DNAの抽出、増幅、及び分析のためのマイクロ流体装置及び方法
一体型ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置であり、犯罪の法医学的現場検証に適する、増幅チャンバと流体共働すると共に分離及び検出チャネルと流体共働する少なくとも一のDNA抽出チャンバを形成する複数のマイクロチャネルを有する基体を具え、前記サンプルの処理に必要なDNA抽出材料とゲル系反応試薬を含有し、前記装置は、更に外部電源に接続するための電気接点を具え、前記装置を通して前記ゲル系試薬と前記サンプルから抽出されたDNAの動電学的操作を生じさせる装置が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体サンプル処理装置、方法とシステムに関するものである。より詳しくは、本発明は、ゲルに担持させたサンプルや試薬を有するマイクロチャネルを具え、このマイクロチャネルを使用する完全に一体型にされた携帯可能なDNA分析器を具えるマイクロ流体サンプル処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「Lab−on−chip」や「微小化学物質分析システム」としても知られる最新のマイクロ流体装置は、一般に基体と、マイクロチャネルやポートのようなマイクロ構造とを具える。このようなマイクロ流体装置の使用により、シリコン、ガラス、ポリマーのような材料の多層体を特色とする専用マイクロチャネルの使用が可能となり、これによって通常サイズの器具が小型化されて、容易に携帯できるようになる。
【0003】
標準サイズの同じ種類の装置と比較すると、このようなマイクロ流体装置には、サンプルと試薬の量が非常に少なくてすむということ、分析に必要な時間がより短く、内部で実行される検査の感度が標準サイズの装置より高いことを含む様々な有利な点がある。加えて、汚染の可能性の削減や、現場分析サイトへのより良い可搬性がより簡単になる。
【0004】
伝統的なDNA指紋鑑定法のような方法は、一日または場合によっては一週間を要し、手順を完了させるのに多くの異なる装置を使用する。従って、犯罪が起きた直後にDNAを使って、例えば容疑者の迅速なリストを作成することは困難である。しかしながら、化学反応、合成、精製、抽出、産生及び/又は分析など、従来技術のマイクロ流体装置で実行可能である様々な操作が存在する。このため、マイクロ流体装置は、DNA指紋鑑定法、遺伝子分析、臨床診断、薬物スクリーニング、環境モニタリングのような分析診断分野において広い実用性を見出すことができる。
【0005】
マイクロ流体装置に関連する製造手順は、一の装置上で様々な工程の統合の可能性を取り入れているため、最新の調査器具の発展へつながる魅力的なルートを提供し、更にこれが分析測定のロバスト化を強化する自動化システムにつながる。しかしポンプのような補助器具を装置に連結することなく装置のある領域から他の領域に個別容量のサンプルを上手く移送をすることが非常に複雑であるため、いくつかのケースでは、一体化が困難であるとされていた。
【0006】
通常使用される最新式のマイクロ流体装置又はシステムでは、全て外付けの流体力学ポンプを必要する。例外として電気泳動的分離があるが、これは過大なデッドボリュームを必要とするため、マイクロリットルの流体を操作する方法として非常に非効率的である可能性がある。更に、従来技術の装置は一般に溶液ベースの技術から成り、特に例えば、気泡がシステムに侵入したり、溶液が乾いてしまった場合、サンプルの安定した動電学的制御を提供する態様でマイクロ流体装置内に試薬を準備して保管することは困難である。
【0007】
特に、組織からのDNA抽出と精製、DNA増幅、サンプル分離及び検出用の単一チップモジュールを実用的な移送メカニズムと組み合わせ、これらのステップが、マイクロ流体連通した構成部品によって上手く実行できる実用的な装置は、効率的な生産と操作が困難であった。様々な試薬の有効かつ一貫性のある局在性、実体面での溶解組織サンプルを受けるインターフェースの効率的な提供、チップを通して連結的に抽出されたサンプルを確実に移送する効率的な移送メカニズムは、特に困難である。
【0008】
例えば、WO99/64848は、部分的に統合されたマイクロ流体装置を記載している。移動は、液体内で動電学的移動(電気浸透)により行われ、電気泳動的な分離が生じるゲル内への動電学的注入を特徴とする。検出は、蛍光発光により、シークエンシングアプリケーションに基づいている。しかし、DNAの抽出と精製は、チップ外でなされる。
【0009】
US2003/190608では、相補的DNA/RNAを有するビーズがゲル内に保持されており、ここを通りサンプルが流体力学的に圧送されるシステムを記載している。熱的増幅を含むハイブリゼーション工程が述べられているが、試薬は装置内に配置されているのではなく、ポンプを用いて容器を介して添加される。蛍光発光検出はチップ上でなされるが、分離は記載されていないか又は特別なアプリケーションを必要とする。更に、DNA抽出もチップ外でなされる。
【0010】
US2005/161327の装置は、動電学的なものではなく2つの電気泳動ポンプに基づく装置である。サンプルの調整は、試薬の添加と同様に装置外でなされ、全体の工程は、溶液ベースである。分離工程については述べられていない。
【0011】
WO2007/133710は、プラグ又は水滴ベースの溶液処理を記載しており、主に混合や分離のような水滴操作工程に焦点を当てている。試薬は、装置上に保持されていない。
【0012】
抽出、増幅と分離と検出を単一装置内で統合することに関連する主な問題点の1つは、統合によって、個々の工程の既知の動作条件が損なわれることである。動作条件の再最適化は、個々の工程間の相互作用を調和させて、システムを独立した複合工程として稼働させなければならないため、達成が困難である。
【0013】
これらの及び他の理由から、単一チップ上で、抽出と精製、増幅、サンプル分離と検出を効果的に行うマイクロ流体装置は、実現困難であるとされていた。
【発明の概要】
【0014】
本発明によれば、一体型ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置であって、増幅チャンバと流体共働すると共に分離及び検出チャネルと流体共働する少なくとも一のDNA抽出チャンバを形成する複数のマイクロチャネルを有する基体を具え、前記サンプルの処理に必要なDNA抽出材料とゲル系反応試薬を含有し、前記装置は、更に外部電源に接続するための電気接点を具え、前記装置を通して前記ゲル系試薬と前記サンプルから抽出されたDNAの動電学的操作を生じさせる装置が提供される。
【0015】
“ゲル系試薬”という用語は、抽出されたDNAサンプルの精製及び溶出、及びPCR反応サポートに必要な試薬が、マイクロ流体装置内でゲルマトリックスに担持されていることを意味する。
【0016】
マイクロ流体装置の基体は、不活性で非導電性であり、好ましくはガラス又はその他の同様の物質又は材料のような光学的に透明な材料で形成するのが望ましい。基体は、一般に使用まで蓋で密封されて、その中に画定されている内部マイクロチャネルを封入している。蓋は、適当な手段によって基体に固着又は連結できる。
【0017】
装置のサイズは、その中に設置する分析機器によって決定できる。あるいは、120mm×60mmであるが、最大120mm又はそれ以上×で最大60mm又はそれ以上のサイズも適している。携帯用システムでの利用に適するように小型の装置が好ましい。さらにこの装置は、容易に製造することができる。
【0018】
DNA抽出チャンバは、例えば入口ポートなどを有する溶解サンプルをチャンバへ導入する手段を具える。好都合なことに、このチャンバは、サンプル受け取り手段を具えるか又は、サンプル受け取り手段と流体連通している。サンプル受け取り手段は、溶解サンプルが、直接DNA抽出チャンバ内へ導入されるよう構成することができる。好ましい実施例では、溶解剤との混合物中にDNA材料を含むサンプルを受け取り手段で受け取ることができる。このように、サンプル受け取り手段は、非溶解組織サンプルを収容し、これを溶解させ、DNA抽出チャンバに溶解サンプルを導入するように構成できる。例えば、サンプル受け取り手段は、使用時に組織サンプルを受け取る吸収部材を具え、溶解剤を予充填して、使用に際してDNA抽出チャンバ導入ポートに流体連通して配置し、このように配置された時に溶解サンプルを受け取り、溶解させ導入する。好適な溶解剤はカオトロピック塩溶液である。好適なカオトロピック塩はグアニジン塩酸である。なぜなら、組織サンプルの溶解液に加えたときに、塩が続いて生じるDNA抽出材料へのDNAの結合を容易にし(以下に述べる)、抽出したDNAを酵素的に切断するデオキシリボヌクレアーゼ(DNアーゼ)を不活性化するためである。
【0019】
DNA抽出材料は、DNAを捕捉することができ、残存量の溶解サンプルをこの材料に通過させるか、DNAを吸着させて、主容量の溶解サンプルを捕捉して、DNAをこの材料に通過させることができる。望ましくは、DNA抽出材料を荷電してDNAを捕捉し、DNA抽出チャンバ内に配置させるようにする。より望ましくは、DNA抽出材料は、多孔性固相抽出材料である。固相抽出(SPE)により、サンプルの予濃縮と、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような下流のアプリケーションを阻害する潜在的な汚染の除去が可能になる。更に、SPEはDNAの予濃縮を行うこともできる。これはわずかなサンプルを取り扱うときに重要である。
【0020】
より好ましくは、DNA抽出材料はシリカ系抽出材料であり、例えばシリカビーズ、又はより好ましくはシリカ系モノリスである。シリカ系モノリスのようなシリカ系抽出材料は、溶解サンプルからDNAを抽出するだけでなく、電気浸透流(EOF)用ポンプとして作動し、これにより、下記により詳しく述べるよう抽出ステップの効率が上がる。
【0021】
シリカ系モノリス内のように、DNA抽出材料が負に荷電している所に、例えばカオトロピック塩溶液のようなカオトロピック剤が存在すると、溶解がチップ上で行われる溶解剤か、あるいは溶解がチップ外で行われる装置の関連チャネルに予充填した溶解剤が、溶解サンプル中に存在するDNAとDNA抽出材料との結合を容易にする。これは、カオトロピック剤のイオン強度が高いため、抽出材料の表面における負電位を減少させることができるからである。これによって、DNAと抽出材料表面が脱水され、DNA/抽出材料接触中の分子間水素結合が形成されて優勢になり、これにより、DNA抽出材料へのDNAの結合が強化される。更にカオトロピック剤は、水分子を閉じ込めることにより水和イオンを形成し、DNA及び抽出材料表面の溶媒化を減少させる。更にカオトロピック剤は、DNAを変性させて、1本鎖DNA分子の露出したベースを抽出材料表面に水素結合させる。
【0022】
本発明の好ましい実施例は、装置上で組織細胞の溶解が行われ、この溶解剤は更にリボ核酸(RNA)のようなキャリア分子を具える。このようなキャリアRNAの使用は、特にサンプル中に存在するDNAが少量のときに、DNA抽出の効率増加に顕著な効果を有する。シリカ系モノリスのような抽出材料上には、所定量の核酸が不可逆的に結合する部位が常に存在することが知られている。溶解剤中にキャリアRNAを含めることにより、このキャリアRNAがこれらの部位に犠牲的に結合して、重要なDNAの損失を最小限にし、より大きな回収につながる。
【0023】
シリカ系モノリスは、熱的活性型か光開始型であることが望ましい。使い易さ、速度、再現性、及び作製したマイクロ流体装置上での正確な局在化といった特有の利点を有することから、熱的活性化型のシリカ系モノリスが、光開始型のものより望ましい。モノリスは一般に多孔性であり、モノリス内部の又はモノリスに隣接している導入口を介して溶解したサンプルを受け入れることができる。
【0024】
DNA抽出チャンバは、チャンバに流体連結する洗浄用入口と洗浄用出口を具えることが望ましい。望ましい実施例では、DNA抽出チャンバが、ゲル内に担持された溶出試薬を含むチャネルを更に具えており、チャンバが冷却されると、DNA抽出材料からDNAを溶出することができる。溶出ゲルは、例えば水のような低イオン強度の緩衝材を含んでいることが望ましい。
【0025】
この装置は、また、装置の周囲に、導入又は移動用の、又は試薬の除去又は廃棄用の複数の入口と出口を具える。
【0026】
望ましくは、少なくとも一のDNA抽出チャンバ、増幅チャンバ、及び分離及び検出チャネルの各々の中のゲル系試薬がそこで行われる工程の性質に関連している。このようなゲル系試薬は、所望であれば、装置内の原位置にあるときにマトリックスを形成する能力により選択することができる。ゲル系電気泳動に適切であり、特に装置内の原位置にあるときにマトリックスを形成する能力があることが知られているゲルは、線状多糖類系ものを含む。好ましくは、このゲルは少なくとも一の線状多糖類を具え、この線状多糖類は、選択的に、別の線状多糖類と、及び/又は、少なくとも一の非線状多糖類と混合されていることが好ましい。アガロース系ゲルは特に適している。従って、この少なくとも1の線状多糖類は、好ましくは、アガロースを含有しており、このアガロースは、いくつかの実施例においては、重要であるか、ゲルを形成する唯一の材料として存在するだけである。
【0027】
電気泳動的分離に使用する望ましいゲルは、ポリエチレンオキシド(PEO)系又は線状ポリアクリルアミド(LPA)系である。そのようなゲル中に存在するポリマー濃度によって、注入に続いてゲルが分離チャネルに局在するよう流れを制御できる。好ましくは、このポリマー濃度は、分離ゲル培地の3重量%から7重量%である。これらのポリマーレベルは、PCR増幅産物を減速するポリマーマトリックスを形成して、好適な分離を行えるからである。
【0028】
このように、ゲル系試薬の使用により、本発明によって作製したマイクロ流体装置上に様々な工程試薬を正確に局在化させて固着することができる。溶解サンプルからのDNA抽出、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用したDNA増幅、分離および検出の全てのステージは、本発明によるマイクロ流体装置上のマイクロ流体結合した構成部品によって、連続的に局在化された方法で実行できる。特に、溶解サンプルからDNAを抽出することにより、抽出チャンバは、より効果的な実体インターフェースを抽出、増幅、分離及び検出の全てのステージが連続的に局在化された方法で実行されるマイクロ流体装置に提供する。
【0029】
ゲル系試薬は、また、選択されたDNAフラグメントに結合し、分離工程で検出できる光プローブを具える。この光プローブは、DNAフラグメントに結合するか、発光するDNAフラグメント上で光る光を反射又は吸収することができる。好ましくは、光プローブは、蛍光染料又は化学染料である。より好ましくは、光プローブは、DNAフラグメントの5’末端に結合し、増幅する間にPCR産物内に取り込まれる蛍光染料である。適切なプローブは、一又はそれ以上の以下の蛍光染料:5−カルボキシフルオレカイン(FAM)、5’−ジクロロ−ジメトキシ−フルオレカイン(JOE)、テトラメチルローダミン(TAMRA)及びカルボキシ−X−ローダミン(ROX)を含む。
【0030】
従って、ここで使用される分離は、包括的な全てのメカニズムとして広範囲にわたって説明するべきである。DNAフラグメントの空間的な及び/又は一時的な物理的分離、及び/又は、複合試薬と並用する複数の分離によって補充されるか否かにかかわらず、例えば蛍光染料又は化学染料のようなオプトルミネッセンス技術を介する視覚的な分離を含む分離により、増幅産物のDNAフラグメントは検出用に選択的に識別される。このような光学的分離は使用する蛍光染料が異なる固有波長で発生するため生じる。従って、蛍光染料が同時に存在する場合でも、すなわち、分離及び検出チャネル中の同じ位置にあっても、標準スペクトロメータは個々のプローブの存在を識別し、装置へ導入されたDNAサンプルのプロファイルを検出することができる。
【0031】
この装置は、ゲル系試薬、サンプルから抽出されたDNA、及び本装置を通過するPCR産物を動電学的に操作するべく複数の電極を具えている。これらの電極は、一端が装置に密閉可能に連結されており、他端は電源に連結できる。動電学的という用語は、電気泳動、電気浸透流、及び当業者にとって明らかなあらゆる電気的操作手段を含む。好ましい操作モードでは、次いで行われるステージを通して増幅チャンバに到達するまで、抽出されたDNAは、電気浸透により操作される。その後は、一般的に電気泳動による操作が望ましい。
【0032】
この発明の更なる態様によれば、生体サンプル中でのDNA分析用の携帯可能な一体型システムを提供しており、このシステムは、前記サンプルからのDNAフラグメントを抽出、精製、増幅、分離、及び分析する動電学的駆動システムを具え、更に増幅チャンバと流体共働する少なくとも一のDNA抽出チャンバを形成する複数のマイクロチャネルを有する基体を具える、ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置を具え、前記増幅チャンバは、分離及び検出チャネルに流体共働しており、前記マイクロ流体装置内に配置され、電源に連結された複数の電極がマイクロ流体装置の周りでゲル系試薬とDNAとDNAフラグメントを動電学的に操作するよう構成されており、前記マイクロ流体装置は前記DNA抽出チャンバを介して前記サンプルを受け取るよう構成されており、このシステムは更に、前記マイクロ流体サンプル処理装置に連結又は隣接した発熱体を具えており;検出可能な信号により、DNAフラグメントを検出するべく配置された検出器と;マイクロ流体装置、動電学的に駆動されるシステム、前記検出器及び電源を含むよう構成された携帯可能なハウジングを具える。
【0033】
この発熱体は、DNAフラグメントの熱循環を達成する好適な手段を具え、特別な冷却部材を具えてもよい。発熱体は、接触式又は非接触式発熱体である。通常使用されている接触式発熱体は、例えばペルチェヒータなどの蓄熱ヒータ、又はプラチナなどの薄膜蒸着抵抗のマイクロ流体装置の外側への蒸着を含む。ペルチェヒータは、加熱の信頼性が高いため、DNA増幅の熱循環を達成させるのに広く使用されているが、温度勾配が比較的低いという問題があった。マイクロ流体システムのDNA増幅について述べた非接触式加熱方法は、赤外線やハロゲンランプの使用、誘導加熱やジュール加熱を誘導する交流電流を含む。好ましくは、発熱体は、マイクロウェーブ放射源を具える。
【0034】
本発明のこの態様の一体型システムは、本発明の第一態様のマイクロ流体サンプル処理装置を使用しており、システムの好ましい事項は類推理解される。
【0035】
その発明の更なる態様で、DNA分析の方法は以下のステップを含む。
a)分析システムに配置されたゲル系マイクロ流体サンプル処理装置のDNA抽出チャンバへサンプルを導入するステップと;
b)前記DNA抽出チャンバ内で前記サンプルを動電学的に操作して、DNAを洗浄し浄化するステップと;
c)前記DNA抽出チャンバ内のDNAを増幅チャンバへ溶出させるステップと;
d)前記増幅チャンバ内のDNAフラグメントを増幅してゲル内で増幅産物(DNAフラグメント)を形成するステップと;
e)分離チャネルに動電学的に前記増幅産物を注入するステップと;
f)前記増幅産物を動電学的に分離してDNAプロファイルを形成するステップ。
【0036】
好ましくは、サンプルは、装置のDNA抽出チャンバへ導入される前に溶解される。
【0037】
この方法の一の実施例では、サンプルは、装置へ導入される前に溶解される。例えば溶液として、カオトロピック塩と混合したDNAを含む溶解サンプルが導入される。例えば、カオトロピック塩溶液中の溶解サンプルは、続く洗浄及び溶出溶液の流れに直交するシリカモノリスのような抽出材料構造上に手動で充填される。
【0038】
この方法の別の実施例では、サンプル溶解ステップは、装置で又は装置上で行われる。例えば、サンプルは次のステップにより導入される:
溶解剤を充填した吸収部材を提供するステップ;
非溶解生体サンプルを前記吸収部材へ適用するステップ;
前記DNA抽出チャンバと流体連通するサンプル受け取り部位において前記吸収部材を適用及び/又は保持して、その中に前記溶解サンプルを導入ステップ。
【0039】
DNA抽出チャンバは、DNA抽出材料を含む。DNA抽出材料が、溶解サンプルの残存量を捕捉するときに、DNAの抽出と溶出が一ステップで行われ、DNAフラグメントを材料は通過させる。代替的にDNA抽出材料が、DNAフラグメントを捕捉できる場合には、DNAの溶出は抽出とは別のステップで行われる。
