説明

ばね機構

【課題】ばね機構Sにおいて横向きのスライダを用いず、従来よりも摩擦抵抗を減らしながら、コストの上昇を招くこともなく、良好な等反発力特性を実現する。
【解決手段】上端部が被支持側に軸支され(A)、そこから斜め下向きに延びている第1リンク1と、上端部が第1リンク1の下端部に軸支され(B,C)、そこから斜め下向きに延びて第1リンク1と「く」字状をなし、下端部(D)が支持側部材5に軸支されている第2リンク2と、上端部が第1及び第2リンク1,2を繋ぐピン4に連結され、そこから斜め下向きに延びて、下端部(E,F)が支持側部材5に連結されている圧縮コイルばね3と、を備える。圧縮コイルばね3は予圧縮状態とされ、被支持体の荷重を受ける第1リンク1の上端部(A)が下方へ変位するに連れて、更に圧縮されつつ起き上がる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばねの反発力によって被支持体を支持するばね機構に関し、特に、変位に伴う反発力の変化が非常に小さな所謂等反発力特性を有するものに係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば起立補助用椅子のような福祉、医療機器或いは荷揚げ用のリフト等においては、それを使用する人間の負担を軽減するために、反発力の変化が非常に小さな所謂等反発力特性を有する機構が求められている。例えば起立補助椅子の場合は下肢の弱い人でも楽に座ったり、立ち上がったりすることができるように、椅子の座部を昇降させるものが既に提案されており、その座部の昇降にはばねや電動歯車、エアーバック等が用いられる。
【0003】
具体的にばねを用いる場合には、コイルばね等によって椅子の座部を下方から支持し、人の動作をばねの反発力によって補助することになるが、こうした場合、椅子から立ち上がる動作の過程でばねの圧縮量が減少するに連れて、反発力が減少することになり、立ち上がるまでに必要な反発力が得られないことがある。
【0004】
一方、電動歯車やエアーバック等を用いる場合は、歯車機構、モータ、制御装置、エアーポンプ等が必要になることから、重量が重くなる上に高価なものになってしまい、更に電源として充電器を搭載するか、或いは外部電源を確保しなくてはならない。
【0005】
このような問題に対し本発明者らは、コイルばねにリンク機構やスライダを組み合わせて、等反発力特性を発揮するばね機構を提案し、先に特許出願をしている(特許文献1を参照)。このものでは、上部フレーム及び下部フレームの間に被支持体の荷重を受ける主コイルばね(一次ばね)を配設するとともに、リンク及びスライダを介して上部フレームに上向きの力を加えるコイルばね(二次ばね)を設けており、この二次ばねに、上部フレームの下降に伴い反発力の減少する負のばね特性を発揮させることで、一次ばねと合わせた総反発力の変化が非常に小さくなるようにしている。
【特許文献1】特開2006−55494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来例(特許文献1)のばね機構では、横向きにスライド移動するスライダにリンクを介して上下方向の支持荷重が加わる構造になっていることから、摩擦抵抗が大きくなりやすいという問題があった。
【0007】
また、被支持体の荷重を受ける正のばね特性のコイルばねの他に、負のばね特性を発揮するコイルばねも設けなくてはならず、構造がやや複雑になってしまい、コストの上昇も懸念される。
【0008】
斯かる諸点に鑑みて本発明の目的は、横向きのスライダを用いない新しい構造によって従来よりも摩擦抵抗を小さくしながら、コストの上昇を招くこともなく、等反発力特性を実現可能なばね機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく本発明では、特に圧縮コイルばねのレイアウトに工夫を凝らし、単一のコイルばねによって正、負の両方のばね特性が現れるようにしたものである。すなわち、請求項1の発明は、ばねの反発力によって被支持体を支持するばね機構であって、第1及び第2の二つのリンクと圧縮コイルばねとを備えている。
【0010】
