説明

高所作業車用アウトリガジャッキ装置

【課題】シンプルな構造でありながら、ビーム伸長量及びジャッキ伸長量を検出可能な高所作業車用のアウトリガジャッキ装置を提供する。
【解決手段】アウトリガビーム22の伸縮を、ジャッキ32の全縮状態でのみ許容するように構成する。アウトリガビーム22を保持した保持部材21には、可撓性条体Fとしてのワイヤ42を巻出し及び巻入れ自在に巻き取った巻取り部43と、アウトリガビーム22及びジャッキ32の全縮状態を基準としてワイヤ42の巻出し量を検出する検出部44とを有する検出手段40を固定する。一方、巻取り部43から巻出したワイヤ42をアウトリガビーム22及びジャッキ32の伸縮方向に沿って張設した状態でこのワイヤ42の先端をジャッキ32に固定する。これにより、アウトリガビーム22又はジャッキ32の伸長に伴って、ワイヤ42が巻取り部43から巻き出されるので、この巻出し量を検出部44で検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高所作業車、例えば、伸縮式(先端屈折式のものも含む)のはしごを搭載したはしご付消防自動車、伸縮・屈折式のブームを搭載した屈折はしご付消防自動車、伸縮式や屈折式の放水塔を搭載した高所放水車、伸縮式のクレーン装置を搭載した救助工作車、高所での壁面塗装、架線、揚重等の作業を行うために伸縮式のブームを搭載した高所作業車、高所での移載物の搬入、搬出等の作業を行うために伸縮式のクレーン装置を搭載したクレーン車等に装着されるアウトリガジャッキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高所作業車の車体上には、上記のとおり、伸縮、起伏及び旋回を含む動作により三次元移動可能な各種作業用移動体が搭載されており、作業用移動体の移動に伴って、車体には、車体を転倒させる方向のモーメント(転倒モーメント)が作用する。このような転倒モーメントの作用時においても車体を安定的に支持して高所作業を安全に行うべく、例えば車体の両側部の前後2箇所(合計4箇所)には、アウトリガジャッキ装置が装着される。アウトリガジャッキ装置は、単にアウトリガ装置やジャッキ装置とも称される。
【0003】
アウトリガジャッキ装置は、車体に固定される保持部材に装着され、水平方向に伸縮自在(車体の側方に張出し可能)のアウトリガビームと、このアウトリガビームの先端に装着され、鉛直方向に伸縮自在のジャッキとを備え、アウトリガビームを伸長させたうえでジャッキを伸長・接地させることによって転倒モーメントに抗するように車体を支持する。
【0004】
車体に作用する転倒モーメントは作業用移動体の移動量・作業半径等によって変化し、アウトリガジャッキ装置によって支持可能な転倒モーメントの大きさは、アウトリガビームの伸長量、厳密には全縮状態からの伸長量によって変化する。そのため、アウトリガジャッキ装置又は車体には、通常、アウトリガビームの全縮状態からの伸長量を検出するための検出手段が設けられる。ビーム伸長量の検出手段として、例えば、特許文献1には、アウトリガビームを内挿した筒体に沿って複数のリミットスイッチを配設して構成されるものが開示され、特許文献2には、アウトリガビームを内挿した筒体に設けたポテンショメータを主要部として構成されるものが開示されている。また、特許文献3には、監視カメラおよび画像認識手段を主要部として構成されるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−19361号公報
【特許文献2】特開2005−126019号公報
【特許文献3】特開2009−73248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高所作業車は、平坦地のみならず傾斜地にても使用される場合があり、このような場合には、各アウトリガジャッキ装置のジャッキ伸長量をそれぞれ調整することによって傾斜矯正を行い、車体を水平状態に維持する。そのため、高所作業車に搭載されるアウトリガジャッキ装置においては、ビーム伸長量のみならず、ジャッキ伸長量も正確に検出可能であることが望まれる。しかしながら、上記の特許文献1および3に開示されたアウトリガジャッキ装置においては、ジャッキ伸長量の検出手段について何ら考慮されていない。また、上記の特許文献2には、ビーム伸長量を検出する検出手段とは分離独立したかたちでジャッキ伸長量を検出する検出手段を設けた構成が開示されているが、このような構成ではアウトリガジャッキ装置の複雑化や高コスト化を招くという問題がある。