【0040】
DNA抽出材料の好ましい特徴は、上記に記載されている。特に、DNA抽出材料は、荷電されていることが好ましい。より好ましくは、DNA抽出材料が固相抽出材料である。更に好ましくは、DNA抽出材料がシリカ系抽出材料であり、例えば少なくとも一のシリカビーズ又はより好ましくはシリカ系モノリスを具える。
【0041】
溶解サンプルは、DNA抽出チャンバの洗浄入口から洗浄出口まで、動電学的に試薬を操作することにより洗浄される。本発明の好ましい実施例では、装置のDNA抽出チャンバ内での洗浄試薬の動電学的な操作が、電気浸透的な操作により行われる。
【0042】
上記の通り、シリカ系抽出材料の使用は、それが電気浸透流(EOF)用ポンプとして作動するため好ましく、それにより、溶解サンプルからのDNAの抽出及び洗浄ステップが促進される。これは負に荷電したどの抽出材料にも言えることであり、例えば、チャネルの表面積と比較して、シリカ系抽出材料がより大きい表面積を有する結果として生じる。EOFは、表面効果であり、表面積の増大はポンプサポートの増大をもたらす。更に、そのような抽出材料は、流体力学的抵抗によりサンプルの流体力学的な逆流を制限する一方向弁として作動する。流体力学的抵抗は、材料内の小さな孔の存在に起因するものであり、この小さな孔は、流体力学的な圧流に対して高い毛細血管抵抗を有する。逆流を制御する装置がないので、逆流を防止することは非常に重要である。逆流は流体力学的な圧力の差違が原因であり、前方EOFと均衡を迅速に保つので、サンプルの移動は即座に停止する。
【0043】
発明の好ましい実施例では、増幅チャンバへのDNA抽出チャンバ内のDNAの溶出は、動電学的な操作により行われる。
【0044】
電気浸透的な操作は、ゲルとDNA抽出材料を通してサンプルのバルク移動をもたらし、溶解サンプルからDNAを抽出して、このDNAを増幅チャンバへ移送させるので、ステップb)とc)において好ましい。
【0045】
本発明の方法のこの態様は、通常、本発明の第一又は第二態様のマイクロ流体サンプル処理装置又一体型システムを使用しており、システムの好ましい特徴は類推理解される。
【0046】
好ましくは、DNAフラグメントを形成するためにサンプルから抽出したDNAの増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を介して行われる。
【0047】
DNAプロファイルを形成するための増幅産物の電動学的な注入及び分離は、電気泳動により行われる。電気泳動的分離は、電界中でイオンの変位を引き起こし、これにより、DNAフラグメントを分離(通常は、フラグメントのサイズが基準となる)してDNAプロファイルを作成するため、好ましい方法である。
【0048】
この方法は、更に動電学的な分離によって処理された、DNAプロファイルを検出するステップを含む。DNAプロファイルを検出することにより発生した検出信号は、次いで、プロファイルが図形で見られるよう出力手段に送信される。更にこの方法は、作製されたプロファイルを英国犯罪科学局又は関連データベース内に保存されているDNAデータベースに保存されているような、既知のプロファイルと比較するステップを具える。
【0049】
本発明は、例えば犯罪シーンにおいて現場で使用するために、犯罪科学捜査の分野に、特別なアプリケーションを有するよう意図されているが、食品真正に関する遺伝形質の決定、父子鑑定例、細菌/ウイルス感染、菌株同定及びDNAを基にした安全マーキングのような様々なアプリケーションも想定されている。
【0050】
本発明による完全一体型の携帯可能なDNA分析器によれば、例えば、現場でDNA指紋鑑定するために犯罪シーンで得たDNAサンプルの処理を約1時間以内で汚染の問題を減らして又は無くして、行うことができる。このようなことは、診断及び分析工程の合理化によって可能となる。診断及び分析工程の速度でも、保管室や空港の安全施設のような現場での分析が鍵となる他の多くの状況でのこれらの装置の使用が適したものになる。特に、そのような分析器を用いたDNA分析は、細胞回収はマイクロ流体装置の外で行うが、DNA抽出、DNAフラグメントの増幅及び増幅産物の分離、及び選択的な場合のサンプル溶解ステージの任意の少なくとも一部もマイクロ流体装置内で行われるので、上手く行われる。
【0051】
分析器の特定のコンパクト性によって、各工程ステップ間の調整が行われ、DNAフラグメントが交互に加熱され、冷却される増幅処理を非常に迅速に行うことができる。その結果、一体型分析器システムは、DNA抽出から分析(例えば遺伝子プロファイリング)までの全行程を約1時間で完了することができる。
【0052】
本発明のDNA分析器システムは、ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置を利用しており、従って、マイクロ流体装置内での試薬、DNA、及びPCR産物の動電学的流体移動を利用してDNA分析を達成する。更に、ゲル系マイクロ流体サンプル処理においてDNA抽出材料とゲル系試薬を経由して担持材料を組み込むことは、試薬とサンプルを液体/溶液相中でのみ使用する従来の市販の装置よりも優れた結果を提供する。
【0053】
マイクロ流体装置内でのゲル又はゲルマトリックスの形成は、長時間その中に試薬を担持さることができ、システム内に泡が存在しても、溶解サンプル、DNA及び増幅DNAフラグメントのより安定した動電的制御を提供する。
【0054】
加えてそのような装置は、溶解サンプルの装置への導入を可能にし、次いで装置内での連続的な抽出及び/又は精製、増幅、及び分離により多数の処理を行う。そのような処理は、その中でゲル系試薬との一連の相互作用を通じ、主に溶解サンプル及び/又はDNAの動電学的な操作により達成される。これは程度の差はあるが、“単一ステップ”装置である従来技術の装置と対照的である。
【0055】
本発明は、生体サンプル中のDNAフラグメント分析に関して記載されているが、当業者は本発明が、例えばRNAなどの核酸材料の分析に同様に適用され、そこでこの工程がPCRの使用に適したDNAを形成する逆転写を含むことを理解するであろう。従ってこの方法は、逆転写を行うことを含み、この装置は、このステップを行うのに適した試薬を具えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
本発明の実施例を、例示として添付図面を参照して以下に説明する。
【0057】
【図1】第一構成部品、すなわちハードウェアを含む本発明のシステムの格納手段を示す。
【図2】原位置にマイクロ流体装置を有する、本発明のシステム格納手段を示す。
【図3】本発明のマイクロ流体装置の重要な部分を示す。
【図4】本発明のマイクロ流体装置の概略図を示す。
【図5】代替のサンプル導入装置を具える、本発明の第二実施例によるマイクロ流体装置を示す。
【図6】本発明によるマイクロ流体装置におけるシリカ系モノリス上での電気浸透流による80%のエタノール洗浄溶液(v/v)とゲル中の80%のエタノール洗浄液(v/v)の移動を示する。
【図7】本発明の方法論によって得られたPCR産物のUVトランスイルミネータ画像を示したものであり、特にPCR試薬へのDNAの動電学的移動を通じて得られたものである。ここで、安定性テスト1は、室温で30分間放置したゲルにより、安定性テスト2は、室温で1時間放置したゲルによる。
【図8a】ゲル濃度の安定性テストで得られたPCR産物のUVトランスイルミネータ画像を示す。
【図8b】本発明の方法論によって4℃で4週間保存したゲルの安定性テストから得たPCR産物のUVトランスイルミネータ画像を示す。
【図9】表2に見られる配列に関連する印加電圧に起因する電動学的移動を視覚化した図であり、ここでAとBはそれぞれ最も有効な二つの配列を視覚化した本発明の方法論によるものである。
【図10】本発明のマイクロ流体装置の図であり、アガロースゲルで満たされたT−セクションから、ポリエチレンオキシド分離媒体で満たされたキャピラリ電気泳動分離チャネルへのサンプルの電動学的注入を行うマイクロ流体装置を示しており、ここでA−Dは白金電極の配置を示す。
【図11】本発明の方法論によるアガロースゲルマトリックスでの、失敗した動電学的注入を視覚化した図である。
【図12a】本発明の方法論によるTE溶液中でEK注入から得たプロファイルを図形化して示す。
【図12b】本発明の方法論による1.5%のアガロースゲル中でEK注入から得られたプロファイルを図形化して示す。
【図13】本発明の方法論による1.5%のアガロースゲル中で最適化EK注入から得たプロファイルの一例を図形化して示す。
【図14】本発明の方法論によるアガロースゲルマトリックス中での、(a)泡が存在する場合と、(b)泡が存在しない場合の成功した動電学的注入を視覚化して示ており、動作電圧と時間は、表1に示す。
【図15】一体化したDNA抽出チャンバと増幅チャンバと、電気浸透ポンピング用の電極の配置を示すマイクロ流体装置の図を示す。
【図16】溶出ステップ間にモノリスから回収されDNAの量を図15に示す装置に最初に添加されたDNAの量との比較をグラフで示す。
【図17a】図15に示すシステムによって作られた、PCR産物を示すアガロースゲルを視覚化して示す。
【図17b】図15に示すシステムによって作られ、キャピラリ電気泳動により正確なサイズを分析した、アメロゲニンPCR産物を図形化して示す。
【図18】本発明によるマイクロ流体装置に熱循環を適用するのに適切なマイクロウェーブヒーターの断面を示す。
【図19】ネットワーク分析器からの図形出力を示しており、これは図18に示すヒーターの操作パラメータを決定するマイクロ流体装置の正確な共鳴周波数を示す反射能の低下を表示する。
【図20】図18に示すヒーターから得た熱循環を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
マイクロチャネルを具えるマイクロ流体サンプル処理装置が提供されている。マイクロチャネルは基体に刻み込まれている。この基体は、望ましくはガラスであるが、プラスチック又はその他適当な物質でもよい。約120mm×60mmの範囲の大きさであるか、あるいは使用するアプリケーション又はシステムによって決まる他の適当なサイズであってもよい。基体は、更にそのマイクロチャネル内にゲル系分離媒体と試薬を具え、基体を電源へ接続し、DNA分析システム内で機能するのに必要な電気接点を具えている。ゲル系分離媒体と試薬は、流体力学ポンプによってマイクロチャネル内に予め充填されており、例えば吸引又は圧力によって注入を静水学的に制御する。ガラスの基体は、基体に接着した蓋で密封されており、基体内に画定されているマイクロチャネルを封入する。蓋を取り付けるその他の手段も好適であり、接着以外の手段による蓋の取り付けを排除するものではない。
【0059】
マイクロ流体装置用の基体材料は、ガラス技術が既に確立され、ほとんどの反応に対する化学的応答に関して十分に特徴付けされているので、ガラスが好ましい。
【0060】
マイクロ流体処理装置(300)は、3つの主要な構成部分を具えている。すなわち、DNA抽出チャンバ(302)、PCRチャンバ(303)、分離検出チャネル(304)であり、これらはすべて図3、4に示されており、互いに対して流体連結/共働している。
【0061】
上述したとおり、従来技術と異なり、本発明のマイクロ流体装置(300)は、例えばDNA分析システムに使用する際に外付ポンプを必要としない。代わりに、複数の電極を使用して流体を動電学的に操作し、マイクロチャネル内のゲル系の試薬構造内にバルク流を生じさせるか、あるいは電気浸透流又は電気泳動で、荷電された化学種の動きを分離させる。本願では、7つの電極を使用しているが、より多いまたは少ない電極でもよい。
【0062】
本発明のマイクロ流体装置(300)は、必要なハードウェアをすべてマイクロ流体装置に外付けすることによって、安価に製造するように特別に設計されている。これにより、マイクロ流体装置の経済性が維持され、単回の分析に適する。従って単回使用の分析には理想的である。単回使用の分析は、証拠の基礎を固めるのに使用済みのマイクロ流体装置を必要とする科学捜査又は犯罪シーンの調査分野で特に有利である。
【0063】
本発明のマイクロ流体装置(300)においては、プロセス試薬やサンプルDNAを担持するゲルを満たしたチャネルやキャピラリを使用しており、システム内に泡が存在する場合でも、溶液ベース(従来技術)の手法と比較して、サンプルDNAの動電的な制御に関して、安定性を強化している。ゲルはマトリックス形状だが、どのような形状であってもよく、様々なプロセス試薬をマイクロ流体装置内の正確な位置に長期間にわたって固定できるものでなければならない。
【0064】
マイクロチャネルを具えるマイクロ流体装置(300)を使用する前に、図4に示すマイクロ流体装置の概略図を特に参照し、下記で詳細に説明するよう準備しなければならない。
【0065】
マイクロ流体装置の準備
モノリスの準備:ケイ酸カリウムとホルムアルデヒド10:1の溶液をサンプル導入ポート(301)に圧力注入することによって、マイクロ流体装置(300)の6角形抽出チャンバ(302)内にシリカ系抽出モノリスを形成する。周囲のチャネルを3%のグリセロールヒドロキシエチルセルロース(HEC)ゲルで満たして、12時間、95℃で硬化させる間、シリカ溶液を、6角形抽出チャンバ(302)内に確実に維持する。硬化工程に続いて、水を用いてチャネルからHECゲルを洗い流す。シリカ系モノリスは、ケイ酸カリウム(9%酸化カリウム、21%酸化ケイ素)とホルムアルデヒド98%を用いて製造する。
【0066】
チャネルAの準備:アガロース洗浄液送達ゲルは、低融点アガロースゲルを脱イオン水に溶かして、濃度3%(w/v)(100μl脱イオン水中に0.0030gアガロース)とし、75℃で加熱して作る。ゲルが形成されるがまだ溶解しているときに、80%のエタノールと20% 1Mの塩化ナトリウムを加え、混合して、ポートA内に圧力注入して、ポートAの入り口から抽出チャンバ(302)に位置するモノリスまでのチャネル長を満たす。
【0067】
チャネルBの準備:低融点アガロースを、DNA/RNAを含まない水に溶解させ、75℃で10分間加熱し、大容量の水がゲルを通って自由に移動できるように、ゲルの濃度を低く保つ。ゲルが形成されたがまだ溶解しているときにゲルをポートBに圧力注入して、ポートBの入り口から抽出チャンバ(302)に位置するモノリスまでのチャネル長を満たす。
【0068】
チャネルCの準備:低融点アガロースを、DNA/RNAを含まない水に溶かし、75℃で10分間加熱する。まだ溶解しているときに、ゲルをポートCに圧力注入する。
【0069】
分離チャネル(304)の準備:ポリエチレンオキシド(PEO)ゲルを、長時間撹拌法によって、1×Tris−EDTA緩衝液中2.5%濃度になるように作り、次いで圧力注入によってポートGに導入する。ゲルの粘度によって流れを制御して、チャネルD−Fの交差箇所にだけ注入が行われるようにできる。代替の実施例では、1×Tris TAPS EDTA(TTE)緩衝液中の6Mの尿素を有する線状のポリアクリルアミドゲルなどの、適当な粘度を有するその他のゲルを分離チャネルに用いても良い。
【0070】
PCRチャンバ(303)の準備:低融点アガロースを、DNA/RNAを含まない水に溶かし、75℃で10分間加熱する。ゲルが形成されているがまだ溶解しているときに、PCR試薬を加えて(NH4緩衝液、BSA、順方向プライマーと逆方向プライマー、dNTPs、MgCL2、Taqポリメラーゼ)混合する。“PCRゲル”は、ゲルがまだ溶解している状態でポートDへの圧力注入を介してPCRチャンバ(303)に注入し、チャネルD−FとポートEを満たす。
【0071】
次いで、ポートA−Gを導電性ポリマープラグで閉鎖する。このプラグは電極に接続されており、統合分析システムの第一構成部品に配置できる電源によって電力が供給される。
【0072】
全分析方法の段階(少なくとも細胞溶解後)を、上述の密閉したマイクロ流体装置(300)内で行なう。分析システムで使用する前に、マイクロ流体装置(300)は、必要な各段階に適した化学的性質を有する試薬を予め充填しなければならず、装置は4℃で保管されることが望ましい。一の運転モードでは、ユーザーが現場にいれば、引き続き溶解したサンプルを手動で装置に充填できる。別の運転モードでは、サンプルの溶解も装置で行われる。これらの代替例については、下記に詳しく述べる。
【0073】
溶解サンプルとDNAのキャピラリーチャネルへの注入の制御は、再現可能な分離と確実な検出分解能を得るためとても重要である。マイクロ流体装置への注入は、吸引、圧力又は重力によって静力学的に、又は動電学的に制御できる。本質的に動電学的な制御は、静力学的なシステムよりも、より的確で正確にサンプルを導入できると共に、外付けポンプ、アクチュエーター、バルブなどを必要としない。この実施形態では、サンプルの充填を、サンプル導入ポート(301)を、例えば数マイクロリットのル溶解サンプルをサンプル導入ポート(301)に分注して、又はサンプルを、溶解剤を浸透させたスポンジ(501)に加え、そのスポンジ(501)をサンプル導入ポートに加えるか配置するかして実行する(図5参照)。そこからサンプルは、DNA抽出チャンバ(502)内のシリカ多孔モノリス内に浸透する。次いで、キャップで導入ポートを密閉し、図4に示すようにA−Gに位置する電極に電界を印加することにより、チャンバやチャネル内でサンプルの操作をする。
【0074】
このシステム自体は、完全に統合された、携帯可能なDNA分析システムを具える。この分析システムは、異なるものであるが共働する2つの構成部品を有する格納手段を具えている(図1と図2参照)。第1の構成部品は、コントロールユニットである。このコントールユニットは、熱循環や検出のような工程の制御に必要なハードウェアとソフトウェアを全て含む。第2の又は更なる構成部品は、マイクロ流体装置である。このマイクロ流体装置は、サンプルと関連する処理試薬を含む。
【0075】
細胞溶解後の全分析手法を、上述したタイプの密閉したマイクロ流体装置(300)内で行う。溶解剤を充填したスポンジ(501)内で細胞溶解を行い、このステージもまた装置(500)上で行うことが好ましい。サンプルの移動、PCR増幅と分析の制御に必要な全てのハードウェアを具える格納手段の第1の構成要素は、マイクロ流体装置(300、500)の外にある。第1の構成部品を有するシステムの格納手段、すなわちこのハードウェアは図1に示されており、マイクロ流体装置は、図2に示すシステム格納手段内の原位置にある。
【0076】
本発明の分析システムは、タッチコントロールパネルで制御される。そして一旦蓋を閉じると、必要なDNAプロファイルの作成が完了するまで、分析的工程が稼働するよう完全に自動化されている。サンプル/溶解サンプルが充填されたマイクロ流体装置(300、500)をシステム内に配置し、電極AとCの間に電気的バイアスをかけて、上記のチャネルAの調整で述べたようにアルコール溶液で溶解サンプルからDNAを洗い流して、例えば血液サンプル中に存在するヘム分子のような工程を妨げる可能性がある細胞残屑とその他の物質を取り除く。次いで、ポートBとポートDにバイアスをかけて、装置(300、500)の抽出チャンバ(302、502)内のシリカモノリスの上にチャネルBから水をくみ上げて、ゲルで満たされたPCRチャンバ(303)へDNAを溶出させる。DNAプロファイリングに必要なDNAフラグメントの増幅に適した既知試薬の存在下で、3つのPCR温度で約25回乃至30回循環させる。これらの試薬は蛍光染料も含有している。この蛍光染料は、選択されたDNAフラグメントに結合して分離工程を行う間に選択されたDNAを検出できようにする。増幅されたフラグメント(例えば、標準DNA指紋検査法に使用する11遺伝子座の増幅によるPCR産物)を、分離チャネル(304)のネック部分に動電的に引き寄せ、分離チャネル(304)に少量で明確な量の増幅されたフラグメントを導入する。これは、電極G及びEにおいて、分離チャネル(304)に大きな電気バイアスがかかっている電場を用いても行われ、バイアスが下がると増幅した産物のDNAフラグメントが分離する。
【0077】
電気接点は、一般に直径約500μmの形状であり、白金線が好ましい。より好ましくは、導電性高分子、例えばカーボン充填ポリスチレンを装置の電気接点として使用し、金被膜銅電極を使用して、制御装置の電源を高分子電極に接続する。
【0078】
