説明

すぐれた接面通電性を長期に亘って発揮する多孔質金属ガス拡散シートを構造部材とする固体高分子型燃料電池

【課題】構成部材である多孔質金属ガス拡散シートがすぐれた接面通電性を長期に亘って発揮する固体高分子型燃料電池を提供する。
【解決手段】固体高分子型燃料電池の多孔質金属ガス拡散シートを、60〜99%の気孔率を有するオーステナイト系ステンレス鋼の多孔質焼結体本体と、前記多孔質焼結体本体の表面部に焼結時に形成された5〜50nmの平均層厚を有し、組成式:Crを満足する絶縁性酸化クロム層を介して、2〜100nmの平均粒径を有する超微粒Au粉のAuコロイド溶液の塗布焼成により、前記多孔質焼結体本体の表面に20〜70面積%を占める分散分布割合で拡散接合してなるAu接点で構成すると共に、前記Au接点直下部分の酸化クロム層部分を、表面塗布された前記Auコロイド溶液の焼成時に還元して組成式:Cr3−X(ただし、原子比でXは0.05〜1.1)を満足する導電性酸化クロムとした多孔質ステンレス鋼ガス拡散シートで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、すぐれた接面通電性を経時的低下なく、長期に亘って発揮する多孔質金属ガス拡散シートを構造部材とし、この結果電池性能の低下なく、使用寿命の著しい延命化を可能とする固体高分子型燃料電池(以下、単に燃料電池という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に上記燃料電池が、図3,4に全体斜視図および分解斜視図で例示される通り、単セルと呼ばれる単一発電モジュールを複数個重ね合わせて圧接組み立てた構造をもち、かつ前記単セルが、固体高分子電解質膜の一方側面に、アノード(水素極)および60〜99%の気孔率を有する多孔質金属ガス拡散シートを挟んで黒鉛製セパレータ板材が当接され、また前記固体高分子電解質膜の他方側面には、カソード(酸素極または空気極)および多孔質金属ガス拡散シートを挟んで、同じく黒鉛製セパレータ板材が当接され、前記セパレータ板材の一方側が燃料ガス流路、同他方側が酸化ガス流路となり、さらに図示される通り前記セパレータ板材の両側面に、必要に応じてそれぞれ燃料ガス流路用溝および酸化ガス流路用溝を形成した構造をもつことはよく知られるところである。
【0003】
また、上記の従来燃料電池は、セパレータ板材のアノード側に形成された燃料ガス流路を通常約80℃の水素ガスが流れ、同カソード側の酸化ガス流路を同じく約80℃の大気と燃料電池の反応生成物である水および/または水蒸気との混合ガスが流れることによって発電機能を発揮することも知られている。
【0004】
上記の通り従来燃料電池のセパレータ板材のカソード側の多孔質金属ガス拡散シートは、約80℃の水および/または水蒸気と大気との混合ガスからなる酸化性ガス流に曝されるが、前記多孔質金属ガス拡散シートに酸化膜が形成されるようになると、接面通電性が著しく低下して、電池機能低下の原因となることから、接面通電性の経時的低下を抑制した多孔質金属ガス拡散シートが用いられている。
【0005】
さらに、上記の接面通電性の経時的低下を抑制した多孔質金属ガス拡散シートとして、第2図に要部拡大概略縦断面工程図(a)〜(d)で示される通り、
発泡生成気孔と、焼結生成気孔が内在するスケルトン(骨格構造)からなり、かつ60〜99%の気孔率を有するTiの多孔質焼結体本体と、
前記Tiの多孔質焼結体本体の表面に、2〜100nmの平均粒径を有する超微粒Au粉のAuコロイド溶液を塗布(スプレー塗布)し、非酸化性雰囲気または真空雰囲気中、300〜500℃に加熱保持の条件で焼成することにより、20〜70面積%を占める分散分布割合で直接拡散接合してなるAu接点と、
前記Tiの多孔質焼結体本体の表面に直接拡散接合されたAu接点以外のTi露出面に加熱酸化性雰囲気(大気)で形成された絶縁性酸化チタン層、
