説明

高温耐性銀コート基体

【課題】銅または銅合金を含む基体への銀被膜の接着性が改良された、高温においてさえ、良好な接着性を有する銀層がコーティングされた、電気コネクタ、プリント回路板、発光ダイオードまたは電気自動車の部品またはコンポーネントとして使用されうる銅含有基体を提供する。
【解決手段】銅または銅合金を含む金属基体に隣接してニッケル層を堆積させ、前記ニッケル層に隣接して薄膜のスズ層を堆積させ、次いで前記薄膜のスズ層のすぐ上に前記薄膜のスズ層の少なくとも2倍の厚さの銀層を堆積させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温耐性の銀コーティングされた銅含有基体に関する。より具体的には、本発明は、銅含有基体への銀被膜の接着性が改良された、高温耐性の銀コーティングされた銅含有基体に関する。
【背景技術】
【0002】
銀の優れた堆積特性のせいで、電気めっきおよび無電解めっき銀被膜が、電気コネクタ、プリント回路板、発光ダイオードの製造、プラスチック上のおよび装飾物品上のめっきなどの様々な用途に使用されてきた。銅または銅合金を含む基体上に銀がめっきされる場合には、銀めっきの前にこの銅または銅合金にニッケル下層が典型的に適用される。このニッケルは、銀への銅拡散を妨げるバリアとして作用し、かつ改良された表面形態を提供することもできる。ニッケル上に接着性銀層を達成するために、最終的なより厚い銀被膜をめっきする前に、このニッケルに銀ストライク薄層が典型的に適用される。めっきプロセスが適切に行われる限りは、ニッケルと銀との間の接着不良は、典型的には、めっき直後にまたはこの複合体のサービス寿命中には起こらない。
【0003】
近年、異なる産業において、高温用途、典型的には150℃を超える温度で銀被膜を使用することに対する関心が高まってきている。このような高温においては、素早い銅拡散のせいでニッケルバリア層の使用が必須である。さらに、このような高温条件下では、銀の下のニッケルの酸化が容易に起こり、ニッケルと銀との間の接着不良が生じる場合がある。銀の下のニッケルの酸化促進の現象は未だ充分に解明されていない。一般に、銀ストライクおよびニッケル表面活性化のような、ニッケルへの銀接着を増強するのに使用される典型的な方法は高温用途でのこの酸化および接着の問題を克服することができていなかった。
【0004】
三菱マテリアル株式会社の特開2003−293170号公報は高温導電体、例えば、高温環境で使用されうる燃料電池用の電流取り出し端子を開示する。この導電体ベース材料は鉄、ニッケルまたはコバルト合金であり得る。この導電体ベース材料上にニッケル層がめっきされ、次いで、このニッケル上に銀をめっきする。この公開公報は導電体が500〜960℃の高温雰囲気において酸化せず、かつ電気的導通を維持することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−293170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鉄、ニッケルまたはコバルト合金のベース材料を有し、銀およびニッケル層を伴い、このニッケルが高温環境で酸化しない物品が存在するが、銅または銅合金を含むベース材料上の、高温用途に耐えうるニッケル上の銀を含む物品についての必要性が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
物品は銅または銅合金を含む基体、前記銅または銅合金含有基体に隣接したニッケル含有層、前記ニッケル含有層に隣接したスズ含有層、並びに前記スズ含有層に隣接した銀層を含み、前記銀層が前記スズ含有層の少なくとも2倍の厚さである、基体を含む。
【0008】
方法は、銅または銅合金を含む基体を提供し;前記銅または銅合金含有基体に隣接してニッケル含有層を堆積させ;前記ニッケル含有層に隣接してスズ含有層を堆積させ;並びに、前記スズ含有層に隣接して銀層を堆積させることを含み、前記銀層が前記スズ含有層の少なくとも2倍の厚さである。
【発明の効果】
【0009】
銀を堆積させる前でのニッケルまたはニッケル合金に隣接したスズまたはスズ合金の薄膜の適用はニッケル含有層の酸化を抑制し、よって高温適用の際の銀と銅または銅合金含有基体との間の接着不良を抑制する。よって、この物品は高温環境において、銀層の接着不良についての懸念を最小限にしつつ使用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、銅ベース基体上のニッケルバリア層上のスズストライク層上の銀層を有する物品の断面図である。
