説明

ΔΣ変調アルゴリズムを用いてプラントを制御する制御装置

【課題】ΔΣ変調アルゴリズムを用いて、所与のプラントを良好な精度で制御する。
【解決手段】モデルパラメータを用いてモデル化された制御対象を制御する制御装置は、モデルパラメータを同定する同定器と、該同定器に接続されたコントローラであって、制御対象の出力が目標値に収束するように、前記モデルパラメータを用いて参照入力を算出するコントローラと、該コントローラに接続された変調器であって、該参照入力に、ΔΣ変調アルゴリズム、ΣΔ変調アルゴリズムおよびΔ変調アルゴリズムのうちの1つを適用して、制御対象への制御入力を算出する変調器と、を備える。同定器は、制御対象の出力および参照入力に基づいて、モデルパラメータを同定する。同定器は、参照入力に基づいてモデルパラメータを算出するので、モデルパラメータが振動的になることを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ΔΣ変調アルゴリズムを用いて、所与のプラントを良好な精度で制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ΔΣ変調アルゴリズム(またはΣΔ変調アルゴリズム、またはΔ変調アルゴリズム)を用いて、プラントを制御する手法が知られている(特許文献1を参照)。プラントが、オンとオフの制御入力に対して適切な制御出力を生成することができる能力を有しているならば、ΔΣ変調アルゴリズムを用いて、該プラントを良好な精度で制御することができる。
【0003】
図18は、ΔΣ変調アルゴリズムを用いた、典型的な制御装置の機能ブロック図を示す。プラントすなわち制御対象101は、モデルパラメータを用いてモデル化される。制御対象101の制御入力と制御出力に基づいて、同定器102はモデルパラメータを逐次的に同定する。状態予測器103は、制御対象101が有するむだ時間を考慮して、モデルパラメータを用いて制御出力の予測値を生成する。予測値は、所定の目標値と比較される。増幅器104は、予測値と目標値の間の偏差を増幅し、参照入力を出力する。コントローラ105は、該参照入力に対してΔΣ変調アルゴリズムを適用し、制御対象101への制御入力を算出する。
【特許文献1】特開平2003−195908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
状態予測器は、制御対象の有するむだ時間を補償するように、制御対象からの制御出力についての予測値を生成する。制御対象がむだ時間を有しない場合、状態予測器は不要である。状態予測器が存在しないと、同定器により同定されたモデルパラメータが、制御入力に反映されなくなる。これは、制御精度を劣化させるおそれがある。
【0005】
したがって、ΔΣ変調アルゴリズムを用いて、むだ時間を有しない制御対象を良好な精度で制御することができる制御装置が必要とされている。
【0006】
また、ΔΣ変調アルゴリズムを適用するコントローラから出力された信号は、矩形波である。このような矩形波を用いてモデルパラメータを同定すると、モデルパラメータが振動的になるおそれがある。このようなモデルパラメータの振動は、制御系を不安定にするおそれがある。
【0007】
したがって、ΔΣ変調アルゴリズムを用いた制御において、モデルパラメータが振動することを防止することのできる制御装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一つの側面によると、モデルパラメータを用いてモデル化された制御対象を制御する制御装置は、モデルパラメータを同定する同定器と、該同定器に接続されたコントローラであって、制御対象の出力が目標値に収束するように、該モデルパラメータを用いて参照入力を算出するコントローラと、該コントローラに接続された変調器であって、該参照入力に、ΔΣ変調アルゴリズム、ΣΔ変調アルゴリズムおよびΔ変調アルゴリズムのうちの1つを適用して、制御対象への入力を算出する変調器と、を備える。同定器は、制御対象の出力および参照入力に基づいて、モデルパラメータを同定する。
【0009】
この発明によれば、同定器により同定されたモデルパラメータがコントローラに渡され、コントローラは、制御対象の出力が目標値に収束するように、該モデルパラメータを用いて参照入力を算出する。制御対象への入力は、参照入力にΔΣ変調アルゴリズム(または、ΣΔ変調アルゴリズム、またはΔ変調アルゴリズム)を適用することにより算出される。したがって、制御対象の挙動に適応するよう同定されたモデルパラメータを、制御対象への入力に反映させることができる。さらに、同定器は、参照入力に基づいてモデルパラメータを算出するので、モデルパラメータが振動的になることを防止することができる。
【0010】
この発明の一実施形態によると、モデルパラメータは、予め同定された第1のモデルパラメータと、同定器により逐次的に同定される第2のモデルパラメータを含んでおり、同定器は、上記制御対象と、該制御対象を表すモデルの第1のモデルパラメータに基づく構成要素とを含む仮想プラントについて、第2のモデルパラメータを用いてモデル化し、該仮想プラントの出力が、該第2のモデルパラメータを用いたモデルの出力に収束するように、該第2のモデルパラメータを同定する。このように仮想プラントを構成することにより、制御対象を表すモデルの複数のモデルパラメータのうちの一部のみを同定することができる。同定すべきモデルパラメータの数を減らすことができるので、モデルパラメータの最適値への収束時間を短縮させることができる。
【0011】