前記第1リンクは、上端部の荷重受部が被支持側に軸支され、且つ、上下方向に移動するように案内されるとともに、そこから斜め下向きに延びている。第2リンクは、上端部が前記第1リンクの下端部に軸支されるとともに、そこから斜め下向きに延びて第1リンクと「く」字状をなし、下端部が支持側に軸支されている。
【0011】
そして、前記圧縮コイルばねは、上端部が前記第1リンクの下端側に連結される一方、下端部は前記支持側に連結されて、上下方向から斜めに倒れるようにレイアウトされていて、前記第1リンクの荷重受部がその可動範囲の上限にあるときに既に圧縮された予圧縮状態とされているとともに、そこから荷重受部が下方へ変位するのに連れて第1リンクが倒れるように回動すると、これに伴い更に圧縮されつつ起き上がるようになっている。
【0012】
前記の構成により、被支持体の上下の移動に伴い第1リンク上端の荷重受部が下方に変位するときに、該第1リンクは全体として下方に移動しながら倒れるように下端部の周りに回動し、同様に第2リンクも全体として下方に移動しながら倒れるように下端部の周りに回動して、両者は上下に折り畳まれるように変形する。このとき、圧縮コイルばねは、前記第1リンクの動作に連れて上方から圧縮されつつ、下端部を中心に起き上がるようになる。
【0013】
そうして圧縮されることによってコイルばねの反発力(軸方向)が増大するとともに、それが起き上がることによって反発力の上下方向の割合も大きくなり、第1リンクを介して被支持体を持ち上げる力が増大する。一方で、そうして起きあがることによって反発力の水平方向の割合は小さくなり、この水平方向の分力が第1リンクを介して被支持体に作用する持ち上げ力は小さくなる。
【0014】
つまり、被支持体を持ち上げるように作用する力は、圧縮コイルばねの反発力の上下方向分力によるものが、その圧縮量の増大に連れて大きくなる正のばね特性を示す一方で、反発力の水平方向分力によるものは圧縮量の増大に連れて減少する負のばね特性を示すようになり、単一のコイルばねによって簡易に等反発力特性が得られる。
【0015】
より具体的に、圧縮コイルばねの上端部を、第1リンクの下端部と第2リンクの上端部とを繋ぐ支軸に連結した場合、その第2リンクの腕の長さをLとし、また、第1リンクの荷重受部がその可動範囲の下限にあるときに、前記第2リンクが水平方向に対し成す角度をθminとすれば、前記圧縮コイルばねは、その下端部と前記第2リンクの下端部との水平方向の間隔が、L×cosθminよりも大きく且つL×tanθminよりも小さくなるようにレイアウトすればよい(請求項2)。
【0016】
こうすれば、圧縮コイルばねは、荷重受部がその可動範囲において上限から下限に亘り下方に変位するときに、これに伴い圧縮されつつ常に起き上がるようになって、前記請求項1の発明の作用が得られる。
【0017】
好ましいのは、第1、第2リンク及び圧縮コイルばねを左右に並べて、対称状に対を成すように設け、その対を成す第1リンクの荷重受部同士を共通の支軸によって被支持側に軸支することである(請求項3)。尚、左右というのは、リンクを繋ぐ支軸の軸方向に見て左右という意味である。こうすれば、ばね機構の動作が安定するとともに、左右両側の各圧縮コイルばねの反発力によって対を成す第1リンクがそれぞれ斜め上向きに付勢されることから、荷重受部には左右の中央に寄せるような力が作用し、その移動方向が概ね上下方向になる。
【0018】
その場合に、より好ましいのは、第1及び第2リンクの少なくとも一方を、対を成す相手方の第1乃至第2リンクと引張コイルばねによって連結することであり(請求項4)、こうすれば、引張コイルばねの引張力によって等反発力特性の改善が図られる。
【0019】
更に、前記の構成において第1リンクの動作を規制する規制リンクを設けて、第2リンクがその下端部の周りに回動するときに、第1リンクの上端の荷重受部が上下方向にのみ移動するように案内することもできる(請求項5)。尚、荷重受部は、例えばスライダによって上下方向に案内するようにしてもよく、こうしても従来例(特許文献1)のように摩擦抵抗が大きくなることはない。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明に係るばね機構によると、単一の圧縮コイルばねによって正、負の両方のばね特性が現れるようにしたので、比較的簡単な構造でコスト上昇の心配もなく、等反発力特性を有するばね機構を実現できる。横向きのスライダは不要であり摩擦抵抗の大きくなる心配もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基いて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
