説明

MOSFETの電流判定装置

【課題】MOSFETのオン抵抗の温度特性に追随して高精度で電流レベル判定を行う。
【解決手段】MOSFET1に一体に感温素子4が設けられ、ドレイン/ソース間電圧Vdsと温度検出信号Vfを検出する。電圧Vdsは電圧検出部6に入力され、感温素子4の電圧Vfは第1および第2の補正回路8、9に入力される。MOSFET1のオン抵抗Ronの温度特性を第1および第2の温度領域のそれぞれに対応した近似直線で近似し、傾きを変えるように補正回路8、9で演算処理する。予め設定された判定電流値をRonの温度特性を考慮して判定電圧生成部11で判定電流に相当する判定電圧Vdsrefを生成する。これにより、比較器13で判定電流以上の電流がMOSFET1に流れたか否かを精度よく判定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MOSFETのドレイン/ソース間に流れる電流のレベルを判定するMOSFETの電流判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MOSFETのドレイン/ソース間に流れる電流を検出する方法として、MOSFETのオン抵抗を検出抵抗と見立て、そのドレイン/ソース間電圧により電流を検出する方式が一般的である。
この方法は電流値を推測することは可能であるが、MOSFETの温度が変動するとオン抵抗が変化し、これは検出抵抗自体が変化することを意味するため、実際の電流値と異なる検出をしてしまい、検出精度の高精度化が難しいという課題がある。
【0003】
そこで従来では、例えば特許文献1に示されるように、オン抵抗が温度に応じてほぼ直線に変化することを利用して駆動中のMOSFETの温度情報から、オン抵抗値を直線近似にて予想して補正することが考えられている。これにより、温度変動に因らず電流検出精度を高くすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−113676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したような構成のものでは、MOSFETのオン抵抗の温度特性が広い使用温度範囲で直線性を有していない場合に、検出誤差が大きくなる不具合があり、この結果精度良くMOSFETの電流レベルを判定することができない場合が生ずるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的は、MOSFETのオン抵抗の温度特性に追随して高精度で電流レベルの判定を行うことができるようにしたMOSFETの電流判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のMOSFETの電流判定装置は、MOSFETのドレイン/ソース間に流れる電流を判定するための構成として、ドレイン/ソース電流にMOSFETのオン抵抗を乗じた電圧であるドレイン/ソース間電圧を電圧検出手段により検出し、判定手段により判定電流値に相当する判定電圧と比較することで判定するものであり、このときの判定電圧を、オン抵抗がMOSFETの温度に応じて変動するのを考慮して、感温素子および判定電圧設定手段により補正するようにしている。
【0008】
この場合、判定電圧設定手段により、MOSFETのオン抵抗の温度特性を複数の温度領域に区分してそれぞれの温度領域で近似直線を当てはめた近似オン抵抗を設定し、感温素子による温度検出電圧をそのときの温度に対応する近似オン抵抗値に対応するように補正し、近似オン抵抗値に基づいて判定電圧を生成することで、MOSFETのオン抵抗の温度特性が一本の直線近似から外れる領域についてもこれに追随できるようになり、精度の高い判定を行うことができる。
【0009】
請求項2に記載のMOSFETの電流判定装置は、請求項1の発明において、判定電圧設定手段を、MOSFETのオン抵抗の温度特性を複数の温度領域に区分して設定する近似直線を、隣接する温度領域間で同じ傾きの近似直線を平行移動させて当てはめたものとして設定する構成とした。これにより、オン抵抗の温度特性が直線特性から外れた曲線特性を有する場合に、傾きをそのままとして近似直線を平行移動(シフト)させることで、判定を目的に沿う側に合致させた近似オン抵抗を設定し、これに従った判定電圧を生成することで、判定誤差を低減した精度の高い判定を行うことができる。
【0010】
請求項3に記載のMOSFETの電流判定装置は、請求項2の発明において、判定電圧設定手段を、第1の補正回路、第2の補正回路、判定電圧生成回路から構成した。第1の補正回路により、感温素子による温度検出電圧を所定の温度領域における基準近似直線に対応させた基準近似オン抵抗値に補正する。第2の補正回路により、感温素子の温度検出電圧が基準近似直線の温度領域と異なる温度領域に対応する場合に、補正用の切換信号を出力する。判定電圧生成回路により、第1の補正回路による基準近似オン抵抗値を、第2の補正回路からの補正用の切換信号の有無に応じてMOSFETの温度に対応する温度領域に設定された近似直線のレベルに沿うように補正して得た近似オン抵抗値に基づいて判定電圧を生成する。これにより、オン抵抗の温度特性が直線特性から外れた曲線特性を有する場合に、傾きをそのままとして近似直線を平行移動(シフト)させることで、判定を目的に沿う側に合致させた近似オン抵抗を設定し、これに従った判定電圧を生成することで、判定誤差を低減した精度の高い判定を行うことができる。
【0011】
請求項4に記載のMOSFETの電流判定装置は、請求項1の発明において、判定電圧設定手段により、MOSFETのオン抵抗の温度特性を複数の温度領域に区分して設定する近似直線を、隣接する温度領域間を折れ線で連結させたものとして設定する構成とした。これにより、オン抵抗の温度特性が直線特性から外れる曲線特性を有する場合に、その曲線の形状に沿うように近似オン抵抗を設定し、これに従った判定電圧を生成することで、判定誤差を低減した精度の高い判定を行うことができる。
【0012】
