説明

PLL周波数シンセサイザ

【課題】 フラクショナルN方式のPLL(Phase-locked loop;位相同期回路)周波数シンセサイザにおいて生じる、フラクショナルスプリアスを抑圧する。
【解決手段】 可変分周器の分周数を2つ以上の整数値で時間的に切り替えるフラクショナルN方式のPLL周波数シンセサイザにおいて、電圧制御発振器2とループフィルタ7の間に、抑圧周波数および減衰量の制御を可能とする可変ノッチフィルタ8を設けることで、フラクショナルスプリアスを抑圧することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、PLL(Phase-locked loop;位相同期回路)周波数シンセサイザに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なPLL周波数シンセサイザは、基準信号発生回路、可変分周器、位相比較器、ループフィルタ、および電圧制御発振器から構成される。
【0003】
電圧制御発振器の出力信号は可変分周器によって分周され、位相比較器によってその可変分周器の出力信号と基準信号発生回路の出力信号とが位相比較される。位相比較器は位相差に応じた信号を出力し、ループフィルタに入力する。ループフィルタは、位相比較器が出力した信号をもとに、位相差が小さくなるように電圧制御発振器を制御する。こうして電圧制御発振器の出力信号、即ちPLL周波数シンセサイザの出力信号は常に基準信号発生回路の出力周波数の分周数倍の周波数になると同時に同位相になるように制御される。このときPLL周波数シンセサイザの出力信号の周波数Foutは、式1で示される。
【0004】
【数1】

【0005】
しかしながら、PLL周波数シンセサイザでは、一般に位相比較器における位相比較周波数成分およびその高調波成分に起因するスプリアスが発生し、出力信号に現れる。このスプリアスの抑圧手段の一つとして、ループフィルタの後段にノッチフィルタを追加する方法がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−308105号公報
【0007】
ノッチフィルタの通過特性は、図5に示すように特定の周波数成分を減衰させる特性を有し、その周波数をスプリアス周波数付近に設定することでスプリアスの抑圧が可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
PLL周波数シンセサイザにおいて周波数ステップを小さくする手段の一つとして、フラクショナルN方式の採用がある。この方式は可変分周器の分周数を2つ以上の整数値で時間的に切り替えることで、整数分周器である可変分周器を擬似的に分数分周器として動作させるものである。
【0009】
即ち、式1の分周数Nを分数とすることで、Foutの周波数ステップをより小さくすることが可能となる。
【0010】
しかしながら、フラクショナルN方式のPLL周波数シンセサイザでは、PLL周波数シンセサイザの出力信号からの離調周波数Fref/M(Mは分周数Nの切り替え割合に応じて決まる値)において、スプリアス(フラクショナルスプリアス)が発生する。分周数Nを変更すると上記Mの値が変化するため、フラクショナルスプリアスの周波数が変化する。この場合、特許文献1に示す従来のノッチフィルタは、抑圧周波数が固定されているため、所望のスプリアス抑圧量を得られなくなるという問題がある。
【0011】
この発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、フラクショナルN方式のPLL周波数シンセサイザにおいて生じる、フラクショナルスプリアスを抑圧することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明によるPLL周波数シンセサイザは、入力された制御電圧に基づいて発振周波数を変化させる電圧制御発振器と、設定された分周数に基づいて上記電圧制御発振器の出力信号を分周する可変分周器と、基準信号を発生する基準信号発生回路と、上記基準信号発生回路からの基準信号と上記可変分周器からの出力信号との位相差を検出し、位相差に応じた信号を出力する位相比較器と、上記位相比較器からの出力信号を平滑化するループフィルタと、上記ループフィルタからの平滑化した信号のスプリアス成分を抑圧して上記電圧制御発振器へ制御電圧を出力する可変ノッチフィルタと、上記分周器の分周数を複数の整数値で切り替えるように設定するとともに、当該分周数に応じて、上記可変ノッチフィルタの抑圧周波数を可変する制御回路と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、フラクショナルN方式のPLL周波数シンセサイザにおいて生じるフラクショナルスプリアスの周波数が変化した際に、可変ノッチフィルタの抑圧周波数を制御することにより、常に所望のスプリアス抑圧量を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1によるPLL周波数シンセサイザの構成を示す図である。
