説明

アッパーサポート

【課題】乗り心地性能と操縦安定性とをともに良好と成し得るアッパーサポートを提供する。
【解決手段】上クッション部材14と下クッション部材16とを車体パネル10に弾性圧接させる状態に取り付けられ、ショックアブソーバのピストンロッド18と車体パネル10とを弾性連結して振動吸収するアッパーサポート12において、下クッション部材16の弾性体を、ゴム弾性体66と発泡成形したウレタンスポンジ68とを組合せて構成し、車両への取付状態でそれらゴム弾性体66及びウレタンスポンジ68の何れも予圧縮状態で車体パネル10に当接した状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はサスペンション機構におけるショックアブソーバのピストンロッドと車体パネルとを弾性連結し、それらピストンロッドと車体パネルとの間で振動吸収するアッパーサポートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両においてはサスペンション機構におけるショックアブソーバのピストンロッドと車体パネルとをアッパーサポートで弾性連結し、それらピストンロッドと車体パネルとの間でアッパーサポートにより振動吸収させることが行われている。
このアッパーサポートとして、車体パネルの上側に配置される上クッション部材と、これとは別体をなして車体パネルの下側に配置される下クッション部材とを有し、上,下の一対の取付金具により挟圧されてそれら上クッション部材と下クッション部材とを車体パネルに弾性圧接させる状態に取り付けられ、ショックアブソーバのピストンロッドと車体パネルとを弾性連結する形式のものが従来公知である。
例えば下記特許文献1,特許文献2,特許文献3等にこの種のアッパーサポートが開示されている。
【0003】
図7は、その具体例を車両への取付状態で示している。
図において200は車体パネル、202はアッパーサポートで、このアッパーサポート202は、車体パネル200の上側に配置された上クッション部材204と、下側に配置された下クッション部材206とを有している。
208は、ショックアブソーバのシリンダから上向きに突き出したピストンロッドで、環状突出部210と雄ねじ部212とを有しており、その雄ねじ部212にナット214がねじ込まれている。
【0004】
そしてこれにより、上クッション部材204と下クッション部材206とが、板状の上取付金具216とカップ形状の下取付金具218とで上下に挟圧され、それぞれが車体パネル200に対し予圧縮状態且つ車体パネル200に弾性圧接する状態に取り付けられて、ピストンロッド208と車体パネル200とを弾性連結している。
【0005】
上クッション部材204,下クッション部材206は、それぞれの弾性体がゴム弾性体単体から成っている。
また下クッション部材206は、上向きに環状に突出した当接部220を上端部に有しており、この当接部220が設定締代で車体パネル200に対し弾性当接せしめられている。
下クッション部材206はまた、当接部220の下側位置に軸直角方向外方に張り出した環状のフランジ部222を有しており、下クッション部材206は、このフランジ部222の下側の下部がカップ形状をなす下取付金具218の内部に嵌め込まれ、保持されている。
またフランジ部222が、下取付金具218のフランジ部224に対し下向きに接触せしめられ、かかるフランジ部222が下取付金具218のフランジ部224にて下側から支持されるようになっている。
【0006】
このアッパーサポート202では、バウンド方向に加わる入力荷重が小さいとき即ち小入力時には、下クッション部材206がフランジ部222を車体パネル200に対し非接触状態に保ちつつ弾性変形して振動吸収する。
一方過大な荷重が入力したときには、フランジ部222が車体パネル200に当接してゴムストッパ部として働き、そのストッパ作用により下クッション部材206の過大な変形を抑制する。
【0007】
近年、このアッパーサポートに対して乗り心地性能の一層の向上が求められており、この場合アッパーサポートの軸方向(上下方向)のばね定数を小さくすれば乗り心地性能を向上させることができる。
しかしながら一方で、そのように軸方向のばね定数を小さくすると操縦安定性が悪化してしまう。
操縦安定性は、乗り心地性能とは逆にアッパーサポートの軸方向のばね定数が高い方が良く、乗り心地性能の向上のために軸方向のばね定数を小さくすると操縦安定性が悪化してしまうのである。
【0008】
