説明

TACI−Ig融合分子を用いたB細胞性腫瘍の処置方法

本発明は非ホジキンリンパ腫等のB細胞悪性病変を処置するための方法及び組成物であって、BlyS及びAPRILの増殖誘発機能を抑制するのに十分な量のTACI−Ig融合分子を、処置の必要な患者に投与することを含んでなる方法及び組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2005年8月9日出願の米国仮出願番号第60/706,912号に基づく利益を請求する。その内容は援用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、各種の疾病や障害(例えば過剰増殖障害、ガン、炎症性疾患、又は免疫系の障害)を処置するための方法及び組成物であって、TNFファミリーの増殖因子の機能を遮断するTACI−Ig融合タンパク質の投与を含んでなる方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
BlySリガンド/受容体ファミリー
TACI(膜貫通活性化因子且つカルシウム調節シクロフィリンリガンド相互作用因子:transmembrane activator or Calcium-Modulating Cyclophylin Ligand-interactor)、BDMA(B細胞成熟抗原:B-cell maturation antigen)、及びBAFF−R(TNFファミリーに属するB細胞活性化因子の受容体:receptor for B-cell activating factor)という3種の受容体は、2種の増殖因子(BlyS(Bリンパ球刺激因子:B-lymphocyte stimulator)及びAPRIL(増殖誘発リガンド:a proliferation-inducing ligand)に特異的な結合親和性を有することが同定されている(Marsters et al. Curr Biol 2000; 10(13): 785-788; Thompson et al. Science 2001; 293:21 08-211l)。TACI及びBDMAは、BlyS及びAPRILの双方に結合するのに対し、BAFF−Rが高い親和性をもって結合し得るのはBlySのみであると考えられている(Marsters et al. Curr Biol 2000; 10(13):785-788; Thompson et al. Science 2001; 293:21 08-2111)。結果として、BlySは3種の受容体全てを通じて情報伝達を行なうことが可能であるのに対し、APRILはTACI及びBDMAを通じてしか、情報伝達を行なうことができないものと考えられる。加えて、循環するBlyS及びAPRILのヘテロ三量複合体(BlyS及びAPRILを各々1又は2コピー含有する、3種のタンパク質の組合せ)が、全身性免疫によるリウマチ性疾患の患者から採られた血清サンプル内で同定されており、また、インビトロでB細胞増殖を誘導することが示されている(Roschke et al. J Immuno1 2002; 169: 4314-4321)。これら3種の受容体全てのIg融合タンパク質の中で、ヘテロ三量複合体の生物活性を阻害することができたのは、TACI−Fc5のみであった(Roschke et al. J Immuno1 2002; 169: 4314-4321)。
【0004】
BlyS及びAPRILは、B細胞の成熟、増殖及び生存の強力な刺激因子である(Gross et al. Nature 2000; 404: 995-999. Gross et al. Immunity 2001; 15(2): 289-302. Groom et al. J Clin Invest 2002; 109(1): 59-68)。BlyS及びAPRILは自己免疫疾患、特にB細胞が関与する疾患の持続に必須である可能性がある。高レベルのBlySを発現するよう遺伝子操作されたトランスジェニックマウスは、免疫細胞障害を示し、全身性紅斑性狼瘡(systemic lupus erythematosus)の患者に見られる症状に類似した症状を示す(Cheson et al. Revised guidelines for diagnosis and treatment. Blood 1996; 87:4990-4997. Cheema et al. Arthritis Rheum 2001; 44(6):1313-1319)。同様に、SLE患者やその他の様々な自己免疫疾患(関節リウマチ等)の患者から採られた血清サンプルで、BlyS/APRILレベルの上昇が観測されたことから(Roschke et al. J Immuno1 2002; 169:4314-4321; Mariette X., Ann Rheum Dis 2003; 62(2):168-171; Hahne et al. J Exp Med 1998; 188(6):1185-1190)、BlyS及び/又はAPRILとB細胞媒介性疾患との関連性は、動物モデルからヒトへと拡張された。
【0005】
B細胞新生物
B細胞新生物は、治療に対して様々なパターンの臨床的挙動及び応答を示す、リンパ球増殖性ガンの混成群を構成している。全体的な予後は、腫瘍の組織型、疾病の段階、及び過去に受けた処置に基づき、十分な精度で予測することができる。臨床成績は一般的に、疾病の全段階に関連している。B細胞新生物が占める疾病スペクトルは、何年もかかって進行する緩慢性の慢性リンパ性白血病から、時間経過が遥かに短い高侵襲性のリンパ腫まで及ぶ。緩慢性B細胞新生物は、最終的には不治であるが、比較的良好な予後を伴う傾向があり、生存期間の中央値は10年の範囲である。
【0006】
侵襲性がより強い型のB細胞新生物は、集中的な多剤併用化学療法によって治療することが可能であり、約半数の患者が最短でも5年は生存する。リツキシマブ(登録商標)を治療計画に追加すると臨床成績は概して向上するが、初期治療後の最初の2年間にB細胞新生物が高頻度で再発する。疾病組織学が低悪性度に留まっていれば、再治療によって寛解する場合が多い。残念ながら、侵襲型のB細胞新生物を示す患者や、侵襲型に転換した患者が示す予後はより不良であり、その医学的な要求は満たされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本技術分野には、ホジキン及び非ホジキンリンパ腫等のB細胞新生物を処置する上でより有効な方法を開発するという、長年に亘る要求があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、B細胞新生物を処置する方法を含有する。本発明の方法は、ヒト免疫グロブリン定常ドメイン及びTACI細胞外ドメイン、又はBlyS及び/又はAPRILに結合するそれらの断片を含んでなる組成物を、患者に投与する工程を含む。
【0009】
一実施形態によれば、本発明は、TACI細胞外ドメイン、又はBlyS及び/又はAPRILに結合する能力を保持するその断片を含んでなるTACI−Ig融合分子を用いて、非ホジキンリンパ腫(Hodgkin's lymphoma)等のB細胞新生物を処置する方法を包含する。
【0010】
