説明

FRP格子部材

【課題】厳しい引っ張り応力に充分に耐えながら、補強繊維の使用量削減及び製造工程の簡略化によるコスト低減を達成できるFRP格子部材を提供する。
【解決手段】横方向に向き且つ横方向に間隔をあけて配置された複数の縦壁110と、縦方向に向き且つ縦方向に間隔をあけて配置された複数の横壁120とが交差し且つこの交差部130で一体的に設けられてなり、縦壁が、縦方向に延び且つ厚さ方向に層状に配置された補強繊維160と、この補強繊維を取り込んで硬化し成形された合成樹脂170とを備え、横壁が、硬化し成形された合成樹脂を備え、上記補強繊維が、縦壁における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層141、142のうち片方又は両方の外層にのみ配置されているFRP格子部材100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP(繊維強化プラスチック)で形成した格子部材の技術分野に属し、例えば土木・建築分野などで使用されるFRP格子部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、補強繊維と樹脂とを複合してなるFRP格子であって、前記補強繊維は高引張弾性率補強繊維と低引張弾性率補強繊維とを含み、かつ、高引張弾性率補強繊維をFRP格子の全体積に対して40%を超えない範囲で含んでいるFRP格子を開示している。このようなFRP格子を連続的に設けてなるFRP格子部材は、メッキ工場や下水処理場などの耐触性および水はけ性が要求される箇所の床材や、軽量で強度が要求される高所工事用などの通路、バルコニーなどの床材、道路の側溝や枡などの蓋体、および壁材や天井材など多目的に土木分野や建築分野における部材として用いられる。そして、このようなFRP格子部材は、強度、剛性が高く、破壊の予知が可能で安全であり、かつ、軽量である。
【0003】
【特許文献1】特許第3591142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
互いに直交する縦方向、横方向、及び厚さ方向をとると、このFRP格子部材は、縦方向又は横方向に延び且つ厚さ方向に層状に配置された補強繊維と、この補強繊維を取り込んで硬化し成形された樹脂とを備えている。そして、このFRP格子部材では、横方向に向き且つ横方向に間隔をあけて配置された複数の縦壁と、縦方向に向き且つ縦方向に間隔をあけて配置された複数の横壁とが交差するように配置され、縦壁と横壁がこの交差部で一体的に設けられている。
【0005】
このようなFRP格子部材の周縁を支持し、FRP格子部材の中央部などに厚さ方向に荷重がかかると、FRP格子部材には、各部に引っ張り応力、圧縮応力、せん断応力などが発生するが、補強繊維が入ることにより、これらの応力に対する強度が高められることになる。その一方で、この種のFRP格子部材は、大量に使用する施工例が多いことから、そのコスト低減が切望されている。
【0006】
本発明は、FRP格子部材の縦壁、又は縦壁及び横壁における厚さ方向の両方の端部に形成された外層のうち曲げによる厳しい引っ張り応力が作用する側の外層又は両方の外層に補強繊維を設け、残りの部分には補強繊維を設けないことにより、厳しい引っ張り応力に充分に耐えながら、補強繊維の使用量削減及び製造工程の簡略化によるコスト低減を達成できるFRP格子部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のFRP格子部材は、互いに直交する縦方向、横方向、及び厚さ方向をとったときに、横方向に向き且つ横方向に間隔をあけて配置された複数の縦壁と、縦方向に向き且つ縦方向に間隔をあけて配置された複数の横壁とが交差し且つこの交差部で一体的に設けられてなり、縦壁が、縦方向に延び且つ厚さ方向に層状に配置された補強繊維と、この補強繊維を取り込んで硬化し成形された合成樹脂とを備え、横壁が、硬化し成形された合成樹脂を備え、上記補強繊維が、縦壁における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層のうち片方又は両方の外層にのみ配置されている。
【0008】
このFRP格子部材を、例えば厚さ方向からみたときのFRP格子部材の外縁付近で支持しておき、厚さ方向からみたときのFRP格子部材の中央部などにほぼ厚さ方向に荷重がかかると、この荷重によりFRP格子部材の各部に引っ張り応力、圧縮応力、せん断応力などが発生する。これらの応力状態は縦壁及び横壁の各部寸法、FRP格子部材を支持する形態などにより変わる。そのなかで、例えばFRP格子部材を縦壁の縦方向両端でそれぞれ単純支点でもって支持し、横壁の横方向両端を支持しないときのように、縦壁に曲げによって生じる引っ張り応力が横壁に曲げによって生じる引っ張り応力よりも大きくなる場合、縦壁における厚さ方向の両方の外層のうち、厳しい引っ張り応力が作用すると見込まれる側の外層に補強繊維を配置しておけば、この補強繊維によって厳しい引っ張り応力などを受け止めることができる。その場合、縦壁における補強繊維が配置された外層を除いた残部において、この補強繊維が配置された外層と厚さ方向の反対側になる部分に補強繊維が配置されていないときには、この部分に厳しい圧縮応力が作用するが、一般に合成樹脂は引っ張り強さよりも圧縮強さが勝るので、このうち或る程度の圧縮応力などを受け止めることができる。これに対し、縦壁における厚さ方向の両方の外層に補強繊維を配置したときには、この補強繊維によって厳しい圧縮応力などを受け止めることができる。また、縦壁における厚さ方向の中間部には曲げによる応力がかかりにくいので、この部位に補強繊維を設けずに合成樹脂などで形成しても破壊などの問題が起こりにくい。さらに、補強繊維の使用量削減及び製造工程の簡略化により、コストが低減される。
【0009】
本発明のFRP格子部材は、横壁が、さらに、横方向に延び且つ厚さ方向に層状に配置されて上記横壁の合成樹脂に取り込まれた補強繊維を備え、この補強繊維が、横壁における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層のうち片方又は両方の外層にのみ配置されており、縦壁の補強繊維が片方の外層にのみ配置されているときには横壁でも補強繊維が同じ側の片方の外層にのみ配置されていてもよい。
【0010】
