説明

ANT−リガンド分子および生物学的アプリケ−ション

本発明は置換含窒素ヘテロ環化合物(A)を有するANT−リガンド分子に関する。Aは、式Iの置換ピリミジノン化合物または式IIの置換ピリミジン化合物または式IIIの置換ピリジン化合物である。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はANT−リガンド特性を有する分子に関する。
【0002】
本発明は、特に、アポト−シスまたは類似した細胞死機構を誘導することに役立つ分子および治療剤としてのそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0003】
10年前から、ミトコンドリアは、アポト−シスのインテグレ−タ・コ−ディネ−タとして、および、活性化されたとき制御された細胞死過程(すなわち、ミトコンドリア・アポト−シス)を不可逆的に導く主なチェック・ポイントとして、次第に認められてきた。
【0004】
この過程は、ミトコンドリア・マトリックス中の持続的Ca2+蓄積によって有利にされ、プロ・アポト−シスのミトコンドリア・オルタネ−ション(すなわち、透過性移行(permeability transition)、電気化学ポテンシャルの消散(dissipation)、マトリックス膨張(スウエリングswelling)、クリステ・リモデリング(cristae remodeling)、ミトコンドリアへのバックス(Bax)のリロ−カリゼエ−ションおよびプロ・アポト−シス・ファクタ(例えばチトクロ−ムc、およびミトコンドリアからのAIF)のリリ−ス)の徴候(サイン)として現れる。
【0005】
生理病理学的モデルに従い、ミトコンドリア膜透過化(permeabilization)(MMP)は、外側のミトコンドリア膜または両方の膜(すなわち外膜および内膜)に影響を及ぼす。
【0006】
MMPは、BaxおよびBcl-2ファミリ・メンバのコントロ−ル下にあり、これらはそれぞれプロ・アポト−シスおよびコン・アポト−シスである。
【0007】
このように、アポト−シスは、オンコジ−ン(例えばBcl−2)またはウイルス・タンパク(例えばヘルペス・ウイルスからのVmia)の過剰発現(overexpression)により阻害され得る。
【0008】
MMPは、通常、生体エネルギ−的なカタストロフィ(トランスメンブラン・ポテンシャル(=△Ψm)のロス、呼吸の停止、ATPレベルの減少および活性酸素種(ROS)レベルの増加)を伴う。この文脈において、2つの構成的ミトコンドリア・タンパク質、すなわちアデニン・ヌクレオチド・トランスロケ−タ(ANT、内膜(IM))と、ポテンシャル依存性(voltage-dependent)アニオン・チャンネル(VDAC、外膜(OM))とは、BaxおよびBcl−2タンパク質ファミリと協働(cooperate)する。
【0009】
Baxは、プロ・アポト−シスのサイトゾル性(cytosolic)タンパク質であり、これはリガンド例えばBidおよびPUMAとインタラクトし、活性化し、そして、細胞死を誘導するミトコンドリアに転位させる(translocate)。
【0010】
さらに、ANT−Bax協働(cooperation)は、複数の生理病理学的モデルにおいて報告された。
【0011】
これらのタンパク質はミトコンドリア透過性移行孔(permeability transition pore)(PTPC)に帰属する。これは、OM膜およびIM膜の接触部位に局所化された多タンパク質複合体(multiprotein complex)である。
【0012】
この孔の正確な構成はまだ知られていない。しかし、複数の独立の仮説はANT(IM)およびVDAC(OM)がダブル・チャネルを形成するようにインタラクトするという可能性に収束する。
【0013】
標準状態において、このダブル・チャネルは、一過的(transiently)に開いて、マトリックス(合成のサイト)からサイトゾル(最終的な目的地)まで、ATPのチャネリングをメディエ−トする。
【0014】
外因性の刺激と同様に内因性の広範囲の刺激をうけたとき、PTPCは水およびMM<1.5kDaの代謝産物(metabolites)の自由通過を許容するように高コンダクタンス・チャネルとして開き、マトリックス膨張およびその後のOMの断裂(rupture)を誘導し、こうしてサイトゾル中へのミトコンドリア・タンパク質のリリ−スを容易にする。
【0015】
本モデルは、肝臓中のANT1およびANT2(ANTの2つのイソフォ−ム)に対する条件つきのダブル・ノックアウト・マウスの生成(generation)に基づく2004年刊行物(非特許文献1)によって、疑問を呈された。これは、ANTがアポト−シスのために必須でない(dispensable)可能性があることを示唆した。
【0016】
それにも拘わらず、最近、新規なANTイソフォ−ム(ANT4)が同定された(非特許文献2および3)。そして、ANTが、ANTの非存在下で非常に相同的な(homologous)メンバ(すなわちミトコンドリア・キャリア)の大ファミリの最も大量の(abundant)メンバ−を表すにつれて、他のキャリアはANT1およびANT2の欠如を補償するようにMMPの誘導のためのANTの機能的役割を置き換える(replace)かもしれない(非特許文献4および5)。
【0017】