【図2】図2は、200℃での1000時間の貯蔵後の、銀とニッケルとの界面において隙間を示すニッケル上の銀層の10,000倍SEM断面である。
【図3】図3は、200℃での1000時間の貯蔵後の、金ストライクとニッケルとの界面において隙間を示す、銀とニッケルとの間に金ストライク層を伴う、ニッケル上の銀層の10,000倍SEM断面である。
【図4】図4は、200℃での1000時間の貯蔵後の、パラジウム/ニッケル合金とニッケルとの界面において隙間を示す、銀とニッケルとの間にパラジウム/ニッケル合金ストライク層を伴う、ニッケル上の銀堆積物の10,000倍SEM断面である。
【図5】図5は、200℃での1000時間の貯蔵後の、銀とニッケルとの間にSn/AgおよびSn/Ni金属間化合物を伴い、これら層の界面において観察可能な隙間がないニッケル上の銀堆積物の10,000倍SEM断面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書を通して使用される場合、用語「堆積」および「めっき」は交換可能に使用される。用語「組成物」および「浴」は交換可能に使用される。用語「隣接して」とは、接触しまたは隣にあって、かつ一緒になっていることを意味する。文脈が他のことを明確に示さない限りは、以下の略語は以下の意味を有する:℃=摂氏度;g=グラム;ml=ミリリットル;L=リットル;ASD=A/dm=アンペア/平方デシメートル;PVD=物理蒸着;CVD=化学蒸着;PCB=プリント回路板またはプリント配線板;SEM=走査型電子顕微鏡写真;EDX=EDS=エネルギー分散型X線分析;cm=センチメートル;μm=ミクロン;nm=ナノメートル。
【0012】
他に示されない限りは、全てのパーセンテージおよび比率は重量基準である。全ての範囲は包括的であり、かつこのような数値範囲が合計で100%になることに制約されることが論理的である場合を除いて、任意に組み合わせ可能である。
【0013】
物品は図1によって表されることができ、図1は銅含有基体1を示し、これはこの銅ベース基体に隣接したニッケル含有バリア層2を伴う。スズ含有ストライク層3がこのニッケル含有バリア層に隣接し、このスズ含有ストライク層の少なくとも2倍の厚さを有する銀層4がこのスズ含有ストライク層に隣接する。場合によっては、頂部銀層は変色防止(anti−tarnish)層(示されていない)を有することができる。この物品は様々な電子デバイス、例えば、この物品が150℃以上、例えば、200℃〜600℃の温度に曝露されうるが依然として金属層間の良好な接着を保持することができるそれらデバイスにおける部品として使用されることができる。
【0014】
銅を含む基体上にニッケルまたはニッケル合金の1以上の層が堆積される。このニッケルは銀頂部層への銅拡散を抑制するためのバリア層として機能する。この基体は実質的に全てが銅であることができるか、または1種以上の銅合金、例えば、これに限定されないが、スズ/銅、銀/銅、金/銅、銅/ビスマス、銅/亜鉛、銅/ニッケル、スズ/銀/銅およびスズ/銅/ビスマスを含むことができる。基体はPCB、または銅もしくは銅合金層を伴う誘電体材料、例えば、プラスチックまたは樹脂材料であることができる。ニッケルまたはニッケル合金はこれら層が、基体の銅または銅合金層の表面に隣接するように堆積されて、基体の銅または銅合金表面との界面を形成する。一般的には、ニッケルまたはニッケル合金層は少なくとも0.5μmの厚さである。好ましくは、ニッケルまたはニッケル合金層は0.5μm〜10μmの厚さであり、より好ましくは1μm〜5μmの厚さである。基体上にニッケルまたはニッケル合金を堆積させるために当該技術分野において使用される従来の方法によって、1以上のニッケルまたはニッケル合金層が堆積されることができる。この方法には、これに限定されないが、PVD、CVD、電解金属めっきおよび無電解金属めっきが挙げられる。この方法は当該技術分野および文献において周知である。好ましくは、ニッケルまたはニッケル合金を銅含有基体上に堆積させるために電解金属めっきが使用される。
【0015】
一般的に、少なくとも0.01ASDの電流密度でニッケルまたはニッケル合金電気めっきが行われうる。典型的な電流密度は0.1ASD〜5ASDであり、より典型的には0.5ASD〜2ASDである。具体的な基体について電流密度を調節するためにわずかな実験しか行われなくてよい。使用される電気めっきプロセスは従来のものである。
