説明

AgWC−Ag複合接点およびその製造方法

【課題】Ag−WC接点が持っている接触抵抗特性の欠点を改善し、低サージ性と接触抵抗特性とが両立するAgWC−Ag複合接点を得る。
【解決手段】Ag25〜75質量%、WC25〜75質量%、必要により補助成分を含有したAgCu合金からなる接点6と、接点6の接触面の略中央部に設けた凹部6aと、凹部6aの少なくとも内周の角部A、BにAg成分を蒸着させて形成したAg膜6b、6cとを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裁断電流特性と接触抵抗特性とを両立し得る低サージ型真空遮断器に用いられるAgWC−Ag複合接点およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低サージ型真空遮断器では、第1に裁断電流値の大小が重要な要件とされている。即ち、電動機や変圧器などの誘導性の負荷回路を遮断すると、過度の異常サージ電圧が発生し、負荷側機器の絶縁を破壊したり燃焼させる恐れがある。このため、裁断電流値を小さくし、異常サージ電圧を抑制することが要求される。
【0003】
低サージ型真空遮断器の第2には、接触抵抗特性が重要な要件とされている。即ち、近年の遮断器の小型化の要求に対し、省エネルギー操作が不可欠となる。特に駆動操作を電動式で行う真空遮断器では、機械式と比べて機構的な制約から高い接触荷重を接点に加えることが難しい。したがって、接点には、優れた接触抵抗特性を併せ持つことが要求される。
【0004】
裁断電流値を小さくする低サージ性に対しては、WC(炭化タングステン)が持っている優れた熱電子放出性、およびAg(銀)が持っている高い蒸気圧性という2つの性質を利用したAg−WC合金の接点を搭載した真空遮断器が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、低サージ性に対し、高蒸気圧性の元素であるBiを多量に含有させたCu−10%Bi合金の接点を搭載した真空遮断器が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
真空遮断器では、裁断電流特性と接触抵抗特性のほかに、耐溶着特性が基本的な要件として挙げられている。これに対しては、極少量のBiを結晶粒界に偏析して析出させ、合金自体を脆化させ、低い溶着引き外し力を実現したCu−0.5%Bi合金の接点を搭載した真空遮断器が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
また、低サージ性に対し、Coを含んだAg−Cu−WC−3%Co合金の接点が提案されている。しかしながら、導電率が低いため、接点表面層と内部層とのAg量、Cu量を、表面層から内部層に向かって変化させる構成を採用している。表面層のみ熱伝導性を低くし低サージ性を改善した上で、接点全体の平均熱伝導性を高く維持させている(例えば、特許文献4参照。)。
【0008】
Ag−Cr合金の接点においては、接点の表面から厚さ方向に組成の異なる複数の層を存在させ、表面に近い層ほど耐弧性成分の量を多くしたものが提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0009】
また、10〜33%Cu−W合金層を被アーク面とし、35〜75%Cu−W合金層を接点もしくは導電軸と接合する接合面とし、これらの境界を互いに合金化させて一体化させた接点が提案されている(例えば、特許文献6参照。)。
【特許文献1】特開昭54−65377号公報
【特許文献2】特公昭35−14974号公報
【特許文献3】特公昭41−12131号公報
【特許文献4】特開平4−206122号公報
【特許文献5】特開平9−312120号公報
【特許文献6】特開2006−100243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した従来の各種の接点材料を搭載した低サージ型の真空遮断器では、いずれも裁断電流特性と接触抵抗特性との両立がなされていないという問題点があり、その改良が望まれていた。
【0011】
特許文献1のAg−WC接点では、低サージ性がある程度満たされ高い実施実績を持っている。しかしながら、WC量を増加させると低サージ性が改善されるものの、接触抵抗特性が著しく低下する。逆にAgを増加させると接触抵抗特性は改善されるものの、低サージ性が著しく低下する。このため、低サージ性と接触抵抗特性との両立は達成されていない。
