説明

アナログ位相拘束ループ装置

【課題】単一で安定し信頼性のあるアナログのタイプIII位相拘束ループ装置を提供する。
【解決手段】位相検出器2は入力基準信号4及び出力信号6の位相差を表すエラー信号12を発生する。選択器14は第1帯域幅パラメータ値の選択時にエラー信号を第1信号経路8に供給し、第2帯域幅パラメータ値の選択時にエラー信号を第2信号経路10に供給する。第1信号経路はエラー信号を積分する第1積分器16と、その積分信号を積分してエラー電圧信号を発生する第2積分器18と、このエラー電圧信号に応答して第1信号経路出力信号を発生する電圧制御発振器20とを具えている。第2信号経路も同様な積分器22,24及び電圧制御発振器26を具えている。選択器28は第1帯域幅パラメータ値の選択時にVCO20の出力を選択し、第2帯域幅パラメータ値の選択時にVCO26の出力を選択する。選択器28の出力信号が位相検出器2に帰還する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、位相拘束ループ(PLL)装置に関し、特に、アナログのタイプIIIの位相拘束ループ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位相拘束ループ(PLL)装置(システム)は、基準入力信号の周波数及び位相に一致した周波数及び位相の発振器出力を発生することにより動作する線形制御システムである。以下、位相拘束ループ装置を単に位相拘束ループ又はPLLと呼ぶことがある。ロック(拘束)状態において、基準入力信号のいかなる変化も、基準入力信号及び発振器周波数の間の位相の変化として先ず現れる。この位相シフトは、エラー信号となり、PLL発振器の位相及び周波数を変化させる。位相拘束ループは、広範囲のアプリケーションに用いることができ、種々の機能を実現できる。PLLを用いて達成できる機能の例には、クロック抽出、クロック回復、クロック同期、キャリア回復、トラッキング・フィルタ、周波数合成、周波数及び位相復調、位相変調及びその他の多くの機能がある。
【0003】
基本的なPLLは、位相検出器(PD)、電圧制御発振器(VCO)、帰還相互接続及びループ・フィルタを具えている。位相検出器は、典型的には、非線形装置であり、限られた範囲にわたって、基準入力信号と帰還相互接続が供給する帰還信号との2つの周期入力信号の間の位相差に対応する線形出力を生成する。時間の関数である周波数は、時間の関数である位相の変化の時間比率(時間導関数)なので、基準位相に対するVCO周期出力信号の位相は、入力電圧の時間積分に比例する。比例定数は、単位が例えばrad/電圧秒であるVCO利得である。すなわち、VCO累積位相(rad)は、電圧対時間入力の下に面積(電圧×秒)に比例する。よって、単純な位相変調器でないVCOを含んだPLLは、VCOによる制御ループ内に少なくとも1個の積分器を有する。
【0004】
ループ・フィルタが省略されていると、PLLにとって機能を適切にするために、典型的には、このループ・フィルタが必要となる。特に、1個以上の積分器がループに使用されている場合、ループ・フィルタが必要である。
【0005】
PLLを説明するのに、タイプ及びオーダーという2つの項目を用いることができる。PLLシステムのタイプは、原点(オリジン)における開ループ伝達関数のポールの数を参照している。また、このタイプは、帰還ループ内の真の積分器の数にも対応する。PLLシステムのオーダーは、特性方程式と呼ばれる多項式の最高等級を参照している。
【0006】
いくつかのアプリケーションにおいて、タイプIIクラスに必要な2個の積分器は、任意の周波数オフセット用の静的な位相エラーを効果的に除去するので、タイプII位相拘束ループには優位性がある。タイプIII位相拘束ループは、時間と伴に周波数が線形に変化する入力信号の任意の位相エラーを更に除去する。
【0007】
いくつかのアプリケーションにおいて、設計及び測定規格に合わせるために、タイプIII位相拘束ループが必要になる。IEEE Standard 1521-20031「ビデオ・ジッタ及びワンダーの測定のためのIEEE試用標準」に記載されているアプリケーションの例では、抽出クロック(抽出されたクロック信号)を用いてオシロスコープをトリガしてジッタを測定するために、タイプIII帰還制御位相拘束ループを提案している。このアプリケーションにおいて、オシロスコープをトリガするための周期信号を供給するのに、少なくとも1個のアナログVCOが望ましい。2個の位相拘束ループ、即ち、一方がタイプIIで他方がタイプIを従属接続して、上述の標準における必要なタイプIII応答を提供するが、高価であるため、単一のPLLが好ましい。PLLは、DAC(D/A変換器)及び/又はADC(A/D変換器)を用いるアナログ及びデジタルの信号処理のハイブリッドでもよいが、VCOからの出力を用いて、タイプIII位相追跡応答によるオシロスコープ・トリガを提供する。
【0008】
高価で消費電力の大きいアナログ/デジタル・ハイブリッド又は2個の従属接続の位相拘束ループよりは、単一のアナログのタイプIIIPLLが好ましい。しかし、タイプIII位相拘束ループは、本質的に不安定で実現が不可能として文献にしばしば登場する。事実、IEEE Standard 1521-20031は、オシロスコープをトリガするのに抽出クロックを用いてジッタを測定するタイプIII位相拘束ループを示唆しているが、このドキュメントは、アナログ又はハイブリッドのデジタル/アナログのタイプIII位相拘束ループの設計を記載も説明もしていないし、2個の位相拘束ループの従属接続の使用も説明していない。
【0009】
他の設計規格及び標準(例えば、SMPTE RP192−2003「PROPOSED SMPTE RECOMMENDED PRACTICE、ビット・シリアル・デジタル・インタフェースにおけるジッタ測定手順)は、タイプIII位相拘束ループ応答も期待している。しかし、これらドキュメントは、タイプIII位相拘束ループを説明もしていないし、可能にもしていない。事実、文献の多くは、特に、単一で安定したアナログ・タイプIII位相拘束ループの実現の困難さを、しばしば、その不可能な点について述べている。典型的には、これら文献は、好ましいタイプIIIループの代わりに、例えば、タイプII位相拘束ループを実施することは、困難さが低いと示唆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−165459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、単一で、安定し、信頼性のあるアナログのタイプIII位相拘束ループ装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述の課題を解決するため、次のように構成されている。