【図2】実施の形態1による可変ノッチフィルタの構成例を示す図である。
【図3】実施の形態1による可変ノッチフィルタの通過特性を示す図である。
【図4】実施の形態1による可変ノッチフィルタによるフラクショナルスプリアスの抑圧効果を示す図である。
【図5】一般的なノッチフィルタの通過特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
以下、図を用いて、この発明に係る実施の形態1のPLL周波数シンセサイザについて説明する。図1は、実施の形態1によるフラクショナルN方式のPLL周波数シンセサイザ1の構成を示す図である。図において、PLL周波数シンセサイザ1は、電圧制御発振器2と、可変分周器3と、制御回路4と、基準信号発発生回路5と、位相比較器6と、ループフィルタ7と、可変ノッチフィルタ8とを備えて構成される。
【0016】
電圧制御発振器2は、入力される制御電圧に応じた周波数の信号を発生し、出力する。電圧制御発振器2からの出力信号は2分配され、一方はPLL周波数シンセサイザ1の出力信号となり、他の一方は可変分周器3へと入力される。可変分周器3は、電圧制御発振器2からの入力信号を分周数Nで分周し、出力する。基準信号発生回路5は、基準周波数の基準信号を発生し、出力する。可変分周器3の出力信号と基準信号発生回路5の出力信号は、位相比較器6へ入力される。位相比較器6は、可変分周器3の出力信号と基準信号発生回路5の出力信号の位相を比較し、位相差に応じた信号を出力する。位相比較器6が出力する信号はループフィルタ7へ入力され、平滑化される。ループフィルタ7の出力信号は、可変ノッチフィルタ8に入力され、フィルタ処理される。可変ノッチフィルタ8にてフィルタ処理されたループフィルタ7の出力信号は、制御電圧として電圧制御発振器2に入力される。これによって、PLL周波数シンセサイザ1は、所望の動作帯域内で発振する。
【0017】
制御回路4は、電圧制御発振器2から出力されるPLL周波数シンセサイザ1の出力周波数を所望の周波数に変更するために、図示しない外部装置から入力される分周数設定データに基づいて、第1乃至第7の制御信号を同時に出力する。第1の制御信号S1は、可変分周器3に入力される。第2の制御信号S2乃至第7の制御信号S7は、可変ノッチフィルタ8に入力される。制御回路4は、第1の制御信号S1に基づいて、例えば可変分周器3の分周数Nを2つ以上の整数値で時間的に切り替えるように、分周数Nを変更する。制御回路4は、第2の制御信号S2乃至第7の制御信号S7に基づいて、可変ノッチフィルタ8のフィルタ特性を変更する。
【0018】
図2は、実施の形態1における可変ノッチフィルタ8の構成例を示す回路図である。可変ノッチフィルタ8は、可変容量9と、可変容量10と、可変容量11と、可変抵抗12と、可変抵抗13と、可変抵抗14を備えて構成される。図の例では、可変容量9および可変容量10の直列回路と、可変抵抗13および可変抵抗14の直列回路が並列に接続される。可変容量9と可変容量10の間に接地された可変抵抗12が接続される。可変抵抗13と可変抵抗14の間に接地された可変容量11が接続される。
【0019】
可変容量9,10,11、および可変抵抗12,13,14は、それぞれ制御回路4から入力される第2の制御信号S2、第3の制御信号S3、第4の制御信号S4、第5の制御信号S5、第6の制御信号S6、および第7の制御信号S7により、その容量値および抵抗値が調整される。
【0020】
図3は、可変ノッチフィルタ8の通過特性を示す図であり、横軸は周波数を示し、縦軸は減衰量を示す。可変ノッチフィルタ8は、特定の周波数成分を減衰させるフィルタ特性を有しており、その抑圧周波数は前述の可変容量9,10,11の容量値および可変抵抗12,13,14の抵抗値をそれぞれ調整することにより、制御可能である。
【0021】
ここで、制御回路4においては、出力する第1の制御信号S1乃至第7の制御信号S7が、可変分周器3にて設定される分周数Nに対応して互いに関連付けられており、外部から入力される分周数設定データに基づいて、第1の制御信号S1乃至第7の制御信号S7の出力する信号値が予め設定されている。
