説明

(メタ)アクリル酸エステル

【課題】側鎖に安定ラジカルを有する重合体を効率的に得る製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(a)。
【化1】


(式中、Rは、水素又はメチル基、Rは、置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又はシアノ基、R及びRは、置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキルカルボキシル基又は置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のカルボキシルアルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル、前記(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分を重合して得られる重合体、前記重合体にエネルギーを与え安定ラジカルを有する重合体を得る製造方法、前記製造方法で得られた安定ラジカルを有する重合体を用いた有機ラジカル電池、前記製造方法で得られた安定ラジカルを有する重合体と樹脂を含む樹脂組成物及び前記樹脂組成物を成形して得られた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ラジカル電池は、充放電が可能な二次電池の一つで、従来の二次電池のようにカドミウムや鉛のような重金属を用いることがないので、人体や環境に及ぼす影響は少なく、また、充放電の高速化や柔軟性に優れることから、近年研究が盛んに行われている。
有機ラジカル電池の材料としては、ニトロキシドラジカルのように安定ラジカルを有する重合体が一般に用いられる。ニトロキシドラジカルを有する重合体を得る方法としては、例えば、特許文献1に記載のような分子内に不飽和二重結合を有するアルコキシアミン骨格を有するヒンダードアミン型光安定剤(以下、反応性NOR−HALSという。)を含む単量体成分を重合した重合体を前駆体として用いる方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−281009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案されている反応性NOR−HALSを用いる方法は、ニトロキシドラジカルに3級炭素でなく1級炭素が結合しているため、ニトロキシドラジカルに付加した置換基が脱離しづらく、側鎖に安定ラジカルを有する重合体を得るのが困難であるという課題を有する。
本発明の目的は、側鎖に安定ラジカルを有する重合体を効率的に得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(a)である。
【化1】

(式中、Rは、水素又はメチル基、Rは、置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又はシアノ基、R及びRは、置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキルカルボキシル基又は置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のカルボキシルアルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。)
【0006】
また、本発明は、前記(メタ)アクリル酸エステル(a)を含む単量体成分を重合して得られる重合体である。
また、本発明は、前記重合体にエネルギーを与え、下記一般式(2)で表される単量体(a’)単位を含む重合体を得る製造方法である。
【化2】

(式中、Rは、水素又はメチル基を表す。)
また、本発明は、前記製造方法で得られた単量体(a’)単位を含む重合体を用いた有機ラジカル電池である。
また、本発明は、前記製造方法で得られた単量体(a’)単位を含む重合体と樹脂を含む樹脂組成物である。
更に、本発明は、前記樹脂組成物を成形して得られる成形体である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル(a)は、ニトロキシドラジカルに付加した置換基が解離することなく、ラジカル重合を行うことが可能である。また、前記(メタ)アクリル酸エステル(a)を含む単量体成分を重合して得られた重合体は、エネルギーを与えることで安定ラジカルである単量体(a’)単位を含む重合体を得ることができる。得られる単量体(a’)単位を含む重合体は、安定ラジカルを有するため、有機ラジカル電池として有用であり、更に、樹脂に配合することにより、樹脂の耐候性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル(a)は、下記一般式(1)で表される。
【0009】
【化3】

式中、Rは、水素又はメチル基、Rは、置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又はシアノ基、R及びRは、置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキルカルボキシル基又は置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のカルボキシルアルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。
【0010】
の置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基が挙げられる。
の置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、p−メチルフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基が挙げられる。
【0011】