興味深いことに、チャン(Jang)らは、ベクタ−・ベ−スsiRNAによるANT2抑制(suppression)が生体内ヒト乳癌モデルにおける腫瘍増大(tumor growth)を阻害することを証明した((非特許文献6)。このことは、腫瘍学におけるANTタ−ゲッティング・アプロチーチの治療的な可能性(potential)を現している。ANTを薬理学的にタ−ゲットとする試みは以前ペプチデック・アプローチを用いて行われ(非特許文献7および8)、予備的段階の結果はいくつかの技術的困難性を現した。これらは、ペプチドが細胞内に浸透(penetrate)できず、およびタ−ゲッティング・シ−ケンス(例えばTat、Ant)と連結する(couple)必要があるという事実から生じた。
【0018】
本発明者らは、現在、特に医療用途のためのANTをタ−ゲットとした小分子を製造した。
【0019】
コンピュ−タ(in silico)を利用した薬化学アプロ−チによって、いくつかの小さい有機化合物を製造する研究を行った。そして、それはANTに特有であること、および、ドラッガビリティ(druggability)クライテリア(良好な細胞浸透(penetration)およびバイオディスポーザビリテッイ(biodisposability))を満たすことを証明した。
【0020】
この種の分子は、他の細胞タ−ゲットを有してもよい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】ADDIN EN.REFLIST DOlce, V., Scarcia, P., IaCOpetta, D., and Palmieri, F. (2005) FEBS Lett 579(3), 633−637
【非特許文献2】ROdic, N., Oka, M., Hamazaki, T., Murawski, M., JOrgensen, M., MaatOuk, D., Resnick, J., Li, E., and Terada, N. (2005) Stem Cells 23, 1314−1323
【非特許文献3】Halestrap, A. (2005) Nature 434(7033), 578−579
【非特許文献4】JaCOtOt, E., Ravagnan, L., LOeffler, M., Ferri, K. F., Vieira, H. L., Zamzami, N., COstantini, P., Druillennec, S., HOebeke, J., Briand, J. P., IrinOpOulOu, T., Daugas, E., Susin, S. A., COinte, D., Xie, Z. H., Reed, J. C., ROques, B. P., and KrOemer, G. (2000) J Exp Med 191(1), 33−46
【非特許文献5】JaCOtOt, E., Ferri, K. F., El Hamel, C., Brenner, C., Druillennec, S., HOebeke, J., Rustin, P., Metivier, D., LenOir, C., Geuskens, M., Vieira, H. L., LOeffler, M., Belzacq, A. S., Briand, J. P., Zamzami, N., Edelman, L., Xie, Z. H., Reed, J. C., ROques, B. P., and KrOemer, G. (2001) J Exp Med 193(4), 509−520.
【非特許文献6】Jang, J.Y., ChOi, Y., JeOn, Y.K., and Kim, C.W. (2008) Breast Cancer Res, 10, R11
【非特許文献7】JaCOtOt, E., Deniaud, A., BOrgne−Sanchez, A., Briand, J., Le Bras, M., and Brenner, C. (2006) BiOchim. BiOphys. Acta 1757, 1312−1323
【非特許文献8】Deniaud, A., HOebeke, J., Briand, J., Muller, S., JaCOtOt, E., and Brenner, C. (2006) Curr Pharm Des, 12, 4501−4511
【非特許文献9】Pebay−PeyrOula, E., DahOut−GOnzalez, C., Kahn, R., Trezeguet, V., Lauquin, G., and BrandOlin, G. (2003) Nature 426, 39−44
【非特許文献10】Passarella, S., Ostuani, A., Atlante, A., and QuagliariellO, E. (1988) BiOchem BiOphys Res COmmun, 156, 978−986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、このように、特にアポト−シスまたは類似した細胞死機構を誘導することが可能な分子に関する。
【0023】
本発明は、新化合物である分子のアポト−シスまたは類似した細胞死機構にも関する。
【0024】
他の目的によれば、本発明は、薬の有効成分として前記新規な分子を含む医薬組成物に関する。
【0025】
さらに他の目的によれば、本発明は、アポト−シスを誘導する薬を製造するための、アポト−シスを誘導することが可能な前記分子の使用に関する。
【0026】
本発明の他の目的は、細胞の(in cellula) ADP/ATPトランスロケ−タANTをタ−ゲットとすることによって、細胞死を誘導するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明によるリガンドとして使用する分子は、置換された含窒素ヘテロ環(これはAにより示される)を有する。
【0028】
Aは、式Iで表される置換ピリミジノン化合物である。
【化1】

