説明

WC粒子を分散させた自溶性複合合金粉末およびその製造方法。

【課題】 本発明により空隙がなく優れた耐摩耗性を持つ溶射膜を形成できる粉末を製造することができるCo基自溶性合金粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 自溶性合金内部にWC粒子が分散した粉末であり、該WC粒子中にW以外の炭化物生成元素が0.1質量%以上存在しないことを特徴とするWC粒を分散させた自溶性合金粉末。また、上記のWC粒子を分散してなる自溶性合金粉末に対し、WC粒子を15〜60%混合してなることを特徴とするWC粒子を分散させた自溶性複合合金粉末およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、WC粒子を含有した溶射用自溶性複合合金粉末およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐摩耗性向上用溶射被膜を作製するためのWC含有自溶性合金粉末は、2種類の粉末の混合造粒により作製されているが、これには大きく2つの問題がある。1つは、表面にWCが露出しているため、溶射時に造粒粉のWCと大気中の酸素が反応により炭素の脱落が発生し、脆いW2 Cが生成すること、2つ目は、造粒時の焼結温度が低いため粉末の密度が低く内部に空隙が存在し、溶射膜のフュ−ジング処理後においても、空隙を完全に埋めることができず、膜の硬さ、耐摩耗性が低下することである。
【0003】
これに対し、例えば特開2002−4026号公報(特許文献1)に開示されているように、均質な溶射膜を作製するためにメカニカルアロイング(MA)によりCo,Niなどに炭化物を過飽和に固溶させた粉末を作製する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2002−4026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したメカニカルアロイング(MA)による混合法は、通常角張った異形粉が得られるため流動性が悪く、これを分級するなどして、球状の粉末を工業的に得ることは困難であるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述のような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、不純物を含まないWC粒子を含有したCo基自溶性合金粉末をガスアトマイズで作製することにより得ることができた。WC粒子はガスアトマイズ中に添加し、溶解、反応、拡散などによる変性を防止するものである。すなわち、WCはCoに1495℃(純Co融点)で53質量%固溶するが、これにB,Si,Cの半金属元素と数種類の金属元素を添加したCo基自溶性合金にすることで、WCの溶解速度を低下させることができ、アトマイズ中に添加しても、WC粒子は添加前の状態を保って残存するものである。
【0006】
その発明の要旨とするところは、
(1)自溶性合金内部にWC粒子が分散した粉末であり、該WC粒子中にW以外の炭化物生成元素が0.1質量%以上存在しないことを特徴とするWC粒子を分散させた自溶性複合合金粉末。
(2)前記(1)に記載のWC粒子を分散してなる自溶性合金粉末に対し、WC粒子を15〜60%混合してなることを特徴とするWC粒子を分散させた自溶性複合合金粉末。
【0007】
(3)WC粒子を除く合金組成は、質量%で、B,Si,Cの1種または2種以上を1〜8%とNi,Cr,W,Mo,Mn,Cu,Feの1種または2種以上を10〜40%、残部Coからなる前記(1)に記載のことを特徴とするWC粒子を分散させた自溶性複合合金粉末。
(4)前記(1)に記載の粉末をアトマイズにより製造することを特徴とするWC粒子を分散させた自溶性複合合金粉末の製造方法にある。
【発明の効果】
【0008】
以上述べたように、本発明により空隙がなく優れた耐摩耗性を持つ溶射膜を形成できる粉末を製造することができる自溶性合金粉末を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明についての成分組成に限定した理由を説明する。
B,Si,Cの1種または2種以上を1〜8%
B,Si,Cは、溶射後のフュージング性を向上させる元素であるが、しかし、1%未満では、溶射後のフュージング性が悪化する。また、8%を超えると化合物形成による溶射膜の脆化を起こすことから、1種または2種以上を1〜8%とした。
【0010】
Ni,Cr,W,Mo,Mn,Cu,Feの1種または2種以上を10〜40% Ni,Cr,W,Mo,Mn,Cu,Feは、B,Si,Cとの化合物を生成させるための元素である。しかし、10%未満では、B,Si,Cとの化合物が充分に生成されないことによる硬さ、耐摩耗性が不足する。また、40%を超えると第2の合金相析出による強度低下の問題が発生することから、その範囲を10〜40%とした。
【0011】
すなわち、WC粒子を除く合金組成は、質量%で、B,Si,Cの1種または2種以上:1〜8%とNi,Cr,W,Mo,Mn,Cu,Feの1種または2種以上:10〜40%、残部Coから構成されている。
【0012】
WC粒子を15〜60%
WC粒子の混合量は、15%未満では溶湯中に溶解し耐摩耗性を向上させるために充分なWCが残らない。また、60%を超えると溶湯の流動性が低下し、作製が非常に困難になる。したがって、その範囲を15〜60%とした。
【実施例】
【0013】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
(実施例1)
Co−19Cr−7W−0.7C−13Ni−1.8B−2.5SiなるCo基自溶性合金粉末を坩堝内で溶解し、表1に示すような割合でWC粒子(純度99.9%以上)を混合させ、窒素ガスを用いてアトマイズを行った。ガスアトマイズはフリーフォール形式のφ3mmのノズルを用いて、出湯温度1500℃、ガス圧8MPaの条件で行った。作製した粉末(粒径:125/45μm)の断面をSEMで観察したところ、WC粒子が粉末内部に存在することが確認できた。その結果を図1に示す。
【0014】
図1は、本発明に係る粉末の断面をSEMで観察した顕微鏡写真である。また、EDSでWC粒子を10個分析したところ、WC以外の物質を0.5質量%以上含んだ粒子は存在しなかった。粉末の外観をSEM200倍で5視野観察したところ、粉末表面にWC粒子1は10個以下であった。その結果を図2に示す。図2は、本発明に係る粉末の外観をSEMにて観察した顕微鏡写真である。また、表1に示す断面SEM観察結果はWC粒子が粉末内部に存在することが確認されたものを○で表示した。
【0015】
溶射は粉末式のフレーム溶射を用いて行い、溶射後に1050〜1150℃の範囲でフュージング処理を行い、空隙を消失させた。この溶射膜は、20〜1200μm程度、通常は100〜1000μmを超えると溶射膜が厚くなり、冷却時の割れや膜の剥離が起こり易くなる。成膜後の膜の硬さをビッカース硬度計にて測定したところ、現状技術の造粒粉の溶射膜は650であったのに対し、実施例では全て900を超える高硬度を示し、優れた耐摩耗性があることが分かった。
【0016】
【表1】

