説明

アクチュエータおよび電子装置

【課題】固定電極に対する可動電極(可動部)の形成位置に関わらず、所望の振動特性を発揮することができるアクチュエータおよび電子装置を提供すること。
【解決手段】アクチュエータ1は、基板2と、基板2上に設けられた固定電極3と、可動電極4とを有している。可動電極4は、可動部42と、可動部42を支持する支持部41と、可動部42と支持部41とを連結する連結部43を有している。また、可動部42は、連結部43を介して支持部41に片持ち支持されるとともに、固定電極3と空隙を隔てて対向配置されている。このような可動電極4には、可動電極4から固定電極3の連結部43側の縁部の少なくとも一部が露出するように、開口5が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータおよび電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を利用し、半導体基板にMEMS素子を備えたセンサ、共振器、通信用デバイスなどが注目されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1には、半導体基板上に検出電極と構造体とを備え、構造体が、検出電極と対向配置された可動部と、可動部を半導体基板に支持する支持部とで構成されたMEMS素子が開示されている。このようなMEMS素子では、可動部に交番電圧を印加し、可動部と検知電極との間に働く静電力の強さを経時的に変化させることにより、可動板を振動させ、検出電極から固有の共振周波数を出力するよう構成されている。
【0003】
このような構成のMEMS素子では、可動部が支持部に片持ち支持されているため、支持部に隣接した膜(窒化膜、酸化膜等)や構造体との間に発生する応力の影響を受け難い。
例えば、複数の支持部が同一の膜もしくは基板と隣接して形成される場合、前記支持部に隣接した膜の水平方向に応力が発生すると、支持部を介して可動部に対してそれが印加され、所望の周波数特性が安定して得られない場合がある。
また同じく、複数の支持部が同一の膜もしくは基板と隣接して形成される場合、前記支持部に隣接した膜、もしくは、基板の熱膨張係数が、MEMS素子の構成材料と異なる場合、周囲温度の変化に対して支持部間に応力が働き、温度に対する特性変動が助長される場合がある。
【0004】
一方で、片持ち支持の場合、支持部に隣接した膜もしくは基板に起因した応力が発生しても、可動部に対する影響は小さい。この様に、支持部が一箇所の、いわゆる片持ち構造体は、自身構造に起因した複数の長所を有する。
また、形状的に可動部周辺の犠牲層除去を効率的に行うことが可能であり、製造時のスループット向上に有利である点も長所として挙げられる。
しかしながら、このような特許文献1のMEMS素子では、支持部に対する構造体(可動部)の形成位置が、可動部の長手方向、即ち、梁の長さ方向にずれると、実質上の構造体の梁長が設計値に対してずれてしまう。その結果、特許文献1のMEMS素子の周波数特性が変化し、所望の周波数特性を発揮することができないという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−111831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、固定電極に対する可動電極(可動部)の形成位置に関わらず、所望の周波数特性を発揮することができるアクチュエータおよび電子装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のアクチュエータは、基板と、
前記基板上に設けられた固定電極と、
可動部、前記可動部を支持する支持部、および前記可動部と前記支持部とを連結する連結部を有し、前記可動部が前記連結部を介して前記支持部に片持ち支持されるとともに、前記固定電極と空隙を隔てて対向配置された可動電極とを有し、
前記可動電極には、当該可動電極から前記固定電極の前記連結部側の縁部の少なくとも一部が露出するように、少なくとも1つの開口が形成されていることを特徴とする。
これにより、支持部に対する可動部の位置が所定位置に対してずれた場合であっても、所望の振動特性を発揮することができる。
【0008】
本発明のアクチュエータでは、前記開口は、前記可動部と前記連結部の境界部に跨って設けられていることが好ましい。
これにより、可動部の振動が円滑となる。