図1には本発明に係るばね機構Sの構成を示す。これは、図に白抜きの矢印で示すように上方から作用する被支持体(図示せず)の荷重Wをばねの反発力(黒矢印Pとして示す)によって支持するものであり、後述するように例えば昇降装置として用いれば(図9を参照)、重量物を比較的小さな力で昇降できるようになる。ばね機構Sの用途としては他にもパンタグラフとして用いることが考えられる(図10を参照)。
【0023】
本発明に係るばね機構Sは、上述した特許文献1のものと同じく、変位に伴うばね力の変化が非常に小さな所謂等反発力特性を有する。その理想的な例は図2に示すように、変位xの増大に伴い比例的にばね力が増大する通常の(正の)ばね特性に対して、ばね定数の絶対値が同じで負の値となるような負の特性のばねのメカニズムを並列に組み合わせて、両者を合わせた総ばね力が変位xによらず略一定になるようにしたものである。
【0024】
この実施形態のばね機構Sは、図1に示すように4つのリンク1,1,2,2をひし形状に組み合わせ、左右両隅部をそれぞれ圧縮コイルばね3,3によって上方に付勢している。上の2つのリンク1,1(以下、第1リンク)は、それぞれの上端部が共通のピン4(支軸であって、この例では荷重受部でもある。以下、A点とも呼ぶ)によって被支持側の部材(図示せず)に軸支されていて、そのピン4を介して被支持体の荷重Wを受けるようになっている。
【0025】
前記2つの第1リンク1,1は、下方に向かって徐々に離れるよう斜め下向きに(左側は左下に、右側は右下に)延びていて、その下端部には、下の2つのリンク2,2(以下、第2リンク)の上端部がピン4(支軸:B点、C点)によって回動可能に連結されている。これら第2リンク2,2は、互いに徐々に近づくよう斜め下向きに(左側は右下に、右側は左下に)延びていて、その下端部は共通のピン4(支軸:D点)によって基礎側(支持側)の部材5に回動可能に連結されている。
【0026】
また、図の例では、左右両隅のピン4,4(B点、C点)にそれぞれ圧縮コイルばね3,3の上端部が連結されて、第1、第2リンク1,2に対し回動可能になっている。これら圧縮コイルばね3,3は、それぞれ、第2リンク2,2とは反対側の斜め下向きに(左側は左下に、右側は右下に)延びていて、その下端部は、それぞれピン4(支軸:E点、F点)によって基礎側部材5に回動可能に連結されている。
【0027】
さらに、この例では、同図(a)のように4つのリンク1,1,2,2が概ね正方形状となるとき(一例であり、これに限らない)がばね機構Sの最高位置になり、この状態からひし形リンク1,1,2,2が潰れるように折り畳まれると、これに伴い左右の圧縮コイルばね3,3がそれぞれ圧縮されつつ起き上がるようになっている。同図(b)のように圧縮コイルばね3が最も起き上がったときが、ばね機構Sの最低位置である。
【0028】
左右の圧縮コイルばね3,3は、いずれも前記最高位置において既に圧縮された状態になるよう予圧縮状態で組み付けられており、それぞれピン4,4を介し第1リンク1,1を上方斜め内向きに押圧付勢している。これにより、第1リンク1,1の上端部同士を連結するピン4(A点)には、上方への持ち上げ力とともに左右の中央に寄せるような力も作用するようになり、ピン4は概ね上下方向に移動するように案内される。
【0029】
尚、図示はしないが実際に使用する場合には、ばね機構Sの動作を最高位置から最低位置までの範囲に制限すべくストッパ機構を設けることが好ましく、その最高位置におけるA点高さがピン4の可動範囲の上限に対応し、最低位置のA点高さは下限に対応する。
【0030】
