説明

III族窒化物半導体発光素子の製造方法

【課題】p型コンタクト層のドーパント濃度の低下と結晶性低下に起因する、順方向電圧の増大、発光出力の低下が生じにくいIII族窒化物半導体発光素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基板上にn型半導体層と多重量子井戸構造からなる発光層とp型クラッド層とを順次積層した後、キャリアガスとGa源及び窒素源を含む原料ガスとを連続的に供給するとともに、Mg源を含むドーパントガスを間欠的に供給するMOCVD法により、前記p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成する工程を有し、前記ドーパントガスを供給する際に前記キャリアガスの流量を減少させることにより、前記p型コンタクト層の形成中における前記キャリアガスと原料ガスとドーパントガスとの総流量を一定に保つことを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、短波長の光を発光するIII族窒化物半導体発光素子用の半導体材料として、III族窒化物半導体が注目を集めている。一般にIII族窒化物半導体は、サファイア単結晶を始めとする種々の酸化物結晶、炭化珪素単結晶またはIII−V族化合物半導体単結晶等を基板として、その上に有機金属気相化学反応法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE法)あるいは水素化物気相エピタキシー法(HVPE法)等によって積層されて形成される。
【0003】
現在のところ広く一般に採用されている結晶成長方法は、基板としてサファイアやSiC、GaN、AlN等を用い、その上に有機金属気相化学反応法(MOCVD法)を用いて作製する方法である。たとえば、前述の基板を設置した反応管内にIII族の有機金属化合物とV族の原料ガスを用い、温度700℃〜1200℃程度の領域でn型半導体層、発光層およびp型半導体層を成長させる。
そして、各半導体層の成長後、基板もしくはn型半導体層に負極を形成し、p型半導体層に正極を形成することによってIII族窒化物半導体発光素子が得られる。
【0004】
また、p型半導体層は一般的にp型クラッド層とp型コンタクト層とから構成され、発光層のバンドギャップよりも高いバンドギャップを有している。p型半導体層は、このギャップ差に基づく電位障壁によって、電子及び正孔をせき止める機能を有している。このため、p型半導体層は、高いバンドギャップを有していることが求められる。従って、p型半導体層は、高濃度のドーパントが含有されていることと、結晶性が高いことが求められる。
【0005】
p型半導体層の結晶性を向上させ、かつ、高濃度のドーパントを含有させる方法としては、p型コンタクト層を形成する際に、ドーパントガスの供給量を変化させる方法が開示されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−32348号公報
【特許文献2】特開2002−33514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2におけるp型コンタクト層の形成方法では、キャリアガスと原料ガスを一定の流量で供給している際にドーパントガスを間欠的に供給するため、ドーパントガスを供給する度に成長室内の圧力が変動する。このため、ドーパントガスを供給するためのポンプの動きを、成長室内の圧力の変動に追従させることができない。その結果、ドーパントがアンドープされた膜とドープ膜との積層数が多くなるに従い、ドーパントガスの流量の変動や、ドーパントガスを供給するタイミングのずれが大きくなる。そのため、アンドープ膜とドープ膜との積層数を多くすることでp型コンタクト層を厚く形成すると、高品質のp型コンタクト層を得ることができない。
【0008】
また、p型コンタクト層は一般的にp型クラッド層よりも厚く形成されるため、p型クラッド層に前記形成方法を適用させた場合と比べ、ドーパントガスの流量の変動や、ドーパントガスを供給するタイミングのずれによる影響を受けやすい。
このため、前記の形成方法では、p型コンタクト層内のドーパント濃度の低下や、不均一な濃度分布といった問題が生じやすい。
【0009】
その結果、p型コンタクト層の結晶性が低下し、その後の工程において、p型コンタクト層上に、結晶性の高い透光性電極を形成することができない。このように、p型コンタクト層のドーパント濃度の低下と結晶性低下とに起因するIII族窒化物半導体発光素子のVFの上昇および発光出力の低下が問題となっていた。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、p型コンタクト層のドーパント濃度の低下と結晶性低下に起因するIII族窒化物半導体発光素子の高いVF、発光出力の低下が生じにくいIII族窒化物半導体発光素子およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 基板上にn型半導体層と多重量子井戸構造からなる発光層とp型クラッド層とを順次積層した後、キャリアガスとGa源及び窒素源を含む原料ガスとを連続的に供給するとともに、Mg源を含むドーパントガスを間欠的に供給するMOCVD法により、前記p型クラッド層上にAlGaInN(0≦x≦0.1、0≦y≦1、0≦z≦0.1、x+y+z=1)のp型コンタクト層を形成する工程を有し、前記ドーパントガスを供給する際に前記キャリアガスの流量を減少させることにより、前記p型コンタクト層の形成中における前記キャリアガスと原料ガスとドーパントガスとの総流量を一定に保つことを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
〔2〕 前記p型コンタクト層の形成工程が、前記原料ガスを連続的に供給するとともに、前記ドーパントガスを間欠的に供給するMOCVD法により、前記p型クラッド層上に第一p型コンタクト層を形成する工程と、前記原料ガスを連続的に供給するとともに、前記ドーパントガスを前記第一p型コンタクト層形成工程よりも高濃度で連続的に供給するMOCVD法により、前記第一p型コンタクト層上に、第二p型コンタクト層を形成する工程と、を有することを特徴とする〔1〕に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
〔3〕 前記p型コンタクト層の形成工程が、前記p型クラッド層の表面に、前記ドーパントガスを第1の流量で供給する工程と、前記原料ガスを連続的に供給するとともに、前記ドーパントガスを前記第1の流量よりも少ない第2の流量で間欠的に供給するMOCVD法により、前記p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成する工程と、を有することを特徴とする〔1〕または〔2〕のいずれかに記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
〔4〕 基板上にn型半導体層と多重量子井戸構造からなる発光層とp型クラッド層とAlGaInN(0≦x≦0.1、0≦y≦1、0≦z≦0.1、x+y+z=1)なる組成のp型コンタクト層とが積層されてなるIII族窒化物半導体発光素子であって、前記p型コンタクト層が、Mgが含有された第一p型コンタクト層第一層と、前記第一p型コンタクト層第一層よりもMg含有濃度の低い第一p型コンタクト層第二層とが交互に積層されてなることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子
〔5〕 前記p型コンタクト層が、第一p型コンタクト層と第二p型コンタクト層とが積層してなり、前記第二p型コンタクト層に、Mgが前記第一p型コンタクト層よりも高い濃度で含有されてなることを特徴とする〔4〕に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
〔6〕 〔4〕または〔5〕のいずれかに記載のIII族窒化物半導体発光素子を備えることを特徴とするランプ。
〔7〕 〔6〕に記載のランプが組み込まれていることを特徴とする電子機器。
〔8〕 〔7〕に記載の電子機器が組み込まれていることを特徴とする機械装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法によれば、ドーパントガスを間欠的に供給するMOCVD法によりp型コンタクト層を形成する工程において、ドーパントガスを供給する際に前記キャリアガスの流量を減少させることにより、p型コンタクト層の形成中におけるキャリアガスと原料ガスとドーパントガスとの総流量が一定に保たれる。このため、ドーパントガスを間欠的に供給する際の、成長室内における圧力の変動を防ぐことができる。このため、アンドープ膜とドープ膜との積層数を多くしても、ドーパントガスの流量の変動や、ドーパントガスを供給するタイミングのずれが生じない。その結果、ドーパントがドープされない膜と、ドーパントがドープされた膜とを均一に積層することができる。
通常、p型コンタクト層にMgがドープされると結晶性が悪化するが、ドーパントがドープされない膜と、ドープされた膜とを均一に積層できるため、ドープされた膜同士の間に、結晶性の良いアンドープ層が挿入される。これにより、Mgを連続的にドープした場合と比較して、p型コンタクト層の結晶性を高めることができ、かつ、キャリア濃度を増加させることができる。その結果、III族窒化物半導体発光素子のVFの低減および発光出力の向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を用いて製造されたIII族窒化物半導体発光素子の一例を示した断面模式図である。