【0007】
そこで、例えば、車体の傾斜角を検出する傾斜計と、ジャッキの伸長時間を計測するタイマーとを用いてジャッキ伸長量を間接的に検出する試みがなされているが、このような構成ではジャッキ伸長量を正確に検出することは困難である。従って、結局のところ、人手作業によって傾斜矯正を行わざるを得ず、傾斜矯正を迅速かつ正確に行うことができないのが実情である。
【0008】
本発明の課題は、シンプルな構造でありながら、アウトリガビームの伸長量のみならずジャッキの伸長量をも検出することが可能な高所作業車用のアウトリガジャッキ装置を提供し、もって高所作業車の傾斜矯正の容易化を低コストに達成可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、車体上に三次元移動可能な作業用移動体が搭載される高所作業車用のアウトリガジャッキ装置であって、車体に固定される保持部材に装着され、水平方向に伸縮自在のアウトリガビームと、アウトリガビームの先端に装着され、鉛直方向に伸縮自在のジャッキとを備えるものにおいて、アウトリガビームの伸縮を、ジャッキの全縮状態でのみ許容するように構成し、保持部材又はジャッキの何れか一方に、可撓性条体を巻出し及び巻入れ自在に巻き取った巻取り部と、アウトリガビーム及びジャッキの全縮状態を基準として可撓性条体の巻出し量を検出する検出部とを有する検出手段を固定し、保持部材又はジャッキの他方に、巻取り部から巻出した可撓性条体をアウトリガビーム及びジャッキの伸縮方向に沿って張設した状態で可撓性条体の先端を固定したことを特徴とする高所作業車用のアウトリガジャッキ装置を提供する。
【0010】
ここで、本発明でいう「作業用移動体」には、伸縮式のはしご(先端屈折式のものも含む)、伸縮・屈折式や伸縮式のブーム、伸縮式や屈折式の放水塔、伸縮式のクレーン装置等が含まれる。また、本発明でいう「高所作業車」には、上述のように、はしご付消防自動車、屈折はしご付消防自動車、高所放水車、救助工作車、高所での壁面塗装や揚重等の作業を行う作業車、クレーン車等が含まれる。さらに、本発明でいう「可撓性条体」とは、アウトリガビームの伸縮方向及びジャッキの伸縮方向に沿って張設可能(アウトリガビームとジャッキの境界部分で屈曲可能)で、かつ、アウトリガビーム又はジャッキの伸縮に伴って巻取り部に対して滑らかに巻出し及び巻入れ可能なものをいい、例えばワイヤ、ベルト、チェーン等を挙げることができる。
【0011】
上記した本発明の構成によれば、ジャッキの全縮状態で検出部が検出する可撓性条体の巻出し量は、アウトリガビームの全縮状態からの伸長量(以下「ビーム伸長量δ1」という)として得ることができる。加えて、ジャッキの全縮状態が解除された際に検出部が検出する可撓性条体の巻出し量は、ビーム伸長量δ1とジャッキの全縮状態からの伸長量(以下「ジャッキ伸長量δ2」という)との合計量(合計伸長量δ3)として得ることができる。ジャッキ伸長量δ2を独立した値として得たければ、δ3からδ1を減算するように構成すれば良い。
【0012】
本発明に係るアウトリガジャッキ装置では、上記のとおり、アウトリガビームを伸縮自在に保持した保持部材又はジャッキの何れか一方に上記の検出手段を設けると共に、検出手段の巻取り部から巻出した可撓性条体の先端を保持部材又はジャッキの他方に固定することによって、ビーム伸長量δ1、ジャッキ伸長量δ2及び合計伸長量δ3を得ることができる。すなわち、本発明に係るアウトリガジャッキ装置では、単一の検出手段を用いるだけで上記の各伸長量を得ることができる。よって、分離独立した2つの検出手段を用いて各伸長量を検出する上記特許文献2に開示されたものに比べ、構造を簡略化して低コスト化を図りつつも、高所作業車の傾斜矯正の容易化に寄与することが可能となる。
【0013】
また、本発明のアウトリガジャッキ装置では、上述のとおり、アウトリガビームの伸縮がジャッキの全縮状態でのみ許容される。逆を言えば、ジャッキが伸長・接地しているときにはアウトリガビームの作動が規制されることから、ジャッキが伸長・接地した状態でアウトリガビームを作動させる場合に起こり得るジャッキの折損(アウトリガジャッキ装置の故障)が未然に防止される。なお、このようないわゆるインターロック構造は、既存のアウトリガジャッキ装置においても採用されている。従って、本発明は、いわゆるインターロック構造を、ビーム伸長量及びジャッキ伸長量の検出に有効利用したものであるといえる。
【0014】