増幅産物のDNAフラグメントの分離は、DNAフラグメントがゲルマトリックスを通過する時に、その電荷やサイズに影響される。DNAフラグメントの泳動時間は、原則として、サイズによって区分される。サイズに基づく核酸フラグメントの電気泳動分離工程は良く知られた技術であり、ここでこれ以上の説明は必要ない。本発明のこの実施例では、少なくとも2つのレーザーと2つのスペクトロメータを使用して、これらのフラグメントの検出を行なう。検出器は、レーザーが極めて正確な光の波長を放射することを知るだけに必要であり、核酸フラグメントをマークするために使用した蛍光塗料の4つの周波数から識別することができる。要するに、2台のレーザーが、蛍光塗料(ここでは4つ)を励起して、2台のスペクトロメータ又は2台の検出器(システムが2つのレーザーの光を感知出来なくても、なお4つの蛍光塗料の認識するために2台必要)が、フラグメントが出口近くの検出窓をいつ通過したか特定できるようにし、DNAプロファイルやDNA指紋鑑定法を適用できる。この機械は、稼働が完了すると、通常ABI(Applied Biosystem Ltd,Warrington,United Kingdom)で作成される商業用シークエンスに類した図形で、プロファイルを出力する。
【0079】
分析システムにおいてマイクロ流体装置を用いる方法も提供されており、以下により詳細に述べられている。原則的に、検査する溶解サンプルを手動でマイクロ流体装置に導入するか、あるいは検査するサンプルを装置の溶解試薬を充填したスポンジ上に導入する。次いで、溶解サンプルがシリカモノリスに吸収され、シリカモノリス上でインサイチュウでDNAを抽出し、溶出する前に洗浄し、PCR法を用いて増幅し、その後蛍光標識したDNAセグメントを分離して遺伝子パターンを得る。システムの出力は英国犯罪科学局に保存されているDNAデータベースと互換性があるが、必要であれば他国のものと互換性を持つように容易に構築できる。
【0080】
分析システムに本願のマイクロ流体装置を用いる方法を、図4を参照して以下詳細に述べる。
【0081】
a)10−50μlのサンプル溶解液と塩酸グアニジンを、サンプル導入ポート(301)を用いてマイクロ流体装置(300)のDNA抽出チャンバ(302)内に配置したシリカモノリス上に手動で充填する。
【0082】
b)マイクロ流体装置(300)のポートAとポートCに配置した電極を用いて、洗浄入口(ポートA)からシリカ系抽出モノリスを含有するDNA抽出チャンバ(302)を経て、洗浄出口(ポートC)に80%エタノール溶液を流すことによりDNAを含有する溶解サンプルを洗浄する。これは、ポートにバイアスをかけて電気浸透流(EOF)を誘発することにより達成される。EOFを誘発する一般的な電圧は、50−150v/cmである(表1参照)。80%のエタノール溶液で細胞残屑及び不要なマトリックスのモノリスを洗浄し、溶解サンプル内に含まれるDNAを回収できるようにする。
【0083】
c)次いで、シリカモノリス上に残っているDNAを、マイクロ流体装置(300)のポートBとポートDにバイアスをかけてEOF流を誘発し、H2Oを用いてPCR(303)中に溶出させる(表1を参照)。
【0084】
d)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてDNAを増幅してDNAフラグメントを形成する。PCRチャンバ(303)は、3つの個別の温度を介し周期的に温められて、その結果、選択されたDNAフラグメントが指数関数的に増幅する。適当なプローブを使用して、目的の増幅されたDNAを得る。PCR工程の25乃至30サイクルが完了すると、増幅産物を含んだゲルが凝固する。すなわち外気温に戻してもかまわない。
【0085】
e)DNAフラグメントを含むPCR産物を、電気泳動的にPCRチャンバ(303)から分離チャネル(304)のネック部分に移動させ、当技術分野でよく知られているピンチ注入法を使用してマイクロ流体装置(300)の分離チャネル(304)に注入する。このように、ほんのわずかのDNAフラグメントを含むPCR産物が、制御された時間で分離チャネル(304)に引き込まれ(表1参照)、次いで電極D、EとFに電圧をかけて、分離チャネル(304)に注入されなかったPCR産物を引き戻し、注入したPCR産物の個別スラグを形成する。次いで、電極D、E、FとGに電圧を印加して(表1に詳細表示)、分離が開始する前にPCR産物の個別スラグの荷電したDNAフラグメントに焦点を合わせる。
【0086】
f)ポートD−G間にバイアスをかけることで、注入したPCR産物のDNAフラグメントが、マイクロ流体装置(300)の分離チャネル(304)に沿って電気泳動的に分離される(表1参照)。
【0087】
表1−試薬を用いたDNAフラグメントの移動に印加した電圧と適用時間
【0088】
その他の適当な電源を使用することもできるが、上述の電位は、4×0−1000Vの直流電源ユニットを用いて発生させた。更に、1000V以上の高電圧が必要なときは、10kV電源を用いた。両電源共、適当なソフトウェアを用いて正確に制御される。
【0089】
図面を参照し、以下に実施例を用いて発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明の一体型マイクロ流体装置で行われる、統合した結果妥協した個々の工程(DNA抽出、増幅、分離及び検出)の再最適化操作条件を示している。装置の様々な部分間の相互作用を認識することによって、発明者らはこれらの各工程で統合が持つ効果を理解した。したがって、以下に定める条件は、本願の一体型マイクロ流体装置内で効果的に使用できる抽出、増幅、分離及び検出の妥協した操作条件を表している。
【実施例1】
【0090】
DNAの回収と充填
本発明の使用の1の実施例では、ボランティアの頬から採取した口腔細胞からDNAを含む生体サンプルを抽出した。
【0091】
第一の代替実施例では、QIAamp(登録商標)DNAマイクロキット抽出キットまたは類似品を用いて口腔組織から生体サンプルを採取した。POLARStar OPTIMA プレートリーダーを用いて抽出したサンプルの量を測定し、次いで標準濃度5ng/μlになるよう希釈した。
【0092】
1×TE緩衝液でシリカ表面を活性化させてシリカ系モノリスを作った。サンプル標準溶液5μlを塩酸グアニジン120μlと混合し、流速5μl/分の水圧ポンプにより、モノリスに充填した。
【0093】
第二の代替実施例では、頬の内側に沿って滅菌綿棒で掻き取って、固体から生体サンプルとして使用する口腔細胞を採取した。マイクロ流体装置は、3mmのトッププレートを具えており、DNA抽出チャンバ(502)上に生体サンプルの入口として作用する3mmの穴が設けられていた。この入口は、塩酸グアニジン溶液に漬けた多孔性スポンジ(501)で満たされていた。口腔細胞は、手動インターフェースを介して綿棒からスポンジ(501)へと移動する。
【0094】
塩酸グアニジン溶液は、口腔細胞を溶解させ、DNAを放出させ、続いてDNA抽出モノリスへのDNAの結合を容易にする働きをする。次いで綿棒を取り除き、二重機能プラグを用いて、マイクロ流体装置(500)を密封し、サンプルの減少/汚染を防止する。更に、プラグがスポンジ(501)を加圧する結果、溶解サンプル−塩酸グアニジン溶液がモノリスを通って廃棄チャネルに移動する。DNAはモノリスに結合したままであり、DNA抽出工程を完了するのに必要な洗浄と溶出ステップを行うことができる状態にある。
【0095】
排液の除去
モノリスの孔にまだ存在している細胞残屑を80%のエタノール洗浄液(%v/v)で洗い流した。アガロース洗浄液デリバリーゲル(チャネルA内にある)を濃度3%(100μlDNA/RNA水中0.0030gアガロース)とし、75℃に加熱し、ゲルが形成されているがまだ溶解した状態で80%のエタノール100μlと20% 1Mの塩化ナトリウムを加え、次いで冷却してゲルを再形成し、内部にエタノール溶液を得た。まだ溶解した状態でエタノールゲルをチャネルAに導入して、シリカモノリスとインターフェースさせた。次いで、点AとCにある白金電極を所定の位置に固定し、5分間100Vcm−1の電界強度をかけて、シリカモノリスから細胞残屑を洗い流した。例えば表2にあるように、電界強度を比較して、最適電界強度を定め、ゲルと自由溶液の両方の80%のエタノールと20% 1Mの塩化ナトリウム溶液のEOF移動を行った。
【実施例2】
【0096】
PCRゲルの調整
低融点アガロースゲルをDNA/RNAを含まない蒸留水に溶解させて、75℃に10分間加熱してPCRゲルを製造した。ゲルが形成され、まだ溶解状態にあるときに、PCR試薬(2μlの10×NH4緩衝液、2μlのBSA、2μlの順方向プライマー、2μlの逆方向プライマー、1μlのdNTPs、0.4μlのMgCl及び0.4μlのTaqポリメラーゼ)を加えて混合し、ゲルを冷却して試薬を保持した。電極BとDを所定の位置に固定し、5分間100Vcm−1の電位をかけ、アイスブロックの上で実験を行ってPCR試薬の結合性を維持した。動電学的移動が完了したら、圧力注入によりPCRゲルをチャネルから取り出して、回収した。次いで、得られた溶液をサーマルサイクラーで増幅し、スラブゲル電気泳動法で分離し、UVトランスイルミネータを介して観察した。
【0097】
試薬の安定性を維持しながら、PCR増幅工程を容易にするのに最も適した条件を決定するゲルと試薬の濃度を調べた。試薬ゲルの短期間安定性と長期間安定性を調べた。例えば、試薬ゲルを上述のように用意して、室温と4℃で保存した。DNA鋳型をコントロールサンプルに加え、次いで、制御された期間サーマルサイクラー中で指数関数的に増幅させた。
【0098】
様々な電極電位と時間を調べて、システムの柔軟性を測定した。この電極印加電圧の組み合わせを、表2に詳細に示す。
【0099】
表2−電極と印加した電界の組み合わせ
【0100】
結果と結論
排液の除去
通常DNA抽出クリーンアップにおける洗浄ステップに使用されるイソプロパノールのは、電気浸透流をおこさないので、80%のエタノール溶液を用いた。図6は、シリカモノリス上での、溶液(v/v)中の80%のエタノール洗浄液とゲル(v/v)中の80%のエタノール洗浄液の電気浸透流による動きを示す。
【0101】
予想通り、洗浄液の流速(図6の上側のライン)は、ゲルフォーマット中の同じ溶液(図6の下側のライン)から得られた流速より速かった。ゲルでは、液体のバルク流上のクロスポリマーネットワークの干渉効果が原因で、電界強度と流動速度の関係が非線形である。しかし、アガロースゲル溶液は、許容流速でモノリス上で電気浸透ポンピングを起こして、細胞残屑をモノリスから除去できることがわかった。このことは、溶解サンプルのDNAはモノリス表面に吸着されるが、細胞残屑や赤血球(溶解サンプル内に存在することがある)はチャネルAからCへのエタノール溶液のバルク移動によってモノリスから洗い流されるという上述のメカニズムによって達成される。次いで、チャネルBからの水を用いてモノリスから(PCRに適した形式で)DNAフラグメントがクリーンに溶出される。
【実施例3】
【0102】
試薬ゲルの作成
電位を印加した後、各電極にたまった溶液を回収した。回収したDNAの65%の定量化されたDNAは陰極で見られたが、22%は陽極(図4の入口ポートF)から回収された。これは、おそらくDNAが同じポートに導入された場合に生じる、電気泳動による少量の移動によるものであった。残りのDNA(13%)は、エタノール中で検出された。これらの結果は、PCR増幅に必要な濃度で電気浸透流によって、モノリスから上手くDNAを抽出できるという特許請求の範囲をサポートしている。
【0103】
電気浸透ポンピングによりモノリスから抽出したDNAは、実行するべきPCR増幅に充分な量と質を有していた。この結果も、比較的高い電界を使用した場合でも、ゲル状の試薬の安定性を立証した。
【0104】
次いで、一連のアガロースゲルの濃度(10%、5%、3%、1.5%、1%、及び0.75%)を調べて、長期間試薬の安定性を維持しながら、PCR反応を生じさせるゲルの理想濃度を決定した。調査した濃度のうち、0.75%−3%の溶液の結果が可視的に図8aに表示されており、濃度5%と10%の溶液から得られた結果はゲルの逆の粘性効果が原因で芳しくなく、すぐ調査から除外した。図8aより、より強いバンドがプレート上に存在することにより、0.75%ゲルでPCR反応が上手くいったことがわかる。しかし、予備テストは、このゲル濃度では、長期の安定性は低く、試薬の保護がなされないことを示した。1%と1.5%のゲル濃度で得られたバンドは互に区別できないので、反応させ、試薬の安定性を維持するため、1.5%のゲル濃度で進めることを決定した。
【0105】
この安定性テストの結果は、図7に見ることができる。これは、PCR試薬へのDNAの動電学的移動を通じて得たPCR産物のUVトランスイルミネータ画像であり、冷蔵保存されていない場合、PCR試薬の安定性は減少する傾向にあることを示している。ゲルを30分間室温で放置するという安定性テスト1によれば、PCR反応はある程度進むが、誤プライミングが明らかであることが証明された。一方、ゲルを1時間室温で放置するという安定性テスト2では、試薬が完全に使用できなかったことを図7が示している。第2安定性テストの結果は図8bに見ることができ、試薬ゲルを4℃で4週間保存することができ、ゲルマトリックスに組み込まれると、試薬の安定性が非常に高まることを示唆している。
【0106】
様々な印加電位の調査から得られた結果(表2参照)は、システムが非常に柔軟であり、従って他のアプリケーションへ移行する可能性が高いことを示している。この結果は、調査された他のものよりシーケンス8が好ましいことを強調している。
【実施例4】
【0107】
試薬ゲルの作成
例えば図3又は4に示す、マイクロ流体装置(300)に、1Mの塩酸を流し、続いて乾燥する前に1Mの水酸化ナトリウムと脱イオンを流すことにより、洗浄し準備した。ポートGに圧力注入することにより、マイクロ流体装置(300)の分離チャネル(304)にPEOゲルを充填した。
【0108】
DNA/RNAを含んでいない水100μlに0.0029gの低融点アガロースを溶解させて、アガロースゲルを作り、ゲル濃度2.94%になるようにした。この溶液を水槽内で75℃で10分間加熱し、ゲルを形成した。ゲルがまだ液状のときに、9.8μlのサンプルに10.2μlのゲルを加え、可視化物質(ここでは蛍光標識したプライマー)を加えて混合した。濃度1.5%の最終ゲル溶液をポートEに圧力注入することにより、ゆっくりとマイクロ流体装置に注入して、クロスバー(D−F)の両腕をサンプルマトリックスで均等に満たした。最後に、図10に示すように2つのゲルに白金線電極を押し込んだ。
【0109】
図10において、T−セクション(901)からポートDまでの分離チャネル(902)の長さは800mmであり、チャネル(902)の直径は0.2mmである。T−セクションにおける、ポートA、BまたはCまでのチャネルの長さは5mmであり、垂直チャネルの直径は0.6mmである。
【0110】
マイクロ流体装置(300)の用意ができたら、サンプルと分離マトリクスを検査して、印加した電界を中断することがある泡や屑が注入工程で入り込んでいないことを確認した。電圧プロフィールは、LabViewソフトウェアによって入力したプリセットプログラムから自動的に印加された。
【0111】
結果と考察
溶液ベース(従来技術)とゲルベースの動電学的注入比較
最初に、溶液からの動電学的注入に使用される最適電圧プロフィールを、ゲルマトリックスに印加して、ゲル系システムのEK注入を最適化する出発点を確立した。図11に示す結果は、右側の写真が示すように、蛍光プライマーが、より広いサンプルチャネルからより狭い分離チャネルへ移動していないので、アガロースゲルマトリックスからPEOゲルへのサンプル注入が失敗したことを示している。
【0112】
最も可能性のある注入失敗の2つの理由は、より密度の高い分離ゲルが物理的にサンプルの移動を妨害したことと、ゲルのインターフェースがチャネルを横切る電界強度に悪影響を与えたことである。
【0113】
しかし、図12aと12bがそれぞれ示すように、溶液注入とゲル注入用に得たプロファイルを検討したところ、実際には、プロファイルはほとんど同一であり、唯一の違いは、ゲルシステムで見られるプロファイルが、ほんの少しより矩形であるだけである。このことは、溶液システムとゲルシステムの電気抵抗が類似しているので、ゲルの密度増加は、印加された電界に影響しないことを示している。
【0114】
従って、観察されたサンプル注入の妨害は、より密度の高いゲルマトリックスによって生じた物理的抵抗に起因する可能性が高い。これは、同じ移動基本メカニズムが、ゲルと溶液の両方に適用されており、唯一の違いは、同様の移動が生じるために、ゲルの物理的影響がが、より高い電圧とより長い時間を必要とすることを示唆している。
【0115】
その結果、ゲルシステムにおける注入の再最適化を実行し、溶液システム用のものと比較した結果を表3に示す。
【0116】
表3−TE緩衝溶液とアガロースゲル中の、動電学的注入に必要な最適電圧と時間を示す。
【0117】
予測通り、ゲル又はゲルマトリックス中で注入を行うときに、必要な消費電力がかなり大きくなった。この電力の増加は、電気泳動移動度(μep)(qは正味電荷、fは並進摩擦係数、vは成分の移動速度、Eは電界)を示す下記式1と、ポリマー溶液(μo)種の電気泳動運動(ηは溶媒粘度、qはポリイオン荷電、Rはポリイオンの半径)を考慮した修正電気泳動移動度の方程式であるフュッケルの式(式2)とから説明できる。
【0118】
電気泳動移動度は、並進摩擦係数に対する電荷によって表されるが、ポリマー溶液の導入には、溶媒の粘度だけでなく、ポリイオンの半径も必要である。両方程式では、電荷が同じであるが、粘性とポリイオンの半径が与える影響が、ゲル内での電気泳動移動度にかなりの変化を与えることになる。
【0119】
ゲル担持注入のロバスト性の証明
ゲル中での最適EK注入用プロファイルを検討すると(図13)、以前のゲル注入(図12b)に表示されたものと同じ矩形特性が観測された。一般に、ゲルにおける注入は、より高い安定性を示し、これは溶液中で得られたプロファイルのものと比較して、むしろ直線状のプロファイルによって表されている。一般的にゲル内での注入は、データの直線均等ラインが示す安定性の程度がより大きいことを示す。
【0120】
システム内に泡が存在していても(図14a)、動電学的注入が上手く実行できれば、ゲルの安定性はさらに増した(図14b)。
【0121】
溶液ベースシステムでは、電気泳動的注入する間の泡の存在は、大抵、流体移動の工程の失敗につながる支障をきたした。しかし、本発明のゲルシステムでは、泡の存在が、泡無しで行った連続注入と比較して、より大きな直径を有するより拡散したサンプルスラグを、発生する(図14b)。更に、注入工程の後半段階で消失する泡の周辺領域で生じているサンプルの濃度に増加が観察される。しかし、上手く注入することは可能であり、注入チャネルに泡がない注入と比較できる。
【実施例5】
【0122】
マイクロ流体装置内におけるアガロースゲル系 ポリメラーゼ連鎖反応と統合した、キャリアRNAを使用したDNA抽出
生体サンプルからのDNA抽出は、PCRのような下流工程の成功を左右する。この実施例で述べるように、固相抽出法の使用は、DNAの予濃縮を容易にするので有利であり、サンプル物質の入手が制限されている場合に重要である。
【0123】
この実施例では、図15を参照するに、標準的なフォトリソグラフィー技術とウエットエッチングを用いて、すべてガラスでできたマイクロ流体装置を作成した。モノリスは、DNA抽出チャンバ(1401)で、ケイ酸カリウムとホルムアミドの混合物を加熱硬化させ作成した。次に動的不動態化用に、牛の血清アルブミンとポリビニルピロリジンとツイン20を含むアメロゲニン遺伝子座増幅用PCR試薬を、低融点アガロースの融解溶液に加え、PCR増幅チャンバ(1402)に注入し、必要時まで4℃で保存した。
【0124】
ポリAキャリアRNAと共に、又は伴うことなく、DNAを5M塩酸グアニジン溶液に加え、モノリスに注入した。例えば、血液からのヘムタンパク質といった、下流アプリケーションにおける潜在的汚染は、電極Bへ正電位を、電極Cに負電位をかけることによって、EOP系エタノール洗浄により取り除かれて、バルク電気浸透流ができる(図15)。最後に、正電位を電極Bに、負電位を電極Dにかけることにより、EOPを使用した水によって、DNAを増幅チャンバに溶出させた。予め充填されたPCRゲル中にDNAが移行すると、ペルチェ加熱システムを用いて熱循環を行った。標準キャピラリ電気泳動を用いて、PCR産物をチップ外で分析した。
【0125】
結果と結論
キャリアRNAの使用は、DNA抽出効率を高めることにつながった(図16)。キャリアRNAを含むサンプル(1501)(RNA:DNA=50:1)を、キャリアRNAを加えていないサンプル(1503)と比較した。理論的に100%の回収率であることを45°のラインが示している(1505)。
