説明

めっきが施されたアルミニウム合金鋳物及びその製造方法

【課題】優れた強度、靱性及び硬度を有し、かつ、密着性及び光輝性に優れためっきが施されたアルミニウム合金鋳物を提供する。また、そのようなアルミニウム合金鋳物の製造方法を提供する。
【解決手段】無電解ニッケルめっき層を有するアルミニウム合金鋳物であって、該アルミニウム合金が、Mg:1.5〜5.5重量%、Zn:1.6〜5.0重量%、Si:0.4重量%以下、Fe:0.4重量%以下、Cu:0.4重量%以下、Ti:0.2重量%以下、B:0.1重量%以下及びBe:0.1重量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、電解研磨された前記鋳物の表面に、ジンケート処理層を有し、さらに、その上に前記無電解ニッケルめっき層を有することを特徴とする、めっきが施されたアルミニウム合金鋳物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解研磨されたアルミニウム合金鋳物の表面にめっきが施されてなるアルミニウム合金鋳物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金鋳物は、自動車、バイクなどの輸送機器;自転車、釣り具などのレジャー用品;建築部材;電子機器又は日用品など、様々な分野に用いられている。合金材料のなかでもアルミニウム合金は比較的高い比強度を有することから、アルミニウム合金鋳物は強度とともに軽さも要求される用途において好適に用いられている。一方、アルミニウム合金鋳物が外装部品などとして用いられる場合には、機械的性質に加えて、意匠性も要求されることが多い。めっき処理は、アルミニウム合金鋳物に意匠性を付与するために一般的に用いられる方法の一つであり、意匠性を向上させる効果に特に優れている。めっきを施すことにより、表面の光輝性が向上し、金属光沢による質感や美感が得られる。しかしながら、アルミニウム合金鋳物、特に、強度が要求される用途などに広く用いられているSiを含有するアルミニウム鋳物にめっきを施す場合には、工程が煩雑であったうえに、不良の発生率が高い場合も多く、コスト高であった。
【0003】
アルミニウム合金鋳物に対するめっき処理は、通常、鋳造して得られた鋳物を研磨した後に、研磨した鋳物の表面に下地層を形成し、その上にめっき層を形成することにより行われる。めっき層は複層であってもよく、必要に応じて中間めっき層が形成される。めっきを形成するに際して、表面のめっき層の光輝性には、下地層を形成する前の鋳物の表面の平滑性が大きく影響する。そのため、光輝性の優れためっきを形成するためには、下地層を形成する前にできるだけ鋳物の表面を平滑化しておくことが好ましい。
【0004】
Siを含有するアルミニウム合金からなる鋳物の表面には、Siが偏析した硬い析出物が生じる。これまで、このようなアルミニウム合金鋳物の研磨は、バフ研磨により行われることが多かった。しかしながら、偏析したSiが生じた場合には、バフ研磨を行っても、十分に表面を平滑化できない場合があった。そのため、光輝性の優れためっきを形成するためには、中間めっき層を厚くしたり、或いは、中間めっき層を形成し、さらにその表面を研磨することなどにより平滑化を行う必要があり、コストの増加を招いていた。
【0005】
さらに、バフ研磨は作業が非常に煩雑であるうえに、バフ研磨では複雑な形状の部分を研磨することが難しかった。また、研磨剤等が残留しているとめっき層の密着性や平滑性が低下する。したがって、バフ研磨後には、酸エッチングやアルカリエッチングにより研磨剤等の付着物の除去を行う必要があるが、このときのエッチングにより、研磨した表面が荒れてしまう場合があった。一方、鋳物の表面にSiが析出している場合には、バフ研磨以外の研磨方法を用いることも難しかった。
【0006】
また、Siを含有するアルミニウム合金からなる鋳物の表面に析出したSiは、めっきされにくいため、めっき層の密着性を悪化させる。そのため、めっき層に膨れが発生し易くなり、めっき不良の原因となっていた。
【0007】
特許文献1には、自動二輪車用の装飾用カバーを、Siを含むアルミニウム材で形成し、このアルミニウム材の表面をバフ研磨し、バフ研磨した面に、錯化性を有する陰イオンを含む化合物、酸素酸アニオンを含む有機酸及びハロゲン化物からなる電解液で陽極酸化膜を形成し、形成された陽極酸化膜にNiめっきを施し、Niめっき膜の表面にCrめっきを施したアルミニウム合金製装飾用カバーが記載されている。前記電解液は、陽極酸化を行う際に、見掛け上、Alイオンの溶出速度を凹部で遅く、凸部で速くさせる作用を有するため、得られる陽極酸化膜の表面が平滑になると記載されている。これにより、最表面に形成されるCrめっきは、めっきが施される前の成形品表面の凹凸の影響を受けず、平滑な表面が得られるとされている。しかしながら、バフ研磨は作業が煩雑であり、コスト面で問題があった。また、バフ研磨では、めっき前のカバーの表面が十分に平滑化されないため、形成されるめっきの光輝性がなお不十分である場合があった。
【0008】
一方、Siを含有しない鋳造用のアルミニウム合金も提案されている。特許文献2には、Mg2〜6%、Zn1〜5%、Ti0.03〜0.4%、Zr0.03%〜0.4%と、Mn0.10〜1.0%、Cr0.05〜0.6%のいずれか1種以上とを含み、かつTiとZrの合計が0.4%以下で、残部Alおよび不可避不純物からなる鋳造用アルミニウム合金が記載されている。このようなアルミニウム合金は耐食性、耐応力腐食性、陽極酸化性、機械加工性などのAl−Mg系合金の有する諸性質を維持したまま、鋳造性、機械的性質、溶接性が改善されているとされている。実施例には、鋳造した該アルミニウム合金をアルカリエッチングしてリン酸−硝酸溶液で化学研磨した後、厚さ10μmの陽極酸化皮膜を形成したものが記載されており、このときの表面は美しい銀白色を呈していたとされている。しかしながら、化学研磨により研磨された当該アルミニウム合金鋳物の平滑性はなお不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−111495号公報
【特許文献2】特開昭62−17147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、優れた強度、靱性及び硬度を有し、かつ、密着性及び光輝性に優れためっきが施されたアルミニウム合金鋳物を提供することを目的とするものである。また、そのようなアルミニウム合金鋳物の簡便な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、無電解ニッケルめっき層を有するアルミニウム合金鋳物であって、該アルミニウム合金が、Mg:1.5〜5.5重量%、Zn:1.6〜5.0重量%、Si:0.4重量%以下、Fe:0.4重量%以下、Cu:0.4重量%以下、Ti:0.2重量%以下、B:0.1重量%以下及びBe:0.1重量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、電解研磨された前記鋳物の表面に、ジンケート処理層を有し、さらに、その上に前記無電解ニッケルめっき層を有することを特徴とする、めっきが施されたアルミニウム合金鋳物を提供することによって解決される。