及びRの置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−メチル−2−メトキシプロピル基が挙げられる。
及びRの置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキルカルボキシル基としては、例えば、カルボキシル基、エチルカルボキシル基、ブチルカルボキシル基が挙げられる。
及びRの置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のカルボキシルアルキル基としては、例えば、カルボン酸メチル基が挙げられる。
及びRとしては、互いに結合して環を形成してもよく、例えば、5員環、6員環、7員環が挙げられる。
【0012】
これらの(メタ)アクリル酸エステル(a)の中でも、合成が容易であることから、1−(1−メチルシクロヘキシル)オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン、1−クミルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン、1−(1−シアノ−1―メチル)エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン、1−(1−シアノ−1―メチルブタン酸)オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン、1−(1−シアノ−1,3−ジメチル−3−メトキシブチル)オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン、1−(1−シアノ−1,3−ジメチルブチル)オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン、1−(1−シアノ−1―メチル酢酸メチル)オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン、1−(1−シアノ−1―メチルプロピル)オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジンが好ましく、原料の入手のし易さから、1−(1−メチルシクロヘキシル)オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン、1−クミルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン、1−(1−シアノ−1―メチル)エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン、1−(1−シアノ−1、3−ジメチル−3−メトキシブチル)オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン、1−(1−シアノ−1―メチル酢酸メチル)オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジンがより好ましい。
【0013】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル(a)は、ニトロキシドラジカルに3級炭素が結合しているため、ニトロキシドラジカルに付加した置換基が脱離しやすく、効率的に単量体(a’)単位を含む重合体を得ることができる。
【0014】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル(a)の合成方法としては、特に制限されることはなく、例えば、以下に示すような公知の合成方法が挙げられる。
【0015】
一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(a)の中でも、Rがメチル基、Rがフェニル基、R及びRがいずれもメチル基である1−クミルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジンは、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−N−オキシドに、無水酢酸によるアセチル保護を行い、ジ−t−ブチルペルオキシド及びクメン存在下で光照射を行うことにより反応させ、アセチル保護を脱保護した後、メタクリロイルクロリドと反応させることで合成することができる。
【0016】
一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(a)の中でも、Rがメチル基、Rがシアノ基、R及びRがいずれもメチル基である1−(1−シアノ−1−メチル)エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジンは、例えば、Matyjaszewskiらの論文(Macromolecules 1998年、31号、5955〜5957項)に記載の方法で合成することができる。具体的には、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−N−オキシドに、無水酢酸によるアセチル保護を行い、4,4’−t−ブチル−2,2’−ビピリジン又はN,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、並びに臭化銅(I)存在下、2−ブロモイソブチロニトリルと反応させ、アセチル保護を脱保護した後、メタクリロイルクロリドと反応させることで合成することができる。
また、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−N−オキシドに、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル存在下で光照射又は加熱により2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを分解させ、イソブチロニトリルラジカルを反応させた後、メタクリロイルクロリドと反応させることで合成することができる。
【0017】