請求項5に記載のMOSFETの電流判定装置は、請求項4の発明において、判定電圧設定手段を、第1の補正回路、第2の補正回路、判定電圧生成回路から構成した。第1の補正回路により、感温素子による温度検出電圧を所定の温度領域における基準近似直線に対応させた基準近似オン抵抗値に補正する。第2の補正回路により、感温素子の温度検出電圧が基準近似直線の温度領域と異なる温度領域に対応する場合に、補正用の切換信号を出力する。判定電圧生成回路により、第1の補正回路による前記基準近似オン抵抗値を、第2の補正回路からの補正用の切換信号の有無に応じてMOSFETの温度に対応する温度領域に設定された近似直線の傾きに沿うように補正して得た近似オン抵抗値に基づいて判定電圧を生成する。これにより、オン抵抗の温度特性が直線特性から外れた曲線特性を有する場合に、その曲線の形状に沿うように近似オン抵抗を設定し、これに従った判定電圧を生成することで、判定誤差を低減した精度の高い判定を行うことができる。
【0013】
請求項6に記載のMOSFETの電流判定装置は、請求項1の発明において、A/D変換部を備えている。A/D変換部は、電圧検出手段により検出されたドレイン/ソース間電圧および感温素子の温度検出電圧を入力してデジタル信号に変換する。判定電圧設定手段は、温度検出電圧のデジタル信号をそのときの温度に対応する近似オン抵抗値に対応するように補正し、近似オン抵抗値に基づいて判定電圧のデジタル信号を生成する。そして、判定手段は、ドレイン/ソース間電圧のデジタル信号と判定電圧のデジタル信号とを比較してMOSFETの電流のレベルを判定する。
このように、MOSFETのドレイン/ソース間電圧をデジタル処理をすることで、MOSFETのオン抵抗の温度特性が線形でない領域についてもこれに追随できるようになり、精度の高い判定を行うことができる。
【0014】
請求項7に記載のMOSFETの電流判定装置は、請求項6の発明において、判定電圧設定手段を、MOSFETのオン抵抗の温度特性を複数の温度領域に区分して設定する近似直線を、隣接する温度領域間で同じ傾きの近似直線を平行移動させて当てはめたものとして設定する構成とした。これにより、請求項2または3と同様に、オン抵抗の温度特性が直線特性から外れた曲線特性を有する場合に、傾きをそのままとして近似直線を平行移動(シフト)させることで、判定を目的に沿う側に合致させた近似オン抵抗を設定し、これに従った判定電圧を生成することで、判定誤差を低減した精度の高い判定を行うことができる。
【0015】
請求項8に記載のMOSFETの電流判定装置は、請求項6の発明において、判定電圧設定手段を、MOSFETのオン抵抗の温度特性を複数の温度領域に区分して設定する近似直線を、隣接する温度領域間を折れ線で連結させたものとして設定する構成とした。これにより、請求項4または5と同様に、オン抵抗の温度特性が直線特性から外れた曲線特性を有する場合に、その曲線の形状に沿うように近似オン抵抗を設定し、これに従った判定電圧を生成することで、判定誤差を低減した精度の高い判定を行うことができる。
【0016】
請求項9に記載のMOSFETの電流判定装置は、上記発明において、絶対値補正情報記憶手段を備えている。絶対値補正情報記憶手段には、所定の温度における近似オン抵抗の値が、その所定の温度におけるMOSFETの実際のオン抵抗値に一致するように近似直線を補正するための絶対値補正情報が記憶される。そして、判定電圧設定手段は、絶対値補正情報記憶手段に記憶された絶対値補正情報を用いて近似直線を補正する。これにより、実際に使用するMOSFETのオン抵抗の温度特性に合致した近似直線を用いて判定電圧が生成されるため、使用するMOSFETの特性についての個体差に関係なく、判定誤差を低減した精度の高い判定を行うことができる。
【0017】
請求項10に記載のMOSFETの電流判定装置は、上記発明において、傾き補正情報記憶手段を備えている。傾き補正情報記憶手段には、所定の温度領域における近似オン抵抗の近似直線の傾きが、その所定の温度領域におけるMOSFETの実際のオン抵抗値の傾きに一致するように近似直線を補正するための傾き補正情報が記憶される。そして、判定電圧設定手段は、傾き補正情報記憶手段に記憶された傾き補正情報を用いて近似直線を補正する。これにより、実際に使用するMOSFETのオン抵抗の温度特性に合致した近似直線を用いて判定電圧が生成されるため、使用するMOSFETの特性についての個体差に関係なく、判定誤差を低減した精度の高い判定を行うことができる。
【0018】
請求項11に記載のMOSFETの電流判定装置は、上記発明において、判定手段により判定する電流のレベルとして過電流を検出するレベルに設定した。これにより、負荷に過電流が流れたときに広い温度範囲において適正な判定電圧で過電流の判定動作を行うことができる。
【0019】
請求項12に記載のMOSFETの電流判定装置は、上記発明において、感温素子を、MOSFETの近傍に配置されたダイオードにより構成し、ダイオードの順方向電圧を温度検出電圧としているので、MOSFETの温度変動をダイオードのpn接合の順方向電圧の温度特性を利用して正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施形態におけるブロック構成図
【図2】第1の実施形態におけるオン抵抗の温度特性と近似直線の説明図
【図3】第1の実施形態における電気的構成図
【図4】絶対値補正および傾き補正を行う前後の近似直線を示す図
【図5】絶対値補正を行う前後の近似直線を示す図
【図6】第2の実施形態におけるオン抵抗の温度特性と近似直線の説明図
【図7】第2の実施形態における電気的構成図
【図8】第3の実施形態におけるブロック構成図
【図9】第3の実施形態におけるCPUの機能ブロック構成図
【図10】第3の実施形態におけるCPUの異なる機能ブロック構成図
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
以下、過電流検出装置に適用した場合の第1の実施形態について図1〜図5を参照して説明する。
図1はブロック構成を示す図で、検出対象となるNチャンネル型パワーMOSFET(以下単にMOSFETと称す)1は、駆動回路2からゲートに駆動信号が与えられると、ドレイン端子Dに接続された電源VDDからソース端子Sを介して負荷3に給電するもので、負荷3に対してハイサイドの通電をする構成である。MOSFET1には、パッケージ内に温度を検出する感温素子4が一体に配設されており、MOSFET1の温度に相当する温度検出電圧Vfを出力する。
【0022】
判定回路部5(電流判定装置に相当)は、MOSFET1のドレイン/ソース間電圧Vdsを検出する電圧検出部6(電圧検出手段に相当)と、判定電圧設定部7(判定電圧設定手段に相当)と、比較器13と、記憶部41とを備えている。電圧検出部6は、MOSFET1のドレインおよびソースの各端子から端子間電圧Vdsが入力される。このドレイン/ソース間電圧Vdsは、MOSFET1のドレイン/ソース間に流れる電流Idにオン抵抗Ronを乗じた値に相当する。したがって、オン抵抗Ronが分かれば逆算して電流Idを検出することができる。