【0012】
また、この接点では、焼結熱処理、開閉、遮断などの過程において、Agの選択的蒸発が過度に進行することがみられ、アークを受けた接点表面ではWCの露出が促進される。WCリッチ部分が現れると、接触抵抗値が過度に上昇したり、ばらつきが大きくなり、温度上昇を招くことになる。
【0013】
特許文献2のCu−Bi接点では、遮断の瞬間に接点間にBi蒸気が充分に供給されている間は低サージ性が維持される。しかしながら、時間経過とともに、接点表面層のBiが枯渇し、Bi蒸気の供給量が減少すると、低サージ性が低下する。表面層のBiの蒸発損失は、接点面でのBi量分布の変動を招き低サージ性は安定しない。
【0014】
特許文献3のCu−Bi接点では、Biの添加が0.5%と少なく、大電流を遮断する遮断能力や耐溶着性を優先する大電流遮断型に高い実績を持つ。しかしながら、低サージ性は期待できない。また、接点間へ過度にBi蒸気が供給されるようになると耐電圧特性を低下させる。
【0015】
特許文献4のAg−Cu−WC−Co接点では、表面層と内部層の熱伝導性を改善しているが、これによっても表面層には依然として開閉や遮断の経過とともに、WCリッチ部分が存在するようになり、WCが接触面に露出し、接触抵抗特性は改善されない。また、Coは、焼結性の改善として機能している。しかしながら、Coを添加しても焼結時や電流遮断時に接点の最表面層で起こるAgの選択的蒸発現象によるAg欠乏部の生成や、選択的に蒸発したAg近傍で局所的にみられるWCリッチ部分などを抑制することは困難である。
【0016】
焼結性の改善としてCoの代わりに同じFe族元素であるNiを少量利用したAg−WC−Ni合金を用いることも考えられているが、Coの場合と同様に接触抵抗特性に問題があることが指摘されている。これらの結果、低サージ性と接触抵抗特性とを両立させたものは未だ達成されていない。
【0017】
特許文献5のAg−Cr接点では、複数の層を形成しているが、いずれの層にも耐弧性成分が存在しているので、上述と同様に、接触面での耐弧性成分の露出により、接触抵抗特性を低下させる。
【0018】
特許文献6のCu−W接点では、被アーク面と接合面とを20〜100μmの範囲で合金化することで互いの層の接触抵抗を抑制することができる。しかしながら、いずれの層にも耐弧性成分が存在しているので、上述と同様に、接触面での耐弧性成分の露出により、接触抵抗特性を低下させる。
【0019】
以上のように、いずれの接点も、開閉動作の進行によりWCの凝集やAgの損失が起こり、接触抵抗特性に影響を及ぼすとともに、低サージ性を不安定化させていた。
【0020】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、Ag−WC接点が持っている接触抵抗特性の欠点を改善し、低サージ性と接触抵抗特性とを両立し得るAgWC−Ag複合接点およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明のAgWC−Ag複合接点は、Ag25〜75質量%、WC25〜75質量%、必要により補助成分を含有したAgCu合金からなる接点と、前記接点の接触面の略中央部に設けた凹部と、前記凹部の少なくとも内周の角部にAg成分を蒸着させて形成したAg膜とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、AgWC合金からなる接点の接触面に凹部を設け、この凹部にAgを主成分とするAg塊を配置し、これらを加熱して一体化させているので、WCが持っている優れた熱電子放出性、およびAgが持っている高い蒸気圧性の両者を効果的に発揮させることができ、低サージ性と接触抵抗特性とを両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(接点の構成)
先ず、AgWC−Ag複合接点が用いられる真空バルブの構成を図1、図2を参照して説明する。図1は、本発明の実施例に係る真空バルブの構成を示す断面図、図2は、本発明の実施例に係るAgWC−Ag複合接点の構成を示す拡大断面図である。
【0024】
