説明

AF機能を有する光波測距儀

【課題】AF化された光波測距儀の近距離測定における入射光量の低下及びそれに伴う測距精度の低下の問題点をより簡単に解決することを目的とする。
【解決手段】AF機能を有する光波測距儀において、視準望遠鏡の対物レンズ上に設定された異なる一対の瞳範囲を通過した光束により結像された一対の像によりピント位置を検出する位相差方式の焦点検出手段;及びこの焦点検出手段によって検出した焦点状態に基づいて上記視準望遠鏡の焦点調節レンズを合焦位置に駆動する合焦機構;を備えたAF機能を有する光波測距儀において、上記送光反射部材を対物レンズの光軸中心に対して偏心させ、かつ上記位相差方式焦点検出手段の一対の瞳範囲と干渉しない位置に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視準望遠鏡を有する光波測距儀(EDM)に関する。
【背景技術】
【0002】
各種測量機における距離の測定は、一般に測定対象物に投光される送光と反射光の位相差及び内部参照光での初期位相、又は送光と反射光の時間差から距離を演算する光波測距儀によって行われている。
【0003】
この光波測距儀は一般に、視準望遠鏡の対物レンズの後方に光軸中心上に位置する送光ミラーを配置して、対物レンズの瞳中心から測距光を送光している。測定対象物からの反射光は、送光ミラーの周辺部を透過した反射光が波長選択フィルタ及び受光ミラーを介して捕捉される。
【0004】
この光波測距儀では、測定対象物が近距離になるにつれて、該測定対象物からの反射光が送光ミラーによってけられる現象が生じ、受光素子への入射光量が低下するという問題がある。入射光量が低下すると、測距精度が低下する。従来、この近距離測定における受光素子への入射光量の低下及びそれに伴う測距精度の低下を防止するために、送光ミラーを対物レンズの光軸中心から偏心させて配置し、測距光を光軸中心に対して偏心させて送光することにより、近距離において送光ミラーによるけられを減少させる発明が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平4-319687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の光波測距儀は、近距離の測定対象物に対しては入射光量の低下が減少するが、遠距離の測定対象物に対しても入射光量が減少する問題があった。
【0006】
本発明は、AF化された光波測距儀の近距離測定における入射光量の低下及びそれに伴う測距精度の低下の問題点をより簡単に解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決する本発明は、測定対象物を視準する視準望遠鏡、この視準望遠鏡の対物レンズの後方に位置する送光反射部材を介して測距光を送光する送光系と、測定対象物からの反射光のうち上記送光反射部材でけられない反射光を受光する受光系とを有する光波距離計、上記視準望遠鏡の対物レンズ上に設定された異なる一対の瞳範囲を通過した光束により結像された一対の像によりピント位置を検出する位相差方式の焦点検出手段、及びこの焦点検出手段によって検出した焦点状態に基づいて上記視準望遠鏡の焦点調節レンズを合焦位置に駆動する合焦機構を備えたAF機能を有する光波測距儀において、上記送光反射部材を対物レンズの光軸中心に対して偏心させ、かつ上記位相差方式焦点検出手段の一対の瞳範囲と干渉しない位置に設けたことに特徴を有する。
【0008】
より具体的には、上記送光反射部材の光軸に対する偏心方向は、上記一対の瞳範囲の離間方向と直交する方向に設定される。
【0009】
好ましい実施形態では、光波距離計の送光系の発光素子からの測距光の送光反射部材への入射位置を対物レンズの光軸に近い位置と遠い位置とに変化させる入射位置変更手段と、上記焦点検出手段による検出情報に基づき、測定対象物が近距離か遠距離かに応じ、上記入射位置変更手段により、近距離のときには光軸から離れた位置に測距光を入射させ、遠距離のときには光軸に近い位置に測距光を入射させる制御手段とを備える。