本発明のアクチュエータでは、前記少なくとも1つの開口は、前記可動電極の幅方向の縁に開放しない開口を含んでいることが好ましい。
これにより、連結部が互いに離間する2つの連結片を備えることとなるため、可動部が、連結部を介して支持部に、より確実かつ安定して支持されることとなる。そのため、可動部の振動が安定する。
【0009】
本発明のアクチュエータでは、前記可動電極幅方向の縁に開放しない開口は、前記基板の平面視にて、前記可動電極の幅方向に延在する長方形状をなしていることが好ましい。
これにより、可動部の振動が円滑となる。
本発明のアクチュエータでは、前記少なくとも1つの開口は、前記可動電極の幅方向の縁に開放しない第1の開口と、第1の開口を介して対向配置され、前記可動電極の幅方向の縁に開放する第2の開口および第3の開口とを含んでいることが好ましい。
これにより、可動部の振動が円滑となる。
【0010】
本発明のアクチュエータでは、前記可動部の自由端側には、欠損部が形成されていることが好ましい。
これにより、可動部の自由端側の質量を小さくすることができ、可動部の振動の際に可動部に働く慣性力を小さくすることができる。そのため、可動部をより円滑に(例えばキックバックの発生を抑制して)振動させることができる。
本発明のアクチュエータでは、前記可動部の自由端側には、自由端に向けて幅が漸減するテーパ部が設けられていることが好ましい。
これにより、可動部の振動中に、自由端部と固定電極とが静電力により貼り付くこと(いわゆるスティッキングの発生)を効果的に防止することができる。
【0011】
本発明のアクチュエータは、基板と、
前記基板上に設けられた固定電極と、
可動部、前記可動部を支持する支持部、および前記可動部と前記支持部とを連結する一対の連結部を有する可動電極とを有し、
前記可動部は、前記固定電極と空隙を隔てて対向配置されるとともに、前記基板の平面視にて、前記固定電極に包含されており、
前記一対の連結部は、それぞれ、板片を直角に屈曲した形状を有していることを特徴とする。
これにより、可動部の位置が所定位置に対してずれた場合であっても、所望の振動特性を発揮することができる。
【0012】
本発明の電子装置は、基板と、
前記基板上に設けられた固定電極と、
可動部、前記可動部を支持する支持部、および前記可動部と前記支持部とを連結する連結部を有し、前記可動部が前記連結部を介して前記支持部に片持ち支持されるとともに、前記固定電極と空隙を隔てて対向配置された可動電極とを有し、
前記可動電極には、当該可動電極から前記固定電極の前記連結部側の縁部の少なくとも一部が露出するように、少なくとも1つの開口が形成されているアクチュエータを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子装置を提供することができる。
【0013】
本発明の電子装置は、基板と、
前記基板上に設けられた固定電極と、
可動部、前記可動部を支持する支持部、および前記可動部と前記支持部とを連結する一対の連結部を有する可動電極とを有し、
前記可動部は、前記固定電極と空隙を隔てて対向配置されるとともに、前記基板の平面視にて、前記固定電極に包含されており、
前記一対の連結部は、それぞれ、板片を略直角に屈曲した形状を有しているアクチュエータを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のアクチュエータの第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示すアクチュエータの断面図である。
【図3】図1に示すアクチュエータの平面図である。
【図4】図1に示すアクチュエータの駆動を示す図である。
【図5】図1に示すアクチュエータの駆動を示す図である。
【図6】図1に示すアクチュエータの製造方法を説明する断面図である。
【図7】図1に示すアクチュエータを別の観点から説明するための斜視図である。
【図8】図1に示すアクチュエータを備える電子装置の断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係るアクチュエータの平面図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係るアクチュエータの斜視図である。
【図11】図10に示すアクチュエータの平面図である。