【図2】図2は、図1に示すIII族窒化物半導体発光素子を製造する工程を説明するための断面模式図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態であるIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を説明するグラフである。
【図4】図4は、本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を用いて製造されたIII族窒化物半導体発光素子のアクセプタ濃度を説明するグラフである。
【図5】図5は、図1に示したIII族窒化物半導体発光素子を備えるランプの一例を示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のIII族窒化物半導体発光素子1について、図1を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明において参照する図面は、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0015】
図1は、本発明のIII族窒化物半導体発光素子1の一例を示した断面模式図である。
図1に示す本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子1は、基板11と、基板11上に積層された積層半導体層20と、積層半導体層20の上面に積層された透光性電極15と、透光性電極15上に積層されたp型ボンディングパッド電極16と、積層半導体層20の露出面20a上に積層されたn型電極17とを具備している。
【0016】
積層半導体層20は、基板11側から、少なくともn型半導体層12、発光層13、p型半導体層14がこの順に積層されている。また、図1に示すように、n型半導体層12、発光層13、p型半導体層14は、その一部がエッチング等の手段によって除去されており、除去された部分からn型半導体層12の一部が露出されている。そして、n型半導体層12の露出面20aには、n型電極17が積層されている。
また、p型半導体層14の上面には、透光性電極15およびp型ボンディングパッド電極16が積層されている。これら、透光性電極15およびp型ボンディングパッド電極16によって、p型電極18が構成されている。
【0017】
n型半導体層12、発光層13およびp型半導体層14を構成する半導体としては、III族窒化物半導体を用いることが好ましく、窒化ガリウム系化合物半導体を用いることがより好ましい。本発明におけるn型半導体層12、発光層13およびp型半導体層14を構成する窒化ガリウム系化合物半導体としては、一般式AlGaInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)で表わされる各種組成の半導体を何ら制限なく用いることができる。
【0018】
本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子1は、p型電極18とn型電極17との間に電流を通じることで、積層半導体層20を構成する発光層13から発光を発せられるようになっており、発光層13からの光を、p型ボンディングパッド電極16の形成された側から取り出すフェイスアップマウント型の発光素子である。なお、本発明のIII族窒化物半導体発光素子は、フリップチップ型の発光素子であってもよい。
以下、それぞれの構成について詳細に説明する。
【0019】
<基板11>
基板11としては、例えば、サファイア、SiC、シリコン、GaN、ゲルマニウム、酸化亜鉛、等からなる基板を用いることができる。上記基板の中でも、特に、c面を主面とするサファイア基板を用いることが好ましい。また、基板11の主面側に少なくとも規則的な凹凸形状を設けてもよい。また、基板は、貼り合わせたものを使用してもよい。
【0020】
(バッファ層21)
バッファ層21は、基板11と下地層22との格子定数の違いを緩和して、基板11の例えば、サファイア(0001)C面上にC軸配向した単結晶層の形成を容易にする働きがある。バッファ層21を設けることにより、バッファ層21上に結晶性の良い下地層22を積層できる。
【0021】
バッファ層21は、単結晶のAlGa1−xN(0≦x≦1)からなるものが特に好ましいが、多結晶のAlGa1−xN(0≦x≦1)からなるものであってもかまわない。
バッファ層21は、例えば、多結晶のAlGa1−xN(0≦x≦1)からなる厚さ0.01μm〜0.5μmのものとすることができる。バッファ層21の膜厚が0.01μm未満であると、バッファ層21により基板11と下地層22との格子定数の違いを緩和することができない場合がある。また、バッファ層21の膜厚が0.5μmを超えると、バッファ層21としての機能には変化が無いのにも関わらず、バッファ層21の成膜処理時間が長くなり、生産性が低下する問題がある。
【0022】
バッファ層21は、多結晶構造又は単結晶構造を有するものとすることができる。このような多結晶構造又は単結晶構造を有するバッファ層21を基板11上にMOCVD法またはスパッタ法にて成膜した場合、バッファ層21のバッファ機能が有効に作用するため、その上に成膜されたIII族窒化物半導体は良好な配向性及び結晶性を有する結晶膜となる。
【0023】
(下地層22)
下地層22としては、AlGa1−xN(0≦x<1)を用いると結晶性の良い下地層22を形成できるため特に好ましいが、AlGaInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)を用いてもかまわない。
下地層22の膜厚は0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上であり、1μm以上であることが最も好ましい。下地層(AlGa1−xN層)22は1μm以上の膜厚で形成されることにより、結晶性が良好となる。また、III族窒化物半導体発光素子の小型化や、形成時間の短縮の観点により、下地層22の膜厚は10μm以下であることが好ましい。
【0024】
また、下地層22の結晶性を良くするために、下地層22には不純物をドーピングしないことが望ましい。しかし、n型の導電性が必要な場合は、ドーパントを添加することが出来る。
【0025】
<積層半導体層20>
(n型半導体層12)
n型半導体層12はさらに、後述する第1工程において形成されたnコンタクト層(第一n型半導体層)12aと、nクラッド層(第二n型半導体層)12bとから構成されている。
【0026】
(nコンタクト層12a)
nコンタクト層12aは、n型電極17を設けるための層であり、図1に示すように、n型電極17を設けるための露出面20aが形成されている。
nコンタクト層12aの膜厚は、0.5〜5μmであることが好ましく、2μm〜4μmの範囲であることがより好ましい。nコンタクト層12aの膜厚が上記範囲内であると、nコンタクト層12aの結晶性が良好に維持される。
【0027】
nコンタクト層12aは、AlGa1−xN層(0≦x<1、好ましくは0≦x≦0.5、さらに好ましくは0≦x≦0.1)から構成されることが好ましく、また、この層にはn型不純物(不純物)がドープされている。また、nコンタクト層12aにn型不純物が1×1017〜1×1020/cm、好ましくは1×1018〜1×1019/cmの濃度で含有されていることが好ましい。n型不純物がnコンタクト層12aにこの範囲内の濃度で含有されていることにより、nコンタクト層12aとn型電極17との間の障壁の幅が狭くなりトンネル電流が生じやすくなる。そのため、nコンタクト層12aとn型電極17との間の接触抵抗を低くできる。また、nコンタクト層12aに用いられるn型不純物としては、特に限定されないが、例えば、Si、Ge、Sn等が挙げられ、SiおよびGeが好ましく、Siが最も好ましい。なお、本実施形態ではn型不純物(不純物)として5×1018/cm程度のSiが含有されている。
【0028】
(nクラッド層12b)
nクラッド層12bは、nコンタクト層12aと発光層13との間の結晶格子の不整合を緩和させる機能を有する。また、nクラッド層12bは、発光層13へのキャリアの注入とキャリアの閉じ込めを行なう層である。
【0029】
また、nクラッド層12bはAlGaN、GaN、GaInNなどで形成することが可能である。なお、明細書中各元素の組成比を省略してAlGaN、GaInNと記述する場合がある。nクラッド層12bをGaInNで形成する場合には、発光層13のGaInNのバンドギャップよりも大きくするのが望ましい。
【0030】
nクラッド層12bの構造は、単層構造または超格子構造のどちらであっても構わない。また、nクラッド層12bの膜厚は、5nm〜500nmであることが好ましい。nクラッド層12bの膜厚が上記範囲内であると、nコンタクト層12aと発光層13との間の結晶格子の不整合を十分に緩和できるため、発光層13へのキャリアの注入とキャリアの閉じ込めを行うことができる。
【0031】
一方、nクラッド層12bの膜厚が5nm未満であると、nコンタクト層12aと発光層13との間の結晶格子の不整合を十分に緩和できず、好ましくない。
また、nクラッド層12bの膜厚が500nmを超えると、直列抵抗が増えるためにVFが高くなる。また、nクラッド層12bの生産性が低下するため好ましくない。
【0032】
本実施形態においては、nクラッド層12bは、単層であってもよいが、組成の異なる2つの薄膜層を繰り返し成長させて10ペア数(20層)〜40ペア数(80層)からなる超格子構造であることが好ましい。nクラッド層12bが超格子構造からなるものである場合、薄膜層の積層数が20層以上であると、nコンタクト層12aと発光層13との結晶格子の不整合をより効果的に緩和することができ、III族窒化物半導体発光素子1の出力を向上させる効果がより顕著となる。しかし、薄膜層の積層数が80層を超えると、直列抵抗が増えるためにVFが高くなる。また、nクラッド層12bの生産性が低下するため好ましくない。
