説明

DSRC車載器

【課題】路上機が不特定多数のDSRC車載器に信号を配信する放送型の通信形態においても、路上機から受信した信号に対する信号処理を適切に行えるようにする。
【解決手段】DSRC車載器1は、路上機21から受信する信号が放送型の信号であるか否かを判定し、路上機21から受信する信号が放送型の信号である旨を判定すると、データ復調回路10による受信信号に対する復調処理を行わせるか否かの判定基準となる受信閾値のレベルを、路上機21から受信する信号が放送型の信号でないと判定したときの受信閾値のレベルよりも低く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行路上に設置されている路上機から送信された信号を受信し、その受信した信号の受信強度が受信閾値以上であるときに当該信号に対する信号処理を行い、その受信した信号の受信強度が受信閾値未満であるときに当該信号に対する信号処理を行わないように構成されてなるDSRC車載器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばETCシステムに代表されるように、車両の走行路上に設置されている路上機と車両に搭載されているDSRC車載器(ETC車載器)とが狭域無線通信を行う構成が供されている。ところで、この種の狭域無線通信では、路上機とDSRC車載器との間でのデータ通信を確実に行えるように、DSRC車載器において、受信閾値を設けることにより、路上機から受信した信号の受信強度が受信閾値以上であるときに当該信号に対する信号処理を行うが、路上機から受信した信号の受信強度が受信閾値未満であるときに当該信号に対する信号処理を行わないように構成されている。
【0003】
その一方で、路上機から送信された信号は可能な限りDSRC車載器に受信されて信号処理されることが望ましく、受信閾値のレベルを低く設定することが考えられるが、単純に受信閾値のレベルを低く設定してしまうと、DSRC車載器がノイズを受信してしまう可能性が高まり、ノイズに対する制御が必要になるという問題がある。そこで、このような問題を解決すべく、DSRC車載器において、通信エリアに進入して路上機との間で互いに認証した後に、受信閾値のレベルを低く設定するものがある(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−273534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1に記載されている構成は、DSRC車載器が路上機との間で互いに認証した後、つまり、路上機が通信相手となるDSRC車載器を特定した後に、受信閾値のレベルを低く設定するものであり、路上機が通信相手となるDSRC車載器を特定することなく不特定多数のDSRC車載器に信号を配信する放送型の通信形態については考慮されていない。
【0005】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、路上機が不特定多数のDSRC車載器に信号を配信する放送型の通信形態においても、路上機から受信した信号に対する信号処理を適切に行うことを可能とするDSRC車載器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載した発明によれば、信号判定手段は、信号受信手段により受信される信号が放送型の信号であるか否かを判定し、受信閾値変更手段は、信号受信手段により受信される信号が放送型の信号であるか否かを信号判定手段が判定した判定結果に基づいて、
車両の走行路上に設置されている路上機から送信されて信号受信手段により受信された信号に対する信号処理を行うか否かの判定基準となる受信閾値のレベルを変更する。
【0007】
これにより、路上機から受信する信号が放送型の信号であると判定したときの受信閾値のレベルを、路上機から受信する信号が放送型の信号でないと判定したときの受信閾値のレベルよりも低く設定することにより、路上機が不特定多数のDSRC車載器に信号を配信する放送型の通信形態においても、路上機から受信した信号に対する信号処理を適切に行うことができる。また、路上機から受信する信号が放送型の信号でないと判定したときには、受信閾値のレベルを通常に設定しておく(低く設定しない)ことにより、受信閾値のレベルを低く設定したことでノイズを受信してしまう状況を回避することができる。
【0008】