別の実施形態によれば、本発明は、非ホジキンリンパ腫を処置する方法であって、ヒト免疫グロブリン定常鎖と、TACI細胞外ドメイン、或いはBlyS及び/又はAPRILに結合するTACI細胞外ドメインの断片とを含んでなる融合分子を、患者に投与する工程を含んでなる方法を包含する。TACIの細胞外ドメインの好ましい断片としては、1つ又は2つのシステイン反復モチーフを含んでなる断片が挙げられる。別の好ましい断片としては、TACIの細胞外ドメインのアミノ酸30〜110を含んでなる断片が挙げられる。更に別の好ましい断片としては、TACIの細胞外ドメインのアミノ酸1〜154(配列番号1)を含んでなる断片が挙げられる。
【0011】
別の実施形態によれば、本発明は、配列番号2に記載の配列を有するヒト免疫グロブリン定常ドメインFc5と、配列番号1に記載の配列を有するTACI細胞外ドメインとを含んでなる融合ポリペプチドTACI−Fc5を含んでなる組成物を患者に投与することにより、非ホジキンリンパ腫を処置する方法を包含する。
【0012】
更に別の実施形態によれば、本発明は、配列番号2に記載の配列を有するヒト免疫グロブリン定常ドメインと、BlyS及び/又はAPRILに結合し、配列番号1と少なくとも50%同一、好ましくは60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%同一であるポリペプチドとを含んでなる融合ポリペプチドを含んでなる組成物を患者に投与することにより、非ホジキンリンパ腫を処置する方法を包含する。
【0013】
本発明の方法によって、ヒト免疫グロブリン定常鎖と、TACI細胞外ドメイン、或いはBlyS及び/又はAPRILに結合するTACI細胞外ドメインの断片とを含んでなる融合ポリペプチドを患者に投与することにより処置され得る、その他のB細胞悪性病変としては、これらに制限されるものではないが、急性白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄球性白血病、骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性赤血白血病、慢性白血病、慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性リンパ性白血病、真性多血症、ホジキン病、多発性骨髄腫、及びワルデンストローム・マクログロブリン血症(Waldenstrom's macroglobulinemia)が挙げられる。
【0014】
好ましい一実施形態によれば、本発明の方法は、TACI−Ig融合分子を、患者の体重1kg当たり0.01mgから患者の体重1kg当たり10mgまでの量、非ホジキンリンパ腫の患者に投与する工程を含んでなる。このTACI−Ig融合分子を、所定の間隔を置いて繰り返し投与してもよい。中でも、本分子を4週間の期間内に少なくとも5回投与することが好ましい。このTACI−Ig融合ポリペプチドを用いた初期治療の後に、本ポリペプチドの投与を毎週1回、少なくとも更に2週間続けてもよい。更に2週から30週間に亘って、本ポリペプチドを毎週1回投与するのがより好ましい。
【0015】
本発明の方法によれば、TACI−Ig融合ポリペプチドは、非ホジキンリンパ腫患者に対し、皮下、経口又は静脈内経由で投与することができる。また、任意により他の薬剤との組合せで投与してもよく、かかる薬剤としては、これらに制限されるものではないが、ビスフォスフォネート、エリスロポエチン、顆粒球増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子、疼痛管理薬、メルファラン、ビンクリスチン、ドキソルビシン、サリドマイド及びヌクレオシド類似体が挙げられる。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、TACI−Igはボルテゾミブと組み合わせて投与される。TACI−Igの用量は上述の通りとすればよく、ボルテゾミブは約1.3mg/m2の用量で毎週2回、2週間に亘って投与した後、10日間の休息期間を設ける。これが処置の1サイクルに相当する。任意により、ボルテゾミブを静脈内投与してもよい。TACI−Ig単独の場合について上述したのと同様にして、処置に対する応答を監視した上で、更にTACI−Ig及び/又はボルテゾミブの処置サイクルを投与してもよい。TACI−Igは上述した用量で投与してもよいが、より低い用量のTACI−Igを、本明細書に記載の用量のボルテゾミブ、又はより低い用量のボルテゾミブと共に投与してもよい。TACI−Ig及びボルテゾミブの投薬は同時に行なってもよいが、交互の投薬として、TACI−Igの後にボルテゾミブのサイクルを行ない、或いはボルテゾミブのサイクルの後にTACI−Igのサイクルを行なってもよい。この投薬を繰り返してもよい。
【0017】
TACI−Igは、他の処置方法に対して抵抗性となった患者や、応答を示さない患者に対して投与することができる。かかる他の処置方法としては、ボルテゾミブによる処置が挙げられるが、これに制限されるものではない。
【0018】
上述の実施形態、並びに他の本発明の実施形態について、以下に詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は様々な形態で実施することが可能であるが、次の点を了解の上で、以下に幾つかの実施形態の説明を示す。即ち、本開示は本発明を例示するものと判断すべきであり、本発明を例示の特定の実施形態に限定するものではない。見出しは単に便宜上付したものであり、如何なる形でも本発明を限定するものと解釈してはならない。何れかの見出しの下に例示する実施形態を、他の見出しの下に例示する実施形態と組み合わせてもよい。
【0020】
本出願で特定される様々な範囲における数値の使用は、別途明示する場合を除き、概略値として規定される。即ち、規定範囲内の最小値及び最大値は、何れもその前に「約(about)」という語が付されたものとして扱う。このように、規定範囲前後の僅かな変動値を用いても、当該範囲内の値と実質的に同様の結果を達成することが可能である。本明細書において、ある数値について「約」及び「凡そ(approximately)」という語を使用する場合、これらの語は、薬科学の当業者や、問題となる範囲や要素に関連する技術分野の当業者にとって、明白且つ通常の意味を表わす。また、範囲の開示は、明記された最小値と最大値との間の全ての値を含む連続的な範囲を意図すると同時に、こうして形成し得る何れの範囲をも意図するものとする。
【0021】