この発明の他の実施形態によると、モデルパラメータは、制御対象に印加される外乱を表すモデルパラメータを含んでおり、同定器は、制御対象の出力および参照入力に基づいて、該外乱を表すモデルパラメータを同定する。同定器は、参照入力に基づいて外乱を表すモデルパラメータを算出するので、外乱を表すモデルパラメータが振動的になることを防止することができる。
【0012】
この発明の他の実施形態によると、モデルパラメータは、所定のパラメータに対応して予め同定された第1のモデルパラメータ、および同定器により逐次的に同定される第2のパラメータを含む。制御装置は、さらに、該予め同定された第1のモデルパラメータの値を保持したパラメータスケジューラを備える。パラメータスケジューラは、該所定のパラメータの供給を受けたことに応じて、該所定のパラメータの値に対応する第1のモデルパラメータの値を求める。この実施形態によれば、制御対象の動特性によって影響を受けるおそれのあるモデルパラメータについては、同定器で逐次的に同定され、影響を受けるおそれが少ないモデルパラメータについては、予め同定された値をパラメータスケジュールに格納しておくことができる。このようなモデルパラメータの算出手法により、制御系の挙動に影響を及ぼすことなく、モデルパラメータを同定する速度を速めることができる。
【0013】
この発明の他の実施形態によると、コントローラは、2自由度応答指定型制御アルゴリズムを用いて、参照入力を算出する。2自由度応答指定型制御アルゴリズムにより、制御出力の外乱に対する応答特性と、制御出力の目標値に対する追従特性を、個別に指定することができる。2自由度応答指定型制御アルゴリズムによれば、オーバーシュートを生じさせることなく、該指定された収束速度で、制御対象の出力を目標値に収束させることができる。
【0014】
この発明の一実施形態によると、制御対象は、エンジンのカムシャフトの位相を可変に制御する可変位相装置である。この場合、制御対象の入力は、該可変位相装置に与えられる指令値であり、制御対象の出力は、カムシャフトの位相である。この発明によれば、オーバーシュートを生じさせることなく、良好な精度でカムシャフトの位相を目標値に収束させることができ、ドライバビリティおよび燃費の向上を実現することができる。
【0015】
この発明の他の実施形態では、制御対象は、エンジンから排ガスセンサまでの系である。この場合、制御入力は、該エンジンに供給する燃料に関連するパラメータ(たとえば、燃料補正係数)であり、制御出力は、排ガスセンサの出力である。この実施形態によれば、オーバーシュートを生じさせることなく、良好な精度で排ガスセンサの出力を目標値に収束させることができ、排ガスの不所望な成分を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
内燃機関および制御装置の構成
次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明の実施形態に従う、内燃機関(以下、エンジンと呼ぶ)およびその制御装置の全体的な構成図である。
【0017】
電子制御ユニット(以下、「ECU」)という)1は、車両の各部から送られてくるデータを受け入れる入力インターフェース1a、車両の各部の制御を行うための演算を実行するCPU1b、読み取り専用メモリ(ROM)およびランダムアクセスメモリ(RAM)を有するメモリ1c、および車両の各部に制御信号を送る出力インターフェース1dを備えている。メモリ1cのROMには、車両の各部の制御を行うためのプログラムおよび各種のデータが格納されている。この発明に従う制御のためのプログラムは、該ROMに格納される。ROMは、EPROMのような書き換え可能なROMでもよい。RAMには、CPU1bによる演算のための作業領域が設けられる。車両の各部から送られてくるデータおよび車両の各部に送り出す制御信号は、RAMに一時的に記憶される。
【0018】
エンジン2は、たとえば4サイクルDOHC型ガソリンエンジンである。エンジン2は、吸気カムシャフト5および排気カムシャフト6を備えている。吸気カムシャフト5は、吸気弁3を開閉駆動する吸気カム5aを有しており、排気カムシャフト6は、排気弁4を開閉駆動する排気カム6aを有している。これらの吸気および排気カムシャフト5および6は、図示しないタイミングベルトを介してクランクシャフト7に連結されており、クランクシャフト7が2回転するごとに1回転する。
【0019】
連続可変位相装置10は、連続可変位相機構11および油圧駆動部12を備える。油圧駆動部12は、ECU1から供給される指令値に従い、油圧を用いて連続可変位相機構11を駆動する。これにより、クランクシャフト7に対する吸気カム5aの実際の位相CAINが、連続的に進角または遅角する。連続可変位相装置10の詳細は図2を参照して説明される。
【0020】
吸気カムシャフト5の端部には、カム角センサ20が設けられている。カム角センサ20は、吸気カムシャフト5の回転に伴い、所定のカム角(たとえば、1度)ごとに、パルス信号であるCAM信号をECU1に出力する。
【0021】
エンジン2の吸気管15には、スロットル弁16が設けられている。スロットル弁16の開度は、ECU1からの制御信号により制御される。スロットル弁16に連結されたスロットル弁開度センサ(θTH)17は、スロットル弁16の開度に応じた電気信号を、ECU1に供給する。
【0022】
吸気管圧力(Pb)センサ18は、スロットル弁16の下流側に設けられている。Pbセンサ18によって検出された吸気管圧力PbはECU1に送られる。
【0023】
さらに、吸気管15には、燃料噴射弁19が気筒毎に設けられている。燃料噴射弁19は、燃料タンク(図示せず)から燃料の供給を受け、ECU1からの制御信号に従って燃料を噴射される。