ところで、路上機が通信相手となるDSRC車載器を特定して通信を行う個別型の通信形態と、路上機が通信相手となるDSRC車載器を特定することなく通信を行う放送型の通信形態とを比較すると、前者は、受信閾値のレベルを低く設定しまうと、受信状態が不安定な通信圏内の端側で通信を開始してしまい、通信シーケンスが途絶する可能性があり、通信シーケンスが途絶してしまうと、通信相手を特定しているが故に、通信シーケンスを最初から再開することになり、車両速度によっては通信を完了することができないという虞がある。つまり、前者は、通信シーケンスが途絶することを極力回避すべく、受信閾値のレベルを高く設定しておき、受信状態が安定な通信圏内の中央側で通信を開始するのが望ましいものである。これに対して、後者は、上記した状況では、通信シーケンスが途絶してしまうと、通信相手を特定していないが故に、通信シーケンスを最初から再開することはなく、却って受信状態が不安定な状況であっても受信したデータを有効に利用することができる利点がある。このような理由により、本発明のように、放送型の通信形態であるときの受信閾値のレベルを、放送型の通信形態でない(個別型の通信形態である)ときの受信閾値のレベルよりも低く設定する効果は高いと言えるものである。
【0009】
請求項2に記載した発明によれば、受信閾値変更手段は、受信閾値として第1の受信閾値と当該第1の受信閾値よりもレベルが低い第2の受信閾値とを設定可能に構成され、信号判定手段は、受信閾値変更手段が第2の受信閾値を設定している状態で、信号受信手段により受信される信号が放送型の信号であるか否かを判定する。これにより、信号受信手段により受信される信号が放送型の信号であるか否かを確実に判定することができ、路上機から受信する信号が放送型の信号であると判定したときの受信閾値のレベルを適切に設定することができる。
【0010】
請求項3に記載した発明によれば、誤り許容閾値変更手段は、信号受信手段により受信される信号が放送型の信号であるか否かを信号判定手段が判定した判定結果に基づいて、車両の走行路上に設置されている路上機から送信されて信号受信手段により受信された信号に対する信号処理を行うか否かの判定基準となる誤り許容閾値のレベルを変更する。
【0011】
これにより、路上機から受信する信号が放送型の信号であると判定したときの誤り許容閾値のレベルを、路上機から受信する信号が放送型の信号でないと判定したときの誤り許容閾値のレベルよりも高く設定することにより、路上機が不特定多数のDSRC車載器に信号を配信する放送型の通信形態においても、路上機から受信した信号に対する信号処理を適切に行うことができる。
【0012】
請求項4に記載した発明によれば、誤り許容閾値変更手段は、誤り許容閾値として第1の誤り許容閾値と当該第1の誤り許容閾値よりもレベルが高い第2の誤り許容閾値とを設定可能に構成され、信号判定手段は、誤り許容閾値変更手段が第2の誤り許容閾値のレベルを設定している状態で、信号受信手段により受信される信号が放送型の信号であるか否かを判定する。これにより、信号受信手段により受信される信号が放送型の信号であるか否かを確実に判定することができ、路上機から受信する信号が放送型の信号であると判定したときの誤り許容閾値のレベルを適切に設定することができる。
【0013】
請求項5に記載した発明によれば、データ判定手段は、信号受信手段により受信される信号に放送型のデータが含まれているか否かを判定し、受信閾値変更手段は、信号受信手段により受信される信号に放送型のデータが含まれているか否かをデータ判定手段が判定した判定結果に基づいて、車両の走行路上に設置されている路上機から送信されて信号受信手段により受信された信号に対する信号処理を行うか否かの判定基準となる受信閾値のレベルを変更する。
【0014】
これにより、路上機から受信する信号に放送型のデータが含まれていると判定したときの受信閾値のレベルを、路上機から受信する信号に放送型のデータが含まれていないと判定したときの受信閾値のレベルよりも低く設定することにより、路上機が不特定多数のDSRC車載器に信号を配信する放送型の通信形態においても、路上機から受信した信号に対する信号処理を適切に行うことができる。また、路上機から受信する信号に放送型のデータが含まれていないと判定したときには、受信閾値のレベルを通常に設定しておく(低く設定しない)ことにより、受信閾値のレベルを低く設定したことでノイズを受信してしまう状況を回避することができる。
【0015】
請求項6に記載した発明によれば、受信閾値変更手段は、受信閾値として第1の受信閾値と当該第1の受信閾値よりもレベルが低い第2の受信閾値とを設定可能に構成され、信号判定手段は、受信閾値変更手段が第2の受信閾値を設定している状態で、信号受信手段により受信される信号に放送型のデータが含まれているか否かを判定する。これにより、信号受信手段により受信される信号に放送型のデータが含まれているか否かを確実に判定することができ、路上機から受信する信号に放送型のデータが含まれていると判定したときの受信閾値のレベルを適切に設定することができる。
【0016】
