説明

アクリル樹脂組成物、該アクリル樹脂組成物からなる熱伝導性感圧接着性シート、該熱伝導性感圧接着性シートの製造方法、及び基材と該熱伝導性感圧接着性シートとからなる複合体

【課題】熱伝導率が向上された熱伝導性感圧接着性シート、基材と該熱伝導性感圧接着性シートとからなる複合体、該熱伝導性感圧接着性シートの製造方法、及び、該熱伝導性感圧接着性シートのもととなるアクリル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】重量平均分子量が10万以上50万以下の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)と、重量平均分子量が1000以上5000以下の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)と、膨張化黒鉛粉(E)と、を含有するアクリル樹脂組成物(F)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂組成物、該アクリル樹脂組成物からなる熱伝導性感圧接着性シート、該熱伝導性感圧接着性シートの製造方法、及び基材と該熱伝導性感圧接着性シートとからなる複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)、集積回路(IC)チップ等のような電子部品は、その高性能化に伴って発熱量が増大している。この結果、温度上昇による機能障害対策を講じる必要性が生じている。一般的には、電子部品等の発熱体に、ヒートシンク、放熱金属板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることで、熱を拡散させる方法が取られている。発熱体から放熱体への熱伝導を効率よく行うために、各種熱伝導シートが使用されているが、一般に、発熱体と放熱体とを固定する用途においては熱伝導性感圧接着性シートが必要とされる。
【0003】
このような熱伝導性感圧接着性シートとして、例えば特許文献1には、樹脂を主成分として、難燃性無機化合物および膨張化黒鉛粉を含有する熱伝導性感圧接着剤組成物が開示されている。そして、かかる熱伝導性感圧接着剤組成物からなる熱伝導性感圧接着性シート状成形体は、難燃性、硬度、粘着特性および熱伝導性が良好で、それらの特性のバランスに優れるとしている。
【特許文献1】WO2007/116686号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されている熱伝導性感圧接着剤組成物のように、膨張化黒鉛粉を添加することで該熱伝導性感圧接着剤組成物からなる熱伝導性感圧接着性シートの熱伝導率の向上を図れた。しかし、更なる熱伝導率の向上が望まれていた。
【0005】
そこで、本発明は、熱伝導率が向上された熱伝導性感圧接着性シート、該熱伝導性感圧接着性シートの製造方法、及び、該熱伝導性感圧接着性シートのもととなるアクリル樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、熱伝導性感圧接着性シートについて鋭意研究を続けた結果、重量平均分子量が異なるアクリル樹脂を含有するアクリル樹脂組成物をシート状に成形することによって、熱伝導率が向上された熱伝導性感圧接着性シートを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、第1の本発明によれば、重量平均分子量が10万以上50万以下の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)と、重量平均分子量が1000以上5000以下の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)と、膨張化黒鉛粉(E)と、を含有するアクリル樹脂組成物(F)が提供される。
【0008】
本発明において、「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)で測定したものを意味する。また、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。
【0009】
第1の本発明のアクリル樹脂組成物(F)において、さらに、難燃性熱伝導無機化合物(B)を含有することが好ましい。
【0010】
上記難燃性熱伝導無機化合物(B)が水酸化アルミニウムであることが好ましい。
【0011】
第1の本発明のアクリル樹脂組成物(F)において、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)が有機酸基を有する単量体単位(a2)を含有してなることが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)が水酸基、又は、エポキシ基を有する単量体単位(a3)を含有してなることが好ましい。
【0012】
第1の本発明のアクリル樹脂組成物(F)において、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の含有量が、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)と(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)との合計量に対して10質量%〜70質量%であることが好ましい。さらに、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)10質量%〜70質量%及び(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)90質量%〜30質量%からなるアクリル樹脂混合物100質量部、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)25質量部〜100質量部、膨張化黒鉛粉(E)10質量部〜100質量部、並びに、難燃性熱伝導無機化合物(B)50質量部〜400質量部を含有してなることがより好ましい。
【0013】
また、第2の本発明によれば、上記第1の本発明のアクリル樹脂組成物(F)を加熱及びシート状に成形してなる熱伝導性感圧接着性シート(G)が提供される。
【0014】
さらに、第3の本発明によれば、上記第1の本発明のアクリル樹脂組成物(F)を加熱及びシート状に成形することを特徴とする、熱伝導性感圧接着性シート(G)の製造方法が提供される。
【0015】
さらに、第4の本発明によれば、上記第1の本発明の熱伝導性感圧接着性シート(G)を、基材の片面または両面に設けてなる複合体(H)が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱伝導率が向上された熱伝導性感圧接着性シート、該熱伝導性感圧接着性シートの製造方法、及び、該熱伝導性感圧接着性シートのもととなるアクリル樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のアクリル樹脂組成物(F)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)、及び、膨張化黒鉛粉(E)を必須構成成分とし、さらに、難燃性熱伝導無機化合物(B)などを添加したものをシート状に成形しながら重合することによって、熱伝導性感圧接着性シートとされるものである。以下、アクリル樹脂組成物(F)を構成する各成分、熱伝導性感圧接着性シート、及び、熱伝導性感圧接着性シートの製造方法について詳細に説明する。
【0018】
1.(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は、その重量平均分子量が10万以上50万以下である。本発明に用いることができる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)のその他の条件としては、特に限定されないが、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a1)、及び、有機酸基を有する単量体単位(a2)を含有することが好ましい。