【図12】図10に示すアクチュエータの振動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のアクチュエータおよび電子装置を添付図面に示す各実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
≪アクチュエータ≫
まず、本発明のアクチュエータについて説明する。
【0016】
図1は、本発明のアクチュエータの第1実施形態を示す斜視図、図2は、図1に示すアクチュエータの断面図、図3は、図1に示すアクチュエータの平面図、図4および図5は、それぞれ、図1に示すアクチュエータの駆動を示す図、図6は、図1に示すアクチュエータの製造方法を説明する断面図、図7は、図1に示すアクチュエータを別の観点から説明するための斜視図、図8は、図1に示すアクチュエータを備える電子装置の断面図である。なお、図1中、互いに直交する3つの方向をx軸方向、y軸方向およびz軸方向とする。そのうち、半導体基板の上面に平行な面をxy平面とし、上面の法線方向をz軸方向とする。また、以下では、説明の便宜上、図1〜図8の上側を「上」、下側を「下」、右側を「右」、左側を「左」と言う。
【0017】
図1に示すアクチュエータ1は、基板2と、固定電極3と、開口5が形成された可動電極4とを有している。このようなアクチュエータ1は、可動電極4に高周波電圧(交番電圧)を印加することにより、可動電極4および固定電極3間に、周期的に強さが変化する静電力を発生する。この高周波電圧の周波数が、可動電極4が有する可動板42の固有振動周波数と一致する場合、当該静電力により、可動電極4が有する可動板42を振動するように構成されている。このとき、アクチュエータ1では、可動板42と固定電極3との間の容量変化に合わせて電荷の移動が生じ、固定電極3および可動電極4間に電流が流れるため、固定電極3から固有の共振周波数が出力(検出)される。
【0018】
以下、アクチュエータ1を構成する各部について詳細に説明する。
図1に示すように、基板2は、平面視形状が略正方形または略長方形の板部材である。図2に示すように、この基板2は、シリコンで構成されたシリコン基板21上に、酸化シリコン膜(例えば、熱酸化膜)である絶縁膜22と、窒化シリコン膜である窒化膜23とがこの順に積層されている。なお、基板2の形状としては、特に限定されない。
【0019】
このような基板2の窒化膜23上には、固定電極3と、可動電極4の一部(後述する支持部41)とが設けられている。固定電極3は、平面視形状(xy平面視における形状)が略長方形の板状(薄膜状)をなし、y軸方向に延在している。このような固定電極3は、例えば多結晶シリコンで構成されており、後述するように、窒化膜23上に形成した多結晶シリコン膜をパターニングすることにより形成することができる。
【0020】
図1ないし図3に示すように、可動電極4は、支持部41、可動板(可動部)42および連結部43を有している。また、このような可動電極4には、後に詳述する開口5が形成されている。
図2に示すように、支持部41は、板状(膜状)をなしており、基板2上であって、固定電極3の左側に形成されている(固定されている)。支持部41は、xy平面視にて、y軸方向を長手とする略長方形をなしているが、開口5により、図2中右側の縁部の一部が除去されている。
このような支持部41は、可動板42を、連結部43を介して片持ち支持する。
【0021】
図2に示すように、連結部43は、支持部41の右側縁部から上方(z軸方向)へ向けて突出し、可動板42の左側縁部に接続するように形成されている。このような連結部43は、開口5によって2つの連結片431、432に分離されており、2つの連結片431、432は、支持部41の右側縁部のy軸方向両端部に位置している。
可動板42は、板状をなしており、固定電極3と空隙を隔ててz軸方向に対向配置されている。また、可動板42は、前述したように、連結部43を介して支持部41に片持ち支持されており、連結部43側(図2中左側)の端が固定端、この固定端と反対側(図2中右側)の端が自由端となっている。
【0022】
このような可動板42は、xy平面視にて、y軸方向を長手とする略長方形をなしているが、開口5により固定端側の縁部の一部が除去されている。このような可動板42は、固定電極3よりも小さく形成されており、xy平面視にて、ほぼ全域(開口5より自由端側の領域。以下この領域を「振動領域421」とも言う)が、固定電極3に包含されている。
【0023】