請求項7に記載した発明によれば、誤り許容閾値変更手段は、信号受信手段により受信される信号に放送型のデータが含まれているか否かをデータ判定手段が判定した判定結果に基づいて、車両の走行路上に設置されている路上機から送信されて信号受信手段により受信された信号に対する信号処理を行うか否かの判定基準となる誤り許容閾値のレベルを変更する。
【0017】
これにより、路上機から受信する信号に放送型のデータが含まれていると判定したときの誤り許容閾値のレベルを、路上機から受信する信号に放送型のデータが含まれていないと判定したときの誤り許容閾値のレベルよりも高く設定することにより、路上機が不特定多数のDSRC車載器に信号を配信する放送型の通信形態においても、路上機から受信した信号に対する信号処理を適切に行うことができる。
【0018】
請求項8に記載した発明によれば、誤り許容閾値変更手段は、誤り許容閾値として第1の誤り許容閾値と当該第1の誤り許容閾値よりもレベルが高い第2の誤り許容閾値とを設定可能に構成され、信号判定手段は、誤り許容閾値変更手段が第2の誤り許容閾値のレベルを設定している状態で、信号受信手段により受信される信号に放送型のデータが含まれているか否かを判定する。これにより、信号受信手段により受信される信号が放送型の信号に放送型のデータが含まれているか否かを確実に判定することができ、路上機から受信する信号が放送型のデータが含まれていると判定したときの誤り許容閾値のレベルを適切に設定することができる。
【0019】
請求項9に記載した発明によれば、車両位置取得手段は、車両位置を取得し、車両位置判定手段は、車両位置取得手段により取得された車両位置を判定し、データ報知設定手段は、車両位置取得手段により取得された車両位置を車両位置判定手段が判定した判定結果に基づいてデータ報知手段からデータを報知させるか否かを設定する。これにより、車両位置に基づいてデータを報知させるか否かを設定することができ、路上機から受信した情報をユーザに提供するエリアを限定することができ、路上機から受信した情報をユーザに提供すべき適切なエリアに限ってユーザに提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について、図1ないし図4を参照して説明する。図1は、DSRC車載器の構成を機能ブロック図により示している。DSRC車載器1は、制御部2(本発明でいう信号判定手段、データ判定手段、受信閾値変更手段、誤り許容閾値変更手段、車両位置取得手段、車両位置判定手段、データ報知設定手段)、LPF(ロー・パス・フィルタ)3、送信変調回路4、局部発振器5、送信用増幅器6、送受信切替部7(本発明でいう信号受信手段)、受信用増幅器8、受信ミキサ9、データ復調回路10(本発明でいう信号処理手段)、電界強度検出回路11、電界強度判定回路12、GPS受信機13、不揮発性メモリ14、ICカードI/F回路部15、車両I/F回路部16、操作部17、表示部18(本発明でいうデータ報知手段)及び音声回路19を備えて構成されている。
【0021】
制御部2は、CPU、RAM、ROM及びI/Oバスなどを備えて構成され、DSRC車載器1の動作全般を制御する。LPF3は、制御部2から入力した送信データの高周波成分を除去し、その高周波成分を除去した送信データを送信変調回路4に出力する。送信変調回路4は、LPF3から入力した送信データに対して局部発振器5から入力した発振周波数で変調処理を行うことで送信信号を生成し、その生成した送信信号を送信用増幅器6に出力する。送信用増幅器6は、送信変調回路4から入力した送信信号を所定レベルまで増幅し、その所定レベルまで増幅した送信信号を送受信切替部7に出力する。
【0022】
送受信切替部7は、送信期間と受信期間とを時分割で切替え、送信期間では送信用増幅器6から入力した送信信号をアンテナ20から路上機21に送信し、受信期間では路上機21からアンテナ20により受信した受信信号を受信用増幅器8に出力する。受信用増幅器8は、送受信切替部7から入力した受信信号を所定レベルまで増幅し、その所定レベルまで増幅した受信信号を受信ミキサ9に出力する。受信ミキサ9は、受信用増幅器8から入力した受信信号に対して局部発振器5から入力した発振周波数をミキシングする。データ復調回路10は、受信ミキサ9から入力した受信信号に対して復調処理を行うことで受信データを生成し、その生成した受信データを制御部2に出力する。
【0023】
電界強度検出回路11は、受信ミキサ9から入力した受信信号の受信電界強度を検出し、その検出した受信電界強度(RSSI)を電界強度判定回路12に出力する。電界強度判定回路12は、電界強度検出回路11から入力した受信電界強度を受信閾値と判定し、その判定結果を制御部2に出力する。
【0024】