【0033】
<発光層13>
発光層13は、障壁層13aと井戸層13bとが交互に複数積層された多重量子井戸構造からなる。また、多重量子井戸構造における積層数は3層から10層であることが好ましく、4層から7層であることがさらに好ましい
【0034】
(井戸層13b)
井戸層13bの膜厚は、1.5nm以上5nm以下の範囲であることが好ましい。井戸層13bの膜厚が上記範囲内であることにより、より高い発光出力を得ることができる。
また、井戸層13bは、Inを含む窒化ガリウム系化合物半導体であることが好ましい。Inを含む窒化ガリウム系化合物半導体は、青色の波長領域の強い光を発光するものであるため、好ましい。また、井戸層13bには、不純物をドープすることができる。また、本実施形態における不純物としてはSiを用いることが好ましい。ドープ量は1×1016cm−3〜1×1017cm−3程度が好適である。
【0035】
(障壁層13a)
障壁層13aの膜厚は、2nm以上10nm未満の範囲であることが好ましい。障壁層13aの膜厚が薄すぎると、障壁層13a上面の平坦化を阻害し、発光効率の低下やエージング特性の低下を引き起こす。また、障壁層13aの膜厚が厚すぎると、駆動電圧の上昇や発光の低下を引き起こす。このため、障壁層13aの膜厚は7nm以下であることがより好ましい。
また、障壁層13aは、GaNやAlGaNのほか、井戸層を構成するInGaNよりもIn比率の小さいInGaNで形成することができる。中でも、GaNが好適である。また、障壁層13aには、不純物をドープすることができる。本実施形態における不純物としてはSiを用いることが好ましい。ドープ量は1×1017cm−3〜1×1018cm−3程度が好適である。
【0036】
<p型半導体層14>
p型半導体層14は、通常、p型クラッド層14aおよびp型コンタクト層14bから構成されている。
【0037】
(p型クラッド層14a)
本実施形態におけるp型クラッド層14aは、発光層13の上に形成されている。p型クラッド層14aは、発光層13へのキャリアの閉じ込めとキャリアの注入を行なう層である。p型クラッド層14aとしては、発光層13のバンドギャップエネルギーより大きくなる組成であり、発光層13へのキャリアの閉じ込めができるものであれば特に限定されないが、AlGa1−xN(0≦x≦0.4)からなるものであることが好ましい。p型クラッド層14aが、このようなAlGaNからなるものである場合、発光層13へのキャリアの閉じ込めの点で好ましい。
【0038】
p型クラッド層14aの膜厚は、特に限定されないが、好ましくは1〜400nmであり、より好ましくは5〜100nmである。p型クラッド層14aのp型ドープ濃度は、1×1018〜1×1021/cmであることが好ましく、より好ましくは1×1019〜1×1020/cmである。p型ドープ濃度が上記範囲であると、結晶性を低下させることなく良好なp型結晶が得られる。また、p型クラッド層14aは、薄膜を複数回積層してなる超格子構造であってもよいし、組成が一定の単層構造であってもよい。
p型クラッド層14aの成長速度は、pコンタクト層の成長速度より遅いことが好ましい。また、p型クラッド層14aの成長速度は、2nm/min〜10nm/minの範囲内であることが好ましく、より好ましくは、3nm/min〜8nm/minである。p型クラッド層14aの成長速度が2nm/min未満の場合は、生産性の低下を招くため好ましくない。一方、p型クラッド層14aの成長速度が10nm/minを超えると、AlGaN結晶の結晶性が低下するため好ましくない。
【0039】
(p型コンタクト層14b)
本実施形態のp型コンタクト層14bは、図1に示すように、第一p型コンタクト層14cと、第二p型コンタクト層14dとが積層している。
【0040】
第一p型コンタクト層14cは、第一p型コンタクト層第一層14c及び第一p型コンタクト層第二層14cが交互に複数積層されてなる構造である。第一p型コンタクト層第一層14cには、不純物であるMgが第一p型コンタクト層第二層14cよりも高い濃度で含有されている。
また、第一p型コンタクト層14cは、p型クラッド層14a側の面及び透光性電極15側の面にそれぞれ、第一p型コンタクト層第一層14cが配置されている。これにより、III族窒化物半導体発光素子1の発光効率を高めることができる。特に、最も透光性電極15側に配置した第一p型コンタクト層第一層14cは、第一p型コンタクト層14cからの不純物の拡散を遮断する機能も有している。
【0041】
第一p型コンタクト層14cは、AlGa1−xN(0≦x≦0.4)からなるものであることが、良好な結晶性の維持およびpオーミック電極との良好なオーミック接触の点で好ましい。
また、第一p型コンタクト層第一層14c及び第一p型コンタクト層第二層14cの組成は、第一p型コンタクト層14cのバンドギャップエネルギーが発光層13のバンドギャップエネルギーより大きくなるような組成であることが好ましい。
【0042】
具体的には、第一p型コンタクト層第一層14cは、第一p型コンタクト層第二層14cと同じ組成(AlGa1−xNなる組成(xは0≦x≦0.4))であり、組成比xのより好ましい範囲は、0≦x≦0.2であり、最も好ましい範囲は0≦x≦0.1である。このxの値は小さければ小さいほど好ましい。
また、第一p型コンタクト層第一層14cにはMgがドーパントとして含有されている。第一p型コンタクト層第一層14cにおけるドーパント濃度は、5×1018〜5×1020cm−3の範囲が好ましく、1×1019〜1×1020cm−3の範囲がより好ましく、1×1019〜5×1019cm−3の範囲が最も好ましい。また、p型コンタクト層14bを構成する各第一p型コンタクト層第一層14cのドーパント濃度は一定であることが好ましい。各第一p型コンタクト層第一層14cのドーパント濃度が一定であることにより、p型コンタクト層14bのドーパントの分布を一定にできる。
【0043】
第一p型コンタクト層第二層14cは、第一p型コンタクト層第一層14cと同じ組成(AlGa1−xNなる組成(xは0≦x≦0.4))であり、組成比xのより好ましい範囲は、0≦x≦0.2であり、最も好ましい範囲は0≦x≦0.1である。第一p型コンタクト層第二層14cのAlの組成比が高いと第一p型コンタクト層第二層14cの結晶性が低下するため、組成比xの上限を上記の通り0.4以下とし、できるだけ小さい値とすることが好ましい。
【0044】
また、第一p型コンタクト層第二層14cのMg濃度は第一p型コンタクト層第一層14cよりも低く、Mgを含まないものであることが特に好ましい。第一p型コンタクト層第二層14cがドーパントを含まないAlGaInN系の半導体からなることによって、第一p型コンタクト層第二層14cの結晶性が高まる。このため、p型コンタクト層14b全体の結晶性が向上し、駆動電圧の低減が可能になる。
【0045】
第一p型コンタクト層第一層14c及び第一p型コンタクト層第二層14cの厚みは、それぞれ10nm以下であることが好ましく、6nm以下であることがより好ましく、4nm以下であることがさらに好ましく、1nm以上2.5nm以下の範囲であることが最も好ましい。第一p型コンタクト層第一層14c及び第一p型コンタクト層第二層14cそれぞれの厚みが10nmを超えると、結晶欠陥等を多く含む層となり、好ましくない。
【0046】
第一p型コンタクト層14cにおいて、交互に積層される第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cのペア数は、1ペア以上が好ましく、また5ペア以上であることがさらに好ましい。この交互に積層される第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cのペア数が5ペア以上であることにより、p型コンタクト層14b全体のキャリア濃度を高めることができる。この結果、発光層13に対して正孔を多く注入することができ、III族窒化物半導体発光素子1の高出力化を実現することができる。
【0047】
さらに、本発明においては、交互に積層される第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cとのペア数は、生産性、逆方向電流抑制の観点から、20ペア以内であることが望ましい。
また、第一p型コンタクト層14cのうち、最も透光性電極15側の面には、第一p型コンタクト層第一層14cが設けられている。すなわち、第一p型コンタクト層14cのp型クラッド層14a側の面及び透光性電極15側の面にそれぞれ、第一p型コンタクト層第一層14cが配置されている。
【0048】
第一p型コンタクト層14cの上には、透光性電極15との接触抵抗を低減させる目的で、第二p型コンタクト層14dを形成してもよい。第二p型コンタクト層14dには、第一p型コンタクト層14cよりも高濃度のMgが含有されていることが好ましく、特に1×1020/cm〜5×1020/cm程度の濃度で含有されていることが好ましい。ここで、第一p型コンタクト層14cよりも高濃度とは、第一p型コンタクト層第一層14cと第二p型コンタクト層第一層14cとの平均Mg濃度よりも高いということである。
また、第二p型コンタクト層14dは、第一p型コンタクト層14cと同様に、Mgが含有された第二p型コンタクト層第一層14dと、第二p型コンタクト層第一層14dよりもMg含有濃度が低い第二p型コンタクト層第二層14dとが交互に複数積層されたものであってもよい。また、第二p型コンタクト層14dのうち、最も透光性電極15側の面には、第二p型コンタクト層第一層14dが設けられている。すなわち、第二p型コンタクト層14dの第一p型コンタクト層14c側の面及び透光性電極15側の面にそれぞれ、第二p型コンタクト層第一層14dが配置されている。
