説明

ACE阻害剤とL−アルギニンを含有する医薬組成物

【課題】本発明の課題は、ACE阻害剤に係る新たな高血圧症の治療用医薬組成物を提供する。
【解決手段】ACE阻害剤とL−アルギニンを含有する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高血圧症の予防および/または治療に関する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高血圧症の治療には、主に利尿剤、カルシウム拮抗剤、β遮断薬、α遮断薬、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の抑制剤等が使用されており、これらの薬物は、単独又は併用して使用されている(例えば、非特許文献1)。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の抑制剤としては、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(以下、ACE阻害剤と称することがある)、アンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)等が知られている。
【0003】
ACE阻害剤は、アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換するACE(アンジオテンシン変換酵素:Angiotensin−Converting Enzyme)を阻害して、末梢血管を拡張して降圧作用をもたらす薬物である。その中で、テモカプリル塩酸塩は、胆汁・腎排泄型のACE阻害剤であるため、腎機能の低下した高血圧症の患者に好適に使用されている。さらに、テモカプリル塩酸塩等のACE阻害剤を高血圧症の治療に使用する際には、単剤での使用のほか、一般的な利尿剤、カルシウム拮抗剤、ARB等との併用により、降圧効果が高まることが知られている(以上、例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
L−アルギニンは、医療用医薬品として、先天性尿素サイクル異常症等における緊急的血中アンモニア濃度の低下時や、下垂体機能検査に用いられたり、天然型アミノ酸の一種として、低栄養状態におけるアミノ酸補給用輸液の一成分として使用されたりしている(以上、例えば、非特許文献2参照)。さらに、L−アルギニンは、一酸化窒素の基質であって一酸化窒素の産生に関与していることや、ACE阻害作用があることが知られており(例えば、特許文献1参照)、降圧作用を有することも知られている。
【0005】
これまでに、ACE阻害剤とL−アルギニンを併用することは開示されておらず、これらを併用した場合に、具体的にどのような結果をもたらすかについては示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−206528号公開公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】高血圧治療ガイドライン2009 ライフサイエンス出版 2009p.37-42
【非特許文献2】医療用医薬品集2009年版 JAPIC 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ACE阻害剤に係る新たな高血圧症の治療用医薬組成物を提供することである。具体的には、安全性の極めて高い佐薬成分の併用によって、少量のACE阻害剤の投与でも充分な降圧効果が得られる、安全性の高い優れた医薬組成物を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、かかる佐薬成分を探索すべく長年にわたり鋭意研究を行ってきた。その結果、ACE阻害剤にL−アルギニンを併用することにより、優れた降圧効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)ACE阻害剤と、L−アルギニン又はその塩とを含有する医薬組成物。
(2)高血圧症の治療用である上記(1)に記載の医薬組成物。
(3)ACE阻害剤が、アラセプリル、イミダプリル、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、及び、リシノプリル水和物から選ばれる1種以上である上記(1)〜(2)に記載の医薬組成物。
(4)ACE阻害剤が、テモカプリル塩酸塩である上記(1)〜(2)に記載の医薬組成物。
(5)L−アルギニン又はその塩が、L−アルギニン又はL−アルギニン塩酸塩である上記(1)〜(2)に記載の医薬組成物。
(6)L−アルギニン又はその塩が、L−アルギニンである上記(1)〜(2)に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、高い降圧効果と安全性を兼ね備えた医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】テモカプリル塩酸塩、L−アルギニン、及び、それらの併用における降圧効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるACE阻害剤は、アンジオテンシン変換酵素を阻害する薬剤であれば特に限定されないが、例えば、アラセプリル、イミダプリル、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、及び、リシノプリル水和物が挙げられ、中でも、テモカプリル塩酸塩が好適に挙げられる。
【0014】
本発明における、上記のACE阻害剤は国内にて市販されており、容易に入手できる。なお、カプトプリル、L−アルギニン及びL−アルギニン塩酸塩は第15改正日本薬局方に収載されている。
【0015】
本発明の医薬組成物における、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、トランドラプリルの1日あたりの投与量として通常0.01〜20mgであり、好ましくは0.1〜10mgであり、さらに好ましくは、0.5〜4mgである。
【0016】
本発明の医薬組成物における、イミダプリル、エナラプリルマレイン酸塩、キナプリル塩酸塩、ベナゼプリル塩酸塩、リシノプリル水和物の1日あたりの投与量として通常0.1〜120mgであり、好ましくは1〜60mgであり、さらに好ましくは、5〜20mgである。
【0017】
本発明の医薬組成物における、アラセプリル、カプトプリル、デラプリル塩酸塩の1日あたりの投与量として通常1〜200mgであり、好ましくは10〜110mgであり、さらに好ましくは、25〜75mgである。
【0018】
また、本発明の医薬組成物におけるL−アルギニン又はL−アルギニン塩酸塩の配合量は、1日あたりの投与量として通常0.1〜1000mgであり、好ましくは0.2〜300mgであり、さらに好ましくは、0.5〜200mgである。
【0019】
本発明の医薬組成物には、本発明の効果が阻害されない限り、添加剤として、賦形剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、防腐剤、着色剤、安定剤、pH調節剤、溶解補助剤、清涼剤、香料、色素・着色剤などを配合することができる。
【0020】
本発明の医薬組成物の剤形は、固形剤が好ましく、その具体的な剤形としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等が挙げられる。
【0021】
本発明の医薬組成物の製剤は、当該分野で公知の方法で製造することができる。例えば、本発明の医薬組成物の剤形が錠剤である場合には、第15改正日本薬局方製剤総則「錠剤」の項に準じて製造することができる。また、本発明の医薬組成物の剤形が顆粒剤の場合には、第15改正日本薬局方製剤総則「顆粒剤」の項に準じて製造することができる。
【0022】
本発明の医薬組成物は、高血圧症(腎実質性高血圧症および腎血管性高血圧症を含む)又は高血圧症に由来する疾患(より具体的には、高血圧症、心臓疾患[狭心症、心筋梗塞、不整脈、心不全若しくは心肥大]、腎臓疾患[糖尿病性腎症、糸球体腎炎若しくは腎硬化症]又は脳血管性疾患[脳梗塞若しくは脳出血])等の治療に有効である。さらに、本発明の医薬組成物は、優れた降圧効果を有し、有効性と安全性を兼ね備えていることを特徴とする。
【0023】
本発明の医薬組成物を、上記疾患に投与する場合には、経口的に投与することが好ましい。経口的に投与する場合、上記の1日あたりの投与量を、1日1回または数回に分けて投与する。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0025】
<試験例>
1.1 試験検体
テモカプリル塩酸塩は第一三共製のものを、また、L−アルギニンはSigma−Aldrich製のものを用いた。試験検体は、溶媒(0.5%メチルセルロース溶液:和光純薬工業)に溶解して、総投与容量が各群いずれも10mL/Kgとなるように調製して投与した(表1)。
【0026】
【表1】

