説明

ΔΣ変調型DA変換器及びΔΣ変調器

【課題】ΔΣ変調型DA変換器において、コストアップをできるだけ抑えながら、音質改善を達成する技術を提案する。
【解決手段】音声処理装置10は、デジタル信号をΔΣ変調器20で変調し、D級増幅部60で増幅し、スピーカなどの負荷12に出力する。その際に、D級増幅部60の出力を、間接的にΔΣ変調器20へフィードバックする。このフィードバックの際に必要となるAD変換器として比較的低速なAD変換器を用いつつ歪み成分を除去するために、歪みが発生しているD級増幅部60を模擬するD級増幅部エミュレータ30をΔΣ変調器20内に設ける。さらに、D級増幅部エミュレータ30は、学習することによって、各種パラメータを適切になるように更新し、歪み補償をより効果的に実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ΔΣ変調型DA変換器及びΔΣ変調器に係り、D級増幅部を備え出力に接続された負荷に電力を供給することが可能なΔΣ変調型DA変換器及び入力信号に対してΔΣ変調を施しD級増幅部に出力するΔΣ変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビを始めとする薄型テレビは、激しい競争に晒されており、製造各社は性能向上をさせつつ一層のコストダウンをすることが求められている。そのような中、オーディオアンプも例外ではない。テレビ放送波にあってはデジタル放送の開始に伴い、TV回路のほとんどがデジタル化されるようになっており、オーディオアンプもデジタル信号を入力とするデバイスが求められている。最終的にはデジタル回路を1チップ化し、省スペース、低コスト化が行われている。
【0003】
ところで、オーディオなどに応用されるΔΣ変調型DA変換器では、デジタル回路で構成される変調部と、電力を供給するD級増幅部に分けて構成される。D級増幅部は電力スイッチング部のデットタイムやオン抵抗、電源インピーダンスによる電圧降下、他負荷の影響による電源変動によるなどによって、理想的なD級増幅とならないために歪が発生してしまい、音質劣化を招くという課題がある。
【0004】
図1に、現在実現されているΔΣ変調型DA変換器について5種類例示する。図1(a)は、初期のΔΣ変調型DA変換器の構成例であり、デジタル信号をDA変換器においてアナログ信号に変換し、アナログのΔΣ変調器により変調し、D級増幅部で増幅している。また、D級増幅部の出力は、ΔΣ変調器にフィードバックされている。この構成のΔΣ変調型DA変換器の場合、特性面では優れているが、消費電力の改善のための新たなアルゴリズムの検討が困難であったり、また、コストが比較的高くなってしまうという課題がある。
【0005】
図1(b)のΔΣ変調型DA変換器では、ΔΣ変調器の前段のDA変換器が省かれ、デジタル信号をそのまま変調するΔΣ変調器とD級増幅部とから構成されている。このΔΣ変調型DA変換器では、アルゴリズムの検証の容易性が大幅に改善されたが、D級増幅部で発生する歪みがそのまま出力されてしまうという課題があった。
【0006】
図1(c)のΔΣ変調型DA変換器では、図1(b)のΔΣ変調型DA変換器の課題を解決するために、ΔΣ変調器の前段に歪補償回路を設けることで、歪特性の改善がなされている。ただし、このΔΣ変調型DA変換器を採用した場合であっても、例えば、電源リプルなどを十分に補償できないという課題がある。近年、製品のコストダウンが進む結果、電源の耐電源リプルの弱点が顕在化してしまうことがあった。
【0007】
図1(d)のΔΣ変調型DA変換器では、図1(c)のΔΣ変調型DA変換器の課題を解決するために、D級増幅部に供給する電力のリプル除去回路を設けている。
【0008】
また、歪補償によって特性を改善する技術は、様々提案されている。例えば、歪補償された送信信号がDA変換器のダイナミックレンジを超えないように、事前に歪み補償係数の大きさを、その位相を維持したまま補正する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−251148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載の技術では、原理的に、入力信号x(t)との因果性に関する歪特性しか補正されなかった。したがって、比較的大きな電力を制御するDA変換器のように、DA変換器のスイッチングパターンや電源変動などが無視できないアプリケーションでは、これらで発生する歪要因が補正できないため、フィードバックによる性能向上に限界があった。