説明

NOxセンサの診断装置

【課題】内燃機関の運転による影響を受けることなく、安定した診断条件が確保され、診断精度が高いNOxセンサの診断装置を提供する。
【解決手段】制御部17を構成する診断部は、エンジンシステム10が停止して十分な期間が経過し、排気系16が十分に冷却された後、NOxセンサ36の診断を実施している。診断部は、外気温センサ13で検出した外気温と温度センサ35で検出した排気通路27の温度との差がほぼ同一の温度になると、NOxセンサ36の診断を実施する。排気通路27の温度と外気温とがほぼ同一の温度になるとき、エンジンシステム10は十分に冷却され、NOxセンサ36および排気系16の温度は安定した状態となる。そのため、NOxセンサ36のヒータの加熱性能の診断は、エンジンシステム10の運転状態あるいは排気系16に残存する余熱などによる影響が排除される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NOxセンサの診断装置に関し、特に内燃機関の排気に含まれるNOxを検出するNOxセンサの診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気中のNOxの濃度を検出するNOxセンサは、その精度を維持し、故障の有無を早期に発見するために定期的に診断を実施する必要がある。一方、内燃機関の運転中は、内燃機関の負荷の変動などによって排気の温度が変化し、診断条件が不安定となりやすい。そのため、内燃機関の運転中におけるNOxセンサの診断は、その精度の確保が困難である。そこで、内燃機関の運転停止後における制御装置の余動期間内にNOxセンサの診断を実施することが提案されている(特許文献1参照)。内燃機関は、運転を停止した後であっても、制御装置の作動が所定の期間継続している余動状態にある。そこで、特許文献1では、この制御装置の余動期間中にNOxセンサの診断を行っている。内燃機関が運転を停止した後は、内燃機関の運転中に比較して、排気の温度などの変化が小さく診断条件が安定する。
【特許文献1】特開2006−105965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、内燃機関が運転を停止した後は、運転中に比較して診断条件が安定するものの、内燃機関が運転を停止する直前の排気の温度、運転を停止した後に排気系に残存する余熱、あるいは外気温などの影響を受けるという問題がある。また、内燃機関の運転を停止した後の余熱がNOxセンサの診断に十分な熱量を有しているか否かを判断するのは困難である。
【0004】
そこで、本発明の目的は、内燃機関の運転による影響を受けることなく、安定した診断条件が確保され、診断精度が高いNOxセンサの診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1または7記載の発明では、診断手段は、内燃機関が運転を停止し、NOxセンサと外気温との温度差が所定値以下となったとき、NOxセンサの診断を実施する。内燃機関が運転を停止すると、NOxセンサの温度は徐々に低下する。そして、センサ温度検出手段で検出したNOxセンサの温度が、外気温センサで検出した外気温に近似したとき、診断手段によるNOxセンサの診断が実施される。ここで、NOxセンサの温度と外気温とは、ほぼ同一であることが望ましいものの、要求するNOxセンサの診断精度に応じて、数十℃程度の温度差を設定してもよい。NOxセンサの温度が外気温に近似しているとき、内燃機関およびNOxセンサの温度は安定し、その変化はほとんど生じない。そのため、NOxセンサのヒータによる加熱性能を診断する場合、周囲の熱的影響、特に排気の熱による影響が排除される。したがって、内燃機関の運転による影響を受けることがなく、安定した診断条件を確保することができ、NOxセンサの診断精度を高めることができる。
【0006】
請求項2または3記載の発明では、ヒータへの通電期間と到達温度との関係に基づいてヒータの加熱性能を診断している。すなわち、請求項2記載の発明の場合、予め設定された通電期間内で到達したヒータの温度に基づいて、請求項3記載の発明の場合、ヒータが予め設定されている到達温度に到達するまでの通電期間に基づいてヒータの加熱性能が診断される。したがって、簡単な構成でヒータの加熱性能、すなわちNOxセンサの診断を実施することができる。
【0007】
請求項4記載の発明では、診断手段は外気温によってヒータへの通電期間またはヒータの到達温度を補正する補正手段を有している。例えば外気温が低いとき、外気温が高いときと比較して、同一の通電期間内にヒータが到達する温度は低くなる。このように、ヒータの通電期間および到達期間は、外気温の影響を受ける。そこで、請求項4記載の発明では、外気温センサで検出した外気温に基づいて、補正手段によってヒータへの通電期間またはヒータの到達温度を補正している。したがって、外気温によるNOxセンサの診断精度の影響を低減することができる。
