説明

FRP成形体及びその製造方法、並びにガスタンク

【課題】FRP成形体において、内層の繊維体積含有率が高くなるのを抑制する。
【解決手段】ライナ10と、該ライナの外層に形成された、繊維及び熱硬化性樹脂を含む複数の樹脂含浸繊維層20と、ライナ10の外層に形成された、繊維とエラストマー状熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂とを含む複数のブロック層30とを備え、樹脂含浸繊維層20とブロック層30とが交互に積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンクや配管などの成形体及びその製造方法に関し、特に、樹脂含浸繊維を硬化させてなるFRP(繊維強化プラスチック)成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池システムに用いられる高圧水素タンクの開発が進んでいる。特に、車載用の燃料電池システムにおいては、強度や軽量化等の観点から、FRP製のガスタンクが有力視されている。
【0003】
この種の高圧水素タンクの製造は、一般に、フィラメントワインディング法(以下、「FW法」という。)を用いて行われる。具体的には、FW法により樹脂含浸繊維をライナ(内容器)に巻き付け、その後、樹脂含浸繊維の樹脂を加熱して硬化させる。それにより、ライナの外表面を覆う樹脂含浸繊維層が形成され、高圧水素タンクの強度が確保される。この樹脂含浸繊維層は、例えばCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)からなる。
【0004】
ところが、FW法によってFRP成形体を作製すると、外層よりも内層側において、繊維体積含有率(fiber volume content:Vf)が高くなるという問題が生じている(以下において、「高Vf化」ともいう)。その主な理由として、次の3つが挙げられる。第1に、樹脂含浸繊維をライナに巻き付ける際に、樹脂含浸繊維に張力が付与される。この張力による巻き締め効果により、樹脂含浸繊維をライナに巻き付けていくに従って、つまり積層がすすむに従って、内層ほど、せっかく含浸させた樹脂が染み出してしまう。第2に、FRP成形体を熱硬化させる際に、樹脂が高温になると一旦粘度が低下するので、樹脂含浸繊維からの樹脂の染み出しが促進される。第3に、FWを行っている間に受ける遠心力により、樹脂がライナの外層に向かって染み出しやすくなる。
【0005】
ところが、FRP成形体の内側の層が高Vf化すると、その層における樹脂の割合が相対的に低下する。また、外側の層においては、反対に、Vfが低下して樹脂の割合が高くなる。このように、Vfがばらつくと、FRP成形体の機械的強度等の特性に影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
関連する技術として、特許文献1には、充填容体の外周に補強層を設けたFRP製圧力容器の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、ライナの外周に、互いに種類の異なる複数の層が設けられた高圧タンク及びその製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開平11−13992号公報
【特許文献2】特開2005−36918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの特許文献1及び2のいずれにおいても、繊維堆積含有率を制御することについては一切に触れられていない。
そこで、上記の問題点に鑑み、本発明は、FRP成形体において、内層の高Vf化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るFRP成形体は、ライナと、前記ライナの外層に形成された、繊維及び熱硬化性樹脂を含む第1の層と、前記第1の層の外層に形成された、繊維とエラストマー状熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂とを含む第2の層とを備える。
【0009】
かかる構成とすることにより、第1の層に含まれる熱硬化性樹脂が未硬化状態であっても、第1の層の繊維間からの熱硬化性樹脂の染み出しは、第2の層によりブロックされる。
【0010】
また、本発明の第2の観点に係るFRP成形体は、ライナと、前記ライナの外層に形成された、繊維及び熱硬化性樹脂を含む複数の第1の層と、前記ライナの外層に形成された、繊維とエラストマー状熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂とを含む複数の第2の層とを備え、前記第1の層と前記第2の層とが交互に積層されている。
【0011】
かかる構成とすることにより、第1の層の熱硬化樹脂が未硬化状態であっても、第1の層の繊維間からの熱硬化性樹脂の染み出しは、第2の層によりブロックされる。それにより、複数の第1の層において繊維体積含有率がほぼ均一となり、内側の層の高Vf化が抑制される。
【0012】
ここで、前記第2の層に含まれるエラストマー状熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂は、前記第1の層に含まれる熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高い融点又は分解温度を有しており、それにより、第1の層を熱硬化させる際に熱硬化性樹脂の粘度が一旦低下しても、そのような樹脂の染み出しは第2の層によりブロックされる。
【0013】
前記FRP成形体を備えたガスタンクにおいては、例えば機械的強度等の特性の低下を抑制することができる。
【0014】
本発明の1つの観点に係るFRP成形体の製造方法は、ライナの外層に、未硬化の状態の熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けることにより、第1の層を形成する工程(a)と、前記第1の層の外層に、繊維とエラストマー状熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを巻き付けることにより、第2の層を形成する工程(b)とを備える。
かかる構成とすることにより、第1の層の繊維間からの熱硬化性樹脂の染み出しは、第2の層によりブロックされる。
【0015】
