説明

自動分析装置

【課題】受光素子の位置調整に関する手間の削減。
【解決手段】光源は、光を発生する。分光器は、光源から発生され、試料と試薬との混合液を透過した光を波長毎に分解する。受光部8は、分光器からの光を受光する複数の受光素子81を有する。複数の受光素子81の各々は、配置位置に対応する波長帯域に関する光を受光し、受光された光に応じた信号を発生する。記憶部11は、複数の受光素子識別子と複数の波長帯域識別子とを関連付けて記憶する。選択部13は、複数の受光素子の中から、前記試料の測定項目に応じた波長帯域の波長帯域識別子に関連付けられた特定の受光素子識別子に対応する特定の受光素子を選択する。計算部15は、選択された特定の受光素子からの信号に基づいて測定項目に関する吸光度を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は、試料と試薬との混合液を透過した光を分光器で分光し、分光器からの光を受光部で受光している。分光器からの光は、物理的な位置に応じて波長が異なる。受光部は、複数の受光素子を有している。各受光素子は、その配置位置に応じた波長に関する光を受光する。
【0003】
装置の組み立て時などに受光素子が本来の位置からずれてしまう場合がある。これは、波長確度ずれと呼ばれている。波長確度ずれが生じてしまった場合、受光素子の位置調整が行われている。しかし、受光素子の位置調整は、ユーザにとって大変な手間である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007―327923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
目的は、受光素子の位置調整に関する手間を削減することが可能な自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係る自動分析装置は、光を発生する光源と、前記光源から発生され、試料と試薬との混合液を透過した光を波長毎に分解する分光器と、前記分光器からの光を受光する複数の受光素子を有し、前記複数の受光素子の各々は、配置位置に対応する波長帯域に関する光を受光し、前記受光された光に応じた信号を発生する受光部と、前記複数の受光素子に関する複数の受光素子識別子と複数の波長帯域識別子とを関連付けて記憶する記憶部と、前記複数の受光素子の中から、前記試料の測定項目に応じた波長帯域の波長帯域識別子に関連付けられた特定の受光素子識別子に対応する特定の受光素子を選択する選択部と、前記選択された特定の受光素子からの信号に基づいて前記測定項目に関する吸光度を計算する計算部と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態に係る自動分析装置の概略構成を示す図。
【図2】図1の測光部に含まれる光学系の構造を模式的に示す図。
【図3】図2の受光部に含まれる受光素子の配列態様の一例を示す図。
【図4】図1の測光部の全体構成を示す図。
【図5】本実施形態に係る自動分析装置の素子・波長データベースの作成段階における処理の典型的な流れを示す図。
【図6】図4の設定部により行われる受光素子の識別子と波長帯域の識別子との関連付けについて説明するための図。
【図7】本実施形態に係る自動分析装置の測光段階における処理の典型的な流れを示す図。
【図8】図7のステップSB3における吸光度計算に利用される図。
【図9】本実施形態の変形例1に係る自動分析装置の測光段階における処理の典型的な流れを示す図。
【図10】本実施形態の変形例2に係る測光部の全体構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わる自動分析装置を説明する。
【0009】
図1は、本実施形態に係る自動分析装置100の概略構成を示す図である。図1に示すように、自動分析装置100のステージの略中央部には反応ディスク20が設けられている。反応ディスク20は、円周上に配列された複数の反応容器(反応セル)22を保持する。反応ディスク20は、所定のサイクルで回動と停止とを繰り返す。
【0010】
反応ディスク20の近傍には、円盤状のサンプルディスク30が設けられる。サンプルディスク30は、同心円上に配列された複数のサンプル容器32を保持する。サンプル容器32には、試料が収容されている。サンプルディスク30は、回転軸回りに回転し、分注対象の試料が収容されたサンプル容器32をサンプルディスク30上の試料吸入位置に配置する。
【0011】
反応ディスク20の近傍には、第1試薬庫40が配置される。第1試薬庫40は、円盤状の第1試薬ディスクを有する。第1試薬ディスクは、同心円上に配列された複数の第1試薬容器42を保持する。第1試薬容器42は、試料に含まれる各測定項目に応じた成分と化学反応する第1試薬を収容する。第1試薬ディスクは、回転軸回りに回転し、分注対象の第1試薬が収容された第1試薬容器42を第1試薬庫40上の第1試薬吸入位置に配置する。