【0010】
他の好ましい他の実施形態では、光波距離計の送光系の発光素子からの測距光の送光反射部材への入射位置を対物レンズの光軸に近い位置と遠い位置とに変化させる入射位置変更手段と、上記合焦機構による焦点調節レンズの位置情報に基づき、測定対象物が近距離か遠距離かに応じ、上記入射位置変更手段により、近距離のときには光軸から離れた位置に測距光を入射させ、遠距離のときには光軸に近い位置に測距光を入射させる制御手段とを備える。
【0011】
入射位置変更手段は、光波距離計の上記送光系の発光素子と送光反射部材との間に配置した、送光系光軸と直交する平面に対して傾斜した透光性平行平面板の入射角度変化により構成できる。
【0012】
上記制御手段は、透光性平行平面板を、光波距離計の測定対象物が近距離か遠距離かに応じ、送光系光軸と直交する平面に対して反対方向に同一角度だけ揺動させることが好ましい。
【0013】
上記光波距離計の構成要素は、上記位相差方式焦点検出手段の一対の瞳範囲と干渉しない位置に設けられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、AF化された光波測距儀の遠距離測定および近距離測定における入射光量の低下及びそれに伴う測距精度の低下の問題点をより簡単に解決できる光波測距儀を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1ないし図7は、本発明によるAF機能を有する光波測距儀を測量機に適用した第一の実施形態を示している。視準望遠鏡10は、図1に示すように、物体側(前方)から順に、対物レンズ11、焦点調節レンズ18、正立光学系(ポロプリズム)12、焦点板13、及び接眼レンズ14を備えている。焦点板13上には、その中心に、視準の際の目印となる十字線ヘアライン(視準線)15が描かれている。焦点調節レンズ18は光軸方向に可動であり、コーナーキューブプリズム(測定対象物)16の距離に応じて位置調節することにより、その像を正しく焦点板13の対物レンズ11側の表面に結像させる。観察者は、この焦点板13上の像を接眼レンズ14を介して拡大観察する。
【0016】
視準望遠鏡10の対物レンズ11の後方には、光波距離計20の構成要素である送受光ミラー(送光反射部材)21と、測距光を反射し可視光を透過する波長選択ミラー(波長選択フィルタ)22とが順に配置されている。送受光ミラー21は、対物レンズ11の光軸上に斜めに位置する平行平面ミラーからなり、その対物レンズ11側の面が送光ミラー21a、波長選択ミラー22側の面が受光ミラー21bを構成している。
【0017】
光波距離計20の発光素子(LD)23は、特定波長の測距光を発し、この測距光は、コリメータレンズ24及び固定ミラー25を介して、送光ミラー21aに入射する。送光ミラー21aに入射した測距光は、対物レンズ11の光軸上を進む。
【0018】
波長選択ミラー22は、コーナーキューブプリズム16で反射し対物レンズ11を透過した、送受光ミラー21でけられない測距光をさらに反射させて受光ミラー21bに戻す作用をし、受光ミラー21bは、その反射光を受光ファイバ26の入射端面26aに入射させる。27は、受光ファイバ26を保持するホルダであり、送受光ミラー21とともに、図示しない固定手段によって、対物レンズ11の後方の空間に固定されている。
【0019】
発光素子23と固定ミラー25の間の測距光路上には、切換ミラー28と送光用NDフィルタ29が配置されている。切換ミラー28は、発光素子23からの測距光を固定ミラー25に与えるか、直接受光ファイバ26の入射端面26aに与えるかの切換を行うものである。送光用NDフィルタ29は、コーナーキューブプリズム16に投光する測距光の光量調節用である。
【0020】
受光ファイバ26の出射端面26bと受光素子31との間には、集光レンズ32、受光用NDフィルタ33及びバンドパスフィルタ34が順に配置されている。受光素子31は、演算制御回路40に接続され、演算制御回路40は、切換ミラー28のアクチュエータ41と測距結果表示器42に接続されている。
