説明

III族窒化物複合基板の製造方法

【課題】支持基板とIII族窒化物層との接合が良好なIII族窒化物複合基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本III族窒化物複合基板の製造方法は、目標とする基板径より大きい径の主面10mを有する支持基板10と、目標とする基板径より大きい径の主面30nを有しその主面30nから所定の深さの位置にイオン注入領域30iが形成されたIII族窒化物基板30とを、中間層20を介在させて貼り合わせ、III族窒化物基板30をイオン注入領域30iにおいてIII族窒化物層30aと残りのIII族窒化物基板30bとに分離することにより、支持基板10上に中間層20を介在させてIII族窒化物層30aが接合された第1のIII族窒化物複合基板1を形成し、第1のIII族窒化物複合基板1の外周部を除去することにより目標とする基板径に等しい径の主面を有する第2のIII族窒化物複合基板2を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持基板とIII族窒化物層との接合が良好なIII族窒化物複合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光デバイス、電子デバイスなどの半導体デバイスとして好適に用いられるIII族窒化物半導体デバイスを効率よく製造するために、支持基板とIII族窒化物層が接合されたIII族窒化物複合基板が用いられている。
【0003】
たとえば、特開2006−210660号公報(特許文献1)は、シリコン基板などの支持基板にイオン注入法を用いて窒化物半導体膜を形成する半導体基板の製造方法を開示する。特開2008−300562号公報(特許文献2)は、支持基板である下地基板とIII族窒化物半導体層との間の熱膨張係数の差が小さい下地基板とIII族窒化物半導体層とが貼り合わされたIII族窒化物半導体層貼り合わせ基板を開示する。
【0004】
また、有用層を提供する源基板と支持基板との間の接合の有効面積を大きくするために、特表2005−533395号公報(特許文献3)は、源基板径を支持基板径よりも大きくして、源基板および支持基板のいずれかの外周部(基板の主面の外周近傍部分をいう。以下同じ。)にメサを形成することを開示し、特表2005−533397号公報(特許文献4)は、源基板径を支持基板系より大きくすることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−210660号公報
【特許文献2】特開2008−300562号公報
【特許文献3】特表2005−533395号公報
【特許文献4】特表2005−533397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2006−210660号公報(特許文献1)および特開2008−300562号公報(特許文献2)に開示されるイオン注入法を用いた貼り合わせ基板の製造方法においては、支持基板の反り、中間膜の不均一、イオン注入の不均一、支持基板、源基板および中間層などの研磨後における研磨残渣の除去の不十分、貼り合わせの際における荷重の不均一、支持基板および源基板などのハンドリングの際におけるゴミの付着などにより、貼り合わせ基板の外周部においてIII族窒化物層の接合不良箇所が生じ易いという問題点があった。
【0007】
また、特表2005−533395号公報(特許文献3)および特表2005−533397号公報(特許文献4)に開示される貼り合わせ基板の製造方法においては、支持基板の外周部における有用層の接合不良が抑制され有効面積が大きくなるが、有用層を提供する源基板の主面のサイズと支持基板の主面のサイズとが異なることにより、源基板と支持基板との貼り合わせの際の源基板および支持基板の外周部における応力集中およびそれに伴う反りおよび割れなどの発生という問題点があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決して、支持基板とIII族窒化物層との接合が良好なIII族窒化物複合基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、目標とする基板径があって、上記目標とする基板径より大きい径の主面を有する支持基板と、上記目標とする基板径より大きい径の主面を有しその主面から所定の深さの位置にイオン注入領域が形成されたIII族窒化物基板とを、中間層を介在させて、貼り合わせる工程と、III族窒化物基板をイオン注入領域においてIII族窒化物層と残りのIII族窒化物基板とに分離することにより、支持基板上に中間層を介在させてIII族窒化物層が接合された第1のIII族窒化物複合基板を形成する工程と、第1のIII族窒化物複合基板の外周部を除去することにより上記目標とする基板径に等しい径の主面を有する第2のIII族窒化物複合基板を得る工程と、を含むIII族窒化物複合基板の製造方法である。
