説明

SCF結合阻害剤

【課題】c−kitレセプターに対するSCFの結合を阻害し、医薬又は化粧料として有用なSCF結合阻害剤及び美白剤の提供。
【解決手段】下記(1)〜(3)で表される化合物及びリン酸化マンナンオリゴ糖(Y1892由来)、リン酸化ガラクタン(Y6493由来)及びリン酸化ガラクタン(Y6502由来)などのリン酸化多糖類から選ばれる化合物又はその塩を有効成分とするSCF結合阻害剤及び美白剤。(1)7,8−ジヒドロ葉酸(1a)及び7,8−ジヒドロプロテイル酸(1b)(2)dGMP(2a)及び1−(5’−ホスホリボシル)−5−アミノ−4−イミダゾールカルボキサミド(2b)(3)ホスホエノールピルビン酸(3a)、2−イソプロピルリンゴ酸(3b)及び2−オキソ酪酸(3c)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステムセルファクター(Stem cell factor、以下「SCF」という)結合阻害剤及び美白剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日焼け後の色素沈着やシミ・ソバカスは、一般に皮膚の紫外線暴露による刺激やホルモンの異常又は遺伝的要素等によって皮膚内に存在する色素細胞(メラノサイト)が活性化されメラニン産生が亢進した結果生じるものと考えられている。
【0003】
SCFは、造血幹細胞の表面に発現しているc−kitレセプターのリガンドであり、造血細胞の増殖・分化を促す膜結合型の増殖因子として知られているが、近年、c−kitが造血細胞の他に、肥満細胞、メラノサイト及び生殖細胞の表面にも発現していることが明らかになり(非特許文献1)、即時型アレルギーへの関与を始めとして、SCFの生体内作用に関する研究が進められている。最近では、皮膚にのみSCFを発現させるトンラスジェニックマウスにおいて、肥満細胞の誘導とメラノサイトの増殖により、メラニン合成が増強されること(非特許文献2)、メラノサイト上のc−kitのリン酸化によって、メラノジェネシスが亢進することが報告され(非特許文献3)、メラニンの過剰生産にSCFが深く関与すると考えられている。
【0004】
従って、メラノサイト上のc−kitレセプターとSCFとの結合を特異的に阻害することができれば、メラニンの過剰産生応を抑制することができ、皮膚の褐色化、シミ・ソバカスの発生を予防又は改善することが可能となる。
【0005】
一方、7,8−ジヒドロ葉酸は葉酸生合成系における最初の生成物として知られ(非特許文献4)、7,8−ジヒドロプテロイル酸は生体内でジヒドロプテロイン酸ピロホスホリラーゼにより合成されることが知られ(非特許文献5)、dGMPはDNAの構成デオキシヌクレオチドとして知られ(非特許文献6)、1−(5′−ホスホリボシル)−5−アミノ−4−イミダゾールカルボキサミドにはAMPK活性化作用があることが知られ(非特許文献7)、ホスホエノールピルビン酸には育毛作用があることが知られ(特許文献1)、2−イソプロピルリンゴ酸はロイシン生合成の中間体として知られ(非特許文献8)、2−オキソ酪酸は生体内でトレオニンがデヒドラターゼ反応を受けて生成されることが知られ(非特許文献9)、リン酸化多糖類にはタンパク質吸着抑制作用があることが報告されているが(特許文献2)、これらの化合物にSCF結合阻害作用があることは全く知られていない。
【特許文献1】特開2004−168728号公報
【特許文献2】特開2002−29948号公報
【非特許文献1】J.Exp.Med.,183,2681-2686,1996
【非特許文献2】J.Exp.Med.,187,1565-1573,1998
【非特許文献3】Molecular Bioloy of the Cell 3, 197-209 1992
【非特許文献4】化学大辞典 1989 株式会社東京化学同人
【非特許文献5】生化学辞典(第2版) 1990 株式会社東京化学同人
【非特許文献6】化学大辞典 1989 株式会社東京化学同人
【非特許文献7】肥満研究 11, 79-81, 2005
【非特許文献8】生化学辞典(第2版) 1990 株式会社東京化学同人
【非特許文献9】生化学辞典(第2版) 1990 株式会社東京化学同人
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、c−kitレセプターに対するSCFの結合を阻害し、医薬又は化粧料として有用なSCF結合阻害剤及び美白剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、細胞表面上のc−kitレセプターに対するSCFの結合を特異的に阻害する化合物を探索したところ、下記に示す特定の葉酸類(1)、プリン関連物質(2)、C3−C4ユニット(3)及びリン酸化多糖類にSCF結合阻害活性があり、メラニンの過剰産生に起因する色素沈着やシミ・ソバカスの予防又は改善に有効であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物及びリン酸化多糖類から選ばれる化合物又はその塩を有効成分とするSCF結合阻害剤及び美白剤に係るものである。
【0009】
【化1】