【0021】
以上の光波距離計20は、周知のように、演算制御回路40がアクチュエータ41を介して切換ミラー28を駆動し、発光素子23からの測距光を固定ミラー25に与える状態と、受光ファイバ26の入射端面26aに直接与える状態とを作り出す。固定ミラー25に与えられた測距光は、上述のように、送光ミラー21aと対物レンズ11を介してコーナーキューブプリズム16に投光され、その反射光が対物レンズ11、波長選択ミラー22及び受光ミラー21bを介して入射端面26aに入射する。そして、このコーナーキューブプリズム16で反射して受光ファイバ26の入射端面26aに入射する測距光と、切換ミラー28を介して入射端面26aに直接与えられた内部参照光とが受光素子31によって受光され、演算制御回路40が送光と反射光の位相差及び内部参照光での初期位相、又は送光と反射光の時間を検出し、コーナーキューブプリズム16迄の距離を演算して、測距結果表示器42に表示する。測距光と内部参照光の位相差または時間差による測距演算は周知である。
【0022】
ポロプリズム12には、光路分割面が形成されていて、その分割光路上に、位相差方式のAF検出ユニット(焦点検出手段)50が配置されている。このAF検出ユニット50は、焦点板13と光学的に等価な焦点検出面51の焦点状態、すなわち、前ピン、後ピン、等のデフォーカス量を検出するもので、図2にその概念図を示す。焦点検出面51上に結像する対物レンズ11による物体像は、集光レンズ52及び基線長だけ離して配置した一対のセパレータレンズ(結像レンズ)53によって分割され、この分割された一対の像は一対のCCDラインセンサ54上に再結像する。ラインセンサ54は多数の光電変換素子を有し、各光電変換素子が、受光した物体像を光電変換して光電変換した電荷を積分(蓄積)し、積分した電荷をAFセンサデータとして出力し、演算制御回路40に入力する。演算制御回路40は、一対のAFセンサデータに基づいて、所定のデフォーカス演算によってデフォーカス量を算出し、レンズ駆動手段43を介して、対物レンズ11を合焦位置に移動させる。このようなデフォーカス演算は当業者周知である。演算制御回路40には、AF開始スイッチ44と測距開始スイッチ45が接続されている。
【0023】
以上のAF検出ユニット50は、各ラインセンサ54に結像する一対の像を基準に考えると、対物レンズ11上において異なる一対の瞳範囲11A、11Bを通過した光束によりラインセンサ54上に結像された一対の像でピント位置を検出することになる。瞳範囲11Aと11Bの瞳範囲の形状は、各セパレータレンズ53の近傍にそれぞれ配置するマスク55によって設定することができる。なお、図2、ないし図3におけるハッチングは、この一対の瞳範囲に対応する部分(光路)を概念的に示している。
【0024】
図3は、対物レンズ11上のこの瞳範囲11Aと11Bの位置関係、及び光波距離計20の送受光ミラー21と受光ファイバ26(ファイバフォルダ27)の位置関係を示している。瞳範囲11Aと11Bの位置、形状及び方向は、AF検出ユニット50の集光レンズ52、セパレータレンズ53、マスク55、ラインセンサ54の多数の光電変換素子より、AF性能を満足する値に定められているが、方向(対物レンズ11の中心に対する瞳範囲の方向)はAF検出に有利な方向に設定している。
【0025】