上記構成のアウトリガジャッキ装置は、ジャッキの全縮状態で検出した可撓性条体の巻出し量を、ジャッキの全縮状態が解除されたときに内部メモリ値として記憶する記憶素子をさらに有するものとすることができる。ジャッキの全縮状態で検出した可撓性条体の巻出し量とは、言い換えるとビーム伸長量δ1である。この場合、ジャッキ伸長時に検出される合計伸長量δ3から、記憶素子に内部メモリ値として記憶したビーム伸長量δ1を都度減算処理するように制御系(演算処理部)を構成することができる。従って、上記のような記憶素子をさらに有するものとしておけば、アウトリガジャッキ装置の作動時においても、ビーム伸長量δ1及びジャッキ伸長量δ2の双方を分離独立した値として正確に得ることができる。従って、傾斜矯正に要する作業時間の短縮が図られて、作業効率が向上する。なお、記憶素子は安価かつ微小な部品であることから、アウトリガジャッキ装置の複雑化や大型化を招くことはなく、また特段のコスト増が生じることもない。
【0015】
また、上記構成のアウトリガジャッキ装置は、電源の切断時(電源OFF時)に、上記の記憶素子が記憶した内部メモリ値を読み取り保存すると共に、電源の再投入時(電源ON時)に、読み取り保存した内部メモリ値を記憶素子に書き戻す不揮発性メモリをさらに有するものとしてもよい。このような構成によれば、ジャッキの伸長時に電源が切断された後、電源が再投入されるような場合においても、ジャッキ伸長量の検出結果に矛盾が生じなくなる。そのため、ビーム伸長量δ1とジャッキ伸長量δ2とを常に正確に把握することができて好適である。
【発明の効果】
【0016】
上記したように、本発明によれば、シンプルな構造でありながら、ビーム伸長量のみならずジャッキ伸長量をも検出することが可能な高所作業車用のアウトリガジャッキ装置を提供することができる。これにより、高所作業車の傾斜矯正を容易かつスムーズに行うことが可能となって作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るアウトリガジャッキ装置が装着される高所作業車の一例で、はしご付消防自動車の側面図である。
【図2】アウトリガジャッキ装置の概略側面図である。
【図3】アウトリガビームの伸長時を示す概略側面図である。
【図4】ジャッキの伸長時を示す概略側面図である。
【図5】(a)(b)図共に、演算処理部の他の実施形態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、高所作業車としてのはしご付消防自動車1の側面図である。このはしご付消防自動車1は、車体(車両本体)2と、車体2に搭載された作業用移動体としての伸縮式のはしご3とを備えている。車体2上には、縦軸の旋回軸回りに旋回可能な旋回テーブル4が配設され、旋回テーブル4に支持フレーム5が取り付けられる。はしご3の基部は支持フレーム5に横軸の起伏軸を介して起伏移動自在に取り付けられている。また、支持フレーム5の側部には、作業者(操作員)が搭乗してはしご3の作動を操作する操作席6が設けられている。
【0020】
周知のように、はしご3は、複数段のはしご部材を入れ子式に組み合わせて構成され、伸縮駆動手段としての伸縮シリンダ(例えば油圧シリンダ)3aとワイヤ及びプーリを主体とする伸縮作動機構3bとにより伸縮作動され、起伏駆動手段としての起伏シリンダ(例えば油圧シリンダ)3cにより起伏作動され、旋回駆動手段としての旋回モータ(例えば油圧モータ)3dにより旋回テーブル4と共に旋回作動される。また、はしご3の先端にバスケット3eが移動自在に装着され、はしご3の上面(背面)にリフタ3fがスライド移動自在に設置される。
【0021】
車体2の側方の前部及び後部にはアウトリガジャッキ装置10が装着されており、このはしご付消防自動車1が火災現場の近傍に到着すると、アウトリガジャッキ装置10を作動して、車体2を地上に安定的に支持する。このようにして車体2が地上に安定支持された後、操作員が操作席6に搭乗してはしご3の作動を操作することによって、消火活動や救助活動が行われる。
【0022】
以下、本発明の要旨であるアウトリガジャッキ装置10について詳述する。
【0023】
図2に、アウトリガジャッキ装置10の概略側面図を示す。同図に示すアウトリガジャッキ装置10は、アウトリガ機構20と、ジャッキ機構30と、検出手段40と、ジャッキ位置検出器50と、演算処理部60とを主要な構成として備える。
【0024】