【0012】
このとき、前記無電解ニッケルめっき層の上に、さらに、電気ニッケルめっき層を有することが好適であり、前記電気ニッケルめっき層の上に、さらに、電気クロムめっき層を有することがより好適である。ここで、前記無電解ニッケルめっき層と前記電気ニッケルめっき層の間に、電気銅めっき層を有することも好適である。
【0013】
上記課題は、電気銅めっき層と電気ニッケルめっき層を有するアルミニウム合金鋳物であって、該アルミニウム合金が、Mg:1.5〜5.5重量%、Zn:1.6〜5.0重量%、Si:0.4重量%以下、Fe:0.4重量%以下、Cu:0.4重量%以下、Ti:0.2重量%以下、B:0.1重量%以下及びBe:0.1重量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、電解研磨された前記鋳物の表面に、ジンケート処理層を有し、その上に前記電気銅めっき層を有し、さらにその上に前記電気ニッケルめっき層を有することを特徴とする、めっきが施されたアルミニウム合金鋳物を提供することによっても解決される。
【0014】
このとき、前記電気ニッケルめっき層の上に、さらに、電気クロムめっき層を有することが好適である。
【0015】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、JIS Z8741に基づいて測定した光沢度が100%以上であることが好適である。
【0016】
上記課題は、Mg:1.5〜5.5重量%、Zn:1.6〜5.0重量%、Si:0.4重量%以下、Fe:0.4重量%以下、Cu:0.4重量%以下、Ti:0.2重量%以下、B:0.1重量%以下及びBe:0.1重量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を鋳造して鋳物を得て、該鋳物の表面を電解研磨した後にジンケート処理し、さらに、その上に無電解ニッケルめっき層を形成する、めっきが施されたアルミニウム合金鋳物の製造方法を提供することによっても解決される。
【0017】
また、上記課題は、Mg:1.5〜5.5重量%、Zn:1.6〜5.0重量%、Si:0.4重量%以下、Fe:0.4重量%以下、Cu:0.4重量%以下、Ti:0.2重量%以下、B:0.1重量%以下及びBe:0.1重量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を鋳造して鋳物を得て、該鋳物の表面を電解研磨した後にジンケート処理し、その上に電気銅めっき層を形成し、さらにその上に電気ニッケルめっき層を形成する、めっきが施されたアルミニウム合金鋳物の製造方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、優れた光輝性を有するめっきが密着性よく形成されているうえに、優れた強度、靭性及び硬度も有する。また、本発明のアルミニウム合金鋳物の製造方法によれば、そのようなアルミニウム合金鋳物を簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1におけるめっきが施されたアルミニウム合金鋳物の表面のデジタルカメラ画像。
【図2】実施例2におけるめっきが施されたアルミニウム合金鋳物の表面のデジタルカメラ画像。
【図3】実施例3におけるめっきが施されたアルミニウム合金鋳物の表面のデジタルカメラ画像。
【図4】実施例4におけるめっきが施されたアルミニウム合金鋳物の表面のデジタルカメラ画像。
【図5】実施例5におけるめっきが施されたアルミニウム合金鋳物の表面のデジタルカメラ画像。
【図6】比較例1におけるめっきが施されたアルミニウム合金鋳物の表面のデジタルカメラ画像。
【図7】比較例2におけるめっきが施されたアルミニウム合金鋳物の表面のデジタルカメラ画像。
【図8】比較例3におけるめっきが施されたアルミニウム合金鋳物の表面のデジタルカメラ画像。
【図9】比較例4におけるめっきが施されたアルミニウム合金鋳物の表面のデジタルカメラ画像。
【図10】比較例5におけるめっきが施されたアルミニウム合金鋳物の表面のデジタルカメラ画像。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、無電解ニッケルめっき層を有するアルミニウム合金鋳物であって、該アルミニウム合金が、Mg:1.5〜5.5重量%、Zn:1.6〜5.0重量%、Si:0.4重量%以下、Fe:0.4重量%以下、Cu:0.4重量%以下、Ti:0.2重量%以下、B:0.1重量%以下及びBe:0.1重量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、電解研磨された前記鋳物の表面に、ジンケート処理層を有し、さらに、その上に前記無電解ニッケルめっき層を有するものである。
【0021】
本発明のアルミニウム合金鋳物に用いられる前記アルミニウム合金は、Mgを1.5〜5.5重量%含有する。MgをZnとともに含有することで本発明のアルミニウム合金鋳物は高い強度や硬度を有するようになる。Mgの含有量が1.5重量%未満の場合には、アルミニウム合金鋳物の強度及び硬度が不十分になる。Mgの含有量は、2.5重量%以上であることが好適であり、3.5重量%以上であることがより好適である。一方、Mgの含有量が5.5重量%より多い場合には、湯流れ性など鋳造性が悪くなる。Mgの含有量は、5.3重量%以下であることが好適である。
【0022】
前記アルミニウム合金は、Znを1.6〜5.0重量%含有する。Znを含有することにより、本発明のアルミニウム合金鋳物は高い強度や硬度を有するようになる。また、Znは、鋳造時の湯流れ性を向上させる効果も有する。Znの含有量が1.6重量%未満の場合には、強度や硬度が不十分になる。Znの含有量は2.0重量%以上であることが好適であり、2.5重量%以上であることがより好適である。一方、Znの含有量が5.0重量%より多い場合には、粒界腐食が発生したり、靭性が不十分になる。Znの含有量は、4.5重量%以下であることが好適であり、4.0重量%以下であることがより好適である。
【0023】
前記アルミニウム合金は、Tiを0.2重量%以下含有する。Tiはアルミニウム合金鋳物の結晶を微細化する作用を有しており、本発明のアルミニウム合金鋳物の強度がさらに向上する。Tiの添加に際して、Tiを単独で添加してもよいし、Bとともに添加してもよい。Tiの含有量が0.2重量%より多い場合にはアルミニウム鋳物の電解研磨性が低下する。一方、Tiの含有量は0.01重量%以上であることが好適である。Tiの含有量が0.01重量%未満である場合にはTiの配合による結晶を微細化する作用が発現しないおそれがある。
