説明

アクチュエータおよびエンジンの可変動弁機構

【課題】回転動力を発生する駆動源40と、駆動源40で発生する回転動力を直線駆動力に変換する変換機構50と、駆動源40および変換機構50を収納するハウジング31とを備えるアクチュエータ30において、このアクチュエータ30の停止時に、太陽軸52の意図せぬ軸方向変位を抑制または防止する。
【解決手段】変換機構50は、駆動源40で回転駆動される円環軸51と、円環軸51の内径側に軸方向変位可能に所定空間を介して挿通される太陽軸52と、円環軸51と太陽軸52との対向環状空間の円周数ヶ所に配置される遊星軸53とを備える。ハウジング31は、太陽軸52の軸方向一端側を外部に突き出させるための筒部33を有する。太陽軸52のオススプライン52dにおける円周方向所定領域が、ハウジング31の筒部33のメススプライン33aに径方向から押し付けられた状態とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動を直線運動に変換して出力するアクチュエータ、およびエンジンバルブ(インテークバルブやエキゾーストバルブ)のバルブ特性(バルブリフト量、作用角)を変更するための可変動弁機構に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に、エンジンの可変動弁機構が示されている。この可変動弁機構は、シリンダヘッドに固定状態で配置されるロッカーシャフトと、このロッカーシャフト内に軸方向変位可能に挿入されるコントロールシャフトと、ロッカーシャフトの外周に組み付けられてエンジンバルブを運動させるバルブリフト機構と、コントロールシャフトを軸方向変位させるためのアクチュエータとを備えている。
【0003】
バルブリフト機構は、コントロールシャフトと連動して移動可能なスライダギヤと、このスライダギヤに組み付けられてエンジンバルブのカムシャフトにより運動する入力アームと、前記スライダギヤに組み付けられてエンジンバルブを運動させる出力アームとを備えている。
【0004】
この可変動弁機構の動作を説明する。アクチュエータによりコントロールシャフトとともにスライダギヤを軸方向に変位させると、スライダギヤの入力ヘリカルスプラインと入力アームのヘリカルスプラインとの運動変換作用およびスライダギヤの出力ヘリカルスプラインと出力アームの各ヘリカルスプラインとの運動変換作用によって、入力アームと出力アームとが相対回転することになり、これによってエンジンバルブのバルブ特性が変更されるようになる。
【0005】
アクチュエータは、入力された回転運動を直線運動に変換して出力するための変換機構と、この変換機構に回転運動を入力するためのモータとを備えた構成になっている。
【0006】
前記のモータは、例えばブラシレスモータとされており、ステータとロータとを備えている。ステータはハウジングの内周に固定され、ロータは変換機構の太陽軸の外周に固定されている。
【0007】
前記の変換機構は、例えばモータにより回転運動させられる円環軸と、この円環軸の内径側に同心状に挿通される太陽軸と、円環軸と太陽軸との対向環状空間の円周数ヶ所に介装される複数の遊星軸とを備えた構成になっている。
【0008】
円環軸は、複列アンギュラタイプの玉軸受を介してハウジングの内側小筒部に回転可能かつ軸方向移動不可能に固定されている。
【0009】
円環軸の内周面において、軸方向中間領域にはメスネジが設けられ、また、軸方向両端には内歯歯車が固定されている。太陽軸の外周面において、軸方向所定領域にはオスネジが設けられ、また、このオスネジの軸方向両側には傾き防止用ギヤが設けられている。遊星軸の外周面において、軸方向中間領域にはオスネジが設けられ、また、軸方向両端には傾き防止用ギヤが設けられている。
【0010】
そして、遊星軸のオスネジが円環軸のメスネジと太陽軸のオスネジとにそれぞれ噛み合わされ、また、遊星軸の軸方向両端の傾き防止用ギヤが円環軸の軸方向両端の内歯歯車と太陽軸の軸方向両端の傾き防止用ギヤとにそれぞれ嵌合されている。
【0011】
太陽軸においてハウジングの外側小筒部から外部に突き出される外端部は、可変動弁機構のコントロールシャフトに一体に連結されている。この太陽軸の外端部は、軸方向変位可能にかつ回転不可能にハウジングの外側小筒部に支持されている。このような支持形態を実現するために、太陽軸の外端部の外周面にオススプラインを、また、ハウジングの外側小筒部の内周面にメススプラインをそれぞれ設け、前記オススプラインと前記メススプラインとを嵌合させるようにしている。
【0012】
次に、前記アクチュエータの動作を簡単に説明する。モータに通電することによりロータおよび円環軸を回転させると、太陽軸が回転不可能にハウジングに支持されているので、各遊星軸がそれぞれ自転しながら太陽軸の周りを公転する。この各遊星軸の自転および公転に伴い、円環軸のメスネジと遊星軸のオスネジと太陽軸のオスネジとの送りネジ作用によって、太陽軸がハウジングのメススプラインに案内されて軸方向に変位する。これにより、太陽軸と一体のコントロールシャフトが軸方向に沿って変位されるので、このコントロールシャフトの軸方向変位に応答してバルブリフト機構を介してエンジンバルブの最大リフト量が連続的に変化させられるようになる。
【0013】
ところで、特許文献2には、前記した構成のアクチュエータにおいて、遊星軸の使用数を減らすことにより低コスト化および軽量化を図ったうえで、この遊星軸の使用数を減らした分、短尺な無ネジ遊星歯車を用いることにより太陽軸の振れを抑制するように構成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2007−127189号公報
【特許文献2】特開2009−281442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記特許文献1に係る従来例の可変動弁機構では、エンジンのバルブスプリングからバルブリフト機構の出力アームに加えられる力と、エンジンのカムシャフトからバルブリフト機構の入力アームに加えられる力とが、バルブリフト機構の入力アームおよび出力アームの各ヘリカルスプラインとスライダギヤのヘリカルスプラインとの噛み合い部分により、軸方向一方へのスラスト荷重に変換されてスライダギヤに作用する。このスラスト荷重は、コントロールシャフトを反アクチュエータ側に引っ張る方向のスラスト荷重となる。