1.アナログ位相拘束ループ装置であって;このアナログ位相拘束ループ装置は;a)アナログ位相拘束ループ装置の入力基準信号及び出力信号の間の位相差を表すエラー信号を発生する位相検出器と;b)第1帯域幅パラメータ値が選択されたときにエラー信号の第1信号経路への供給を行い、第2帯域幅パラメータ値が選択されたときにエラー信号の第2信号経路への供給を行う第1選択器とを具え;i)記第1信号経路は;(1)エラー信号を積分して第1信号経路積分信号を発生する第1の第1信号経路積分器と;(2)第1信号経路積分信号を積分して第1信号経路エラー電圧信号を発生する第2の第1信号経路積分器と;(3)第1信号経路エラー電圧信号に応答して第1信号経路出力信号を発生する第1信号経路電圧制御発振器とを具え;ii)第2信号経路は;(1)エラー信号を積分して第2信号経路積分信号を発生する第1の第2信号経路積分器と;(2)第2信号経路積分信号を積分して第2信号経路エラー電圧信号を発生する第2の第2信号経路積分器と;(3)第2信号経路エラー電圧信号に応答して第2信号経路出力信号を発生する第2信号経路電圧制御発振器とを具え;アナログ位相拘束ループ装置は;c)第1帯域幅パラメータ値が選択されたときに第1信号経路出力信号を出力信号として選択し、帯域幅パラメータ値が選択されたときに第2信号経路出力信号を出力信号として選択する第2選択器と;d)出力信号を位相検出器に供給する帰還接続とを更に具えたアナログ位相拘束ループ装置。
2.入力基準信号は、ジッタ成分及びワンダー成分を有するクロック信号である構成1のアナログ位相拘束ループ装置。
3.a)第1信号経路電圧制御発振器が広レンジ電圧制御発振器を具え;b)第2信号経路電圧制御発振器が狭レンジ電圧制御発振器を具える構成1のアナログ位相拘束ループ装置。
4.a)第1信号経路が第1の複数の周波数に関連し、これら第1の複数の周波数内の各周波数が第1境界周波数未満であり;b)第2信号経路が第2の複数の周波数に関連し、これら第2の複数の周波数内の各周波数が第2境界周波数未満である構成1のアナログ位相拘束ループ装置。
5.a)第1の第1信号経路積分器及び第2の第1信号経路積分器が第1信号経路に対して利得1で正の位相マージンを与え;b)第1の第2信号経路積分器及び第2の第2信号経路積分器が第2信号経路に対して利得1で正の位相マージンを与える構成1のアナログ位相拘束ループ装置。
6.アイ・ダイアグラム用の測定機器に時間基準を供給する時間基準供給装置であって;この時間基準供給装置は;a)アナログ位相拘束ループ装置を具え;このアナログ位相拘束ループ装置は;i)アナログ位相拘束ループ装置の入力基準信号及び出力の間の位相差を表すエラー信号を発生する位相検出器と;ii)第1帯域幅パラメータ値が選択されたときにエラー信号の高速ループ信号経路への供給を行う第1選択器とを具え;高速ループ信号経路は;(1)エラー信号を積分して第1ループ経路積分信号を発生する第1高速ループ経路積分器と;(2)高速ループ経路積分信号を積分して第1高速ループ経路エラー電圧信号を発生する第2高速ループ積分器と;(3)高速ループ経路エラー電圧信号に応答して高速ループ出力信号を発生する高速ループ経路電圧制御発振器とを具え;アナログ位相拘束ループ装置は;iii)第2帯域幅パラメータ値が選択されたときにエラー信号の低速ループ信号経路への供給を行う第2選択器を更に具え;低速ループ信号経路は;(1)エラー信号を積分して低速ループ経路積分信号を発生する第1低速ループ積分器と;(2)低速ループ経路積分信号を積分して低速ループ経路エラー電圧信号を発生する第2低速ループ経路積分器と;(3)低速ループ経路エラー電圧信号に応答して低速ループ出力信号を発生する低速ループ経路電圧制御発振器とを具え;アナログ位相拘束ループ装置は;iv)第1帯域幅パラメータ値が選択されたときに高速ループ出力信号を出力信号として選択する第3選択器と;v)第2帯域幅パラメータ値が選択されたときに低速ループ出力信号を出力信号として選択する第4選択器と;vi)出力信号を位相検出器に供給する帰還接続とを更に具え;時間基準供給装置は;b)出力信号を測定機器に供給するアクセス・ポートを更に具えた時間基準供給装置。
7.a)第1高速ループ経路積分器及び第2高速ループ経路積分器が高速ループ信号経路用に対して利得1で正の位相マージンを与え;b)第1低速ループ経路積分器及び第2低速ループ経路積分器が低速ループ信号経路に対して利得1で正の位相マージンを与える構成6の装置。
8.測定機器がオシロスコープである構成6の装置。
9.入力基準信号は、ジッタ成分及びワンダー成分を有するクロック信号である構成6の装置。
10.a)高速ループ経路電圧制御発振器が広レンジ電圧制御発振器を具え;b)低速ループ経路電圧制御発振器が狭レンジ電圧制御発振器を具える構成6の装置。
11.a)高速ループ信号経路が第1の複数の周波数に関連し、これら第1の複数の周波数の内の各周波数が第1境界周波数未満であり;b)高速ループ経路積分器が第1広帯域積分器であり;c)第2高速ループ経路積分器が第2広帯域積分器であり;d)低速ループ信号経路が第2の複数の周波数に関連し、これら第2の複数の周波数の内の各周波数が第2境界周波数未満であり;e)第1低速ループ経路積分器が第1狭帯域幅積分器であり;f)第2低速ループ経路積分器が第2狭帯域幅積分器であり;g)第1境界周波数が第2境界周波数よりも高い構成6の装置。
12.アナログ位相拘束ループ装置であって;a)このアナログ位相拘束ループ装置の入力基準信号及び出力信号の間の位相差を表すエラー信号を発生する位相検出器と;b)エラー信号を積分して第1積分信号を発生する第1積分器と;c)第1積分信号を積分してエラー電圧信号を発生する第2積分器と;d)エラー電圧信号に応答して出力信号を発生する電圧制御発振器と;e)出力信号を位相検出器に供給する帰還接続とを具え;f)第1積分器及び第2積分器が利得1で正の位相マージンを提供することを特徴とするアナログ位相拘束ループ装置。