【0024】
前記アルミニウム合金は、Bを0.1重量%以下含有する。BはTiを添加する際に、Tiともに添加されることがあるものである。例えば、Tiを有効成分として含有させるに際して、TiBを添加して行った場合に、TiとともにBが該アルミニウム合金鋳物に含有することになる。BをTiとともに添加すると、Tiを単独で添加した場合よりもさらにアルミニウム合金鋳物の結晶を微細化する効果が高くなる。Bの含有量は0.005重量%以上であることが好適である。Bの含有量が0.005重量%未満である場合にはBの配合による結晶を微細化する作用が発現しないおそれがある。
【0025】
前記アルミニウム合金は、Beを0.1重量%以下含有する。Beは鋳造時の湯流れ性を向上させる効果やアルミニウム合金鋳物に対する酸化防止効果を有する。Beの含有量が0.1重量%より多い場合にはコスト高になる。一方、Be含有量は0.0001重量%以上であることが好適である。Beの含有量が0.0001重量%未満である場合にはBeの配合による酸化防止効果が発現しないおそれがある。
【0026】
前記アルミニウム合金は、Siを0.4重量%以下含有する。本発明において、Siの含有量はできる限り少ないほうが好ましい。Siの含有量が0.4重量%より多い場合には、鋳造後のアルミニウム合金鋳物の表面にSiが析出する。Siが析出した場合には、鋳造後の鋳物を電解研磨により平滑化させることができない。そのため、研磨された表面に形成されるめっきの光輝性が不十分になる。また、析出したSiは、めっきされにくいため、めっき層の密着性が低下し、めっき層に膨れが発生し易くなる。Siの含有量は、0.2重量%以下であることが好適であり、0.15重量%以下であることがより好適である。Siの含有量は、通常0.01重量%以上である。Alなどに不可避的に含有するSiを完全に除去するのはコスト高になるおそれがあるからである。
【0027】
前記アルミニウム合金は、Feを0.4重量%以下含有する。本発明において、Feの含有量はできる限り少ないほうが好ましい。Feの含有量が0.4重量%より多い場合には、アルミニウム合金鋳物の強度、靭性及び耐食性が不十分になる。Feの含有量は、0.3重量%以下であることが好適であり、0.2重量%以下であることがより好適である。Feの含有量は、通常0.01重量%以上である。Alなどに不可避的に含有するFeを完全に除去するのはコスト高になるおそれがあるからである。
【0028】
前記アルミニウム合金は、Cuを0.4重量%以下含有する。本発明において、Cuの含有量はできる限り少ないほうが好ましい。Cuの含有量が0.4重量%より多い場合には、アルミニウム合金鋳物の耐食性が不十分になる。Cuの含有量は、0.2重量%以下であることが好適であり、0.1重量%以下であることがより好適である。Cuの含有量は、通常0.01重量%以上である。Alなどに不可避的に含有するCuを完全に除去するのはコスト高になるおそれがあるからである。
【0029】
本発明のアルミニウム合金鋳物を製造するに際して、Mg:1.5〜5.5重量%、Zn:1.6〜5.0重量%、Si:0.4重量%以下、Fe:0.4重量%以下、Cu:0.4重量%以下、Ti:0.2重量%以下、B:0.1重量%以下及びBe:0.1重量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を鋳造する。
【0030】
本発明のアルミニウム合金鋳物の鋳造方法は特に限定されない。例えば、砂型鋳造法、金型重力鋳造法、金型重力傾斜鋳造法、などの重力鋳造法;低圧鋳造法;ダイカスト鋳造法などの加圧鋳造法などの一般的に用いられる鋳造方法を採用することができる。なかでも、重力鋳造法又は低圧鋳造法が好適であり、重力鋳造法がより好適である。重力鋳造法のなかでも、金型重力鋳造法又は金型重力傾斜鋳造法が好適であり、金型重力傾斜鋳造法がより好適である。鋳造する際に用いる溶湯は常法により原料を上記のような合金組成になるように調製したものを使用することができる。溶湯の温度は鋳造方法や合金の組成によって調整するが、金型重力傾斜鋳造法の場合には、通常、680〜780℃である。こうして鋳造されるアルミニウム合金鋳物は、Al−Si−Mg系合金などと同等以上の優れた強度、硬度及び靭性を有する。
【0031】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、アルミニウム合金を鋳造した後に溶体化処理又は時効硬化処理の少なくとも一方から選択される熱処理を施すことが好適であり、溶体化処理することがより好適である。溶体化処理とは、鋳造後のアルミニウム合金鋳物を溶解しない程度の高温で保持して合金の析出成分が基地中に十分溶け込んだ固溶状態にした後に、焼入れして過飽和固溶体にする処理のことである。このときの保持温度は310〜580℃が好適であり、400〜480℃がより好適である。保持時間は1〜10時間が好適であり、2〜8時間がより好適である。
【0032】
また、アルミニウム合金鋳物を溶体化処理した後に時効硬化処理することがより好適である。時効硬化処理とは、溶体化処理によって過飽和固溶体になったアルミニウム合金鋳物を熱的に安定な平衡状態に移行させる熱処理のことである。このときの保持温度は100〜250℃が好適であり、120〜200℃がより好適である。保持時間は1〜24時間が好適であり、2〜12時間がより好適である。
【0033】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、鋳造した鋳物に溶体化処理した後に時効硬化処理する熱処理を行うことによって、強度、硬度及び靭性がさらに向上する。通常、当該熱処理はアルミニウム合金鋳物を電解研磨する前に行う。
【0034】
鋳造したアルミニウム合金鋳物に、必要に応じて、バリ取りや切削加工を行った後に、電解研磨に供する。また、コスト増になるものの、用途によっては鋳造したアルミニウム合金鋳物を電解研磨する前に、予めバフ研磨を行ってもよい。バフ研磨された鋳物に密着性のよいめっき層を形成するためには、研磨剤等の付着物を完全に除去した後に、めっき処理を行う必要がある。従来、研磨剤等の付着物の除去は酸エッチングやアルカリエッチングにより行われていた。この場合には、形成されるめっき層の密着性は良好であるものの、このときのエッチングにより表面荒れが生じるため、めっき層の光輝性が不十分であった。一方、本発明においては、バフ研磨を行った場合でも、その後、電解研磨を行うことにより、密着性及び光輝性が共に優れためっき層が形成される。
【0035】