【0029】
ここで、
R1は、
-(CH2)n-CO-OH、
-(CH2)n-CO-OR、
-(CH2)n-CO-NHR、
-(CH2)n-CON(R,R’)、
-(CH2)n-OH、
-(CH2)n-OR、
-(CH2)n-OAr、
-(CH2)n-C(R,R’)-(CH2)n-OH、
(上記基において、RおよびR’は、同じであるか異なって、Hまたは直鎖状または分枝状のC1−C12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。Arはフェニル基またはHetである。HetはN、SおよびOから選ばれる1または複数のヘテロ原子を有するヘテロ環基を表す。前記フェニル基またはヘテロ環基は、例えば、Cl、Br,Iのようなハロゲン、−CCl3または−CF3のようなハロゲン化された炭化水素基から選ばれた1または複数の原子または基;1または複数の−OH、−OR、−COOHまたは−COOR基;フェニル基;直鎖状または分枝状のC1−C12アルキル基;−NH−COR;または−CNによって場合によっては置換されている。これらの原子および基はフェニル基またはヘテロ環基上の同じであるか異なる位置を占める。)
直鎖状または分枝状のC1−C12アルキル基、
直鎖状または分枝状のC2−C12アルケニル基、
-(CH2)n-C3-C6シクロアルキル基、
-(CH2)n-Arまたは-(CH2)n-Het、
-(CH2)n-NH-CO-R、
-(CH2)n-NH2
-(CH2)n-N(R,R’)、
-(CH2)n-NH-CO-OH、
-(CH2)n-NH-CO-OR、
-NH-(CH2)n-CO-OH
または
-NH-(CH2)n-CO-OR
である。
【0030】

R2は、
-(CH2)n-Ar(ここでArは上記定義のものであり、場合によっては上記定義の置換基で置換されている。)、
直鎖状もしくは分枝状のC1−C12アルキル基、または1または複数の二重結合を有する、直鎖状もしくは分枝状のC2−C12アルケニル基、
-(CH2)n-OH、
-(CH2)n-OR、
-(CH2)n-CO-Het 、
-(CH2)n-NH-CO-R、
-(CH2)n-NH2
-(CH2)n-N(R,R’)、
-(CH2)n-CO-OH、
-(CH2)n-CO-OR、
直鎖状または分枝状のC1−C12アルキル基
または
-(CH2)n-C(R)=CH-C(R)= CH2
である。
【0031】

R3は、式Iで表されるピリミジノン環の隣接した2つの炭素原子と一緒に縮合してフェニル環基またはヘテロ環基を形成する。該フェニル環基またはヘテロ環基は、ArおよびHetに関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換され、および/または、同様にArに関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換されているシクロヘキシルまたはオキサニル(oxanyl)基に場合によっては縮合している。
【0032】
nは、0または1から5の整数である。
【0033】

または、
Aは、式IIで表される、置換ピリミジン化合物である。
【化2】

【0034】
ここで、
R4は、-CONH-Ar基であり、Arに関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換されている。
【0035】
R5は、式IIで表されるピリミジン環の隣接した2つの炭素原子と一緒に縮合してフェニル環基またはヘテロ環基を形成する。該フェニル環基またはヘテロ環基は、式Iで表されるピリミジノン環から形成されるフェニル環基またはヘテロ環に関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換されている。
【0036】
Arは式IのArに関して定義されたものである。
【0037】

または
Aは、式IIIで表される、置換されたピリジン化合物である。
【化3】

【0038】
ここで、
ArおよびR2は、式IのArおよびR2に関して上記のように定義されたものである。
【0039】

第1系統(family)において、好適なリガンドは、式I中のR3が式I中のピリミジノン環と一緒にフェニル環基またはチエニル環基を形成するものである。該フェニル環基および該チエニル環基はArに関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換されている。
【0040】
有利には、R1は
-(CH2)n-CO-OH、
分枝状のC1−C6アルキル基、
-(CH2)n-C3-C6シクロアルキル基、
-(CH2)n-NH2
-(CH2)n-NH-CO-R
および
-(CH2)n-Het
からなる群から選択される。
【0041】
Hetはピリジル基を表する。
【0042】
第1系統のより好適な誘導体において、R1およびR3は上記のように定義されたものであり、そして、R2は-(CH2)n-フェニル基であり有利には1または複数のC1−C3アルキル基またはハロゲン(特にCl)によって置換されている。
【0043】
好適な誘導体は、以下の式で表される。
【化4】