【0023】
この場合、オン抵抗Ronは、MOSFET1の温度によって変動する特性を有しており、図2中破線で示すように、高温側の第1温度領域では傾きが大きく、境界温度Tx付近から低温側の第2温度領域になると、第1温度領域での直線性から外れて傾きが小さくなり、全体として曲線特性を有する。このような温度依存性を有するオン抵抗Ronは、温度Tの関数としてRon(T)として表すことができる。
【0024】
例えば、車載機器などにおいては、使用環境の温度範囲が広く、−40℃〜150℃の範囲で動作が精度良く行われることが要求される場合がある。そして、このような広い温度範囲では、上記したオン抵抗Ron(T)も直線的な変化特性とはならず、図2に示したような特性となるため、一本の直線で近似した条件で対応した場合には、使用温度条件によっては特性からずれることがあり、精度の高い判定動作ができなくなるのである。
【0025】
判定電圧設定部7は、感温素子4からの温度検出電圧Vf(T)に基づいて判定電圧Vdsref(T)を生成するもので、第1の補正回路8、第2の補正回路9、電流基準値生成部10および判定電圧生成部11から構成される。また、電流基準値生成部10および判定電圧生成部11により判定電圧生成回路12が構成されている。
【0026】
第1の補正回路8は、感温素子4からの温度検出電圧Vf(T)に基づいて判定電流値である電流基準値Isref(T)を生成するための補正処理を行う。ここでは、図2に示すMOSFET1のRon(T)の温度特性に沿うようにするために、温度検出電圧Vf(T)を、温度がTx以上の第1の温度領域において傾きが近い第1近似直線(基準近似直線に相当)に沿うように変換して補正した近似オン抵抗Ron(Vf)に相当するデータを生成する。尚、この近似オン抵抗Ron(Vf)に相当するデータ(基準近似オン抵抗値に相当)は、電流基準値生成部10において電流基準値Isref(T)として生成される。
【0027】
第2の補正回路9は、感温素子4からの温度検出電圧Vf(T)の値が、MOSFET1の温度Tが第1温度領域および第2温度領域のいずれの温度に相当しているかを示す切換信号Scを出力するもので、具体的には、温度検出電圧Vf(T)の値から、MOSFET1の温度Tが領域の切り換わりの温度Tx(変曲点)以上であるか未満であるかを判定して温度領域に対応した切換信号Scを電流基準値生成部10に出力する。
【0028】
電流基準値生成部10は、過電流検出のための判定電流に相当する電流基準値Idref(T)を生成して設定する回路である。過電流を判定するための電流基準値Idrefの値そのものは、温度に無関係なものであるから、定数として設定されるべきものであるが、これにオン抵抗Ron(T)を乗じて得られる判定電圧Vdsref(T)は、オン抵抗Ronの温度特性を含んだ値となる。ここで、前述したオン抵抗Ron(T)を、
Ron(T)=K(T)×Ron …(1)
Ron;所定温度におけるオン抵抗値
K(T);Ronの温度係数
と考え、Ronの温度係数K(T)の要素を電流基準値Idrefに含めた値として、Idref(T)と考えると、判定電圧Vdsref(T)の関係から、次式が成り立つ。
【0029】
Vdsref(T)=Idref×Ron(T)
=Idref×K(T)×Ron
=Idref(T)×Ron …(2)
Idref(T);温度特性を考慮した判定電流値
Idref(T)=Idref×K(T) …(3)
また、Ronの温度係数K(T)は、温度検出電圧Vf(T)との関係から、前述した第1の補正回路8および第2の補正回路9においてVf(T)の関数として表すことができるから、これによって、判定電圧値Vdsref(T)を設定することができる。判定電圧生成部11においては、この関係を用いて判定電圧値Vdsref(T)を生成している。
【0030】
また、電流基準値生成部10では、第2の補正回路9からの切換信号Scに応じてオン抵抗Ron(T)の傾きを補正する処理を行って、オン抵抗Ronの温度係数K(T)を演算して求め、判定電圧値Vdsref(T)の演算に反映させるようにしている。具体的には、電流基準値生成部10は、第1温度領域に対応した切換信号Scが与えられると、判定電圧値Vdsref(T)の傾きが第1近似直線に沿う傾きとなるような温度係数K(T)を演算により求める。また、電流基準値生成部10は、第2温度領域に対応した切換信号Scが与えられると、判定電圧値Vdsref(T)の傾きが第2近似直線に沿う傾きとなるような温度係数K(T)を演算により求める。
【0031】
判定手段としての比較器13は、電圧検出部6からMOSFET1のドレイン/ソース間電圧Vdsの信号が入力されるとともに、判定電圧生成部11から判定電圧値Vdsref(T)の信号が入力される。そして、比較器13は、ドレイン/ソース間電圧Vdsが判定電圧値Vdsref(T)を超えるか否かにより、MOSFET1に過電流が流れているか否かを判断した判定出力として過電流検出信号Spを出力する。
【0032】
記憶部41(絶対値補正情報記憶手段および傾き補正情報記憶手段に相当)は、例えばEEPROM、フラッシュメモリなどの不揮発性の半導体メモリにより構成されている。記憶部41には、使用するMOSFET1の平均的な特性(オン抵抗の温度特性など)に基づいて予め設定された第1近似直線および第2近似直線を表すデータが記憶されている。判定電圧設定部7は、記憶部41に記憶された上記データに基づいて、判定電圧値Vdsref(T)を生成している。ただし、実際に使用するMOSFET1は、通常、個体毎に特性が僅かに異なる。このような個体差が存在するため、記憶部41に記憶された平均的な第1近似直線および第2近似直線のデータをそのまま用いたのでは、実際に使用するMOSFET1のオン抵抗の温度特性に合致した判定電圧値Vdsref(T)が、必ずしも生成されるとは限らない。
【0033】
このような事情から、記憶部41には、平均的な特性に基づいて予め設定された第1近似直線および第2近似直線を、実際に使用するMOSFET1の特性に合致したものに補正するための絶対値補正情報および傾き補正情報が記憶されている。これらの補正情報は、製造工程において、MOSFET1の特性やその他の構成要素の特性などを考慮し、以下のように設定される。本実施形態では、第1近似直線を補正するための上記各補正情報を記憶しておき、第2近似直線については、補正後の第1近似直線に合わせて補正するようにしている。なお、上記各補正情報として、第1近似直線および第2近似直線のそれぞれに対する補正情報を記憶するようにしてもよい。