図1に示すように、筒状の真空絶縁容器1の両端開口部には、固定側封着金具2と可動側封着金具3が封着されている。固定側封着金具2には、固定側通電軸4が貫通固定され、端部に固定側接点5が固着されている。固定側接点5に対向して接離自在の可動側接点6が可動側封着金具3を貫通する可動側通電軸7端部に固着されている。可動側通電軸7の中間部にはベローズカバー8が設けられ、ベローズカバー8と可動側封着金具3間に伸縮自在のベローズ9が封着されている。また、接点5、6間を包囲するアークシールド10が真空絶縁容器1内面に固定されている。
【0025】
可動側接点6の詳細を図2に示す。図2に示すように、AgWCからなる可動側接点6の接触面の略中央部には、円柱状の可動側凹部6aが設けられており、この凹部6a内にe−B−D−fで囲まれるAgを主成分とする可動側Ag層6bが設けられている。また、後述する製造方法によっては、可動側Ag層6bの表面にA−e−f−Cで囲まれるAg成分が蒸着した可動側Ag被膜6cが設けられる。ここで、可動側Ag層6bと可動側Ag被膜6cとは一体化することがあるので、これらを単にAg膜と称する。なお、固定側接点5も同様に、固定側凹部5aが設けられ、Ag膜が設けられている。そして、Ag膜を有するAgWC接点をAgWC−Ag複合接点と称する。
【0026】
(接点の製造方法)
次に、AgWC−Ag複合接点の製造方法を可動側を用いて説明する。公知技術によって製造した凹部6aを持つAgWC合金板を準備し(AgWC合金板を準備する工程)、凹部6aの底面にAg塊を載置する(Ag塊を載置する工程)。そして、AgWC合金板とAg塊を同時に加熱し、Ag塊を溶解させて両者を一体化させる(AgWC合金板とAg塊とを加熱する工程)。AgWC合金板は、25〜75質量%のAgと25〜75質量%のWCと必要により補助成分を含む。Agが25質量%未満では、裁断電流値を小さくすることができるが、接触抵抗値が上昇するとともに、遮断特性の低下を招くので好ましくない。Agが75質量%超過では、裁断電流値が大きくなり、低サージ性の効果が発揮されないので除外する。
【0027】
補助成分としては、Co、Cu、Niの少なくとも1種を用い、これらの総量を5質量%以下とする。補助成分を含有させると加工性が向上するが、5質量%を超えると、裁断特性が低下する。好ましくは1質量%以下がよい。
【0028】
Ag塊は90質量%以上のAgを用い、凹部6a内で溶融温度程度まで加熱し、Ag成分を環状となる内周の角部A、内周の角部C、筒状となる内周の側面A−B、内周の側面C−D、および円状となる底面B−Dに蒸着させる(Ag成分を凹部6aに供給する工程)。これらの角部、側面、底面に蒸着されたAg成分がAg層6bやAg被膜6cとなり、Ag膜に相当する。なお、Ag塊にAgが90質量%以上のAgCu合金を用いると、Agを主成分とするAg層6bとAg成分のAg被膜6cが形成される。
【0029】
角部A、C、側面A−B、C−D、底面B−DにAg成分を効率的に蒸着させるには、Ag塊を凹部6aの底面の一部分に偏って載置せず、均一的に載置する。底面の中央部が最もよい。加熱温度は1000℃程度で、昇温速度はAgを適切に蒸発させる約5℃/分を採用する。これにより、AgWC−Ag複合接点を得ることができる。
【0030】
(Ag塊の形態)
Ag塊は、塊状、薄板状、箔状、線状、粉状、圧粉体状などのいずれもよい。また、凹部6a内面にペースト状の銀粉を塗布、一旦加熱して溶解させた蒸着膜、物理的Agメッキ、化学的Agメッキを施したものでもよい。なお、Ag板を配置し、脱落しないように高圧力で加圧して圧着させてもよい。
【0031】
また、Ag塊は、Agが90質量%以上のAgCu合金でもよい。Agが90質量%未満では、Ag分圧の低下で必要とするAg成分の蒸着量が低下し、角部A、C、側面A−B、C−D、底面B−DへのAg成分の供給効率が低下する。
【0032】
(凹部6aの深さ)
凹部6aの深さは、少なくとも0.1mm以上とする。0.1mm未満では、角部A、C、側面A−B、C−D、底面B−Dへ供給されるAg量が減少し、Agの持つ接触抵抗特性を充分に発揮させることができない。一方、深さの最大は、接点6厚さの1/5〜1/10を目安とする。これは、投入時や遮断時の溶着引き外し力が一定ではなく常に異なるものであるので、引き外しに際し、接点6が破壊せず耐えるものにするためである。
【0033】
(Ag塊の量)
Ag塊の量は、0.1〜2g/cmとする。2g/cmを超えると、Agが凹部6aから過度に溢れ出したり、接触面の平滑度を損なったりする。更に、接触面にAg成分が過度に供給され、裁断現象の発生を緩和するためのWCの多くが覆い隠され、熱電子放出効果が低減され、その結果、裁断電流値のばらつきが大きくなる。Ag塊の量が0.1g/cm未満では、角部A、C、側面A−B、C−D、底面B−DへのAg成分の供給が過少となり、局所的にWCが露出してWCによる熱電子放出効果が現れるものの、接触抵抗特性が低下する。
