説明

1段バランス電圧アンプ

【課題】高い信号利得を得る一方で、出力インピーダンスを低く保時する1段バランス電圧アンプを提供する。
【解決手段】バランス電圧アンプは、3対の3極真空管を含み、2系統の入力信号(+入力、−入力)を増幅するとともに2系統の出力信号(+出力、−出力)を生成するように構成される、1段を有するように開示される。バランス電圧アンプは、高電圧利得、広帯域幅、および低出力インピーダンスを提供する。局部フィードバックは、出力と第2対の3極真空管との間に与えられる。全体フィードバックは、出力と第1対の3極真空管との間に与えられる。局部または全体フィードバックが使用される場合、さらに帯域幅が広くなり、出力インピーダンスが低くなり、全体のバランスが改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バランス電圧アンプに関し、特に3対の真空管を含む1段バランス電圧アンプに関する。
【背景技術】
【0002】
バランスアンプは、2系統の入力(+入力、−入力)および2系統の出力(+出力、−出力)を有する。差動出力は、信号利得(または電圧利得)と呼ばれる比例定数分だけ、差動入力に比例する。加えて、バランスアンプは、同相雑音および歪みを相殺するのに役立つ。その結果、アンプの雑音および歪みは、シングルエンド入力またはシングルエンド出力アンプよりも低減される。この優位性を受けて、バランスアンプは通信エレクトロニクス分野で幅広く使用されて来た。
【0003】
過去数10年間において、バランスアンプは、さらに、最高級のソリッドステート半導体オーディオパワーアンプおよび低レベルラインアンプに使用されているのを見出すことができる。前者では、バランスパワーアンプが使用される一方、後者では、バランス電圧アンプが使用される。バランスパワーアンプおよびバランス電圧アンプを実装するため、真空管デバイスを同様に用いることが可能である。現在、2つの一般的な真空管バランス電圧アンプがあり、その回路構成が図4および図5に示される。
【0004】
図4に示す回路構成は、通常「ロングテール対」、または単に差動アンプと呼ばれる。このような構成の3極真空管が「カスコード」構成の2個の3極真空管で置き換えられる場合、図5に示すようにカスコード差動アンプが形成される。3極真空管対V1a、V1b;V2a、V2bおよび抵抗対R9、R10;R11、R12;R17、R18が入念に合わせ込まれる場合、バランス電圧アンプを形成することが可能となる。図5におけるバランス電圧アンプは、図4におけるバランス電圧アンプよりも、高い信号利得および広い帯域幅を有する。一般に、低出力インピーダンスは、電圧増幅に求められるさらにもう一つの望ましい機能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
概略を言えば、抵抗R17、R18は、図4のバランス電圧アンプの信号利得および出力インピーダンスを設定し、抵抗R9、R10は、図5のバランス電圧アンプに対して同等な機能を有する。高抵抗値が与えられる場合、結果的に、高信号利得(望ましい)および高出力インピーダンス(望ましくない)となる。それゆえ、高い信号利得の達成と低出力インピーダンスの達成との間には、常にトレードオフがある。
【0006】
類似の仕様を表す高信号利得、広帯域幅、および低出力インピーダンスを備えたバランス電圧アンプが、多数の従来例のバランス電圧アンプを従属接続することにより、容易に形成される。しかしながら、ある程度の位相シフトがアンプに付随して常に存在するので、多数のアンプを従属接続することにより累積された位相シフトは、アンプ全体の位相マージンを減少させる。それゆえ、全体的なフィードバックが与えられる場合、多段アンプの不安定性に関して常に懸念がある。
【0007】
このように、前述の欠点が軽減された1段バランス電圧アンプを提供すること、または少なくとも役立つ代替案を一般に提供することが、本発明の目的である。
【0008】
特に、高い信号利得を得る一方で、出力インピーダンスを低く保時するという目標に合致する1段バランス電圧アンプを提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、少なくとも第1対、第2対、および第3対の3極真空管を含み、2系統の入力信号を増幅するとともに2系統の出力信号を生成する、1段を有するバランス電圧アンプが提供される。
【0010】
好ましくは、前記入力信号は、前記第1対の3極真空管のグリッドに供給され、前記各3極真空管のグリッド抵抗は接地され、所望のDCバイアスが保持されている。
【0011】
有利なことには、前記第1対の3極真空管のプレートから得られる出力は、前記第2対の3極真空管のカソードに供給され、アンプは、さらに、前記第2対の3極真空管のグリッドにおいて、所定のDCバイアス電圧を設定する複数の抵抗を有している。