このようにすれば、例えば縦壁と横壁とで各部寸法がほぼ同一であり且つFRP格子部材を縦壁の縦方向両端と横壁の横方向両端とでそれぞれ単純支点でもって支持したときのように、縦壁に曲げによって生じる引っ張り応力と横壁に曲げによって生じる引っ張り応力とがほぼ同程度の場合、縦壁及び横壁における厚さ方向の両方の外層のうち、厳しい引っ張り応力が作用すると見込まれる側の外層に補強繊維を配置しておけば、この補強繊維によって厳しい引っ張り応力などを受け止めることができる。その場合、縦壁及び横壁における補強繊維が配置された外層を除いた残部において、この補強繊維が配置された外層と厚さ方向の反対側になる部分に補強繊維が配置されていないときには、この部分に厳しい圧縮応力が作用するが、一般に合成樹脂は引っ張り強さよりも圧縮強さが勝るので、このうち或る程度の圧縮応力などを受け止めることができる。これに対し、横壁における厚さ方向の両方の外層に補強繊維を配置したときには、この補強繊維によって厳しい圧縮応力などを受け止めることができる。また、横壁における厚さ方向の中間部には曲げによる応力がかかりにくいので、この部位に補強繊維を設けずに合成樹脂などで形成しても破壊などの問題が起こりにくい。さらに、補強繊維の使用量削減及び製造工程の簡略化により、コストが低減される。
【0011】
本発明のFRP格子部材は、補強繊維が配置された外層を除いた残部が合成樹脂のみで形成されていてもよい。
【0012】
外層を除いた残部は応力状態が比較的厳しくないので、この部位を合成樹脂のみで形成しても破壊などの問題が起こりにくい。
【0013】
本発明のFRP格子部材は、補強繊維が配置された外層を除いた残部が合成樹脂とフィラーとにより構成されていてもよい。
【0014】
このフィラーは、合成樹脂に代えて入れる充填材である。外層を除いた残部は応力状態が比較的厳しくないので、この部位を合成樹脂とフィラーとにより構成しても破壊などの問題が起こりにくい。その場合、フィラーとして安価な材料を選択すれば、さらにコストが低減される。また、フィラーとして、例えばガラスバルーン、シラスバルーンなどのような中空素材を用いれば、FRP格子部材が、より軽量になる。
【0015】
本発明のFRP格子部材を製造する製造方法は、補強繊維に合成樹脂を含浸した状態で引き揃えて成形型の溝に積層し、必要に応じて追加の合成樹脂を流し込む外層の成形工程と、この外層の成形工程の前又は後に行われ、成形型の溝に合成樹脂、又は合成樹脂及びフィラーの混合物を流し込む残部の成形工程と、合成樹脂が硬化したFRP格子部材を脱型する脱型工程とを備えている。
【0016】
本発明のFRP格子部材は、例えば厚さ方向の全長にわたって補強繊維が配置されているFRP格子部材に較べると、補強繊維が外層にのみ配置されているに過ぎないので、このように、いわゆるウェット成形を行っても、補強繊維に残っている空気が抜けきらず合成樹脂が硬化した後に空洞となって残ることでFRP格子部材の強度、剛性が低下するという問題が起こりにくい。
【0017】
本発明のFRP格子部材を製造する別の製造方法は、補強繊維を引き揃えて成形型の溝に積層してから合成樹脂を流し込み、補強繊維に合成樹脂を含浸させる外層の成形工程と、この外層の成形工程の前又は後に行われ、成形型の溝に合成樹脂、又は合成樹脂及びフィラーの混合物を流し込む残部の成形工程と、合成樹脂が硬化したFRP格子部材を脱型する脱型工程とを備えている。
【0018】
本発明のFRP格子部材は、例えば厚さ方向の全長にわたって補強繊維が配置されているFRP格子部材に較べると、補強繊維が外層にのみ配置されているに過ぎないので、このように、いわゆるドライ成形を行っても、外層及び残部の各層ごとに合成樹脂を流し込むため、合成樹脂が底面側まで充分にいきわたり、合成樹脂が補強繊維に充分に含浸し、補強繊維に残っている空気が抜けきらず合成樹脂が硬化した後に空洞となって残ることでFRP格子部材の強度、剛性が低下するという問題が起こりにくい。また、合成樹脂を流し込んでから減圧下で脱泡を行う必要もなくなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のFRP格子部材は、FRP格子部材の縦壁における厚さ方向の両方の端部に形成された外層のうち曲げによる厳しい引っ張り応力が作用する側の外層又は両方の外層に補強繊維を設け、残りの部分には補強繊維を設けないので、厳しい引っ張り応力及び或る程度の圧縮応力など、又は厳しい引っ張り応力及び厳しい圧縮応力などに充分に耐えながら、補強繊維の使用量削減及び製造工程の簡略化によるコスト低減を達成することができる。
【0020】
FRP格子部材の縦壁に加えて横壁においても厚さ方向の両方の端部に形成された外層のうち、曲げによる厳しい引っ張り応力が作用する側の外層又は両方の外層に補強繊維を設け、残りの部分には補強繊維を設けないときには、縦壁及び横壁の各部寸法、FRP格子部材の支持形態などが先の場合と異なる場合においても、厳しい引っ張り応力及び或る程度の圧縮応力など、又は厳しい引っ張り応力及び厳しい圧縮応力などに充分に耐えながら、補強繊維の使用量削減及び製造工程の簡略化によるコスト低減を達成することができる。
【0021】
補強繊維が配置された外層を除いた残部を合成樹脂のみで形成してもよいが、残部を合成樹脂とフィラーとにより構成したときには、フィラーとして安価な材料を選択すれば、さらにコスト低減を達成することができる。また、フィラーとして、例えばガラスバルーン、シラスバルーンなどのような中空素材を用いれば、FRP格子部材を、より軽量にすることができる。
【0022】
いわゆるウェット成形を行っても、いわゆるドライ成形を行っても、空洞が残ってFRP格子部材の強度、剛性が低下するという問題が起こりにくい。また、いわゆるドライ成形では、合成樹脂を流し込んでから減圧下で脱泡を行う必要もなくなり、作業効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明のFRP格子部材の第1の実施形態を示す。以下、互いに直交する縦方向、横方向、及び厚さ方向を定義し、これらの方向付けを用いて説明する。この実施形態の場合、縦壁の断面を示す図2で説明すれば、この図の紙面に垂直な方向が縦方向であり、この図の左右方向が横方向であり、この図の上下方向が厚さ方向である。図1に示すように、このFRP格子部材100は、複数の縦壁110と、これらの縦壁110にほぼ直交する複数の横壁120とを備えている。これらの縦壁110と、横壁120とは、この交差部130で一体的に設けられている。この縦壁110は、板状で、その板厚方向両側の面が横方向にほぼ直交しているので、ほぼ横方向に向いている。この縦壁110は、横方向に間隔をあけて配置されている。この横壁120は、板状で、その板厚方向両側の面が縦方向にほぼ直交しているので、ほぼ縦方向に向いている。この横壁120は、縦方向に間隔をあけて配置されている。縦壁110及び横壁120がそれぞれ長手方向からみて僅かに楔形になっているのは抜け勾配のためであるが、製造方法によっては抜け勾配を設けなくてもよい。