【0012】
反応ディスク20の内側には、第2試薬庫50が配置される。第2試薬庫50は、円盤状の第2試薬ディスクを有する。第2試薬ディスクは、円周上に配列された複数の第2試薬容器52を保持する。第2試薬容器52は、第1試薬に対応する第2試薬を収容する。第2試薬ディスクは、回転軸回りに回転し、分注対象の第2試薬が収容された第2試薬容器52を第2試薬庫50上の第2試薬吸入位置に配置する。
【0013】
反応ディスク20とサンプルディスク30との間にはサンプルアーム34が配置される。サンプルアーム34の先端には、サンプルプローブ36が取り付けられている。サンプルプローブ36は、図示しない電動式のポンプにより試料を吸入したり吐出したりする。サンプルアーム34は、サンプルプローブ36をサンプルディスク30上の試料吸入位置と反応ディスク20上の試料吐出位置との間を回動させる。また、サンプルアーム34は、サンプルプローブ36を上下動させる。
【0014】
反応ディスク20と第1試薬庫40との間には第1試薬アーム44が配置される。第1試薬アーム44の先端には第1試薬プローブ46が取り付けられている。第1試薬プローブ46は、図示しないポンプにより第1試薬を吸入したり吐出したりする。第1試薬アーム44は、第1試薬プローブ46を第1試薬庫40上の第1試薬吸入位置と反応ディスク20上の第1試薬吐出位置との間を回動させる。また、第1試薬アーム44は、第1試薬プローブ46を上下動させる。
【0015】
反応ディスク20の外周近傍には第2試薬アーム54が配置される。第2試薬アーム54の先端には第2試薬プローブ56が取り付けられている。第2試薬プローブ56は、図示しないポンプにより第2試薬を吸入したり吐出したりする。第2試薬アーム54は、第2試薬プローブ56を第2試薬庫50上の第2試薬吸入位置と反応ディスク20上の第2試薬吐出位置との間を回動させる。また、第2試薬アーム54は、第2試薬プローブ56を上下動させる。
【0016】
反応ディスク20の外周近傍には、撹拌部アーム60が設けられている。撹拌部60は、反応ディスク20上の撹拌位置の反応セル22内の試料及び第1試薬の混合液や、試料、第1試薬、及び第2試薬の混合液を撹拌子62で撹拌する。
【0017】
ステージの内部には、測光部1が設けられている。測光部1は、測定対象の測定項目に関する吸光度を計算するために測光を行う。
【0018】
図2は、測光部1に含まれる光学系の構造を模式的に示す図である。図に示すように、測光部1は、光を発生する光源2を搭載する。光源2としては、ハロゲンランプやタングステンランプ等のランプが用いられる。なお、光源2としてLED(light emitting diode)が用いられてもよい。反応ディスクの回動により、光学系内の所定位置(測光位置)PPを反応セル22が通過する。ランプ2と測光位置PPとの間の光路には、ランプ2側から順番に熱線吸収フィルタ3、レンズ4、及びスリット5が設けられている。熱線吸収フィルタ3は、ランプ2からの主に測定に不必要な赤外光を適度に吸収する。レンズ4は、熱線吸収フィルタ3を透過した光を集光する。スリット5は、レンズ4により集光された光の幅を制限する。スリット5を通過した光は、反応セル22内の混合液を透過する。
【0019】
混合液を透過した光は、種々の光学機器6,7を介して受光部8により受光される。測光位置PPと受光部8との間の光路には、測光位置PP側から順番にスリット6、分光器7が設けられる。スリット6は、反応セル22内の混合液を透過した光の幅を制限する。分光器7は、スリット6を通過した光を分光する。分光器7としては、例えば、回折格子が採用される。回折格子は、例えば、鏡面に等間隔に形成された複数の溝(格子線)が形成された凹面鏡により構成される。回折格子に照射された光は、回折格子上の格子線により波長毎に分散される。換言すれば、回折格子により、光は、複数の波長に関する複数の光線(単色光)に分解される。回折格子からの複数の光線(一次回折光)は、受光部8により受光される。
【0020】
受光部8は、吸光度計算に利用されうる波長幅を全てカバーできるように、分光器7からの複数の光線(一次回折光)の光路上に配置される。受光部8は、複数の受光素子を有する。
【0021】
図3は、受光素子81の配列態様の一例を示す図である。図3に示すように、複数の受光素子81は、受光部8の基台82等に2次元状に配列される。受光素子81としては、CCD(charge coupled device)やフォトダイオード等の光電変換可能な素子を2次元状に配列したCCDイメージセンサやフォトダイオードアレイ(PDA:photo detector array)が用いられる。受光素子81は、近紫外光や可視光、近赤外光に感応するものが採用される。典型的には、受光部8に含まれる全ての受光素子81は、同一の性能のものが使用される。