【0049】
また、p型コンタクト層14bを第一p型コンタクト層14cと第二p型コンタクト層14dからなる二層構造とする場合には、p型コンタクト層14b全体の膜厚は、特に限定されないが、10〜500nmであることが好ましく、より好ましくは50〜200nmである。p型コンタクト層14bの膜厚がこの範囲であることは、発光出力の点で好ましい。なお、p型コンタクト層14b全体に占める第二p型コンタクト層14dの厚さは、p型コンタクト層14b全体の6%〜40%程度であることが好ましい。
p型コンタクト層14bは、pクラッド層14aよりも速い成長速度で形成されたものであることが好ましく、p型クラッド層14aの2倍以上の成長速度で形成されたことがより好ましく、3倍以上の成長速度で形成されたものであることが特に好ましい。
また、p型コンタクト層14bは、10nm/min〜30nm/minの形成速度で形成されたものであることが好ましく、15nm/min〜25nm/minの形成速度で形成されたものであることが特に好ましい。p型コンタクト層14bの成長速度が10nm/min未満の場合、p型コンタクト層14bに高濃度のドーパントが含有されにくく、30nm/min以上の場合は、p型コンタクト層14bの結晶性が低下するため好ましくない。
【0050】
<n型電極17>
n型電極17は、ボンディングパットを兼ねており、積層半導体層20のn型半導体層12(nコンタクト層12a)に接するように形成されている。このため、n型電極17を形成する際には、少なくともp半導体層14および発光層13の一部を除去してn型半導体層12を露出させ、n型半導体層12の露出面20a上にボンディングパッドを兼ねるn型電極17を形成する。n型電極17としては、各種組成や構造が周知であり、これら周知の組成や構造を何ら制限無く用いることができ、この技術分野でよく知られた慣用の手段で設けることができる。
【0051】
(透光性電極15)
透光性電極15は、p型半導体層14の上に積層されるものであり、p型半導体層14との接触抵抗が小さいものであることが好ましい。また、透光性電極15は、発光層13からの光を効率良くIII族窒化物半導体発光素子1の外部に取り出すために、光透過性に優れたものであることが好ましい。また、透光性電極15は、p型半導体層14の全面に渡って均一に電流を拡散させるために、優れた導電性を有していることが好ましい。
【0052】
透光性電極15の構成材料としては、In、Zn、Al、Ga、Ti、Bi、Mg、W、Ceのいずれか一種を含む導電性の酸化物、硫化亜鉛または硫化クロムのうちいずれか一種からなる群より選ばれる透光性の導電性材料が挙げられる。導電性の酸化物としては、ITO(酸化インジウム錫(In−SnO))、IZO(酸化インジウム亜鉛(In−ZnO))、AZO(酸化アルミニウム亜鉛(ZnO−Al))、GZO(酸化ガリウム亜鉛(ZnO−Ga))、フッ素ドープ酸化錫、酸化チタン等があげられる。
【0053】
また、透光性電極15の構造は、従来公知の構造を含めて如何なる構造であってもよい。透光性電極15は、p型半導体層14のほぼ全面を覆うように形成してもよく、また、隙間を開けて格子状や樹形状に形成してもよい。
【0054】
(p型ボンディングパッド電極16)
p型ボンディングパッド電極16はボンディングパットを兼ねており、透光性電極15の上に積層されている。p型ボンディングパッド電極16としては、各種組成や構造が周知であり、これら周知の組成や構造を何ら制限無く用いることができ、この技術分野でよく知られた慣用の手段で設けることができる。
【0055】
また、p型ボンディングパッド電極16の電極面積としては、できるだけ大きい方がボンディング作業はしやすいが、発光の取り出しの妨げになる。具体的には、ボンディングボールの直径よりもわずかに大きい程度が好ましく、直径100μmの円形程度であることが一般的である。
【0056】
(保護膜層)
図示しない保護膜層は、必要に応じて透光性電極15の上面および側面と、n型半導体層12の露出面20a、発光層13およびp型半導体層14の側面、n型電極17およびp型ボンディングパッド電極16の側面や周辺部を覆うよう形成される。保護膜層を形成することにより、III族窒化物半導体発光素子1の内部への水分等の浸入を防止でき、III族窒化物半導体発光素子1の劣化を抑制することができる。
保護膜層としては、絶縁性を有し、300〜550nmの範囲の波長において80%以上の透過率を有する材料を用いることが好ましく、例えば、酸化シリコン(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(Ta)、窒化シリコン(Si)、窒化アルミニウム(AlN)等を用いることができる。このうちSiO、Alは、CVD成膜で緻密な膜が容易に作製でき、より好ましい。
【0057】
本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子1によれば、第一p型コンタクト層14cが、第一p型コンタクト層第一層14cと、第一p型コンタクト層第一層14cよりもMg濃度の低い第一p型コンタクト層第二層14cの積層構造であるため、Mg濃度の高い第一p型コンタクト層第一層14cと、結晶性の高い第一p型コンタクト層第二層14cが形成される。このため、p型コンタクト層14b全体の結晶性を高く保ちつつ、かつ、Mg濃度を高くすることができる。これにより、III族窒化物半導体発光素子1の駆動電圧低下を実現できる。
また、各第一p型コンタクト層第二層14cのドーパント濃度が一定であるので、p型コンタクト層14b全体のキャリア濃度が均一になる。この結果、発光層13に対して正孔を多く注入することが可能となり、III族窒化物半導体発光素子1の高出力化が可能になる。
【0058】
また、第一p型コンタクト層14cのp型クラッド層14a側の面及び透光性電極15側の面にそれぞれ、第一p型コンタクト層第一層14cが配置されている。これにより、III族窒化物半導体発光素子1の発光効率を高めることができる。特に、最も透光性電極15側に配置した第一p型コンタクト層第一層14cは、第一p型コンタクト層14cからの不純物の拡散を遮断する機能も有している。
【0059】
また、p型コンタクト層14b全体の結晶性が高く保たれているため、p型コンタクト層14b上に結晶性の高い透光性電極15が形成される。以上により、III族窒化物半導体発光素子1の駆動電圧の低下を実現できる。また、III族窒化物半導体発光素子1の発光出力を向上させることができる。
【0060】
また、p型コンタクト層14bを、第一p型コンタクト層14cと、第一p型コンタクト層14cよりもMg濃度の高い第二p型コンタクト層14dとからなる二層構造とすることにより、p型コンタクト層14bのうち、透光性電極15と接する部分(第二p型コンタクト層14d)にMgを高濃度で含有させることができる。そのため、III族窒化物半導体発光素子1の駆動電圧の低下を実現できる。また、III族窒化物半導体発光素子1の発光出力をより向上させることが可能となる。
【0061】
以下、III族窒化物半導体発光素子1の製造方法について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明において参照する図面は、本発明を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際のIII族窒化物半導体発光素子1の寸法関係とは異なっている。
【0062】
図1に示す、本発明のIII族窒化物半導体発光素子1の製造方法は、一例として、まず、図2に示す積層半導体層20を製造する。積層半導体層20の製造方法は、基板11上にバッファ層21と下地層22と第一n型半導体層(nコンタクト層)12aと第二n型半導体層(nクラッド層)12bと、発光層13とp型半導体層14とを順次積層する第工程と、から概略構成されている。
以下、図2を用いて各工程について詳細に説明する。
【0063】
はじめに、例えば、サファイア等からなる基板11を用意する。
次に、基板11をMOCVD装置(第一有機金属化学気相成長装置)の成長室内に設置し、MOCVD法によって、基板11上に、バッファ層21を形成する。また、バッファ層21をスパッタ法によって形成して、その後基板11をMOCVD装置の成長室内に移して下地層22を形成してもよい。
【0064】
一例として、サファイア等からなる基板11上に、RFスパッタリング法を用いてAlNからなるバッファ層21を形成し、さらにMOCVD装置の成長室内で当該基板上に下地層22を順次積層してもよい。
【0065】
下地層22は0.1μm以上の膜厚で形成することが好ましく、0.5μm以上とすることがより好ましく、1μm以上とすることが最も好ましい。この膜厚以上にした方が結晶性の良好なコンタクト層12が得られやすい。また、III族窒化物半導体発光素子の小型化や、形成時間の短縮の観点により、下地層22の膜厚は10μm以下とすることが好ましい。
また、下地層22の結晶性を良くするために、下地層22には不純物をドーピングしないことが望ましい。
【0066】
次いで、前記下地層22を有する基板上に、nコンタクト層(第一n型半導体層)12aを積層する。n型コンタクト層12aは、MOCVD法で形成すれば良い。
nコンタクト層12aを成長させる際には、水素雰囲気で、基板11の温度を1000℃〜1200℃の範囲とすることが好ましい。
また、nコンタクト層12aを成長させる原料としては、トリメチルガリウム(TMG)またはトリエチルガリウム(TEG)などのIII族金属の有機金属原料とアンモニア(NH)などの窒素原料とを用い、熱分解によりバッファ層上にIII族窒化物半導体層を堆積させる。MOCVD装置の成長室内の圧力は15〜80kPaとすることが好ましい。
