説明

3次元湾曲印刷プラスチックシートの製造方法

【課題】3次元湾曲印刷プラスチックシートの、簡易化された安価な製造方法を提供することが必要である。
【解決手段】本発明は、印刷された3次元にカーブした熱可塑性樹脂のプラスチックシートの製造方法であって、印刷時間の間にこのシートが2次元またはほぼ2次元であるようにシートを変形することを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷された導電体を備える3次元湾曲プラスチックシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車構造のボディ重量を低減させるために、ガラス板は、例えば透明プラスチックのシートに置き換えられている。特に、一体型加熱エレメントおよび/またはアンテナエレメントを有するガラス板を、同一機能を有する軽量プラスチックシートによって置き換える解決方法が探し求められている。
【0003】
導電体構造が埋め込まれたプラスチックシートの製造方法が先行技術で知られている。
【0004】
例えばDE−A 101 47 537で、導電体をプラスチックフィルムの表面と関連させ、次にこれを、シートボディを生じるために別のプラスチック層で背面射出する(back−inject)かまたは背面エンボスする(back−emboss)方法が知られている。先行技術で知られている方法がワイヤーを配置するために使用されている。例えば、配置ヘッド(laying head)をフィルムの面の上に導き、これがわずかな圧力のもとで熱の適用を伴ってワイヤーをフィルム表面に連続的に押しつけるかまたは組み込む。この方法の欠点は、比較的時間がかかることである。改良された電線の組み込み方法は、WO 2006/105887 Aに記載されている。
【0005】
US−A 5,525,401は、プラスチックの車両窓の製造方法であって、その製造中に最初に2次元の薄いプラスチックフィルムの表面にスクリーン印刷することによって導電性構造を適用する、車両窓の製造方法を開示している。不透明フレーム状エッジストリップも備えていてもよいスクリーン印刷パターンの硬化後に、この印刷フィルムを、湾曲3次元形態を呈していてもよい射出成形金型に挿入する。次に、金型に射出されるプラスチック基材に印刷面を接合させる。
【0006】
これらの方法は、導電性構造体がフィルムとシートボディとの間に封入され、それによってダメージから保護される製品を生じるが、これらの多段階方法はフィルムを印刷するかまたは被覆する工程を包含し、次の背面射出が比較的複雑である。フィルムを使用すると製造コストも増加し、このことは自動車の大量生産における使用への大きな欠点になる。
【0007】
US−A 2006/045120は、導電性材料をノズルによって既に付形されたシートに直接適用する方法およびプラスチックの車両窓を記載している。このノズルはロボットに取り付けられており、ノズルの位置/距離はセンサーによって正確に決定されて湾曲面に所望の構造を適用する。導電性材料をシートに直接適用するノズルの使用は意味があるが、利用可能なサンプルは、光学品質が既存のシステムに及ばないことを示す。適用される材料は望ましくないビーズを生じ、適用された構造をスプレー・ミストが囲み、今のところどちらの問題を防止するプロセス工学方法も存在しない。更に、この方法は非常に時間がかかり、ノズルは完全構造を表面に適用する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先行技術から、3次元湾曲印刷プラスチックシートの、簡易化された安価な製造方法を提供することへの要求が生じる。特に、できるだけ簡単に導電性加熱エレメントおよび/またはアンテナエレメントを印刷することができる方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による方法の要点は、3次元湾曲プラスチックシートを、印刷プロセスの間、圧力または張力を与えることによって2次元またはほぼ2次元になるように変形させることである。
【0010】
一態様では、本発明による簡易化された3次元湾曲印刷プラスチックシートの製造方法は、下記工程:
(a) 熱可塑性樹脂の3次元湾曲プラスチックシートの全面または表面の一部を被覆する工程、
(b) この3次元湾曲プラスチックシートの全域または一部を2次元または実質的に2次元の領域を形成するように変形させる工程、
(c) スクリーン印刷法を使用してこのフラットなプラスチックを印刷する工程、
(d) シート上の負荷を取り除き、スクリーン印刷パターンを硬化する工程
を包含する。
【0011】
