説明

高温型燃料電池を備えた移動体およびそれを含む発電システム

【課題】エネルギー効率が高く、かつ、寿命が長い高温型燃料電池を備える移動体およびそれを含む発電システムを提供する。
【解決手段】高温型燃料電池4を備えた移動体であって、高温型燃料電池4の廃熱を利用するブレイトンサイクル動力装置5と、ブレイトンサイクル動力装置5の廃熱を利用するランキンサイクル動力装置7とからなるコンバインドサイクルを具備し、動力出力系統と電力出力系統と、を有する。ブレイトンサイクル動力装置5としてはガス膨張機、ランキンサイクル動力装置7としては蒸気膨張機が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温型燃料電池を備えた移動体に関し、特に、高温型燃料電池の廃熱を有効に利用するコンバインドサイクルを備えた移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の大型船のエンジンは、C重油を燃料とする2サイクルのディーゼルエンジンが用いられている。このエンジンの効率は45%を超えるものであり、一般的な船舶用蒸気タービンエンジンが30程度%、火力発電における平均的な発電効率(蒸気タービンを使用)が40%であり、その効率は熱機関の中で最高である。
【0003】
例外として、特にLNGタンカーでは輸送途中で必然的に揮発するLNGを有効に利用するために、LNGを燃料とした蒸気タービンが用いられており、その効率は30%程度である。
【0004】
特許文献1には、LNG船の推進用電源として高温型固体電解質燃料電池を用いることが開示されている。
【0005】
特許文献2には、ランキンサイクルシステムを用いて燃料電池からの廃熱をエネルギー変換するための作動流体が開示されている。
【特許文献1】特開平3−248995号公報
【特許文献2】特表2008−506819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
列車、船舶等の大型動力分野では、LNG等を燃料とし、高温型燃料電池(例えば、SOFCまたはMCFC)において50%程度の効率の発電を行い、この廃熱でガスタービンを駆動するという二段のコンバインドサイクルを用いて合計60%以上の効率で動力回収を行うという試み、あるいはガスタービンを駆動したのちにさらに蒸気タービンを駆動するという三段のコンバインドサイクルによって70%以上の効率で動力回収を行うという試みが行われている。
【0007】
このようなサイクルが実用化されれば、LNGタンカーの燃料消費率は劇的に改善されると考えられる。
【0008】
しかしながら、MCFC、SOFCはともに高温型燃料電池であって、特に大型のものは起動に多量のエネルギーを必要とする。また、特にSOFCは電解質が薄いセラミックで出来ているため、起動停止に伴う熱膨張・収縮によって破壊しやすいという欠点を持ち、現時点でのヒートサイクル耐性は100回程度とされる。すなわち、運行、停泊に伴って起動停止を繰り返す動作に耐えない、あるいは耐えたとしても極めてエネルギーロスの多いシステムになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本願発明の移動体は、水素と酸素を供給して発電を行う高温型燃料電池と、前記高温型燃料電池の廃熱を利用するブレイトンサイクル動力装置と、前記ブレイトンサイクル動力装置の廃熱を利用するランキンサイクル動力装置とからなるコンバインドサイクルを具備し、動力出力系統と電力出力系統と、を有する。
【0010】
前記ブレイトンサイクル動力装置はガス膨張機であり、前記ランキンサイクル動力装置
は蒸気膨張機であることが好ましい。
【0011】
前記高温型燃料電池から得られた電力は、電動機に供給されて動力に変換され、第一の接続機を介して動力伝達手段に送られ、前記コンバインドサイクルの動力と統合され、統合された動力が第二の接続機を介して動力軸に出力されることが好ましい。
【0012】
前記ブレイトンサイクル動力装置と、前記ランキンサイクル動力装置が発電機に接続されていることが好ましい。
【0013】
既存電力インフラと系統連携する連携装置を有することが好ましい。
【0014】
本願発明の発電システムは、上記移動体と、既存電力インフラと系統連携する連携装置から成る。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、エネルギー効率が高く、かつ、寿命が長い高温型燃料電池を備える移動体を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