13.アナログ位相拘束ループ装置であって;このアナログ位相拘束ループ装置は;a)第1帯域幅パラメータ値が選択されたときに入力基準信号の第1信号経路への供給並びに出力信号の第1信号経路への供給を行い、第2帯域幅パラメータ値が選択されたときに入力基準信号の第2信号経路への供給並びに出力信号の第2信号経路への供給を行う第1選択器を具え;i)第1信号経路は;(1)入力基準信号及び出力信号の間の位相差を表す第1信号経路エラー信号を発生する第1信号経路位相検出器と;(2)第1信号経路エラー信号を積分して第1信号経路積分信号を発生する第1の第1信号経路積分器と;(3)第1信号経路積分信号を積分して第1信号経路エラー電圧信号を発生する第2の第1信号経路積分器と;(4)第1信号経路エラー電圧信号に応答して第1信号経路出力信号を発生する第1信号経路電圧制御発振器とを具え;ii)第2信号経路は;(1)入力基準信号及び出力信号の間の位相差を表す第2信号経路エラー信号を発生する第2信号経路位相検出器と;(2)第2信号経路エラー信号を積分して第2信号経路積分信号を発生する第1の第2信号経路積分器と;(3)第2信号経路積分信号を積分して第2信号経路エラー電圧信号を発生する第2の第2信号経路積分器と;(4)第2信号経路エラー電圧信号に応答して第2信号経路出力信号を発生する第2信号経路電圧制御発振器とを具え;アナログ位相拘束ループ装置は;b)第1帯域幅パラメータ値が選択されたときに第1信号経路出力信号を出力信号として選択し、第2帯域幅パラメータ値が選択されたときに第2信号経路出力信号を出力信号として選択する出力選択器と;c)出力信号を経路選択器に供給する帰還接続とを更に具えるアナログ位相拘束ループ装置。
14.入力基準信号は、ジッタ成分及びワンダー成分を有するクロック信号である構成13のアナログ位相拘束ループ装置。
15.a)第1信号経路電圧制御発振器が広レンジ電圧制御発振器を具え;b)第2信号経路電圧制御発振器が狭レンジ電圧制御発振器を具える構成13のアナログ位相拘束ループ装置。
16.a)第1信号経路が第1の複数の周波数に関連し、これら第1の複数の周波数内の各周波数が第1境界周波数未満であり;b)第2信号経路が第2の複数の周波数に関連し、これら第2の複数の周波数の内の各周波数が第2境界周波数未満である構成13のアナログ位相拘束ループ装置。
17.a)第1の第1信号経路積分器及び第2の第1信号経路積分器が第1信号経路に対して利得1で正の位相マージンを与え;b)第1の第2信号経路積分器及び第2の第2信号経路積分器が第2信号経路に対して利得1で正の位相マージンを与える構成13のアナログ位相拘束ループ装置。
【0013】
本発明の実施例は、少なくとも2個の信号経路を有するアナログのタイプIII位相拘束ループ装置用の方法及びシステムであり、各信号経路が帯域幅区分に対応する。本発明の実施例において、第1信号経路が高速ループ(広い閉ループ帯域幅)に対応し、第2信号経路が低速ループ(狭い閉ループ帯域幅)に対応する。
【0014】
本発明の実施例は、電圧制御発振器に結合された第2積分器に結合された第1積分器を有するアナログのタイプIII位相拘束ループ装置用の方法及びシステムを具えているので、3個の積分器を実現して、利得1で装置の位相マージンが正である。本発明の実施例において、利得1での正の利得マージンは、位相拘束ループ装置にて利得1でアクティブな2個のゼロと共に実現できる。
【0015】
本発明の実施例は、トリガ信号を発生する方法及びシステムを具えており、このトリガ信号は、アナログのタイプIII位相拘束ループ装置を用いて得た抽出クロック信号に基づいてもよい。
【0016】
本発明の上述の及びその他の目的、利点及び特徴は、添付図を参照した以下の詳細な説明から更に理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】少なくとも2個の信号経路を有するアナログのタイプIII位相拘束ループ装置である本発明の実施例を示すブロック図である。
【図2】本発明に用いる電流出力位相検出器の実施例を示すブロック図である。
【図3】本発明に用いる電圧出力位相検出器の実施例を示すブロック図である。
【図4】2経路のタイプIII位相拘束ループ装置である本発明の実施例を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例によるアナログのタイプIII位相拘束ループ及びループスルー入力信号経路を用いて回復した同期拘束信号によりオシロスコープをトリガすることを示す本発明の実施例のブロック図である。
【図6】本発明の実施例によるアナログのタイプIII位相拘束ループを用いて回復した同期拘束信号によりオシロスコープをトリガすることを示す本発明の実施例のブロック図である。
【図7】少なくとも2個の信号経路を有するアナログのタイプIII位相拘束ループ装置である本発明の実施例を示すブロック図であり、各信号経路が位相検出器を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施例は、添付図を参照した以下の説明から理解できよう。なお、同様な要素は、同様な参照符号で示す。上述の図は、この詳細な説明の一部を構成する。
【0019】
添付図で一般的に説明し図示した本発明の要素は、種々の異なる構成においても配置且つ設計できることが容易に理解できよう。よって、本発明にかかる方法及びシステム(装置)の実施例の以下の詳細な説明は、本発明の要旨を限定するものではなく、本発明の好適な実施例を単に表すものである。
【0020】
本発明の実施例の要素は、ハードウェア、ファームウェア及び/又はソフトウェアにより実現できる。ここに示す実施例は、これら形式の1つを単に説明するものであるが、本発明の要旨の範囲内で、本発明の要素をこれら形式の任意のものにより実現できることが当業者には理解できよう。
【0021】
アナログのタイプIII位相拘束ループは、本質的に不安定であり、不可能でないとしても実現が困難であると長い間にわたって考えられていた。Christian Munkerは、2005年2月のPhase Noise and Spurious Sidebands in Frequency Synthesizers(周波数シンセサイザでの位相ノイズ及びスプリアス側波帯)v3.2において「原点における2個より多いポールを有するシステム(積分器)は常に不安定なため、タイプIIIPLLの如きものが存在しない」と述べている。この思い違いの主な理由は、帰還ループによる180度と、第1積分器による90度と、第2積分器による90度と、第3積分器(典型的には電圧制御発振器)による90度との累積された位相が原因で必然的に不安定になるという、長い間にわたる誤解である。これら位相が、タイプIII位相拘束ループにおいて、ループの不安定さを広範囲にわたる原因とされている。