本発明の重合体は、(メタ)アクリル酸エステル(a)を含む単量体成分を重合して得られる。
(メタ)アクリル酸エステル(a)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
単量体成分は、(メタ)アクリル酸エステル(a)以外にも共重合可能なその他の単量体(b)を含んでもよい。
その他の単量体(b)は、得られる重合体の用途に応じて適宜設定することができ、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−2−アミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等の芳香族ビニル単量体;パーフルオロエチレン、弗化ビニリデン等の弗素含有単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の塩素含有単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等の珪素含有単量体;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル又はジアルキルエステル等のマレイン酸系単量体;フマル酸、フマル酸モノアルキルエステル又はジアルキルエステル等のフマル酸系単量体;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有単量体;(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、プロピレン等のアルケン;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンが挙げられる。これらのその他の単量体(b)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
その他の単量体(b)の中でも、得られる重合体の特性の観点から、メタクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン等の芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有単量体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル及びシアノ基含有単量体がより好ましい。
【0019】
尚、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は「メタクリル」を表す。
【0020】
重合体中の(メタ)アクリル酸エステル(a)単位とその他の単量体(b)単位の組成比としては、得られる重合体の用途に応じて適宜設定することができ、全単量体単位100mol%中、(メタ)アクリル酸エステル(a)単位が1〜100mol%、その他の単量体(b)単位が0〜99mol%であることが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル(a)単位が10〜100mol%、その他の単量体(b)単位が0〜90mol%であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸エステル(a)単位が50〜100mol%、その他の単量体(b)単位が0〜50mol%であることが更に好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル(a)単位の含有率が、1mol%以上であれば、有機ラジカル電池としての効果を有し、樹脂に配合したときの樹脂の耐候性に優れる。
その他の単量体(b)単位の含有率が、99mol%以下であれば、有機ラジカル電池としての効果を有し、樹脂に配合したときの樹脂の耐候性に優れる。
【0021】
単量体成分の重合方法としては、例えば、ラジカル重合、イオン重合等の公知の重合方法が挙げられる。
これらの重合方法の中でも、重合効率に優れることから、ラジカル重合が好ましい。
また、ラジカル重合としては、原子移動ラジカル重合、可逆的付加開裂型連鎖移動重合等の公知の制御ラジカル重合も用いることができる。
【0022】
単量体成分の重合形態としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等の公知の重合形態が挙げられる。
【0023】
単量体成分の重合媒体としては、例えば、無溶媒、各種溶媒、水等の分散媒、超臨界二酸化炭素が挙げられる。
溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
単量体成分の重合におけるラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等の過酸化物系開始剤;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)等のアゾ系開始剤が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのラジカル重合開始剤の中でも、重合効率に優れ、取扱性に優れることから、ベンゾイルパーオキシド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましい。
【0025】
単量体成分の重合におけるラジカル重合開始剤の使用量としては、得られる重合体の用途に応じて適宜設定することができ、単量体成分1molに対して、0.00001〜0.01molであることが好ましく、0.0001〜0.01molであることがより好ましい。
【0026】
単量体成分の重合における雰囲気としては、特に制限されることはないが、ラジカル重合の場合、酸素はラジカルと容易に反応し重合を阻害するため、酸素不存在雰囲気であることが好ましい。
【0027】
単量体成分の重合温度としては、−50〜50℃であることが好ましく、0〜30℃であることがより好ましい。
重合温度が50℃以下であれば、重合時にニトロキシドラジカルに付加した置換基が解離することなく、重合体を得ることができ、−50℃以上であれば、重合反応が停止することなく、重合体を得ることができる。