【0024】
図2に示すように、縦壁110は、縦方向に延び且つ厚さ方向に層状に配置された補強繊維160と、この補強繊維160を取り込んで硬化し成形された合成樹脂170とを備えている。横壁120は、横方向に延び且つ厚さ方向に層状に配置された補強繊維160と、この補強繊維160を取り込んで硬化し成形された合成樹脂170とを備えている。縦壁と横壁とで各部寸法は同一である。すなわち、縦壁110の縦方向の寸法は横壁120の横方向の寸法と同一であり、縦壁110の横方向の寸法は横壁120の縦方向の寸法と同一であり、縦壁110の厚さ方向の寸法は横壁120の厚さ方向の寸法と同一である。しかし、この実施形態によって本発明のFRP格子部材の縦壁及び横壁の各寸法が限定解釈されることはない。補強繊維160は、ガラス繊維である。このガラス繊維はロービングといわれ、連続した繊維である。このロービングは、繊維径5ないし20μのガラスフィラメントを数百本、収束材(バインダー)で収束したストランドを、さらに所定の本数引き揃えて束にしたものである。しかし、これによって本発明のFRP格子部材に補強繊維として用いられるガラス繊維の構成が限定解釈されることはない。交差部130では、縦方向に延びる補強繊維160と横方向に延びる補強繊維160とが立体的に交差している。この実施形態では隣接する縦方向の補強繊維160の束と横方向の補強繊維160の束とが厚さ方向に位置をずらすことでそれを実現している。層状に配置されるというのは、厚さ方向に広がって分布するように配置されることである。この実施形態の場合、補強繊維160の束が厚さ方向に間隔をあけて配置されている。しかし、縦壁110で縦方向に延びる補強繊維同士、横壁120で横方向に延びる補強繊維同士、交差部130で隣り合う補強繊維同士のいずれについても言えることであるが、補強繊維を束にせずに補強繊維を厚さ方向に分散して配置してもよいし、補強繊維を束とし且つ厚さ方向に間隔をあけずに配置してもよい。また、この実施形態の場合、縦壁110では補強繊維160が横方向にも広がって分布しており、横壁120では補強繊維160が縦方向にも広がって分布している。このように補強繊維が横方向又は縦方向に分布していなくてもよい。しかし、この実施形態によって本発明のFRP格子部材に用いられる補強繊維の構成、本数、配置などが限定解釈されることはない。例えば、本発明のFRP格子部材に用いられる補強繊維は、この補強繊維を取り込む合成樹脂よりも引っ張り強さが大きければよい。したがって、本発明のFRP格子部材に用いられる補強繊維は他の材質であってもよく、例えば、カーボン繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ボロン繊維又はその他の金属繊維などであってもよいし、例えばガラス繊維とカーボン繊維とを混合したハイブリッドタイプの繊維のように材質の異なる繊維を混合してなる繊維であってもよい。また、交差部において縦方向に延びる補強繊維と横方向に延びる補強繊維とが連続していてもよく、そのときには連続する部分で補強繊維は曲がって形成される。
【0025】
そして、縦壁110においては、図2に示すように、補強繊維160は、縦壁110における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層141、142にのみ配置されている。また、補強繊維160は、外層141、142を除いた残部150には配置されていない。この実施形態の場合、縦壁110の厚さ方向の片方の端部に形成された第1の外層141では、補強繊維160の束が厚さ方向に六つ配置され、それぞれの束において補強繊維160が横方向に広がっている。縦壁110の厚さ方向の他の片方の端部に形成された第2の外層142では、補強繊維160の束が外側では厚さ方向に五つ配置され、内側では厚さ方向に二つ配置されており、それぞれの束において補強繊維160が横方向に広がっている。外側とは縦壁110における厚さ方向の中間部から遠い側であり、内側とは中間部に近い側である。同様に、横壁120においても、補強繊維160は、横壁120における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層141、142にのみ配置されている。また、補強繊維160は、外層141、142を除いた残部150には配置されていない。この実施形態の場合、横壁120の厚さ方向の片方の端部に形成された第1の外層141では、補強繊維160の束が厚さ方向に六つ配置され、それぞれの束において補強繊維160が縦方向に広がっている。横壁120の厚さ方向の他の片方の端部に形成された第2の外層142では、補強繊維160の束が外側では厚さ方向に五つ配置され、内側では厚さ方向に二つ配置されており、それぞれの束において補強繊維160が縦方向に広がっている。外側とは横壁120における厚さ方向の中間部から遠い側であり、内側とは中間部に近い側である。したがって、横壁120の断面は図2に示した縦壁110の断面と全く同一である。しかし、この実施形態によって本発明のFRP格子部材に用いられる補強繊維の構成、本数、配置などが限定解釈されることはない。
【0026】
さらに、補強繊維160が配置された外層141、142を除いた残部150は、合成樹脂のみで形成されている。この第1実施形態では、補強繊維160を取り込む合成樹脂170も残部150を構成する合成樹脂も、共に不飽和ポリエステル樹脂である。しかし、この実施形態によって本発明のFRP格子部材に用いられる合成樹脂の種類が限定解釈されることはない。本発明における合成樹脂にはあらゆる合成樹脂が含まれ、熱硬化性樹脂であっても熱可塑性樹脂であってもよいが、引っ張り強さよりも圧縮強さが勝る性質が顕著にあらわれる点で、硬質プラスチックが好ましい。この硬質プラスチックの例としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂などを挙げることができるが、これによって本発明のFRP格子部材に用いられる合成樹脂が限定解釈されないのは勿論である。
【0027】