この場合、制御部2は、電界強度判定回路12から入力した判定結果に基づいて、信号受信電界強度が受信閾値以上であるか受信閾値未満であるかを判定すると共に、データ復調回路10から入力した受信データに基づいて、受信信号に含まれるUW(ユニーク・ワード)またはCRC(サイクリック・リダンダンシー・チェック)の誤りレベルが誤り許容閾値以上であるか誤り許容閾値未満であるかを判定する。そして、制御部2は、受信電界強度が受信閾値以上であり且つ誤り許容レベルが誤り許容閾値未満であると判定したときには、これ以降のデータ復調回路10による受信信号に対する復調処理を行わせるが、一方、受信電界強度が受信閾値未満であるかまたは誤り許容レベルが誤り許容閾値以上であると判定したときには、これ以降のデータ復調回路10による受信信号に対する復調処理を行わせない。また、制御部2は、電界強度判定回路12における受信電界強度を判定するための判定基準となる受信閾値を変更可能であり、UWまたはCRCの誤りレベルを判定するための判定基準となる誤り許容閾値を変更可能である。
【0025】
GPS受信機13は、GPS衛星から受信したGPS信号を制御部2に出力する。制御部2は、GPS受信機13から入力したGPS信号、車速センサ(図示せず)から入力した車速信号及び加速度センサ(図示せず)から入力した加速度信号などを演算し、演算した現在位置を車両位置として特定(検出)する。
【0026】
不揮発性メモリ14は、各種データを記憶可能に構成されている。ICカードI/F回路部15は、ICカード装着機構(図示せず)に装着されたICカードとの間で各種データの転送を制御する。車両I/F回路部16は、車両に搭載されている各種ECUや各種センサとの間で各種データの転送を制御する。操作部17は、ユーザが操作可能な例えば幾つかのキーを有して構成されている。表示部18は、制御部2から表示指令を入力すると、その入力した表示指令に基づいた表示情報を表示し、路上機21から受信した画像(動画像や静止画像)などを表示する。音声回路19は、制御部2から音声出力指令を入力すると、その入力した音声出力指令に基づいた音声情報をスピーカ22から出力させる。
【0027】
図2は、路上機21からDSRC車載器1に送信されるFCMC(フレーム・コントロール・メッセージ・チャンネル)及びMDC(メッセージ・データ・チャンネル)のフォーマットを示している。制御部2は、路上機21から送信されたFCMCを送受信切替部7により受信すると、そのFCMCのLID(リンク・アドレス・フィールド)を判定することにより、このFCMCに続くMDCが同報の信号であるか個別の信号であるかを判定する。すなわち、有料道路自動料金収受システムの標準規格であるARIB STD−T55では、FCMCのLIDの第1オクテットが「1xxx xxxx(xは0または1)」であるときには当該FCMCに続くMDCが同報の信号であることが規定されているという事情から、制御部2は、FCMCのLIDの第1オクテットが「1xxx xxxx」である旨を判定すると、当該FCMCに続くMDCが同報の信号である旨を判定し、一方、FCMCのLIDの第1オクテットが「1xxx xxxx」でない旨を判定すると、当該FCMCに続くMDCが同報の信号でない(個別の信号である)旨を判定する。
【0028】
次に、上記した構成の作用について、図3及び図4をして説明する。尚、制御部2は、
受信閾値を「Th1」と当該「Th1」よりもレベルが低い「Th2」との2段階で設定可能であり、受信閾値制御を開始する段階では受信閾値を「Th1」に設定していることを前提とする。
【0029】
制御部2は、受信閾値制御を開始すると、受信閾値の初期設定タイミングであるか否かを判定する(ステップS1)。受信閾値の初期設定タイミングとは路上機21から送信されたFCMCを受信する所定時間(数ミリ秒)前のタイミングであり、制御部2は、受信閾値の初期設定タイミングである旨を判定すると(ステップS1にて「YES」)、受信閾値を「Th1」から「Th2」に変更し(ステップS2)、路上機21からFCMCを
送受信切替部7により受信したか否かを判定する(ステップS3)。
【0030】
次いで、制御部2は、路上機21からFCMCを送受信切替部7により受信した旨を判定すると(ステップS3にて「YES」)、そのFCMCのLIDの第1オクテットが「1xxx xxxx」であるか否かを判定することにより、受信予定のMDCが同報の信号であるか否かを判定する(ステップS4)。
【0031】
ここで、制御部2は、FCMCのLIDの第1オクテットが「1xxxxxxx」である旨を判定し、受信予定のMDCが同報の信号である旨を判定すると(ステップS4にて「YES」)、受信閾値を「Th2」から「Th1」に変更することなく、受信閾値を「Th2」に維持したまま、路上機21からのMDCの受信を終了したか否かを判定すると共に(ステップS6)、FCMCを受信した時点からの経過時間が所定時間に到達したか否か(タイムアウトしたか否か)を判定する(ステップS7)。
【0032】