【0126】
キャリアRNAをシステムに加えていないときは回収DNAはわずか5ngであるのに対し、キャリアRNAを使用すると、DNA抽出効率が最大25ngの理想である100%の理論回収率となる。より多量のDNAでは、キャリアRNAの存在により、溶出ステップの間、DNAの収率がより高くなり続ける。PCR試薬を封入するためにアガロースゲルを使用することは、DNA増幅に悪影響を与えるものではないが、4℃で少なくとも8週間、マイクロ流体装に試薬を長期保存できるという利点を提供する。このシステムを用いて生成したPCR産物の例が、図17aと17bに示されている。図17aは、DNAサイズラダー(レーン1)、陽性対照(レーン2)、陰性対照(レーン3)とマイクロ流体装置でのゲル系増幅から得られたPCR産物(レーン4)を示している。
【0127】
キャリアRNAをDNA結合溶液に添加すると、熱的に活性化されたシリカモノリスのDNAの抽出効率を高めることになる。PCR試薬を封入するためにアガロースゲルを使用することによって、PCR試薬をマイクロ流体装置で保存することができる。これは、水圧ポンプではなくEOPを使用することにより、携帯アプリケーションと汚染の可能性の減少に大きな利点を提供する。
【0128】
代替ヒーター
上に提言されているが、このシステムは、ペルチェ加熱/冷却素子のような従来の設計の熱サイクラーと互換性があるが、本発明によるシステムの急速な熱サイクルに特に効果的な代替物はマイクロウェーブヒーターである。図18に一例を示す。
【0129】
サンプルを加熱するのに使用される共鳴空洞(1702)は、マイクロウェーブ周波数で作動したが、加熱工程は、従来のマイクロウェーブ加熱ではない。従来のマイクロウェーブ加熱においては、ターゲットの大きさは、一般に空洞(1702)の波長を上回る。8GHzでは、空気中の波長は37.5mmであり、従って、ガラス中では、約16mmとなる。関連する軸に沿ったサンプルの大きさは、ちょうど2mmである。このように、加熱メカニズムは、まさに空洞のリエントラントポスト間のガラスの無線周波数(RF)誘電加熱であり、空洞の共鳴モードは、低周波数の観点から、よく理解されている。
【0130】
C字形状に曲げられた導電性円筒棒(1701)は共鳴周波数を有し、従ってこの棒の互いに対向する端部がコンデンサを形成し、棒の長さはコンデンサと直列の単回コイルのインダクタを形成する。従って、この構造は、棒の長さに沿って交流電流が行ったり来たりする非常に単純なモードで共鳴できる。しかし、電源をそのような共鳴器に接続することが困難であり、問題となるレベルの電力がそこから発生することがある。
【0131】
シールド共鳴構造に共鳴棒(1701)を位相的に展解させるには、この棒をコンデンサの軸を中心にの周りで360°回転させて、個体を作るだけでいい。出来上がった構造体は、リエントラント準トロイダル空洞であり、そこからは何も放射しない。容量値に変化はないが、インダクタンスはかなり減少し、いくつかのシングルターンインダクターを並列にしたものに類似する。共鳴モードは、1つだけであり、対向する中心ポスト間のコンデンサの軸に平行なRF電界を有する。ポストが互いに近接しており、サンプルフィンガーのガラスの誘電率は約6なので、その他どこにも電界はほとんどない。RF磁界は、ポスト周辺のトロイダル空洞スペースの方向に流れており、磁界ループにより容易に励起される。ここでは、この磁界ループは、直径2.2mm、50Ωのセミグリッド同軸ケーブルから作られる。
【0132】
空洞(1702)は、同一形状をした2つの部分から構成されている(図18参照)。リエントラントポストは、軸方向に直径1.6mmの穴があけられており、冷気供給源(1703)からの冷気が入って、サンプルフィンガーに直接影響あたる。サンプルフィンガーが入る矩形スロットを、結合ループに対向する空洞側に機械加工した。
【0133】
これは、下記の誘電体を充填したカットオフ導波管のような挙動をし、その減衰は以下の通りである。
ここでλcはカットオフ周波数、εはガラスの誘電率である。この空洞デザインの減衰は20dB以上であり、空洞の外径が大きくなると、減衰も大きくなるが、これは必要なことではない。リエントラント円筒空洞の共鳴波長は、以下の通りである。
ここでρ1はポスト、ρ2は空洞半径、z0は長さである。サンプルフィンガーの存在は、共鳴周波数を要素
分減少させる。z0が短く、サンプルフィンガーと結合ループが空洞に侵入しているので、計算は概算であり、増分の機械加工により8GHzに調整した。
【0134】
マイクロウェーブ電源は、5Wまでの電力レベルで使用され、マイクロウェーブ信号発生器によって駆動されるGHz20W進行波管増幅器である。サンプルフィンガーを空洞(1702)に挿入した後、反射能信号内の共鳴の低下を観測することにより、共鳴周波数が低電力で決定される。周波数がその後記録され、信号発生器に伝送された。空洞(1702)への結合を、結合ループの挿入深度を変化させることにより、最小10dBのリターンロスに調整した。
【0135】
DNA増幅工程間の熱循環温度のリアルタイム調整が可能な制御システムが開発された。3つの工程温度(DNA変性、プライマーアニーリング、及びDNA伸長)での滞留時間は、1乃至99秒で調整可能であり、初期DNA変性と最終DNA伸長温度では、1乃至999秒で調整可能である。
【0136】
各マイクロ流体装置を、マイクロウェーブ空洞(1702)に配置すると、ネットワーク分析器を用いて正確な共鳴が得られる。反射能を監視することによって、反射能が10dB低下したとき、正確な周波数を得ることができる。このことが、図19に示されている。空洞(1702)の調整は、マイクロウェーブ空洞(1702)の2つの部分の結合を締めることにより、達成することができる。次いでこの周波数が信号発生器に伝送され、当該マイクロ流体装置の最適周波数でマイクロウェーブが発生されるようにしている。
【0137】
高度に制御されたマイクロウェーブ加熱と空冷を使用することで、このシステムは、3つの設定温度のいずれにおいても、わずかなオーバーシュート又はアンダーシュートを示した。マイクロウェーブシステムが所望の温度に達すると、変動はわずか±0.1℃であり、このシステムを非常に正確なものとしている。加熱と冷却のランプ速度は、65℃/秒であり、温度間の非常に速い推移が可能である。図20は、オシロスコープからの軌跡であり、熱循環プロファイルを拡大して示す。マイクロウェーブシステムは、Hot−Start Taq DNAポリメラーゼを用いて完全なDNA変性を確実に行うことが不可欠な場合に、初期変性ステップを実行できるよう設計された。また、PCR産物の完全なアデニル化が確実に生じることを含む最終伸長ステップも含まれている。両ステップは、シークエンスへ自動化されており、時間と温度の両方に関して制御可能である。
【0138】
[概要]
要約すると本発明は、ゲル担持マトリックスからポリマーゲル分離マトリックスへの、DNAフラグメントのモノリス−ゲル及びゲル−ゲルの動電学的注入の良好な最適化と適用を提供する。溶液系注入を超えたゲル担持注入の制御性、安定性とロバスト性の向上の証拠を示した。更に、本発明は、反応の安定性を長引かせることで知られているゲル担持サンプルマトリックスが、装置の全体の消費電力を損なうことなく、流体装置内で動電学的サンプル注入の操作性と移動性を改良することを示している。
【0139】
更に、本発明に係る、ゲルを用いて調整したマイクロ流体装置における泡の形成は、ジュール熱が過剰な溶液系システムで通常観察されるいかなる問題も引き起こさなかった。泡は、注入メカニズムの経路を大幅に変えるが、流れは維持され、注入がなされた。溶液のみの流体システムでは、泡が発生すると、結果として生じる乱流が、電界を中断して、これが注入工程に大きな支障をきたしてしまう。最後に、一のゲルから別のゲルへのDNAフラグメントの移動は、マトリックスインターフェースへのマトリックスの移動によっては影響は受けなかった。それ故、ゲル担持DNAフラグメントと試薬を有する本発明によるマイクロ流体装置の使用は、従来の技術を超えた上述したようなより多くの利点をもたらす。
【0140】
要約すると本発明は、電気浸透流と電気泳動を用いた分析器で使用する特有のゲル系電動学的マイクロ流体装置を提供するものであり、これによって装置内の生体サンプルのDNAフラグメントの抽出、精製、増幅、分離の全てのステップを1つの工程で行うことができる。これは事実上“単一ステップ”デバイスである装置を提供する従来技術と対照的である。更に、本発明のマイクロ流体装置とともに用いる、本発明の完全に一体化された携帯可能な分析器によれば、DNA分析の各ステップ間を調整し、より迅速な処理を行うことができる。より大きな装置と比較して速くなった、このような分析器の処理速度は、PCRステップ中に特に顕著に見られる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体サンプル処理装置、方法とシステムに関するものである。より詳しくは、本発明は、ゲルに担持させたサンプルや試薬を有するマイクロチャネルを具え、このマイクロチャネルを使用する完全に一体型にされた携帯可能なDNA分析器を具えるマイクロ流体サンプル処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「Lab−on−chip」や「微小化学物質分析システム」としても知られる最新のマイクロ流体装置は、一般に基体と、マイクロチャネルやポートのようなマイクロ構造とを具える。このようなマイクロ流体装置の使用により、シリコン、ガラス、ポリマーのような材料の多層体を特色とする専用マイクロチャネルの使用が可能となり、これによって通常サイズの器具が小型化されて、容易に携帯できるようになる。
【0003】
標準サイズの同じ種類の装置と比較すると、このようなマイクロ流体装置には、サンプルと試薬の量が非常に少なくてすむということ、分析に必要な時間がより短く、内部で実行される検査の感度が標準サイズの装置より高いことを含む様々な有利な点がある。加えて、汚染の可能性の削減や、現場分析サイトへのより良い可搬性がより簡単になる。
【0004】
伝統的なDNA指紋鑑定法のような方法は、一日または場合によっては一週間を要し、手順を完了させるのに多くの異なる装置を使用する。従って、犯罪が起きた直後にDNAを使って、例えば容疑者の迅速なリストを作成することは困難である。しかしながら、化学反応、合成、精製、抽出、産生及び/又は分析など、従来技術のマイクロ流体装置で実行可能である様々な操作が存在する。このため、マイクロ流体装置は、DNA指紋鑑定法、遺伝子分析、臨床診断、薬物スクリーニング、環境モニタリングのような分析診断分野において広い実用性を見出すことができる。
【0005】
マイクロ流体装置に関連する製造手順は、一の装置上で様々な工程の統合の可能性を取り入れているため、最新の調査器具の発展へつながる魅力的なルートを提供し、更にこれが分析測定のロバスト化を強化する自動化システムにつながる。しかしポンプのような補助器具を装置に連結することなく装置のある領域から他の領域に個別容量のサンプルを上手く移送をすることが非常に複雑であるため、いくつかのケースでは、一体化が困難であるとされていた。
【0006】
通常使用される最新式のマイクロ流体装置又はシステムでは、全て外付けの流体力学ポンプを必要する。例外として電気泳動的分離があるが、これは過大なデッドボリュームを必要とするため、マイクロリットルの流体を操作する方法として非常に非効率的である可能性がある。更に、従来技術の装置は一般に溶液ベースの技術から成り、特に例えば、気泡がシステムに侵入したり、溶液が乾いてしまった場合、サンプルの安定した動電学的制御を提供する態様でマイクロ流体装置内に試薬を準備して保管することは困難である。
【0007】
特に、組織からのDNA抽出と精製、DNA増幅、サンプル分離及び検出用の単一チップモジュールを実用的な移送メカニズムと組み合わせ、これらのステップが、マイクロ流体連通した構成部品によって上手く実行できる実用的な装置は、効率的な生産と操作が困難であった。様々な試薬の有効かつ一貫性のある局在性、実体面での溶解組織サンプルを受けるインターフェースの効率的な提供、チップを通して連結的に抽出されたサンプルを確実に移送する効率的な移送メカニズムは、特に困難である。
【0008】
例えば、WO99/64848は、部分的に統合されたマイクロ流体装置を記載している。移動は、液体内で動電学的移動(電気浸透)により行われ、電気泳動的な分離が生じるゲル内への動電学的注入を特徴とする。検出は、蛍光発光により、シークエンシングアプリケーションに基づいている。しかし、DNAの抽出と精製は、チップ外でなされる。
【0009】
US2003/190608では、相補的DNA/RNAを有するビーズがゲル内に保持されており、ここを通りサンプルが流体力学的に圧送されるシステムを記載している。熱的増幅を含むハイブリゼーション工程が述べられているが、試薬は装置内に配置されているのではなく、ポンプを用いて容器を介して添加される。蛍光発光検出はチップ上でなされるが、分離は記載されていないか又は特別なアプリケーションを必要とする。更に、DNA抽出もチップ外でなされる。
【0010】
US2005/161327の装置は、動電学的なものではなく2つの電気泳動ポンプに基づく装置である。サンプルの調整は、試薬の添加と同様に装置外でなされ、全体の工程は、溶液ベースである。分離工程については述べられていない。
【0011】
WO2007/133710は、プラグ又は水滴ベースの溶液処理を記載しており、主に混合や分離のような水滴操作工程に焦点を当てている。試薬は、装置上に保持されていない。
【0012】
抽出、増幅と分離と検出を単一装置内で統合することに関連する主な問題点の1つは、統合によって、個々の工程の既知の動作条件が損なわれることである。動作条件の再最適化は、個々の工程間の相互作用を調和させて、システムを独立した複合工程として稼働させなければならないため、達成が困難である。
【0013】
これらの及び他の理由から、単一チップ上で、抽出と精製、増幅、サンプル分離と検出を効果的に行うマイクロ流体装置は、実現困難であるとされていた。
【発明の概要】
【0014】
本発明によれば、一体型ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置であって、増幅チャンバと流体共働すると共に分離及び検出チャネルと流体共働する少なくとも一のDNA抽出チャンバを形成する複数のマイクロチャネルを有する基体を具え、前記サンプルの処理に必要なDNA抽出材料とゲル系反応試薬を含有し、前記装置は、更に外部電源に接続するための電気接点を具え、前記装置を通して前記ゲル系試薬と前記サンプルから抽出されたDNAの動電学的操作を生じさせる装置が提供される。
【0015】
“ゲル系試薬”という用語は、抽出されたDNAサンプルの精製及び溶出、及びPCR反応サポートに必要な試薬が、マイクロ流体装置内でゲルマトリックスに担持されていることを意味する。
【0016】
マイクロ流体装置の基体は、不活性で非導電性であり、好ましくはガラス又はその他の同様の物質又は材料のような光学的に透明な材料で形成するのが望ましい。基体は、一般に使用まで蓋で密封されて、その中に画定されている内部マイクロチャネルを封入している。蓋は、適当な手段によって基体に固着又は連結できる。
【0017】
装置のサイズは、その中に設置する分析機器によって決定できる。あるいは、120mm×60mmであるが、最大120mm又はそれ以上×で最大60mm又はそれ以上のサイズも適している。携帯用システムでの利用に適するように小型の装置が好ましい。さらにこの装置は、容易に製造することができる。
【0018】
DNA抽出チャンバは、例えば入口ポートなどを有する溶解サンプルをチャンバへ導入する手段を具える。好都合なことに、このチャンバは、サンプル受け取り手段を具えるか又は、サンプル受け取り手段と流体連通している。サンプル受け取り手段は、溶解サンプルが、直接DNA抽出チャンバ内へ導入されるよう構成することができる。好ましい実施例では、溶解剤との混合物中にDNA材料を含むサンプルを受け取り手段で受け取ることができる。このように、サンプル受け取り手段は、非溶解組織サンプルを収容し、これを溶解させ、DNA抽出チャンバに溶解サンプルを導入するように構成できる。例えば、サンプル受け取り手段は、使用時に組織サンプルを受け取る吸収部材を具え、溶解剤を予充填して、使用に際してDNA抽出チャンバ導入ポートに流体連通して配置し、このように配置された時に溶解サンプルを受け取り、溶解させ導入する。好適な溶解剤はカオトロピック塩溶液である。好適なカオトロピック塩はグアニジン塩酸である。なぜなら、組織サンプルの溶解液に加えたときに、塩が続いて生じるDNA抽出材料へのDNAの結合を容易にし(以下に述べる)、抽出したDNAを酵素的に切断するデオキシリボヌクレアーゼ(DNアーゼ)を不活性化するためである。
【0019】
DNA抽出材料は、DNAを捕捉することができ、残存量の溶解サンプルをこの材料に通過させるか、DNAを吸着させて、主容量の溶解サンプルを捕捉して、DNAをこの材料に通過させることができる。望ましくは、DNA抽出材料を荷電してDNAを捕捉し、DNA抽出チャンバ内に配置させるようにする。より望ましくは、DNA抽出材料は、多孔性固相抽出材料である。固相抽出(SPE)により、サンプルの予濃縮と、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような下流のアプリケーションを阻害する潜在的な汚染の除去が可能になる。更に、SPEはDNAの予濃縮を行うこともできる。これはわずかなサンプルを取り扱うときに重要である。
【0020】
より好ましくは、DNA抽出材料はシリカ系抽出材料であり、例えばシリカビーズ、又はより好ましくはシリカ系モノリスである。シリカ系モノリスのようなシリカ系抽出材料は、溶解サンプルからDNAを抽出するだけでなく、電気浸透流(EOF)用ポンプとして作動し、これにより、下記により詳しく述べるよう抽出ステップの効率が上がる。
【0021】
シリカ系モノリス内のように、DNA抽出材料が負に荷電している所に、例えばカオトロピック塩溶液のようなカオトロピック剤が存在すると、溶解がチップ上で行われる溶解剤か、あるいは溶解がチップ外で行われる装置の関連チャネルに予充填した溶解剤が、溶解サンプル中に存在するDNAとDNA抽出材料との結合を容易にする。これは、カオトロピック剤のイオン強度が高いため、抽出材料の表面における負電位を減少させることができるからである。これによって、DNAと抽出材料表面が脱水され、DNA/抽出材料接触中の分子間水素結合が形成されて優勢になり、これにより、DNA抽出材料へのDNAの結合が強化される。更にカオトロピック剤は、水分子を閉じ込めることにより水和イオンを形成し、DNA及び抽出材料表面の溶媒化を減少させる。更にカオトロピック剤は、DNAを変性させて、1本鎖DNA分子の露出したベースを抽出材料表面に水素結合させる。
【0022】
本発明の好ましい実施例は、装置上で組織細胞の溶解が行われ、この溶解剤は更にリボ核酸(RNA)のようなキャリア分子を具える。このようなキャリアRNAの使用は、特にサンプル中に存在するDNAが少量のときに、DNA抽出の効率増加に顕著な効果を有する。シリカ系モノリスのような抽出材料上には、所定量の核酸が不可逆的に結合する部位が常に存在することが知られている。溶解剤中にキャリアRNAを含めることにより、このキャリアRNAがこれらの部位に犠牲的に結合して、重要なDNAの損失を最小限にし、より大きな回収につながる。
【0023】
シリカ系モノリスは、熱的活性型か光開始型であることが望ましい。使い易さ、速度、再現性、及び作製したマイクロ流体装置上での正確な局在化といった特有の利点を有することから、熱的活性化型のシリカ系モノリスが、光開始型のものより望ましい。モノリスは一般に多孔性であり、モノリス内部の又はモノリスに隣接している導入口を介して溶解したサンプルを受け入れることができる。
【0024】
DNA抽出チャンバは、チャンバに流体連結する洗浄用入口と洗浄用出口を具えることが望ましい。望ましい実施例では、DNA抽出チャンバが、ゲル内に担持された溶出試薬を含むチャネルを更に具えており、チャンバが冷却されると、DNA抽出材料からDNAを溶出することができる。溶出ゲルは、例えば水のような低イオン強度の緩衝材を含んでいることが望ましい。
【0025】
この装置は、また、装置の周囲に、導入又は移動用の、又は試薬の除去又は廃棄用の複数の入口と出口を具える。