このFRP格子部材100を製造方法を説明する。図3に示すように、成形型200は、略直方体形をしており、上面から下方へ、縦壁110に対応する形状の縦の溝210と、横壁120に対応する形状の横の溝220とが凹陥して形成されている。まず、いわゆるウェット成形による製造方法を説明する。この製造方法は、補強繊維に合成樹脂を含浸した状態で引き揃えて成形型の溝に積層し、必要に応じて追加の合成樹脂を流し込む外層の成形工程と、この外層の成形工程の前又は後に行われ、成形型の溝に合成樹脂を流し込む残部の成形工程と、合成樹脂が硬化したFRP格子部材を脱型する脱型工程とを備えている。必要に応じて追加の合成樹脂を流し込むとは、追加の合成樹脂を流し込むか否かは任意であり選択的な作業であるということである。第1実施形態のFRP格子部材100は、第1の外層141及び第2の外層142に補強繊維160を配置し、これらの外層141、142を除いた残部150が合成樹脂170のみで形成されている。そのため、製造方法は、補強繊維160に合成樹脂170を含浸した状態で引き揃えて成形型200の溝210、220に積層し、必要に応じて追加の合成樹脂170を流し込む第2の外層142の成形工程、成形型200の溝210、220に合成樹脂170を流し込む残部150の成形工程、補強繊維160に合成樹脂170を含浸した状態で引き揃えて成形型200の溝210、220に積層し、必要に応じて追加の合成樹脂170を流し込む第1の外層141の成形工程、合成樹脂170が硬化したFRP格子部材100を脱型する脱型工程の順で作業を行う。この場合、残部150の成形工程が第2の外層142の成形工程の後で第1の外層141の成形工程の前に行われていることになる。
【0028】
次に、いわゆるドライ成形による製造方法を説明する。この製造方法は、補強繊維を引き揃えて成形型の溝に積層してから合成樹脂を流し込み、補強繊維に合成樹脂を含浸させる外層の成形工程と、この外層の成形工程の前又は後に行われ、成形型の溝に合成樹脂を流し込む残部の成形工程と、合成樹脂が硬化したFRP格子部材を脱型する脱型工程とを備えている。第1実施形態のFRP格子部材100は、縦壁110及び横壁120における厚さ方向の両方の端部に外層141、142が形成され、これらの外層141、142の間に残部150が形成されている。そのため、製造方法は、補強繊維160を引き揃えて上記した成形型200の溝210、220に積層してから合成樹脂170を流し込み、補強繊維160に合成樹脂170を含浸させる第2の外層142の成形工程、成形型200の溝210、220に合成樹脂170を流し込む残部150の成形工程、補強繊維160を引き揃えて上記した成形型200の溝210、220に積層してから合成樹脂170を流し込み、補強繊維160に合成樹脂170を含浸させる第1の外層141の成形工程、合成樹脂170が硬化したFRP格子部材100を脱型する脱型工程の順で作業を行う。この場合、残部150の成形工程が第2の外層142の成形工程の後で第1の外層141の成形工程の前に行われていることになる。
【0029】
第1実施形態のFRP格子部材100の作用及び効果を説明する。このFRP格子部材100を、例えば厚さ方向からみたときのFRP格子部材100の外縁付近で支持しておき、厚さ方向からみたときのFRP格子部材100の中央部などにほぼ厚さ方向に荷重がかかると、この荷重によりFRP格子部材100の各部に引っ張り応力、圧縮応力、せん断応力などが発生する。これらの応力状態は縦壁110及び横壁120の各部寸法、FRP格子部材100を支持する形態などにより変わる。例えば図9に示すように、第1実施形態のFRP格子部材100を、開口310のほぼ四角形の端縁からほぼFRP格子部材100の厚さに相当する寸法だけそれぞれ落ち込んだほぼ水平な4つの受け面320が設けられた排水口300に嵌めると、厚さ方向からみたときのFRP格子部材100の外縁付近が上記受け面320に接触して受け止められる。FRP格子部材100は、第1の外層141が上側になり第2の外層142が下側になるように配置される。この支持形態は、FRP格子部材100を縦壁110の縦方向両端と横壁120の横方向両端とでそれぞれ単純支点でもって支持した支持形態としてモデル化することができる。そして、FRP格子部材100の中央などにほぼ厚さ方向に沿って下向きの荷重がかかると、縦壁110に曲げによって生じる引っ張り応力と横壁120に曲げによって生じる引っ張り応力とがほぼ同程度になり、縦壁110及び横壁120における厚さ方向の両方の外層のうち、下側になる第2の外層142に曲げにより厳しい引っ張り応力が作用する。しかし、第1実施形態のFRP格子部材100は縦壁110でも横壁120でも第1の外層141及び第2の外層142に補強繊維160を配したので、縦壁110及び横壁120における第2の外層142では、この補強繊維160によって厳しい引っ張り応力などを受け止めることができる。そして、縦壁110及び横壁120における第1の外層141では、この補強繊維160によって厳しい圧縮応力などを受け止めることができる。また、縦壁110及び横壁120における厚さ方向の中間部である残部150には曲げによる応力がかかりにくいので、この部位に補強繊維160を設けずに合成樹脂170などで形成しても破壊などの問題が起こりにくい。さらに、補強繊維160の使用量削減及び製造工程の簡略化により、コストが低減される。ここではFRP格子部材100は、第1の外層141が上側になり第2の外層142が下側になるように配置した。しかし、第1実施形態のFRP格子部材100は、第1の外層141及び第2の外層142に補強繊維160を配したので、第2の外層142が上側になり第1の外層141が下側になるように配置してもよい。そのようにしても、抜け勾配、補強繊維160の分布の相違による影響はあるものの、同様の作用及び効果が得られる。その場合、第1の外層141の補強繊維160によって厳しい引っ張り応力などを受け止め、第2の外層142の補強繊維160によって厳しい圧縮応力などを受け止めるので、第1の外層141と第2の外層142とで応力状態が逆転することになる。
【0030】