【0028】
本発明の重合体の数平均分子量としては、1000〜100万であることが好ましく、2000〜50万であることがより好ましい。
重合体の数平均分子量が1000以上であれば、重合体が大気中に揮発することが抑制され、100万以下であれば、溶融成形等の成形が容易となる。
また、重合体の数平均分子量を調節するために、重合時にメルカプタン等の連鎖移動剤を用いることもできる。
【0029】
本発明の重合体は、エネルギーを与えることで、下記一般式(2)で表される単量体(a’)単位を含む重合体を得ることができる。
【化4】

(式中、Rは、水素又はメチル基を表す。)
【0030】
エネルギーとしては、(メタ)アクリル酸エステル(a)単位の窒素−酸素−炭素結合における酸素−炭素結合を解離させることができれば特に制限されることはなく、例えば、熱エネルギー、紫外線等の光エネルギーが挙げられる。
これらのエネルギーの中でも、(メタ)アクリル酸エステル(a)単位の窒素−酸素−炭素結合における酸素−炭素結合を効率的に解離させることができることから、熱エネルギーが好ましい。
【0031】
熱エネルギーを与える方法としては、(メタ)アクリル酸エステル(a)単位の窒素−酸素−炭素結合における酸素−炭素結合を解離させることができれば特に制限されることはなく、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(a)を含む単量体成分を重合した後、そのまま加熱する方法、重合体を単離した後、重合体を溶剤に溶解させ、加熱する方法が挙げられる。
これらの熱エネルギーを与える方法の中でも、(メタ)アクリル酸エステル(a)単位を含む重合体から脱離したR、R、Rを含む化合物等の不純物の除去が容易であることから、重合体を単離した後、重合体を溶剤に溶解させ、加熱する方法が好ましい。
【0032】
溶剤としては、重合体を溶解させることができる溶剤であれば特に制限されることはなく、例えば、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒が挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
尚、単量体(a’)単位を含む重合体を製造する際に生成する(メタ)アクリル酸エステル(a)単位を含む重合体から脱離したR、R、Rを含む化合物は、低分子の化合物であるため、エネルギーを与えている間又はエネルギーを与えた後に、除去することができる。
具体的には、沸点の高い溶媒中で(メタ)アクリル酸エステル(a)を含む単量体成分を重合した後、減圧下で加熱しながら化合物を揮発させ除去する方法や(メタ)アクリル酸エステル(a)を含む単量体成分を加熱した後、再沈殿により化合物を除去する方法が挙げられる。
【0034】
熱エネルギーを与える際の加熱温度としては、(メタ)アクリル酸エステル(a)単位の窒素−酸素−炭素結合における酸素−炭素結合を解離させることができれば特に制限されることはなく、1%質量減少温度より高い温度であれば、効率的に単量体(a’)単位を含む重合体を得ることができる。具体的には、70〜200℃であることが好ましく、70〜170℃であることがより好ましい。
加熱温度が70℃以上であれば、(メタ)アクリル酸エステル(a)単位の窒素−酸素−炭素結合における酸素−炭素結合を効率的に解離させることができ、200℃以下であれば、重合体を分解させることが少ない。
【0035】
本発明の単量体(a’)単位を含む重合体の製造方法は、従来の単量体(a’)をアニオン重合して得る方法に比べて、安価に合成することが可能であることから好ましい。
【0036】
本発明の製造方法により得られた単量体(a’)単位を含む重合体は、側鎖に安定ラジカルを有することから、有機ラジカル電池として有用である。
【0037】
有機ラジカル電池は、軽量かつ大出力を可能とする蓄電デバイスであり、正極、負極の少なくとも一方の活物質がラジカル化合物を含有することを特徴としており、前記ラジカル化合物として、単量体(a’)単位を含む重合体を用いることができる。
単量体(a’)単位を含む重合体は、正極活物質、負極活物質のいずれにも用いることができるが、金属酸化物系の活物質に比べて比重が小さく、エネルギー密度に優れることから、正極活物質に用いることが好ましい。
【0038】
正極での電極反応としては、高速充放電が可能となることから、放電時の電極反応が安定ラジカルを有する単量体(a’)単位を含む重合体を反応物とする電極反応であることが好ましい。また、前記反応の生成物が電解質カチオンとの結合を形成する反応であれば、更なる高速充放電が期待される。
電解質カチオンとしては、特に制限されるものではないが、容量の観点から、リチウムイオンが好ましい。
【0039】
尚、前記反応物とは、化学反応を起こす物質であり、長時間に亘って安定に存在する物質のことである。一方、前記生成物とは化学反応の結果生じる物質であり、長時間に亘って安定に存在する物質のことである。
【0040】
本発明の有機ラジカル電池の形状としては、公知の形状が挙げられる。二次電池の形状としては、例えば、電極積層体又は巻回体を、金属ケース、樹脂ケース又はアルミニウム箔等の金属箔と合成樹脂フィルムからなるラミネートフィルム等により封止したものが挙げられる。
【0041】
本発明の有機ラジカル電池の製造方法としては、公知の製造方法が挙げられる。例えば、本発明の製造方法で得られた単量体(a’)単位を含む重合体に溶剤を加えスラリー状にして電極集電体に塗布し、セパレータを介して対極と積層する方法、本発明の製造方法で得られた単量体(a’)単位を含む重合体に溶剤を加えスラリー状にして電極集電体を巻回したものを外装体で包み、電解液を注入して封止する方法が挙げられる。
【0042】
本発明の製造方法により得られた単量体(a’)単位を含む重合体は、側鎖に安定ラジカルを有することから、樹脂に配合することにより、樹脂の耐候性を向上させることが可能である。
【0043】