表1に示すように、No.1〜4は本発明例であり、No.5〜8は比較例である。
【0017】
表1に示す比較例No.5はWC粒子が少ないために、断面SEM観察の結果、WCは観察することができなかった。また、膜の硬さが低い値を示した。比較例No.6はWC粒子が多いために、アトマイズが不可能であった。比較例No.7はNo.6と同様にWC粒子が多いために、アトマイズが不可能であった。比較例No.8はWC粒子の含有量は最適であるが、造粒によるため、表面SEM観察結果はWCが非常に多く露出し、膜の硬さも低い値を示した。これに対して、本発明例であるNo.1〜4はいずれも条件を満足していることからその膜の硬さ、耐摩耗性等の特性の優れていることが分かる。
【0018】
(実施例2)
Co−16Cr−5Mo−18Ni−2B−2.5SiなるCo基自溶性合金粉末を坩堝内で溶解し、表2に示すような割合でWC粒子(純度99.9%以上)を混合させ、窒素ガスを用いてアトマイズを行った。ガスアトマイズはフリーフォール形式のφ2.5mmのノズルを用いて、出湯温度1450℃、ガス圧7MPaの条件で行った。作製した粉末(粒径:53/15μm)の断面をSEMで観察したところ、WC粒子が粉末内部に存在することが確認できた。また、EDSでWC粒子を10個分析したところ、W,C以外の物質を0.5質量%以上含んだ粒子は存在しなかった。粉末の外観をSEMで観察したところ、粉末表面にWC粒子は10個以下であった(200倍で5視野観察)。
【0019】
溶射は粉末式のフレーム溶射を用いて行った。この溶射膜は、20〜1200μm程度、通常は100〜1000μmである。20μm未満の溶射は困難であることと、特性を確保する充分な硬さ(Hv900以上)が得られない。1200μmを超えると溶射膜が厚くなり、冷却時の割れや膜の剥離が起こり易くなる。
【0020】
【表2】

表2に示すように、No.1〜4は本発明例であり、No.5〜8は比較例である。
【0021】
表2に示す比較例No.5はWC粒子が少ないために、断面SEM観察の結果、WCは観察することができなかった。また、膜の硬さが低い値を示した。比較例No.6はWC粒子が多いために、アトマイズが不可能であった。比較例No.7はNo.6と同様にWC粒子が多いために、アトマイズが不可能であった。比較例No.8はWC粒子の含有量は最適であるが、造粒によるため、表面SEM観察結果はWCが非常に多く露出し、膜の硬さも低い値を示した。これに対して、本発明例であるNo.1〜4はいずれも条件を満足していることからその膜の硬さ、耐摩耗性等の特性の優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る粉末の断面をSEMで観察した顕微鏡写真である。
【図2】本発明に係る粉末の外観をSEMにて観察した顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0023】
1 WC粒子


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自溶性合金内部にWC粒子が分散した粉末であり、該WC粒子中にW以外の炭化物生成元素が0.1質量%以上存在しないことを特徴とするWC粒子を分散させた自溶性複合合金粉末。
【請求項2】
請求項1に記載のWC粒子を分散してなる自溶性合金粉末に対し、WC粒子を15〜60%混合してなることを特徴とするWC粒子を分散させた自溶性複合合金粉末。
【請求項3】
WC粒子を除く合金組成は、質量%で、B,Si,Cの1種または2種以上を1〜8%とNi,Cr,W,Mo,Mn,Cu,Feの1種または2種以上を10〜40%、残部Coからなる請求項1に記載のWC粒子を分散させた自溶性複合合金粉末。
【請求項4】
請求項1に記載の粉末をアトマイズにより製造することを特徴とするWC粒子を分散させた自溶性複合合金粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150573(P2010−150573A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327091(P2008−327091)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】