説明

III族窒化物半導体層接合基板およびIII族窒化物半導体デバイスの製造方法

【課題】III族窒化物半導体層の欠落部分の少ない高品質のIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本III族窒化物半導体接合基板の製造方法は、主表面20mに現れる表面異状領域22の大きさおよび密度が所定の範囲内のIII族窒化物半導体基板20を準備する工程と、III族窒化物半導体基板20の主表面20m側にイオンを注入する工程と、III族窒化物半導体基板20の主表面20mに異種基板10を接合する工程と、III族窒化物半導体基板20をイオンが注入された領域20iで分離して異種基板10に接合したIII族窒化物半導体層20aを形成することにより、III族窒化物半導体層接合基板1を得る工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体層接合基板およびIII族窒化物半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Al1-xGaxN(0≦x≦1)基板などのIII族窒化物半導体基板は、半導体デバイスに好適に用いられているが、製造コストが極めて高い。これにより、III族窒化物半導体基板が用いられている半導体デバイスの製造コストが極めて高くなる。これは、III族窒化物結晶半導体基板の製造方法に由来するものと考えられる。
【0003】
すなわち、III族窒化物半導体基板は、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、MBE(分子線成長)法、昇華法などの気相法により結晶成長を行なうため、結晶成長速度が低く、たとえば100時間程度の結晶成長時間でも厚さが10mm程度のIII族窒化物半導体結晶しか得られない。かかる厚さの結晶からは、厚さ200μm〜400μm程度のIII族窒化物半導体自立基板は、少量(たとえば、10枚程度)しか切り出せない。
【0004】
しかし、III族窒化物半導体基板の切り出し枚数を増加させるため、III族窒化物半導体結晶から切り出すIII族窒化物半導体層の厚さを小さくすると、機械的強度が低下し、自立基板となり得ない。したがって、III族窒化物半導体結晶から切り出される薄いIII族窒化物半導体層を補強する方法が必要となる。
【0005】
III族窒化物半導体層の補強方法として、III族窒化物半導体層と化学組成の異なる異組成基板にIII族窒化物半導体層を接合した基板(以下、III族窒化物半導体層接合基板という)を製造する方法がある。かかるIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法として、特開2006−210660号公報(以下、特許文献1という)は、第1の窒化物半導体基板の表面近傍にイオンを注入する工程と、その第1の窒化物半導体基板の表面側を第2の基板に重ね合わせる工程と、重ね合わせた上記2枚の基板を熱処理する工程と、イオン注入された層を境として上記第1の窒化物半導体基板の大部分を上記第2の基板から引き剥がす工程とを含む半導体基板の製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−210660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に示される第1の窒化物半導体基板であるGaN基板などのIII族窒化物半導体基板の主表面上には、結晶不完全領域、異物付着領域、突起領域、穴領域などの表面異状領域が存在する。III族窒化物半導体基板のかかる表面異状領域は、主表面の他の領域に対して凹、凸または表面特性が異なる。このため、III族窒化物半導体基板と異組成基板とを接合しても、III族窒化物半導体基板の表面異状領域は異組成基板の主表面とは十分に接合しない。このため、III族窒化物半導体基板と異組成基板を接合した後、III族窒化物半導体基板をその主表面から所定の深さの領域で分離すると、III族窒化物半導体基板の表面異状領域に対応する部分が欠落したIII族窒化物半導体層が異組成基板上に形成されたIII族窒化物半導体層接合基板が得られる。かかるIII族窒化物半導体層接合基板の上記の欠落したIII族窒化物半導体層の主表面上に少なくとも1層以上のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を形成したIII族窒化物半導体デバイスは、III族窒化物半導体層の欠落部分が大きいほど、デバイス特性が低減するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するため、III族窒化物半導体層の欠落部分の少ない高品質のIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、デバイス特性の高いIII族窒化物半導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかるIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法は、III族窒化物半導体層と、III族窒化物半導体層と化学組成が異なる異組成基板とが接合しているIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法であって、III族窒化物半導体基板を準備する工程と、III族窒化物半導体基板の一方の主表面側であって主表面から所定の深さにイオンを注入する工程と、III族窒化物半導体基板の主表面に異組成基板を接合する工程と、III族窒化物半導体基板をイオンが注入された領域において分離して異組成基板に接合したIII族窒化物半導体層を形成することにより、III族窒化物半導体層接合基板を得る工程と、を備える。準備されるIII族窒化物半導体基板は、主表面上に、結晶不完全領域、異物付着領域、突起領域および穴領域からなる群から選ばれる少なくとも1種類の表面異状領域が現れ得る。ここで、結晶不完全領域はいずれも直径が10mm未満で、直径が5mm以上10mm未満の結晶不完全領域の密度が0.15個/cm以下、直径が1mm以上5mm未満の結晶不完全領域の密度が1.48個/cm2以下、および直径が0.5mm以上1mm未満の前記結晶不完全領域の密度が7.40個/cm2以下である。また、異物付着領域はいずれも直径が5mm未満で、直径が3mm以上5mm未満の異物付着領域の密度が0.15個/cm2以下、直径が1mm以上3mm未満の異物付着領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.01mm以上1mm未満の異物付着領域の密度が222.11個/cm2以下である。また、突起領域はいずれも直径が5mm未満で、直径が3mm以上5mm未満の突起領域の密度が0.15個/cm2以下、直径が1mm以上3mm未満の突起領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.1mm以上1mm未満の突起領域の密度が1.48個/cm2以下である。また、穴領域はいずれも直径が5mm未満で、直径が3mm以上5mm未満の穴領域の密度が0.15個/cm2以下、直径が1mm以上3mm未満の穴領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.1mm以上1mm未満の穴領域の密度が1.48個/cm2以下である。