高温型燃料電池のメリットの一つは、熱自立して運転される限りにおいて、効率がサイズに依存しないという点にあり、小規模にした場合に効率が動作原理的に低下する熱機関に比して、比較的小さなスケールでも効率のよい発電が行える点にある。
【0017】
一般的な火力発電所の出力は一基あたり数十万KWであって、対して船舶用動力は最大でも数万KWであるが、高温型燃料電池を用いる限りにおいては、両者のスケールで効率の差は殆ど無い。
【0018】
従って、運行時には船舶動力として機能する系統を、停泊時には発電機ないしは発電所として機能する系統を持った船舶は、従来の火力発電所に劣らない高効率の移動体発電所として使用することが可能である。これによって、機関を止める必要が無くなり、上述のサイクルが経済合理的に船舶に適用可能であるほか、陸上の火力発電所の建設コストを削減することができる、あるいは燃料が切れたら自航して補充が出来る、産油国が天然ガス等を電力に加工して輸出することが出来る、などの経済効果が期待できる。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では、全ての図を通じて同一又は相当する要素には同じ参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0020】
(実施の形態1)
本願の第一の発明は、燃料電池を用いた発電サイクルと、前記発電サイクルの剰余物を利用したブレイトンサイクルないしランキンサイクルとの複合サイクルによって動作する動力装置を具備し、動力出力系統と電力出力系統を有する移動体である。
【0021】
本願の第二の発明は、上記第一の発明に記載した移動体と、これと既存電力インフラを系統連携する連携装置を有する発電システムである。
【0022】
図1は、本願発明の実施形態1に係る移動体の動力装置系統を示す。
【0023】
図1は、この移動体が移動中の(投入エネルギーが動力として活用されているときの)動力接続形態を示している。
【0024】
本願発明の移動体は、高温型燃料電池4と、高温型燃料電池4の廃熱を利用するブレイトンサイクル動力装置5と、ブレイトンサイクル動力装置5の廃熱を利用するランキンサイクル動力装置7とからなるコンバインドサイクルを有している。
【0025】
原燃料供給手段1とはいわゆる燃料タンクであり、特にLNG、プロパン等のガスタンクである。これより供給された原燃料は改質装置3によって水蒸気改質され、水素に転化されて高温型燃料電池4に供給される。通常高温型燃料電池は、MCFCで約650℃、SOFCではそれ以上の温度で運転されるが、改質反応もおおよそ650℃程度で行われる反応であって、図示するように高温型燃料電池に併設する形で改質装置を配置し、高温型燃料電池で発生する廃熱を利用して改質反応を行うことが可能である。
【0026】
また、特にSOFCに関しては、その高い動作温度を利して、高温型燃料電池内のアノード触媒上で上記改質反応を起こすことができる(直接内部改質)。その場合には見かけ上改質装置は存在しないが、改質手段は有している。いずれにせよ、供給された原燃料は形態はともかく改質されて高温型燃料電池アノード触媒上に供給されるということになる。なお、上記反応を行うための補機として、例えば、改質反応を行うに際する水の添加機構、温度勾配に逆らって高温型燃料電池にガスを投入するために必要な昇圧ポンプ、逆流防止装置、非常時に運転を停止するための緊急遮断弁が別途必要であるが、全体の理解に重要ではないため、図1には図示していない。
【0027】
また、空気供給手段2は、通常ブロワーないしコンプレッサーであり、通常は高温型燃料電池から生じた電力によって、その運転状況に応じ適切に制御されて駆動されるものである。従って、ここにも、電力線や制御装置、フィルター等の補機が必要であるが、同じ理由で図示していない。
【0028】
改質ガスおよび空気が供給された高温型燃料電池では、カソードに供給された空気に含まれる酸素が、カソードにおける触媒反応により、MCFCの場合にはCO3−に、SOFCの場合にはO2−に転化されて電解質に取り込まれ、対面のアノードに透過する。そしてアノードにおいて水素と電気化学的に反応して水を生成し、その反応エネルギーの一部を電気的に電力として取りだすことができ、残りは発熱となる。高温型燃料電池の効率は以下の式で表される。
【0029】
【数1】

【0030】
従って、例えば電流密度0.15A/cm2で運転された高温型燃料電池の実電圧が0.74Vであるならば、その発電効率は50%となる。またこのときの発熱量は発電量と等しい。従って、ある電流密度で運転される高温型燃料電池の単セル電圧が0.74Vであって、その出力が10000KWであるならば、発熱量も10000KWである。
【0031】