【発明の効果】
【0010】
本発明のSCF結合阻害剤又は美白剤によれば、皮膚におけるメラニンの過剰産生を抑制でき、日焼け後の色素沈着やシミ・ソバカスを予防又は改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のSCF結合阻害剤とは、細胞表面、特にメラノサイト表面上のc−kitレセプターに対するSCFの結合を特異的に阻害し、メラニンの過剰生成に伴う皮膚の褐色化やシミ・ソバカスの発生の予防又は改善効果を有するものをいう。
【0012】
本発明において、一般式(1)で表される化合物は、以下に示すとおり、7,8−ジヒドロ葉酸(1a)及び7,8−ジヒドロプテロイル酸(1b)であり、一般式(1)で表される化合物は、dGMP(2a)及び1−(5'−ホスホリボシル)−5−アミノ−4−イミダゾールカルボキサミド(2b)であり、一般式(3)で表される化合物は、ホスホエノールピルビン酸(3a)、2−イソプロピルリンゴ酸(3b)及び2−オキソ酪酸(3c)である。
【0013】
【化2】

【0014】
これらの化合物の塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩類、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属類、1〜3級アミン類、4級アンモニウム塩類、アルギニン、リジン等のアミノ酸類等との塩基性塩、塩酸、ヨウ素酸、硫酸等の鉱酸、酢酸、クエン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸等との酸性塩が挙げられる。
【0015】
上記化合物は、いずれも既知化合物であり、公知の有機化学合成、或いはこれらの化合物を含有する天然物や微生物代謝産物(例えば枯草菌代謝物)から周知の手法を用いて得ることができる。また、いずれも市販品が存在し、これらを用いることができる。 斯かる市販品としては、例えば、7,8−ジヒドロ葉酸(Schircks Laboratories 16.206 )、7,8−ジヒドロプテロイル酸(Schircks Laboratories 16.114)、dGMP(SIGMA D-9625)、1−(5'−ホスホリボシル)−5−アミノ−4−イミダゾールカルボキサミド(SIGMA A-1393)、ホスホエノールピルビン酸(Wako 325-20641)、2−イソプロピルリンゴ酸(ALDRICH 333115)、2−オキソ酪酸(ALDRICH K401)等が挙げられる。
【0016】
本発明のリン酸化多糖類としては、分子内に少なくとも1個、好ましくは2個以上のリン酸基を有する多糖類(オリゴ糖を含む)をいい、その構成多糖としては、例えば、マンナン、ガラクタン等が挙げられ、好ましくは、植物由来マンナン、植物由来ガラクタン、微生物由来マンナン、微生物由来ガラクタンが挙げられる。このうち、酵母由来リン酸化多糖が好ましく、特にH.capsulata NRRL Y-1842由来のリン酸化マンナンオリゴ糖、Sporobolomyces NRRL Y-6493由来のリン酸化ガラクタン、Sporobolomyces NRRL Y-6502由来のリン酸化ガラクタンが好ましい。
また、これらの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0017】
これらのリン酸化多糖類は、例えばSlodki ME et al., J.Bacteriol,82;269-274(1961)に記載の方法により、当該微生物の培養液より得ることができる。
【0018】
本発明の化合物又はその塩は、後記実施例に示すように、c−kitへのSCFの結合阻害活性を有することから、メラノサイト上のc−Kitの活性化によって引き起こされるメラニンの過剰産生応を抑制することができると考えられる(文献:The Journal of Biological Chemistry 275, 33321-33328, 2000)。従って、本発明の化合物又はその塩は、SCF結合阻害剤或いは美白剤として使用でき、またSCF結合阻害剤或いは美白剤を製造するために使用できる。当該SCF結合阻害剤及び美白剤は、皮膚の褐色化、シミ・ソバカスの発生を予防又は改善するための医薬品、医薬部外品、化粧品等として使用できる。また、当該SCF結合阻害剤或いは美白剤は、SCF結合阻害或いは美白をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した医薬部外品、化粧品として使用することもできる。
【0019】
本発明のSCF結合阻害剤又は美白剤を医薬品として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は注射剤、外用剤、坐剤、経皮吸収剤等による非経口投与のいずれでもよい。当該医薬製剤を調製するには、本発明の植物又はその抽出物を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。該製剤中の本発明化合物又はその塩の含有量は、0.1〜20質量%、特に0.5〜10質量%含有することが好ましい。尚、本発明のSCF結合阻害剤又は美白剤を医薬品として使用する場合、成人1人当たりの1日の投与量は、本発明の化合物又はその塩として、例えば0.001〜1000mg、特に0.01〜100mgであることが好ましい。
