説明

EVA樹脂シートの成形方法

【課題】コンパクトな設備と簡単な制御により、加熱封止する際に収縮が小さく太陽電池封止用に適したEVA樹脂シートの製造方法を提供する。
【解決手段】溶融樹脂を溶融温度より5〜45℃高い吐出温度でTダイ13から吐出させてEVA樹脂シートSを成形し、エアギャップ14で加熱装置31により、EVA樹脂シートSを前記吐出温度より5〜75℃の範囲で加熱して、第1,第2ロール21,22のロール入口に導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池封止用に適したEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)樹脂シートの成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1には、Tダイにより溶融樹脂をフィルム状に成形した後、冷却ロール等により冷却してフィルムを成形するに際し、冷却工程前で軟化点より高い70℃〜75℃にあるフィルムを複数のローラ上に搬送し、1.0〜2.0分間加熱して60℃〜80℃に保持することにより、アニール処理を施す技術が開示されている。
【0003】
これにより、太陽電池において、カバーとガラス基板との間にシリコン発電素子を封止する際に、加熱溶融させて架橋硬化し接着して一体化する工程において収縮率を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3972482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来構成では、Tダイの出口から1.0〜2.0分間加熱搬送するアニール処理ラインが必要となり、製造ラインが大型化することや、またアニール処理ラインでは、フィルム搬送用のローラの周速を、出口側より入口側を遅くするために、ローラの回転速度の制御が複雑となるという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点を解決して、コンパクトな設備と簡単な制御により、加熱封止する際に収縮が小さい太陽電池封止用に適したEVA樹脂シートの成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、溶融樹脂をTダイから吐出させてシート状に成形し、この樹脂シートをエアギャップから一対の第1,第2ロール間の入口に吐出して成形し、さらに前記第2ロールの表面に巻回された樹脂シートを、当該第2ロールと第3ロールとの間に導入して樹脂シートを、3.00m/分以上の成形速度で冷却成形するEVA樹脂シートの成形方法であって、
前記Tダイの吐出口から吐出されるEVA樹脂シートの吐出温度を、樹脂の溶融温度より5℃〜45℃高い範囲とし、
前記エアギャップに配置された加熱装置により、ダイの吐出温度より5℃〜75℃高くなるように樹脂シートを加熱して、第1,第2ロール間の入口に導入するものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成において、
加熱装置は、EVA樹脂シートの両面から10〜40mm離間して配置され、
EVA樹脂シートの加熱時間を1〜20秒としたものである。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の構成において、
第1〜第3ロールの少なくとも1つロールの表面に凹凸を形成して、樹脂シートにエンボス加工を施すものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、TダイにおけるEVA樹脂シートの吐出温度を溶融温度より5℃〜45℃だけ高い範囲で吐出させ、エアギャップで加熱装置によりEVA樹脂シートを、Tダイの吐出温度より5℃〜75℃高くなるように加熱して第1,第2ロール間の入口に導入し、第1,第2ロール間で成形した後、さらに第2,第3ロールにより冷却することにより、EVA樹脂シートの収縮率を大幅に減少させることができる。したがって、コンパクトな設備と簡単な制御により、太陽電池の製造時における加熱封止する際に収縮が小さいEVA樹脂シートを容易に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るEVA樹脂シートの押出成形設備の実施例を説明する概略側面図である。
【図2】EVA樹脂シートの押出成形実験と収縮率比較試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施例]
以下、本発明に係るEVA樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)シートの形成方法の実施例を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、太陽電池を封止するためのEVA樹脂シートSの押出成形設備を示し、スクリュー式押出機11の吐出口にギヤポンプ12を介してTダイ13が接続された樹脂押出装置10と、Tダイ13の下方にロール成形装置20が設けられている。このロール成形装置20は、Tダイ13からエヤギャップ14を介して溶融状態のEVA樹脂シートSを受け取り成形する第1ロール21および第2ロール22と、第2ロール22の外周部でEVA樹脂シートSを冷却する冷却用第3ロール23と、成形されたEVA樹脂シートSを引き出す引取ロール25と、引き出されたEVA樹脂シートSを巻き取る巻取りロール24とを具備している。