このプラスチックシートは、射出成形によって製造されても熱成形によって製造されてもよい。次に、工程(a)で、この3次元湾曲プラスチックシートの全面または表面の一部を被覆する。コーティングは、プラスチックシートの耐引掻き性および耐候性を確実にする。
【0012】
工程(b)では、任意に予め工程(a)で被覆していてもよいプラスチックシートを変形する。この目的を達成するために、例えば3次元湾曲プラスチックシートを全体的にフレーム型エレメントによって2次元表面、例えば2次元ワークベンチ上にプレスする。シートの印刷に関して反対側に真空を適用することによってシートを変形することも同様に可能であり、これによって、フレーム型エレメントを使用して圧力を適用する必要はない。シート全部ではなく一部にしか圧力を適用しないことも可能である。
【0013】
そのようにして生じる平面上のフラットなプラスチックシートに、工程(c)において、例えばスクリーン印刷法を使用して印刷する。
【0014】
好ましくは、印刷インクは、スクリーン印刷用導電性インクであり、それによって例えば加熱エレメントまたはアンテナとして使用されうるストリップ導体を印刷する。
【0015】
工程(d)では、圧力または真空を除去することによってシート上の負荷を取り除き、スクリーン印刷パターンを硬化する。
【0016】
要すれば、別の(スクリーン)印刷パターンを印刷するために、および/または、別の(スクリーン)印刷インク使用して、工程(b)、(c)および(d)で説明した処理工程を所望の回数繰り返してもよい。例えば、ストリップ導電体をカバーし、保護するために、印刷ストリップ導体の周りにフレーム型スクリーン印刷パターンを更に印刷しても、圧力を再度かけてもよい。もちろん、例えば、装飾のために、実際の印刷の前にまたは実際にスクリーン印刷用の導電性インクを用いて印刷する代わりに、別のインクまたは構造を用いて同じ方法で構造エレメントを印刷することも可能である。
【0017】
別の態様では、例えば(b)〜(d)で説明される印刷の後まで工程(a)(プラスチックシートの被覆)を行わない。構造エレメントは、印刷後に全面または表面の一部が被覆されてもよい。
【0018】
プラスチックシートは熱可塑性樹脂でつくられる。要求に依存して、透明熱可塑性樹脂を使用しても半透明熱可塑性樹脂を使用してもよい。好適な熱可塑性樹脂は、例えばジフェノールベースのポリカーボネートもしくはコポリカーボネート、ポリ−もしくはコポリアクリレートおよびポリ−もしくはコポリメタクリレート、好ましくはポリメチルメタクリレート、スチレンを有するポリマーもしくはコポリマー、好ましくは透明ポリスチレンもしくはポリスチレン−アクリロニトリル(SAN)、透明熱可塑性ポリウレタン、およびポリオレフィン、好ましくは透明ポリプロピレングレード、もしくは環状オレフィンベースのポリオレフィン(例えばTicona製のTOPASTM)、テレフタル酸の重縮合生成物または共重縮合生成物、好ましくはポリエチレンテレフタレートもしくはコポリエチレンテレフタレート(PETもしくはCoPET)もしくはグリコール変性PET(PETG)である。特に好ましい材料は、ビスフェノールAポリカーボネート、ビスフェノールAと1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとのコポリカーボネート、およびポリメチルおよびコ−メチルメタクリレート、特にポリメチルメタクリレート(PMMA)である。
【0019】
このプラスチックシートの肉厚は1〜10mm、特に2〜7mmである。このプラスチックシートは1成分構造エレメントであっても透明成分が第2のプラスチック材料で部分的に背面射出される2成分構造エレメントであってもよい。
【0020】
プラスチックシートが2成分構造エレメントである場合、第1成分は、好ましくは透明熱可塑性樹脂、特にポリカーボネートもしくはポリメチルメタクリレートでつくられ、第2成分は好ましくはポリカーボネートブレンドでつくられる。
【0021】
被覆の目的は、プラスチックシートを、環境的影響、例えば紫外線照射および屋外曝露によって引き起こされる別のストレス、と、機械的ストレス、例えば摩擦または引掻き、との両方から保護することである。ここで、ガラス状表面、例えばプラズマコーティング、または常套の市販の耐引掻き性コーティング、例えばシロキサン、ポリウレタンもしくはアクリレートベースのもの、またはこれらのコーティングが一例として挙げられる。1つの好ましい態様では、コーティングは、ポリシロキサンペイントベースのシステムを備え、これは単一層であっても(単に基材とポリシロキサントップコートとの間の接着を促進するだけのプライマー層を備える)多層であってもよい。