電解研磨の方法は特に限定されない。通常、脱脂、酸化皮膜の除去、スマット除去などの前処理を行った後に、陽極電解することにより行うことができる。電解液としては、リン酸と硫酸の混合溶液又はリン酸、硫酸、グリセリンの混合溶液などを用いることができ、なかでもリン酸と硫酸の混合溶液が好適である。通常、電解条件は、電圧5〜50V、浴温20〜90℃であり、電解時間は、0.1〜30分である。上記の合金組成を有する本発明のアルミニウム合金鋳物は、簡便な電解研磨により、高度に平滑化される。さらに、電解研磨後の表面は非常に清浄であるため、ジンケート処理前にエッチングによる付着物の除去を行う必要がなく、このようなエッチングにより鋳物の表面が荒れるおそれもない。表面が清浄であることにより、その上に形成されるめっき層は優れた密着性を有する。このようにアルミニウム合金鋳物の表面を予め平滑化しておくことにより、光輝性に優れためっきを容易に形成できるようになる。さらに、予め表面が平滑化されていれば、めっき層を薄くしたり、中間めっき層の研磨を省略したりした場合でも、光輝性に優れためっきを形成することができることから、コストが低減される。本発明のアルミニウム合金鋳物が、優れた強度、硬度及び靭性を有し、なおかつ、電解研磨性にも優れていることは、光輝性及び密着性が共に優れためっきを形成するうえで、非常に有利であり、このことは本発明のアルミニウム合金鋳物の最大の特徴である。
【0036】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、鋳造した鋳物を電解研磨した後に、鋳物表面に下地層として、ジンケート(亜鉛置換)処理層を形成する。ジンケート処理層を形成することにより、その上に形成するめっき層の密着性を向上させることができる。鋳造後に電解研磨された本発明のアルミニウム合金鋳物は、表面に偏析したSiが析出することがなく、しかも高度な平滑性を有するため、均一なジンケート処理層が形成される。このようなジンケート処理層が形成されることにより、光輝性に優れためっきが形成される。ジンケート処理の方法は、特に限定されず、常法により行うことができる。ジンケート処理液としては、水酸化ナトリウムと酸化亜鉛を溶解させた混合溶液などを使用することができる。通常、浴温は、5〜50℃であり、処理時間は、0.1〜30分である。ジンケート処理は一回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。コスト面からは、ジンケート処理を一回のみ行うことが好ましい。めっきの密着性や光輝性の面からは、ジンケート処理を複数回行うことが好ましい。
【0037】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、前記ジンケート処理層の上に、無電解ニッケルめっき層を有する。表面層として無電解ニッケルめっき層を有することにより、本発明のアルミニウム合金鋳物は優れた光輝性を有するようになる。無電解ニッケルめっき層の形成方法は、特に限定されず、常法により形成することができる。無電解ニッケルめっき液には、通常使用される、ニッケル塩及び還元剤を含有するものなどを用いることができる。めっき液中のニッケル濃度は、通常、1〜100g/Lである。また、めっき液は光沢剤又は錯化剤などの添加剤を含有していてもよい。通常、浴温は、5〜99℃であり、処理時間は、1〜120分である。
【0038】
前記無電解ニッケルめっき層の厚さが0.5〜30μmであることが好適である。無電解ニッケルめっき層の厚さが0.5μm未満の場合には、アルミニウム合金鋳物の光輝性が不十分になるおそれがある。無電解ニッケルめっき層の厚さは、2μm以上であることがより好適である。一方、無電解ニッケルめっき層の厚さが30μmを超える場合には、コスト高になるおそれがあり、20μm以下であることがより好適である。
【0039】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、前記無電解ニッケルめっき層の上に、さらに、電気ニッケルめっき層を有することが好適である。電気ニッケルめっき層を形成することにより、アルミニウム合金鋳物の耐摩耗性や耐食性が向上する。当該電気ニッケルめっき層は、電気光沢ニッケルめっき層であることが好適である。電気光沢ニッケルめっき層は優れた光輝性を有するとともに、レベリング性に優れる。したがって、表面層として電気光沢ニッケルめっき層を有することにより、アルミニウム合金鋳物の光輝性がさらに向上する。電気ニッケルめっき層の形成方法は、特に限定されず、常法により形成することができる。電気光沢ニッケルめっき層を形成する場合には、電気ニッケルめっき液としては、硫酸ニッケル、塩化ニッケル及びホウ酸を含有するものなどを使用することができる。また、めっき液は光沢剤、pH緩衝剤又はレべラーなどの添加剤を含有していてもよい。通常、通電する電流密度は1〜10A/dmであり、通電時間は1〜120分であり、浴温は20〜99℃である。
【0040】
前記電気ニッケルめっき層の厚さは、0.5〜30μmであることが好適である。電気ニッケルめっき層の厚さが0.5μm未満の場合には、アルミニウム合金鋳物の光輝性不十分になるおそれがある。また、アルミニウム合金鋳物の耐摩耗性や耐食性が向上しないおそれがある。電気ニッケルめっき層の厚さは、2μm以上であることがより好適である。一方、電気ニッケルめっき層の厚さが30μmを超える場合には、コスト高になるおそれがあり、20μm以下であることがより好適である。
【0041】
本発明のアルミニウム合金鋳物が、前記電気ニッケルめっき層を有する場合には、前記無電解ニッケルめっき層と前記電気ニッケルめっき層の間に、電気銅めっき層を有することも好適である。電気銅めっき処理により形成された電気銅めっき層は、優れたレベリング性を有する。したがって、中間層として電気銅めっき層を形成することにより、その上に形成される前記電気ニッケルめっき層がさら平滑化される。ここで、電気銅めっき層は、電気硫酸銅めっき処理により形成されたものであることが好適である。電気硫酸銅めっき処理により形成された電気銅めっき層は特に優れたレベリング性を有する。電気銅めっき層の形成方法は特に限定されず、常法により形成することができる。ジンケート処理層中の亜鉛は酸に溶解するため、ジンケート処理層の表面には、強酸性のめっき液を使用してめっき層を形成することができない。一方、本発明のアルミニウム合金鋳物は、ジンケート処理層の上に無電解ニッケルめっき層を有するため、当該無電解ニッケルめっき層の上に強酸性のめっき液を使用してめっき層を形成することができる。このとき、当該無電解ニッケルめっき層により、ジンケート処理層中の亜鉛の溶解が防止される。したがって、電気硫酸銅めっき処理などの強酸性のめっき液を用いためっき処理により電気銅めっき層を形成することができる。電気硫酸銅めっき処理により電気銅めっき層を形成する場合には、めっき液としては、通常使用される硫酸銅、硫酸及び塩酸を含有するものなどを用いることができる。また、めっき液は光沢剤又は染料などの添加剤を含有していてもよい。通常、通電する電流密度は1〜10A/dmであり、通電時間は1〜120分であり、浴温は5〜50℃である。
