説明

Fe−Ni−Cr−Mo合金およびその製造方法

【課題】耐衝撃性及び表面性状に優れ、かつニッケル製錬プラント及び海洋構造物等への使用に耐えるFe−Ni−Cr−Mo合金を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.001〜0.015%、Si:0.01〜0.30%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.020%以下、S:0.0015%以下、Ni:30.00〜32.00%、Cr:26.00%を超え28.00%以下、Mo:6.00〜7.00%、Cu:1.00%を超え1.40%以下、Al:0.001〜0.10%、N:0.15〜0.25%、B:0.0005〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0020%、Mg:0.0001〜0.0050%、O:0.0001〜0.0050%、残部:Feおよび不可避不純物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性及び表面性状に優れ、かつニッケル製錬プラントや海洋構造物等への使用に耐えるFe−Ni−Cr−Mo合金およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばオーステナイト系ステンレス鋼などのようなクロム及びモリブデン含有合金は、その良好な耐食性から様々な分野で利用されている。しかしながら、ニッケル製錬プラントや海洋構造物などに用いる場合には、全面腐食や孔食等極めて有害な腐食が生じ易く、汎用オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304やSUS316等では耐食性は充分ではなかった。そこで、耐食性の向上を図るため、CrやMoの含有量を増加し、Nを添加する試みがなされてきた。例えば特許文献1には、オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性は一般に下記(1)式で表される数値で評価でき、この数値が高いほど優れた耐食性を示すことが開示されている。
【0003】
[数1]
Cr+3.3×Mo+16×N (1)
(Cr、Mo、Nは各成分元素の含有量(質量%))
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−31313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オーステナイト系ステンレス鋼において耐食性を向上させるためには、上記(1)式から分かるように、Cr、Mo、Nの含有量を高める必要がある。しかしながら、Cr、Mo、Nの含有量が増加すると、σ相やχ相の金属間化合物やCr−Mo系窒化物が析出し易くなって耐衝撃性が低下し、板材の製造ができなくなることがあった。すなわち、熱間圧延にてコイルを製造した後の冷却時にσ相等が析出し、次工程においてコイルを巻き戻す際にσ相等を起点として破断に至ることがあった。さらに、板材に析出した非金属介在物が表面に存在すると表面疵となり、製品としての商品価値を損なうばかりでなく、耐食性等への品質特性にも悪影響を及ぼす。
【0006】
また、CrやMoは高価な金属であるため、その含有量を高めると製造コストが増加する。さらに、Nは、安価に入手できる合金元素であり、オーステナイト相安定化元素であるため、金属間化合物の析出を抑える効果があるが、大気圧下で溶解する場合には、溶存可能なN濃度には限度がある。このため、大気圧下でのNの平衡濃度を超えて溶解させるためには、加圧溶解炉などの特殊な設備が必要となる。一方、鋼中のN濃度が高まるにつれて鋼の強度も高まるため、加工が困難となる。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、耐衝撃性及び表面性状に優れ、ニッケル製錬プラント及び海洋構造物等への使用に耐えるFe−Ni−Cr−Mo合金およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、まず、種々の鋼材に対してシャルピー衝撃試験により耐衝撃性を測定した。衝撃値が低いとσ相がより多く析出し、脆化を起こしていることを示す。