【0024】
エンジン2には、クランク角センサ21が設けられている。クランク角センサ21は、クランクシャフト7の回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU1に出力する。
【0025】
CRK信号は、所定のクランク角(たとえば、30度)で出力されるパルス信号である。ECU1は、該CRK信号に応じ、エンジン2の回転数NEを算出する。さらに、ECU1は、CRK信号とCAM信号に基づいて、位相CAINを算出する。また、TDC信号は、ピストン9のTDC位置に関連したクランク角度で出力されるパルス信号である。
【0026】
エンジン2の下流側には排気管22が連結されている。エンジン2は、排気管22を介して排気する。排気管22の途中に設けられた触媒装置23は、排気管22を通る排気ガス中のHC、CO、NOxなどの有害成分を浄化する。
【0027】
広域空燃比センサ(LAF)センサ24は、触媒装置23の上流に設けられている。LAFセンサ24は、リーンからリッチにわたる広範囲の空燃比を検出する。検出された空燃比は、ECU1に送られる。
【0028】
O2(排ガス)センサ25は、上流触媒と下流触媒の間に設けられている。O2センサ25は2値型の排気ガス濃度センサである。O2センサは、空燃比が理論空燃比よりもリッチであるとき高レベルの信号を出力し、空燃比が理論空燃比よりもリーンであるとき低レベルの信号を出力する。出力された電気信号は、ECU1に送られる。
【0029】
ECU1に向けて送られた信号は入力インターフェース1aに渡され、アナログ−デジタル変換される。CPU1bは、変換されたデジタル信号を、メモリ1cに格納されているプログラムに従って処理し、車両のアクチュエータに送るための制御信号を作り出す。出力インターフェース1dは、これらの制御信号を、スロットル弁16、油圧駆動部12、燃料噴射弁19、およびその他の機械要素のアクチュエータに送る。
【0030】
連続可変位相装置
本発明に従う制御手法を、連続可変位相装置を制御対象にとって説明する。
【0031】
図2は、図1に示される連続可変位相装置10の一例を示す。連続可変位相装置10は、前述したように、連続可変位相機構11および油圧駆動部12を備える。
【0032】
ECU1からの指令値Ucainはソレノイド31に供給される。ソレノイド31が指令値Ucainに従って通電され、該ソレノイド31により、油圧スプール弁32が駆動される。油圧スプール弁32は、タンク33内の作動油を、ポンプ34を介して吸い上げる。
【0033】
油圧スプール弁32は、進角油路36aおよび遅角油路36bを介して、連続可変位相機構11に連結されている。進角油路36aに供給される作動油の油圧OP1および遅角油路36bに供給される作動油の油圧OP2は、油圧スプール弁32を介して指令値Ucainに従って制御される。
【0034】
連続可変位相機構11は、ハウジング41およびベーン42を備える。ハウジング41は、図示しないスプロケットおよびタイミングベルトを介してクランクシャフト7に連結されている。ハウジング41は、クランクシャフト7の回転に伴い同じ方向に回転する。
【0035】
ベーン42は、ハウジング41内に挿入された吸気カムシャフト5から放射状に延びている。ベーン42は、所定の範囲内で、ハウジング41に対して相対的に回転可能なように該ハウジング41に収容されている。ハウジング41内に形成される扇状の空間が、ベーン42によって、3つの進角室43a、43bおよび43cと、3つの遅角室44a、44bおよび44cに区画されている。3つの進角室43a〜43cには、進角経路36aが連結されている。油圧OP1の作動油は、進角経路36aを介して進角室43a〜43cに供給される。3つの遅角室44a〜44cには、遅角経路36bが連結されている。油圧OP2の作動油は、遅角経路36bを介して遅角室44a〜44cに供給される。
【0036】
油圧OP1と油圧OP2との差がゼロであるときには、ベーン42がハウジング41に対して相対的に回転せず、それにより、位相CAINの値は維持される。ECU1からの指令値Ucainにより、油圧OP1が油圧OP2より大きくなったときには、それに応じて、ベーン42がハウジング41に対して相対的に進角側に回転し、位相CAINが進角される。ECU1からの指令値Ucainにより、油圧OP2が油圧OP1より大きくなったときには、それに応じて、ベーン42がハウジング41に対して相対的に遅角側に回転し、位相CAINが遅角される。
【0037】
このような連続可変位相装置では、ポンプから吐出される油圧にバラツキが生じたり、作動油の粘性に変化が生じたりすることがある。また、ベーンとハウジングの隙間にバラツキや経年変化が生じることがある。このような状態が生じると、連続可変位相装置の動特性が変化する。連続可変位相装置の動特性の変化に対し、ロバストに位相CAINを目標値に制御するのが好ましい。
【0038】
また、位相CAINは、油圧の変動に対して非線形に変化する。ΔΣ変調アルゴリズムを用いた制御は、このような非線形特性を有する制御系に対し有効である。
【0039】
制御装置の構成
図3は、この発明の一実施形態に従う、連続可変位相装置10を制御する装置の機能ブロック図である。
【0040】
制御対象である連続可変位相装置10への制御入力Ucainは、前述したように、ソレノイド31を駆動する指令値である。制御出力CAINは、吸気カム5aのクランクシャフト7に対する実際の位相である。
【0041】
式(1)は、連続可変位相装置10のモデル式を示す。式(1)に示されるように、連続可変位相装置10は、むだ時間を有しない系として表される。
【数1】