【0042】
前記電気銅めっき層の厚さは、0.5〜50μmであることが好適である。電気銅めっき層の厚さが0.5μm未満の場合には、レベリング効果が得られないおそれがある。電気銅めっき層の厚さは、2μm以上であることがより好適である。一方、電気銅めっき層の厚さが50μmを超える場合には、コスト高になるおそれがあり、30μm以下であることがより好適である。
【0043】
前記電気銅めっき層を形成した後に、バフ研磨を行ってもよいが、コスト面からは行わないほうが好ましい。
【0044】
また、本発明のアルミニウム合金鋳物が、前記電気銅めっき層を有する場合には、前記無電解ニッケルめっき層と前記電気銅めっき層の間に電気ニッケルめっき層を有することがより好適である。電気ニッケルめっき層を有することにより、前記無電解ニッケルめっき層と前記電気銅めっき層の密着性が向上する。当該電気ニッケルめっき層は、電気半光沢ニッケルめっき層であることが好適である。当該電気ニッケルめっき層の形成方法は、特に限定されず、常法により形成することができる。電気半光沢ニッケルめっき層を形成する場合には、電気半光沢ニッケルめっき液としては、硫酸ニッケル、塩化ニッケル及びホウ酸を含有するものなどを使用することができる。また、めっき液は光沢剤又はpH緩衝材などの添加剤を含有していてもよい。通常、通電する電流密度は1〜10A/dmであり、通電時間は1〜120分であり、浴温は20〜99℃である。当該電気ニッケルめっき層の厚さは、通常、0.5〜30μmである。
【0045】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、前記電気ニッケルめっき層の上に、さらに、電気クロムめっき層を有することが好適である。表面層として電気クロムめっき層を有することにより、本発明のアルミニウム合金鋳物の光輝性及び耐食性がさらに向上するとともに、耐傷性も向上する。光輝性の観点からは、電気クロムめっき層の下の前記電気ニッケルめっき層が電気光沢ニッケルめっき層であることが好適である。電気クロムめっき層の形成方法は、特に限定されず、常法により形成することができる。電気クロムめっき液としては、無水クロム酸と硫酸の混合溶液などを使用することができる。通常、通電する電流密度は1〜50A/dmであり、通電時間は0.5〜30分であり、浴温は20〜99℃である。
【0046】
前記電気クロムめっき層の厚さは、0.01〜10μmであることが好適である。電気クロムめっき層の厚さが0.01μm未満の場合には、光輝性、耐食性及び耐傷性を向上させる効果が得られないおそれがある。電気クロムめっき層の厚さは、0.1μm以上であることがより好適である。一方、電気クロムめっき層の厚さが10μmを超える場合には、光輝性が低下するおそれがあり、3μm以下であることがより好適である。
【0047】
一方、本発明のアルミニウム合金鋳物は、電解研磨された前記鋳物の表面に、前記ジンケート処理層を有し、さらにその上に電気銅めっき層を有し、さらにその上に電気ニッケルめっき層を有するものであってもよい。この方法を、以下「電気銅めっき処方」ということがある。本発明において、電解研磨後の鋳物は、めっき性に非常に優れているため、ジンケート処理層の上に直接無電解ニッケルめっき層を形成する前述の方法(以下「無電解ニッケル処方」ということがある)と同様に、「電気銅めっき処方」により形成されるめっきも光輝性及び密着性に優れる。
【0048】
電気銅めっき処方において、前記ジンケート処理層の上に形成される前記電気銅めっき層は、アルカリ性の電気銅めっき液を用いて形成される電気銅めっき層を含むものであることが好適である。このようなめっき液を用いて形成される電気銅めっき層により、その上に形成される電気ニッケルめっき層の密着性が確保される。アルカリ性の電気銅めっき液としては、通常使用されるシアン化銅及びシアン化ナトリウムを含有するもの又はピロリン酸銅を含有するものなどを用いることができる。通常、通電する電流密度は0.5〜10A/dmであり、通電時間は0.5〜30分であり、浴温は20〜99℃である。
【0049】
電気銅めっき処方において、前記電気銅めっき層が、アルカリ性のめっき液を用いて形成される電気銅めっき層の上に、さらに電気硫酸銅めっき層を有するものであることがより好適である。電気硫酸銅めっき層は、レベリング性に優れる。したがって、その上に形成される電気ニッケルめっき層がさら平滑化される。電気硫酸銅めっき液としては、通常用いられる硫酸銅、硫酸及び塩酸を含有するものなどを使用することができる。ジンケート処理層の上にアルカリ性の電気銅めっき液を用いて形成される電気銅めっき層を有するため、当該電気銅めっき層の上に強酸性のめっき液を使用しためっき層を形成することができる。このとき、当該電気銅めっき層により、ジンケート処理層中の亜鉛の溶解が防止される。また、めっき液は光沢剤又は染料などの添加剤を含有していてもよい。通常、通電する電流密度は1〜10A/dmであり、通電時間は1〜120分であり、浴温は5〜50℃である。
【0050】
電気銅めっき処方において、前記電気銅めっき層の厚さは、0.5〜50μmであることが好適である。電気銅めっき層の厚さが0.5μm未満の場合には、その上に形成される電気ニッケルめっき層の密着性が確保されないおそれがある。電気銅めっき層の厚さは、2μm以上であることがより好適である。一方、電気銅めっき層の厚さが50μmを超える場合には、コスト高になるおそれがあり、30μm以下であることがより好適である。
【0051】
電気銅めっき処方において、本発明のアルミニウム合金鋳物は、前記電気銅めっき層の上に、さらに電気ニッケルめっき層を有する。当該電気ニッケルめっき層は、上述した無電解ニッケルめっき層の形成方法と同様にして形成することがきる。当該電気ニッケルめっき層は、電気光沢ニッケルめっき層であることが好適である。
【0052】
電気銅めっき処方において、前記光沢ニッケルめっき層の上に、さらに、電気クロムめっき層を有することが好適である。当該電気クロムめっき層は、上述した無電解ニッケル処方における電気クロムめっき層の形成方法と同様にして形成することができる。
【0053】
本発明のアルミニウム合金鋳物はJIS Z8741に基づいて測定した光沢度が100%以上であることが好適である。本発明のアルミニウム合金鋳物は、Mg、Zn、Si、Fe、Cu、Ti、B及びBeを上記の量含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成を有することで、優れた強度、硬度及び靭性を有し、なおかつ、電解研磨により高度に平滑化される。したがってその表面に形成されるめっきは、優れた光輝性を有する。光沢度は300%以上であることがより好適であり、450%以上であることがさらに好適である。