【0016】
ところで、エンジンが停止している状態でも、前記バルブスプリングの反力がバルブリフト機構の出力アームに定常的に作用している関係より、次のような現象が発生しうることを知見した。
【0017】
つまり、前記引っ張り方向のスラスト荷重が作用するコントロールシャフトには、アクチュエータの太陽軸が一体に連結されている関係より、コントロールシャフトに作用する引っ張り方向のスラスト荷重が太陽軸にも作用することになるので、円環軸のメスネジと太陽軸のオスネジと遊星軸のオスネジとの送りネジ作用によって、太陽軸がアクチュエータのハウジングから軸方向に引き出される現象が発生しうる。
【0018】
通常、円環軸を支持する玉軸受の内部フリクションや、変換機構内部に供給されるオイルをハウジング内のモータ配置空間へ漏洩させないようにするためのオイルシールのフリクションや、モータのステータ・ロータ間に作用する磁力などが、円環軸を非回転とするための回転抑止力になっている。
【0019】
しかしながら、玉軸受の構成要素やオイルシールやモータの構成要素の製造公差や組立公差によって、アクチュエータの製品毎に前記回転抑止力にばらつきが生じる。
【0020】
仮に、前記回転抑止力が小さくなっている場合には、前記したような太陽軸およびコントロールシャフトの引き出し現象が起こる可能性が高くなるので、エンジン停止状態において太陽軸およびコントロールシャフトの停止位置が本来の停止位置からずれる可能性が高くなる。
【0021】
このような理由により、甚だしい場合には、アクチュエータの動作を制御するためのコントローラにおいて前記太陽軸およびコントロールシャフトの停止位置に関する記憶情報と、実際のコントロールシャフトの停止位置とが整合しなくなる。その結果、アクチュエータを再起動させるときに、太陽軸およびコントロールシャフトの目標停止位置と実際の停止位置とが一致しなくなるなど、バルブリフト機構によるバルブ特性の変更精度が低下することになりかねない。
【0022】
このような事情に鑑み、本発明は、回転動力を発生する駆動源と、駆動源で発生する回転動力を直線駆動力に変換する変換機構と、前記駆動源および変換機構を収納するハウジングとを備える構成のアクチュエータにおいて、当該アクチュエータの停止時に、太陽軸の意図せぬ軸方向変位を抑制または防止することを目的としている。
【0023】
また、本発明は、エンジンバルブのバルブ作用角および最大バルブリフト量の少なくとも一方を変更するエンジンの可変動弁機構において、アクチュエータの停止時に、バルブリフト機構の入力アームと出力アームとが意図せずに相対回転することを抑制または防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、回転動力を発生する駆動源と、駆動源で発生する回転動力を直線駆動力に変換する変換機構と、前記駆動源および変換機構を収納するハウジングとを備える構成のアクチュエータであって、前記変換機構は、軸方向変位が規制された状態で前記回転動力で回転駆動されかつ内周にメスネジを有する円環軸と、この円環軸の内径側に軸方向変位可能に所定空間を介して挿通されかつ外周の軸方向所定領域にオスネジを有する太陽軸と、円環軸と太陽軸との対向環状空間の円周数ヶ所に配置されかつ外周に前記円環軸のメスネジと前記太陽軸のオスネジとにそれぞれ螺合されるオスネジを有する遊星軸とを備え、前記ハウジングは、前記太陽軸の軸方向一端側を外部に突き出させるための筒部を有し、この筒部内周にはメススプラインが設けられ、また、前記太陽軸の外周の軸方向所定領域には、前記メススプラインに嵌合するオススプラインが設けられ、前記太陽軸のオススプラインにおける円周方向所定領域が、前記筒部のメススプラインに径方向から押し付けられた状態とされている、ことを特徴としている。
【0025】
この構成では、駆動源で発生する回転動力を円環軸に入力すると、回転不可能な太陽軸の周りを遊星軸が自転しながら公転することになり、円環軸のメスネジと遊星軸のオスネジと太陽軸のオスネジとの送りネジ作用でもって、太陽軸が軸方向のいずれか一方に変位されることになる。このとき、太陽軸は、そのオススプラインとハウジングの筒部のメススプラインとによって、回転せずに軸方向に変位するようになる。つまり、太陽軸のオススプラインと筒部のメススプラインとは、太陽軸の回り止めと軸方向ガイドとを兼ねる働きをするようになっている。
【0026】
そして、このように直線的に変位させられる太陽軸の外周のオススプラインにおける円周方向所定領域が、ハウジングの筒部のメススプラインに径方向から押し付けられた、いわゆる局部押し付け状態になっていると、この押し付けられた部分では、太陽軸を軸方向に変位させる際に前記押し付け部分以外の領域に比べて大きな摩擦抵抗が発生する。これにより、アクチュエータ停止時において、例えば太陽軸に対して軸方向に押し引きされる外力が加わったときに、前記摩擦抵抗により太陽軸が軸方向に変位しにくくなる。
【0027】
ここで、本発明に係るアクチュエータを従来例で説明したような可変動弁機構のアクチュエータとして適用する場合、エンジン停止時において、可変動弁機構のコントロールシャフトから従来例で説明したような引っ張り方向のスラスト荷重がアクチュエータの太陽軸に作用することになるが、そのような場合でも、前記太陽軸が前記したように軸方向に変位しにくい状態にされているから、太陽軸が前記引っ張り方向のスラスト荷重を受けても、遊星軸が自転および公転しにくくなる。
【0028】
これにより、アクチュエータの停止時に、前記太陽軸が前記コントロールシャフトからの引っ張り方向のスラスト荷重を受けても、当該太陽軸が軸方向に変位する可能性が低下するようになる。そのために、アクチュエータの停止時において、太陽軸の停止位置が狂いにくくなるので、アクチュエータを再起動させるときに太陽軸の位置制御を高精度に行うことが可能になるなど、信頼性の向上に貢献できる。
【0029】
このように、本発明の前記構成では、従来例で説明したような回転抑止力に頼ることなく、太陽軸の軸方向変位を抑制または防止することが可能になるから、次のような点でもメリットがある。
【0030】