で構成された多孔質Tiガス拡散シートなどが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−107091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、近年、燃料電池の高性能化および使用寿命の延命化に対する要求は益々強くなる傾向にあるが、上記の従来燃料電池においては、構造部材であるセパレータ板材は上記の通り黒鉛製であるので、通電性および耐食性の点では問題はないが、特に多孔質金属ガス拡散シートは、例えば上記の接面通電性の経時的低下を抑制した多孔質Tiガス拡散シートであっても、多孔質焼結体本体を構成するTi成分が実用時に時間の経過とともにAu接点内に拡散し、Au接点表面にまで達し、ここで酸化ガス流路を流れる約80℃の大気と燃料電池の反応生成物である水および/または水蒸気との混合ガスによって酸化されて酸化チタン膜が形成されるようになり、この結果接面通電性が著しく低下し、電池機能が低下するようになることから、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に燃料電池の多孔質金属ガス拡散シートの接面通電性に着目し、研究を行なった結果、
(a)燃料電池の多孔質金属ガス拡散シートを構成する多孔質焼結体本体を、上記多孔質Tiガス拡散シートと同じく、発泡生成気孔と、焼結生成気孔が内在するスケルトン(骨格構造)からなり、かつ60〜99%の気孔率を有する多孔質焼結体とするが、材質をTiに代わってオーステナイト系ステンレス鋼とすると、焼結時に表面部に組成式:Crを満足する酸化クロム層が形成され、この酸化クロム層は絶縁性を有し(通電性がない)、かつ化学的に著しく安定で、燃料ガス流路を流れる通常約80℃の水素ガスおよび酸化ガス流路を流れる約80℃の大気と燃料電池の反応生成物である水および/または水蒸気との混合ガスに対してすぐれた耐腐食性を示し、この場合前記作用効果を長期に亘って発揮するようにするためには、その平均層厚を焼結温度および焼結時間を調整して、5〜50nmとする必要があること。
【0009】
(b)第1図に要部拡大概略縦断面工程図(a)〜(c)で示される通り、上記のオーステナイト系ステンレス鋼の多孔質焼結体本体の表面、すなわち表面部に上記組成式:Crを満足する酸化クロム層(以下、絶縁性酸化クロム層という)が形成されている表面に、上記のTiの多孔質焼結体本体の表面に適用したと同じ条件、すなわち、2〜100nmの平均粒径を有する超微粒Au粉のAuコロイド溶液を塗布(スプレー塗布)し、非酸化性雰囲気または真空雰囲気中、300〜500℃に加熱保持の条件で焼成して、20〜70面積%を占める分散分布割合でAu接点を拡散接合すると、前記Au接点直下部分の酸化クロム層部分が、表面塗布された前記Auコロイド溶液中に含有するエタノールなどの還元成分の作用で焼成時に部分還元されて、組成式:Crを満足する酸化クロム層に比して酸素不足となるが、この場合焼成温度および焼成時間を調整して、組成式:Cr3−X(ただし、原子比でXは0.05〜1.1)を満足する酸化クロム(以下、導電性酸化クロムという)とすると、すぐれた通電性を具備するようになり、この結果前記オーステナイト系ステンレス鋼の多孔質焼結体本体と前記Au接点間にすぐれた通電性が確保されるようになること。
以上(a)および(b)に示される研究結果を得たのである。
【0010】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、固体高分子電解質膜の一方側面および他方側面に、それぞれアノードおよび多孔質金属ガス拡散シートを挟んでセパレータ板材が配置され、かつ前記セパレータ板材の一方側が燃料ガス流路、同他方側が酸化ガス流路となる構造の単一発電モジュールを複数個重ね合わせて圧接組み立てしてなる燃料電池において、前記多孔質金属ガス拡散シートを、
発泡生成気孔と、焼結生成気孔が内在するスケルトン(骨格構造)からなり、かつ60〜99%の気孔率を有するオーステナイト系ステンレス鋼の多孔質焼結体本体と、
前記多孔質焼結体本体の表面部に焼結時に形成された5〜50nmの平均層厚を有し、組成式:Crを満足する絶縁性酸化クロム層を介して、
2〜100nmの平均粒径を有する超微粒Au粉のAuコロイド溶液の塗布焼成により、前記多孔質焼結体本体の表面に20〜70面積%を占める分散分布割合で拡散接合してなるAu接点で構成すると共に、
前記Au接点直下部分の酸化クロム層部分を、表面塗布された前記Auコロイド溶液の焼成時に還元して組成式:Cr3−X(ただし、原子比でXは0.05〜1.1)を満足する導電性酸化クロムとした多孔質ステンレス鋼ガス拡散シートで構成してなる、すぐれた接面通電性を長期に亘って発揮する燃料電池に特徴を有するものである。
【0011】
つぎに、この発明の燃料電池の多孔質ステンレス鋼ガス拡散シートにおいて、上記の通りに数値限定した理由を以下に説明する。