尚、本発明に関連する先行技術として、下記特許文献4には弾性体としてゴム弾性体と発泡樹脂とを組合せて構成して成るサスペンションサポート(アッパーサポート)が開示されている。
また特許文献5においても、ゴム弾性体と発泡性のウレタンを組合せて弾性体を構成して成るストラットマウントが開示されている。
但しこれら特許文献4,特許文献5に開示のものは、互いに別体をなす上クッション部材と下クッション部材とで車体パネルを上下両側から挟み込む形式のものではなく、アッパーサポートの形態において本発明とは異なったものであるのに加え、発泡樹脂の用い方においても異なった本発明とは別異のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−69302号公報
【特許文献2】特開2007−32732号公報
【特許文献3】特開2007−198512号公報
【特許文献4】特開2009−264553号公報
【特許文献5】特開2010−90995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上のような事情を背景とし、乗り心地性能と操縦安定性とをともに良好と成し得るアッパーサポートを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
而して請求項1のものは、車体パネルの上側に配置される上クッション部材と、該上クッション部材とは別体をなして該車体パネルの下側に配置される下クッション部材とを有し、上,下の一対の取付金具により挟圧されてそれら上クッション部材と下クッション部材とを該車体パネルに弾性圧接させる状態に取り付けられ、サスペンション機構におけるショックアブソーバのピストンロッドと該車体パネルとを弾性連結して振動吸収するアッパーサポートにおいて、前記下クッション部材の弾性体が、ゴム弾性体と発泡成形した樹脂スポンジとを組合せて構成してあり、車両への取付状態でそれらゴム弾性体及び樹脂スポンジの何れもが予圧縮状態で前記車体パネルに当接するものとなしてあることを特徴とする。
【0012】
請求項2のものは、請求項1において、前記樹脂スポンジがウレタンスポンジであって、前記ゴム弾性体は上面が開放された、該ウレタンスポンジの嵌込凹所を有しており、車両への取付状態で該嵌込凹所の上面が前記車体パネルで閉鎖されて該嵌込凹所の内空間が密閉空間とされ、該密閉空間に前記ウレタンスポンジが収容されるものとなしてあることを特徴とする。
【0013】
請求項3のものは、請求項2において、前記ゴム弾性体は、内側に前記ピストンロッドの挿通孔を形成する中心側の筒状の本体部と、該本体部の高さ方向中間部から軸直角方向外方に張り出した鍔状部と、該鍔状部の外周端から上向きに立ち上る起立部とを有していて、それら本体部と鍔状部と起立部との間に前記嵌込凹所を形成しており、該起立部の上端部には薄肉のシールリップが設けてあって、車両への取付状態で前記本体部の上端部及び該シールリップが前記車体パネルに対して設定締代で弾性圧接し、該車体パネルとの間をシールするものとなしてあることを特徴とする。
【0014】
請求項4のものは、請求項3において、前記ゴム弾性体は、車両への取付前の状態で前記本体部の上端部及び前記シールリップが、前記嵌込凹所内に嵌め込まれた前記ウレタンスポンジよりも上側に突出した形状をなしていることを特徴とする。
【0015】
請求項5のものは、請求項3,4の何れかにおいて、前記下クッション部材を上向きに挟圧する一方の下取付金具がフランジ部付きのカップ形状となしてあるとともに、前記鍔状部及び起立部が該ウレタンスポンジに対する薄肉の被覆部をなしており、前記本体部は該鍔状部よりも下側の下部が前記下取付金具に嵌め込まれて保持され、車両への取付状態で該本体部が該下取付金具の下底部と前記車体パネルとの間に挟み込まれ、また前記ウレタンスポンジが該下取付金具のフランジ部と前記車体パネルとの間に前記薄肉の鍔状部を介して挟み込まれるものとなしてあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0016】
以上のように本発明は、アッパーサポートにおける下クッション部材の弾性体を、ゴム弾性体と発泡成形した樹脂スポンジとを組合せて構成し、車両への取付状態でそれらゴム弾性体及び樹脂スポンジの何れもを予圧縮状態で車体パネルに当接させるようになしたものである。
【0017】