【0034】
(Ag塊量の表示)
Ag塊の表示はg/cmとしている。これは、電流開閉時に所定量のAg蒸気を接点5、6間に供給するためである。角部A、C、側面A−B、C−D、底面B−DからAg蒸気を供給することが重要であり、Agを均一の厚さで設けることは重要でない。均一の厚さにする場合、ガスを内包し易いメッキ法や厚さに制限のある蒸着法があり、この点でも好ましくない。更には、裁断電流試験結果を整理する上で、厚さmmと重量g/cmとでは、後者の方が裁断電流値の分布の整理が容易であり、信頼性の管理面などで有益である。これは、接触面上でのアークが無数で極めて微小面積であり、組成の変動と厚さの変動が大きく、この変動と接触抵抗値との関係を整理することは困難なためである。これらのことから、この種の真空バルブに用いられる接点6の大きさを考慮して、Ag塊量の表示は凹部6a底面の直径を20mmとしたときの相対値で表示している。
【0035】
(凹部6aの作用)
凹部6aの存在によって、これを設けていない平板と比べて、確実且つ安定した接触をさせることができ、接触抵抗特性を向上させる。また、角部A、C、側面A−B、C−D、底面B−Dに蒸着させたAg成分により、更に接触抵抗特性を向上させることができる。即ち、凹部6aを設けて接触させると、凹部6aの開口端面の円周上には接触する可能性のある接触点が連続して点在し、確実な接触を示す。そして、角部A、CにAg成分を存在させているので、接触抵抗値を抑え、安定した接触抵抗特性を示す。
【0036】
なお、筒状となる側面A−B、C−DにAg膜を蒸着させると、必然的に環状となる角部A、CにもAg膜が形成されるが、積極的に角部A、Cであって接触面にも達するようなAg膜を設けると、接触抵抗特性を改善することができる。また、凹部6aの内径を通電軸7の外径よりも小さくすると、機械的荷重が加わっても凹部6aは反ることがなく、角部A、Cが確実に接触する。
【0037】
電流開閉時においては、定格電流以下のような小さい電流遮断では上述した凹部6aによる連続的な接触点とAg成分の供給とにより、裁断電流特性と接触抵抗特性との両立を図ることができる。角部A、CのAg成分が蒸発しても、側面A−B、C−D、底面B−DからAg成分が供給され、更には下地のAgWC合金からAg成分が供給されるので、安定した接触抵抗特性を維持させることができる。
【0038】
一方、事故電流のような大きな電流遮断では、そのエネルギーによってAg成分が接触面から蒸発し、下地のAgWCからWCが露出する。これにより、WCの高融点性を利用して耐溶着性を向上させることができ、火災などの事故を回避することができる。即ち、裁断電流特性と接触抵抗特性とを維持しながら耐溶着性を有するという二律背反的な要求に対応するものとなる。
【0039】
なお、従来のAg−WC接点では、電流開閉時に、入力されるエネルギーに応じたAg成分の蒸発と、アークにより加熱された温度に応じたWCからの熱電子放出により、裁断電流現象が緩和されていた。しかしながら、Agの蒸発により接触抵抗特性が低下し、両者の両立は困難であった。定格電流以下の電流開閉では、接触面の汚染、凹凸などを清浄化するエネルギー注入がなされないので接触抵抗特性が重要となる。また、事故電流のような電流開閉では、Agの蒸発を活発化させ、裁断電流特性を向上させなければならない。更には、Ag−WC接点では、製造過程での焼結、溶浸によりAg成分の蒸発損失が起こり、接触面のAg成分量を制御することが困難であった。
【0040】
これに対し、AgWC−Ag複合接点では、凹部6aを設けてAg成分を供給する角部A、C、側面A−B、C−D、底面B−Dを形成し、接触面からのAg成分の蒸発においてはそれを補給し、WCの露出においてはそれを覆って修復し、裁断電流特性と接触抵抗特性とを両立させることができる。
【0041】
(評価方法−裁断電流特性)
一対のAgWC−Ag複合接点を10−3Pa以下に排気した組立て式真空開閉装置にセットし、サージインピーダンス100Ωの回路で50Hz、20A(実効値)の電流を1000回開閉したときの裁断電流値を求めた。結果は、1000回の測定値の低い方から100番目の値を第1・10分位とし、低い方から900番目の値を第9・10分位とし、平均値を算出し、これらを相対値で示した。