また、図1(d)に示した技術では、耐電源リプルを高めることで、ΔΣ変調型DA変換器の特性を改善することができるが、結局はコストが高くなってしまい、電源のコストダウンとΔΣ変調型DA変換器のコストアップとが相殺されてしまうという課題があった。また、図1(e)に、図1(b)のD級増幅部の出力をΔΣ変調器にフィードバックするΔΣ変調型DA変換器について示している。この構成が理想的であるが、フィードバックの際に高速かつ高精度のAD変換器が必要であった。上述のように激しいコスト競争に晒されている現状にあっては、高速かつ高精度のAD変換器の採用は現実的でなく、別の技術が求められていた。
【0010】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、ΔΣ変調型DA変換器において、コストアップをできるだけ抑えながら、音質改善を達成する技術を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る装置は、ΔΣ変調型DA変換器に関する。この装置は、積分器と前記積分器からの出力にもとづいて前記積分器の出力の分解能より低い分解能に変換する量子化器とを備えたΔΣ変調器とD級増幅部とを備え出力に接続された負荷に電力を供給することが可能なΔΣ変調型DA変換器であって、前記D級増幅部の出力をエミュレートするためのD級増幅部エミュレータと、前記D級増幅部の出力と前記D級増幅部エミュレータの出力の信号をもとにフィードバック信号を生成するフィードバック部と、を備える。
また、前記D級増幅部エミュレータは、前記D級増幅部の歪特性をエミュレートしてもよい。
また、前記D級増幅部エミュレータは、前記フィードバック部の出力をもとに、当該D級増幅部エミュレータの出力と前記D級増幅部の出力がもっとも近くなるように前記D級増幅部エミュレータ自身の特性を逐次更新してもよい。
また、前記フィードバック部は、前記D級増幅部の出力を濾波するアナログフィルタと、前記アナログフィルタで濾波された前記D級増幅部の出力をAD変換するAD変換器と、前記ΔΣ変調器の出力を、前記D級増幅部とは異なる経路にて取得して濾波するデジタルフィルタとを備えてもよい。
また、前記D級増幅部エミュレータは、前記AD変換器の出力と、前記デジタルフィルタの出力をもとに、当該D級増幅部エミュレータの出力と前記AD変換器における変換後の前記D級増幅部の出力とがもっとも近くなるように前記D級増幅部エミュレータ自身の特性を逐次更新してもよい。
また、前記ΔΣ変調器は、前記D級増幅部エミュレータの出力と当該ΔΣ変調型DA変換器への入力との差分を求める第1の減算器を備え、前記積分器に前記第1の減算器の出力が入力されてもよい。
また、前記D級増幅部は、前記量子化器の信号にもとづいて前記D級増幅部の出力に接続された負荷を十分に駆動できるだけの電力を供給してもよい。
また、前記ΔΣ変調型DA変換器は、外乱成分を擬似的に発生させる模擬外乱発生器を備えてもよい。
また、前記アナログフィルタは、前記D級増幅部の出力のうち歪成分推定に必要な信号成分のみを濾波してもよい。
また、前記デジタルフィルタは、前記D級増幅部エミュレータの出力のうち歪成分推定に必要な信号成分のみを濾波してもよい。
また、前記AD変換器の出力と前記デジタルフィルタの出力の差分を演算する演算手段を備えてもよい。
また、前記D級増幅部エミュレータは、前記模擬外乱発生器、入力信号、及び前記量子化器の出力と因果性のある歪成分のパラメータを同定し、前記D級増幅部の歪特性を模擬してもよい。
また、前記歪成分の前記パラメータは、前記AD変換器の出力と前記デジタルフィルタの出力との差分を求める第2の減算器の出力、前記模擬外乱発生器の出力、前記入力信号、及び前記量子化器の出力にもとづき逐次更新され、前記D級増幅部と前記D級増幅部エミュレータの歪成分が一致したときにパラメータの更新が収束してもよい。
また、前記AD変換器は、前記ΔΣ変調器の駆動速度に比較して、低速で駆動してもよい。