【0026】
望ましくは、少なくとも一のDNA抽出チャンバ、増幅チャンバ、及び分離及び検出チャネルの各々の中のゲル系試薬がそこで行われる工程の性質に関連している。このようなゲル系試薬は、所望であれば、装置内の原位置にあるときにマトリックスを形成する能力により選択することができる。ゲル系電気泳動に適切であり、特に装置内の原位置にあるときにマトリックスを形成する能力があることが知られているゲルは、線状多糖類系ものを含む。好ましくは、このゲルは少なくとも一の線状多糖類を具え、この線状多糖類は、選択的に、別の線状多糖類と、及び/又は、少なくとも一の非線状多糖類と混合されていることが好ましい。アガロース系ゲルは特に適している。従って、この少なくとも1の線状多糖類は、好ましくは、アガロースを含有しており、このアガロースは、いくつかの実施例においては、重要であるか、ゲルを形成する唯一の材料として存在するだけである。
【0027】
電気泳動的分離に使用する望ましいゲルは、ポリエチレンオキシド(PEO)系又は線状ポリアクリルアミド(LPA)系である。そのようなゲル中に存在するポリマー濃度によって、注入に続いてゲルが分離チャネルに局在するよう流れを制御できる。好ましくは、このポリマー濃度は、分離ゲル培地の3重量%から7重量%である。これらのポリマーレベルは、PCR増幅産物を減速するポリマーマトリックスを形成して、好適な分離を行えるからである。
【0028】
このように、ゲル系試薬の使用により、本発明によって作製したマイクロ流体装置上に様々な工程試薬を正確に局在化させて固着することができる。溶解サンプルからのDNA抽出、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用したDNA増幅、分離および検出の全てのステージは、本発明によるマイクロ流体装置上のマイクロ流体結合した構成部品によって、連続的に局在化された方法で実行できる。特に、溶解サンプルからDNAを抽出することにより、抽出チャンバは、より効果的な実体インターフェースを抽出、増幅、分離及び検出の全てのステージが連続的に局在化された方法で実行されるマイクロ流体装置に提供する。
【0029】
ゲル系試薬は、また、選択されたDNAフラグメントに結合し、分離工程で検出できる光プローブを具える。この光プローブは、DNAフラグメントに結合するか、発光するDNAフラグメント上で光る光を反射又は吸収することができる。好ましくは、光プローブは、蛍光染料又は化学染料である。より好ましくは、光プローブは、DNAフラグメントの5’末端に結合し、増幅する間にPCR産物内に取り込まれる蛍光染料である。適切なプローブは、一又はそれ以上の以下の蛍光染料:5−カルボキシフルオレカイン(FAM)、5’−ジクロロ−ジメトキシ−フルオレカイン(JOE)、テトラメチルローダミン(TAMRA)及びカルボキシ−X−ローダミン(ROX)を含む。
【0030】
従って、ここで使用される分離は、包括的な全てのメカニズムとして広範囲にわたって説明するべきである。DNAフラグメントの空間的な及び/又は一時的な物理的分離、及び/又は、複合試薬と並用する複数の分離によって補充されるか否かにかかわらず、例えば蛍光染料又は化学染料のようなオプトルミネッセンス技術を介する視覚的な分離を含む分離により、増幅産物のDNAフラグメントは検出用に選択的に識別される。このような光学的分離は使用する蛍光染料が異なる固有波長で発生するため生じる。従って、蛍光染料が同時に存在する場合でも、すなわち、分離及び検出チャネル中の同じ位置にあっても、標準スペクトロメータは個々のプローブの存在を識別し、装置へ導入されたDNAサンプルのプロファイルを検出することができる。
【0031】
この装置は、ゲル系試薬、サンプルから抽出されたDNA、及び本装置を通過するPCR産物を動電学的に操作するべく複数の電極を具えている。これらの電極は、一端が装置に密閉可能に連結されており、他端は電源に連結できる。動電学的という用語は、電気泳動、電気浸透流、及び当業者にとって明らかなあらゆる電気的操作手段を含む。好ましい操作モードでは、次いで行われるステージを通して増幅チャンバに到達するまで、抽出されたDNAは、電気浸透により操作される。その後は、一般的に電気泳動による操作が望ましい。
【0032】
この発明の更なる態様によれば、生体サンプル中でのDNA分析用の携帯可能な一体型システムを提供しており、このシステムは、前記サンプルからのDNAフラグメントを抽出、精製、増幅、分離、及び分析する動電学的駆動システムを具え、更に増幅チャンバと流体共働する少なくとも一のDNA抽出チャンバを形成する複数のマイクロチャネルを有する基体を具える、ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置を具え、前記増幅チャンバは、分離及び検出チャネルに流体共働しており、前記マイクロ流体装置内に配置され、電源に連結された複数の電極がマイクロ流体装置の周りでゲル系試薬とDNAとDNAフラグメントを動電学的に操作するよう構成されており、前記マイクロ流体装置は前記DNA抽出チャンバを介して前記サンプルを受け取るよう構成されており、このシステムは更に、前記マイクロ流体サンプル処理装置に連結又は隣接した発熱体を具えており;検出可能な信号により、DNAフラグメントを検出するべく配置された検出器と;マイクロ流体装置、動電学的に駆動されるシステム、前記検出器及び電源を含むよう構成された携帯可能なハウジングを具える。
【0033】
この発熱体は、DNAフラグメントの熱循環を達成する好適な手段を具え、特別な冷却部材を具えてもよい。発熱体は、接触式又は非接触式発熱体である。通常使用されている接触式発熱体は、例えばペルチェヒータなどの蓄熱ヒータ、又はプラチナなどの薄膜蒸着抵抗のマイクロ流体装置の外側への蒸着を含む。ペルチェヒータは、加熱の信頼性が高いため、DNA増幅の熱循環を達成させるのに広く使用されているが、温度勾配が比較的低いという問題があった。マイクロ流体システムのDNA増幅について述べた非接触式加熱方法は、赤外線やハロゲンランプの使用、誘導加熱やジュール加熱を誘導する交流電流を含む。好ましくは、発熱体は、マイクロウェーブ放射源を具える。
【0034】
本発明のこの態様の一体型システムは、本発明の第一態様のマイクロ流体サンプル処理装置を使用しており、システムの好ましい事項は類推理解される。
【0035】
その発明の更なる態様で、DNA分析の方法は以下のステップを含む。
a)分析システムに配置されたゲル系マイクロ流体サンプル処理装置のDNA抽出チャンバへサンプルを導入するステップと;
b)前記DNA抽出チャンバ内で前記サンプルを動電学的に操作して、DNAを洗浄し浄化するステップと;
c)前記DNA抽出チャンバ内のDNAを増幅チャンバへ溶出させるステップと;
d)前記増幅チャンバ内のDNAフラグメントを増幅してゲル内で増幅産物(DNAフラグメント)を形成するステップと;
e)分離チャネルに動電学的に前記増幅産物を注入するステップと;
f)前記増幅産物を動電学的に分離してDNAプロファイルを形成するステップ。
【0036】
好ましくは、サンプルは、装置のDNA抽出チャンバへ導入される前に溶解される。
【0037】
この方法の一の実施例では、サンプルは、装置へ導入される前に溶解される。例えば溶液として、カオトロピック塩と混合したDNAを含む溶解サンプルが導入される。例えば、カオトロピック塩溶液中の溶解サンプルは、続く洗浄及び溶出溶液の流れに直交するシリカモノリスのような抽出材料構造上に手動で充填される。
【0038】
この方法の別の実施例では、サンプル溶解ステップは、装置で又は装置上で行われる。例えば、サンプルは次のステップにより導入される:
溶解剤を充填した吸収部材を提供するステップ;
非溶解生体サンプルを前記吸収部材へ適用するステップ;
前記DNA抽出チャンバと流体連通するサンプル受け取り部位において前記吸収部材を適用及び/又は保持して、その中に前記溶解サンプルを導入ステップ。
【0039】
DNA抽出チャンバは、DNA抽出材料を含む。DNA抽出材料が、溶解サンプルの残存量を捕捉するときに、DNAの抽出と溶出が一ステップで行われ、DNAフラグメントを材料は通過させる。代替的にDNA抽出材料が、DNAフラグメントを捕捉できる場合には、DNAの溶出は抽出とは別のステップで行われる。
【0040】
DNA抽出材料の好ましい特徴は、上記に記載されている。特に、DNA抽出材料は、荷電されていることが好ましい。より好ましくは、DNA抽出材料が固相抽出材料である。更に好ましくは、DNA抽出材料がシリカ系抽出材料であり、例えば少なくとも一のシリカビーズ又はより好ましくはシリカ系モノリスを具える。
【0041】
溶解サンプルは、DNA抽出チャンバの洗浄入口から洗浄出口まで、動電学的に試薬を操作することにより洗浄される。本発明の好ましい実施例では、装置のDNA抽出チャンバ内での洗浄試薬の動電学的な操作が、電気浸透的な操作により行われる。
【0042】
上記の通り、シリカ系抽出材料の使用は、それが電気浸透流(EOF)用ポンプとして作動するため好ましく、それにより、溶解サンプルからのDNAの抽出及び洗浄ステップが促進される。これは負に荷電したどの抽出材料にも言えることであり、例えば、チャネルの表面積と比較して、シリカ系抽出材料がより大きい表面積を有する結果として生じる。EOFは、表面効果であり、表面積の増大はポンプサポートの増大をもたらす。更に、そのような抽出材料は、流体力学的抵抗によりサンプルの流体力学的な逆流を制限する一方向弁として作動する。流体力学的抵抗は、材料内の小さな孔の存在に起因するものであり、この小さな孔は、流体力学的な圧流に対して高い毛細血管抵抗を有する。逆流を制御する装置がないので、逆流を防止することは非常に重要である。逆流は流体力学的な圧力の差違が原因であり、前方EOFと均衡を迅速に保つので、サンプルの移動は即座に停止する。
【0043】
発明の好ましい実施例では、増幅チャンバへのDNA抽出チャンバ内のDNAの溶出は、動電学的な操作により行われる。
【0044】
電気浸透的な操作は、ゲルとDNA抽出材料を通してサンプルのバルク移動をもたらし、溶解サンプルからDNAを抽出して、このDNAを増幅チャンバへ移送させるので、ステップb)とc)において好ましい。
【0045】
本発明の方法のこの態様は、通常、本発明の第一又は第二態様のマイクロ流体サンプル処理装置又一体型システムを使用しており、システムの好ましい特徴は類推理解される。
【0046】
好ましくは、DNAフラグメントを形成するためにサンプルから抽出したDNAの増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を介して行われる。
【0047】
DNAプロファイルを形成するための増幅産物の電動学的な注入及び分離は、電気泳動により行われる。電気泳動的分離は、電界中でイオンの変位を引き起こし、これにより、DNAフラグメントを分離(通常は、フラグメントのサイズが基準となる)してDNAプロファイルを作成するため、好ましい方法である。
【0048】
この方法は、更に動電学的な分離によって処理された、DNAプロファイルを検出するステップを含む。DNAプロファイルを検出することにより発生した検出信号は、次いで、プロファイルが図形で見られるよう出力手段に送信される。更にこの方法は、作製されたプロファイルを英国犯罪科学局又は関連データベース内に保存されているDNAデータベースに保存されているような、既知のプロファイルと比較するステップを具える。
【0049】
本発明は、例えば犯罪シーンにおいて現場で使用するために、犯罪科学捜査の分野に、特別なアプリケーションを有するよう意図されているが、食品真正に関する遺伝形質の決定、父子鑑定例、細菌/ウイルス感染、菌株同定及びDNAを基にした安全マーキングのような様々なアプリケーションも想定されている。
【0050】
本発明による完全一体型の携帯可能なDNA分析器によれば、例えば、現場でDNA指紋鑑定するために犯罪シーンで得たDNAサンプルの処理を約1時間以内で汚染の問題を減らして又は無くして、行うことができる。このようなことは、診断及び分析工程の合理化によって可能となる。診断及び分析工程の速度でも、保管室や空港の安全施設のような現場での分析が鍵となる他の多くの状況でのこれらの装置の使用が適したものになる。特に、そのような分析器を用いたDNA分析は、細胞回収はマイクロ流体装置の外で行うが、DNA抽出、DNAフラグメントの増幅及び増幅産物の分離、及び選択的な場合のサンプル溶解ステージの任意の少なくとも一部もマイクロ流体装置内で行われるので、上手く行われる。
【0051】
分析器の特定のコンパクト性によって、各工程ステップ間の調整が行われ、DNAフラグメントが交互に加熱され、冷却される増幅処理を非常に迅速に行うことができる。その結果、一体型分析器システムは、DNA抽出から分析(例えば遺伝子プロファイリング)までの全行程を約1時間で完了することができる。
【0052】
本発明のDNA分析器システムは、ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置を利用しており、従って、マイクロ流体装置内での試薬、DNA、及びPCR産物の動電学的流体移動を利用してDNA分析を達成する。更に、ゲル系マイクロ流体サンプル処理においてDNA抽出材料とゲル系試薬を経由して担持材料を組み込むことは、試薬とサンプルを液体/溶液相中でのみ使用する従来の市販の装置よりも優れた結果を提供する。
【0053】
マイクロ流体装置内でのゲル又はゲルマトリックスの形成は、長時間その中に試薬を担持さることができ、システム内に泡が存在しても、溶解サンプル、DNA及び増幅DNAフラグメントのより安定した動電的制御を提供する。
【0054】
加えてそのような装置は、溶解サンプルの装置への導入を可能にし、次いで装置内での連続的な抽出及び/又は精製、増幅、及び分離により多数の処理を行う。そのような処理は、その中でゲル系試薬との一連の相互作用を通じ、主に溶解サンプル及び/又はDNAの動電学的な操作により達成される。これは程度の差はあるが、“単一ステップ”装置である従来技術の装置と対照的である。
【0055】
本発明は、生体サンプル中のDNAフラグメント分析に関して記載されているが、当業者は本発明が、例えばRNAなどの核酸材料の分析に同様に適用され、そこでこの工程がPCRの使用に適したDNAを形成する逆転写を含むことを理解するであろう。従ってこの方法は、逆転写を行うことを含み、この装置は、このステップを行うのに適した試薬を具えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
本発明の実施例を、例示として添付図面を参照して以下に説明する。
【0057】
【図1】第一構成部品、すなわちハードウェアを含む本発明のシステムの格納手段を示す。
【図2】原位置にマイクロ流体装置を有する、本発明のシステム格納手段を示す。
【図3】本発明のマイクロ流体装置の重要な部分を示す。
【図4】本発明のマイクロ流体装置の概略図を示す。
【図5】代替のサンプル導入装置を具える、本発明の第二実施例によるマイクロ流体装置を示す。
【図6】本発明によるマイクロ流体装置におけるシリカ系モノリス上での電気浸透流による80%のエタノール洗浄溶液(v/v)とゲル中の80%のエタノール洗浄液(v/v)の移動を示する。
【図7】本発明の方法論によって得られたPCR産物のUVトランスイルミネータ画像を示したものであり、特にPCR試薬へのDNAの動電学的移動を通じて得られたものである。ここで、安定性テスト1は、室温で30分間放置したゲルにより、安定性テスト2は、室温で1時間放置したゲルによる。
【図8a】ゲル濃度の安定性テストで得られたPCR産物のUVトランスイルミネータ画像を示す。
【図8b】本発明の方法論によって4℃で4週間保存したゲルの安定性テストから得たPCR産物のUVトランスイルミネータ画像を示す。
【図9】表2に見られる配列に関連する印加電圧に起因する電動学的移動を視覚化した図であり、ここでAとBはそれぞれ最も有効な二つの配列を視覚化した本発明の方法論によるものである。
【図10】本発明のマイクロ流体装置の図であり、アガロースゲルで満たされたT−セクションから、ポリエチレンオキシド分離媒体で満たされたキャピラリ電気泳動分離チャネルへのサンプルの電動学的注入を行うマイクロ流体装置を示しており、ここでA−Dは白金電極の配置を示す。
【図11】本発明の方法論によるアガロースゲルマトリックスでの、失敗した動電学的注入を視覚化した図である。
【図12a】本発明の方法論によるTE溶液中でEK注入から得たプロファイルを図形化して示す。
【図12b】本発明の方法論による1.5%のアガロースゲル中でEK注入から得られたプロファイルを図形化して示す。
【図13】本発明の方法論による1.5%のアガロースゲル中で最適化EK注入から得たプロファイルの一例を図形化して示す。
【図14】本発明の方法論によるアガロースゲルマトリックス中での、(a)泡が存在する場合と、(b)泡が存在しない場合の成功した動電学的注入を視覚化して示ており、動作電圧と時間は、表1に示す。
【図15】一体化したDNA抽出チャンバと増幅チャンバと、電気浸透ポンピング用の電極の配置を示すマイクロ流体装置の図を示す。
【図16】溶出ステップ間にモノリスから回収されDNAの量を図15に示す装置に最初に添加されたDNAの量との比較をグラフで示す。
【図17a】図15に示すシステムによって作られた、PCR産物を示すアガロースゲルを視覚化して示す。
【図17b】図15に示すシステムによって作られ、キャピラリ電気泳動により正確なサイズを分析した、アメロゲニンPCR産物を図形化して示す。
【図18】本発明によるマイクロ流体装置に熱循環を適用するのに適切なマイクロウェーブヒーターの断面を示す。
【図19】ネットワーク分析器からの図形出力を示しており、これは図18に示すヒーターの操作パラメータを決定するマイクロ流体装置の正確な共鳴周波数を示す反射能の低下を表示する。
【図20】図18に示すヒーターから得た熱循環を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
マイクロチャネルを具えるマイクロ流体サンプル処理装置が提供されている。マイクロチャネルは基体に刻み込まれている。この基体は、望ましくはガラスであるが、プラスチック又はその他適当な物質でもよい。約120mm×60mmの範囲の大きさであるか、あるいは使用するアプリケーション又はシステムによって決まる他の適当なサイズであってもよい。基体は、更にそのマイクロチャネル内にゲル系分離媒体と試薬を具え、基体を電源へ接続し、DNA分析システム内で機能するのに必要な電気接点を具えている。ゲル系分離媒体と試薬は、流体力学ポンプによってマイクロチャネル内に予め充填されており、例えば吸引又は圧力によって注入を静水学的に制御する。ガラスの基体は、基体に接着した蓋で密封されており、基体内に画定されているマイクロチャネルを封入する。蓋を取り付けるその他の手段も好適であり、接着以外の手段による蓋の取り付けを排除するものではない。
【0059】
マイクロ流体装置用の基体材料は、ガラス技術が既に確立され、ほとんどの反応に対する化学的応答に関して十分に特徴付けされているので、ガラスが好ましい。
【0060】
マイクロ流体処理装置(300)は、3つの主要な構成部分を具えている。すなわち、DNA抽出チャンバ(302)、PCRチャンバ(303)、分離検出チャネル(304)であり、これらはすべて図3、4に示されており、互いに対して流体連結/共働している。
【0061】
上述したとおり、従来技術と異なり、本発明のマイクロ流体装置(300)は、例えばDNA分析システムに使用する際に外付ポンプを必要としない。代わりに、複数の電極を使用して流体を動電学的に操作し、マイクロチャネル内のゲル系の試薬構造内にバルク流を生じさせるか、あるいは電気浸透流又は電気泳動で、荷電された化学種の動きを分離させる。本願では、7つの電極を使用しているが、より多いまたは少ない電極でもよい。
【0062】
本発明のマイクロ流体装置(300)は、必要なハードウェアをすべてマイクロ流体装置に外付けすることによって、安価に製造するように特別に設計されている。これにより、マイクロ流体装置の経済性が維持され、単回の分析に適する。従って単回使用の分析には理想的である。単回使用の分析は、証拠の基礎を固めるのに使用済みのマイクロ流体装置を必要とする科学捜査又は犯罪シーンの調査分野で特に有利である。
【0063】