このような支持部41、可動板42および連結部43は、例えば、多結晶シリコンを構成材料として一体的に形成されている。具体的には、支持部41、可動板42および連結部43は、後述するように、固定電極3上に犠牲層を形成し、その上から基板2上に多結晶シリコン膜を形成し、多結晶シリコン膜をパターニングした後、犠牲層を除去することにより一体的に形成される。
【0024】
図1ないし図3に示すように、開口5は、支持部41と連結部43の境界部および連結部43と可動板42との境界部を跨ぐようにして形成されている。これにより、可動板42の振動領域421を開口5より自由端側にのみ形成することができるため、後述するように、可動板42を円滑に振動させることができる。なお、このような効果は、開口5が、少なくとも連結部43と可動板42との境界部を跨ぐようにして形成されていれば発揮される。
【0025】
また、開口5は、可動電極4のy軸方向(可動電極4の幅方向)の両端(両側面)に開放しない通常開口である。このような開口5は、xy平面視にて、y軸方向を長手とする長方形をなしている。なお、前記「長方形」とは、正確な長方形の他、角部が丸みを帯びていたり、各角部が90度から若干ずれていたり、各辺が若干湾曲していたりする長方形を含む。
このように、開口5の形状を通常開口とすることにより、連結部43が互いにy軸方向に離間する2つの連結片431、432を備えることとなる。そのため、可動板42が、連結部43を介して支持部41に、より確実かつ安定して支持されることとなり、可動板42の振動が安定する。
【0026】
このような開口5は、z軸方向であって、アクチュエータ1を上側(固定電極3および可動電極4が形成されている側)から見たとき、可動電極4から、その下側にある固定電極3の左側の縁部(辺)31が露出するように形成さている。すなわち、xy平面視にて、開口5の左側の縁部(辺)51と右側の縁部(辺)52との間に、固定電極3の左側の縁部31が位置するように、可動電極4に開口5が形成されている。
このような構成のアクチュエータ1では、可動電極4に交番電圧(高周波電圧)を印加することにより、可動板42と固定電極3との間に、周期的に強さが変化する静電力を発生させ、この高周波電圧の周波数が可動板42の固有振動周波数と一致する場合、可動板42が振動する。
【0027】
ここで、図3に示すように、可動板42が振動する場合には、可動板42の節Jから自由端側の振動領域421のみが振動し、可動板42の節Jより固定端側の部位は振動しない。これは、可動電極4に形成された開口5による効果である。
具体的に説明すれば、仮に、開口5が形成されていなければ、連結部43と可動板42との境界に位置する軸Gを中心(節)として、可動板42が全体的に振動する。これに対して、開口5が形成されていると、可動板42の機械的強度が急激に減少する位置(すなわち、xy平面視にて、可動板42の開口5の右側の縁部52を含む線分上(付近))に節Jが生じ、可動板42の節Jから自由端側の部分(振動領域421)のみを振動させることが可能となる。
【0028】
特に、本実施形態では、前述したように、xy平面視にて、開口5がy軸方向を長手とする略長方形をなしているため、開口5の右側の縁部52を含み、y軸方向に延びる線分上(または、この線分の近傍に位置するy軸方向に延びる線分上)に節Jを発生させることができる。そのため、振動領域421を円滑に振動させることができる。
このように、アクチュエータ1では、振動領域421のみを振動させることから、xy平面視にて、振動領域421の全域が固定電極3に包含されてさえいれば、可動板42の形成位置(xy平面における位置)に関係なく、所望の周波数特性を発揮することができる。
【0029】
そして、アクチュエータ1では、可動板42の形成位置(xy平面における位置)がx軸方向に多少ずれたとしても、可動板42の振動領域421の全域が固定電極3に包含されるように、前述の通り、アクチュエータ1を上側から見たときに、可動電極4から、その下側にある固定電極3の縁部(辺)31が露出するように開口5を形成した。言い換えると、xy平面視にて、節Jが、固定電極3上を通過するように開口5を形成した。
【0030】
そのため、アクチュエータ1の製造する際に、固定電極3に対する可動電極4の形成位置が所定位置に対してx軸方向に多少ずれても、xy平面視にて、可動板42の振動領域421の全域を固定電極3に包含することができる。したがって、アクチュエータ1によれば、可動電極4の形成位置が所定位置に対してずれたとしても、所定位置に形成されたものと同様の周波数特性を発揮することができる。