アウトリガ機構20は、車体2に固定される水平方向に延びた筒状の保持部材21と、保持部材21に取り付けられ、水平方向に伸縮自在のアウトリガビーム22とを主要部として構成される。アウトリガビーム22は、その基端が保持部材21の内部に配設された図示外の駆動手段(例えば油圧シリンダ)に連結されることにより、該駆動手段からの駆動力を受けて保持部材21に対して水平方向に伸縮する。
【0025】
ジャッキ機構30は、アウトリガビーム22の先端に固定される鉛直方向に延びた筒状の保持部材31と、保持部材31に取り付けられ、鉛直方向に伸縮自在のジャッキ32とを主要部として構成される。ジャッキ32は、その基端が保持部材31の内部に配設された図示外の駆動手段(例えば油圧シリンダ)に連結されることにより、該駆動手段からの駆動力を受けて保持部材31に対して鉛直方向に伸縮(昇降移動)する。保持部材31の外面には、ブラケット33を介してプーリ34が固定されている。ジャッキ32の下端近傍には水平方向に張り出したフランジ部32aが設けられており、このフランジ部32aには、以下に示す可撓性条体Fとしてのワイヤ42の先端が連結部材35を介して固定されている。
【0026】
検出手段40は、保持部材21の外面に支持部材41を介して固定されており、巻取り部43と、検出部44とを備える。巻取り部43は、保持部材21に対して回転自在に設けられ、その外周には可撓性条体Fとしてのワイヤ42が巻取られている。従って巻取り部43に巻取られたワイヤ42は、巻取り部43に対して巻出し及び巻入れ(巻取り)自在である。
【0027】
図2において、アウトリガビーム22及びジャッキ32は全縮状態であり、この状態において巻取り部43から巻き出されたワイヤ42は、保持部材31に固定したプーリ34に沿わせるようにして90°屈曲された上で、その先端が連結部材34を介してジャッキ32のフランジ部32aに固定されている。巻取り部43には、ワイヤ42を巻き取る方向の回転力が常時附勢されており、巻取り部43から巻き出されたワイヤ42に弛みが生じないようになっている。以上の構成から、ワイヤ42は、アウトリガビーム22の伸縮方向(水平方向)及びジャッキ32の伸縮方向(鉛直方向)に沿って張設され、アウトリガビーム22又はジャッキ32が伸長すると、その伸長量に対応する長さのワイヤ42が巻取り部43から巻き出される。一方、アウトリガビーム22又はジャッキ32が短縮すると、その短縮量に対応する長さのワイヤ42が巻取り部43に巻き取られる。
【0028】
本実施形態の検出手段40は、巻取り部43と一体的に検出部44が設けられたいわゆる測長センサであって、より厳密に言えば、アウトリガビーム22及びジャッキ32の全縮状態を基準とし、そこからの巻取り部43の回転量(回転角)を検出部44が検出することによってワイヤ42の巻出し量を検出するように構成されたポテンショメータ又はロータリーエンコーダである。なお、巻取り部43と検出部44とは別体に設けることも可能である。
【0029】
ジャッキ位置検出器50は、フランジ部32aの外径側に配設されている。このジャッキ位置検出器50は、ジャッキ32が全縮状態にあるか否かを検出するものであり、ここでは非接触型の近接スイッチ(近接センサとも称される)を用いている。ジャッキ位置検出器50としては、非接触型の近接スイッチ以外にも、接触型のリミットスイッチを採用することもできる。ジャッキ位置検出器50の検出値は、アウトリガビーム22を伸縮させる駆動手段の制御系(図示せず)に入力されるようになっている。詳述すると、このジャッキ位置検出器50は、アウトリガビーム22のインターロックとして機能するものであり、検出器50がジャッキ32の全縮状態を検出している状態(「近接ON」の状態)においてはアウトリガビーム22の伸縮を許容する。一方、ジャッキ32が伸長し、検出器50がジャッキ32の全縮状態を検出していない状態(「近接OFF」の状態)においては、アウトリガビーム22の伸縮を規制する。このようなジャッキ位置検出器50を設けてジャッキ32伸長時におけるアウトリガビーム22の伸縮を規制することにより、ジャッキ32伸長時にアウトリガビーム22を伸縮させる場合に起こり得るジャッキ32の折損、ひいてはアウトリガジャッキ装置10の故障が未然に防止される。
【0030】
検出手段40の検出部44は演算処理部60に接続されている。演算処理部60は、検出部44の出力信号に基づいてアウトリガビーム22の全縮状態からの伸長量(ビーム伸長量δ1)と、ジャッキ32の全縮状態からの伸長量(ジャッキ伸長量δ2)と、両伸長量δ1,δ2の合計値(合計伸長量δ3)とを次のようにして求め、かつこれらが上記の操作席6やはしご付消防自動車1の運転席等に設けた図示外の表示装置にモニタリング表示されるように信号を出力する。