【0042】
制御対象である連続可変位相装置10には、実際には外乱が印加されるので、該外乱をc1で表すと、式(1)のモデル式は、式(2)のように表される。c1は、外乱推定値とも呼ばれる。
【数2】

【0043】
モデルパラメータa1〜c1のうち、b1、b2およびc1は、連続可変位相装置10の動特性による影響が大きく、a1およびa2は、該動特性による影響が少ない。そこで、モデルパラメータb1、b2およびc1については、部分モデルパラメータ同定器51が、モデル化誤差がなくなるように、逐次的に同定する。モデルパラメータa1およびa2については、予め同定されている。モデルパラメータa1およびa2と、エンジンの運転状態(たとえば、エンジン回転数NE)との関係を、マップとしてメモリ1cに格納することができる。モデルパラメータスケジューラ52は、検出されたエンジンの運転状態に基づいて該マップを参照し、モデルパラメータa1およびa2の値を抽出する。代替的に、モデルパラメータスケジューラ52が、該マップを保持するようにしてもよい。
【0044】
このように、同定器により逐次的に同定するモデルパラメータの数を減らすことができるので、該同定するモデルパラメータの最適値への収束時間を短縮することができる。また、同定のための演算量を減らすことができる。
【0045】
部分モデルパラメータ同定器51およびモデルパラメータスケジューラ52は、2自由度スライディングモードコントローラ53に接続されている。スライディングモードコントローラ53から見ると、ΔΣ変調器54および連続可変位相装置10を含む系55が、制御対象となる。スライディングモードコントローラ53は、部分モデルパラメータ同定器51およびモデルパラメータスケジューラ52から受け取ったモデルパラメータa1〜c1を用い、制御出力CAINが目標値CAIN_cmd(正確には、後述するように、目標値CAIN_cmdに基づく値CAIN_cmd_f)に収束するように、参照入力Rcainを算出する。
【0046】
ΔΣ変調器54は、スライディングモードコントローラ53から受け取った参照入力Rcainに対してΔΣ変調アルゴリズムを適用し、制御入力Ucainを算出する。制御入力Ucainは、連続可変位相装置10に印加される。
【0047】
部分モデルパラメータ同定器51およびモデルパラメータスケジューラ52がスライディングモードコントローラ53に接続されているので、同定結果が、参照入力Rcainに反映され、よって制御入力Ucainに反映される。したがって、むだ時間を有しない系を制御する場合でも、同定結果を制御入力に反映することができる。同定結果を制御入力に反映することができるので、モデル化誤差が生じないように、良好な精度で制御対象を制御することができる。
【0048】
さらに、参照入力Rcainが部分モデルパラメータ同定器51に入力される点に注意されたい。背景技術の欄で図18を参照して述べたように、従来は、ΔΣ変調器の出力(すなわち、コントローラ105の出力)が同定器102に入力されていた。本願発明では、ΔΣ変調器への入力、すなわち参照入力Rcainが同定器51に入力される。
【0049】
これは、以下のような効果をもたらす。すなわち、図4の(a)に示されるように、ΔΣ変調器54は、参照入力Rcainに基づいて、プラス方向とマイナス方向に振動する変調信号Ucainを生成する。ΔΣ変調器54による変調信号Ucainを生成する手法については、後述される。
【0050】
このように振動する変調信号Ucainに基づいてモデルパラメータを同定すると、図4の(b)に示されるように、算出される外乱推定値c1が振動する。比較のため、実際の外乱が参照番号57によって表されている。算出される外乱推定値c1が、実際の外乱57に対して振動していることがわかる。スライディングモードコントローラ53は、外乱推定値c1を用いて参照入力Rcainを算出するので、参照入力Rcainも振動的になり、結果として制御出力CAINに振動を生じさせるおそれがある。これは、制御系を不安定にし、ひいては制御系に共振状態を引き起こすおそれがある。
【0051】
外乱推定値c1だけでなく、他のモデルパラメータb1およびb2についても、図4の(b)に示されるような振動現象が生じるおそれがある。
【0052】
この発明によれば、部分モデルパラメータ同定器51に、参照入力Rcainが入力される。図4の(a)に示されるように、参照入力Rcainは振動的な態様を持たないので、同定器51により算出される外乱推定値c1が振動的になることを防ぐことができる。図4の(c)に、参照入力Rcainに基づいて算出された外乱推定値c1を示す。図4の(b)と比較して明らかなように、外乱推定値c1の振動が抑制されていることがわかる。当然ながら、他のモデルパラメータb1およびb2についても同様に、振動が抑制される。
【0053】
このように、本願発明によれば、部分モデルパラメータ同定器51が、ΔΣ変調器54への入力Rcainを用いてモデルパラメータを同定するので、モデルパラメータが振動することを防止することができる。これにより、制御出力CAINに振動が生じることが抑制される。ΔΣ変調器54への入力Rcainを部分モデルパラメータ同定器51に接続することにより、スライディングモードコントローラ53は、前述したように、ΔΣ変調器54と連続可変位相装置10との両方を含む系55を対象として制御するよう構成される。このような構成により、図3に示される制御系の整合性は維持される。
【0054】
この実施形態では、モデルパラメータa1およびa2は、モデルパラメータスケジューラ52によって、エンジンの運転状態に基づいて算出される。代替的に、モデルパラメータa1およびa2を、予め決められた値に固定してもよい。
【0055】
以下、図3に示される個々の機能ブロックについて詳細に説明する。
【0056】
2自由度スライディングモードコントローラ53は、2自由度スライディングモード制御を用いて、参照入力Rcainを算出する。スライディングモード制御は、制御量の収束速度を指定することができる応答指定型制御である。2自由度スライディングモード制御は、スライディングモード制御を発展させた形態を持ち、制御量の目標値に対する追従速度と、外乱が印加された時の制御量の収束速度とを、個別に指定することができる。
【0057】
2自由度スライディングモードコントローラ53は、式(3)に示されるように、目標値応答指定パラメータPOLE_fを用いて、目標値CAIN_cmdに一次遅れフィルタ(ローパスフィルタ)を適用する。目標値応答指定パラメータPOLE_fは、制御量の目標値に対する追従速度を規定しており、−1<POLE_f<0を満たすよう設定される。
【数3】