本実施形態は、例えば以上の構成を有する測量機において、コーナーキューブプリズム16で反射した測距光、特に近距離のコーナーキューブプリズム16で反射した測距光を受光ファイバ26の入射端面26aに十分な光量で入射させるため、送受光ミラー21を対物レンズ11の光軸X中心に対して偏心させて設けるとともに、発光素子23から射出した測距光を対物レンズ11の光軸X中心に対して偏心させて送光するようにしたものである。具体的には、例えば図4に示すように、送受光ミラー21は対物レンズ11の光軸Xよりも距離dだけ下方向に偏心させるとともに、発光素子23が射出した縦長の光束断面形状を有する測距光(斜線部分)をしぼり71により、下方向に同じ距離dだけ偏心させている。また、瞳範囲11Aと11Bの位置を、光波距離計20の送受光ミラー21と受光ファイバ26(ファイバフォルダ27)(及びこれらの支持部材)に干渉しないように定めている。別言すると、瞳範囲11Aと11Bの間のAF不感帯11C内に、送受光ミラー21と受光ファイバ26(ファイバフォルダ27)(及びこれらの支持部材)を、対物レンズ11の光軸を通る直径方向に並べ、瞳範囲11Aと11Bをこの並び方向と平行な縦長に設定している。つまり、送受光ミラー21の偏心方向は、一対の瞳範囲11A、11Bの離間方向と直交する方向としている。
【0026】
上記構成の本AF機能を有する光波測距儀の動作例を説明すると次の通りである。
第1ステップ
視準望遠鏡10に付属した不図示の視準器からコーナーキューブプリズム16を覗き、視準望遠鏡10の光軸を概ねコーナーキューブプリズム16に合致させる。
第2ステップ
AF開始スイッチ44を押して上述のAF動作を実行し、焦点調節レンズ18を合焦位置に移動させる。
第3ステップ
合焦状態で、接眼レンズ14を覗き、焦点板13の十字線ヘアライン15を正確にコーナーキューブプリズム16に一致させる。このように十字線ヘアライン15を正確にコーナーキューブプリズム16に一致させることにより、光波距離計20の測距光を正しくコーナーキューブプリズム16に投光することができる。
第4ステップ
測距開始スイッチ45を押して光波距離計20による上述の測距動作を実行し、測距結果表示器42に測距結果を表示する。
【0027】
以上の測距動作において、測定距離が近距離であっても、送受光ミラー21及び送光する測距光の偏心により、図1に示すように、送受光ミラー21の上方には、発光素子23から射出し、コーナーキューブプリズム16で反射し、対物レンズ11を透過した測距光が通過する光路が確保される。従って、発光素子23から射出しコーナーキューブプリズム16で反射した測距光の一部は、送受光ミラー21でけられずにその上方を進み、受光ファイバ26の入射端面26aに入射する(図1の斜線部分)。そのため測距精度が低下したり測距不能になったりすることがない。なお、測定距離が遠距離になるにつれて、コーナーキューブプリズム16での反射光は広がって対物レンズ11に入射するため、遠距離においては、送受光ミラー21の有無または偏心に拘わらず、十分な光量で受光ファイバ26に入射するため、測距精度の低下の問題は生じない。また、送受光ミラー21と受光ファイバ26(ファイバフォルダ27)(及びこれらの支持部材)は、上述の通り、一対の瞳範囲11A、11Bに干渉しない位置に設けられているため、一対の瞳範囲11A、11Bを通過した光束を利用するAFユニット50に悪影響を及ぼすことはなく、AF動作に支障をきたさない。従って、AF機能の性能を低下させることがない。
【0028】
以上の実施形態では、発光素子23が射出する測距光の光束断面形状を上下方向に延びる縦長形状としたが、その形状及び大きさは問わない。例えば、図5に示すように、測距光の光束断面形状を横長形状とし、あるいは図6に示すように、測距光の光束断面形状を円形とすることができる。いずれも送受光ミラー21(送光ミラー21a)の偏心量は、図4の場合と同様に距離dであるが、測距光の偏心量は図4とは異なり、距離dよりも長い距離d'だけ光軸から下方に偏心させている。あるいは、測距光の光束断面形状は、図7に示すように、上部が欠けた形状としもよい。この形状は、具体的には、対物レンズ11の光軸中心から該光束断面形状の欠けた部分の先端までの距離をa、対物レンズ11の光軸中心から測距光の光束断面の下端までの距離をb、送受光ミラー21の偏心量をdとした場合に、d=(b-a)/2を満足する形状である。なお、この場合、送光断面の形状は楕円であり、楕円中心は対物レンズ11の光軸と一致している。発光素子23が射出する測距光の光束断面形状は問わないが、送受光ミラー21は、対物レンズ11の光軸中心から送受光ミラー21の上端までの距離をcとしたとき、b>cの関係となるように配置すればよい。