【0019】
ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a1)を与える(メタ)アクリル酸エステル単量体(alm)には、特に限定はないが、例えば、アクリル酸エチル(単独重合体のガラス転移温度は、−24℃)、アクリル酸プロピル(同−37℃)、アクリル酸ブチル(同−54℃)、アクリル酸sec―ブチル(同−22℃)、アクリル酸ヘプチル(同−60℃)、アクリル酸ヘキシル(同−61℃)、アクリル酸オクチル(同−65℃)、アクリル酸2―エチルヘキシル(同−50℃)、アクリル酸2―メトキシエチル(同−50℃)、アクリル酸3―メトキシプロピル(同−75℃)、アクリル酸3―メトキシブチル(同−56℃)、アクリル酸2―エトキシメチル(同−50℃)、メタクリル酸オクチル(同−25℃)、メタクリル酸デシル(同−49℃)などを挙げることができる。
【0020】
これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体(alm)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0021】
これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体(alm)は、それから導かれる単量体単位(a1)が(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)中、好ましくは80質量%〜99.9質量%、より好ましくは85質量%〜99.5質量%となるような量で重合に使用される。(メタ)アクリル酸エステル単量体(alm)の使用量が、上記範囲内であると、これから得られる熱伝導性感圧接着性シート(G)の室温付近での感圧接着性に優れる。
【0022】
有機酸基を有する単量体単位(a2)を与える単量体(a2m)は、特に限定されず、その代表的なものとして、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基などの有機酸基を有する単量体を挙げることができるが、これらのほか、スルフェン酸基、スルフィン酸基、燐酸基などを含有する単量体も使用することができる。
【0023】
カルボキシル基を有する単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのα,β―エチレン性不飽和モノカルボン酸や、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのα,β―エチレン性不飽和多価カルボン酸の他、イタコン酸メチル、マレイン酸ブチル、フマル酸プロピルなどのα,β―エチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステルなどを挙げることができる。また、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの、加水分解などによりカルボキシル基に誘導することができる基を有するものも同様に使用することができる。
【0024】
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミド―2―メチルプロパンスルホン酸などのα,β―不飽和スルホン酸、及び、これらの塩を挙げることができる。
【0025】
これらの有機酸基を有する単量体のうち、カルボキシル基を有する単量体がより好ましく、中でも、アクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。これらは、工業的に安価で容易に入手することができ、他の単量体成分との共重合性も良く、生産性の点でも好ましい。
【0026】
これらの有機酸基を有する単量体(a2m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0027】
有機酸基を有する単量体(a2m)は、それから導かれる単量体単位(a2)が(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)中、20質量%〜0.1質量%、好ましくは15質量%〜0.5質量%となるような量で重合に使用されるのが望ましい。上記範囲内での使用においては、重合時の重合系の粘度を適正な範囲に保つことができる。
【0028】
なお、有機酸基を有する単量体単位(a2)は、前述のように、有機酸基を有する単量体(a2m)の重合によって、(メタ)アクリル酸エステル重合体中に導入するのが簡便であり好ましいが、(メタ)アクリル酸エステル重合体生成後に、公知の高分子反応により、有機酸基を導入してもよい。
【0029】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は、有機酸基以外の官能基を含有する単量体(a3m)から誘導される単量体単位(a3)を含有していてもよい。
【0030】
有機酸基以外の官能基としては、水酸基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、メルカプト基などを挙げることができる。
【0031】
水酸基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルなどの、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルなどを挙げることができる。
【0032】
アミノ基を含有する単量体としては、(メタ)アクリル酸N,N―ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸N,N―ジメチルアミノエチル、アミノスチレンなどを挙げることができる。
【0033】
アミド基を有する単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N―メチロールアクリルアミド、N―メチロールメタクリルアミド、N,N―ジメチルアクリルアミドなどのα,β―エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体などを挙げることができる。
【0034】
エポキシ基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテルなどを挙げることができる。
【0035】
有機酸基以外の官能基を含有する単量体(a3m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0036】
これらの有機酸基以外の官能基を有する単量体(a3m)は、それから導かれる単量体単位(a3)が(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)中、10質量%以下となるような量で重合に使用されるのが好ましい。10質量%以下の単量体(a3m)を使用することにより、重合時の粘度を適正に保つことができる。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は、上述したガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体の単位(a1)、有機酸基を有する単量体単位(a2)、及び、有機酸基以外の官能基を含有する単量体単位(a3)以外に、これらの単量体と共重合可能な単量体(a4m)から誘導される単量体単位(a4)を含有していてもよい。単量体(a4m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0038】