【0058】
式(3)に示されるように、目標値応答指定パラメータPOLE_fにより、目標値CAIN_cmd_fの軌道が規定される。目標値をどのような軌道に設定するかにより、制御量の目標値への追従速度を指定することが可能となる。スライディングモードコントローラ53は、こうして設定された目標値CAIN_cmd_fに制御量CAINが収束するように、参照入力Rcainを算出する。
【0059】
2自由度スライディングモードコントローラ53は、式(4)に示されるように、切り換え関数σを定義する。Ecainは、実位相CAINと目標値CAIN_cmd_fの偏差である。切り換え関数σは、該偏差Ecainの収束挙動を規定する。POLEは、外乱抑制のための応答指定パラメータであり、外乱が印加された時の偏差Ecainの収束速度を規定する。該応答指定パラメータPOLEは、−1<POLE<0を満たすよう設定される。
【数4】

【0060】
2自由度スライディングモードコントローラ53は、式(5)に示されるように、切り
換え関数σがゼロとなるように制御入力を決定する。
【数5】

【0061】
式(5)は、入力の無い一次遅れ系を示す。すなわち、スライディングモードコントローラ53は、偏差Ecainを、式(5)に示される一次遅れ系に拘束するよう制御する。
【0062】
図5は、縦軸にEcain(k)および横軸にEcain(k-1)を有する位相平面を示す。位相平面には、式(5)によって表現される切り換え線61が示されている。点62を状態量(Ecain(k-1), Ecain(k))の初期値と仮定すると、スライディングモードコントローラ53は、該状態量を、切り換え線61上に載せて該切り換え線61上に拘束させる。こうして、状態量が入力の無い一次遅れ系に拘束されるので、時間の経過とともに、状態量は、位相平面の原点(すなわち、Ecain(k), Ecain(k-1)=0)に自動的に収束する。状態量を切り換え線61上に拘束することにより、外乱の影響を受けることなく、状態量を原点に収束させることができる。
【0063】
図6は、参照番号63、64および65は、外乱抑制のための応答指定パラメータPOLEが、それぞれ、−1、−0.8、−0.5の場合の偏差Ecainの収束速度をを示す。応答指定パラメータPOLEの絶対値が小さくなるにつれ、偏差Ecainの収束速度は速くなる。
【0064】
2自由度スライディングモードコントローラ53は、参照入力Rcainを、式(6)に従って算出する。Reqは等価制御入力であり、状態量を切り換え線上に拘束するための入力である。Rrchは到達則入力であり、状態量を切り換え線上に載せるための入力である。
【数6】

【0065】
等価制御入力Reqを求める手法について説明する。等価制御入力Reqは、位相平面上の任意の場所に、状態量をホールドする機能を持つ。したがって、式(7)を満たす必要がある。
【数7】

【0066】
式(7)と上記のモデル式(1)に基づき、等価制御入力Reqは、式(8)のように求められる。
【数8】

【0067】
次に、到達則入力Rrchを、式(9)に従い求める。Krchは、フィードバックゲインを示す。フィードバックゲインKrchの値は、制御量の安定性および速応性等を考慮して、シミュレーション等を介して予め同定される。
【数9】

【0068】
次に、部分モデルパラメータ同定器52により実施される同定アルゴリズムについて説明する。部分モデルパラメータ同定器52は、上記の式(2)におけるモデルパラメータb1、b2およびc1を同定する。
【0069】
モデルパラメータを部分的に算出するために、まず、仮想プラントを構成する。仮想プラントを構成する手法について説明する。
【0070】
式(2)を、1ステップだけ過去にシフトし(式(10))、該シフトした式に、今回のサイクルで同定するモデルパラメータb1(k)、b2(k)、およびb3(k)を代入し(式(11))、該同定するモデルパラメータを右辺に集める(式(12))。
【0071】
【数10】

【0072】
ここで、式(12)の左辺をW(k)、右辺をW_hat(k)と定義する。
【数11】

【0073】
式(13)で示されるW(k)は、図7に示されるような仮想プラント71の出力と考えることができる。仮想プラント71の出力は、実際の制御出力CAINから、制御出力CAINを遅延素子72により遅延した値CAIN(k−1)にモデルパラメータa1を乗算することにより得られる値と、該遅延した値CAIN(k−1)を遅延素子74により遅延した値CAIN(k−2)にモデルパラメータa2を乗算することにより得られる値とを、減算することにより得られる。式(14)は、該仮想プラント71のモデル式と考えることができる。モデル化誤差がなければ、仮想プラント71の出力W(k)は、該仮想プラント71のモデルの出力W_hat(k)に一致する。
【0074】
部分モデルパラメータ同定器51は、仮想プラント71のモデル式(14)に現れるモデルパラメータb1、b2およびc1を、逐次型同定アルゴリズムを用いて同定する。
【0075】
逐次型同定アルゴリズムは、式(15)のように表される。このアルゴリズムにより、モデルパラメータベクトルθ(k)を算出する。
【数12】