【0010】
本発明にかかるIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法において、直径が1mm以上5mm未満の結晶不完全領域の密度を0.74個/cm2以下、および直径が0.5mm以上1mm未満の結晶不完全領域の密度を4.94個/cm2以下の少なくともいずれかとすることができる。また、直径が0.01mm以上1mm未満の異物付着領域の密度を49.36個/cm2以下とすることができる。また、直径が0.1mm以上1mm未満の突起領域の密度を0.74個/cm2以下とすることができる。また、直径が0.1mm以上1mm未満の穴領域の密度を0.74個/cm2以下とすることができる。
【0011】
本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、上記の製造方法により得られたIII族窒化物半導体層接合基板を準備する工程と、III族窒化物半導体層接合基板のIII族窒化物半導体層の主表面上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を形成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、III族窒化物半導体層の欠落部分の少ない高品質のIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、デバイス特性の高いIII族窒化物半導体デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかるIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法において準備されるIII族窒化物半導体基板の一例を示す概略図である。ここで、(a)は概略平面図を示し、(b)は(a)のIB−IBにおける概略断面図を示す。
【図2】本発明にかかるIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法の一実施形態を示す概略断面図である。ここで、(a)はIII族窒化物半導体基板を準備する工程を示し、(b)はIII族窒化物半導体基板にイオンを注入する工程を示し、(c)はIII族窒化物半導体基板に異組成基板を接合する工程を示し、(d)はIII族窒化物半導体層接合基板を得る工程を示す。
【図3】本発明において製造されるIII族窒化物半導体層接合基板の一例を示す概略図である。ここで、(a)は概略平面図を示し、(b)は(a)のIIIB−IIIBにおける概略断面図を示す。
【図4】本発明において製造されるIII族窒化物半導体デバイスの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態1]
図1〜図3を参照して、本発明にかかるIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法の一実施形態は、III族窒化物半導体層20aと、III族窒化物半導体層20aと化学組成が異なる異組成基板10とが接合しているIII族窒化物半導体層接合基板1の製造方法であり、以下の工程を備える。
【0015】
具体的には、III族窒化物半導体基板20を準備する工程(図1および図2(a))と、III族窒化物半導体基板20の一方の主表面20m側であって主表面20mから所定の深さDにイオンIを注入する工程(図2(b))と、III族窒化物半導体基板20の主表面20mに異組成基板10を接合する工程(図2(c))と、III族窒化物半導体基板20をイオンIが注入された領域(イオン注入領域20i)において分離して異組成基板10に接合したIII族窒化物半導体層20aを形成することによりIII族窒化物半導体層接合基板1を得る工程(図2(d)および図3)と、を備える。かかる工程により、図2(d)および図3を参照して、異組成基板10とIII族窒化物半導体層20aとが接合したIII族窒化物半導体層接合基板1が得られる。
【0016】
しかし、図1および図2(a)を参照して、一般に、III族窒化物半導体基板20は、その主表面20m上に、結晶不完全領域22u、異物付着領域22r、突起領域22tおよび穴領域22sからなる群から選ばれる少なくとも1種類の表面異状領域22が現れる。ここで、表面異状領域22とは、III族窒化物半導体基板20の主表面20mにおいて、表面の状態が他の領域と異なる領域をいう。また、結晶不完全領域22uとは、多結晶部分、異物の混入などにより単結晶としての結晶性が不完全となっている領域をいう。かかる結晶不完全領域22uは、表面処理加工の際に、加工条件および/またはその結晶不完全領域の結晶状態によって、表面が窪んで凹状になる凹状結晶不完全領域22usと、表面が突出して凸状になる凸状結晶不完全領域22utとを含む。また、異物付着領域22rとは、異物が付着している領域をいう。また、突起領域22tとは、結晶成長の際および/または主表面20mの表面処理加工の際に突起が形成された領域をいう。穴領域22sとは、結晶成長の際に基板を厚さ方向に貫通または貫通しない穴が形成された領域および表面加工の際に表面が陥没して穴が形成された領域をいう。これらの表面異状領域22は目視または表面観察装置(表面観察のための装置をいう。光学顕微鏡、微分干渉顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)などが含まれる。以下同じ。)を用いて観察することができる。
【0017】
このため、現実的には、III族窒化物半導体基板20の主表面20mに異組成基板10を接合させても、上記の表面異状領域22は異組成基板10に十分に接合しないため、III族窒化物半導体基板をイオンが注入された領域(イオン注入領域20i)で分離すると、表面異状領域22のそれぞれに対応した欠落部分20amを有するIII族窒化物半導体層20aが得られる。ここで、図2(d)に示すように、III族窒化物半導体基板20の分離の際、表面異状領域22の直上およびその近傍のIII族窒化物半導体は、III族窒化物半導体層20aと分離された残部III族窒化物半導体基板20bの側に残るため、異組成基板10に接合したIII族窒化物半導体層20aを形成することができずに、欠落部分20amとなる場合が多い。このため、図1〜図3を参照して、通常、表面異状領域22にそれぞれ対応するIII族窒化物半導体層20aの欠落部分20amの直径は、それぞれ対応する表面異状領域の直径の1〜30倍程度になる。