【0029】
送受光ミラー21及び測距光の光軸からの偏心量(距離d又はd')は、測定距離が近距離であってもコーナーキューブプリズム16で反射した測距光が送受光ミラー21の上方を通過し受光ファイバ26の入射端面26aに導かれるように定める。送光ミラー21aに入射する光束の光軸からの偏心量が大きい程、コーナーキューブプリズム16で反射した光束を、確実に送受光ミラー21の上方を通過させて受光ファイバ26の入射端面26aに入射させることができる。
【0030】
図8〜図14は、第二の実施形態を示している。本実施形態は、発光素子23と切換ミラー28の間に、入射位置変更手段としての傾斜平行平面板70を配置し、この傾斜平行平面板70を動作制御する点、及び固定ミラー25と送光用NDフィルタ29の間の光路上にリレーレンズ72を配置した点において第一の実施形態と異なる。以下、第一の実施形態と異なる点のみを説明し、同一要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0031】
傾斜平行平面板70は、発光素子23の光軸と直交する平面に対して傾斜していて、図10に示すように、その幅及び厚さ方向の中心に、切換モータ73の光軸と直交する往復駆動軸73aが結合されている。往復駆動軸73aが正逆に一定角度回動すると、傾斜平行平面板70は、光軸と直交する平面に対して傾斜角θ1だけ傾斜した近距離位置Aと、同平面に対して逆方向に傾斜角θ2だけ傾斜した遠距離位置Bの間を回動する(図8参照)。傾斜角θ1と傾斜角θ2は符号反対で絶対値は同一である。また、切換モータ73は制御回路(制御手段)80に接続されている。切換モータ73にセンサが内蔵されていて、傾斜平行平面板70が近距離位置Aと遠距離位置Bのどちらに位置しているかを検知することができる。
【0032】
この傾斜平行平面板70は、光波距離計20による測定対象物の距離が近距離か遠距離かに応じて、近距離位置Aと遠距離位置Bのいずれかに位置する。例えば、測定距離が5m程度以下の近距離のときに、図11に示すように、傾斜平行平面板70は近距離位置Aに位置する。このとき、発光素子23から射出された測距光(斜線部分)は傾斜平行平面板70により屈折し(平行移動し)、送受光ミラー21の送光ミラー21a上に、対物レンズ11の光軸Xから離れた位置に入射する。送光ミラー21aで反射した測距光は、コーナーキューブプリズム16に向かい、コーナーキューブプリズム16で反射した光束の一部は送受光ミラー21でけられずに通過し、波長選択フィルタ22、受光ミラー21bで反射し、受光ファイバ26の入射端面26aに入射する。そのため、受光素子31に十分な光量で入射し測距精度は低下しない。逆に、測定距離が5m程度を越える遠距離のときには、図12に示すように、傾斜平行平面板70は遠距離位置Bに位置する。このときは、発光素子23から射出された測距光(斜線部分)は傾斜平行平面板70により屈折し(平行移動し)、送受光ミラー21の送光ミラー21a上に、対物レンズ11の光軸Xに近い位置に入射する。送光ミラー21aで反射した測距光は、コーナーキューブプリズム16に向かい、コーナーキューブプリズム16に向けて反射する。遠距離においてこの反射光束は、広がって進み、コーナーキューブプリズム16で反射して対物レンズ11に入射するため、送受光ミラー21でけられずに十分な光量で受光ファイバ26の入射端面26aに入射する。なお、傾斜平行平面板70の傾斜角θ1と傾斜角θ2は、上述の通り、同一角度に設定されており、近距離位置Aと遠距離位置Bにおける傾斜平行平面板70の光路長は同一であるため、傾斜平行平面板70を配設しても測距精度への影響はない。なお、コリメータレンズ24とリレーレンズ72の間の光束は平行光である。
【0033】
