス幅が100μs〜400μsである、請求項20記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項22】
診断または治療用パルス光と高強度パルス光照射の間に遅延が設けられ得る請求項1から21のいずれか1項に記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項23】
高強度パルス光および診断または治療用パルス光の照射タイミングを、心電図計により拍動血流に遅延同期させ、拍動血流速が低下してきた時点で高強度パルス光が照射され得る、請求項1から22のいずれか1項に記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項24】
照射野操作性を有する請求項1から23のいずれか1項に記載の血管内診断または治療用装置。
【請求項25】
心臓鏡である血管内視鏡装置である、請求項1から24のいずれか1項に記載の装置。
【請求項26】
さらに、診断または治療用手段を有する、請求項10から25のいずれか1項に記載の血管内視鏡である血管内診断または治療用装置。
【請求項27】
血管内への高強度パルス光の照射、パルス照明を短い間隔で繰り返すことにより、血管内の像を動画として得、該像を観察しながら血管内の病変部を発見し診断または治療用手段で血管内の診断または治療を行うことができる、請求項26記載の血管内視鏡である血管内診断または治療用装置。
【請求項28】
診断または治療用手段が、ディレクショナル・アテレクトミー装置、血栓吸引装置、ロータブレーター装置および生検のための装置からなる群から選択される、請求項26または27に記載の血管内視鏡である血管内診断または治療用装置。

【国際公開番号】WO2005/063113
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516548(P2005−516548)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006407
【国際出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】