【0034】
すなわち、製造工程にて、実際に使用するMOSFET1の温度Taおよび温度Taよりも高い温度Tbにおけるオン抵抗値a1、b1を測定する(図4参照)。温度Ta、Tbとしては、図4に示すように、MOSFETのオン抵抗の温度特性Ron(T)の変曲点よりも高い値であればよい。なお、ここでは、温度Tb>温度Taという関係になっているが、温度Tb<温度Taという関係であってもよい。続いて、測定した温度Ta、Tbにおけるオン抵抗値a1、b1から、実際のオン抵抗の温度特性Ron(T)の傾きを求める。そして、平均的な第1近似直線(図4に二点鎖線で示す)の傾きを、求めた実際の傾きに一致させるための傾き補正情報を記憶部41に記憶する。
【0035】
また、平均的な第1近似直線の傾きを実際の傾きに一致するように補正した後の近似直線を表すデータ(図4に一点鎖線で示す)の温度Tbにおける値b2と、測定した温度Tbにおけるオン抵抗値b1との差分を求める。そして、求めた差分を、絶対値補正情報として記憶部41に記憶する。平均的な第1近似直線を表すデータを、傾き補正情報に基づいて傾きを補正するとともに、この差分だけシフトすることにより、実際に使用するMOSFET1の特性に一層合致した第1近似直線(図4に実線で示す)が得られることになる。
【0036】
なお、実際に使用するMOSFET1の温度特性と、予め設定される平均的な各近似直線との間で、傾きのずれがあまりないと考えられる場合には、傾きについての補正を省略することも可能である。そのような場合には、以下のような手順となる(図5参照)。すなわち、製造工程にて、実際に使用するMOSFET1の温度Taにおけるオン抵抗値a1を測定する。続いて、測定した温度Taにおけるオン抵抗値a1と、平均的な第1近似直線を表すデータ(図5に一点鎖線で示す)の温度Taにおける値a2との差分を求める。そして、求めた差分を、絶対値補正情報として記憶部41に記憶する。平均的な第1近似直線を表すデータを、この差分だけシフトすることにより、実際に使用するMOSFET1の特性に合致した第1近似直線(図5に実線で示す)が得られることになる。
【0037】
上記のような構成により、負荷3に流れる電流を、MOSFET1のドレイン/ソース間に流れる電流Idを電圧Vdsとして検出し、一方で、過電流を判定するための電流基準値としてMOSFET1のオン抵抗Ronを考慮し、判定電圧設定部7により、MOSFET1の温度を検知する感温素子4の温度検出電圧Vfから演算により求めて設定した判定電圧Vdsref(T)と比較する構成とした。これにより、MOSFET1が広い温度範囲でオン抵抗Ronが温度によって変動する場合でも、過電流を正確に判定することができる。
【0038】
次に、図3を参照して、上記図1の具体的回路構成について説明する。
Nチャンネル型MOSFET1は、パッケージ内に感温素子4としての感温用ダイオード群4a(ダイオードに相当)がMOSFET1の温度により順方向電圧Vfが変化するように設けられている。ここでは、温度による感度を考慮して例えば4個の感温用ダイオードが直列に接続された感温用ダイオード群4aを構成しているが、感温用ダイオードは3個以下でも良いし、5個以上でも良いし、必要に応じた個数を設けることができる。
【0039】
集積回路の内部に設けられる電源回路14は、電源端子VDDから給電端子+Bを介して給電され、所定電圧として例えば5Vの電圧VREGの直流電圧を生成して内部に給電する。また、参照電圧生成部15は、電源回路14からの電圧VREGを降圧して例えば0.5Vの参照電圧VREFを生成する。定電流回路16は、端子VAを介して感温用ダイオード群4aのアノード端子側に一定の電流を流すための定電流源である。
【0040】
電圧検出部6において、オペアンプ17は、2つの入力端子間に端子VDおよびVSを介してMOSFET1のドレイン、ソースが接続されている。
第1の補正回路8は、入力端子VA、VKを介して感温用ダイオード群4aのアノード端子およびカソード端子が接続され、感温用ダイオード群4aの順方向電圧が温度検出電圧Vfとして入力される。オペアンプ18は、非反転入力端子に抵抗R1aを介して端子VAが接続され、抵抗R2aを介してアースされている。また、オペアンプ18は、反転入力端子に抵抗R1bを介して参照電圧生成部15の参照電圧VREFが与えられ、抵抗R2bを介してpnpトランジスタ19のエミッタに接続される。オペアンプ18は、出力端子がpnpトランジスタ19のベースに接続されている。上記した抵抗R1aおよびR1bは、同じ抵抗値R1であり、抵抗R2aおよびR2bは、同じ抵抗値R2に設定されている。また、これらの抵抗値R1およびR2は、可変であり、後述するように、製造工程においてMOSFET1の特性や他の特性を考慮して設定される。
【0041】
第2の補正回路9において、オペアンプ20は、反転入力端子に端子VAが接続され、感温用ダイオード群4aの温度検出電圧Vfが入力される。参照電圧生成部15の出力端子とアースとの間に接続された抵抗R5、R6の分圧回路の分圧点Sには、切換電圧Vxが発生するように設定されている。オペアンプ20は、非反転入力端子に分圧点Sが接続され、切換電圧Vxが入力される。
【0042】
電流基準値生成部10は、電源回路14の出力端子から抵抗R3aおよび抵抗R3bを直列に接続してpnpトランジスタ19のエミッタに接続されている。また、抵抗R3bの両端子間にはpチャンネル型のMOSFET21のソース/ドレインが接続されている。MOSFET21のゲートはオペアンプ20の出力端子が接続されている。オペアンプ20がロウレベルの信号を出力するとMOSFET21はオンして抵抗R3bを短絡させた状態となる。電流基準値生成部10は、MOSFET21がオフのときには抵抗R3aおよびR3bの合成抵抗R3により、MOSFET21がオンのときには抵抗R3aにより電流基準値を生成する。
【0043】
判定電圧生成部11は、pnpトランジスタ19のコレクタとアースとの間に接続された抵抗R4により構成される。判定電圧生成部11は、抵抗R4に流れるpnpトランジスタ19のコレクタ電流により判定電圧Vdsref(T)を生成する。
上記した抵抗値R3a、R3bおよびR4についても、可変であり、後述するように、製造工程においてMOSFET1の特性や他の特性を考慮して設定される。