図から明らかなようにばね機構Sは、ひし形リンクの上下両隅を結ぶ線分ADに対して左右対称であり、第1リンク1、第2リンク2及び圧縮コイルばね3が線対称に一対、設けられている。よって、ばね機構Sの力学的な挙動については左若しくは右の半分について検討すれば十分であり、以下では図3〜5を参照して左半部についてのみ説明する。
【0031】
図3に示すように、ばね機構Sの左半部において第1及び第2リンク1,2は「く」字状をなし、それらが上下に広がったり折り畳まれたりすることで、A点が上下方向に変位するようになっている。同図(a)のようにA点がその可動範囲の上限(最高位置)にあるときに、圧縮コイルばね3は既に所定量圧縮されていて、そこから下方にA点が変位するに連れて更に圧縮されつつ、起き上がるようになる。このことでばね機構Sは、正、負の両方のばね特性を示すことになる。
【0032】
詳しくは、A点の変位xは下向きを正とし、図3(a)の最高位置でx=0とすると、この最高位置において圧縮コイルばね3は既に圧縮されているから、図示のようにB点には圧縮コイルばね3の軸心方向にP0という初期反発力が発生している。この初期反発力P0は、図示のように上下方向と水平方向とに分解することができ、それらは更に第1リンク1の軸心方向の力と、それに直交する方向の力とに分解される。
【0033】
すなわち、図4に第1リンク1のみを取り出して示すように、上下方向分力はリンク軸心方向の力と水平方向の力とに分解でき、第1リンク1における力の釣り合いからA点には持ち上げ力F1,0が発生する。同様に、水平方向分力はリンク軸心方向の力と上下方向の力とに分解でき(図5に示す)、これによりA点にはF2,0という持ち上げ力が発生する。そして、A点における持ち上げ力は、変位xの関数として F(x) = F1(x)+F2(x) と表される。
【0034】
最高位置からA点が下方に移動し変位xが増大するに連れて、第1リンク1が第2リンク2との連結ピン4(B点)の周りに図の時計回りに回動するとともに、第2リンク1は基礎側部材5との連結ピン4(D点)の周りに図の反時計回りに回動し、両者は全体として下方に移動しながら折り畳まれる(図1(b)を参照)。この際、B点はD点を中心とする円周上を斜め左下向きに移動することになり、圧縮コイルばね3は圧縮されつつ、その下端部(E点)を中心に図の反時計回りに回動して起き上がる。
【0035】
そうして圧縮されるコイルばね3の反発力(軸方向)Pは、初期反発力P0よりも大きくなるし、それが起き上がって第1リンク1と成す角度が変化することで、図4に示すように反発力Pの上下方向の分力も大きくなって、第1リンク1を介して被支持体に作用する持ち上げ力F1も増大する。同図(b)に示すように、持ち上げ力F1は、ばね機構Sの最低位置(x=xmax)においてで最大値F1,maxになる。
【0036】
一方で、そうして圧縮コイルばね3が起きあがることによって、反発力Pの水平方向の分力は小さくなるので、この水平方向分力が第1リンク1を介して被支持体を持ち上げる力F2も小さくなってゆき、図5(b)に示す最低位置で最小値F2,minになる。この最低位置では圧縮コイルばね3は最も起き上がった状態になっており、その軸心は完全に上下方向を向くか或いは少しだけ倒れた状態になる。完全に上下方向に向く場合、水平方向分力による持ち上げ力F2,min=0になる。
【0037】
このように、第1リンク1を介して被支持体に作用する圧縮コイルばね3の反発力は、その上下方向分力による持ち上げ力F1が変位xと共に増大する正のばね特性を示す一方、水平方向分力による持ち上げ力F2は、変位の増大に連れて減少する負のばね特性を示すようになる。つまり、単一の圧縮コイルばね3の反発力に基づいて被支持体への持ち上げ力に正、負の両方のばね特性が現れることになり、これにより簡単な構造で等反発力特性が得られるものである。
【0038】
−圧縮コイルばねのレイアウト−
前記したようにばね機構Sにおいて、可動範囲内でA点が下降するに連れて圧縮コイルばね3が起き上がるようにするためには、図6に模式的に示すように、第2リンク2の腕の長さをLとし、A点がその可動範囲の下限にある最低位置(x=xmax)の状態で第2リンク2が水平方向に対し成す角度をθminとして、圧縮コイルばね3の下端部(E点)を、第2リンク2の下端部(D点)から水平方向に L×cosθmin 以上は離すとともに、且つ L×tanθmin よりは短い間隔とするのがよい。