本発明は、操縦安定性の点では変位ゼロ付近での下クッション部材のバウンド方向のばね定数を高く保持することが特に重要であること、また樹脂スポンジの場合、圧縮方向の変位開始初期には比較的硬さが硬く、ばね定数が高めであるが、その後荷重を加えて行ったときの変形抵抗が小さく、比較的小さな力で大きく変形(変位)し、そしてあるところまで変形したところで変形抵抗が急激に大きくなること、つまり大きく変形するところまで小さなばね定数を維持し、一定量変形したところでばね特性が立上る性質を有することに着眼してなされたものである。
樹脂スポンジがこの様な性質を有するのは、樹脂スポンジの場合多数の気孔を有し、その多数の気孔が潰れることによって変形し入力荷重を吸収する一方、気孔がある程度潰れたところで変形抵抗が大きくなることによるものと考えられる。
【0018】
従って、従来のゴム弾性体単体から成る弾性体の一部を樹脂スポンジで置換する形で、下クッション部材の弾性体をゴム弾性体とウレタンスポンジとを組合せて構成し、且つゴム弾性体及び樹脂スポンジの何れをも予圧縮状態でそれぞれを車体パネルに当接させておくことで、操縦安定性を高く確保するように変位ゼロ付近、つまり変位開始初期のばね定数を比較的高く設定しておくことが可能となり、なおかつその様にしても、その後荷重が更に加わったときのばね定数を大きな変位に到るまで低く維持することが可能となり、乗り心地性能を従来に増して高めることが可能となる。
即ち高い操縦安定性を確保しつつ、乗り心地性能を従来に増して高めることが可能となる。
【0019】
本発明では、上記の樹脂スポンジとしてウレタンスポンジを好適に用いることができる(請求項2)。
この場合においてゴム弾性体には、上面が開放されたウレタンスポンジの嵌込凹所を設けておき、車両への取付状態でその嵌込凹所の上面を車体パネルで閉鎖して、嵌込凹所の内空間を密閉空間となし、その密閉空間にウレタンスポンジを収容するようになしておくことができる。
【0020】
このようにすれば、加水分解が懸念されるウレタンスポンジを樹脂スポンジとして用いた場合であっても、ウレタンスポンジが密閉空間内に保護された状態で保持されるため、ウレタンスポンジが加水分解にて劣化するのを防ぎ、その耐久性を高く確保することが可能となる。
【0021】
本発明では、ゴム弾性体を、内側にピストンロッドの挿通孔を形成する中心側の筒状の本体部と、本体部の高さ方向中間部から軸直角方向外方に張り出した鍔状部と、鍔状部の外周端から上向きに立上る起立部とを有するものとなして、それら本体部と鍔状部と起立部との間に上記の嵌込凹所を形成するようになし、更に起立部の上端部には薄肉のシールリップを設けて、そのシールリップを車体パネルに対し弾性圧接させ、車体パネルとの間をシールするものとなしておくことができる(請求項3)。
このようにすれば、車体パネルの動きにシールリップを良好に追従させ得てシールリップを車体パネルに接触状態を保つことができ、以てウレタンスポンジの収容された密閉空間を良好にシール状態に保つことができる。
【0022】
この場合において弾性体は、車両への取付前の状態で、本体部の上端部及びシールリップを、嵌込凹所内に嵌め込まれたウレタンスポンジよりも上側に突出した形状となしておくことができる(請求項4)。
【0023】
次に請求項5は、下クッション部材を上向きに挟圧する一方の下取付金具を、フランジ部付きのカップ形状となすとともに、上記の鍔状部及び起立部を、ウレタンスポンジに対する薄肉の被覆部となし、また本体部を鍔状部よりも下側の下部において下取付金具に嵌め込んで下取付金具により保持させ、そして車両への取付状態で本体部を下取付金具の下底部と車体パネルとの間に挟み込み、またウレタンスポンジを下取付金具のフランジ部と車体パネルとの間に薄肉の鍔状部を介して挟み込むようになしたものである。
即ち、実質的にゴム弾性体とウレタンスポンジとを下取付金具と車体パネルとの間に並列配置して、それらを下取付金具と車体パネルとで、ともに挟み込むようになしたものである。
【0024】
このようにすれば、ウレタンスポンジとゴム弾性体とを下取付金具と車体パネルとの間に直列配置した場合と異なって、ウレタンスポンジの有する特性をゴム弾性体で減殺することなく引き出し得てこれを活用することができ、バウンド方向の変位初期のばね定数を高く保持しつつ、その後の変位時のばね定数を効果的に低くすることができ、操縦安定性の確保と乗り心地性能の向上とをより一層効果的に両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態であるアッパーサポートを車両への取付状態で示した断面図である。