比較器13は、オペアンプ17の出力端子からMOSFET1のドレイン/ソース間電圧Vdsが入力されるとともに、判定電圧生成部11により生成された判定電圧Vdsref(T)が入力され、その判定出力を過電流検出信号Spとして出力する。
【0044】
次に、上記構成の作用について説明する。
上記構成の動作に先立って、上記した構成のうちで判定電圧値を設定するための抵抗R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、R4について、適切な抵抗値R1、R2、R3a、R3b、R4が設定される。MOSFET1のオン抵抗Ron(T)や感温用ダイオード群4aの温度特性は、製造ばらつきや個々の素子のばらつきあるいはパッケージなどのばらつきなどによって異なることがあり、これらに対応して温度検出電圧Vf(T)から判定電圧値Vdsref(T)を精度良く設定する必要がある。すなわち、この抵抗値R1〜R4の設定が、前述した第1近似直線および第2近似直線の補正に相当している。
【0045】
抵抗R1a〜R4は、いずれも次のような構成になっている。すなわち、図示は省略しているが、抵抗R1a〜R4のそれぞれに対し、各抵抗を部分的に短絡可能なMOSFETが設けられている。そして、上記MOSFETのオン/オフ状態に応じて各抵抗値を所望の値に設定(調整)することが可能になっている。上記MOSFETのオン/オフは、記憶部41に記憶されている絶対値補正情報および傾き補正情報に基づいて決定される。この場合、上記した全ての抵抗について調整する必要は無く、後述する式(4)により決まる判定電圧値Vdsref(T)の設定に必要な抵抗の抵抗値を調整することで設定することができる。
【0046】
なお、上記MOSFETのオン/オフが、チップの外部に導出された外部端子の設定(端子への印加電圧のH/Lレベル固定など)に基づいて決定される構成でもよい。その場合、前述したように製造工程において求められる絶対値補正情報および傾き補正情報にしたがって、外部端子への印加電圧設定を行えばよい。このような構成の場合、外部端子の設定が、絶対値補正情報記憶手段および傾き補正情報記憶手段に相当する。
【0047】
また、抵抗値R1〜R4の設定は、上記した電気的なトリミングによるものに限られない。すなわち、抵抗R1a〜R4は、抵抗値を調整するためのMOSFETを備えるものに限らずともよく、トリミング可能な構成でもよい。その場合、製造工程において、例えばレーザトリミングなどのトリミング処理を行って適切な抵抗値R1〜R4を設定すればよい。このような構成の場合、抵抗R1a〜R4に対するトリミング処理が、絶対値補正情報記憶手段および傾き補正情報記憶手段に相当する。
【0048】
まず、MOSFET1のドレイン/ソース間に流れる電流すなわち負荷3に流れる電流Idは、MOSFET1のオン抵抗Ronを乗じたドレイン/ソース間電圧Vdsとして電圧検出部6のオペアンプ17に入力される。このとき、MOSFET1のオン抵抗RonはMOSFET1の温度Tに応じて図2に示したように変化するので、温度Tの関数Ron(T)として表すことができる。
【0049】
MOSFET1のドレイン/ソース間に流れる電流Idをドレイン/ソース間電圧Vdsとして検出し、この電圧Vdsを、比較器13において過電流を判定するための判定電圧Vdsref(T)と比較する。この時、判定電圧値Vdsref(T)の設定は、感温用ダイオード群4aの温度検出電圧Vf(T)により生成される。前述のように、MOSFET1のオン抵抗Ron(T)の値を第1近似直線および第2近似直線により近似して温度検出電圧Vf(T)を変換してVdsref(T)に近似した判定電圧としてVdsref(Vf(T))を求める。上記した第1の補正回路8、第2の補正回路9、電流基準値生成部10、判定電圧生成部11の回路構成により、次の式(4)のように判定電圧値Vdsref(T)を得ることができる。
【0050】
Vdsref(T)≒Vdsref(Vf(T))
=R4/R3{VREG−R2/R1(Vf(T)−VREF)} …(4)
この場合、温度検出電圧Vf(T)の値が、MOSFET1のオン抵抗Ron(T)の特性と傾きの傾向が反対になるのを基準となる電源電圧VREGから差をとることで調整し、傾きおよび絶対値のシフト量を各抵抗値R1〜R4により調整している。
【0051】
また、式(4)中で、抵抗R3の値は、第2の補正回路9が出力する切換信号Scによる切り換えで、次式の条件で切り換えられる。
Vf(T)≧Vf(Tx)(T≦Tx)のとき、
R3=R3a+R3b …(5a)
Vf(T)<Vf(Tx)(T>Tx)のとき、
R3=R3a …(5b)
この場合、MOSFET1の温度TがTx以上の温度であるときには、感温用ダイオード群4aの温度検出電圧Vf(T)が、切換電圧Vxの値から温度上昇と共に低下していくので、オペアンプ20はハイレベルの切換信号Scを出力する。この状態では、MOSFET21はオフ状態となっており、電流基準値生成部10の抵抗値R3は、式(5a)に示したように、抵抗R3aとR3bの直列の合成抵抗値となる。
【0052】
一方、MOSFET1の温度TがTxよりも低下すると、感温用ダイオード群4aの温度検出電圧Vf(T)が切換電圧Vxを下回るようになるので、オペアンプ20はロウレベルの切換信号Scを出力する。この状態では、MOSFET21はオン状態となり、抵抗R3bを短絡状態とするので、電流基準値生成部10の抵抗値R3は、式(5b)に示したように、上記した場合よりも低い抵抗値の抵抗R3aに切り換わる。
【0053】
この結果、温度検出電圧Vfの値に応じて、切換電圧Vxを境界として第1近似直線と第2近似直線のそれぞれの傾きθ1、θ2に沿うように切り換り、図2に示したように、オン抵抗Ron(T)の変化に追随して判定電圧値Vdsref(Vf(T))を設定することができるようになる。
従って、比較器13においては、温度変動が広い範囲で発生する使用環境においても、MOSFET1に流れる電流Idに相当するドレイン/ソース間電圧Vdsにより、高い精度で過電流を判定することができるようになる。
【0054】
上記した実施形態によれば、感温用ダイオード群4aを感温素子として用い、この端子電圧を温度検出電圧Vfとし、これを第1の補正回路8、第2の補正回路9、電流基準値生成部10、判定電圧生成部11により判定電圧値Vdsref(Vf(T))を設定することで、過電流を判定するための電流値をMOSFET1の温度Tの変動に追随したオン抵抗Ron(T)を考慮したものとすることができ、過電流を高精度で判定することができる。