【化5】

【0044】
第2系統において、好適なリガンドは、式IIで表される化合物において、同式中のArおよびR4がフェニル基であり、有利には、これらが式Iに関して定義された上記の置換基で置換されている化合物である。
【0045】
より好適な誘導体において、R5は、式IIで表されるピリミジン環の隣接する2つの炭素原子と一緒に、フェニル環基を形成し、または、シクロヘキシル基またはオキサニル基に場合によっては縮合したチエニル環基を形成し、該フェニル環基およびチエニル環基は式I中のArに関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換されている。
【0046】
好適な誘導体は、以下の式で表される。
【化6】

【0047】
本発明の第3実施態様において、好適なリガンドは、式IIIで表される化合物において、
両方のArがフェニル基(これは式Iに関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換されている)であり、R2が式Iに関して上記のように定義された置換基であり、好ましくは-(CH2)n-COOH基である、化合物である。
【0048】
好適な誘導体は、以下の式で表される。
【化7】

【0049】
本発明は新物質として上記のように定義された誘導体にも関する。ただし、以下の化合物1、2、17、18、19、20および21は除外される:
【化8】

【0050】
本発明者らは、より詳しくは、その特定の阻害剤カルボキシ・アトラクチロシド(carboxyatractyloside)(CAT)を有するウシ(bovine)ANT1の発行された結晶構造(図1A)(非特許文献9)を利用して、分子ドッキングによって、コンピユータによる(in silico)推定(putative)ANT−リガンドのライブラリを同定した。
【0051】
三次構造に関してウシANT1とヒトANTイソフォ−ムとの間の高いホモロジを考慮すると、三次元分析は、(1) ヒトANT2バインディング・ポケット(図1B)において、カルボキシ・アトラクチロシド(ADP/ATPトランスロケ−ションの公知の阻害剤)を局所化することを可能にし、および、(2) ANTバインディング・ポケットのアミノ酸残基と同じようにインタアクト(interact)することが可能な化学構造を同定することを可能にする。
【0052】
該ライブラリは、合計1171の市販の小さい分子で構成され、そのうち956が試験された。
【0053】
各々の化合物は、下記の試験管内スクリーニング分析に関して評価された:単離されたミトコンドリア上のANTのHT−29およびBxPC3腫瘍細胞系(line)生存率(viability)およびADP/ATPトランスロケ−タ活性。
これらのスクリーニング技術によって、重要な細胞効果(細胞死または増殖遅延(growth delay))を示す効率的なANT阻害剤である分子を選択することができる。
【0054】
それらの中で、化合物1は、ミトコンドリア・トランスメンブラン・ポテンシャル、および、カスパ−ゼ阻害剤(図3)およびプロ・アポト−シス・ファクタ(Bax/Bak)削除(deletion)によって消滅(abolish)されるアポト−シス・ホールマーク(hallmark)の散逸(dissipation)を誘導する。
【0055】
興味深いことに、化合物1は全ての細胞タイプに対し細胞毒(cytotoxic)であるというわけではない。実際、Wi−38細胞はHT−29およびBxPC3としてANT3のイソフォ−ムを発現する(express)。その一方で、ANT2イソフォ−ムはほとんど検出可能(detectable)でない(図4A)。
【0056】
ANT発現レベルとの相互関係において、正常な肺線維芽細胞(lung fibroblasts)での化合物1の毒性は、腫瘍細胞(HT−29、BxPC3)(図4B)と比較して極低い。リンパ球(PBMC、図示せず)については、該化合物は、400μM以下の用量に対する毒性のサインを表さない。
【0057】
選択されたANT−リガンドの細胞毒効果におけるANTイソフォ−ムの重要性は、ANTのイソフォ−ムに対して欠けている(deficient)S. cerevisiae株を使用して評価された(図5)。
【0058】
これらの株に関するクロ−ン原性(clonogenic)の分析は、ANT−リガンドの細胞毒効果が細胞内のANTsの発現(expression)に実際に起因することを確めるために、用いられる。
【0059】
本発明者らは、ANTイソフォ−ム(DANT1、2及び3)に対して欠けている株が、野生タイプ(WT)のコントロール株より、化合物1に対して高い耐性を示すことを発見した。そして、このリガンドによって誘導された細胞死の機構がANTに依存性であることを示した(図5)。
【0060】
初めて、細胞におけるADP/ATPトランスロケ−タANTをタ−ゲットとすることによって、ANT−リガンドが細胞死を誘導することを証明することができるようになった。
【0061】
構造と活性の関係の研究によって、ANTイソフォ−ム(図6)のうちの1つに対する効率および選択性を犠牲にする観点から、該化合物の最適化を行うことができるようになる。最適化された化合物1の誘導体の化学構造は、図7に示される。
【0062】
本発明は、上記のように定義された誘導体のうちの少なくとも1つの有効量を加えることから成る、細胞におけるADP/ATPトランスロケ−タANTをタ−ゲットとすることによって、細胞死を誘導する方法にも関する。
【0063】
上記定義の分子は、薬の有効成分として、好適に用いられる。
【0064】
本発明は、このように、薬学的に許容されるキャリアに組み合わせた、上記定義の分子のうちの少なくとも1つの治療上有効な量を含む医薬組成物にも関する。
【0065】
前記組成物は、経口、非経口(皮下、静脈内)を含む適切な方法によって投与可能であり、非経口投与は腫瘍内(intratumoral)投与を含む注射可能かつ局所的な投与である。
【0066】
それらは、有利には、適当なキャリアおよび/または希釈液および/または溶媒と共に溶液体として製剤化される。
【0067】
本発明の医薬組成物は、更に、化学療法薬、アポト−シス・モジュレ−タ、抗菌物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬および消炎剤から成る群から選ばれる治療薬を含んでいてもよい。
【0068】
上記定義の医薬組成物は、癌治療に有用である。
【0069】
本発明は、例えば、癌治療のためのプロ・アポト−シスの薬を製造するための、上記のように定義されるリガンドの使用にも関する。
【0070】
該化合物の治療上有効な量は、有利には体重当たり0.1mg/kg〜100mg/kgであり、毎日から毎週の投与を伴う。
【0071】