【0016】
めっき組成物中のニッケルイオンは適切な溶液可溶性ニッケル化合物、典型的には水溶性ニッケル塩を使用することにより提供されうる。このようなニッケル化合物には、これに限定されないが、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケルおよびリン酸ニッケルが挙げられる。ニッケル化合物の混合物がめっき組成物に使用されうる。この混合物は同じ金属を有するが異なる化合物である複数種の金属化合物、例えば、硫酸ニッケルと塩化ニッケルとの混合物であることができる。ニッケル化合物は、めっき組成物中で0.1g/L〜150g/L、典型的には0.5g/L〜100g/L、およびより典型的には1g/L〜70g/Lのニッケルイオン濃度を提供するのに充分な量でめっき組成物に添加される。
【0017】
酸および塩基をはじめとする様々な任意の電解質がニッケルめっき組成物に使用されることができる。電解質には、限定されないが、アルカンスルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびプロパンスルホン酸;アルキロールスルホン酸;アリールスルホン酸、例えば、トルエンスルホン酸、フェニルスルホン酸およびフェノールスルホン酸;アミノ含有スルホン酸、例えば、アミドスルホン酸;スルファミン酸;鉱酸;カルボン酸、例えば、ギ酸およびハロ酢酸;ハロゲン化水素酸;およびピロリン酸塩が挙げられる。酸および塩基の塩が電解質として使用されても良い。さらに、電解質は酸の混合物、塩基の混合物、または1種以上の酸と1種以上の塩基との混合物を含むことができる。このような電解質は一般的には、ウィスコンシン州ミルウォーキーのアルドリッチケミカルカンパニーのような様々なソースから商業的に入手可能である。
【0018】
場合によっては、様々な界面活性剤がニッケルめっき組成物中に使用されうる。ニッケルめっきの性能を妨げない限りは、任意のアニオン性、カチオン性、両性および非イオン性界面活性剤が使用されうる。界面活性剤は、当該技術分野において周知であるような従来の量で含まれうる。
【0019】
場合によっては、ニッケルめっき組成物は1種以上の追加の成分を含むことができる。この追加の成分には、限定されないが、光沢剤、結晶粒微細化剤(grain refiner)および延性増強剤(ductility enhancer)が挙げられる。この追加の成分は当該技術分野において周知であり、従来の量で使用される。
【0020】
ニッケルめっき組成物は、場合によっては、緩衝剤を含むことができる。典型的な緩衝剤には、これに限定されないが、ホウ酸塩緩衝剤(例えば、ホウ砂)、リン酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤および水酸化物緩衝剤が挙げられる。使用される緩衝剤の量はめっき組成物のpHを所望のレベルに維持するのに充分な量であり、このような量は当業者に周知である。
【0021】
1種以上の合金形成金属(alloying metal)がニッケルめっき組成物中に含まれうる。このような合金形成金属には、これに限定されないが、スズ、銅およびビスマスが挙げられる。ニッケル−リンが好ましい合金である。この金属は当該技術分野において周知であるその溶液可溶性塩として提供される。ニッケル合金堆積物を提供するための従来の量がニッケルめっき組成物中に含まれることができる。
【0022】
適切な電解ニッケルめっき浴は市販されており、並びにその多くは文献に開示されている。市販の電解ニッケル浴の例は、ニッケルグリーム(NICKEL GLEAM(商標))電解ニッケル製品およびニカル(NIKAL(商標))SC電解ニッケル製品であり、これら両方とも米国、マサチューセッツ州、マルボロのロームアンドハースエレクトロニックマテリアルズLLCから入手可能である。適切な電解ニッケルめっき浴の他の例は、米国特許第3,041,255号に開示されたワット型浴である。
【0023】
無電解ニッケルめっき組成物は還元剤を含んでいて良いし、または還元剤を含んでいなくても良い。典型的には、無電解ニッケルめっき組成物は還元剤を含む。この還元剤には、これに限定されないが、ジ亜リン酸ナトリウム、ジ亜リン酸カリウム、チオ尿素およびチオ尿素誘導体、ヒダントインおよびヒダントイン誘導体、ヒドロキノンおよびヒドロキノン誘導体、レゾルシノール、ホルムアルデヒドおよびホルムアルデヒド誘導体、DEA(n−ジエチル−アミンボラン)、ホウ化水素ナトリウム、並びにヒドラジンが挙げられる。このような還元剤は0.1g/L〜40g/Lのような従来の量で使用されうる。市販の無電解ニッケル組成物の例にはデュラポジット(DURAPOSIT(商標))SMT88無電解ニッケル、およびニポジット(NIPOSIT(商標))PM980およびPM988無電解ニッケルが挙げられる。これら全てはロームアンドハースエレクトロニックマテリアルズLLCから入手可能である。