【0055】
また、感温素子として感温用ダイオード群4aを設ける構成を採用しているので、MOSFET1にダイオードを作り込む工程を採用する既存のプロセスで実施できるので、新たなプロセス設計を伴わずに製造することができる。
【0056】
(第2の実施形態)
図6及び図7は本発明の第2の実施形態を示すもので、以下、第1の実施形態と異なる部分について説明する。この第2の実施形態においては、第2の補正回路9による切換の方式を変更している。すなわち、この実施形態においては、図6に示すように、MOSFET1のオン抵抗Ron(T)の温度特性に対して、第1温度領域では第1の実施形態と同様にして第1近似直線を当てはめ、温度Tx以下の第2温度領域では第1近似直線の傾きをそのままとして絶対値を大きくシフトさせた第2近似直線を設定している。
【0057】
この場合、第2近似直線の切片の大きさ(シフト量)は、第2温度領域の低い側の温度において第2近似直線が交差するように設定している。これは、次の理由による。すなわち、一本の近似直線でオン抵抗Ron(T)の合わせ込みをする場合に、使用頻度が高い高温側である第1温度領域側で傾きと切片を合わせると、低温側である第2温度領域側で判定電圧値が低く設定されてしまうことで、実際にはドレイン/ソース間電流Idが小さいにもかかわらず過電流と判定してしまうケースが発生する。そこで、この実施形態では、近似直線の傾きを同じままとする代わりに、第2温度領域側で切片を変えて設定することで、低温側において少ない電流Idで過電流の判定をしてしまうことを防止するものである。これによって、使用頻度の高い第1温度領域側において精度の高い判定動作を確保し、且つ、使用頻度が低い第2温度領域側においても誤判定の発生を抑制することができるようにしたものである。
【0058】
次に、図7を参照して、具体的回路の構成で第1の実施形態と異なる部分について説明する。
第1の実施形態における電流基準値生成部10に代えて、抵抗R3bを除いた構成の電流基準値生成部10aが設けられている。また、抵抗R3bを短絡させるためのPチャンネル型のMOSFET21に代えて、Pチャンネル型のMOSFET22および定電流回路23が設けられている。MOSFET22は、ソース端子が定電流回路23に接続され、ドレイン端子がpnp型トランジスタ19のコレクタに接続され、ゲート端子がオペアンプ20の出力端子に接続されている。また、この実施形態においては、抵抗R3の抵抗値R3は、第1の実施形態における抵抗R3aおよびR3bの抵抗値を合成した抵抗値R3に相当するように設定される。
【0059】
次に、上記構成の作用について説明する。MOSFET1の温度TがTx以上の第1温度領域にある状態では、第1の実施形態と同様にして、式(4)にしたがった条件で、第1近似直線に沿うように温度検出電圧Vf(T)を判定電圧値Vdsref(Vf(T))に変換する。
【0060】
また、MOSFET1の温度がTxを下回る第2温度領域に入ると、感温用ダイオード群4aの順方向電圧である温度検出電圧Vf(T)のレベルが大きくなり、比較電圧である切換電圧Vxを超えるようになる。すると、第2の補正回路9のオペアンプ20の出力がロウレベルに反転するのでMOSFET22はオンし、定電流回路23から抵抗R4に所定電流が加算した状態で流れるようになる。これにより、比較器13の比較入力である判定電圧値Vdsref(Vf(T))は、定電流回路23からの電流が抵抗R4に流れて発生する電圧成分に相当する分が加算され、図6に示したような第2近似直線に沿うように判定電圧値Vdsref(Vf(T))が設定されることになる。
【0061】
従って、比較器13においては、温度変動が広い範囲で発生する使用環境においても、MOSFET1に流れる電流Idに相当するドレイン/ソース間電圧Vdsにより、高い精度で過電流を判定することができ、使用頻度が低い第2温度領域においては誤判定を低減したものとすることができる。
【0062】
(第3の実施形態)
図8、9は本発明の第3の実施形態を示すもので、以下、第1の実施形態と異なるところは、信号処理をデジタル処理にする構成としたところである。すなわち、図8に示すように、感温素子4(4a)を備えたMOSFET1に対して、電流判定装置としての判定回路部5aを、2個のアナログデジタル変換器(ADC)24、25(A/D変換部に相当)と、CPU26とから構成している。
MOSFET1のドレイン/ソース間電圧VdsはADC24に入力されデジタル信号に変換したVds情報としてCPU26に入力される。感温素子4の温度検出電圧VfはADC25に入力されデジタル信号に変換した温度情報としてCPU26に入力される。
【0063】
図9はCPU26における処理過程を、ブロック構成として示したものである。この図9において、温度情報は演算部27に入力され、加算器28および乗算器29により第1の実施形態における式(4)に対応した演算処理がおこなわれる。
ここで、電気トリミング処理が行われる。これは、抵抗R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、R4に対応する抵抗値の設定に代えて、演算式である式(4)の各抵抗値の値をデータとしてメモリ補正部30に記憶させている。この抵抗値のデータを演算処理に際して読み出して各MOSFET1に対応したオン抵抗Ron(T)の近似を第1および第2の近似直線によって近似させることができる。すなわち、本実施形態では、メモリ補正部30が、絶対値補正情報記憶手段および傾き補正情報記憶手段に相当する。
【0064】
このようにして演算部27により判定電圧値Vdsref(Vf(T))を算出して比較器31(判定手段に相当)においてVds情報であるMOSFET1のドレイン/ソース間電圧Vdsのデータとの比較を行い、MOSFET1に過電流が流れているか否かを判定して判定出力を得ることができる。
以上のように、第1の実施形態に相当する処理構成をデジタル信号処理で実施する構成としたので、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
(第4の実施形態)
図10は本発明の第4の実施形態を示すもので、第3の実施形態と異なるところは、CPU26内のブロック構成において、演算部27に代えてテーブル部32を設ける構成としたところである。これは、温度検出電圧Vf(T)のデジタル信号である温度情報が入力されると、予め対応する判定電圧値Vdsref(Vf(T))に相当する演算結果のデータをテーブルとしてメモリ内に持つようにしたものである。この場合においても、基本的な演算部分を対応するテーブルとして記憶し、電気トリミング処理ではこれを補正するためのデータをメモリ補正部30に記憶させる構成である。