【0010】
本発明にかかるIII族窒化物複合基板の製造方法において、支持基板の主面の径とIII族窒化物基板の主面の径とを同じにすることができる。また、第2のIII族窒化物複合基板を得る工程において、第1のIII族窒化物複合基板の外周部の除去は、第1のIII族窒化物複合基板における支持基板とIII族窒化物層との接合部分の外周で囲まれた領域内に、第2のIII族窒化物複合基板の主面の外周が含まれるように行なうことができる。また、第2のIII族窒化物複合基板を得る工程において、第1のIII族窒化物複合基板の外周部の除去は、第1のIII族窒化物複合基板の主面の外周と第2のIII族窒化物複合基板の主面の外周との最短距離が5mm以上となるように行なうことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、支持基板とIII族窒化物層との接合が良好なIII族窒化物複合基板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明にかかるIII族窒化物複合基板の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明にかかるIII族窒化物複合基板の製造方法の第2のIII族窒化物複合基板を得る工程において、第1のIII族窒化物複合基板に対する第2のIII族窒化物複合基板の位置関係の一例を示す概略平面図である。
【図3】本発明にかかるIII族窒化物複合基板の製造方法の第2のIII族窒化物複合基板を得る工程において、第1のIII族窒化物複合基板に対する第2のIII族窒化物複合基板の位置関係の別の例を示す概略平面図である。
【図4】本発明にかかるIII族窒化物複合基板の製造方法の第2のIII族窒化物複合基板を得る工程において、第1のIII族窒化物複合基板の外周部を除去する別の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照して、本発明の一実施形態であるIII族窒化物複合基板の製造方法は、目標とする基板径があって、上記目標とする基板径より大きい径の主面10mを有する支持基板10と、上記目標とする基板径より大きい径の主面30nを有しその主面30nから所定の深さの位置にイオン注入領域30iが形成されたIII族窒化物基板30とを、中間層20を介在させて、貼り合わせる工程(図1(A)〜(C))と、III族窒化物基板30をイオン注入領域30iにおいてIII族窒化物層30aと残りのIII族窒化物基板30bとに分離することにより、支持基板10上に中間層20を介在させてIII族窒化物層30aが接合された第1のIII族窒化物複合基板1を形成する工程(図1(D))と、第1のIII族窒化物複合基板1の外周部1pを除去することにより上記目標とする基板径に等しい径の主面を有する第2のIII族窒化物複合基板2を得る工程と、を含む。
【0014】
本実施形態のIII族窒化物基板の製造方法によれば、支持基板10とIII族窒化物層30aとの接合が良好なIII族窒化物複合基板が歩留よく得られる。
【0015】
[支持基板とIII族窒化物基板との貼り合わせ工程]
図1(A)〜(C)を参照して、本実施形態のIII族窒化物複合基板の製造方法は、まず、目標とする基板径があって、その目標とする基板径より大きい径の主面10mを有する支持基板10と、その目標とする基板径より大きい径の主面30nを有しその主面30nから所定の深さの位置にイオン注入領域30iが形成されたIII族窒化物基板30とを、中間層20を介在させて、貼り合わせる工程を含む。ここで、さらに図1(E)を参照して、目標とする基板径とは、本実施形態のIII族窒化物基板の製造方法により得られる、支持基板10とIII族窒化物層30aとの接合が良好な第2のIII族窒化物複合基板2の主面の径を意味する。
【0016】
上記の貼り合わせ工程は、特に制限はないが、支持基板10とIII族窒化物基板30との接合強度を高くする観点から、たとえば、支持基板10の主面10m上に中間層20aを形成するサブ工程(図1(A))と、III族窒化物基板30の主面30n上に中間層20bを形成し、III族窒化物基板30の主面30nから所定の深さの位置にイオン注入領域30iを形成するサブ工程(図1(B))と、支持基板10に形成された中間層20aとIII族窒化物基板30に形成された中間層20bとを貼り合わせるサブ工程(図1(C))と、を含むことが好ましい。