【0022】
受光素子81の一方の配列方向は、波長の分散方向(スペクトルの配列方向)に平行する。波長の分散方向は、受光素子81のチャンネル方向に規定される。受光素子81は、チャンネル方向に沿って、例えば125個(125チャンネル分)配列される。受光素子81のもう一方の配列方向は、例えば、チャンネル方向と分光器7からの一次回折光の光軸方向との直交方向に平行する。理想的には、分光器7からの複数の光線の波長は、この直交方向に沿って変化しない。同一のチャンネルに属する受光素子81は、略同一の波長に関する光を受光する。以下、同一のチャンネルに属する複数の受光素子81を受光素子列83と呼ぶことにする。また、この直交方向を列方向と呼ぶことにする。なお、チャンネル方向に沿って配列される受光素子81の数は、125個に限定されず、250個など125個以上でも良いし、80個など125個以下でも良い。
【0023】
1つの受光素子81のチャンネル方向に関する受光面の長さは、例えば、1〜4nmに設計される。受光素子81は、受光面が物理的に無視できない長さの幅を有しているので、単一の波長のみを受光することができず、チャンネル方向に関する受光面の長さに応じた波長幅内の光を受光する。単一の受光素子81が受光する光の中心波長を中心とした波長幅内の波長範囲を波長帯域と呼ぶことにする。波長帯域は、受光素子81の空間上の配置位置や受光面のチャンネル方向長さに応じて決まる。例えば、中心波長が340nmであり波長幅が±2nmの場合、波長帯域は338nm〜342nmである。なお受光部8内の全ての受光素子81は、同一の受光面面積を有している。従って、受光素子81に関する波長帯域は、受光素子81の空間上の配置位置に応じて決まるといえる。受光素子81には、後段の増幅器との電気接続のための信号線84が接続されている。
【0024】
チャンネル方向に沿って125個の受光素子81が配列され、吸光度計算に利用する利用する波長帯域が330nm〜830nmの場合、1個あたりの受光素子81の波長幅は4nmに相当する。従って、受光素子81を隙間無く配列可能な場合、受光素子81の受光面積の幅は、4nmが良い。しかしながら、図3に示すように、受光素子81は、隙間85を空けて配列される。隙間85は、等間隔に設定される。隙間85が大きすぎる場合、所望の波長の光が受光されない確率が高まってしまう。ここで、この確率を低減するため、受光素子81の受光面積S1とチャンネル方向に沿う隙間85の面積S0とが(S1/S1+S0))<0.2を満足するように、受光素子81が配列されることが望ましい。換言すれば、隙間85は、その波長幅が単一の受光素子81の波長幅の20%よりも小さくなるように設計されると良い。なお、本実施形態においては、必ずしも隙間85が(S1/S1+S0))<0.2を満足するように配列される必要はなく、(S1/S1+S0))<0.5を満足するように配列されれば良い。なお、受光素子81は、隙間無く配列されても良い。
【0025】
後段の吸光度計算において、測定波長のみの光だけでなく、測定波長を中心とした所定波長幅分の光が利用される。例えば、測定波長を中心として±10nm程度の波長幅の光が利用される。従って、一測定波長についてチャンネル方向に沿って4または5個分の受光素子81からの出力が吸光度計算に利用される。
【0026】
次に図4を参照しながら本実施形態に係る測光部1の全体構成について説明する。図4に示すように、本実施形態に係る測光部1は、システム制御部10を中枢として、記憶部11、受光部8、増幅器12、選択部13、A/D変換器14、吸光度計算部15、設定部16、操作部17、及び表示部18を備える。
【0027】
記憶部11は、複数の受光素子の識別子(以下、受光素子識別子と呼ぶことにする。)と複数の波長帯域の識別子(以下、波長帯域識別子と呼ぶことにする。)とを関連付けて記憶する。各識別子は、例えば、その番号や名称が採用される。記憶部11は、典型的には、受光素子識別子と波長帯域識別子とを関連付けたデータベース(以下、素子・波長データベースと呼ぶことにする)を記憶する。
【0028】
上述のように受光部8は、2次元状に配列された複数の受光素子81を有している。各受光素子81は、その受光素子81に対応する波長帯域に関する光線を受光し、受光された光線の強度に応じた電気信号を生成する。複数の受光素子81には、信号線84を介して複数の増幅器12がそれぞれ接続されている。
【0029】
複数の増幅器12は、例えば、単一の電子基板に設けられている。増幅器12は、受光素子81からの電気信号を増幅する。複数の増幅器12には、選択部13を介してA/D変換器14が接続されている。
【0030】