【0012】
好都合なことには、アンプは、さらに、前記第2対の3極真空管のグリッドを接地するバイパスコンデンサを有している。
【0013】
前記第2対の3極真空管のプレートから得られる出力は、有利なことには、2個の直列抵抗を介して、前記第3対の3極真空管のカソードに供給されている。
【0014】
前記第3対の3極真空管のそれぞれは、好ましくは、カソードから直列に第1抵抗により生成される電位に基づいて自己バイアスされ、前記第3対の3極真空管のそれぞれのグリッドに供給されている。
【0015】
アンプは、さらに、前記第1抵抗と直列に第2抵抗を適切に有している。
【0016】
有利なことには、前記出力は、前記第3対の3極真空管のカソードから、複数の結合コンデンサを介して得られている。
【0017】
好ましくは、アンプは、さらに、前記第1対の3極真空管のカソード間に接続される、2個の固定抵抗および1個の可変抵抗を有し、前記2個の固定抵抗および1個の可変抵抗は、可変抵抗が中間に位置する状態で接続されている。
【0018】
適切なことには、前記2個の固定抵抗は、電圧利得を設定するために与えられている。
【0019】
前記可変抵抗は、有利なことには、小さい値であり、アンプのバランスを微調整するために与えられている。
【0020】
アンプは、さらに、前記可変抵抗の中間タップから負電源に適切に接続される抵抗または定電流源を有している。
【0021】
前記定電流源は、好都合なことには、接合ゲート電界効果トランジスタ、金属酸化物半導体電界効果トランジスタ、バイポーラ接合トランジスタ、3極真空管、および5極真空管を、補完的に備えるツェナーダイオードおよび1個以上の抵抗とともに、含んでいる。
【0022】
アンプは、さらに、前記第3対の3極真空管の出力と前記第2対の3極真空管のグリッドとの間に与えられる局部フィードバックを有している。
【0023】
有利なことには、前記局部フィードバックは、RC回路網により与えられている。
【0024】
適切なことには、アンプは、さらに、第3対の3極真空管の出力と前記第1対の3極真空管の交差したカソードとの間に与えられる全体フィードバックを有している。
【0025】
前記全体フィードバックは、好都合なことには、RC回路網により与えられている。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、高い信号利得および低出力インピーダンスを備えた新たなバランス電圧アンプが、1段内に閉じ込められた3対の3極真空管により形成されることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の形態は、付属する図面を参照しながら、単に例として、以下に説明される。
【0028】
図1に示すように、本発明に従うバランス電圧アンプの第1の実施形態は、3対の真空管V101a、V101b;V102a、V102b;V103a、V103bを含む1段アンプの形態を成していることがわかる。真空管V101a、V101b;V102a、V102b;V103a、V103bは、12AT7、12AU7、12AX7、6DJ8、6SN7、6SL7、6H30P、および同類のような、広く使用される小信号用3極真空管のいずれかである。しかしながら、低出力インピーダンスが主として求められる機能の場合、6DJ8および6H30Pのような低プレートインピーダンスを備えた真空管が使用されるべきである。
【0029】
入力信号(+入力、−入力)は、第1対の3極真空管V101a、V101bに供給される。次に、これらの3極真空管V101a、V101bの出力は、第2対の3極真空管V102a、V102bのカソードに供給される。抵抗R103、R104、R105、R106により形成される抵抗回路網は、第2対の3極真空管V102a、V102bのグリッドにおいて正確なDCバイアス電圧を設定する。第2対の3極真空管V102a、V102bの出力は、プレートから得られ、抵抗R107、R108、R109、R110を介して、第3対の3極真空管V103a、V103bのカソードに供給される。抵抗R109、R110の目的は、全バランス電圧アンプのDCバイアス安定性を改善することである。
【0030】
注目すべきは、バイパスコンデンサが3極真空管V102a、V102bのグリッドからグランドに接続されることにより、電源から生成されるとともに3極真空管により増幅される恐れがある雑音を除去することである。しかしながら、電圧源+VS101および−VS102が適切に安定化され、フィルタがかけられるならば、バイパスコンデンサを省略することが可能である。
【0031】