本発明は、上記定義のリガンドの合成方法にも関する。
【0072】
式Iで表される誘導体は、好ましくは、式(IV)で表される誘導体を、
【化9】

【0073】
(ここで、Rcは、上記のように定義されたR1、または-(CH2)n-O-Si(CH3)2-C(CH3)3または-(CH2)n-NH-C(=O)-O-C(CH3)3であり、R3は上記定義のものである。)
式Vで表される誘導体
R2 - R''(V)
(ここで、R2は上記定義のものであり、R''は反応性の基、例えばハロゲンであり、好ましくはClまたはBrである)。
【0074】
と反応させることによって得られる。
【0075】
前記反応は、有利には、有機溶剤中でのトリエチルアミンの存在下に実行される。
【0076】
好適な溶媒は、DMF(ジメチルホルムアミド)およびDCM(ジクロロメタン)である。
【0077】
Rcが−OH末端基を含むときは、上記反応の後に、所望の誘導体を回収するために、DOwexタイプのカラムでのクロマトグラフィが続く。
【0078】
Rcが−NH2末端基を含むときは、上記反応によって生じる誘導体をTFAおよびDCMで処理する。生じる誘導体は、Rc(=O)R''との反応によって、R1が-(CH2)n-NH-C(=O)-Rであり、RおよびR''が例えば上記定義のものである式Iの誘導体を得るために用いられてよい。
【0079】
本発明によれば、式IVで表される誘導体は、式VIで表される誘導体を、
S=C=N-Ar-C(=O)-OR (VI)
(ここで、S=C=N-および-C(=O)-ORはAr上の隣接する炭素原子上に位置する。Rは式VIIで表されるアミノ誘導体に関して上記のように定義されたものである)
式VIIのアミノ誘導体
H2N−R1 (VII)
(ここで、R1は上記定義のものである。)
と反応させることによって得られる。
【0080】
前記反応は、有利にはアルコ−ル溶媒およびH2O中で実行される。
【0081】
好ましくは、アルコ−ル溶媒は、イソプロパノ−ルである。
【0082】
第2系統および第3系統の化合物は、有利には出発原料として市販の分子を使用して、通常の合成ル−トに従って得られる。
【0083】
他の特徴および効果は、図1〜8を参照する以下の実施例において示される。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】新規なANT−リガンドを見つけるためにコンピュ−タを用いて分子ドッキングを例示する。
【0085】
(A) カルボキシ・アトラクチロシド(CAT)−ウシANT1複合体((26)から改作 (adapt) した)の構造
(B)ヒトANT2バインディングにおけるカルボキシ・アトラクチロシド(CAT)局在のコンピュ−タ解析による予測(prediction)
【図2】ANT−リガンドは、HT−29およびBxPC3腫瘍細胞系(line)上のプロ・アポト−シスである。
【0086】
(A) 化合物1の化学構造。
【0087】
(B) 48時間の処理の後、BxPC3細胞系上のANT−リガンドの細胞効果のマルチ・パラメトリック解析(クロマチン・コンデンゼーション、ミトコンドリア・トランスメンブラン(transmembrane)・ポテンシャル(△Ψm)損失、原形質膜透過化(plasma membrane permeabilization)、ホスファチジルセリン露曝(exposure))。
【0088】
(C) マウス肝臓またはHT−29腫瘍細胞系から単離されたミトコンドリアについて測定されたANTのADP/ATPトランスロケ−タ活性(IC50は、ANT分析に基づいてμMで与えられる)に関する化合物1の効果、および、HT−29およびBxPC3腫瘍細胞系の生存率(viability)(LD50は、48時間のMTT分析に基づいてμMで与えられる)に関する化合物1の効果。
【図3】化合物で誘導された細胞死はカスパーゼ依存性である。
【0089】
化合物1はアポト−シスの古典的なホールマーク(hallmark):マルチ・パラメトリック(Multiparametric)解析で示すように、ミトコンドリア・ポテンシャル(△Ψm)損失(Dioc6−)、ホスファチジルセリン露曝(アネキシン(Annexin)−V+)、原形質膜透過化(PI+)およびクロマチン・コンデンゼーション:を誘導する。
【0090】
ANT−リガンドにより誘導されるアポト−シスは、パン・カスパ−ゼ阻害剤(zVAD−fmk、Q−VD−OPH)によって阻害されるが、カテプシン(cathepsin)B阻害剤(Z−FA−fmk)によっては阻害されない。
【図4】化合物1は、通常の線維芽細胞Wi−38に対し低い毒性を誘導する。
【0091】
(A) 全RNA上のRT−PCR反応の後、HT−29、BxPC3およびWi−38(正常な肺の線維芽細胞)細胞系におけるANTイソフォ−ムの発現パターン。
【0092】