また、例えば図10に示すように、第1実施形態のFRP格子部材100を、開口410のほぼ平行な端縁からほぼFRP格子部材100の厚さに相当する寸法だけそれぞれ落ち込んだほぼ水平な二つの受け面420が設けられた排水溝400に、縦壁110の縦方向両端が受け面420にかかるように嵌めると、厚さ方向からみたときのFRP格子部材100の外縁付近が上記受け面420に接触して受け止められる。FRP格子部材100は、第1の外層141が上側になり第2の外層142が下側になるように配置される。この支持形態は、FRP格子部材100を縦壁110の縦方向両端でそれぞれ単純支点でもって支持し、横壁120の横方向両端を支持しない支持形態としてモデル化することができる。そして、FRP格子部材100の中央などにほぼ厚さ方向に沿って下向きの荷重がかかると、縦壁110に曲げによって生じる引っ張り応力が横壁120に曲げによって生じる引っ張り応力よりも大きくなり、縦壁110における厚さ方向の両方の外層のうち、下側になる第2の外層142に曲げにより厳しい引っ張り応力が作用する。しかし、第1実施形態のFRP格子部材100は縦壁110の第1の外層141及び第2の外層142に補強繊維160を配したので、縦壁110における第2の外層142では、この補強繊維160によって厳しい引っ張り応力などを受け止めることができる。そして、縦壁110における第1の外層141では、この補強繊維160によって厳しい圧縮応力などを受け止めることができる。また、縦壁110における厚さ方向の中間部である残部150には曲げによる応力がかかりにくいので、この部位に補強繊維160を設けずに合成樹脂170などで形成しても破壊などの問題が起こりにくい。さらに、補強繊維160の使用量削減及び製造工程の簡略化により、コストが低減される。ここではFRP格子部材100は、第1の外層141が上側になり第2の外層142が下側になるように配置した。しかし、第1実施形態のFRP格子部材100は、第1の外層141及び第2の外層142に補強繊維160を配したので、第2の外層142が上側になり第1の外層141が下側になるように配置してもよい。そのようにしても、抜け勾配、補強繊維160の分布の相違による影響はあるものの、同様の作用及び効果が得られる。その場合、第1の外層141の補強繊維160によって厳しい引っ張り応力などを受け止め、第2の外層142の補強繊維160によって厳しい圧縮応力などを受け止めるので、第1の外層141と第2の外層142とで応力状態が逆転することになる。
【0031】
この第1実施形態では、FRP格子部材100の厚さ方向からみた外縁付近をほぼ水平な受け面320、420で下から支持しておき、FRP格子部材100の中央などにほぼ厚さ方向に沿って下向きの荷重をかけたときの作用及び効果を説明したが、FRP格子部材100を厚さ方向からみた外縁付近で種々の形態で支持しておき、FRP格子部材100の中央などにほぼ厚さ方向に沿っていずれかの向きで荷重をかけたときには同様の作用及び効果が得られる。
【0032】
本発明のFRP格子部材は、縦壁が、縦方向に延び且つ厚さ方向に層状に配置された補強繊維と、この補強繊維を取り込んで硬化し成形された合成樹脂とを備え、横壁が、横方向に延び且つ厚さ方向に層状に配置された補強繊維と、この補強繊維を取り込んで硬化し成形された合成樹脂とを備え、この補強繊維が、縦壁における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層と横壁における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層とにのみ配置されているFRP格子部材を全て含んでいる。したがって、縦壁及び横壁のうち少なくとも一方が、補強繊維でも合成樹脂でもない他の材料を含んでいる実施形態を含んでいる。しかし、第1実施形態のFRP格子部材100は、縦壁110でも横壁120でも補強繊維160が配置された第1の外層141及び第2の外層142を除いた残部150が合成樹脂170のみで形成されている。この場合、第1の外層141及び第2の外層142を除いた残部150は応力状態が比較的厳しくないので、この部位を合成樹脂170のみで形成しても破壊などの問題が起こりにくい。
【0033】
本発明のFRP格子部材は、例えば厚さ方向の全長にわたって補強繊維が配置されているFRP格子部材に較べると、縦壁、横壁、又は縦壁及び横壁において補強繊維が第1の外層及び第2の外層のうち少なくとも一方にのみ配置されているに過ぎない。第1実施形態のFRP格子部材100においても、縦壁110及び横壁120で補強繊維160が第1の外層141及び第2の外層142にのみ配置されているに過ぎないので、いわゆるウェット成形を行っても、補強繊維160に残っている空気が抜けきらず合成樹脂170が硬化した後に空洞となって残ることでFRP格子部材100の強度、剛性が低下するという問題が起こりにくい。
【0034】
同じ理由から、いわゆるドライ成形を行っても、第2の外層142、残部150、及び第1の外層141の各層ごとに合成樹脂170を流し込むため、合成樹脂170が底面側まで充分にいきわたり、合成樹脂170が補強繊維160に充分に含浸し、補強繊維160に残っている空気が抜けきらず合成樹脂170が硬化した後に空洞となって残ることでFRP格子部材100の強度、剛性が低下するという問題が起こりにくい。また、合成樹脂を流し込んでから減圧下で脱泡を行う必要もなくなり、作業効率が向上する。
【0035】
以下、他の実施形態のFRP格子部材100を説明する。これらの実施形態の説明では、第1実施形態のFRP格子部材100と同一の機能を発揮する部材、部分には第1実施形態で用いた符号と同一の符号を付して、その説明を省略することにする。これらの実施形態で用いる合成樹脂、補強繊維などは第1実施形態で説明したものと同様のものである。図4は第2実施形態のFRP格子部材100の縦壁110の断面図を示し、図5は第3実施形態のFRP格子部材100の縦壁110の断面図を示す。第1実施形態のFRP格子部材100は、補強繊維160が、縦壁110及び横壁120における厚さ方向の両方の端部に形成された第1の外層141及び第2の外層142にのみ配置されていた。これに対し、第2実施形態のFRP格子部材100は、補強繊維160が、縦壁110及び横壁120における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層のうち片方である第1の外層141にのみ配置されている。また、第3実施形態のFRP格子部材100は、補強繊維160が、縦壁110及び横壁120における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層のうち他の片方である第2の外層142にのみ配置されている。したがって、いずれの実施形態でも、縦壁110と横壁120とで補強繊維160が同じ側の外層にのみ配置されている。第2実施形態のFRP格子部材100の横壁120の断面は図4に示した縦壁110の断面と全く同一であり、第3実施形態のFRP格子部材100の横壁120の断面は図5に示した縦壁110の断面と全く同一である。いずれの実施形態のFRP格子部材100も、第1実施形態のFRP格子部材100と同様に、補強繊維160が配置された第1の外層141又は第2の外層142を除いた残部150は合成樹脂170のみで形成されている。縦壁、横壁、又は縦壁及び横壁が、補強繊維でも合成樹脂でもない他の材料を含んでいてもよいのは第1実施形態と同様である。
【0036】