本発明は、BlyS及び/又はAPRILとその受容体との相互作用を阻害することにより、患者における造血細胞の異常増殖を改善する方法に関する。具体的に、本方法は、1)TACI細胞外ドメインと少なくとも部分的に同一なドメイン、又はBlyS及び/又はAPRILと結合するそれらの断片を含んでなるポリペプチドと、2)ヒト免疫グロブリン定常鎖とを含んでなる阻害剤を利用する。本発明の方法は、ヒト免疫グロブリン定常鎖を含んでなるとともに、少なくとも50%の配列がTACI細胞外ドメインと同一のポリペプチドであって、BlyS及び/又はAPRILリガンドと結合する(そして好ましくは、TACI細胞外ドメインと60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%同一の)ポリペプチドを含んでなる融合分子を使用する。米国特許第5,969,102号、第6,316,222号及び第6,500,428号、並びに米国特許出願番号第09/569,245号及び第09/627,206号(これらの教示はその全体が援用によって本明細書に組み込まれる)は、disclose TACIの細胞外ドメインの配列に加えて、BlySやAPRIL等のTACIリガンドと相互作用するTACI細胞外ドメインの特異的断片の配列を開示している。TACIの細胞外ドメインの好ましい断片としては、1つ又は2つのシステイン反復モチーフを含んでなるものが挙げられる。別の好ましい断片としては、TACIの細胞外ドメインのアミノ酸30〜110を含んでなる断片が挙げられる。更に別の好ましい断片としては、TACIの細胞外ドメインのアミノ酸1〜154(配列番号1)を含んでなる断片が挙げられる。
【0022】
本発明の方法に有用な他の融合分子としては、ヒト免疫グロブリン定常鎖と、完全TACI細胞外ドメイン又はそのオルソログとの融合ポリペプチドや、ヒト免疫グロブリン定常鎖と、BlyS及びAPRILリガンドと結合し得る細胞外TACIドメインの断片との融合ポリペプチドが挙げられる。本発明の方法において使用される何れの融合分子も、TACI−Ig融合分子と呼ぶことができる。
【0023】
TACI−Fc5は、本発明の方法に有用なTACI−Ig融合分子の1つである。TACI−Fc5は、受容体TACIの細胞外リガンド結合部分であるアミノ酸1付近からアミノ酸154付近まで(配列番号1)と、ヒトIgGであるFc5の修飾Fc部分(配列番号2)とを含んでなる組み換え融合ポリペプチドである。本発明の方法に有用な他のTACI−Ig分子としては、配列番号2のポリペプチドと、BlySに結合し得るポリペプチドであって、配列番号1と少なくとも50%同一、好ましくは60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%同一であるポリペプチドとを含んでなる融合分子が挙げられる。
【0024】
本発明の実施形態は、TACI−Ig融合分子を非ホジキンリンパ腫の処置に使用する方法を含んでなる。本発明の方法で処置可能な他の血液学的悪性病変としては、白血病(急性白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄球性白血病、骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性赤血白血病、慢性白血病、慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性リンパ性白血病、真性多血症)、リンパ腫(ホジキン病、多発性骨髄腫、ワルデンストローム・マクログロブリン血症、及び重鎖病)、関節リウマチや全身性紅斑性狼瘡等の自己免疫疾患が挙げられる。或いは、かかる疾病に関連する循環成熟B細胞及び免疫グロブリン分泌細胞、並びに可溶性免疫グロブリンの数の低減も挙げられる。
【0025】
また、実施形態には、ヒト免疫グロブリン定常ドメインと、BlyS及び/又はAPRILに結合し得るTACI細胞外ドメインの任意の断片を含んでなるポリペプチドとを含んでなる融合分子を、患者に投与することによる処置方法も含まれる。
【0026】
TACI−Ig融合分子は患者に対し、経口、静脈内又は皮下投与することができる。
【0027】
本発明の方法に有用なTACI−Ig製剤は、冷凍、滅菌、等張溶液として調製し、保存することができる。かかる製剤は、他の活性成分及び賦形剤を含んでいてもよい。例としては、塩化ナトリウム、リン酸緩衝液、及び水酸化ナトリウム又はO−リン酸(pH6.0)が挙げられる。TACI−Ig製剤は、他の薬剤と組み合せて患者に投与してもよい。かかる薬剤としては、これらに制限されるものではないが、ビスフォスフォネート、エリスロポエチン、顆粒球増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子及び疼痛管理薬が挙げられる。本発明の方法は、B細胞新生物を処置するための他の方法と組み合わせて用いてもよい。かかる他の処理方法としては、これらに制限されるものではないが、化学療法、放射線療法及び遺伝子療法が挙げられる。TACI−Ig製剤の投与は、他の処置方法の前に、他の処置方法と同時に、又は(より好ましくは)他の処置方法の後に行なうことができる
【0028】
TACI−Fc5はインビトロにおいてB細胞増殖のBlyS活性化を阻害することが示されてきた。マウスをTACI−Fc5で処置すると、B細胞の発生に部分的な阻害が生じるが、これは骨髄のB細胞前駆体や、抹消血中T細胞、単球及び好中球等の他の細胞系統には最小限の効果しか及ぼさない。血液中の可溶型のTACI受容体を過剰発現するよう遺伝子操作されたトランスジェニックマウスは、産生する成熟B細胞の数が少なく、循環抗体のレベルも低い。このTACI−Fc5トランスジェニックマウスは、胸腺、骨髄及び腸間膜リンパ節に、正常な数の細胞を有していた。胸腺、リンパ節及び脾臓のT細胞集団には、有意な違いは存在しなかった(Gross et al. Immunity 2001; 15(2): 289-302)。
【0029】
更に、TACI−Igは、抗原に対する一次応答時又は二次応答時の何れの際に投与した場合でも、マウスの免疫応答における抗原特異抗体の産生を阻害し得る。これらの試験では、生体外での抗原暴露に対するT細胞応答には、何の影響も観察されなかった。全身性紅斑性狼瘡の動物モデルでは、TACI−Ig融合タンパク質による処置は、疾病の発症及び進行を抑えるのに有効であった(Gross et al. Nature 2000; 404: 995-999)。同様に、コラーゲン誘発性関節炎のマウスモデルでは、TACI−Igによってコラーゲン特異抗体の発生を阻害し、炎症の出現及び疾病の発生率の双方を低減することができた(Gross et al. Immunity 2001; 15(2): 289-302)。
【0030】
TACI−Ig融合分子を含んでなる組成物は、4週の期間に亘って、繰り返し患者に投与することができる。例えば、この期間内に、患者に対してTACI−Ig分子の皮下注射を5回、表5に示すスケジュールに従って行なってもよい。この4週の処置期間に続いて、更に4週の追跡期間が設けられる(表5)。このプロトコルのより詳しい内容は実施例3に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
症状の改善、或いは少なくとも症状の安定化が見られた患者に、更にある程度の期間、TACI−Ig融合分子による処置を行なってもよい。例えば、これらの患者にTACI−Ig融合分子の週用量を、更に2週間から30週間に亘って投与してもよい。表6に、TACI−Ig分子を患者に投与するための延長スケジュールの例を示す。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
TACI−Ig融合分子の患者への投与量は、患者の症状を処置するのに有効な量とする。この量は、患者の体重1kg当たり0.01mgから、患者の体重1kg当たり10mgまでの範囲とすればよい。TACI−Ig融合分子による処置の最適用量は、図1の図表を用いて決定することができる。これについては実施例5でより詳細に説明する。