【図2】図1における下クッション部材の車両への取付前の形状を示した一部切欠斜視図である。
【図3】図2の下クッション部材及びウレタンスポンジの断面図である。
【図4】本実施形態のアッパーサポートの車両取付状態でのばね特性線図をウレタンスポンジ単独でのばね特性線図と比較して示した図である。
【図5】図4の要部拡大図である。
【図6】本実施形態のアッパーサポートの車両取付状態でのばね特性線図を、従来のものと比較して示した図である。
【図7】従来のアッパーサポートの一例を車両取付状態で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、本発明の実施形態のアッパーサポートを車両への取付状態で示している。
図において10は車体パネルで、12は本実施形態のアッパーサポートである。
アッパーサポート12は、車体パネル10の上側の配置された上クッション部材14と、これとは別体をなして車体パネル10の下側に配置された下クッション部材16とを有している。
【0027】
18は、サスペンション機構におけるショックアブソーバのシリンダから上向きに突き出したピストンロッドで、その外周面から環状に突出した環状突出部20を有しており、更にこの環状突出部20から上方に離隔した上端部に雄ねじ部22を有していて、そこにナット24がねじ込まれている。
【0028】
26は、上クッション部材14を下向きに挟圧する一方の上取付金具で、28は下クッション部材16を上向きに挟圧する今一方の下取付金具であり、30はこれら上取付金具26と下取付金具28との上下方向即ち軸方向の間隔を規定する円筒形状の金属製のカラーである。
【0029】
この実施形態では、雄ねじ部22にナット24をねじ込むことで、上クッション部材14と下クッション部材16とが、上取付金具26と下取付金具28にて挟圧され、それら上クッション部材14と下クッション部材16とが、車体パネル10に対して予圧縮状態で弾性圧接せしめられ、車両に取り付けられる。
尚このときの上クッション部材14と下クッション部材16との予圧縮量は、カラー30の長さによって規定される。
【0030】
アッパーサポート12は、その取付状態でピストンロッド18と車体パネル10とを弾性連結し、それらピストンロッド18と車体パネル10との間で振動吸収作用する。
ここで一方の上取付金具26は平面形状が円形の板状をなしており、その外周側の部位に、横断面形状が上向きの凸形状をなす膨出部32がピストンロッド18周りに環状に形成されている。
【0031】
上記下取付金具28は、平面形状が円形のカップ形状をなしている。
詳しくはこの下取付金具28は、円形の下底部34と、その外周端から上向きに立上る円筒形状の周壁部36と、その周壁部36の上端から軸直角方向外方に突出したフランジ部38とを有しており、その周壁部36と下底部34とで囲まれた内側の凹部に、下クッション部材16の後述のゴム弾性体66(図2,図3参照)における下部39が嵌め込まれ保持されている。
【0032】
40は、この下取付金具28とともにダストカバー42の取付金具をなす逆カップ形状の金具で、上底部44において下取付金具28の下底部34に溶接接合され、下取付金具28と一体化されている。
そしてこの逆カップ形状をなす金具40の内部に、弾性部材から成るバウンドストッパ46の上端部が嵌め込まれ保持されている。
また下取付金具28及び金具40にまたがって、その外周面に樹脂製のダストカバー42の上端部が嵌着状態に接合されている。
【0033】
ここでバウンドストッパ46は、ショックアブソーバが過度に収縮変位しようとしたとき、図示を省略するシリンダに当接してストッパ作用し、ショックアブソーバの過度の収縮変位を規制する。
またダストカバー42は、ピストンロッド18の露出部分を外側から覆って、ピストンロッド18への泥や埃等の付着を防止する。
尚この下取付金具28及び逆カップ状の金具40の下底部34及び上底部44の中心部、更に上記の取付金具26の中心部には、それぞれ挿通孔48が設けられており、これら挿通孔48にピストンロッド18が図中下側から上向きに挿通されている。
【0034】
上クッション部材14は、その弾性体の全体がゴム弾性体50単体から成っている。
ゴム弾性体50は、小径側の上部52と大径側の下部54とを有している。
上部52には、取付金具26の膨出部32に対応した上向きの環状の膨出部56が設けられている。
また下部54には、概略皿状の金具58が、その外周部の一部を除いて埋込状態に設けられている。
【0035】