単量体(a4m)から導かれる単量体単位(a4)の量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の10質量%以下が好ましく、より好ましくは、5質量%以下である。
【0039】
単量体(a4m)は、特に限定されないが、その具体例として、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(alm)以外の(メタ)アクリル酸エステル単量体、α,β―エチレン性不飽和多価カルボン酸完全エステル、アルケニル芳香族単量体、共役ジエン系単量体、非共役ジエン系単量体、シアン化ビニル単量体、カルボン酸不飽和アルコールエステル、オレフィン系単量体などを挙げることができる。
【0040】
ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(alm)以外の(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、アクリル酸メチル(単独重合体のガラス転移温度は、10℃)、メタクリル酸メチル(同105℃)、メタクリル酸エチル(同63℃)、メタクリル酸プロピル(同25℃)、メタクリル酸ブチル(同20℃)などを挙げることができる。
【0041】
イタコン酸メチル、マレイン酸ブチル、フマル酸プロピルなどのα,β―エチレン性不飽和多価カルボン酸完全エステルの具体例としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジメチルなどを挙げることができる。
【0042】
アルケニル芳香族単量体の具体例としては、スチレン、α―メチルスチレン、メチルα―メチルスチレン、ビニルトルエン、及び、ジビニルベンゼンなどを挙げることができる。
【0043】
共役ジエン系単量体の具体例としては、1,3―ブタジエン、2―メチル―1,3一ブタジエン、1,3―ペンタジエン、2,3―ジメチル―1,3―ブタジエン、2―クロロ―1,3―ブタジエン、シクロペンタジエンなどを挙げることができる。
【0044】
非共役ジエン系単量体の具体例としては、1,4―ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどを挙げることができる。
【0045】
シアン化ビニル単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α―クロロアクリロニトリル、α―エチルアクリロニトリルなどを挙げることができる。
【0046】
カルボン酸不飽和アルコールエステル単量体の具体例としては、酢酸ビニルなどを挙げることができる。
【0047】
オレフィン系単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどを挙げることができる。
【0048】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)、有機酸基を有する単量体(a2m)、必要に応じて使用する、有機酸基以外の官能基を含有する単量体(a3m)、及び、必要に応じて使用するこれらの単量体と共重合可能な単量体(a4m)を共重合することによって特に好適に得ることができる。
【0049】
重合の方法は、特に限定されず、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などのいずれであってもよく、これ以外の方法でもよい。好ましくは、溶液重合であり、中でも重合溶媒として、酢酸エチル、乳酸エチルなどのカルボン酸エステルやベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒を用いた溶液重合がより好ましい。
【0050】
重合に際して、単量体は、重合反応容器に分割添加してもよいが、全量を一括添加するのが好ましい。
【0051】
重合開始の方法は、特に限定されないが、重合開始剤(C1)として熱重合開始剤を用いるのが好ましい。熱重合開始剤は、特に限定されず、過酸化物およびアゾ化合物のいずれでもよい。
【0052】
過酸化物重合開始剤としては、t―ブチルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシドや、ベンゾイルペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシドのようなペルオキシドの他、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩などを挙げることができる。これらの過酸化物は、還元剤と適宜組み合わせて、レドックス系触媒として使用することもできる。
【0053】
アゾ化合物重合開始剤としては、2,2’―アゾビスイソブチロニトリル、2,2’―アゾビス(2,4―ジメチルバレロニトリル)、2,2’―アゾビス(2―メチルブチロニトリル)などを挙げることができる。
【0054】
重合開始剤(C1)の使用量は、特に限定されないが、単量体100質量部に対して、0.01〜50質量部の範囲であるのが好ましい。
【0055】
これらの単量体のその他の重合条件(重合温度、圧力、撹拌条件など々)は、特に制限がない。
【0056】
重合反応終了後、必要により、得られた重合体を重合媒体から分離する。分離の方法は、特に限定されないが、溶液重合の場合、重合溶液を減圧下に置き、重合溶媒を留去することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)を得ることができる。
【0057】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の重量平均分子量は、重合の際に使用する重合開始剤の量や、連鎖移動剤の量を適宜調整することによって制御することができる。
【0058】
2.(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)は、その重量平均分子量が1000以上5000以下である。
【0059】
本発明に用いることができる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)のその他の条件としては、特に限定されないが、上述した(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)と同様に、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)と、有機酸基を有する単量体(a2m)、有機酸基以外の官能基を含有する単量体(a3m)、及び、これらの単量体と共重合可能な単量体(a4m)からなる群から選ばれる一種又は二種以上の単量体と、を共重合することによって特に好適に得ることができる。なお、重合の方法は特に限定されず、上述した(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)と同様の方法を用いることができる。ただし、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)に含有される単量体単位が有する官能基に対して反応性が良い官能基を有する単量体単位を含有していることが好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)がカルボキシル基を有する単量体単位を含有している場合には、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)は、水酸基、エポキシ基などの官能基を有する単量体単位を含有していることが好ましい。
【0060】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)の重量平均分子量は、重合の際に使用する重合開始剤の量や、連鎖移動剤の量を適宜調整することによって制御することができる。
【0061】