これらは、特にUS−A 4,278,804、US−A 4,373,061、US−A 4,410,594、US−A 5,041,313およびEP−A−1 087 001に記載されている。ここで一例として挙げられるシステムは、米国コネティカット州ウィルトン在Momentive Perfoamance Materials Inc.製の市販のシステム、例えばPHC 587;PHC 587B、PHC 587C;SHP 401(プライマー)/AS 4000(トップコート)または実際にSHP 401(プライマー)/AS 4002(トップコート)並びにドイツ国ゲーストハッハト在KRD Coatings製のKASI FlexTMもしくはSun FlexTM、またはドイツ国在SDC Coatings製のSilvueTMMP 100、またはドイツ国シュヴェービッシュ・グミュント在GFO製のSicralanTM MRLである。
【0022】
シートを押し下げたまま、規格DIN EN ISO 178およびASTM−D 790−003に準拠して決定される構造エレメント中の外部ファイバー歪は、多くても2%、好ましくは1%、特に好ましくは0.5%を超えてはならない。
【0023】
例えばスクリーン印刷用導電性インクを使用して印刷を行う。これらは、好ましくは、100mΩ/□/ミル未満の表面抵抗率を有する(4探針法(four point method)を使用して測定。)。そのようなインクの供給者の例はDuPontやAchesonである。
【0024】
本発明による方法の利点は、実際、行うことが非常に簡単であり、プラントに高い資本コストが必要とされず、印刷をプラスチックシートの製造後の取り付け前の所望の時間に行うことができることにある。このように、本発明による方法は、簡単で、融通が利き、迅速であり、安価である。
【0025】
このように製造される3次元湾曲印刷プラスチックシートに非常に多くの考えられる用途がある。この方法の利点は、もちろん、自動車用グレージング、特にリアウィンドウグレージングおよび乗物のヘッドライドカバー、への特に良好な使用にあり、印刷された導電性構造体はデフロスタ/加熱エレメントまたはアンテナを構成する。加熱ユニットの役割を果たす導電体は、加熱ユニットの電力消費量を自動的に調節し、搭載電気システムのそれぞれの負荷状態に調整するために、好適なセンサーおよび好適な制御電子回路に好都合に関連する。
【0026】
本発明は、更に、1成分または2成分湾曲射出成形品および熱成形射出成形および押出構造エレメント、例えばヘッドライトおよびランプカバーおよび建築用グレージング、の分野でも使用される。
【実施例】
【0027】
3次元にカーブした寸法1100mm×650mmの試験片を使用して本発明の方法を試験した。この構造エレメント表面は、縦方向の曲率半径がR=14900mmであり、横方向の曲率半径がR=5800mmであった。従って、エレメント表面はアーチ形であった。この構造エレメントは肉厚が4.5mm均一であった。
【0028】
この試験片は、Bayer MaterialScience AG製のMakrolon AG2677で射出圧縮成形法を使用して作られ、次に両面がMomentive Performance Materials製のコーティングシステム(プライマーSHP 401/ペイントAS4000)で被覆された。
【0029】
Europa−Siebdruckmaschinen−Centrumから入手した平板印刷用の半自動モデルESC−AT−Pスクリーン印刷機を変更して3次元湾曲試験片にスクリーン印刷を行った。従来のマシーンに加えて、スチールのフレーム型エレメントを電動スクリーンフレームリフトに取り付けた。実際の印刷プロセス中に試験片がフレーム型エレメントによって全面的に印刷テーブル上にフラットにプレスされるように、フレーム型エレメントの寸法を構造エレメントのサイズに調整した。この実施例では、押し下げは、0.3%の外部ファイバー歪を生じた。
【0030】
実際の印刷プロセス中、3次元試験片を湾曲が上を向いた状態で印刷テーブル上に置き、位置決めした。次に、スクリーンフレームリフトが垂直に下方向に移動し、構造エレメントをそこに取り付けられたフレーム型エレメントによって印刷テーブル上にフラットにプレスした。平行して、この印刷テーブルに配置される排気孔は、構造エレメントが実質的にフラットに存在することを確実にした。次に、先行技術で十分よく知られているスクリーン印刷工程を行った。スクリーン型エレメントを有するスクリーンフレームリフトをスクリーン印刷の完了後に上に垂直に上昇させ、それによってフリーの構造エレメントを取り外すことができた。最後に、この構造エレメントは乾燥プロセスを経てスクリーン印刷インクを乾燥させる。