【0039】
仮に、D点E点の間隔がL×cosθminよりも小さいと、A点が下方に変位する途中で直立した圧縮コイルばね3が反対側に倒れることになる一方、仮にE点をD点からL×tanθmin以上離すと、A点が下方に変位する途中で起き上がりかけた圧縮コイルばね3が再び同じ側に倒れるようになってしまうからである。
【0040】
−最適実施例−
図7は、この実施形態に係るばね機構Sの一実施例を示し、これは、A点の変位による被支持体の持ち上げ力の変動が最小となるように最適化したものである。すなわち、図示のように第2リンク2が水平方向に対し成す角度をθ1、圧縮コイルばね3が水平方向に対し成す角度をθ2 とし、また、この圧縮コイルばね3の反発力(軸方向)をPとし、第1及び第2リンク1,2の重量をいずれもmとすると、詳しい説明は省略するが、重力加速度をgとして、ばね機構Sによる持ち上げ力Fは、
F = P(tanθ1 cosθ2+sinθ2)−2mg ・・・(1) となる。
【0041】
本発明のばね機構Sにおいては、所要の持ち上げ力を発揮しながら、その大きさの変動がA点の変位に対してできるだけ小さいことが望ましいから、A点の変位に伴うリンクやばねの角度θ1 ,θ2の変化や反発力Pの変化に対する持ち上げ力Fの変動率を、その持ち上げ力の目標値からの偏差の平均値によって定義し、この値(平均変動率)が最小になるように設計すればよい。
【0042】
より具体的に、ばね機構Sの設計パラメータは、図示のように、最高位置及び最低位置におけるA点の高さhmax,hmin 、基礎側の寸法によって決まるE点F点の水平方向間隔b(基礎部長さ)、最低位置におけるB点E点の水平方向間隔λ(第2リンク2の回転余裕長さ)、圧縮コイルばね3のばね定数k、その初期反発力P01 の6種類であり、これらを決定することで任意の位置における持ち上げ力Fが決定される。
【0043】
そして、要求される持ち上げ力Fの大きさ、即ち目標値をF0とすれば、この目標値F0に対する実際の持ち上げ力Fの変動を表す指標として以下の式(2)に示す平均変動率δを用いることができる。
【0044】
【数1】

【0045】
平均変動率δが小さいほど、A点の変位による持ち上げ力Fの変動が小さく、変位に依らず概ね一定の持ち上げ力が得られることになる。ここで、持ち上げ力Fは前記の式(1)によって求められ、詳しい説明は省略するが、前記式(2)の平均変動率δの計算には前記6種の設計パラメータhmax、hmin 、b、λ、k、P01 の他に持ち上げ力の目標値F0 が必要になる。但し、この目標値F0 やA点のストロークs(hmax−hmin )及び基礎部の長さbは設計条件として与えられることが多いので、これらの値を固定すれば、設定すべきパラメータはA点最小高さhmin 、回転余裕長さλ、ばね定数k、の3つになる。
【0046】
例えば、持ち上げ力Fの目標値500N、A点のストロークs=60mm、基礎部長さb=300mmを与えて、平均変動率δが最小となるようなhmin 、λ、kの値を探索した結果、得られた最適解が図示の実施例である。この実施例のばね機構SについてA点の変位xと持ち上げ力Fとの関係を計算によって求めると図8のグラフのようになって、最適なパラメータ設定により良好な等反発力特性が得られることが分かる。
【0047】
したがって、この実施形態に係るばね機構Sによると、主に図3〜5を参照して説明したように、単一の圧縮コイルばね3によって正、負の両方のばね特性が現れるようにしたので、比較的簡単な構造でコスト上昇の心配もなく、最適設計によって図8のような良好な等反発力特性を得ることができる。
【0048】
また、従来例(特許文献1)のような横向きのスライダを用いていないので、被支持体の荷重Wを上下方向の受けても摩擦抵抗はあまり大きくならない。しかも、図1等から明らかなように圧縮コイルばね3の反発力を第1リンク1に伝えて斜め上方に向けるようにしており、ばねの反発力Pを有効に変換して、大きな持ち上げ力Fを得ることができる。
【0049】
−適用例−