下部54は小径の円筒部60を有しており、その円筒部60が、車体パネル10の取付穴64内部において下向きに突き出している。
下部54に埋め込まれた金具58もまた、中心側に円筒部62を有しており、この円筒部62が、ゴム弾性体50における下部54の円筒部60内に埋り込んでいる。
尚上クッション部材のゴム弾性体50には中心部にピストンロッド18の挿通孔65が設けられている。同様に下クッション部材16のゴム弾性体66にも挿通孔65が設けられている。
【0036】
図2及び図3に、下クッション部材16の車両への取付前の形状が詳しく示してある。
これらの図に示しているように、下クッション部材16はその弾性体が、ゴム弾性体66と発泡成形した樹脂スポンジ、詳しくはここではウレタンスポンジ68とを組合せて構成してある。
ここでウレタンスポンジ68は発泡成形により多数の気孔を形成した多孔質構造のもので、ここではイソシアネート材料としてNDI(ナフタレンジイソシアネート)を用いた、ソリッド硬さがA80(JIS K 6253に準拠したタイプAの硬度)で、比重0.55のものである。
またその形状は、横断面形状が4角形状の円形のリング状をなしている。
尚その寸法は、ここでは外径dがφ59mm,内径dがφ39.5mm,高さHが8mmである。
但しこれはあくまで一例で、ウレタンスポンジ68は他の様々な寸法で形成することができる。
【0037】
一方ゴム弾性体66は、全体として略円筒形状をなす本体部70と、本体部70の高さ方向中間部から軸直角方向外方に張り出した円環状の鍔状部72と、鍔状部72の外周端から斜め上方に立上った起立部74と、その上端から斜め下方に折れ曲った立下り部76とを有しており、それら鍔状部72と起立部74と本体部70との内側に、上面が開放された嵌込凹所78を形成しており、そこにゴム弾性体66とは別体をなす上記のウレタンスポンジ68が図中下向きに嵌め込まれ保持されている。
【0038】
ここで鍔状部72,起立部74,立下り部76は同一厚みで薄肉に形成されており(ここではその厚みは2mm)、鍔状部72と起立部74とでウレタンスポンジ68を外側から覆う被覆部80を形成している。
また起立部74と立上り部76の上端部とで、断面逆V字状をなすシールリップ82を形成している。
ここで起立部74は、本体部70よりも僅かに多く上向きに突出させられており、従ってシールリップ82は、本体部70の上端よりも僅かに上側に位置せしめられている。
【0039】
ゴム弾性体66はまた、鍔状部72より下側の上記の下部39に、全周に亘って軸直角方向外方に突出した突出部84を有している。
下部39は、この突出部84を図1のカップ形状の下取付金具28の周壁部36内面に弾性圧接させる状態に周壁部36に嵌め込まれ、そこに保持される。
【0040】
一方上端部には、上向きに突出した当接部86が環状に設けられており、図1に示す車体パネル10に対してその当接部86を上向きに当接させる状態に、ゴム弾性体66が車両に組み付けられるようになっている。
【0041】
下クッション部材16は、車両への取付前の状態において、図3に示しているようにゴム弾性体66の本体部70及び鍔状部72の外周端から立上った起立部74が、それぞれウレタンスポンジ68の平坦な上面よりも上向きに大きく突出した形状をなしている。
【0042】
而して図1に示す車両への取付状態の下で、下クッション部材16は、同図の下取付金具28により上向きに挟圧されることで、ゴム弾性体66の本体部70が図中上下方向に予圧縮せしめられ、車体パネル10に対して当接部86が設定された締代で弾性圧接せしめられる。
またこのとき同時に、起立部74もまた車体パネル10に対して弾性変形した状態で弾性接触せしめられる。
【0043】
尚シールリップ82は、図3に示す自由形状状態で本体部70の上端よりも上側に位置しており、従って図1に示す取付状態の下で下クッション部材16がリバウンド方向(図中下方向)に変形し、その際にたとえ本体部70の当接部86が車体パネル10から僅かに離れることがあったとしても、シールリップ82は確実に車体パネル10の下面に弾性圧接状態に保持される。
【0044】
本実施形態では、図1に示す車両への取付状態でウレタンスポンジ68もまた、カップ形状をなす取付金具28のフランジ部38と車体パネル10とで薄肉の鍔状部72を介し挟み込まれ、かかるウレタンスポンジ68に対して予圧縮が付与される。
ここではその予圧縮量は0.5mmに設定されている。