【0042】
(評価方法−接触抵抗特性)
平均表面粗さ5μmに加工仕上げした直径42mmで厚さ5mmの平板状のAgWC−Ag複合接点と、同様の表面粗さを持つ曲率半径100mmの半球状電極を対向接触させ、直流10A通電時の接触抵抗を求めた。接触荷重は3kgとし、10−3Pa以下の真空中で行った。結果は、100個の測定値の低い方から10番目の値を第1・10分位とし、低い方から90番目の値を第9・10分位とし、平均値を算出し、これらを相対値で示した。なお、測定にあたっては、配線材料などの抵抗値を含んだ値である。
【0043】
(評価方法−加工性)
あらかじめ平均表面粗さ50〜60μmに揃えた直径42mmのAgWC合金素材を100枚用意し、平均表面粗さ3μmを目標に切削加工を行った。切削工具は、SKH4工具鋼のバイトを使用した。バイトの消耗度合いもあり、全てのAgWC合金素材の表面粗さが目標値に達しないので、表1に示す判定基準により、加工性を評価した。
【表1】

【0044】
(遮断特性)
一部のAgWC−Ag複合接点においては、遮断試験用実験バルブに取り付け、遮断試験を行った。ベーキング、電圧エージングを与えた後、24kV、50Hzの回路に接続し、1kAずつ電流を上昇させ、遮断限界を求めた。供試バルブは3本であり、遮断後に解体してアークの拡がりなどを観察し、遮断性能の判断の一助とした。
【0045】
(温度上昇特性)
接触抵抗特性と同様の電極を用い、10−3Pa以下の真空容器にセットし、接触荷重30kg、開離力20kgで400Aの電流を20回開閉し、開閉直後の通電軸の温度変化を赤外線温度計で測定した。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を表2に示す接点製造条件と、表3に示す評価結果を参照して説明する。
【0047】
(実施例1)
AgWC合金板を公知技術で製造した。即ち、平均粒子直径3μmのWC粉を所定量(60質量%)と、平均粒子直径5μmのAg粉とを所定量(40質量%)秤量し、混合機で充分に混合してAgWC粉とする。その後、AgWC粉を成型圧力3トン/cm(1〜4トン/cmが好適)で成型し、直径45mmのAgWC成型体を得る。得られたAgWC成型体を水素雰囲気中で1150℃−2時間の焼結を行い、残存空隙率が10%程度の直径44mmのAgWC焼結体を得る。その後、AgWC焼結体の残存空隙中に1030℃(980〜1150℃が好適)で1時間、真空中でAgを溶浸し、冷却速度約5℃/分で冷却し、98〜100%の相対密度を持つ直径43mmのAgWC溶浸体を得る(Ag溶浸工程)。得られたAgWC溶浸体を機械加工によって直径42mmのAgWC合金板とする。
【0048】
得られたAgWC合金板の接触面の略中央部に機械加工により凹部6aを付与する。凹部6aは、表2に示すように、内径が20mmで、深さが0.25mmであり、底面の表面粗さが9〜12μm、内周の側面の表面粗さも9〜12μmである。凹部6aの深さは、底面角部からの亀裂、破断を抑制するため、厚さの1/10以内が好ましい。なお、凹部6aは、接触面に複数個を分割して付与してもよい。
【0049】
このようにして得られた凹部6a付きAgWC合金板にAg塊を0.25g/cm載置する。これらを非酸化性雰囲気中の真空中で1000℃の1時間加熱する。加熱は800℃以上で可能である。加熱処理により、Ag塊中のAg成分は蒸発移動し、凹部6aの角部A、C、側面A−B、C−D、底面B−DにAg成分が蒸着され、AgWC−Ag複合接点が得られる。なお、凹部6aを複数個に分割した場合には、Ag塊をそれぞれ分配する。
【0050】
このように製造したAgWC−Ag複合接点では、接触抵抗値の平均値が93μΩ、裁断電流値の平均値が1.1Aであり、接触抵抗特性、裁断電流特性とも良好であった。また、加工性も良好であった。特に、接触抵抗特性と裁断電流特性において、平均値が低いとともに、第1・10分位と第9・10分位の差が小さく、ばらつきが小さいものであった。
【0051】
(実施例2)
実施例1の製造方法に対し、Ag溶浸工程を省略した。AgとWCとの混合比率は実施例1と同様であるが、AgWC焼結体の相対密度が99%以上となるように、AgWC成型体を得る際の成型圧力を8トン/cm2とし、1030℃で2時間の焼結を行った。その後、冷却速度約5℃/分で冷却し、AgWC焼結体を得て、機械加工により直径42mmで凹部6aの深さ0.25mmのAgWC合金板を製造した。次いで、凹部6aにAg塊を載置し、800℃以上で加熱処理を行い、Ag成分を凹部6aの角部A、C、側面A−B、側面C−D、底面B−Dに蒸着させた。