【0022】
しかし、本発明の実施例は、安定なアナログのタイプIII位相拘束ループ装置を具えており、正の位相マージンは、開ループの利得1で維持される。これは、本発明の実施例が安定な様式での動作を可能にする。本発明の実施例において、利得1での正の位相マージンは、位相拘束ループ装置において利得1でアクティブの2個のゼロにて実現できる。
【0023】
本発明の実施例は、帯域幅に応じた多数の単一経路を有する安定したアナログのタイプIII位相拘束ループ装置であるので、パラメトリック値の必要なレンジを典型的なアナログ成分により実現できないため、単一ループ内でパラメータ調整の必然性が緩和される。
【0024】
図1を参照して、本発明の実施例を説明する。実施例において、アナログのタイプIII位相拘束ループ装置は、位相検出器2と、2個の信号経路である第1信号経路8及び第2信号経路10とを具えている。この位相検出器2は、入力として、基準信号4及び帰還信号6を受ける。位相検出器2は、入力基準信号4及び帰還信号6の間の位相差を表すエラー信号12を発生する。エラー信号12は、選択機構14に応じて、信号経路8及び10の間で切り替えられる。本発明の実施例において、選択機構14は、帯域幅選択器に基づいてもよい。
【0025】
第1信号経路8は、第1の第1信号経路積分器と呼ぶ第1積分器16と、第2の第1信号経路積分器と呼ぶ第2積分器18と、第1信号経路電圧制御発振器と呼ぶ電圧制御発振器(VCO)20とを具えている。選択機構14を介して第1信号経路8が選択されると、エラー信号12が第1の第1信号経路積分器16に供給される。この第1の第1信号経路積分器16は、入力エラー信号12に応答して、第1信号経路積分信号17を発生する。第2の第1信号経路積分器18は、第1信号経路積分信号17に応答して、第1信号経路エラー電圧信号19を発生する。第1信号経路エラー電圧信号19は、第1信号経路電圧制御発振器20用の制御電圧信号である。第1信号経路電圧制御発振器20は、第1信号経路出力周期信号21を発生する。本発明のこれらの実施例において、第1の第1信号経路積分器16及び第2の第1信号経路積分器18は、利得1で正の位相マージンを与えるように設計されている。本発明の実施例において、位相拘束ループ装置内での利得1でアクティブの2個のゼロにより利得1での正の位相マージンを実現する。
【0026】
第2信号経路10は、第1の第2信号経路積分器と呼ぶ第1積分器22と、第2の第2信号経路積分器と呼ぶ第2積分器24と、第2信号経路電圧制御発振器と呼ぶ電圧制御発振器26とを具えている。選択機構14を介して第2信号経路10が選択されると、エラー信号12が第1の第2信号経路積分器22に供給される。この第1の第2信号経路積分器22は、入力エラー信号12に応答して、第2信号経路積分信号23を発生する。第2の第2信号経路積分器24は、第2信号経路積分信号23に応答して、第2信号経路エラー電圧信号23を発生する。第2信号経路エラー電圧信号25は、第2信号経路電圧制御発振器26用の制御電圧信号である。第2信号経路電圧制御発振器26は、第2信号経路出力周期信号27を発生する。本発明のこれらの実施例において、第1の第2信号経路積分器22及び第2の第2信号経路積分器24は、利得1で正の位相マージンを与えるように設計されている。本発明の実施例において、位相拘束ループ装置内での利得1でアクティブの2個のゼロにより利得1での正の位相マージンを実現する。
【0027】
選択機構28に応じて、タイプIII位相拘束ループ装置の帰還信号6を第2信号経路出力周期信号21及び第2信号経路出力周期信号27から選択できる。本発明の実施例において、選択機構28は、帯域幅選択器に基づいてもよい。
【0028】
本発明の実施例において、第1信号経路8が高速ループに対応し、第2信号経路10が低速ループに対応して、高速経路に対応する利得1のクロスオーバー周波数が低速経路に対応する利得1のクロスオーバー周波数よりも大幅に高い。いくつかの実施例において、高速ループは、100KHz付近の利得1のクロスオーバー周波数を有し、低速ループは、10Hz付近の利得1のクロスオーバー周波数を有する。本発明の実施例において、第1信号経路の利得1のクロスオーバー周波数及び第2信号経路の利得1のクロスオーバー周波数は、ジッタ領域及びワンダー領域を分ける境界周波数に関連する。本発明の別の実施例において、第1信号経路の利得1のクロスオーバー周波数が第1境界周波数に関連し、第2信号経路の利得1のクロスオーバー周波数が第2境界周波数に関連する。
【0029】
図1による本発明の実施例において、低速ループは、第1境界周波数よりも高いジッタ周波数には応答しない、又は追従しない。低速ループの出力は、第1境界周波数よりも高い周波数にて変化しない。したがって、第1境界周波数よりも上では、このループに対するVCOジッタが不活発である。VCOジッタが第1境界周波数よりも上では不活発なので、オシロスコープは、第1境界周波数よりも上の入力基準信号のジッタを表示できる。
【0030】
同様に、高速ループは、第2境界周波数よりも上のジッタ周波数に応答しない、又は追従しない。高速ループの出力は、第2境界周波数よりも高い周波数にて変化しない。したがって、第2境界周波数よりも上では、高速ループに対するVCOジッタが不活発である。VCOジッタが第2境界周波数よりも上では不活発なので、オシロスコープは、第2境界周波数よりも上の入力基準信号のジッタを表示できる。第2境界周波数(高速ループに関連した境界周波数)は、第2境界周波数(低速ループに関連した境界周波数)よりも高い。
【0031】
本発明の実施例において、第1信号経路8は、広帯域VCOを有する高速ループである。広帯域VCOは、制御電圧、即ち、エラー電圧19のわずかな変化で、周波数及び位相の大きな変化を生じる。しばしば、これをVCO利得と呼ぶ。追加的に、広帯域VCOは、制御電圧周波数の広い帯域幅にわってその利得を維持し続ける。本発明の実施例において、積分器のコンポーネントは、広帯域VCOにマッチして、100KHz付近のクロック回復帯域幅に影響する。