なお、前記回転抑止力は、円環軸を支持する玉軸受の内部フリクションや、変換機構内部に供給されるオイルがハウジング内におけるモータの配置空間に漏洩することを防止するためのオイルシールのフリクションや、駆動源としてのモータのステータ・ロータ間に作用する磁力などにより得られる。この回転抑止力は、玉軸受の構成要素やオイルシールやモータの構成要素の製造公差や組立公差によって、アクチュエータの製品毎にばらつきがある。そこで、製造公差や組立公差を高精度に管理することにより前記回転抑止力を一定レベル以上にすることが可能であるものの、その場合には製造コストが嵩むなど、好ましくない。このような製造コストの嵩む対処が、本発明では不要になるのである。
【0031】
好ましくは、前記筒部のメススプラインに対する前記太陽軸のオススプラインの局部押し付け状態は、前記複数の遊星軸の中から適宜の隣り合う2つの遊星軸の中心間距離を他に比べて大きく設定して前記筒部内において前記太陽軸を意図的に偏らせる状態にすることによって確保される。
【0032】
なお、複数の遊星軸の中から適宜の隣り合う2つの遊星軸の中心間距離を他に比べて大きく設定するには、例えば複数の遊星軸の少なくとも一部を円周方向に不等間隔で配列するように組み込むようにしたり、あるいは例えば遊星軸を間引くようにしたり、することによって達成することができる。
【0033】
このように、前記複数の遊星軸の中から適宜の隣り合う2つの遊星軸の中心間距離を他に比べて大きく設定すると、当該2つの遊星軸が存在する領域において、円環軸に対する太陽軸の支持剛性が他領域に比べて低下することになる。これにより、前記ハウジングの筒部内において前記太陽軸が偏る状態になるので、前記局部押し付け状態が確保されることになる。
【0034】
しかも、前記のように、複数の遊星軸の少なくとも一部を円周方向に不等間隔で配列するように組み込むだけであって、余分な部品を追加する必要がないから、アクチュエータの製造コストが無駄に上昇することを回避できる。
【0035】
好ましくは、前記筒部のメススプラインに対する前記太陽軸のオススプラインの局部押し付け状態は、前記太陽軸の中心を前記ハウジングの筒部の中心に対して意図的に偏心させた状態で組み込むことによって確保される。
【0036】
このように、太陽軸をオフセット組み込みすると、余分な部品を追加せずに、前記局部押し付け状態を確保することが可能になるから、アクチュエータの製造コストが無駄に上昇することを回避できる。
【0037】
また、本発明は、エンジンバルブのバルブ作用角および最大バルブリフト量の少なくとも一方を変更するエンジンの可変動弁機構において、シリンダヘッドに固定状態で配置されるロッカーシャフトと、このロッカーシャフト内に軸方向変位可能に挿入されるコントロールシャフトと、ロッカーシャフトの外周に組み付けられてエンジンバルブを運動させるバルブリフト機構と、コントロールシャフトを軸方向変位させるためのアクチュエータとを備え、前記バルブリフト機構は、前記コントロールシャフトと連動して移動可能なスライダギヤと、このスライダギヤに組み付けられてエンジンバルブのカムシャフトにより運動する入力アームと、前記スライダギヤに組み付けられてエンジンバルブを運動させる出力アームとを備え、かつ前記コントロールシャフトの直線運動を通じて前記入力アームと前記出力アームとを相対回転させることで前記バルブ作用角および最大バルブリフト量の少なくとも一方を変更する構成であり、前記アクチュエータは、前記特徴構成を有する構成とされ、このアクチュエータの太陽軸においてハウジングから外部へ突出する外端部が、前記コントロールシャフトに同軸となる状態で一体に連結されている、ことを特徴としている。
【0038】
このように、可変動弁機構の駆動源として前記特徴構成を有するアクチュエータを用いる場合、可変動弁機構のコントロールシャフトから従来例で説明したような引っ張り方向のスラスト荷重がアクチュエータの太陽軸に作用することになる。しかしながら、そのような状況が発生したとしても、前記太陽軸が前記したように軸方向に変位しにくい状態にされているので、太陽軸が前記引っ張り方向のスラスト荷重を受けても、遊星軸が自転および公転しにくくなる。これにより、前記コントロールシャフトに引っ張り方向のスラスト荷重がかかっても、このコントロールシャフトと連結される太陽軸が軸方向に変位する可能性が低下する。
【0039】
そのため、アクチュエータが停止しているときに、バルブリフト機構の入力アームと出力アームとが意図せずに相対回転することが抑制または防止される。これにより、アクチュエータの停止時において、前記バルブ作用角および最大バルブリフト量の少なくとも一方を目標値に保つことが可能になるので、アクチュエータを再起動するときに可変動弁機構のコントロールシャフトの位置制御を高精度に行うことが可能になるなど、信頼性の向上に貢献できる。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係るアクチュエータは、当該アクチュエータの停止時に、太陽軸の意図せぬ軸方向変位を抑制または防止することができる。これにより、アクチュエータを再起動するときに太陽軸の位置制御を高精度に行うことが可能になるなど、信頼性の向上に貢献できる。
【0041】
また、本発明に係るエンジンの可変動弁機構は、アクチュエータの停止時に、バルブリフト機構の入力アームと出力アームとが意図せずに相対回転することを抑制または防止することができる。これにより、アクチュエータの停止時において、バルブ作用角および最大バルブリフト量の少なくとも一方を目標値に保つことが可能になるので、アクチュエータを再起動するときにコントロールシャフトの位置制御を高精度に行うことが可能になるなど、信頼性の向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る実施形態1で、可変動弁機構をエンジンに搭載した状態を示す平面図である。
【図2】図1の(2)−(2)線断面の矢視図である。
【図3】図1の可変動弁機構の外観を示す斜視図である。
【図4】図2のバルブリフト機構を分離した状態を示す斜視図である。
【図5】図2のバルブリフト機構を分離して一部を切り欠いた状態を示す斜視図である。
【図6】図2のバルブリフト機構により発生するスラスト荷重の発生原理を説明するための図である。
【図7】図1のアクチュエータを示す断面図である。
【図8】図7の(8)−(8)線断面の矢視図である。
【図9】図7の(9)−(9)線断面の矢視図である。
【図10】実施形態1の応用例1で、図8に対応する図である。
【図11】実施形態1の応用例2で、図8に対応する図である。