また、工程(a)と工程(b)とをさらに交互に繰り返すことにより、第1の層における熱硬化性樹脂の染み出しは、その上層に形成される第2の層によりブロックされる。それにより、複数の第1の層の間における繊維体積含有率がほぼ均一となり、内側の層の高Vf化が抑制される。
【0016】
ここで、前記プリプレグとして、テープ状又はシート状に成形されたものを用いることにより、第1の層の広い範囲を連続して覆うことができるので、熱硬化性樹脂の染み出しを効率的に抑制することができる。また、例えばテープワインディング法やシートワインディング法を利用できるので、第2の層を容易に形成することができる。
【0017】
ここで、前記プリプレグに含まれるエラストマー状熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂は、前記第1の層に含まれる熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高い融点又は分解温度を有しても良い。
【0018】
それにより、工程(b)の後で、前記第1の層を熱硬化させる際に、第1の層に含まれる熱硬化性樹脂の粘度が一旦低下しても、そのような樹脂の染み出しは第2の層によりブロックされる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第1の層の繊維間からの樹脂の染み出しが第2の層によりブロックされるので、内側の層に繊維が集中して高Vf化するのを抑制することができる。従って、FRP成形体を含むガスタンク等の製品の特性(例えば、機械的強度)の低下を抑制することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るFRP成形体の構造を示す断面図である。また、図2は、図1に示す一点鎖線IIで囲む部分の断面を拡大して示す模式図である。本実施形態に係るFRP成形体は、高圧ガスが充填されるガスタンクの本体部分(ガスタンク本体1)である。このようなガスタンクは、例えば、燃料電池システムに備えられる燃料ガス(例えば、水素ガス)が充填される高圧ガスタンクとして用いられる。なお、燃料電池システムとしては、燃料電池自動車のみならず、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両のほか、各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置型であっても良い。
【0021】
図1に示すガスタンク本体1は、ライナ10と、ライナ10の外面を交互に覆う複数の樹脂含浸繊維層20及びブロック層30を含んでいる。ガスタンクの内部に充填されるガスは、ガスタンク本体1の軸方向の一端部又は両端部の中心に形成された開口部(図示省略)を介して供給又は排出される。
【0022】
ライナ10は、ガスタンク本体1の内殻又は内容器とも換言される部分であり、内部に貯留空間が画成されるように、中空状に形成されている。また、ライナ10は、ガスバリア性を有し、充填されるガスの外部への透過を抑制する。ライナ10の材質は、特に制限されるものではなく、例えば、金属のほか、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂その他の硬質樹脂が挙げられる。
【0023】
樹脂含浸繊維層20及びブロック層30は、ガスタンク本体1に強度を付与する補強層である。
図2に示すように、樹脂含浸繊維層20は、未硬化の状態(液体状又はゲル状)の樹脂22を含浸させた繊維21を、内層(ライナ10又はブロック層30)の外周に巻き付けることによって形成されている。
【0024】
繊維21としては、例えば、金属繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、アルミナ繊維、といった無機繊維や、アラミド繊維等の合成有機繊維や、綿等の天然有機繊維が用いられる。これらの繊維は、単独で使用しても良いし、混合して(混繊として)使用しても良い。本実施形態においては、繊維21としてカーボン繊維を用いている。
また、樹脂22としては、例えば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられる。本実施形態においては、熱硬化性エポキシ樹脂を用いている。
【0025】
一方、ブロック層30は、繊維31及び樹脂32を含むテープ状のプリプレグを樹脂含浸繊維層20の外周に巻き付けることによって形成されている。
繊維31としては、繊維21と同様に、カーボン繊維等の無機繊維や、合成又は天然の有機繊維を用いることができ、本実施形態においては、カーボン繊維を用いている。
【0026】
また、樹脂32としては、エラストマー状硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂であって、一旦硬化又は固体化させた後では、少なくとも常温から樹脂22の硬化温度の範囲において固体状を維持できる樹脂(即ち、樹脂22の硬化温度よりも、融点又は分解温度が高い樹脂)が用いられる。その理由は、FRP成形体の製造工程における温度範囲内において、テープ状のプリプレグの液体に対する非透過性を維持するためである。樹脂32に用いられる材料として、具体的には、例えば、ビニル樹脂や、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリサルフォン、ポリエーテルイミド等が挙げられる。本実施形態においては、樹脂22としてエポキシ樹脂を用いているので、繊維31及び樹脂32を含むテープ状のプリプレグとして、150℃以上の耐熱性を有する住友ベークライト株式会社製の耐熱塩化ビニル樹脂シート、又は、同社製のスミライト(登録商標)FSシリーズ、又は、住友スリーエム株式会社製のPTFEテープを用いている。
【0027】
これらの交互に積層された樹脂含浸繊維層20及びブロック層30の最外層は、ブロック層30となっている。このように、樹脂含浸繊維層20の外側にブロック層30を配置することにより、樹脂含浸繊維層20の繊維21間から染み出そうとする未硬化の樹脂22がブロックされる。
【0028】
次に、図3を参照しながら、樹脂含浸繊維層20及びブロック層30の形成方法を説明する。図3は、FW装置の概略的な構成を示す図である。