【0032】
本発明の実施例において、第2信号経路10は、狭帯域VCOを有する低速ループでもよい。狭帯域VCOは、制御電圧、即ち、エラー電圧25の大きな変化で小さな周波数変化を生じる。本発明の実施例において、積分器のコンポーネントを狭帯域VCOに合わせることにより、10Hz付近のクロック回復帯域幅を実現できる。
【0033】
2個(又はそれ以上)の独立した信号経路及びVCOの利点は、広帯域ループに狭帯域VCOを設けること又はその逆が不可能でないにしても困難であると言うことに基づいている。
【0034】
本発明の別の実施例において、タイプIII位相拘束ループ装置は、3個以上の経路を具えてもよく、各経路は、帯域幅区分に対応する。
【0035】
図2を参照して、本発明の実施例を説明する。実施例において、アナログのタイプIII位相拘束ループ装置は、入力として基準信号31及び帰還信号32を受ける位相検出器30と、2個の積分器である第1積分器34及び第2積分器36とを具えている。位相検出器30は、入力基準信号31及び帰還信号32の間の位相差を表すエラー信号33を発生する。実施例において、位相検出器30は、電流出力位相検出器でもよい。実施例において、第1積分器34は、図2に示すように配置され、C1、C2で示す2個のコンデンサ40、41と、R1で示す抵抗器42と、演算増幅器43とを具えている。第2積分器36は、第1積分器34からの出力である積分された信号(積分信号)35に応答する。この第2積分器36は、図2に示すように配置され、R2、R3で示す2個の抵抗器44、45と、C3で示すコンデンサ46と、演算増幅器47とを具えている。電圧制御発振器38は、第2積分器36が発生したエラー電圧37に応答し、電圧制御発振器38は、位相検出器30に帰還される周期信号32を発生する。
【0036】
本発明の実施例において、電圧制御発振器38からの帰還経路は、分周器のチェーンを具えてもよい。この実施例において、VCO38の利得は、発振器利得及び分周比の積として決まる。
【0037】
図2に関連して説明する本発明の実施例では、位相検出器30の利得は、783μA/radであり、電圧制御発振器38は、ある分周比で32(rad/s)/ボルトのVCO利得である狭レンジ電圧制御発振器である。コンデンサ及び抵抗器の値は、次のように設定される。
C1=0.05μF
C2=1μF
R1=60kΩ
R2=1MΩ
R3=60kΩ
C3=1μF
【0038】
図2に関連した本発明の他の実施例では、位相検出器30の利得は、783μA/radであり、電圧制御発振器38は、ある分周比で32(rad/s)/ボルトのVCO利得である狭レンジ電圧制御発振器である。これらコンデンサ及び抵抗器の値は、次のように設定される。
C1=0.047μF
C2=1μF
R1=61.9kΩ
R2=1MΩ
R3=61.9kΩ
C3=1μF
【0039】
図2に関連した本発明の更に他の実施例では、位相検出器30の利得は、783μA/radであり、電圧制御発振器38は、ある分周比で1,970,000(rad/s)/ボルトのVCO利得である広レンジ電圧制御発振器である。コンデンサ及び抵抗器の値は、次のように設定される。
C1=47pF
C2=0.001μF
R1=3.92kΩ
R2=200kΩ
R3=39.2kΩ
C3=100pF
【0040】
図2に関連して説明する本発明の別の実施例では、コンデンサ及び抵抗器の値は、利得1で正の位相マージンを与えるように設定される。本発明の実施例において、位相拘束ループ装置における利得1でアクティブな2個のゼロにより、利得1で正の位相マージンを実現できる。
【0041】
図3を参照して、本発明の別の実施例を説明する。実施例において、アナログのタイプIII位相拘束ループ装置は、基準信号51及び帰還信号52を入力として受ける位相検出器50と、第1積分器54及び第2積分器56である2個の積分器とを具えている。位相検出器50は、入力基準信号51及び帰還信号52の間の位相差を表すエラー信号53を発生する。実施例において、位相検出器50は、電圧出力位相検出器でもよい。実施例において、第1積分器54は、図3に示すように配置され、R1、R2で示す2個の抵抗器60、61と、C1で示すコンデンサ62と、演算増幅器63とを具えている。第2積分器56は、第1積分器54からの出力である積分信号55に応答する。第2積分器56は、図3に示すように配置され、R3、R4で示す2個の抵抗器64、65と、C2で示すコンデンサ66と、演算増幅器67とを具えている。電圧制御発振器58は、第2積分器56が発生したエラー電圧57に応答し、電圧制御発振器58は、位相検出器50に帰還される周期信号52を発生する。
【0042】
図3に関連して説明した本発明の実施例では、コンデンサ及び抵抗器の値は、利得1で正の位相マージンを与えるように設定される。本発明の実施例においては、位相拘束ループ装置にて利得1でアクティブな2個のゼロにより、利得1で正の位相マージンを実現できる。
【0043】
図4を参照して、本発明の別の実施例を説明する。実施例において、アナログのタイプIII位相拘束ループ装置は、基準信号81及び帰還信号82を入力として受ける位相検出器80と、第1信号経路84及び第2信号経路86の2個の信号経路とを具えている。位相検出器80は、入力基準信号81及び帰還信号82の間の位相差を表すエラー信号90を発生する。エラー信号90は、選択機構92により、信号経路84及び86の間で切り替えられる。本発明の実施例において、選択機構92は、帯域幅選択器に基づいてもよい。
【0044】
第1信号経路84は、第1の第1信号経路積分器と呼ばれる第1積分器94と、第2の第1信号経路積分器と呼ばれる第2積分器96と、第1信号経路電圧制御発振器と呼ばれる電圧制御発振器98とを具えている。選択機構92により第1信号経路84が選択されると、エラー信号90が第1の第1信号経路積分器94に供給される。この第1の第1信号経路積分器94は、入力エラー信号に応答して第1信号経路積分信号95を発生する。第2の第1信号経路積分器96は、第1信号経路積分信号95に応答して第1信号経路エラー電圧信号97を発生する。第1信号経路エラー電圧信号97は、第1信号経路電圧制御発振器98用の制御電圧信号である。第1信号経路電圧制御発振器98は、第1信号経路出力周期信号99を発生する。本発明の実施例において、第1の第1信号経路積分器94及び第2の第1信号経路積分器96は、第1信号経路にて利得1で正の位相マージンを与えるように設定される。本発明の実施例において、位相拘束ループ装置における利得1でのアクティブな2個のゼロにより、利得1での正の位相マージンを実現できる。