第3対の3極真空管V103a、V103bは、カソード抵抗R107、R108により生成されるとともに3極真空管V103a、V103bのグリッドに供給される電位により、自己バイアスされる。出力は、3極真空管V103a、V103bのカソードから、結合コンデンサC101、C102を介してそれぞれ得られる。3極真空管のカソードにおける出力インピーダンスが低いので、バランス電圧アンプ全体の出力インピーダンスは低く保持される。抵抗R111、R112は、全体の信号利得を設定する。小さい値の可変抵抗VR1は、全体のバランスを微調整するため、任意で使用される。当然のことながら、このような可変抵抗は本質的な機能ではない。
【0032】
定電流源CS1は、接合ゲート電界効果トランジスタ(JFET:junction gate field−effect transistor)、バイポーラ接合トランジスタ(BJT:bipolar junction transistor)、または金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET:metal−oxide−semiconductor field−effect transistor)のようなソリッドステート半導体デバイスを、ツェナーダイオードおよび抵抗のような補完的に備える部品とともに用いることで、容易に実装することが可能である。いくつかの実用的な状況では、単なる抵抗がこの電流源を置き換えることができる。しかしながら、定電流源は、一般的に、バランス電圧アンプ全体の同相信号除去比(CMRR:common−mode−rejection−ratio)を改善する。
【0033】
ある局部フィードバックが用いられる場合、帯域幅は広くなり、出力インピーダンスはさらに低くなる。図2は、本発明の第2の実施形態に従うこのような構成を明らかにする。この回路構成は、3対の3極真空管V201a、V201b;V202a、V202b;V203a、V203bを同様に有することが分かる。第3対の3極真空管V203a、V203bの出力は、第2対の3極真空管V202a、V202bのゲートに、RC回路網C203、R213;C204、R214を介して供給される。
【0034】
図3は、さらに、本発明の第3の実施形態に従うバランス電圧アンプの回路構成を示す。図3では、全体フィードバックがアンプに与えられる。この回路構成は、同様に3対の3極真空管V301a、V301b;V302a、V302b;V303a、V303bを有する。第3対の3極真空管V303a、V303bの出力は、第1対の3極真空管V301a、V301bの交差したカソードに、RC回路網C305、R315;C306、R316を介して供給されることが分かる。全体フィードバックを用いることで、全体帯域幅を広くし出力インピーダンスを低くするだけでなく、真空管V301a、V301b;V302a、V302b;V303a、V303bの経年変化による特性変化の感度を低減する。全体のバランスを、さらに改善することが可能となる。
【0035】
本発明により、図1ないし図3に示すように、高い信号利得および低出力インピーダンスを備えた新たなバランス電圧アンプを、1段内に閉じ込められた3対の3極真空管により形成することが可能となる。
【0036】
当然のことながら、上述の説明は、単に本発明を実施することが可能な例を示しているにすぎず、本発明の精神から逸脱することなく、種々の修正および/または代替は可能である。
【0037】
さらに当然のことながら、本発明のいくらかの機能は、明確化のため個別の実施の形態との関連で説明されたが、単一の実施の形態の組合せで与えられることも可能である。反対に、簡潔にするために、単一の実施の形態との関連で説明された本発明の種々の機能は、個別にまたはいずれか適切な副次的組合せで与えられるも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、1段バランス電圧アンプに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施形態に従う1段バランス電圧アンプの回路図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に従い、局部フィードバックが出力と第2対の真空管との間に与えられる1段バランス電圧アンプの回路図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に従い、さらに図1に示す構成の修正された構成であり、全体フィードバックが出力と第1対の真空管との間に与えられる1段バランス電圧アンプの回路図である。
【図4】従来例のバランスアンプ、すなわち差動アンプの回路図である。
【図5】改善された従来例のバランス電圧アンプ、すなわちカスコード差動アンプの回路図である。
【符号の説明】
【0040】
V101a、V101b;V102a、V102b;V103a、V103b 3真空管
R103、R104、R105、R106 抵抗回路網
R107、R108、R109、R110、R111、R112 抵抗