【0052】
この結果、接触抵抗値の平均値が85μΩ、裁断電流値の平均値が1.1Aであり、いずれもばらつきが小さく、接触抵抗特性、裁断電流特性とも良好であった。また、加工性も良好であった。
【0053】
(比較例1〜3)
比較例1では、実施例1と同様の製造方法でAgWC合金板を製造したが、凹部6aを設けていないAgWC接点である。その結果、接触抵抗値が高くばらつきが大きかった。比較例2においても凹部6aを設けず、Ag塊だけを載置して非酸化性雰囲気中で加熱した。その結果、Ag成分が空間に拡散し、Ag成分を接触面へ残存させることが困難であり、接触抵抗特性はばらつきが大きいものであった。なお、接触面上からAgの脱落も見られた。比較例3では、凹部6aを設けたものの、Ag塊を載置していない。その結果、接触面にAg膜が蒸着されていないため、接触抵抗値が高くばらつきが大きかった。
【0054】
(実施例3〜6、比較例4、5)
実施例1と同様の製造方法でAgWC合金板を製造した。そして、凹部6aの深さを0.08〜0.09mm、0.1mm、0.2mm、0.4mm、0.5mm、0.6mmと変化させた。Ag塊は、0.3g/cmである。
【0055】
その結果、深さ0.08〜0.09mmの比較例4では、接触抵抗値が高く、ばらつきが大きかった。これは、Agが凹部6aから溢れて脱落するものがあり、Ag成分が充分に蒸着されなかったためである。また、深さ0.6mmの比較例5では、接触抵抗特性、裁断電流特性とも良好であったものの、凹部6a底部の角部に亀裂が発生したものがあった。
【0056】
これに対し、凹部6aの深さ0.1mm〜0.5mmの実施例3〜6では、接触抵抗特性、裁断電流特性、加工性ともいずれも良好であった。
【0057】
(実施例7〜10、比較例6、7)
実施例1と同様の製造方法でAgWC合金板を製造した。そして、凹部6aの深さを0.3mmとし、Ag塊を0.06g/cm〜2.3g/cmと変化させた。
【0058】
その結果、Ag塊が0.06g/cmの比較例6では、Ag量が少なく、接触抵抗値が大きかった。また、Ag塊が2.3g/cmの比較例7では、接触抵抗特性が良好であったものの、特に第9・10分位の裁断電流値が大きかった。
【0059】
これに対し、Ag塊が0.1g/cm、1.0g/cm、1.4g/cm、2.0g/cmの実施例7〜10では、接触抵抗特性、裁断電流特性、加工性ともいずれも良好であった。
【0060】
(実施例11、12、比較例8)
実施例1と同様の製造方法でAgWC合金板を製造した。そして、凹部6aの深さを0.3mmとし、Ag塊を0.3g/cmとした。ここで、Ag塊は、Agの質量を95%〜85%と変化させ、残部をCuとした。
【0061】
その結果、95質量%Agの実施例11、90質量%の実施例12では、安定した接触抵抗特性、裁断電流特性を示した。しかしながら、85質量%の比較例8では、Ag成分が少なく接触抵抗値が高く、好ましくなかった。
【0062】
(実施例13〜18、比較例9)
実施例1と同様の製造方法でAgWC合金板を製造するものの、機械加工性を向上させるため、AgWC合金中に補助成分としてCoを0.1質量%〜6.0質量%の範囲で混合した。なお、Coの混合量に合わせて、AgとWCとを同量ずつ減量させている。凹部6aの深さは0.3mm、Ag塊は0.3g/cmである。
【0063】
その結果、Coが0.1質量%〜5.0質量%の実施例13〜18では、接触抵抗値の平均値が111μΩ以下、裁断電流値の平均値が1.7A以下であり、接触抵抗特性、裁断電流特性とも良好であった。特に、実施例16、17では、加工性評価がA、Sであり優れたものであった。
【0064】
これに対し、Coが6.0質量%の比較例9では、遮断特性が1.3倍と予期せぬ向上を示したが、接触抵抗値が平均285μΩと高く、また加工性評価がZであり高硬度化していた。
【0065】
(実施例19〜22)
実施例1と同様の製造方法でAgWC合金板を製造するものの、AgWC合金中にCuを0.1質量%〜3.0質量%の範囲で混合した。なお、Cuの混合量に合わせて、AgとWCとを同量ずつ減量させている。凹部6aの深さは0.3mm、Ag塊は0.3g/cmである。
【0066】