【0024】
ニッケルめっき組成物は1〜14、典型的には1〜12、より典型的には1〜8の範囲のpHを有することができる。めっき中のニッケルめっき組成物の稼働温度は10℃〜100℃、または例えば、20℃〜50℃でありうる。
【0025】
ニッケルまたはニッケル合金堆積の後で、この1以上のニッケルまたはニッケル合金層に隣接して、1以上のスズまたはスズ合金ストライク層が堆積される。スズまたはスズ合金は当該技術分野において使用される従来の方法、例えば、電解、無電解または浸漬スズもしくはスズ合金めっきによって堆積されうる。好ましくは、スズまたはスズ合金はニッケルまたはニッケル合金に隣接して電気めっきされるかまたは無電解めっきされる。より好ましくは、スズまたはスズ合金はニッケルまたはニッケル合金層に隣接して電気めっきされる。スズまたはスズ合金層は少なくとも0.01μm、好ましくは0.01μm〜2μm、より好ましくは0.1μm〜1μmの厚さを有する。
【0026】
適切なスズおよびスズ合金めっき浴は酸性またはアルカリ性であり得る。典型的な酸性スズ浴は1種以上の溶液可溶性スズ化合物、1種以上の酸性電解質および場合によっては1種以上の添加剤を含む。適切なスズ化合物には、これに限定されないが、塩、例えば、ハロゲン化スズ、硫酸スズ、アルカンスルホン酸スズ、例えば、メタンスルホン酸スズ、アリールスルホン酸スズ、例えば、フェニルスルホン酸スズ、フェノールスルホン酸スズ、およびトルエンスルホン酸スズ、並びにアルカノールスルホン酸スズが挙げられる。典型的には、スズ化合物は硫酸スズ、塩化スズ、アルカンスルホン酸スズ、またはアリールスルホン酸スズであり、より典型的には硫酸スズまたはメタンスルホン酸スズである。これら組成物中のスズ化合物の量は、典型的には、5g/L〜150g/L、より典型的には30g/L〜80g/Lの範囲でスズイオン含量を提供する量である。スズ化合物の混合物が使用されうる。
【0027】
溶液可溶性であり、安定なスズ電解質を生じさせるのに適しており、かつ電解質組成物に他の悪影響を及ぼさない任意の酸性電解質が使用されうる。適切な酸性電解質には、これに限定されないが、アルカンスルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびプロパンスルホン酸;アリールスルホン酸、例えば、フェニルスルホン酸、フェノールスルホン酸およびトルエンスルホン酸;硫酸;スルファミン酸;塩酸;臭化水素酸;フルオロホウ酸;およびこれらの混合物が挙げられる。典型的には、酸性電解質の量は10g/L〜400g/L、より典型的には50g/L〜400g/Lの範囲である。
【0028】
スズ合金めっき浴においては、スズに加えて、1種以上の合金形成金属化合物が使用される。適切な合金形成金属には、これに限定されないが、鉛、ニッケル、銅、ビスマス、亜鉛、銀、アンチモンおよびインジウムが挙げられる。有用な合金形成金属化合物は、可溶性形態で電解質組成物に金属を提供する任意のものである。よって、金属化合物には、これに限定されないが、塩、例えば、金属ハロゲン化物、金属硫酸塩、金属アルカンスルホン酸塩、例えば、金属メタンスルホン酸塩、金属アリールスルホン酸塩、例えば、金属フェニルスルホン酸塩および金属トルエンスルホン酸塩、並びに金属アルカノールスルホン酸塩が挙げられる。合金形成金属化合物、および電解質組成物中に存在するその合金形成金属化合物の量の選択は、例えば、堆積されるべきスズ合金に応じて変動し、かつ当業者に周知である。典型的なスズ合金はスズ/銅、スズ/ビスマス、スズ/銀、スズ/亜鉛、スズ/銀/銅およびスズ/銀/ビスマスである。
【0029】
スズまたはスズ合金電気めっき浴において、還元剤、結晶粒微細化剤、例えば、ヒドロキシ芳香族化合物および他の湿潤剤、光沢剤、並びに酸化防止剤のような1種以上の他の添加剤が使用されうる。
【0030】
スズを可溶性の二価の状態に維持するのを助けるために、スズおよびスズ合金電解質組成物に還元剤が添加されうる。適切な還元剤には、これに限定されないが、ヒドロキノンおよびヒドロキシル化芳香族化合物、例えば、レゾルシノールおよびカテコールが挙げられる。適切な還元剤は、例えば、米国特許第4,871,429号に開示されるものである。このような還元剤の量は典型的には0.1g/L〜5g/Lである。