【0076】
モデルパラメータベクトルθ(k)は、式(17)で表されるモデル化誤差E_id(k)がなくなるように、すなわち仮想プラント71の出力W(k)が該仮想プラント71のモデルの出力W_hat(k)に収束するように算出される。
【数13】

【0077】
KP(k)は、式(18)により定義されるゲイン係数ベクトルである。また、式(18)のP(k)は、式(19)により算出される。
【数14】

【0078】
式(19)の係数λ1およびλ2の設定により、式(15)〜(19)による同定アルゴリズムの種類が、以下のように決まる。
【0079】
λ1=1、λ2=0:固定ゲインアルゴリズム
λ1=1、λ2=1:最小2乗法アルゴリズム
λ1=1、λ2=λ:漸減ゲインアルゴリズム(λは、0、1以外の所定値)
λ1==λ、λ2=1:重み付き最小2乗法アルゴリズム(λは、0、1以外の所定値)
次に、図8を参照して、ΔΣ変調器54により実施されるΔΣ変調について説明する。
ΔΣ変調器54は、制御対象の出力CAINを、参照入力Rcainの波形に一致させるよう、制御対象への入力Ucainを生成する。
【0080】
2自由度スライディングモードコントローラ53によって算出された参照信号Rcainは、式(20)に示されるように、リミッタ81により制限処理される。たとえば、関数Lim()により、参照入力Rcainは、下限値(たとえば、―12V)から上限値(たとえば、
+12V)の範囲内に制限される。その後、式(21)に示されるように、リミッタ81
の出力信号r1から、オフセット値Ucain_oft(たとえば、0.5V)が減算される。
【数15】

【0081】
差分器83は、信号r2(k)と、遅延素子85により遅延された変調信号u”(k−1)との偏差δ(k)を算出する(式(22))。積分器85は、偏差信号δ(k)と、遅延素子86により遅延された該偏差δの積分値σ(k−1)とを加算し、偏差積分値σ(k)を算出する(式(23))。その後、非線形関数部87が、該偏差積分値σ(k)を符号化し、変調信号u”(k)を出力する(式(24))。非線形関数部87は、式(25)に示されるように、非線形関数fnl()を、偏差積分値σ(k)に適用する。すなわち、偏差積分値σ(k)がゼロ以上ならば、Rの値を持つ信号を出力し、偏差積分値σ(k)がゼロより小さければ、―Rの値を持つ信号を出力する。ここで、Rは、参照信号Rcainのとりうる最大の絶対値よりも大きい値を持つよう設定される。代替的に、偏差積分値σがゼロの時、非線形関数部87は、ゼロの値を持つ信号を出力してもよい。
【数16】

【0082】
増幅器88は、変調信号u”(k)を増幅し、増幅変調信号u(k)を出力する(式(26))。増幅変調信号u(k)にオフセット値Ucain_oft(たとえば、0.5V)が加算され、制御入力Ucainが生成される(式(27))。KDSM”は、増幅変調信号uの振幅を調整するためのゲインである(たとえば、KDSM”=8)。
【数17】