【0017】
(支持基板に中間層を形成するサブ工程)
図1(A)を参照して、支持基板10の主面10m上に中間層20aを形成する。支持基板10は、それに接合されるIII族窒化物層を支持できる基板であれば特に制限はなく、GaN支持基板などのIII族窒化物支持基板、Si支持基板、SiC支持基板、サファイア支持基板、SiO2−Al23支持基板などの複合酸化物基板、W基板、Mo基板、Cu基板などの金属基板、W、MoおよびCuからなる群から選ばれる2以上の金属を含む合金基板などが好適に用いられる。さらに、III族窒化物層上に結晶品質のよいIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる観点から、III族窒化物の熱膨張係数と同一または近似の熱膨張係数を有する支持基板が好ましく、たとえば、GaN支持基板などのIII族窒化物支持基板、SiO2−Al23支持基板などの複合酸化物支持基板、Mo支持基板などの金属基板などが好ましい。
【0018】
中間層20aは、特に制限はないが、支持基板10とIII族窒化物基板30との接合強度を高める観点から、SiO2層などのケイ素酸化物層、Si34層などのケイ素窒化物層、Al23層、TiO2層などの金属酸化物層、AlN層、TiN層などの金属窒化物層、SiO2−Al23層、SiO2−ZrO2層などの複合酸化物層などが好ましい。また、中間層20aの厚さは、特に制限はないが、上記接合強度を高く保持するとともに、支持基板10と中間層20aとの間の熱膨張係数の差による熱応力の影響を抑制する観点から、10nm以上3μm以下が好ましい。
【0019】
中間層20aを形成する方法は、その中間層20aの形成に適している限り特に制限はないが、品質のよい中間層20aを効率的に形成する観点から、スパッタ法、CVD(化学気相堆積)法、PLD(パルスレーザ堆積)法、MBE(分子線成長)法、電子線蒸着法などが好ましい。
【0020】
さらに、中間層20aは、支持基板10とIII族窒化物基板との接合強度を高める観点から、その主面を鏡面(たとえば、JIS B 0601:2001に規定される算術平均粗さRaが5nm以下の鏡面)に研磨することが好ましい。中間層20aの主面を研磨する方法は、特に制限はなく、たとえばCMP(化学機械的研磨)などが用いられる。
【0021】
(III族窒化物基板に中間層およびイオン注入領域を形成するサブ工程)
図1(B)を参照して、III族窒化物基板30の主面30n上に中間層20bを形成し、III族窒化物基板30の主面30nから所定の深さの位置にイオン注入領域30iを形成する。
【0022】
III族窒化物基板30は、後工程における分離によりIII族窒化物層30aを形成させるものであり、III族窒化物層30aと同じ結晶方位を有するIII族窒化物結晶(好ましくはIII族窒化物単結晶)で形成されている。かかるIII族窒化物基板を準備する方法は、特に制限はないが、結晶性のよいIII族窒化物基板を得る観点から、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOVPE(有機金属気相成長)法、MBE法、昇華法などの気相法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相法などが好適である。
【0023】
中間層20aおよび中間層20bを形成する方法は、上記の中間層20aおよび中間層20aを形成する方法とそれぞれ同様であるため、ここでは繰り返さない。
【0024】
III族窒化物基板30の主面30nから所定の深さの位置にイオン注入領域30iを形成することは、III族窒化物基板30の主面30n上に形成された中間層20b側からイオンIを注入することにより行なう。注入するイオンIは、イオン注入されるIII族窒化物層30aの結晶性の低下を抑制する観点から、質量の小さいイオンが好ましく、たとえば水素イオン、ヘリウムイオンなどが好ましい。また、イオンIが注入される所定の深さは、主面30nから50nm以上1000nm以下の深さが好ましい。
【0025】
さらに、III族窒化物基板30にイオン注入領域30iを形成した後、中間層20bは、支持基板10とIII族窒化物基板との接合強度を高める観点から、その主面を鏡面(たとえば、JIS B 0601:2001に規定される算術平均粗さRaが5nm以下の鏡面)に研磨することが好ましい。中間層20bの主面を研磨する方法は、特に制限はなく、たとえばCMP(化学機械的研磨)などが用いられる。
【0026】