鋼材の成分については、成分規格範囲内(ASTM B625−05 UNS N08031)においてSi、Mn含有量が高く、σ相やχ相などの金属間化合物の析出を抑制する上で有効な元素であるNiおよびN濃度を高めに成分設計した鋼塊を作製したところ、耐衝撃性が悪く、板材の製造は不可能と判断された。この原因を探るべく、試験片のミクロ組織観察を行ったところ、粒界および粒内に多くのσ相が析出し、脆化していたことが判った。そこでσ相生成を助長させる元素であるSi、Mnの含有量を少なくした鋼塊を作製し、シャルピー衝撃試験を行った結果、高い衝撃値が得ることができた。その試料においてもミクロ組織観察を行ったところ、σ相が著しく減少していることが判った。以上の知見からSi:0.30質量%以下、Mn:0.50質量%以下であるとσ相が析出せず、耐衝撃性が向上し、脆化しないことを見出した。
【0009】
本発明のFe−Ni−Cr−Mo合金は、上記知見に基づいてなされたもので、質量%で、C:0.001〜0.015%、Si:0.01〜0.30%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.020%以下、S:0.0015%以下、Ni:30.00〜32.00%、Cr:26.00%を超え28.00%以下、Mo:6.00〜7.00%、Cu:1.00%を超え1.40%以下、Al:0.001〜0.10%、N:0.15〜0.25%、B:0.0005〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0020%、Mg:0.0001〜0.0050%、O:0.0001〜0.0050%、残部:Feおよび不可避不純物からなることを特徴としている。
【0010】
また、上記の鋼塊から作製した板材における表面疵の詳細な調査・研究を行った結果、表面疵の原因は、クラスター状のMgO・Alスピネル、あるいは大型化した非金属介在物であることが判った。特に、MgO・Alスピネルは高融点かつ硬質であり、加えてクラスター化しやすいことから、表面疵の原因となり易い。このような調査結果をもとに非金属介在物の組成、サイズに関して検討を行い、非金属介在物の組成がMgO、MgO・Alスピネル、CaO−Al−MgO系酸化物のいずれか1種または2種以上からなり、かつ長径3μm以上からなる非金属介在物のうち、長径が50μm以上となる非金属介在物の個数比率が20%以下であれば、表面疵が発生しないことが判った。また、合金中酸素濃度が50ppmを超えると非金属介在物の量が多くなるのと同時に大型になることで、表面疵が発生することも分かった。
【0011】
したがって、本発明は、非金属介在物としてMgO、MgO・Alスピネル、CaO−Al−MgO系酸化物のいずれか1種または2種以上を含み、長径が3μm以上の非金属介在物のうち、MgO・Alスピネルの個数比率が50%以下で、長径が30μm以上の非金属介在物の個数比率が20%以下であることを好ましい態様としている。
【0012】
また、本発明は、上記Fe−Ni−Cr−Mo合金の製造方法であり、電気炉に原料を装入し、質量%で、Cr:26.00%を超え28.00%以下、Ni:30.00〜32.00%、Mo:6.00〜7.00%含有するFe−Cr−Ni−Mo合金溶湯を溶製し、次いで、AOD精錬、VOD精錬、およびAOD精錬に続きVOD精錬の3通りのいずれかの処理で脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金およびAlを投入し、CaO/Al比:3〜10、CaO/SiO比:5〜20、MgO:3〜10質量%からなるCaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを用い、上記Fe−Ni−Cr−Mo合金の成分組成となるように溶鋼成分の調整を行い、その後、該合金溶湯を連続鋳造法、または普通造塊法にて鋳造し、スラブを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ニッケル製錬プラントや海洋構造物等に使用されるFe−Ni−Cr−Mo合金の耐衝撃性を著しく改善することが可能であり、コイルによる板材の生産が可能になるとともに、非金属介在物起因の表面疵を大幅に低減することができるので、生産性の向上と製品歩留の向上のみならず品質向上にも寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明に用いる鋼の化学成分の限定理由について説明する。なお、以下の説明において「%」は「質量%」を意味する。
【0015】
C:0.001〜0.015%