【0054】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、優れた光輝性を有するめっきが密着性よく形成されているうえに、優れた強度、靭性及び硬度も有している。したがって、このようなアルミニウム合金鋳物は、自動車、バイクなどの輸送機器をはじめとして、自転車、釣り具などのレジャー用品;建築部材;電子機器又は日用品など、様々な分野において好適に用いることができる。本発明のアルミニウム合金鋳物は、装飾用のアルミニウム合金鋳物として特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0056】
[引張強さ、耐力及び伸びの測定方法]
JIS H5202に基づいた舟型の金型試験片鋳型を用いてアルミニウム合金を鋳造した。得られたアルミニウム合金鋳物を各実施例における条件に従って熱処理、切削加工及び研磨の処理を行って、JIS Z2201に基づいた4号試験片を作製した。得られた試験片の引張強さ、耐力及び伸びをJIS Z2241に基づいてそれぞれ測定した。
【0057】
[ブリネル硬さの測定方法]
ブリネル硬さをJIS Z2243に基づいて以下のように測定した。JIS H5202に基づいた舟型の金型試験片鋳型を用いてアルミニウム合金を鋳造した。得られたアルミニウム合金鋳物を各実施例における条件に従って熱処理、切削加工及び研磨の処理を行い、縦20mm、横20mm、高さ10mmの試験片を作製した。直径10mmの超硬合金球の圧子を試験片の平滑な表面に規定の試験力4.903kNになるまで押し込み、規定の試験力で10〜15秒保持した。押力を解除した後、表面に残ったくぼみの直径を測定し、ブリネル硬さをJIS Z2243附属書Bのブリネル硬さ算出表から読み取った。
【0058】
[光沢度の測定方法]
アルミニウム合金鋳物の表面の光輝性は、JIS Z8741の鏡面光沢度測定方法にに基づいて測定した光沢度を指標として評価した。光沢度の測定条件は以下のとおりである。
【0059】
測定条件:Gs(60°)
測定装置:株式会社村上色彩技術研究所製 ディジタル光沢計「(GM−3D)」
[目視による光輝性の評価]
アルミニウム合金鋳物の背後に、黒ペンで格子模様が描かれた紙を垂直に置き、当該アルミニウム合金鋳物の平らな表面に格子模様が映り込むように鋳物を見たときの鋳物表面に映った格子模様から光輝性を評価した。
【0060】
[膜厚測定]
めっき層の膜厚は蛍光X線膜厚計(フィッシャーインストルメンツ社製、「XDL−B」)を用いて測定した。
【0061】
実施例1
表1に示す組成(合金1)の溶湯(730℃)をJIS H5202に基づいた舟型の金型試験片鋳型に鋳込み、アルミニウム合金鋳物を金型傾斜重力鋳造により鋳造した。金型から取り出したアルミニウム合金鋳物を430℃で6時間保持した後に焼入れ(水冷)することにより溶体化処理した後に、160℃で8時間時効硬化処理を行った。熱処理した該アルミニウム合金鋳物を切削加工して、縦30mm、横35mm、高さ20mmに成形した。電解研磨の前処理として、アルミニウム合金鋳物を洗浄液[中央化学株式会社製「T1000」、濃度50g/L]に5分間浸漬することにより脱脂を行った後に、水酸化ナトリウム水溶液(濃度50g/L)に10秒間浸漬することにより表面の油分及び酸化皮膜を除去し、さらに、硝酸(濃度50%)に10秒間浸漬することによりスマットを除去した。前処理した該アルミニウム合金鋳物をリン酸と硫酸の混合溶液中(浴温65℃)で、25Vにて30秒間陽極電解することにより電解研磨を行った。
【0062】
得られたアルミニウム合金鋳物の光沢度を測定した。このときのアルミニウム合金鋳物における測定位置は、前記切削加工により平面状に加工した部分とした。その結果を表1に示す。また、切削加工において、JIS Z2201に基づいた4号試験片の形状に成形したこと以外は、光沢度測定に供したものと同様にして作製したアルミニウム合金鋳物の引張強さ、耐力及び伸びをそれぞれ測定した。その結果も表1に示す。さらに、切削加工において、縦20mm、横20mm、高さ10mmに切り出したこと以外は光沢度測定に供したものと同様にして作製したアルミニウム合金鋳物の硬度を測定した。その結果も表1に示す。
【0063】
電解研磨後の前記鋳物(縦30mm、横35mm、高さ20mm)を水酸化ナトリウム水溶液(濃度50g/L)に5秒間浸漬した後に、硝酸(濃度50%)に5秒間浸漬することにより、表面の酸化皮膜を除去した。当該鋳物を浴温25℃のジンケート処理液に30秒間浸漬して亜鉛置換を行った。亜鉛置換した鋳物を硝酸(濃度50%)に30秒間浸漬して置換された亜鉛を除去した後に、再び20秒間ジンケート処理液に浸漬した。
【0064】
ジンケート処理層を形成した前記鋳物を、浴温85℃の無電解ニッケルめっき浴[奥野製薬工業株式会社製「トップニコロンBL−M」(100ml/L)、奥野製薬工業株式会社製「トップニコロンBL−1」(60ml/L);ニッケル濃度5.5g/L)]中に20分間浸漬することにより、無電解ニッケルめっき層の形成を行った。このとき形成された無電解ニッケルめっき層の膜厚は、5μmであった。
【0065】
無電解ニッケルめっき層が形成された前記鋳物を、浴温45℃の電気半光沢ニッケルめっき浴[硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸45g/L]に浸漬した後に、1.0A(2.5A/dm)にて5分間通電することにより、電気半光沢ニッケルめっき層の形成を行った。このとき形成された電気半光沢ニッケルめっき層の膜厚は、1.5μmであった。
【0066】
電気半光沢ニッケルめっき層が形成された前記鋳物を、浴温25℃の電気硫酸銅めっき浴[硫酸銅200g/L、硫酸50g/L、塩酸70g/L]に浸漬した後、1.0A(2.5A/dm)にて30分間通電することにより、電気硫酸銅めっき層の形成を行った。このとき形成された電気硫酸銅めっき層の膜厚は、10μmであった。
【0067】
電気硫酸銅めっき層が形成された前記鋳物を、浴温45℃の電気光沢ニッケルめっき浴[硫酸ニッケル260g/L、塩化ニッケル50g/L、ホウ酸35g/L]に浸漬した後、1.0A(2.5A/dm)にて10分間通電することにより、電気光沢ニッケルめっき層の形成を行った。このとき形成された電気ニッケルめっき層の膜厚は、4μmであった。
【0068】
電気光沢ニッケルめっき層が形成された前記鋳物を、浴温55℃の電気クロムめっき浴[メルテックス株式会社製「エコノクロム」180g/L、3価クロム0.2g/L、硫酸0.8g/L]に浸漬した後、7.0A(17.5A/dm)にて5分間通電することにより、電気クロムめっき層の形成を行った。このとき形成された電気クロムめっき層の膜厚は、0.75μmであった。