【0036】
融合TACI−Ig分子は皮下注射により、前腹壁内に送達してもよい。1用量を投与するために注射を2回以上する必要がある場合には、これらの注射は2、3センチメートル離れたなるべく近い位置に、時間通りに行なわなければならない。繰り返し投薬を行なう場合は、投与部位を前腹壁上で回転させることが推奨される。前腹壁内に皮下注射を行なうことが可能な領域を図2に示す。例えば、右上方外側領域、左下方外側領域、右下方外側領域、左上方外側領域、正中下方領域、並びに右左の大腿及び上腕が挙げられる(図2)。或いは、本発明のTACI−Ig融合分子を静脈注射で送達してもよく、錠剤、カプレット、液体組成物、又はゲルの形態で経口送達してもよい。
【0037】
本発明の方法は、化学療法、放射線照射、又は手術等の、その他のガンの処置法と組み合わせてもよい。本発明のTACI−Ig融合分子は、ガン患者が化学療法、放射線照射及び/又は手術を完了した後に、投与することができる。本発明のTACI−Ig融合分子は、患者に有益なその他の薬物療法と併用して投与してもよい。かかる薬物療法としては、これらに制限されるものではないが、ビスフォスフォネート、エリスロポエチン、顆粒球増殖因子又は顆粒球コロニー刺激因子又は疼痛管理薬、メルファラン、ビンクリスチン、ドキソルビシン、サリドマイド及びヌクレオシド類似体が挙げられる。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、TACI−Igはボルテゾミブと組み合わせて投与される。TACI−Igは上述した用量とすればよく、ボルテゾミブは約1.3mg/m2を毎週2回、2週間に亘って投与した後、10日間の休薬期間を設ける。これが一回の処置サイクルに相当する。任意により、ボルテゾミブは静脈内投与してもよい。TACI−Ig単独の場合の処置に対する応答を上述のように監視した上で、TACI−Ig及び/又はボルテゾミブによる追加の処理サイクルを行なってもよい。TACI−Igは上述の用量で投与してもよいが、より低い用量のTACI−Igを、本明細書に記載の用量のボルテゾミブ又はより低い用量のボルテゾミブと組み合わせて投与してもよい。TACI−Ig及びボルテゾミブの投薬は同時に行なってもよいが、交互の投薬として、TACI−Igの後にボルテゾミブのサイクルを行ない、或いはボルテゾミブのサイクルの後にTACI−Igのサイクルを行なってもよい。この投薬を繰り返してもよい。
【0039】
TACI−Igは、他の処置方法に対して抵抗性となった患者や、応答を示さない患者に対して投与することができる。かかる他の処置方法としては、ボルテゾミブによる処置が挙げられるが、これに制限されるものではない。
【0040】
本明細書に挙げられる米国特許及び公開特許出願公報は、何れもその全体が援用により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0041】
以下の実施例は本発明の種々の実施形態について示すものであるが、如何なる意味においても、本発明を限定するものと解釈してはならない。
【0042】
実施例1
実験動物モデルにおけるTACI−Fc5の薬理、毒性及び薬物動態試験
【0043】
免疫系の機能保存(functional reserve)を直接判定する機会を与える宿主抵抗性モデルで、TACI−Fc5を評価した。TACI−Fc5処置の際に、マウスをインフルエンザウイルスに暴露した。正の対照としてデキサメタゾンを使用したところ、ウイルス感染の増強及び遷延という結果を招いた。TACI−Fc5は、循環B細胞、総IgG及びIgM、並びにインフルエンザ特異的IgG及びIgMを低減したが、ウイルス感染を解消する動物の能力を損なうことはなかった。
【0044】
主要安全薬理学(Pivotal Safety Pharmacology)試験が示すところによれば、TACI−Fc5は最高80mg/kgまでのSC用量において、マウス又はサルの神経系、呼吸器系及び心臓血管系に対し、大きな変化を引き起こさなかった。唯一、マウスにおいては、微小且つ過渡的な刺激効果を示唆すると見られる、過剰な警戒及び自発運動の僅かな亢進が、80mg/kgにおいて見られたものの、20mg/kgでは無影響量(No-observed effect level:NOEL)に等しかった。
【0045】
TACI−Fc5を静脈内(intravenous:IV)又は皮下(subcutaneous:SC)経路でマウスに単回投与した場合には、技術的に可能な最高用量である1200mg/kgにおいても、動物の死亡や、感知し得るほどの全身的又は局所的な異常効果は生じなかった。
【0046】
TACI−Fc5をサルにSC経路で、240mg/kgの投与レベルで単回投与した場合、死亡や何らかの毒性作用を引き起こすことはなかった。
【0047】
TACI−Fc5をマウスに皮下経路で、2日毎に5、20及び80mg/kgの用量で、2週又は4週に亘って投与した後に得られた結果によれば、本化合物は最高80mg/kgの用量でも、本生物種において耐容性が良好であると結論付けることができる。何れの用量でも免疫系に限って、処置依存性の調節が見られた。これらの変化は、総B細胞数及び成熟B細胞数の減少、並びにIgG及びIgMの血清濃度の減少に関与している。脾臓及びリンパ節について免疫組織化学試験を実施したところ、B細胞に限っては欠乏が確認されたのに対し、T細胞数は不変であった。これらの変化は時間及び用量依存性の場合もあり、何れも、反応性の生物種に極めて高用量のTACI−Fc5を投与した後に予想されるような、過大な薬理効果であると考えられた。総じて、これらの効果は処置の2週及び4週間後に現れたが、経時的な進行を示す目立った徴候は見られなかった。これらは、B細胞数の減少を除いて、処置を4週間中止した後、ほぼ完全に回復し得ることが示された。
【0048】
B細胞調節の可逆性を確認するために、マウスを用いて更なる試験を行なった。5mg/kg及び20mg/kgの用量を2週毎に、4週間に亘って投与し、より長い回復期間を設けた。総及び成熟循環B細胞が回復したのは、5mg/kgの場合は処置中止の2ヶ月後、20mg/kgの場合は4ヶ月後であった。更に、何れの用量を注射した場合でも、ビヒクル対照の場合と比較して、注射部位の炎症性変化に僅かな亢進が生じた。
【0049】
TACI−Fc5を5、20又は80mg/kgの用量で、3日毎に4週間連続でサルに皮下投与したところ、試験した用量の何れにおいても、毒性を示す目立った徴候は見られなかった。
【0050】
局所耐容性は、試験した最高用量を含む全ての用量について、申し分ない結果であった。炎症に由来する(主に血管周囲における単核球及び好酸球の細胞浸潤)用量依存性且つ可逆性の軽度又は中度の変化が誘発されたが、これらは主に外因性タンパク質が局所的に存在したことと関連していると考えられる。高用量の場合のみ、少数の動物が軽度又は中度の亜急性炎症を発症し、うち一頭にはそれに関連する嚢胞形成が見られた。
【0051】