【図12】実施形態1の応用例3で、図8に対応する図である。
【図13】本発明に係る実施形態2で、図9に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0044】
図1から図9に本発明の実施形態1を示している。この実施形態1では、本発明に係る可変動弁機構10を直列4気筒エンジンに搭載した例を挙げているが、可変動弁機構10の適用対象となるエンジンの型式や気筒数は特に限定されない。
【0045】
図1に示すように、シリンダヘッド1には、インテークカムシャフト2およびエキゾーストカムシャフト3が回転自在に搭載されている。インテークカムシャフト2およびエキゾーストカムシャフト3は、図示していないが、クランクシャフトによりタイミングチェーンを介して回転駆動される。
【0046】
また、図2に示すように、インテークバルブ4は、インテークカムシャフト2のカム(インテークカム)2aおよびバルブスプリング6を介して各シリンダ1aのインテークポート1bを開閉するように作動される。エキゾーストバルブ5は、エキゾーストカムシャフト3のカム(エキゾーストカム)3aおよびバルブスプリング6を介して各シリンダ1aのエキゾーストポート1cを開閉するように作動される。図2において、7はローラロッカーアームである。
【0047】
シリンダヘッド1上には、図1に示すように、可変動弁機構10がインテークカムシャフト2に隣接して配置されている。この可変動弁機構10は、インテークバルブ4のバルブ作用角(INCAM)を変更することが可能な構成になっている。このバルブ作用角INCAMは、インテークバルブ4が最も閉弁側の位置から最も開弁側の位置まで移動する期間におけるクランクシャフトの回転角度を示す。
【0048】
具体的に、可変動弁機構10は、図3に示すように、ロッカーシャフト11、コントロールシャフト12、シリンダ1aと同数のバルブリフト機構20、アクチュエータ30などを備えている。この可変動弁機構10の基本構成は、特許文献1(特開2007−127189号公報)に記載されている可変動弁機構とほぼ同じであるので、ここでは簡単に説明する。
【0049】
ロッカーシャフト11は、シリンダヘッド1上においてインテークカムシャフト2に隣り合う位置に回転運動および直線運動が不可能な状態で固定されている。コントロールシャフト12は、ロッカーシャフト11内に回転運動不可能かつ直線運動可能な状態で挿通されている。
【0050】
バルブリフト機構20は、ロッカーシャフト11の外周に各シリンダ1aに対応して組み付けられてインテークバルブ4を運動させる。このバルブリフト機構20は、図4に示すように、スライダギヤ21と、入力アーム22と、2つの出力アーム23,23とを備えている。
【0051】
スライダギヤ21は、コントロールシャフト12に連動して直線運動可能とされている。入力アーム22は、スライダギヤ21に組み付けられてインテークカムシャフト2により運動させられる。2つの出力アーム23,23は、スライダギヤ21に組み付けられてインテークバルブ4を運動させる。
【0052】
入力アーム22および2つの出力アーム23,23は、スライダギヤ21とそれぞれヘリカルスプラインを通じて噛み合わされている。スライダギヤ21は、回転運動および直線運動ともに可能とされ、入力アーム22は、回転運動可能かつ直線運動不能とされ、出力アーム23は、回転運動可能かつ直線運動不能とされている。これにより、スライダギヤ21の直線運動に伴い入力アーム22と2つの出力アーム23,23とが互いに相対回転する。
【0053】
スライダギヤ21の外周において、軸方向中間には右ねじれの入力ヘリカルスプライン21aが形成されており、また、軸方向両端には左ねじれの出力ヘリカルスプライン21b,21bが形成されている。すなわち、入力ヘリカルスプライン21aと出力ヘリカルスプライン21b,21bとは、歯すじのねじれ方向がコントロールシャフト12の中心線に対して互いに反対となるように形成されている。
【0054】
入力アーム22の内周には、スライダギヤ21の入力ヘリカルスプライン21aと噛み合う入力ヘリカルスプライン22aが形成されている。この入力アーム22の外周側には、インテークカム2aと接触するローラ22bが支持片22c,22cに支軸22dを介して回転自在に支持されている。
【0055】
2つの出力アーム23,23の各内周には、スライダギヤ21の軸方向両端の出力ヘリカルスプライン21b,21bと噛み合う出力ヘリカルスプライン23a,23aが形成されている。両出力アーム23の外周側には、インテークバルブ4用のローラロッカーアーム7に当接するノーズ23bが設けられている。
【0056】
アクチュエータ30は、コントロールシャフト12をその軸方向に直線的に押し引きさせるものである。ここで、コントロールシャフト12がアクチュエータ30から押し出される方向(遠ざけられる方向)を正方向(F)とし、アクチュエータ30へ引き込まれる方向(近づけられる方向)を逆方向(R)とする。
【0057】
アクチュエータ30は、図7に示すように、モータ40と、変換機構50とをハウジング31内に収納した構成になっている。
【0058】
ハウジング31は、シリンダヘッド1に固定されている。モータ40は、例えばブラシレスモータとされており、ロータコイルCを有するステータ41および永久磁石を有するロータ42を備えている。ステータ41はハウジング31の内周に固定され、ロータ42は変換機構50の太陽軸52の外周に固定されている。
【0059】
変換機構50は、モータ40から伝達される回転運動を直線運動に変換してコントロールシャフト12に出力するもので、円環軸51と、太陽軸52と、複数の遊星軸53・・・とを備えている。
【0060】
円環軸51の内径側に太陽軸52が同心状に所定空間を介して挿通されており、円環軸51と太陽軸52との対向環状空間の円周数ヶ所に遊星軸53が配置されている。
【0061】
円環軸51の内周面において、軸方向中間領域にはメスネジ51aが設けられ、軸方向両端には内歯歯車54,55が固定されている。太陽軸52の外周面において、軸方向所定領域にはオスネジ52aが設けられ、このオスネジ52aの軸方向両側には傾き防止用ギヤ52b,52cが設けられている。遊星軸53の外周面において、軸方向中間領域にはオスネジ53aが設けられ、軸方向両端には傾き防止用ギヤ53b,53cが設けられている。なお、前記傾き防止用ギヤ52b,52c,53b,53cは、例えば平歯ギヤとされている。