【0018】
図3を参照して、III族窒化物半導体層接合基板1におけるIII族窒化物半導体層20aの欠落部分20amの全ての面積Samが、面積SamとIII族窒化物半導体層20aの全ての面積Saとの合計の面積Sに対して、50%を超えると、かかるIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20a上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を成長させると、そのIII族窒化物半導体エピタキシャル層の主表面に平行な面内の温度分布が大きくなるため、そのIII族窒化物半導体エピタキシャル層は、均一に成長しないとともに、その表面のモフォロジーは不良となる。このため、III族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20a上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を形成して得られる半導体デバイスの特性が急激に低下する。
【0019】
このため、本実施形態のIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法においては、図1〜図3を参照して、III族窒化物半導体層20aの欠落部分20amの全ての面積Samが面積Samと面積Saとの合計の面積Sに対して50%以下になるように、すなわち、III族窒化物半導体層20aの全ての面積Saが面積Samと面積Saとの合計の面積Sに対して50%以上になるように、表面異状領域22が所定の大きさ以下である所定の密度以下であるIII族窒化物半導体基板20を準備することが重要である。ここで、面積Samと面積Saの合計の面積Sは、製造されるIII族窒化物半導体層接合基板1の主表面の面積Sを意味する。ここで、面積Sa、SamおよびSは、表面観察装置による表面異状領域のマッピング像の面積から算出することができる。
【0020】
(III族窒化物半導体基板を準備する工程)
図1および図2(a)を参照して、本実施形態のIII族窒化物半導体層接合基板1の製造方法は、III族窒化物半導体基板20を準備する工程を備える。
【0021】
III族窒化物半導体基板20を準備する工程において準備されるIII族窒化物半導体基板20においては、一方の主表面20m上に現れる表面異状領域22の1種類である結晶不完全領域22uは、いずれも直径が10mm未満で、直径が5mm以上10mm未満の結晶不完全領域の密度が0.15個/cm以下、直径が1mm以上5mm未満の結晶不完全領域の密度が1.48個/cm2以下、および直径が0.5mm以上1mm未満の結晶不完全領域の密度が7.40個/cm2以下である。かかる結晶不完全領域22uの大きさおよび密度は、表面観察装置による結晶不完全領域のマッピング像の面積から算出することができる。かかる結晶不完全領域22uは、主表面20mの表面異状領域以外の他の領域に比べて、加工条件および/または結晶不完全領域の結晶状態により、凹状または凸状(図1〜図3を参照)となる。前者を凹状結晶不完全領域22usと、後者を凸状結晶不完全領域22utと呼ぶ。
【0022】
直径が10mm以上の結晶不完全領域があると、直径が5mm以上10mm未満の結晶不完全領域の密度が0.15個/cmより大きいと、直径が1mm以上5mm未満の結晶不完全領域の密度が1.48個/cm2より大きいと、または直径が0.5mm以上1mm未満の結晶不完全領域の密度が7.40個/cm2より大きいと、製造されるIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20aは、その欠落部分20amの全ての面積SamがIII族窒化物半導体層接合基板1の主表面の面積S(面積Samと面積Saとの合計の面積S、以下同じ)に対して50%より大きくなる。
【0023】
かかるIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20a上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を成長させると、そのIII族窒化物半導体エピタキシャル層の主表面に平行な面内の温度分布が大きくなるため、そのIII族窒化物半導体エピタキシャル層は、均一に成長しないとともに、その表面のモフォロジーは不良となる。このため、III族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20a上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を形成して得られる半導体デバイスの特性が急激に低下する。
【0024】
III族窒化物半導体層接合基板1の主表面の面積S(面積Samと面積Saとの合計の面積S、以下同じ)に対するIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20aの欠落部分20amの全ての面積Sam、すなわち、Sam/Sをさらに小さくする観点から、上記III族窒化物半導体層接合基板1において、直径が1mm以上5mm未満の結晶不完全領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.5mm以上1mm未満の結晶不完全領域の密度が4.94個/cm2以下の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0025】
また、III族窒化物半導体基板20においては、一方の主表面20m上に現れる表面異状領域22の1種類である異物付着領域22rは、いずれも直径が5mm未満で、直径が3mm以上5mm未満の異物付着領域の密度が0.15個/cm2以下、直径が1mm以上3mm未満の異物付着領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.01mm以上1mm未満の異物付着領域の密度が222.11個/cm2以下である。かかる異物付着領域22rの大きさおよび密度は、表面観察装置による異物付着領域のマッピング像の面積から算出することができる。
【0026】
直径が5mm以上の異物付着領域があると、直径が3mm以上5mm未満の異物付着領域の密度が0.15個/cm2より大きいと、直径が1mm以上3mm未満の異物付着領域の密度が0.74個/cm2より大きいと、または直径が0.01mm以上1mm未満の異物付着領域の密度が222.11個/cm2より大きいと、製造されるIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20aは、その欠落部分20amの全ての面積SamがIII族窒化物半導体層接合基板1の主表面の面積S(面積Samと面積Saとの合計の面積S、以下同じ)に対して50%より大きくなる。