なお、図1(A)に示す支持基板10に中間層20aを形成するサブ工程と、図1(B)に示すIII族窒化物基板30に中間層20bおよびイオン注入領域30iを形成するサブ工程とは、いずれのサブ工程を先に行なってもよく、併行して行なってもよく、また、同時に行なってもよい。
【0027】
(支持基板とIII族窒化物基板とを貼り合わせるサブ工程)
図1(C)を参照して、次いで、支持基板10に形成された中間層20aとIII族窒化物基板30に形成された中間層20bとを貼り合わせる。その貼り合わせ方法は、特に制限はなく、貼り合わせ面を洗浄しそのまま貼り合わせた後600℃〜1200℃程度に昇温して接合する直接接合法、貼り合わせ面を洗浄しプラズマやイオンなどで活性させた後に室温(たとえば25℃)〜400℃程度の低温で接合する表面活性化法などが好適である。かかる貼り合わせにより、中間層20aと中間層20bとが接合により一体化して中間層20が形成され、支持基板10とIII族窒化物基板30とが中間層20を介在させて接合される。
【0028】
本実施形態においては、支持基板10およびIII族窒化物基板30のそれぞれに中間層20a,20bを形成した後貼り合わせる方法を示したが、支持基板10およびIII族窒化物基板30のいずれかのみに中間層を形成した後貼り合わせてもよい。
【0029】
[第1のIII族窒化物複合基板を形成する工程]
図1(D)を参照して、本実施形態のIII族窒化物複合基板の製造方法は、次に、III族窒化物基板30をイオン注入領域30iにおいてIII族窒化物層30aと残りのIII族窒化物基板30bとに分離することにより、支持基板10上に中間層20を介在させてIII族窒化物層30aが接合されたIII族窒化物複合基板を形成する工程を含む。
【0030】
III族窒化物基板30をイオン注入領域30iにおいて分離する方法は、III族窒化物基板30のイオン注入領域30iに何らかのエネルギーを与える方法であれば特に制限はなく、イオン注入領域30iに、応力を加える方法、熱を加える方法、光を照射する方法、および超音波を印加する方法の少なくともいずれかの方法が可能である。
【0031】
かかるイオン注入領域30iは、注入されたイオンにより脆化しているため、上記エネルギーを受けることにより、III族窒化物基板30は、支持基板10上の中間層20上に貼りあわされたIII族窒化物層30aと、残りのIII族窒化物基板30bと、に容易に分離される。
【0032】
上記のようにして、支持基板10上の中間層20上にIII族窒化物層30aを形成することにより、支持基板10と、支持基板10上に配置されている中間層20と、中間層20上に配置されているIII族窒化物層30aと、を含む第1のIII族窒化物複合基板1が得られる。
【0033】
上記のようにして得られる第1のIII族窒化物複合基板1は、支持基板10の反り、中間層20の不均一、イオン注入の不均一、支持基板10およびIII族窒化物基板30に形成された中間層20a,20bなどの研磨後における研磨残渣の除去の不十分、貼り合わせの際における荷重の不均一、支持基板10およびIII族窒化物基板30などのハンドリングの際におけるゴミの付着などにより、図1(D)、図2および図3に示すように、第1のIII族窒化物複合基板1の主面の外周部においてIII族窒化物層30aの非接合部分が発生する場合が多く、かかる非接合部分では、III族窒化物基板30をイオン注入領域30iにおいて分離する際に、III族窒化物層30aが中間層20上に残らずまたはIII族窒化物層30aおよび中間層20の一部(たとえば図1(C)の中間層20bに対応する部分)が中間層20の一部(たとえば図1(C)の中間層20aに対応する部分)上に残らず中間層20の主面の一部が露出して中間層露出部20eとなり、あるいは、III族窒化物層30aおよび中間層20が支持基板10上に残らず支持基板10の主面の一部が露出して支持基板露出部10eとなる。上記の中間層露出部20eおよび支持基板露出部10eをあわせて、下地露出部1eという。ここで、第1のIII族窒化物複合基板1の主面におけるIII族窒化物層30aの接合部分および下地露出部1e(中間層露出部20eおよび支持基板露出部10e)は、光学顕微鏡を用いた観察により容易に区別することができる。
【0034】