本発明のマイクロ流体装置(300)においては、プロセス試薬やサンプルDNAを担持するゲルを満たしたチャネルやキャピラリを使用しており、システム内に泡が存在する場合でも、溶液ベース(従来技術)の手法と比較して、サンプルDNAの動電的な制御に関して、安定性を強化している。ゲルはマトリックス形状だが、どのような形状であってもよく、様々なプロセス試薬をマイクロ流体装置内の正確な位置に長期間にわたって固定できるものでなければならない。
【0064】
マイクロチャネルを具えるマイクロ流体装置(300)を使用する前に、図4に示すマイクロ流体装置の概略図を特に参照し、下記で詳細に説明するよう準備しなければならない。
【0065】
マイクロ流体装置の準備
モノリスの準備:ケイ酸カリウムとホルムアルデヒド10:1の溶液をサンプル導入ポート(301)に圧力注入することによって、マイクロ流体装置(300)の6角形抽出チャンバ(302)内にシリカ系抽出モノリスを形成する。周囲のチャネルを3%のグリセロールヒドロキシエチルセルロース(HEC)ゲルで満たして、12時間、95℃で硬化させる間、シリカ溶液を、6角形抽出チャンバ(302)内に確実に維持する。硬化工程に続いて、水を用いてチャネルからHECゲルを洗い流す。シリカ系モノリスは、ケイ酸カリウム(9%酸化カリウム、21%酸化ケイ素)とホルムアルデヒド98%を用いて製造する。
【0066】
チャネルAの準備:アガロース洗浄液送達ゲルは、低融点アガロースゲルを脱イオン水に溶かして、濃度3%(w/v)(100μl脱イオン水中に0.0030gアガロース)とし、75℃で加熱して作る。ゲルが形成されるがまだ溶解しているときに、80%のエタノールと20% 1Mの塩化ナトリウムを加え、混合して、ポートA内に圧力注入して、ポートAの入り口から抽出チャンバ(302)に位置するモノリスまでのチャネル長を満たす。
【0067】
チャネルBの準備:低融点アガロースを、DNA/RNAを含まない水に溶解させ、75℃で10分間加熱し、大容量の水がゲルを通って自由に移動できるように、ゲルの濃度を低く保つ。ゲルが形成されたがまだ溶解しているときにゲルをポートBに圧力注入して、ポートBの入り口から抽出チャンバ(302)に位置するモノリスまでのチャネル長を満たす。
【0068】
チャネルCの準備:低融点アガロースを、DNA/RNAを含まない水に溶かし、75℃で10分間加熱する。まだ溶解しているときに、ゲルをポートCに圧力注入する。
【0069】
分離チャネル(304)の準備:ポリエチレンオキシド(PEO)ゲルを、長時間撹拌法によって、1×Tris−EDTA緩衝液中2.5%濃度になるように作り、次いで圧力注入によってポートGに導入する。ゲルの粘度によって流れを制御して、チャネルD−Fの交差箇所にだけ注入が行われるようにできる。代替の実施例では、1×Tris TAPS EDTA(TTE)緩衝液中の6Mの尿素を有する線状のポリアクリルアミドゲルなどの、適当な粘度を有するその他のゲルを分離チャネルに用いても良い。
【0070】
PCRチャンバ(303)の準備:低融点アガロースを、DNA/RNAを含まない水に溶かし、75℃で10分間加熱する。ゲルが形成されているがまだ溶解しているときに、PCR試薬を加えて(NH4緩衝液、BSA、順方向プライマーと逆方向プライマー、dNTPs、MgCL2、Taqポリメラーゼ)混合する。“PCRゲル”は、ゲルがまだ溶解している状態でポートDへの圧力注入を介してPCRチャンバ(303)に注入し、チャネルD−FとポートEを満たす。
【0071】
次いで、ポートA−Gを導電性ポリマープラグで閉鎖する。このプラグは電極に接続されており、統合分析システムの第一構成部品に配置できる電源によって電力が供給される。
【0072】
全分析方法の段階(少なくとも細胞溶解後)を、上述の密閉したマイクロ流体装置(300)内で行なう。分析システムで使用する前に、マイクロ流体装置(300)は、必要な各段階に適した化学的性質を有する試薬を予め充填しなければならず、装置は4℃で保管されることが望ましい。一の運転モードでは、ユーザーが現場にいれば、引き続き溶解したサンプルを手動で装置に充填できる。別の運転モードでは、サンプルの溶解も装置で行われる。これらの代替例については、下記に詳しく述べる。
【0073】
溶解サンプルとDNAのキャピラリーチャネルへの注入の制御は、再現可能な分離と確実な検出分解能を得るためとても重要である。マイクロ流体装置への注入は、吸引、圧力又は重力によって静力学的に、又は動電学的に制御できる。本質的に動電学的な制御は、静力学的なシステムよりも、より的確で正確にサンプルを導入できると共に、外付けポンプ、アクチュエーター、バルブなどを必要としない。この実施形態では、サンプルの充填を、サンプル導入ポート(301)を、例えば数マイクロリットのル溶解サンプルをサンプル導入ポート(301)に分注して、又はサンプルを、溶解剤を浸透させたスポンジ(501)に加え、そのスポンジ(501)をサンプル導入ポートに加えるか配置するかして実行する(図5参照)。そこからサンプルは、DNA抽出チャンバ(502)内のシリカ多孔モノリス内に浸透する。次いで、キャップで導入ポートを密閉し、図4に示すようにA−Gに位置する電極に電界を印加することにより、チャンバやチャネル内でサンプルの操作をする。
【0074】
このシステム自体は、完全に統合された、携帯可能なDNA分析システムを具える。この分析システムは、異なるものであるが共働する2つの構成部品を有する格納手段を具えている(図1と図2参照)。第1の構成部品は、コントロールユニットである。このコントールユニットは、熱循環や検出のような工程の制御に必要なハードウェアとソフトウェアを全て含む。第2の又は更なる構成部品は、マイクロ流体装置である。このマイクロ流体装置は、サンプルと関連する処理試薬を含む。
【0075】
細胞溶解後の全分析手法を、上述したタイプの密閉したマイクロ流体装置(300)内で行う。溶解剤を充填したスポンジ(501)内で細胞溶解を行い、このステージもまた装置(500)上で行うことが好ましい。サンプルの移動、PCR増幅と分析の制御に必要な全てのハードウェアを具える格納手段の第1の構成要素は、マイクロ流体装置(300、500)の外にある。第1の構成部品を有するシステムの格納手段、すなわちこのハードウェアは図1に示されており、マイクロ流体装置は、図2に示すシステム格納手段内の原位置にある。
【0076】
本発明の分析システムは、タッチコントロールパネルで制御される。そして一旦蓋を閉じると、必要なDNAプロファイルの作成が完了するまで、分析的工程が稼働するよう完全に自動化されている。サンプル/溶解サンプルが充填されたマイクロ流体装置(300、500)をシステム内に配置し、電極AとCの間に電気的バイアスをかけて、上記のチャネルAの調整で述べたようにアルコール溶液で溶解サンプルからDNAを洗い流して、例えば血液サンプル中に存在するヘム分子のような工程を妨げる可能性がある細胞残屑とその他の物質を取り除く。次いで、ポートBとポートDにバイアスをかけて、装置(300、500)の抽出チャンバ(302、502)内のシリカモノリスの上にチャネルBから水をくみ上げて、ゲルで満たされたPCRチャンバ(303)へDNAを溶出させる。DNAプロファイリングに必要なDNAフラグメントの増幅に適した既知試薬の存在下で、3つのPCR温度で約25回乃至30回循環させる。これらの試薬は蛍光染料も含有している。この蛍光染料は、選択されたDNAフラグメントに結合して分離工程を行う間に選択されたDNAを検出できようにする。増幅されたフラグメント(例えば、標準DNA指紋検査法に使用する11遺伝子座の増幅によるPCR産物)を、分離チャネル(304)のネック部分に動電的に引き寄せ、分離チャネル(304)に少量で明確な量の増幅されたフラグメントを導入する。これは、電極G及びEにおいて、分離チャネル(304)に大きな電気バイアスがかかっている電場を用いても行われ、バイアスが下がると増幅した産物のDNAフラグメントが分離する。
【0077】
電気接点は、一般に直径約500μmの形状であり、白金線が好ましい。より好ましくは、導電性高分子、例えばカーボン充填ポリスチレンを装置の電気接点として使用し、金被膜銅電極を使用して、制御装置の電源を高分子電極に接続する。
【0078】
増幅産物のDNAフラグメントの分離は、DNAフラグメントがゲルマトリックスを通過する時に、その電荷やサイズに影響される。DNAフラグメントの泳動時間は、原則として、サイズによって区分される。サイズに基づく核酸フラグメントの電気泳動分離工程は良く知られた技術であり、ここでこれ以上の説明は必要ない。本発明のこの実施例では、少なくとも2つのレーザーと2つのスペクトロメータを使用して、これらのフラグメントの検出を行なう。検出器は、レーザーが極めて正確な光の波長を放射することを知るだけに必要であり、核酸フラグメントをマークするために使用した蛍光塗料の4つの周波数から識別することができる。要するに、2台のレーザーが、蛍光塗料(ここでは4つ)を励起して、2台のスペクトロメータ又は2台の検出器(システムが2つのレーザーの光を感知出来なくても、なお4つの蛍光塗料の認識するために2台必要)が、フラグメントが出口近くの検出窓をいつ通過したか特定できるようにし、DNAプロファイルやDNA指紋鑑定法を適用できる。この機械は、稼働が完了すると、通常ABI(Applied Biosystem Ltd,Warrington,United Kingdom)で作成される商業用シークエンスに類した図形で、プロファイルを出力する。
【0079】
分析システムにおいてマイクロ流体装置を用いる方法も提供されており、以下により詳細に述べられている。原則的に、検査する溶解サンプルを手動でマイクロ流体装置に導入するか、あるいは検査するサンプルを装置の溶解試薬を充填したスポンジ上に導入する。次いで、溶解サンプルがシリカモノリスに吸収され、シリカモノリス上でインサイチュウでDNAを抽出し、溶出する前に洗浄し、PCR法を用いて増幅し、その後蛍光標識したDNAセグメントを分離して遺伝子パターンを得る。システムの出力は英国犯罪科学局に保存されているDNAデータベースと互換性があるが、必要であれば他国のものと互換性を持つように容易に構築できる。
【0080】
分析システムに本願のマイクロ流体装置を用いる方法を、図4を参照して以下詳細に述べる。
【0081】
a)10−50μlのサンプル溶解液と塩酸グアニジンを、サンプル導入ポート(301)を用いてマイクロ流体装置(300)のDNA抽出チャンバ(302)内に配置したシリカモノリス上に手動で充填する。
【0082】
b)マイクロ流体装置(300)のポートAとポートCに配置した電極を用いて、洗浄入口(ポートA)からシリカ系抽出モノリスを含有するDNA抽出チャンバ(302)を経て、洗浄出口(ポートC)に80%エタノール溶液を流すことによりDNAを含有する溶解サンプルを洗浄する。これは、ポートにバイアスをかけて電気浸透流(EOF)を誘発することにより達成される。EOFを誘発する一般的な電圧は、50−150v/cmである(表1参照)。80%のエタノール溶液で細胞残屑及び不要なマトリックスのモノリスを洗浄し、溶解サンプル内に含まれるDNAを回収できるようにする。
【0083】
c)次いで、シリカモノリス上に残っているDNAを、マイクロ流体装置(300)のポートBとポートDにバイアスをかけてEOF流を誘発し、H2Oを用いてPCR(303)中に溶出させる(表1を参照)。
【0084】
d)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてDNAを増幅してDNAフラグメントを形成する。PCRチャンバ(303)は、3つの個別の温度を介し周期的に温められて、その結果、選択されたDNAフラグメントが指数関数的に増幅する。適当なプローブを使用して、目的の増幅されたDNAを得る。PCR工程の25乃至30サイクルが完了すると、増幅産物を含んだゲルが凝固する。すなわち外気温に戻してもかまわない。
【0085】
e)DNAフラグメントを含むPCR産物を、電気泳動的にPCRチャンバ(303)から分離チャネル(304)のネック部分に移動させ、当技術分野でよく知られているピンチ注入法を使用してマイクロ流体装置(300)の分離チャネル(304)に注入する。このように、ほんのわずかのDNAフラグメントを含むPCR産物が、制御された時間で分離チャネル(304)に引き込まれ(表1参照)、次いで電極D、EとFに電圧をかけて、分離チャネル(304)に注入されなかったPCR産物を引き戻し、注入したPCR産物の個別スラグを形成する。次いで、電極D、E、FとGに電圧を印加して(表1に詳細表示)、分離が開始する前にPCR産物の個別スラグの荷電したDNAフラグメントに焦点を合わせる。
【0086】
f)ポートD−G間にバイアスをかけることで、注入したPCR産物のDNAフラグメントが、マイクロ流体装置(300)の分離チャネル(304)に沿って電気泳動的に分離される(表1参照)。
【0087】
表1−試薬を用いたDNAフラグメントの移動に印加した電圧と適用時間
【0088】
その他の適当な電源を使用することもできるが、上述の電位は、4×0−1000Vの直流電源ユニットを用いて発生させた。更に、1000V以上の高電圧が必要なときは、10kV電源を用いた。両電源共、適当なソフトウェアを用いて正確に制御される。
【0089】
図面を参照し、以下に実施例を用いて発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明の一体型マイクロ流体装置で行われる、統合した結果妥協した個々の工程(DNA抽出、増幅、分離及び検出)の再最適化操作条件を示している。装置の様々な部分間の相互作用を認識することによって、発明者らはこれらの各工程で統合が持つ効果を理解した。したがって、以下に定める条件は、本願の一体型マイクロ流体装置内で効果的に使用できる抽出、増幅、分離及び検出の妥協した操作条件を表している。
【実施例1】
【0090】
DNAの回収と充填
本発明の使用の1の実施例では、ボランティアの頬から採取した口腔細胞からDNAを含む生体サンプルを抽出した。
【0091】
第一の代替実施例では、QIAamp(登録商標)DNAマイクロキット抽出キットまたは類似品を用いて口腔組織から生体サンプルを採取した。POLARStar OPTIMA プレートリーダーを用いて抽出したサンプルの量を測定し、次いで標準濃度5ng/μlになるよう希釈した。
【0092】
1×TE緩衝液でシリカ表面を活性化させてシリカ系モノリスを作った。サンプル標準溶液5μlを塩酸グアニジン120μlと混合し、流速5μl/分の水圧ポンプにより、モノリスに充填した。
【0093】
第二の代替実施例では、頬の内側に沿って滅菌綿棒で掻き取って、固体から生体サンプルとして使用する口腔細胞を採取した。マイクロ流体装置は、3mmのトッププレートを具えており、DNA抽出チャンバ(502)上に生体サンプルの入口として作用する3mmの穴が設けられていた。この入口は、塩酸グアニジン溶液に漬けた多孔性スポンジ(501)で満たされていた。口腔細胞は、手動インターフェースを介して綿棒からスポンジ(501)へと移動する。
【0094】
塩酸グアニジン溶液は、口腔細胞を溶解させ、DNAを放出させ、続いてDNA抽出モノリスへのDNAの結合を容易にする働きをする。次いで綿棒を取り除き、二重機能プラグを用いて、マイクロ流体装置(500)を密封し、サンプルの減少/汚染を防止する。更に、プラグがスポンジ(501)を加圧する結果、溶解サンプル−塩酸グアニジン溶液がモノリスを通って廃棄チャネルに移動する。DNAはモノリスに結合したままであり、DNA抽出工程を完了するのに必要な洗浄と溶出ステップを行うことができる状態にある。
【0095】
排液の除去
モノリスの孔にまだ存在している細胞残屑を80%のエタノール洗浄液(%v/v)で洗い流した。アガロース洗浄液デリバリーゲル(チャネルA内にある)を濃度3%(100μlDNA/RNA水中0.0030gアガロース)とし、75℃に加熱し、ゲルが形成されているがまだ溶解した状態で80%のエタノール100μlと20% 1Mの塩化ナトリウムを加え、次いで冷却してゲルを再形成し、内部にエタノール溶液を得た。まだ溶解した状態でエタノールゲルをチャネルAに導入して、シリカモノリスとインターフェースさせた。次いで、点AとCにある白金電極を所定の位置に固定し、5分間100Vcm−1の電界強度をかけて、シリカモノリスから細胞残屑を洗い流した。例えば表2にあるように、電界強度を比較して、最適電界強度を定め、ゲルと自由溶液の両方の80%のエタノールと20% 1Mの塩化ナトリウム溶液のEOF移動を行った。
【実施例2】
【0096】
PCRゲルの調整
低融点アガロースゲルをDNA/RNAを含まない蒸留水に溶解させて、75℃に10分間加熱してPCRゲルを製造した。ゲルが形成され、まだ溶解状態にあるときに、PCR試薬(2μlの10×NH4緩衝液、2μlのBSA、2μlの順方向プライマー、2μlの逆方向プライマー、1μlのdNTPs、0.4μlのMgCl及び0.4μlのTaqポリメラーゼ)を加えて混合し、ゲルを冷却して試薬を保持した。電極BとDを所定の位置に固定し、5分間100Vcm−1の電位をかけ、アイスブロックの上で実験を行ってPCR試薬の結合性を維持した。動電学的移動が完了したら、圧力注入によりPCRゲルをチャネルから取り出して、回収した。次いで、得られた溶液をサーマルサイクラーで増幅し、スラブゲル電気泳動法で分離し、UVトランスイルミネータを介して観察した。
【0097】
試薬の安定性を維持しながら、PCR増幅工程を容易にするのに最も適した条件を決定するゲルと試薬の濃度を調べた。試薬ゲルの短期間安定性と長期間安定性を調べた。例えば、試薬ゲルを上述のように用意して、室温と4℃で保存した。DNA鋳型をコントロールサンプルに加え、次いで、制御された期間サーマルサイクラー中で指数関数的に増幅させた。
【0098】
様々な電極電位と時間を調べて、システムの柔軟性を測定した。この電極印加電圧の組み合わせを、表2に詳細に示す。
【0099】
表2−電極と印加した電界の組み合わせ
【0100】
結果と結論
排液の除去
通常DNA抽出クリーンアップにおける洗浄ステップに使用されるイソプロパノールのは、電気浸透流をおこさないので、80%のエタノール溶液を用いた。図6は、シリカモノリス上での、溶液(v/v)中の80%のエタノール洗浄液とゲル(v/v)中の80%のエタノール洗浄液の電気浸透流による動きを示す。
【0101】
予想通り、洗浄液の流速(図6の上側のライン)は、ゲルフォーマット中の同じ溶液(図6の下側のライン)から得られた流速より速かった。ゲルでは、液体のバルク流上のクロスポリマーネットワークの干渉効果が原因で、電界強度と流動速度の関係が非線形である。しかし、アガロースゲル溶液は、許容流速でモノリス上で電気浸透ポンピングを起こして、細胞残屑をモノリスから除去できることがわかった。このことは、溶解サンプルのDNAはモノリス表面に吸着されるが、細胞残屑や赤血球(溶解サンプル内に存在することがある)はチャネルAからCへのエタノール溶液のバルク移動によってモノリスから洗い流されるという上述のメカニズムによって達成される。次いで、チャネルBからの水を用いてモノリスから(PCRに適した形式で)DNAフラグメントがクリーンに溶出される。
【実施例3】
【0102】
試薬ゲルの作成
電位を印加した後、各電極にたまった溶液を回収した。回収したDNAの65%の定量化されたDNAは陰極で見られたが、22%は陽極(図4の入口ポートF)から回収された。これは、おそらくDNAが同じポートに導入された場合に生じる、電気泳動による少量の移動によるものであった。残りのDNA(13%)は、エタノール中で検出された。これらの結果は、PCR増幅に必要な濃度で電気浸透流によって、モノリスから上手くDNAを抽出できるという特許請求の範囲をサポートしている。
【0103】
電気浸透ポンピングによりモノリスから抽出したDNAは、実行するべきPCR増幅に充分な量と質を有していた。この結果も、比較的高い電界を使用した場合でも、ゲル状の試薬の安定性を立証した。
【0104】
次いで、一連のアガロースゲルの濃度(10%、5%、3%、1.5%、1%、及び0.75%)を調べて、長期間試薬の安定性を維持しながら、PCR反応を生じさせるゲルの理想濃度を決定した。調査した濃度のうち、0.75%−3%の溶液の結果が可視的に図8aに表示されており、濃度5%と10%の溶液から得られた結果はゲルの逆の粘性効果が原因で芳しくなく、すぐ調査から除外した。図8aより、より強いバンドがプレート上に存在することにより、0.75%ゲルでPCR反応が上手くいったことがわかる。しかし、予備テストは、このゲル濃度では、長期の安定性は低く、試薬の保護がなされないことを示した。1%と1.5%のゲル濃度で得られたバンドは互に区別できないので、反応させ、試薬の安定性を維持するため、1.5%のゲル濃度で進めることを決定した。