Cは、合金に強度を付与するために必要な元素であるため0.001%以上含有させる必要がある。しかしながら、0.015%を超えて含有すると、溶接熱影響部あるいは固溶化熱処理後の冷却速度が遅い場合において、結晶粒界に(Cr、Fe)23として析出し、Cr欠乏層を生成することにより、本合金の耐粒界腐食性を劣化させる。したがって、Cの上限を0.015%とした。
【0016】
Si:0.01〜0.30%
Siは、脱酸のために有効な元素であって0.01%以上の添加が必要である。しかしながら、過剰に添加してもその効果が飽和するとともに、延性の低下や強度の上昇を招き、さらに耐衝撃性を低下させるσ相やχ相などの金属間化合物の析出を抑制し、また耐食性劣化を抑制するには過剰な添加は抑える必要があるため、Siの上限を0.30%とした。
【0017】
Mn:0.01〜0.50%
Mnは、脱酸のために有効な元素であって0.01%以上の添加が必要である。しかしながら、耐衝撃性を低下させるσ相やχ相などの金属間化合物の析出を抑制し、また耐食性劣化を抑制するには過剰な添加は抑える必要があるため、Mnの上限を0.50%とした。
【0018】
P:0.020%以下
Pは、不純物として不可避的に混入する元素であり、結晶粒界に偏析し易く、耐食性および熱間加工性の観点からは少ない方が望ましいので、含有量は0.020%以下とする。
【0019】
S:0.0015%以下
Sは、Pと同様に不可避的に混入する元素であり、結晶粒界に偏析、または硫化物を形成し、孔食等の耐食性および熱間加工性を劣化させる元素であることから、その含有量は0.0015%以下とする。
【0020】
Ni:30.00〜32.00%
Niは、オーステナイト相生成元素であり、σ相やχ相などの金属間化合物の析出を抑制する上で有効な元素であって30.00%以上の添加が必要である。ただし、Niは溶鋼中のNの溶解度を低下させる性質も併せ持つことから、その含有量は32.00%以下とする。
【0021】
Cr:26.00%を超え28.00%以下
Crは、耐食性を向上させる元素であるため26.00%を超えて含有する。しかしながら、Crはσ相やχ相等の金属間化合物の形成を助長し、かえって耐食性を劣化させるため、28.00%以下とする。
【0022】
Mo:6.00〜7.00%
Moは、耐食性を向上させるために有効な元素であるが、7.00%を超えて含有すると、Crと同様にσ相やχ相などの金属間化合物の生成を助長し、耐食性をかえって劣化させるので、6.00〜7.00%以下とした。
【0023】
Cu:1.00%を超え1.40%
Cuは、耐酸性を向上させるために有効な元素であり、その効果を得るためには1.00%を超えて含有する必要がある。しかしながら、1.40%を超えて含有すると、熱間加工性を低下させるため1.00〜1.40%とした。
【0024】
Al:0.001〜0.10%
Alは、有効な脱酸元素であるが、0.001%以上含有しないとその効果が得られない。一方、Alの含有量が0.10%を超えると、脱酸の効果が飽和する。また、Alは金属間化合物の析出を助長し、スラグ中のCaOを還元により溶鋼中のCa濃度上昇を招き、CaO含有介在物の生成を促して耐食性の劣化を招く。そこで、上限を0.10%と定めた。
【0025】
N:0.15〜0.25%
Nは、強力なオーステナイト相生成元素であるとともに、CrやMoと同様に耐食性を向上させるために有効な元素である。また、Nは、金属間化合物の析出を抑制するのに有効であり、その効果を得るためには0.15%以上含有する必要がある。しかしながら、鋼中にNを多量に含有させると熱間変形抵抗が高くなり、熱間圧延が困難になるため、0.15〜0.25%とした。
【0026】
B:0.0005〜0.0030%
Bは、熱間加工性の向上に対して、極めて有効な元素であるが、その含有量が0.0005%に満たないとその効果は小さい。一方、過剰な添加はかえって熱間加工性を阻害する。そこで、上限を0.0030%とした。
【0027】
O:0.0001〜0.0050%
Oは、Al、Mg、Caなどと反応し、非金属介在物を生成する。Oの濃度が0.0050%を超えると、非金属介在物の量が多くなるのと同時に大型になることで、表面疵が発生することから、その上限を0.0050%とした。また、合金に含まれる非金属介在物の個数は少ない方が好ましいが、極端に低減するには製造コストの上昇をもたらす。そこで、下限は0.0001%とした。
【0028】
Ca:0.0001〜0.0020%