本発明の別の態様は、ΔΣ変調器に関する。この装置は、積分器と、前記積分器からの出力にもとづいて、前記積分器の出力の分解能より低い分解能に変換する量子化器と、出力先のD級増幅部の歪特性を模擬し、前記積分器へ帰還出力するD級増幅部エミュレータと、外乱成分を擬似的に発生させる模擬外乱発生器とを備え、前記D級増幅部エミュレータは、前記D級増幅部の出力がAD変換された後のデジタル信号と前記D級増幅部エミュレータの帰還出力との差信号、前記量子化器からの信号、及び前記模擬外乱発生器の信号をもとに、前記模擬外乱発生器、入力信号及び前記量子化器の出力と因果性のある歪成分のパラメータを同定し、かつ前記D級増幅部の出力が前記AD変換された後のデジタル信号と前記D級増幅部エミュレータの帰還出力との差信号が小さくなるように、逐次前記パラメータを更新する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ΔΣ変調型DA変換器において、コストアップをできるだけ抑えながら、音質改善を達成する技術を提案することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に「実施形態」という)を、図面を参照して具体的に説明する。まず、本実施形態の概要を説明する。以下の音声処理装置は、デジタル信号をΔΣ変調器で変調し、D級増幅部で増幅し、スピーカなどの負荷に出力する。その際に、D級増幅部の出力を、ΔΣ変調器へフィードバックする。なお、このとき、ΔΣ変調器へフィードバックには、AD変換器が必要となるが、高速かつ高精度のAD変換器はコストの面で採用が難しいため、比較的低速なAD変換器を用いつつ、歪み成分を除去する。そのため、歪みが発生しているD級増幅部を模擬するD級増幅部エミュレータをΔΣ変調器内に設け、そのD級増幅部エミュレータと比較的低速なAD変換器をもとに生成したフィードバック信号をフィードバック処理に用いる。さらに、D級増幅部エミュレータは、学習することによって、各種パラメータを適切になるように更新し、歪み補償をより効果的に実現する。
【0014】
図2は、本実施形態に係る音声処理装置10の概略構成を示す機能ブロックである。この音声処理装置10は、例えば、液晶テレビ等の表示装置に搭載される。
【0015】
図示のように、音声処理装置10は、ΔΣ変調器20と、D級増幅部60と、フィードバック部70とを備える。PCM(pulse code modulation)信号などのデジタル信号(「原信号S1」ともいう)が、信号入力部51から音声処理装置10に入力され、ΔΣ変調器20により変調されて、D級増幅部60に出力される。D級増幅部60で増幅された信号は信号出力部52を介してスピーカなどの負荷12に出力される。また、D級増幅部60で増幅された信号は、後述のAD変換器74を備えるフィードバック部70を介してΔΣ変調器20にフィードバックされる。以下、各構成について具体的に説明する。
【0016】
D級増幅部60は、前記量子化器24の信号を、当該音声処理装置10の信号出力部52に接続されたスピーカ等の負荷12を駆動するのに十分な電力を供給する信号に増幅する。
【0017】
ΔΣ変調器20は、ΔΣ変調するための一般的な回路構成として、積分器22と、積分器22からの出力にもとづいて、積分器22の出力の分解能より低い分解能に変換する量子化器24とを備えており、音声信号を2値や3値などの離散的な電圧値に量子化する。なお、積分器22や量子化器24については公知の技術であるので説明は省略する。また、積分器22の積分次数は1次でもよいし2次以上であってもよい。さらに、積分器22は複数で構成されてもよい。さらにまた、D級増幅部エミュレータ30の出力を積分器22の入力側へフィードバックするために、積分器22の前段に合成器28が設けられている。合成器28は、原信号S1を非反転入力(+)、D級増幅部エミュレータ30からの出力を反転入力(−)としてその差を演算し、演算の結果得られた信号を積分器22に出力する。
【0018】
さらに、ΔΣ変調器20は、本実施形態に特徴的な構成として、D級増幅部エミュレータ30と模擬外乱発生器26とを備えている。模擬外乱発生器26は、外乱成分を推定するための外乱を発生させる。この外乱は、例えば、商用電源の電源変動成分と同様の周波数を有する正弦波や余弦波である。他には、インバータの周波数等ができる。以下では、正弦波や余弦波として説明する。
【0019】
D級増幅部エミュレータ30は、図示のように、量子化器24の出力(S2)、模擬外乱発生器26の出力(S3)、信号入力部51に入力した原信号S1(後述のAD変換器入力d3)を入力信号として、それらの信号(S1〜S3)と因果性のある歪成分のパラメータを同定し、D級増幅部60の振る舞いを模擬する。上記のパラメータは、模擬外乱発生器26の出力(S3)、原信号S1、量子化器24の出力(S2)及びフィードバック部70の合成器76から出力される誤差信号S4にもとづき逐次更新される。そして、D級増幅部60とD級増幅部エミュレータ30の歪成分が一致したときに、パラメータの更新が収束する。なお、D級増幅部エミュレータ30の構成及び数式モデルについては後述する。