【0008】
請求項5記載の発明では、センサ温度検出手段は、内燃機関の運転が停止されてからの期間に基づいてNOxセンサの温度を検出している。内燃機関は、運転が停止されることにより、期間の経過とともに温度が低下する。すなわち、内燃機関の運転が停止されてから十分な期間が経過すると、NOxセンサが設けられている内燃機関の排気系と外気温との温度差は小さくなる。これにより、センサ温度検出手段として例えばNOxセンサの温度を検出する温度センサを起動することなく、内燃機関が運転を停止してからの経過期間に基づいてNOxセンサの温度が推定される。また、この場合、温度センサは構成として必須とされない。したがって、短期間でNOxセンサの診断を実施することができるとともに、部品点数の増加および構造の複雑化を抑えることができる。
【0009】
請求項6記載の発明では、センサ温度検出手段は、排気が流れる排気通路の温度と外気温との差に基づいてNOxセンサの診断の実施を判定している。排気通路温度センサは、例えば排気通路の内部に設けられることにより排気通路の温度を直接的に検出したり、排気通路を形成する排気管の温度を検出することにより排気通路の温度を間接的に検出する。NOxセンサは排気通路に設けられているため、排気通路の温度はNOxセンサの温度を間接的に示している。これにより、センサ温度検出手段は、NOxセンサの温度の検出精度が向上する。したがって、NOxセンサの診断精度をより高めることができる。
【0010】
請求項8記載の発明では、診断手段は外気温が所定値以下のときヒータの加熱性能の診断を停止する。例えば零下など外気温が極めて低きとき、NOxセンサのヒータで消費される電力は増大する。そのため、バッテリの負荷が増大し、次回の内燃機関の始動に影響を与えるおそれがある。そこで、外気温が低いとき、診断手段はヒータの加熱性能の診断を停止する。したがって、バッテリを保護することができる。
【0011】
請求項9記載の発明では、バッテリの電圧が所定値以下のときヒータの加熱性能の診断を停止する。ヒータは、消費する電力が比較的大きい。そのため、バッテリの充電量の低下や劣化などによってバッテリの電圧が低下しているとき、ヒータへ通電すると、バッテリにさらなる負荷を加えることになる。そのため、次回の内燃機関の始動に影響を与えるおそれがある。そこで、バッテリの電圧が所定値以下のとき、診断手段はヒータの加熱性能の診断を停止する。したがって、バッテリを保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明によるNOxセンサの診断装置を適用したエンジンシステムの実施形態について図面に基づいて説明する。
(エンジンシステムの構成)
まず、図1に示す本発明のNOxセンサの診断装置を適用したエンジンシステムの一実施形態について説明する。
エンジンシステム10は、内燃機関としてのエンジン11、排気浄化装置12、および外気温センサ13を備えている。エンジン11は、例えばガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどのピストンエンジン、あるいはガスタービンエンジンなどの任意の内燃機関を適用することができる。本実施形態では、エンジンとしてガソリンエンジンを適用する例について説明する。エンジン11は、エンジン本体14、吸気系15、排気系16および制御部17を有している。エンジン本体14は、シリンダ18の内部を往復するピストン19を有している。シリンダ18には、燃料を噴射するインジェクタ21が設けられている。インジェクタ21は、シリンダ18とピストン19との間に形成されている燃焼室22へ燃料を噴射する。インジェクタ21は、図示しない燃料タンクから燃料が供給される。本実施形態の場合、エンジン11は、インジェクタ21から燃焼室22へ燃料を噴射するいわゆる直噴式について示している。なお、エンジン11の燃料供給形式は、直噴式に限らずいわゆる予混合式など任意の方式を選択することができる。
【0013】
吸気系15は、吸気通路23を形成する吸気管部24を有している。吸気管部24は、一方の端部がエンジン本体14に接続し、他方の端部が大気に開放されている。吸気管部24は、大気に開放されている側の端部にエアフィルタ25を有している。吸気は、エアフィルタ25で異物が除去された後、吸気管部24が形成する吸気通路23を経由してエンジン本体14へ吸入される。吸気系15は、スロットル26を有している。スロットル26は、吸気通路23を開閉して、吸気通路23を流れる吸気の流量を制御する。吸気通路23の燃焼室22側の端部には、図示しない吸気バルブが設けられている。吸気バルブが開閉することにより、吸気通路23から燃焼室22への吸気の流入が断続される。なお、燃焼室22へ吸入される吸気の流量は、スロットル26に代えて吸気バルブの開閉タイミングおよび開閉量に応じて制御する構成としてもよい。