リンパ球サブセット決定における循環B細胞数の減少に加えて、(B細胞依存性領域として知られる)脾臓濾胞周辺帯の組織学的欠乏、更には総IgG及びIgM血清レベルの低下が見られた。インビトロ及びインビボの薬理学実験が示すように、これらはTACI−FcSの薬力学的特性の結果であると考えられる。それらの程度が過剰であるのは、高用量の試験化合物を意図的に投与した動物の毒性試験において予想される通りである。血清IgG及びIgM濃度の低下、並びに脾臓リンパ球の欠乏は、1ヶ月の処置中止期間内に明らかな回復傾向を示したが、総及び成熟循環B細胞にはこのような挙動は見られなかったことから、回復にはより長い時間が必要であることが示唆される。
【0052】
処置期間の終了時(第4週)において、高用量群(80mg/kg)の雄及び雌には、総タンパク質量の平均値に、対照と比べて僅かではあるが統計的に有意な減少が見られた。同用量群では第2週及び回復期間の終了時にも、僅かながら減少する傾向が見られた。
【0053】
高用量の雌における投薬期間終了時の血清タンパク質調節には、グロブリンの減少と、アルブミン比率及びα−1−グロブリン画分の上昇が含まれていた。第3群の雌(20mg/kg)でも、対照と比較してΑ−1−グロブリン画分の上昇が見られた。
【0054】
TACI−FcSの免疫原性は、マウス(処置期間中及び処置期間後に循環結合抗体のレベル低下が見られたのは少数の雌のみであった)及びサル(回復期間後、少数の動物にレベルの低下が見られた)の何れでも低かった。何れの生物種においても、抗体の中和を示す証拠はなかった。
【0055】
TACI−Fc5を標準的なインビボ試験群に供し、繁殖及び受精能の毒性の検出(雄雌マウスの受精能試験。5、20及び80mg/kgの用量を2週毎にsc経路で、交尾前及び交尾中、最長で着床期間まで投与)、並びに胚胎児発生(雌マウス及びウサギの胚胎児発生試験。5、20及び80mg/kgの用量を2週毎にsc経路で、器官形成期間に投与)を行なった。
【0056】
マウスの受精能試験によれば、2週毎に20及び80mg/kgのTACI−Fc5に暴露した群では、対照群と比べて、着床前及び着床後の喪失に用量依存性の増加が見られた。
【0057】
マウスの胚胎児発生試験で得られたデータの評価によれば、何れの用量でも胚毒性作用は見られず、また、化合物に関連する胎児奇形は生じなかった。
【0058】
ウサギにおける胚胎児発生試験では、20又は80mg/kgで2週毎に処置を行なった妊娠動物において、用量に依存する体重増加の低下及び食物消費の低下が生じたことが示された。上記の母体変化は、高い方の2種の用量では、吸収速度(rate of resorptions)の上昇及び胎児体重の低下に関連していた。
【0059】
これらの結果は、マウスの子宮内における胚盤胞の着床に、TACI−Fc5が影響を与える可能性を示唆している。器官形成時に20又は80mg/kgに2週毎に暴露されたウサギにおいて、母体の体重増加及び食物消費に観察されたTACI−Fc5の影響は、同腹仔の生存率に観察された影響の原因となっている可能性が高く、また、TACI−Fc5は胎児に対して直接的な毒性は有しなかった。これら2種の動物において、TACI−Fc5処置に起因する奇形は見られなかった。
【0060】
加えて、マウス及びサルにおいて、sc経路による2週及び1ヶ月の毒性試験を行なった上で、雄雌の生殖腺及び副性器の組織学的検査を実施した。該試験ではマウス及びサルに、TACI−Fc5をそれぞれ2日毎又は3日毎に投与したが、処置依存性の影響を示す証拠は見られなかった。
【0061】
ウサギの局所耐容性試験によれば、70mg/mL用量のTACI−Fc5製剤をウサギに皮下経路で注射したところ、良好な局所耐容性を示した。
【0062】
雄マウスに対して、静脈内経路により1mg/kgの用量で、又は皮下経路により1、5及び15mg/kgの用量で、IV及びSC経路の単回投与薬物動態試験を実施した。
【0063】
最大吸収までの時間(tmax)は4時間から16時間の間と推測され、t1/2は約40〜50時間と計算される。
【0064】
IVボーラス投与後の最初の30分間に、注入時と同様のプロファイル(infusion-like profile)が観察された。その後、TACI−Fc5は身体から排出され、排出半減期は44時間であった。皮下投与後、1、5及び15mg/kgという3種の用量において得られたAUC(曲線下面積)間の比率は1:5:8であり、1:5:15という用量比率と比較すると、高用量では用量との比例関係が失われることが示唆された。
【0065】
マウスにおいて、皮下経路によるTACI−Fc5の生体利用性は、1及び5mg/kgの用量では76及び89%であったが、15mg/kgでは予測よりも低かった(0,42;静脈内1mg/kg用量に対する計算)。見かけの排出半減期は変化しなかったことから、高用量において観察された生体利用性の低下は、浄化及び分配量の双方の増加によるものか、或いはより高い可能性としては、注射部位での沈着形成による吸収の減少によるものと説明することができる。
【0066】
雄カニクイサルに対して、静脈内経路により1mg/kgの用量を、或いは皮下経路により1、5及び15mg/kgの用量を投与することにより、雄サルのIV及びSC経路による単回投与薬物動態試験を行なった。
【0067】
6等の雄サルを3頭ずつ2つの群に分割し、2週間の休薬期間を挟んで2回の投与を行なった。期間1の処置は1mg/kg、IV(第1群)、及び1mg/kg、SC(第2群)、期間2の処置は5mg/kg、SC(第1群)、及び15mg/kg、SC(第2群)とした。
【0068】
最大吸収までの時間(tmax)は6時間から8時間の間と推測され、t1/2は約120〜190時間と算出された。
【0069】
IVボーラス投与後の最初の15分間に、3頭のサルのうち2頭において、注入時と同様のプロファイルが観察された。その後、TACI−Fc5は身体から排出され、排出半減期は179±29時間であった。定常状態での分配量Vssは382±82mL/kgであり、細胞内液の体積に近い量であった。
【0070】
皮下投与後、AUC対用量の比例関係は良好であった。即ち、1、5及び15mg/kgのSC投与に対して、216、1182及び2732hμg/mLであった。皮下経路によるTACI−Fc5の生体利用性(1mg/kg IV投与に対し計算)は、低、中及び高用量について、0.92、1.02及び0.77であった。従って、TACI−Fc5はほぼ完全に、皮下経路で吸収された。
【0071】
期間2においては、6頭のサル全てについて、投与前サンプルに低レベルのTACI−Fc5が見られた(IV又はSC経路による1mg/kg用量(期間1)と、それぞれ5又は15mg/kg用量(期間2)との間)。2週間の休薬期間における経過時間は半減期の2倍に過ぎず、投与された化合物が完全に排出されるには不十分であったから(半減期の5倍が必要)。しかし、以前の投与によるAUCの寄与は、期間2における総AUCの約2%相当に過ぎないものと見積もられる。
【0072】
IgG血清レベルはIV投与後に10.2%の低下を示した。15mg/kgのSCy投与においては僅かながらより高い効果が現れたのに対し、1及び5mg/kgのSC投与間では差は見られなかった(1、5及び15mg/kg用量の投与後において、それぞれ8.6%、8.4%及び12.3%の低下)。IgM血清レベルはIV投与後にの低下を示した。3種のSC投与量間に差は見られなかった(1、5及び15mg/kg用量の投与後において、それぞれ23.5%、23.0%及び24.2%の低下)。