【0031】
光沢堆積物はスズおよびスズ合金電解質組成物に光沢剤を添加することにより得られうる。この光沢剤は当業者に周知である。適する光沢剤には、これに限定されないが、芳香族アルデヒド、例えば、ナフトアルデヒド、ベンズアルデヒド、アリルベンズアルデヒド、メトキシベンズアルデヒドおよびクロロベンズアルデヒド、芳香族アルデヒドの誘導体、例えば、ベンジルアセトンおよびベンジリジンアセトン、脂肪族アルデヒド、例えば、アセトアルデヒドまたはグルタルアルデヒド、並びに酸、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびピコリン酸が挙げられる。典型的には、光沢剤は0.1g/L〜3g/Lの量で使用される。
【0032】
適する非イオン性界面活性剤または湿潤剤には、これに限定されないが、7個以下の炭素のアルキル基を1つ以上含む脂肪族アルコールの比較的低分子量のエチレンオキシド(EO)誘導体、または2個以下の芳香環を有する芳香族アルコールのエチレンオキシド誘導体が挙げられる。この脂肪族アルコールは飽和または不飽和であることができる。この芳香族アルコールは、典型的には、エチレンオキシドでの誘導体化の前に、20個以下の炭素原子を有する。この脂肪族および芳香族アルコールは、例えば、スルファートまたはスルホナート基でさらに置換されていてよい。典型的には、このような非イオン性界面活性剤または湿潤剤は0.1g/L〜50g/Lの量で添加される。
【0033】
さらなる結晶粒微細化を提供するために、ヒドロキシ芳香族化合物または他の湿潤剤がこれら電解質組成物に添加されうる。この結晶粒微細化剤は、さらに堆積物外観および駆動電流密度範囲を向上させるために添加されうる。適切な他の湿潤剤には、これに限定されないが、アルコキシラート、例えば、ポリエトキシ化アミンであるジェファーミン(JEFFAMINE(商標))T−403またはトライトン(TRITON(商標))RW、スルファート化アルキルエトキシラート、例えば、トライトン(商標)QS−15およびゼラチンまたはゼラチン誘導体が挙げられる。この有用な結晶粒微細化剤の量は当業者に周知であり、典型的には0.01ml/L〜20ml/Lである。
【0034】
場合によっては、例えば、二価から四価の状態への、第一スズ酸化が起こるのを最小限にするかまたは妨げるために、酸化防止剤化合物が電解質組成物に使用されうる。適する酸化防止剤化合物には、例えば、ジヒドロキシベンゼン、並びに元素の周期表の第IVB族、第VB族、および第VIB族の元素をベースにした多価化合物、例えば、バナジウム、ニオブ、タンタル、チタン、ジルコニウムおよびタングステンの多価化合物などが挙げられる。
【0035】
スズまたはスズ合金は20℃〜60℃、典型的には35℃〜45℃の温度でめっきされる。スズまたはスズ合金が電気めっきされる場合には、電流密度は典型的には0.5ASD〜10ASDである。
【0036】
次いで、スズまたはスズ合金層に隣接して銀の1以上の層が堆積される。この銀層:スズまたはスズ合金層の厚さ比は少なくとも2:1、好ましくは2:1〜30:1、より好ましくは5:1〜25:1である。典型的には、銀は少なくとも0.02μm、好ましくは0.02μm〜60μm、より好ましくは0.5μm〜25μmの厚さを有する。従来の方法を用いてスズまたはスズ合金上に銀が堆積されうる。典型的には、電解、無電解または浸漬めっきによって銀が堆積される。好ましくは、銀は電解めっきによって堆積される。
【0037】
従来の電気めっき銀組成物が使用されうる。銀組成物はシアン化物含有銀組成物またはシアン化物非含有銀組成物でありうる。好ましくは、銀浴はシアン化物含有浴である。銀イオンのソースには、限定されないが、シアン化銀カリウム、硝酸銀、チオ硫酸銀ナトリウム、グルコン酸銀;銀−アミノ酸錯体、例えば、銀−システイン錯体;アルキルスルホン酸銀、例えば、メタンスルホン酸銀が挙げられうる。銀化合物の混合物が使用されうる。組成物中の銀イオンの濃度は典型的には2g/L〜40g/Lの量である。この銀化合物は、ウィスコンシン州、ミルウォーキーのアルドリッチケミカルカンパニーのような様々なソースから一般的に市販されている。商業的に有用な銀めっき組成物の例は、ロームアンドハースエレクトロニックマテリアルズLLCから、シルバーグロ(SILVER GLO(商標))3K銀電気めっき浴、シルバージェット(SILVERJET(商標))300銀電気めっき浴、シルバーグリーム(SILVER GLEAM(商標))360銀電気めっき浴、エンライト(ENLIGHT(商標))銀めっき600および620として入手可能である。