【0062】
そして、遊星軸53のオスネジ53aが円環軸51のメスネジ51aと太陽軸52のオスネジ52aとにそれぞれ噛み合わされており、また、遊星軸53の軸方向両端の傾き防止用ギヤ53b,53cが円環軸51の軸方向両端の内歯歯車54,55と太陽軸52の軸方向両端の傾き防止用ギヤ52b,52cとにそれぞれ噛み合わされている。
【0063】
円環軸51は、複列アンギュラタイプの玉軸受56を介してハウジング31の内側小筒部32に回転可能かつ軸方向移動不可能に固定されており、モータ40により正逆方向に回転駆動されるようになっている。
【0064】
また、太陽軸52の外端部52e(図7の左端部)は、継手57によって可変動弁機構10のコントロールシャフト12に一体に連結されている。この太陽軸52の外端部52eの外周面には、オススプライン52dが設けられており、このオススプライン52dは、ハウジング31の外側小筒部33の内周面に設けられるメススプライン33aに嵌合されている。この両スプライン52d,33aの嵌合により、太陽軸52の外端部52eが、ハウジング31の外側小筒部33に軸方向変位可能にかつ回転不可能に支持されるようになる。つまり、オススプライン52dとメススプライン33aとが、太陽軸52およびコントロールシャフト12の回り止めと軸方向ガイドとを兼ねる働きをするようになっている。
【0065】
太陽軸52において外端部52e寄りの領域には、太陽軸52の軸方向変位ストロークを規制するためのストッパ61,62が設けられている。内側ストッパ61は、太陽軸52の外周においてオススプライン52dの内端側(ハウジング31の内側)に固定され、また、外側ストッパ62は、太陽軸52の外周においてオススプライン52dの外端側(ハウジング31の外側)に固定されている。そして、太陽軸52をハウジング31の外側に突き出すように軸方向変位させたときに、内側ストッパ61がハウジング31の外側小筒部33の内壁面に当接すると、太陽軸52が停止される。一方、太陽軸52をハウジング31の内側に引き込むように軸方向変位させたときに、外側ストッパ62がハウジング31の外側小筒部33の外壁面に当接すると、太陽軸52が停止される。このように2つのストッパ61,62でもって太陽軸52の軸方向変位ストロークを規制するようにしている。
【0066】
さらに、アクチュエータ30には、モータ40のロータ42および変換機構50の円環軸51の回転角を検出するための回転角検出装置63が設けられている。この回転角検出装置63は、ロータ42に回転一体に固定された磁石64と、この磁石64に対向するようにハウジング31の内面に取り付けられたセンサ65とを備えている。
【0067】
磁石64は、円周方向に例えば48極の磁性体を配置することで円板形状に形成されている。この磁石64の中心軸は、ロータ42の回転軸に一致している。また、センサ65は、ホール素子によって構成されたロータリエンコーダ式の相対位置センサとされている。このセンサ65からは、ロータ42の回転角に応じたパルス状の信号が、回転角信号として出力され、その信号はコントローラ(例えばエンジン制御用のECUなど)8に入力される。
【0068】
このコントローラ8によって、エンジンの運転状態に基づいたインテークバルブ4の最大リフト量の制御目標値が設定されるとともに、センサ65から出力される回転角信号に基づいてインテークバルブ4の最大リフト量の現在値が検出される。そして、最大リフト量の現在値を制御目標値と一致させるように、アクチュエータ30の駆動制御を行うようになっている。
【0069】
このように構成されたアクチュエータ30の動作を説明する。ステータ41のコイルCに通電することによりロータ42および円環軸51を回転させると、太陽軸52が回転不可能にハウジング31に支持されているので、各遊星軸53がそれぞれ自転しながら太陽軸52の周りを公転し、この各遊星軸53の自転および公転に伴い、遊星軸53のオスネジ53aと円環軸51のメスネジ51aと太陽軸52のオスネジ52aとの送りネジ作用によって、太陽軸52がハウジング31のメススプライン33aに案内されて軸方向に移動する。これにより、太陽軸52と一体のコントロールシャフト12が軸方向に沿って非回転状態で移動されることになり、このコントロールシャフト12により、各バルブリフト機構20を介してインテークバルブ4の最大リフト量が連続的に変化されることになる。
【0070】
なお、アクチュエータ30において、ロータ42および円環軸51を回転させることにより太陽軸52を軸方向に変位させる形態を「正効率」と言う。その反対に、太陽軸52が軸方向に変位することによりロータ42および円環軸51が回転される形態を「逆効率」と言う。
【0071】
ところで、このような構成のアクチュエータ30では、従来例で説明したように、コントロールシャフト12を経て太陽軸52に一方向のスラスト荷重が定常的に作用されるようになっている。このスラスト荷重は、太陽軸52を引っ張る向きになっている。このようなスラスト荷重が発生する理由を、図6を参照して説明する。
【0072】
可変動弁機構3においては、インテークカムシャフト2を通じて入力アーム22のローラ22bへ加えられる力がスライダギヤ21の入力ヘリカルスプライン21a(図中のスライダギヤ入力部に相当)へ伝達されるため、入力アーム22のローラ22bに加えられる力の方向とスライダギヤ21の入力ヘリカルスプライン21aの歯すじのねじれ方向との関係により、正方向(F)へ向かうスラスト荷重がスライダギヤ21の入力ヘリカルスプライン21aに生じるようになる。
【0073】
一方で、バルブスプリング6,6を通じて出力アーム23,23のノーズ23b,23bへ加えられる力がスライダギヤ21の出力ヘリカルスプライン21b,21b(図中のスライダギヤ出力部に相当)へ伝達されるため、ノーズ23b,23bに加えられる力の方向とスライダギヤ21の出力ヘリカルスプライン21b,21bの歯すじのねじれ方向との関係により、正方向(F)へ向かうスラスト荷重がスライダギヤ21の出力ヘリカルスプライン21b,21bに生じるようになる。
【0074】