【0066】
このような構成によっても、第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。尚、この実施形態においては、テーブル部32によりデータを変換するテーブルを記憶保持するので、データの記憶容量によって変換の精度が決まる。このため、メモリのデータ記憶容量を大きくとれる構成の場合には、演算処理を少なくした迅速な判定処理が可能となる。
【0067】
(他の実施形態)
本発明は上記し、又は図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
上記各実施形態においては、MOSFET1のオン抵抗Ron(T)の温度特性を2本の近似直線により近似して判定電圧値Vdsref(Vf(T))を設定するようにしているが、さらに精度を高めることを目的として近似直線を3本以上設定する構成とすることもできる。
この場合に、第1の実施形態においては、第2の補正回路9による切換電圧Vxを切り換えの段数に対応して切換電圧Vx1、Vx2、…のように設定し、それぞれの切換電圧になったときに対応する切換信号Sc1、Sc2、…を出力する構成とする。また、電流基準値生成部10においては、複数の切換信号Sc1、Sc2、…のそれぞれに対応してオンオフするMOSFETを設けるとともに、抵抗R3aに直列に抵抗R3b、R3c、…などを設ける構成とし、低温領域に移行する度に順次抵抗R3b、R3c、…を短絡状態とすることで各近似直線に沿うように変換した判定電圧値Vdsref(Vf(T))を設定することができる。
【0068】
また、第2の実施形態においては、近似直線を3本以上設定する構成として、第2の補正回路9の構成は上記と同様に構成して、切換電圧Vx1、Vx2、…のように設定し、それぞれの切換電圧になったときに対応する切換信号Sc1、Sc2、…を出力する構成とする。また、電流基準値生成部10においては、複数の切換信号Sc1、Sc2、…のそれぞれに対応してオンオフするMOSFETをトランジスタ19のコレクタに並列に設け、各MOSFETがオンする毎に定電流源から所定電流を流す構成とし、低温領域に移行する度に順次加算する電流が増大させることで各近似直線に沿うように変換した判定電圧値Vdsref(Vf(T))を設定することができる。
【0069】
抵抗値R1〜R4を設定することによる近似直線の傾きや切片の設定は、過電流判定の条件に沿うようにオン抵抗Ron(T)よりも大きい側に合わせるか、小さい側に合わせるかあるいは平均的になるように合わせるかを選択的に設定することができる。
感温素子4として、4個の感温用ダイオードを直列に接続した感温用ダイオード群4aを用いたが、個数は適宜に設定することができる。また、ダイオードの順方向電圧を利用することに代えて、例えばツェナーダイオードのツェナー電圧の温度依存特性を利用して温度検出電圧としても良い。さらに、感温用ダイオードに代えて、例えば、MOSFET1と別の感温用のMOSFETを一体に設ける構成とし、MOSFET1のオン抵抗Ron(T)の温度特性と類似するオン抵抗Ronref(T)の変動をモニタすることで判定用電圧値Vdsref(T)を設定することができる。
【0070】
第3の実施形態では、2個のADC24、25を用いる構成としているが、1個のADCのみを設ける構成とし、MOSFET1のドレイン/ソース間電圧Vds(T)と感温素子4の温度検出電圧Vf(T)との入力を時分割で切換入力する構成として処理する構成を採用することもできる。
また、第3の実施形態では、判定回路部5aをADCとCPUを別々の構成で示したが、内部にADCやメモリなどを一体に備えたマイコンなどにより構成することもできる。
また、本発明は、判定電圧を補正することで検出電圧Vds(T)を判定する構成としているが、同様の考え方を用いて、検出電圧Vds(T)を、MOSFET1のオン抵抗Ron(T)の温度特性を考慮した補正をすることで、電流値Idを計算する構成としても良い。この場合には、直接電流を検出する構成とすることができる。また、比較すべき判定電圧あるいは判定電流の値を予め決めたレベルに設定する構成とすることができる。
【0071】
第1の実施形態および第2の実施形態では、具体的な回路構成として、第1の補正回路8、第2の補正回路9、電流基準値生成部10、判定電圧生成部11をオペアンプなどを用いて構成したが、回路構成はこれに限らず、他の回路素子や回路構成を用いることができる。また、アナログ的な信号処理回路の構成としているが、これらをデジタル信号の処理回路として構成することもできる。
【0072】
本実施形態では、トリミング処理として、レーザトリミング法、および電気トリミング法を示したが、他にツェナーザップ法を用いることができる。この場合、MOSFET1と判定回路部5とが同一チップに構成される場合には、レーザトリミングやツェナーザップトリミングを行うことができる。また、MOSFET1と判定回路部5とが別々に設けられる構成では、上記方法が難しいので、電気トリミング法を採用することができる。
【0073】
上記実施形態では、MOSFET1のドレイン/ソース間に過電流が流れたことを検出する過電流検出装置に適用したため、判定手段により判定する電流のレベルが過電流を検出するレベルに設定されていたが、これに限らずともよい。すなわち、判定手段により判定する電流のレベルは任意の値に設定することが可能である。
【符号の説明】
【0074】
図面中、1はMOSFET(FET)、3は負荷、4は感温素子、4aは感温用ダイオード群(ダイオード)、5,5aは判定回路部(電流判定装置)、6は電圧検出部(電圧検出手段)、7は判定電圧設定部(判定電圧設定手段)、8は第1の補正回路、9は第2の補正回路、10は電流基準値生成部、11は判定電圧生成部、12は判定電圧生成回路、13、31は比較器(判定手段)、24,25はADC(A/D変換部)、30はメモリ補正部(絶対値補正情報記憶手段および傾き補正情報記憶手段)、41は記憶部(絶対値補正情報記憶手段および傾き補正情報記憶手段)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷への給電経路に設けられるMOSFETのドレイン/ソース間電圧を検出する電圧検出手段と、
前記MOSFETの温度を測るように設けられ温度変化に対して直線的に変化する温度検出電圧を出力する感温素子と、