【0038】
アニオン性、カチオン性、両性および非イオン性界面活性剤のような様々な従来の界面活性剤が銀めっき組成物において使用されることができる。界面活性剤は従来の量で含まれうる。銀めっき組成物は1種以上の追加の従来の成分を含むことができる。このような追加の成分には、限定されないが、電解質、緩衝剤、光沢剤、結晶粒微細化剤、キレート化剤、錯化剤、還元剤、平滑化剤および延性増強剤が挙げられる。この追加の成分は当該技術分野において周知であり、かつ従来の量で使用される。
【0039】
銀めっき組成物は1〜14、典型的には1〜12、さらにより典型的には1〜8の範囲のpHを有することができる。銀めっきの際の銀めっき組成物の稼働温度は10〜100℃、または例えば、20〜60℃である。典型的な電流密度は0.1ASD〜50ASD、より典型的には1ASD〜20ASDである。
【0040】
場合によっては、変色防止層が銀層上に堆積されうる。従来の変色防止組成物が使用されうる。このような変色防止材料の市販の例はノーターン(NOTARN(商標))PM3変色防止配合物、ポアブロッカー(POREBLOCKER(商標))100変色防止配合物およびポアブロッカー(商標)200変色防止配合物(ロームアンドハースエレクトロニックマテリアルズLLCから入手可能)である。
【0041】
ニッケルまたはニッケル合金に隣接するスズまたはスズ合金隣接膜の少なくとも2倍の厚さの銀層は、ニッケル層の酸化を抑制し、よって、高温適用の際のこの銀と基体との間の接着不良を抑制する。ニッケル/スズの金属間化合物はスズ層とニッケル層との界面で生じ、およびスズ/銀の金属間化合物はスズ層と銀層との界面で生じる。理論に拘束されないが、スズ/銀金属間化合物の形成は銀層の微小構造を変化させて、そしてニッケルまたはニッケル合金表面に酸素が到達するのを妨げることができ、並びにニッケル/スズ金属間化合物の形成はニッケルまたはニッケル合金層の酸化抵抗性を増大させることができる。ニッケルまたはニッケル合金層の酸化は、当該技術分野において周知の標準EDSまたはEDX分析方法を用いて測定されうる。この物品は高温環境において、銀層の接着不良について最小限の懸念で使用されうる。一般に、この物品は、銀層が150℃以上の温度に曝露されうる、PCB、電気コネクタ、発光ダイオード(LED)、電気自動車および他の用途における部品またはコンポーネントとして使用されうる。
【0042】
以下の実施例は本発明を説明するために記載されており、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【実施例】
【0043】
例1(比較)
3つの清浄化された銅ベースの2cm×5cmの試験片(銅または銅/亜鉛)が、表1に開示される配合を有する水性ニッケル電気めっき浴中に配置された。
【0044】
【表1】

【0045】
この試験片は整流器に接続され、および対電極は白金めっきチタン電極であった。ニッケルめっき浴の温度は、ニッケル電気めっきの際30℃に維持された。電流密度は1ASDであった。各銅試験片上に厚さ2μmのニッケルの層が堆積されるまで、電気めっきが行われた。この試験片はめっき浴から取り出され、そして室温で脱イオン水ですすがれた。
【0046】
次いで、銀イオン源としての2g/Lのシアン化銀、および100g/Lのシアン化カリウムを含んでいた水性銀ストライク浴中にこの試験片が配置された。このニッケルめっきされた銅試験片は整流器に接続された。対電極は白金めっきチタン電極であった。ニッケル上に0.1μmの銀ストライク層が堆積されるまで、銀電気めっきは60℃で、0.1ASDの電流密度で行われた。
【0047】
次いで、この試験片は、表2に開示される配合を有していた銀電気めっき浴内に配置された。
【0048】
【表2】

【0049】
これら試験片は整流器に接続され、および対電極は白金めっきチタン電極であった。銀浴は60℃の温度に維持された。電流密度は2ASDであった。銀ストライク層上に厚さ5μmの銀の層が堆積されるまで、銀電気めっきが行われた。
【0050】