【0073】
実施例2
健常志願者におけるTACI−Fc5耐容量の決定
【0074】
最初のTACI−Fc5の第I相試験は、現在完了直前である。これは、TACI−Fc5を健常男性志願者の皮下に単回投与した場合の安全性、薬物動態及び薬力学を検討する、二重盲検、プラセボ対照、用量漸増、系列用量による試験である。試験計画の概要を、利用可能なデータの要約と併せて以下に示す。
【0075】
TACI−Fc5を初めてヒトに投与した。これは、TACI−Fc5を健常男性志願者の皮下に単回投与した場合の安全性、薬物動態及び薬力学を検討する、二重盲検、プラセボ対照、用量漸増、系列用量による試験である。
【0076】
4群の被験者を集めた。各投与群につき一人の被験者を無作為に選び、プラセボ注射に割り当てるとともに、他の全ての被験者はTACI−Fc5投与とした。被験者は、投与の24時間前に治験施設から帰宅し、その後は外来として7週間の計画的な調査に参加した。TACI−Fc5の全身及び局所耐容性を、身体検査の所見、注射部位の疼痛、(1又は2以上の)注射部位の局所的な耐容性反応(発赤、腫化、損傷及び掻痒)、生命徴候、12誘導ECG(心電図)、安全性の臨床評価、及び有害事象の記録により監視した。
【0077】
投与後7週間の期間に亘って、薬物動態及び薬力学マーカーを監視した。TACI−Fc5の薬力学効果の監視は、幾つかのマーカーを用いて行なった。例えば、FACS分析によるリンパ球サブセット(形質細胞(CD138+)、未成熟B細胞(CD19+、IgD−)、成熟B細胞(CD19+、IgD+)、Tヘルパー細胞(CD5+、CD4+)、細胞毒性T細胞(CD5+、CD8+)、総T細胞(CD5+))、遊離BlyS、BlyS/TACI−Fc5複合体、IgG、IgM、抗TACI−Fc5抗体が挙げられる。
【0078】
試験プロトコル内の用量漸増は、投与から3週間後におけるデータの見直しに基づき、アルゴリズムに従って行なった。4群の用量としては、第1群に2.1mg、第2群に70mg、第3群に210mg、及び、第4群に630mgを投与した。
【0079】
結果: 健常男性志願者にTACI−Fc5を、0.03mg/kgから9mg/kgまでの用量範囲で単回皮下投与した。安全性及び耐容性のデータを、第3週におけるリンパ球サブセットのFACS分析と共に、コホート間の用量漸増の指針として用いた。表1に示すような4群のコホートについて試験を行なった。
【0080】
【表4】

【0081】
コホート及び全体集団について、人口学的基本特性を纏めた。その結果を表2に示す。
【0082】
【表5】

【0083】
全体、平均+:SD年齢は30.7+7.4歳であり、平均体格指数は24.8kg/m2であった。何れの志願者も白人男性であった。TACI−Fc5は何れの群でも耐容性良好であった。身体検査所見、生命徴候又は12誘導ECGに、明白な作用は見られなかった。
【0084】
【表6】

【0085】
一部被験者の投与部位に過渡的な発赤及び腫化が観察され、発赤はコホート3及び4の全被験者に及んでいた。注射部位反応の出現率は高用量群ほど増加しているように見えるものの、これは注射量(及び数)の増加に依存するものと考えられる。
【0086】
投与後4週間で、処置により発現した有害事象が48例報告された。これらの大半(44例、91.7%)は軽度であり、残り(4例、8.3%)は中度であった。重度の有害事象や重症の有害事象は、この期間内には見られなかった。投与されたTACI−Fc5の用量と、有害事象の出現率、強度、又は指定された関係との間に、明白な関連性は見られなかった。現在までに報告された有害事象を表3に纏めて示す。
【0087】
TACI−Fc5は、最高630mgまでの用量において良好な耐容性を示し、安全性に関する重大な懸念は生じなかったと考えられる。これらのデータは、推奨される治験において意図される用量をサポートするものである。
【0088】
TACI血清濃度の非区画化分析を実施した。この予備的な分析は、名目上のサンプリング時間を用いて行なった。投与前の濃度が測定可能であった被験者2、6及び13について、分析に先立ち投与後の全測定値から基線濃度を減算した。2.1、70、210及び630mgの単回皮下投与後における薬物動態パラメータを表4に纏めて示す。2.1mgのTACI−Fc5の投与後、薬物濃度はアッセイの定量限界近くとなり、この投与レベルをデータの限界値とした。70mg以上の容量では、Tmax(最大吸収までの時間)は16から36時間の間であり、(曲線の端部から計算した)全体のt1/2の中央値は303時間であった。加えて、AUC(無限大に外挿)及びCmaxの増加率は、用量比例値よりも大きかった。
【0089】
【表7】

【0090】
薬力学分析によれば、70、210又は630mgの単回投与後7週間で、基線IgMレベルに低下が見られた。サンプル数が少なかったため、明らかな用量応答関係は確立できなかったものの、IgMの低下幅は、用量が最高の群で最大となった。70mg用量群の被験者は、投与後7週間でIgMレベルが基線まで回復したように見える。より高い用量の群では、この時点でもレベルが抑えられたままであった。IgGレベルにも、また、FACSにより測定したリンパ球亜集団にも、明白な影響は見られなかった。
【0091】
BlyS/TACI−Fc5複合体のレベルは、サンプリング期間を通じて一定の比率で増加し、投与後凡そ600時間でプラトーに達した。結論として、健常男性志願者より得られたヒトのデータから、TACI−Fc5が最高630mgまでの用量において、被験者にとって安全且つ耐容性良好であることが示されたと言える。有害事象の性質、出現率及び重症度は、TACI−Fc5処置群とプラセボとの間で匹敵していた。身体検査所見、生命徴候、12誘導ECG、又は安全性実験パラメータには、臨床上有意な変化は見られなかった。投与部位での局所耐容性は良好であった。これらのデータは、BCMを有する被験者に推奨される用量をサポートしている。
【0092】
健常男性被験者における単回投与後、TACI−Fc5は16時間から20時間の間にTmaxに達し、AUCは用量に比例して上昇したが、Cmax の増加率は用量比例値よりも大きかった。TACI−Fc5の半減期の中央値は凡そ300時間であった。70、210及び630mgの用量で、IgMレベルに薬力学効果が見られた。TACI−Fc5の単回投与後に、IgG又はリンパ球亜集団に対して、処置による明白な効果は現れなかった。特定の重症度や重篤度に関する既知の、或いは予測される危険性であって、提案された試験プロトコルにおいて未考慮のものは存在しない。
【0093】
実施例3
非ホジキンリンパ腫患者のTACI−Fc5組成物による処置
【0094】
TACI−Fc5を毎週投与する前に、患者を臨床的に検査する。一貫性を保つために、5週間の処置期間に亘り、TACI−Fc5を計画的に凡そ同じ時間に(±6時間)、各患者に対して以下の各用量で投与する。TACI−Fc5の初回投与の直前に検査を実施し、これを基線検査と定義する。TACI−Fc5投与の初日を「第1日」とする。TACI−Fc5薬物療法の初回用量を患者に投与する前に、以下の手順を完了する。区間病歴(interval history)、区間身体検査(interval physical examination)、VS、身長及び体重(初回投与のみ)、安全性実験室試験:血液学、血液凝固、免疫グロブリン及び化学、併用薬物療法/手順の調査、血液サンプル(タイミングはe−CRFに記録)及びそれを用いた:TACI−Fc5血清濃度、遊離APRIL及びBlyS、BlyS/TACI−Fc5複合体の血清レベルのPK測定、フローサイトメトリーによる細胞計数、及び抗TACI抗体による測定(初回投与のみ)。