【0069】
こうして作製されためっきが施されたアルミニウム合金鋳物の光沢度を測定した。その結果を表2に示す。また、めっきの表面状態を目視により評価した。めっきが施されたアルミニウム合金鋳物をデジタルカメラで撮影した画像を図1に示す。このとき、鋳物の背後に格子模様の描かれた紙を垂直に置き、鋳物表面にその格子柄が映り込むように撮影した。図1に示されるように、当該アルミニウム合金鋳物の表面は鏡面となり、はっきりとした格子柄が鋳物表面に映っていた。また、表面はクロムめっきに特有の重厚な金属光沢を有していた。めっきに膨れの発生も見られなかった。
【0070】
実施例2
電解研磨された鋳物の表面に、ジンケート処理層を有し、その上に無電解ニッケルめっき層を有し、さらにその上に電気光沢ニッケルめっき層を有するアルミニウム合金鋳物を作製した。無電解ニッケルめっき層を形成するところまでは、実施例1と同様にして表面に無電解ニッケルめっき層が形成されたアルミニウム合金鋳物を作製した。当該鋳物の表面に電気光沢ニッケルめっき層を実施例1と同様にして形成した。得られた鋳物の無電解ニッケルめっき層の膜厚は5μmであり、電気ニッケルめっき層(光沢ニッケルめっき)の膜厚は4μmであった。得られた鋳物の光沢度測定及び表面状態の評価を実施例1と同様にして行った。その結果を表2及び図2に示す。図2に示されるように、当該アルミニウム合金鋳物の表面は鏡面となり、はっきりとした格子柄が鋳物表面に映っていた。また、表面は優れた金属光沢を有していた。めっきに膨れの発生も見られなかった。
【0071】
実施例3
電解研磨された鋳物の表面に、ジンケート処理層を有し、さらに、その上に無電解ニッケルめっき層を有するアルミニウム合金鋳物を作製した。無電解ニッケルめっき処理の処理時間を30分としたこと、電気半光沢ニッケルめっき層から上のめっき層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム合金鋳物を作製した。無電解ニッケルめっき層の膜厚は7.5μmであった。得られた鋳物の光沢度測定及び表面状態の評価を実施例1と同様にして行った。その結果を表2及び図3に示す。図3に示されるように、当該アルミニウム合金鋳物の表面は鏡面となり、はっきりとした格子柄が鋳物表面に映っていた。また、表面は優れた金属光沢を有していた。めっきに膨れの発生も見られなかった。
【0072】
実施例4
電解研磨された鋳物の表面に、ジンケート処理層を有し、その上に無電解ニッケルめっき層を有し、その上に電気光沢ニッケルめっき層を有し、さらにその表面に電気クロムめっき層を有するアルミニウム合金鋳物を作製した。無電解ニッケルめっき層を形成するところまでは、実施例1と同様にして表面に無電解ニッケルめっき層が形成されたアルミニウム合金鋳物を作製した。当該鋳物の表面に電気光沢ニッケルめっき層及び電気クロムめっき層を実施例1と同様にしてそれぞれ形成した。得られた鋳物の無電解ニッケルめっき層の膜厚は5μmであり、電気光沢ニッケルめっき層の膜厚は4μmであり、電気クロムめっき層の膜厚は0.75μmであった。得られた鋳物の光沢度測定及び表面状態の評価を実施例1と同様にして行った。その結果を表2及び図4に示す。図4に示されるように、当該アルミニウム合金鋳物の表面は鏡面となり、はっきりとした格子柄が鋳物表面に映っていた。また、表面はクロムめっきに特有の重厚な金属光沢を有していた。めっきに膨れの発生も見られなかった。
【0073】
実施例5
電解研磨された鋳物の表面に、ジンケート処理層を有し、その上にアルカリ性の電気銅めっき液を用いて形成した電気銅めっき層を有し、その上に電気硫酸銅めっき層を有し、その上に電気光沢ニッケルめっき層を有し、さらにその上に電気クロムめっき層を有するアルミニウム合金鋳物を作製した。ジンケート処理層を形成するところまでは、実施例1と同様にしてアルミニウム合金鋳物を作製した。表面にジンケート処理層が形成された当該鋳物を、浴温30℃の電気ピロリン酸銅めっき浴[奥野製薬株式会社製「ソフトカッパーM」(500ml/L)、奥野製薬株式会社製「ソフトカッパー3」(20ml/L)]に浸漬した後、0.5A(1.25A/dm)にて2分間通電することにより、電気ピロリン酸銅めっき層の形成を行った。このとき形成された電気銅めっき層の膜厚は、1μmであった。
【0074】
電気ピロリン酸銅めっき層が形成された前記鋳物を、浴温25℃の電気硫酸銅めっき浴[硫酸銅200g/L、硫酸50g/L、塩酸70g/L]に浸漬した後、1.0A(2.5A/dm)にて30分間通電することにより、電気銅めっき層の形成を行った。このとき形成された電気銅めっき層の膜厚は、10μmであった。
【0075】
電気硫酸銅めっき層が形成された前記鋳物を、浴温45℃の電気光沢ニッケルめっき浴[硫酸ニッケル260g/L、塩化ニッケル50g/L、ホウ酸35g/L]に浸漬した後に、1.0A(2.5A/dm)にて10分間通電することにより、電気光沢ニッケルめっき層の形成を行った。このとき形成された電気光沢ニッケルめっき層の膜厚は、4μmであった。
【0076】
電気光沢ニッケルめっき層が形成された前記鋳物を、浴温55℃の電気クロムめっき浴[メルテックス株式会社製「エコノクロム」(180g/L)、3価クロム0.2g/L、硫酸0.8g/L]に浸漬した後に、7.0A(17.5A/dm)にて5分間通電することにより、電気クロムめっき層の形成を行った。このとき形成された電気クロムめっき層の膜厚は、0.75μmであった。
【0077】
こうして作製されたアルミニウム合金鋳物の光沢度測定及び表面状態の評価を実施例1と同様にして行った。その結果を表2及び図5に示す。図5に示されるように、当該アルミニウム合金鋳物の表面は鏡面となり、はっきりとした格子柄が鋳物表面に映っていた。また、表面はクロムめっきに特有の重厚な金属光沢を有していた。めっきに膨れの発生も見られなかった。
【0078】
比較例1
鋳造に用いる溶湯として、表1に示す組成(合金2)のものを用いたことと、熱処理を表1に示す条件(合金2)で行ったこと以外は実施例1と同様にして電解研磨工程まで行い、電解研磨された鋳物を作製した。当該鋳物の光沢度及び機械的特性を実施例1と同様にして測定した。その結果を表1に示す。電解研磨された鋳物に実施例1と同様にして、めっきを施した。得られた鋳物の無電解ニッケルめっき層の膜厚は5μmであり、電気半光沢ニッケルめっき層の膜厚は1.5μmであり、電気硫酸銅めっき層の膜厚は10μmであり、電気光沢ニッケルめっき層の膜厚は4μmであり、電気クロムめっき層の膜厚は0.75μmであった。得られた鋳物の光沢度測定及び表面状態の評価を実施例1と同様にして行った。その結果を表2及び図6に示す。図6に示されるように、当該アルミニウム合金鋳物の表面は、曇っており、表面に映り込んだ格子柄がぼやけていた。また、めっきに膨れの発生が見られた。
【0079】
比較例2