【0027】
かかるIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20a上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を成長させると、そのIII族窒化物半導体エピタキシャル層の主表面に平行な面内の温度分布が大きくなるため、そのIII族窒化物半導体エピタキシャル層は、均一に成長しないとともに、その表面のモフォロジーは不良となる。このため、III族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20a上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を形成して得られる半導体デバイスの特性が急激に低下する。
【0028】
III族窒化物半導体層接合基板1の主表面の面積S(面積Samと面積Saとの合計の面積S、以下同じ)に対するIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20aの欠落部分20amの全ての面積Sam、すなわち、Sam/Sをさらに小さくする観点から、上記III族窒化物半導体層接合基板1において、直径が0.01mm以上1mm未満の異物付着領域の密度が49.36個/cm2以下であることが好ましい。
【0029】
また、III族窒化物半導体基板20においては、一方の主表面20m上に現れる表面異状領域22の1種類である突起領域22tは、いずれも直径が5mm未満で、直径が3mm以上5mm未満の突起領域の密度が0.15個/cm2以下、直径が1mm以上3mm未満の突起領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.1mm以上1mm未満の突起領域の密度が1.48個/cm2以下である。かかる突起領域22tの大きさおよび密度は、表面観察装置による突起領域のマッピング像の面積から算出することができる。
【0030】
直径が5mm以上の突起領域があると、直径が3mm以上5mm未満の突起領域の密度が0.15個/cm2より大きいと、直径が1mm以上3mm未満の突起領域の密度が0.74個/cm2より大きいと、または直径が0.1mm以上1mm未満の突起領域の密度が1.48個/cm2より大きいと、製造されるIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20aは、その欠落部分20amの全ての面積SamがIII族窒化物半導体層接合基板1の主表面の面積S(面積Samと面積Saとの合計の面積S、以下同じ)に対して50%より大きくなる。
【0031】
かかるIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20a上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を成長させると、そのIII族窒化物半導体エピタキシャル層の主表面に平行な面内の温度分布が大きくなるため、そのIII族窒化物半導体エピタキシャル層は、均一に成長しないとともに、その表面のモフォロジーは不良となる。このため、III族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20a上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を形成して得られる半導体デバイスの特性が急激に低下する。
【0032】
III族窒化物半導体層接合基板1の主表面の面積S(面積Samと面積Saとの合計の面積S、以下同じ)に対するIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20aの欠落部分20amの全ての面積Sam、すなわち、Sam/Sをさらに小さくする観点から、上記III族窒化物半導体層接合基板1において、直径が0.1mm以上1mm未満の突起領域の密度が0.74個/cm2以下であることが好ましい。
【0033】
また、III族窒化物半導体基板20においては、一方の主表面20m上に現れる表面異状領域22の1種類である穴領域22sは、いずれも直径が5mm未満で、直径が3mm以上5mm未満の穴領域の密度が0.15個/cm2以下、直径が1mm以上3mm未満の穴領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.1mm以上1mm未満の穴領域の密度が1.48個/cm2以下である。かかる穴領域22sの大きさおよび密度は、表面観察装置による穴領域のマッピング像の面積から算出することができる。
【0034】
直径が5mm以上の穴領域があると、直径が3mm以上5mm未満の穴領域の密度が0.15個/cm2より大きいと、直径が1mm以上3mm未満の穴領域の密度が0.74個/cm2より大きいと、または直径が0.1mm以上1mm未満の穴領域の密度が1.48個/cm2より大きいと、製造されるIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20aは、その欠落部分20amの全ての面積SamがIII族窒化物半導体層接合基板1の主表面の面積S(面積Samと面積Saとの合計の面積S、以下同じ)に対して50%より大きくなる。
【0035】
かかるIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20a上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を成長させると、そのIII族窒化物半導体エピタキシャル層の主表面に平行な面内の温度分布が大きくなるため、そのIII族窒化物半導体エピタキシャル層は、均一に成長しないとともに、その表面のモフォロジーは不良となる。このため、III族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20a上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を形成して得られる半導体デバイスの特性が急激に低下する。
【0036】
III族窒化物半導体層接合基板1の主表面の面積S(面積Samと面積Saとの合計の面積S、以下同じ)に対するIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20aの欠落部分20amの全ての面積Sam、すなわち、Sam/Sをさらに小さくする観点から、上記III族窒化物半導体層接合基板1において、直径が0.1mm以上1mm未満の穴領域の密度が0.74個/cm2以下であることが好ましい。
【0037】