前記電圧検出手段により検出されたドレイン/ソース間電圧と判定電流値に前記MOSFETのオン抵抗値を乗じて得られる判定電圧とを比較して前記MOSFETの電流のレベルを判定する判定手段と、
前記MOSFETの前記オン抵抗の温度特性を複数の温度領域に区分してそれぞれの温度領域で近似直線を当てはめた近似オン抵抗を設定し、前記感温素子による温度検出電圧をそのときの温度に対応する前記近似オン抵抗値に対応するように補正し、前記近似オン抵抗値に基づいて前記判定電圧を生成する判定電圧設定手段とを備えたことを特徴とするMOSFETの電流判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のMOSFETの電流判定装置において、
前記判定電圧設定手段は、前記MOSFETの前記オン抵抗の温度特性を複数の温度領域に区分して設定する近似直線を、隣接する温度領域間で同じ傾きの近似直線を平行移動させて当てはめたものとして設定することを特徴とするMOSFETの電流判定装置。
【請求項3】
請求項2に記載のMOSFETの電流判定装置において、
前記判定電圧設定手段は、
前記感温素子による温度検出電圧を所定の温度領域における基準近似直線に対応させた基準近似オン抵抗値に補正する第1の補正回路と、
前記感温素子の温度検出電圧が前記基準近似直線の温度領域と異なる温度領域に対応する場合に、補正用の切換信号を出力する第2の補正回路と、
前記第1の補正回路による前記基準近似オン抵抗値を、前記第2の補正回路からの前記補正用の切換信号の有無に応じて前記MOSFETの温度に対応する温度領域に設定された前記近似直線のレベルに沿うように補正して得た前記近似オン抵抗値に基づいて前記判定電圧を生成する判定電圧生成回路とを備えていることを特徴とするMOSFETの電流判定装置。
【請求項4】
請求項1に記載のMOSFETの電流判定装置において、
前記判定電圧設定手段は、前記MOSFETの前記オン抵抗の温度特性を複数の温度領域に区分して設定する近似直線を、隣接する温度領域間を折れ線で連結させたものとして設定することを特徴とするMOSFETの電流判定装置。
【請求項5】
請求項4に記載のMOSFETの電流判定装置において、
前記判定電圧設定手段は、
前記感温素子による温度検出電圧を所定の温度領域における基準近似直線に対応させた基準近似オン抵抗値に補正する第1の補正回路と、
前記感温素子の温度検出電圧が前記基準近似直線の温度領域と異なる温度領域に対応する場合に、補正用の切換信号を出力する第2の補正回路と、
前記第1の補正回路による前記基準近似オン抵抗値を、前記第2の補正回路からの前記補正用の切換信号の有無に応じて前記MOSFETの温度に対応する温度領域に設定された前記近似直線の傾きに沿うように補正して得た前記近似オン抵抗値に基づいて前記判定電圧を生成する判定電圧生成回路とを備えていることを特徴とするMOSFETの電流判定装置。
【請求項6】
請求項1に記載のMOSFETの電流判定装置において、
前記電圧検出手段により検出されたドレイン/ソース間電圧および前記感温素子の温度検出電圧を入力してデジタル信号に変換するA/D変換部を備え、
前記判定電圧設定手段は、前記温度検出電圧のデジタル信号をそのときの温度に対応する前記近似オン抵抗値に対応するように補正し、前記近似オン抵抗値に基づいて前記判定電圧のデジタル信号を生成し、
前記判定手段は、前記ドレイン/ソース間電圧のデジタル信号と前記判定電圧のデジタル信号とを比較して前記MOSFETの電流のレベルを判定することを特徴とするMOSFETの電流判定装置。
【請求項7】
請求項6に記載のMOSFETの電流判定装置において、
前記判定電圧設定手段は、前記MOSFETの前記オン抵抗の温度特性を複数の温度領域に区分して設定する近似直線を、隣接する温度領域間で同じ傾きの近似直線を平行移動させて当てはめたものとして設定することを特徴とするMOSFETの電流判定装置。
【請求項8】
請求項6に記載のMOSFETの電流判定装置において、
前記判定電圧設定手段は、前記MOSFETの前記オン抵抗の温度特性を複数の温度領域に区分して設定する近似直線を、隣接する温度領域間を折れ線で連結させたものとして設定することを特徴とするMOSFETの電流判定装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のMOSFETの電流判定装置において、
所定の温度における前記近似オン抵抗の値が当該温度における前記MOSFETの実際のオン抵抗値に一致するように前記近似直線を補正するための絶対値補正情報が記憶される絶対値補正情報記憶手段を備え、
前記判定電圧設定手段は、前記絶対値補正情報記憶手段に記憶された前記絶対値補正情報を用いて前記近似直線を補正することを特徴とするMOSFETの電流判定装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のMOSFETの電流判定装置において、
所定の温度領域における前記近似オン抵抗の前記近似直線の傾きが当該温度領域における前記MOSFETの実際のオン抵抗値の傾きに一致するように前記近似直線を補正するための傾き補正情報が記憶される傾き補正情報記憶手段を備え、
前記判定電圧設定手段は、前記傾き補正情報記憶手段に記憶された前記傾き補正情報を用いて前記近似直線を補正することを特徴とするMOSFETの電流判定装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のMOSFETの電流判定装置において、
前記判定手段により判定する電流のレベルが過電流を検出するレベルに設定されていることを特徴とするMOSFETの電流判定装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載のMOSFETの電流判定装置において、
前記感温素子は、前記MOSFETの近傍に配置されたダイオードにより構成され、前記ダイオードの順方向電圧を前記温度検出電圧としていることを特徴とするMOSFETの電流判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−109912(P2012−109912A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258941(P2010−258941)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】