これに対して、制御部2は、FCMCのLIDの第1オクテットが「1xxxxxxx」でない旨を判定し、受信予定のMDCが同報の信号でない(個別の信号である)旨を判定すると(ステップS4にて「NO」)、受信閾値を「Th2」から「Th1」に変更し(ステップS5)、路上機21からのMDCの受信を終了したか否かを判定すると共に(ステップS6)、FCMCを受信した時点からの経過時間が所定時間に到達したか否かを判定する(ステップS7)。
【0033】
次いで、制御部2は、路上機21からのMDCの受信を終了したした旨を判定すると(ステップS6にて「YES」)、または、FCMCを受信した時点からの経過時間が所定時間に到達した旨を判定すると(ステップS7にて「YES」)、その時点での受信閾値を「Th1」に設定しているか否かを判定する(ステップS8)。そして、制御部2は、その時点での受信閾値を「Th1」に設定していない旨を判定すると(ステップS8にて「NO」)、受信閾値を「Th2」から「Th1」に変更し(ステップS9)、一方、その時点での受信閾値を「Th1」に設定している旨を判定すると(ステップS8にて「YES」)、受信閾値を「Th1」に維持したまま、受信閾値制御を終了する。
【0034】
図4は、上記した受信閾値制御に対応するタイムチャートを示している。すなわち、制御部2は、受信閾値の初期設定タイミングである旨を判定すると、受信閾値を「Th1」から「Th2」に変更し(t1、t4、t7)、受信予定のMDCが同報の信号である旨を判定すると、受信閾値を「Th2」から「Th1」に変更することなく、受信閾値を「Th2」に維持し(t2、t8)、一方、受信予定のMDCが同報の信号でない旨を判定すると、受信閾値を「Th2」から「Th1」に変更する(t5)。そして、制御部2は、路上機21からのMDCの受信を終了した旨を判定し、または、FCMCを受信した時点からの経過時間が所定時間に到達した旨を判定し、その時点での受信閾値を「Th1」に設定していない旨を判定すると、受信閾値を「Th2」から「Th1」に変更し(t3、t9)、一方、その時点での受信閾値を「Th1」に設定している旨を判定すると、受信閾値を「Th1」に維持する(t6)。
【0035】
以上に説明した一連の処理により、制御部2は、路上機21から受信するMDCが同報の信号であると判定すると、受信閾値を相対的に低く設定した状態で、路上機21から送信された信号を受信することになり、一方、路上機21から受信するMDCが個別の信号であると判定すると、受信閾値を相対的に高く設定した状態で、路上機21から送信された信号を受信することになる。つまり、制御部2は、路上機21から受信するMDCが同報の信号であると判定すると、路上機21から受信した個別の信号を復調処理させなかった受信電界強度でも、路上機21から受信した同報の信号を復調処理させることになる。
【0036】
ところで、以上は、FCMCのLIDを判定し、FCMCに続くMDCが同報の信号であるか個別の信号であるかを判定することにより、受信閾値のレベルを変更する場合を説明したが、MDCのLPDU(論理リンク制御・プロトコル・データ・ユニット)のデータ(コンテンツ)を解析して放送型のデータが含まれているか否かを判定し、放送型のデータが含まれているときには受信閾値を「Th2」に設定し、一方、放送型のデータが含まれていないときには受信閾値を「Th1」に設定するようにしても良い。その場合、制御部2は、路上機21から受信する信号に放送型のデータが含まれていると判定すると、受信閾値を相対的に低く設定した状態で、路上機21から送信された信号を受信することになり、一方、路上機21から受信する信号に放送型のデータが含まれていないと判定すると、受信閾値を相対的に高く設定した状態で、路上機21から送信された信号を受信することになる。
【0037】
また、FCMCのLIDの第1オクテットの「1xxx xxxx」における「xxx xxxx」領域にデータの識別子(ID)を設定し、例えば「xxx xxxx」が「000 0000」であるときにはデータが交通情報であり、「xxx xxxx」が「000 1000」であるときにはデータが静止画像であり、「xxx xxxx」が「000 1001」であるときにはデータが動画像であるというようにして、放送型のデータが含まれているか否かを判定するようにしても良い。
【0038】
また、以上は、データ復調回路10による受信信号に対する復調処理を行わせるか否かの判定基準となる受信閾値を制御する場合を説明したが、受信閾値を制御する手順と同様にして、データ復調回路10による受信信号に対する復調処理を行わせるか否かの判定基準となる誤り許容閾値のレベルを制御するようにしても良い。すなわち、制御部2は、路上機21から受信するMDCが同報の信号であると判定したり放送型のデータが含まれていると判定したりすると、誤り許容閾値を相対的に高く設定した状態で、路上機21から送信された信号を受信することになり、一方、路上機21から受信するMDCが個別の信号であると判定したり放送型のデータが含まれていないと判定したりすると、誤り許容閾値を相対的に低く設定した状態で、路上機21から送信された信号を受信することになる。つまり、制御部2は、路上機21から受信するMDCが同報の信号であると判定したり