(B)48時間および72時間の処理の後、Wi−38細胞系上のANT−リガンドの細胞効果のマルチ・パラメトリック解析(ミトコンドリア・トランスメンブラン・ポテンシャル、原形質膜透過化(plasma membrane permeabilization)、ホスファチジルセリン露曝)。
【図5】ANTが不足しているイ−ストを使用して行った化合物1のタ−ゲット確証(validation)。
【0093】
(A) 化合物1と一緒に2時間インキュベーションした後、48時間後のイ−スト生存率の定量的評価。
【0094】
(B) 化合物1と一緒に2時間インキュベーションした後、48時間後のプレ−ト上のWT(W303)およびJL1−3(△ANT1、2および3)イ−スト株成長の具体例。
【図6】構造−活性・関連性(Structure−Activity Relationship)の研究による最適化。
【0095】
表は、HT−29、BxPC3、MiaPaca、Wi−38の細胞生存率(μMで表すLD50)に関する化合物の効果;マウス肝臓およびHT−29腫瘍細胞系ミトコンドリアのANT活性(μMで表すIC50)に関する化合物の効果;マウス肝ミトコンドリア(登録商標「Mitotrust」のプラットフォ−ム)の膨張(スウエリングswelling)、(μMで表すDS50)および△Ψmパラメ−タ(μMで表すDP50)に関する化合物の効果;および、野生株(W303)およびANT不足(JL1−3)イ−スト株の生存率(μMで表すED50)に関する化合物の効果を示す。
【図7】第1系統における最適化合物の化学構造。
【図8】細胞系および単離ミトコンドリアに関する化合物(第2系統および第3系統)の効果。
【0096】
表は、HT−29、MiaPaca、BxPC3、Wi−38の細胞生存率(μMで表すLD50)に関する化合物の効果;マウスおよびHT−29腫瘍細胞系ミトコンドリアのANT活性(μMで表すEC50)に関する化合物の効果;および、マウス肝ミトコンドリアにおける膨張(スウエリングswelling)(μMで表すDS50)および△Ψmパラメ−タ(μMで表すDP50)に関する化合物の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0097】
ADP/ATPトランスロカ−ゼ活性分析
ANT活性分析は、ADPの交換(exchange)において、単離ミトコンドリアからのATPトランスロケ−ションの間接的な手法であり、この後に媒体(medium)中でのNADPHの形成が続く。この分析では、酵素(ヘキソキナ−ゼ、グルコース−6−ホスフェート−デヒドロゲナ−ゼ)、基質(グルコース)および補基質(NADP+)から構成されるATP検出の複合体(complex)システムを使用し、NADPH中でのNADP+還元を許容している。
【0098】
該方法は、非特許文献10から変更を伴って適用される。すなわち、マイクロプレ−ト上での反応、ATPを有するミトコンドリアのプレ・ロ−ディング(pre-loading)なし、蛍光(スペクトロフルオリメータ(Spectrofluorimeter) Infinite M200, Tecan)によるNADP+還元の検出、アデニレート・キナ−ゼ依存性ATPの合成を阻害するためのAP5A(P1P5−ジアデノシン−5’−ペンタホスフェート)の添加(incorporation)(IC50:50%のカルボキシ・アトラクチロシド抑制活性を誘導する用量(dose))である。
【0099】
生存率分析および細胞死の特長付け
MTT分析は、小分子の存在下での広範囲のヒト細胞系(cell lines)の生存率(viability)を評価するために用いた。用量応答実験(dose-response experiments)は、48時間のインキュベーション後の特定の細胞に関する各々の化合物による50%致死用量(LD50、細胞数の50%を殺す用量)を決めることを可能にする。この生存率分析は、ANT−リガンド・ライブラリの956の分子のうちで細胞死(細胞毒(cytotoxic))または増殖遅延(細胞静止(cytostatic))を誘導することが可能なセル・パーミアント(cell-permeant)な分子を同定するために、第1のスクリーニング分析として用いられる。
【0100】
本発明者らは、HT−29(コロン腺癌)またはBxPC3(膵臓腺癌)細胞系に関する50μM以下のLD50を有する分子を用いることを選択した。
【0101】
これらの分子は、ANT活性スクリーニング分析に付され、効率的なANT−阻害剤(50のμM以下のIC50)はそれらの細胞死誘導機構のために検討される(investigate)。実際、細胞死の特徴付けは、フロ−サイトメトリ(FacsCalibur、Becton Dickinson)による、処理済み細胞のマルチ・パラメトリック解析にある。フローサイトメトリによって、(1) ミトコンドリア・トランスメンブラン・ポテンシャルの損失(△Ψm;DIOC6ラベリング)、(2) 原形質膜透過化(ヨー化プロピジウム・ラベリング)、および、(3) ホスファチジルセリン露曝(アネキシン-V-fitcラベリング)を測定することができる。
【0102】