上記のような下地露出部1eを主面の外周部に有する第1のIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物層30a上に半導体層をエピタキシャル成長をさせると、第1のIII族窒化物複合基板1の下地露出部1e上に異常成長物が形成される。この異常成長物の形状は、エピタキシャル成長の条件により様々であるが、しばしば数十〜数百μmの突起を形成し、たとえばフォトリソグラフィー時にフォトマスクなどに傷をつけ欠損させたり、別基板との貼り合わせプロセスにおいて主面全体での良好な貼り合わせを妨げたり、といった不具合の原因となる。また、この異常成長物が存在する範囲は、本来意図したエピタキシャル成長がなされていないため、この範囲に作製されたデバイスからは期待通りの性能が発揮されない。以上のように、下地露出部1eの存在は半導体デバイスの製造の妨げとなる。このため、本実施形態のIII族窒化物複合基板の製造方法においては、上記のような第1のIII族窒化物複合基板1の主面の外周部における下地露出部1eを除去するために、さらに以下の工程を含む。
【0035】
[第2のIII族窒化物複合基板を得る工程]
図1(D)〜(E)、図2および図3を参照して、本実施形態のIII族窒化物複合基板の製造方法は、次に、第1のIII族窒化物複合基板1の外周部1pを除去することにより目標とする基板径に等しい径の主面を有する第2のIII族窒化物複合基板を得る工程を含む。すなわち、第1のIII族窒化物複合基板1から、第1のIII族窒化物複合基板1の主面の外周部に形成された下地露出部1e(III族窒化物層30aの非接合部分)を除去することにより、主面全面にわたり支持基板10とIII族窒化物層30aとが良好に接合されている、言い換えれば、下地露出部1eがない第2のIII族窒化物複合基板2が得られる。
【0036】
ここで、図1(D)〜(E)、図2および図3を参照して、第2のIII族窒化物複合基板2を得る工程において、第1のIII族窒化物複合基板1の外周部1pの除去は、第1のIII族窒化物複合基板1における支持基板10とIII族窒化物層30aとの接合部分の外周30arで囲まれた領域内に、第2のIII族窒化物複合基板2の主面の外周30asが含まれるように行なうことが好ましい。このような第1のIII族窒化物複合基板1の外周部1pの除去方法により、主面全面にわたり支持基板10とIII族窒化物層30aとが良好に接合された第2のIII族窒化物複合基板2が確実に得られる。
【0037】
また、第2のIII族窒化物複合基板2を得る工程において、第1のIII族窒化物複合基板1の外周部1pの除去は、第1のIII族窒化物複合基板1の主面の外周20rと第2のIII族窒化物複合基板2の主面の外周30asとの最短距離が5mm以上となるように行なうことが好ましい。第1のIII族窒化物複合基板1において、下地露出部1e(III族窒化物層30aの非接合部分)は、第1のIII族窒化物複合基板1の主面の外周20rから5mmまでの外周部にほとんど存在しているため、第1のIII族窒化物複合基板1の主面の外周20rから少なくとも5mmの部分を除去することにより、主面全面にわたり支持基板10とIII族窒化物層30aとが良好に接合された第2のIII族窒化物複合基板2が歩留よく得られる。かかる観点から、第1のIII族窒化物複合基板1の主面の外周20rと第2のIII族窒化物複合基板2の主面の外周30asとの最短距離を10mm以上とすることが、より好ましい。
【0038】
また、図2および図3を参照して、第1のIII族窒化物複合基板1の外周部1pを除去することにより第2のIII族窒化物複合基板2を得る方法は、第1のIII族窒化物複合基板1の主面の外周部に形成される下地露出部1e(中間層露出部20eおよび支持基板露出部10e、すなわちIII族窒化物層30aの非接合部分)の形状に対応して、図2に示すように第1のIII族窒化物複合基板1の主面の外周20rの中心点と第2のIII族窒化物複合基板2の主面の外周30asの中心点とが一致するようにしてもよく、図3に示すように第1のIII族窒化物複合基板1の主面の外周20rの中心点と第2のIII族窒化物複合基板2の主面の外周30asの中心点とが一致しないようにしてもよい。
【0039】
ここで、図1(E)および図4を参照して、第2のIII族窒化物複合基板2を得る工程において、第1のIII族窒化物複合基板1の外周部1pを除去する方法には、特に制限はないが、第1のIII族窒化物複合基板1の外周部1pを効率的に除去する観点から、第1のIII族窒化物複合基板1の外周部1pを切削、研削および研磨の少なくともいずれかにより除去する方法(図1(E))、第1のIII族窒化物複合基板1から第1のIII族窒化物複合基板1の外周部1pを除いた第2のIII族窒化物複合基板2を刳り貫く方法(図4)などが、好適に挙げられる。
【0040】
本実施形態のIII族窒化物複合基板の製造方法において、当初に準備される支持基板10およびIII族窒化物基板30の主面の径は目標とする基板径より大きいため、目標とする基板径より大きな径の主面を有する第1のIII族窒化物複合基板1が得られ、かかる第1のIII族窒化物複合基板1の外周部1pを除去することにより目標とする基板径に等しい径の主面を有する第2のIII族窒化物複合基板2が得られる。