放送型のデータが含まれていると判定したりすると、路上機21から受信した個別の信号や放送型のデータが含まれていない信号を復調処理させなかった誤りレベルでも、路上機21から受信した同報の信号や放送型のデータが含まれている信号を復調処理させることになる。
【0039】
以上に説明したように第1の実施形態によれば、DSRC車載器1において、路上機21から受信する信号が放送型の信号であるか否かを判定し、路上機21から受信する信号が放送型の信号である旨を判定すると、データ復調回路10による受信信号に対する復調処理を行わせるか否かの判定基準となる受信閾値のレベルを、路上機21から受信する信号が放送型の信号でないと判定したときの受信閾値のレベルよりも低く設定するように構成したので、路上機21が不特定多数のDSRC車載器1に信号を配信する放送型の通信形態においても、路上機21から受信した信号に対する信号処理を適切に行うことができる。
【0040】
特に、放送型の信号は1つの情報を形成する大容量のデータが複数のフレームに分割されて配信されることが多いという事情を考慮すると、本実施形態のように放送型の信号を受信するときの受信閾値のレベルを低く設定することで、データの欠落を極力回避することができ、路上機21から配信される情報をユーザに適切に提供することができる。
また、路上機21から受信する信号が放送型の信号でないと判定したときには、受信閾値のレベルを通常に設定しておく(低く設定しない)ことにより、受信閾値のレベルを低く設定したことでノイズを受信してしまう状況を回避することができる。
さらに、受信閾値を低いレベルに設定している状態で、路上機21から受信する信号が放送型の信号であるか否かを判定するように構成したので、路上機21から受信する信号が放送型の信号であるか否かを確実に判定することができ、路上機21から受信する信号が放送型の信号であると判定したときの受信閾値のレベルを適切に設定することができる。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、図5及び図6を参照して説明する。尚、上記した第1の実施形態と同一部分については説明を省略し、異なる部分について説明する。上記した第1の実施形態は、受信閾値の初期設定タイミングで受信閾値を「Th1」から「Th2」に変更することで路上機21からのFCMCを受信閾値が「Th2」の状態で受信するものであるが、これに対して、この第2の実施形態は、路上機21からのFCMCを受信閾値が「Th1」の状態で受信するものである。
【0042】
すなわち、制御部2は、受信閾値制御を開始すると、路上機21からFCMCを送受信切替部7により受信したか否かを判定し(ステップS11)、路上機21からFCMCを送受信切替部7により受信した旨を判定すると(ステップS11にて「YES」)、そのFCMCのLIDの第1オクテットが「1xxx xxxx」であるか否かを判定することにより、受信予定のMDCが同報の信号であるか否かを判定する(ステップS12)。
【0043】
ここで、制御部2は、FCMCのLIDの第1オクテットが「1xxx xxxx」である旨を判定し、受信予定のMDCが同報の信号である旨を判定すると(ステップS12にて「YES」)、受信閾値を「Th1」から「Th2」に変更し(ステップS13)、路上機21からのMDCの受信を終了したか否かを判定すると共に(ステップS14)、FCMCを受信した時点からの経過時間が所定時間に到達したか否か(タイムアウトしたか否か)を判定する(ステップS15)。
【0044】
これに対して、制御部2は、FCMCのLIDの第1オクテットが「1xxxxxxx」でない旨を判定し、受信予定のMDCが同報の信号でない(個別の信号である)旨を判定すると(ステップS12にて「NO」)、受信閾値を「Th1」から「Th2」に変更することなく、受信閾値を「Th1」に維持したまま、路上機21からのMDCの受信を終了したか否かを判定すると共に(ステップS14)、FCMCを受信した時点からの経過時間が所定時間に到達したか否かを判定する(ステップS15)。
【0045】
次いで、制御部2は、路上機21からのMDCの受信を終了したした旨を判定すると(ステップS14にて「YES」)、または、FCMCを受信した時点からの経過時間が所定時間に到達した旨を判定すると(ステップS15にて「YES」)、その時点での受信閾値を「Th1」に設定しているか否かを判定する(ステップS16)。そして、制御部2は、その時点での受信閾値を「Th1」に設定していない旨を判定すると(ステップS16にて「NO」)、受信閾値を「Th2」から「Th1」に変更し(ステップS17)、一方、その時点での受信閾値を「Th1」に設定している旨を判定すると(ステップS16にて「YES」)、受信閾値を「Th1」に維持したまま、受信閾値制御を終了する。