(a)多孔質焼結体本体の気孔率
多孔質金属ガス拡散シートが燃料ガスおよび酸化ガスの流れを均一化し、反応面での局部的不均一性を抑制する目的で組み込まれることはよく知られるところであるが、多孔質焼結体の気孔率が60容量%未満では均一な燃料ガスおよび酸化ガスの流れを確保することができず、一方同気孔率が99容量%を越えると強度が急激に低下するようになることから、気孔率を60〜99容量%と定めた。
【0012】
(b)絶縁性酸化クロム層の平均層厚
オージェ電子分光装置で測定して、その平均層厚が5nm未満では、酸化クロム層のもつすぐれた絶縁性および耐腐食性を安定して長期に亘って確保することができず、一方その平均層厚が50nmを越えると、多孔質焼結体本体から剥離し易くなることから、その平均層厚を5〜50nmと定めた。
【0013】
(c)Auコロイド溶液中の超微粒Au粉の平均粒径
透過型電子顕微鏡で測定し、画像解析して求めた結果に基いて、その平均粒径が2nm未満ではAu粉に凝集現象が発生し易くなり、これが焼成後のAu接点の不均一化の原因となり、一方その平均粒径が100nmを越えると、Auコロイド溶液中における均一分散が困難になり、焼成後のAu接点の多孔質焼結体本体表面における分散分布の均一化が困難になることから、その平均粒径を2〜100nmと定めた。
【0014】
(d)Au接点の分散分布割合
走査型電子顕微鏡で測定し、画像解析ソフト(WinROOF)で求めた結果に基いて、その分散分布割合が20面積%未満では、所望の通電性を確保することができず、一方その分散分布割合が70面積%を越えると、剥離が起こり易くなることから、その分散分布割合を20〜70面積%と定めた。
【0015】
(e)導電性酸化クロムの組成式
オージェ電子分光装置を用いて測定した結果に基いて、組成式におけるX値が0.05未満では、所望のすぐれた通電性を確保することができず、一方同X値が1.1を越えると、多孔質焼結体本体の構成成分であるFeやCrが拡散移動するようになって、導電性酸化クロム層の表面に移動し、ここで酸化物を形成して、通電性低下の原因となることから、組成式におけるX値を0.05〜1.1と定めた。
【0016】
なお、この発明の燃料電池の多孔質ステンレス鋼ガス拡散シートを構成する多孔質焼結体は、例えば特開平09−143511号公報などに記載される通り、原料粉末として、所定の組成および粒度を有するオーステナイト系ステンレス鋼(以下、単にステンレス鋼という)粉末を用意し、質量%で、
上記ステンレス鋼粉末:10〜35%、
水溶性樹脂結合剤:1〜20%、
可塑剤:0.1〜5%、
起泡剤:0.1〜10%、
発泡剤:0.1〜5%、
イオン交換水:残り、
からなる配合割合の混合スラリーとし、この混合スラリーから、例えば公知のドクターブレード法やスリップキャスト法などの方法で所定形状の成形体を成形し、この成形体を5℃以上の温度に保持して、水よりも大きい蒸気圧を有する上記非水溶性炭化水素系有機溶剤を気化して、前記成形体内に微細にして整寸の気泡を多数発生させ、もって気泡生成気孔とスケルトンからなる多孔質成形体を形成し、この多孔質成形体は、上記水溶性樹脂結合剤によってハンドリング可能な強度をもち、また上記可塑剤によって可塑性も具備するものであり、ついで、前記多孔質成形体を通常の条件で焼結することにより製造することができる。
【0017】
また、上記の方法で、成形体を5℃以上の温度に保持することからなる気泡形成処理で形成された気孔(気泡生成気孔)と、焼結により形成された気孔(焼結生成気孔)を内在するスケルトンとで構成され、かつ60〜99%の著しく高い気孔率をもった多孔質焼結体が製造されるが、さらに強度向上を図る目的で、前記の60〜99%の気孔率をもった多孔質焼結体に、平面寸法はそのままに厚さだけを減少させる厚さ方向のみの圧縮プレスを施してもよく、この場合前記多孔質焼結体は、85〜90%の気孔率をもつものとする必要がある。
【発明の効果】
【0018】
この発明の燃料電池の多孔質ステンレス鋼ガス拡散シートは、すぐれた接面通電性を長期に亘って発揮し、燃料電池の使用寿命の延命化に大いに寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の燃料電池の多孔質ステンレス鋼ガス拡散シートの製造工程を示す要部拡大概略縦断面工程図である。