【0041】
すなわち、目標とする基板径とは、製造の目標とされる第2のIII族窒化物複合基板2の主面の径であり、目標とする基板の形状としては、たとえば、直径2インチ(50.8mm)の円板、直径4インチ(101.6mm)の円板などが挙げられる。また、第1のIII族窒化物複合基板1の主面の径は、目標とする基板径より大きいことが必要であり、たとえば目標とする基板径が直径2インチ(50.8mm)の円である場合には、直径60.8mm以上の円であることが好ましく、直径70.8mm以上の円であることがより好ましく、たとえば目標とする基板径が直径4インチ(101.6mm)の円である場合には、直径111.6mm以上の円であることが好ましく、直径121.6mm以上の円であることがより好ましい。
【0042】
また、目標とする基板径より大きな径の主面を有する第1のIII族窒化物複合基板1を作製するためには、目標とする基板径より大きな径の主面を有する支持基板10およびIII族窒化物基板30が必要である。支持基板10およびIII族窒化物基板30は、それらの主面の径が目標とする基板径より大きければ特に制限はないが、支持基板10とIII族窒化物基板30とを貼り合わせる際に、支持基板10およびIII族窒化物基板30の外周部における応力集中およびそれに伴う反りおよび割れなどの発生を抑制する観点から、支持基板10の主面の径とIII族窒化物基板30の主面の径とが等しい(同じである)ことが好ましい。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
1.支持基板とIII族窒化物基板との貼り合わせ
図1(A)を参照して、支持基板10として主面10mが直径62mmの円であり厚さが400μmのGaN支持基板を準備し、GaN支持基板(支持基板10)の主面上にプラズマCVD法により中間層20aとして厚さ300nmのSiO2層を形成した。
【0044】
図1(B)を参照して、III族窒化物基板30として主面30nが62mmの円であり厚さが400μmのGaN基板を準備し、GaN基板(III族窒化物基板30)上にプラズマCVD法により中間層20bとして厚さ300nmのSiO2層を形成した。次いで、SiO2層(中間層20b)が形成された主面30n側から水素イオン(イオンI)を注入することにより、主面30nから深さ300nmの位置にイオン注入領域30iを形成した。
【0045】
次に、GaN支持基板(支持基板10)上に形成されたSiO2層(中間層20a)およびGaN基板(III族窒化物基板30)上に形成されたSiO2層(中間層20b)の主面のそれぞれにCMPを施し表面を鏡面化した。中間層20a、中間層20bともに、CMP後のSiO2層の厚さは250nmであり、それらの主面の算術平均粗さRaは2nm未満であった。
【0046】
次に、図1(C)を参照して、鏡面化された上記2つのSiO2層(中間層20a,20b)の主面を、真空チャンバー内で、Arイオンガンを用いて活性化した後、貼り合わせた。貼り合わせ後、室温(たとえば20〜30℃)から200℃まで3時間かけてゆっくり加熱することにより接合強度を向上させた。
【0047】
2.第1のIII族窒化物複合基板の形成
次に、図1(D)を参照して、GaN支持基板(支持基板10)およびGaN基板(III族窒化物基板30)とが貼り合わされた積層基板を、さらに、500℃に加熱して応力をかけることにより、GaN基板(III族窒化物基板30)をイオン注入領域30iで分離して、GaN支持基板(支持基板10)の主面上に厚さ500nmのSiO2層(中間層20)を介在させて厚さ300nmのGaN層(III族窒化物層30a)が形成された第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板1)を得た。
【0048】
こうして得られた第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板1)の主面の外周にはGaN層(III族窒化物層30a)が接合されていない下地露出部1eが見られた。光学顕微鏡を用いて基板主面の全面を詳細に観察したところ、この下地露出部1eは第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板1)の外周20rから5mmの範囲内にのみ存在していた。
【0049】
3.第2のIII族窒化物複合基板の形成