【0095】
2mg/1kgから10mg/1kgのTACI−Fc5製剤を、第1日目、7日目、14日目、21日目及び28日目に患者に皮下投与する。
【0096】
以下の投与後検査を完了する:生命徴候(TACI−Fc5初回投与被験者については、VSを投与後1、2、4及び8時間に取得する)。その後のTACI−Fc5の投与については、投与後1及び2時間に生命徴候を取得する;有害事象の継続的検査;及び併用薬物療法/手順の継続的検査。
【0097】
特別PK/PD検査を第2日目、3日目、及び4日目に完了する。本検査では、採血、TACI−Fc5血清濃度のPK測定、遊離APRIL及びBlyS、BlyS/TACI−Fc5複合体のPD測定、リンパ球細胞計数及びIgG及びIgM血清濃度等を行なう。
【0098】
TACI−Fc5の全用量を送達したら、TACI−Fc5の最終投与から更に4週間に亘って、患者を毎週評価する:有害事象の継続的検査;併用薬物療法/手順の継続的検査;区間病歴;区間身体検査、生命徴候、安全性実験室試験:血液学、血液凝固、免疫グロブリン及び化学、血液サンプル(タイミングはe−CRFに記録)及びそれを用いた:TACI−Fc5血清濃度、遊離APRIL及びBlyS、BlyS/TACI−Fc5複合体の血清レベルのPK測定、並びにフローサイトメトリーによる細胞計数。
【0099】
追跡来診第56日目に、上述の検査に以下を追加すべきである:ECOG(米国東海岸癌臨床試験グループ:Eastern Cooperative Oncology Group)スコア、身長及び体重、尿分析、抗TACI抗体の測定。延長試験を行なわない患者については、抗TACI抗体を第85日目に採取する。
【0100】
最後のTACI−Fc5処置から凡そ28日後の最後の来診時に併せて、疾病特異的再病期分類(disease specific restaging)を実施する。再病期分類時に疾病の進行が見られない患者は、延長処置に供してもよい。胸部、腹部、及び骨盤の関与が当初見られない場合でも、これらの領域のCT及びPETスキャンを行なうことが推奨される。登録されている疾病に髄が関与している場合は、骨髄穿刺液及び生検。疾病負担の腫瘍特異指標(tumor specific indicators)(例えば、マントル細胞リンパ腫における蛍光インサイチュ・ハイブリダイゼーションによるt(Mariette X., Ann Rheum Dis 2003; 62(2):168-171. Kelly et al. Cancer Res 2001; 60(4): 1021-1027.)転座の頻度)。
【0101】
リンパ球及び免疫グロブリンクラスの双方が、治療前の基線レベルまで、或いは絶対リンパ球数>800/mm3、IgG>400mg/dL、IgA>65mg/dL及びIgM>40mg/dLまで回復したことが確認された患者は、TACI−Fc5の最終投与後、28日の安全性追跡を完了したら、正式に試験から除外する。これらのレベル、完全血球数及びIgG、IgA及びIgMレベルを満たさなかった患者は、上記定義の回復が記録されるまで、毎月検査を行なう。
【0102】
実施例4
TACI−Fc5の注射手順
【0103】
TACI−Fc5を送達するために皮下経路による投与を選択した場合には、分子を皮下の腹壁内に注射し、その部位は以下の図に沿って回転させる(図2)。血管内に注射しないように注意する。皮膚を健全に維持するために、注射部位の回転は極めて重要である。同一箇所に繰り返し注射を行なうと、瘢痕化や脂肪組織の硬化を招くおそれがある。注射には以下の領域を使用し、毎週以下のように回転すべきである(図2):第1週は右上方外側領域に注射;第2週は左下方外側領域に注射;第3週は右下方外側領域に注射;第4週は左上方外側領域に注射;及び第5週は正中下方領域に注射。
【0104】
一用量につき2回以上の注射が必要な患者には、その週の注射領域に指定された位置(図2によれば週1〜5)を12時の位置として注射を開始し、その後は一用量につき必要な注射回数の分だけ時計回りに回転させ、2時、4時、6時、8時及び/又は10時の位置に注射を行なう。注射は互いに少なくとも2.5cm(1インチ)離して、できるだけ近接した位置に時間内に注射する。1.5mLを超える注射を一の注射部位にしてはならない。患者の腹内への注射が困難な場合に注射可能な代替領域としては、領域6&7(大腿前部、図2)、及び、領域8&9(上腕、図2)が挙げられる。
【0105】
注射部位反応の一般的な症状としては、注射部位における掻痒、圧痛、温感、及び/又は発赤が挙げられる。
【0106】
実施例5
TACI−Ig分子投与のための用量漸増プロトコル
【0107】
この用量漸増プロトコルは、B細胞悪性病変(BCM)のTACIを評価するためのもので、所与の用量コホート(2mg/kg、4mg/kg、7mg/kg、10mg/kg)の2人の患者に対して、5週間に亘って毎日投与を続けた後、8日間の観察を行なう。用量規定毒性(Dose Limiting toxity:DLT)が観察されない場合には、もう1人の患者にも現在の投与レベルで処置を行なう。この3人目の患者に所定の用量を5週間連続で投与し、2週間の観察を行なってDLTが観察されなければ漸増が認められ、2人の患者を次の段階的な投与レベルで処置することが可能となる。同時に、更に別の2人の患者を以前の投与レベルで処置してもよく、そこでDLTが観察されない場合に漸増を許めるようにしてもよい(図1)。この保存的な用量漸増スキームは、BCM試験開始前において、TACI−Fc5の前臨床及び臨床経験が制限されていることを前提とした。
【0108】
現在までに3人の患者をBCMの用量漸増試験に登録し、用量2mg/kgでの処置を行なった。また、現在は2人の患者を登録し、4mg/kg用量コホートにおける処置を行なっている。
【0109】
現在進行中の4つの試験において、現在までに計118人の患者に、TACI−Fc5又はプラセボの単回又は繰り返しの投与計画を実施してきた(活性薬92例、プラセボ26例)。これらの試験は何れも、安全審査会(Safety Review Board)又は安全監視委員会(Safety Monitoring Committee)の監督下で実施した。
【0110】
これらの試験において、TACI−Fc5の単回及び繰り返し皮下投与を受けた、累積用量が最大60mg/kg(5週間の処置及び4週間の休薬期間のサイクルを3回)の患者のコホートから、SRB/SMCは計9例の審査を行なった。これらの委員会からは、TACI−Fc5処置の安全性に関して、何の懸念も示されていない。加えて、継続して安全性の監視を行なっているものの、現在まで臨床的に関連する安全性の問題は何ら生じていない。
【0111】