【0067】
次いで、nコンタクト層12a上に、nクラッド層12bを形成する。ここで、超格子構造のnクラッド層12bを形成する工程では、膜厚10nm以下のIII族窒化物半導体からなるn側第1層と、n側第1層と組成が異なる膜10nm以下のIII族窒化物半導体からなるn側第2層とを交互に20層〜80層繰返し積層する。また、n側第一層および/またはn側第二層は、Inを含む窒化ガリウム系化合物半導体からなるものであることが好ましい。
また、nクラッド層12bは、5nm〜500nmの膜厚で形成することが好ましい。
また、nクラッド層12bを成長させる際に用いるキャリアガスは窒素ガスのみであってもよいし、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスであってもよい。
【0068】
また、nクラッド層12bを成長させる原料としては、Ga源としてたとえば、トリメチルガリウム(TMG)またはトリエチルガリウム(TEG)を用いることができる。また、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)またはトリエチルアルミニウム(TEA)を用いることができる。
また、In源としてトリメチルインジウム(TMI)またはトリエチルインジウム(TEI)を用いることができる。また、V族原料であるN源としてアンモニア(NH)、ヒドラジン(N)などを用いることができる。また、n型不純物(ドーパント)原料としては、たとえば、Si原料であるモノシラン(SiH)またはジシラン(Si)などを用いることができる。
【0069】
次いで、多重量子井戸構造の発光層13を形成する。まず、井戸層13bと障壁層13aとを交互に繰返し積層する。このとき、n型半導体層12側及びp型半導体層14側に障壁層13aが配されるように積層する。
井戸層13bおよび障壁層13aの組成や膜厚は、所定の発光波長になるように適宜設定することができる。また、発光層13の成長させる際の基板温度は600〜900℃とすることができ、キャリアガスとしては窒素ガスを用いる。
【0070】
次いで、発光層13上にp型クラッド層14aを形成する。なお、p型クラッド層14aを、超格子構造を含む層とする場合には、膜厚10nm以下のIII族窒化物半導体からなるp側第一層と、p側第一層と組成が異なる膜厚10nm以下III族窒化物半導体からなるp側第二層とを交互に繰返し積層すればよい。このp型クラッド層14aの形成の際のキャリアガスとしては水素ガスを用いる。
【0071】
ここではたとえば、Al、Ga源及び窒素源を少なくとも含有する原料ガスと、Mg源を含むドーパントガスとを供給することにより、p型クラッド層14aを形成する。この時のp型クラッド層14aの成長速度は、p型コンタクト層14bの成長速度より遅く、たとえば5.1nm/minで形成される。
【0072】
次いで、p型クラッド層14a上にp型コンタクト層14bを形成する。以下、p型コンタクト層14bを形成する工程について詳細を説明する。
【0073】
はじめに、p型コンタクト層14bを形成する前に、予めp型クラッド層14aの表面に、Mg源を含むドーパントガスを第1の流量で供給することが好ましい。具体的には、p型クラッド層14aまで形成した基板11をMOCVD装置の反応室に配置し、基板11を加熱した状態で、Mg源を含むドーパントガスを第1の流量で供給する。
このようなドーパントガスとしては、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)等を用いることができる。
【0074】
この第1の流量としては、例えば、500〜1500sccmの範囲が好ましく、700〜1300sccmの範囲がより好ましく、800〜1000sccmの範囲が最も好ましい。第1の流量が上記範囲の下限値以上であれば、p型コンタクト層14bに供給されるMg量が不足することがない。このため、p型コンタクト層/pクラッド層界面のキャリア濃度を高くでき、VFを低くすることができる。また、p型コンタクト層/pクラッド層界面のキャリア濃度を高くできるため、p型コンタクト層14bの成長初期におけるMgの取り込みを安定させることができる。また、第1の流量が上記範囲の上限値以下であれば、Mgが過剰に含有されることによる結晶品質の低下を抑制できる。これにより、発光出力の低下を防ぐことができる。
【0075】
第1の流量でドーパントガスを流す時間は3秒〜120秒が好ましく、5〜60秒であることがより好ましい。なお、大流量でドーパントガスを流す場合の流通時間は短時間で良く、少流量の場合の流通時間は長時間とすることが好ましい。
【0076】
更に、基板11の温度の下限は、600℃以上、より好ましくは700℃以上、最も好ましくは800℃以上とする。また、基板11の温度の上限は、1300℃以下、より好ましくは1200℃以下、最も好ましくは1100℃以下とする。基板11の温度の下限を上記の通りとすることで、p型コンタクト層14bの成長初期のMgの取り込みを安定させることができる。また、基板11の温度の上限を上記の通りとすることで、発光層13に対するダメージを低減できる。
【0077】
次に、p型クラッド層14aの上に第一p型コンタクト層14cを形成する。
第一p型コンタクト層14cを形成する工程は、MOCVD法により第一p型コンタクト層第一層14cを形成する工程と、第一p型コンタクト層第一層14cよりもMg濃度の低い第一p型コンタクト層第二層14cを形成する工程とを交互に繰り返すことにより、第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cとが交互に複数積層されてなる構造を形成する。
【0078】
図3は、本実施形態のMg源を含むドーパントガス(例えばCpMg)を供給する工程と、p型コンタクト層14bのGa源を含む原料ガス(例えばTMG)を供給する工程との手順を説明する図である。図3の横軸は時間であり、縦軸はガスの流量である。
【0079】
まず、MOCVD法により、例えばキャリアガスとして水素(H)と、Ga源及び窒素源とを少なくとも含有する原料ガス、および前記第1の流量より少ない第2の流量のドーパントガスを供給することにより、p型クラッド層14a上に第一p型コンタクト層第一層14cを形成する。この際、キャリアガスと原料ガスとドーパントガスの総流量を一定に保つことが重要である。更に、このような条件でガスを供給することにより、第一p型コンタクト層第一層14cは、p型クラッド層14aの成長速度より速い、20nm/minの成長速度で形成される。
ここではたとえば、キャリアガスと、原料ガスとドーパントガスとを30秒間供給し、例えば、GaNからなる10nmの膜厚の第一p型コンタクト層第一層14cを形成する。
【0080】
第2の流量は、例えば、50〜750sccmの範囲が好ましく、70〜650sccmの範囲がより好ましく、80〜500sccmの範囲が最も好ましい。第2の流量が上記範囲の下限値以上であれば、第一p型コンタクト層第一層14cのドーパント濃度が不足することなく、p型コンタクト層14bのキャリア濃度を増加できる。また、第2の流量が上記範囲の上限値以下であれば、第一p型コンタクト層第一層14c中のMg濃度が過剰になることが防がれる。このため、p型コンタクト層14bの結晶性が向上し、III族窒化物半導体発光素子1の駆動電圧を低くできる。
なお、第2の流量が第1の流量と同じか、第1の流量よりも高くなると、p型クラッド層14aに近い領域のp型コンタクト層14bのキャリア濃度が不十分となる。これによりIII族窒化物半導体発光素子1の駆動電圧が増大し、発光出力が低下するため好ましくない。
また、第一p型コンタクト層第一層14cのMg濃度が5×1018〜5×1020cm−3となるように、第2の流量を適宜調節することが好ましい。
【0081】
次に、第一p型コンタクト層第二層14cを第一p型コンタクト層第一層14c上に形成する。
まず、Mg源を含むドーパントガスの供給を停止し、その状態で、第一p型コンタクト層第一層14c形成工程に用いたキャリアガスと原料ガスとを引き続き供給する。この時、ガスの総流量が、第一p型コンタクト層第一層14c形成の際のガスの総流量と同じになるように、キャリアガスの流量を調整する。
これにより、第一p型コンタクト層第二層14cは、例えば20nm/minの成長速度で形成される。
【0082】
ここではたとえば、キャリアガスと、原料ガスとを15秒間供給し、5nmの膜厚の第一p型コンタクト層第二層14cを形成する。
更に、第一p型コンタクト層第二層14cの形成温度の下限は、例えば基板11の温度として、600℃以上、より好ましくは700℃以上、最も好ましくは800℃以上とする。また、第一p型コンタクト層第二層14cの形成温度の上限は、基板11の温度として、1300℃以下、より好ましくは1200℃以下、最も好ましくは1100℃以下とする。形成温度の下限を上記の通りとすることで、第一p型コンタクト層第二層14cbの結晶性が高められ、発光特性を向上できる。また、形成温度の上限を上記の通りとすることで、発光層13に対するダメージを低減できる。
【0083】
また、第一p型コンタクト層第二層14cの成膜時の温度は、第一p型コンタクト層第一層14c成膜時の温度と異なっていても良いが、同じであることが好ましい。これら成膜時の温度を同じとすることで、余計な安定待ち時間を設けずに済む。このため、工程の短縮に効果がある。
特に本発明では、第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cを同じAlGa1−xNなる組成(xは0≦x≦0.4)の膜とするので、p型クラッド層14の形成工程における基板11の温度を、第一p型コンタクト層第一層14cの形成工程及び第一p型コンタクト層第二層14cの形成工程を通じて、常に一定にできる。これにより、基板11の温度の変更と安定化のために要する時間が不要となり、工程の短縮化が図られる。