【0020】
フィードバック部70は、アナログフィルタ72と、AD変換器74と、合成器76と、デジタルフィルタ78とを備える。アナログフィルタ72は、D級増幅部60の出力のうち必要な信号成分のみを通過させAD変換器74に出力する。
【0021】
AD変換器74は、フィルタ72を通過したアナログ信号をデジタル信号に変換して、合成器76に出力する。
【0022】
デジタルフィルタ78は、D級増幅部エミュレータ30から出力された信号のうち必要な信号成分のみを通過させ、合成器76に出力する。
【0023】
合成器76は、AD変換器74からの信号を非反転入力(+)、デジタルフィルタ78を介したD級増幅部エミュレータ30の出力を反転入力(−)としてその差を演算し、演算結果を誤差信号S4としてD級増幅部エミュレータ30へ出力する。
【0024】
つぎに、D級増幅部エミュレータ30の処理の数式モデルの概要を説明する。数式モデルの一般式は、下記の(1)式〜(6)式で表される。ここで、D級増幅部エミュレータ30は、D級増幅部60の出力をy(t)、D級増幅部エミュレータ30の出力をy(t)、D級増幅部60とD級増幅部エミュレータ30の誤差をe(t)としたときに、(4)式で示される誤差e(t)の2乗誤差の時間積分が最小にするように、パラメータa〜aを最急降下法により学習し更新する。なお、(5)式で、a(t)が現在のパラメータであり、a(t+1)が更新後のパラメータである。また、パラメータの学習手法として、基本的手法である最急降下法について例示しているが、当然、遺伝的アルゴリズムやその他の学習手法が用いられてもよい。

【数1】

【数2】

【0025】
つぎに、図3及び下記の式(7)〜(12)にもとづき、D級増幅部エミュレータ30の具体的な構成と数式モデルについて説明する。ここで、D級増幅部エミュレータ30の出力が下記の(7)〜(12)式で示される歪みモデルを有していると想定する。
【数3】

【0026】
D級増幅部エミュレータ30は、模擬外乱発生器26から模擬外乱の信号である正弦波の第1外乱波d1((7)式)及び余弦波の第2外乱波d2((8)式)と、原信号(入力信号)S1であるAD変換器入力d3の絶対値((9)式)と、量子化器24からの出力である量子化器出力d4((10)式)と、フィードバック部70の合成器76からの誤差信号eを入力として取得し、後述の所定の演算処理後、(11)式で示すエミュレータ出力信号y(t)を出力する。
【0027】
より具体的には、図示のように、D級増幅部エミュレータ30は、D級増幅模擬用パラメータ更新制御器42と、D級増幅模擬出力演算器44と、D級増幅模擬用パラメータ部46とを備えている。D級増幅模擬用パラメータ更新制御器42は、(7)式の第1外乱波d1、(8)式の第2外乱波d2、(9)式のAD変換器入力(入力信号)d3の絶対値、(10)式の量子化器出力d4及びフィードバック部70の合成器76からの誤差信号eを取得する。
【0028】
上記(11)式において、「a・d+a・d」で示される部分が、上述のように商用電源と同じ周波数を有する正弦波及び余弦波による電源変動成分に相当する。また、「a・|d|」で示される部分が、原信号S1の信号原の電源インピーダンスによる電圧降下成分に相当する。さらに、「a・d」で示される部分がゲイン変動分に相当する。
【0029】
そして、(11)式の第1〜第4のパラメータa〜aは、逐次更新され、学習されて収束されることになる。
【0030】
そこで、D級増幅模擬用パラメータ更新制御器42は、第1外乱波d1、第2外乱波d2、AD変換器入力d3、量子化器出力d4及びフィードバック部70の合成器76からの誤差信号e(t)をもとに、(12)式で示す第1〜第4のパラメータa〜a4の更新量Δa〜Δaを算出して、D級増幅模擬用パラメータ部46に出力する。
【数4】

【0031】
D級増幅模擬用パラメータ部46は、D級増幅模擬用パラメータ更新制御器42から取得した第1〜第4のパラメータa〜aの更新量Δa〜Δaに、上記の(5)式及び(6)式を適用させて、現在のパラメータa(t)に対して更新後のパラメータa(t+1)を算出し、信号d1〜d4とともにD級増幅模擬出力演算器44に出力する。
【0032】
D級増幅模擬出力演算器44は、D級増幅模擬用パラメータ部46の出力をもとに、上記(11)式で示す演算を実行して、D級増幅部60を模擬した結果をフィードバック部70及び積分器22の前段の合成器28に出力する。