第2実施形態及び第3実施形態のFRP格子部材100の製造方法は第1実施形態のときと同様である。しかし、第2実施形態のFRP格子部材100は、第1の外層141に補強繊維160を配置し、この第1の外層141を除いた残部150が合成樹脂170のみで形成されている。そのため、いわゆるウェット成形による製造方法は、成形型200の溝210、220に合成樹脂170を流し込む残部150の成形工程、補強繊維160に合成樹脂170を含浸した状態で引き揃えて成形型200の溝210、220に積層し、必要に応じて追加の合成樹脂170を流し込む第1の外層141の成形工程、合成樹脂170が硬化したFRP格子部材100を脱型する脱型工程の順で作業を行う。また、いわゆるドライ成形による製造方法は、成形型200の溝210、220に合成樹脂170を流し込む残部150の成形工程、補強繊維160を引き揃えて上記した成形型200の溝210、220に積層してから合成樹脂170を流し込み、補強繊維160に合成樹脂170を含浸させる第1の外層141の成形工程、合成樹脂170が硬化したFRP格子部材100を脱型する脱型工程の順で作業を行う。この場合、いずれの製造方法においても残部150の成形工程が第1の外層141の成形工程の前に行われていることになる。
【0037】
さらに、第3実施形態のFRP格子部材100は、第2の外層142に補強繊維160を配置し、この第2の外層142を除いた残部150が合成樹脂170のみで形成されている。そのため、いわゆるウェット成形による製造方法は、補強繊維160に合成樹脂170を含浸した状態で引き揃えて成形型200の溝210、220に積層し、必要に応じて追加の合成樹脂170を流し込む第2の外層142の成形工程、成形型200の溝210、220に合成樹脂170を流し込む残部150の成形工程、合成樹脂170が硬化したFRP格子部材100を脱型する脱型工程の順で作業を行う。また、いわゆるドライ成形による製造方法は、補強繊維160を引き揃えて上記した成形型200の溝210、220に積層してから合成樹脂170を流し込み、補強繊維160に合成樹脂170を含浸させる第2の外層142の成形工程、成形型200の溝210、220に合成樹脂170を流し込む残部150の成形工程、合成樹脂170が硬化したFRP格子部材100を脱型する脱型工程の順で作業を行う。この場合、いずれの製造方法においても残部150の成形工程が第2の外層142の成形工程の後に行われていることになる。
【0038】
第2実施形態のFRP格子部材100及び第3実施形態のFRP格子部材100の作用及び効果を説明する。このFRP格子部材100を、例えば厚さ方向からみたときのFRP格子部材100の外縁付近で支持しておき、厚さ方向からみたときのFRP格子部材100の中央部などにほぼ厚さ方向に荷重がかかると、この荷重によりFRP格子部材100の各部に引っ張り応力、圧縮応力、せん断応力などが発生する。これらの応力状態は縦壁110及び横壁120の各部寸法、FRP格子部材100を支持する形態などにより変わる。例えば図10に示すように、第2実施形態のFRP格子部材100又は第3実施形態のFRP格子部材100を、開口410のほぼ平行な端縁からほぼFRP格子部材100の厚さに相当する寸法だけそれぞれ落ち込んだほぼ水平な二つの受け面420が設けられた排水溝400に、縦壁110の縦方向両端が受け面420にかかるように嵌めると、厚さ方向からみたときのFRP格子部材100の外縁付近が上記受け面420に接触して受け止められる。第2実施形態の場合、FRP格子部材100は、補強繊維160が配置された第1の外層141が下側になり残部150が上側になるように配置される。第3実施形態の場合、FRP格子部材100は、補強繊維160が配置された第2の外層142が下側になり残部150が上側になるように配置される。この支持形態は、FRP格子部材100を縦壁110の縦方向両端でそれぞれ単純支点でもって支持し、横壁120の横方向両端を支持しない支持形態としてモデル化することができる。そして、FRP格子部材100の中央などにほぼ厚さ方向に沿って下向きの荷重がかかると、縦壁110に曲げによって生じる引っ張り応力が横壁120に曲げによって生じる引っ張り応力よりも大きくなり、縦壁110における厚さ方向の両方の外層のうち、第2実施形態では下側になる第1の外層141に曲げにより厳しい引っ張り応力が作用し、第3実施形態では下側になる第2の外層142に曲げにより厳しい引っ張り応力が作用する。しかし、いずれの実施形態でも下側になった外層141又は142に補強繊維160を配したので、この外層141又は142では、この補強繊維160によって厳しい引っ張り応力などを受け止めることができる。その場合、縦壁110における補強繊維160が配置された第1の外層141又は第2の外層142を除いた残部150において、この補強繊維160が配置された第1の外層141又は第2の外層142と厚さ方向の反対側になる部分に補強繊維160が配置されておらず、この部分に厳しい圧縮応力が作用するが、一般に合成樹脂は引っ張り強さよりも圧縮強さが勝るので、このうち或る程度の圧縮応力などを受け止めることができる。また、縦壁110における残部150のうち縦壁110における厚さ方向の中間部である部分には曲げによる応力がかかりにくいので、この部位に補強繊維160を設けずに合成樹脂170などで形成しても破壊などの問題が起こりにくい。さらに、補強繊維160の使用量削減及び製造工程の簡略化により、コストが低減される。
【0039】
この第2実施形態及び第3実施形態では、FRP格子部材100の厚さ方向からみた外縁付近をほぼ水平な受け面420で下から支持しておき、FRP格子部材100の中央などにほぼ厚さ方向に沿って下向きの荷重をかけたときの作用及び効果を説明したが、FRP格子部材100を厚さ方向からみた外縁付近で種々の形態で支持しておき、FRP格子部材100の中央などにほぼ厚さ方向に沿った向きで荷重をかけたときには同様の作用及び効果が得られる。
【0040】
本発明のFRP格子部材は、縦壁が、縦方向に延び且つ厚さ方向に層状に配置された補強繊維と、この補強繊維を取り込んで硬化し成形された合成樹脂とを備え、横壁が、横方向に延び且つ厚さ方向に層状に配置された補強繊維と、この補強繊維を取り込んで硬化し成形された合成樹脂とを備え、この補強繊維が、縦壁における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層のうち片方の外層と横壁における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層のうち同じ側の片方の外層とにのみ配置されているFRP格子部材を全て含んでいる。したがって、縦壁及び横壁のうち少なくとも一方が、補強繊維でも合成樹脂でもない他の材料を含んでいる実施形態を含んでいる。しかし、第2実施形態のFRP格子部材100及び第3実施形態のFRP格子部材100は、縦壁110でも横壁120でも補強繊維160が配置された第1の外層141又は第2の外層142を除いた残部150が合成樹脂170のみで形成されている。この場合、第1の外層141又は第2の外層142を除いた残部150は応力状態が比較的厳しくないので、この部位を合成樹脂170のみで形成しても破壊などの問題が起こりにくい。