本発明のアクリル樹脂組成物(F)において、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)と(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)との合計量に対し、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の含有量が10質量%〜70質量%、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)の含有量が90質量%〜30質量%であることが好ましい。
【0062】
本発明において、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)及び(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)からなるアクリル樹脂混合物を、以下、「アクリル樹脂混合物(S)」と称することがある。前記アクリル樹脂混合物(S)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)10質量%〜70質量%及び(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)90質量%〜30質量%からなるものが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)20質量%〜60質量%及び(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)80質量%〜40質量%からなるものがより好ましい。前記アクリル樹脂混合物(S)において、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)および(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)の含有量が前記の好ましい範囲内にあることにより、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)を熱伝導性感圧接着性シート(G)にする際の成形性に優れ、かつ、得られる熱伝導性感圧接着性シート(G)の熱伝導性に優れる。
【0063】
3.(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)には(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)が含有されており、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)をシート状に成形して熱伝導性感圧接着性シート(G)とする際に、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)は重合して(メタ)アクリル酸エステル重合体に変換する。
【0064】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体であれば、特に限定されないが、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)であることが好ましい。
【0065】
ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)の例としては、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体(alm)として例示したのと同様の(メタ)アクリル酸エステル単量体を挙げることができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0066】
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)、及び、それと共重合可能な単量体との混合物(A3m’)として用いてもよい。
【0067】
特に好ましい(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(A3m’)は、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)、及び、有機酸基を有する単量体(a6m)からなる単量体混合物(A3m’)である。
【0068】
有機酸基を有する単量体(a6m)の例としては、上述した単量体(a2m)として例示したのと同様の有機酸基を有する単量体を挙げることができる。有機酸基を有する単量体(a6m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0069】
(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(A3m’)における、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)の比率は、好ましくは70質量%〜99.9質量%、より好ましくは75質量%〜99質量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)の比率が、上記範囲にあるときは、熱伝導性感圧接着性シート(G)の感圧接着性や柔軟性に優れる。
【0070】
(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(A3m’)における、有機酸基を有する単量体(a6m)の比率は、30質量%〜0.1質量%が好ましく、より好ましくは25質量%〜1質量%である。有機酸基を有する単量体(a6m)の比率が、上記範囲にあるときは、熱伝導性感圧接着性シートの硬度が適正となり、高温(100℃)での感圧接着性が良好なものとなる。
【0071】
(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(A3m’)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)、及び、有機酸基を有する単量体(a6m)の他に、これらと共重合可能な単量体(a7m)を20.0質量%以下の範囲で含有することができる。
【0072】
上記単量体(a7m)の例としては、上述した単量体(a3m)及び単量体(a4m)の他に、下記に示す多官能性単量体として例示したのと同様の単量体を挙げることができる。
【0073】
共重合可能な単量体(a7m)としては、前述したように、二以上の重合性不飽和結合を有する、多官能性単量体を用いることもできる。多官能性単量体を共重合させることにより、共重合体に分子内及び/又は分子間架橋を導入して、感圧接着剤としての凝集力を高めることができる。
【0074】
多官能性単量体としては、1,6―ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2―エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,12―ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペン夕エリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレートや、2,4―ビス(トリクロロメチル)―6―p―メトキシスチレン―5―トリアジンなどの置換トリアジンの他、4―アクリルオキシベンゾフェノンのようなモノエチレン系不飽和芳香族ケトンなどを用いることができる。中でも、ペン夕エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0075】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)は、上記の多官能性単量体を含有していることが好ましい。多官能性単量体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)100質量部に対して、好ましくは0.5質量%〜5質量%、より好ましくは1質量%〜3質量%含有しているのが望ましい。