【0027】
1.2 試験方法
SHR/Hos雄性ラット(10週齢、株式会社星野試験動物飼育所)を購入し、馴化後に収縮期血圧および体重を測定した。これらのデータをもとに多変数完全無作為化割付を用いて、対照群、テモカプリル塩酸塩単剤投与群、L−アルギニン単剤投与群、併用群の4群各5匹に群分けし、上記の検体を強制経口投与した。
各群のラットについては、投与開始前および投与後2時間に、ラットを加温器に10分置いた後、非観血式自動血圧測定装置((株)ソフトロン社製 BP‐98A)を用いて収縮期血圧(SBP:mmHg)を測定した。試験結果は、次式の相対SBP比で評価した。
投与前後の血圧比(SBP比)=投与後2時間の平均SBP/投与前の平均SBP
相対SBP比=被験薬のSBP比/対照群のSBP比
【0028】
1.3 試験結果
結果を図1(N=5)に示す。図1より、テモカプリル単剤投与群、L−アルギニン単剤投与群とも降圧作用が認められ、それらの併用群では、各単剤での結果から期待される以上の降圧効果が発現していることが認められた。
【0029】
<製剤例>
表2に製剤例を示すが、これに限定されるものではない。
(製剤例)錠剤
【0030】
【表2】

【0031】
ここで、ACE阻害剤(A群)はシラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、トランドラプリルから選択されるいずれか1剤をさし、ACE阻害剤(B群)はイミダプリル、エナラプリルマレイン酸塩、キナプリル塩酸塩、ベナゼプリル塩酸塩、リシノプリル水和物から選択されるいずれか1剤であり、ACE阻害剤(C群)はアラセプリル、カプトプリル、デラプリル塩酸塩から選択されるいずれか1剤である。
【0032】
表1の成分および分量をとり、第15改正日本薬局方製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の医薬組成物は、高い降圧効果と安全性を兼ね備えた医薬組成物である。従って、本発明は、高血圧症患者への予防または治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ACE阻害剤とL−アルギニン又はその塩とを含有する医薬組成物。
【請求項2】
高血圧症の治療用である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ACE阻害剤が、アラセプリル、イミダプリル、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、及び、リシノプリル水和物から選ばれる1種以上である請求項1または請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ACE阻害剤が、テモカプリル塩酸塩である請求項1または請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
L−アルギニン又はその塩が、L−アルギニン又はL−アルギニン塩酸塩である請求項1または請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
L−アルギニン又はその塩が、L−アルギニンである請求項1または請求項2に記載の医薬組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−254975(P2012−254975A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−112987(P2012−112987)
【出願日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】