なお、バルブリフト機構20においては、スライダギヤ21の入力ヘリカルスプライン21aのねじれ方向と出力ヘリカルスプライン21b,21bのねじれ方向とが互いに反対方向に設定されているとともに、インテークカムシャフト2を通じて入力アーム22のローラ22bへ加えられる力と略反対方向の力がバルブスプリング6,6を通じて出力アーム23,23へ加えられるため、スライダギヤ21の入力ヘリカルスプライン21aおよび出力ヘリカルスプライン21b,21bに生じるスラスト荷重の方向が一致する。
【0075】
この正方向(F)へ向かうスラスト荷重が、コントロールシャフト12およびそれと一体の太陽軸52に作用し、このスラスト荷重によってコントロールシャフト12および太陽軸52がアクチュエータ30側からバルブリフト機構20側へ引っ張られるようになるのである。
【0076】
このように、前記スラスト荷重は、バルブスプリング6,6の反力に起因しているので、エンジンやアクチュエータ30が停止している状態でも常に発生している。
【0077】
このように、エンジンやアクチュエータ30が停止している状態でも、太陽軸52が前記引っ張り方向のスラスト荷重を受けているので、遊星軸53は一方向へ自転および公転する力を受けていることになり、円環軸51のメスネジ51aと遊星軸53のオスネジ53aと太陽軸52のオスネジ52aとの送りネジ作用でもって、太陽軸52を押し出そうとする状態になる。
【0078】
そこで、この実施形態1では、図9に示すように、太陽軸52の外周のオススプライン52dにおける円周方向所定領域を、ハウジング31の外側小筒部33のメススプライン33aに意図的に径方向(太線矢印100の方向参照)から押し付けた状態にしている。この押し付け状態を、局部押し付け状態と言うことにする。
【0079】
この局部押し付け状態を確保するために、例えば図8に示すように、複数の遊星軸53の中から両端に位置する2つの遊星軸53,53の中心間距離を他に比べて大きく設定することにより、円環軸51と太陽軸52との対向環状空間の円周所定領域における太陽軸52の支持剛性を他領域に比べて低下させるようにしている。なお、前記中心間距離とは、2つの遊星軸53の中心間において当該遊星軸53の公転時の中心移動軌跡(図8の二点鎖線参照)に沿って離隔する距離のことである。
【0080】
これにより、図9に示すように、太陽軸52の中心P1がハウジング31の外側小筒部33の中心P3に対して径方向(太線矢印100の方向)に偏る状態になり、その結果、前記局部押し付け状態が確保されることになる。なお、図8や図9では、太陽軸52の偏り状態を誇張して記載している。この太陽軸52の偏りは、当該太陽軸52のオススプライン52dと外側小筒部33のメススプライン33aとの噛み合い部分のクリアランスを詰める程度とすることが可能である他、前記両スプライン歯を適宜弾性変形させるような状態にすることも可能である。
【0081】
具体的に、図8に示した遊星軸53の配列パターンについて説明する。図示した変換機構50において、遊星軸53の最大許容使用数を例えば9つと仮定すると、そこから3つ間引いて遊星軸53の使用数を6つとし、円環軸51と太陽軸52との対向環状空間の円周所定領域に配置される遊星軸53の数を他領域に比べて少なくする。図8に示す例では、前記対向環状空間の右半分領域に遊星軸53を配置させない状態にしている。
【0082】
このようにすると、6つの遊星軸53・・・の中から両端に位置する2つの遊星軸53,53の中心間距離が他に比べて大きくなるとともに、当該2つの遊星軸53,53が存在する右半分領域において、円環軸51に対する太陽軸52の支持剛性が他領域に比べて低下することになる。これにより、図8に示すように、太陽軸52の中心P1が円環軸51の中心P2に対して径方向に偏る状態になって、図9に示すように、太陽軸52の中心P1がハウジング31の外側小筒部33の中心P3に対して径方向に偏る状態になるので、前記局部押し付け状態が確保されることになる。
【0083】
そして、前記局部押し付け状態を確保した場合には、太陽軸52を軸方向に変位させるときに当該太陽軸52のオススプライン52dと外側小筒部33のメススプライン33aとの間の摩擦抵抗が前記局部押し付け状態を確保していない場合に比べると大きくなる。そのため、アクチュエータ30を停止している状態において、例えば太陽軸52に対して前記引っ張り方向のスラスト荷重が加わっていても、前記摩擦抵抗により太陽軸52が軸方向に変位する可能性が低下するようになる。
【0084】
このように、アクチュエータ30の停止時において、太陽軸52を軸方向にたやすく動かないようにすることが可能になるので、アクチュエータ30を再起動させるときに太陽軸52の位置制御を高精度に行うことが可能になるなど、信頼性の向上に貢献できる。しかも、前記したように、複数の遊星軸53の配列パターンを工夫することによって、余分な部品を追加しないようにしているから、アクチュエータ30の製造コストが無駄に上昇することを回避できる。
【0085】
ところで、実施形態1では、遊星軸53が公転する関係より、この公転動作に伴い局部押し付け部分が円周方向に逐一移り変わるようになる。そのため、円環軸51のメスネジ51aと遊星軸53のオスネジ53aと太陽軸52のオスネジ52aとの噛み合い部分や、太陽軸52のオススプライン52dと外側小筒部33のメススプライン33aとの接触部分については、円周方向で略均等に経年摩耗するようになって、前記ネジやスプラインが偏摩耗する可能性が低下すると言える。
【0086】
以上説明したように、この実施形態1では、従来例で説明したような回転抑止力に頼ることなく、意図しない太陽軸52の軸方向変位を抑制または防止することが可能になるから、次のような点でもメリットがある。
【0087】
つまり、前記回転抑止力は、円環軸51を支持する玉軸受56の内部フリクションや、変換機構50内部に供給されるオイルがハウジング31内におけるモータ40の配置空間に漏洩することを防止するためのオイルシール58のフリクションや、駆動源としてモータ40のステータ・ロータ間に作用する磁力などにより得られる。この回転抑止力は、玉軸受56の構成要素やオイルシール58やモータ40の構成要素の製造公差や組立公差によって、アクチュエータ30の製品毎にばらつきがある。そこで、製造公差や組立公差を高精度に管理することにより前記回転抑止力を一定レベル以上にすることが可能であるものの、その場合には製造コストが嵩むなど、好ましくない。このような製造コストの嵩む対処が、この実施形態1では不要になるのである。