【0033】
音声処理装置10では、このようなパラメータの更新が逐次実行され、D級増幅部60とD級増幅部エミュレータ30の出力誤差e(t)が0になると収束する。つまり、D級増幅部エミュレータ30の学習の結果、D級増幅部60とD級増幅部エミュレータ30の各歪成分が一致することになり、ここで示す間接的なフィードバックが、直接的なフィードバックと同様に機能し、D級増幅部60に起因する歪成分や電源リプル等の外乱が効果的に補償される。
【0034】
以上、本実施形態によれば、AD変換器74でフィードバックを行っているため、電源リプルなどの外乱や、D級増幅部60に特有の歪成分を間接的にフィードバックできる。また、直接フィードバックする場合には、高速なAD変換器が必要であるが、この手法では高速なAD変換器を用いなくても良いため、比較的低コストでフィードバックシステムを構築できる。さらに、積分器22、量子化器24を含めて、ΔΣ変調器20全体をデジタル信号処理で実現することができるため、デジタル放送受像機システムとの親和性が高い。同様の理由から、FPGA(Field Programmable Gate Array)を用いた開発により、様々な手法を検討することができ、開発効率が著しく向上する。さらにまた、ΔΣ変調のアルゴリズムはすべてデジタル回路で構成されているため、ドリフトノイズ等のアナログIC特有の設計制約に縛られずにアルゴリズムの検討が可能となる。さらに、D級増幅部60の歪み特性が、例えば経時変化によって変化した場合でも、D級増幅部エミュレータ30が学習により再度適切なパラメータに更新するため、そのような歪み特性の変化にも効果的に対応することができる。
【0035】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】従来技術に係る、5種類のΔΣ変調型DA変換器を示した図である。
【図2】実施形態に係る、音声処理装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図3】実施形態に係る、D級増幅部エミュレータの概略構成を示す機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0037】
10 音声処理装置(ΔΣ変調型DA変換器)
20 ΔΣ変調器
22 積分器
24 量子化器
26 模擬外乱発生器
28 合成器
30 D級増幅部エミュレータ
42 D級増幅模擬用パラメータ更新制御器
44 D級増幅模擬出力演算器
46 D級増幅模擬用パラメータ部
51 信号入力部
52 信号出力部
60 D級増幅部
70 フィードバック部
72 アナログフィルタ
74 AD変換器
76 合成器
78 デジタルフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積分器と前記積分器からの出力にもとづいて前記積分器の出力の分解能より低い分解能に変換する量子化器とを備えたΔΣ変調器とD級増幅部とを備え出力に接続された負荷に電力を供給することが可能なΔΣ変調型DA変換器であって、
前記D級増幅部の出力をエミュレートするためのD級増幅部エミュレータと
前記D級増幅部の出力と前記D級増幅部エミュレータの出力の信号をもとにフィードバック信号を生成するフィードバック部と、
を備えたことを特徴とするΔΣ変調型DA変換器。
【請求項2】
前記D級増幅部エミュレータは、前記D級増幅部の歪特性をエミュレートすることを特徴とする請求項1に記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項3】
前記D級増幅部エミュレータは、前記フィードバック部の出力をもとに、当該D級増幅部エミュレータの出力と前記D級増幅部の出力がもっとも近くなるように前記D級増幅部エミュレータ自身の特性を逐次更新することを特徴とする請求項1または2に記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項4】
前記フィードバック部は、前記D級増幅部の出力を濾波するアナログフィルタと、前記アナログフィルタで濾波された前記D級増幅部の出力をAD変換するAD変換器と、前記ΔΣ変調器の出力を、前記D級増幅部とは異なる経路にて取得して濾波するデジタルフィルタとを備えることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項5】