【図2】従来燃料電池の多孔質Tiガス拡散シートの製造工程を示す要部拡大概略縦断面工程図である。
【図3】燃料電池の全体斜視図である。
【図4】燃料電池の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、この発明の多孔質ステンレス鋼ガス拡散シートを構成部材とする燃料電池を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0021】
原料粉末として、表1に示されるJIS記号の成分組成に相当する成分組成をもったステンレス鋼溶湯を高圧水を用いてアトマイズして5〜15μmの範囲内の所定の平均粒径としたステンレス鋼粉末を用意し、質量%で(以下、%は質量%を示す)、
上記ステンレス鋼粉末:10〜30%の範囲内の所定量、
水溶性樹脂結合剤としてヒドロキシメチルセルローズ10%水溶液:5〜20%の範囲内の所定量、
可塑剤としてエチレングリコール:0.1〜5%の範囲内の所定量、
起泡剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム:0.1〜10%の範囲内の所定量、
発泡剤としてペンタン:0.1〜5%の範囲内の所定量、
イオン交換水:残り、
からなる配合割合に配合し、15分間混合して発泡スラリーとし、この発泡スラリーから、公知のドクターブレード法、すなわち前記発泡スラリーをスラリー溜めに入れ、前記スラリー溜め底面にそってキャリアシートを移動させて、前記キャリアシート上に前記発泡スラリーを乗せた後、前記キャリアシートの表面と0.9mm間隔を保持してセットされたブレードの前記間隙を通過させて、前記キャリアシート表面における発泡スラリーの厚さを幅方向に一定の0.9mmとし、ついでこれを湿度:80〜95%の範囲内の所定湿度、温度:30〜40℃の範囲内の所定温度の雰囲気に25分間保持して、発泡させ、さらに温度:80℃に20分間保持して、乾燥し、もって発泡生成気孔と、スケルトンからなり、かつ幅:200mm×長さ:3000mm×厚さ:約3mmの寸法をもった多孔質成形体を形成し、引き続いて前記多孔質成形体に、平面寸法:130mm×130mmに切断した状態で、Ar雰囲気中、550℃に180分間保持の脱脂処理を施した後、真空度:5×10−3Pa、焼結温度:1150〜1250℃の範囲内の所定温度、保持時間:0.5〜1.5時間の範囲内の所定時間の条件で真空焼結を施すことにより、前記スケルトン内に焼結生成気孔が形成され、それぞれ表1に示される気孔率を有し、かつ表面部には同じく表1に示される平均層厚の絶縁性酸化クロム層(Cr層)が形成された本発明多孔質焼結体本体をそれぞれ製造し、これをレーザー加工機および圧延機を用いて、平面寸法:100mm×100mm、厚さ:2mmの寸法に加工した。
【0022】
また、比較の目的で、原料粉末として、99.9%以上の純度および10〜30μmの範囲内の所定の平均粒径を有する純Ti粉末を用い、焼結温度を1100〜1250℃の範囲内の所定温度とし、さらに真空焼結後に多孔質焼結体本体の表面部に形成された酸化チタン層は酸洗除去する以外は上記本発明多孔質焼結体本体の製造条件と同じ条件で、表2に示される気孔率を有する従来多孔質焼結体本体を製造した。
【0023】
なお、この結果得られた本発明多孔質焼結体本体および従来多孔質焼結体本体について、その組織を走査型電子顕微鏡(100倍および1000倍)を用いて観測したところ、いずれも発泡生成気孔と、焼結生成気孔が内在するスケルトンからなることが確認された。
【0024】
また、別途市販のそれぞれ表1,2に示される粒径の超微粒Au粉が水およびエタノールの分散媒中で40%の濃度で懸濁含有した濃縮Auコロイド溶液を用意した。
【0025】
ついで、上記の濃縮Auコロイド溶液を、エタノールで所定濃度に薄めた状態で、上記の表面部に表1に示される層厚の絶縁性酸化クロム層(Cr層)が形成された本発明多孔質焼結体本体および表面部に酸化チタン層の形成がないTiの従来多孔質焼結体本体の表面に、スプレー装置を用いて所定の割合で塗布し、真空中、温度:470℃に3時間保持の条件で真空焼成して、それぞれ表1,2に示される分散分布割合のAu接点を拡散接合し、かつ前記従来多孔質焼結体本体につては、直接拡散接合されたAu接点以外のTi露出面に、酸化性雰囲気(大気)中、350〜500℃の範囲内の所定温度に、5〜60分の範囲内の所定時間保持の条件で加熱酸化処理を施して、それぞれ表2に示される平均層厚の絶縁性酸化チタン層(TiO層)を形成することにより、本発明多孔質ステンレス鋼ガス拡散シート(以下、本発明ガス拡散シートという)1〜11および従来多孔質Tiガス拡散シート(以下、従来ガス拡散シートという)1〜6をそれぞれ製造した。