【0076】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)の量は、アクリル樹脂混合物(S)100質量部に対して、通常、25質量部〜100質量部、好ましくは30質量部〜70質量部である。(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)の量が上記範囲の下限未満または上限を超えると、熱伝導性感圧接着性シート(G)の感圧接着保持性に劣ることがある。
【0077】
4.膨張化黒鉛粉(E)
本発明に用いることができる膨張化黒鉛粉(E)の例としては、酸処理した黒鉛を500℃〜1200℃にて熱処理して100ml/g〜300ml/gに膨張させ、次いで、粉砕することを含む工程を経て得られたものを挙げることができる。より好ましくは、黒鉛を強酸で処理した後アルカリ中で焼結し、その後再度強酸で処理したものを500℃〜1200℃にて熱処理して、酸を除去すると共に100ml/g〜300ml/gに膨張させ、次いで、粉砕することを含む工程を経て得られたものを挙げることができる。上記熱処理の温度は、特に好ましくは800℃〜1000℃である。
【0078】
本発明に用いる膨張化黒鉛粉(E)は、粒径分布に複数のピークを有することが好ましい。膨張化黒鉛粉(E)の粒径分布に複数のピークを持たせるには、それぞれ粒径分布のピークが1つになる程度に粒径が揃っていて、それぞれ平均粒径が異なる、複数の膨張化黒鉛粉を用意し、それらを混合して膨張化黒鉛粉(E)とすることが好ましい。
【0079】
なお、膨張化黒鉛粉の平均粒径及び粒径分布は、以下に述べる測定方法により測定される。
【0080】
(膨張化黒鉛粉の平均粒径及び粒径分布の測定方法)
レーザー式粒度測定機(セイシン企業(株)社製)を用い、マイクロソーティング制御方式(測定領域内にのみ測定対象粒子を通過させ、測定の信頼性を向上させる方式)により測定する。セル中に測定対象の膨張化黒鉛粉0.01〜0.02gが流されることで、測定領域内に流れてくる膨張化黒鉛粉に波長670nmの半導体レーザー光が照射され、その際のレーザー光の散乱と回折が測定機にて測定されることにより、フランホーファの回折原理から、平均粒径及び粒径分布が計算され、その結果が表示される。
【0081】
アクリル樹脂混合物(S)100質量部に対する膨張化黒鉛粉(E)の含有量は、好ましくは10質量部〜100質量部、より好ましくは30質量部〜80質量部、さらに好ましくは40質量部〜70質量部である。
【0082】
膨張化黒鉛粉(E)の含有量が上記範囲の下限未満であれば、熱伝導性感圧接着性シート(G)の熱伝導率向上の効果が低く、一方、上記範囲の上限を超えると、成形の際に熱伝導性感圧接着剤組成物(F)の粘度が上昇し、シート化できなくなったり、シート化しにくくなる傾向がある。
【0083】
5.難燃性熱伝導無機化合物(B)
本発明に用いることができる難燃性熱伝導無機化合物(B)は特に限定されることはなく、その具体例としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、2水和石膏、ホウ酸亜鉛、カオリンクレー、アルミン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸アルミニウム、ドーソナイトなどが挙げられる。難燃性熱伝導無機化合物(B)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0084】
難燃性熱伝導無機化合物(B)の形状も特に限定されず、球状、針状、繊維状、鱗片状、樹枝状、平板状および不定形状のいずれでもよい。
【0085】
難燃性熱伝導無機化合物(B)の中でも、特に水酸化アルミニウムが好ましい。水酸化アルミニウムを用いることにより、本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)および熱伝導性感圧接着性シート(G)に優れた難燃性を付与することができる。
【0086】
水酸化アルミニウムとしては、通常、0.2μm〜150μm、好ましくは0.7μm〜100μmの粒径を有するものを使用する。また、1μm〜80μmの平均粒径を有するのが好ましい。平均粒径が1μm未満のものは熱伝導性感圧接着剤組成物(F)の粘度を増大させ、また、同時に硬度も増大し、熱伝導性感圧接着性シート(G)の形状追随性を低下させる虞がある。一方、平均粒径が80μmを超えるものは、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の表面が荒れてしまい、高温で接着力が低下したり、高温で熱変形したりする虞がある。
【0087】
熱伝導性感圧接着剤組成物(F)に含有される難燃性熱伝導無機化合物(B)の含有量は、アクリル樹脂混合物(S)100質量部に対して、50質量部〜400質量部が好ましく、より好ましくは100質量部〜350質量部、さらに好ましくは200質量部〜300質量部である。
【0088】
難燃性熱伝導無機化合物(B)の含有量が上記範囲の下限未満では、熱伝導性感圧接着性シート(G)の高温接着力や熱伝導率の低下などの問題が有り、一方、上記範囲の上限を超えると、熱伝導性感圧接着性シート(G)の硬度が増大し、形状追随性低下の問題が生じる。
【0089】
6.その他の成分
6.1.重合開始剤(C2)
熱伝導性感圧接着性シート(G)を成形する際に、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)を重合させることが好ましい。その重合を促進するため、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)に加えて、さらに、重合開始剤(C2)を含有することが好ましい。
【0090】
重合開始剤(C2)としては、有機過酸化物熱重合開始剤、光重合開始剤、アゾ系熱重合開始剤等が挙げられるが、得られる熱伝導性感圧接着性シート(G)の接着力等の観点から、有機過酸化物熱重合開始剤が好ましく用いられる。
【0091】
有機過酸化物熱重合開始剤としては、t―ブチルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシドや、ベンゾイルペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、1,6―ビス(t―ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、1,1―ビス(t―ブチルペルオキシ)―3,3,5―トリメチルシクロヘキサノンのようなペルオキシドなどを挙げることができるが、熱分解時に臭気の原因となる揮発性物質を放出しないことが好ましい。有機過酸化物熱重合開始剤の中でも、1分間半減期温度が120℃以上かつ170℃以下のものが好ましい。
【0092】
有機過酸化物熱重合開始剤の使用量は、アクリル樹脂混合物(S)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部〜10質量部、より好ましくは0.2質量部〜5質量部、さらに好ましくは0.5質量部〜2質量部である。
【0093】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)の重合転化率は、95質量%以上であることが好ましい。重合転化率が低すぎると、得られる熱伝導性感圧接着性シート(G)に単量体臭が残るので好ましくない。
【0094】
6.2.熱分解性有機発泡剤(D)
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)には、それから得られる熱伝導性感圧接着性シート(G)を発泡させるために、発泡剤を添加することもできる。発泡剤としては、熱分解性有機発泡剤(D)が好ましい。さらに、熱分解性有機発泡剤(D)としては、80℃以上かつ200℃以下の分解開始温度を有するものが好ましい。