尚車両への取付状態において、ウレタンスポンジ68は上記のように取付金具28のフランジ部38と車体パネル10とにより薄膜の鍔状部72を介し挟み込まれ、その状態でバウンド時にフランジ部38と車体パネル10とによって圧縮せしめられ弾性変形する。
即ちこの実施形態において、ウレタンスポンジ68は実質的にゴム弾性体66を介さずに、直接フランジ部38と車体パネル10とで挟まれ、バウンド時に圧縮方向に弾性変形せしめられる。
つまりこの実施形態では、ゴム弾性体66、詳しくは本体部70とウレタンスポンジ68とが並列配置の状態で下取付金具28と車体パネル10とに挟み込まれ、バウンド時においてそれぞれが独立に圧縮方向に弾性変形せしめられる。
【0045】
図4は、本実施形態のアッパーサポート12の、車両取付状態の下での、即ち上記のようにウレタンスポンジ68に0.5mmの予圧縮を与えた状態の下でのばね特性線図(荷重-撓み特性線図)Aを、ウレタンスポンジ単独でのばね特性線図Bと比較して示したものである。
尚ウレタンスポンジ68単独でのばね特性線図は、図3(B)に示す寸法、形状のものを用いて測定した結果である。
【0046】
本実施形態のアッパーサポート12では、ウレタンスポンジ68に対して0.5mmの予圧縮が与えられているため、図4の要部(図中Vで示した部分)を拡大して示した図5から見て取れるように、リバウンド側の−0.5mmの撓み付近でばね特性線図の傾きが急激に変化している。
【0047】
図4に示しているように、ウレタンスポンジ68単独のばね特性線図Bでは、変位(撓み)ゼロ付近で比較的硬く、即ち比較的高いばね定数を示す一方で、更に入力荷重が増大して行ったとき、その入力荷重の増大の程度に比べて撓み量の増加の程度が大きく、比較的小さな入力荷重の増大でウレタンスポンジ68が大きく変形し、そしてある撓み量(変形量)に到ると、そこでばね特性線図が立ち上るのが見て取れる。
即ちウレタンスポンジ68単独の場合、初期の変位後比較的大きな変位に到るまで、その後低いばね定数を保つことが見て取れる。
【0048】
これに対して下クッション部材16の弾性体を、ゴム弾性体66とウレタンスポンジ68とを組合せて構成した本実施形態のアッパーサポート16にあっては、ゴム弾性体66とウレタンスポンジ68との組合せにより、またゴム弾性体66(詳しくはその本体部70)とウレタンスポンジ68とを、車体パネル10と下取付金具28との間に並列配置して、それぞれを車両への取付状態で予圧縮状態とし、バウンド時にゴム弾性体66とウレタンスポンジ68とをそれぞれ単独で圧縮変形させるようになしていることから、変位ゼロ付近で比較的高いばね定数を示すウレタンスポンジ68よりも更に高いばね定数を示し、またその後変位が更に大となったとき、ウレタンスポンジ68の特性が発揮されることによって、図6に示すゴム弾性体単独のばね特性線図Cに比べてばね特性線図Aの傾きが緩やかであり、変位が増大しても低いばね定数を維持することが見て取れる。
【0049】
ここで図6のばね特性線図Cは、図7に示す形状の従来のアッパーサポート202のばね特性線図、詳しくは下クッション部材206における弾性体の全体をゴム弾性体単独で構成し、また車両取付状態でフランジ部222が車体パネル200に対し非接触状態にあるアッパーサポート202のばね特性線図である。
このばね特性線図Cでは、変位(撓み)がばね特性線図Aに比べて相対的に未だ小さい領域でばね特性線図が立上りを示す。
このばね特性線図Cの立上りは、フランジ部222が車体パネル200に当ってストッパ作用することにより生じる。
【0050】
従って下クッション部材206の弾性体全体をゴム弾性体単体で構成した図7に示すアッパーサポート202にあっては、変位ゼロ付近でのばね定数をある程度高くして操縦安定性を確保しようとすると、その後の変位の増大時にばね特性が硬いものとなり、乗り心地性能を悪化させてしまう。
逆にばね特性をある程度大きな変位に到るまで軟らかくすると、変位ゼロ付近でのばね特性が軟らかくなり過ぎ、操縦安定性を悪化させてしまう。
【0051】
しかるに下クッション部材16の弾性体を、ゴム弾性体66とウレタンスポンジ68とを組合せて構成した本実施形態のアッパーサポート12の場合、ゴム弾性体の持つ利点とウレタンスポンジの持つ利点とを良好に引き出すことができ、以て高い操縦安定性を確保しつつ、乗り心地性能を効果的に高めることが可能となる。
【0052】
以上のように本実施形態によれば、ゴム弾性体66とウレタンスポンジ68とを併用することで、高い操縦安定性を確保しつつ、乗り心地性能を従来に増して高めることが可能となるのに加えて、ゴム弾性体66と車体パネル10とで形成される密閉空間内にウレタンスポンジ68が収容されるため、ウレタンスポンジ68が加水分解にて劣化するのを防ぎ、その耐久性を高く確保することができる。