【0083】
本発明の実施形態に従うΔΣ変調器54に、リミッタ81を設けた理由は次の通りである。参照信号Rcainの絶対値が1以上の値を持つ場合に該参照信号Rcainに制限処理を適用しないと、該参照信号Rcainが正の値から負の値に反転してから(または、負の値から正の値に反転してから)、該反転に応じて変調信号u”が反転するまでの間に、むだ時間が生じるおそれがある。リミッタ81による制限処理を実施することにより、このようなむだ時間を抑制することができる。
【0084】
また、1または−1を出力する符号関数の代わりに、+Rまたは−Rの値を出力する非線形関数部87を設けたのは、以下の理由による。符号関数を備えるΔΣ変調器に上記のようなリミッタを導入したと仮定する。参照信号Rcainがリミッタにより制限されない場合(すなわち、|Rcain|<1の場合)には、図9の(a)に示されるような変調信号u”が出力され、制御精度が維持される。しかし、参照信号Rcainがリミッタにより制限される場合(すなわち、|Rcain|≧1の場合)、図9の(b)に示されるような、最大値または最小値にホールドされた変調信号u”が出力される。最大値または最小値にホールドされる頻度が高くなると、制御精度が低下する。このようなホールド現象は、参照信号Rcainが、差分器83にフィードバックされる変調信号u”の絶対値(すなわち、値1)を超えるために起こる。したがって、本実施形態では、変調信号u”の絶対値を、値1ではなく、参照信号Rcainがとりうる最大値よりも大きい値Rを持つように、非線形関数fnl()を導入する。これにより、図9の(c)に示されるように、参照信号Rcainの絶対値が1以上の場合にも、変調信号u”がホールド状態になることを回避することができる。
【0085】
さらに、本実施形態のΔΣ変調器54に、オフセット値Ucain_oftの減算/加算処理(図8の参照番号82および89)を導入したのは、以下の理由による。すなわち、位相CAINの制御精度を高めるためには、制御入力Ucainについて、最大値として出力される頻度と、最小値として出力される頻度を、ほぼ同等(すなわち、50%ずつ)にするのがよい。しかしながら、実際には、制御入力Ucainは正の値を持ち、よってスライディングモードコントローラ53により算出される参照入力Rcainも正の値を持つ。その結果、図10の(a)に示されるように、変調信号u”は、最大値として出力される頻度が高くなる。
【0086】
そこで、本実施形態では、式(21)に示されるように、参照信号Rcain(正確には、制限処理された後の信号r1)からオフセット値Ucain_oftを減算することによって得られた値を、差分器83の入力とする(図8の参照番号82)。これにより、図10の(b)に示されるように、変調信号u”について、最大値として出力される頻度と最小値として出力される頻度をほぼ同等にすることができる。式(27)に示されるように、該オフセット値Ucain_oftは、実際の制御入力Ucainを算出する際に加算される(図8の参照番号89)。
【0087】
図11に、この実施形態のΔΣ変調器54のシミュレーション結果の一例を示す。正弦波の参照信号Rcainが該変調器54に入力されると、矩形波の変調信号u”が生成される。変調信号u”に基づく信号Ucainを制御対象に印加することにより、参照信号Rcainと同じ周波数を持つ(振幅は、異なることができる)出力信号CAINが、制御対象から出力される。このように、ΔΣ変調器54は、参照信号Rcainが制御対象の出力CAINに再現されるように、変調信号u”を生成する。
【0088】
制御フロー
図12は、本発明の一実施形態に従う制御フローである。この制御フローは、所定の時間間隔で実施される。
【0089】
ステップS1において、連続可変位相装置10が正常かどうか判断される。連続可変位相装置の異常(故障等)は、任意の適切な手法を用いて検出することができる。連続可変位相装置に何らかの異常が検出されたならば、ステップS2において制御入力Ucainにゼロを設定する。この実施例では、連続可変位相装置は、制御入力Ucainをゼロにすると、吸気カムシャフトの実位相CAINが最遅角になるように構成されている。
【0090】
ステップS1において、連続可変位相装置10が正常ならば、エンジンが始動中かどうかを判断する(S3)。エンジンが始動中ならば、ステップS4において、目標値CAIN_cmdに、所定値CAIN_cmd_stを設定する。所定値CAIN_cmd_stは、筒内流動を向上させるため、少しだけ進角側に設定された値(たとえば、最遅角がゼロ度とすると、10度ぐらい)である。
【0091】
エンジンが始動中でなければ、ステップS5において、エンジン回転数NEに基づいてマップを参照し、目標値CAIN_cmdを算出する。該マップの一例を、図13に示す。目標値CAIN_cmdは、エンジン回転数NEが高くなるほど、遅角側に設定される。また、目標値CAIN_cmdは、要求駆動力(典型的には、アクセルペダル開度により表される)が大きくなるほど、遅角側に設定される。この実施例では、エンジンの負荷が低い場合には、シリンダ内に残留しているガスを用いて燃焼を起こすことにより、エンジンの駆動力を下げる。したがって、エンジンの負荷が低い場合には、位相CAINを進角側に設定する。位相CAINを進角側に設定するほど、排気バルブが開いている期間と吸気バルブが開いている期間とがオーバーラップする時間を長くなり、燃焼に用いる残留ガスが多くなる。
【0092】
ステップS6において、モデルパラメータスケジューラ52が、図14に示されるサブルーチンを実施し、モデルパラメータa1およびa2を算出する。ステップS7において、部分モデルパラメータ同定器51、2自由度スライディングモードコントローラ53およびΔΣ変調器54が、前述した演算を実行し、制御入力Ucainを算出する。
【0093】
図14は、モデルパラメータa1およびa2を算出する手法を示す。ステップS11において、エンジン回転数NEに基づいてマップを参照し、モデルパラメータa1を算出する。該マップの一例を、図15の(a)に示す。エンジン回転数NEが高くなるほど、モデルパラメータa1は大きくなるよう設定される。さらに、位相CAINが遅角側になるほど、モデルパラメータa1は大きくなるよう設定される。
【0094】
ステップS12において、エンジン回転数NEに基づいてマップを参照し、モデルパラメータa2を算出する。該マップの一例を、図15の(b)に示す。エンジン回転数NEが高くなるほど、モデルパラメータa2は小さくなるよう設定される。さらに、位相CAINが遅角側になるほど、モデルパラメータa2は小さくなるよう設定される。
【0095】
他の実施形態
代替の実施形態では、ΔΣ変調アルゴリズムに代えて、ΣΔ変調アルゴリズムまたはΔ変調アルゴリズムを用いてもよい。ΣΔ変調アルゴリズムを用いた変調器のブロック図を図16に示し、ΣΔアルゴリズムにより実施される演算を、式(28)〜(35)に示す。非線形関数fnl()は、前述したものと同じである。
【数18】