【0014】
31は、エアギャップ14に配置された加熱装置で、遠赤外線ヒータ、近赤外線ヒータ、ハロゲンヒータなどが採用され、Tダイ13の吐出口から送り出されたEVA樹脂シートSから10mm〜40mm離れて配置されて、EVA樹脂シートSを両面から加熱するものである。
【0015】
第2,第3ロール22,23と巻取りロール24は駆動ロールで、図示しないロール駆動装置により設定速度で回転駆動される。実施例1では第1ロール21は、第2ロール22に追従して回転される遊転式のロールであるが、第1ロールを駆動ロールにすることもある。
【0016】
また第1ロール21は、剛性ロールや、ゴム製ロール、弾性金属ロールであり、剛性ロールの場合、その表面にエンボス加工を施してEVA樹脂シートSの表面にエンボス模様を成形することもある。
【0017】
第2ロール22は剛性ロールのみで、その表面にエンボス加工を施してEVA樹脂シートSの表面にエンボス模様を成形することもある。
第3ロール23は冷却用としてのみ使用されるもので、一般的に剛性ロールが使用される。また剛性ロールを使用して、剥離性を高めるために、その表面にエンボス加工を施すこともある。
【0018】
次に上記押出成形設備を使用してEVA樹脂シートSの成形する本発明の方法を説明する。
樹脂押出装置10において、スクリュー式押出機11の吐出口から押し出されたEVA溶融樹脂を、Tダイ13からシート状に成形して吐出させる。このTダイ13でのEVA樹脂シートSの吐出温度は、溶融温度より5℃〜45℃の範囲で高くなるように設定されている。これは吐出温度が溶融温度より5℃未満の場合、樹脂の粘度が低く、薄いEVA樹脂シートSの成形に支障が生じやすいからである。
【0019】
ここで、現在多く使用されている通常のEVA樹脂の溶融温度は60℃〜75℃のものが多く、今後使用される可能性のあるものも含めて一般的なEVA樹脂の溶融温度は、60℃〜120℃と考えられる。したがって、Tダイ13の吐出温度は、溶融温度より5℃〜45℃高く、通常のEVA樹脂のTダイ13の吐出温度は65℃〜120℃(一般的なEVA樹脂では、65℃〜165℃)の範囲となる。
【0020】
そして加熱装置31によりEVA樹脂シートSを両面から加熱し、加熱されたEVA樹脂シートSを第1,第2ロール21,2間のロール入口に導入する。このロール入口のEVA樹脂シートSの導入温度を、Tダイ13の吐出温度より5℃〜75℃、好ましくは10℃〜40℃の範囲で加熱された温度としている。したがって、ロール入口のEVA樹脂シートSの導入温度は、通常のEVA樹脂で70℃〜195℃(一般的なEVA樹脂で70℃〜240℃)、好ましくは通常のEVA樹脂で75℃〜160℃(一般的なEVA樹脂で75℃〜205℃)の範囲となる。
【0021】
しかしながら、EVA樹脂に架橋剤が添加される場合、架橋剤の架橋温度より10℃以上低いことが必要な条件となる、これは、架橋剤の架橋温度に対して10℃未満まで接近すると、架橋剤の特性から部分的に硬化を開始するおそれがあるからである。なお、ここで一般的なEVA樹脂に添加される架橋剤の架橋温度は120℃〜160℃であるから、ロール入口のEVA樹脂シートSの導入温度は、通常のEVA樹脂で70℃〜150℃(一般的なEVA樹脂で70℃〜150℃)、好ましくは通常のEVA樹脂で75℃〜150℃(一般的なEVA樹脂で70℃〜150℃)の範囲となる。
【0022】
また、ここでの加熱時間は1秒〜20秒であるが、Tダイ13からの吐出温度≒シート成形速度を、たとえば4.00m/分とすると、1秒当たりのEVA樹脂シートSの移動距離が0.0666…mであり、約7cmとすると、エアギャップ14の加熱距離Lは、7cm〜140cm+αとなる。αは第1,第2ロール21,22と加熱装置31との接触を回避するための距離である。
【0023】
次いで、ロール入口に導入されたEVA樹脂シートSは、第1,第2ロール21,22間で所定の厚みに成形され、第2ロール22の表面に沿って案内されて第3ロール23の間に導入されて第3ロール23により冷却される。ここで第1,第2ロール21,22の冷却温度は、10℃〜20℃に設定され、また第3ロール23の冷却温度は、約35℃前後に設定される。
【0024】
ここで、EVA樹脂シートSの成形速度は、3.00m/分以上とされる。成形速度が3.00m/分未満であると、架橋硬化時おける収縮率の低下が認められるものの、成形速度が遅く、製造コストが嵩むためである。
【0025】
次に、上記設備を使用してEVA樹脂シートSの形成方法を実施した実験結果を、図2を参照して説明する。