【0095】
そのような熱分解性有機発泡剤(D)の具体例としては、4,4’―オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)などが挙げられる。アゾジカルボアミドなどの熱分解開始温度が200℃より高い有機発泡剤に後述する発泡助剤を一定量混合して熱分解開始温度を100℃以上かつ200℃以下とした発泡システムも同様に熱分解性有機発泡剤(D)とすることができる。
【0096】
上記発泡助剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸と亜鉛華(酸化亜鉛のこと)の混合物、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸と亜鉛華の混合物、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸と亜鉛華の混合物、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ラウリン酸カリウム、パルミチン酸カリウム、などが挙げられる。
【0097】
6.3.外部架橋剤
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)には、感圧接着剤としての凝集力を高め、耐熱性などを向上させるために、外部架橋剤を添加して、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)および(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)の存在下に(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)を重合してなる重合体に架橋構造を導入することができる。
【0098】
外部架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパンジイソシアネート、ジフェニルメタントリイソシアネートなどの多官能性イソシアネート系架橋剤や、ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルなどのエポキシ架橋剤や、メラミン樹脂架橋剤や、アミノ樹脂架橋剤や、金属塩架橋剤や、金属キレート架橋剤や、過酸化物架橋剤などが挙げられる。
【0099】
外部架橋剤は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)および(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)の存在下に(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)を重合してなる重合体を得た後、これに添加して、加熱処理や放射線照射処理を行うことにより、共重合体の分子内及び/又は分子間に架橋を形成させるものである。
【0100】
6.4.その他の成分
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)には、さらに、必要により、顔料、その他の充填材、難燃剤、老化防止剤、増粘剤などの公知の各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0101】
顔料としては、膨張化黒鉛粉(E)以外のカーボンブラックや、二酸化チタンなど、有機系、無機系を問わず使用できる。その他の充填材としては、クレーなどの無機化合物などが挙げられる。フラーレンやカーボンナノチューブなどのナノ粒子を添加してもよい。難燃剤としては、ポリ燐酸アンモニウム、ホウ酸亜鉛、錫化合物、有機リン系化合物、赤リン系化合物、シリコーン系難燃材を挙げることができる。老化防止剤としては、ラジカル重合を阻害する可能性が高いため通常は使用しないが、必要に応じてポリフェノール系、ハイドロキノン系、ヒンダードアミン系などの酸化防止剤を使用することができる。増粘剤としては、アクリル系ポリマー粒子、微粒シリカなどの無機化合物微粒子、酸化マグネシウムなどのような反応性無機化合物を使用することできる。
【0102】
7.熱伝導性感圧接着剤シート(G)及びその製造方法
本発明の熱伝導性感圧接着性シート(G)は、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)を加熱及びシート状に成形してなる。
【0103】
本発明の熱伝導性感圧接着性シート(G)の厚さは特に限定されないが、通常、50μm〜3mmである。50μmより薄いと、発熱体と放熱体に貼付する際に空気を巻き込み易く、結果として充分な熱伝導性を得られない虞がある。一方、3mmより厚いと、熱伝導性感圧接着性シート(G)の厚み方向の熱抵抗が大きくなり、放熱性が損なわれる虞がある。
【0104】
熱伝導性感圧接着剤組成物(F)をシート状に成形する方法は、特に限定されない。好適な方法としては、例えば、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)を、剥離処理したポリエステルフィルムなどの工程紙の上に塗布するキャスト法、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)を、必要ならば二枚の剥離処理した工程紙間に挟んで、ロールの問を通す方法、及び、押出機を用い、押出す際に、ダイスを通して厚さを制御する方法、などが挙げられる。
【0105】
シート化に際して、厚さを均一にするために、加圧することが望ましい。加圧条件は、通常、10MPa以下、好ましくは1MPa以下とする。10MPaを超えて加圧すると、熱伝導性感圧接着性シート(G)を発泡させた場合、発泡セルが潰れてしまう可能性があるため、好ましくない。加圧時間は、温度条件や使用する重合開始剤の種類や量などに応じて最適点を選べばよいが、生産性などを考えると1時間以内が好ましい。
【0106】
シート化しながら、あるいはシート化後に、例えば、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)を熱風、電気ヒーター、赤外線などにより加熱することによって、熱伝導性感圧接着性シート(G)を得ることができる。このときの加熱温度は、有機過酸化物熱重合開始剤(C2)が効率良く分解し、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)の重合が進行する条件が好ましい。温度範囲は、用いる有機過酸化物熱重合開始剤(C2)の種類により異なるが、100℃〜200℃が好ましい。
【0107】
熱伝導性感圧接着性シート(G)は、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)を、シート状に成形し、および100℃以上かつ200℃以下の温度に加熱することにより、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)のシート化及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)の重合を行うことによりなるシート状成形体であることが好ましい。発泡は、行わせても良いが、未発泡体の方が、熱伝導性により優れるために好ましい。
【0108】
8.複合体(H)
本発明の複合体(H)は、熱伝導性感圧接着性シート(G)を、基材の片面または両面に設けてなる。
【0109】
本発明の複合体(H)において、基材の片面または両面に熱伝導性感圧接着性シート(G)の層を形成する場合、基材は、特に限定されない。
【0110】
基材の具体例としては、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ベリリウム銅などの熱伝導性に優れる金属、及び、合金の箔状物や、熱伝導性シリコーンなどのそれ自体熱伝導性に優れるポリマーからなるシート状物や、熱伝導性フィラーを含有させた熱伝導性プラスチックフィルムや、各種不織布や、ガラスクロスや、ハニカム構造体などを用いることができる。