樹脂としては、単量体(a’)単位を含む重合体がラジカル捕捉剤としての機能を有し樹脂の分解を抑制することから、ラジカル重合で得られた樹脂がよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体、スチレン・アクリロニトリル等のスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
本発明の樹脂組成物を成形する方法としては、例えば、カレンダー成形、押出成形、押出ブロー成形、射出成形等の公知の成形方法が挙げられる。
【0045】
本発明の成形体は、樹脂の耐候性に優れることから、屋外等の過酷な環境下で用いられる高分子材料に好適である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例、比較例における各評価は、以下に示す方法により実施した。
【0048】
(1)(メタ)アクリル酸エステル(a)の同定
測定には、H−NMR(機種名「JNM−EX270」、日本電子(株)製)を用いた。
合成したメタクリル酸エステルを重水素化クロロホルムに溶解し、基準物質にテトラメチルシランを用い、測定温度25℃、積算回数16回で測定した。ピーク強度の積分比及びピーク位置から、(メタ)アクリル酸エステル(a)を同定した。
【0049】
(2)(メタ)アクリル酸エステル(a)の元素分析
測定には、有機元素分析装置(機種名「vario EL III」、エレメンタール社製)を用いた。
測定条件は、エレメンタール社が推奨する標準条件で行った。
【0050】
(3)共重合体の組成比
測定には、H−NMR(機種名「JNM−EX270」、日本電子(株)製)を用いた。
合成した重合体を重水素化クロロホルムに溶解し、基準物質にテトラメチルシランを用い、測定温度25℃、積算回数16回で測定した。(メタ)アクリル酸エステル(a)に由来するピーク強度とその他の単量体(b)に由来するピーク強度の積分比から、共重合体の組成比を計算した。
【0051】
(4)重合体の数平均分子量及び分子量分布
重合体の数平均分子量及び分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量)は、ポリメタクリル酸メチルをスタンダードとして、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、以下の条件により測定した。
機種名 :HLC−8220(東ソー(株)製)
カラム :TSK GUARD COLUMN SUPER HZ−L(東ソー(株)製、4.6×35mm)、TSK−GEL SUPER HZM−N(東ソー(株)製、6.0×150mm)、2直列接続
溶離液 :クロロホルム
測定温度:40℃
流速 :0.6ml/分
【0052】
(5)重合体の熱分解性(1%質量減少温度)
測定には、熱分析装置(機種名「TG/DTA6300」、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)を用いた。
十分乾燥させた重合体を所定量計り取り、空気中、30〜500℃の温度範囲で、10℃/分で昇温させ、1%質量減少温度を測定した。
【0053】
(6)重合体のラジカル濃度
測定には、電子スピン共鳴測定装置(機種名「JES TE−200」、日本電子(株)製)を用い、以下の条件により測定した。
中心磁場 :3346±50ガウス
モジュレーション:100KHz、1.0ガウス
パワー :20mW
ゲイン :1×100、5×10
レスポンス :0.1秒
尚、ラジカル濃度の決定には、予め定量しておいた2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシドを用い、スペクトルの二回積分により定量し検量線を作成し、作成した検量線からラジカル濃度を算出した。
【0054】
[実施例1]1−(1−メチルシクロヘキシル)オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン(a1)の合成
テトラヒドロフラン200ml中、トリエチルアミン30.3g(300mmol)及び4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド34.4g(200mmol)の溶液に、無水酢酸25.5g(250mmol)を0℃において添加した。25℃に昇温して12時間反応させた後、回転エバポレーターで濃縮した。残渣を氷水1000mlに投入し、析出した橙色固体を濾取して、4−アセチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド33.8gを得た。収率は78.9質量%であった。
4−アセチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド2.14gをメチルシクロヘキサン50mlに溶解し、酸化モリブデン存在下、20分間還流脱水した。還流脱水しつつ、t−ブチルヒドロペルオキシド70質量%水溶液6.4g(50mmol)を5時間かけて滴下し、反応させた。室温まで冷却後、飽和重亜硫酸ナトリウム水溶液10mlを徐々に加え、未反応の過酸化物を失活させた。有機層を回転エバポレーターで濃縮した後、残渣をメタノール10mlに溶解させ、0.60g(15mmol)の水酸化ナトリウムを加えて、25℃において1時間反応させた。混合物を回転エバポレーターで濃縮し、残渣に水50mlを加え、総計50mlのジクロロメタンを用いて抽出した。有機層を回転エバポレーターで濃縮した後、ジクロロメタン5ml及びトリエチルアミン5mlに溶解させ、メタクリロイルクロリド1.25g(12mmol)を、0℃において添加し、1時間反応させた。混合物を回転エバポレーターで濃縮し、残渣に水50mlを加え、総計50mlの酢酸エチルを用いて抽出した。有機層を回転エバポレーターで濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル=10/1(体積比))によって精製して、無色の固体を0.91g得た。収率は26.9質量%であった。