焦点調節レンズ18は、光軸方向に延びるラック19aを有し光軸方向に進退可能に設けられたレンズ枠19に支持されていて、ラック19aは測量機本体に支持されたモータ60の回転軸に固定されたピニオン61に噛合している。従って、モータ60を回転させるとレンズ枠19に支持された焦点調節レンズ18が光軸方向に移動する。モータ60には、図9に示すように、エンコーダ62が付設されている。このエンコーダ62は例えば、モータ60の回転軸に一体に設けた多数の径方向のスリットを有するスリット板62aと、フォトインタラプタ62bよって構成され、モータ60の回転量(角)を検知する。
【0034】
図13は、制御回路80が司る制御系のブロック図であり、制御回路80は、エンコーダ62の検知信号に基づいて切換モータ73を制御する。また、制御回路80は記憶手段を有し、この記憶手段には、エンコーダ62によって検知されるモータ60の回転量(角)に対応する焦点調節レンズ18の位置が近距離位置(近距離合焦位置)と遠距離位置(遠距離合焦位置)のどちらであるかの情報が記憶される。近距離とは、傾斜平行平面板70が遠距離位置Bにあるとき、測定対象物であるコーナーキューブ16で反射した測距光が送受光ミラー21でけられて受光ファイバ26の入射端面26aに入射する光量が不十分となる距離である。この限界近距離は、例えば送受光ミラー21の大きさや受光ファイバ26の径などによって設定することが可能である。
【0035】
図14は、測距スイッチ45がオンされたときの傾斜平行平面板70の動作を示している。以下の処理は制御回路80によって実行される。まず、エンコーダ62を介して焦点調節レンズ18の位置を検出する(S101)。次に、記憶手段を参照し、検出した焦点調節レンズ18の位置が近距離位置か遠距離位置かをチェックする(S102)。近距離位置なら(S102:Yes)、続いて、切換モータ73に内蔵された角度センサを介して傾斜平行平面板70が近距離位置Aに位置しているかをチェックする(S103)。傾斜平行平面板70が近距離位置Aに位置していない場合には(S103:No)、傾斜平行平面板70を近距離位置Aに移動させる(S104)。また、焦点調節レンズ18が近距離位置でないなら(S102:No)、続いて、切換モータ73に内蔵された角度センサを介して傾斜平行平面板70が遠距離位置Bにあるかをチェックし(S105)、傾斜平行平面板70が遠距離位置Bに位置していない場合には(S105:No)、遠距離位置Bに移動させる(S106)。
【0036】
この処理により、傾斜平行平面板70は、焦点調節レンズ18が近距離位置では近距離位置Aに位置し、遠距離位置では遠距離位置Bに位置する。従って、視準望遠鏡10が合焦状態にあるときの焦点調節レンズ18の位置、つまり測定距離に応じた位置に傾斜平行平面板70は位置し、発光素子23が射出する測距光の送受光ミラー21の送光ミラー21aへの入射角度を距離に応じて切り換えることができる。
【0037】
以上は、焦点調節レンズ18の位置に基づいて、測定距離が近距離か遠距離かを判断して制御する構成としたが、例えば、AF検出ユニット50によって、測定距離範囲全域のデフォーカス量を検出できるならば、この値より直接、近距離、遠距離を判断して同様に制御してもよい。
【0038】
以上の実施形態において、送受光ミラー21の偏心方向を下方向としたが、一対の瞳範囲11A、11Bと干渉しない位置であれば、他の方向に偏心させてもよい。
【0039】
以上はAF機能を有する光波測距儀を示したが、マニュアルフォーカスによる光波測距儀の場合、傾斜平行平面板70を手動で揺動させることも原理的に可能である。さらに、手動で調節された焦点調節レンズ18の位置を検知し、焦点調節レンズ18の位置に対応する測定距離が近距離か遠距離かによって、傾斜平行平面板70の位置を決定するように制御すればよい。
【0040】