【0026】
上記の本発明ガス拡散シート1〜11および従来ガス拡散シート1〜6の接面通電性について、その経時変化を評価する目的で、上記の各種ガス拡散シートから平面寸法:30mm×30mmの試験片を切り出し、この試験片を60℃の20%HNO水溶液で10分間酸洗処理した後、沸騰したイオン交換水で十分に洗浄し、完全に乾燥した状態で、ガス拡散シートが酸化ガスに曝される酸化性雰囲気、すなわち80℃の大気飽和水蒸気雰囲気中に1000時間、2000時間、および3000時間放置の腐食試験を行い、腐食試験後の接触電気抵抗値を測定した。
なお、接触電気抵抗値は、上記試験片:2枚を1組とし、これを厚さ:0.3mmの黒鉛製セパレータ板材を挟んで重ね合わせ、この重ね合わせた試験片を油圧プレスにて上下面から3MPaの圧力で加圧した状態で10Aの直流電流を流し、前記試験片相互間の電位差を測定し、この測定電位差から接触電気抵抗値を算出した。この結果を表1,2に示した。
この場合、接触電気抵抗値の低い方が腐食試験後の接面通電性がすぐれていることを示し、これとは反対に腐食試験後の接触電気抵抗値が高くなればなるほど接面通電性が低いことを示すものである。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
表1,2に示される結果から、本発明ガス拡散シート1〜11は、多孔質焼結体本体とAu接点間に形成された組成式:Cr3−X(ただし、原子比でXは0.05〜1.1)を満足する導電性酸化クロム層がすぐれた通電性を有し、かつ
化学的にきわめて安定した性質を有するので、多孔質焼結体本体の構成成分が前記導電性酸化クロム層を介してAu接点に拡散移動することがないので、Au接点が燃料ガスである水素ガスや酸化ガスである大気、さらに燃料電池の反応生成物である水や水蒸気の混合ガスなどに対してすぐれた耐食性を示すので、良好な接面通電性を長期に亘って確保することができるのに対して、従来ガス拡散シート1〜6は、多孔質焼結体本体にAu接点が直接拡散接合されているので、多孔質焼結体本体の構成成分であるTiが前記Au接点に拡散移動するのが避けられず、この結果Au接点の耐食性が低下し、酸化する(この場合全面酸化形態をとる)ことから、接面通電性が経時的に低下し、接触電気抵抗値の経時的増大は避けられないことが明かである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の一方側面および他方側面に、それぞれアノードおよび多孔質金属ガス拡散シートを挟んでセパレータ板材が配置され、前記セパレータ板材の一方側が燃料ガス流路、同他方側が酸化ガス流路となる構造の単一発電モジュールを複数個重ね合わせて圧接組み立てしてなる固体高分子型燃料電池において、前記多孔質金属ガス拡散シートを、
発泡生成気孔と、焼結生成気孔が内在するスケルトン(骨格構造)からなり、かつ60〜99%の気孔率を有するオーステナイト系ステンレス鋼の多孔質焼結体本体と、
前記多孔質焼結体本体の表面部に焼結時に形成された5〜50nmの平均層厚を有し、組成式:Crを満足する絶縁性酸化クロム層を介して、
2〜100nmの平均粒径を有する超微粒Au粉のAuコロイド溶液の塗布焼成により、前記多孔質焼結体本体の表面に20〜70面積%を占める分散分布割合で拡散接合してなるAu接点で構成すると共に、
前記Au接点直下部分の酸化クロム層部分を、表面塗布された前記Auコロイド溶液の焼成時に還元して組成式:Cr3−X(ただし、原子比でXは0.05〜1.1)を満足する導電性酸化クロムとした多孔質ステンレス鋼ガス拡散シートで構成したことを特徴とする、すぐれた接面通電性を長期に亘って発揮する固体高分子型燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−238517(P2010−238517A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84916(P2009−84916)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】