【0111】
プラスチックフィルムとしては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリメチルペンテン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、芳香族ポリアミドなどの耐熱性ポリマーからなるフィルムを使用することができる。
【0112】
本発明の複合体(H)は、放熱体のような基材上に熱伝導性感圧接着性シート(G)を直接的に形成して、電子部品の一部として提供することもできる。
【実施例】
【0113】
以下に、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、ここで用いる「部」や「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0114】
(熱伝導性感圧接着性シートの熱伝導率)
熱伝導性感圧接着性シートを幅50mm×長さ110mm×厚さ1mmの大きさに裁断し、23℃の恒温室に48時間以上静置して、状態調整を行ったものを試料とした。熱伝導率(単位:W/m・K)測定は、迅速熱伝導率計(QTM―500:京都電子工業社製)を用いて、非定常熱線比較法により行った。なお、熱伝導率既知の比較用標準板として、シリコンスポンジ(0.1W/m・K)、シリコンゴム(0.2W/m・K)、石英(1.4W/m・K)、ジルコニア(3.4W/m・K)、ムライト(5.7W/m・K)を用いた。表2に示した「‐」は、熱伝導性感圧接着性シートを作製できなかったため、試験を行っていないことを意味する。
【0115】
(熱伝導性感圧接着性シートの保持力)
幅30mm×長さ30mm×厚さ1mmの試験片の一方の面に、間に空気が入らないようにアルミニウム板を圧着し、該試験片他方の面には、間に空気が入らないようにガラス板を圧着した積層体を作製した。また、アルミニウム板には、試験片の最初の位置がわかるように目印を付しておいた。次に、アルミニウム板が下になるようにして積層体を床面に置き、ガラス板を介して試験片の真上にくるように1kgの錘を乗せた。この状態で8分間保持した。その後、積層体を90度起こした状態で、80℃雰囲気化の恒温層に設置した。この状態で、60分後に状態を保持できているかどうかで、熱伝導性感圧接着性シートの保持力の有無を判断した。表2に示した「○」は、60分後に状態を保持できていたことを意味する。一方、「‐」は、熱伝導性感圧接着性シートを作製できなかったため、試験を行っていないことを意味する。
【0116】
(実施例1)
<熱伝導性感圧接着剤組成物作成>
反応器に、アクリル酸2−エチルヘキシル94%とアクリル酸6%とからなる単量体混合物100部、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.03部及び酢酸エチル700部を入れて均一に溶解し、窒素置換後、80℃で6時間重合反応を行った。重合転化率は97%であった。得られた重合体を減圧乾燥して酢酸エチルを蒸発させ、粘性のある固体状の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)(1)を得た。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)(1)の重量平均分子量(Mw)は270,000、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)は3.1であった。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレン換算で求めた。
【0117】
次に、電子天秤を用いて、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及び、ペンタエリスリトールジアクリレートを約60:35:5の割合で混合した架橋剤1部、アクリル酸2―エチルヘキシル(以下、「2EHA」と略記する。)60部、メタクリル酸(以下、「MAA」と略記する。)2部、有機過酸化物熱重合開始剤(C2)である1,6―ビス(t―ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン(以下、「tBCH」と略記する。)〔1分間半減期温度は150℃である。〕1.8部の順で計量して混合し、液体原料を得た。
【0118】
次に、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)(1)を20部、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)であるUG−4010(エポキシ基含有無溶剤型アクリル樹脂、重量平均分子量:2900、東亜合成株式会社製)を80部、熱伝導性無機化合物(B)である水酸化アルミニウムを200部、膨張化黒鉛粉(E)を60部(膨張化黒鉛粉(E)の内訳は、EC−50(平均粒径:250μm、伊藤黒鉛工業株式会社製)30部、EC−500(平均粒径:30μm、伊藤黒鉛工業株式会社製)30部。)、及び、上記液体原料を、列記した順でステンレス製容器(ホバート容器)に投入した。
【0119】
ホバート容器に入れられた上記各原料を40℃にして30分攪拌し、真空にしてさらに10分攪拌して、粘性液状の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)(1)を得た。
【0120】
<熱伝導性感圧接着性シート作成>
熱伝導性感圧接着性シート作成方法を、図1を用いて説明する。図1は、熱伝導性感圧接着性シート作製工程の一部を概略的に示す図である。図1(a)は、熱伝導性感圧接着性シートの作成に用いる各部材を上から見た図である。図1(b)〜(d)は、図1(a)中に示した破線で示した箇所での断面を示す図である。
【0121】
アルミニウム製の平面板1(以下「アルミ板1」という。)と、厚み調整用の枠2(以下「枠2」という。)を用意し、図1(a)に示すように、水平な台の上にのせられたアルミ板1の上に、枠2をのせた。枠2は、内側に縦297mm×横210mm×高さ1mmの空間を有する。次に、図1(b)に示すように、枠2のうえにポリエチレンテレフタレート製のフィルム3をのせ、さらにその上に、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)(1)4(以下「組成物4」という。)を適量のせた。次に、図1(c)に示すように、組成物4の上に、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム5をのせ、フィルム5の上からロールで強く押さえることによって、図1(d)に示すように、組成物4を枠2の内側に収まる寸法に形成した。次に、組成物4をフィルム3及びフィルム5で挟んだまま、事前に150℃のオーブンに入れてあったアルミニウム製の板で挟んで、そのオーブンに戻した。20分後、オーブンから取り出し、実施例1にかかる熱伝導性感圧接着性シートを得た。
【0122】
(実施例2、実施例3、比較例1、及び、比較例2)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)(1)の含有量、及び、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)の種類と含有量を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2、実施例3、比較例1、及び、比較例2にかかる熱伝導性感圧接着性シートを得た。
【0123】
具体的には、実施例2では、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)(1)の含有量を25部とし、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)としてUH−2000(水酸基含有無溶剤型アクリル樹脂、重量平均分子量:2000、東亜合成株式会社製)を75部用いた。