以上により、第一p型コンタクト層第一層14cと同一の組成で、かつ、第一p型コンタクト層第一層14cよりもMg含有濃度が低い第一p型コンタクト層第二層14cが形成される。
【0084】
この後、原料ガスとキャリアガスを連続的に供給した状態でドーパントガスを間欠的に供給することにより、第一p型コンタクト層第一層14c形成工程と、第一p型コンタクト層第二層14c形成工程とを更に繰り返す。
【0085】
この際、各第一p型コンタクト層第一層14c形成工程においては、キャリアガスの流量を第2の流量のドーパントガスの分だけ、各第一p型コンタクト層第二層14c形成工程よりも減少させ、p型コンタクト層14b形成工程全体におけるキャリアガスと原料ガスとドーパントガスとの総流量を一定に保つことが好ましい。これにより、各第一p型コンタクト層第一層14cを形成する際のドーパントガスの供給による、成長室内の圧力変動を防ぐことができる。
このように、第一p型コンタクト層第一層14c形成の際のガスの総流量を第一p型コンタクト層第二層14c形成の際のガス総流量と等しくすることにより、p型コンタクト層14cの結晶品質が向上する。
【0086】
また、各第一p型コンタクト層第一層14c形成工程におけるドーパントガスの流量(第2の流量)は常に一定とすることが好ましい。これにより、p型コンタクト層14bを構成する複数の第一p型コンタクト層第一層14cのドーパント濃度を一定とすることができる。よって、p型コンタクト層14bのドーパントの分布を一定にすることができる。
【0087】
また、第一p型コンタクト層14c形成工程において、第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cのペア数は、1ペア以上が好ましく、また5ペア以上とすることがさらに好ましい。ペア数を5ペア以上とすることにより、p型コンタクト層14b全体のキャリア濃度を高めることができる。また、第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cのペア数は、逆方向電流抑制の観点から、20ペア以内が望ましい。
そして、第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cとのペアを形成した後、最後に第一p型コンタクト層第一層14cを形成する。以上により第一p型コンタクト層14cが形成される。
【0088】
p型コンタクト層14bの成長速度は、pクラッド層14aの成長速度よりも速いことが好ましく、p型クラッド層14aの成長速度の2倍以上が好ましく、3倍以上が特に好ましい。具体的には、p型コンタクト層14bの成長速度は、10nm/min〜30nm/minが好ましく、15nm/min〜25nm/minであることが特に好ましい。p型コンタクト層14bの成長速度が10nm/min未満の場合、p型コンタクト層14bに高濃度のドーパントを含有させにくく、30nm/min以上の場合は、p型コンタクト層14bの結晶性が低下するため好ましくない。
【0089】
その後、第一p型コンタクト層14c上に、Mgを1×1020/cm〜5×1020/cm程度の濃度で含有させた、第一p型コンタクト層14cよりもMg濃度の高い第二p型コンタクト層14dを形成することが好ましい。
【0090】
第二p型コンタクト層14d形成工程は、第一p型コンタクト層14c形成工程と同様に、第二p型コンタクト層第二層14dよりもMg濃度が高い第二p型コンタクト層第一層14dを形成する工程と、第二p型コンタクト層第二層14dを形成する工程とを交互に繰り返し、第二p型コンタクト層第一層14dと第二p型コンタクト層第二層14dとが交互に複数積層されてなり、第二p型コンタクト層14dの第一p型コンタクト層14c側の面及び透光性電極15側の面にそれぞれ、第二p型コンタクト層第一層14dが配置される構造を形成することが望ましい。
【0091】
まず初めに、第一p型コンタクト層14c上に、Mgを含有する第二p型コンタクト層第一層14dを形成する。
次いで、第二p型コンタクト層第一層14d上に、第二p型コンタクト層第一層14dよりもドーパント含有濃度の低い第二p型コンタクト層第二層14dを形成する。この際、第二p型コンタクト層第二層14dには、ドーパントを含有させないことが好ましい。そして、第二p型コンタクト層第一層14dと第二p型コンタクト層第二層14dとのペアを形成した後、最後に第二p型コンタクト層第一層14dを形成する。以上により第二p型コンタクト層14dが形成される。
【0092】
以上のように、p型コンタクト層14bを、第一p型コンタクト層14cと第二p型コンタクト層14dからなる二層構造とする場合には、p型コンタクト層14b全体の膜厚は、特に限定されないが、10〜500nmであることが好ましく、より好ましくは50〜200nmである。p型コンタクト層14bの膜厚がこの範囲であると、III族窒化物半導体発光素子1のVFの低下や、発光出力の向上の点で好ましい。なお、p型コンタクト層14b全体に占める第二p型コンタクト層14dの厚さは、p型コンタクト層14b全体の6%〜40%程度とすることが好ましい。
【0093】
これにより、透光性電極15と接する部分(p型コンタクト上層)にMgを高濃度で含有させ、かつ、その表面を平坦に形成することができる。そのため、III族窒化物半導体発光素子1のVFの低下、発光出力をより向上させることが可能となる。
以上のようにして、図2に示す積層半導体層20が製造される。
その後、積層半導体層20のp型半導体層14上に透光性電極15を積層し、例えば一般に知られたフォトリソグラフィーの手法によって所定の領域以外の透光性電極15を除去する。
【0094】
続いて、例えばフォトリソグラフィーの手法によりパターニングを行い、所定の領域の積層半導体層20の一部をエッチングする。このエッチングによりnコンタクト層12aの一部を露出させ、次いで、その露出面20aにn型電極17を形成する。
その後、透光性電極15の上にp型ボンディングパッド電極16を形成する。
以上のようにして、図1に示すIII族窒化物半導体発光素子1が製造される。
【0095】
本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子1の製造方法によれば、ドーパントガスを間欠的に供給するMOCVD法によりp型コンタクト層14bを形成する工程において、ドーパントガスを供給する際に前記キャリアガスの流量を減少させることにより、p型コンタクト層14bの形成中におけるキャリアガスと原料ガスとドーパントガスとの総流量を一定に保つことができる。このため、ドーパントガスを間欠的に供給する際の、成長室内における圧力の変動を防ぐことができる。
【0096】
このため、第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cの積層数を多くしても、ドーパントガスの流量の変動や、ドーパントガスを供給するタイミングのずれが生じない。よって、第一p型コンタクト層第一層14cと、第一p型コンタクト層第二層14cとを均一に積層することができる。
【0097】
図4は、本実施形態のIII族窒化物半導体発光素子1の製造方法により形成したp型コンタクト層14bと、従来のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法により形成したp型コンタクト層との、深さ方向のアクセプタ濃度を示したグラフである。図4の横軸は最表面(透光性電極15側)からの深さ、縦軸はアクセプタ濃度を示す。本発明によれば、従来技術に比較し、高品質の結晶性を反映して、電気的に活性化する割合が高く、抵抗が低いP型コンタクト層が得られる。
【0098】
図4に示すように、本実施形態の製造方法により形成したp型コンタクト層14bは、従来の方法により形成したp型コンタクト層と比べ、アクセプタ濃度が高い。また、透光性電極15側からの深さ方向の距離が大きくなっても、アクセプタ濃度の減少が抑えられる。よって、従来の製造方法と比べて、ドーパント濃度分布の均一なp型コンタクト層14bを形成することができる。
【0099】
以上のように、本実施形態によれば、結晶性が高く、かつ、ドーパント濃度分布の均一なp型コンタクト層14bを形成できる。その結果、III族窒化物半導体発光素子1のVFの低減、発光出力を向上できる。
【0100】
また、p型クラッド層14aの表面に、Mg源を含むドーパントガスを第1の流量で供給することにより、p型コンタクト層14bに供給するMg量が不足することがない。このため、p型コンタクト層14bのキャリア濃度を増加することができる。また、p型コンタクト層14bの成長初期におけるMgの取り込みを安定させることができる。
【0101】
また、p型コンタクト層14bを形成する工程において、最後に第一p型コンタクト層第一層14cを形成することにより、第一p型コンタクト層14cの、p型クラッド層14a側の面及び透光性電極15側の面にそれぞれ、第一p型コンタクト層第一層14cが配置される。これにより、III族窒化物半導体発光素子1のVFの低減、および発光出力の向上が可能となる。
【0102】
また、各第一p型コンタクト層第一層14c形成工程におけるドーパントガスの流量を一定とすることにより、p型コンタクト層14bを構成する複数の第一p型コンタクト層第一層14cのドーパント濃度を一定にできる。よって、p型コンタクト層14bのドーパントの分布を一定にすることができる。以上により、III族窒化物半導体発光素子1のVFの低減、および発光出力の向上が可能となる。
【0103】