【0020】
また、本発明のSCF結合阻害剤又は美白剤を医薬部外品や化粧料として用いる場合は、皮膚外用剤、洗浄剤、メイクアップ化粧料とすることができ、使用方法に応じて、ローション、乳液、ゲル、クリーム、軟膏剤、粉末、顆粒等の種々の剤型で提供することができる。このような種々の剤型の医薬部外品や化粧料は、本発明の植物又はその抽出物を単独で、又は医薬部外品、皮膚化粧料及び洗浄料に配合される、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬効成分、香料、樹脂、防菌防黴剤、植物抽出物、アルコール類等を適宜組み合わせることにより調製することができる。尚、薬効成分としては、ホルモン剤やコウジ酸、アルブチン、プラセンタエキス、カミツレエキス、ルシノール等の他の美白成分が挙げられる。
当該医薬部外品、化粧料中の本発明化合物の含有量は、0.01〜100質量%とすることが好ましく、特に0.05〜70質量%とすることが好ましい。
【実施例】
【0021】
<評価サンプルの調製>
各サンプルは、7,8−ジヒドロ葉酸(Schircks Laboratories 16.206)、7,8−ジヒドロプテロイル酸(Schircks Laboratories 16.114)、dGMP(SIGMA D-9625)、1−(5'−ホスホリボシル)−5−アミノ−4−イミダゾールカルボキサミド(SIGMA A-1393)、ホスホエノールピルビン酸(Wako 325-20641)、2−イソプロピルリンゴ酸(ALDRICH 333115)、2−オキソ酪酸(ALDRICH K401)、H.capsulata NRRL Y1842由来リン酸化マンナンオリゴ糖、Sporobolomyces NRRL Y6493由来リン酸化ガラクタン、Sporobolomyces NRRL Y6502由来リン酸化ガラクタンを、それぞれ蒸留水に1mMとなるように溶解して調製した。
【0022】
実施例1 SCF結合阻害活性
PBSで200μg/mlに溶解したRecombinant human c-kit (Soluble c-kit ; s-kit(R&D systems社))を96ウェルプレートに50μl/ウェルとなるように添加し、4℃で一晩放置した。翌日ウェルをPBSで2回洗浄した後、5%BSA(Bovine Serum Albumin;和光純薬工業株式会社)−PBST(0.1% Tween20-PBS)をウェルが満杯になるまで添加し、室温で1時間以上放置した。ウェルをPBSTで2回洗浄後、評価サンプル(終濃度5%(v/v))、終濃度100pMのSCF(「Recombinant Human SCF」(Peprotech社))、終濃度0.5%のBSA、PBSを加え計100μl/ウェルを添加し、室温で2時間以上振とうさせた。ウェルをPBSTで5回洗浄した後、終濃度0.5μg/mlの抗SCF抗体(「Rabbit polyclonal to SCF」(abcam社))、終濃度0.5%のBSA、PBSを加え計100μl/ウェルを添加し、室温で2時間以上振とうまたは、4℃で一晩放置した。ウェルをPBSTで5回洗浄した後、0.5%BSA−PBSTで1000倍希釈したHRP標識抗ウサギIgG抗体(ECL Anti-rabbit IgG(Amersham Biosciences社))を100μl/ウェル添加し、室温で2時間以上振とうさせた。ウェルをPBSTで10回洗浄した後、TMB基質液(「TMB Microwell Peroxidase Substrate System」(KPL社))を100μl/ウェル添加し、遮光して室温で10℃、20分放置した。さらにTMB反応停止液(「TMB Stop Solution」(KPL社))を100μl/ウェル添加し反応を停止させ、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定しs−kitに結合したSCF量を計測した。なおコントロールとして、評価サンプルの代わりにその溶媒を同量添加したウェルを作製した。また、s−kitを固相化せずに、評価サンプルの代わりにその溶媒を添加したウェルを作製し、この吸光度をブランク(非特異的結合量)とした。得られた吸光度はブランクの値を差し引くことで特異的結合量を求め、コントロールの値を100とした相対値で表した。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示したとおり、本発明の化合物は、c−kitに対するSCFの結合阻害活性を有することが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)〜(3)で表される化合物及びリン酸化多糖類から選ばれる化合物又はその塩を有効成分とするSCF結合阻害剤。
【化1】

【請求項2】
下記一般式(1)〜(3)で表される化合物及びリン酸化多糖類から選ばれる化合物又はその塩を有効成分とする美白剤。
【化2】


【公開番号】特開2008−31094(P2008−31094A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206455(P2006−206455)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】