【0014】
排気系16は、排気通路27を形成する排気管部28を有している。排気管部28は、一方の端部がエンジン本体14に接続し、他方の端部が図示しないマフラーを経由して大気に開放されている。排気は、エンジン本体14から排気管部28が形成する排気通路27を経由して大気へ排出される。排気通路27の燃焼室22側の端部には、図示しない排気バルブが設けられている。排気バルブが開閉することにより、燃焼室22から排気通路27への排気の流出が断続される。
【0015】
制御部17は、エンジン11および排気浄化装置12をはじめとするエンジンシステム10の全体を制御するECU(Electronic Control Unit)である。制御部17は、図2に示すようにCPU31、ROM32、RAM33を有するマイクロコンピュータで構成されている。制御部17は、図示しない車内LANを経由してエンジンシステム10の他の制御装置と接続している。制御部17は、図示しないアクセルペダルの踏み込み量などに基づいて、インジェクタ21に駆動信号を出力する。制御部17は、インジェクタ21に駆動信号を出力することにより、インジェクタ21の開閉期間すなわち燃料の噴射量を制御する。
【0016】
排気浄化装置12は、図1に示すように三元触媒34、温度センサ35、およびNOxセンサ36を備えている。三元触媒34、温度センサ35およびNOxセンサ36は、いずれも排気系16に設けられている。三元触媒34は、活性温度に達すると、排気に含まれる炭化水素(HC)を水(HO)および二酸化炭素(CO)に酸化する。また、三元触媒34は、排気に含まれる窒素酸化物(NOx)を窒素(N)に還元する。
温度センサ35は、排気通路27を形成する排気管部28に設けられている。温度センサ35は、例えばサーミスタなどの検温素子から構成されている。温度センサ35は、排気通路27の温度に応じて電気信号を出力する。制御部17は、温度センサ35から出力された電気信号に基づいて排気通路27の温度を検出する。
【0017】
NOxセンサ36は、排気系16における排気の流れ方向において三元触媒34の下流側に設けられている。NOxセンサ36は、排気通路27を流れる排気に含まれるNOxの濃度を検出する。NOxセンサ36は、図2に示すようにセンサ素子41およびヒータ42からなる公知の構造を有している。センサ素子41は、例えば図示しない一対の電極を有している。センサ素子41の一対の電極の間には、固体の電解質が挟み込まれている。ヒータ42は、センサ素子41を加熱する。これにより、センサ素子41は、ヒータ42によって活性温度に加熱される。
【0018】
外気温センサ13は、図1に示すエンジンシステム10の外部における気温を検出する。例えばエンジンシステム10が車両に搭載されている場合、外気温センサ13は車両の外気温を検出する。外気温センサ13は、外気温に応じて電気信号を出力する。制御部17は、外気温センサ13から出力された電気信号に基づいて外気温を検出する。したがって、外気温センサ13および制御部17は、特許請求の範囲の外気温検出手段を構成している。外気温センサ13は、例えば図示しない車両の空調機器などに設けられている外気温センサと共用することができる。
【0019】
次に、NOxセンサ36の診断装置の構成について詳細に説明する。
図2に示すように、診断装置50は、エンジンシステム10の制御部17、外気温センサ13、温度センサ35およびNOxセンサ36から構成されている。制御部17は、上述のようにCPU31、ROM32およびRAM33を有するマイクロコンピュータである。制御部17は、センサ出力読取部51、通電制御部52、ヒータ温度検出部53、外気温検出部54、排気通路温度検出部55および診断部56を有している。センサ出力読取部51は、NOxセンサ36のセンサ素子41に接続している。センサ素子41から出力されたNOx濃度に応じた電気信号は、センサ出力読取部51に入力される。制御部17は、このセンサ出力読取部51に入力された電気信号に基づいて排気通路27を流れる排気に含まれるNOxの濃度を検出する。
【0020】
通電制御部52は、NOxセンサ36のヒータ42に接続している。通電制御部52は、このヒータ42への通電をオンまたはオフする。これにより、ヒータ42には、図示しないバッテリからの電力の供給が断続される。ヒータ温度検出部53は、ヒータ42の温度を検出する。本実施形態の場合、ヒータ温度検出部53は、通電制御部52からヒータ42へ印加される電圧およびヒータ42へ供給される電流を検出する。ヒータ温度検出部53は、ヒータ42へ印加される電圧とヒータ42へ供給される電流との関係からヒータ42の温度を検出する。外気温検出部54は、外気温センサ13に接続している。外気温に応じて外気温センサ13から出力された電気信号は、外気温検出部54に入力される。制御部17は、この外気温検出部54に入力された電気信号に基づいて外気温を検出する。