高温型燃料電池は、上述のように運転に伴い発熱するため、この運転温度を所定の温度に保つために冷却が必要である。これは通常、供給される空気の量を増加し、セルを空冷することによってなされる。従って、高温型燃料電池に供給される空気は、反応に必要な化学量論値に対して過剰であり、この過剰度合いを示すために、酸素利用率(Uo)という指標数値が用いられる。
【0032】
【数2】

【0033】
例えばUo=0.5とは、反応に必要な酸素(空気)の量の二倍の酸素(空気)を投入して運転がなされていることを意味する。上記高温型燃料電池においての、通常のUoは0.2〜0.5の範囲にある。
【0034】
また、高温型燃料電池においては、取り出しうる値を超えて電力負荷を与えた場合に、転極という現象が生じ、これは時として不可逆的なセルの破壊につながる。このため、負荷の変動を考慮した場合においても、少なくとも燃料欠乏による転極を起こさない目的で、燃料も量論値より過剰に投入されるのが通常である。この過剰度合いを示すために、燃料利用率(Uf)という指標数値が用いられる。
【0035】
【数3】

【0036】
例えばUf=0.8とは、投入された燃料の80%が消費されて運転される状態を指す。上記高温型燃料電池においての、通常のUoは0.7〜0.95の範囲にある。
【0037】
このように、高温型燃料電池はその負荷に応じて、適切な量の燃料と冷却を勘案した適切な空気が供給されて、所定温度で運転され、未反応の高温の燃料および空気を排出する。なお、高温型燃料電池内で生成した水蒸気は排燃料ガスに含まれて排出される。
【0038】
ガス膨張機5(ガスタービン)は、高温型燃料電池より排出された燃料と空気を混合して燃焼し、この膨張圧を動力に変換する装置である(ブレイトンサイクル)。概ね上述のUo、Ufから導かれる空燃比の範囲で良好な燃焼状態が得られるよう設計され、また制御される。
【0039】
ガスタービンから排出された排気ガスは、なお数百度の温度を持っており、この熱は水蒸気発生器6(ボイラー)に投入されて、高温高圧の水蒸気を生成する。水蒸気発生器で発生された高温高圧の水蒸気は水蒸気膨張機7(蒸気タービン)に投入され、その膨張エネルギーによって動力を生じる(ランキンサイクル)。水蒸気は図示するように、復水器8で冷却された後、ボイラーに循環される。
【0040】
一般に、その温度での蒸気圧による耐力まで考慮した鋼材の耐熱性の制約から、ボイラーの常用温度の最高温度は560℃近辺までとされるが、上記の燃焼排ガス温度は、ボイラーの設計次第で、この常用最高温度までの水蒸気の加熱が可能である。ただし、上記ボイラー温度は、高ければ高くなるほど後段の膨張機の効率が上がる反面、耐圧が必要で大規模化すること、安全装置等の補機が必要で複雑化すること、膨張機に多段タービンを用いなければその実効性が無く大型化すること等を考慮に入れ、それを行うに値するコストメリットがあるかを含めて、適用する船のサイズと合わせて選定する必要がある。このような高効率のタービンを導入して割に合うのは概ね10000KW(10MW)程度以上であって、トン数にして、10000t以上のサイズの船舶となる。
【0041】
他方、高温型燃料電池から得られた電力は、電動機9に供給されて動力に変換され、第一の接続機10を介して動力伝達手段11に送られ、上述の膨張機の動力と統合され、この統合動力が第二の接続機12を介して動力軸に出力される。
【0042】
なお、図面は概念的にプーリーとベルトを用いた最も単純な形態を示しているが、もちろん手段はこれに限定されず、一般的に知られている全ての動力伝達手段が利用可能であり、また図示したように単純な動力伝達系でなく、変速機その他の機械要素が含まれることは勿論である。
【0043】
前述のとおり、ガスタービンまでの二段のコンバインドサイクルによって、全投入エネルギーの60%が、さらに蒸気タービンまでの3段のコンバインドサイクルによって70%程度が動力として回収されることになり、これは、大型ディーゼル機関の効率45%に対して30%程度高く、それだけ船舶の燃料消費率を低減することが可能である。
【0044】
図2は、本発明の移動体が停泊中で、発電設備として活用されているときの系統(電力出力系統)を示す。
【0045】
第一の接続機10および第二の接続機12の接続が切れており、動力は出力軸に出力されていない。
【0046】
代わりに、膨張機動力は動力伝達手段11によって統合されて、第三の接続機14を介して発電機15の駆動力に充てられる。
【0047】
高温型燃料電池から得られた電力と発電機から得られた電力は電力ケーブル16、系統連携設備17を介して、既存電力インフラの18電力線と系統連携される。系統連携設備17は勿論船内に設けてもかまわない。