【0031】
まず、図3に示すように、アウトリガビーム22を伸長させると、ワイヤ42が巻取り部43から巻き出され、この巻出し量が検出手段40の検出部44によって検出される。アウトリガビーム22の伸長時においては、ジャッキ位置検出器50がジャッキ32の全縮状態を検出している(「近接ON」の状態となっている)ことから、検出部44が検出するワイヤ42の巻出し量はビーム伸長量δ1として処理される。次いで、図4に示すようにジャッキ32の伸長を開始させるわけであるが、ジャッキ32伸長時、すなわち「近接OFF」の状態においては、アウトリガビーム22の伸縮が規制されることから、ジャッキ32の伸長に伴って巻取り部43から巻き出されるワイヤ42の量、すなわち検出部44が検出するワイヤ42の巻出し量は、ビーム伸長量δ1とジャッキ伸長量δ2とを合計した合計伸長量δ3として処理される。この場合においてジャッキ伸長量δ2を独立した値として得るには、ジャッキ32の伸長を停止した時点において得られる合計伸長量δ3からビーム伸長量δ1を減算処理するようにする。
【0032】
このように、本発明に係るアウトリガジャッキ装置10は、アウトリガビーム22を伸縮自在に保持した保持部材21に検出手段40を設けると共に、検出手段40の巻取り部43から巻出したワイヤ42をアウトリガビーム22の伸縮方向及びジャッキ32の伸縮方向に沿って張設した状態でワイヤ42の先端を駆動側であるジャッキ32に固定することにより、ビーム伸長量δ1、ジャッキ伸長量δ2及び合計伸長量δ3を得ることを可能としたものである。すなわち、本発明では、単一の検出手段40を用いるだけで各伸長量δ1〜δ3を得ることができる。よって、分離独立した2つの検出手段を用いてビーム伸長量及びジャッキ伸長量を検出する従来構成に比べ、構造を簡略化して低コスト化を図りつつも、高所作業車(例えば、上記のはしご付消防自動車1)の傾斜矯正の容易化に寄与することが可能となる。
【0033】
なお、以上で説明したアウトリガジャッキ装置10、厳密にはアウトリガジャッキ装置10の演算処理部60には、ジャッキ32の全縮状態で検出したワイヤ42の巻出し量を、ジャッキ32の全縮状態が解除されたとき、すなわちジャッキ32の伸長が開始されたときに内部メモリ値として記憶する記憶素子M1を設けることも可能である(図5(a)を参照)。
【0034】
ジャッキ32の全縮状態で検出したワイヤ42の巻出し量とは、言い換えるとビーム伸長量δ1である。この場合、ジャッキ32の伸長時に検出される合計伸長量δ3から、記憶素子M1に内部メモリ値として記憶したビーム伸長量δ1を都度減算処理するように演算処理部60を構成することができる。従って、上記の記憶素子M1をさらに有するものとしておけば、アウトリガジャッキ装置10の作動時においても、ビーム伸長量δ1及びジャッキ伸長量δ2の双方を独立した値として正確に得ることが可能となる。従って、はしご付消防自動車1等の高所作業車の傾斜矯正に要する作業時間の短縮が図られて、作業効率が向上する。なお、記憶素子M1は安価かつ微小な部品であることから、アウトリガジャッキ装置10の複雑化や高コスト化を招くこともない。
【0035】
演算処理部60には、電源の切断時(電源OFF時)に、上記の記憶素子M1が記憶した内部メモリ値を読み取り保存すると共に、電源の再投入時(電源ON時)に、読み取り保存した内部メモリ値を上記の記憶素子M1に書き戻す不揮発性メモリM2をさらに設けることができる(図5(b)を参照)。このような構成によれば、ジャッキ32の伸長時に電源が切断された後、電源が再投入されるような場合においても、ジャッキ伸長量δ2の検出結果に矛盾が生じなくなる。そのため、ビーム伸長量δ1とジャッキ伸長量δ2とを常に正確に把握することができて好適である。
【0036】
上記した実施形態では、検出手段40をアウトリガ機構20の保持部材21の外部に固定すると共に、ワイヤ42を保持部材21,31の外面に沿って張設しているが、検出手段40を保持部材21の内部に固定すると共に、ワイヤ42を保持部材21,31の内面に沿って張設するようにすることもできる。この場合、ワイヤ42が保持部材21,31によって保護されるので、飛散物によってワイヤ42が損傷・切断等する可能性が効果的に減じられる。
【0037】