選択部13は、測定対象の測定項目の吸光度計算に利用する波長帯域に属する受光素子を、素子・波長データベースを利用して選択する。具体的には、選択部13は、試料の測定項目に応じた波長帯域の波長帯域識別子に素子・波長データベース上で関連付けられている受光素子識別子に対応する受光素子81を複数の受光素子81の中から選択する。より詳細には、選択部13は、切替部131と収集データ制御部132とにより実現される。切替部131は、受光部8とA/D変換器14との間に設けられる。切替部131は、受光部8内の複数の受光素子81とA/D変換器14との間の電気的な接続を切替えるもので、マルチプレクサのような電子回路素子を利用することができる。収集データ制御部132は、選択部13により選択された受光素子81とA/D変換器14とを電気的に接続するために切替部131を制御する。
【0031】
A/D変換器14は、選択部13により選択された受光素子81に接続された増幅器12からのアナログの電気信号にA/D変換を施し、デジタルの電気信号を発生する。A/D変換器14には、吸光度計算部15が接続されている。
【0032】
吸光度計算部15は、A/D変換器14から供給されたデジタルの電気信号に基づいて測定対象の測定項目に関する吸光度を計算する。
【0033】
設定部16は、ユーザからの操作部17を介した指示に従って、素子・波長データベース上の受光素子識別子と波長帯域識別子との関連付けを設定する。また、設定部16は、ユーザからの操作部17を介した指示に従って、受光素子識別子と波長帯域識別子との関連付けを変更することもできる。
【0034】
操作部17は、ユーザからの各種指令や情報入力を受け付ける。操作部17としては、キーボードやマウス、スイッチ等が適宜利用可能である。
【0035】
表示部18は、素子・波長データベースの作成画面や吸光度の計算結果を表示したりする。表示部18としては、例えばCRTディスプレイや、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等が適宜利用可能である。
【0036】
まず図5を参照しながら素子・波長データベースの作成段階における自動分析装置100の動作例について説明する。図5は、素子・波長データベースの作成段階における処理の典型的な流れを示す図である。素子・波長データベースの作成は、測光部1の組み立て時や波長確度ずれが生じた場合等に行われる。ステップSA1の開始前に受光部8は、分光器7からの光線を受光可能な位置に設定される。例えば、340nm〜804nmの波長帯域が吸光度計算に必須であるとすると、少なくともこの波長帯域をカバー可能な位置に受光部8が設置される。なお、波長確度ずれが生じて吸光度計算に必須の波長帯域がカバーできなくなることを防止するため、受光部8は、この波長帯域よりも広い波長帯域をカバーできるように設置されるとよい。
【0037】
図5に示すように、受光部8が設置されると、まず、既知波長の光で測光を行う。すなわち、既知波長に関する光をランプ2から発生させ、ランプ2により発生された光を分光器7を介して受光部8に照射する(ステップSA1)。
【0038】
このとき、各受光素子の信号強度を測定し、既知波長に対する各受光素子の受光感度を計測し、複数の受光素子81の中から、光を受光した受光素子81を特定する(ステップSA2)。受光素子81の特定方法は、例えば、以下のように特定される。まず、複数の受光素子81からの電気信号の強度をモニタリングする。そして、既定の閾値より大きい強度の電気信号を発生した受光素子81を、光を受光した受光素子81として特定する。また、特定した各受光素子の既知波長に対する受光感度を記憶する。
【0039】
ステップSA2で特定された受光素子81と既知波長に対する受光感度は、設定部16において受光素子識別子と既知波長の属する波長帯域の波長帯域識別子とを関連付けて素子・波長データベースに記録される(ステップSA3)。ステップSA3について具体的に説明する。素子・波長データベースの作成段階において表示部18は、素子・波長データベースの作成画面を表示している。作成画面には、受光素子識別子と波長帯域識別子とを関連付けるための各種GUI等が配置されている。受光素子が受光可能な光の波長帯域は、例えば、既知波長と受光面の大きさに応じた波長幅とに従って決まる。ユーザは、操作部17を介して、ステップSA1において特定された受光素子識別子と既知波長に関する波長帯域識別子とを関連付ける操作を行う。設定部16は、この操作に従って、受光素子識別子と既知波長に関する波長帯域識別子とを関連付ける。そして設定部16は、この関連付けの内容を素子・波長データベースD1に設定(記録)する。
【0040】
典型的には、同一のチャンネルに属する複数の受光素子81には、同一の波長帯域が関連付けられる。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。例えば、同一のチャンネルに属する複数の受光素子81に複数の波長帯域が関連付けられても良い。