【0088】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。以下で例を挙げる。
【0089】
(1)図1において、インテークバルブ4のバルブ特性を変更するように可変動弁機構10を配置した例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものでない。例えば図示していないが、エキゾーストバルブ5のバルブ特性を変更するように可変動弁機構10を配置することが可能である。また、例えばインテークバルブ4のバルブ特性とエキゾーストバルブ5のバルブ特性とをそれぞれ個別に変更するように2つの可変動弁機構10を配置することも可能である。
【0090】
(2)上記実施形態1では、アクチュエータ30において、ハウジング31の外側小筒部33のメススプライン33aに対する太陽軸52のオススプライン52dの局部押し付け状態を確保するために、複数の遊星軸53の配列パターンを工夫する例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0091】
複数の遊星軸53の配列パターンについては、例えば図10から図12に示すように変えることが可能である。図10から図12に示す応用例1−3では、遊星軸53の最大許容使用数を例えば9つであると想定して、この最大許容使用数から3つ間引いて遊星軸53の使用数を6つにする例を挙げている。なお、図10に示す応用例1および図11に示す応用例2の場合、上半分と下半分とに同数の遊星軸53を配置したうえで、遊星軸53の配列を左右方向に沿う横線を軸とした線対称にしているが、図12に示す応用例3の場合、前記のように線対称にしていない。
【0092】
ここで例示する応用例1−3においてのみ、6つの遊星軸53に添付する符号を53A,53B,53C,53D,53E,53Fにしている。また、図10から図12の遊星軸53A〜53Fの配列や離隔寸法は、技術思想を判りやすくするために誇張して記載している。
【0093】
まず、図10に示す応用例1では、円環軸51と太陽軸52との対向環状空間を90度ずつに4分割するように、対向環状空間の中心を通る斜め右45度上がり方向に沿う斜め右上がり線201と斜め右45度下がり方向に沿う斜め右下がり線202とを規定しておいて、上領域301と下領域302と左領域303とにそれぞれ2つの遊星軸53A,53B,53E,53F,53C,53Dを配置し、右領域304のみに遊星軸配置無しとする。
【0094】
そして、上領域301に配置される2つの遊星軸53A,53Bと下領域302に配置される2つの遊星軸53E,53Fとをそれぞれやや右寄りにずらして、左領域303に配置される2つの遊星軸53C,53Dを左領域303の両端に大きく離すように設定している。
【0095】
さらに、上半分に配置される3つの遊星軸53A,53B,53Cどうしの各中心間距離と、下半分に配置される3つの遊星軸53D,53E,53Fどうしの各中心間距離をそれぞれ略一定にするように規則正しく配置する。これらの中心間距離よりも、左領域303に配置される2つの遊星軸53C,53Dの中心間距離を大きくし、さらに、この左領域303に配置される2つの遊星軸53C,53Dの中心間距離よりも、上領域301に配置される図中右端の遊星軸53Aと下領域302に配置される図中右端の遊星軸53Fとの中心間距離を大きく設定する。
【0096】
この応用例1の配列パターンにすれば、右領域304における太陽軸52の支持剛性が他の3つの領域301,302,303に比べて低下することになるので、図中の太線矢印100で示す方向に、太陽軸52の中心P1が円環軸51の中心P2に対して偏る状態になって、図9に示したように太陽軸52の中心P1がハウジング31の外側小筒部33の中心P3に対して偏る状態になるので、前記局部押し付け状態が確保されることになる。
【0097】
次いで、図11に示す応用例2では、円環軸51と太陽軸52との対向環状空間を90度ずつに4分割するように、対向環状空間の中心を通る上下方向に沿う縦線211と左右方向に沿う横線212とを規定しておいて、左上領域311と左下領域312とにそれぞれ2つの遊星軸53A,53B,53C,53Dを配置し、右上領域313と右下領域314とにそれぞれ1つの遊星軸53F,53Eを配置する。
【0098】
そして、左上領域311と左下領域312との左半分に配置される計4つの遊星軸53A,53B,53C,53Dの中から両端に位置する2つの遊星軸53A,53Dと右上領域313に配置される1つの遊星軸53Fと右下領域314に配置される1つの遊星軸53Eとについて、円周方向で隣り合うどうしの中心間距離を、左上領域311と左下領域312との左半分に配置される計4つの遊星軸53A,53B,53C,53Dの各中心間距離よりも大きくする。
【0099】
この応用例2の配列パターンにすれば、右上領域313の遊星軸53Fと右下領域314の遊星軸53Eとの間における太陽軸52の支持剛性が他の領域に比べて低下することになるので、図中の太線矢印100で示す方向に、太陽軸52の中心P1が円環軸51の中心P2に対して偏る状態になって、図9に示したように太陽軸52の中心P1がハウジング31の外側小筒部33の中心P3に対して偏る状態になるので、前記局部押し付け状態が確保されることになる。
【0100】
さらに、図12に示す応用例3では、円環軸51と太陽軸52との対向環状空間を180度ずつに2分割するように、対向環状空間の中心を通る斜め右45度下がり方向に沿う斜め右下がり線221を規定しておいて、左斜め下半分領域321に3つの遊星軸53A,53B,53Cを配置して、右斜め上半分領域322に3つの遊星軸53D,53E,53Fを配置する。
【0101】
そして、左斜め下半分領域321では、その円周方向ほぼ中間に3つの遊星軸53A,53B,53Cどうしの中心間距離を略一定にするように規則正しく配置する。一方、右斜め上半分領域322では、3つの遊星軸53D,53E,53Fを不規則に配置する。つまり、右斜め上半分領域322においては、中央に配置される遊星軸53Eとその右側に配置される遊星軸53Dとの中心間距離を、中央に配置される遊星軸53Eとその左側に配置される遊星軸53Fとの中心間距離よりも大きく設定している。
【0102】