【0031】
このようなアクチュエータ1は、次のように駆動する。
図示しない高周波電源から可動電極4に高周波(交番電圧)を印加すると、振動領域421と固定電極3との間に周期的に強さが変化する静電力が発生する。この周期的に強さが変化する静電力により、節Jを中心として、振動領域421が固定電極3に対して近づいたり、遠ざかったりして振動する。具体的には、振動領域421は、y軸方向から見ると、図4(a)の状態と図4(b)の状態とを周期的に繰り返し、x軸方向から見ると、図5(a)の状態と図5(b)の状態とを周期的に繰り返すように振動する。すなわち、振動領域421の振動は、可動板42の長さ方向(x軸方向)の位置をパラメータとする振動と、可動板42の幅方向(y軸方向)の位置をパラメータとする振動とが結合された振動となっている。なお、開口5の長手方向の長さによって、共振周波数を例えば1MHz〜20MHz程度の範囲で変化させることができる。
【0032】
次いで、アクチュエータ1の製造方法について図6に基づいて説明する。
まず、図6(a)に示すように、用意したシリコン基板100表面を熱酸化させることによりSiO膜(絶縁膜)110を形成した後、SiO膜110上に、スパッタリング法、CVD法等によりSiN膜(窒化膜)120を形成する。これにより、基板2が得られる。
【0033】
次いで、図6(b)に示すように、固定電極3を形成するための多結晶シリコン膜130を形成した後、この多結晶シリコン膜130にリンイオン等の不純物イオンをドープして導電性を付与する。そして、この多結晶シリコン膜130上からフォトレジストを塗布し、固定電極3の形状(平面視形状)にパターニングしフォトレジスト膜140を形成する。
【0034】
次いで、図6(c)に示すように、パターニングしたフォトレジスト膜140をマスクとして多結晶シリコン膜130をエッチングした後、フォトレジスト膜140を除去する。これにより、基板2上に固定電極3が形成される。
次いで、図6(d)に示すように、スパッタリング法、CVD法等により、固定電極3を覆う犠牲層150を形成する。犠牲層150は、例えばシリコン酸化膜、PDG(リンドープガラス)等を用いることができる。
【0035】
次いで、図6(e)に示すように、SiN膜120および犠牲層150上に、可動電極4を形成するための多結晶シリコン膜160を形成した後、この多結晶シリコン膜160にリンイオン等の不純物イオンをドープして導電性を付与する。そして、この多結晶シリコン膜160上からフォトレジストを塗布し、開口5か形成された可動電極4の形状(平面視形状)にパターニングしフォトレジスト膜170を形成する。
次いで、図6(f)に示すように、パターニングしたフォトレジスト膜170をマスクとして多結晶シリコン膜160をエッチングした後、フォトレジスト膜170を除去する。これにより、可動電極4が形成される。
【0036】
最後に、図6(g)に示すように、犠牲層150をリリースエッチングにより除去することにより、アクチュエータ1が得られる。なお、SiN膜120は、リリースエッチングを行う際のエッチングストップ膜として機能する。
以上、アクチュエータ1の構成、作動および製造方法について、それぞれ、詳細に説明したが、アクチュエータ1の可動電極4の構成は、前述した説明と異なる観点から捉えることもできる。
【0037】
具体的に説明すれば、前述の説明では、可動電極4が、支持部41、連結部43および可動板42を有しており、このような可動電極4には、開口5が支持部41と連結部43の境界部および連結部43と可動板42の境界部に跨って形成されているという説明をした。このような可動電極4の構成は、次のように言い換えることも可能である。
すなわち、図7に示すように、可動電極4は、基板2上に設けられた支持部44と、固定電極3と空隙を隔ててz軸方向に対向配置された可動板(可動部)45と、支持部44と可動板45とを連結しy軸方向に離間した一対の連結部46、47とを有しており、可動板45は、xy平面視にて、固定電極3に包含されるように位置し、各連結部46、47は、板片をクランク状に屈曲させた形状をなしている、と言い換えることができる。この場合、可動板45が、前述の振動領域421に相当し、支持部44、可動板45および一対の連結部46、47で形成された空間が前述の開口5に相当する。
【0038】
≪電子装置≫
次いで、アクチュエータ1を備える電子装置(本発明の電子装置)について説明する。