ここで、EVA樹脂の溶融温度は、83℃(サンプルA)と75℃(サンプルB)の2種類を用いた。またEVA樹脂に添加された架橋剤の架橋温度が135℃であるため、加熱装置31による5℃以上の昇温が必要であることを考慮すると、Tダイ13の吐出温度の適正範囲は、88℃〜125℃(サンプルA)と80℃〜125℃(サンプルB)であり、ロール間の導入温度の適正範囲は、93℃〜130℃(サンプルA)と85℃〜130℃(サンプルB)である。
【0026】
そしてTダイ13のリップ開口部は、0.8mm×1020mmで、エアギャップ14の加熱距離Lは380mmに設定されている。
またロール成形装置20において、第1ロール21の直径は300mmで水冷式、第2ロール22の直径は350mmで水冷式、第3ロール23の直径は350mmで油冷式である。
【0027】
図2に示すように、サンプル1、2、6は、エアギャップ14で加熱なしに成形したもの、サンプル3〜4は、エアギャップ14で加熱して成形したものである。サンプル6の成形条件は、加熱以外はサンプル3〜4と同じである。
【0028】
上記のように成形したEVA樹脂シートSの収縮試験は、まず略50mm四方に切断したサンプル片を、85℃のウォーターバスに60秒浸漬させ、成形方向に沿う2つの辺の長さを浸漬前と浸漬後で計測して平均化し、その収縮率を比較した。これは、EVA樹脂シートSが架橋時の加熱により成形方向に沿う方向に多く収縮が発生するためである。
【0029】
またサンプル3〜5のEVA樹脂シートSは、加熱装置31により両面から加熱して、サンプル3のロール入口の温度を115℃とし、サンプル4,5のロール入口の温度を125℃とした。サンプル6は、サンプル5と同一条件で成形し、加熱装置31のみをオフしている。
【0030】
図2の実験結果によれば、加熱装置31により加熱しないサンプル1、2および6では、押出方向の収縮率が60%前後以上と大きいのに対して、加熱したサンプル3〜5では、収縮率が35%〜49%まで減少したのが確認された。
【0031】
また加熱したサンプル中、加熱量が小さく、ロール入口の温度が架橋剤の架橋温度より20℃低い115℃で、あるサンプル3の収縮率が49%前後であるのに対して、加熱量が大きくロール入口の温度が架橋剤の架橋温度より10℃低い125℃まで加熱したサンプル4,5では、収縮率が35%前後まで減少させることができた。
【0032】
上記実施例によれば、Tダイ13におけるEVA樹脂の吐出温度を、溶融温度より5〜45℃高い温度で吐出させ、エアギャップ14で加熱装置31によりEVA樹脂シートSを加熱して、前記吐出温度より5℃〜75℃高い導入温度としてロール間の入口に導入し、第1,第2ロール21,22間で冷却後、さらに第2ロール22と第3ロール23とにより冷却成形することにより、EVA樹脂シートSの収縮率を大幅に減少させることができる。したがって、Tダイ13の吐出口からロール入口までのエアギャップ14を十分な距離に形成して加熱装置31を配置したコンパクトで簡単な設備と、エアギャップ14でEVA樹脂シートSを加熱するだけの簡単な制御により、太陽電池の製造時における加熱封止する際に収縮が小さいEVA樹脂シートSを成形することができる。
【符号の説明】
【0033】
S EVA樹脂シート
10 樹脂押出装置
11 スクリュー式押出機
12 ギヤポンプ
13 Tダイ
14 エヤギャップ
L エヤギャップの加熱距離
20 ロール成形装置
21 第1ロール
22 第2ロール
23 第3ロール
24 巻取りロール
31 加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂をTダイから吐出させてシート状に成形し、この樹脂シートをエアギャップから一対の第1,第2ロール間の入口に吐出して成形し、さらに前記第2ロールの表面に巻回された樹脂シートを、当該第2ロールと第3ロールとの間に導入して樹脂シートを、3.00m/分以上の成形速度で冷却成形するEVA樹脂シートの成形方法であって、
前記Tダイの吐出口から吐出されるEVA樹脂シートの吐出温度を、樹脂の溶融温度より5℃〜45℃高い範囲とし、
前記エアギャップに配置された加熱装置により、ダイの吐出温度より5℃〜75℃高くなるように樹脂シートを加熱して、第1,第2ロール間の入口に導入する
ことを特徴とするEVA樹脂シートの成形方法。
【請求項2】
加熱装置は、EVA樹脂シートの両面から10〜40mm離間して配置され、
EVA樹脂シートの加熱時間を1〜20秒とした
ことを特徴とする請求項1記載のEVA樹脂シートの成形方法。
【請求項3】
第1〜第3ロールの少なくとも1つロールの表面に凹凸を形成して、樹脂シートにエンボス加工を施す
ことを特徴とする請求項1または2記載のEVA樹脂シートの成形方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−153030(P2012−153030A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14637(P2011−14637)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】