また、p型コンタクト層14bを、第一p型コンタクト層14cと、第一p型コンタクト層14cよりもMg濃度の高い第二p型コンタクト層14dからなる二層構造とすることにより、p型コンタクト層14bのうちの透光性電極15と接する部分(第二p型コンタクト層14d)にMgを高濃度で含有させ、かつ、その表面を平坦に形成することができる。そのため、III族窒化物半導体発光素子1のVFの低減、および発光出力の向上が可能となる。
【0104】
<ランプ3>
本実施形態のランプ3は、本発明のIII族窒化物半導体発光素子1を備えるものであり、上記のIII族窒化物半導体発光素子1と蛍光体とを組み合わせてなるものである。本実施形態のランプ3は、当業者周知の手段によって当業者周知の構成とすることができる。例えば、本実施形態のランプ3においては、III族窒化物半導体発光素子1と蛍光体と組み合わせることによって発光色を変える技術を何ら制限されることなく採用できる。
【0105】
図5は、図1に示したIII族窒化物半導体発光素子1を備えるランプの一例を示した断面模式図である。図5に示すランプ3は、砲弾型のものであり、図1に示すIII族窒化物半導体発光素子1が用いられている。図5に示すように、III族窒化物半導体発光素子1のp型ボンディングパッド電極16がワイヤー33で2本のフレーム31、32の内の一方(図5ではフレーム31)に接続され、III族窒化物半導体発光素子1のn型電極17(ボンディングパッド)がワイヤー34で他方のフレーム32に接続されることにより、III族窒化物半導体発光素子1が実装されている。また、III族窒化物半導体発光素子1の周辺は、透明な樹脂からなるモールド35で封止されている。
【0106】
本実施形態のランプ3は、上記のIII族窒化物半導体発光素子1が用いられてなるものであるので、高い発光出力が得られるものとなる。
【0107】
また、本実施形態のランプ3を組み込んだバックライト、携帯電話、ディスプレイ、各種パネル類、コンピュータ、ゲーム機、照明などの電子機器や、それらの電子機器を組み込んだ自動車などの機械装置。は、高い発光出力が得られるIII族窒化物半導体発光素子1を備えたものとなる。特に、バックライト、携帯電話、ディスプレイ、ゲーム機、照明などのバッテリ駆動させる電子機器においては、低VFおよび高発光出力のIII族窒化物半導体発光素子1を具備した、優れた製品を提供することができるため、好ましい。
【実施例】
【0108】
以下に、本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1)
以下に示す方法により、図1に示すIII族窒化物半導体発光素子1を製造した。
実施例1のIII族窒化物半導体発光素子1では、MOCVD炉の成長室内において、AlNからなるバッファ層21を予め形成したサファイア基板11上に、厚さ6μmのアンドープGaNからなる下地層22を形成した。このとき、下地層22の形成の際の基板温度は1100℃とした。
【0109】
その後、下地層22上に厚さ2μmのSiドープn型GaNからなるnコンタクト層12aを形成した。nコンタクト層12aのSi不純物濃度は、5×1018/cm程度とした。また、nコンタクト層12a形成の際の基板温度は1080℃、成長室内の圧力は40kPaとした。
【0110】
次に、nコンタクト層12a上に、厚さ80nmの超格子構造からなるnクラッド層12bを形成した。次いで、その上に、厚さ5nmのSiドープGaN障壁層および厚さ2.5nmのGa0.8In0.2N井戸層を交互にそれぞれ5回ずつ積層し、最後に障壁層を設けた多重量子井戸構造の発光層13を積層した。これらの膜はいずれも、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)、アンモニア(NH)、シラン(SiH)等を反応ガスに用いたMOCVD法によって形成した。
次いで、p型クラッド層14aを形成した。
【0111】
次いで、p型クラッド層14a上に、p型コンタクト層14bを形成した。ここで、p型コンタクト層14bは、以下に示す成長条件で成長させた。
【0112】
「p型コンタクト層14bの成長条件」
まず、上述の各工程に引き続き、同じMOCVD装置を用いて、p型クラッド層14a上に、50.7l/minの流量の窒素ガス(キャリアガス)と、トリメチルガリウム(TMG)とアンモニアとを含む原料ガスと、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)からなるドーパントガスと、を連続的に30秒間供給し、10nmの膜厚の第一p型コンタクト層第一層14cを形成した。この時のドーパントガスの流量(第2の流量)は、0.30l/minとした。以上により、5×1019cm−3のMg濃度の第一p型コンタクト層第一層14cが形成された。
次いで、原料ガスを連続的に供給するとともにドーパントガス供給を停止し、51.0l/minの流量の窒素ガス(キャリアガス)を15秒間供給した。これにより、5nmの膜厚の第一p型コンタクト層第二層14cを形成した。
【0113】
この後、上記工程を繰り返すことにより、GaNなる組成の第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cとを12ペア数積層した。最後に、第一p型コンタクト層第一層14cを形成することにより、第一p型コンタクト層14cを形成した。
また、p型コンタクト層14b全体の厚みは180nmとなった。
【0114】
その後、p型コンタクト層14b上に、厚さ200nmのITOからなる透光性電極15を一般に知られたフォトリソグラフィの手法により形成した。
次に、フォトリソグラフィの手法を用いてエッチングを施し、所望の領域にnコンタクト層12aの露出面20aを形成し、その上にTi/Auの二層構造のn型電極17を形成した。
【0115】
また、透光性電極15の上に、200nmのAlからなる金属反射層と80nmのTiからなるバリア層と1100nmのAuからなるボンディング層とからなる3層構造のp型ボンディングパッド構造16を、フォトリソグラフィの手法を用いて形成した。
以上のようにして、実施例1のIII族窒化物半導体発光素子1を得た。
【0116】
このようにして得られた実施例1のIII族窒化物半導体発光素子1の特性は、順方向電流20mAにおいて順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=24mW、逆方向電流IR(@20V)=0.2μAであった。
【0117】
(実施例2)
実施例1の第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cとのペア数を18とし、膜厚270nmの第一p型コンタクト層14c(p型コンタクト層14b)を形成した以外は、実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=2.9V、発光出力Po=24mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0118】
(実施例3)
実施例1の第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cとのペア数を6とし、膜厚90nmの第一p型コンタクト層14c(p型コンタクト層14b)を形成した以外は、実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=25mW、逆方向電流IR(@20V)=0.3μAであった。
【0119】
(実施例4)
実施例1のドーパントガスの流量(第2の流量)を、0.60l/minとし、その時のキャリアガスを50.4l/minとし、これらのガスの総流量を一定とし、第一p型コンタクト層第二層14cのMg濃度を8×1019cm−3とした以外は、実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=23mW、逆方向電流IR(@20V)=0.2μAであった。
【0120】
(実施例5)
実施例1のドーパントガスの流量(第2の流量)を、0.10l/minとし、その時のキャリアガスを50.9l/minとし、これらのガスの総流量を一定とし、Mg濃度2×1019cm−3の第一p型コンタクト層第一層14cを形成した以外は、実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=2.9V、発光出力Po=24mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0121】
(実施例6)
実施例1の第一p型コンタクト層14c形成工程の後に、Mg源を含むドーパントガスを0.90l/minの流量で供給しながら、Ga0.99In0.01Nなる組成の、Mg濃度1.0×1020cm−3の第二p型コンタクト層14dを30nmの膜厚で形成した以外は実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=2.9V、発光出力Po=24mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0122】
(実施例7)
実施例1の第一p型コンタクト層14c形成工程の後に、Mg源を含むドーパントガスを1.20l/minの流量で供給しながら、GaNなる組成の、Mg濃度2.0×1020cm−3の第二p型コンタクト層14dを30nmの膜厚で形成した以外は実施例6と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=2.8V、発光出力Po=24mW、逆方向電流IR(@20V)=0.2μAであった。
【0123】
(実施例8)
実施例1の第一p型コンタクト層14c形成工程の後に、Mg源を含むドーパントガスを0.90l/minの流量で供給しながら、Al0.01Ga0.99Nなる組成の、Mg濃度1.0×1020cm−3の第二p型コンタクト層14dを10nmの膜厚で形成した以外は実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=24mW、逆方向電流IR(@20V)=0.4μAであった。