【0045】
第2信号経路86は、第1の第2信号経路積分器と呼ばれる第1積分器100と、第2の第2信号経路積分器と呼ばれる第2積分器102と、第2信号経路電圧制御発振器と呼ばれる電圧制御発振器104とを具えている。選択機構92により第2信号経路86が選択されると、エラー信号90が第1の第2信号経路積分器100に供給される。この第1の第2信号経路積分器100は、入力エラー信号90に応答して第2信号経路積分信号101を発生する。第2の第2信号経路積分器102は、第2信号経路積分信号101に応答して第2信号経路エラー電圧信号103を発生する。第2信号経路エラー電圧信号103は、第2信号経路電圧制御発振器104用の制御電圧信号である。第2信号経路電圧制御発振器104は、第2信号経路出力周期信号105を発生する。本発明の実施例において、第1の第2信号経路積分器100及び第2の第2信号経路積分器102は、第2信号経路にて利得1で正の位相マージンを与えるように設定される。本発明の実施例において、位相拘束ループ装置における利得1でのアクティブな2個のゼロにより、利得1での正の位相マージンを実現できる。
【0046】
タイプIII位相拘束ループ装置の帰還信号82は、選択機構106により、第1信号経路出力周期信号99及び第2信号経路出力周期信号104から選択できる。本発明の実施例において、選択機構106は、帯域幅選択器に基づいてもよい。
【0047】
図4を参照して説明する本発明の実施例において、位相検出器80は、電流出力位相検出器でもよい。実施例において、第1の第1信号経路積分器94は、図4に示すように配置され、C11、C12で示すコンデンサ110、111と、R11で示す抵抗器112と、演算増幅器113とを具えている。第2の第1信号経路積分器96は、第1の第1信号経路積分器94からの出力である積分信号95に応答する。第2の第1信号経路積分器96は、図4に示すように配置され、R21、R31で示す2個の抵抗器114、115と、C31で示すコンデンサ116と、演算増幅器117とを具えている。
【0048】
図4を参照して説明する本発明の実施例において、上述と同様に、位相検出器80は、電流出力位相検出器でもよい。実施例において、第1の第2信号経路積分器100は、図4に示すように配置され、C12、C22で示すコンデンサ120、121と、R12で示す抵抗器122と、演算増幅器123とを具えている。第2の第2信号経路積分器102は、第1の第2信号経路積分器100からの出力である積分信号101に応答する。第2の第2信号経路積分器102は、図4に示すように配置され、R22、R32で示す2個の抵抗器124、125と、C32で示すコンデンサ126と、演算増幅器127とを具えている。
【0049】
図4に関連して説明した本発明の実施例において、第1信号経路84が高速ループに対応し、第2信号経路86が低速ループに対応する。高速経路に対応する利得1のクロスオーバー周波数は、低速ループに対応する利得1のクロスオーバー周波数よりも大幅に高い。実施例において、高速ループは、100KHz付近の利得1のクロスオーバー周波数を有し、低速ループは、10Hz付近の利得1のクロスオーバー周波数を有する。本発明の実施例において、第1信号経路の利得1のクロスオーバー周波数と第2信号経路の利得1のクロスオーバー周波数とは、ジッタ領域及びワンダー領域を分ける境界周波数に関連する。本発明の実施例において、第1信号経路の利得1のクロスオーバー周波数が第1境界周波数に関連し、第2信号経路の利得1のクロスオーバー周波数が第2境界周波数に関連する。
【0050】
図4に関連して説明する本発明の実施例では、第2信号経路電圧制御発振器104は、ある分周比で32(rad/s)/ボルトのVCO利得である狭レンジ電圧制御発振器である。第2信号経路86内のコンデンサ及び抵抗器の値は、次のように設定される。
C12=0.047μF
C22=1μF
R12=61.9kΩ
R22=1MΩ
R32=61.9kΩ
C32=1μF
また、第1信号経路電圧制御発振器98は、ある分周比で1,970,000(rad/s)/ボルトのVCO利得である広レンジ電圧制御発振器である。第1信号経路84内のコンデンサ及び抵抗器の値は、次のように設定される。
C11=47pF
C21=0.001μF
R11=3.92kΩ
R21=200kΩ
R31=39.2kΩ
C31=100pF
この実施例において、位相検出器80の利得は、783μA/radである。
【0051】
図5を参照して、本発明の実施例を説明する。実施例において、信号源(テスト・ソース)140が被試験装置である。信号源140が信号146を発生し、この信号が測定機器142や他の測定装置をループスルーして、オシロスコープ144に入力する信号となる。なお、オシロスコープは、表示器145を具えている。本発明の実施例において、測定機器142のループスルー経路は、能動的なループスルーである。本発明の別の実施例において、測定機器142内のループスルー経路は、受動的なループスルーでもよい。測定機器142は、上述した本発明の実施例に応じたアナログのタイプIII位相拘束ループを具えており、入力信号146に拘束されて出力信号148を発生する。この出力信号148は、測定機器142から利用可能であり、オシロスコープ144用のトリガとして用いられる。本発明の実施例において、出力信号148は、測定機器142の背面パネルから利用可能である。
【0052】
本発明の実施例において、信号源140は、ビデオ・ソースでもよく、発生された信号146は、オシロスコープ144の表示器145に表示される入力となり、ジッタのあるクロック信号でもよい。本発明の実施例において、オシロスコープの144の表示器145に「アイ」ダイアグラムを表示してもよい。「アイ」ダイアグラムの垂直軸が入力データ146の表示であり、「アイ」ダイアグラムの水平軸が、抽出クロック信号(抽出されたクロック信号)148でトリガされた線形掃引信号でもよい。
【0053】