また、上記した実施形態においては、巻取り部43及び検出部44を有する検出手段40をアウトリガビーム22の保持部材21に固定する一方、ワイヤ42の先端をジャッキ32(のフランジ部32a)に固定したが、これとは逆に、検出手段40をジャッキ32に固定し、ワイヤ42の先端をアウトリガビーム22の保持部材21に固定しても良い。
【0038】
また、上記した実施形態においては、可撓性条体Fとしてワイヤ42を用いているが、使用可能な可撓性条体Fはワイヤ42に限られない。すなわち、可撓性条体Fとしては、アウトリガビーム22及びジャッキ32の伸縮方向に沿って張設可能(プーリ34に沿わせて90°屈曲可能)で、かつ、アウトリガビーム22又はジャッキ32の伸縮動作に応じて巻取り部43に対して滑らかに巻出し及び巻き入れ可能であれば良く、ベルトやチェーンを用いることも可能である。
【0039】
さらに、可撓性条体Fの巻出し量の検出方法は、上記したような巻取り部43の回転角の検出に限られない。例えば、可撓性条体Fを、巻出し方向に沿って無数の穴が所定間隔で設けられたベルトで構成すると共に、アウトリガビーム22又はジャッキ32の伸長に伴って当該ベルトが巻き出される際に、通過した穴の数を検出部44でカウントするように構成することによって可撓性条体Fの巻出し量を検出することが可能である。
【0040】
以上で述べた本発明に係るアウトリガジャッキ装置10は、傾斜矯正が必要とされるはしご付消防自動車1以外の高所作業車、例えば、屈折はしご付消防自動車、高所放水車、救助工作車、高所での壁面塗装や揚重等の作業を行う作業車、クレーン車等にも好ましく装着することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 はしご付消防自動車(高所作業車)
2 車体
3 はしご(作業用移動体)
10 アウトリガジャッキ装置
20 アウトリガ機構
21 保持部材
22 アウトリガビーム
30 ジャッキ機構
31 保持部材
32 ジャッキ
34 プーリ
40 検出手段
42 ワイヤ(可撓性条体)
43 巻取り部
44 検出部
50 ジャッキ位置検出器
60 演算処理部
F 可撓性条体
M1 記憶素子
M2 不揮発性メモリ
δ1 ビーム伸長量(アウトリガビームの全縮状態からの伸長量)
δ2 ジャッキ伸長量(ジャッキの全縮状態からの伸長量)
δ3 合計伸長量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体上に三次元移動可能な作業用移動体が搭載される高所作業車用のアウトリガジャッキ装置であって、前記車体に固定される保持部材に装着され、水平方向に伸縮自在のアウトリガビームと、該アウトリガビームの先端に装着され、鉛直方向に伸縮自在のジャッキとを備えるものにおいて、
前記アウトリガビームの伸縮を、前記ジャッキの全縮状態でのみ許容するように構成し、
前記保持部材又は前記ジャッキの何れか一方に、可撓性条体を巻出し及び巻入れ自在に巻き取った巻取り部と、前記アウトリガビーム及び前記ジャッキの全縮状態を基準として前記可撓性条体の巻出し量を検出する検出部とを有する検出手段を固定し、
前記保持部材又は前記ジャッキの他方に、前記巻取り部から巻出した前記可撓性条体を前記アウトリガビーム及び前記ジャッキの伸縮方向に沿って張設した状態で前記可撓性条体の先端を固定したことを特徴とする高所作業車用アウトリガジャッキ装置。
【請求項2】
前記ジャッキの全縮状態で前記検出部が検出した前記可撓性条体の巻出し量を、前記ジャッキの全縮状態が解除されたときに内部メモリ値として記憶する記憶素子をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の高所作業車用アウトリガジャッキ装置。
【請求項3】
電源の切断時に、前記記憶素子が記憶した内部メモリ値を読み取り保存すると共に、電源の再投入時に、読み取り保存した前記内部メモリ値を前記記憶素子に書き戻す不揮発性メモリをさらに有することを特徴とする請求項2に記載の高所作業車用アウトリガジャッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−184171(P2011−184171A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53359(P2010−53359)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000192073)株式会社モリタホールディングス (80)
【Fターム(参考)】