以上の実施形態では、発光素子23から射出された測距光の送受光ミラー21の送光ミラー21aへの入射位置変更手段として傾斜平行平面板70を用いたが、互いに平行をなす2枚のミラーの一方を平行移動させる機構としてもよい。例えば、発光素子23と切換ミラー28との間に、図15に示すように、互いに平行をなす2枚のミラー91、92を配設し、ミラー92をP位置とQ位置とに移動させる駆動機構を設ける。そして、発光素子23から射出された測距光が、ミラー92がP位置では対物レンズ11の光軸Xに近い位置に入射し、Q位置では対物レンズ11の光軸Xから離れた位置に入射するようにミラー91、92を設定し、測定距離が近距離か遠距離かに応じてP位置とQ位置を切り換えるように制御する。このとき、切替えにより発生した光路長変化は補正する。このように構成すると、第二の実施形態と同様に、測定距離に応じて発光素子23から射出した測距光の送受光ミラー21への入射角度を切り換えることができる。あるいは、図16のように、しぼり71を光軸に対して垂直方向に移動させて測距光の入射位置を変更してもよい。
【0041】
また、以上の実施形態では、測定対象物としてコーナーキューブプリズム16を配置した場合を示したが、コーナーキューブプリズムを配置しない場合においても同様に、近距離測定時の送受光ミラー21によるけられを回避することができる。
【0042】
なお、正立光学系としてのポロプリズム12あるいはAFユニット50への分岐光学系は、種々の変形例が知られており、本発明は以上の実施例に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明によるAF機能を有する光波測距儀を測量機に適用した第一の実施形態を示す系統接続図である。
【図2】図1のI矢視図であって、焦点検出手段(AFユニット、位相差方式焦点検出手段)の概念図である。
【図3】図1のII-II線から見た、焦点検出手段の対物レンズ上の一対の瞳範囲と、送受光ミラー及び受光ファイバとの位置関係を示す図である。
【図4】図1のII-II線から見た、送受光ミラー、測距光、及び対物レンズの位置関係を示す図である。
【図5】図4における測距光の光束断面形状の別の例を示す図である。
【図6】図4における測距光の光束断面形状のさらに別の例を示す図である。
【図7】図4における測距光の光束断面形状のさらに別の例を示す図である。
【図8】本発明によるAF機能を有する光波測距儀を測量機に適用した第二の実施形態を示す系統接続図である。
【図9】図8のIII矢視図であって、焦点調節レンズの駆動機構を示す図である。
【図10】傾斜平行平面板の回転機構を示す斜視図である。
【図11】図8の測量機における近距離の場合の測距光の光路を示す図である。
【図12】図8の測量機における遠距離の場合の測距光の光路を示す図である。
【図13】制御系の要部を示すブロック図である。
【図14】制御回路による傾斜平行平面板の動作フローをフローチャートをもって示す図である。
【図15】測距光の入射位置変更手段の別の例を示す図である。
【図16】測距光の入射位置変更手段のさらに別の例を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
10 視準望遠鏡
11A 11B 瞳範囲
11C AF不感帯
12 ポロプリズム(正立光学系)
13 焦点板
14 接眼レンズ
15 十字線ヘアライン(視準線)
16 コーナーキューブプリズム(測定対象物)
18 負のパワーの焦点調節レンズ
20 光波距離計
21 送受光ミラー(送光反射部材)
21a 送光ミラー
21b 受光ミラー
22 波長選択フィルタ
23 発光素子
24 コリメータレンズ
25 固定ミラー
26 受光ファイバ
26a 入射端面
26b 出射端面
27 ファイバフォルダ
28 切換ミラー
29 送光用NDフィルタ
31 受光素子
32 集光レンズ
33 受光用NDフィルタ
34 バンドパスフィルタ
40 演算制御回路
41 アクチュエータ
42 測距結果表示器
43 レンズ駆動手段
44 AF開始スイッチ
45 測距開始スイッチ
50 AF検出ユニット(位相差方式焦点検出手段)
51 焦点検出面
52 集光レンズ
53 セパレータレンズ
54 ラインセンサ
55 マスク
62 エンコーダ