【0053】
また本実施形態では、車体パネル10の動きにシールリップ82を良好に追従させ得て、シールリップ82を車体パネル10に接触状態を保つことができ、以てウレタンスポンジ68の収容された密閉空間を良好にシール状態に保つことができる。
【0054】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば本発明はウレタンスポンジ以外の樹脂スポンジを用いるといったことも可能であるし、ウレタンスポンジの形状やこれを嵌め込むためのゴム弾性体の嵌込凹所の形状、その他を本発明の趣旨の範囲内で他の様々な形態に変更することが可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 車体パネル
12 アッパーサポート
14 上クッション部材
16 下クッション部材
18 ピストンロッド
26,28 取付金具
38 フランジ部
48,65 挿通孔
66 ゴム弾性体
68 ウレタンスポンジ
70 本体部
72 鍔状部
74 起立部
78 嵌込凹所
80 被覆部
82 シールリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体パネルの上側に配置される上クッション部材と、該上クッション部材とは別体をなして該車体パネルの下側に配置される下クッション部材とを有し、上,下の一対の取付金具により挟圧されてそれら上クッション部材と下クッション部材とを該車体パネルに弾性圧接させる状態に取り付けられ、サスペンション機構におけるショックアブソーバのピストンロッドと該車体パネルとを弾性連結して振動吸収するアッパーサポートにおいて、
前記下クッション部材の弾性体が、ゴム弾性体と発泡成形した樹脂スポンジとを組合せて構成してあり、車両への取付状態でそれらゴム弾性体及び樹脂スポンジの何れもが予圧縮状態で前記車体パネルに当接するものとなしてあることを特徴とするアッパーサポート。
【請求項2】
請求項1において、前記樹脂スポンジがウレタンスポンジであって、前記ゴム弾性体は上面が開放された、該ウレタンスポンジの嵌込凹所を有しており、車両への取付状態で該嵌込凹所の上面が前記車体パネルで閉鎖されて該嵌込凹所の内空間が密閉空間とされ、該密閉空間に前記ウレタンスポンジが収容されるものとなしてあることを特徴とするアッパーサポート。
【請求項3】
請求項2において、前記ゴム弾性体は、内側に前記ピストンロッドの挿通孔を形成する中心側の筒状の本体部と、該本体部の高さ方向中間部から軸直角方向外方に張り出した鍔状部と、該鍔状部の外周端から上向きに立ち上る起立部とを有していて、それら本体部と鍔状部と起立部との間に前記嵌込凹所を形成しており、
該起立部の上端部には薄肉のシールリップが設けてあって、車両への取付状態で前記本体部の上端部及び該シールリップが前記車体パネルに対して設定締代で弾性圧接し、該車体パネルとの間をシールするものとなしてあることを特徴とするアッパーサポート。
【請求項4】
請求項3において、前記ゴム弾性体は、車両への取付前の状態で前記本体部の上端部及び前記シールリップが、前記嵌込凹所内に嵌め込まれた前記ウレタンスポンジよりも上側に突出した形状をなしていることを特徴とするアッパーサポート。
【請求項5】
請求項3,4の何れかにおいて、前記下クッション部材を上向きに挟圧する一方の下取付金具がフランジ部付きのカップ形状となしてあるとともに、前記鍔状部及び起立部が該ウレタンスポンジに対する薄肉の被覆部をなしており、
前記本体部は該鍔状部よりも下側の下部が前記下取付金具に嵌め込まれて保持され、
車両への取付状態で該本体部が該下取付金具の下底部と前記車体パネルとの間に挟み込まれ、また前記ウレタンスポンジが該下取付金具のフランジ部と前記車体パネルとの間に前記薄肉の鍔状部を介して挟み込まれるものとなしてあることを特徴とするアッパーサポート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−72481(P2013−72481A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211503(P2011−211503)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】