【0021】
排気通路温度検出部55は、温度センサ35に接続している。温度センサ35から出力された排気通路27の温度に応じた電気信号は、排気通路温度検出部55に入力される。制御部17は、この排気通路温度検出部55に入力された電気信号に基づいて排気通路27の温度を検出する。温度センサ35は、排気通路27に配置して排気通路27の温度を直接検出する構成としてもよく、排気管部28の温度から排気通路27の温度を間接的に検出する構成としてもよい。NOxセンサ36は、排気通路27に設けられている。そのため、温度センサ35および制御部17で検出した排気通路27の温度は、NOxセンサ36の温度とほぼ一致する。これにより、本実施形態における温度センサ35および制御部17は、特許請求の範囲のセンサ温度検出手段に相当する。
【0022】
診断部56は、ROM32に記録されているコンピュータプログラムにしたがってNOxセンサ36の診断を実施する。診断部56は、特許請求の範囲の診断手段を構成している。以下、診断部56におけるNOxセンサ36の診断の流れを説明する。
【0023】
(NOxセンサ診断の第1実施形態)
図3および図4に基づいてNOxセンサ36の診断の第1実施形態について説明する。
制御部17の図示しないメインリレーは、エンジンシステム10の図示しないイグニッションスイッチがオフされると、所定の間隔で自立的に起動する。メインリレーが起動すると、制御部17はNOxセンサ36の診断を含む各種のコンピュータプログラムを実行する。このとき、メインリレーが起動する間隔は、例えば数分から数十分の範囲など任意に設定することができる。
【0024】
診断部56は、メインリレーの起動によってコンピュータプログラムが実行されると、エンジンシステム10が運転中であるか否かを判定する(S101)。例えばイグニッションスイッチがオフであるとき、エンジンシステム10は運転を停止している可能性が高いものの、診断部56は確認のためにエンジンシステム10が運転中であるか否か、およびエンジンシステム10が始動状態にあるか否かを判定する。診断部56は、例えばインジェクタ21からの燃料の噴射量、あるいは図示しない回転センサで検出したエンジン11の回転数などからエンジンシステム10の状態を検出する。
【0025】
診断部56は、ステップS101においてエンジンシステム10が停止していると判定すると、エンジンシステム10の停止後にNOxセンサ36の診断が実施されたか否かを判定する(S102)。NOxセンサ36の診断は、エンジンシステム10の停止から次の始動までの間に一回実施すれば足りる。そのため、エンジンシステム10の停止後にNOxセンサ36の診断が一回実施されていれば、さらなるNOxセンサ36の診断は不要である。したがって、NOxセンサ36の診断がエンジンシステム10の停止後に一回実施されていれば、診断部56は処理を終了する。
【0026】
診断部56は、ステップS102においてエンジンシステム10の停止後にNOxセンサ36の診断が実施されていないと判定すると、診断実施条件が成立しているか否かを判定する(S103)。ここで、診断部56は、診断実施条件として、外気温と排気通路27の温度との差が所定値以下であるか否かを判定する。すなわち、診断部56は、外気温センサ13で検出した外気温と、温度センサ35で検出した排気通路27の温度との差が所定値以下であるか否かを判定する。上述のようにNOxセンサ36は排気通路27に設けられているため、排気通路27の温度はNOxセンサ36の温度に近似している。そのため、診断部56は、排気通路27の温度をNOxセンサ36の温度とみなして診断実施条件が成立しているか否かを判定する。なお、診断部56は、温度センサ35で検出した排気通路27の温度に所定の係数を乗ずることにより、NOxセンサ36の温度を推定する構成としてもよい。
【0027】
外気温と排気通路27の温度との差が所定値以下のとき、エンジンシステム10の排気系16およびNOxセンサ36は十分に冷却され、温度が安定していると考えられる。そこで、診断部56は、エンジンシステム10の排気系の温度が外気温に近似し、十分に冷却されているか否かを判定する。この場合、外気温と排気通路27の温度との差は、ほとんど0、すなわち外気温と排気通路27の温度とがほぼ一致することが望ましい。外気温と排気通路27の温度とがほぼ一致しているとき、エンジンシステム10の排気系16は十分に冷却されていると考えられるからである。但し、外気温センサ13および温度センサ35の検出誤差を考慮して、外気温と排気通路27の温度との差の所定値は例えば数℃から数十℃程度に設定してもよい。すなわち、ここで設定している外気温と排気通路27の温度との差の所定値は、NOxセンサ36の診断に要求される精度、ならびに外気温センサ13や温度センサ35の検出精度などに応じて0℃から数十℃の範囲で任意に設定してもよい。