【0105】
この安定性テストの結果は、図7に見ることができる。これは、PCR試薬へのDNAの動電学的移動を通じて得たPCR産物のUVトランスイルミネータ画像であり、冷蔵保存されていない場合、PCR試薬の安定性は減少する傾向にあることを示している。ゲルを30分間室温で放置するという安定性テスト1によれば、PCR反応はある程度進むが、誤プライミングが明らかであることが証明された。一方、ゲルを1時間室温で放置するという安定性テスト2では、試薬が完全に使用できなかったことを図7が示している。第2安定性テストの結果は図8bに見ることができ、試薬ゲルを4℃で4週間保存することができ、ゲルマトリックスに組み込まれると、試薬の安定性が非常に高まることを示唆している。
【0106】
様々な印加電位の調査から得られた結果(表2参照)は、システムが非常に柔軟であり、従って他のアプリケーションへ移行する可能性が高いことを示している。この結果は、調査された他のものよりシーケンス8が好ましいことを強調している。
【実施例4】
【0107】
試薬ゲルの作成
例えば図3又は4に示す、マイクロ流体装置(300)に、1Mの塩酸を流し、続いて乾燥する前に1Mの水酸化ナトリウムと脱イオンを流すことにより、洗浄し準備した。ポートGに圧力注入することにより、マイクロ流体装置(300)の分離チャネル(304)にPEOゲルを充填した。
【0108】
DNA/RNAを含んでいない水100μlに0.0029gの低融点アガロースを溶解させて、アガロースゲルを作り、ゲル濃度2.94%になるようにした。この溶液を水槽内で75℃で10分間加熱し、ゲルを形成した。ゲルがまだ液状のときに、9.8μlのサンプルに10.2μlのゲルを加え、可視化物質(ここでは蛍光標識したプライマー)を加えて混合した。濃度1.5%の最終ゲル溶液をポートEに圧力注入することにより、ゆっくりとマイクロ流体装置に注入して、クロスバー(D−F)の両腕をサンプルマトリックスで均等に満たした。最後に、図10に示すように2つのゲルに白金線電極を押し込んだ。
【0109】
図10において、T−セクション(901)からポートDまでの分離チャネル(902)の長さは800mmであり、チャネル(902)の直径は0.2mmである。T−セクションにおける、ポートA、BまたはCまでのチャネルの長さは5mmであり、垂直チャネルの直径は0.6mmである。
【0110】
マイクロ流体装置(300)の用意ができたら、サンプルと分離マトリクスを検査して、印加した電界を中断することがある泡や屑が注入工程で入り込んでいないことを確認した。電圧プロフィールは、LabViewソフトウェアによって入力したプリセットプログラムから自動的に印加された。
【0111】
結果と考察
溶液ベース(従来技術)とゲルベースの動電学的注入比較
最初に、溶液からの動電学的注入に使用される最適電圧プロフィールを、ゲルマトリックスに印加して、ゲル系システムのEK注入を最適化する出発点を確立した。図11に示す結果は、右側の写真が示すように、蛍光プライマーが、より広いサンプルチャネルからより狭い分離チャネルへ移動していないので、アガロースゲルマトリックスからPEOゲルへのサンプル注入が失敗したことを示している。
【0112】
最も可能性のある注入失敗の2つの理由は、より密度の高い分離ゲルが物理的にサンプルの移動を妨害したことと、ゲルのインターフェースがチャネルを横切る電界強度に悪影響を与えたことである。
【0113】
しかし、図12aと12bがそれぞれ示すように、溶液注入とゲル注入用に得たプロファイルを検討したところ、実際には、プロファイルはほとんど同一であり、唯一の違いは、ゲルシステムで見られるプロファイルが、ほんの少しより矩形であるだけである。このことは、溶液システムとゲルシステムの電気抵抗が類似しているので、ゲルの密度増加は、印加された電界に影響しないことを示している。
【0114】
従って、観察されたサンプル注入の妨害は、より密度の高いゲルマトリックスによって生じた物理的抵抗に起因する可能性が高い。これは、同じ移動基本メカニズムが、ゲルと溶液の両方に適用されており、唯一の違いは、同様の移動が生じるために、ゲルの物理的影響がが、より高い電圧とより長い時間を必要とすることを示唆している。
【0115】
その結果、ゲルシステムにおける注入の再最適化を実行し、溶液システム用のものと比較した結果を表3に示す。
【0116】
表3−TE緩衝溶液とアガロースゲル中の、動電学的注入に必要な最適電圧と時間を示す。
【0117】
予測通り、ゲル又はゲルマトリックス中で注入を行うときに、必要な消費電力がかなり大きくなった。この電力の増加は、電気泳動移動度(μep)(qは正味電荷、fは並進摩擦係数、vは成分の移動速度、Eは電界)を示す下記式1と、ポリマー溶液(μo)種の電気泳動運動(ηは溶媒粘度、qはポリイオン荷電、Rはポリイオンの半径)を考慮した修正電気泳動移動度の方程式であるフュッケルの式(式2)とから説明できる。
【0118】
電気泳動移動度は、並進摩擦係数に対する電荷によって表されるが、ポリマー溶液の導入には、溶媒の粘度だけでなく、ポリイオンの半径も必要である。両方程式では、電荷が同じであるが、粘性とポリイオンの半径が与える影響が、ゲル内での電気泳動移動度にかなりの変化を与えることになる。
【0119】
ゲル担持注入のロバスト性の証明
ゲル中での最適EK注入用プロファイルを検討すると(図13)、以前のゲル注入(図12b)に表示されたものと同じ矩形特性が観測された。一般に、ゲルにおける注入は、より高い安定性を示し、これは溶液中で得られたプロファイルのものと比較して、むしろ直線状のプロファイルによって表されている。一般的にゲル内での注入は、データの直線均等ラインが示す安定性の程度がより大きいことを示す。
【0120】
システム内に泡が存在していても(図14a)、動電学的注入が上手く実行できれば、ゲルの安定性はさらに増した(図14b)。
【0121】
溶液ベースシステムでは、電気泳動的注入する間の泡の存在は、大抵、流体移動の工程の失敗につながる支障をきたした。しかし、本発明のゲルシステムでは、泡の存在が、泡無しで行った連続注入と比較して、より大きな直径を有するより拡散したサンプルスラグを、発生する(図14b)。更に、注入工程の後半段階で消失する泡の周辺領域で生じているサンプルの濃度に増加が観察される。しかし、上手く注入することは可能であり、注入チャネルに泡がない注入と比較できる。
【実施例5】
【0122】
マイクロ流体装置内におけるアガロースゲル系 ポリメラーゼ連鎖反応と統合した、キャリアRNAを使用したDNA抽出
生体サンプルからのDNA抽出は、PCRのような下流工程の成功を左右する。この実施例で述べるように、固相抽出法の使用は、DNAの予濃縮を容易にするので有利であり、サンプル物質の入手が制限されている場合に重要である。
【0123】
この実施例では、図15を参照するに、標準的なフォトリソグラフィー技術とウエットエッチングを用いて、すべてガラスでできたマイクロ流体装置を作成した。モノリスは、DNA抽出チャンバ(1401)で、ケイ酸カリウムとホルムアミドの混合物を加熱硬化させ作成した。次に動的不動態化用に、牛の血清アルブミンとポリビニルピロリジンとツイン20を含むアメロゲニン遺伝子座増幅用PCR試薬を、低融点アガロースの融解溶液に加え、PCR増幅チャンバ(1402)に注入し、必要時まで4℃で保存した。
【0124】
ポリAキャリアRNAと共に、又は伴うことなく、DNAを5M塩酸グアニジン溶液に加え、モノリスに注入した。例えば、血液からのヘムタンパク質といった、下流アプリケーションにおける潜在的汚染は、電極Bへ正電位を、電極Cに負電位をかけることによって、EOP系エタノール洗浄により取り除かれて、バルク電気浸透流ができる(図15)。最後に、正電位を電極Bに、負電位を電極Dにかけることにより、EOPを使用した水によって、DNAを増幅チャンバに溶出させた。予め充填されたPCRゲル中にDNAが移行すると、ペルチェ加熱システムを用いて熱循環を行った。標準キャピラリ電気泳動を用いて、PCR産物をチップ外で分析した。
【0125】
結果と結論
キャリアRNAの使用は、DNA抽出効率を高めることにつながった(図16)。キャリアRNAを含むサンプル(1501)(RNA:DNA=50:1)を、キャリアRNAを加えていないサンプル(1503)と比較した。理論的に100%の回収率であることを45°のラインが示している(1505)。
【0126】
キャリアRNAをシステムに加えていないときは回収DNAはわずか5ngであるのに対し、キャリアRNAを使用すると、DNA抽出効率が最大25ngの理想である100%の理論回収率となる。より多量のDNAでは、キャリアRNAの存在により、溶出ステップの間、DNAの収率がより高くなり続ける。PCR試薬を封入するためにアガロースゲルを使用することは、DNA増幅に悪影響を与えるものではないが、4℃で少なくとも8週間、マイクロ流体装に試薬を長期保存できるという利点を提供する。このシステムを用いて生成したPCR産物の例が、図17aと17bに示されている。図17aは、DNAサイズラダー(レーン1)、陽性対照(レーン2)、陰性対照(レーン3)とマイクロ流体装置でのゲル系増幅から得られたPCR産物(レーン4)を示している。
【0127】
キャリアRNAをDNA結合溶液に添加すると、熱的に活性化されたシリカモノリスのDNAの抽出効率を高めることになる。PCR試薬を封入するためにアガロースゲルを使用することによって、PCR試薬をマイクロ流体装置で保存することができる。これは、水圧ポンプではなくEOPを使用することにより、携帯アプリケーションと汚染の可能性の減少に大きな利点を提供する。
【0128】
代替ヒーター
上に提言されているが、このシステムは、ペルチェ加熱/冷却素子のような従来の設計の熱サイクラーと互換性があるが、本発明によるシステムの急速な熱サイクルに特に効果的な代替物はマイクロウェーブヒーターである。図18に一例を示す。
【0129】
サンプルを加熱するのに使用される共鳴空洞(1702)は、マイクロウェーブ周波数で作動したが、加熱工程は、従来のマイクロウェーブ加熱ではない。従来のマイクロウェーブ加熱においては、ターゲットの大きさは、一般に空洞(1702)の波長を上回る。8GHzでは、空気中の波長は37.5mmであり、従って、ガラス中では、約16mmとなる。関連する軸に沿ったサンプルの大きさは、ちょうど2mmである。このように、加熱メカニズムは、まさに空洞のリエントラントポスト間のガラスの無線周波数(RF)誘電加熱であり、空洞の共鳴モードは、低周波数の観点から、よく理解されている。
【0130】
C字形状に曲げられた導電性円筒棒(1701)は共鳴周波数を有し、従ってこの棒の互いに対向する端部がコンデンサを形成し、棒の長さはコンデンサと直列の単回コイルのインダクタを形成する。従って、この構造は、棒の長さに沿って交流電流が行ったり来たりする非常に単純なモードで共鳴できる。しかし、電源をそのような共鳴器に接続することが困難であり、問題となるレベルの電力がそこから発生することがある。
【0131】
シールド共鳴構造に共鳴棒(1701)を位相的に展解させるには、この棒をコンデンサの軸を中心にの周りで360°回転させて、個体を作るだけでいい。出来上がった構造体は、リエントラント準トロイダル空洞であり、そこからは何も放射しない。容量値に変化はないが、インダクタンスはかなり減少し、いくつかのシングルターンインダクターを並列にしたものに類似する。共鳴モードは、1つだけであり、対向する中心ポスト間のコンデンサの軸に平行なRF電界を有する。ポストが互いに近接しており、サンプルフィンガーのガラスの誘電率は約6なので、その他どこにも電界はほとんどない。RF磁界は、ポスト周辺のトロイダル空洞スペースの方向に流れており、磁界ループにより容易に励起される。ここでは、この磁界ループは、直径2.2mm、50Ωのセミグリッド同軸ケーブルから作られる。
【0132】
空洞(1702)は、同一形状をした2つの部分から構成されている(図18参照)。リエントラントポストは、軸方向に直径1.6mmの穴があけられており、冷気供給源(1703)からの冷気が入って、サンプルフィンガーに直接影響あたる。サンプルフィンガーが入る矩形スロットを、結合ループに対向する空洞側に機械加工した。
【0133】
これは、下記の誘電体を充填したカットオフ導波管のような挙動をし、その減衰は以下の通りである。
ここでλcはカットオフ周波数、εはガラスの誘電率である。この空洞デザインの減衰は20dB以上であり、空洞の外径が大きくなると、減衰も大きくなるが、これは必要なことではない。リエントラント円筒空洞の共鳴波長は、以下の通りである。
ここでρ1はポスト、ρ2は空洞半径、z0は長さである。サンプルフィンガーの存在は、共鳴周波数を要素
分減少させる。z0が短く、サンプルフィンガーと結合ループが空洞に侵入しているので、計算は概算であり、増分の機械加工により8GHzに調整した。
【0134】
マイクロウェーブ電源は、5Wまでの電力レベルで使用され、マイクロウェーブ信号発生器によって駆動されるGHz20W進行波管増幅器である。サンプルフィンガーを空洞(1702)に挿入した後、反射能信号内の共鳴の低下を観測することにより、共鳴周波数が低電力で決定される。周波数がその後記録され、信号発生器に伝送された。空洞(1702)への結合を、結合ループの挿入深度を変化させることにより、最小10dBのリターンロスに調整した。
【0135】
DNA増幅工程間の熱循環温度のリアルタイム調整が可能な制御システムが開発された。3つの工程温度(DNA変性、プライマーアニーリング、及びDNA伸長)での滞留時間は、1乃至99秒で調整可能であり、初期DNA変性と最終DNA伸長温度では、1乃至999秒で調整可能である。
【0136】
各マイクロ流体装置を、マイクロウェーブ空洞(1702)に配置すると、ネットワーク分析器を用いて正確な共鳴が得られる。反射能を監視することによって、反射能が10dB低下したとき、正確な周波数を得ることができる。このことが、図19に示されている。空洞(1702)の調整は、マイクロウェーブ空洞(1702)の2つの部分の結合を締めることにより、達成することができる。次いでこの周波数が信号発生器に伝送され、当該マイクロ流体装置の最適周波数でマイクロウェーブが発生されるようにしている。
【0137】
高度に制御されたマイクロウェーブ加熱と空冷を使用することで、このシステムは、3つの設定温度のいずれにおいても、わずかなオーバーシュート又はアンダーシュートを示した。マイクロウェーブシステムが所望の温度に達すると、変動はわずか±0.1℃であり、このシステムを非常に正確なものとしている。加熱と冷却のランプ速度は、65℃/秒であり、温度間の非常に速い推移が可能である。図20は、オシロスコープからの軌跡であり、熱循環プロファイルを拡大して示す。マイクロウェーブシステムは、Hot−Start Taq DNAポリメラーゼを用いて完全なDNA変性を確実に行うことが不可欠な場合に、初期変性ステップを実行できるよう設計された。また、PCR産物の完全なアデニル化が確実に生じることを含む最終伸長ステップも含まれている。両ステップは、シークエンスへ自動化されており、時間と温度の両方に関して制御可能である。
【0138】
[概要]
要約すると本発明は、ゲル担持マトリックスからポリマーゲル分離マトリックスへの、DNAフラグメントのモノリス−ゲル及びゲル−ゲルの動電学的注入の良好な最適化と適用を提供する。溶液系注入を超えたゲル担持注入の制御性、安定性とロバスト性の向上の証拠を示した。更に、本発明は、反応の安定性を長引かせることで知られているゲル担持サンプルマトリックスが、装置の全体の消費電力を損なうことなく、流体装置内で動電学的サンプル注入の操作性と移動性を改良することを示している。
【0139】
更に、本発明に係る、ゲルを用いて調整したマイクロ流体装置における泡の形成は、ジュール熱が過剰な溶液系システムで通常観察されるいかなる問題も引き起こさなかった。泡は、注入メカニズムの経路を大幅に変えるが、流れは維持され、注入がなされた。溶液のみの流体システムでは、泡が発生すると、結果として生じる乱流が、電界を中断して、これが注入工程に大きな支障をきたしてしまう。最後に、一のゲルから別のゲルへのDNAフラグメントの移動は、マトリックスインターフェースへのマトリックスの移動によっては影響は受けなかった。それ故、ゲル担持DNAフラグメントと試薬を有する本発明によるマイクロ流体装置の使用は、従来の技術を超えた上述したようなより多くの利点をもたらす。
【0140】
要約すると本発明は、電気浸透流と電気泳動を用いた分析器で使用する特有のゲル系電動学的マイクロ流体装置を提供するものであり、これによって装置内の生体サンプルのDNAフラグメントの抽出、精製、増幅、分離の全てのステップを1つの工程で行うことができる。これは事実上“単一ステップ”デバイスである装置を提供する従来技術と対照的である。更に、本発明のマイクロ流体装置とともに用いる、本発明の完全に一体化された携帯可能な分析器によれば、DNA分析の各ステップ間を調整し、より迅速な処理を行うことができる。より大きな装置と比較して速くなった、このような分析器の処理速度は、PCRステップ中に特に顕著に見られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体型ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置において、
増幅チャンバと流体共働すると共に分離及び検出チャネルと流体共働する少なくとも一のDNA抽出チャンバを形成する複数のマイクロチャネルを有する基体を具え、
前記マイクロチャネルが、前記サンプルの処理に必要なDNA抽出材料とゲル系反応試薬を含有し、
前記装置が、更に、外部電源に接続するための電気接点を具え、前記装置を通して前記ゲル系試薬と前記サンプルから抽出されたDNAの動電学的操作を生じさせることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記基体が、不活性非導電性材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記基体が、ガラス又はガラスに類似するもので形成されていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記装置のサイズが、120mm×60mmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記DNA抽出材料が、前記DNA抽出チャンバに配置された荷電材料であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記DNA抽出材料が、前記DNA抽出チャンバに配置された固相抽出材料であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記固相抽出材料が、多孔シリカ系固相抽出材料であることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記シリカ系固相抽出材料が、シリカ系モノリスであることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記シリカ系モノリスが、熱開始型シリカ系モノリスであることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記少なくとも一のDNA抽出チャンバ、増幅チャンバ、分離及び検出チャネルが、その中にゲル系試薬を含んでおり、各々のゲル系試薬は、そこで行われる工程の性質に関連していることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