C101、C102 結合コンデンサ
VR1 可変抵抗
+VS101、−VS102 電圧源
CS1 定電流源
V201a、V201b;V202a、V202b;V203a、V203b 3極真空管
C203、R213;C204、R214 RC回路網
V301a、V301b;V302a、V302b;V303a、V303b 3極真空管
C305、R315;C306、R316 RC回路網

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1対、第2対、および第3対の3極真空管を含み、2系統の入力信号を増幅するとともに2系統の出力信号を生成する、1段を有することを特徴とする、バランス電圧アンプ。
【請求項2】
前記入力信号は、前記第1対の3極真空管のグリッドに供給され、
前記各3極真空管のグリッド抵抗は接地され、所望のDCバイアスが保持されることを特徴とする、請求項1に記載のバランスアンプ。
【請求項3】
前記第1対の3極真空管のプレートから得られる出力は、前記第2対の3極真空管のカソードに供給され、
さらに、前記第2対の3極真空管のグリッドにおいて、所定のDCバイアス電圧を設定する複数の抵抗を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のバランスアンプ。
【請求項4】
さらに、前記第2対の3極真空管のグリッドを接地するバイパスコンデンサを有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のバランスアンプ。
【請求項5】
前記第2対の3極真空管のプレートから得られる出力は、2個の直列抵抗を介して、前記第3対の3極真空管のカソードに供給されることを特徴とする、請求項2または3に記載のバランスアンプ。
【請求項6】
前記第3対の3極真空管のそれぞれは、カソードから直列に第1抵抗により生成される電位に基づいて自己バイアスされ、前記第3対の3極真空管のそれぞれのグリッドに供給されることを特徴とする、請求項5に記載のバランスアンプ。
【請求項7】
さらに、前記第1抵抗と直列に第2抵抗を有することを特徴とする、請求項6に記載のバランスアンプ。
【請求項8】
前記出力は、前記第3対の3極真空管のカソードから、複数の結合コンデンサを介して得られることを特徴とする、請求項7に記載のバランスアンプ。
【請求項9】
さらに、前記第1対の3極真空管のカソード間に接続される、2個の固定抵抗および1個の可変抵抗を有し、
前記2個の固定抵抗および1個の可変抵抗は、可変抵抗が中間に位置する状態で接続されることを特徴とする、請求項8に記載のバランスアンプ。
【請求項10】
前記2個の固定抵抗は、電圧利得を設定するために与えられることを特徴とする、請求項9に記載のバランスアンプ。
【請求項11】
前記可変抵抗は、小さい値であり、アンプのバランスを微調整するために与えられることを特徴とする、請求項9または10に記載のバランスアンプ。
【請求項12】
さらに、前記可変抵抗の中間タップから負電源に接続される抵抗または定電流源を有することを特徴とする、請求項9ないし11のいずれかに記載のバランスアンプ。
【請求項13】
前記定電流源は、接合ゲート電界効果トランジスタ、金属酸化物半導体電界効果トランジスタ、バイポーラ接合トランジスタ、3極真空管、および5極真空管を、補完的に備えるツェナーダイオードおよび1個以上の抵抗とともに、含むことを特徴とする、請求項12に記載のバランスアンプ。
【請求項14】
さらに、前記第3対の3極真空管の出力と前記第2対の3極真空管のグリッドとの間に与えられる局部フィードバックを有することを特徴とする、請求項1に記載のバランスアンプ。
【請求項15】
前記局部フィードバックは、RC回路網により与えられることを特徴とする、請求項14に記載のバランスアンプ。
【請求項16】
さらに、第3対の3極真空管の出力と前記第1対の3極真空管の交差したカソードとの間に与えられる全体フィードバックを有することを特徴とする、請求項1に記載のバランスアンプ。
【請求項17】
前記全体フィードバックは、RC回路網により与えられることを特徴とする、請求項16に記載のバランスアンプ。
【請求項18】
明細書で詳述した内容を有し、添付図面の図1ないし図3に関することを特徴とする、バランスアンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−336534(P2007−336534A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143426(P2007−143426)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(506429499)
【氏名又は名称原語表記】LAM Chi Ming John
【Fターム(参考)】