化合物1−6および8−16の合成経路
【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換された含窒素ヘテロ環化合物(これをAとする)を有するANT−リガンド。
Aは、式Iで表される置換ピリミジノン化合物である。
【化1】

ここで、
R1は、
-(CH2)n-CO-OH、
-(CH2)n-CO-OR、
-(CH2)n-CO-NHR、
-(CH2)n-CON(R,R’)、
-(CH2)n-OH、
-(CH2)n-OR、
-(CH2)n-OAr、
-(CH2)n-C(R,R’)-(CH2)n-OH、
(上記基において、RおよびR’は、同じであるか異なって、Hまたは直鎖状または分枝状のC1−C12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。Arはフェニル基またはHetである。HetはN、SおよびOから選ばれる1または複数のヘテロ原子を有するヘテロ環基を表す。前記フェニル基またはヘテロ環基は、例えば、Cl、Br,Iのようなハロゲン、−CCl3または−CF3のようなハロゲン化された炭化水素基から選ばれた1または複数の原子または基;1または複数の−OH、−OR、-COOHまたは-COOR基;フェニル基;直鎖状または分枝状のC1−C12アルキル基;-NH-COR;または-CNによって場合によっては置換されている。これらの原子および基はフェニル基またはヘテロ環基上の同じであるか異なる位置を占める。)
直鎖状または分枝状のC1−C12アルキル基、
直鎖状または分枝状のC2−C12アルケニル基、
-(CH2)n-C3-C6シクロアルキル基、
-(CH2)n-Arまたは-(CH2)n-Het、
-(CH2)n-NH-CO-R、
-(CH2)n-NH2
-(CH2)n-N(R,R’)、
-(CH2)n-NH-CO-OH、
-(CH2)n-NH-CO-OR、
-NH-(CH2)n-CO-OH
または
-NH-(CH2)n-CO-OR
である。

R2は、
-(CH2)n-Ar(ここでArは上記定義のものであり、場合によっては上記定義の置換基で置換されている。)、
直鎖状もしくは分枝状のC1−C12アルキル基、または1または複数の二重結合を有する、直鎖状もしくは分枝状のC2−C12アルケニル基、
-(CH2)n-OH、
-(CH2)n-OR、
-(CH2)n-CO-Het 、
-(CH2)n-NH-CO-R、
-(CH2)n-NH2
-(CH2)n-N(R,R’)、
-(CH2)n-CO-OH、
-(CH2)n-CO-OR、
直鎖状または分枝状のC1−C12アルキル基、
または
-(CH2)n-C(R)=CH-C(R)= CH2
である。