III族窒化物半導体基板20を準備する方法は、準備されるIII族窒化物半導体基板20の一方の主表面20mに現れる各種の表面異状領域の大きさおよび密度が上記の所定の範囲内であれば特に制限はない。たとえば、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、MBE(分子線成長)法、昇華法などの気相法、III族元素を含む融液に窒素を溶解させた溶液を用いる溶液法などの液相法などの方法により、III族窒化物半導体結晶を成長させ、次いで、成長させたIII族窒化物半導体結晶から所定形状のIII族窒化物半導体基板をワイヤーソー、内周刃、外周刃、レーザ光などを用いて切り出すことにより、III族窒化物半導体基板20を準備することができる。
【0038】
(イオンを注入する工程)
図2(b)を参照して、本実施形態のIII族窒化物半導体層接合基板1の製造方法は、III族窒化物半導体基板20の一方の主表面20m側であって主表面20mから所定の深さDにイオンIを注入する工程を備える。
【0039】
III族窒化物半導体基板20の一方の主表面20m側であって主表面20mから所定の深さDにイオンIを注入することにより、III族窒化物半導体基板20の主表面20m側であって主表面20mから深さD−ΔD〜D+ΔDの領域にイオン注入領域20iが形成される。かかるイオン注入領域20iは基板が脆化されているため、かかるイオン注入領域20iにおいてIII族窒化物半導体基板20を分離することができる。
【0040】
イオンIを注入する深さDは、特に制限はないが、分離を制御する観点から、0.05μm以上100μm以下が好ましく、0.05μm以上50μm以下がより好ましく、0.05μm以上10μm以下がさらに好ましい。深さDが、0.05μmより小さいと基板を分離する際に割れやすくなると共に表面を平坦化することが困難となり、100μmより大きいとイオンの分布が広くなり分離深さを制御することが困難となる。また深さΔDは、イオンIの種類および注入方法によって異なるが概ね深さ0.05D〜0.5D程度である。
【0041】
III族窒化物半導体基板20に注入されているイオンは、特に制限はないが、基板の結晶性の低下を抑制する観点から、水素、ヘリウムなどの質量の低いイオンが好ましい。
【0042】
なお、イオンのドーズ量は、特に制限はないが、分離を容易にする程度に基板を脆化させる観点から、1×1017cm-2以上1×1018cm-2以下であることが好ましい。イオン注入条件として、イオン注入エネルギーは、たとえば50keV以上150keV以下とすることができる。イオン注入温度は、たとえば室温(約25℃)以上150℃以下とすることができる。イオン注入角度は0°以上7°以下とすることができる。ここで、イオン注入角とは、イオンが注入される基板の主面の法線方向とイオン注入方向とのなす角度を意味する。
【0043】
ここで、主表面20mの表面異状領域22は、表面異状領域以外の他の領域に比べて、凹状(凹状結晶不完全領域22us、または穴領域22sの場合)または凸状(凸状結晶不完全領域22ut、または突起領域22tの場合)であり、あるいは異物が存在する(異物付着領域22rの場合)。このため、表面異状領域22におけるイオン注入領域20iは、表面異状領域以外の他の領域におけるイオン注入領域20iと同一の面内にない。特に、異物付着領域22rにおいては、異物の種類によりイオン注入が阻害され、分離に必要なドーズ量のイオンが注入されない場合もある。
【0044】
(III族窒化物半導体基板の主表面に異組成基板を接合する工程)
図2(c)を参照して、本実施形態のIII族窒化物半導体層接合基板1の製造方法は、イオンが注入されたIII族窒化物半導体基板20の主表面20mに異組成基板10を接合する工程を備える。
【0045】
III族窒化物半導体基板20の主表面20mに異組成基板10を接合する方法には、特に制限はないが、接合強度が高い観点から、接合する面をプラズマまたはイオンなどで活性化させて接合する方法(表面活性化方法)などが好ましく用いられる。
【0046】
また、III族窒化物半導体基板20の主表面20mに接合する異組成基板10は、特に制限はないが、製造されたIII族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20a上に、III族窒化物半導体エピタキシャル層を成長させる環境に耐え得る観点から、耐熱温度が1200℃以上であることが好ましく、1200℃以上においても耐腐食性を有することが好ましい。ここで、耐腐食性とは、アンモニア(NH3)ガスなどの腐食性の結晶成長雰囲気ガスに腐食されないことをいう。かかる観点から、好ましい異組成基板として、サファイア基板、AlN基板、SiC基板、ZnSe基板、Si基板、ZnO基板、ZnS基板、石英基板、スピネル基板、カーボン基板、ダイヤモンド基板、Ga23基板、ZrB2基板、Mo基板、W基板などが挙げられる。また、上記の基板の主表面上に、SiO2のような酸化物層、Si34のような窒化物層、またはW、Moのような金属層を50nm〜1000nmの厚さで形成したテンプレート基板も挙げられる。
【0047】
ここで、主表面20mの表面異状領域22は、表面異状領域以外の他の領域に比べて、凹状(凹状結晶不完全領域22us、または穴領域22sの場合)または凸状(凸状結晶不完全領域22ut、または突起領域22tの場合)であり、あるいは異物が存在する(異物付着領域22rの場合)。また、III族窒化物半導体基板20と異組成基板10との接合の際、凸状結晶不完全領域22utおよび突起領域22tにかかる応力により、それぞれ凸状結晶不完全領域22utおよび突起領域22tが破壊される。このため、III族窒化物半導体基板20と異組成基板10とを接合させても、主表面20mの表面異状領域22は異組成基板10と十分に接合することができない。
【0048】
(III族窒化物半導体層接合基板を得る工程)
図2(d)を参照して、本実施形態のIII族窒化物半導体層接合基板1の製造方法は、III族窒化物半導体基板20をイオンが注入された領域(イオン注入領域20i)において分離して異組成基板10に接合したIII族窒化物半導体層20aを形成することにより、III族窒化物半導体層接合基板1を得る工程を備える。
【0049】
かかる工程により、III族窒化物半導体基板20は、異組成基板10に接合しているIII族窒化物半導体層20aと残部III族窒化物半導体基板20bとに分離される。こうして、異組成基板10に厚さTDのIII族窒化物半導体層20aが接合したIII族窒化物半導体層接合基板1が得られる。
【0050】
イオン注入領域20iにおいてIII族窒化物半導体基板20を分離する方法には、何らかのエネルギーを与える方法であれば特に制限はなく、イオン注入領域20iに応力を加える方法であっても、イオン注入領域20iに熱を加える方法であってもよい。また、イオン注入領域20iに、光を照射する方法、または、超音波を印加する方法であってもよい。イオン注入領域20iは、脆化しているため、応力、熱、光、または超音波などによるエネルギーを受けることにより、容易に分離する。