【0028】
また、診断部56は、外気温センサ13および温度センサ35で検出した温度差に基づいて診断条件を判定するのに代えて、エンジンシステム10の停止後の経過期間に基づいて診断条件を判定してもよい。すなわち、エンジンシステム10は、停止後に十分な期間が経過すると、排気系16が十分に冷却され、排気系16の温度が安定した状態となる。そこで、診断部56は、エンジンシステム10が停止されてから所定の期間が経過したか否かによって診断条件の成立を判定してもよい。具体的には、ステップS101におけるメインリレーのオンおよびオフの回数をカウントすることにより、イグニッションがオフになってからの経過期間を検出することができる。エンジンシステム10が停止されてからの経過期間に基づいて診断条件を判定する場合、温度センサ35の起動が不要となる。したがって、より簡単かつ短期間でNOxセンサ36の診断を実施することができる。
【0029】
さらに、診断部56は、排気系16の温度に基づく診断実施条件の判定に加えて、図示しないバッテリの状態あるいは外気温に応じて診断実施条件を判定してもよい。具体的には、診断部56は、バッテリの充電量が低下しているとき、あるいはバッテリが劣化しているとき、診断実施条件が不成立であると判定する。NOxセンサ36の診断は、比較的消費電力の大きなヒータ42への通電をともなう。そのため、バッテリの充電量が低下、あるいはバッテリが劣化しているとき、NOxセンサ36の診断を実施すると、バッテリに与える負荷が大きくなる。その結果、次回のエンジンシステム10の始動に支障をきたすおそれがある。したがって、診断部56は、バッテリの充電量が低下しているとき、あるいはバッテリが劣化しているとき、診断実施条件が不成立であると判定し、診断を停止する。また、例えば零下など外気温センサ13で検出した外気温が極めて低いとき、診断部56は診断実施条件が不成立であると判定し、診断を停止する。外気温が極めて低いとき、NOxセンサ36のヒータ42で消費される電力が過大となり、バッテリに与える負荷が大きくなるおそれがあるからである。
【0030】
診断部56は、以上のようにステップS103においてNOxセンサ36の診断実施条件が成立していると判定すると、カウンタを初期化し、C=0とする(S104)。診断部56は、その構成において図示しないカウンタを有している。診断部56は、ステップS103においてNOxセンサ36の診断実施条件が成立していると判定すると、診断実行フラグをオンにする。診断部56は、診断実行フラグをオンすることにより、ヒータ42への通電を開始する。診断部56は、通電制御部52を経由してヒータ42への通電をオンする(S105)。このヒータ42への通電が開始された時点は、図4に示すt0である。
【0031】
診断部56は、ヒータ42への通電をオンすると、ヒータ42の温度Thを検出する(S106)。ヒータ42の温度Thは、通電期間の経過とともに上昇する。ヒータ42の温度Thは、上述のように通電制御部52からヒータ42へ印加される電圧とヒータ42へ供給される電流との関係に基づいてヒータ温度検出部53で検出される。ここで検出されるヒータ42の温度Thは、特許請求の範囲における到達温度である。なお、ヒータ42の温度Thの検出は、ヒータ42の電圧と電流との関係に基づく検出に限らず、例えばヒータ42に設けた温度センサ、あるいはヒータ42の近傍に設けた素子の抵抗で検出する構成としてもよい。
【0032】
診断部56は、ステップS106で検出したヒータ42の温度Thすなわちヒータ42の到達温度があらかじめ設定された設定温度T1より高くなったか否かを判定する(S107)。ここで、設定温度T1は、NOxセンサ36の活性温度に設定することが望ましい。NOxセンサ36の活性温度は、例えば700℃などの高温に設定されている。なお、設定温度T1は、NOxセンサ36の活性温度に限らず任意の温度に設定してもよい。NOxセンサ36の診断精度が確保される範囲で設定温度T1を低下させることにより、ヒータ42における消費電力を低減することができる。
【0033】
診断部56は、ステップS107においてヒータ42の温度Thが設定温度T1に到達していないと判定すると、カウンタを進め、C=C+1とする(S108)。そして、診断部56は、ステップS108で進めたカウンタのカウントCが所定値C1より大きいか否かを判定する(S109)。診断部56は、判定の結果、C>C1でないとき、ステップS106へリターンし、ステップS106からステップS109を繰り返す。このカウントの所定値C1は、予め設定されているヒータ42への通電期間に対応し、図4における通電を開始するt0から通電期間が経過したタイミングt1までに対応する。