前記D級増幅部エミュレータは、前記AD変換器の出力と、前記デジタルフィルタの出力をもとに、当該D級増幅部エミュレータの出力と前記AD変換器における変換後の前記D級増幅部の出力とがもっとも近くなるように前記D級増幅部エミュレータ自身の特性を逐次更新することを特徴とする請求項4に記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項6】
前記ΔΣ変調器は、前記D級増幅部エミュレータの出力と当該ΔΣ変調型DA変換器への入力との差分を求める第1の減算器を備え、
前記積分器に前記第1の減算器の出力が入力されていることを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項7】
前記D級増幅部は、前記量子化器の信号にもとづいて前記D級増幅部の出力に接続された負荷を十分に駆動できるだけの電力を供給することを特徴とする請求項1から6に記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項8】
前記ΔΣ変調型DA変換器は、外乱成分を擬似的に発生させる模擬外乱発生器を備えることを特徴とする請求項1から7までのいずれかに記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項9】
前記アナログフィルタは、前記D級増幅部の出力のうち歪成分推定に必要な信号成分のみを濾波することを特徴とする請求項5から8までのいずれかに記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項10】
前記デジタルフィルタは、前記D級増幅部エミュレータの出力のうち歪成分推定に必要な信号成分のみを濾波することを特徴とする請求項5から9までのいずれかに記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項11】
前記AD変換器の出力と前記デジタルフィルタの出力の差分を演算する演算手段を備えることを特徴とする請求項5から10までのいずれかに記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項12】
前記D級増幅部エミュレータは、前記模擬外乱発生器、入力信号、及び前記量子化器の出力と因果性のある歪成分のパラメータを同定し、前記D級増幅部の歪特性を模擬することを特徴とする請求項8から11までのいずれかに記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項13】
前記歪成分の前記パラメータは、前記AD変換器の出力と前記デジタルフィルタの出力との差分を求める第2の減算器の出力、前記模擬外乱発生器の出力、前記入力信号、及び前記量子化器の出力にもとづき逐次更新され、前記D級増幅部と前記D級増幅部エミュレータの歪成分が一致したときにパラメータの更新が収束することを特徴とする請求項8から12までのいずれかに記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項14】
前記AD変換器は、前記ΔΣ変調器の駆動速度に比較して、低速で駆動することを特徴とする請求項1から13までのいずれかに記載のΔΣ変調型DA変換器。
【請求項15】
積分器と、
前記積分器からの出力にもとづいて、前記積分器の出力の分解能より低い分解能に変換する量子化器と、
出力先のD級増幅部の歪特性を模擬し、前記積分器へ帰還出力するD級増幅部エミュレータと、
外乱成分を擬似的に発生させる模擬外乱発生器と、
を備え、
前記D級増幅部エミュレータは、前記D級増幅部の出力がAD変換された後のデジタル信号と前記D級増幅部エミュレータの帰還出力との差信号、前記量子化器からの信号、及び前記模擬外乱発生器の信号をもとに、前記模擬外乱発生器、入力信号及び前記量子化器の出力と因果性のある歪成分のパラメータを同定し、かつ前記D級増幅部の出力が前記AD変換された後のデジタル信号と前記D級増幅部エミュレータの帰還出力との差信号が小さくなるように、逐次前記パラメータを更新することを特徴とするΔΣ変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−130064(P2010−130064A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299472(P2008−299472)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】