R3は、式Iで表されるピリミジノン環の隣接した2つの炭素原子と一緒に縮合してフェニル環基またはヘテロ環基を形成する。該フェニル環基またはヘテロ環基は、ArおよびHetに関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換され、および/または、同様にArに関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換されているシクロヘキシルまたはオキサニル(oxanyl)基に場合によっては縮合している。
nは、0または1から5の整数である。

または、
Aは、式IIで表される、置換ピリミジン化合物である。
【化2】

ここで、
R4は、-CONH-Ar基であり、Arに関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換されている。
R5は、式IIで表されるピリミジン環の隣接した2つの炭素原子と一緒に縮合してフェニル環基またはヘテロ環基を形成する。該フェニル環基またはヘテロ環基は、式Iで表されるピリミジノン環から形成されるフェニル環基またはヘテロ環に関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換されている。
Arは式IのArに関して定義されたものである。

または
Aは、式IIIで表される、置換されたピリジン化合物である。
【化3】

ここで、
ArおよびR2は、式IのArおよびR2に関して上記のように定義されたものである。
【請求項2】
R3が式I中のピリミジノン環と一緒にフェニル環基またはチエニル環基を形成し、該フェニル環基および該チエニル環基はArに関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換されている請求項1記載のリガンド。
【請求項3】
R1が
-(CH2)n-CO-OH、
分枝状のC1−C6アルキル基、
-(CH2)n-C3-C6シクロアルキル基、
-(CH2)n-NH2
-(CH2)n-NH-CO-R
および
-(CH2)n-Het(ここでHetはピリジル基を表する)
からなる群から選択される請求項2記載のリガンド。
【請求項4】
R1およびR3が請求項2または3に定義されたものであり、そして、R2が-(CH2)n-フェニル基であり有利には1または複数のC1−C3アルキル基またはハロゲン(特にCl)によって置換されている請求項2または3記載のリガンド。
【請求項5】
下記の式で表される請求項2〜4のいずれか1に記載のリガンド。
【化4】

【化5】

【請求項6】
式IIで表される化合物において、同式中のArおよびR4がフェニル基であり、場合によっては、これらが式Iに関して定義された上記の置換基で置換されている請求項1記載のリガンド。
【請求項7】
R5は、式II中のピリミジン環の隣接する2つの炭素原子と一緒に、フェニル環基を形成し、または、シクロヘキシル基またはオキサニル基に場合によっては縮合したチエニル環基を形成し、該フェニル環基およびチエニル環基は式I中のArに関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換されている請求項6記載のリガンド。
【化6】

【請求項8】
式IIIで表される化合物において、両方のArがフェニル基(これは式Iに関して上記のように定義された置換基で場合によっては置換されている)であり、R2が式Iに関して上記のように定義された置換基であり、好ましくは-(CH2)n-COOH基である請求項1記載のリガンド。
【請求項9】
下記の式で表される請求項8記載のリガンド。
【化7】

【請求項10】
請求項1記載の式I、式IIまたは式IIIで表される新規誘導体(ただし下記の化合物を除く)。
【化8】

【請求項11】
細胞中のADP/ATPトランスロケ−タANTをタ−ゲットとすることによって細胞死を誘導する方法であって、請求項1〜9のいずれか1に記載のリガンドの少なくとも1つの有効な量を添加することを含む方法。
【請求項12】
薬学的に許容されるキャリアと組み合わせた請求項1〜9のいずれか1に記載のリガンドの少なくとも1つの治療上有効な量を含む医薬組成物。
【請求項13】
更に、化学療法薬、アポト−シス・モジュレ−タ、抗菌物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬および消炎剤から成る群から選ばれる治療薬を含む請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
癌治療用である請求項12または13記載の医薬組成物。
【請求項15】
癌治療用のプロ・アポト−シス薬を製造するための、請求項1〜9のいずれか1記載のリガンドの使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−521941(P2011−521941A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511109(P2011−511109)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006076
【国際公開番号】WO2009/144584
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(510315881)
【出願人】(507199975)サーントゥル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ シャーンティフィク セエンエールエス (13)
【出願人】(311005552)ウニヴェルシテ ヴェルサイユ サン−カンタン−イヴリーヌ(ウヴェエスキュ) (1)
【Fターム(参考)】