【0051】
なお、本実施形態では、イオン注入領域で分離することによりIII族窒化物半導体基板を薄層化しているが、他の方法であってもよく、たとえば、III族窒化物半導体基板をスライスすることにより薄層化してもよいし、III族窒化物半導体基板を研磨等により薄層化してもよい。ここで、III族窒化物半導体基板をスライスする方法は、特に制限はなく、たとえば、放電加工機、ワイヤーソー、外周刃、内周刃、レーザ照射などが好適に挙げられる。
【0052】
ここで、イオン注入領域20iは、III族窒化物半導体基板20の一方の主表面20mから深さD−ΔD〜深さD+ΔDの広がりを有するが、主表面20mから深さDの領域(面領域)においてイオンのドーズ量が最大となり最も脆くなりやすい。したがって、III族窒化物半導体基板20は、通常、III族窒化物半導体基板20の一方の主表面20mから深さDの領域(面領域)またはその付近において分離する。したがって、イオンが注入された深さDとIII族窒化物半導体層20aの厚さTDはほぼ同じである。
【0053】
また、主表面20mの表面異状領域22は、表面異状領域以外の他の領域に比べて、凹状(凹状結晶不完全領域22us、または穴領域22sの場合)または凸状(凸状結晶不完全領域22ut、または突起領域22tの場合)であり、あるいは異物が存在し(異物付着領域22rの場合)、異組成基板10と十分に接合していなかったことから、III族窒化物半導体基板20の分離の際、表面異状領域22の直上およびその近傍のIII族窒化物半導体は、III族窒化物半導体層20aと分離された残部III族窒化物半導体基板20bの側に残るため、異組成基板10に接合したIII族窒化物半導体層20aを形成することができずに、欠落部分20amとなる。このため、図1〜図3を参照して、通常、表面異状領域22にそれぞれ対応するIII族窒化物半導体層20aの欠落部分20amの直径は、それぞれ対応する表面異状領域の直径の1〜30倍程度になる。
【0054】
本実施形態のIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法においては、主表面20mの表面異状領域22の大きさおよび密度が上記の所定の範囲内にあるIII族窒化物半導体基板20を用いるため、III族窒化物半導体層20aの欠落部分20amの全ての面積Samが面積Samと面積Saとの合計の面積Sに対して50%以下、すなわち、III族窒化物半導体層20aの全ての面積Saが面積Samと面積Saとの合計の面積Sに対して50%以上であり、表面のモフォロジーが良いIII族窒化物半導体層20aを有するIII族窒化物半導体層接合基板1が得られる。
【0055】
[実施形態2]
図4を参照して、本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法の一実施形態は、実施形態1の製造方法により得られたIII族窒化物半導体層接合基板1を準備する工程と、III族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20aの主表面上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層30を形成する工程と、を備える。
【0056】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法においては、III族窒化物半導体層20aの全ての面積Saが面積Samと面積Saとの合計の面積Sに対して50%以上であり、表面のモフォロジーが良いIII族窒化物半導体層20aを有するIII族窒化物半導体層接合基板1が用いられている。このため、上記の工程により、III族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20aの主表面上に、結晶性の高いIII族窒化物半導体エピタキシャル層30を1層以上成長させることができるため、特性の高いIII族窒化物半導体デバイス40が得られる。
【0057】
少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層30を成長させる方法は、特に制限はないが、面内均一性が高く良好な品質のIII族窒化物半導体エピタキシャル層が得られる観点から、MOCVD法、HVPE法、MBE法などの気相法が好ましく用いられる。
【0058】
具体的には、図4を参照して、III族窒化物半導体層接合基板1のIII族窒化物半導体層20aの主表面上に、MOCVD法を用いて、少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層30として、n型GaN層31、n型Al0.05Ga0.95N層32、6対のIn0.15Ga0.85N層およびIn0.01Ga0.99N層からなるMQW(多重量子井戸)構造を有する発光層33、p型Al0.20Ga0.80N層34およびp型GaN層35を順次成長させる。次に、メサエッチングによりn型GaN層31の一部の表面を露出させる。次に、真空蒸着法または電子ビーム蒸着法により、p型GaN層35上にp側電極41を、表面が露出したn型GaN層31上にn側電極42を形成する。こうして、III族窒化物半導体デバイス40として、LED(発光ダイオード)である発光デバイスが得られる。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
1.III族窒化物半導体基板の準備
図1および図2(a)を参照して、HVPE法により成長させたGaN結晶から、一方の主表面20mが(000−1)N表面である直径2インチ(5.08cm)×厚さ300μmのGaN基板(III族窒化物半導体基板20)を100枚切り出して、それぞれのGaN基板の両方の主表面を研磨により平坦化した。こうして準備した100枚のGaN基板のそれぞれの主表面20mの表面異状領域22の大きさおよび密度を、目視または光学顕微鏡を用いて測定した。結果を表1および表2にまとめた。
【0060】
2.III族窒化物半導体基板へのイオンの注入
図2(b)を参照して、準備した100枚のGaN基板(III族窒化物半導体基板20)の(000−1)N表面(主表面20m)側に水素イオンを注入して、100枚のイオン注入GaN基板(イオン注入III族窒化物半導体基板)を得た。水素イオンのドーズ量は8×1017cm-1であった。イオン注入エネルギーは120keVで、イオン注入温度は150℃で、イオン注入角度は0°(すなわち<0001>方向(c軸方向)に平行)であった。複数のGaN基板に注入されたイオンの深さDは、イオン注入GaN基板の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察したところ、いずれのイオン注入GaN基板についても約0.7μmであった。