【0041】
本発明のFRP格子部材は、例えば厚さ方向の全長にわたって補強繊維が配置されているFRP格子部材に較べると、縦壁、横壁、又は縦壁及び横壁において補強繊維が第1の外層及び第2の外層のうち少なくとも一方にのみ配置されているに過ぎない。第2実施形態のFRP格子部材100においても縦壁110及び横壁120で補強繊維160が第1の外層141にのみ配置されているに過ぎず、第3実施形態のFRP格子部材100においても縦壁110及び横壁120で補強繊維160が第2の外層142にのみ配置されているに過ぎないので、いわゆるウェット成形を行っても、補強繊維160に残っている空気が抜けきらず合成樹脂170が硬化した後に空洞となって残ることでFRP格子部材100の強度、剛性が低下するという問題が起こりにくい。
【0042】
同じ理由から、いわゆるドライ成形を行っても、第2実施形態のFRP格子部材100では残部150及び第1の外層141の各層ごとに合成樹脂170を流し込み、第3実施形態のFRP格子部材100では第2の外層142及び残部150の各層ごとに合成樹脂170を流し込むため、合成樹脂170が底面側まで充分にいきわたり、合成樹脂170が補強繊維160に充分に含浸し、補強繊維160に残っている空気が抜けきらず合成樹脂170が硬化した後に空洞となって残ることでFRP格子部材100の強度、剛性が低下するという問題が起こりにくい。また、合成樹脂を流し込んでから減圧下で脱泡を行う必要もなくなり、作業効率が向上する。
【0043】
第2実施形態の変形例として、縦壁110及び横壁120のうち一方の構成を上述した第2実施形態の縦壁110又は横壁120の構成とし、他方の構成を上述した第1実施形態の縦壁110又は横壁120の構成としたFRP格子部材100がある。また、第3実施形態の変形例として、縦壁110及び横壁120のうち一方の構成を上述した第3実施形態の縦壁110又は横壁120の構成とし、他方の構成を上述した第1実施形態の縦壁110又は横壁120の構成としたFRP格子部材100がある。これらのFRP格子部材100も本発明のFRP格子部材に含まれる。これらの変形例によっても第2実施形態又は第3実施形態のFRP格子部材100と同様の作用及び効果が得られ、また図10で示した支持形態であれば、第1実施形態のFRP格子部材100と同様の作用及び効果が得られる。
【0044】
第4実施形態のFRP格子部材100を説明する。図6はその縦壁110の断面図である。このFRP格子部材100は、第1実施形態のFRP格子部材100に較べると残部150の材料のみが異なり、他の構成は同一である。すなわち、この実施形態のFRP格子部材100は、縦壁110及び横壁120において補強繊維160が配置された第1の外層141及び第2の外層142を除いた残部150が、合成樹脂170とフィラー180とにより構成されている。横壁120の断面は図6に示した縦壁110の断面と全く同一である。この合成樹脂170はフィラー180を取り込んで硬化している。この合成樹脂170は、不飽和ポリエステル樹脂であるが、この実施形態によって本発明のFRP格子部材に用いられる合成樹脂の種類が限定解釈されることはなく、合成樹脂として、例えば不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アリル樹脂などを用いることができる。この第4実施形態で用いたフィラー180は砂である。このように合成樹脂170よりも安価なフィラー180を用いると、FRP格子部材100のコスト低減に寄与することができる。このような目的で用いられるフィラーとして、例えば珪砂、タルク、炭酸カルシューム、カオリン、ガラスパウダーなどがある。また、フィラーとしてガラスバルーンを用いてもよい。これは主として軽量化が目的である。バルーンは中空の粒状材料であり、他にも、例えばシラスバルーン、プラスチックバルーンなどがある。さらに、フィラーとして水酸化アルミニュームを用いると、高温で水分を放出するので、難燃剤としても機能する。この第4実施形態の変形例として、縦壁及び横壁の構成を第2実施形態若しくはその変形例又は第3実施形態若しくはその変形例の構成とし、縦壁及び横壁における補強繊維が配置された外層を除いた残部を、合成樹脂とフィラーとにより構成したFRP格子部材がある。
【0045】
第4実施形態のFRP格子部材100の製造方法は、第1実施形態のFRP格子部材100の製造方法と同様であるが、フィラー180を用いるため、残部150の成形工程のみが異なる。すなわち、いわゆるウェット成形による製造方法でも、いわゆるドライ成形による製造方法でも、残部150の成形工程は、成形型200の溝210、220に合成樹脂170とフィラー180の混合物を流し込む工程になる。このことは上記変形例の製造方法においても同様である。
【0046】
第4実施形態のFRP格子部材100のように、補強繊維160が配置された第1の外層141及び第2の外層142を除いた残部150を合成樹脂170とフィラー180とにより構成したときの作用及び効果は次のとおりである。すなわち、第1の外層141及び第2の外層142を除いた残部150は応力状態が比較的厳しくないので、この部位を合成樹脂170とフィラー180とにより構成しても破壊などの問題が起こりにくい。その場合、第4実施形態のようにフィラー180として安価な材料を選択すれば、さらにコストが低減される。また、フィラーとして、例えばガラスバルーン、シラスバルーンなどのような中空素材を用いれば、FRP格子部材が、より軽量になる。さらに、フィラーとして、例えば水酸化アルミニュームを用いると、FRP格子部材の難燃性が高くなる。変形例においても同様の作用及び効果が得られる。
【0047】