図9は、前記実施形態のばね機構Sを昇降装置に適用した例を示し、このものでは重量物の搭載される天板10(被支持側の部材)に概ね一定の持ち上げ力を付加して、それを比較的小さな力で昇降させることができるので、テレビやパソコン、水槽等が搭載される天板10の高さを容易に調節できる。また、介護用ベッドや補助椅子等に適用すれば、介護者や使用者の負担を軽減することができる。
【0050】
具体的に図の例では、前記図1のばね機構Sの左右両半部を前後方向にずらして奥行きを与えるようにしている。また、その左半部と右半部とを前後方向に見て重なるように配置して、コンパクト化を図っている。こうした場合、第1リンク1の上端(A点)を上下方向に移動するように案内する必要があり、そのために図の例では第1リンク1の動作を規制する規制リンク6を設けている。
【0051】
規制リンク6の下端部はピン4によって基礎側部材5に軸支され、その上端部は、第1リンク1の下端部から更に下方に延びる延出部1aにピン4によって軸支されている。これにより、第2リンク2がその下端部(D点)の周りに回動するときに、第1リンク1の上端部(A点)は上下方向にのみ移動するようになる。
【0052】
また、図10は、電車の集電装置であるパンタグラフへの適用例を示す。一般にパンタグラフは、架線の節位置と腹位置との張力の変化による高さの変動や電車の走行振動によって架線との接触力が変動し、これが大きいときには舟体が架線から離れてしまうことがある。このような離線現象が起きると架線と舟体との間にスパークが発生し、摩耗や断線、騒音等の問題を引き起こすとともに、安定した集電が困難になって電車の走行に悪影響を及ぼす虞れもある。
【0053】
そこで、この実施形態のばね機構Sをパンタグラフに適用して、図示の如く第1リンク1の上端に舟体20(被支持側の部材)を取り付けるようにすれば、この舟体20の高さの変化によらず架線30との間の接触力を概ね一定に保つことができ、前記のような問題を未然に防止することができる。尚、図示の符号31は電車の屋根であり、その上に基礎側部材5が配設される。
【0054】
−他の実施形態−
尚、本発明に係るばね機構は、前記実施形態の構造に限定されず、それ以外の種々の構造を含んでいる。すなわち、例えば図9、10のようなばね機構Sでは、規制リンク6によって第1リンク1の動作を規制し、その上端部(A点)が上下方向にのみ移動するように案内しているが、これに限らず、例えば上下方向のスライダによってA点を案内するようにしてもよい。被支持体の荷重は上下方向に作用するので、上下方向のスライダを設けても摩擦抵抗はあまり大きくはならない。
【0055】
また、図1のように第1、第2リンク1,2をひし形状に設けた場合、A点の上下ストロークが大きくなると、その変位xと持ち上げ力Fとの関係が線形からずれてゆき、模式的には図11(b)に破線のグラフで示すように、下に凸の2次関数的な特性を示すことが分かった。この点につき従来より、ひし形リンクの左右両隅部同士を横向きの引張ばねで連結すると、このばねの反発力による持ち上げ力は同図に一点鎖線のグラフで示すように上に凸の2次関数的な特性を示すことが知られている。
【0056】
そこで、同図(a)のようにばね機構Sの第1、第2リンク1,2によるひし形の左右両隅部のピン4,4(B点、C点)同士を引張コイルばね7によって連結すれば、実線のグラフで示すように前記2つの特性が相殺し合って、ばね機構SにおけるA点の変位に伴う持ち上げ力の変動が更に小さくなる。引張コイルばね7は、図示の如く左右両隅部のピン4,4(B点、C点)を連結する必要はなく、第1リンク1,1同士を連結してもよく、要するに、第1及び第2リンク1,2の少なくとも一方を、対を成す相手方の第1乃至第2リンク1,2と連結すればよい。
【0057】
前記の実施形態では、ばね機構Sとして第1、第2リンク1,2及び圧縮コイルばね3を一対、左右対称状に設けているが、これに限らず、適用例2のように左右いずれか一方の半部のみを設けてもよいし、複数対、設けてもよい。また、図1のように、互いに対を成す第1リンク1,1の上端部を共通のピン4によって被支持側に軸支する必要もなく、適用例1のように個別に軸支するようにしてもよい。
【0058】