この応用例3の不等配列パターンにすれば、遊星軸53Dの少し上の位置における太陽軸52の支持剛性が他の領域に比べて低下することになるので、図中の太線矢印100で示す方向に、太陽軸52の中心P1が円環軸51の中心P2に対して偏る状態になって、図9に示したように太陽軸52の中心P1がハウジング31の外側小筒部33の中心P3に対して偏る状態になるので、前記局部押し付け状態が確保されることになる。
【0103】
以上説明した応用例1−3の場合も、上記実施形態1とほぼ同様の作用、効果が得られる。ところで、実施形態1と応用例1−3とにおいて、外側小筒部33のメススプライン33aに対する太陽軸52のオススプライン52dの局部押し付け部分に発生する摩擦抵抗の大小関係は、実施形態1>応用例1>応用例2>応用例3となる。一方、実施形態1と応用例1−3とにおいて、太陽軸52のオススプライン52dと外側小筒部33のメススプライン33aとの接触部分における経年摩耗、ならびに円環軸51のメスネジ51aと遊星軸53のオスネジ53aと太陽軸52のオスネジ52aとの噛み合い部分の経年摩耗の大小関係は、実施形態1<応用例1<応用例2<応用例3となる。これらの知見により、前記要求される摩擦抵抗と経年摩耗とを考慮して、適宜の形態を実施することが可能になる。
【0104】
(3)図13を参照して、本発明の実施形態2を説明する。この実施形態2では、ハウジング31の外側小筒部33のメススプライン33aに対する太陽軸52のオススプライン52dの局部押し付け状態について、太陽軸52の中心P1を外側小筒部33の中心P3に対して太線矢印100の方向に意図的に偏心させた状態で組み込むことによって確保している。
【0105】
この実施形態2のように、太陽軸52をオフセット組み込みすると、余分な部品を追加せずに、前記局部押し付け状態を確保することが可能になるから、アクチュエータ30の製造コストが無駄に上昇することを回避できる。
【符号の説明】
【0106】
1 シリンダヘッド
2 インテークカムシャフト
4 インテークバルブ
10 可変動弁機構
11 ロッカーシャフト
12 コントロールシャフト
20 バルブリフト機構
21 スライダギヤ
22 入力アーム
23 出力アーム
30 アクチュエータ
31 ハウジング
33 ハウジングの外側小筒部
33a 外側小筒部のメススプライン
40 モータ
50 変換機構
51 円環軸
51a 円環軸のメスネジ
52 太陽軸
52a 太陽軸のオスネジ
52b 太陽軸の傾き防止用ギヤ
52c 太陽軸の傾き防止用ギヤ
52d 太陽軸のオススプライン
52e 太陽軸の外端部
53 遊星軸
53a 遊星軸のオスネジ
53b 遊星軸の傾き防止用ギヤ
53c 遊星軸の傾き防止用ギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転動力を発生する駆動源と、駆動源で発生する回転動力を直線駆動力に変換する変換機構と、前記駆動源および変換機構を収納するハウジングとを備える構成のアクチュエータであって、
前記変換機構は、軸方向変位が規制された状態で前記回転動力で回転駆動されかつ内周にメスネジを有する円環軸と、この円環軸の内径側に軸方向変位可能に所定空間を介して挿通されかつ外周の軸方向所定領域にオスネジを有する太陽軸と、円環軸と太陽軸との対向環状空間の円周数ヶ所に配置されかつ外周に前記円環軸のメスネジと前記太陽軸のオスネジとにそれぞれ螺合されるオスネジを有する遊星軸とを備え、
前記ハウジングは、前記太陽軸の軸方向一端側を外部に突き出させるための筒部を有し、この筒部内周にはメススプラインが設けられ、また、前記太陽軸の外周の軸方向所定領域には、前記メススプラインに嵌合するオススプラインが設けられ、
前記太陽軸のオススプラインにおける円周方向所定領域が、前記筒部のメススプラインに径方向から押し付けられた状態とされている、ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載のアクチュエータにおいて、
前記筒部のメススプラインに対する前記太陽軸のオススプラインの局部押し付け状態は、前記複数の遊星軸の中から適宜の隣り合う2つの遊星軸の中心間距離を他に比べて大きく設定して前記筒部内において前記太陽軸を意図的に偏らせる状態にすることによって確保される、ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項3】
請求項1に記載のアクチュエータにおいて、
前記筒部のメススプラインに対する前記太陽軸のオススプラインの局部押し付け状態は、前記太陽軸の中心を前記ハウジングの筒部の中心に対して意図的に偏心させた状態で組み込むことによって確保される、ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項4】
エンジンバルブのバルブ作用角および最大バルブリフト量の少なくとも一方を変更するエンジンの可変動弁機構であって、
シリンダヘッドに固定状態で配置されるロッカーシャフトと、このロッカーシャフト内に軸方向変位可能に挿入されるコントロールシャフトと、ロッカーシャフトの外周に組み付けられてエンジンバルブを運動させるバルブリフト機構と、コントロールシャフトを軸方向変位させるためのアクチュエータとを備え、
前記バルブリフト機構は、前記コントロールシャフトと連動して移動可能なスライダギヤと、このスライダギヤに組み付けられてエンジンバルブのカムシャフトにより運動する入力アームと、前記スライダギヤに組み付けられてエンジンバルブを運動させる出力アームとを備え、かつ前記コントロールシャフトの直線運動を通じて前記入力アームと前記出力アームとを相対回転させることで前記バルブ作用角および最大バルブリフト量の少なくとも一方を変更する構成であり、
前記アクチュエータは、請求項1〜3のいずれか1つに記載の構成とされ、このアクチュエータの太陽軸においてハウジングから外部へ突出する外端部が、前記コントロールシャフトに同軸となる状態で一体に連結されている、ことを特徴とするエンジンの可変動弁機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−179359(P2011−179359A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42736(P2010−42736)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】