樹脂含浸繊維層20を形成する際には、繊維21が巻かれたボビン11を用意すると共に、樹脂槽13に未硬化の樹脂22を配置する。また、シャフト15にライナ10を取り付ける。ボビン11から繰り出された繊維21は、圧力調整部12においてその張力を調整された後で、樹脂槽13において樹脂22を含浸する。そして、樹脂22を含浸した繊維21は、供給ユニット14を介して回転するライナ10に供給され、ライナ10の表面に巻き付けられる。なお、繊維21の巻き方については特に限定されず、例えば、フープ巻きやヘリカル巻きや、それらを組み合わせた巻き方であっても良い。
【0029】
一方、ブロック層30を形成する前に、繊維31の束に未硬化の状態(液体状又はゲル状)の樹脂32を含浸させ、その束を扁平のテープ状となるように成形して樹脂32を硬化又は固体化させることにより、プリプレグを予め作製しておく。そして、ブロック層30を形成する際には、このプリプレグを、図3に示すものと同様の装置に、ボビン11の代わりにセットする。また、樹脂槽13は撤去しておく。そして、圧力調整部12においてプリプレグの張力を調整し、供給ユニット14を介して回転するライナ10に供給することにより、テープ状のプリプレグを樹脂含浸繊維層20の表面を巻き付ける。
【0030】
このようにして、樹脂含浸繊維層20及びブロック層30を交互に形成することにより、多層構造を有する成形体が作製される。さらに、この成形体を加熱して、樹脂含浸繊維層20を硬化させることにより、強度が付与されたFRP成形体が完成する。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態に係るFRP成形体について、図4を参照しながら説明する。本実施形態に係るFRP成形体も、燃料電池システム等に備えられる高圧ガスタンクの本体部分(ガスタンク本体2)である。
【0032】
図4に示すように、本実施形態においては、樹脂含浸繊維層20における未硬化の樹脂22の染み出しをブロックするブロック層40を、ガスタンク本体2の胴部にのみ設けている。なお、ブロック層40を形成する繊維及び樹脂材料については、図1に示すブロック層30におけるものと同様である。
【0033】
ブロック層40は、第1の実施形態と同様に、テープ状のプリプレグを用いて形成しても良いし、その代わりに、例えば胴部と同程度の幅を有するシート状のプリプレグを用いて形成しても良い。後者の場合には、シートワインディング法、その他、公知のいずれの方法により、ブロック層40を形成しても良い。
本実施形態によれば、少なくともガスタンク本体2の胴部における高Vf化が抑制されたガスタンク本体を、簡単且つ短時間に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るFRP成形体を示す断面図である。
【図2】図1に示す一点鎖線IIで囲む部分の断面を拡大して示す模式図である。
【図3】FW装置の概略的な構成を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るFRP成形体を示す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
2…ガスタンク本体、10…ライナ、20…樹脂含浸繊維層、21、31…繊維、22、32…樹脂、30、40…ブロック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナと、
前記ライナの外層に形成された、繊維及び熱硬化性樹脂を含む第1の層と、
前記第1の層の外層に形成された、繊維とエラストマー状熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂とを含む第2の層と、
を備えるFRP成形体。
【請求項2】
ライナと、
前記ライナの外層に形成された、繊維及び熱硬化性樹脂を含む複数の第1の層と、
前記ライナの外層に形成された、繊維とエラストマー状熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂とを含む複数の第2の層と、
を備え、
前記第1の層と前記第2の層とが交互に積層されている、FRP成形体。
【請求項3】
前記第2の層に含まれるエラストマー状熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂は、前記第1の層に含まれる熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高い融点又は分解温度を有する、請求項1又は2記載のFRP成形体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のFRP成形体を備えるガスタンク。
【請求項5】
ライナの外層に、未硬化の状態の熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けることにより、第1の層を形成する工程(a)と、
前記第1の層の外層に、繊維とエラストマー状熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを巻き付けることにより、第2の層を形成する工程(b)と、
を備えるFRP成形体の製造方法。
【請求項6】
工程(a)と工程(b)とをさらに交互に繰り返すことを含む請求項5記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項7】
前記プリプレグは、テープ状又はシート状に成形されている、請求項5又は6記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項8】
前記プリプレグに含まれるエラストマー状熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂は、前記第1の層に含まれる熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高い融点又は分解温度を有する、請求項5〜7のいずれか1項記載のFRP成形体の製造方法。
【請求項9】
工程(b)の後で、前記第1の層を熱硬化させる工程をさらに具備する請求項8記載のFRP成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−238491(P2008−238491A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80207(P2007−80207)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】