その結果、Cuを混合した実施例19〜22では、接触抵抗値の平均値が106μΩ以下、裁断電流値の平均値が1.6A以下であり、接触抵抗特性、裁断電流特性とも良好であった。特に、Cuが1.0質量%の実施例21では、加工性評価がAであり優れたものであった。
【0067】
(実施例23〜27)
実施例1と同様の製造方法でAgWC合金板を製造するものの、AgWC合金中にNiを0.1質量%〜2.0質量%の範囲で混合した。また、NiとCu、およびNiとCuとCoを混合した。なお、Ni、Cu、Coの混合量に合わせて、AgとWCとを同量ずつ減量させている。凹部6aの深さは0.3mm、Ag塊は0.3g/cmである。
【0068】
その結果、Niが0.1質量%〜2.0質量%の実施例23〜25では、接触抵抗特性、裁断電流特性に影響を与えることなく良好であった。Niが0.3質量%、Cuが0.2質量%の実施例26でも、接触抵抗特性、裁断電流特性が良好であった。また、Niが0.2質量%、Cuが0.3質量%、Coが0.2質量%の実施例27でも、接触抵抗特性、裁断電流特性が良好であった。加工性は、実施例23〜27全て良好であった。
【0069】
(他の実施例)
AgWC合金板を製造するにあたって、Agが75質量%を超え、WCが25質量%未満では、裁断電流値が高くなる。また、Agが25質量%未満で、WCが75質量%を超えると、接触抵抗値が過度に高くなり、通電時の温度上昇が著しいものになる。したがって、Agが25〜75質量%で残部がCuのAgWC合金板において、凹部6aを設けてAg成分を蒸着させることにより、接触抵抗特性と裁断電流特性とを向上させることができる。
【表2】

【表3】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施例に係る真空バルブの構成を示す断面図。
【図2】本発明の実施例に係るAgWC−Ag複合接点の構成を示す拡大断面図。
【符号の説明】
【0071】
1 真空絶縁容器
2 固定側封着金具
3 可動側封着金具
4 固定側通電軸
5 固定側接点
5a 固定側凹部
6 可動側接点
6a 可動側凹部
6b 可動側Ag層
6c 可動側Ag被膜
7 可動側通電軸
8 ベローズカバー
9 ベローズ
10 アークシールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag25〜75質量%、WC25〜75質量%、必要により補助成分を含有したAgCu合金からなる接点と、
前記接点の接触面の略中央部に設けた凹部と、
前記凹部の少なくとも内周の角部にAg成分を蒸着させて形成したAg膜と
を備えたことを特徴とするAgWC−Ag複合接点。
【請求項2】
前記補助成分は、Co、Cu、Niの少なくとも1種からなり、
総量が5.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のAgWC−Ag複合接点。
【請求項3】
前記凹部の深さは、0.1〜0.5mmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のAgWC−Ag複合接点。
【請求項4】
接触面の略中央部に凹部を持つAgWC合金板を準備する工程と、
前記凹部にAg塊を載置する工程と、
前記AgWC合金板と前記Ag塊とを加熱する工程と、
前記Ag塊からのAg成分を前記凹部に供給する工程と
を備えたことを特徴とするAgWC−Ag複合接点の製造方法。
【請求項5】
前記Ag塊は、塊状、薄板状、箔状、線状、粉状、圧粉体状、塗装膜、蒸着膜、メッキ膜のいずれかの形態であることを特徴とする請求項4に記載のAgWC−Ag複合接点の製造方法。
【請求項6】
前記Ag塊の量をg/cmで表示するとともに、その量を0.1〜2.0g/cmとしたことを特徴とする請求項4または請求項5に記載のAgWC−Ag複合接点の製造方法。
【請求項7】
前記Ag塊は、Agが90質量%以上のAgCu合金であることを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載のAgWC−Ag複合接点の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−289652(P2009−289652A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142315(P2008−142315)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】