次に、図1(E)、図2、図3および図4を参照して、コアドリル装置を用いて、第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板1)から、光学顕微鏡を用いた観察結果に基づいて、その下地露出部1e(GaN層(III族窒化物層30a)の非接合部分)をできる限り外すように位置調整して、主面が直径2インチ(50.8mm)の円である第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板2)を刳り抜いた。
【0050】
上記と同様の工程により、100枚の第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板2)を作製した。得られた100枚の第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板2)のうち、後工程における外周面取り(チャンファー)加工で取り除かれる主面の外周から0.5mmの外周部を除く領域内で、0.01mm2以上1mm2未満の面積を有する下地露出部1eの領域が10ヶ所以下かつ1mm2以上の面積を有する下地露出部1eの領域が0ヶ所のものを良品、0.01mm2以上1mm2未満の面積を有する下地露出部1eの領域が10ヶ所より多いかまたは1mm2以上の面積を有する下地露出部1eの領域が1ヶ所以上のものを不良品とし、良品の枚数を良品および不良品の枚数の和で除した百分率を良品の歩留率とした。本実施例における良品の歩留率は85%であった。
【0051】
(実施例2)
第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板)から第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板)を刳り抜く際に、第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板)の主面と第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板)の主面とが同心円となるように、すなわち、第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板)の主面の外周と第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板)の主面の外周との距離が5.6mmとなるように、位置調整したこと以外は、実施例1と同様にして、100枚の第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板)を作製した。本実施例における良品の歩留率は40%であった。
【0052】
(実施例3)
主面が直径72mmの円であるGaN支持基板(支持基板)およびGaN基板を用い、第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板)から第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板)を刳り抜く際に、第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板)の主面と第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板)の主面とが同心円となるように、すなわち、第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板)の主面の外周と第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板)の主面の外周との距離が10.6mmとなるように、位置調整したこと以外は、実施例1と同様にして、100枚の第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板)を作製した。本実施例における良品の歩留率は75%であった。
【0053】
(実施例4)
第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板)を得る工程において、第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板)の主面の中心を軸として、旋盤を用いて第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板)の外周から5.6mmの外周部を削り取ったこと以外は、実施例1と同様にして、100枚の第2のGaN複合基板(第2のIII族窒化物複合基板)を作製した。本実施例における良品の歩留率は30%であった。
【0054】
(比較例1)