Caは、非金属介在物をCaO−Al−MgO系酸化物に制御するために有用な元素であり、精錬工程において、スラグや耐火物中のCaOが還元されることによって溶鋼中に供給される。しかしながら、Caの含有量が0.0020%を越えると、非金属介在物中のCaO濃度を上昇させ、耐食性に悪影響を与えることに加えて、30μmを超えるサイズのCaO−Al−MgO系酸化物が発生し、製品板の表面欠陥を発生させることから、その濃度には限界がある。そこで、本発明では、Caの含有量を、0.0001〜0.0020%とした。
【0029】
Mg:0.0001〜0.0050%
Mgは、熱間加工性向上に有効な元素であると共に、非金属介在物組成をMgO、MgO・AlスピネルまたはCaO−Al−MgO系酸化物のうちの1種または2種以上に制御するために必要な元素であり、精錬工程において、スラグや耐火物中のMgOが還元されることによって溶鋼中に供給される。しかしながら、Mgの含有量が0.0050%を超えると、非金属介在物として硬質なMgO・Al系が主体となり、表面疵を引き起こす大型非金属介在物の存在頻度が増すため、Mgの含有量には限界がある。そこで本発明では、Mgの含有量を、0.0001〜0.0050%とした。
【0030】
非金属介在物
本発明では、Fe−Ni−Cr−Mo合金に含有される非金属介在物は、MgO、MgO・Alスピネル、CaO−Al−MgO系酸化物のいずれか1種または2種以上を含み、長径が3μm以上の非金属介在物のうち、MgO・Alスピネルの個数比率が50%以下で、長径が30μm以上の非金属介在物の個数比率が20%以下であることを好ましい態様としている。以下、非金属介在物の組成、並びに個数比率限定の根拠を示す。
【0031】
MgO、MgO・Al、CaO−Al−MgO系酸化物のうちの1種または2種以上を含み、長径が3μm以上の非金属介在物のうち、MgO・Alスピネルの個数比率が50%以下
これらの酸化物系非金属介在物は、フェロシリコンとAlにより脱酸した際に生成される脱酸生成物である。本発明に係るFe−Ni−Cr−Mo合金は、合金中のAl、Mg、Caの含有量に従い、MgO、MgO・Alスピネル、CaO−Al−MgO系酸化物のうちの1種または2種以上を含む。しかしながら、MgO・Alスピネルの個数比率が50%を超えて存在した場合、MgO・Alスピネルからなるクラスターを形成しやすくなり、大型非金属介在物の個数比率が多くなり、表面疵を発生させる。したがって、大型非金属介在物の個数比率を制限するためには、MgO・Alスピネルの個数比率を50%以下とすることが望ましい。
【0032】
長径が30μm以上となる非金属介在物の個数比率が20%以下
MgO・Alスピネルから形成されるクラスターや、脱酸が不十分の際に合金中に生成される大型非金属介在物が表面疵を発生させる起因となる。しかしながら、長径3μm以上からなる非金属介在物のうち、長径が30μm以上となる非金属介在物の個数比率が20%以下であれば、表面欠陥が発生しないことが判った。よって、長径3μm以上からなる非金属介在物のうち、長径が30μm以上となる非金属介在物の個数比率は20%以下であることが望ましい。
【0033】
製造方法
本発明にかかるFe−Ni−Cr−Mo合金の製造方法では、上述のようにスラグの組成に特徴を有している。以下、本発明で規定するスラグ組成の根拠を説明する。
【0034】
CaO/Al比:3〜10
合金溶湯を効率よく脱酸、脱硫するため、かつ非金属介在物を制御するためには、スラグのCaO/Al比を制御する必要がある。この比が3未満ではAlの活量が低く、脱酸、脱硫することができなくなり、本発明におけるS濃度、O濃度の範囲に制御することができなくなる。一方、CaO/Al比が10を超えて高くなると、合金溶湯中に還元されるCa濃度が高くなり、CaO濃度に富む非金属介在物を多数生成し、Fe−Ni−Cr−Mo合金板の耐食性を劣化させることに加えて、大型非金属介在物が生成されることから、上限を10とした。このようなCaO/Al比に制御するため、CaO成分として、石灰または蛍石、Al成分として脱酸材であるAlの酸化により生成されるアルミナが使用される。または、Al成分として、アルミナ、またはライムアルミネート原料を添加してもよい。
【0035】
CaO/SiO比:5〜20