得られた無色の固体について、H−NMRの測定結果を以下に示す。測定結果から、得られた無色の固体が1−(1−メチルシクロヘキシル)オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン(a1)であることを確認した。
H−NMR(δ(ppm))
1.17(s、6H)、1.24(s、6H)、1.32−1.89(m、17H)、1.92(s、3H)、5.08(m、1H)、5.52(s、1H)、6.10(s、1H)
【0055】
[実施例2]1−クミルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン(a2)の合成
実施例1で得た4−アセチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド4.29g(20mmol)を、クメン200mlに溶解し、ジt−ブチルペルオキシド11.7g(80mmol)を加え、20分間窒素バブリングを行った。溶液を光化学反応装置に移液し、紫外線照射を1時間行い反応させた。混合物を回転エバポレーターで濃縮し、残渣をメタノール30mlに溶解させ、1.20g(30mmol)の水酸化ナトリウムを加えて、25℃において1時間反応させた。混合物を回転エバポレーターで濃縮し、残渣に水100mlを加え、総計100mlのジクロロメタンを用いて抽出した。有機層を回転エバポレーターで濃縮した後、ジクロロメタン5ml及びトリエチルアミン5mlに溶解させ、メタクリロイルクロリド2.30g(22mmol)を、0℃において添加し、1時間反応させた。混合物を回転エバポレーターで濃縮し、残渣に水100mlを加え、総計100mlの酢酸エチルを用いて抽出した。有機層を回転エバポレーターで濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル=10/1(体積比))によって精製して、無色の固体を3.86g得た。収率は53.7質量%であった。
得られた無色の固体について、H−NMRの測定結果を以下に示す。測定結果から、得られた無色の固体が1−クミルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン(a2)であることを確認した。
H−NMR(δ(ppm))
0.89(s、6H)、1.21(s、6H)、1.24(m、2H)、1.61(s、6H)、1.86(m、2H)、1.91(s、3H)、5.06(m、1H)、5.52(s、1H)、6.05(s、1H)、7.20(t、1H)、7.30(t、2H)、7.47(d、2H)
【0056】
[実施例3]1−(1−シアノ−1−メチル)エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン(a3)の合成
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド2.05g(13mmol)をトルエン40mlに溶解し、10分間窒素置換した後に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.27g(7.7mol)を加えて80℃まで昇温した。適時薄層クロマトグラフィーで反応を追跡しながら、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを合計2.5g(15.4mol)追加して9時間反応させた。反応終了後、減圧で濃縮し粗生成物5.3gを得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶媒:ヘキサン/酢酸エチル)によって精製し、1−(1−シアノ−1−メチル)エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン2.6g(11.5mmol、収率89質量%)を得た。1−(1−シアノ−1−メチル)エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン2.6g(11.5mmol)をトルエン17.5gに溶解し、トリエチルアミン3.5g(34.6mmol)を添加し、氷水で冷却しながらメタクリロイルクロリド1.3g(12.4mmol)を滴下した。滴下終了後、反応液温を室温まで昇温し、さらに2時間攪拌した。反応液を氷水と希塩酸の混合液に投入し後、分液ロートに移してトルエン相を分離し、水相にはさらにトルエンを加えて二回抽出した。トルエン相は飽和食塩水で2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで水分を除去した。その後、トルエンを減圧で留去し、オイル状の粗生成物3.1gを得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶媒:ヘキサン/酢酸エチル)によって精製し、無色の液体を得た。収率は65.9質量%であった。
得られた無色の液体について、H−NMRの測定結果を以下に示す。測定結果から、得られた無色の液体が1−(1−シアノ−1−メチル)エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン(a3)であることを確認した。
H−NMR(δ(ppm))
1.33(s、6H),1.34(s、6H),1.70(m、2H),1.75(s、6H),1.93(s、3H),1.95(m、2H),5.11(m、1H),5.54(s、1H),6.08(s、1H)
【0057】
[実施例4](メタ)アクリル酸エステル(a1)/メタクリル酸メチル共重合体の合成
実施例1で得られた(メタ)アクリル酸エステル(a1)0.827g(2.46mmol)及びメタクリル酸メチル4.76g(47.5mmol)の単量体成分に、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(商品名「V−70」、和光純薬(株)製)0.062g(0.201mmol)とトルエン5gを加え単量体溶液を調製した後、窒素バブリングを20分行った。ついで、内温を25℃に昇温し、そのまま24時間保持した。その後、得られた重合体を大量のメタノール中に注ぎ、再沈殿させ、白色の粉末の重合体を得た。