図8に示すように、電子装置200は、アクチュエータ1(基板2、固定電極3および開口5が形成された可動電極4)と、固定電極3および可動電極4の周囲を包囲する構造体210と、半導体回路(図示せず)とを有している。
【0039】
構造体210は、第1の層間絶縁膜211と、第1の配線層212と、第2の層間絶縁膜213と、第2の配線層214と、表面保護膜215と、封止層216とを有している。
第1の層間絶縁膜211は、xy平面視にて、固定電極3および可動電極4の周囲を囲むように、基板2の窒化膜(SiN膜)23上に形成されている。このような第1の層間絶縁膜211は、例えば、シリコン酸化膜からなり、スパッタリング法、CVD法等により形成することができる。
【0040】
第1の層間絶縁膜211上には、例えばアルミニウムよりなる第1の配線層212が形成されている。第1の配線層212は、第1の層間絶縁膜211に形成されたビアホール(導体ポスト)を介して、基板2に接地される。
第1の層間絶縁膜211および第1の配線層212上には、例えばSiO膜からなる第2の層間絶縁膜213が形成されている。第2の層間絶縁膜213は、第1の層間絶縁膜211と同様に、xy平面視にて、固定電極3および可動電極4の周囲を囲むように形成されている。
【0041】
第2の層間絶縁膜213上には、例えばアルミニウムよりなる第2の配線層214が形成されている。第2の配線層214は、第2の層間絶縁膜213に形成されたビアホールを介して第1の配線層212と、電気的に接続されている。また、第2の配線層214は、固定電極3および可動電極4の上方に配置される被覆部214aを有しており、この被覆部214aには、複数の細孔214bが形成されている。
【0042】
第2の層間絶縁膜213および第2の配線層214上には、例えばSiN膜からなる表面保護膜215が形成されている。また、第2の配線層214の被覆部214a上には、細孔214bを閉鎖する封止層216が形成されている。
このような構成の構造体210には、一部欠損した図示しない開口部が形成されている。ここで、固定電極3および可動電極4には、それぞれ、電極配線(図示せず)が接続されており、これら配線は、前記開口部を介して構造体210の外側へ引き出される。
また、基板2(シリコン基板21)上には、MOSトランジスタ等の能動素子、コンデンサ、インダクタ、抵抗、ダイオード、配線(前記電極配線を含む)等の回路要素を有する半導体回路が作り込まれている。
【0043】
<第2実施形態>
次に、本発明のアクチュエータの第2実施形態について説明する。
図9は、本発明の第2実施形態に係るアクチュエータの平面図である。
以下、第2実施形態のアクチュエータについて、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本発明の第2実施形態にかかるアクチュエータでは、可動電極が有する可動板の形状が異なる以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。
【0044】
図9に示すように、可動電極4の可動板42は、自由端側に一対の質量欠損部(欠損部)422、423を有している。一対の質量欠損部422、423は、自由端部のy軸方向両端部に形成されている。このような質量欠損部422、423を可動板42に形成することにより、可動板42の自由端側の質量を小さくすることができ、可動板42の振動の際に可動板42に働く慣性力を小さくすることができる。そのため、可動板42をより円滑に(例えばキックバックの発生を抑制して)振動させることができ、アクチュエータ1は、優れた振動特性を発揮することができる。
【0045】
一方で、可動板42に、一対の質量欠損部422、423が形成されたことにより、可動板42の自由端側には、自由端に向けて幅(y軸方向の長さ)が漸減するテーパ部424が形成されている。このように、可動板42の自由端部がテーパ状となっていることにより、可動板42の振動中に、自由端部と固定電極とが静電力により貼り付くこと(いわゆるスティッキングの発生)を効果的に防止することができる。
なお、質量欠損部422、423の形状としては、特に限定されず、可動板42の自由端側がテーパ状にならないような形状であってもよい。
以上のような第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0046】
<第3実施形態>