【0061】
3.イオン注入III族窒化物半導体基板と異組成基板との接合
図2(c)を参照して、異組成基板10として、直径2インチ(5.08cm)×厚さ300μmのSi基板、SiO2/Si基板(Si基板の主表面上にSiO2層を形成したテンプレート基板)、SiO2/多結晶AlN基板(他結晶AlNの主表面上にSiO2層を形成したテンプレート基板)、Mo/Si基板(Si基板の主表面上にMo層を形成したテンプレート基板)、Mo基板、W基板、サファイア基板、石英基板、スピネル基板をそれぞれ10枚ずつ準備した。
【0062】
次に、100枚のGaN基板の(000−1)N表面(主表面20m)および10種類×10枚の異組成基板の主表面を、それぞれ洗浄した後、それぞれアルゴンガス中で放電させて得られるプラズマで活性化させた後、室温(25℃程度)で両基板(直径はいずれも2インチ(5.08cm))間に荷重をかけて、イオン注入GaN基板の(000−1)N表面と異組成基板の主表面とを接合させた接合基板を100枚得た。
【0063】
4.III族窒化物半導体層接合基板の作製
図2(c)および(d)を参照して、上記のようにして得られた100枚の接合基板を、窒素ガス雰囲気下で300℃以上の温度で熱処理することより、イオン注入GaN基板(イオン注入されたIII族窒化物半導体基板20)のイオン注入領域20iに熱応力をかけて、イオン注入GaN基板をイオン注入領域20iにおいて分離した。これにより、GaN層(III族窒化物半導体層20a)とSi基板(異組成基板10)とが接合されているGaN層接合基板(III族窒化物半導体層接合基板1)が得られた。なお、本実施例の熱処理は、窒素ガス雰囲気下で行ったが、酸素ガス雰囲気下、アルゴンガス雰囲気下、またはこれらのガスの混合ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0064】
こうして得られたGaN層接合基板(III族窒化物半導体層接合基板1)の主表面の面積Sに対するGaN層(III族窒化物半導体層20a)の欠落部分20amの全ての面積Samの百分率を、表面観察装置における表面異状領域22のマッピング像の面積から測定した。結果を表1および表2にまとめた。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1および表2を参照して、本発明にかかるIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法において準備されるIII族窒化物半導体基板が、主表面上に現れる、結晶不完全領域、異物付着領域、突起領域および穴領域からなる群から選ばれる少なくとも1種類の表面異状領域に関して以下の要件を満たすことにより、III族窒化物半導体層接合基板の主表面の面積Sに対するIII族窒化物半導体層の欠落部分の全ての面積Samの百分率が50%以下でIII族窒化物半導体層の表面のモフォロジーの良いIII族窒化物半導体層接合基板が得られた。
【0068】
ここで、III族窒化物半導体基板は、主表面上に現れる、結晶不完全領域、異物付着領域、突起領域および穴領域からなる群から選ばれる少なくとも1種類の表面異状領域に関して、以下の要件を満たしている。すなわち、結晶不完全領域はいずれも直径が10mm未満で、直径が5mm以上10mm未満の結晶不完全領域の密度が0.15個/cm以下、直径が1mm以上5mm未満の結晶不完全領域の密度が1.48個/cm2以下、および直径が0.5mm以上1mm未満の前記結晶不完全領域の密度が7.40個/cm2以下である。また、異物付着領域はいずれも直径が5mm未満で、直径が3mm以上5mm未満の異物付着領域の密度が0.15個/cm2以下、直径が1mm以上3mm未満の異物付着領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.01mm以上1mm未満の異物付着領域の密度が222.11個/cm2以下である。また、突起領域はいずれも直径が5mm未満で、直径が3mm以上5mm未満の突起領域の密度が0.15個/cm2以下、直径が1mm以上3mm未満の突起領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.1mm以上1mm未満の突起領域の密度が1.48個/cm2以下である。また、穴領域はいずれも直径が5mm未満で、直径が3mm以上5mm未満の穴領域の密度が0.15個/cm2以下、直径が1mm以上3mm未満の穴領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.1mm以上1mm未満の穴領域の密度が1.48個/cm2以下である。
【0069】
(実施例2)
図3を参照して、GaN層接合基板(III族窒化物半導体層接合基板1)の主表面の面積Sに対するGaN層(III族窒化物半導体層20a)の面積Saが50%以上(すなわち、GaN層接合基板の主表面の面積Sに対するGaN層の欠落部分の全ての面積Samが50%以下)のGaN層接合基板(以下、GaN層接合基板Sという。)のGaN層上に、MOCVD法により、少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層として、厚さ3μmのn型GaN層を成長させた。GaN層接合基板SのGaN層上に成長させたn型GaN層(III族窒化物半導体エピタキシャル層)は、(0002)面に関するロッキングカーブにおけるX線回折ピークの半値幅が112〜214arcsecと小さく結晶性が高く、また表面のモフォロジーも良かった。結果を表1および表2にまとめた。
【0070】
これに対して、GaN層接合基板(III族窒化物半導体層接合基板1)の主表面の面積Sに対するGaN層(III族窒化物半導体層20a)の面積Saが50%未満の(すなわち、GaN層接合基板の主表面の面積Sに対するGaN層の欠落部分の全ての面積Samが50%より大きい)GaN層接合基板(以下、GaN層接合基板Rという。)のGaN層(III族窒化物半導体層)上に、上記と同様にして成長させたn型GaN層(III族窒化物半導体エピタキシャル層)は、(0002)面に関するロッキングカーブにおけるX線回折ピークの半値幅が265〜716arcsecと大きく結晶性が低く、また表面のモフォロジーも不良であった。結果を表1および表2にまとめた。
【0071】
(実施例3)