【0034】
診断部56は、ステップS109において、C>C1と判定したとき、ヒータ42を異常と判定し、ヒータ異常フラグをオンにする(S110)。ヒータ42の温度Thが設定温度T1に到達することなく、カウンタのカウントCがC1より大きくなる場合、ヒータ42が設定温度T1に到達するまでの通電期間が予め設定されたカウントの所定値C1に対応する通電期間よりも長いことを意味する。そのため、ヒータ42に異常が生じ、ヒータ42の加熱性能が低下していると考えられる。したがって、診断部56は、ヒータ42の温度Thが設定温度T1に到達することなく、カウントCが所定値C1より大きくなるとき、ヒータ42の異常と判定する。
【0035】
一方、診断部56は、ステップS107において、所定値C1に達することなくヒータ42の温度Thが設定温度T1より高くなると、ヒータ42が正常であると判定し、ヒータ正常フラグをオンする(S111)。ステップS106とステップS109との間は、ステップS109においてカウンタのカウントCがC1より大きいか否かが判定されつつループしている。そのため、このループ中にステップS107においてヒータ42の温度Thが設定温度T1に到達していれば、ヒータ42への通電期間すなわちカウンタのカウントCはC1以下である。その結果、ヒータ42には異常が生じていないと考えられる。したがって、診断部56は、ヒータ正常フラグをオンする。
診断部56は、ステップS110でヒータ異常フラグをオン、またはステップS111でヒータ正常フラグをオンすると、ヒータ42への通電をオフにする(S112)。そして、診断部56は、診断完了フラグをオンにする(S113)。診断完了フラグをオンにすることにより、次回以降のルーチンでは、ステップS102においてNOxセンサ36の診断が完了していると判定される。
【0036】
以上説明したようにNOxセンサ36の診断の第1実施形態では、エンジンシステム10が停止して十分な期間が経過し、排気系16が十分に冷却された後、NOxセンサ36の診断を実施している。排気通路27の温度が外気温とほぼ同一の温度になることにより、NOxセンサ36および排気系16の温度は安定した状態となる。そのため、NOxセンサ36のヒータ42の加熱性能の診断は、エンジンシステム10の運転状態あるいは排気系16に残存する余熱などによる影響が排除される。したがって、エンジンシステム10の運転状態などの影響を受けることなく、安定した診断条件を確保することができ、NOxセンサ36の診断精度を高めることができる。
【0037】
本実施形態では、ヒータ42の温度が所定の設定温度T1に到達するまでの期間、すなわちカウンタのカウントに基づいてヒータ42の加熱性能を診断している。これにより、NOxセンサ36のヒータ42がNOxセンサ36の機能を発揮するために必要な加熱能力を有しているか否かが診断される。したがって、NOxセンサ36の診断を確実かつ高精度に実施することができる。また、この場合、ヒータ42に印加する電圧とヒータ42に供給する電流との関係からヒータ42の温度を検出することにより、例えばヒータ42の温度を検出するセンサなどが不要となる。したがって、部品点数の増加および構造の複雑化を招くことなく、NOxセンサ36の診断を高精度に実施することができる。
【0038】
また、本実施形態では、温度センサ35で検出した排気通路27の温度と外気温センサ13で検出した外気温との温度差に基づいて、NOxセンサ36の診断実施条件を判定している。排気通路27の温度と外気温との温度差が所定値以下のとき、排気系16は十分に冷却され、排気通路27に設けられているNOxセンサ36の温度は安定していると考えられる。そのため、NOxセンサ36の診断を実施する場合、排気系16に残存する熱の影響が低減される。一方、温度センサ35による排気通路27の温度の検出に代えて、エンジンシステム10の停止からの経過期間に基づいて診断実施条件を判定してもよい。この場合、排気通路27の温度を検出する温度センサ35の起動は不要になる。したがって、より短期間およびより簡単な処理でNOxセンサ36の診断を実施することができる。
【0039】
(NOxセンサの診断の第2実施形態)
次に、図5に基づいてNOxセンサ36の診断の第2実施形態について説明する。なお、NOxセンサ36の診断の第1実施形態と実質的に同一の手順については説明を省略する。
診断部56は、メインリレーの起動によってコンピュータプログラムが実行されると、エンジンシステム10が運転中であるか否かを判定する(S201)。診断部56は、エンジンシステム10が停止している判定すると、NOxセンサ36の診断が過去に実施されたか否かを判定する(S202)。診断部56は、NOxセンサ36の診断が実施されていないと判定すると、診断実施条件が成立しているか否かを判定する(S203)。そして、診断部56は、診断実施条件が成立していると判定すると、カウンタを初期化してC=0とするとともに(S204)、ヒータ42への通電をオンする(S205)。