さらに、第1及び第2リンク1,2は、同じものでなくてもよく、その長さや太さ、或いは重さ等の異なるものであってもよい。圧縮コイルばね3の上端部はピン4に連結しなくてもよく、第1リンク1か第2リンク2に連結してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上、説明したように本発明のばね機構は、比較的簡単な構造で等反発力特性が得られ、摩擦抵抗が大きくなったりコストが上昇する心配もないから、昇降装置やパンタグラフ等、幅広い用途に好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施形態に係るばね機構の概略構成図である。
【図2】理想的な等反発力特性の説明図である。
【図3】ばね機構の力学的な挙動をその左半部について説明する図である。
【図4】ばねの反発力の上下方向分力による持ち上げ力の説明図である。
【図5】ばねの反発力の水平方向分力による持ち上げ力の説明図である。
【図6】圧縮コイルばねのレイアウトの説明図である。
【図7】ばね機構の最適化した実施例に係る図1相当図である。
【図8】同実施例の変位と持ち上げ力との関係を示すグラフ図である。
【図9】昇降装置に適用した例の概略構成図である。
【図10】パンタグラフに適用した例の概略構成図である。
【図11】横向きの引張コイルばねを設けた他の実施形態に係る図1相当図である。
【符号の説明】
【0061】
S ばね機構
1 第1リンク
2 第2リンク
3 圧縮コイルばね
4 ピン(支軸)
5 基礎側(支持側)の部材
6 規制リンク
7 引張コイルばね
10 天板(被支持側の部材)
20 舟体(被支持側の部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばねの反発力によって被支持体を支持するばね機構であって、
上端部の荷重受部が被支持側に軸支され、且つ、上下方向に移動するように案内されるとともに、そこから斜め下向きに延びている第1リンクと、
上端部が前記第1リンクの下端部に軸支されるとともに、そこから斜め下向きに延びて第1リンクと「く」字状をなし、下端部が支持側に軸支されている第2リンクと、
上端部が前記第1リンクの下端側に連結され、そこから斜め下向きに延びて、下端部が前記支持側に連結されている圧縮コイルばねと、を備え、
前記圧縮コイルばねは、前記第1リンクの荷重受部がその可動範囲の上限にあるときに既に圧縮されている予圧縮状態とされ、当該荷重受部の下方への変位に伴い第1リンクが倒れるのに連れて更に圧縮されつつ起き上がるようにレイアウトされている、
ことを特徴とするばね機構。
【請求項2】
圧縮コイルばねの上端部は、第1リンクの下端部と第2リンクの上端部とを繋ぐ支軸に連結され、
前記第2リンクの腕の長さをLとし、
前記第1リンクの荷重受部がその可動範囲の下限にあるときに、前記第2リンクが水平方向に対して成す角度をθminとして、
前記圧縮コイルばねは、その下端部と前記第2リンクの下端部との水平方向の間隔が、L×cosθminよりも大きく且つL×tanθminよりも小さくなるようにレイアウトされている、請求項1に記載のばね機構。
【請求項3】
第1、第2リンク及び圧縮コイルばねが、左右に並んで対称状に対を成して設けられ、
互いに対を成す前記第1リンクの荷重受部同士が、共通の支軸によって被支持側に軸支されている、請求項1又は2のいずれかに記載のばね機構。
【請求項4】
第1及び第2リンクの少なくとも一方が、対を成す相手方の第1乃至第2リンクと引張コイルばねによって連結されている、請求項3に記載のばね機構。
【請求項5】
第2リンクがその下端部の周りに回動するときに、第1リンクの上端の荷重受部が上下方向にのみ移動するように当該第1リンクの動作を規制する規制リンクが設けられている、請求項1〜4のいずれか1つに記載のばね機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−203531(P2010−203531A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50147(P2009−50147)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】