【0022】
前述の通りフラクショナルスプリアスの周波数は分周数Nの変更に伴い変化する。しかしながら実施の形態1のPLL周波数シンセサイザでは、制御回路4によって、可変ノッチフィルタ8の抑圧周波数が、常に所望のフラクショナルスプリアス抑圧量を得るように、フィルタ特性が広帯域に制御される。
【0023】
図4は、ノッチフィルタによるフラクショナルスプリアスの抑圧効果を示す図であり、図4(a)は抑圧周波数が固定された従来のノッチフィルタを使用した場合を示し、図4(b)は実施の形態1による可変ノッチフィルタ8を使用した場合を示す。図において、横軸は周波数を示し、縦軸はスプリアス強度を示す。
【0024】
図4(a)に示すように、従来のノッチフィルタでは、フラクショナルスプリアスの周波数が変化すると、ノッチフィルタの減衰域から外れてしまい、所望のスプリアス抑圧量を得られなくなる。一方、図4(b)に示す実施の形態1の可変ノッチフィルタ8においては、可変ノッチフィルタ8を制御することにより、PLL周波数シンセサイザ1の所望の動作帯域において、常に所望のフラクショナルスプリアス抑圧量を得ることができる。
【0025】
以上説明した通り、実施の形態1によるPLL周波数シンセサイザは、入力された制御電圧に基づいて発振周波数を変化させる電圧制御発振器と、設定された分周数に基づいて上記電圧制御発振器の出力信号を分周する可変分周器と、基準信号を発生する基準信号発生回路と、上記基準信号発生回路からの基準信号と上記可変分周器からの出力信号との位相差を検出し、位相差に応じた信号を出力する位相比較器と、上記位相比較器からの出力信号を平滑化するループフィルタと、上記ループフィルタからの平滑化した信号のスプリアス成分を抑圧して上記電圧制御発振器へ制御電圧を出力する可変ノッチフィルタと、上記分周器の分周数を複数の整数値で切り替えるように設定するとともに、当該分周数に応じて、上記可変ノッチフィルタの抑圧周波数を可変する制御回路と、を備えたものである。また、上記可変ノッチフィルタは可変容量および可変抵抗を備えて構成され、上記制御回路は上記分周数に応じて上記可変ノッチフィルタの可変容量および可変抵抗を可変する。
【0026】
これによって、フラクショナルN方式のPLL周波数シンセサイザにおいて生じるフラクショナルスプリアスの周波数が変化した際に、可変ノッチフィルタの抑圧周波数を制御することにより、常に所望のスプリアス抑圧量を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 PLL周波数シンセサイザ、2 電圧制御発振器、3 可変分周器、4 制御回路、5 基準信号発生回路、6 位相比較器、7 ループフィルタ、8 可変ノッチフィルタ、9,10,11 可変容量、12,13,14 可変抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された制御電圧に基づいて発振周波数を変化させる電圧制御発振器と、
設定された分周数に基づいて上記電圧制御発振器の出力信号を分周する可変分周器と、
基準信号を発生する基準信号発生回路と、
上記基準信号発生回路からの基準信号と上記可変分周器からの出力信号との位相差を検出し、位相差に応じた信号を出力する位相比較器と、
上記位相比較器からの出力信号を平滑化するループフィルタと、
上記ループフィルタからの平滑化した信号のスプリアス成分を抑圧して上記電圧制御発振器へ上記制御電圧を出力する可変ノッチフィルタと、
上記分周器の上記分周数を複数の整数値で切り替えるように設定するとともに、当該分周数に応じて、上記可変ノッチフィルタの抑圧周波数を可変する制御回路と、
を備えたPLL周波数シンセサイザ。
【請求項2】
上記可変ノッチフィルタは可変容量および可変抵抗を備えて構成され、上記制御回路は上記分周数に応じて上記可変ノッチフィルタの可変容量および可変抵抗を可変することを特徴とする請求項1に記載のPLL周波数シンセサイザ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−199894(P2012−199894A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64225(P2011−64225)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】