次に、本発明のアクチュエータの第3実施形態について説明する。
図10は、本発明の第3実施形態に係るアクチュエータの斜視図、図11は、図10に示すアクチュエータの平面図、図12は、図10に示すアクチュエータの振動を示す図である。なお、以下では、説明の便宜上、図10〜図12の上側を「上」、下側を「下」、右側を「右」、左側を「左」と言う。
【0047】
以下、第3実施形態のアクチュエータについて、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本発明の第3実施形態にかかるアクチュエータでは、開口の構成が異なる以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。
【0048】
図10に示すように、可動電極4には、3つの開口5A、5B、5Cが形成されている。3つの開口5A、5B、5Cは、それぞれ、支持部41と連結部43の境界部および連結部43と可動板42の連結部を跨ぐように形成されている。
図11に示すように、開口5Aは、可動電極4の側面に開放しない通孔開口であり、y軸方向において可動板42の中央部に位置している。このような開口5Aは、xy平面視にて、y軸方向を長手とする略長方形をなしている。
【0049】
一方、開口5B、5Cは、それぞれ、可動電極4の側面(y軸方向の縁)に開放する開放開口であり、開口5Aを介してy軸方向に対向配置されている。このような開口5B、5Cは、それぞれ、xy平面視にて、y軸方向に延在する縁とx軸方向に延在する縁とを有する略四角形(長方形または正方形)をなしている。
ここで、図11に示すように、xy平面視にて、開口5Aの右側の縁部(辺)51A、開口5Bの右側の縁部(辺)51Bおよび開口5Cの右側の縁部(辺)51Cは、それぞれ、y軸方向に延在している。また、これら3つの縁部51A〜51Cは、xy平面視にて、y軸方向に延びる同一線分上に位置している。
【0050】
次いで、アクチュエータ1の駆動を説明する。このようなアクチュエータ1では、図示しない高周波電源から可動電極4に高周波(交番電圧)を印加すると、振動領域421と固定電極3との間に周期的に強さが変化する静電力が発生し、この静電力により、振動領域421が振動する。具体的には、振動領域421は、x軸方向から見ると、図12(a)の状態と図12(b)の状態とを周期的に繰り返すように振動する。
【0051】
ここで、連結部43は、開口5A、5B間に形成された連結片431と、開口5A、5C間に形成された連結片432とを有しており、このような連結片431、432は、ともに、可動電極4のy軸方向の端部から中央部側にずれて設けられている。
そのため、図12(a)に示すように、振動領域421の中央部(図12中、連結片431、432間の領域)が固定電極3に近づくように変位するときには、振動領域421の両端部(図12中、連結片431より右側の領域および連結片432より左側の領域)が固定電極3から遠ざかるように変位し、反対に、図12(b)に示すように、振動領域421の中央部が固定電極3から遠ざかるように変位するときには、振動領域421の両端部が固定電極3に近づくように変位する。
【0052】
そのため、上述のような構成の可動電極4(開口5)によれば、振動領域421の中央部の変位により発生する慣性力と、両端部の変位により発生する慣性力を相殺することができ、振動領域421を円滑に振動させることができる。
以上のような第3実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0053】
以上、本発明のアクチュエータおよび電子装置を、図示の各実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や、工程が付加されていてもよい。また、本発明のアクチュエータおよび電子装置は、前記各実施形態のうち、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1……アクチュエータ 2……基板 21……シリコン基板 22……絶縁膜 23……窒化膜 3……固定電極 31……縁部 4……可動電極 41、44……支持部 42、45……可動板(可動部) 421……振動領域 422、423……質量欠損部 424……テーパ部 43、46、47……連結部 431、432……連結片 5、5A〜5C……開口 51、51A、51B、51C、52……縁部 100……シリコン基板 110……SiO膜 120……SiN膜(窒化膜) 130、160……多結晶シリコン膜 140、170……フォトレジスト膜 150……犠牲層 200……電子装置 210……構造体 211……第1の層間絶縁膜 212……第1の配線層 213……第2の層間絶縁膜 214……第2の配線層 214a……被覆部 214b……細孔 215……表面保護膜 216……封止層 J……節 G……軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた固定電極と、