【0041】
図6は、設定部16により行われる受光素子識別子と波長帯域識別子との関連付けについて説明するための図である。図6に示すように、チャンネル方向に125個の受光素子81が配列され、列方向に5個の受光素子81が配列されているものとする。関連付けのため、チャンネル方向の配置位置と列方向の配置位置とに名称を設定しておく。設定部16は、同一のチャンネルに複数の受光素子81に関する複数の受光素子識別子に同一の波長帯域識別子を関連付ける場合、すなわち、受光素子列83毎に波長帯域を関連付ける場合、C1やC2、・・・、C125等の名称(受光素子識別子)に波長帯域識別子を関連付ける。この場合、選択部13は、C1やC2、・・・、C125等の名称により受光素子列83を選択する。また、受光素子81毎に波長帯域識別子を関連付ける場合、設定部16は、R1―C1やR1―C2、・・・、R5―C125等の名称(受光素子識別子)に波長帯域識別子を関連付ける。この場合、選択部13は、R1―C1やR1―C2、・・・、R5―C125等の名称により受光素子81を選択する。
【0042】
ステップSA1〜SA3は、全ての受光素子識別子に波長帯域識別子を関連付けるために、波長を変更して繰り返し行われる。
【0043】
例えば、全測定波長域が340nmから800nmであり、かつ、各受光素子の波長幅が±2nmの場合、既知波長の光は、各中心波長に対する波長幅を±2nmとして、中心波長を340nmから800nmまで4nm毎に変更しながら繰り返し計測される。
【0044】
このようにして素子・波長データベースD1が作成される。なお、全ての受光素子について、実際に既知波長の光を照射することにより、受光素子識別子と波長帯域識別子との関連付けを行う必要はない。例えば、受光素子識別子と波長帯域識別子との既知の対応関係から、未知の受光素子識別子と波長帯域識別子との対応関係を推定してもよい。
【0045】
次に図7を参照しながら、測光時における自動分析装置100の動作例について説明する。図7は、測光段階における自動分析装置100の処理の典型的な流れを示す図である。なお、測光は、測光部1内の測光位置を反応セル22が通過する毎に行われる。反応セル22には、ユーザからの操作部17を介して指示に従ってシステム制御部10等により予め測定項目が設定されている。
【0046】
なお、本実施形態に係る吸光度計算は、1つの波長帯域を利用する計算方法(1波長計算)と、離散的な2つの波長帯域を利用する計算方法(2波長計算)との両方に適用可能である。しかしながら以下の説明を簡単にするため、吸光度計算は、特に言及しない限り、1波長計算であるものとする。吸光度計算に利用する波長帯域は、典型的には、1チャンネル分の波長帯域よりも広い。従って1波長計算の場合であっても、吸光度計算に利用する波長帯域には、連続する複数チャンネル分の波長帯域が含まれる。例えば、吸光度計算に利用する波長帯域が360nm〜374nmである場合、360nm〜364nm、365nm〜369nm、370nm〜374nmの連続する3チャンネル分の波長帯域が含まれている。
【0047】
測定対象の反応セル22が測光位置PPを通過する前段階において、選択部13は、受光素子81を選択する(ステップSB1)。以下にステップSB1について詳細に説明する。まず、選択部13の収集データ制御部132は、吸光度計算に利用する波長帯域を特定する。吸光度計算に利用する波長帯域は、測定項目に応じて決まる。波長帯域が特定されると収集データ制御部132は、特定された波長帯域の識別子を検索キーとして素子・波長データベースD1を検索し、検索キーに素子・波長データベースD1上で関連付けられた受光素子識別子を特定する。次に収集データ制御部132は、特定された識別子に対応する受光素子81からの電気信号のみがA/D変換器14に供給されるように切替部131を制御する。収集データ制御部132による制御に従って切替部131は、特定された受光素子81とA/D変換器14とを電気的に接続する。これにより測定項目に応じた受光素子81が機械的に選択される。なお、切替部131は、電気接続を瞬時に切替可能である。
【0048】