【0096】
また、Δ変調アルゴリズムを用いた変調器を図17に示す、Δ変調アルゴリズムにより実施される演算を、式(36)〜(42)に示す。
【数19】

【0097】
以上、本発明について、好ましい実施形態について説明した。当然ながら、排気カムシャフトの位相についても、上記の吸気カムシャフトの位相と同様に、制御することができる。
【0098】
また、2自由度スライディングモード制御とは別の応答指定型制御を用いてもよい。
【0099】
本発明に従う制御手法は、他の様々な制御対象についても適用可能である。一実施形態では、エンジンから、排気通路に設けられ排ガスの酸素濃度を検出する排ガスセンサ(たとえば、図1のO2センサ)までの系を制御対象にし、エンジンの空燃比の制御に適用することができる。制御入力をエンジンへの供給燃料に関連するパラメータとし、制御出力を、該センサの出力とすることができる。エンジンへの供給燃料を制御してセンサ出力を目標値に収束させることにより、適切な空燃比制御を実現することができる。
【0100】
本発明は、汎用の(例えば、船外機等の)内燃機関に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】この発明の一実施例に従う、エンジンおよびその制御装置を概略的に示す図。
【図2】この発明の一実施例に従う、連続可変位相装置を示す図。
【図3】この発明の一実施例に従う、制御装置の機能ブロック図。
【図4】この発明の一実施例に従う制御手法により、モデルパラメータの振動が抑制される効果を示す。
【図5】この発明の一実施例に従う、スライディングモード制御の切り換え関数を示す図。
【図6】この発明の一実施例に従う、スライディングモード制御の応答指定パラメータを示す図。
【図7】この発明の一実施例に従う、部分同定アルゴリズムのための仮想プラントの構成を示す図。
【図8】この発明の一実施例に従う、ΔΣ変調器のブロック図。
【図9】この発明の一実施例に従う、ΔΣ変調器の変調信号のホールド現象を回避する効果を説明するための図。
【図10】この発明の一実施例に従う、ΔΣ変調器の参照入力にオフセット値を適用する効果を説明するための図。
【図11】この発明の一実施例に従う、ΔΣ変調器における各信号の波形の一例を示す図。
【図12】この発明の一実施例に従う、制御フローを示す図。
【図13】この発明の一実施例に従う、カムシャフトの位相の目標値を算出するためのマップを示す図。
【図14】この発明の一実施例に従う、モデルパラメータスケジューラによりモデルパラメータを算出するフローを示す図
【図15】この発明の一実施例に従う、モデルパラメータa1およびa2を算出するためのマップを示す図。
【図16】この発明の一実施例に従う、ΣΔ変調器のブロック図。
【図17】この発明の一実施例に従う、Δ変調器のブロック図。
【図18】従来技術に従う、むだ時間を有する制御対象を制御する装置の典型的な機能ブロック図。
【符号の説明】
【0102】
1 ECU
2 エンジン
5 吸気カムシャフト
7 クランクシャフト
10 連続可変位相装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モデルパラメータを用いてモデル化された制御対象を制御する制御装置であって、
前記モデルパラメータを同定する同定器と、
前記同定器により同定されたモデルパラメータを受け取るよう該同定器に接続されたコントローラであって、前記制御対象の出力が目標値に収束するように、前記モデルパラメータを用いて参照入力を算出するコントローラと、
前記コントローラにより算出された参照入力を受け取るよう該コントローラに接続された変調器であって、前記参照入力に、ΔΣ変調アルゴリズム、ΣΔ変調アルゴリズム、およびΔ変調アルゴリズムのうちの1つを適用して、前記制御対象に印加される制御入力を算出する変調器と、を備え、
前記同定器は、前記参照入力を受け取るよう前記コントローラに接続され、該参照入力および前記制御対象の出力に基づいて、前記モデルパラメータを同定する、
制御装置。
【請求項2】
前記モデルパラメータは、予め同定された第1のモデルパラメータと、前記同定器により逐次的に同定される第2のモデルパラメータを含んでおり、
前記同定器は、前記制御対象と、該制御対象を表すモデルの前記第1のモデルパラメータに基づく構成要素と、を含む仮想プラントについて、前記第2のモデルパラメータを用いてモデル化し、該仮想プラントの出力が、該第2のモデルパラメータを用いたモデルの出力に収束するように、該第2のモデルパラメータを同定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記モデルパラメータは、前記制御対象に印加される外乱を表すモデルパラメータを含んでおり、
前記同定器は、前記制御対象の出力および前記参照入力に基づいて、該外乱を表すモデルパラメータを同定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御装置は、エンジンの制御装置であり、
前記モデルパラメータは、該エンジンの運転状態に応じて予め同定された第1のモデルパラメータおよび前記同定器により逐次的に同定される第2のパラメータを含んでおり、
さらに、前記予め同定された第1のモデルパラメータの値を保持したパラメータスケジューラであって、前記エンジンの運転状態が検出されたことに応じて、該検出された運転状態に対応する前記第1のモデルパラメータの値を求めるパラメータスケジューラを備える、請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記制御対象の出力の前記目標値に対する追従速度および前記制御対象の外乱が印加された時の該制御対象の出力と該目標値の間の偏差の収束速度とを指定することができる2自由度応答指定型制御アルゴリズムを用いて、前記参照入力を算出する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御対象は、エンジンのカムシャフトの位相を可変に制御する可変位相装置であり、該制御対象の入力は、該可変位相装置に与えられる指令値であり、該制御対象の出力は、該カムシャフトの位相である、請求項1に記載の制御装置。
【請求項7】
エンジンの空燃比を制御するため、前記制御対象は、該エンジンから、該エンジンの排気通路に設けられた排ガスセンサまでの系であり、該制御対象の入力は、該エンジンに供給される燃料の量を調整するパラメータであり、該制御対象の出力は、該排ガスセンサの出力である、請求項1に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−257741(P2008−257741A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140190(P2008−140190)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【分割の表示】特願2003−346234(P2003−346234)の分割
【原出願日】平成15年10月3日(2003.10.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】