鋳造に用いる溶湯として表1に示す組成(合金2)のものを用いたこと及び熱処理を表1に示す条件(合金2)で行ったこと以外は、実施例2と同様にしてめっきが施されたアルミニウム合金鋳物を作製した。得られた鋳物の無電解ニッケルめっき層の膜厚は5μmであり、電気光沢ニッケルめっき層の膜厚は4μmであった。得られた鋳物の光沢度測定及び表面状態の評価を実施例1と同様にして行った。その結果を表2及び図7に示す。図7に示されるように、当該アルミニウム合金鋳物の表面は、曇っており、表面に映り込んだ格子柄がぼやけていた。また、変色やめっきに膨れの発生が見られた。
【0080】
比較例3
鋳造に用いる溶湯として表1に示す組成(合金2)のものを用いたこと及び熱処理を表1に示す条件(合金2)で行ったこと以外は、実施例3と同様にしてめっきが施されたアルミニウム合金鋳物を作製した。無電解ニッケルめっき層の膜厚は7.5μmであった。得られた鋳物の光沢度測定及び表面状態の評価を実施例1と同様にして行った。その結果を表2及び図8に示す。図8に示されるように、当該アルミニウム合金鋳物の表面は、曇っており、表面に映り込んだ格子柄がぼやけていた。また、めっきに変色や膨れの発生が見られた。
【0081】
比較例4
鋳造に用いる溶湯として表1に示す組成(合金2)のものを用いたこと及び熱処理を表1に示す条件(合金2)で行ったこと以外は、実施例4と同様にしてめっきが施されたアルミニウム合金鋳物を作製した。得られた鋳物の無電解ニッケルめっき層の膜厚は5μmであり、電気光沢ニッケルめっき層の膜厚は4μmであり、電気クロムめっき層の膜厚は0.75μmであった。得られた鋳物の光沢度測定及び表面状態の評価を実施例1と同様にして行った。その結果を表2及び図9に示す。図9に示されるように、当該アルミニウム合金鋳物の表面は、曇っており、表面に映り込んだ格子柄がぼやけていた。また、変色やめっきに膨れの発生が見られた。
【0082】
比較例5
鋳造に用いる溶湯として表1に示す組成(合金2)のものを用いたこと及び熱処理を表1に示す条件(合金2)で行ったこと以外は、実施例5と同様にしてめっきが施されたアルミニウム合金鋳物を作製した。得られた鋳物の電気ピロリン酸銅めっき層の膜厚は1μmであり、電気硫酸銅めっき層の膜厚は10μmであり、電気光沢ニッケルめっき層の膜厚は4μmであり、電気クロムめっき層の膜厚は0.75μmであった。得られた鋳物の光沢度測定及び表面状態の評価を実施例1と同様にして行った。その結果を表2及び図10に示す。図10に示されるように、当該アルミニウム合金鋳物の表面は、曇っており、表面に映り込んだ格子柄がぼやけていた。また、変色やめっきに膨れの発生が見られた。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解ニッケルめっき層を有するアルミニウム合金鋳物であって、
該アルミニウム合金が、Mg:1.5〜5.5重量%、Zn:1.6〜5.0重量%、Si:0.4重量%以下、Fe:0.4重量%以下、Cu:0.4重量%以下、Ti:0.2重量%以下、B:0.1重量%以下及びBe:0.1重量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、
電解研磨された前記鋳物の表面に、ジンケート処理層を有し、さらに、その上に前記無電解ニッケルめっき層を有することを特徴とする、めっきが施されたアルミニウム合金鋳物。
【請求項2】
前記無電解ニッケルめっき層の上に、さらに、電気ニッケルめっき層を有する請求項1に記載のアルミニウム合金鋳物。
【請求項3】
前記電気ニッケルめっき層の上に、さらに、電気クロムめっき層を有する請求項2に記載のアルミニウム合金鋳物。
【請求項4】
前記無電解ニッケルめっき層と前記電気ニッケルめっき層の間に、電気銅めっき層を有する請求項2又は3に記載のアルミニウム合金鋳物。
【請求項5】
電気銅めっき層と電気ニッケルめっき層を有するアルミニウム合金鋳物であって、
該アルミニウム合金が、Mg:1.5〜5.5重量%、Zn:1.6〜5.0重量%、Si:0.4重量%以下、Fe:0.4重量%以下、Cu:0.4重量%以下、Ti:0.2重量%以下、B:0.1重量%以下及びBe:0.1重量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、
電解研磨された前記鋳物の表面に、ジンケート処理層を有し、その上に前記電気銅めっき層を有し、さらにその上に前記電気ニッケルめっき層を有することを特徴とする、めっきが施されたアルミニウム合金鋳物。
【請求項6】
前記電気ニッケルめっき層の上に、さらに、電気クロムめっき層を有する請求項5に記載のアルミニウム合金鋳物。
【請求項7】
JIS Z8741に基づいて測定した光沢度が100%以上であることを特徴とする
請求項1〜6のいずれかに記載のアルミニウム合金鋳物。
【請求項8】
Mg:1.5〜5.5重量%、Zn:1.6〜5.0重量%、Si:0.4重量%以下、Fe:0.4重量%以下、Cu:0.4重量%以下、Ti:0.2重量%以下、B:0.1重量%以下及びBe:0.1重量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を鋳造して鋳物を得て、該鋳物の表面を電解研磨した後にジンケート処理し、さらに、その上に無電解ニッケルめっき層を形成する、めっきが施されたアルミニウム合金鋳物の製造方法。
【請求項9】
Mg:1.5〜5.5重量%、Zn:1.6〜5.0重量%、Si:0.4重量%以下、Fe:0.4重量%以下、Cu:0.4重量%以下、Ti:0.2重量%以下、B:0.1重量%以下及びBe:0.1重量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を鋳造して鋳物を得て、該鋳物の表面を電解研磨した後にジンケート処理し、その上に電気銅めっき層を形成し、さらにその上に電気ニッケルめっき層を形成する、めっきが施されたアルミニウム合金鋳物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−143798(P2012−143798A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5257(P2011−5257)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度、経済産業省、「戦略的基盤技術高度化支援事業(環境・コスト低減に対応した、光輝性アルミニウム合金鋳物製造技術の開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(510070348)光軽金属工業株式会社 (1)
【出願人】(511011849)株式会社サーテック永田 (1)
【出願人】(591060980)岡山県 (96)
【Fターム(参考)】