受光素子81の選択が行われると測光が行われる(ステップSB2)。すなわち、ランプ2は光を発生する。ランプ2からの光は、反応セル22内の混合液を透過する。混合液を透過した光は、分光器7を介して受光素子81により受光される。光を受光した受光素子81は、受光した光に応じた電気信号を発生する。発生された電気信号は、増幅器12に供給される。増幅器12は、供給された電気信号を増幅する。吸光度計算に利用する波長帯域に属する受光素子81のみが増幅器12を介してA/D変換器14に電気接続されている。すなわち、吸光度計算に利用する波長帯域に属する受光素子81により発生された電気信号は、増幅器12を介してA/D変換器14に供給される。吸光度計算に利用されない波長帯域に属する受光素子81は、増幅器12を介してA/D変換器14に電気接続されていない。従って、吸光度計算に利用されない波長帯域に属する受光素子81により発生された電気信号は、A/D変換器14に供給されず、例えば、削除される。A/D変換器14は、吸光度計算に利用する波長帯域に属する受光素子81からの電気信号をアナログからデジタルに変換する。デジタルの電気信号は、吸光度計算部15に供給される。
【0049】
デジタルの電気信号が供給されると吸光度計算部15は、この電気信号に基づいて吸光度を計算する(ステップSB3)。吸光度計算部15は、複数のチャンネルからの複数の電気信号を吸光度計算に利用する場合、複数の電気信号を数値計算により加算しても良い。また、図8に示すように、一般的には測光に用いる所望の波長(帯域)に対する光の受光感度は、チャンネルによって異なる。従って吸光度計算部15は、複数のチャンネルの電気信号に対し、測定波長の受光感度に応じた重み付け加算を施しても良い。例えば、N個のチャンネルからの電気信号に重み付け加算をする場合、吸光度Absは、以下の(1)式に従って計算される。なお(1)中のXは、nチャンネルの電気信号の強度、aは、nチャンネルの電気信号への重み係数(所定の波長に対する受光感度係数)である。
【数1】

【0050】
例えば、所定の波長に対する受光感度が大きいほど重み係数は大きい値に設定され、受光感度が小さいほど重み係数は小さい値に設定される。また、重み係数は、予め測定対象物(反応液)の吸光スペクトル特性を測定しておき、これに応じて設定しても良い。或いは、前記所定の波長に対する受光感度と測定対象物(反応液)の吸光スペクトル特性との両方を重畳して設定することもできる。計算された吸光度のデータは、システム制御部10に供給される。システム制御部10は、供給されたデータに対応する吸光度を表示部18に表示する。
【0051】
上述のように、本実施形態に係る自動分析装置100は、受光素子識別子と波長帯域識別子とを関連付けた素子・波長データベースを記憶している。この素子・波長データベースを利用して自動分析装置100は、測定項目に応じた波長帯域に関する光を受光する受光素子81を測定項目毎に選択する。選択された受光素子81は、A/D変換器14に電気接続される。すなわち、選択された受光素子81からの電気信号のみがA/D変換器14に供給される。A/D変換器14は、選択された受光素子81からの電気信号のみをA/D変換することができる。従って従来のように全ての受光素子81からの電気信号をA/D変換していた場合に比して、本実施形態においては、A/D変換する電気信号の量が少ない。すなわち、A/D変換器14へ供給される電気信号を制限することで、A/D変換器14の処理量を削減でき、A/D変換器14の負荷を削減できる。
【0052】
また、上述のように本実施形態に係る受光素子は、小受光面を有し、且つ2次元状に稠密に配列されている。従って、個々の受光素子は、従来に比して狭い波長帯域をカバーする。よって、測定項目毎に最適な測定波長帯域を設定可能となる。従って本実施形態によれば、吸光度計算の精度が向上する。
【0053】
また、本実施形態に係る自動分析装置は、受光素子と波長帯域とを任意に関連付けることができ、また、受光素子と波長帯域との対応を変更することができる。従って本実施形態によれば、波長確度ずれが生じてしまった場合であっても、受光素子の位置調整を行う必要はなく、受光素子と波長帯域との関連付けを変更するのみでよい。従って本実施形態に係る自動分析装置は、従来に比してより簡便に波長確度ずれの補正を行うことができる。また、本実施形態に係る自動分析装置は、従来に比して受光素子の位置調整に伴う費用を削減することもできる。
【0054】
かくして本実施形態に係る自動分析装置は、受光素子の位置調整に関する手間を削減することができる。
【0055】
(変形例1)
以下、本実施形態の変形例1に係る自動分析装置について説明する。なお以下の説明において、本実施形態と略同一の機能を有する構成要素やステップについては、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。
【0056】
上述のように、吸光度の計算に利用する波長帯域は、測定項目の種類に応じて決まる。変形例に係る記憶部11は、複数の測定項目の識別子と複数の波長帯域の識別子とを関連付けた項目・波長データベースを記憶している。変形例に係る記憶部11は、素子・波長データベースと項目・波長データベースとを統合してもよい。すなわち、変形例に係る記憶部11は、複数の受光素子識別子と複数の測定項目に関する複数の識別子(以下、測定項目識別子と呼ぶことにする。)とを関連付けて記憶してもよい。受光素子識別子と測定項目識別子は、素子・項目データベースにおいて関連付けられる。変形例に係る設定部16は、上述の素子・波長データベースの作成時において、受光素子識別子に測定項目識別子を関連付けることができる。また、変形例に係る設定部16は、操作部17を介したユーザからの指示に従って、受光素子識別子と測定項目識別子との関連付けを変更することができる。