【0040】
診断部56は、ヒータ42への通電をオンすると、カウンタのカウントをC=C+1に進める(S206)。そして、診断部56は、ステップS206において進められたカウントCが所定値C2より大きいか否かを判定する(S207)。診断部56は、カウントCが所定値C2より大きくなるまでステップS206およびS207を繰り返す。診断部56は、ステップS207においてカウントCがC2より大きいと判定すると、ヒータ42の温度Thを検出する(S208)。ヒータ42の温度Thの検出は、上述の第1実施形態と同様に実施される。
【0041】
診断部56は、ステップS208で検出したヒータ42の温度Thすなわち到達温度があらかじめ設定された設定温度T2より高いか否かを判定する。診断部56は、ステップS209においてヒータ42の温度Thが設定温度T2に到達していないと判定すると、ヒータ異常フラグをオンにする(S210)。一方、診断部56は、ステップS209においてヒータ42の温度Thが設定温度T2に到達していると判定すると、ヒータ正常フラグをオンにする(S211)。
【0042】
診断部56は、ステップS206とステップS207とを繰り返すことにより、ヒータ42へ通電した期間すなわち通電期間が所定値C2になると、ヒータ42の温度Thを検出している。そのため、診断部56は、所定の通電期間内にヒータ42の温度Thすなわちヒータ42の到達温度が設定温度T2に達したか否かを判定することができる。このとき、ステップS209においてヒータ42の温度Thが設定温度T2に到達していれば、ヒータ42の加熱性能は十分に確保され、ヒータ42は正常であると判定される。一方、ステップS209においてヒータ42の温度Thが設定温度T2に到達していなければ、ヒータ42の加熱性能は不十分であり、ヒータ42は異常であると判定される。
診断部56は、ステップS209における判定の結果、ステップS210でヒータ異常フラグをオン、またはステップS211でヒータ正常フラグをオンすると、ヒータ42への通電をオフにする(S212)。そして、診断部56は、診断完了フラグをオンにする(S213)。
【0043】
以上説明したにように、NOxセンサ36の診断の第2実施形態では、ヒータ42の温度Thが所定期間、すなわちカウンタのカウントがC2に達するまでのヒータ42の通電期間に、設定温度T2に到達しているか否かに基づいてヒータ42の加熱性能を診断している。これにより、NOxセンサ36のヒータ42がNOxセンサ36の機能を発揮するために必要な加熱能力を有しているか否かが診断される。したがって、NOxセンサ36の診断を確実かつ高精度に実施することができる。
ヒータ42の診断は、第1実施形態のようにヒータ42の温度が設定温度T1に到達するまでの通電期間に基づいて判定してもよく、第2実施形態のようにヒータ42の所定の通電期間内にヒータ42の温度が設定温度T2に到達するか否かに基づいて判定してもよい。
【0044】
(NOxセンサの診断の変形例)
上述の第1実施形態ではヒータ42の温度を判定する条件として設定温度T1を設定し、通電期間を判定する条件として所定値C1を設定した。また、第2実施形態では、ヒータ42の温度を判定する条件として設定温度T2を設定し、通電期間を判定する条件として所定値C2を設定した。上述の実施形態では、これらの設定温度T1、T2および通電期間の所定値C1、C2は、定数であるとして説明した。
しかし、設定温度T1、T2および通電期間の所定値C1、C2は、変数であってもよく、必要に応じて補正を加えた補正値であってもよい。具体的には、設定温度T1、T2および通電期間の所定値C1、C2は、外気温センサ13で検出した外気温に応じて変化してもよい。また、設定温度T1、T2および通電期間の所定値C1、C2を外気温センサ13で検出した外気温に応じて補正する構成としてもよい。
【0045】
ヒータ42は、通電によって温度が上昇するため、外気温の影響を受けやすい。例えば外気温が低いとき、所定の温度に到達するまでにヒータ42に通電する期間は外気温が高いときに比較して長くなる。そのため、図6に示すように、診断部56によるNOxセンサ36の診断に必要な期間は外気温に応じて変化する。その結果、設定温度T1、T2および通電期間の所定値C1、C2を一定の値とすると、外気温に応じて診断結果に誤差が生じるおそれがある。そこで、診断部56に補正部を設け、補正部が外気温センサ13で検出した外気温に応じて設定温度T1、T2および通電期間の所定値C1、C2を補正する構成としてもよい。これにより、ヒータ42の加熱性能の診断精度が向上する。したがって、NOxセンサ36の診断を外気温の条件に関わらず、高精度に実施することができる。
【0046】