図6を参照して本発明の実施例を説明する。この実施例において、信号源(テスト・ソース)150が試験される。信号源150は、信号157を発生し、この信号157は、測定機器152や他の測定装置、及びオシロスコープ154に独立して分配される。オシロスコープ154は、表示器155を有する。本発明の実施例において、分配増幅器(図示せず)を用いて、信号157を独立して分配してもよい。測定機器152は、本発明の上述の実施例によるアナログのタイプIII位相拘束ループを具えているので、測定機器152から利用可能な出力信号159が発生し、これをオシロスコープ154のトリガ信号として使用できる。本発明の実施例において、出力信号159は、出力信号159は、測定機器152の背面パネルから利用可能である。
【0054】
本発明の実施例において、信号源150は、ビデオ・ソースでもよく、発生された信号157は、オシロスコープ154の表示器155に表示される入力となり、ジッタのあるクロック信号でもよい。本発明の実施例において、オシロスコープの154の表示器155に「アイ」ダイアグラムを表示してもよい。「アイ」ダイアグラムの垂直軸が入力データ157の表示であり、「アイ」ダイアグラムの水平軸が、抽出クロック信号159でトリガされた線形掃引信号でもよい。
【0055】
図7を参照して、本発明の実施例を説明する。実施例において、アナログのタイプIII位相拘束ループ装置は、第1信号経路156及び第2信号経路158である2個の信号経路の間で選択を行う経路選択器160を有する。入力基準信号161及び帰還信号162は、選択された経路を通過する。本発明の実施例において、経路選択は、帯域幅パラメータに基づく。
【0056】
第1信号経路156は、第1信号経路位相検出器と呼ぶ位相検出器170と、第1の第1信号経路積分器と呼ぶ第1積分器172と、第2の第1信号経路積分器と呼ぶ第2積分器174と、第1信号経路電圧制御発振器と呼ぶ電圧制御発振器176とを具えている。選択機構160を介して第1信号経路156が選択されると、入力基準信号161及び帰還信号162が第1信号経路位相検出器170に供給される。この第1信号経路位相検出器170は、入力基準信号161及び帰還信号162の間の位相差を表すエラー信号171を発生する。このエラー信号は、第1の第1信号経路積分器172の入力に供給され、この第1信号経路積分器172は、入力エラー信号171に応答して、第1信号経路積分信号173を発生する。第2の第1信号経路積分器174は、第1信号経路積分信号173に応答して、第1信号経路エラー電圧信号175を発生する。第1信号経路エラー電圧信号175は、第1信号経路電圧制御発振器176用の制御電圧信号である。第1信号経路電圧制御発振器176は、第1信号経路出力周期信号177を発生する。本発明の実施例において、第1の第1信号経路積分器172及び第2の第1信号経路積分器174は、第1信号経路にて利得1で正の位相マージンを与えるように設計されている。本発明の実施例において、位相拘束ループ装置内での利得1でアクティブの2個のゼロにより、利得1での正の位相マージンを実現する。
【0057】
第2信号経路158は、第2信号経路位相検出器と呼ぶ位相検出器180と、第1の第2信号経路積分器と呼ぶ第1積分器182と、第2の第2信号経路積分器と呼ぶ第2積分器184と、第2信号経路電圧制御発振器と呼ぶ電圧制御発振器186とを具えている。選択機構160を介して第2信号経路158が選択されると、入力基準信号161及び帰還信号162が第2信号経路位相検出器180に供給される。この第2信号経路位相検出器180は、入力基準信号161及び帰還信号162の間の位相差を表すエラー信号181を発生する。このエラー信号は、第1の第2信号経路積分器182の入力に供給され、この第2信号経路積分器182は、入力エラー信号181に応答して、第2信号経路積分信号183を発生する。第2の第2信号経路積分器184は、第2信号経路積分信号183に応答して、第2信号経路エラー電圧信号185を発生する。第2信号経路エラー電圧信号185は、第2信号経路電圧制御発振器186用の制御電圧信号である。第2信号経路電圧制御発振器186は、第2信号経路出力周期信号187を発生する。本発明の実施例において、第1の第2信号経路積分器182及び第2の第2信号経路積分器184は、第2信号経路にて利得1で正の位相マージンを与えるように設計されている。本発明の実施例において、位相拘束ループ装置内での利得1でアクティブの2個のゼロにより、利得1での正の位相マージンを実現する。
【0058】
選択機構178に応じて、第1信号経路出力周期信号177及び第2信号経路出力周期信号187から、タイプIII位相拘束ループ装置の帰還信号162を選択できる。本発明の実施例において、選択機構178は、帯域幅選択器に基づいている。
【0059】
本発明の実施例において、だい1信号経路156が高速ループに対応し、第2信号経路158が低速ループに対応する。実施例において、高速ループは、100KHz付近の利得1のクロスオーバー周波数を有し、低速ループは、10Hz付近の利得1のクロスオーバー周波数を有する。本発明の実施例において、第1信号経路の利得1のクロスオーバー周波数及び第2信号経路の利得1のクロスオーバー周波数は、ジッタ領域及びワンダー領域を分ける境界周波数に関連する。本発明の別の実施例において、第1信号経路の利得1のクロスオーバー周波数が第1境界周波数に関連し、第2信号経路の利得1のクロスオーバー周波数が第2境界周波数に関連する。
【0060】
本発明の別の実施例において、アナログのタイプIII位相拘束ループ装置は、3個以上の信号経路を具えてもよく、各経路が帯域幅区分に対応する。
【0061】
上述で用いた用語及び表現は、説明のための用語であり、本発明を限定するものではない。また、これら用語や表現は、図示し上述した機能と等価なものを排除するものでもない。本発明の要旨は、特許請求の範囲の記載に基づく。
【符号の説明】
【0062】
2、30、50、80、170、180 位相検出器
8、84、156 第1信号経路
10、86、158 第2信号経路
14、28、178 選択機構
16、18、22、26、34、36、54、56、94、96、100、102、172、174、182、184 積分器
20、26、38、58、98、104、176、186 電圧制御発振器
160 経路選択器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ位相拘束ループ装置であって、
該アナログ位相拘束ループ装置は、
a)該アナログ位相拘束ループ装置の入力基準信号及び出力信号の間の位相差を表すエラー信号を発生する位相検出器と、