図4を参照して、GaN層接合基板S(III族窒化物半導体層接合基板1)のGaN層(III族窒化物半導体層20a)上に、MOCVD法により、少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層30として、厚さ5μmのn型GaN層31、厚さ0.5μmのn型Al0.05Ga0.95N層32、6対のIn0.15Ga0.85N層およびIn0.01Ga0.99N層からなるMQW(多重量子井戸)構造を有する厚さ100nmの発光層33、厚さ20nmのp型Al0.20Ga0.80N層34、厚さ0.15μmのp型GaN層35を順次成長させた。次に、メサエッチングによりn型GaN層31の一部の表面を露出させた。次に、真空蒸着法または電子ビーム蒸着法により、p型GaN層35上にp側電極41を、表面が露出したn型GaN層31上にn側電極42を形成して、ダイシングによりチップ化して、GaN半導体デバイスS(III族窒化物半導体デバイス40)を得た。
【0072】
一方、GaN層接合基板R(III族窒化物半導体層接合基板1)のGaN層(III族窒化物半導体層20a)上に、上記と同様に、III族窒化物半導体エピタキシャル層を成長させ、さらに電極を形成して、GaN半導体デバイスR(III族窒化物半導体デバイス40)を得た。
【0073】
GaN半導体デバイスSおよびRのそれぞれについて、注入電流80mAでピーク波長450nmにおける発光スペクトルを測定した。GaN半導体デバイスRに対するGaN半導体デバイスSの相対発光強度は、1.5〜2.6倍であった。
【0074】
上記のことから、III族窒化物半導体層接合基板の主表面の面積Sに対するIII族窒化物半導体層の欠落部分の全ての面積Samの百分率が50%以下のIII族窒化物半導体層接合基板を用いて作製された半導体デバイスは、その特性が高いことがわかった。
【0075】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0076】
1 III族窒化物半導体層接合基板、10 異組成基板、20 III族窒化物半導体基板、20a III族窒化物半導体層、20am 欠落部分、20b 残部III族窒化物半導体基板、20i イオン注入領域、20m 主表面、22 表面異状領域、22r 異物付着領域、22s 穴領域、22t 突起領域、22u 結晶不完全領域、22us 凹状結晶不完全領域、22ut 凸状結晶不完全領域、30 III族窒化物半導体エピタキシャル層、31 n型GaN層、32 n型Al0.05Ga0.95N層、33 発光層、34 p型Al0.20Ga0.80N層、35 p型GaN層、40 III族窒化物半導体デバイス、41 p側電極、42 n側電極、I イオン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体層と、前記III族窒化物半導体層と化学組成が異なる異組成基板とが接合しているIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法であって、
III族窒化物半導体基板を準備する工程と、
前記III族窒化物半導体基板の一方の主表面側であって前記主表面から所定の深さにイオンを注入する工程と、
前記III族窒化物半導体基板の前記主表面に前記異組成基板を接合する工程と、
前記III族窒化物半導体基板を前記イオンが注入された領域において分離して前記異組成基板に接合した前記III族窒化物半導体層を形成することにより、前記III族窒化物半導体層接合基板を得る工程と、を備え、
前記III族窒化物半導体基板は、前記主表面上に現れる、結晶不完全領域、異物付着領域、突起領域および穴領域からなる群から選ばれる少なくとも1種類の表面異状領域に関して、
前記結晶不完全領域はいずれも直径が10mm未満で、直径が5mm以上10mm未満の前記結晶不完全領域の密度が0.15個/cm以下、直径が1mm以上5mm未満の前記結晶不完全領域の密度が1.48個/cm2以下、および直径が0.5mm以上1mm未満の前記結晶不完全領域の密度が7.40個/cm2以下であり、
前記異物付着領域はいずれも直径が5mm未満で、直径が3mm以上5mm未満の前記異物付着領域の密度が0.15個/cm2以下、直径が1mm以上3mm未満の前記異物付着領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.01mm以上1mm未満の前記異物付着領域の密度が222.11個/cm2以下であり、
前記突起領域はいずれも直径が5mm未満で、直径が3mm以上5mm未満の前記突起領域の密度が0.15個/cm2以下、直径が1mm以上3mm未満の前記突起領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.1mm以上1mm未満の前記突起領域の密度が1.48個/cm2以下であり、
前記穴領域はいずれも直径が5mm未満で、直径が3mm以上5mm未満の前記穴領域の密度が0.15個/cm2以下、直径が1mm以上3mm未満の前記穴領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.1mm以上1mm未満の前記穴領域の密度が1.48個/cm2以下である、III族窒化物半導体層接合基板の製造方法。
【請求項2】
直径が1mm以上5mm未満の前記結晶不完全領域の密度が0.74個/cm2以下、および直径が0.5mm以上1mm未満の前記結晶不完全領域の密度が4.94個/cm2以下の少なくともいずれかである請求項1に記載のIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法。
【請求項3】
直径が0.01mm以上1mm未満の前記異物付着領域の密度が49.36個/cm2以下である請求項1に記載のIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法。
【請求項4】
直径が0.1mm以上1mm未満の前記突起領域の密度が0.74個/cm2以下である請求項1に記載のIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法。
【請求項5】
直径が0.1mm以上1mm未満の前記穴領域の密度が0.74個/cm2以下である請求項1に記載のIII族窒化物半導体層接合基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5までのいずれかの製造方法により得られたIII族窒化物半導体層接合基板を準備する工程と、
前記III族窒化物半導体層接合基板の前記III族窒化物半導体層の主表面上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体エピタキシャル層を形成する工程と、を備えるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−44665(P2011−44665A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193397(P2009−193397)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】