【0124】
実施例3では、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)(1)の含有量を60部とし、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)としてUH−2000を40部用いた。
【0125】
比較例1では、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)(1)の含有量を100部とし、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)は用いなかった。
【0126】
比較例2では、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)(1)を用いず、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)としてUH−2000を100部用いた。
【0127】
(比較例3)
膨張化黒鉛粉(E)を用いなかった以外は実施例3と同様にして、比較例3にかかる熱伝導性感圧接着性シートを得た。
【0128】
(比較例4)
膨張化黒鉛粉(E)を用いなかった以外は比較例1と同様にして、比較例4にかかる熱伝導性感圧接着性シートを得た。
【0129】
実施例及び比較例で作製した熱伝導性感圧接着剤組成物の組成を表1に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
<熱伝導性感圧接着性シートの性能評価>
上記で作製した熱伝導性感圧接着性シートを以下の基準により評価した。結果を表2に示す。
【0132】
【表2】

【0133】
上記結果から、重量平均分子量が異なる2種のアクリル樹脂及び膨張化黒鉛粉を含むアクリル樹脂組成物からなる熱伝導性感圧接着性シート(実施例1〜実施例3)は、熱伝導率が高いことがわかる。一方、アクリル樹脂として、重量平均分子量が高いアクリル樹脂のみを用い、重量平均分子量が低いアクリル樹脂を用いずに作製した熱伝導性感圧接着性シート(比較例1)では、実施例1〜実施例3の熱伝導性感圧接着性シートに比べて熱伝導率が低くなった。また、アクリル樹脂として、重量平均分子量が低いアクリル樹脂のみを用い、重量平均分子量が高いアクリル樹脂を用いずに作製しようとした熱伝導性感圧接着性シート(比較例2)では、最終的にシート状に成形することができなかった。また、膨張化黒鉛粉を含まないアクリル樹脂組成物からなる熱伝導性感圧接着性シート(比較例3及び比較例4)では、使用するアクリル樹脂の種類や量に関わらず、熱伝導率が低くなった。具体的には、比較例3の熱伝導性感圧接着性シートと実施例3の熱伝導性感圧接着性シートは同種のアクリル樹脂を同量用いて作製したが、比較例3の方が、熱伝導率がかなり低くなった。比較例4の熱伝導性感圧接着性シートと比較例1の熱伝導性感圧接着性シートは同種のアクリル樹脂を同量用いて作製したが、比較例4の方が、熱伝導率がかなり低くなった。
なお、保持力については、本実施例及び比較例にて用いたアクリル樹脂組成物からシート状に成形することさえできれば、充分な強さが得られることがわかった。
【0134】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うアクリル樹脂組成物、熱伝導性感圧接着性シート、該熱伝導性感圧接着性シートの製造方法、及び複合体もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】熱伝導性感圧接着性シート作製工程の一部を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0136】
1 アルミニウム製の平面板
2 厚み調整用の枠
3 ポリエチレンテレフタレート製のフィルム
4 熱伝導性感圧接着剤組成物
5 ポリエチレンテレフタレート製のフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が10万以上50万以下の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)と、重量平均分子量が1000以上5000以下の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)と、膨張化黒鉛粉(E)と、を含有するアクリル樹脂組成物(F)。
【請求項2】
さらに、難燃性熱伝導無機化合物(B)を含有することを特徴とする、請求項1に記載のアクリル樹脂組成物(F)。
【請求項3】
前記難燃性熱伝導無機化合物(B)が水酸化アルミニウムであることを特徴とする、請求項2に記載のアクリル樹脂組成物(F)。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)が有機酸基を有する単量体単位(a2)を含有してなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアクリル樹脂組成物(F)。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)が水酸基、又は、エポキシ基を有する単量体単位(a3)を含有してなることを特徴とする、請求項4に記載のアクリル樹脂組成物(F)。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の含有量が、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)と前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)との合計量に対して10質量%〜70質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアクリル樹脂組成物(F)。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)10質量%〜70質量%及び前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A2)90質量%〜30質量%からなるアクリル樹脂混合物100質量部、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A3m)25質量部〜100質量部、前記膨張化黒鉛粉(E)10質量部〜100質量部、並びに、前記難燃性熱伝導無機化合物(B)50質量部〜400質量部を含有してなる、請求項2〜6のいずれか一項に記載のアクリル樹脂組成物(F)。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のアクリル樹脂組成物(F)を加熱及びシート状に成形してなる熱伝導性感圧接着性シート(G)。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のアクリル樹脂組成物(F)を加熱及びシート状に成形することを特徴とする、熱伝導性感圧接着性シート(G)の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の熱伝導性感圧接着性シート(G)を、基材の片面または両面に設けてなる複合体(H)。

【図1】
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【公開番号】特開2009−197109(P2009−197109A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39343(P2008−39343)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】