b)第1帯域幅パラメータ値が選択されたときに上記エラー信号を第1信号経路に供給し、第2帯域幅パラメータ値が選択されたときに上記エラー信号を第2信号経路に供給する第1選択器とを具え、
i)上記第1信号経路は、
(1)上記エラー信号を積分して第1信号経路積分信号を発生する第1の第1信号経路積分器と、
(2)上記第1信号経路積分信号を積分して第1信号経路エラー電圧信号を発生する第2の第1信号経路積分器と、
(3)上記第1信号経路エラー電圧信号に応答して第1信号経路出力信号を発生する第1信号経路電圧制御発振器と
を具え、
ii)上記第2信号経路は、
(1)上記エラー信号を積分して第2信号経路積分信号を発生する第1の第2信号経路積分器と、
(2)上記第2信号経路積分信号を積分して第2信号経路エラー電圧信号を発生する第2の第2信号経路積分器と、
(3)上記第2信号経路エラー電圧信号に応答して第2信号経路出力信号を発生する第2信号経路電圧制御発振器と
を具え、
上記アナログ位相拘束ループ装置は、
c)上記第1帯域幅パラメータ値が選択されたときに上記第1信号経路出力信号を上記出力信号として選択し、上記帯域幅パラメータ値が選択されたときに上記第2信号経路出力信号を上記出力信号として選択する第2選択器と、
d)上記出力信号を上記位相検出器に供給する帰還接続と
を更に具えたアナログ位相拘束ループ装置。
【請求項2】
アイ・ダイアグラム用の測定機器に時間基準を供給する時間基準供給装置であって、
該時間基準供給装置は、
a)アナログ位相拘束ループ装置を具え、
該アナログ位相拘束ループ装置は、
i)上記アナログ位相拘束ループ装置の入力基準信号及び出力の間の位相差を表すエラー信号を発生する位相検出器と、
ii)第1帯域幅パラメータ値が選択されたときに上記エラー信号を高速ループ信号経路に供給する第1選択器とを具え、
上記高速ループ信号経路は、
(1)上記エラー信号を積分して第1ループ経路積分信号を発生する第1高速ループ経路積分器と、
(2)上記高速ループ経路積分信号を積分して第1高速ループ経路エラー電圧信号を発生する第2高速ループ積分器と、
(3)上記高速ループ経路エラー電圧信号に応答して高速ループ出力信号を発生する高速ループ経路電圧制御発振器と
を具え、
上記アナログ位相拘束ループ装置は、
iii)第2帯域幅パラメータ値が選択されたときに上記エラー信号を低速ループ信号経路に供給する第2選択器を更に具え、
上記低速ループ信号経路は、
(1)上記エラー信号を積分して低速ループ経路積分信号を発生する第1低速ループ積分器と、
(2)上記低速ループ経路積分信号を積分して低速ループ経路エラー電圧信号を発生する第2低速ループ経路積分器と、
(3)上記低速ループ経路エラー電圧信号に応答して低速ループ出力信号を発生する低速ループ経路電圧制御発振器とを具え、
上記アナログ位相拘束ループ装置は、
iv)上記第1帯域幅パラメータ値が選択されたときに上記高速ループ出力信号を上記出力信号として選択する第3選択器と、
v)上記第2帯域幅パラメータ値が選択されたときに上記低速ループ出力信号を上記出力信号として選択する第4選択器と、
vi)上記出力信号を上記位相検出器に供給する帰還接続とを更に具え、
上記時間基準供給装置は、
b)上記出力信号を上記測定機器に供給するアクセス・ポートを更に具えた時間基準供給装置。
【請求項3】
アナログ位相拘束ループ装置であって、
a)該アナログ位相拘束ループ装置の入力基準信号及び出力信号の間の位相差を表すエラー信号を発生する位相検出器と、
b)上記エラー信号を積分して第1積分信号を発生する第1積分器と、
c)上記第1積分信号を積分してエラー電圧信号を発生する第2積分器と、
d)上記エラー電圧信号に応答して出力信号を発生する電圧制御発振器と、
e)上記出力信号を上記位相検出器に供給する帰還接続と
を具え、
f)上記第1積分器及び上記第2積分器が利得1で正の位相マージンを提供する
ことを特徴とするアナログ位相拘束ループ装置。
【請求項4】
アナログ位相拘束ループ装置であって、
該アナログ位相拘束ループ装置は、
a)第1帯域幅パラメータ値が選択されたときに入力基準信号の第1信号経路への供給並びに出力信号の上記第1信号経路への供給を行い、上記第2帯域幅パラメータ値が選択されたときに上記入力基準信号の第2信号経路への供給並びに上記出力信号の上記第2信号経路への供給を行う第1選択器を具え、
i)上記第1信号経路は、
(1)上記入力基準信号及び上記出力信号の間の位相差を表す第1信号経路エラー信号を発生する第1信号経路位相検出器と、
(2)上記第1信号経路エラー信号を積分して第1信号経路積分信号を発生する第1の第1信号経路積分器と、
(3)上記第1信号経路積分信号を積分して第1信号経路エラー電圧信号を発生する第2の第1信号経路積分器と、
(4)上記第1信号経路エラー電圧信号に応答して第1信号経路出力信号を発生する第1信号経路電圧制御発振器とを具え、
ii)上記第2信号経路は、
(1)上記入力基準信号及び上記出力信号の間の位相差を表す第2信号経路エラー信号を発生する第2信号経路位相検出器と、
(2)上記第2信号経路エラー信号を積分して第2信号経路積分信号を発生する第1の第2信号経路積分器と、
(3)上記第2信号経路積分信号を積分して第2信号経路エラー電圧信号を発生する第2の第2信号経路積分器と、
(4)上記第2信号経路エラー電圧信号に応答して第2信号経路出力信号を発生する第2信号経路電圧制御発振器とを具え、
上記アナログ位相拘束ループ装置は、
b)上記第1帯域幅パラメータ値が選択されたときに上記第1信号経路出力信号を上記出力信号として選択し、上記第2帯域幅パラメータ値が選択されたときに上記第2信号経路出力信号を上記出力信号として選択する出力選択器と、
c)上記出力信号を上記経路選択器に供給する帰還接続と
を更に具えるアナログ位相拘束ループ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−253979(P2009−253979A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86410(P2009−86410)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(391002340)テクトロニクス・インコーポレイテッド (234)
【氏名又は名称原語表記】TEKTRONIX,INC.
【Fターム(参考)】