【0046】
図6は、上記した受信閾値制御に対応するタイムチャートを示している。すなわち、制御部2は、受信予定のMDCが同報の信号である旨を判定すると、受信閾値を「Th1」から「Th2」に変更し(t11、t15)、一方、受信予定のMDCが同報の信号でない旨を判定すると、受信閾値を「Th1」から「Th2」に変更することなく、受信閾値を「Th1」に維持する(t13)。そして、制御部2は、路上機21からのMDCの受信を終了した旨を判定し、または、FCMCを受信した時点からの経過時間が所定時間に到達した旨を判定し、その時点での受信閾値を「Th1」に設定していない旨を判定すると、受信閾値を「Th2」から「Th1」に変更し(t12、t16)、一方、その時点での受信閾値を「Th1」に設定している旨を判定すると、受信閾値を「Th1」に維持する(t14)。
【0047】
以上に説明したように第2の実施形態によれば、上記した第1の実施形態に記載したものと同様の作用効果を得ることができる。すなわち、DSRC車載器1において、路上機21から受信する信号が放送型の信号であるか否かを判定し、路上機21から受信する信号が放送型の信号である旨を判定すると、データ復調回路10による受信信号に対する復調処理を行わせるか否かの判定基準となる受信閾値のレベルを、路上機21から受信する信号が放送型の信号でないと判定したときの受信閾値のレベルよりも低く設定するように構成したので、路上機21が不特定多数のDSRC車載器1に信号を配信する放送型の通信形態においても、路上機21から受信した信号に対する信号処理を適切に行うことができる。
【0048】
(その他の実施形態)
本発明は、上記した実施形態にのみ限定されるものではなく、以下のように変形または拡張することができる。
路上機21から受信した情報を必ず表示部18により表示する構成に限らず、車両位置が特定のエリア内を走行しているか否かを判定し、車両位置が特定のエリア内を走行しているときに限って、路上機21から受信した情報を表示部18により表示する構成であっても良い。そのように構成すれば、路上機21から受信した情報をユーザに提供するエリアを限定することができ、路上機21から受信した情報をユーザに提供すべき適切なエリアに限ってユーザに提供することができる。
【0049】
車両位置が路上機21の通信圏内の中央側を走行しているか端側を走行しているかを判定し、車両位置が路上機21の通信圏内の中央側を走行しているときには、受信閾値のレベルを相対的に高く設定したり誤り許容閾値を相対的に低く設定したりし、一方、車両位置が路上機21の通信圏内の端側を走行しているときには、受信閾値のレベルを相対的に低く設定したり誤り許容閾値を相対的に高く設定したりするようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す機能ブロック図
【図2】FCMCの信号フォーマット及びMDCの信号フォーマットを示す図
【図3】制御内容を示すフローチャート
【図4】受信閾値の変更タイミングを示すタイムチャート
【図5】本発明の第2の実施形態を示すもので、制御内容を示すフローチャート
【図6】図4相当図
【符号の説明】
【0051】
図面中、1はDSRC車載器、2は制御部(信号判定手段、データ判定手段、受信閾値変更手段、誤り許容閾値変更手段、車両位置取得手段、車両位置判定手段、データ報知設定手段)、7は送受信切替部(信号受信手段)、10はデータ復調回路(信号処理手段)、18は表示部(データ報知手段)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行路上に設置されている路上機から送信された信号を受信する信号受信手段と、前記信号受信手段により受信された信号の受信強度が受信閾値以上であるときに当該信号に対する信号処理を行い、前記信号受信手段により受信された信号の受信強度が受信閾値未満であるときに当該信号に対する信号処理を行わない信号処理手段とを備えたDSRC車載器であって、
前記信号受信手段により受信される信号が放送型の信号であるか否かを判定する信号判定手段と、
前記信号受信手段により受信される信号が放送型の信号であるか否かを前記信号判定手段が判定した判定結果に基づいて前記受信閾値のレベルを変更する受信閾値変更手段とを備えたことを特徴とするDSRC車載器。
【請求項2】
請求項1に記載したDSRC車載器において、
前記受信閾値変更手段は、前記受信閾値として第1の受信閾値と当該第1の受信閾値よりもレベルが低い第2の受信閾値とを設定可能に構成され、