70 傾斜平行平面板(入射位置変更手段、透過性平行平面板)
71 しぼり
72 リレーレンズ
73 切換モータ
80 制御回路(制御手段)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物を視準する視準望遠鏡;
この視準望遠鏡の対物レンズの後方に位置する送光反射部材を介して測距光を送光する送光系と、測定対象物からの反射光のうち上記送光反射部材でけられない反射光を受光する受光系とを有する光波距離計;
上記視準望遠鏡の対物レンズ上に設定された異なる一対の瞳範囲を通過した光束により結像された一対の像によりピント位置を検出する位相差方式の焦点検出手段;及び
この焦点検出手段によって検出した焦点状態に基づいて上記視準望遠鏡の焦点調節レンズを合焦位置に駆動する合焦機構;を備えたAF機能を有する光波測距儀において、
上記送光反射部材を対物レンズの光軸中心に対して偏心させ、かつ上記位相差方式焦点検出手段の一対の瞳範囲と干渉しない位置に設けたことを特徴とするAF機能を有する光波測距儀。
【請求項2】
請求項1記載のAF機能を有する光波測距儀において、上記送光反射部材の光軸に対する偏心方向は、上記一対の瞳範囲の離間方向と直交する方向に設定されているAF機能を有する光波測距儀。
【請求項3】
請求項1または2記載のAF機能を有する光波測距儀において、さらに、光波距離計の送光系の発光素子からの測距光の送光反射部材への入射位置を対物レンズの光軸に近い位置と遠い位置とに変化させる入射位置変更手段と;上記焦点検出手段による検出情報に基づき、測定対象物が近距離か遠距離かに応じ、上記入射位置変更手段により、近距離のときには光軸から離れた位置に測距光を入射させ、遠距離のときには光軸に近い位置に測距光を入射させる制御手段と;を有するAF機能を有する光波測距儀。
【請求項4】
請求項1または2記載のAF機能を有する光波測距儀において、さらに、光波距離計の送光系の発光素子からの測距光の送光反射部材への入射位置を対物レンズの光軸に近い位置と遠い位置とに変化させる入射位置変更手段と;上記合焦機構による焦点調節レンズの位置情報に基づき、測定対象物が近距離か遠距離かに応じ、上記入射位置変更手段により、近距離のときには光軸から離れた位置に測距光を入射させ、遠距離のときには光軸に近い位置に測距光を入射させる制御手段と;を有するAF機能を有する光波測距儀。
【請求項5】
請求項3または4記載のAF機能を有する光波測距儀において、入射位置変更手段は、光波距離計の上記送光系の発光素子と送光反射部材との間に配置した、送光系光軸と直交する平面に対して傾斜した透光性平行平面板の入射角度変化からなっているAF機能を有する光波測距儀。
【請求項6】
請求項5記載のAF機能を有する光波測距儀において、上記制御手段は、透光性平行平面板を、光波距離計の測定対象物が近距離か遠距離かに応じ、送光系光軸と直交する平面に対して反対方向に同一角度だけ揺動させるAF機能を有する光波測距儀。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項記載のAF機能を有する光波測距儀において、上記光波距離計の構成要素は、上記位相差方式焦点検出手段の一対の瞳範囲と干渉しない位置に設けられているAF機能を有する光波測距儀。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−292767(P2006−292767A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161762(P2006−161762)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【分割の表示】特願2000−154255(P2000−154255)の分割
【原出願日】平成12年5月25日(2000.5.25)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】