銀めっきされた試験片は銀電気めっき浴から取り出され、脱イオン水ですすがれ、そして室温で空気乾燥させられた。次いで、標準クロスハッチおよびテープ試験を用いて各試験片について銀層の接着性が試験された。全てのテスト試験片は良好な接着性を示した。銀コーティングされた試験片からテープを引っ張った後で、そのテープ上に銀は観察されなかった。
【0051】
次いで、これら試験片は200℃で1,000時間にわたってコンベンショナル対流式オーブン内で貯蔵された。試験片を室温まで冷却し、次いでクロスハッチおよびテープ試験によって、試験片への銀の接着性が200時間ごとにチェックされた。400時間後に、試験片の全ては劣った銀接着性の徴候を示した。1000時間後には、試験片はオーブンから取り出され、室温まで冷却された。
【0052】
各試験片の断面がとられ、ツァイス(Zeiss)からのEDXを備えたシグマ(SIGMA)SEM走査型電子顕微鏡で検査された。SEMの全てはニッケル層と銀層との界面において隙間を示した。図2は、この検査された銅試験片の1つの断面のSEMである。SEMの頂部は、断面分析のためのサンプルを固定するために使用された埋込み用樹脂である。電気めっきされた銀層はこの埋込み樹脂の下にあり、そして高温貯蔵の際に形成された隙間が、銀層のすぐ下の銀層とニッケル層との界面に認められる。銅ベース材料はニッケル層のすぐ下である。
【0053】
例2(比較)
銀ストライク層の代わりに金ストライク層がニッケル層上にめっきされたこと以外は、実施例1に上述されたように3つの銅ベースの試験片が製造された。水性金ストライク浴は表3における配合を有していた。
【0054】
【表3】

【0055】
この金ストライク浴は40℃の温度で0.2ASDの電流密度に維持された。厚さ0.1μmの金の層がニッケル層上に堆積されるまで、金電気めっきが行われた。
【0056】
次いで、各試験片は、表2に上述されたシアン化銀浴を用い,5μmの厚さの銀層で電気めっきされた。実施例1におけるのと同じ銀めっき条件が使用された。
【0057】
銀めっきされた試験片はこの銀電気めっき浴から取り出され、脱イオン水ですすがれ、そして室温で空気乾燥させられた。次いで、標準クロスハッチおよびテープ試験を用いて各試験片について銀層の接着性が試験された。全てのテスト試験片は良好な接着性を示した。銀コーティングされた試験片からテープを引っ張った後で、そのテープ上に銀は観察されなかった。
【0058】
次いで、これら試験片は200℃で1,000時間にわたってコンベンショナル対流式オーブン内で貯蔵された。試験片への銀の接着性が200時間ごとにチェックされた。400時間後に、試験片の全ては劣った銀接着性の徴候を示した。1000時間後には、試験片はオーブンから取り出され、室温まで冷却された。
【0059】
各試験片の断面がとられ、走査型電子顕微鏡で検査された。SEMの全てはニッケル層と金ストライク層との界面において隙間を示した。図3は、この検査された試験片の1つの断面のSEMである。SEMは、高温貯蔵の際の銀層とニッケル層との間の剥離を示す。
【0060】
例3(比較)
銀ストライク層の代わりにパラジウムおよびニッケル合金ストライク層がニッケル層上にめっきされたこと以外は、実施例1に上述されたように3つの銅ベースの試験片が製造された。水性パラジウムおよびニッケル合金ストライク浴は表4における配合を有していた。
【0061】
【表4】

【0062】
このパラジウムおよびニッケル合金ストライク浴は60℃の温度で0.2ASDの電流密度に維持された。厚さ0.1μmのパラジウムおよびニッケル合金の層がニッケル層上に堆積されるまで、パラジウムおよびニッケル合金電気めっきが行われた。
【0063】
次いで、各試験片は、表2に上述されたシアン化銀浴を用い,5μmの厚さの銀層で電気めっきされた。実施例1におけるのと同じ銀めっき条件が使用された。
【0064】
銀めっきされた試験片はこの銀電気めっき浴から取り出され、脱イオン水ですすがれ、そして室温で空気乾燥させられた。次いで、標準クロスハッチおよびテープ試験を用いて各試験片について銀層の接着性が試験された。全てのテスト試験片は良好な接着性を示した。銀コーティングされた試験片からテープを引っ張った後で、そのテープ上に銀は観察されなかった。
【0065】
次いで、これら試験片は200℃で1,000時間にわたってコンベンショナル対流式オーブン内で貯蔵された。試験片への銀の接着性が200時間ごとにチェックされた。400時間後に、試験片の全ては劣った銀接着性の徴候を示した。1000時間後には、試験片はオーブンから取り出され、室温まで冷却された。
【0066】