TACI−Fc5多発性骨髄腫試験では、コホート1及び2の患者計6人について、用量漸増試験を完了した。本試験では、患者に2mg/kg(3患者)又は4mg/kg(3患者)の注射を5週間に亘って毎週行なった後、4週間の観察を行なった。加えて、コホート3の患者3人に、7mg/kg用量を1週間で1回投与した。コホート1の患者2人とコホート2の患者1人が、用量漸増試験で疾病が安定したことから、続いて延長試験を行なった。
【0112】
これらの患者の各々に対して、更に最長10週間に亘り、毎週2mg/kg又は4mg/kgの注射を行なった。BCMにおけるTACI−Fc5の評価のために選択した用量は、上述の多発性骨髄腫試験における用量と同じである。即ち、毎週2、4、7及び10mg/kgの注射を5週間に亘って投与し、総累積用量は10、20、35及び50mg/kgとした。
【0113】
TACI−Fc5の単回投与を受けた健常志願者において観測された暴露量と、BCM患者の予測暴露量、並びに3日毎に80mg/kg(NOAEL用量)の投与を4週に亘って受けたカニクイサルにおいて観測された暴露量との比較に基づいて、暴露基準の安全限界を算出した。開始時の用量である2mg/kg、及び、提案される最高用量である10mg/kgについて算出された安全限界は、それぞれ291倍及び46倍である。
【0114】
TACI−Fc5を、3日毎に0、4、2及び10mg/kgの用量を13週又は39週間に亘ってサルに送達した場合、毒性の徴候は生じなかった。成熟及び総循環B細胞の減少、並びに未成熟B細胞の減少傾向、加えて血清IgG及びIgMの減少、更には脾臓及びリンパ節のB細胞担当領域の欠乏は、TACI−Fc5の薬力学的活性によるものと考えられ、13週間の処置の後に回復させた動物においては可逆性を示した。
【0115】
同じ用量のTACI−Fc5をマウスに対し1日おきに、13週又は26週に亘って送達した場合、全用量における血清IgG及びIgM並びに総及び成熟B細胞の減少や、それに伴う全用量における血清ガンマグロブリンの減少傾向等、予測されるTACI−Fc5の薬理作用に関する、主に時間及び用量依存性の調節が生じた。組織学によれば、リンパ節の皮質及び脾臓の周辺帯におけるB細胞の減少、並びに注射部位における亜急性炎症の増加等、過去の研究に基づいて予想された知見の他には、毒性学的に関連する変化は見られなかった。
【0116】
現在のヒト及び前臨床における安全性データに基づき、そして特に、試験薬剤が多発性骨髄腫の被験者に、2、4、及び7mg/kgの投薬レベルで、最大15回の5ヶ月に及ぶ投与で耐容性良好であったことから、各投薬コホート当たり3人の被験者を、7及び10mg/kgの用量での投与に同時に参加させる計画を進めている。
【0117】
実施例6
TACI−Fc5に対して初回に有益な応答を示した患者の更なる処置
【0118】
TACI−Fc5による最初の5週間の処置に対して好ましい反応を示した非ホジキンリンパ腫患者に対して、更に毎週のTACI−Fc5の投与を行なう。患者に最長で連続24週間、毎週TACI−Fc5を投与する。投与は皮下(SC)に対して、必要に応じて複数回、各1.5mL以下を注射して行なう。各回の注射用に、TACI−Fc5の液体製剤を濃度70mg/0.5mLで、バイアルに入れて供する。
【0119】
これらの更なる24回の連続注射は、最初の5週間の処置において患者が許容性を示したレベルと同じ投与レベルで行なう。しかし、最初に10mg/kgのTACI−Fc5を投与した患者には、用量を7mg/kgに減量して投与してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】TACI−Fc5処置の用量漸増の決定木である。
【図2】TACI−Ig分子の皮下注射に使用可能な、患者の身体領域の模式図である。
【図3】配列番号1である。
【図4】配列番号2である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の非ホジキンリンパ腫(Hodgkin's lymphoma)を処置する方法であって、
融合分子(fusion molecule)を含んでなる組成物を、当該リンパ腫を処置するのに有効な量、患者に投与する工程を含んでなるとともに、
融合分子が:
(i)BlySに結合するTACI細胞外ドメイン又はその断片;及び
(ii)ヒト免疫グロブリン定常ドメイン
を含んでなる、方法。
【請求項2】
当該TACI細胞外ドメインが、配列番号1に記載の配列を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
当該TACI細胞外ドメインが、配列番号1と少なくとも50%同一である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
当該ヒト免疫グロブリン定常ドメインが、配列番号2に記載の配列を有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
当該組成物を、患者の体重1kg当たり0.01mgから、患者の体重1kg当たり10mgまでの量で投与する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
当該量の当該組成物を4週の期間内に5回投与する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
当該量の当該組成物を4週の期間内に5回投与した後、更に当該量の当該組成物を毎週投与する、請求項5記載の方法。
【請求項8】
当該量の当該組成物を毎週1回、2から30週に亘って投与する請求項5記載の方法。
【請求項9】
当該方法が、薬剤を投与する工程を更に含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
当該薬剤が、ビスフォスフォネート、エリスロポエチン、顆粒球増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子、疼痛管理薬、メルファラン、ビンクリスチン、ドキソルビシン、サリドマイド及びヌクレオシド類似体からなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
当該組成物が皮下、経口又は静脈内投与される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記患者がヒトである、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−507777(P2009−507777A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526212(P2008−526212)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/031277
【国際公開番号】WO2007/019575
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(500049831)ザイモジェネティクス,インコーポレイティド (37)
【出願人】(504104899)アレス トレーディング ソシエテ アノニム (59)
【出願人】(598091963)マヨ ファウンデーション フォー メディカル エデュケーション アンド リサーチ (17)
【Fターム(参考)】