前記信号判定手段は、前記受信閾値変更手段が前記第2の受信閾値を設定している状態で、前記信号受信手段により受信される信号が放送型の信号であるか否かを判定することを特徴とするDSRC車載器。
【請求項3】
請求項1または2に記載したDSRC車載器において、
前記信号処理手段は、前記信号受信手段により受信された信号に含まれるUW(ユニーク・ワード)またはCRC(サイクリック・リダンダンシー・チェック)の誤りレベルが誤り許容閾値未満であるときに当該信号に対する信号処理を行い、前記信号受信手段により受信された信号に含まれるUWまたはCRCの誤りレベルが誤り許容閾値以上であるときに当該信号に対する信号処理を行わないように構成され、
前記信号受信手段により受信される信号が放送型の信号であるか否かを前記信号判定手段が判定した判定結果に基づいて前記誤り許容閾値のレベルを変更する誤り許容閾値変更手段を備えたことを特徴とするDSRC車載器。
【請求項4】
請求項3に記載したDSRC車載器において、
前記誤り許容閾値変更手段は、前記誤り許容閾値として第1の誤り許容閾値と当該第1の誤り許容閾値よりもレベルが高い第2の誤り許容閾値とを設定可能に構成され、
前記信号判定手段は、前記誤り許容閾値変更手段が前記第2の誤り許容閾値のレベルを設定している状態で、前記信号受信手段により受信される信号が放送型の信号であるか否かを判定することを特徴とするDSRC車載器。
【請求項5】
車両の走行路上に設置されている路上機から送信された信号を受信する信号受信手段と、前記信号受信手段により受信された信号の受信強度が受信閾値以上であるときに当該信号に対する信号処理を行い、前記信号受信手段により受信された信号の受信強度が受信閾値未満であるときに当該信号に対する信号処理を行わない信号処理手段とを備えたDSRC車載器であって、
前記信号受信手段により受信される信号に放送型のデータが含まれているか否かを判定するデータ判定手段と、
前記信号受信手段により受信される信号に放送型のデータが含まれているか否かを前記データ判定手段が判定した判定結果に基づいて前記受信閾値のレベルを変更する受信閾値変更手段とを備えたことを特徴とするDSRC車載器。
【請求項6】
請求項5に記載したDSRC車載器において、
前記受信閾値変更手段は、前記受信閾値として第1の受信閾値と当該第1の受信閾値よりもレベルが低い第2の受信閾値とを設定可能に構成され、
前記信号判定手段は、前記受信閾値変更手段が前記第2の受信閾値を設定している状態で、前記信号受信手段により受信される信号に放送型のデータが含まれているか否かを判定することを特徴とするDSRC車載器。
【請求項7】
請求項5または6に記載したDSRC車載器において、
前記信号処理手段は、前記信号受信手段により受信された信号に含まれるUW(ユニーク・ワード)またはCRC(サイクリック・リダンダンシー・チェック)の誤りレベルが誤り許容閾値未満であるときに当該信号に対する信号処理を行い、前記信号受信手段により受信された信号に含まれるUWまたはCRCの誤りレベルが誤り許容閾値以上であるときに当該信号に対する信号処理を行わないように構成され、
前記信号受信手段により受信される信号に放送型のデータが含まれているか否かを前記データ判定手段が判定した判定結果に基づいて前記誤り許容閾値のレベルを変更する誤り許容閾値変更手段を備えたことを特徴とするDSRC車載器。
【請求項8】
請求項7に記載したDSRC車載器において、
前記誤り許容閾値変更手段は、前記誤り許容閾値として第1の誤り許容閾値と当該第1の誤り許容閾値よりもレベルが高い第2の誤り許容閾値とを設定可能に構成され、
前記信号判定手段は、前記誤り許容閾値変更手段が前記第2の誤り許容閾値のレベルを設定している状態で、前記信号受信手段により受信される信号に放送型のデータが含まれているか否かを判定することを特徴とするDSRC車載器。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載したDSRC車載器において、
前記信号処理手段により信号が処理されて生成されたデータを報知するデータ報知手段と、
車両位置を取得する車両位置取得手段と、
前記車両位置取得手段により取得された車両位置を判定する車両位置判定手段と、
前記車両位置取得手段により取得された車両位置を前記車両位置判定手段が判定した判定結果に基づいて前記データ報知手段からデータを報知させるか否かを設定するデータ報知設定手段とを備えたことを特徴とするDSRC車載器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−129334(P2009−129334A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305897(P2007−305897)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】