合金溶湯を効率よく脱酸、脱硫するためには、スラグのCaO/SiO比を制御する必要がある。この比の値が20を超えると相対的にAlの活量が高くなってしまい、MgO・Alスピネルの生成が助長され、請求項に記載の非金属介在物に制御することができなくなる。一方、CaO/SiO比が5未満になると、スラグ中のSiO濃度が高くなり、合金溶湯中に還元されるSi濃度も高くなる。その結果、本発明におけるSi濃度範囲に制御することができなくなり、Fe−Ni−Cr−Mo合金板の耐衝撃性を劣化させることから、下限を3とした。このようなCaO/SiO比に制御するため、CaO成分として、石灰または蛍石、SiO成分として脱酸材であるSiの酸化により生成されるシリカが使用される。あるいは、SiO成分として、珪砂を添加してもよい。
【0036】
MgO:3〜10%
スラグ中のMgOは、溶鋼中に含まれるMg濃度を請求項に記載される濃度範囲に制御するために重要な元素であるとともに、非金属介在物組成を本発明の好ましい組成に制御するためにも必要な元素である。そこで、下限を3%とした。一方、MgO濃度が10%を越えると、MgO・Alスピネルの生成を助長し、MgO・Alスピネルの個数比率を50%以下に制御することが困難となる。そこで、MgO濃度の上限を10%とした。スラグ中のMgOは、AOD精錬、あるいはVOD精錬する際に使用されるドロマイトレンガ、またはマグクロレンガがスラグ中に溶け出すことで、所定の範囲となる。あるいは、所定の成分範囲に制御するため、ドロマイトレンガ、またはマグクロレンガの廃レンガを添加してもよい。
【実施例】
【0037】
次に、実施例を参照して本発明を詳細に説明する。60ton電気炉において、鉄屑、ステンレス屑、フェロニッケル、フェロクロム、純Ni、モリブデンおよび銅線屑を溶解してFe−Ni−Cr−Mo合金を溶製し、その鋼をAOD精錬、VOD精錬あるいはAOD精錬後VOD精錬の3通りのいずれかの処理で脱炭処理後、石灰、蛍石、フェロシリコン合金およびAlを投入して塩基度を調整して、Cr還元、脱酸および脱硫し、最終的に鋼の成分を調整して、表1に示した成分組成を有する合金溶湯を得、次いで、連続鋳造法、あるいは普通造塊法で鋳造することにより当該合金スラブを得た。ここで、表1のNo.1〜8は発明例を、また、No.9〜15は比較例を示したものである。また、表2は製錬方法と鋳造方法の種類を示し、表中「CC」は連続鋳造法、「IC」は普通造塊法を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
実施例および比較例において以下の評価を行った。
1.シャルピー衝撃試験
スラブを熱間鍛造した鋼塊の鍛伸方向に鉛直な方向を長手とする試料を切り出し、厚さ:5mm、幅:10mm、長さ:55mmの試験片を作製し、室温、2mmVノッチでシャルピー衝撃試験により耐衝撃性を測定した(JIS Z 2242)。
【0041】
2.合金板の製造可否
鋼塊を厚さ6.5mmに熱間圧延した後にコイルに巻き取り、コイルを冷却後、巻き戻したときにコイルが破断したか否かを調べた。
【0042】
3.化学成分
Fe−Ni−Cr−Mo合金の化学成分は、蛍光X線分析により測定した。ただし、Cは赤外線吸収法、Oは不活性ガスインパルス融解赤外線吸収法により測定した。
【0043】
4.非金属介在物
鋳造後のスラブから試料を切り出し、その試料断面に含まれる長径3μm以上からなる非金属介在物を無作為に30点選出し、EDS(エネルギー分散型X線分析)により定量分析し、非金属介在物の同定を行った。
【0044】
また、鋳造後のスラブから試料を切り出し、その試料断面100mmあたりに含まれる長径3μm以上からなる非金属介在物の長径を光学顕微鏡観察により測定し、そのうちの30μm以上の介在物個数比率を得た。
【0045】
5.合金板表面欠陥有無
熱間圧延合金板を冷間圧延し、その表面1mあたりに非金属介在物起因のスジ状表面疵発生有無を目視にて観察し判定した。
【0046】
以上の評価の結果を表3に示す(化学成分を除く)。なお、表1において下線は本発明で規定する成分を逸脱するものを示し、表3において下線は、本発明における好ましい範囲を逸脱する場合を示す。
【表3】

【0047】
本発明例1〜8の試料では、成分が全て本発明の範囲に入っており、熱間圧延後、冷却した後にコイルを巻き戻す際に破断せず合金板の製造は問題なく行うことができた。また、製造した合金板の表面に疵は認められなかった。
【0048】
一方、比較例9〜15の試料では、下線で示した成分が本発明の規定する範囲から外れているために、耐衝撃性の悪化による熱間圧延後のコイルを巻き戻す際に合金板が破断するか、表面疵が発生するかのいずれか一方、または両方が発生した。
【0049】