各試験片の断面がとられ、走査型電子顕微鏡で検査された。SEMの全てはニッケル層とパラジウムおよびニッケルストライク層との界面において隙間を示した。図4は、この検査された銅試験片の1つの断面のSEMである(この図には銅ベースは示されていない)。SEMは、高温貯蔵の際の銀層とニッケル層との間の剥離を示す。
【0067】
実施例4
銀ストライク層の代わりにスズストライク層がニッケル層上にめっきされたこと以外は、実施例1に上述されたように3つの銅ベースの試験片が製造された。水性スズストライク浴は表5における配合を有していた。
【0068】
【表5】


テルジトール(TERGITOL(商標))L62非イオン性界面活性剤(ザダウケミカルカンパニーから入手可能)
【0069】
このスズストライク浴は60℃の温度で0.1ASDの電流密度に維持された。厚さ0.2μmのスズの層がニッケル層上に堆積されるまで、スズ電気めっきが行われた。
【0070】
次いで、各試験片は、表2に上述されたシアン化銀浴を用い,5μmの厚さの銀層で電気めっきされた。実施例1におけるのと同じ銀めっき条件が使用された。
【0071】
銀めっきされた試験片はこの銀電気めっき浴から取り出され、脱イオン水ですすがれ、そして室温で空気乾燥させられた。次いで、標準クロスハッチおよびテープ試験を用いて各試験片について銀層の接着性が試験された。全てのテスト試験片は良好な接着性を示した。銀コーティングされた試験片からテープを引っ張った後で、そのテープ上に銀は観察されなかった。
【0072】
次いで、これら試験片は200℃で1,000時間にわたってコンベンショナル対流式オーブン内で貯蔵された。試験片への銀の接着性が200時間ごとにチェックされた。200時間のインターバルのいずれにおいても、銀層と試験片との間のいかなる接着不良の観察可能な証拠も存在していなかった。1000時間後には、試験片はオーブンから取り出され、室温まで冷却された。次いで、標準クロスハッチおよびテープ試験を用いて各試験片について銀層の接着性が試験された。銀層とニッケル層との間に接着不良の徴候はなかった。全てのテスト試験片は良好な接着性を示した。
【0073】
各試験片の断面がとられ、走査型電子顕微鏡で検査された。SEMのいずれにおいても、金属層の界面における観察可能な隙間は認められなかった。図5は、この検査された銅試験片の1つの断面のSEMである。銀とニッケルとの間の剥離はSEMにおいて観察されなかった。ニッケルおよびスズの金属間化合物、並びにスズおよび銀の金属間化合物が、銀層とニッケル層との間の界面に生じた。
【符号の説明】
【0074】
1 銅含有基体
2 ニッケル含有バリア層
3 スズ含有ストライク層
4 銀層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金を含む基体、前記基体の前記銅または銅合金に隣接したニッケル層、前記ニッケル層に隣接したスズ層、並びに前記スズ層に隣接した銀層を含み、前記銀層が前記スズ層の少なくとも2倍の厚さである物品。
【請求項2】
前記スズ層が少なくとも0.01μmの厚さである請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記銀層が少なくとも0,02μmの厚さである請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記物品がニッケルおよびスズ金属間化合物、並びにスズおよび銀金属間化合物の1種以上を含む請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記物品が電気コネクタ、プリント回路板、発光ダイオードまたは電気自動車の部品である請求項1に記載の物品。
【請求項6】
a)銅または銅合金を含む基体を提供し;
b)前記基体の前記銅または銅合金に隣接してニッケル層を堆積させ;
c)前記ニッケル層に隣接してスズ層を堆積させ;並びに、
d)前記スズ層に隣接して銀層を堆積させ、前記銀層が前記スズ層の少なくとも2倍の厚さである;
ことを含む方法。
【請求項7】
前記銀がシアン化物含有浴から堆積される請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−32588(P2013−32588A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−162200(P2012−162200)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【Fターム(参考)】