可動部、前記可動部を支持する支持部、および前記可動部と前記支持部とを連結する連結部を有し、前記可動部が前記連結部を介して前記支持部に片持ち支持されるとともに、前記固定電極と空隙を隔てて対向配置された可動電極とを有し、
前記可動電極には、当該可動電極から前記固定電極の前記連結部側の縁部の少なくとも一部が露出するように、少なくとも1つの開口が形成されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記開口は、前記可動部と前記連結部の境界部に跨って設けられている請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記少なくとも1つの開口は、前記可動電極の幅方向の縁に開放しない開口を含んでいる請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記可動電極幅方向の縁に開放しない開口は、前記基板の平面視にて、前記可動電極の幅方向に延在する長方形状をなしている請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの開口は、前記可動電極の幅方向の縁に開放しない第1の開口と、第1の開口を介して対向配置され、前記可動電極の幅方向の縁に開放する第2の開口および第3の開口とを含んでいる請求項1ないし4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記可動部の自由端側には、欠損部が形成されている請求項1ないし5のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記可動部の自由端側には、自由端に向けて幅が漸減するテーパ部が設けられている請求項6に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
基板と、
前記基板上に設けられた固定電極と、
可動部、前記可動部を支持する支持部、および前記可動部と前記支持部とを連結する一対の連結部を有する可動電極とを有し、
前記可動部は、前記固定電極と空隙を隔てて対向配置されるとともに、前記基板の平面視にて、前記固定電極に包含されており、
前記一対の連結部は、それぞれ、板片を直角に屈曲した形状を有していることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項9】
基板と、
前記基板上に設けられた固定電極と、
可動部、前記可動部を支持する支持部、および前記可動部と前記支持部とを連結する連結部を有し、前記可動部が前記連結部を介して前記支持部に片持ち支持されるとともに、前記固定電極と空隙を隔てて対向配置された可動電極とを有し、
前記可動電極には、当該可動電極から前記固定電極の前記連結部側の縁部の少なくとも一部が露出するように、少なくとも1つの開口が形成されているアクチュエータを備えることを特徴とする電子装置。
【請求項10】
基板と、
前記基板上に設けられた固定電極と、
可動部、前記可動部を支持する支持部、および前記可動部と前記支持部とを連結する一対の連結部を有する可動電極とを有し、
前記可動部は、前記固定電極と空隙を隔てて対向配置されるとともに、前記基板の平面視にて、前記固定電極に包含されており、
前記一対の連結部は、それぞれ、板片を略直角に屈曲した形状を有しているアクチュエータを備えることを特徴とする電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−207975(P2010−207975A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57503(P2009−57503)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】