【0031】
ここに記載の例では、DuPont製のスクリーン印刷用導電性インクを用いて構造エレメントを印刷した。印刷イメージは、乗物のリアウィンドスクリーンの標準加熱場に一致した。
【0032】
別の実施例では、スクリーン印刷の層厚を増加させ、導電性を改良するために、印刷を同様に同一の構造エレメント上に行い、印刷工程を(場合によっては数回)繰り返した。このように堆積されるこれらのパターンでは、場合によっては、中間の乾燥工程も割愛し、スクリーン印刷インクを「ウエットオンウエット」で印刷し、最後にしか乾燥しない。印刷工程と乾燥工程との組み合わせ次第で、スクリーン印刷インクの層は様々な厚さで塗布できる。いずれの場合も、非常に高品質の印刷パターンを製造することが簡単にできた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷中にシートを2次元またはほぼ2次元になるように変形することを特徴とする、熱可塑性樹脂の3次元湾曲印刷プラスチックシートの製造方法。
【請求項2】
下記工程:
(a) 熱可塑性樹脂の3次元湾曲プラスチックシートの全面または表面の一部を被覆する工程、
(b) 2次元または実質的に2次元の領域を形成するように3次元湾曲プラスチックシートの全域または一部を変形する工程、
(c) スクリーン印刷法を使用してフラットプラスチックシートを印刷する工程、
(d) シート上の負荷を取り除き、スクリーン印刷パターンを硬化する工程
を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)〜(d)を数回繰り返すことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)を工程(b)〜(d)の後まで行わないかまたは工程(b)〜(d)の数回の繰り返しの後まで行わないことを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
フレーム型エレメントを用いて2次元面上にプレスすることによって変形を引き起こすことを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
該シートの印刷に関して反対側に真空を適用することによってシートの変形を引き起こすことを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
該シートの印刷に関して反対側に真空を適用し、フレーム型エレメントを用いて2次元面上にプレスすることによってシートの変形を引き起こすことを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ストリップ導電体を印刷するために、および/または装飾目的で該印刷を行うことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
射出成形、射出圧縮成形または熱成形によって該プラスチックシートを製造することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
該熱可塑性プラスチックシートが透明熱可塑性樹脂、特にポリカーボネートまたはポリメチルメタクリレートからなることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
該プラスチックシートが2成分射出成形によって製造されたことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
該熱可塑性プラスチックシートが透明熱可塑性材料、特にポリカーボネートまたはポリメチルメタクリレートからなり、第2成分がポリカーボネートブレンドであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
該プラスチックシートが厚さ1〜10mm、特に2〜7mmであることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
請求項1または請求項2に記載の方法によって製造される、3次元湾曲印刷熱可塑性プラスチックシート。
【請求項15】
請求項14に記載の3次元湾曲印刷熱可塑性プラスチックシートを含む、自動車用グレージング、建築用グレージング、ヘッドライトカバー。

【公開番号】特開2011−11547(P2011−11547A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−144353(P2010−144353)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】