主面が2インチ(50.8mm)であるGaN支持基板(支持基板)およびGaN基板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、100枚の主面が2インチ(50.8mm)の第1のGaN複合基板(第1のIII族窒化物複合基板)を作製した。本比較例における良品の歩留率は2%であった。
【0055】
上記のように、通常の製造方法により作製された比較例1のIII族窒化物複合基板の良品の歩留率が2%であったのに対し、本発明にかかる製造方法により作製された実施例1〜4のIII族窒化物複合基板の良品の歩留率は30%〜85%とに大きく向上した。
【0056】
ここで、実施例1〜3は第1のIII族窒化物複合基板を刳り貫くことにより第2のIII族窒化物複合基板を作製した例であり、実施例4は第1のIII族窒化物複合基板の外周部を研削により除去することにより第2のIII族窒化物複合基板を作製した例である。実施例1は、第1のIII族窒化物複合基板において下地露出部(III族窒化物層の非接合部分)をできる限り外すように位置調整をして第2のIII族窒化物複合基板を刳り抜いているため、第2のIII族窒化物複合基板の主面が第1のIII族窒化物複合基板の主面に比べて小さな同心円となるように位置調整して第2のIII族窒化物複合基板を刳り抜いている実施例2に比べて、良品の歩留率が高くなった。また、実施例3は、第1のIII族窒化物複合基板の主面の外周と第2のIII族窒化物複合基板の外周との距離が10.6mmとなるように位置調整したため、第1のIII族窒化物複合基板の主面の外周と第2のIII族窒化物複合基板の外周との距離が5.6mmとなるように位置調整した実施例2に比べて、良品の歩留率が高くなった。また、実施例4は、実施例2に比べて、高速回転させた基板に刃具を点状に押し当てて加工するという手法のため、外周部でIII族窒化物層の剥離(チッピング)が生じやすく、歩留率が低くなる傾向にあった。
【0057】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
1 第1のIII族窒化物複合基板、1e 下地露出部、1p 外周部、2 第2のIII族窒化物複合基板、10 支持基板、10e 支持基板露出部、10m,30n 主面、20,20a,20b 中間層、20e 中間層露出部、20r,30ar,30as 外周、30 III族窒化物基板、30a III族窒化物層、30b 残りのIII族窒化物基板、30i イオン注入領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標とする基板径があって、前記目標とする基板径より大きい径の主面を有する支持基板と、前記目標とする基板径より大きい径の主面を有しその主面から所定の深さの位置にイオン注入領域が形成されたIII族窒化物基板とを、中間層を介在させて、貼り合わせる工程と、
前記III族窒化物基板を前記イオン注入領域においてIII族窒化物層と残りのIII族窒化物基板とに分離することにより、前記支持基板上に前記中間層を介在させて前記III族窒化物層が接合された第1のIII族窒化物複合基板を形成する工程と、
前記第1のIII族窒化物複合基板の外周部を除去することにより前記目標とする基板径に等しい径の主面を有する第2のIII族窒化物複合基板を得る工程と、を含むIII族窒化物複合基板の製造方法。
【請求項2】
前記支持基板の主面の径と前記III族窒化物基板の主面の径とが同じである請求項1に記載のIII族窒化物複合基板の製造方法。
【請求項3】
前記第2のIII族窒化物複合基板を得る工程において、前記第1のIII族窒化物複合基板の外周部の除去は、前記第1のIII族窒化物複合基板における前記支持基板と前記III族窒化物層との接合部分の外周で囲まれた領域内に、前記第2のIII族窒化物複合基板の主面の外周が含まれるように行なう請求項1または請求項2に記載のIII族窒化物複合基板の製造方法。
【請求項4】
前記第2のIII族窒化物複合基板を得る工程において、前記第1のIII族窒化物複合基板の外周部の除去は、前記第1のIII族窒化物複合基板の主面の外周と前記第2のIII族窒化物複合基板の主面の外周との最短距離が5mm以上となるように行なう請求項1または請求項2に記載のIII族窒化物複合基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−115307(P2013−115307A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261648(P2011−261648)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】