【0057】
以下に図9を参照しながら、変形例1に係る自動分析装置の測光時における動作例について説明する。図9は、変形例1に係る自動分析装置の測光段階における処理の典型的な流れを示す図である。なお図5と図9との違いは、ステップSC1とSC2とにある。従って以下ではステップSC1とSC2とのみ説明する。
【0058】
図9に示すように、選択部13の収集データ制御部132は、測定対象の反応セル22が測光位置PPを通過する前に、この反応セル22に設定された測定項目を認識する(ステップSC1)。測定項目は、例えば、システム制御部10等により管理される測定オーダを参照することにより認識される。
【0059】
測定項目が認識されると収集データ制御部132は、認識された測定項目に従って受光素子81を選択する(ステップSC2)。以下にステップSC2について詳細に説明する。測定項目に応じた受光素子の選択方法は、素子・項目データベースD2を利用する方法と、素子・波長データベースD1及び項目・波長データベースD3とを利用する方法とがある。
【0060】
素子・項目データベースD2を利用する場合、収集データ制御部132は、認識された測定項目の測定項目識別子を検索キーとして素子・項目データベースD2を検索し、検索キーに素子・項目データベースD2上で関連付けられた受光素子識別子を特定する。受光素子識別子が特定されると収集データ制御部132は、切替部131を制御し、特定された受光素子識別子に対応する受光素子81とA/D変換器14とを電気接続する。これにより測定項目に応じた受光素子81が選択される。
【0061】
素子・波長データベースD1及び項目・波長データベースD3を利用する場合、まず収集データ制御部132は、認識された測定項目の測定項目識別子を検索キーとして項目・波長データベースD3を検索し、検索キーに項目・波長データベースD3上で関連付けられた波長帯域識別子を特定する。次に収集データ制御部132は、特定された波長帯域識別子を検索キーとして素子・波長データベースD1を検索し、検索キーに素子・波長データベースD1上で関連付けられた受光素子識別子を特定する。受光素子識別子が特定されると収集データ制御部132は、切替部131を制御し、特定された受光素子識別子に対応する受光素子81とA/D変換器14とを電気接続する。これにより測定項目に応じた受光素子81が機械的に選択される。
【0062】
このように変形例1に係る自動分析装置は、測定項目と受光素子とを直接的に又は波長帯域を介して間接的に関連付けている。従って変形例1に係る自動分析装置は、本実施形態に係る自動分析装置に比して、より迅速に受光素子を選択することができる。
【0063】
(変形例2)
上述の実施形態においては、受光素子81を選択することにより、吸光度計算に利用する電気信号を選択していた。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。変形例2に係る自動分析装置は、吸光度計算段階において電気信号を選択する。以下に変形例2に係る自動分析装置について説明する。なお以下の説明において、本実施形態と略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。
【0064】
図10は、変形例2に係る測光部1の全体構成を示す図である。図10に示すように、受光部8に含まれる全ての受光素子81は、増幅部12を介してA/D変換器14´に電気接続されている。A/D変換器14´は、全ての受光素子81からの電気信号をアナログからデジタルに変換する。A/D変換器14´は、選択部13´に電気的に接続されている。選択部13´は、全ての受光素子からの電気信号の中から、吸光度計算に利用する波長帯域に関する電気信号を選択する。例えば、選択部13´は、素子・波長データベースを利用して電気信号をソフトウェア上で選択する。選択部13´には吸光度計算部15が接続されている。吸光度計算部15は、選択部13´により選択された電気信号に基づいて吸光度を計算する。
【0065】
かくして変形例2に係る自動分析装置は、A/D変換器までの機械構成を変更することなく、吸光度計算に必要な波長帯域に属する受光素子からの電気信号を選択することができる。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0067】