【0048】
この系による発電効率も上述の70%程度のものであり(発電機の発電効率は90%以上であって殆ど損失が無い)、火力平均効率40%を上回るものであって、経済合理的に既存電力インフラであるところの火力発電所を代替できるものである。
【0049】
このように、系統をつなぎかえるだけで、動力および電力のアウトプットを切り替えることの出来る構成とすることで、高温型燃料電池は停泊中も止める理由がなくなり、上述の高温型燃料電池が上記船舶動力として適用可能となる。
【0050】
また、この移動体の目的を停泊時の火力代替に絞って考えるならば、燃料を自航して輸送する高効率の移動型発電所とみることができ、大量の冷却水を必要とするために海岸線に立地しなければならない火力発電所の建設コストを削減することにつながる。沿岸地域に工場を建設する場合等、一時的に電力が必要な場合にも好適に用いられる。
【0051】
なお、移動体としては、大型タンカー等の船舶だけではなく、列車や飛行機、大型車両等にも本発明を同様に適用することができる。
【0052】
(実施の形態2)
図3は、実施の形態1とは異なる系統による移動体を示す。相違点は、ガス膨張機および水蒸気膨張機の動力は発電機に接続され、一旦電力に変えられた後に電力統合装置19によって統合され、電動機9を駆動して動力変換される点にある。
【0053】
本船の系統が動力アウトプットされている場合において、一旦全ての動力を電力に変えて、それをまた動力に変えるのは、変換ロスの面から非効率であるが、一旦電力変換された電力は極めて制御性よく扱うことができるという利点がある。
【0054】
この移動体が停泊中の系統図を図4に示す。発電所として使う場合には、電力系統をつなぎかえるだけで容易に系統連携が可能となる点が、実施の形態1に比して優れる。実施
の形態1と実施の形態2は、主な用途を船舶とするか、発電所とするかによって、適宜選択される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の移動体は、エネルギー効率が高く、かつ、寿命が長く、例えば、従来の火力発電所に劣らない高効率の移動体発電所として使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本願発明の第一の実施形態(動力出力系統)を示す図
【図2】本願発明の第一の実施形態(電力出力系統)を示す図
【図3】本願発明の第二の実施形態(動力出力系統)を示す図
【図4】本願発明の第二の実施形態(電力出力系統)を示す図
【符号の説明】
【0057】
1 原燃料供給手段
2 空気供給手段
3 改質装置
4 高温型燃料電池
5 ブレイトンサイクル動力装置(ガス膨張機、ガスタービン)
6 水蒸気発生器
7 ランキンサイクル動力装置(水蒸気膨張機、蒸気タービン)
8 復水器
9 電動機
10 第一の接続機(クラッチ)
11 動力伝達手段
12 第二の接続機(クラッチ)
13 出力軸
14 第三の接続機(クラッチ)
15 発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と酸素を供給して発電を行う高温型燃料電池と、
前記高温型燃料電池の廃熱を利用するブレイトンサイクル動力装置と、前記ブレイトンサイクル動力装置の廃熱を利用するランキンサイクル動力装置とからなるコンバインドサイクルを具備し、
動力出力系統と電力出力系統と、を有する移動体。
【請求項2】
前記ブレイトンサイクル動力装置はガス膨張機であり、
前記ランキンサイクル動力装置は蒸気膨張機であることを特徴とする請求項1記載の移動体。
【請求項3】
前記高温型燃料電池から得られた電力は、電動機に供給されて動力に変換され、第一の接続機を介して動力伝達手段に送られ、前記コンバインドサイクルの動力と統合され、統合された動力が第二の接続機を介して動力軸に出力されることを特徴とする請求項1記載の移動体。
【請求項4】
前記ブレイトンサイクル動力装置と、前記ランキンサイクル動力装置が発電機に接続されていることを特徴とする請求項1記載の移動体。
【請求項5】
既存電力インフラと系統連携する連携装置を有する請求項1記載の移動体。
【請求項6】
請求項1記載の移動体と、既存電力インフラと系統連携する連携装置を有する発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−105578(P2010−105578A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280916(P2008−280916)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】