【0058】
[実施例5](メタ)アクリル酸エステル(a2)/メタクリル酸メチル共重合体の合成
(メタ)アクリル酸エステル(a1)0.827g(2.46mmol)の代わりに、実施例2で得られたメタクリル酸エステル(a2)0.881g(2.46mmol)を加えたこと以外は、実施例4と同様に行い、白色の粉末の重合体を得た。
【0059】
[実施例6](メタ)アクリル酸エステル(a3)/メタクリル酸メチル共重合体の合成
メタクリル酸エステル(a1)0.827g(2.46mmol)の代わりに、実施例3で得られたメタクリル酸エステル(a3)0.756g(2.46mmol)を加えたこと以外は、実施例4と同様に行い、白色の粉末の重合体を得た。
【0060】
[実施例7](メタ)アクリル酸エステル(a1)単独重合体の合成
(メタ)アクリル酸エステル(a1)0.827g(2.46mmol)及びメタクリル酸メチル4.76g(47.5mmol)の代わりに、メタクリル酸エステル(a1)16.9g(50.0mmol)を加えたこと以外は、実施例4と同様に行い、白色の粉末の重合体を得た。
【0061】
[実施例8](メタ)アクリル酸エステル(a2)単独重合体の合成
(メタ)アクリル酸エステル(a1)0.827g(2.46mmol)及びメタクリル酸メチル4.76g(47.5mmol)の代わりに、メタクリル酸エステル(a2)18.0g(50.0mmol)を加えたこと以外は、実施例4と同様に行い、白色の粉末の重合体を得た。
【0062】
[実施例9](メタ)アクリル酸エステル(a3)単独重合体の合成
(メタ)アクリル酸エステル(a1)0.827g(2.46mmol)及びメタクリル酸メチル4.76g(47.5mmol)の代わりに、メタクリル酸エステル(a3)15.4g(50.0mmol)を加えたこと以外は、実施例4と同様に行い、白色の粉末の重合体を得た。
【0063】
[実施例10]単量体(a’)単位を含む重合体の合成
実施例8で得られた重合体1gを20mlのアンプル管に注入し、トルエン3mlに溶解させ、窒素雰囲気下、100℃のオイルバスに浸漬し、4時間加熱した。得られた溶液を100mlのメタノールに沈殿させ、0.8gの赤色粉末を得た。
得られた赤色粉末0.024gをトルエン10mlに溶解させ、電子スピン共鳴測定を行ったところ、ニトロキシドラジカルに特徴的な3本線が観測され、予め2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシドを用いた検量線から見積もったラジカル濃度は4.62mmol/lであった。
尚、実施例8で得られた重合体中のクミル基が100mol%脱離した場合、ラジカル濃度は10.0mmol/lとなることから、実施例10において、重合体中のクミル基が46.2mol%脱離し、安定ラジカルである単量体(a’)単位を含む重合体が得られていることが確認された。
【0064】
実施例4〜9における重合転化率、重合体の組成、数平均分子量、分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量)、1%質量減少温度を、表1に示す。
【0065】
【表1】

表1中の略号を、以下に示す。
MMA:メタクリル酸メチル
【0066】
実施例1〜3により、本発明の(メタ)アクリル酸エステル(a)を合成することができた。また、実施例4〜9により、ニトロキシドラジカルに3級炭素が結合している(メタ)アクリル酸エステル(a)単位含む重合体を得ることができた。また、実施例10により、ニトロキシドラジカルに3級炭素が結合していることから、効率的に単量体(a’)単位を含む重合体を得ることができた。得られた重合体は、側鎖に安定ラジカルを有することから、有機ラジカル電池として有用であり、更に、樹脂に配合することにより、樹脂の耐候性を向上させることが可能であることが予想される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の製造方法により単量体(a’)単位を含む重合体は、安定ラジカルを有するため、有機ラジカル電池として有用であり、更に、樹脂に配合することにより、樹脂の耐候性を向上させることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(a)。
【化1】

(式中、Rは、水素又はメチル基、Rは、置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又はシアノ基、R及びRは、置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のアルキルカルボキシル基又は置換基を有していてもよい総炭素数1〜5のカルボキシルアルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。)
【請求項2】
請求項1記載の(メタ)アクリル酸エステル(a)を含む単量体成分を重合して得られる重合体。
【請求項3】
請求項2記載の重合体にエネルギーを与え、下記一般式(2)で表される単量体(a’)単位を含む重合体を得る製造方法。
【化2】

(式中、Rは、水素又はメチル基を表す。)
【請求項4】
請求項3記載の製造方法で得られた単量体(a’)単位を含む重合体を用いた有機ラジカル電池。
【請求項5】
請求項3記載の製造方法で得られた単量体(a’)単位を含む重合体と樹脂を含む樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2010−215902(P2010−215902A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31263(P2010−31263)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】