複数の更なるチャネル、入口ポート、及び出口ポートが、ゲル系試薬の導入又は装置周辺への移動、あるいは除去のために設けられていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記DNA抽出チャンバが、サンプル導入ポートを具えることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記サンプル導入ポートが、溶解サンプルの導入を提供するサンプル受け取り手段を具えるか、又はサンプル受け取り手段と流体連通していることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記サンプル受け取り手段が、溶解サンプルがDNA抽出チャンバ内へ直接導入されるよう構成されていることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記サンプル受け取り手段が、溶解されていない生体サンプルを受け取り、それを溶解し、その溶解サンプルを前記DNA抽出チャンバ内へ導入するよう構成されていることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記サンプル受け取り手段が、使用時にサンプルを受け取る吸収部材であって、溶解剤が予め充填されており、DNA抽出チャンバの導入ポートに流体連通して配置されて、そのように配置されたときにサンプルを受け取り、溶解し、そこへ導入するよう構成されている吸収部材を具えることを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記DNA抽出チャンバが、洗浄入口と、そこに流体連結した洗浄出口とを、具えることを特徴とする請求項1乃至16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記基体が、使用のときまで蓋で密閉されて基体内に画定された内部マイクロチャネルを封入していることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
前記装置が、ゲル内に担持された試薬、溶解サンプルと抽出DNA、及びDNAフラグメントを、装置全体で動電学的に操作する複数の電極を具え、これらの電極は一方の端部が前記装置に密閉可能に連結されており、前記装置から離れている電極端部は電源に連結可能であることを特徴とする請求項1乃至18のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
前記ゲル系反応薬が、光プローブを具えることを特徴とする請求項1乃至19のいずれか1項に記載の装置。
【請求項21】
前記光プローブが、蛍光染料であることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記光プローブが、化学発光染料であることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項23】
生体サンプル中のDNA分析用携帯可能な一体型の分析システムであって、前記サンプルからのDNAフラグメントの抽出と精製、増幅、分離及び分析を行う動電学的駆動システムを具える分析システムにおいて、
前記分析システムが更に、溶解チャンバ及び増幅チャンバと流体共働すると共に分離及び検出チャネルと流体共働する少なくとも一のDNA抽出チャンバを形成する複数のマイクロチャネルを有する基体を具える、ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置を具え、
前記マイクロ流体装置内に配置され、電源に接続された複数の電極であって、前記マイクロ流体装置の周囲でゲル系試薬とDNAとDNAフラグメントを動電学的に操作するよう構成された電極を具え、前記マイクロ流体装置は前記DNA抽出チャンバを介して前記サンプルを受け取るよう構成されており、この分析システムが更に、前記マイクロ流体サンプル処理装置に連結又は隣接した発熱体を具えるサンプル処理装置と、
検出可能な信号によりDNAフラグメントを検出するように配置された検出器と、
前記マイクロ流体装置、前記動電学的駆動システム、前記検出器及び前記電源を収納するよう構成された携帯可能なハウジングと、を具えることを特徴とする分析システム。
【請求項24】
前記発熱体が、非接触式の発熱体であることを特徴とする請求項23に記載の分析システム。
【請求項25】
前記発熱体が、マイクロウェーブ放射線源を具えることを特徴とする請求項24に記載の分析システム。
【請求項26】
前記DNAの検出可能な信号をグラフ形式で表示する出力手段を更に具えることを特徴とする請求項23乃至25のいずれか1項に記載の分析システム。
【請求項27】
DNA分析の方法において、
a)分析システムに配置されたゲル系マイクロ流体サンプル処理装置のDNA抽出チャンバへサンプルを導入するステップと、
b)DNAを抽出するために前記DNA抽出チャンバ内で前記サンプルの動電学的な操作を行うステップと、
c)前記DNA抽出チャンバ内のDNAを前記増幅チャンバへ動電学的に溶出させるステップと、
d)前記増幅チャンバ内のDNAを増幅してゲル内で増幅産物を形成するステップと、
e)前記増幅産物を分離チャネルに動電学的に注入するステップと、
f)前記増幅産物を動電学的に分離してDNAプロファイルを形成するステップと、
を具えることを特徴とするDNA分析の方法。
【請求項28】
前記サンプルを、前記DNA抽出チャンバに導入する前に溶解することを特徴とする請求項27に記載の分析方法。
【請求項29】
前記サンプルを、前記装置に導入する前に溶解することを特徴とする請求項28に記載の分析方法。
【請求項30】
前記サンプルを、カオトロピック塩溶液中で前記装置に導入することを特徴とする請求項29に記載の分析方法。
【請求項31】
サンプル溶解ステップが、前記装置で又は前記装置上で行われることを特徴とする請求項28に記載の分析方法。
【請求項32】
溶解剤を充填した吸収部材を提供するステップと、
生体細胞の非溶解サンプルを前記吸収部材に適用するステップと、
前記DNA抽出チャンバと流体連通するサンプル受け取り部位に、前記吸収部材を適用及び/又は保持して、その中に前記溶解サンプルを導入するステップと、
により前記サンプルを導入することを特徴とする請求項31に記載の分析方法。
【請求項33】
前記増幅チャンバへの前記DNA抽出チャンバ内の前記DNAの溶出が、動電学的操作により行われることを特徴とする請求項27乃至32のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項34】
前記サンプルを、前記DNA抽出チャンバの洗浄入口から洗浄出口まで洗浄溶液を移動させることにより電動学的に精製することを特徴とする請求項27乃至33のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項35】
前記DNAチャンバ内の前記サンプルの前記動電学的操作を、前記サンプルを電気浸透的操作手段により行うことを特徴とする請求項27乃至34のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項36】
前記DNAフラグメントの増幅を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により行うことを特徴とする請求項27乃至35のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項37】
前記増幅産物の前記動電学的な分離を、電気泳動的分離によって行うことを特徴とする請求項27乃至36のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項38】
前記DNAプロファイルの検出ステップと検出信号を出力手段へ送信するステップを更に具え、前記プロファイルをグラフで見ることができることを特徴とする請求項27乃至37のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項39】
前記プロファイルと既知のプロファイルとを比較するステップを更に含むことを特徴とする請求項38に記載の分析方法。
【請求項40】
図3、4、10及び11に関連し実質的に説明されている、ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置。
【請求項41】
図1と2に関連し実質的に説明されている、携帯可能で一体型の生体サンプルのDNAの分析システム。
【請求項42】
実施例に関連し実質的に説明されている、DNA分析方法。
【請求項1】
一体型ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置において、
増幅チャンバと流体共働すると共に分離及び検出チャネルと流体共働する少なくとも一のDNA抽出チャンバを形成する複数のマイクロチャネルを有する基体を具え、
前記マイクロチャネルが、前記サンプルの処理に必要なDNA抽出材料とゲル系反応試薬を含有し、
前記装置が、更に、外部電源に接続するための電気接点を具え、前記装置を通して前記ゲル系試薬と前記サンプルから抽出されたDNAの動電学的操作を生じさせることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記基体が、不活性非導電性材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記基体が、ガラス又はガラスに類似するもので形成されていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記装置のサイズが、120mm×60mmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記DNA抽出材料が、前記DNA抽出チャンバに配置された荷電材料であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記DNA抽出材料が、前記DNA抽出チャンバに配置された固相抽出材料であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記固相抽出材料が、多孔シリカ系固相抽出材料であることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記シリカ系固相抽出材料が、シリカ系モノリスであることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記シリカ系モノリスが、熱開始型シリカ系モノリスであることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記少なくとも一のDNA抽出チャンバ、増幅チャンバ、分離及び検出チャネルが、その中にゲル系試薬を含んでおり、各々のゲル系試薬は、そこで行われる工程の性質に関連していることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
複数の更なるチャネル、入口ポート、及び出口ポートが、ゲル系試薬の導入又は装置周辺への移動、あるいは除去のために設けられていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記DNA抽出チャンバが、サンプル導入ポートを具えることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記サンプル導入ポートが、溶解サンプルの導入を提供するサンプル受け取り手段を具えるか、又はサンプル受け取り手段と流体連通していることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記サンプル受け取り手段が、溶解サンプルがDNA抽出チャンバ内へ直接導入されるよう構成されていることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記サンプル受け取り手段が、溶解されていない生体サンプルを受け取り、それを溶解し、その溶解サンプルを前記DNA抽出チャンバ内へ導入するよう構成されていることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記サンプル受け取り手段が、使用時にサンプルを受け取る吸収部材であって、溶解剤が予め充填されており、DNA抽出チャンバの導入ポートに流体連通して配置されて、そのように配置されたときにサンプルを受け取り、溶解し、そこへ導入するよう構成されている吸収部材を具えることを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記DNA抽出チャンバが、洗浄入口と、そこに流体連結した洗浄出口とを、具えることを特徴とする請求項1乃至16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記基体が、使用のときまで蓋で密閉されて基体内に画定された内部マイクロチャネルを封入していることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
前記装置が、ゲル内に担持された試薬、溶解サンプルと抽出DNA、及びDNAフラグメントを、装置全体で動電学的に操作する複数の電極を具え、これらの電極は一方の端部が前記装置に密閉可能に連結されており、前記装置から離れている電極端部は電源に連結可能であることを特徴とする請求項1乃至18のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
前記ゲル系反応薬が、光プローブを具えることを特徴とする請求項1乃至19のいずれか1項に記載の装置。
【請求項21】
前記光プローブが、蛍光染料であることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記光プローブが、化学発光染料であることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項23】
生体サンプル中のDNA分析用携帯可能な一体型の分析システムであって、前記サンプルからのDNAフラグメントの抽出と精製、増幅、分離及び分析を行う動電学的駆動システムを具える分析システムにおいて、
前記分析システムが更に、溶解チャンバ及び増幅チャンバと流体共働すると共に分離及び検出チャネルと流体共働する少なくとも一のDNA抽出チャンバを形成する複数のマイクロチャネルを有する基体を具える、ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置を具え、
前記マイクロ流体装置内に配置され、電源に接続された複数の電極であって、前記マイクロ流体装置の周囲でゲル系試薬とDNAとDNAフラグメントを動電学的に操作するよう構成された電極を具え、前記マイクロ流体装置は前記DNA抽出チャンバを介して前記サンプルを受け取るよう構成されており、この分析システムが更に、前記マイクロ流体サンプル処理装置に連結又は隣接した発熱体を具えるサンプル処理装置と、
検出可能な信号によりDNAフラグメントを検出するように配置された検出器と、
前記マイクロ流体装置、前記動電学的駆動システム、前記検出器及び前記電源を収納するよう構成された携帯可能なハウジングと、を具えることを特徴とする分析システム。
【請求項24】
前記発熱体が、非接触式の発熱体であることを特徴とする請求項23に記載の分析システム。
【請求項25】
前記発熱体が、マイクロウェーブ放射線源を具えることを特徴とする請求項24に記載の分析システム。
【請求項26】
前記DNAの検出可能な信号をグラフ形式で表示する出力手段を更に具えることを特徴とする請求項23乃至25のいずれか1項に記載の分析システム。
【請求項27】
DNA分析の方法において、
a)分析システムに配置されたゲル系マイクロ流体サンプル処理装置のDNA抽出チャンバへサンプルを導入するステップと、
b)DNAを抽出するために前記DNA抽出チャンバ内で前記サンプルの動電学的な操作を行うステップと、
c)前記DNA抽出チャンバ内のDNAを前記増幅チャンバへ動電学的に溶出させるステップと、
d)前記増幅チャンバ内のDNAを増幅してゲル内で増幅産物を形成するステップと、
e)前記増幅産物を分離チャネルに動電学的に注入するステップと、
f)前記増幅産物を動電学的に分離してDNAプロファイルを形成するステップと、
を具えることを特徴とするDNA分析の方法。
【請求項28】
前記サンプルを、前記DNA抽出チャンバに導入する前に溶解することを特徴とする請求項27に記載の分析方法。
【請求項29】
前記サンプルを、前記装置に導入する前に溶解することを特徴とする請求項28に記載の分析方法。
【請求項30】
前記サンプルを、カオトロピック塩溶液中で前記装置に導入することを特徴とする請求項29に記載の分析方法。
【請求項31】
サンプル溶解ステップが、前記装置で又は前記装置上で行われることを特徴とする請求項28に記載の分析方法。
【請求項32】
溶解剤を充填した吸収部材を提供するステップと、
生体細胞の非溶解サンプルを前記吸収部材に適用するステップと、
前記DNA抽出チャンバと流体連通するサンプル受け取り部位に、前記吸収部材を適用及び/又は保持して、その中に前記溶解サンプルを導入するステップと、
により前記サンプルを導入することを特徴とする請求項31に記載の分析方法。
【請求項33】
前記増幅チャンバへの前記DNA抽出チャンバ内の前記DNAの溶出が、動電学的操作により行われることを特徴とする請求項27乃至32のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項34】
前記サンプルを、前記DNA抽出チャンバの洗浄入口から洗浄出口まで洗浄溶液を移動させることにより電動学的に精製することを特徴とする請求項27乃至33のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項35】
前記DNAチャンバ内の前記サンプルの前記動電学的操作を、前記サンプルを電気浸透的操作手段により行うことを特徴とする請求項27乃至34のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項36】
前記DNAフラグメントの増幅を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により行うことを特徴とする請求項27乃至35のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項37】
前記増幅産物の前記動電学的な分離を、電気泳動的分離によって行うことを特徴とする請求項27乃至36のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項38】
前記DNAプロファイルの検出ステップと検出信号を出力手段へ送信するステップを更に具え、前記プロファイルをグラフで見ることができることを特徴とする請求項27乃至37のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項39】
前記プロファイルと既知のプロファイルとを比較するステップを更に含むことを特徴とする請求項38に記載の分析方法。
【請求項40】
図3、4、10及び11に関連し実質的に説明されている、ゲル系マイクロ流体サンプル処理装置。
【請求項41】
図1と2に関連し実質的に説明されている、携帯可能で一体型の生体サンプルのDNAの分析システム。
【請求項42】
実施例に関連し実質的に説明されている、DNA分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17a】
【図17b】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17a】
【図17b】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2012−504952(P2012−504952A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530578(P2011−530578)
【出願日】平成21年10月12日(2009.10.12)
【国際出願番号】PCT/GB2009/051360
【国際公開番号】WO2010/041088
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(511089550)ユニバーシティー オブ ハル (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF HULL
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月12日(2009.10.12)
【国際出願番号】PCT/GB2009/051360
【国際公開番号】WO2010/041088
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(511089550)ユニバーシティー オブ ハル (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF HULL
【Fターム(参考)】
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