【0124】
(実施例9)
実施例1の第一p型コンタクト層14c形成工程の前に、p型クラッド層14aの表面に、Mg源を含むドーパントガスを0.90l/minの流量(第1の流量)で供給した以外は、実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=2.9V、発光出力Po=23mW、逆方向電流IR(@20V)=0.1μAであった。
【0125】
(比較例1)
ドーパントガスの流量を変えずに連続的に供給することにより、第一p型コンタクト層第一層14cのみからなる第一p型コンタクト層14cを形成した以外は、実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=3.3V、発光出力Po=20mW、逆方向電流IR(@20V)=2.4μAであった。
【0126】
(比較例2)
実施例1の第一p型コンタクト層第一層14c形成の際に、51.0l/minの流量のキャリアガスを供給し、第一p型コンタクト層第二層14c形成の際にも、51.0l/minの流量のキャリアガスを連続して供給した以外は、実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=3.4V、発光出力Po=18mW、逆方向電流IR(@20V)=2.1μAであった。
【0127】
(比較例3)
実施例1の第一p型コンタクト層第一層14c形成の際に、50.7l/minの流量のキャリアガスと0.10l/minのドーパントガスを供給して、Mg濃度3.0×1018cm−3の第一p型コンタクト層第一層14cを形成し、第一p型コンタクト層第二層14c形成の際に51.0l/minの流量のキャリアガスを供給した以外は、実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=3.2V、発光出力Po=15mW、逆方向電流IR(@20V)=3.5μAであった。
【0128】
(比較例4)
実施例1の第一p型コンタクト層第一層14c形成の際に50.7l/minの流量のキャリアガスと、0.60l/minのドーパントガスとを供給してMg濃度6.0×1020cm−3の第一p型コンタクト層第一層14cを形成し、第一p型コンタクト層第二層14c形成の際に51.0l/minの流量のキャリアガスを供給した以外は、実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=3.2V、発光出力Po=17mW、逆方向電流IR(@20V)=5.0μAであった。
【0129】
(比較例5)
実施例1の第一p型コンタクト層第一層14c形成の際に、51.0l/minの流量のキャリアガスと0.30l/minのドーパントガスとを供給し、第一p型コンタクト層第二層14c形成の際に、51.0l/minの流量のキャリアガスを供給するとともに、第一p型コンタクト層第一層14cと第一p型コンタクト層第二層14cとのペア数を30として、膜厚450nmの第一p型コンタクト層14c(p型コンタクト層14b)を形成した以外は、実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=3.3V、発光出力Po=12mW、逆方向電流IR(@20V)=7.0μAであった。
【0130】
(比較例6)
実施例1の第一p型コンタクト層第一層14c形成の際に51.0l/minの流量のキャリアガスと0.30l/minのドーパントガスとを供給し、第一p型コンタクト層第二層14c形成の際に51.0l/minの流量のキャリアガスを供給した。その後、Mg源を含むドーパントガスを0.10l/minの流量で供給しながら、GaNなる組成の、Mg濃度4.0×1018cm−3の第二p型コンタクト層14dを30nmの膜厚で形成した以外は実施例1と同様な操作を行い、順方向電圧Vf=3.6V、発光出力Po=15mW、逆方向電流IR(@20V)=4.2μAであった。
【0131】
実施例1〜実施例9、比較例1〜比較例6のIII族窒化物半導体発光素子の順方向電圧、発光出力(Po)、逆方向電流(IR)の結果を表1に示す。
なお、実施例及び比較例のIII族窒化物半導体発光素子1を実装した場合の順方向電圧Vfおよび発光出力(Po)は、印加電流を20mAとした場合に測定したものである。また、逆方向電流(IR)は、発光素子に対して端子を逆方向に20V印加した時の漏れ電流を測定した時の値である。
【0132】
【表1】

【0133】
表1に示すように、実施例1〜実施例9のIII族窒化物半導体発光素子1はいずれも、逆方向電流(IR)が低く、また、比較的低い順方向電圧が得られた。また、いずれのIII族窒化物半導体発光素子1も、発光出力(Po)が20mW以上となり、高出力で低消費電力であった。
【0134】
一方、比較例1〜比較例6で得られたIII族窒化物半導体発光素子1では、実施例1〜実施例9と比較して発光出力(Po)が低く、順方向電圧が比較的高く、かつ、漏れ電流(逆方向電流(IR))の値が大きかった。
【0135】
以上により、実施例1〜実施例9で得られたIII族窒化物半導体発光素子1は、効果的に、順方向電圧および発光出力を向上させることができた。また、比較例1〜比較例6のIII族窒化物半導体発光素子1と比較して、漏れ電流が小さく高い発光出力が得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0136】
1…III族窒化物半導体発光素子、3…ランプ、12…n型半導体層、12a…nコンタクト層、12b…nクラッド層、13…発光層、14…p型半導体層、14a…p型クラッド層、14b…p型コンタクト層、14c…第一p型コンタクト層、14c…第一p型コンタクト層第一層、14c…第一p型コンタクト層第二層、14d…第二p型コンタクト層、14d…第二p型コンタクト層第一層、14d…第二p型コンタクト層第二層、22…下地層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にn型半導体層と多重量子井戸構造からなる発光層とp型クラッド層とを順次積層した後、キャリアガスとGa源及び窒素源を含む原料ガスとを連続的に供給するとともに、Mg源を含むドーパントガスを間欠的に供給するMOCVD法により、前記p型クラッド層上にAlGaInN(0≦x≦0.1、0≦y≦1、0≦z≦0.1、x+y+z=1)のp型コンタクト層を形成する工程を有し、
前記ドーパントガスを供給する際に前記キャリアガスの流量を減少させることにより、前記p型コンタクト層の形成中における前記キャリアガスと原料ガスとドーパントガスとの総流量を一定に保つことを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記p型コンタクト層の形成工程が、
前記原料ガスを連続的に供給するとともに、前記ドーパントガスを間欠的に供給するMOCVD法により、前記p型クラッド層上に第一p型コンタクト層を形成する工程と、
前記原料ガスを連続的に供給するとともに、前記ドーパントガスを前記第一p型コンタクト層形成工程よりも高濃度で連続的に供給するMOCVD法により、前記第一p型コンタクト層上に、第二p型コンタクト層を形成する工程と、を有することを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記p型コンタクト層の形成工程が、
前記p型クラッド層の表面に、前記ドーパントガスを第1の流量で供給する工程と、
前記原料ガスを連続的に供給するとともに、前記ドーパントガスを前記第1の流量よりも少ない第2の流量で間欠的に供給するMOCVD法により、前記p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成する工程と、を有することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
基板上にn型半導体層と多重量子井戸構造からなる発光層とp型クラッド層とAlGaInN(0≦x≦0.1、0≦y≦1、0≦z≦0.1、x+y+z=1)なる組成のp型コンタクト層とが積層されてなるIII族窒化物半導体発光素子であって、前記p型コンタクト層が、Mgが含有された第一p型コンタクト層第一層と、前記第一p型コンタクト層第一層よりもMg含有濃度の低い第一p型コンタクト層第二層とが交互に積層されてなることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記p型コンタクト層が、第一p型コンタクト層と第二p型コンタクト層とが積層してなり、
前記第二p型コンタクト層に、Mgが前記第一p型コンタクト層よりも高い濃度で含有されてなることを特徴とする請求項4に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
請求項4または請求項5のいずれかに記載のIII族窒化物半導体発光素子を備えることを特徴とするランプ。
【請求項7】
請求項6に記載のランプが組み込まれていることを特徴とする電子機器。
【請求項8】
請求項7に記載の電子機器が組み込まれていることを特徴とする機械装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−248765(P2012−248765A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120965(P2011−120965)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】