また、上記の複数の実施形態では、排気通路27の温度からNOxセンサ36の温度を間接的に検出する構成について説明した。しかし、NOxセンサ36に別途温度センサを設け、NOxセンサ36の温度を直接検出する構成としてもよい。
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態によるNOxセンサの診断装置を適用したエンジンシステムを示す概略図
【図2】本発明の一実施形態によるNOxセンサの診断装置を示すブロック図
【図3】本発明の一実施形態によるNOxセンサの診断装置によるNOxセンサの診断の第1実施形態の流れを示す概略図
【図4】図3に示すNOxセンサの診断の第1実施形態におけるタイミングチャートを示す概略図
【図5】本発明の一実施形態によるNOxセンサの診断装置によるNOxセンサの診断の第2実施形態の流れを示す概略図
【図6】外気温と診断期間との関係を示す概略図
【符号の説明】
【0048】
図面中、11はエンジン(内燃機関)、13は外気温センサ(外気温検出手段)、17は制御部(センサ温度検出手段、外気温検出手段)、27は排気通路、35は温度センサ(センサ温度検出手段、排気通路温度センサ)、36はNOxセンサ、41はセンサ素子、42はヒータ、50は診断装置、56は診断部(診断手段、補正手段)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気に含まれるNOxの濃度を検出するセンサ素子と、前記センサ素子を活性温度に加熱するヒータとを備えるNOxセンサの診断装置であって、
前記NOxセンサの温度を検出するセンサ温度検出手段と、
前記NOxセンサの外部の外気温を検出する外気温検出手段と、
前記内燃機関が運転を停止し、前記センサ温度検出手段で検出した前記NOxセンサの温度と前記外気温検出手段で検出した外気温との差が所定値以下であるとき、前記ヒータに通電し、前記ヒータによる前記センサ素子の加熱性能を診断する診断手段と、
を備えることを特徴とするNOxセンサの診断装置。
【請求項2】
前記診断手段は、予め設定された通電期間で到達した前記ヒータの到達温度に基づいて、前記ヒータの加熱性能を診断することを特徴とする請求項1記載のNOxセンサの診断装置。
【請求項3】
前記診断手段は、前記ヒータが予め設定されている到達温度に到達するまでの通電期間に基づいて、前記ヒータの加熱性能を診断することを特徴とする請求項1記載のNOxセンサの診断装置。
【請求項4】
前記診断手段は、前記外気温検出手段で検出した外気温によって前記通電期間または前記到達温度を補正する補正手段を有することを特徴とする請求項2または3記載のNOxセンサの診断装置。
【請求項5】
前記センサ温度検出手段は、前記内燃機関の運転が停止されてからの期間に基づいて前記NOxセンサの温度を検出することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のNOxセンサの診断装置。
【請求項6】
前記センサ温度検出手段は、前記内燃機関の排気が流れる排気通路の温度を直接または間接に検出する排気通路温度センサを有し、
前記診断手段は、前記排気通路温度センサで検出した前記排気通路の温度と、前記外気温センサで検出した外気温との差に基づいて、前記ヒータの加熱性能の診断を実施するか否かを判定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のNOxセンサの診断装置。
【請求項7】
前記診断手段は、前記センサ温度検出手段で検出した前記NOxセンサの温度と、前記外気温センサで検出した外気温とがほぼ同一のとき、前記ヒータの加熱性能の診断を実施することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載のNOxセンサの診断装置。
【請求項8】
前記診断手段は、前記外気温センサで検出した外気温が所定値以下のとき、前記ヒータの加熱性能の診断を停止することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載のNOxセンサの診断装置。
【請求項9】
前記診断手段は、バッテリ電圧が所定値以下のとき、前記ヒータの加熱性能の診断を停止することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載のNOxセンサの診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−133238(P2009−133238A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308967(P2007−308967)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】