第5実施形態のFRP格子部材100を説明する。図7はその横壁120の断面図である。このFRP格子部材100は、第1実施形態のFRP格子部材100に較べると横壁120の構成のみが異なり、他の構成は同一である。すなわち、横壁120は、硬化し成形された合成樹脂170を備えているが、補強繊維を備えていない。この第5実施形態の変形例として、第2実施形態若しくはその変形例、第3実施形態若しくはその変形例、又は第4実施形態若しくはその変形例において横壁120を、硬化し成形された合成樹脂170を備え且つ補強繊維を備えていない構成としたFRP格子部材100がある。製造方法は、いわゆるウェット成形による製造方法でも、いわゆるドライ成形による製造方法でも、縦壁については対応する各実施形態又はその変形例のときと同様であり、横壁120については合成樹脂の流し込みにより行う。
【0048】
この第5実施形態のFRP格子部材100は、例えばFRP格子部材100を縦壁110の縦方向両端でそれぞれ単純支点でもって支持し、横壁120の横方向両端を支持しないときのように、縦壁110に曲げによって生じる引っ張り応力が横壁120に曲げによって生じる引っ張り応力よりも大きくなるときなどに使用するのに好適である。変形例においても同様の作用及び効果が得られる。
【0049】
図8は第6実施形態のFRP格子部材100を示す。第1実施形態のFRP格子部材100は、二つの交差部130の間の長さが、縦壁110と横壁120とでほぼ等しかった。これに対し、第6実施形態のFRP格子部材100は、二つの交差部130の間の長さが、縦壁110よりも横壁120の方が長くなっている。その他の構成は第1実施形態と同様である。製造方法は第1実施形態のときと同様である。縦壁及び横壁の構成を第2実施形態若しくはその変形例、第3実施形態若しくはその変形例、第4実施形態若しくはその変形例、又は第5実施形態若しくはその変形例の構成としてもよく、そのときの製造方法は対応する各実施形態又はその変形例のときと同様である。
【0050】
本発明のFRP格子部材は、以上の実施形態のFRP格子部材の特徴を組み合わせた実施形態を全て含む。例えば、以上の実施形態は、いずれも外層及び残部の構成を縦壁と横壁とで同様にしたが、第1実施形態ないし第5実施形態のうちいずれか一つの縦壁と、他の実施形態の横壁とを組み合わせたFRP格子部材も本発明のFRP格子部材に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】第1実施形態のFRP格子部材の一部を断面して示した斜視図である。
【図2】第1実施形態のFRP格子部材の縦壁の拡大断面図である。
【図3】第1実施形態の成形型の一部を断面して示した斜視図である。
【図4】第2実施形態のFRP格子部材の縦壁の拡大断面図である。
【図5】第3実施形態のFRP格子部材の縦壁の拡大断面図である。
【図6】第4実施形態のFRP格子部材の縦壁の拡大断面図である。
【図7】第5実施形態のFRP格子部材の横壁の拡大断面図である。
【図8】第6実施形態のFRP格子部材の一部を断面して示した斜視図である。
【図9】本発明の実施形態にかかるFRP格子部材の支持形態の一つを示す斜視図である。FRP格子部材を排水口から浮かせて示している。
【図10】本発明の実施形態にかかるFRP格子部材の支持形態の他の一つを示す斜視図である。FRP格子部材を排水溝に嵌めて示している。
【符号の説明】
【0052】
100 FRP格子部材
110 縦壁
120 横壁
130 交差部
141 第1の外層
142 第2の外層
150 残部
160 補強繊維
170 合成樹脂
180 フィラー
200 成形型
210 縦の溝
220 横の溝
300 排水口
310 開口
320 受け面
400 排水溝
410 開口
420 受け面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する縦方向、横方向、及び厚さ方向をとったときに、横方向に向き且つ横方向に間隔をあけて配置された複数の縦壁と、縦方向に向き且つ縦方向に間隔をあけて配置された複数の横壁とが交差し且つこの交差部で一体的に設けられてなり、
縦壁が、縦方向に延び且つ厚さ方向に層状に配置された補強繊維と、この補強繊維を取り込んで硬化し成形された合成樹脂とを備え、
横壁が、硬化し成形された合成樹脂を備え、
上記補強繊維が、縦壁における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層のうち片方又は両方の外層にのみ配置されているFRP格子部材。
【請求項2】
横壁が、さらに、横方向に延び且つ厚さ方向に層状に配置されて上記横壁の合成樹脂に取り込まれた補強繊維を備え、
この補強繊維が、横壁における厚さ方向の両端部に形成された二つの外層のうち片方又は両方の外層にのみ配置されており、縦壁の補強繊維が片方の外層にのみ配置されているときには横壁でも補強繊維が同じ側の片方の外層にのみ配置されている請求項1のFRP格子部材。
【請求項3】
補強繊維が配置された外層を除いた残部が合成樹脂のみで形成されている請求項1又は請求項2のFRP格子部材。
【請求項4】
補強繊維が配置された外層を除いた残部が合成樹脂とフィラーとにより構成されている請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項のFRP格子部材。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちいずれか1項のFRP格子部材を製造する製造方法であって、
補強繊維に合成樹脂を含浸した状態で引き揃えて成形型の溝に積層し、必要に応じて追加の合成樹脂を流し込む外層の成形工程と、
この外層の成形工程の前又は後に行われ、成形型の溝に合成樹脂、又は合成樹脂及びフィラーの混合物を流し込む残部の成形工程と、
合成樹脂が硬化したFRP格子部材を脱型する脱型工程とを備えたFRP格子部材を製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のうちいずれか1項のFRP格子部材を製造する製造方法であって、
補強繊維を引き揃えて成形型の溝に積層してから合成樹脂を流し込み、補強繊維に合成樹脂を含浸させる外層の成形工程と、
この外層の成形工程の前又は後に行われ、成形型の溝に合成樹脂、又は合成樹脂及びフィラーの混合物を流し込む残部の成形工程と、
合成樹脂が硬化したFRP格子部材を脱型する脱型工程とを備えたFRP格子部材を製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−208279(P2009−208279A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51560(P2008−51560)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(596116031)株式会社旭東樹脂 (1)
【Fターム(参考)】