比較例No.9、10、13、14、15の試料では、SiとMnの一方、あるいは両方の濃度が本発明範囲を超えて高いため、σ相を形成し、熱間圧延後の次工程の通板が不可能であった。加えて比較例No.13の試料では、スラグ中のCaO/Al比が本発明の好適な範囲を逸脱し、合金中のAlとCa濃度も本発明の好適な範囲を逸脱した。その結果、非金属介在物中のスピネル比率が50%を超え、30μm以上の介在物個数比率も20%を超えた。
【0050】
比較例No.14の試料では、スラグ中のCaO/SiO比、MgO濃度が本発明範囲を逸脱し、合金中のSi濃度とMg濃度も本発明範囲を逸脱した。その結果、非金属介在物中のスピネル比率が50%を超えた。
【0051】
比較例No.15の試料では、スラグ中のCaO/Al比が本発明範囲を逸脱して高く、合金中のCa濃度も本発明範囲を超えて高くなった。その結果、CaOに富む非金属介在物のうちに大型の介在物が、多数見られた。一方、比較例No.12の試料では、スラグ中のCaO/Al比が本発明範囲から外れて低く、合金溶湯は十分に脱酸、脱硫されずにO、S濃度ともに高くなった。その結果、熱間圧延工程で耳割れし、次工程に進捗することができなかった。また、介在物は本発明で規定される介在物組成にはならずに、MnO−Al系酸化物が生成していた。
【0052】
比較例No.11の試料では、合金中のAl濃度、スラグ中のCaO/SiO比がいずれも本発明範囲を逸脱しており、結果として非金属介在物のMgO・Alスピネルの個数比率が50%を超え、クラスター化した大型非金属介在物が表面疵をもたらした。
【産業上の利用可能性】
【0053】
Fe−Ni−Cr−Mo合金は、ニッケル製錬プラントや海洋構造物等へ適用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.001〜0.015%、Si:0.01〜0.30%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.020%以下、S:0.0015%以下、Ni:30.00〜32.00%、Cr:26.00%を超え28.00%以下、Mo:6.00〜7.00%、Cu:1.00%を超え1.40%以下、Al:0.001〜0.10%、N:0.15〜0.25%、B:0.0005〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0020%、Mg:0.0001〜0.0050%、O:0.0001〜0.0050%、残部:Feおよび不可避不純物からなるFe−Ni−Cr−Mo合金。
【請求項2】
非金属介在物としてMgO、MgO・Alスピネル、CaO−Al−MgO系酸化物のいずれか1種または2種以上を含み、長径が3μm以上の非金属介在物のうち、MgO・Alスピネルの個数比率が50%以下で、長径が30μm以上の非金属介在物の個数比率が20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のFe−Ni−Cr−Mo合金。
【請求項3】
請求項1または2に記載のFe−Ni−Cr−Mo合金の製造方法であって、電気炉に原料を装入し、質量%で、Cr:26.00%を超え28.00%以下、Ni:30.00〜32.00%、Mo:6.00〜7.00%含有するFe−Cr−Ni−Mo合金溶湯を溶製し、次いで、AOD精錬、VOD精錬、およびAOD精錬に続きVOD精錬の3通りのいずれかの処理で脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金およびAlを投入し、CaO/Al比:3〜10、CaO/SiO比:5〜20、MgO:3〜10質量%からなるCaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを用い、請求項1に記載の成分組成となるように溶鋼成分の調整を行い、その後、該合金溶湯を連続鋳造法または普通造塊法にて鋳造し、スラブを製造することを特徴とするFe−Ni−Cr−Mo合金の製造方法。



【公開番号】特開2012−229463(P2012−229463A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97224(P2011−97224)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000232793)日本冶金工業株式会社 (84)
【Fターム(参考)】