例えば、図2において、熱線吸収フィルタ3、レンズ4、スリット5、スリット6等の光学配置は変更可能であり、熱線吸収フィルタ3やスリット5は削除してもよい。また、受光素子81は1次元に配列されたものを使用することも可能であり、その場合はチャンネル方向に沿ってのみ受光素子が配列される。
【符号の説明】
【0068】
1…測光部、2…光源、3…熱線吸収フィルタ、4…レンズ、5…スリット、6…スリット、7…分光器、8…受光部(受光素子アレイ:PDA)、10…システム制御部、11…記憶部、12…増幅器、13…選択部、14…A/D変換器、15…吸光度計算部、16…設定部、17…操作部、18…表示部、22…反応セル、81…受光素子、82…基台、83…受光素子列、84…信号線、131…切替部、132…収集データ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を発生する光源と、
前記光源から発生され、試料と試薬との混合液を透過した光を波長毎に分解する分光器と、
前記分光器からの光を受光する複数の受光素子を有し、前記複数の受光素子の各々は、配置位置に対応する波長帯域に関する光を受光し、前記受光された光に応じた信号を発生する受光部と、
前記複数の受光素子に関する複数の受光素子識別子と複数の波長帯域識別子とを関連付けて記憶する記憶部と、
前記複数の受光素子の中から、前記試料の測定項目に応じた波長帯域の波長帯域識別子に関連付けられた特定の受光素子識別子に対応する特定の受光素子を選択する選択部と、
前記選択された特定の受光素子からの信号に基づいて前記測定項目に関する吸光度を計算する計算部と、
を具備する自動分析装置。
【請求項2】
前記選択部は、
前記複数の受光素子と前記計算部との間の接続を切替える切替部と、
前記特定の受光素子と前記計算部とを接続するために前記切替部を制御する制御部と、を有する、
請求項1記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記切替部は、複数の増幅器とA/D変換器との間に設けられ、
前記複数の増幅器は、前記複数の受光素子にそれぞれ接続され、前記複数の受光素子からの前記複数の信号を増幅し、
前記A/D変換器は、前記複数の増幅器のうちの、前記特定の受光素子に接続された特定の増幅器からの信号のみをアナログからデジタルに変換する、
請求項2記載の自動分析装置。
【請求項4】
前記特定の受光素子は、複数の受光素子を含み、
前記計算部は、前記特定の受光素子に含まれる複数の受光素子の測定波長に対する受光感度に基づいて、前記複数の受光素子の各々の信号強度を重み付け加算した重み付け加算信号を発生し、前記発生された重み付け加算信号に基づいて前記吸光度を計算する、
請求項1記載の自動分析装置。
【請求項5】
ユーザからの指示に従って、前記記憶部内における前記受光素子識別子と前記波長帯域識別子との関連付けを設定又は変更する設定部、をさらに備える請求項1記載の自動分析装置。
【請求項6】
前記記憶部は、さらに、前記複数の波長帯域識別子と複数の測定項目に関する複数の測定項目識別子とを関連付けて記憶し、
前記選択部は、測定対象の測定項目に関する測定項目識別子に前記記憶部上で関連付けられた波長帯域識別子を特定し、前記特定された波長帯域識別子に前記記憶部上で関連付けられた前記特定の受光素子識別子に対応する前記特定の受光素子を選択する、
請求項1記載の自動分析装置。
【請求項7】
前記記憶部は、さらに、前記複数の受光素子識別子と複数の測定項目に関する複数の測定項目識別子とを関連付けて記憶し、
前記選択部は、測定対象の測定項目に関する測定項目識別子に関連付けられた前記特定の波長帯域識別子に対応する前記特定の受光素子を選択する、
請求項1記載の自動分析装置。
【請求項8】
前記特定の受光素子は、複数の受光素子を含み、
前記計算部は、前記特定の受光素子に含まれる複数の受光素子の測定波長に対する受光感度と測定項目の吸光スペクトル情報に基づいて前記受光素子各々の信号強度を重み付け加算した重み付け加算信号を発生し、前記発生された重み付け加算信号に基づいて前記吸光度を計算する、
請求項1記載の自動分析装置。
【請求項9】
前記複数の受光素子は、等間隔で配列され、
前記複数の受光素子のうちの隣り合う2つの受光素子間の幅は、前記受光素子各々の幅の略20%以下に設定される、
請求項1記載の自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−132907(P2012−132907A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−264869(P2011−264869)
【出願日】平成23年12月2日(2011.12.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】